孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア化学兵器使用疑惑問題 ロシア提案で急展開

2013-09-10 22:33:39 | 中東情勢

(シリア問題で苦悩するオバマ大統領・・・というような雰囲気です “flickr”より By Madhu babu pandi http://www.flickr.com/photos/93397882@N07/9629570153/in/photolist-fEW4HB-fBc2Sm-fEgVzE-fzhPde-fzvT7C-ftH5LX-eeee1T-eCJXWk-fFMXNX-efCCYq-e9SCth-eLvsdF-fzgBJP-fzxeff-fzgFFp-fzhRm6-fzhQ2F-fzvU4h-fzxa2U-fzhSpe-fzgCPK-fzvV4S-fzvYzd-fzvXNL-fzxdsG-fzhTdB-fGeJXR-fD1H74-euMBTF-fJQKMD-fD4Gdr-fz7Bd8-fHhUyF-fHhRNg-fHhPqn-fDjbud-fKTTai-fNgk98-fNgmJ4-fNgCJR-eM2zkc-fxbFZK-eDmZGK-euMCbc-e8FEwa-cRoBb1-eekrdR-e9CQKp-fBnSes-fE3noQ-fE9QNe)

【「私が自国民に化学兵器を使用したという証拠はない」】
シリアの化学兵器使用疑惑については、軍事的に優位にある政権側が、国連調査団がダマスカスに入っている時期に何故?・・・という疑問が当初から指摘されています。

“ケリー長官は記者会見で、シリアの化学兵器がアサド大統領▽大統領の弟のマヘル・アサド共和国防衛隊司令官▽国軍将軍(名前は明かさず)−−の3人だけで管理されていることを明かし、化学兵器攻撃にはアサド政権の最高幹部が関与しているとの考えを示した。”【9月10日 毎日】

一方、アサド大統領は“「私が自国民に化学兵器を使用したという証拠はない」”【9月9日 時事】と、自身の関与を否定しています。

“私はやっていない”という言い様は、弟のマヘル・アサド共和国防衛隊司令官か、もう一人の国軍将軍がやったのかも・・・という推測にもつながります。

****大統領の許可なく実行か=シリアの化学兵器使用―独紙****
8日付のドイツ日曜紙ビルト・アム・ゾンタークは、シリアでの化学兵器使用について、軍指揮官がアサド大統領の許可を得ないまま実行した可能性があると報じた。

ドイツ情報機関の話として伝えた。それによると、シリア軍指揮官は4カ月以上前から化学兵器の使用を認めるよう大統領府に求めていたが、一度も許可されなかった。シリア沖に派遣されたドイツ軍偵察艦が傍受した無線通話から明らかになったという。【9月9日 時事】 
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上記情報が正しいかどうかは定かではありませんが、ありそうなシナリオのひとつではあります。

反体制派以外はすべてまるく収まる提案のようにも
ところで、ここにきてロシア提案を受けて事態が急転していることは報道のとおりです。

****シリア:化学兵器を国際監視下に 露外相が要請****
ロシアのラブロフ外相は9日、記者会見し、シリアのアサド政権に対し同国が保有する化学兵器を国際監視下に置くよう求めた。

ケリー米国務長官が同日、シリアが来週までに化学兵器を放棄すれば攻撃を回避すると述べたことを受けたもので、軍事介入に反対するロシアがアサド政権の説得工作に乗り出した形だ。

シリアのムアレム外相は提案を歓迎する立場を示した。ただ、アサド政権は化学兵器の保有を公式に認めておらず、実際に要請を受け入れるかどうかは不明だ。

ラブロフ外相はシリアに対し、化学兵器の保管場所を国際監視下に置く▽化学兵器を破棄する▽化学兵器禁止条約に加盟する−−ことを要請。これらの提案はモスクワで同日会談したシリアのムアレム外相に伝達された。

ラブロフ外相は、「シリアの化学兵器を国際監視下に置くことで(米国の)攻撃を回避できるのであれば、ロシアはシリアとともに直ちにこの作業に着手する」と表明した。

ケリー長官は同日、訪問先のロンドンでヘイグ英外相と会談した後、記者会見し、米国によるシリア攻撃を回避するためには、アサド大統領が来週までに化学兵器を国際社会に引き渡す必要があるとの考えを示した。一方、長官は、「アサド(大統領)はそうしないだろう」と述べ、攻撃の必要性を訴えてもいた。【9月9日 毎日】
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アサド政権側はロシア提案を歓迎する意向を示しています。
なんだかんだ言っても、トマホークを撃ち込まれたり、爆撃されるのは、できれば避けたいところです。
まして、本当にアサド大統領自身が関与していなかったのであれば、アサド大統領としては、「どうしてこんなことになったのか・・・」という忸怩たる思いもあるでしょう。

****シリア:化学兵器監視を「歓迎」…アサド政権****
シリアの化学兵器を国際監視下に置いて廃棄するというロシアの提案について、シリアのムアレム外相は9日、歓迎の意向を表明した。

化学兵器の保有を公式に認めてこなかったアサド政権が、廃棄まで検討する姿勢を見せたのは異例だ。
米欧で軍事行動に反対する世論が高まっていることを踏まえ、柔軟姿勢を示すことで、化学兵器使用疑惑を軟着陸させたい思惑があるとみられる。

「市民の安全と国家の治安を保証するための提案を歓迎する」。訪問先のモスクワで、ラブロフ露外相との共同記者会見に臨んだムアレム外相は、化学兵器の国際監視や廃棄、化学兵器禁止条約への加盟といったロシアの提案を検討する意向を示した。(後略)【9月10日 毎日】
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一方のアメリカ・オバマ大統領もシリア攻撃に関する議会の承認が見込めない情勢で、進むに進めず、引くに引けず、振り上げたこぶしをどうするのか、アサド大統領と同じぐらい追い詰められていますので、渡りに船の提案でしょう。

****米大統領:「前向きな展開可能性」…化学兵器廃棄、露提案****
オバマ米大統領は9日、米国のテレビ各局とのインタビューに相次いで応じ、ロシアが化学兵器を国際管理下で廃棄することをアサド政権に提案したことについて「前向きな展開となる可能性がある」と述べ、ロシアとシリアの対応を注視する考えを示した。
歓迎の姿勢を示しているシリアが今後、どう具体的に応じるかが焦点となる。

オバマ大統領は「これは我々が過去数年間にわたって求めてきたものだ」とロシアの提案に一定の評価を与えた。ただ、大統領は「今までこうした動きは見られなかった」とも述べ、アサド政権による化学兵器の廃棄に懐疑的な見方を示した。

その上で「シリアの化学兵器使用に対して確固たる軍事圧力をかけなければ、こうした提案は引き出せなかった」と述べ、対シリア軍事攻撃を目指す姿勢を堅持した。

この日、米議会は上院本会議でシリア攻撃の承認決議案を巡る審議を開始。上院は4日に外交委員会では承認決議案を可決しているものの、上院全体では賛否が分かれている。上院の与党民主党内では、決議案に賛成の立場のファインスタイン議員がロシアの新提案を歓迎する声明を発表。
アサド政権に45日間の猶予を与えて化学兵器使用の禁止を迫る修正決議案が浮上するなど新たな動きが表面化している。決議案の採決は当初の13日から来週以降にずれ込む見通しだ。

オバマ大統領は、NBCテレビとのインタビューで、シリア攻撃の承認が議会で得られるか「自信があるとは言えない」と語った。

一方、国連の潘基文(バンキムン)事務総長は9日の会見で、国連の調査でシリアでの化学兵器使用が確認された場合、シリア政府に化学兵器を廃棄させ、化学兵器禁止条約にも加盟させるための措置を、安全保障理事会に要請する考えを明らかにした。調査結果は今週末から来週にかけてまとまるとの見通しもある。

また、フランスのファビウス外相も9日、ロシアの提案を国連安保理決議に基づき実施するなどの条件付きで「受け入れ可能」とする声明を出した。【9月10日 毎日】
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シリア・アサド政権は、アメリカの攻撃を回避でき、しかも、これまでの欧米側の「アサド政権を相手にせず」という雰囲気から、一転して“交渉の相手”としての地位を確保することもでき、政治的解決に向けた一筋のあかりも見えてきます。

ロシアは、久しぶりに国際舞台での存在感を示すことができます。

アメリカ・オバマ大統領は、ようやく振り上げたこぶしを下ろすこともでき、軍事的圧力をかけた成果と主張することで、傷ついた大統領の権威を多少なりとも修復できます。
批判は当然あるでしょうが、議会の承認が得られず立ち往生したり、単独で攻撃に突き進んで不測の事態が起きたり、国際的に孤立することの傷に比べればましでしょう。

国連も、フランスも歓迎しています。日本の安倍首相もプーチン大統領に賛意を伝えています。

もし軍事行動が行われると、報復などの不測の事態もおきかねません。
シリア問題の政治的解決は当分見込めなくもなります。

今回提案で関係国のメンツを保ちながら軍事行動が回避されれば、そうした事態も避けることができます。
何より、攻撃に巻き込まれて死傷する民間人犠牲も避けることが出来ます。

実際にまとまるのであれば、シリア反体制派以外は、すべてまるく収まるような提案です。

“アサド政権が、化学兵器の保有実態などの秘密情報を外国に提供するか疑問視する声もある。反体制派主要武装組織「自由シリア軍」のイドリス司令官は中東の衛星テレビ局アルジャジーラのインタビューで「政権はうそをついており、我々は(米国などの)軍事行動を求める」と、改めて訴えた。”【9月10日 毎日】

実現性を疑問視しる見方も
もちろん、ロシア提案がこのまま進むのかどうかには、ハードルもあります。

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政権が安全保障の「切り札」とも言える化学兵器を簡単に手放す保証はない。

シリアの化学兵器は、通常戦力で劣るイスラエルへの対抗手段であり、化学兵器の開発や保有を禁止し、原則10年以内の廃棄を求める化学兵器禁止条約(1997年発効)にも署名しなかった。

政府は化学兵器の保有を公式には認めない姿勢をとっており、保有量や開発の実態は謎に包まれてきた。内戦突入後の2012年7月には外務省報道官が「化学兵器を保有しているが、国民には使用しない」と言及したことはあるが、その後もアサド大統領ら政権幹部は保有を言明していない。

イスラエルや米国は、アサド政権が追い込まれた場合、化学兵器でイスラエルを攻撃したり、テロ組織に化学兵器が流出したりすることを強く懸念する。

それだけに今回、ムアレム氏が化学兵器の保有を政府高官として事実上初めて認めたのは、米国の攻撃に対する政権側の危機感の大きさを示している。【同上】
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しかし、“安全保障の「切り札」”と言っても、実際に使用したら間違いなく壊滅的な報復攻撃を受けるカードで、実際問題としては対国民なら使えても、対イスラエルでは使えないカードでしょう。

攻撃回避の一時しのぎにすぎず、化学兵器の相当部分を温存するだろうとの見方もあります。

****シリア:化学兵器ロシア提案 管理実施は困難****
シリアの化学兵器を国際監視下に置くロシアの提案をアサド政権は9日「歓迎」したが、米国などの攻撃回避の一時しのぎとの見方もある。化学兵器は長年敵対関係にあるイスラエルへの対抗手段で、政権存続の鍵となる重要な兵器だ。内戦下で保有量や保管場所を特定するのは難しく、ロシア案が実行できるかは不透明だ。

「シリアは化学兵器や核兵器など大量破壊兵器(の使用)に反対だ。だがイスラエルは保有し我が領土(ゴラン高原)を占領している」。8日、米テレビのインタビューでアサド大統領はイスラエルを強く非難した。

イスラエルとの4度の中東戦争で劣勢だったシリアは、1970〜80年代に化学兵器の研究を本格化。米シンクタンクなどによると、猛毒のサリンやマスタードガスなどを製造し、旧ソ連や北朝鮮などの支援を受け90年代に兵器化した。内戦下でイスラム過激派に流出する懸念から米国がアサド政権の大規模攻撃をためらう一因でもある。

それでもムアレム外相が化学兵器保有を事実上認め廃棄を検討する姿勢を見せたのは、戦闘機などを供給するロシアの意向が大きいとみられる。
シュテイウィー・ヨルダン大学戦略研究所長は「ロシアと協議し政権存続のため化学兵器を犠牲にするしかないと判断したのだろう」と見る。

一方、エジプトのシンクタンク「アハラム政治戦略研究所」のサイード・オケーシャ氏は「攻撃回避の工作。化学兵器は一部廃棄し大半は隠し続けるだろう」と指摘した。【9月10日 毎日】
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確かに、「これで全部か?」ともめそうな話ではあります。
ただ、やってみる価値のある提案でしょう。

多大な犠牲者を出した今回事件でしたが、この際は“誰が使用したのか?”という肝心の点には敢えて深入りせず、将来に向けて二度と化学兵器使用がなされない方向で、関係国が話をまとめることを期待します。

ついでにイスラエル核兵器も
シリアの化学兵器が国際管理できるようになるのであれば、ついでに中東情勢安定化のため、イスラエルの核兵器にも何らかの規制をかけたいところです。

****アラブ諸国:イスラエルのNPT加盟求めIAEAに決議案****
16日から開催される国際原子力機関(IAEA)の年次総会に、アラブ諸国がイスラエルの核能力を批判する決議案を提出することが6日、分かった。

エジプトのハレド・シャマアIAEA大使が毎日新聞のインタビューで明らかにした。決議案の提出には、2010年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で合意された中東非核化国際会議が、予定されていた12年に実現しなかったことへの反発がある。非同盟諸国などにも同調する動きがあり、今総会の焦点になりそうだ。

決議案は、核兵器保有国とみられるイスラエルを批判し、NPTへの加盟やIAEAとの包括的保障措置(核査察)協定の締結を求める。同様の決議案は09年に採択されたが、10年には否決された。11年以降は提出されていない。

シャマア氏は「(関係国が)非核化会議に向けどれだけ真剣に行動するかみるために時間を与えたが、真剣な対応がなかったため決議案の提出を決めた」と述べた。

09年の決議案採択以降、米国などはイスラエルを加えた非核化会議実現の障害になるなどとして、決議案に賛成しないようIAEA加盟国に強く働きかけてきた。
米欧はイスラエルのみを名指しした今回の決議案にも反対する方針。決議に法的拘束力はないが、政治的な影響力は大きい。

IAEAでは、イスラエルと対立するイランの核兵器開発疑惑が最大の焦点になっているが、シャマア氏は「問題解決には、中東の全ての国が同じ権利と義務を持つ平等なシステムの構築が必要だ」と指摘。
イランと同様にイスラエルもNPTに加盟し、IAEAの包括的な核査察を受け入れることで、イランやアラブ諸国に根強い不平等感を解消する必要があると主張した。

