孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港と中国本土  地下鉄内騒動から感情的対立が過熱 「香港の人たちは犬だ」

2012-01-24 20:48:02 | 東アジア

(写真は香港の街角に置かれた犬の排泄物を捨てる専用箱だそうです。なるほど、中国本土とは違います。
中国旅行者の間では、人間用のトイレの汚さ、日本とのトイレに関する風習の違いがよく話題になりますが、最近では都市部のトイレ事情は随分改善されているようです。ただ、犬用はどうでしょうか?
“flickr”より By byerlytw  http://www.flickr.com/photos/65219161@N00/418208038/ )

退潮する“民主派”、伸長する“親中派”】
台湾総統選挙では、「ひとつの中国」という枠組み、中国との距離の取り方が、改めてクローズアップされましたが、中国側が台湾の将来像に関するひとつのモデルケースと考えているのが、97年にイギリスから主権移譲された香港における「一国二制度」のシステムです。

“香港の政治の特徴は香港主権移譲後に施行された一国二制度にある。これはイギリス時代の行政・官僚主導の政治から、一定の制限の下での民主化および政党政治への移行期にあたり、また社会主義国である中華人民共和国の中で2047年まで資本主義システムを継続して採用されることになっている”【ウィキペディア】

中国の政治体制への拒否感も強かった香港ですが、中国経済への依存のなかで、政治的には、いわゆる“民主派”が退潮し、“親中派”が勢力を伸ばす形になっています。

****香港、薄れる民主化 区議会選で親中派大勝 経済依存高まり意識変化****
 ■長官直接選挙実現に影
6日に投開票が行われた香港区議会(地方議会)選挙は7日、全議席が確定した。中央政府に批判的な民主各派は軒並み惨敗し、親中各派が大勝した。経済の対中依存が高まったことを受け、中国政府と良好な関係を求める香港人の意識の変化が選挙の結果に表れている。民主派勢力の退潮が鮮明となったことで、2017年の香港行政長官の直接選挙が実現できない可能性が高くなったとの指摘もある。

 ◆8年間で半減
 民主派の最大政党、民主党は前回2007年の選挙時の59議席から47議席に減らし、同党にとって2回連続の区議会選挙の敗北となった。前々回(03年)の選挙では95議席を得ており、8年間で議席数をほぼ半減。他の民主各派もすべて議席を減らし、前回6議席を得た急進派の社会民主連線の当選者はゼロだった。

一方、最大の親中勢力である民主建港協進連盟(民建連)は前回から21議席伸ばして136議席となり、民選合計議席(412)の約3分の1を占めた。民建連は03年の選挙時に獲得した議席数は62で、2回の選挙で議席倍増を実現した。

近年、香港で民主派が退潮している原因は複数ある。08年の米国発の金融危機以降、中国政府による一連の支援策と中国人観光客の大量流入で香港は好景気を維持することができたほか、1997年の中国への返還後、中央政府が香港で実施した愛国主義教育により、多くの若者の中国への帰属意識が高まった。

 ◆言論統制影響
また、香港に進出した中国国有企業は中央政府に批判的なメディアに広告を出さないなど間接的な言論統制も奏功し、香港メディアが「民主化や人権問題について取り上げることが少なくなった」(香港紙記者)という。
こうした中、行政長官の直接選挙の早期実現や天安門事件の再評価などを訴える民主各派の候補は、経済発展の継続や福祉の充実などの“実績”を強調する親中各派の候補に埋没し、支持は広がらなかった。

香港の民主派は2017年に実施する香港トップの行政長官選挙で、現在の選挙委員(うち1割は区議会議員)による間接選挙ではなく、有権者全員が参加できる直接選挙の導入を求めている。中央政府は直接選挙に原則的に同意したが、具体的な実施方法などについては何も決まっておらず、香港問題に詳しい中国人研究者は「香港での民主化要求機運が今後も低下し続ければ、中国政府は直接選挙の約束をほごにするだろう」と話している。【11年11月8日 産経】
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【「なぜ香港人は本土人より一段上の人間だと思っているのか?」】
上記記事にあるように、中国経済に依存し、愛国主義教育により若者の中国への帰属意識が高まったとされる香港ですが、住民の意識には微妙なものがあるようです。
また、中国本土側の香港に対する感情も同様です。

