
(フランス大統領選挙で、いよいよサルコジ大統領を脅かす存在になりつつある極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首 “flickr”より By Marine Le Pen 2012 http://www.flickr.com/photos/mlp_officiel/6362911551/
ルペン氏については、
11年3月7日ブログ「フランス 極右政党党首マリーヌ・ルペン氏 世論調査でトップに」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110307)
11年1月18日ブログ「フランス 極右政党・国民戦線新党首にルペン氏三女 「ソフトな極右戦略」展開」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110118)
でも取り上げたところです。)
【欧州経済に冷や水を浴びせたS&Pの格付け変更】
欧州の経済危機、ユーロ圏の動揺は今更言うまでもないことですが、単一通貨ユーロの運命は今年最初の数カ月で決まる・・・とも言われています。
“既に市場からの資金調達が困難になっているヨーロッパ各国の政府や銀行が、今年は前代未聞の莫大な借金の償還・返済期限を迎えるからだ。イタリアやスペイン、フランスといったユーロ圏の借金大国は、国債を売って1.1兆ユーロもの大金を(しかもその大半を今年前半のうちに)調達しなければならない”【1月18日号 Newsweek日本版】
そんな正念場を迎えて年明けは、12日に行われたスペイン国債入札が発行目標額の2倍に当たる金額を調達し、イタリア短期国債入札も順調で利回りが大幅低下するなど、“悪くない”出だしでした。
しかし、それもつかの間、米系格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が13日、ユーロ圏9カ国の国債の格付けを一斉に引き下げたことで、先行き不安が大きくなっています。
今回格下げの内容は繰り返し報じられているところですので省きますが、フランスが最上位の格付けである「AAA(トリプルA)」を失ったこと、また、フランスとは対照的にドイツなどには最上位の格付けを守り、「格差」ができたことが特徴です。
この独仏の格差については、“「すべての国が格下げされれば、結束して問題に立ち向かうことになるだろう。しかし、これでは話し合いをかえって難しくしてしまう」と英国の専門家は指摘する”【1月15日 朝日】とも報じられています。
ドイツは自国にしわ寄せが今以上に及ぶことを警戒しますし、欧州の中心国としてのプライドが傷ついたフランスは、サルコジ再選戦略をも危うくしそうです。
****ドイツ、負担増警戒 ****
「我々が投資家の信頼を勝ち取るまでには時間がかかるという私の確信を、格下げの決定で改めて確認した」。メルケル独首相は14日、ドイツ北部のキールでの記者会見でこう述べた。
盟友のフランスが格下げとなり、ドイツは財政危機の国々からいっそう頼られることへの警戒を強めている。
域内最大の経済大国ドイツはユーロ危機にあたり、フランスと協調して対応を主導してきた。問題は、格下げが、いまの態勢に水を差さないかどうかだ。「影響は限定的」という声が強い一方、フランスがより厳しい立場になることで、ドイツがこれまで以上の負担を求められるという見方も出ている。
このため、ドイツはこれまでユーロ圏全体で積み上げてきた対策を着実に実行に移し、各国の連携を強めていくことが必要だと強調する。「ユーロ圏に対する市場の不安感は別に新しいものではない。そのために我々はユーロ圏の安定に全力投球で努めてきたのだ」。格下げが明らかになった13日夜、ショイブレ財務相は独メディアにこう話し、財政規律を強めていくことなどの方針を今後も継続していく考えを示した。
ドイツはこれまでも世論の不満をなだめつつ、ギリシャの救済策や、財政危機の国を助けるための欧州金融安定化基金(EFSF)に最大額の負担をしてきており、さらなる負担増に対しては連立与党内からの反対が強い。高成長をほこってきたドイツ経済も、今年は成長が鈍るとの見込みもあり、負担増の受け入れは容易ではない。【1月15日 朝日】