イスラエルは自国の核兵器保有について否定も肯定もしていない。IAEAの保障措置が及ぶ範囲は限定的で、核兵器開発に関連するとみられる施設は対象外。NPT加盟の条件として、中東諸国の軍縮や核不拡散の実現による緊張緩和などを挙げている。【9月8日 毎日】
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イスラエルだけ特別扱いを認め続けるのは、イスラエルが頑な姿勢を続け、パレスチナ問題、イランを含む中東情勢が一向に安定化に向かわない一因と思われます。
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フィリピン・ミンダナオ島  和平交渉進展を妨害する襲撃事件

2013-09-09 21:29:08 | 東南アジア

(サンボアンガに展開するフィリピン軍。【9月9日 時事】http://news.nicovideo.jp/watch/np641857)

フィリピン南部ミンダナオ島のイスラム系反政府勢力とフィリピン政府は、長年にわたり一進一退の交渉を行ってきていますが、昨年10月に反政府勢力の中核「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」との間で和平に向けた枠組み合意がなされました。

今年7月には、資源配分に関する合意も得られたということで、和平に向けて一歩前進したとも報じられています。

****比ミンダナオ島:資源利権配分で合意 和平交渉****
フィリピン南部ミンダナオ島の反政府武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)と政府との和平交渉が13日、マレーシア・クアラルンプールで行われ、難航していた資源利権を巡る配分について合意した。

イスラム系住民らによる新たな自治政府発足に向け一歩前進したが、交渉には武装解除などなお課題が残されている。

解放戦線と政府は昨年10月、2016年にイスラム系住民らによる新たな自治政府発足を目指す和平に向けた枠組み合意を締結。

しかし、石油や鉱物など天然資源の利益配分を巡り折り合いが付かず、交渉は停滞していた。今回、税収や鉱物などの資源は75%を新自治政府に配分、石油などエネルギー資源は50%ずつ分け合うことで合意した。

今後は武装解除のあり方などで協議が続くが、解放戦線側には複数の武装勢力が混在する地域の治安維持を理由に武力維持を求める声も根強く、政府と意見の隔たりがある。【7月14日 毎日】
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しかし、MILFとは別組織の「モロ民族解放戦線(MNLF)」が、人口100万人の中核都市を100人ほどで襲撃するという派手な交渉妨害事件が起きています。

****フィリピン南部都市をイスラム武装勢力が襲撃、都市機能まひ****
フィリピン南部ミンダナオ島にある商業都市サンボアンガが9日早朝、重武装したイスラム反政府勢力100人余りに襲撃され、都市機能がまひしているという。

サンボアンガはフィリピン南部の経済の中心都市の1つで、人口は約100万人。

フィリピン軍によると、襲撃してきたのは反政府勢力「モロ民族解放戦線(MNLF)」の指導者ヌル・ミスアリ氏を支持するグループで、9日未明にボートで海からサンボアンガに接近し上陸。
軍部隊との衝突で兵士1人が死亡、6人が負傷したという。

イザベル・クリマコサラザール市長によると、戦闘は市街地にも拡大し、武装勢力側は市民20人ほどを人質に取って軍に対抗しているという。
同市長は、市内に侵入した武装勢力について「主な目標は、市庁舎にMNLFの独立旗を掲げることだ」と述べた。

現地のAFP特派員によると、市内各地で大きな銃声が聞こえており、路上は閑散として店舗のシャッターは下ろされたままだ。重武装した警備員や軍部隊が、空港やホテル、銀行などの警備に当たっているという。 

■和平交渉で分裂
MNLFはミンダナオ島にイスラム独立国家を建国することを目標に掲げ、ミスアリ氏が1970年代初頭に結成した。
数十年にわたる紛争では、これまでに15万人以上が死亡している。

ミスアリ氏は1996年、独立を放棄して自治区を樹立することで政府と和平合意した。しかし先月、和平交渉でMNLFが政府にないがしろにされたとして、交渉からの離脱を表明していた。

フィリピン政府は現在、MNLF分派のモロ・イスラム解放戦線(MILF)と和平交渉を行っており、MILFは2016年までに新たな自治政府を発足させること目指しているが、MNLFはこの和平交渉に反対の立場を取っている。【9月9日 AFP】
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この記事を見て奇異に感じたのは、今回襲撃をしかけた「モロ民族解放戦線(MNLF)」・ミスアリ氏はかつてフィリピン政府と和平合意を進めており、その和平交渉路線に反発してMNLFから離脱してできたのが武装闘争を主張する「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」であるという点です。

MILF離脱後、MNLFは勢力が衰退していきますが、ミスアリ氏はイスラム地域の政治ボスとして大きな権力を手にしました。

かつてMNLFの和平交渉に反対したMILFが今回は和平交渉を進めており、かつて和平交渉を行っていたMNLFが今回はその妨害を行っている・・・という、逆転の構図のように見えます。

今回攻撃を行った「モロ民族解放戦線(MNLF)」の指導者ヌル・ミスアリ氏については【ウィキペディア】には、以下のように記されています。

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武装闘争のリーダーとして
1960年代にフィリピン南部へキリスト教徒の入植が進むと、元々居住していたイスラム教徒との軋轢が生まれ、イスラム教徒による独立運動が活発になった。
当時、ミスアリはフィリピン大学で講師を務めていたが、イスラム独立運動に参画。マレーシアでの軍事訓練を経て帰国後、1970年にモロ民族解放戦線の議長に就任し、フィリピン政府との交渉や武装闘争を指揮することとなった。

1976年には、政府との停戦に一旦は合意(トリポリ協定)するものの、住民投票をめぐり、和平を決裂。
一方で、組織内部の引き締めに失敗し、路線対立が激化、1984年には、モロ・イスラム解放戦線との分裂などを生じさせた。

政治家としての成功
1986年に革命が発生し、コラソン・アキノ大統領が政権を握ると、再び和平交渉を活発化。政府が憲法にイスラム教との自治に関する規定が盛り込むなど軟化姿勢を見せたことから、和解に応じ独立放棄を決定。
新たに成立したイスラム教徒ミンダナオ自治地域への関与を通じ、フィリピン政府との繋がりを深め、徐々に政治の表舞台に立つようになる。

1996年、イスラム教徒ミンダナオ自治地域の知事選挙に与党から立候補し当選。同年、南部フィリピン平和開発評議会議長にも就任した。

失脚
モロ・イスラム解放戦線の活動は残るものの、モロ民族解放戦線が事実上与党化したことから、治安が急速に回復し、経済活動も活発となった。
こうした急速な発展はミスアリに権限が過度に集中することに繋がり、政治腐敗や汚職の噂も絶えない状況となったことから、政府与党内ばかりか、モロ民族解放戦線内部でも懸念材料となった。

民族解放戦線では、ミスアリを名誉議長職に追いやるとともに、与党側も2001年の知事選に民族解放戦線の副議長を擁立するなど露骨なミスアリ外しに掛かる。
同年、ミスアリは事態を打開するために武装蜂起に打って出るものの、民族解放戦線内での支持は得られず、マレーシア(サバ州)で逮捕され反乱罪で起訴されている。

2007年、獄中からスールー州知事選に立候補し敗退。当選者に4倍近い大差をつけられるなど、かつての面影を失っている。【ウィキペディア】
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イスラム地域における自治のあり方などの理念の問題というよりは、組織内、およびフィリピン政府も絡んだ投資配分などの利権絡みの権力闘争があるようで、今回の襲撃事件も、MILFによって進められる和平合意によって、自身の権益・存在がないがしろにされることへの反発があったのでは・・・と思われます。

同氏は、組織内・フィリピン政府によって“ミスアリ外し”が進む中で、2006年11月、ホロ島の国軍基地を襲撃して武装蜂起に打って出て程なく鎮圧されるという同じような武装蜂起を行っています。

今回の襲撃自体は短時間で鎮圧されるとは思いますが、和平交渉を進めているMILFにとっては、敵対勢力によってこういう武力行使が起こされると、和平交渉の次のステップであるMILF側の武装解除という話は更に困難になるかと思われます。
襲撃を行ったミスアリ氏側の狙いもそのあたりにあるのでしょうか。
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コンゴ、中央アフリカ・・・アフリカ中央部で続く戦闘と混乱

2013-09-08 23:19:28 | アフリカ

(5月21日 戦闘を逃れてゴマに流入する人々と国連PKO部隊 “flickr”より By MONUSCO Photos http://www.flickr.com/photos/67163702@N07/8782954280/in/photolist-eo7Wjd-enx8f4-enxcVz-enxyXz-eo8byY-eo82SQ-enxgQt-feQnWc-e2hPdV-dvzi8b-dwFRd4-fH1hw1-fHAoh2-dc9Ygx-dwFaiM-e1SCt9-dqdChW-dqVTPo-eG4Z4S-eKtdPq-eG4LCo-e1Mbh2-eFXD2F-eG4tw9-eFXLmr-dKhzoG-dyi7Qj-e4zpSi-e4zqwM-dvfxVh-edTKnx-cE5Jc9-dYhT3m-eo7K5h-eQHPMg-dxrPYZ-duYnHB-cuxiCE-cf9vjC-dvhh9r-e4YyBC-dxfQ2h-eG51QL-epyDrE-ein3HU-eFXUuZ-dC2XGN-dv5dJu-dmT5uC-dwTWC5-dtC7jQ)

コンゴ:国連が平和強制を発動
アフリカ中央部のコンゴ(旧ザイール)の独立後は内戦の歴史ですが、その経緯に関するごく簡単な概略は以下のようなものです。

****コンゴ民主共和****
ベルギーの植民地だったが、1960年にコンゴ共和国として独立。直後に「コンゴ動乱」と呼ばれる内乱が起き、65年にクーデターでモブツ大佐が実権を握った。
モブツ政権は国名をザイールに変更し長期独裁を敷いたが、97年に反政府勢力が首都を制圧し政権が崩壊。現国名に変わった。
その後、武装勢力の蜂起や周辺国の介入が続き国際紛争に発展。2003年の内戦終結後も不安定な情勢が続き、12年11月には「3月23日運動(M23)」が東部ゴマを一時制圧した。コバルトなどの豊富な地下資源を巡り隣国ルワンダとウガンダがM23を軍事支援していたとされる。【7月31日 毎日】
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特に96年以降は、隣国ルワンダで起きた大虐殺に連動し、ルワンダを追われた勢力がコンゴ領内で活動、これに対抗す勢力をルワンダ政府が支援、更に、コンゴの豊富な地下資源に誘われるように周辺各国が介入・・・と「アフリカ大戦」とも呼ばれる壮絶な内戦状態となりました。

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コンゴでは隣国ルワンダから逃れてきた反政府勢力が難民キャンプを拠点にルワンダへ出撃したことなどを契機に、96年、周辺国が侵攻を開始。
ダイヤモンドなどの豊富な鉱物資源の利権争いもあって、一時は周辺8カ国の軍隊が同国領内で抗争を繰り広げ、第二次世界大戦後の国際紛争としては最大の死者を出すに至った。
戦闘によって兵士、民間人約40万人が死亡したほか、戦闘による国土荒廃に伴い、約500万人が餓死、病死したという。【09年4月11日 毎日】
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その「アフリカ大戦」も一応収束し、2003年までに周辺国軍が撤退完了、暫定政府が設立されました。
2006年には総選挙が行われ、現職のジョセフ・カビラ大統領が当選・・・ということですが、ルワンダと接する東部を中心に紛争が続いています。

紛争の中心にいるのが「3月23日運動(M23)」と呼ばれる勢力で、東部で活動していたツチ族系反政府勢力の流れをくむグループです。
紛争地に隣接するルワンダ・カガメ政権もツチ族系で、これまでの経緯もあって、M23を支援しているのでhないかとの指摘もありますが、ルワンダは関与を否定しています。

M23は昨年11月には東部の要衝ゴマを制圧。
その後市内からは撤退したものの、ゴマ周辺での戦闘が続いていましたが、最近、ゴマ周辺からも撤退したようです。

****コンゴ反政府勢力撤退も、火種くすぶる主要都市ゴマ****
コンゴ民主共和国(旧ザイール)の反政府武装勢力「M23(3月23日運動)」が、政府軍との激戦地となった同国東部・北キブ州の州都ゴマ(Goma)から撤退したが、その後も学校爆破が続くなど市内には依然、恐怖が色濃く漂い、経済も滞っている。

政府軍と新たに派遣された国連軍の攻撃によって、1年4か月にわたってこの地域を恐怖に陥れたM23が、ゴマ周辺の丘陵地帯の拠点から撤退したとのニュースを今週、住民たちは喜びと共に迎えた。

しかし今もゴマの生活は、平常時のものからは程遠い。2日のはずだった学校の新年度の始業日は1週間、延期された。北キブ州では推定100万人が自宅を離れ避難しており、その多くが学校に仮住まいしているため事態が混乱しているからだ。

同州にある中高等学校、マシマンゴ主教学院の副院長、ユージーン・ムタバジ氏によれば、状況はさらに深刻だ。
同校では2棟あった校舎のうち1棟が爆破され、女子生徒1人が死亡、他2人が負傷した。校舎跡には爆弾の金属片だらけとなった壁1枚が立っているだけだ。

「残った教室もダメージを受けていて、あちこちにひびが入っており、生徒たちの上に崩れてきそうで危険だ」という。さらに夜、学校で寝泊まりしている避難民たちによる衛生問題も懸念されるという。

市内の店は再開し、客足は戻ってきているが、商売自体は苦戦している。ゴマ市内のマジェンゴ地区の市場では、表側に並ぶ露店の棚は商品でいっぱいだが、場内の店にはほとんど品物がない。
主要な供給ルート上に位置する市北部に戦闘の最前線があったため、流通が途絶えてしまったからだ。

このままでは商売が立ち行かないという声が、そこかしこから聞こえる。

昨年11月にはM23が12日間にわたり、ゴマを制圧した時期もあった。住民の多くは、ゴマ周辺での戦闘で心身を傷付けられている。周辺地域からゴマ市内に逃げ込んだ避難民の数は数万人に上り、ゴマの人口は今や100万人に達している。

しかし政府軍の新たな攻撃と、介入した国連軍の到着によって、M23はゴマ市の北郊約30キロまで後退した。
最近まで前線だったゴマ北方7キロにあるKanyarucinya村から避難してきた大工のオリビエ・ビエンダさんは、もうM23は戻って来ないと安堵している。一度村へ戻ったときに行った戦場跡で、M23の戦闘員の遺体を見たという。

一方、学生だという18歳のヨセフさんは、そう希望を確信できないでいる。8月末以来、隣国ルワンダが国境沿いの軍備を増強させているのが心配だと語る。
国連は、ルワンダ政権指導層と同じツチ人が戦闘員の多くを占めるM23を、ルワンダが支援していると非難しているが、ルワンダ政府はこれを断固として否定している。【9月8日 AFP】
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このコンゴで続く紛争に、国連は平和維持活動(PKO)部隊「国連コンゴ安定化派遣団(MONUSCO)」を展開していますが、3月28日、国連安全保障理事会は「国連コンゴ安定化派遣団(MONUSCO)」に、反政府武装勢力の無力化や武装解除を任務とする強制力を持った戦闘部隊「介入旅団」を組み込む決議案を全会一致で採択しました。

