孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU 支援される側、支援する側双方に募る不満 ハンガリー、フィンランド、そしてイギリス

2012-01-21 22:12:42 | 欧州情勢

(1月2日 ハンガリー・ブダペストで行われた反政府デモ 最近の世論調査では、与党フィデスの支持率は16%に下落し、87%が「国は間違った方向にある」と答えているそうです。 “flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/6715411553/

オルバン首相、EU制裁回避のため譲歩
経済危機で軋みが目立つEU・ユーロ圏ですが、EUに対する不満・異論は財政問題を抱える援助される側の国だけでなく、援助する側にまわる国双方から出ています。

先ず、援助される国では、メディアで頻繁に伝えられるギリシャやイタリアなど以外にも、ハンガリーでも大きな問題があることは、昨年12月24日ブログ「経済危機のハンガリー  与党フィデスの独自路線でEU・IMFとの軋轢も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111224)で取り上げたところです。

経済危機に苦しむハンガリーでは、極右政党とも評される与党フィデス・ハンガリー市民連盟、オルバン政権のもとで、事実上のメディア検閲制度や中央銀行の政治からの独立が侵害される危険のある、中央銀行を財務監査庁と合併する法案などが進められており、制裁も辞さない姿勢のEUからの強い批判を受けています。

****欧州委:ハンガリー制裁へ 「EU法令に違反****
欧州連合(EU)の内閣・欧州委員会は17日、独裁傾向を強めるハンガリーのオルバン政権に対し、「中央銀行や裁判官の独立を侵害する法律が基本条約(リスボン条約)などEU法令に違反する」として制裁手続きを始める決定をする。欧州委は報道の自由など基本的人権も侵害されていると批判しており、ハンガリー政府に改善圧力をかけ続ける構えだ。

ハンガリーは08年から慢性的な財政危機に陥っており、国際通貨基金(IMF)やEUの支援を必要としているが、オルバン政権は強硬姿勢を崩しておらず、援助は滞っている。財政的な困窮がさらに深まりそうだ。

与党が3分の2以上の議席を占めるハンガリー議会は昨年、新憲法や関連法を可決した。欧州委は法案の時点から▽中央銀行幹部の任命権が首相に移され独立が侵される▽裁判官や検察官が早期退職を求められる▽情報保護当局の独立性が守られない--と批判。「制裁への手続きが必要」と判断した模様だ。

欧州委は今後、EU法違反の確認を求めてEU司法裁判所に提訴。裁判所が改善を勧告し、従わなければ制裁金が科される。05年には漁業資源保護を巡りEU法違反に問われたフランスが2000万ユーロ(約20億円)以上の罰金を科された。

欧州委はこれとは別に12日、ハンガリーが財政赤字を国内総生産(GDP)の3%に抑える財政安定協定に違反していると判断。ユーロ圏ではなく自動的な制裁はできないため、来年からEUの基金の援助を停止することを検討している。【1月17日 毎日】
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欧州委員会の厳しい姿勢に、EU・IMFの支援を必要としているハンガリー・オルバン政権側も一定の譲歩を示したようです。

****ハンガリー:首相、対EU譲歩を表明 中銀機構改革****
欧州連合(EU)の内閣・欧州委員会が、ハンガリー中央銀行の機構改革などに関する法律がEU法に違反するとして制裁手続きを始めた問題で、オルバン首相は20日、中銀の独立性を脅かす恐れのある金融監督庁との統合計画を破棄する考えを明らかにした。ロイター通信が、地元ラジオ局の首相インタビューを伝えた。首相がEUの改善要求に具体的な対応策を示したのは初めて。

深刻な財政危機にあるハンガリーは、EUや国際通貨基金(IMF)からの金融支援を必要としている。オルバン首相はEUへの譲歩で制裁を回避し、先月から中断したままの支援交渉の再開につなげたい考えだ。
欧州委はハンガリーの司法や情報当局の独立性にも懸念を示し、関連法令の見直しを求めている。オルバン首相は「いくつかの法律は修正しなければならないかもしれない」と述べ、これらの問題でも譲歩する可能性を示唆したが、具体策には言及しなかった。【1月21日 毎日】
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ハンガリーでは先の選挙で、右傾化を強める与党フィデス・ハンガリー市民連盟以外にも、あきらかな極右政党ヨッビクも勢力を拡大しました。
好転しない経済危機のなかで、右傾化した政権・政党が内向きの政策を進めることも懸念されます。
ただ、フィデスは最近支持率を落としており、国民の87%が「国は間違った方向にある」と答えている世論調査もあるようですので、国民のバランス感覚が失われた訳ではないようです。

【「倒産する自由」がないのはモラルハザード
援助する側の財政優良国が抱える不満については、ドイツがよく取り上げられますが、フィンランドでも同様の問題があります。

****反EU」候補の得票、焦点 フィンランド大統領選****
フィンランドで22日、ハロネン大統領の任期満了に伴う大統領選が行われる。健全財政を誇るフィンランドでは欧州連合(EU)によるギリシャ救済に国民の不満が高まっており、EUに批判的な候補がどれだけ得票するかが注目される。

北欧で唯一通貨ユーロを採用するフィンランドは、国債の格付けも最上位で、EUの優等生だった。
だが昨年4月の総選挙で、EUのポルトガル支援反対を掲げた「真のフィンランド人」が改選前から6倍以上の39議席を獲得して第3党に躍進。支持者を奪われた既成政党も一転してEUに異を唱えはじめた。