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フランスでは“4月の大統領選を前に、格下げは政権批判の材料になっている。支持率でサルコジ氏に迫る右翼政党・国民戦線のルペン候補は「ユーロ圏から脱退し、旧通貨フランを取り戻すべきだ」と言い切る。内向きの主張にさらに人気が出れば、政権が足を引っ張られ、ユーロ圏のリーダーとしての振る舞いを十分にできなくなるおそれがある”【1月15日 朝日】とも。
【ギリシャのデフォルト懸念が再燃】
そうした欧州・ユーロ圏の枠組みが揺らぐなかで、再びギリシャのデフォルト懸念が再燃しています。
****不履行の恐れ再燃 ****
ユーロ圏の要だったフランスが格下げされたその日、ユーロの分裂につながりかねない事態が起きていた。支援を受けているギリシャが、債務不履行に陥るおそれがまた強まったのだ。
欧州連合(EU)と主要金融機関は昨年10月、民間投資家が自ら、所有する2千億ユーロ(20兆円)のギリシャ国債について50%の損を受け入れることで大筋合意。その前提でEUと国際通貨基金(IMF)がギリシャに支援をすることにした。
これでギリシャの借金は減り、どうにか返済し続けられるようになるとの皮算用だった。窓口となった国際金融協会(IIF)とギリシャ政府は投資家が結果としてどのくらい損するか詰めてきた。
しかし、その後のギリシャの景気の悪化で、民間投資家が60%損しないとうまくいかないと報道されるようになった。IIFの影響力がないと言われる4割の投資家が合意するかどうかにも不透明感が出てきた。IIFは13日、ギリシャ政府との交渉を中断した。
このまま交渉が止まれば、ギリシャが3月までに迎える159億ユーロの借り換えができなくなり、債務不履行になる可能性がある。
その場合には、危機が波及するとの連想から、イタリアやスペインなど、より規模の大きい国の国債がさらに売られかねない。
とくに、ユーロ圏第3位の経済規模を持ち、2~4月に1500億ユーロにのぼる債務の借り換えが待つイタリアに注目が集まる。「イタリアがおかしくなれば新たな危機だ。そしてイタリアのリスクは、ギリシャの状況が悪化するかどうか、債務不履行になるかどうかにかかっている」と独ベーレンベルク銀行のエコノミスト、クリスティアン・シュルツ氏は言う。(後略)【1月15日 朝日】
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独仏の協調がうまくいかなくなり、フランスのような支援をする側まで信用が低下すれば、ユーロ圏内で他国のことを考える余裕が薄れ、ギリシャやイタリアなど深刻な問題を抱える国が行き詰ってしまう・・・という事態を招きかねません。それはひいては欧州・ユーロ圏経済の破綻、更には世界経済の危機を意味します。
S&Pの格付け変更について、オーストリア中央銀行のノボトニー総裁は「この数週間、欧州で見られた進展を狂わせることにならないかと懸念している」とメディアに語っています。
【サルコジ大統領:「トリプルAを失えば自分は死ぬ(終わりだ)」】
ところで、再選を控えて、フランス・サルコジ大統領の支持率は低迷しており、社会党のオランド前第1書記と1位を争うと言うより、極右政党・国民戦線党首のルペン党首と2位を争うような状況です。最低でも2位は死守しないと決選投票に残れません。
****サルコジ仏大統領:選挙意識?「ジャンヌ・ダルク」で熱弁****
サルコジ仏大統領は6日、英仏百年戦争の英雄ジャンヌ・ダルクの生誕600周年を記念して生誕地の東部ドムレミーなどを訪れ、「ジャンヌ・ダルクはどの政党にも属さない」と演説した。「移民排斥」を訴える極右政党・国民戦線がジャンヌ・ダルクを崇拝していることから、4月の大統領選に向けて右翼支持層の取り込みを狙った動きではないかと取りざたされている。