国連PKOに従来の「平和維持」だけでなく「平和の強制執行」の任務が与えられるのは、1990年代に内戦下のソマリアやボスニア・ヘルツェゴビナで活動したPKO以来です。

この背景には、昨年11月にM23が東部の主要都市ゴマを一時制圧した際に、MONUSCOが介入しなかったことへの国内外からの批判があります。実際には、南アフリカ、タンザニア、マラウイの部隊約3000人で構成される戦闘部隊が配置され、8月23日、ゴマ郊外でM23と初めて交戦したことが報告されています。

中央アフリカ:首都バンギ市内で暴行・略奪 国家崩壊の危機
一方、コンゴ北部に隣接する中央アフリカでも戦乱が続いています。
中央アフリカ・・・と聞いても、どんな国かよくわかりませんが、ウィキペディアで見ると、一言でいえば“クーデターを繰り返している国”のようです。日本外務省ホームページには以下のように記されています。

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中央アフリカは1960年に旧宗主国フランスから独立した後も長年にわたりクーデターが繰り返されるとともに国軍兵士の反乱、騒じょう事件が頻発する等、不安定な政情が続いており、2003年にボジゼ大統領がクーデターにより政権を取った後も反政府武装勢力の活動が継続していました。
(2)2012年12月、中央アフリカ政府に対する不満を募らせていた複数の反政府勢力の連合体であるセレカが武装蜂起しました。2013年3月、セレカが首都バンギを制圧し、ポジゼ大統領は国外に脱出し、同年4月、暫定制憲議会はセレカのジョトディア代表を大統領に選出した旨の声明を発出しました。

しかし、その後も、首都バンギに駐留しているセレカが、市内において暴行・略奪を繰り返しており、セレカに反発する住民との間で戦闘が発生するなど治安情勢は極めて悪い状態です。
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現在、中央アフリカの騒乱の中心にいるのは「セレカ」と呼ばれる勢力で、中央アフリカは実質的な無政府状態にあるようです。

****中央アフリカ、反政府勢力の支配で崩壊の危機=国連****
国連のシモノビッチ事務次長補(人権担当)らは14日、反政府勢力が4カ月前に権力を掌握した中央アフリカ共和国について、「崩壊の危機にある」と警告した。

最貧国の1つでもある中央アフリカは、反政府勢力セレカが権力を掌握しボジゼ大統領が同国を脱出して以来、混乱状態が続いている。アフリカ連合(AU)は今月、国民の保護や情勢安定化、政府統治の回復のため、平和維持部隊の増強を発表した。

国連特使を務めるBabacar Gaye氏は、AUが経済面や技術面で支援を要請しているとし、安全保障理事会に要請に応じるよう提言したと述べた。

特使やシモノビッチ事務次長補は、危機解決にはAUの部隊だけでは足りないとの見方を示した。事務次長補は、治安確保と国民の保護には大規模の部隊が必要だとし、外国の反政府勢力が中央アフリカに流入することも防ぐ必要があると述べた。

安保理は声明で、中央アフリカでは「法と秩序が崩壊している」とし、同国の治安情勢に深い懸念を表明。情勢安定のためにあらゆる選択肢を検討するとした。

国連のバレリー・アモス人道問題担当事務次長は、中央アフリカが破綻国家になる可能性があると指摘。国民約460万人が情勢危機の影響を受け、このうち160万人は緊急支援を必要としていると説明した。【8月15日 ロイター】
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最貧国コンゴ共和国大統領夫人の贈り物
コンゴ(旧ベルギー領 コンゴ民主共和国)、中央アフリカに隣接するのが、もうひとつのコンゴ(旧フランス領)
「コンゴ共和国」です。

現在はコンゴ共和国での大規模な紛争は聞きませんが(90年代には内戦がありましたが)、国境付近では反政府勢力との戦闘が多発しているとも言われています。

****スペイン南部の温泉町、コンゴ大統領からの130万円に感激****
アフリカ中部コンゴ共和国のドニ・サスヌゲソ大統領は先週、経済危機に見舞われたスペイン南部にある人口約800人の小さな温泉町、カラトラカを訪れ、町民を感激させて帰途に就いた。

サスヌゲソ大統領夫妻はこの町の5つ星ホテルに宿泊し、温泉で静養して4日間を過ごした。

住民のクリスティーナ・フロリドさんによると、今月1日に町を去る大統領夫妻と住民たちが別れの挨拶を交わした際、大統領夫人からフロリドさんの84歳の父親フランシスコさんに1万ユーロ(約131万円)入りの封筒が手渡されたという。

クリスティーナさんはAFPの電話取材に対し、「大統領夫人は『これを町の皆さんに』とおっしゃったそうです。父は最初、お金を町長に渡すつもりでしたが他の人たちが反対したので、皆で分けることにしました」と話した。

それからの数日間、クリスティーナさん夫妻は自宅の入り口にテーブルを置き、やって来る町の人たちにお金を手渡している。1人当たりの金額は12ユーロ(約1570円)で、住民の約70%がすでに受け取りに来たという。

クリスティーナさんも父親も、地元の人たちが大統領からの贈り物にどれほど感激していたかに「圧倒された」と話している。

なぜ大統領がフランシスコさんにお金を託したのかは分からないというが、クリスティーナさんは「父がみんなよりも歳を取っていたからか、顔を覚えていたからではないでしょうか。大統領夫人は前の日のミサに参加され、その場にいた私の両親は挨拶をしていました」と説明した。

フランスの旧植民地であるコンゴ共和国はサハラ以南の主要産油国の1つだが、国民の70%が貧困の中で暮らしている。【9月8日 AFP】
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心温まる話なのか、“国民の70%が貧困の中で暮らしている”なかで、何を考えているのか?と言うべきか・・・・。
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ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の「スレブレニツァ大虐殺」に関する、PKO参加のオランダ政府の責任

2013-09-07 22:49:05 | 欧州情勢

(スレブレニツァ近郊ポトチャリの記念墓地で、親類の墓の前で涙を流す虐殺事件の生存者の女性ら(2013年7月11日撮影)【7月12日 AFP】)

未だ癒えない「スレブレニツァ大虐殺」の傷
1995年、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のなかで起きた「スレブレニツァ大虐殺」についてはこれまでもしばしば取り上げてきました。

当時、ユーゴスラビアからの独立をめざすボスニア・ヘルツェゴビナでは、セルビア人、ボシュニャク人(ムスリム人)、クロアチア人の三つどもえの激しい戦闘が行われており、国連のPKOが行われていました。

「スレブレニツァ大虐殺」の簡単な概略については以下のとおりです。

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国連防護部隊(UNPROFOR)は95年7月、ボスニア・ヘルツェゴビナ北東部の街、スレブレニツァに「安全地帯」を設け、ムスリムをそこに避難させていました。
しかし、軽装備の国連部隊(オランダが担当)は武力で勝るセルビア人武装勢力に従う形で、ムスリム8000人をセルビア人側に引渡してしまいました。

引き渡されたムスリムはバスやトラックで連行され、山林などで虐殺されたそうです。
ムラジッチ被告の起訴事実は、この虐殺を指揮・命令したというもので、ジェノサイドの罪、人道に反する罪などに問われています。
(2007年11月19日ブログ「コソボ 総選挙で急進独立派が第一党 独立へ加速か?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071119 より)
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この事件の傷は、今もなお癒えていません。

****旧ユーゴ・スレブレニツァ虐殺から18年、新生児など409人を新たに埋葬****
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中の1995年に、現在のボスニア東部スレブレニツァでイスラム系の男性と少年およそ8000人がセルビア人武装勢力に殺害されたスレブレニツァ虐殺事件から、11日で18年を迎えた。

スレブレニツァ近郊ポトチャリの記念墓地では、昨年遺骨が発見されたうち新たに身元が判明した409人の犠牲者の埋葬式典が行われ、1万5000人を超える人々が参列して祈りを捧げた。

今回埋葬された犠牲者には、14~18歳の少年44人と女性2人のほか、セルビア人から逃げてきたイスラム系女性がポトチャリの国連軍基地で出産し、直後に死亡した新生児の女児も含まれている。
この女児の遺体は、虐殺で犠牲となった父親の墓の隣に埋葬された。【7月12日 AFP】
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事件を首謀したとされるセルビア人武装勢力のリーダー、ムラジッチ被告は、同被告を民族的英雄とみなす向きも多いセルビア人社会のなかで長く逃亡生活を続け、そのことが、セルビアのEU加盟交渉の足かせともなっていました。

セルビアは、2011年5月に同被告を拘束したことを発表し、同被告は国連旧ユーゴスラビア国際法廷(オランダ・ハーグ)に引き渡されました。

オランダの苦悩
「スレブレニツァ大虐殺」はボスニア・ヘルツェゴビナに深い傷を負わせただけでなく、同事件に関与したオランダにおいても、“セルビア人武装勢力の脅しに屈して、大勢のムスリム人を見殺しにしたのではないか?”という、反省の議論を呼び起こしました。

同事件におけるオランダ軍の対応については、事件後、オランダ国内におけるいくつかの調査報告のほか、国連、オランダ軍からの空軍援助に応えられなかったフランスでも調査報告書がだされています。

この国内外の調査報告、および、報告を受けてオランダ首相が辞任に至った経緯については、、”リヒテルズ直子のオランダ通信”(http://www.naokonet.com/oranda/tokusyu/tokusyu.htm#ボスニア )というサイトで詳しく説明されています。

上記サイトによれば、国連は“1999年11月には、国連もスレブレニツァ事件について報告書を出しており、軽武装のオランダ部隊にはスレブレニツァの陥落を防ぐためにセルビア軍に対抗するだけの軍事力を持たなかったこと、また、国連指揮官がオランダ軍からの空軍援護の要請を再三にわたって拒否したことなどの不備を認めて、オランダ部隊を非難するのではなく、当時の国連自体の不備を認めています。”とのことです。

一方、フランスの国会調査は、“オランダ軍からの空軍援助の要請を認可しなかったことの責を認めつつも、「オランダ軍は安全領を保護するために十分なことをしなかった」と、あたかもフランス軍であったなら、こういう結果にならなかった、といわんばかりでした。”とのことです。

オランダ国内の、オランダ戦争文書研究所(NIOD)の調査報告については、以下のように説明されています。

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NIODは虐殺事件の責任の重点をボスニアのセルビア軍にあるとし、ムラディッチ総督の主犯は紛れもなく、疑いの余地がない、としています。

これまで、ことあるごとにオランダ社会の非難にさらされ、悪いイメージを作られてきたオランダ部隊に関しては、安全領保護を目的として駐留していた軽武装のオランダ軍には、セルビア軍の攻撃に応じる軍事力はなかったし、攻撃は誰にも予想できないもので、国連の対応にこそ不備があったとし、オランダ部隊の兵士らは、長きにわたる罪悪感とオランダ社会の冷たい視線から、少し解放されたかに見えます。

寧ろ、すでに派遣の段階で、この地域が非常に困難な状態であることがわかっていたにもかかわらず、オランダ政府はそれについて十分な検討を行わなかったこと、米軍の情報提供の申し出を拒否するなど、オランダ側の諜報活動にも不備があったこと、また、部隊の派遣から、事件の最中、またその後に渡って、この件を防衛省と外務省に任せっきりで、内閣として十分な対策を講じなかった、その点でコック首相には政権の監督者として不足があったことなど、オランダ政府の、スレブレニツァ事件前後の関与・監督が極めて不十分であったことを、NIOD報告書は手加減なく批判しています。【リヒテルズ直子のオランダ通信】
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このNIOD調査報告を受けてオランダ・コック首相は2002年7月に内閣総辞職しています。
総辞職にあたってのコック首相の表明は以下のとおりです。

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国際社会は、いわゆる安全地帯の人々に対して十分な保護を与えるという点で不備でありました。
これについてオランダ政府もまた国際社会の一員として不十分でありました。

今、導いたこれに対する帰結(総辞職:訳注)はひとつの特殊な出来事、または、ひとつの特殊な瞬間に対するものではありません。そうではなく、複数の政権期に渡って積み重ねられてきたことに対するものです。積年の政策に対する総括的な責任を、この決定によって取る、ということです。、、、、

ここではっきり申しあげますが、オランダは、1995年の何千人というボスニアのモスリム人の残忍な殺害に対して責を取ろうとするのではありません。
このような事態が起き得た、という状況に対してオランダの政治的な協同責任を明らかにする、ということです。

『国際社会』とは匿名的なもので、スレブレニツァの犠牲者とその遺族に対して目に見える形で責任を取ることが出来ません。私にはそれをすることができる、そしてそれをいたします。

また、もう一度強調しますが、オランダ軍兵士らは、私が以前にも申しあげた通り、ここで起きたことについては責任を持つものではありません。彼らは非常に困難な状況の中で、大きな使命を持って彼らの仕事をしてきたのです。、、、」【リヒテルズ直子のオランダ通信】
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国連の任務遂行中でも、部隊を派遣する各国政府の責任が問われる
「スレブレニツァ大虐殺」を巡っては、オランダ政府の責任が裁判でも争われていますが、オランダ・ハーグの最高裁は、オランダ政府の責任を認める判断を下しています。

****ボスニア大虐殺、オランダ政府の責任認定****
オランダ・ハーグの最高裁は6日、1995年にボスニア・ヘルツェゴビナで起きたスレブレニツァ大虐殺に絡み、セルビア人勢力にイスラム教徒3人が殺害された事件の責任を巡る訴訟の上告審で、2011年の控訴審判決を支持し、オランダ政府の責任を認めた。

判決は当時、国連防護軍として駐留していたオランダ軍部隊が、部隊施設に逃げ込んだ3人をセルビア人勢力の要求に屈して避難させず、同勢力に引き渡したと指摘した。

判決はまた、当時のオランダ軍の事実上の指揮権は国連でなく同国政府にあったとした。国連の任務遂行中でも、部隊を派遣する各国政府の責任が問われることを示す判断で、ロイター通信は今後、各国が平和維持活動への参加をためらう可能性があると報じた。【9月7日 読売】
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なお、オランダ軍指揮官の責任については問わないとされています。

****オランダ指揮官の責任問えず=スレブレニツァ虐殺事件****
オランダ検察は7日、ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦時の1995年に同国東部スレブレニツァで住民約8000人が虐殺された際、国連平和維持活動(PKO)のため駐留していたオランダ部隊がセルビア人武装勢力から住民を保護できなかった問題で、当時の部隊の指揮官らの刑事責任は問えず、訴追に向けた捜査は行わないと発表した。

