
(昨年12月 広東省・烏坎村の住民による抗議行動 “台湾公義網” http://taiwanjustice.com/?p=4130 より)
【「我々は法が認める公正と公開の原則を求めているだけ」】
中国社会の抱える大きな問題のひとつが、地方政府レベルでの腐敗・汚職・人権無視が絶えず、土地収用や環境問題などを巡って住民と対立、暴動になるケースも頻発していることです。
単に、地方の役人や共産党幹部の個人的問題だけでなく、住民の意思が地方政府に反映されない事実上の共産党一党支配の政治システムに起因する問題です。
昨日も、下記の報道がありました。
****中国党支部不正に反発、村長が郷政府庁舎に放火****
香港の人権団体・中国人権民主化運動ニュースセンターは16日、中国河北省承徳県で15日、県内の村の村長が上部機関である郷政府の庁舎に放火したと伝えた。
村長は村トップの中国共産党支部書記の不正を訴えるため、庁舎を訪れていたという。放火で郷長らが重傷を負った。村長は公安当局に拘束された。【1月17日 読売】
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住民の抗議行動に対しては“鎮圧”で臨むのが地方当局側の姿勢ですが、そんななかで昨年注目されたのが広東省・烏坎(ウーカン)村での“事件”でした。
昨年12月22日ブログ「中国 広東省烏坎村の地方当局への「反乱」 党側が自治組織を「合法」と認める」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111222)で取り上げたように、共産党地方幹部の横暴に反発し村民たちが自主選挙で発足させた自治組織を、省党幹部が「合法」と認める譲歩を勝ち取っています。
烏坎村のケースでは、住民運動を暴発させることなく長期間にわたってまとめ上げた指導者の力量が勝因でしたが、その争議リーダーが村の党支部書記に任命されたそうです。
****争議リーダーが党支部書記に 幹部更迭の広東省・烏坎村****
昨年、3カ月にわたる争議の末、村幹部を更迭に追い込んだ広東省・烏坎(ウーカン)村で新しい共産党村支部が発足し、トップの書記に争議で村人をまとめた林祖鑾さん(65)が任命された。非暴力と団結力で政府の譲歩を勝ち取った「烏坎村」モデルは、各地の住民を勇気づけている。
調停のため村に入っている省の作業チームが15日、発表した。指導部は村内の130人余の党員の推薦や村民への聞き取りなどを経て、同村を管轄する東海鎮党委員会から任命された。
林さんは19歳で共産党に入党した「老党員」だが、政府に抗議する住民運動の中心にいた人物が村トップに起用されるのは極めて異例だ。
争議の間、冷静な判断と温厚な人柄で村民をまとめた林さんの就任に、35歳の村民は「多くの人が手をたたいて喜んだ」と話す。
村レベルの党幹部は本来、党員による選挙で選ばれる。省作業チームは、汚職などの疑いで更迭された前党支部書記の下で行われた昨年2月の選挙に不正があったとして無効とし、近く選挙をやり直すと約束。林さんが率いる新しい支部が選挙準備を進める。
争議の間、林さんは「我々は法が認める公正と公開の原則を求めているだけ。党にできないはずはない」と訴え、住民の党への感情的な対立と暴力的な動きを抑え、世論を味方につけながら団結を保った。
最後は省のナンバー3を交渉に引き出し、村幹部の更迭や拘束された村民の釈放、自治組織の身分の保障を勝ち取った姿は、全国の注目を集めた。事件以降、成功体験を聞こうと、省内外の人権活動家や住民代表らが駆けつけ、影響は広がっている。
「烏坎村に学べ」。
香港紙によると、福建省晋江市の渓辺村で今月2日、イスラム教徒の回族住民千人余りが横断幕を手にデモ行進した。村の党書記が土地を勝手に売買し私腹を肥やしてきたことへの抗議だ。火力発電所の建設を巡り住民と警察隊が衝突した広東省スワトー市海門鎮では、住民は「烏坎村の訴えを認めたのになぜ海門ではできない」と抗議。当局が建設計画の中止と村民の釈放を認めやっと事態は収まった。
広東省トップの汪洋・党省委書記は今月初め、烏坎村事件への対応を「すべての村レベルの組織建設の手本とする」と述べた。
ネットの普及で内外世論の監視が厳しくなる中、当局の住民運動への対応が曲がり角にさしかかっていることを示すが、締め付けが弱まれば住民の不満が噴き出すリスクもある。ほかの地方政府が追随するかどうかは不透明だ。
共産党機関紙人民日報は年末、「烏坎村事件は何を教えているか」との評論を掲載。各地の暴動の多くは党組織が住民の訴えをくみ取っていないことが原因だとし、「この問題をいかに解決するかが指導者としての能力の試金石だ」と、矛盾の芽を早く摘むことこそ重要だと地方幹部を戒めた。【1月16日 朝日】
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【ポピュリズム路線への転換】
住民側の統率のとれた抗議活動と同時に、これを最終的に容認した広東省トップの汪洋・党省委書記の対応も注目されます。
汪洋・党省委書記は党中央政治局常務委員会入りが有力視されている人物ですが、そうした人物の柔軟な対応は、今後の中国共産党の変革を示唆するものでしょうか?