最近話題になっているのが、地下鉄内での中国本土からの女性観光客と地元乗客の間で激しい口論に関するものです。

****地下鉄車内で本土女性と地元乗客が口論、子どもの制止も聞かず…―香港****
2012年1月18日、香港の地下鉄車内で中国本土からの女性観光客と地元乗客の間で激しい口論が発生、その様子が動画投稿サイトで公開され、大きな話題を呼んでいる。南方都市報が伝えた。

香港では駅の改札内は飲食禁止となっており、違反者には最大で罰金2000香港ドル(約2万円)が科せられる。口論があったのは15日午後3時(現地時間)ごろで、地下鉄車内で中国本土からの女性観光客が娘にお菓子を食べさせていたため、地元乗客が注意したことがきっかけだった。

本土女性が「私たちは本土から来た」「子どもなんだから…」と反論したため、口論が始まった。地元乗客は「とにかく謝ればいいじゃないか」と諭したが、さらに火を注ぐ結果に。本土女性の同行女性や他の乗客も加勢し、騒ぎは大きくなる一方。女児が「ママ、私たちが悪かったんだよ」と制止したが、すでに収拾がつかない状況となっていた。

結局、乗客が駅職員に通報。職員から本土女性らに「車内では飲食禁止」であることを説明すると、「すみません。言葉がよく分からなくて。すぐに帰ります」と答えた。女性が今後は地下鉄車内で飲食しないと約束したため、罰金は科せられなかった。

口論の様子が動画サイトに投稿されると、ネット上で大きな話題に。中国本土客のマナーの悪さを指摘する声が目立ったが、「本土の人間は全員がこんな風だ」と決めつけるのもよくない、といった声も聞かれた。【1月18日 Record China】
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中国本土のネット上には中国本土人のルール違反を批判する意見が多く寄せられていますが、香港人の中国本土人への差別意識を指摘する声もあるようです。

****香港地下鉄で本土女性と地元乗客が口論、「本土客に対する差別意識の表れ」との声も―中国メディア****
・・・・その様子が動画投稿サイトで公開されると、ネット上で大きな話題に。
その多くは「『郷に入れば郷に従え』ができない中国本土客は十分に反省すべき」といったもの。「現地のルールが守れないんだから、ののしられて当然」「(香港人と本土人の)こうした素養の差は長年の積み重ねによるもの」「ルールが分からなかったのは仕方ないが、指摘されたらすぐに謝るべきだった」といった声が上がった。

一方、これを「中国本土の人間に対する差別意識の表れ」とみるユーザーも。「なぜ香港人は本土人より一段上の人間だと思っているのか?」「しょせんは子どもがしたこと。ここまで執拗(しつよう)に責め立てる必要があったのか」「マナーが守れない人間はどこにでもいる」「単なる文化の差」「中国本土の人間全体を指して批判するのはおかしい」といった擁護意見も出た。

なお、環球時報(電子版)がウェブサイト上で実施した「この問題をどう見るか?」についてのアンケート調査(3択)では、20日午前10時現在、「女性観光客が悪い。確かに一部の本土観光客は素養の向上が必要だ」(670票、15.2%)、「地元乗客が悪い。ささいなことを大げさに騒ぎ過ぎ。本土人に対する差別だ」(1374票、31.2%)、「双方が悪い。どちらも反省すべき」(2359票、53.6%)という結果となっている。【1月20日 Record China】
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自らを中国人と考える香港人はわずか17%
上記記事にある反応は中国本土側のものですが、この騒動には後日談があり、毒舌家の北京大学教授が「香港の人たちは犬だ」と発言し、香港人の集中砲火を浴びているそうです。

****香港人を「犬」呼ばわりの北京大教授、香港で怒り爆発****
口の悪さから、しばしば物議を醸してきた北京大学の孔慶東教授が、今度は「香港の人たちは犬だ」と発言し、香港人の集中砲火を浴びている。(中略)

(地下鉄内の)騒動は、中国本土と香港の文化衝突の一例と評された。また、かつては英国の植民地だった香港の人々が中国本土の人びとに対して抱いている優越感が象徴的に表れたとの指摘も多い。

この騒動について、孔子の子孫を名乗る孔教授が苦言を呈した。孔教授は動画サイト「v1.cn」に前週投稿されたインタビューの中で、「(標準)中国語で話すことを、全ての人に義務付けるべきだ」と力説。地下鉄車内の口論で香港人らが地元の広東語を話していたことに対し、「意図的に中国語を話さないとは、一体どういった種類の人間なのだろうか?それは、ろくでなしだ!」と非難した。

孔教授の毒舌は、まだ終わらない。「私の知る限り、多くの香港人は自分たちを中国人だと思っていない。こういった種類の人びとは、植民地時代に英国からの犬扱いに慣れた人たちだ。つまり、彼らは人間でなく犬だ」とののしった。