直接問題となったのは、虐殺された住民のうち3人の保護。オランダ・ハーグの高裁は2011年7月、同国部隊はこの3人がセルビア人勢力に殺害される可能性を予見できたのに保護しなかったとして、オランダ政府の責任を認める判決を下した。ただ検察は「刑事責任を問えるかどうかは本質的に問題が異なる」としている。【3月8日 時事】 
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日本もこれまで多くのPKOに参加してきましたし、今後も“国際貢献”というよりは、政情が穏やかでない地域における人道的保護の見地から、PKO参加に至るケースが多々発生すると思われますが、参加する以上は相応の覚悟が求められます。

今年3月、アフリカ中部のコンゴ(旧ザイール)に展開中の平和維持活動(PKO)部隊「国連コンゴ安定化派遣団(MONUSCO)」に、反政府武装勢力の無力化や武装解除を任務とする強制力を持った戦闘部隊「介入旅団」を組み込むこと(いわゆる“平和強制部隊”)が認められたように、戦闘に遭遇、あるいは巻き込まれる可能性も今後ますます高くなると思われます。

ルワンダ内戦当時反政府勢力を率い、現在ルワンダ大統領の席にあるカガメ大統領は、目の前で虐殺が行われているときに動かなかった国連PKOのUNAMIR司令官ダレール将軍について、
「人間的には尊敬しているが、かぶっているヘルメットには敬意を持たない。UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。」と語っています。
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中国  男児両目くりぬき事件と地方に残存する貧困・格差の問題

2013-09-06 21:43:39 | 中国

(“何者かに両目の眼球をくりぬかれた中国の6歳男児は、自分の目が見えなくなったことを理解しておらず、家族に「なんでまだ太陽が昇っていないのか」と尋ねている”【8月29日 AFP】
写真は【8月28日 YAHOO!ニュース】)

日本でも、外国でも、ときに猟奇的な事件は起きますが、先月末に中国で起きた男児の両目がくりぬかれるという事件はショッキングでした。

****中国:売買目的? 6歳男児、両目くりぬかれる****
中国メディアは27日、山西省南部の臨汾(りんふん)市で24日、6歳の男児の両目が何者かにくりぬかれる事件が起き、地元警察が捜査していると伝えた。

報道によると、男児は24日夕に外で遊んでいたが、午後10時ごろに自宅近くの野原で倒れているのが見つかった。大量に出血して昏睡(こんすい)状態だった。眼球は近くで見つかったが、角膜がなくなっており、売買目的の可能性もある。男児は命に別条はないが失明し、治療が続いている。

地元警察は10万元(約160万円)の懸賞金を出し、関与したとみられる、地元の方言ではない女の行方を追っているという。【8月28日 毎日】
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違法臓器売買が横行する中国社会ということで、事件発生時は、角膜を売買する目的でくりぬかれたのでは・・・との憶測もありましたが、“警察は28日、眼球は角膜がついた状態で見つかったと発表し、臓器売買が動機という見方を否定”【8月29日 AFP】とのことでした。

その後、男児の伯母が容疑者と発表されましたが、その伯母は井戸に身を投げて自殺しているとのことです。

****自殺の伯母が容疑者=男児両目くりぬき事件―中国山西省****
3日夜の新華社電によると、中国山西省臨汾市汾西県で8月24日に6歳の男児が、何者かに両目をくりぬかれた事件で、地元警察当局は、男児の伯母(41)を容疑者と断定した。伯母は30日に井戸に身を投げて自殺している。

警察によれば、男児は伯母に野外に連れて行かれ、両目をくりぬかれ、失明した。警察がDNA鑑定などを実施したところ、伯母の衣服に男児の血痕が確認された。

4日付の中国紙・新京報によると、男児の両親と伯母一家の間には半身不随の老いた父親の介護をめぐり争いが生じていた。伯母は事件発生後、警察が事情聴取に来た際もおびえた様子だったという。

事件直後から男児の元には各地から寄付が寄せられ、2日までに10万元(約160万円)を超えた。【9月4日 時事】 
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事件の真相は未だよくわかりませんが、事件が起きた地域は貧富の格差が拡大する中国の貧困を代表するような地域でもあり、そのことが注目を集めているとのことです。

****男児両目くりぬき事件、地方貧困の実態に注目 中国****
中国山西省汾西県で6歳の男児、グオ・ビン君が両目をくりぬかれた事件は、人々を震撼(しんかん)させると共に、同国でも最貧地域に数えられる同県の実態に注目を集めている。

事件が起きた汾西県は、繁栄する沿岸地域からはほど遠い山岳地帯にある。政府統計によると、汾西の農家の年収はわずか1944元(約3万2000円)。だが、同地域では農業以外に稼げる産業はほとんどない。

事件では、DNA鑑定の結果、グオ・ビン君の伯母の衣服についていた血液がグオ・ビン君のものと判明したことから、伯母が容疑者とされたが、事件の数日後、伯母は井戸に身を投げて自殺した。

事件が起きた当時、伯母は別の場所にいたとの証言もあり、親戚らは一様に伯母は無実だと主張している。また、被害者のグオ・ビン君の証言も矛盾している。

グオ・ビン君に対しては香港の医師が義眼を提供すると申し出ている他、多くの寄付がグオ・ビン君に寄せられている。

■容疑者とされた伯母家族の苦悩
一方、容疑者とされた伯母の家族の暮らしは一変したと、伯母の夫は涙ながらに語る。夫婦は鶏肉処理業を営んでいたが、昨年に夫が仕事中の事故で負傷してからは妻が主な働き手となっていた。今後は3人の娘を1人で養っていかなければならない

中国で小学校は無料だが、地元住民たちは幼稚園への通園費や高校の学費を工面している。「教育費の問題が一層、大きくのしかかってくる。私には、ほとんど収入がないというのに、あまりに不公平だ」と、この夫は嘆く。

山岳地帯で土壌も乾燥した汾西県には、農地に適した土地は、ほとんどない。かろうじて飼料用のトウモロコシが栽培できる程度だ。住民は山肌に堀った洞穴式の住居に暮らしている。

■地方で広がる貧困
中国国家統計局によれば、汾西県は、目覚ましい成長の世紀にありながら、国内人口の9900万人が1日1ドル(約99円)以下で暮らしているという、中国指導部が直面する貧困の問題を体現している場所でもある。

地方の農村地域などでは、この10年間、大量の住民が都会に移住したため学校の閉鎖が相次いでいる。汾西県も例外ではない。教育省によれば、地方での学校数は2000年の44万284校から、2010年には52.1%も減少し21万894校まで落ち込んだ。

有識者らは、こうした学校の閉鎖が貧困家庭を経済的に苦しめていると指摘する。

体の不自由な親の医療費をめぐってグオ・ビン君の両親と伯母が言い争っていたとの報道もある。

中国政府は5年間かけて、地方を中心に大規模な保険制度を導入してきた。政府は農村人口の99%が保険制度で保護されていると主張する。だが、汾西県の住民らは、政府の政策も貧困から抜け出すには、ほとんど効果がないと話す。

子どものいる家族は学校がないために村を去り、人がいなくなった家屋や土地は荒れていくだけだという。
ある住民は次のように語った。「政府の政策は素晴らしいが、われわれのもとにお金は届かない。いつも言葉だけだ」【9月6日 AFP】
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こうした貧困、教育の荒廃、セイフティーネットの未整備といった中国社会の抱える問題が、今回事件にどのように関係しているかはわかりません。
両目を生きたままくりぬくという猟奇性は、社会的背景だけでなく、犯人の精神的な問題が大きくかかわっているように思えます。

その点、冒頭でも触れた違法臓器売買の問題は、ストレートに貧困・格差という社会問題に直結するものです。

****中国で、腎臓を違法に売買し、移植するケースが後を絶たない****
8月には湖北省武漢で別荘を「手術室」とした犯罪グループが摘発された。当局は取り締まりを強化しているが、貧富の格差や蔓延(まんえん)する拝金主義を背景に、インターネット上には売買に関する情報があふれる。
仲介業者も暗躍し、当局の対応が追いつかないのが実情だ。

膵臓(すいぞう)がんで入院中の妻の治療費20万元(1元は約16円)をどうしても工面できない。自分の腎臓を売るしかないんだ」。池州市郊外の山間部。喫茶店で待ち合わせた無職の男性(42)はあきらめきった表情だ。

男性は今春、激しい痛みに頻繁に襲われる妻(40)の看病のため会社を辞めた。高額の治療費で貯金があっという間に底をつき、知人らからの借金も30万元を超えた。男性はやむなく最近、中国版ツイッター・微博に「腎臓を売ります」と書き込んだ。

腎臓の相場は30万~40万元。仲介業者を通すと、ヤミの医師や業者の取り分が引かれ、手元に2万~3万元しか残らないことが多い。男性は「40万元での直接取引」を希望し、連絡を待つ日々だ。

中国で臓器の売買は法で禁じられている。臓器提供は死後ならば第三者間でも認められるが、生体移植は基本的に親族間に限られる。そうした規制にもかかわらず売買が横行するのは、貧富の格差の存在が大きい。

「腎臓を売るしかないまで追いつめられた人がいる一方で、臓器提供を待てない患者が、富裕層を中心に非合法な売買を求めている」。腎臓売買に詳しい報道関係者は事情を明かした。

中国には約100万人の腎臓移植対象者がいるが、合法的な移植は年4000件程度。臓器提供者の大半を占めていた死刑囚からの摘出が、国際社会の批判もあって、近年大幅に減り、提供者不足が深刻化していることも違法売買が相次いでいる理由とみられる。

仲介業者によれば、金欲しさに、「腎臓は二つあるので、一つ売っても問題ない」と安易に売る人も多い。一昨年には、安徽省の少年(当時17歳)が「iPadが欲しいから」と、ネット上で知り合った仲介業者を通して摘出手術を受け、重い障害が残る事件があった。

当局は違法売買の摘発に躍起になっている。だが、ネットで「腎臓を売る」と中国語で入力すると、売りたい人や仲介業者の書き込みが表示される。事実上野放しになっているようだ。【9月6日 読売】
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2008年に国産粉ミルクの化学物質汚染事件が起きた中国では、国産品への不信が強く、乳製品の輸入市場が拡大していることや、海外での中国人による粉ミルク買占めなどが起きていることはしばしば報じられています。

その国産乳製品への不信感と格差問題が組み合わさると、ちょっといびつで薄気味悪いことも広まるようです。

****ポリ袋で売られ、成人男性に吸われる母乳****
中国で粉ミルクの需要が高い理由の一つとして、母乳育児率の低さがあげられる。生後6カ月まで母親が母乳で育児する割合は世界平均では40%とされているのに対して中国全土では28%。都市部に限れば16%まで落ち込むという。

中国では共働き家庭が多い一方で、母親の育児休暇が短かったり、外出先で授乳施設が整備されていないことなどから、母乳で育児をする母親は少ないとされている。

だが、粉ミルク騒動が加熱するなか、母乳をポリ袋に詰めて数十元で、母乳が出ない母親向けに販売するケースも。これには、感染症にかかっている女性の母乳だと、母乳を介して感染症が子供に移る危険が指摘されている。

また、中国の一部地域では古来、「母乳は消化がよく手軽な栄養源」とされてきたことから、裕福なビジネマンらの間では、疲労回復や栄養補給のために乳母を自宅に雇うことがはやっているという。

中国紙によると、深センの人材派遣会社は、母乳が出ない母親を持つ新生児だけでなく、栄養価の高い「乳製品」を求める富裕層向けに女性スタッフを派遣している。

派遣会社の社長は「大人でも、スタッフの胸から直接、母乳を飲むことができる」と説明。女性スタッフの収入は1カ月約1万5千元(約24万円)で、農村部の平均年収の約2倍にあたる。「健康で美人」なら、さらに収入は高くなるという。

乳母として派遣されるのは、四川省や黒竜江省などの貧しい家庭の出身。生活費などを稼ぐため、出産直後の子供を親に預けて出稼ぎにきているとされる。

中国では、貧しい家庭の赤ちゃんは、化学物質や細菌の混入などの汚染が疑われる国産粉ミルクを飲み、金持ちの大人が代わって、赤ちゃんの母親の乳房を吸って栄養をつけている。【8月27日 産経】 
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国家統制を重視する左派路線で社会がうまく機能するとは思いませんが、薄熙来や毛沢東の肖像を掲げるニューレフトが今の中国社会を批判するのも当然とも言えます。
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アメリカ  恒例の財政問題再燃

2013-09-05 23:41:45 | アメリカ

(米議会に早期の債務上限引き上げを求めるルー財務長官 【8月27日 TV TOKYO digital】)

今回も土壇場で回避されるとの見方は根強い一方、「その保証はどこにもない」】
シリアの化学兵器使用疑惑への懲罰的攻撃をめぐって、アメリカではオバマ政権が議会の承認を求める交渉が行われています。

報道されているように、米上院外交委員会はいろいろ制約をつけながらも武力行使を承認し、上院での採決には一応の目途が立ちつつあります。
ただ、中間選挙での全員改選を控えた下院は、シリア攻撃に消極的な世論の動向により敏感でもあり、承認されるか予断を許さない状況が続いています。

国連の承認がない武力行使の妥当性、アサド政権側の犯行とする証拠の信ぴょう性、限定的攻撃の有効性に対する疑問、紛争の泥沼に引きずり込まれる可能性・・・などのほか、ティーパーティーからの支持を受けている共和党保守派などには、「なぜアメリカの税金をシリアのために使わなければならないのか?」といった強固な内向き志向もあります。

ただ、米議会が対シリア軍事攻撃を承認しなければ「私に対する信頼が揺らぐのではなく、国際社会に対する信頼が揺らぐ」「アメリカの威信に関わる問題だ」というオバマ大統領側の説得は、党派を超えて各議員が独自に判断する状況で、アメリカ国内にあってはそれなりの賛同を得ることも可能でしょう。

オバマ大統領にとって、シリア問題以上に議会説得が難しいのは、毎度おなじみになった感もある財政問題ではないでしょうか。
民主党対共和党という党派対立、下院における共和党優位の現状から、身動きがとれない状況が続いています。

2014会計年度(13年10月~14年9月)予算が9月中に成立しなければ、政府期間閉鎖・職員解雇の事態に陥いります。
また、10月半ばまでに連邦債務の法定上限が引き上げられなければ、デフォルト(債務不履行)危機に再度直面します。

****上院共和党との協議暗礁に=米、財政交渉の道険しく****
オバマ政権と一部の上院共和党議員との財政問題をめぐる協議が、暗礁に乗り上げた。米メディアが30日までに報じた。政権と野党側との限られた交渉窓口だっただけに、連邦債務上限などの期限が迫る中、問題解決への道のりが一層険しくなると予想される。

