孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  離反兵士らの「自由シリア軍」、首都ダマスカス攻略の足掛かり?

2012-01-22 21:02:55 | 中東情勢

(1月20日 反政府行動の中核ホムス近郊のフラ “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6739520599/in/photostream

首都近郊に迫る反体制派
シリアでは、反政府デモを支持する離反兵士らによる「自由シリア軍」と政府軍との間で、殆んど内戦状態とも言える攻防が続いています。

シリアの中東地域において占める存在感、ロシアの支援、欧米側の国内事情などから、国際的な軍事介入が難しい情勢では、なんだかんだ言ってもアサド政権が続くのでは・・・と思っていましたが、ここ数日、必ずしもそうも言えないのかも、かなりアサド政権側も追い込まれているのだろうか・・・と思わせる報道がいくつかありました。

首都ダマスカスと北部の第2の都市アレッポでは、これまで大規模な反政府デモもなく、政権側が掌握していますが、そのダマスカス近郊で「自由シリア軍」との「停戦」による「解放区」が出来たり、「自由シリア軍」が支配下に置くような地区が出来たりしているようです。

「停戦」によって「解放区」状態となったのは、首都ダマスカス北西約30キロの町ザバダニです。
政府軍が撤退する代わりに反体制派も街頭から退去するとの合意が成立したそうです。

****首都北西に「解放区」誕生=独裁の恐怖消え住民歓喜―停戦下ザバダニに潜入・シリア****
反体制デモ弾圧を続けるシリア政府軍と、離反兵らが結成した「自由シリア軍」など反体制派の「停戦」が成立した首都ダマスカス北西の町ザバダニに19日、入った。外国報道機関の現地入りは初めて。シリア軍が撤退して「解放区」が誕生、反体制派や住民にはアサド独裁政権への恐怖が消え、不安が入り交じりつつも喜びに沸いていた。

昨年3月の反体制運動開始後、中西部ホムスや南部ダラアなどの一部で反体制派の支配地域が生まれているが、停戦に至ったのはザバダニが初めて。ただ、現在も政府軍が町を包囲しており、戦術的な撤退と受け止められ、反体制派は軍の再攻撃に備えている。(中略)

反体制派によると、停戦は17日夜に発効し、19日までに戦車など軍部隊は郊外の陣地に撤退した。反体制デモが続いてきたザバダニは、先週から軍の激しい攻撃にさらされ、12日から3日間は電気や水道が全面的に停止した。町の壁には反体制の落書きが書き込まれ、毎夜、デモが行われている。

治安機関の目が光る首都などで市民の口は固い。ザバダニにも大統領を支持する住民はいるが、多くは「怖いものはない。待ち焦がれていた自由がやってきた」と実名で喜びを訴えた。商店や民家に弾痕や破壊の跡があるほか、19日も散発的な銃声が響く。住民は「包囲する軍が存在を誇示しているだけだ」と語った。【1月20日 時事】 
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政府軍側は“戦術的な撤退”ということですので、この先、また激しい戦闘が再燃するのでしょう。
ただ、反体制派からすれば、首都攻略の足掛かりを得たとも言えます。

また、ダマスカス北東のドゥーマをも「自由シリア軍」側が抑えたと報じられています。
****首都近郊の要衝支配下に=治安部隊と激戦―シリア反体制派*****
ロンドンを拠点とするシリアの人権団体「シリア人権監視団」のラミ・ラフマン代表は21日、AFP通信に対し、シリア軍を離反した部隊が同日に首都ダマスカス北東近郊の要衝の町ドゥーマを支配下に置いたと語った。ロイター通信も反体制派情報として、ドゥーマの複数の地区を同派が掌握したと伝えた。

