孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  総統選挙を待ちわびる中国人妻

2012-01-08 19:48:32 | 東アジア

(左の建物、左側が馬英九総統 右の建物、中央女性が蔡英文主席 “flickr”より By Michael Turton http://www.flickr.com/photos/michaelturton/6591268087/

【「漁夫の利」】
今週末14日に迫った台湾総統選挙は、逃げる与党・国民党の馬英九総統を野党・民進党の蔡英文主席が激しく追い上げ、接戦の展開となっています。親民党の宋楚瑜主席の存在も、特に国民党にとっては気がかりなところです。

****防戦一方の馬氏、蔡氏となお接戦=総統選まで1週間―台湾****
14日に投開票される台湾の総統選挙まであと1週間に迫った。再選を目指す与党・国民党の馬英九総統(61)と野党・民進党の蔡英文主席(55)がなお激しく競う中で選挙戦は終盤に入り、3候補は対中政策などで最後の主張を展開。

追われる馬氏は、支持層の重なる親民党の宋楚瑜主席(69)に投票しないよう呼び掛けるなど、必死の防戦を余儀なくされている。
宋氏に投票することは蔡氏に投票することと同じだ―。国民党寄りの主要紙、聯合報は2日付の紙面で、同党系支持者が宋氏に投票することを強く戒める社説を掲載した。

同党が支持者の引き締めを強める背景には、馬氏への支持が伸び悩み、宋氏の票がキャスチングボートを握るシナリオが現実味を帯びてきたからにほかならない。馬、蔡両氏の支持は伯仲しており、国民党系支持者の票が宋氏に流れることで、蔡氏が「漁夫の利」を得る可能性を懸念する。【1月6日 時事】
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【「蔡氏は台湾を高い危険に引き込もうとしている」】
これまでも何回か取り上げたように、争点は対中政策の他、国内的には格差問題が大きく取り上げられています。
これまでの対中接近による経済実績をアピールする馬総統に対し、蔡主席は、過度の中国依存の危険性、対中接近による利益は大企業により独占されて格差が拡大し、一般労働者の生活はむしろ苦しくなっていることを主張しています。
一方、馬総統はこうした批判に、蔡主席の対中政策は中国との関係を悪化し、台湾の経済・安全保障を不安定化させると反論しています。

****台湾総統選:最後のTV討論会、格差問題などで舌戦****
台湾総統選(14日投開票)の候補者による最後のテレビ討論会が6日夜、開かれた。与党・国民党候補の馬英九総統(61)と最大野党・民進党候補の蔡英文主席(55)が貧富の格差や対中政策を巡って「民衆に安心・安定を与えられるのは私だ」と訴えた。

蔡氏は馬政権発足からの3年半について「生活水準が下がり、貧富の格差は拡大、住宅価格は高騰した」と批判。「安定した生活には仕事と公平・正義が必要だ。蔡英文なら本当の安定を与えられる」とアピールした。
馬氏は、蔡氏が「一つの中国」の原則を承認せず、民主的な方法で新たな対中交渉の枠組み「台湾の総意」の形成を呼び掛けている点に対し「内容が具体的でなく、企業家も、これは台湾独立だ、と言っている。蔡氏は台湾を高い危険に引き込もうとしている」と強調した。【1月7日 毎日】
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【「自分が良いと思う候補者に何の規制もなく投票できるなんて、ものすごく『自由』を感じる」】
こうした情勢で、台湾の中国人妻を取り上げた非常に面白い記事がありました。

****台湾総統選:中国人妻たち、「自由投票」を心待ちに****
台湾人と結婚して台湾定住資格を取り、選挙権のある中国人妻たちが14日の台湾総統選を心待ちにしている。中国では無縁だった自由選挙に参加できるためだ。中国人妻約8万7000人は有権者の約0.5%と大票田ではないが、総統選で無視できない存在になりつつある。

台湾人と中国人の結婚は88年には約100組だったが、中台関係の緊密化に伴い、昨年末時点でのべ計約28万6000組にまで増えた。中国人は大半が女性だ。毎年約1万2000組の中台カップルが誕生し、今では新婚の約1割を占める。対中関係改善を進める馬英九政権下、中国人配偶者に対する就労と相続の規制が09年に撤廃され、定住資格を取得するために必要な台湾居住期間も8年間から6年間に短縮された。

台南市北門区で小さな食堂を営む中国人妻の林素珠さん(33)は「自分が良いと思う候補者に何の規制もなく投票できるなんて、ものすごく『自由』を感じる」。中国福建省の出身。知人の紹介で夫と知り合い、14年前に結婚し来台した。選挙権を手にしたのは05年。「政党より候補者の人格を優先する。でも、景気を良くして私たちをもうけさせてくれる人が一番」と経済重視派だ。北門区にいる十数人の中国人妻たちの多くも同じ意見だという。

馬総統の経済分野における最大の成果は中台経済協力枠組み協定(ECFA)。昨年1月に関税の引き下げが始まり、北門区の特産魚「サバヒー」も関税引き下げ品目に含まれた。林さんは「中国への輸出でサバヒーの出荷量が増えて景気が良くなった」と話す。【1月8日 毎日】
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中台カップルが新婚の約1割を占めるという状況には驚きました。
中国側の隠れた支援でもあるのでしょうか?
国民党と民進党による対中政策論議、「ひとつの中国」をどうするか云々・・・・といった政治の世界とは別のところで、中台の一体化が急速に進行しているように思えます。

中国人妻は、中台関係強化を主張する国民党支持か・・・と思ったら、必ずしもそういう訳でもないようです。
「自分が良いと思う候補者に何の規制もなく投票できるなんて、ものすごく『自由』を感じる」という発言は、中国における事実上の共産党一党支配体制、厳しい管理体制の抱える問題を明確に指摘しています。

香港がその先例・・・
中国は当然ながら国民党・馬総統の勝利を期待していますが、“江沢民は台湾の再統合を目指したが果たせなかった。胡(錦濤)は再統合にこだわらず、台湾との関係改善に努めて成功した。49年以降、現在の総統である馬英九ほど、密接な対中関係を実現した台湾の指導者はいない。12年1月の台湾総統選に向けて、馬は何とか支持率で首位に立っている。馬が再選されれば、習(近平)は台湾再統合の条件をまとめるため指導力を発揮するだろう、と安全保障問題の専門家であるクローニンはみている。特別行政区として、経済活動や一部政治活動に自由を認めた香港がその先例になるかもしれない。”【1月4日号 Newsweek日本版】とも。

ただ、台湾側が主権を放棄して“香港”の道を選ぶとも思えません。
ハードルを越えるためには、台湾海峡有事を別にすれば、台湾経済の根幹を揺るがすような破滅的な危機が起こったときぐらいではないでしょうか。
コメント
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