オバマ大統領は、共和党幹部との交渉決裂を受けて強制歳出削減を発動した3月以降、上院の共和党議員を食事に招くなどして接触。政府高官も議員らと協議を重ねてきた。

報道によると、マクドノー大統領首席補佐官やバーウェル行政管理予算局(OMB)長官らが29日、マケイン議員ら8人と会談した。

議員側が高齢者・障害者向け医療保険(メディケア)の抜本的な見直しを求めたのに対し、補佐官らは、メディケアの小幅な改正や、強制削減措置停止に向けた歩み寄りの必要性を訴えた。議員の1人は会談終了後「共通点はなく、協議を続ける理由はない」と述べたという。(後略)【8月31日 時事】
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ただでさえ歩み寄りが難しい問題ですが、昨今のシリア問題に関する審議に時間を取られていることや、中間選挙を控えていることなどから、ますます先行き不透明な情勢です。

****デフォルト危機、再燃 オバマ政権、交渉否定 野党と壁、進展困難****
米国でデフォルト(債務不履行)危機が再燃している。10月半ばにも連邦債務が法定上限に達するためで、オバマ政権は「交渉はしない」と議会に上限引き上げを強硬に要求するが、歳出削減を訴える野党共和党は反発。
3日から与野党の攻防が本格化するが、シリア問題や中間選挙をめぐる駆け引きが絡み、事態の進展は難しい状況だ。

「国の信頼を守る責任は議会にある。(債務上限を引き上げなければ)米経済は回復不能の傷を被る」
 ルー財務長官は議会指導部への書簡で債務が10月半ばに上限に達し、新たな借り入れができずデフォルトに直面すると警告。上限引き上げに無条件で一刻も早く同意するよう議会に求めている。

現在の法定上限は約16兆7千億ドル(約1660兆円)。財務省は自治体への財政支援の縮小などでしのいできたが、それもまもなく限界だ。

だが、共和党のベイナー下院議長は「政府が(社会保障の見直しなど)歳出削減を真剣に検討しない限り、引き上げには応じない」と反発。
9月中に可決が必要な2014会計年度の予算案協議でも、増税を探る政府、与党民主党と共和党が対立している。

野党の強気の背景には、来年秋に控える中間選挙への思惑がある。
昨年の大統領選に敗北した共和党は、「財政の崖」をめぐる与野党協議で富裕層増税を容認した。
債務上限引き上げ問題でも政権に寄り切られれば、支持者や支持団体の反発は必至。とくに徹底した歳出削減と増税反対を旗印に掲げる草の根保守運動「ティーパーティー(茶会)」の支持頼みの議員は「危機感が強い」(議会筋)とされる。

もっとも民主党も一枚岩ではない。政治専門サイトのポリティコは、中間選挙で劣勢が予想される一部議員が財政問題の採決で共和党に同調する可能性を伝える。
共和党にも、上限引き上げの条件としてオバマ大統領肝いりの医療保険改革の延期を求め政権を揺さぶろうとする動きがある。

さらにシリアへの軍事介入をめぐる審議に時間が多く割かれるため、「財政問題の決着は先送りされる可能性が高まった」(ロイター通信)との見方もあり、視界は一段と不明瞭だ。

米国は11年にも財政協議のもつれからデフォルト寸前に陥った。今回も土壇場で回避されるとの見方は根強い一方、「その保証はどこにもない」(米紙ワシントン・ポスト)状況だ。【9月4日 産経】
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民間セクター拡大で相殺された歳出強制削減
ただ、2011年春の政府機関閉鎖(シャットダウン)騒ぎ、同年夏の債務上限引き上げ問題をめぐるデフォルト(債務不履行)危機、2012年末の「財政の崖」、今年3月の歳出強制削減発動・・・・と財政危機・問題先送りを繰り返すなかで、危機感も薄れてきている、あるいはマンネリ化しているという側面もあるように見えます。
(巨額債務が膨れる一方の日本は、財政問題とその対応について他国をとやかく言う立場にはありませんが)

また、3月から始まった歳出強制削減に関して、当時言われていたほどの影響は今のところ出ていない・・・という現実もあります。

その背景には、縮小する公的部門の愛嬌を、拡大する民間セクターの押上げ効果が相殺していることが指摘されています。

****米歳出の強制削減、痛みが今後増す可能性も****
米連邦歳出の包括的削減の実施から3カ月がたった。

「これら削減は賢明ではない。公正ではない。われわれの経済を痛めつけるだろう」。オバマ大統領は2月にこう述べ、さらに「これによって数十万人の米国民が失業者名簿に加わることになるだろう。これは抽象的な概念ではない。国民は職を失うことになるだろう。失業率は再び上昇する可能性がある」と語った。

この大統領の発言以降、失業率は7.9%から7.5%へとやや下がっている。63万5000以上の職が増えた。この数字には7日発表予定の5月の数字は含まれていない。

ワシントン・ポスト紙とABCニュースによる世論調査では、63%が歳出削減の影響は受けていないと回答した。また、影響を受けたと回答した人の半数が影響は「わずか」だと回答した。
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では、案じられていた歳出削減がもたらすはずの痛みはどうなったのか。

歳出削減は痛みをもたらしているが、それに気づいているのは直接影響を受けている人たちだけだ。

十分過ぎるほどの働きをしてくれているにもかかわらず、全米の連邦公選弁護人が10月1日までに最大20日間の自宅待機を余儀なくされている。
国防総省はその約65万人の文民職員に7月初めから9月末までの期間に最大11日間の無給の一時帰休を取ることを命じた。
また、国立衛生研究所(NIH)によると、臨床センターが今年新たに受け入れる患者数は昨年よりも7%、750人減るとともに、NIHが今年受給する競争的研究助成金の数は昨年よりも703減り、8%の削減となる。

また、メリーランド州ハイアッツビルのメソジスト教会によると、同教会が奉仕する自宅療養者や老人などへの食事配達の連邦予算は、これまでの1四半期当たり1200ドルから年間1100ドルへと削減されたという。
教会は30年に及ぶその取り組みを放棄する寸前にまで追い込まれたが、ワシントン・ポストがそれを報じたおかげで教会に寄付が殺到した。

カリフォルニア州サンタクララでは、住宅開発当局の低所得者向け家賃援助制度の年間予算が約6%、1600万ドル(約15億8500万円)削られた。
当局は今週、援助金の受給者数を減らす代わりに、受給者が負担する家賃の割合を引き上げることを決定した。
この結果、年間所得が平均1万6000ドルの受給者の大部分にとって、毎月の負担が50-150ドル増えることになる。

米国経済全体としては、民間セクターの復調によって連邦予算引き締めの影響の一部は相殺されている。

だが、成長のペースは損なわれてきた。オバマ大統領の財政刺激策の効果が薄れてきたことに加え、大統領と議会が同意した歳出削減が実施、さらに1月1日付で給与税が引き上げられたためだ。

商務省によると、地方や州、連邦の各政府による購買額の減少で1-3月期の経済成長率は1ポイント近く引き下げられた。ただし、それでも成長率はプラス2.4%となった。

なぜか。民間セクターの好調な業績が政府の予算削減のショックを和らげたためだ。住宅価格と株価の上昇が消費意欲を下支えしている。米国民全体としては豊かさが増し、経済への自信を強めている。(中略)

その痛みは今後悪化する可能性がある。

連邦予算の強制削減の影響が見出しを飾ったのは、スタッフの自宅待機や歳出削減が実際に行われるはるか前だ。今週サンタクララ当局が承認した家賃負担の引き上げが実施されるのは9月以降だ。住宅開発当局はその前にワシントンの承認を得る必要がある。

ゴールドマン・サックスのエコノミストの試算によると、その他の増税や予算改定はもとより、歳出の強制削減だけでも12年10-12月期から13年にかけての成長率は0.6ポイント押し下げられる可能性がある。
その成長の鈍化の大部分は4-6月期から7-9月期にかけて表れるとエコノミストらはみている。大方の予想では、4-6月期から7-9月期にかけての米国の成長率は1-3月期よりも減速する見通しだ。(中略)

歳出の強制削減が米経済に悲惨な影響を及ぼすとの恐怖をかき立てるような予測は大げさだった。しかし、その締め付けは始まっている。政府職員に軽い傷を負わせ、生活が最も苦しい米国民の一部の人々を圧迫している。

今後年末まで、連邦財政政策による景気下押し圧力と、民間セクターによる景気押し上げ力(ただし、住宅・株式市場が堅調に推移することを前提とする)との間で綱引きが続く見通しだ。後者が勝つことを期待しよう。【6月6日 WSJ】
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もっとも、国防省は国防費削減に不満を募らせています。

****米国防費:強制削減 兵器近代化か人員維持かの選択****
ヘーゲル米国防長官は31日、記者会見で、国防費の強制削減が今後10年間続く場合、兵器などの近代化と人員規模のどちらかを優先せざるを得なくなるとし、二つの選択肢を提示した。

近代化をとる場合、陸軍兵力は現在の57万人から約2〜3割削減する必要があるなどと説明。ヘーゲル氏は「我々の見積もりは誇張でも誇大宣伝でもない」と危機感を強調した。(中略)

一方、人員規模を維持する場合は、「軍の近代化を10年間の休業」(ヘーゲル氏)にし、兵器開発計画の中止や抑制のほか、特殊部隊も削減する必要があるとした。【8月1日 毎日】
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シリア問題に割くカネはなさそうですが、ヘーゲル米国防長官は、シリアに対する限定的な軍事攻撃のコストは数千万ドルとの試算を述べています。また、国防省の報道官は、既存の国防予算で賄うことができ、新たに資金調達は必要ないとの認識を示しています。

アメリカ国内である程度カバーできる歳出強制削減はともかく、デフォルトとなると、世界経済に激震が走ります。
それだけに、そんなことにはなるまい・・・と皆高をくくっているとも言えます。
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スウェーデン  シリア難民、希望者全員受け入れを表明

2013-09-04 22:07:13 | 欧州情勢

(今年5月 スウェーデン移民居住地区で起きた暴動は、スウェーデンの「寛容政策」のひずみを示したものと指摘されています。 “flickr”より By Mehedi Hassan http://www.flickr.com/photos/96713681@N03/8981270191/in/photolist-eFDmJ4-f7Nnyy-eEamzb-eFBRuz-eFKsQq-eFBRDx-eFHXVw-eEamL9-es9b2A-es993o-es96tJ-equahE)

【「今世紀の大悲劇」】
アサド政権による化学兵器使用疑惑、それに対するアメリカなどの懲罰的攻撃に揺れるシリア情勢ですが、当然ながらシリア国内の市民の不安は高まっています。

****国境に押し寄せる市民****
シリアの首都ダマスカスからの情報では、市民生活は表面上、平穏を保っている。市民は食料などの買い込みを終えているという。

米国は攻撃について「限定的で標的を絞る」と強調するが、反体制派の間でも巻き添えを心配する声は広がっているようだ。ダマスカスに拠点を置く反体制派は31日、フェイスブック上で、負傷時の応急処置法など「攻撃から身を守るための20項目」を掲示。空爆に備え「夜は家の電気は消し、階段の下などで過ごすように」などの注意が並んだ。

一方、隣国レバノンとの国境では、シリアから逃れる人の波が続く。レバノン南東部のマスナア国境検問所ではこの日、家財道具を車の上に載せた家族連れが殺到していた。

人々は口々に「米国の攻撃を恐れてはいない」と語った。家族8人でぎゅうぎゅう詰めの乗用車でダマスカスから来たジューナイヤさん(60)は「知人を訪ねてレバノンに来ただけだ。すぐに戻る」と語った。

なぜ、そう口をそろえるのか。シリア北部の激戦地イドリブから1年以上前に妻子とともにレバノンに移った運転手ジャミル・アリバシャさん(36)は言う。「今日出ているのは、ほとんどが政権を支持してダマスカスに残っていた人たちだ。空爆が落ち着けばまた戻るから、政権に都合の悪いことは言えない」

ジャミルさんの自宅は政権軍の爆撃で破壊され、弟が死亡した。「アサドは犯罪者だ」と話す一方、米国の攻撃の効果も疑う。「政権軍は既に部隊や軍事物資を移しているはずだ。兵士がいない基地の『跡地』を攻撃しても意味がない。市民の犠牲の方が多くなるのが心配だ」と語った。

ロイター通信などによると、ダマスカスでは政権軍が軍事施設から学校や住居ビルに移動し始めているという。反体制派は「アサド政権は米国の攻撃が無差別爆撃であり、市民を標的にしていると批判するつもりだ」と訴えている。(後略)【9月1日 朝日】
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今回の化学兵器絡みだけでなく、長引く内戦でシリアからの難民はこの1年間で23万人から200万人に急増しており、今後更に増加することが予想されています。

****シリア:特使アンジーも警鐘 国外脱出の難民200万人***** 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は3日、シリア内戦で国外に脱出した難民が200万人に達したと発表した。国内で避難生活を送る人々も約425万人。約2100万人の人口の約3分の1が人道上、危機的な状況に陥っている。

UNHCRなどはシリアの近隣諸国に難民の殺到を恐れて国境を閉鎖しないよう呼びかけている。難民が国境で足止めを食う事態を回避するためだ。

グテレス国連難民高等弁務官は3日、スイス・ジュネーブでの記者会見で、シリア内戦が今年末まで続けば国外に脱出する難民は350万人に達するとの見通しを示した。

弁務官は「現在、シリアでは世界最多の人々が避難を強いられている」と指摘し、シリア内戦が「今世紀の大悲劇」だと懸念を表明した。

UNHCRによると、シリア難民は▽レバノン約72万人▽ヨルダン約52万人▽トルコ約46万人▽イラク約17万人▽エジプト約11万人−−と近隣諸国に離散している。

イラクへの難民流入は、同国北部のクルド自治政府が対シリア国境の橋を新たに開放した8月15日から急増。2週間で4万6000人が越境した。

弁務官は「戦争が吹き荒れる時、最も重要なのは(近隣諸国が)国境を開放しておくことだ」と指摘。約110万人の国内避難民を抱えながら、シリア難民を受け入れるイラクの対応を評価した。

シリア難民を受け入れている周辺国のイラク、ヨルダン、レバノン、トルコの4カ国外相は4日、弁務官と会談し、国際支援の強化を求める。

UNHCR特使を務める米国人女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは「状況の悪化が続けば、難民が増え続け、(難民を受け入れている)近隣諸国は崩壊の瀬戸際に追い込まれてしまう」と警鐘を鳴らした。【9月3日 毎日】
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亡命を希望するシリア難民全員を受け入れる
近隣諸国に大勢の難民が押し寄せ、対応に苦慮しているなか、遠く北欧のスウェーデンが難民受け入れを表明しています。