****中国「民衆の味方」はどこまで本物か****
中国南部の広東省に昨年末、民衆の強い味方が現れた。
同省にある小さな漁村、鳥炊では、農地の強制収用を発端とした抗議活動が続いていた。そこへ村民の擁護者として名乗りを挙げたのが、省トップである汪洋広東省党委員会書記だ。汪は警官隊による包囲をやめさせるため、部下を派遣。村民の憤りは正当なものだとも主張した。
中国では、今年秋に新体制がスタートする。汪は、最高意思決定機関の共産党中央政治局常務麦員会入りが有力視されている人物。その汪が民衆に味方するのは、中国で「民衆の力」が強大になった証拠なのか。
香港中文大学の歴史学教授で中国事情に詳しいウィリー・ラムによれば、答えはノー。「中国では抗議活動が日常茶飯事だ。各省のトップには独自の問題解決法があるが、国家レベルでも省レベルでも最も多用される方法は相変わらず『弾圧』だ」
とはいえ汪の対応は中国の次期指導層に広がる新たな動きを示していると、ラムは言う。すなわちポピュリズム路線への転換だ。「汪はこの4年間、新しい考えを持つ改革派というイメージを打ち出してきた。村民の味方をすれば、イメージにプラスになると判断したのだろう」【1月18日号 Newsweek日本版】
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“ポピュリズム路線への転換”なのかどうかはともかく、党中央も馬鹿ではないので、変容する社会に対応していくためには党も一定の変革をしていかなければならない・・・という認識はあると思います。
****中国デモ鎮圧、異例の妥協 党大会控え安定優先****
中国広東省で政策に不満をもつ住民のデモに、当局が要求を受け入れて妥協する異例の展開が相次いでいる。
22日付の中国紙、東方早報などによると、スワトー市で20日、火力発電所の建設に反対する4万人以上のデモを受け、同日夜に当局が計画を中止した。また陸豊市の村では21日、土地収用をめぐって3カ月続いた大規模なデモで、同省の党幹部と住民側の協議が成立して、騒乱は終結した。
中国の住民デモは、警察隊投入など力ずくで押さえ込まれるケースが大半。しかし、来年秋の共産党大会での指導部交代を控え、社会の安定維持が最大の政治課題になる中、当局が穏当な路線を試みた可能性がある。
スワトー市では、既存の発電所が汚水の放出で海洋汚染を起こし、住民が不満を募らせていた中で新たな発電所計画が発表され、大規模なデモが起きた。デモ隊は地元当局庁舎を占拠したほか、幹線道路を封鎖した。当局は警官隊を出動させたものの、計画中止を決めた。デモは22日になっても収まっていない。
同省陸豊市烏坎村では約40年もトップの座にあった共産党支部書記が、農民の土地使用権を勝手に開発業者に売却したり、選挙で選ばれるはずの村幹部の人事権を握ったりするなど横暴を極めた。反対派住民への暴行疑惑もあり、9月に大規模暴動に発展していた。
同紙などによると、いずれも事態打開に向けて早期解決を指示したのは広東省トップの汪洋党委書記。党大会まで社会の安定を維持したい胡錦濤指導部の意向も強く働いたとみられる。
しかし一方で、当局による今回の妥協が前例になれば、各地で住民によるデモが連鎖的に起きる危険性もはらんでいる。【11年12月23日 産経】
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かつての天安門事件のような国家体制を揺るがすような住民の直接行動(党中央の見方ですが)を極度に恐れる党中央ですが、地方レベルでの騒動に対する柔軟姿勢は“ガス抜き”になるとも言えますし、一方で、連鎖的に収拾困難な事態を招く恐れもあります。
