孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  タミル人居住エリアの北部州で内戦後初の州議会選挙実施

2013-09-20 22:45:09 | 南アジア(インド)

(9月14日 内戦中、LTTE実効支配地域の事実上の首都であったキリノッチへ向かう列車(二十数年ぶりに復活した「Queen of Jaffna」の記念走行)に乗車するラジャパクサ大統領(左端) 州議会選挙に向けて復興をアピールするものでしょう。 “flickr”より President Mahinda Rajapaksa http://www.flickr.com/photos/101002436@N08/9738183311/in/photolist-fQwJCg-fQJ5dN-fQJ3US-fQwK9X-fQJ4Ly-fQJ4XE-fQwKip-fQJ4Aq-fQJ58L-fQJ4wd-fCgBej-fTeVrC-fTfX33-fTfUbc-fTfTxP-fTeRPg-fTfY7s-fTeVQd-fTeUjh-fTfUKZ-fTeUbm-fTgmkK-fTeRXT-fgTavf-fJzmob-fJhQFv-fNx6uL-fJboGL-fQcQwv-fJAwvZ-fWko4t-fJSb6Q-fTgBbg-fTf83c-fTgAXa-fEJYvn-fF2H91-fEK78F-fWnAKh-fWoLQ4-fWmb6F-fWpsRN-fWmZyM-fWmT2X-fF2CHQ-fTfb17-fHTqbZ-fHPaWm-fJUowN-fQd8uB-fJBd1r)


タミル人への権限委譲に逆行する憲法修正の動きも
スリランカでは多数派シンハラ人(総人口の約7割・仏教徒)と北部・東部を中心とする少数派タミル人(総人口の2割弱)の民族対立が存在し、政府軍とタミル人反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」の間で激しい内戦が戦われました。

内戦は2009年に、ラジャパクサ大統領が率いる政府軍が勝利し、LTTE国内組織は壊滅する形で終結しました。
シンハラ系のラジャパクサ政権にとっては、内戦から復興、シンハラ・タミル間の国民和解が要請されています。
なお、ラジャパクサ政権は、内戦末期に市民への無差別攻撃があったとして国際的に批判されています。

内戦当時は連日のようにスリランカ情勢は日本でも報じられていましたが、内戦が終結すると情報も途絶え、国民和解がどのように進められているのかよくわかりません。

そうした中にあって、珍しくスリランカ情勢に関する記事がありました。
タミル人居住区である北部州で、実施が先延ばしされてきた州議会選挙が21日に実施されるそうです。
タミル人系の政党が優勢なようですが、一方でそうした情勢を懸念するラジャパクサ政権には、タミル人への権限移譲を後退させる憲法修正を図る動きがあるとのことです。

****スリランカ北部州、初の議会選 内戦終結、自治権を問う****
スリランカでかつて、政府軍と少数民族タミル人反政府武装勢力、タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)が内戦を繰り広げた北部州で21日、初の州議会選が行われる。

タミル人野党、タミル国民連合(TNA)が優勢とみられており、勝利すればスリランカの9州で初めてタミル人主導の州議会が誕生、自治権の拡大などを求める声が強まりそうだ。

選挙にはTNAのほか、ラジャパクサ大統領の与党、統一人民自由連合(UPFA)傘下の政党などが候補者を擁立し、選挙で選ぶ36議席を約900人が争う構図となった。有権者数は国内の避難民約9千人を含む約72万人で、95%はタミル人とされる。

LTTEはかつて、仏教徒が中心の多数派シンハラ人の支配に対抗し、ヒンズー教徒中心のタミル人が多く居住する北・東部州の分離・独立を訴え、政府と血みどろの内戦を展開した。

2009年に政府軍の攻勢でLTTEは消滅し、内戦が終結したが、過去に多数の市民が戦闘に巻き込まれ、国連は双方に市民への無差別殺害があったと発表している。

スリランカの州議会選は他州では行われてきたが、北部州では内戦のため長い間選挙がなく、政府は内戦後も避難民の帰還や復興を優先すべきだとして実施を遅らせていた。

TNAは、憲法でうたわれる警察や土地開発、財政権限の州政府への委譲を履行するよう求めている。こうした権限は、国内にタミル人を抱えるインドの圧力で内戦中に憲法に盛り込まれた条項だが、実施は棚上げされてきた。