****スウェーデン、亡命希望のシリア難民全員受け入れへ*****
スウェーデン政府は3日、欧州連合(EU)加盟国として初めて、亡命を希望するシリア難民全員を受け入れる方針を示した。

スウェーデンでは2012年以降、約1万4700人のシリア人難民を受け入れている。

AFPの取材に応じたスウェーデン移民難民政策担当省の報道官によると、シリアでの内戦が近く終結する見込みがないことから当面の間、亡命申請を行ったシリア難民には永住権を付与するという。また永住権が付与された難民は、家族をスウェーデンに呼び寄せることもできる。

これまでスウェーデンの難民認定手続きでは、亡命申請者に対し3年間の仮滞在許可を与え、その後に政府による審査が個別に行われてきた。(後略)【9月4日 AFP】
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開放的な移民政策に疑問の声も
スウェーデンはこれまでも紛争国の難民を受け入れていますが、欧州全体に広がる反移民・移民排斥的な流れのなかで、スウェーデンにおいても移民・難民に厳しい目を向ける人々が増加し、2010年9月の選挙では極右政党が支持を大きく伸ばしています。

****増える移民、世界各国の対応は****
◆スウェーデン
スウェーデンは、ブリティッシュ・カウンシルなどによる移民統合政策指数(MIPEX)で調査対象となった33カ国のトップにランキングされており、イラク、シリア、ソマリアなどの紛争国からイスラム教徒の難民を受け入れてきたことで知られている。

しかし失業率の高まり(特に外国人居住者の間では16%にも達している)や、最近になって頻発している暴動により、政治家や市民からは開放的な移民政策に疑問の声があがっている。

現在の政策への批判派は、多大な費用がかかるリベラルな政策が雇用を増加させ、近隣ヨーロッパ諸国からの移民労働者の流入を招いていると指摘する。

政策による雇用創出のペースが落ちると、職を持つ移民の流入が止まり、今度は政府の援助に頼る無職の庇護希望者の数が急増した。
2012年、スウェーデンにたどり着いた庇護希望者の数は前年比で50%近く増加し、過去第2位の4万3900人に達した。

移民受け入れに反対する意見は今でも少数派だが、より現実的に持続可能な移民政策を求める声は、移民排斥を掲げる極右政党、スウェーデン民主党の支持率を第3位にまで押し上げている。
2014年の総選挙では、同党がこうした支持を受けてさらに勢力を拡大する可能性もある。【7月3日 ナショナル ジオグラフィー】
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【「寛容政策」のひずみ
移民を巡る社会的緊張が高まる中、今年5月には移民居住地区で大規模な暴動も発生しています。
暴動のきっかけとなったのは、ストックホルム郊外のいわゆる「移民地区」であるヒュースビー地区に住む69歳のポーランド系移民の男性を、彼の自宅で、彼の妻の目前で警察官が射殺した事件でした。

****焦点:移民大国スウェーデン、暴動で露呈した「寛容政策」のひずみ****
過去数年間で最悪となる暴動が連夜発生した、スウェーデンの首都ストックホルム郊外のヒュースビー地区。
一見したところ、カラフルな遊具が並ぶ遊び場や草が刈り込まれた公園、低層の集合住宅などが集まる一般的な整備された地区に見える。

しかし、移民の多い同地区では、住民らは実を結ばない就職活動や警察による嫌がらせ、人種差別的な中傷などについて口にし、スウェーデンの移民政策の「寛容性」とは相反する現実が浮かび上がってくる。

ヒュースビーで起こった暴動は他の地区にも拡大。貧困や人種差別などを背景に2011年に英ロンドンで、2005年に仏パリで発生した暴動を思い起こさせる。今回の暴動は、スウェーデンの福祉制度に別の一面があることを示している。

同国人口の約15%は外国生まれで、北欧では最も高い割合。「反移民」を唱えるスウェーデン民主党の躍進は、同国民の意見を二極化させてきた。

深夜にストックホルム中心部を出発する列車は、単純労働を終えて帰宅するアラビア語やスペイン語を話す移民であふれている。移民の第2世代でさえも、ホワイトカラーの職に就くことは困難とされる。

あるアジア出身の外交官は「スウェーデンには多くの移民が存在する。しかし、彼らはどこにいるのだろうか」と述べた。

<格差が急速に拡大>
ラインフェルト首相率いる中道右派政権は過去7年間、税率引き下げや公的手当の減額を行い、この取り組みは欧州の大半を上回るスウェーデンの経済成長に寄与してきた。
しかし一方で、同国は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、格差が最も急速に拡大している国でもある。

ストックホルム大学の犯罪学教授、イェージー・サルネッキ氏は、主要都市には、他の地区に比べて失業率が著しく高く、貧しい移民が集まる地区があると指摘する。

世論調査によると、スウェーデン国民の大半は現在でも移民受け入れを支持している。同国は移民に住居やスウェーデン語の授業を提供し、難民申請者に親族との同居を許可するなど、手厚い保護で評価されている。

しかし、このコンセンサスは崩れつつある。
ヨーテボリ大学のUlf Bjereld・政治学教授は「どんな理由であれ、非就労者は国の発展に貢献しない」と指摘。
スウェーデンが2012年に受け入れた難民申請者は4万3900人。前年から50%近く増え、過去2番目に最も多い人数となった。ほぼ半数はシリア、アフガニスタン、ソマリアの出身者だった。

難民申請者は、短期的には社会保障制度の財政負担となる。OECDのデータによると、外国出身者の失業率が16%であるのに対し、スウェーデンで生まれた国民の失業率は6%。同国が充実した福祉制度を維持するには高水準の就業率が不可欠となる。

<怒れる若者たち>
今回の暴動では、若者は車両を放火し、現場に到着した警官や救急隊員らに投石するなどした。目撃者は警察の手荒い対応が状況を悪化させたと述べ、ヒュースビーの住民は警察が「サル」などの言葉を浴びせたとしている。

ヒュースビーで暴動に加わったという20代前半の若者は「最初はただ面白がって参加した」とコメント。しかし、警棒を持った警官が女性や子供を押しのけるのを見たときに強い怒りを感じたと語った。

取材に応じたヒュースビーの若者の大半は失業中かインターンだった。多くはインターン制度の活用を続けているとし、フルタイム雇用の確保はほとんどないと不満を述べた。

今回の暴動の発端は今月、ヒュースビーで刃物を持った男性(69)が警官に射殺されたことだとみられている。移民が住民の約8割を占める同地区では、100人超が参加する平和的デモが行われた。

しかし男性死亡の調査の要求への対応はなく、若者らはツイッターで人種差別行為に対する不満を表明し、怒りが拡大。20代の美容師の女性は「若者が互いを刺激して、小さな火を起こした」と話した。

移民の間では不満が収まる様子はないとみられ、エチオピアで生まれたという看護師の女性(39)は自身がエチオピア人であると同時にスウェーデン人だと語る一方で、「地元のスウェーデン人が、私をスウェーデン人として受け入れることはないだろう。彼らにとっては、私はただの移民としか映らない」と述べた。【6月4日 JB PRESS】
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それでも移民受け入れ
こうした現実的問題を抱えながらも、移民増加への対応に苦慮しながらも、そのなかにあっての今回のシリア難民受け入れ表明です。

移民・難民対策の是非、スウェーデンの現状については、いろいろな立場から様々な意見があろうかとは思いますが、開かれた社会、寛容な社会を目指す姿勢、人道を重視する基本姿勢は崩さないというスウェーデンの強い信念を感じます。
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ソマリア情勢の2011年の急変とリビア・カダフィ政権崩壊

2013-09-03 22:42:40 | ソマリア

(ソマリアの首都モガディシオ 8月8日のラマダン明け 通りで元気に遊ぶ子供たち 手にはおもちゃのピストル ”flickr”より By AU/UN IST http://www.flickr.com/photos/61765479@N08/9468877223/in/photolist-fqJtiR-fzVLx4-fmzggG-fmk7iH-fmk7LV-fmzgQf-fmzfZE-fmk7LB-fmzgns-fmk7Yp-fzVMdc-fpJ9qj-fDzZh5-fDzWrJ-fDzWpN-fDimaX-fDimjK-fDimnr-fDimeP-fDzWod-foceQz-foccWP-forvgC-focfvi-fochSc-forx2L-fortpf-focgYZ-forwFL-fzVLM6-fERNAo-fEnryE-fERS1Y-fERKMC-fEzcpi-fEzge2-fEzfgB-fEzfZR-fEzfxV-fERPi9-fERQ1U-fEzbZ4-fEzcBB-fHjHHj-fH35ia-fH3ahn-fH3jCp-fH3kt8-fxFmp2-fAb6WE-fxVFoN)

飢饉によってシャバブが弱体化、ケニア・エチオピアの相次ぐ侵攻
“無政府状態が続く”という表現がついてまわるソマリアの情勢については、最近はほとんど記事を目にしませんので、どうなっているのかよくわかりません。

“国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」は14日、政情が不安定なアフリカ東部ソマリアで1991年以来22年間続けてきた活動を停止し、撤退すると発表した。武装勢力による職員殺害や誘拐などが相次ぎ、活動の継続が難しいと判断した。”【8月15日 時事】とのことですので、相変わらず全土的には“無政府状態”が続いているようです。

かつて、ソマリアではアルカイダともつながるイスラム過激派「アル・シャバブ」がほぼ全土を制圧し、名ばかりの暫定政府を守るアフリカ連合(AU)の「アフリカ連合ソマリア平和維持部隊(AMISOM)」(実際に派兵したのはウガンダとブルンジのみ)は首都モガディシオの大統領府周辺のみに追い込まれていました。

そうした情勢が変化したのが2011年で、ソマリアの干ばつ・飢饉が注目されていた時期です。

****干ばつ・戦闘、続く苦しみ 弱る武装勢力「和平の好機」 ソマリア飢饉****
・・・・一方、飢饉によってシャバブが弱体化し、和平の好機が生まれているとの皮肉な指摘もある。

07年から台頭してきたシャバブの勢いは、ここ数カ月間弱まり、かつてモガディシオでも6割を支配したが、今では3割程度に過ぎない。

「シャバブの資金源の一つは地元住民から徴収する『税金』だが、近年の干ばつで激減した。略奪を始めており、士気も落ちた。今後の戦略をめぐる内部分裂もある。結果的に和平実現の機運が到来している」。暫定政府の治安関係者は、そうした見方を示した。(後略)【2011年7月27日 朝日】
****************

アル・シャバブの勢力が後退し始めたのが、7月報道で“ここ数カ月間”ということですから、2011年前半ということになります。
2011年8月には、アル・シャバブは首都モガディシオから撤退します。

後退するアル・シャバブを追うように、10月には隣国ケニアが、11月にはもうひとつの隣国エチオピアがソマリアに侵攻し、アル・シャバブを掃討する情勢となりました。

そのあたりの情勢については、下記のように報じられています。

****ソマリア:エチオピア軍侵攻 過激派への包囲網強化****
アフリカ東部ソマリアに隣国エチオピア軍が侵攻し、国際テロ組織アルカイダ系とされるイスラム過激派組織「アルシャバブ」への包囲網が強化されつつある。

アルシャバブは、首都モガディシオでソマリア暫定政府を防衛する「アフリカ連合」(AU)の派遣部隊との戦闘も継続しており、勢力が分散化しだした可能性もある。

ケニア軍は10月中旬、ソマリア南部へと侵攻。今月20日までにエチオピア軍がソマリア中部ベレドウェインなどに進軍した。ロイター通信によると25日、エチオピア政府は越境を認めた。

今月半ばにはケニアとウガンダ、ソマリア暫定政府首脳がケニアの首都ナイロビで非公式会合を開き、アルシャバブ掃討に向けた軍事作戦の協力を確認した。

AU部隊の主体となっているウガンダ、ブルンジなどの首脳は部隊増強に向け、緊急的援助をアフリカ各国へと呼びかけた。AU部隊との戦闘でアルシャバブが弱体化しているのを好機とみたケニア、エチオピア両軍が米国など国際社会の意向を受ける形で相次いで侵攻している可能性もある。

ソマリアは中央政府の崩壊した91年以降、事実上の無政府状態にあり、暫定政府が首都モガディシオの一部を統治しているが中・南部はアルシャバブが実効支配してきた。しかし、ここにきて各地での戦闘でアルシャバブ勢力が分散化し、内部抗争や資金不足に直面しているとの観測も流れ始めている。

一方、AUも資金難に直面しており、アルシャバブ掃討に向けて、AUが一枚岩となれるかは不透明なままだ。

エチオピア軍は06年、米国の支持を受け、イスラム原理主義勢力が首都モガディシオを掌握していたソマリアに軍事介入し、エチオピア軍が支援する暫定政府が全土をほぼ制圧したが治安は悪化し、09年に撤退した経緯がある。【2011年 11月26日 毎日】
*****************

アル・シャバブの勢力後退の背景に、飢饉による資金不足、住民の困窮を無視した強権支配による民意の離反などが挙げられていますが、いまひとつさだかではない感もありました。

ケニア参戦の理由として、頻発したアル・シャバブによる外国人誘拐が挙げられていました。
“ケニア国内から外国人が相次いで誘拐され、ソマリアに連れ去られたことを受け、ケニア政府はソマリア側に軍隊を派遣し、16日に国境を越えた。現地からの報道によると、誘拐に関わった疑いがあるソマリア中南部を支配するイスラム武装勢力シャバブを追うためだという。”【2011年10月16日 朝日】

ただ、外国人が誘拐されたぐらいで、軍事行動を起こすだろうか? アメリカから強い依頼と援助をうけたのだろうか?という印象はありました。

エチオピアは上記記事にもあるように、かつてソマリアに侵攻した経緯もあり、またソマリアとの国境・オガ違法デン地方にはソマリ人が居住してエチオピア政府に対する反政府活動を行っていることなどで、ソマリアに対して強い利害・関心を有しています。

カダフィ政権が倒れるとアル・シャバブは一気に形勢を逆転された
この2011年のソマリア情勢の急変は、リビア・カダフィ政権の崩壊によるものだとの指摘があります。
カダフィ政権は、エリトリアを通じてアル・シャバブを支援していましたが、リビア政変でこの援助が断たれたためにアル・シャバブが勢力を後退させ、これを好機とみたケニア・エチオピアが空白を埋めるように参戦してきた・・・というものです。


****混迷の「アフリカ連合」 「盟主」失い求心力低下****
今年五月、アフリカ連合(AU)は前身のアフリカ統一機構(OAU)設立から五十周年を迎えた。
しかし、カダフィという「盟主」を失ったAUは統制を失うだけでなく、各国が対立し加盟国内での紛争やテロが頻発している。

アフリカ諸国で取材を続ける英国人ジャーナリストはこう語る。
「リビアのカダフィ政権が倒れてから二年が経過し、アフリカ大陸におけるカダフィの存在の大きさが再認識されている」

ソマリアを巡り対立激化カダフィ亡き後、その影響が如実に表れAU崩壊が浮き彫りになっているのが、ソマリアを巡る各国の対立だ。
ソマリアでのイスラム過激派によるテロは七月にも発生し、国連機関が襲撃され死亡者が出ている。

