
(08年当時のアンワル元副首相(右) 左は妻のワン・アジサさん(人民正義党党首)、後列左が長女のヌルル・イザ・アンワルさんで、08年総選挙では選挙に出られない父に代わって自ら立候補、女性現職閣僚を破って当選を果たしています。 “flickr”より By Fadzli Hashim http://www.flickr.com/photos/cheahmad/2754905235/ )
【強まる“ブミプトラ政策”批判】
マレーシアが、マレー系、中国系、インド系、その他少数民族からなる多民族国家であり、社会的に劣後した状況にある多数派マレー系住民や少数民族の地位を改善するため中国系・インド系より優遇する“ブミプトラ政策”のもとで微妙なバランスをとってきたこと、体制批判に対しては裁判なしで無期限に身柄を拘束できる「国内治安維持法(ISA)」が適応される強権支配的な側面もあること、そうしたこれまでの“ブミプトラ政策”や強権支配、また長期支配に伴う政治腐敗に対する抗議行動が表面化していること、その抗議行動の中心にいるのが野党指導者のアンワル・イブラヒム元副首相であること・・・などは、昨年7月10日ブログ「マレーシア 選挙制度改革と公正な選挙を求める大規模な抗議デモを厳しく鎮圧」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110710)で取り上げたところです。
与党・政権側も、治安維持法の撤廃やブミプトラ政策の一部見直しなど、こうした批判への対応をとってはいますが、不満は収まっていないようです。
****マレーシア長期支配に反発 マレー系優遇政策を批判****
マレーシアのナジブ政権が異例の政治改革に乗り出した。最大多数のマレー系住民を支持母体とする与党連合の長期政権に対し、マレー系を含む多数の市民がデモに参加するなど、反発を強めていることへの危機感からだ。年内実施の可能性がある総選挙を控えた政権は治安維持法の撤廃などを打ち出したが、民主化勢力は不十分だとしている。
マレー系は同国人口の約66%を占める。1957年の独立以来、統一マレー国民組織(UMNO)を中心とする与党連合が政権を維持。マレー系住民を優遇するブミプトラ(土地の子)政策を推進し、裁判手続きなしに長期拘束を認める国内治安維持法(ISA)などを利用し、強硬姿勢を示してきた。
だが、中国系やインド系からの不満は強く、2008年総選挙で与党連合は議席の3分の2を獲得できずに大敗した。
経済発展に伴い成長してきた中間層の政治意識が高まり、近年はマレー系からも長期支配やブミプトラ政策への反発が強まっている。
マラヤ大学のトック・クーポン上級講師は「都心部のマレー系住民はUMNOの政策がエリートに偏ったものと考える層が増えた。野党陣営が地方のマレー系の政治意識を高めることができれば、UMNOは厳しい立場に追い込まれる」と分析する。
今年7月9日、約80の非政府組織(NGO)の連合体「ブルシ(清廉)2・0」が、選挙制度改革を求めるデモを敢行。前回総選挙で選挙人名簿などに不正があったとして公正な選挙の実現を求めた。だが治安当局はブルシを違法団体と認定。デモ隊に催涙ガスなどを使い、約1660人を一時拘束した。これがさらに国民を怒らせ、8月の世論調査では政権の支持率低下を招いた。
ナジブ政権は3日、国会内に選挙改革特別委員会を設置。半年以内に報告書を出す方針だ。9月中旬にはISAを撤廃すると宣言し、新聞などに年1回の免許更新を義務づけていた印刷出版法も改正して1回限りの免許発効とする他、集会の自由も認めるとした。
民主化を求める勢力は、街頭デモが認められないことを批判、選挙改革については総選挙に間に合わない恐れがあるとしている。一方、与党内の保守派には急速な政治改革への抵抗感が根強いとみられ、改革の行方はなお不透明だ。
■「選挙改革の実行を」NGO連合体代表
「ブルシ2・0」のアンビガ・スリーニワサン代表(54)に聞いた。
――7月のデモは国民の政治意識にどう影響しましたか。
「我々がデモを行うと宣言すると、政府は様々な人たちを使って我々のメンバーを脅した。私自身も殺すと脅された。多くの国民が『何かおかしい』と考えるようになった。デモ当日、路上に警官が並び、道路も閉鎖されたのに5万人以上が恐れずに集まった」
――多くのマレー系住民もデモに参加した理由は。
「ブミプトラ政策がすべてのマレー系に恩恵をもたらしたわけではない。貧しい人には何の利益もなかった。腐敗を嫌い、誠実で透明性のある政府を求めるマレー系も少なくない」