ラジャパクサ政権はタミル人による分離・独立運動の高まりを警戒、憲法修正の動きを見せている。人権問題で欧米やインドの批判を浴びるラジャパクサ政権が、タミル人への権限委譲に逆行する憲法修正を本格化させれば、いっそうの反発を招く可能性がある。【9月20日 産経】
***************

なお、新華社の報道によれば、“選挙にあたって、国内の紛争を再燃させる内政干渉を意図した外部の資金が流入している”と、ピーリス外相が批判しているそうです。
外部資金というのは、タミル人組織を支援するディアスポラ(国外居住者)からの資金のことでしょうか。
それとも、タミル人が多く居住する南インドの組織などを指すのでしょうか?

情報が少ないのでよくわかりませんが、上記記事にあるような“タミル人への権限委譲に逆行する憲法修正”が実施されれば、国民和解も遠い夢となります。
シンハラ民族主義の傾向が強いと言われるラジャパクサ大統領は、力でタミル人社会を抑えていこうというつもりなのでしょうか?

かつてLTTEが実効支配していた北部地域には現在も多くの政府軍が駐留していますが、そのことに関して大統領はインドメディアのインタビューで以下のように述べています。(多少、わかりづらい日本語訳の箇所もありますが、原文のまま)

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 Q:北部の非先軍化が進んでいません。7割の国軍兵が未だそこに駐屯しています。治安地帯、失踪者、北部州での総選挙問題にどう対処しているのですか?

 ラジャパクサ大統領:7割云々というのは、LTTE残党の謀宣に過ぎません。「非先軍化」なんて酷い言葉です。
我らは30年続いたテロリストとの紅世の闘争から復興しているのです。
北部の中心ジャフナの駐屯兵士数は2009年末の2万7000から2年半で1万5000に減った現状をみて、先軍化継続中というのですか?
地雷除去、北部の復興作業、基建整備、残留武器の捜索、西洋を中心とした海外勢力からの暴動煽動のことなど、御存知ないでしょう?
海外のタミル虎の燐子は資金力もあります。陸軍の存在力なかりせば、内戦後の復興開発が大規模に進むことなどありえなかったのです。【8月7日 ジオ通信】http://blog.livedoor.jp/ohju/archives/30453892.html
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ジャフナ近況 復興と問題点
復興が進む北部州の中心都市ジャフナの近況について、下記のように報告されています。
進まない地雷撤去の問題や、政府軍が軍事施設として収容した土地の問題もあるようです。

****ジャフナの近況#1 -変わりゆく町の風景-****
これからしばらく、開発が進み活気づきつつある一方で、残された課題・新たな課題に直面するジャフナの現状をお伝えします。

内戦終結から4年が経ち、町の開発が大きく進みつつあります。ジャフナの町には、それまでなかったような4階建、5階建の大きなビルも建ち始めました。
ずっと建設が止まっていた町の中央にある商業ビルも最近増築が急速に進み、やっと上層階にテナントを入れる準備ができつつあるようです。

また、海外での需要が高いスリランカのカニの身をコロンボの輸出業者に送るための作業をする加工工場もこの1年の間に複数建設されました。新しく衛生的な工場には70人-100人の若い女性たちが朝から夕方まで働いています。

穴だらけでガタガタだった、ジャフナと南の主要都市アヌラダプラ、キャンディをつなぐ幹線道路のA9道路のワウニア以北の改修工事も昨年にはすべて終了し、今ではきれいな舗装された道路となりました。
大型トラックやバスの通行量も増えました。コロンボへの移動も以前は半日かかっていたのが、今では8-9時間ほどで移動できるようになっています。

こうして開発が進み、町が再び活気を取り戻しつつある一方で、残された課題、そしてそれまでなかった新たな課題も浮かび上がりつつあります。

残された課題の一つとして、ムライティブ日誌にもありますが、ジャフナでも一部地域での地雷除去作業が今も続いています。

A9道路沿いのモハマーレ地域は、2002年から2009年までLTTEと政府軍の軍事境界線となっていたところで、紛争中に多くの地雷が埋められました。地雷除去が続いていますが、一向に地雷マークが撤去される気配はなく、手作業で進められる地雷除去作業には気の遠くなるような時間が必要なことを実感します。