15世紀に英軍包囲下にあった仏中部オルレアンを解放したジャンヌ・ダルクは国家統合の象徴とされる。サルコジ氏は国民戦線を念頭に「国家統合の象徴を、国家を分断させようとする者たちに使わせてはいけない」と熱弁を振るった。
サルコジ氏は大統領選への正式な立候補表明はしていないが、出馬は確実。仏メディアに「国家元首として、フランスに自由と偉大さをもたらした功労者に敬意を表するのは当然だ」と説明したが、選挙をにらんだ政治的な思惑がちらつく。
これに対して国民戦線党首のルペン候補はAFP通信に「私の方が(選挙目的のサルコジ氏よりも)心は純粋だ」と皮肉った。最新世論調査によると、大統領選候補者の支持率は社会党のオランド前第1書記27.5%、サルコジ氏24%、ルペン氏20%で、3氏がしのぎを削る構図だ。【1月7日 毎日】
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そんなサルコジ大統領にとって、フランスのトリプルAの格付けは自信のよりどころともなっていただけに、今回の格下げは大きな痛手となっています。
****仏国債格下げ:サルコジ氏に痛手…大統領選、野党が攻勢****
米格付け会社によるフランス国債の格下げは、4月に大統領選を控えて支持率低迷にあえぐサルコジ大統領にとって大きな痛手だ。07年の当選以来「強い経済の復活」を訴えてきただけに、政権への信任を揺るがしかねない。格付けでドイツと格差が付いたことも大統領に衝撃を与えている。
バロワン財務相は13日、仏テレビ番組で「経済政策を決めるのは格付け会社ではなく政府だ。格下げによって新たな緊縮策を取ることはない」と述べ、格下げによる影響の大きさを否定した。
これに対し、最大野党・社会党のオブリ第1書記は声明で「(適切な施策を行えば)本来避けられた事態だ」と大統領を批判した。またAFP通信によると、国民戦線のルペン党首も「国家を守る大統領という神話の終わりだ」と切り捨てるなど、選挙を念頭に攻勢を強めている。
大統領は格下げが取りざたされ始めた昨年12月以降、「乗り越えられないものではない」などと発言してきた。
側近が最上位のトリプルAの格付けを「国宝」と語るなど、自信のよりどころにしてきた。仏紙によるとサルコジ氏は昨年、「トリプルAを失えば自分は死ぬ(終わりだ)」と漏らしていたという。【1月14日 毎日】
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経済専門家からもサルコジ財政の失敗が指摘されています。
****仏国債格下げは「失敗した緊縮策への警告」 専門家の目****
■シンクタンク「テラ・ノバ」研究員 トマ・シャリュモー氏
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が仏国債の格付けを下げたことは、フランスの国内政治に大きな影響を与える。どのような財政再建策が妥当なのかが、次期大統領選の主要な争点になるからだ。
格下げで、フランスの政府債務(借金)が深刻な状況にあることが再確認された。サルコジ政権が2年前から始めた緊縮策が不適切だったとの警告だと受け止めるべきだろう。
政府債務は、2007年に発足したサルコジ政権下で約6千億ユーロ(約59兆円)増えた。主因は、富裕層や大企業を優遇するような税制改革の失敗だと思う。経済成長を後押しするための財源が細ってしまった。
格下げに伴い、仏国債の利回りは4%台に上昇するとみられる。財政赤字が今後1年~1年半に限っても20億~30億ユーロ増えるとみている。政府系の機関や地方自治体にも影響が及び、厳しい財政運営を迫られるのは必至だ。サルコジ政権は国民の信頼をさらに失うことになりそうだ。【1月16日 朝日】
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【ルペン候補:「ユーロ脱退、自国通貨フランの復活」】
更に今回格下げは、「脱ユーロ」を主張する国民戦線のルペン候補を勢いづかせています。