ラフマン氏は「離反兵の集団が治安部隊との激戦後、ドゥーマの全地区を掌握した」と述べた。事実とすれば、反体制派が首都に迫ったことになり、民主化要求デモで揺らぐアサド政権は存亡の機に直面する。
ドゥーマの活動家は、ロイター通信にインターネット電話「スカイプ」を通じ、「反体制派は道にバリケードを構築し始めた。数分間隔で銃声と爆発音が響いている」と語った。【1月22日 時事】 
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北西の町ザバダニ、北東近郊の要衝の町ドゥーマと、首都包囲網が出来つつあるのでしょうか。
ただ、ザバダニは「(政府軍の)戦術的な撤退」ということですし、ドゥーマについても“離反兵は政府軍の全面的な反撃を警戒。支配地区の保持は困難と判断し、潜伏拠点に引き揚げたもようだ”【1月22日 時事】ということで、これを持って反体制派の首都包囲網云々は早過ぎるような感があります。

一方、アサド政権の支持母体であるイスラム教アラウィ派内部からも、アサド政権批判が表明されています。

****アラウィ派100人も反体制に=政権崩壊の動き加速か―シリア****
シリアのアサド大統領が属するイスラム教少数派アラウィ派の知識人ら約100人は19日までに、アラウィ派やキリスト教などの少数派に向け、アサド政権打倒へ結束するよう呼び掛ける声明を発表した。
アラウィ派からもアサド政権を見放す動きが顕在化したことで、政権崩壊プロセスが加速する可能性もある。【1月20日 時事】 
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アサド支配体制の綻びが出てきつつあるとは言えそうです。

カタール:「軍隊が行くしかない」】
国際的には、リビアでも軍事介入を支持したカタールのハマド首長がアサド政権批判を強めており、軍事介入の可能性に言及しています。

****シリア、強まる軍事介入論 アラブで初の言及 カタール「殺戮止めるには軍隊****
バッシャール・アサド政権による市民弾圧が続くシリアに対し、外国による軍事介入の必要性を指摘する声が強まっている。同政権に批判的なカタールのハマド首長は15日までに、アラブの元首としては初めて、アラブ諸国からの軍隊派遣の可能性に言及。シリア反体制派の多くも武力介入を求め始めており、米欧が今後、どう反応するかが焦点となっている。

「このような状況で殺戮(さつりく)を止めるには、軍隊が行くしかない」
米CBSテレビ(電子版)によると、ハマド首長は同テレビのインタビュー番組でこう述べ、シリアでの弾圧が一向にやむ気配がないことへのいらだちをあらわにした。

シリアでは昨年12月から、政権が約束した市民への暴力停止の履行状況を調査するアラブ連盟の監視団が活動しているが、その間も政権側の攻撃で数百人が殺害されたとされる。アラブ連盟内では対シリア強硬派と慎重派とで態度が割れており、政権側に強い態度に出ていないのが実情だ。

そんな中での今回のハマド首長の発言は、カタールが、アサド政権打倒を模索しつつあることを示したものだ。同国は昨年、北大西洋条約機構(NATO)による対リビア軍事作戦を早くから支持しアラブ連盟を介入容認でまとめ上げたほか、反カダフィ派部隊を資金・物資面で支援した“実績”があるだけに、他のアラブ諸国への影響も少なくないとみられる。

近年、域内外交を活発化させているカタールとしては、シリア問題でもアラブ諸国をリードし、存在感をいっそう高めたいとの意図もありそうだ。

一方、アサド政権からの離反兵らで作る反体制派武装組織「自由シリア軍」はすでに、武力が「政権打倒への唯一の道」(幹部)だとして明確に米欧などの軍事介入を要求、今後はカタールが同軍への支援を強化する可能性もある。

ただ、軍事介入までのハードルは高い。現実的には、介入には国連安全保障理事会の決議が必要となるが、拒否権を持つロシアなどは政権寄りの姿勢を崩しておらず、「安保理に提起されても、結論が出るには数カ月はかかる」(外交筋)との見方が一般的だ。
エジプトの首都カイロに滞在する反体制派グループ幹部によれば、シリアでは現在もデモは拡大している。自由シリア軍による政権側へのゲリラ戦も衰えておらず、両者の戦闘が泥沼化する懸念は強い。【1月16日 産経】
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カタールなど湾岸諸国にとっては、いつまでもシリアで衝突が続けば、自国内の民主化運動にも波及しかねない・・・・との思いもあるのではないでしょうか。