また、ジャフナやムライティブなどスリランカ北部には、いまだ軍の主要基地などが置かれ、村の人たちが立ち入れない地域(ハイ・セキュリティ・ゾーン:HSZ)が残されています。

これらの地域は内戦中に政府軍が軍事施設として使用していたもので、人々は20年以上の間、自分の土地がある村を離れて親戚の家に身を寄せたり、キャンプで暮らしたりしてきました。

ジャフナ北部のワリカム・ノース郡のHSZは今後、国際空港や国際港や軍事施設等として使用される予定です。
この5月に政府はジャフナ県の6,381ヘクタールのHSZを正式に政府の土地として接収し、土地の所有者に4億ルピーの補償金を出すと発表しましたが、所有者たちは反発し、政府の方針に反対するデモを行っています。

タミル系政党のTNAは、政府の措置によって9,900世帯(35,000人)が土地を失うこととなり、土地の所有者とともに裁判所に5,000件以上の提訴を行うとしています。今後の解決の先行きはまだ見えません。
(ジャフナ事務所 西森光子)【5月22日 PARCIC 現地レポート】http://www.parcic.org/report/srilanka/s_diary/4056/*********************

スリランカ中央と結合することで経済環境も変化しており、復興から取り残される地元住民の問題も報告されています。

****ジャフナの近況#2 -浮かびあがりつつある新たな課題(その1):漁業への影響****
前回、内戦後にスリランカ北部を走る主要な幹線道路のA9が修復され、スリランカ南部から北部への行き来が容易になったことをご紹介しましたが、その結果、以前よりも多くの人・物資が行き来するようになり、新たな変化を起こしつつあります。

道路だけではなく海の行き来も自由になり、漁への影響も出ています。今回は、私たちが事業でかかわっている漁業分野での変化をお伝えします。

漁業への影響の一つとして、内戦中はスリランカ北部にほとんど来ていなかった冷凍車がコロンボから大量に流入するようになり、漁師さんが獲った魚の価格がコロンボ市場の価格に合わせてその場ですぐに引き上げられるようになりました。

その結果、ジャフナ市場での鮮魚価格が上がり、時に地元の人が買えなくなっています。また、私たちの乾燥魚事業の女性グループも以前は獲れすぎた魚を漁師さんに安価で売ってもらっていたのが、今ではすべて冷凍車に流れてしまい、魚を買えず干物が作れないと嘆いています。

他方、陸路だけでなくこれまでは内戦で容易に移動できなかった海路での移動も楽になり、海を通っての人々の行き来も増えています。

ここ数年はジャフナやムライティブなどスリランカ北部の漁場に、ネゴンボやチラウ、プッタラムなどスリランカ中南部から多数の漁業者がやって来るようになりました。
砂浜に簡易な小屋を建てて暮らし、季節的に漁をしています。

自分たちの漁場で時にダイナマイトや強力なライトなどスリランカで違法とされる手法で漁が行われ、それらに怯えて魚がやって来なくなることから、タミル人の漁民は怒るとともに困惑しています。

加えて、隣国インドから来るトロール漁船との漁場を巡る衝突もたびたび起きており、これらの漁場をめぐる問題が地元の漁業に悪影響を与えているとジャフナの漁業関係者は頭を抱えています。
漁業権の設定、漁業規制、養殖などの育てる漁業の導入など、漁業資源の枯渇を防ぐ取り組みが必要とされています。

こうした状況から、魚の価格が上がっても漁師さんたちは十分な漁獲が得られず、稼げないと嘆いています。
特に、漁具を持たず漁業労働として働いている大部分の漁業者は鮮魚価格の上昇の恩恵を受けられず、生活は貧しいままです。

そのため、よりよい稼ぎの仕事を求めて、スリランカ北東部の海岸からオーストラリアに違法渡航する人たちが後を絶たちません。次回はオーストラリアへの違法渡航の現状をお伝えします。
(ジャフナ事務所 西森光子)【8月28日 PARCIC 現地レポート】http://www.parcic.org/report/srilanka/4584/******************
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アメリカは“exceptional”か? アメリカ国民の抱く自画像