****仏大統領選、右翼政党に勢い 国債格下げで脱ユーロ主張****
13日に発表された米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)によるフランス国債の格下げが、2大政党が政権を争う4月の仏大統領選を揺さぶり、対立を先鋭化させている。ただし両党ともユーロ圏の再建を目指す立場は同じ。勢いづくのは「脱ユーロ」を主張する右翼政党だ。
「(最高位の格付けの)『AAA』を守るというサルコジ氏の闘いは敗北に終わった。(負けたのは)フランスそのものではない」。政権交代をめざす最大野党・社会党のオランド候補は14日、パリの選挙事務所でこう語った。
これにサルコジ氏再選を後押しするフィヨン首相がかみついた。15日付の仏紙ジュルナル・デュ・ディマンシュのインタビューで「歳出増と増税しかない(社会党の)選挙公約を格付け会社がどう評価するか見ものだ」と皮肉った。サルコジ政権が近く、労働時間の短縮の見直しなど、ドイツ並みの競争力を取り戻す施策を矢継ぎ早に打ち出すことを示唆した。
ただし、財政をしぼりつつ、経済成長も実現するという難題に明確な答えがあるわけではない。そこで存在感を増すのが、右翼政党・国民戦線のルペン候補だ。
13日の格下げ発表直後からテレビに出演し、「ユーロ圏分裂の第1段階だ。オランドもサルコジも(中道政党の)バイルも解決策を持たない。景気を悪化させる財政の締め付けをやるだけだ」と息巻いた。
大統領選に向けた公約では「ユーロ脱退、自国通貨フランの復活」を主張。国境管理や移民制限の強化で財源を生み、低所得者や中間層に再配分するという。
他党は「ポピュリズム策の羅列」と批判するが、13日付ルモンド紙に載った世論調査では「国民戦線の考えに同意」が31%。1年前の22%から跳ね上がった。IFOP社の大統領候補の支持率調査でも首位オランド氏の27%、サルコジ氏の24%に対し、ルペン氏は21.5%を占めた。
国立統計経済研究所(INSEE)は、今年1~3月期には0.1%のマイナス成長に陥り、失業率が10%に近づくと見込む。景気後退が始まっているとの見方も強い。格下げで経済運営がいっそう難しくなれば、愛国心をあおるような国民戦線の主張になびく土壌が広がりそうだ。【1月16日 朝日】
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【いいポピュリストと悪いポピュリスト】
ポピュリズムと批判される国民戦線・ルペン党首ですが、ポピュリズム云々について言えば、サルコジ大統領にも同様の評価があります。
***民意の空白を熱狂が埋める〈カオスの深淵〉****
・・・・サルコジ氏を揺さぶるのは、もう一つの「ポピュリズム」と言われる政治勢力だ。
「フランス人は裏切りにうんざりしている。私は実行します」。昨年12月11日、ドイツ国境に近いロレーヌ地方のメッス市。ユーロ脱退を掲げる右翼政党「国民戦線(FN)」のマリーヌ・ルペン党首が、大統領選に向けた活動を始めた。
「庶民の声」と記された標語をバックに移民が治安を乱して富を奪うとの持論を展開、2大政党を批判した。鉄鋼業など産業が活発なこの地域をスタート地に選んだのも、工場の閉鎖や海外移転でサルコジ氏に失望した労働者らの支持を広げるためだ。
差別を内包するFNだが昨春の地方選で第3党となった。国鉄職員でFNのロレーヌ地方議員のティエリ・グルロさん(52)は、「ポピュリストが国民の代弁者ならマリーヌはいいポピュリスト。うそつきのサルコジは悪いポピュリストだ」と断じた。
ポピュリストに投じて失望し、次のポピュリストへ。ポピュリズムは再生産され、拡大する。欧州選挙運動を研究するパリ政治学院のドミニク・レニエ教授は「不満は暴力的な段階に突入する」と警鐘をならす。【1月3日 朝日】
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今の勢いだと、移民排斥・ユーロ脱退を掲げる右翼政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が第1回投票でサルコジ大統領を蹴落として決選投票に進む・・・という事態もあながちありえない話ではなさそうです。