「我々の活動は、未来の子どもたちのために社会を発展させたいと願う市民の共感を呼び、民族を超えて幅広く集まった」
――フェイスブックなどソーシャルメディアが若者に大きく影響しています。
「これまで、情報は主要メディアからの発信に限られ、政府による情報操作も可能だった。ソーシャルメディアの登場で情報の独占状態が変わった」
――政府の政治改革をどう見ますか。
「治安維持法の廃止は歓迎するが、集会の自由については街頭デモが認められず失望している。選挙改革も、次の総選挙までに実行すると約束するべきだ」【11年10月4日 朝日】
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【アンワル元副首相、同性愛裁判で無罪判決】
野党勢力の中心的存在であるアンワル・イブラヒム元副首相は、現在の“ブミプトラ政策”体制を固めたマハティール元首相の後継者とも目された時期があった人物ですが、マハティール批判を強め、98年に職権乱用罪と同性愛の罪で逮捕され失脚しました。なお、同性愛についてはその後最高裁で無罪とされています。
職権乱用罪で服役した後、野党勢力を実質的に率いて08年3月の総選挙で与党に「3分の2割れ」という衝撃的な打撃を与えましたが、08年7月には再び同性愛疑惑で逮捕(イスラム国家のマレーシアでは同性愛は違法です)されています。
このときは翌日には保釈となり、08年8月には自身の政界復帰を果たしています。
個人的には同氏が同性愛者だろうがなんだろうが一向に構いませんが、イスラム社会では大きな問題となります。
前回ブログでも触れたように、最近では、アンワル氏が女性と密会する場面という映像がインターネット上で公開されるというスキャンダルもありました。
こうしたスキャンダルが、同氏の素行の結果なのか、政権側からの政治的狙い撃ちなのか・・・そこらはよくわかりません。
そうしたアンワル氏の問題もあってか、野党勢力はいまひとつ政権側を追い込むまでには至っていませんでしたが、ここにきて、総選挙が今年前半にもおこなわれるのではないかという状況で、再び勢いを増してきたようです。アンワル氏自身についても、08年の同性愛の訴えについて、高裁から無罪判決が出ています。
****アンワル元副首相に無罪 マレーシア・同性愛行為裁判****
マレーシアの野党指導者アンワル・イブラヒム元副首相(64)が異常性行為(同性愛)の罪に問われた裁判で、首都クアラルンプールの高等裁判所は9日、証拠不十分として無罪判決を言い渡した。今年前半にも実施の可能性がある総選挙を前に、同国初の政権交代に向けて野党陣営が勢いを強めそうだ。
アンワル氏は2008年6月、クアラルンプールのマンションで同氏のスタッフだった男性(当時23)と同性愛行為に及んだとして同年8月に起訴された。アンワル氏は一貫して無罪を主張していた。
イスラム教を国教とする同国では同性愛行為は刑法で禁じられている。【1月9日 朝日】
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野党勢力が勢いを強めるという見方に対し「判決は政権批判を繰り返す野党勢力のガス抜きになったうえ、野党内の足並みが乱れており、与党の基盤は揺るがない」(政治学者)【1月9日 毎日】といった見方もあるようです。
【現金バラマキも】
政権側からは、現金バラマキによる支持つなぎとめも行われているようです。
****州人口の85%に一時金500ドルを支給(ケランタン州)*****
マレーシア連邦政府は、ケランタン州の州人口の85%に一時金500リンギを来年早々に支給する。
12月7日、ムスタパ通産相は野党・全マレーシアイスラム党(PAS)が政権を掌握している同州の州都コタバルでの記者会見でこのように発表した。国会解散・総選挙がまもなく実施されそうな状況にあり、一時金支給は政府・与党の選挙対策だともみられている。
同相によると、一時金500リンギの受給資格は世帯収入が3000リンギ以下であることで、支持政党は問わないという。
与党UMNOのケランタン州支部連合会会長であるムスタパ通産相によると、州人口約150万人の85%がこの恩恵を受ける。ケランタン州はマレーシア13州の中でも貧困層が非常に多い州だ。 【12月14日 南国新聞】
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なお、1リンギは約24円ですから、500リンギは約12000円になります。
昨年は「アラブの春」が大きな流れとなりましたが、マレーシアも今年、政治的に大きな節目を迎える可能性がありそうです。