2013-09-19 23:06:18 | アメリカ

(“That’s what makes America different. That’s what makes us exceptional.”と国民に訴えるオバマ大統領 “The White House Blog”http://www.whitehouse.gov/blog/2013/09/10/president-obama-will-address-nation-syria

オバマ大統領「That’s what makes us exceptional.」】
アメリカ・オバマ大統領が、シリアの化学兵器使用疑惑に関して「アメリカは世界の警察官ではない。だけど・・・」といった演説を行ったことは、9月11日ブログ“アメリカ  オバマ大統領「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130911)でも取り上げました。

この部分はスピーチの最終部分にあたりますが、elkoravoloさんの「あつし@草莽 日記 」(http://d.hatena.ne.jp/elkoravolo/20130913/1379001598)によれば、以下のような内容です。

*****************
America is not the world’s policeman. Terrible things happen across the globe, and it is beyond our means to right every wrong.
But when, with modest effort and risk, we can stop children from being gassed to death, and thereby make our own children safer over the long run, I believe we should act.
That’s what makes America different. That’s what makes us exceptional. With humility, but with resolve, let us never lose sight of that essential truth.
*****************

アメリカが世界の警察官ではないことは自明のことですが、アメリカ大統領が敢えてそのことを、世界の悪をすべて正すことなど手に余ることを明言しなければならないこと、その背景に国民の内向き志向が強まっていること、アメリカが内向きを強めることに伴う国際社会の問題等々については、前回ブログで触れたとおりです。

ただ、オバマ大統領が強調したかったのは、「アメリカは世界の警察官ではない。だけど・・・」の“だけど・・・・”以下の部分です。
警察官ではないけど、すべでの悪を正すことなどできないけど、それでも子供たちが毒ガスで死に追いやられることを止めることはできるし、そうすべきであると信じる。
そして、そのような行動とることこそが、アメリカを“different”で“exceptional”にするのだ。・・・・と主張しています。

“exceptional”(特別な、例外的な)という表現は、「抜きんでていて特別」という文意で、アメリカにおいてアメリカ自身を表現する言葉としてしばしば使用されるそうです。

プーチン大統領「自分たちが特別だと人々に考えさせるのは、極めて危険だ」】
このようなアメリカの抱く自画像に噛みついたのが、ロシア・プーチン大統領です。
そしてそのプーチン大統領のアメリカ批判は、アメリカ国内で強い反発を招いているとのことです。

****米で際立つ「我々は特別」 プーチン氏かみつき、ヒートアップ****
アメリカは「特別」なのか――。シリア情勢が混沌(こんとん)とする中、こんな議論が米ロの対立を際立たせた。議論の背景を探ってみた。

きっかけはオバマ米大統領の10日夜の演説。シリアでの化学兵器使用に対し行動を呼びかけ「それが米国と他が異なるところだ。それが我々を特別(exceptional、エクセプショナル)にする」と語った。

ロシアのプーチン大統領が反発し、ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で「自分たちが特別だと人々に考えさせるのは、極めて危険だ」と批判した。

今度は米国で猛反発が起きた。ベイナー下院議長は「侮辱された」、メンデネス上院議員は「吐きたい気分になった」。カーニー大統領報道官も「米国がなぜ特別なのか、ロシアは好対照を示す」とした。

「本当に特別か」は意見が分かれるが、米国内では自国を指して「エクセプショナル」という表現がしばしば使われる。「例外的」という意味もあるが、「抜きんでていて特別」という文脈が多い。

米誌アトランティックによると、最初に「米国の例外主義(エクセプショナリズム)」という表現を使ったのは皮肉にも旧ソ連の最高指導者だったスターリン。1929年に米国で共産革命が起きる可能性は低いと聞き、「米国の例外主義という異端を終わりにしろ」と怒ったという。

「特別」の意味合いを強めて使われるようになったのはもっと最近。レーガン元大統領は米国を「丘の上の輝く都市」にたとえた。ここ数年は米国の存在感の低下と反比例するかのようにさらに目立つ。

オバマ氏も就任直後のインタビューで「米国が特別だと信じている」と発言。ところが「他の国もそうだと思う」という趣旨の発言をしたこともあり、共和党からの批判は絶えない。
昨年の大統領選で共和党候補になったロムニー前マサチューセッツ州知事は「オバマ氏は米国を普通の国だと思っている」と繰り返し発言。党大会ではマケイン上院議員ら登壇者が次々と「米国がいかに特別か」を強調した。