そもそも一九九〇年代から無政府状態となったこの国では、二〇〇七年以降にイスラムテロ組織「アル・シャバブ」が隆盛を誇り、アルカーイダとも手を組んで全土制圧目前まで迫った。

アル・シャバブの勢力拡大に対してAUは「アフリカ連合ソマリア平和維持部隊(AMISOM)」の展開を図ったが、当初兵力提供に応じたのはウガンダとブルンジの二カ国に過ぎなかった。両国はAU各国に対して増援を訴えたが、応じる国はなかった。

一時、両国部隊は、ソマリアの首都モガディシオの一画に追い込まれる有様だったが、リビアのカダフィ政権が倒れた一一年に一転して反撃に出た。

アル・シャバブを物心両面で支援していたのはアフリカ北東部の「破綻国家」エリトリアだった。
しかし「エリトリアには資金も人材もない。周りの国は誰でも知っている」(ハイレマリアム・エチオピア首相)と言われ、同国に資金を与えて間接的にソマリアのイスラム過激派を支援していたのがリビアであることは公然の秘密であった。

結果として、カダフィ政権が倒れるとアル・シャバブは一気に形勢を逆転されたのだ。

しかし、AMISOMが優勢になった途端、ケニアが突如としてソマリアに侵攻した。
その後AU本部があるエチオピアの首都アディスアベバを中心に、ケニアは積極的な「ロビー活動」(外交筋)を展開し、AMISOMの主導権を奪ってしまったのである。

憤懣やるかたないのがウガンダだ。昨年ケニアで発生したウガンダ軍のヘリコプター墜落事故で、ケニア側が「ウガンダ軍のミスが原因」と発表した際には、ウガンダ軍最高司令官が「何があってもケニア軍だけは助けない」と感情的な発言をした。
以来両者の溝は埋まっておらず、絶縁状態が続いている。

現在、ケニアを横目にもう一つの軍事大国エチオピアがソマリアの分割統治を狙っている。
AU本部を首都に戴きながら、エチオピアはAMISOMと一貫して距離を置き続け、断続的にソマリア侵攻を繰り返している。
ハイレマリアム首相は「空白を埋めるのは誰なのか」と発言し、ケニア軍の消耗を待つ構えだ。

カダフィは手前勝手に他国のテロ組織を支援していたに過ぎない。
しかし、結果として当時は周辺国がソマリアに手出しできなかった。カダフィを失ったことで重石がなくなり、パワーバランスが崩れたのである。

これと反対のことが起きたのはマリだろう。今年一月、同国の遊牧民トゥアレグ族がアルカーイダと連携して武装強化しフランス軍の介入を招いたことは記憶に新しい。
カダフィ健在時、リビアはマリ政府を支援する一方でトゥアレグ族を傭兵として養っていた。

政権崩壊前年の一〇年、リビアはアフリカ各国に九百億ドル以上の支援をしている。そこには独裁国家も多く含まれるが、良くも悪くもそれによって紛争が抑え込まれていた。

最近では、アフリカ中部のコンゴ(旧ザイール)で政府と反政府軍との戦闘が激化しているが、同国もリビアから支援を受けてきた国の一つだ。
七月に入って反政府勢力「M23」の兵士が東部の村を襲撃するなど、複数の地域で政府軍と戦闘に入り百人以上の死者が出ており、六万人以上の難民が隣国ウガンダに逃れたという。

国連安全保障理事会は三月に平和維持活動(PKO)に武力部隊の派遣を決めており、南アフリカなど参加国が部隊を送り込んでいるが解決は遠い。

「カダフィが正しいことをしていたとは考えないが、結果を見るとカダフィ健在時のほうがましだった」 前出英国人ジャーナリストはこう語った。(後略)【選択 9月号】
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リビアで政変が始まったのが2011年2月、首都トリポリが陥落してカダフィ政権が崩壊したのが同年8月ですから、確かにちょうどソマリア情勢が急変した時期です。

【「正しくはないが、結果としてはましだった」】
「カダフィが正しいことをしていたとは考えないが、結果を見るとカダフィ健在時のほうがましだった」・・・カダフィは資金力で良くも悪くも紛争を抑え込む状況を保っていました。

エジプトでは軍部を背景とした暫定政権が力でムスリム同胞団を抑え込み、最近ではイスラム主義に限らず反政府・反軍部的な言動を抑え込んでいます。
国民の間に、こうした軍部の力による安定をアラブの春以降の混乱よりはましだ・・・と感じている向きも多々あります。

シリア・アサド政権はこれまでの弾圧、最近の化学兵器使用疑惑で非難を浴びていますが、一方で、アサド後の混乱を考えるとアサド政権の方がましではないか・・・という思いも一部国際社会にはあります。

いろいろな問題はあるが、現実に混乱を抑え込んでくれるなら、混乱よりはましだ・・・「それを言っちゃおしまいよ」という感もあって、なかなか難しい判断です。
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パキスタン・シャリフ首相  国内外のイスラム過激派との交渉は?

2013-09-02 21:48:19 | アフガン・パキスタン

(8月26日 パキスタンを訪問したアフガニスタン・カルザイ大統領(左)とパキスタン・シャリフ首相(右) ”flickr”より By hafeez Anwar http://www.flickr.com/photos/57927482@N07/9605619720/in/photolist-fCPj67)

対タリバン:「パキスタンにできることは限られている」との指摘も
アフガニスタンにおけるタリバン、アフガニスタン政府、アメリカの和平交渉について、8月9日ブログ「アフガニスタン タリバンが和平交渉に意欲 女性教育についても方針転換か」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130809)で、交渉開始に向けた前向きな動きを取り上げたのですが、結局うまくいかず、現在はとん挫した形になっています。

****アフガン和平協議:タリバン代表団、カタールから引き揚げ****
アフガニスタンの和平に向けた米政府との協議のため、今年6月に中東・カタールの首都ドーハ入りしていた旧支配勢力タリバンの代表団が先週半ばまでに全員カタールから引き揚げたことが21日、分かった。

アフガニスタンの首都カブールに住む旧タリバン政権の元外交官が毎日新聞に明らかにした。元外交官は「タリバンが米軍など占領軍の完全撤退を求めたのに対し、米政府が来年以降も軍駐留を計画しているため、代表団が和平に見切りをつけた」と、理由を説明した。

米国は、2015年以降もアフガン軍・警察の訓練を目的に米軍の一部を残す計画だが、これにタリバンが強く反発している。今回、タリバン代表団が引き揚げたことで、ドーハを舞台にした和平協議は発表から2カ月で頓挫した形となった。

米政府は14年末までの駐留軍の任務終了を見据え、タリバンとの和平を画策。タリバンも6月、ドーハに交渉窓口となる事務所を開設した。だが、タリバンが旧政権時代に自称した「イスラム首長国」の看板と旗を事務所に掲げたことからカルザイ大統領が激怒。交渉は始まっていなかった。

タリバンのムジャヒド報道官は、毎日新聞の電話取材に対し「和平について今はコメントできないが、近く発表する」と述べた。タリバンが協議打ち切りを正式に発表する可能性がある。

さらに、ムジャヒド報道官は「カブールの現体制と付き合う意義はない」と述べ、カルザイ政権との交渉も否定した。タリバンは、ドーハ事務所を開設した際に「アフガン人とも協議する用意がある」と、初めてカルザイ政権と協議する姿勢を示していたが、これを撤回した。

カルザイ政権側は、サウジアラビアやトルコを舞台にしたタリバンとの新たな和平協議を模索しているが、難しい状況だ。【8月21日 毎日】
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これを受けて、アフガニスタン・カルザイ大統領はパキスタン・シャリフ首相に、タリバンとの新たな交渉の仲介を依頼しています。

****アフガニスタンのカルザイ大統領、パキスタンにタリバンとの和平仲介を要請****
アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は26日、パキスタンの首都イスラマバードを訪問し、ナワズ・シャリフ首相と初めて会談した。

カルザイ大統領はパキスタンに、アフガン政府とアフガンの旧支配勢力タリバンの和平交渉の仲介を要請するとともに、対イスラム過激派の共同作戦を両国内で実施することを呼びかけた。

パキスタンは、一部の政府機関がタリバンを操り、資金や潜伏場所も提供しているとして批判されている。
だがパキスタン政府は公式には、アフガニスタンにおけるタリバン勢力との戦いを終結させるためにどんな協力もいとわないという立場を取っている。

カルザイ大統領は、アフガニスタンとしてはパキスタンがアフガン政府の高等和平評議会とタリバンの交渉の機会や下地を作ることを期待していると述べた。

これに対しシャリフ首相は、アフガニスタンが北大西洋条約機構(NATO)から治安権限を引き継ぐプロセスの成功を願うと述べるとともに、アフガン主導の和平への協力を改めて表明した。

しかし専門家の間では、パキスタンにできることは限られているとの声が上がっている。
タリバンとの和平交渉を促したり後方支援したりすることはできるが、彼らの意思に反して交渉を強制することはできない。タリバンはカルザイ政権を米国のかいらい政権とみなし、いかなる接触も拒否している。【8月27日 AFP】
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“パキスタンは、一部の政府機関がタリバンを操り、資金や潜伏場所も提供しているとして批判されている”・・・・「一部の政府機関」は軍統合情報局(ISI)を指しています。
記事にもあるように、“タリバンを操り、資金や潜伏場所も提供している”と言われてきていますが、“彼らの意思に反して交渉を強制することはできない”というような関係なのかどうか、そこらはよく知りません。
本気で動けば、相当な影響力を発揮できそうにも思えますが・・・。

軍に基盤を持たないシャリフ首相が国軍や軍統合情報局(ISI)を動かすことができるのか疑問であるという問題もあります。
かつての首相時代に当時のムシャラフ陸軍参謀長によって解任され、国外追放になった経緯があり、軍との関係は今回復職時から危ぶまれています。

パキスタンでは帰国したムシャラフ前大統領が、ブット元首相暗殺事件などで起訴されています。

****ムシャラフ氏を「赤いモスク事件」でも捜査****
パキスタン・メディアによると、パキスタン警察は2日、自宅軟禁中のムシャラフ前大統領について、2007年にイスラマバードのモスク(イスラム教礼拝所)で100人余りが特殊部隊に殺害された「赤いモスク事件」でも殺人容疑で捜査を始めた。ムシャラフ氏はすでにブット元首相暗殺事件を含む3件の容疑で起訴などされている。【9月2日 産経】
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ムシャラフ前大統領の起訴に、かつての宿敵シャリフ首相の意向がどれだけ関与しているかは知りませんが、かつての軍のトップが裁かれることを現在の軍部は快く思っていないでしょう。

国内でも破綻しつつある対話路線
タリバンとの交渉におけるシャリフ首相の役割については、“今年6月に発足したシャリフ政権はタリバンと連携するパキスタンのイスラム武装勢力との和平交渉も実現できておらず、タリバンとの交渉の糸口を提供するのは容易ではなさそうだ。”【8月27日 産経】と、自国のイスラム過激派とさえ交渉できていないのに・・・という懐疑的な見方もあります。

“シャリフ氏は、政権発足前から唱えてきたイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」との和平協議すら行えていない。それどころか、タリバン運動のテロ攻撃は続発しており、今月19日の国民向け演説では、テロ対策で初めて軍事的選択肢にも言及し、持論の対話路線は破綻しつつある。”【同上】

パキスタン国内でイスラム過激派によるテロが頻発し“テロ地獄”の様相を呈していることは、これまでも何回か取り上げてきました。

“(シャリフ)新政権誕生後からこれまで(約2か月間)に少なくとも70件以上のテロが発生し、犠牲者は350人を超える。1日1件以上のテロが発生している計算になる”【選択 9月号】”

パキスタン国内の「パキスタンのタリバン運動(TTP)」との和平協議が進まない理由には、“当初はTTP側も政府との対話に色気を見せていたが、再び対決姿勢に転じている”【同上】と、TPPが和平交渉に背を向けていることがあります。

加えて、政権内での方向性が一致しておらず、対応が遅れている事情もあるようです。
“シャリフ首相によるテロへの対応も鈍い。首相は内務相に対して政府内調整を早期に済ませて、各党の承認を得るように指示しているというが、遅々として進まず、対テロ方針すらいまだ示していない。首相のお膝元であるパンジャブ州の有力閣僚や州政府がテロ組織との対話に消極的であることが原因だという。”【同上】

アルカイダの誘いをタリバンは無視
「パキスタンのタリバン運動(TTP)」はアルカイダとの連携を強めており、パキスタンがアルカイダの拠点と化し、世界各地で復活を始めたテロリストの一大供給源「テロ輸出国」となっていることが指摘されています。

興味深いのはアフガニスタンのタリバンとアルカイダの関係です。

****パキスタンが再び「テロ輸出国」に****
・・・・かつてアルカーイダの巣窟となったアフガニスタンや、本家タリバンはその役割を終えて久しいという。

そもそも国際テロ組織であるアルカーイダに対して、タリバンはアフガンのローカル組織に過ぎない。厳密に言えば、かつてタリバンの最高指導者オマル師が指摘したように、アフガン国境エリア限定の集団といえる。

オサマ・ビンラディンとの蜜月は一時的なものに過ぎなかった。特に、米政府とタリバンの対話は両者の間の溝を広げている。
アルカーイダはタリバンに対して共にジハードを戦おうと呼びかけているが、タリバンはこれを無視している。

タリバン側は、アルカーイダのメンバーを「ラクダ乗り」という呼称で揶揄しており、両者の関係が復活することはなさそうだ。
結果としてパキスタンが新たなアルカーイダ復活の「揺り籠」(前出イスラム専門家)になっているのだ。(後略)【選択 9月号】
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こうした指摘からすれば、アフガニスタン・タリバンとの和平交渉の方が現実性があると言えます。

しかし、“(タリバンと)オサマ・ビンラディンとの蜜月は一時的なものに過ぎなかった”ということであれば、アルカイダを匿ったことへの報復としてアフガニスタンを攻撃したアメリカは、今現在なんのためにアフガニスタンで戦い続けているのか?アメリカは戦う場所と相手を間違えているのではないか?・・・という疑問にもなります。

アメリカ自身がその疑問を感じているので、なるべく早くアフガニスタンから抜け出したいと、14年末撤退に向けた動きを起こしているとも言えます。

なお、アメリカはイスラム過激派の温床となっているパキスタン北西部への無人機攻撃を続けているようです。

****米無人機攻撃で3人死亡 パキスタン北西部****
アフガニスタン国境に近いパキスタン北西部の部族地域北ワジリスタン地区で31日、米国の無人機によるミサイル攻撃があり、武装勢力のメンバー少なくとも3人が死亡した。AP通信などが伝えた。

3人の国籍は不明。米国は部族地域での武装勢力掃討に無人機を使用し続けているが、民間人も巻き込まれておりパキスタンでは反発が強まっている。【9月1日 共同】
************
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中国  路線対立をはらんだ薄熙来・重慶事件 江沢民派重鎮・周永康氏周辺も調査