■犬呼ばわりに香港人の怒り爆発
孔教授の発言に、香港ネットユーザーの怒りが爆発。ネット上で中国本土批判を展開し、時には悪意のこもった口調で非難している。
「太った犬が吠えてるね。頼むから、他人についてあれこれ言う前に、自分自身の国をもう一度よく見てよ」。あるネットユーザーはこのように述べた後、中国本土の問題点を列挙した。
怒りはネット上だけに収まらない。香港警察当局によると22日夜、中国外務省の香港駐在代表部前に、およそ150人が集まり孔教授の発言に抗議した。

こうした香港住民の怒りについて、香港議会の李卓人議員は、香港と本土間に緊張が高まっていることを示すものだと指摘する。「まさに時限爆弾だ。香港人は中国政府を快く思っていない。民主主義の欠如が不満なのだ。香港人が本土の人たちとの衝突は日常的に見られる」
中国の国営英字紙チャイナ・デーリーは、香港大学が前月発表した調査によると、自らを中国人と考える香港人はわずか17%で、2000年以降最も低い数字だったと伝えている。【1月24日 AFP】
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自らを中国人と考える香港人が17%と最低というのは、冒頭産経記事の“愛国主義教育により若者の中国への帰属意識が高まった”云々とは反するようですが、意識は多面的なものですから、そんなものでしょう。

本土から妊婦が大量に香港へ
中国本土側の香港に対する感情も、その差別意識を非難するものと同時に、香港へのあこがれ的なものも垣間見えます。
香港で出産する中国本土の女性が多数存在します。一人っ子政策に対する抜け道という側面もありますが、香港で出産すれば“比較的自由な香港に住んで香港で教育を受ける権利が得られる”ということも、その理由です。

****中国で人気の辰年出産、香港のママたちには悪夢に****
辰年を吉兆ととらえる中国人は、辰年に赤ちゃんを産むことを夢見る。だが、香港の一部の母親たちにとってはまさに悪夢となっている。
中国本土からは毎年数万人の妊婦が香港を訪れ、出産している。昨年、香港で生まれた赤ちゃん8万131人のうち、中国本土から来た妊婦の赤ちゃんは3万8043人に上った。

香港で赤ちゃんを出産すれば、子どもは英国の元植民地で半自治権を有し、比較的自由な香港に住んで香港で教育を受ける権利が得られるからだ。また中国本土の一人っ子政策に対する抜け道にもなっている。

そのため香港の産科の限られたベッドは満杯になり、出産費用を押し上げている。最近香港では、本土から妊婦たちが大量に押し寄せてくることに抗議するデモ行進も行われた。
この問題は辰年に最高潮に達する見込みだ。12年に1度の辰年はたいていベビーブームの年になる。公式統計によれば、前回の辰年である2000年には、出生者数は前年比で5.6%増加した。

■当局が対策に乗り出すものの…
今年ベビーブームが起きると予測されることから、中国当局は香港に入るための規則を厳しくし、境界管理を強化し、本土の妊婦のためのベッド数に制限を設けた。
これに対し、報道によると、中国本土の妊婦たちは大きめの服を着て妊娠を隠して香港入りしようとしたり、妊娠初期に香港での生活を始めることで妊娠の発覚を防ごうとしているという。

どうしても香港で出産したい一部の女性は、ぎりぎりまで我慢して、香港の救急病棟に無理矢理かけ込むという手段に出ている。病院関係者によれば昨年の緊急病棟での出産は3倍増だった。

香港の産科問題グループの広報を務める医師は、中国本土の女性たちは自分と赤ちゃんの命を危険にさらしていると懸念する。同医師は、公共病院では産科のベッドの予約が今年は15%増加していると述べ、香港での出産人数は10万人に迫るだろうと予測した。【1月24日 AFP】
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中国国内でも、上海人のプライドの高さに対する他の地域の住民の批判・やっかみがありますが、本土と香港となれば、過去の歴史、「一国二制度」の現状もあって、両者の感情に屈折したものがあっても不思議ではないところです。

なお、台湾でも中国本土観光客の増大とともに、そのマナーの悪さが問題となり、台湾側に“「我々とは違う」との意識”を強めているとの指摘もあるように、マナー向上は中国にとって急務です。
中国人のマナー意識の欠如は、拝金主義的な社会問題、自己中心的な外交・軍事問題とも相通じるものがあります。
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