10年の世論調査でも国民の80%が「米国は特別だ」と考える一方、37%は「オバマ氏はそう思っていない」と答えた。昨年はオバマ氏も対抗するかのように「特別さ」を強調していて、シリアを巡る今回の発言もその延長線とみられる。【9月19日 朝日】
*****************

日本では、安全保障問題などで「普通の国」になることが論議されていますが、アメリカ国民の8割が「アメリカは特別だ」と考えていることは驚きでもあります。

この強烈な自負心があって、これまで「世界の警察官」に自らを任じてきた訳でもありますが、極めて個人的で卑近なレベルで言えば、自己主張が強く、自分を“特別な存在”と意識しているよな人物にはあまり近づきたくない・・・というのが正直なところです。謙虚さを美徳とする日本人ですから。

ロシア・プーチン大統領に他人・他国をとやかく言う資格があるのか・・・という話は別にして、プーチン大統領の「自分たちが特別だと人々に考えさせるのは、極めて危険だ」という発言には共感するものがあります。

アメリカの行動が往々にして“アメリカ的価値観の押し付け”として現地で摩擦を引き起こすのも、アメリカが自らを“exceptional”と考えているあたりに原因があるのではないでしょうか。

われ必ず聖なるにあらず。彼必ず愚なるにあらず。共にこれ凡夫(ぼんぷ)のみ
自らを“exceptional”と捉える考えの対極にあるのが聖徳太子の教えでしょうか。

*************** 十に曰わく、忿(こころのいかり)を絶ち瞋(おもてのいかり)を棄(す)て、人の違(たが)うを怒らざれ。
人みな心あり、心おのおの執(と)るところあり。
彼是(ぜ)とすれば則ちわれは非とす。われ是とすれば則ち彼は非とす。
われ必ず聖なるにあらず。彼必ず愚なるにあらず。共にこれ凡夫(ぼんぷ)のみ。
是非の理(ことわり)なんぞよく定むべき。
相共に賢愚なること鐶(みみがね)の端(はし)なきがごとし。
ここをもって、かの人瞋(いか)ると雖(いえど)も、かえってわが失(あやまち)を恐れよ。われ独(ひと)り得たりと雖も、衆に従いて同じく挙(おこな)え。

(十にいう。心の中の憤りをなくし、憤りを表情にださぬようにし、ほかの人が自分とことなったことをしても怒ってはならない。人それぞれに考えがあり、それぞれに自分がこれだと思うことがある。相手がこれこそといっても自分はよくないと思うし、自分がこれこそと思っても相手はよくないとする。自分はかならず聖人で、相手がかならず愚かだというわけではない。皆ともに凡人なのだ。そもそもこれがよいとかよくないとか、だれがさだめうるのだろう。おたがいだれも賢くもあり愚かでもある。それは耳輪には端がないようなものだ。こういうわけで、相手がいきどおっていたら、むしろ自分に間違いがあるのではないかとおそれなさい。自分ではこれだと思っても、みんなの意見にしたがって行動しなさい。)【金治勇『聖徳太子のこころ 』、大蔵出版より】http://www.geocities.jp/tetchan_99_99/international/17_kenpou.htm
******************

もちろん、“子供たちが毒ガスで死に追いやられることを止めることはできるし、そうすべきである”との主張は、そのとおりだと思います。その方法がシリア爆撃なのかどうかは別として。
また、“われ独(ひと)り得たりと雖も、衆に従いて同じく挙(おこな)え”というのには抵抗も感じますし、現実の問題が改善されません。

“われ必ず聖なるにあらず。彼必ず愚なるにあらず。共にこれ凡夫(ぼんぷ)のみ”という心を持ちながら、そのうえで何をなすべきか、何ができるかを考える・・・ということでしょうか。

【“different”な銃規制問題への対応
確かにアメリカが“different”だと言えるのは、銃規制問題です。

****惨事「何度も、何度も、何度も」…米紙が無力感****
ワシントンの海軍施設で16日に起きた銃乱射事件は、首都の軍施設でも銃犯罪を阻止できない現実を浮き彫りにした。
多くの死傷者を出す乱射事件が相次いでも銃規制が進まないことに、米社会では無力感が漂っている。