シリア:「我々にはこうした試みを食い止める強い軍隊がある」】
こうしたカタールのアラブ軍派遣を求める動きに対し、シリア側は「我々には強い軍隊がある」と、強く牽制しています。

****アラブ軍派遣、強く牽制 シリア副外相「強い軍ある****
シリアのファイサル・メクダド副外相は17日、ダマスカスで朝日新聞記者と会見した。政権側による市民殺傷を止める目的でカタールなどが提唱しているアラブ軍派遣構想について「我々には強い軍隊がある」と述べ、強く牽制(けんせい)した。

アラブ軍構想に対し、シリア政府高官が明確に反対を表明したのは初めて。
同構想については、地域大国のエジプトやイラクが難色を示しているが、湾岸諸国が支持する動きもあり、22日のアラブ外相会議で協議される見通し。メクダド氏は「提案は正式に通知されていないが、我々にはこうした試みを食い止める強い軍隊がある」と語った。
軍事同盟関係にあるイランは、外国軍が介入した場合、シリア軍を支援すると表明している。

メクダド氏はイランが、欧米の制裁次第で石油輸出の動脈であるホルムズ海峡封鎖を示唆していることにも言及。「(イランと米国の)軍事衝突は望んでいないが、イランとシリアは互いの安全保障に責任がある」と述べ、ホルムズ海峡有事の際には、イランを支援する考えを示した。
 
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長が「シリア政府は殺害をやめろ」と要求していることについて「我々は市民を殺害しておらず、保護している。潘氏は、シリア国内の武装勢力の存在を無視するなど、現実が見えていない。彼の見方は(欧米など)一部の国々の立場を反映したものだ」と強く反論した。昨年3月以来、10カ月に及ぶシリア騒乱で、国連は、市民5千人以上が殺害されたとしている。

事態収拾については「改革が唯一の出口だ。選挙法の改正や新憲法の起草によって、民主的な方法で権力を移行することが可能になる」と主張。「シリア国民評議会」など在外反政府勢力については「国内の野党勢力とは結びついておらず、支持は広がっていない。彼らは周辺国から軍事、財政的な支援を受けて動いている」と述べた。アサド大統領が提唱した野党勢力を含む「国家統一政府構想」は「相手側の出方次第だ」と語った。

市民デモに対する武力行使の停止などを求めたアラブ連盟仲介案の履行状況を確認する約160人規模の連盟監視団の活動について「どこに行くのも誰に会うのも自由であり、完全な行動の自由を保障している」と説明。活動の延長も認める考えを示した。19日にも出る報告書について「前向きなものであることを望んでいる」と語った。

メクダド氏は、国連大使や対イスラエル和平交渉を歴任したシリア外交ナンバー2。アラブ連盟監視団との交渉も担当している。【1月18日 朝日】
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難しい軍事介入
軍事介入については、ただでさえ一触即発の状態にあるイランとの連動、シリアが支援するヒズボラ・ハマスといったレバノン・パレスチナにおけるイスラム過激派の動き、更にはシリアを支持するロシアの動向などもありますので、容易ではありません。

****ロシア艦隊がシリア基地入港 アサド政権支持示す****
シリア国営通信などは8日、同国西部の地中海岸タルトスのロシア海軍基地に、空母など複数の艦船からなるロシア艦隊が入港したと伝えた。6日間ほど寄港するという。ロシアが改めてアサド政権支持の姿勢を示し、政権打倒に傾く米仏やトルコなどを牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。

ロシアは旧ソ連時代からシリアと友好関係にあり、タルトスの基地はロシアが地中海で持つ唯一の基地だ。反体制デモでアサド政権が倒れて基地を失えば、世界戦略に大きな影響が出るため、ロシアは同政権への支持を続けている。【1月8日 朝日】
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話は最初に戻りますが、そんな状態で反政府勢力側が首都攻略の足がかりを得つつあるのか・・・と思わせる報道が散見されている状況です。
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