中道・左派6党の連立政権は昨夏、ギリシャ追加支援の条件に担保を要求。トゥオミオヤ外相が今月、EU各国の財政規律を強めるための政府間協定への署名を拒むべきだと公言するなど、政権内でもEU懐疑派が勢いづいている。

大統領選には8人が立候補している。公共放送YLEの世論調査では、穏健保守の与党国民連合のサウリ・ニーニスト元財務相が29%でトップ。「ユーロ圏離脱の検討」を訴える野党中央党のパーボ・バユリュネン元副首相は10%で、2位の緑の党の候補に2ポイント差に迫る。真フィンのティモ・ソイニ党首は4位だ。
過半数を得る候補がいなければ、2月5日に上位2候補で決選投票を行う。大統領は外交・防衛を担い、EU政策に関する権限はないが、反EU候補がコマを進めるかが、国民のEU離れを占う試金石となる。

■「国家主権への優先認めぬ」真のフィンランド人党首
昨春の総選挙で大勝し、反EU(欧州連合)の主張が他政党にも影響を与えている「真のフィンランド人」のソイニ党首は、朝日新聞に次のように語った。

EUの規則を守り、財政赤字や政府債務を低く抑えているのはフィンランドとルクセンブルクだけだ。なぜルールを破った国の借金を支払わされるのか。
競馬なら負けたら終わりだ。金を貸した独仏の銀行が借金を帳消しにすればいい。ギリシャのデフォルト(債務不履行)は不可避なのに「倒産する自由」がないのはモラルハザードだ。

EU分裂には賛成しないし、共通市場も支持する。ただ、フィンランドの国家主権に優先する存在は認めない。選挙で選ばれない欧州委員会の官僚が、EU予算や法案作成で主導権を握るのは民主主義に反する。人やモノの移動の自由があればいい。「今より小さく良い欧州」を実現するのが目標だ。
昨春の総選挙では、世論調査を上回る票を得た。国民が私に賛同すれば、大統領選でも躍進できるだろう。【1月21日 朝日】
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統合を進めるEUと国家のどちらが主権を有するかという、根本的な問題をはらんでいます。
EU側には、財政などの国家主権に制約を加えていかないとEUの統一性が保てないという認識があります。
現在のユーロ圏の混乱も、単一通貨を採用したにも関わらず、国家間の財政政策がバラバラなところに基本的な問題があると指摘されています。
ただ、EUの“干渉”は経済的に苦しむ国民の批判の対象ともなり、内向きのポピュリズムの温床となることも危惧されます。

【「開かれた単一市場こそ重要だ」】
一方、独仏主導のEUに対し、孤立した感もあるイギリスの対応も注目されます。
****EU孤立の英、巻き返し 非ユーロ圏で協力 “絶縁”仏独に対抗****
昨年12月の欧州連合(EU、27カ国)首脳会議で、財政規律を強化する新財政協定に1カ国だけ反対して孤立した英国が巻き返しに懸命だ。
英国と同じく自国通貨を維持するデンマークやスウェーデンとは「単一市場」重視で連携し、単一通貨ユーロ圏のアイルランドとも協力して独仏が主導する法人税統合に反対する方針だ。

キャメロン英首相は18日、ロンドンの首相官邸でイタリアのモンティ首相と会談し、「ユーロ圏の債務危機克服には財政再建と財政規律の強化だけでは足りず、成長戦略が重要だ」との認識で一致した。
モンティ首相は同日付の英紙フィナンシャル・タイムズのインタビュー記事で、緊縮一本やりのメルケル独首相に対し、重債務国の資金調達コストを下げるユーロ共同債導入の必要性を訴えた。イタリア側には英国と連携することで、メルケル首相の外堀を埋める思惑もありそうだ。

今年4~5月の大統領選で再選を目指すサルコジ仏大統領は債務危機が収まらないことにいらだちを隠せない。1月から半年、EU議長国(輪番制)を務めるデンマークについて「(ユーロを共有していない)デンマーク人では債務危機解消の役に立たない」と発言、ユーロ圏と非ユーロ圏の溝を際立たせた。

昨年12月のEU首脳会議以降、サルコジ大統領と“絶縁状態”にあるといわれるキャメロン首相は、デンマークやスウェーデンに「開かれた単一市場こそ重要だ」と呼びかけ、フランスが掲げるユーロ圏と非ユーロ圏の「2つの欧州」に反対する方針だ。

法人税を低くして外国企業を誘致する重債務国のアイルランドに対し、独仏が支援と引き換えに法人税の統合を迫っていることから、英国は税制統合反対でアイルランドと共同戦線を張る構えだ。
また、オランダにも「単一市場の拡大が必要」と説き、非ユーロ圏を市場から排除しようとする動きを牽制(けんせい)している。
EUは新財政協定での合意を目指して今月30日に首脳会議を開く。【1月20日 産経】
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当面の危機であるギリシャのデフォルト不安再燃については、ギリシャ政府と銀行など民間債権者は20日、アテネで交渉を続行、ロイター通信によると、合意する見通しになった報じられています。
民間側の損失負担率は当初見込んでいた利子収入の減額分も含めると、65~70%に達するということですが、最終的に合意すればギリシャは当面、無秩序なデフォルト(債務不履行)を回避できそうだ・・・とのことです。【1月21日 毎日より】

ギリシャのデフォルトをとりあえずクリアできても、問題山積で、今後いろんなところから火を噴きそうなEU・ユーロ圏の現状です。
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