オバマ大統領は16日の演説で「我々は再び、銃乱射事件に直面している。今日は首都の軍施設で起きた」と沈痛な表情で語った。

警察との銃撃戦で死亡したアーロン・アレクシス容疑者(34)が犯行に及んだ動機は不明だが、AP通信によると、ライフルとショットガンに加え、現場で警官から奪った拳銃も所持していたという。
同容疑者は軍施設への入館に必要な国防総省の身分証を持っていたとはいえ、銃の持ち込みを許してしまった警備上の課題が浮上した。

ワシントン・ポスト紙によると、同容疑者はこれまでも銃関連の問題を起こしていた。2004年、自宅近くに駐車していた建設業者の車に発砲し、警察に逮捕された。10年9月には、アパートの自室で階下の部屋に向けて発砲し、逮捕された。当時、テキサス州フォートワースの海軍航空基地に勤務していたが、この事件によって11年1月に解雇されたという。

同容疑者は、こうした前歴がチェックされないまま、犯行に使った銃を入手した可能性が高い。海軍勤務を解雇された人物がなぜ海軍の情報技術を担当する民間会社への就職を果たし、海軍施設に出入りできたのかという問題も残る。

AP通信によると、同容疑者は8月から被害妄想や幻聴などの症状を訴え、治療を受けていたという。

オバマ大統領は昨年12月にコネティカット州の小学校で児童ら26人が死亡した銃乱射事件を受け、銃購入時の身元確認を義務化する法案を推進した。
「ガン・ショー」(銃の展示即売会)やインターネットを通じた取引なら、犯罪歴のチェックなしで銃を購入できる抜け穴を防ぐ狙いだった。
世論調査では90%が支持していたが、法案は今年4月、上院本会議で否決された。

大統領は16日の演説で「再発防止に向けて最善を尽くす」と語るだけで、銃規制強化には踏み込まなかった。
乱射事件が起きるたびに銃規制を求める世論が高まっても、銃擁護のロビー団体、全米ライフル協会(NRA)が議員に働きかけ、法制化を阻止する構図は変わらない。

ワシントン・ポスト紙は社説で、惨事が「何度も、何度も、何度も」繰り返されていると指摘し、無力感をあらわにした。【9月18日 読売】
**************

この問題は、このブログでも“何度も”取り上げた話なので、今日は止めます。
シリアの悪に立ち向かうのと同様の勇気と熱意を、国内の病巣にも向けることを期待したいものです。
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柳条湖事件から82年 日中・日韓の険悪な国民感情の改善にむけて

2013-09-18 23:12:28 | 東アジア

(“flickr”より By james-pua http://www.flickr.com/photos/42830040@N05/3957400163/in/photolist-72GHci-7536x5-7hNv6o-7rAjUw-7u68g2-9sssPd-9spvVM-9spseX-9sstzW-9spuFa-9sstcY-9ssssU-9ssukf-9ssrJG-9sss89-9ssuGU-bbbpfH-bbFuk2-cKFLp3-c4aBq7-c4azQu-c4aCVE-c4axn9-c4axVh-c4ayqS-c4azif-c4awXS-c4aAm1-c4awx9-c4aBV5-c4aCqm-c4avYQ-c4aASS-8expBJ-dTBQyi-dT7po6-9HG4Uo-a3WbKh-a3Wc6u-8iqcgr-8JPaBT-ewLXSv-firT7Z-bPisz8-8sjmBA-8sjmp3-8sghED-8sggMn-8sghSx-8sjmaN-fEwEgd)

習近平政権は今年、一転して反日デモを抑え込む
1931年9月18日、奉天郊外の柳条湖付近で南満州鉄道(満鉄)の線路上で爆発が起きました。いわゆる「柳条湖事件」です。(昔は「柳条溝事件」と呼んでいました。そのあたりの話はいろいろあるようですが、今回の本旨ではないのでパス)