安定優先の姿勢が党大会までの一時的な措置なのか、習近平次期体制で更に一般化するのか・・・そのあたりはよくわかりません。
【ネット上には民主制度への強い興味】
ただ、中国社会も今後大きく変容していくと思われます。
したがって、党の側がこれまでと同じ発想では限界に達することが容易に想像できます。
変容の萌芽は、先日の台湾総統選挙に対する中国国内の関心にも見られます。
****中国市民、台湾選挙「ネット観戦」 民主制度に強い興味****
14日投開票の台湾総統選には、中国の市民がネット上で高い関心を示した。サイトにかじりつき、思いをブログなどに書き込んだ。民主化を経て、直接選挙で指導者を選ぶ台湾の姿は、ネットを通してじわりと中国に影響を与えている。
「新浪」「捜狐」などの大手ポータルサイトは14日、そろって総統選の特集を組み、陣営の動きや開票状況を速報した。「中国版ツイッター」と言われる「微博」最大手の新浪微博には、選挙戦終盤から書き込みがひっきりなしに続いた。情勢をごく慎重に伝えた官製メディアとの違いは歴然だ。
「台湾が素晴らしい『公民』の授業を見せてくれている」「馬英九(マー・インチウ)も蔡英文(ツァイ・インウェン)も全力を尽くす姿に感動。権力を振りかざす大陸の官僚も見習ってほしい」との声が紹介された。「頻繁に選挙をすると社会が疲弊するのでは」といった意見も含め、ネット上には民主制度への強い興味がにじんだ。
中台関係の安定を掲げる馬氏の再選が決まると歓迎する声が出た。だが、興味は、結果よりも選挙の熱気そのものに向かい、統一か独立かといった「原則論」は影が薄かった。
ネット経由で聞いてみると、上海市の金融業の男性(27)は投票日までの数日間、「食事と睡眠以外はパソコンの前にいた」という。台湾メディアの動画サイトで選挙集会に見入り、「中華圏で実践されている民主の姿」を「うらやましい」とつぶやいた。
中国のネットユーザーは約4.9億人に達し、微博の利用者も1年で3倍に増えて2億人近い。1996年に始まった台湾総統の直接選挙の情報が中国に伝わる量も、急拡大している。
市民の政治意識の動向に詳しい中国のコラムニスト、唐明灯氏は「前回選挙で意見を発表したのはメディア関係者などが中心で、今回のような盛り上がりはなかった。意見を交わす微博の発達で人々の目が肥え、民主制度そのものへの理解が高まっているのを感じる」と話す。【1月16日 朝日】
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【追記】
“烏坎村に学ぶ動き”が、中国第3の都市の足元でも・・・・ということで、当局対応が注目されます。
****広州市庁舎で1千人抗議 中国反汚職デモ、都市部に拡大****
中国・広東省広州市の市庁舎前に17日から18日未明にかけ、同市白雲区望崗村の住民約1千人が集まり、村トップの更迭を求めるデモを行った。昨年末に平和的なデモで村幹部を更迭に追い込んだ同省烏坎(ウーカン)村に学ぶ動きが、中国第3の都市の足元でも起きた形だ。
「汚職を打ち倒せ」「畑を返せ」。のぼりや横断幕を掲げた村民たちが、市庁舎に入る車に向かって叫んだ。世間の関心を集めようと、朱小丹・広東省長が正式就任する17日にあわせて実施した。約200人の警官が警戒にあたった。
望崗村は市中心から約10キロの開発が進む郊外。デモを主導した黎洪鼎さん(32)らによると、村の共産党支部書記が2009年以降、村の畑の土を親族会社に売って116万元(約1400万円)を得たほか、地下鉄建設の補償金の一部を着服するなどして、村に約9億円の損害を与えたという。【1月18日 朝日】
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