2013-09-01 23:21:28 | 中国

(公判中の薄熙来被告 “flickr”より By 禁书 网 http://www.flickr.com/photos/93880766@N05/9587558184/in/photolist-fBdK2j-fzZTYU-fC7SVH-fCy67z-fCBmkN-fBnpsE-fz1bdo-fEJ8yU-eLPg89-fAw257-fA37HE-fn5k2Q-fAeJCE-fBU7Gr-fEryux-fzST37-fAsDjH-fmmLP9-fCE5AE-fFFaGc-fAGWKA-fCc8wd-fCnbRd-fB2wkT-fz8FAg-fF9tTb-fzCsPd-fDe6Zp-fzCywc-fBab6p-fzCnPU-fdrhUf-fCE8wA-fzCy2n-fgdhcg-fAUtdA-fzMKEX-fBWPZX-fAMSR3-fBufQv-fnmbPS-fCc8Jy-fzP2xL-fBgQaS-fBuezH-e9Duzm-fAEczz-eeKr3s-fEzvjN-fDkgbE-fBdK6w)

【「薄元書記は庶民のために仕事をした」】
中国共産党の最高指導部入りを有力視されながら失脚し、収賄や横領などの罪に問われた元重慶市党委員会書記の薄熙来被告(64)の初公判が先月22日から26日の4日間にわたって行われました。

****薄熙来元書記を巡る事件****
重慶市の王立軍副市長が2012年2月に成都の米総領事館に駆け込む事件が発生。これを受け、同年3月、薄熙来・同市党委員会書記が解任され、失脚。

その後、薄元書記の妻、谷開来氏も英国人殺害の容疑で逮捕され、同年8月、殺人罪で執行猶予付きの死刑判決を受けた。薄元書記は同年9月、腐敗や職権乱用を重ねていたとして党籍を剥奪(はくだつ)、逮捕された。
今年7月には収賄などの罪で起訴されていた。【8月23日 朝日】
**************

薄熙来被告は報道されてように、すべて罪について否認し、国家・党と徹底的に争う姿勢を見せています。
薄元書記に対する起訴内容は以下のとおりです。

収賄罪(1)《起訴内容》02~05年、広東省でのビル建築などに絡み、計110万元(約1760万円)相当の賄賂を受けた

収賄罪(2)《起訴内容》00~12年、石油化学事業の許認可などをめぐり計2068万元(約3億3千万円)相当の賄賂を受けた

横領罪《起訴内容》02年、大連市に支払われた工事資金500万元(約8千万円)を着服した

職権乱用罪《起訴内容》12年、職権を乱用し、妻が殺人罪に問われた英国人殺害事件の捜査を妨げ、重慶市副市長の米総領事館駆け込み事件で虚偽の発表をした。【同上】

薄熙来被告の公判は、秘密主義の中国にあって、法廷でのやり取りのほとんどがインターネットで公開されるという異例のものでした。
中国のこの手の政治絡みの裁判は、司法の判断ではなく、党によってすでに結果は決まっていると言われていますが、今回の異例の公開は、薄被告の悪質さを公にして、薄被告を失脚に追い込んだ党の決定の正当性をアピールするものとされています。

薄熙来被告の事件は単なるスキャンダルではなく、胡錦濤前国家主席、習近平現国家主席、さらには江沢民元国家主席を中核とする政治勢力間の権力闘争を背景にして、その処分が決められています。(具体的な各勢力の争い、薄被告との関係については、外部からはよくわかりませんが)

更に、単なる権力闘争でもなく、改革開放を進めてきた中国共産党に対する、薄煕来がリーダーであった国家統制重視のニューレフトからの批判という路線問題を巡る対立でもあります。

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・・・・薄煕来はその並外れたカリスマ性と政治手腕を駆使して現状を批判し、国家の役割拡大を訴えてきた。
重慶市共産党委員会のトップに君臨した4年半の間に、政治的・財政的資源を動員する巧みな手腕を発揮。
犯罪組織の撲滅という名目を掲げて、自分に従わない官僚や起業家たちをつぶし、統制的な手法で同市の経済を立て直してみせた。
その過程では建国の父・毛沢東へのノスタルジアを巧妙にかき立て、市職員に革命歌を歌わせたりもした。左派すなわち国家統制派に属する薄は、天安門事件後に小平が確立した路線のうち、「改革開放」の側面に批判をぶつけてきた。・・・・【4月25日号 Newsweek日本版】
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実際、公判が行われている法廷の外では、毛沢東の肖像を掲げて薄被告を支持する人々の行動も見られました

****路線対立を刺激****
22日、薄元書記に声援を送ろうと済南市中級人民法院の近くに集まった人だかりから、毛沢東の肖像が掲げられた。
毛沢東は貧富の格差の少なかった改革開放以前の時代のシンボルであり、支持者たちは薄元書記がその継承者だと考えるからだ。

北京から訪れた会社経営の男性(41)は「重慶で実績をあげた薄氏の方が(現在の指導部よりも)指導者にふさわしい」と訴えた。

薄元書記は重慶市で、農村部の住民や低所得層を優遇する政策を行った。庶民の人気は今も根強い。
市価の6割程度の家賃で入居できる市の公共住宅に暮らす機械工の王魚さん(22)は「薄元書記は庶民のために仕事をした。汚職をしているのはほかの官僚だって一緒じゃないか」。

こうした思いは、保守派の知識人や党内の一部勢力にも残る。中央民族大学教員の張宏良氏は、薄元書記の失脚は「彼の政治路線が(改革開放を支持する)党内の既得権益集団を脅かしたからだ」と言い切る。

党指導部が恐れるのは、薄元書記の裁判がこうした路線対立を刺激し、再び党内の亀裂をさらけ出すことだ。秋には党中央委員会第3回全体会議(3中全会)も控える。【8月23日 朝日】
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党としては薄被告の公判を、党の決定の正当性をアピールする政治ショーとしようとしたものと思われます。

公判前は、薄被告がおとなしく罪状をみとめるものと思われていましたが、上記のように徹底的に争う姿勢をみせ、検察側主張に激しく反論したことは、党にとってはある程度は想定内のこと、あるいは演出と見る向き、党の思惑とは異なる想定外の展開となったと見る向き、両方があります。

実際のところどうなのか・・・それは外部の人間にはわかりません。

今後、中国社会が混乱に陥った際に、民衆の間で「薄煕来待望論」が一気に高まることも
下記【産経】記事は、想定外の展開という立場で、薄被告は徹底抗戦することで、“今後、中国社会が混乱に陥った際に、民衆の間で「薄煕来待望論」が一気に高まることもあり得る。薄被告はそのときが来るのを、刑務所の中でじっと待つことにした”と論じています。

****刑務所で“待望論”待つ 薄被告、無期懲役の公算****
中国で収賄と横領、職権乱用の罪で起訴された重慶市の元トップの薄煕来被告(64)に対する公判が、山東省済南市の裁判所で22日から26日まで行われた。
薄被告は起訴された3つの罪状をすべて否認し、検察側と全面対決の姿勢を示し、無罪を主張することで政治迫害を受けた悲劇の英雄を演じてみせた。

今回の裁判を受けて、保守派や貧困層の間で根強かった薄被告支持の声がさらに強まったと指摘される。共産党元幹部は「有罪になることは事前に決まっているが、堂々と戦ったことで自身のイメージ回復に成功した」との感想を漏らした。

中国当局は、法廷でのやり取りのほとんどをインターネットで公開した。5日間の裁判内容を文字にすると15万4000字に上り、単行本一冊の分量にあたる。そのうち、約半分が薄被告と弁護人の無罪主張である。裁判で、検察側の証人が突然、薄被告に有利な証言をし始めるなどのハプニングもあった。

裁判を取材した米国人記者は「薄被告の主張の方が検察側より説得力あった。アメリカで裁かれるなら無罪になる可能性が高い」と話した。

傍聴者がメモを取ることすら禁止される中国の裁判で、内容がすべて公開されるのは極めて異例だ。1949年の新中国建国後、同じ対応が取られた例は一度しかない。80年に行われた毛沢東夫人、江青女史らを裁く4人組裁判である。

共産党史に詳しい研究者によれば、4人組裁判も今回の薄被告裁判と同じく、党内の路線闘争が背景にあった。江青女史も薄被告も平等重視の毛沢東路線を推進しようとしたが、競争重視の●(=登におおざと)小平路線に敗れたことも共通している。

毛沢東路線は、いまでも党内外に大勢の支持者がいる。今回の法廷の情報公開は、「薄被告が汚職官僚であることを国民に見せることが目的」(元党幹部)とされるが、検察側が十分な証拠を固められなかったうえ、薄被告の予想以上の“健闘”により、その目的は達成できなかったようだ。

三権分立が確立していない中国では、司法は共産党の指導下にあり、薄氏のような大物政治家への量刑は、裁判長ではなく、共産党の政治局会議が決めるといわれている。

公開された共産党内の資料や関係者の回顧録などによれば、80年の4人組裁判の際、政治局で量刑について話し合われ、死刑を主張する意見が多かったが、保守派の重鎮、陳雲による「党内闘争で人を殺してはいけない」との鶴の一声で、江青女史ら被告人は、実質的な無期懲役にあたる執行猶予付きの死刑判決となった。

薄被告の判決は9月中に下されるとみられる。伝統を大事にする中国共産党はいまでも、「党内闘争で人を殺さない」ことを継承している。
今回の裁判で薄被告が素直に罪を認めれば、量刑は若干軽くなり、病気療養の名目で数年後に出所できる可能性もあった。しかし、罪状を否認したことで、死刑判決を受けることはなくても、死ぬまで投獄される可能性が高い。

初公判の前に、複数の香港紙は、懲役15年から無期懲役の間と刑期を推測した。薄氏が無罪主張したため、当局もメンツを潰され、江青女史らと同じく執行猶予付き死刑の可能性が高まったとの見方が出ている。

裁判期間中、全国各地から薄被告の支持者が大勢、済南に駆けつけ、毛沢東の肖像画を掲げるなどして裁判に抗議した。インターネット上にも、「証拠不十分だ」「われわれの薄書記を返せ」といった薄被告を支持する書き込みが相次ぎ、すぐに当局に削除される事態が繰り返された。

最終弁論で薄被告は改めて無罪を主張し、自身が質素な生活を送り、貧しい庶民のために必死に仕事をしてきたことを強調した。
この発言は、自身の支持者に向けられたメッセージだと指摘された。当局に屈することなく、汚職官僚であることを否定することで保守派の精神的な指導者としての地位を維持しようとしたとみられる。

薄氏は今後、政治家を収容する北京の秦城刑務所に送られる可能性が高い。貧富の格差などに不満を持つ民衆がますます増えるなか、今後、中国社会が混乱に陥った際に、民衆の間で「薄煕来待望論」が一気に高まることもあり得る。薄被告はそのときが来るのを、刑務所の中でじっと待つことにした。【8月31日 産経】
*****************

ただ、薄被告が毛沢東路線・ニューレフトとして党の改革開放路線と対立している・・・とは言いつつも、改革開放路線のもたらした腐敗・経済格差については、習近平・李克強指導部も問題意識を共通にしており、その対策も薄被告と類似しています。

習近平主席は就任以来、腐敗撲滅を最優先に掲げ、公費の節約を訴えています。
経済担当の李克強首相は、「上海自由貿易試験区」などで国内外の投資を呼び込み成長を維持しながら、スラム街再開発、交通インフラの整備などを展開しています。【9月3日号 Newsweek日本版より】

虎もハエも一緒にたたけるか?】
将来、薄被告の復権があるかどうかは別にして、薄被告の扱いはすでに党内で決定済みでしょうが、中国ではもうひとつの大物政治家絡みの事件が進行中です。

****江派大物、汚職で調査か=前最高指導部の周永康氏―中****
香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストは30日、消息筋の話として、中国共産党指導部がこのほど、江沢民元国家主席派の大物で前党中央政法委員会書記・政治局常務委員だった周永康氏の汚職疑惑について調査を開始することで合意したと伝えた。

実際に調査が行われれば、文化大革命(1966―76年)の終結後、最高指導部の一員である政治局常務委員級の要人が汚職容疑で調べられる初のケースとなる。同紙は、収賄罪などに問われた薄熙来被告(元重慶市党委書記・政治局員)の公判よりも大きな「政治的衝撃」が生じるだろうとの見方を示した。【8月30日 時事】 
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“周氏が務めていた政治局常務委員は党最高指導部の一員にあたり、薄被告はそれよりも1ランク下の政治局員だった。同紙によると、現役および退任後を含めて政治局常務委員が経済犯罪で調査を受ければ、約40年前に終結した文化大革命以降で初のケースとなる。”【8月30日 時事】
江沢民派の重鎮でもある周氏は、失脚した元重慶市党委書記、薄熙来被告との緊密な関係も指摘されており、政治的な立場が危うくなっていた薄被告の手腕を称賛するなどしていたことも知られています。

中国当局は今週、周氏がトップを務めていた中国石油天然ガス集団(CNPC)の幹部4人を調査していると発表していました。

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・・・同紙(香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト)は指導部の動向に詳しい複数の関係筋の話として、調査開始決定の背景には、腐敗問題の規模や周氏一家の蓄財に対する党内の怒りが高まっていることがあるとしている。

同紙によると、習近平国家主席は同調査を担当する当局者らに対し、「真相を解明するように」と命じたという。

温家宝・前首相やその一家を含め、退任したその他の政治局常務委員に対する調査を求める声が高まりかねないとして、多くの関係筋や政治アナリストらは、周氏が調査を受けることはないのではないかとの認識を示していた。

・・・・周氏や同氏の家族が、同氏の息子である周斌氏らが進めた油田や不動産取引を通じて利益を得たかどうかが調査される見通しだという。
同紙によると、関係筋は、周氏が起訴されたり、党内部の規律検査を受けるかどうか話すのは時期尚早だ、と述べた。(後略)【8月30日 ロイター】
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もともと薄被告と周氏は、習近平追い落としを画策したという話があるようで【2月25日 大紀元日本】(「重慶事件にみる江沢民派の苦境」http://www.epochtimes.jp/jp/2012/02/print/prt_d32538.html)、その線でいけば、習近平主席は先ず薄被告を片づけ、本筋の周氏に迫った・・・という話なのかもしれません。
そのあたりの権力闘争の話になると、よくわかりません。

「虎もハエも一緒にたたく」として地位の高低を問わずに腐敗政治家・官僚を取り締まる姿勢を示している習近平国家主席ですが、江沢民派の重鎮で前政治局常務委員の周氏にどこまで迫ることができるでしょうか?
あるいは、今度は周氏がトカゲのしっぽとなるのでしょうか?
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