昨年の9月18日は反日デモの嵐が吹き荒れたことから懸念されていましたが、今年はそうした反日の動きはなかったようです。

****柳条湖の日」デモなし…中国政府、抑え込み*****
満州事変の発端となった柳条湖事件(1931年)の発生日にあたる18日、中国各地では早朝から記念行事が行われた。

昨年はこの日に合わせ、日本政府の沖縄県・尖閣諸島の国有化に抗議する反日デモが100都市以上に広がったが、今年はデモの情報は確認されていない。

柳条湖事件が起きた中国遼寧省・瀋陽の「9・18歴史博物館」での式典では、市民代表らが午前9時18分、終戦までの年数に合わせて14回、鐘をつくなどした。会場周辺一帯は封鎖され、混乱はなかった。

昨年は大規模なデモ行進が行われた北京の日本大使館周辺は18日午前、いつもより多めの警察車両や軍車両が出動して警戒にあたり、正門付近の側道を駐車禁止とする措置が取られた。同大使館によると「具体的な危険情報はない」(広報担当)という。

中国政府は昨年はデモを容認したが、今年は抑え込む姿勢に転じた。デモが社会に不満を持つ層を刺激し、政権批判に向かうことを警戒したとみられる。【9月18日 読売】
*******************

読売の続報では、
“ 習近平政権は今年、一転してデモを抑え込んだ。デモ容認は社会の不安定化を招き、習政権の権力基盤や減速する経済に悪影響を与えかねないとの判断があるとみられる。
18日朝、北京の日本大使館前では普段通り、正門近くに国旗が掲揚された。昨年はデモ参加者が「日の丸」に生卵やペットボトルを投げつけたが、今年は警官が通行人に立ち止まらないよう求め、大きな混乱はなかった。
広東省広州の総領事館前では、中国人男性が尖閣諸島に対する中国の「領有権」を主張するチラシを配ろうとしたが、警戒中の警官に阻止、連行された。”
とのことです。

【日中両国の9割以上がそれぞれ相手国に良くない印象を持っている】
反日デモも政権・党のさじ加減次第・・・というところのようですが、日中両国の国民感情が非常に険悪な状態になっており、一向に改善されていないことも事実です。

****日中共同世論調査 主な質問と回答****
「言論NPO」と中国日報社が実施した日中共同世論調査の主な質問と回答は次の通り。

●相手国に対してどのような印象を持っているか
 日本 良い(「どちらかといえば良い」を含む)…9・6%
    良くない(「どちらかといえば良くない」を含む)…90・1%
 中国 良い(同)…5・2%
    良くない(同)…92・8%
●相手国に良くない印象をもっている理由は何か(複数回答可。以下は主な回答)
 日本 尖閣諸島を巡り対立が続いているから…53・2%
    歴史問題などで日本を批判するから…48・9%
    資源の確保で自己中心的に見えるから…48・1%
 中国 領土紛争を引き起こし、強硬な態度をとっているから…77・6%
    侵略の歴史についてきちんと謝罪し反省していないから…63・8%
    他国と連携して中国を包囲しようとしているから…43・4%
●現在の相手国の社会や政治のあり方として、当てはまるものは何か(三つまで回答可。以下は主な回答)
 日本 社会主義・共産主義…66・9%
    全体主義(一党独裁)…37・4%
    軍国主義…33・9%
 中国 覇権主義…48・9%
    資本主義…42・1%
    軍国主義…41・9%
●現在の日中関係についてどう思うか
 日本 良い(「どちらかといえば良い」を含む)…2・4%
    悪い(「どちらかといえば悪い」を含む)…79・7%
 中国 良い(同)…5・9%
    悪い(同)…90・3%
●日中関係の発展を阻害する主な問題とは何か(三つまで回答可。以下は主な回答)
 日本 領土問題(尖閣諸島問題)…72・1%
    中国の反日教育…40・2%
    日中両国民の間に信頼関係ができていないこと…30・9%
 中国 領土問題(尖閣諸島問題)…77・5%
    日本の歴史認識や歴史教育…36・6%
    海洋資源などをめぐる紛争(東シナ海ガス田開発問題)…31・9%
●これまでに相手国に行ったことがあるか
 日本 ある…14・7%
    ない…85・3%
 中国 ある…2・7%
    ない…97・2%
●今後、もし機会があれば相手国に行きたいか
 日本 行きたい…30・0%
    行きたくない…69・5%
 中国 行きたい…24・8%
    行きたくない74・0%
●日本の首相が靖国神社へ参拝することについてどう思うか
 日本 参拝しても構わない…46・0%
    私人としての立場なら、参拝しても構わない…27・5%
    公私ともに参拝すべきではない…9・9%
 中国 参拝しても構わない…9・0%
    私人としての立場なら、参拝しても構わない…20・4%
    公私ともに参拝すべきではない…62・7%
●(尖閣諸島をめぐり日中関係の悪化して以降行われていない)日中両国の首脳会談は必要か
 日本 必要…64・9%
    必要でない…7・6%
 中国 必要…57・1%
    必要でない…37・3%
●日中間に領土問題は存在しているか
 日本 存在している…62・7%
    存在していない…17・6%
 中国 存在している…82・2%
    存在していない…13・9%
●領土問題をどう解決するか(複数回答可、以下は主な回答)
 日本 両国間ですみやかに交渉し、平和的解決を目指すべき…49・1%
    国際司法裁判所に提訴し、国際法にのっとり解決すべき…42・4%
    領土を守るため、日本の実効支配をより強化するべき…26・2%
 中国 領土を守るため、中国側の実質的なコントロールを強化すべき…58・1%
    日本の主張は条理に反しており、外交交渉を通じて日本に領土問題の存在を認めさせるべき…54・8%
    両国間で前向きな交渉をし、平和的解決を目指すべき…43・6%【8月6日 朝日】
****************

日中だけでなく、日韓関係についても同様です。

こうした国民感情が冷え込んだ事態にあって、それぞれの政府の事情・思惑から政府間の交渉も殆ど途絶え、首脳間での“立ち話”ができたことが大きな話題になるような状況です。

****信頼の獲得が安保強化の道」 韓国高官、日本に****
韓国国防省の白承周(ペクスンジュ)次官は17日、安倍政権下で集団的自衛権の行使容認に向けた環境整備が進んでいることについて、「周辺国から政治・軍事的な信頼を得ることが、憲法改正や集団的自衛権よりも日本の安全保障を強化する近道だ」と述べ、日本の動きにくぎを刺した。

ソウルの外国人記者クラブで会見した。白氏は、日本が憲法9条を守ってきたことが、日本の安保を困難にしているわけではないと指摘した。【9月18日 朝日】
*****************

白承周次官なる人物については全く知りませんし、憲法改正や集団的自衛権についてはいろんな主張がある問題ですが、「周辺国から政治・軍事的な信頼を得ることが、憲法改正や集団的自衛権よりも日本の安全保障を強化する近道だ」ということに限って言えば、そのとおりだと思います。

有事への備え以上に、有事が起きないような環境を作る努力が大切です。安全保障だけでなく、国民生活の基盤となる経済的にも東アジアの安定は日本の将来にとって必要不可欠です。

従って、“自民党の二階俊博総務会長代行は11日、名古屋市で講演し、中韓両国との関係について「五輪招致のために努力した情熱の半分でもいいから、中国、韓国に対していろいろやるべきだ」と述べ、改善に向けた一層の努力を政府に促した。”【9月11日 時事】というのも、そのとおりだと思います。

ただ長期的・根本的には、政府間の交渉・つきあいではなく、現在の険悪な国民感情の改善が重要でしょう。
もちろん誰しも“国民感情の改善が重要”とは言いますが、どれだけ本気でこの問題に取り組んでいるのか?と言えばかなり疑問があります。
日本の将来がそこにかかっているという覚悟で、万難を排して取り組むべき問題でしょう。

****対立の中、若者で盛況=ソウルで「日韓おまつり****
「祭り」をテーマに日韓両国の相互理解を深めるイベント「日韓交流おまつり」が15日、ソウルで開催された。両国は歴史や領土問題をめぐり対立が続くが、会場には大勢の若者らが集まり、盛況だった。

沖縄のエイサーや高知のよさこい踊りなどの公演では大きな拍手と歓声が湧き上がった。着物や浴衣を着て写真撮影したり、伝統の遊びを体験したりできるコーナーもにぎわっていた。

ソウルの女性会社員、韓世珍さん(23)は「日本文化が好きで、日韓関係が悪くても気にしない。両国は、互いの悪いところを見るのではなく、良い面を受け入れた方がいい」と話していた。
「おまつり」は2005年に開始。21、22日には東京で日本側イベントが開かれる。【9月15日 時事】 
***************

もちろん、こうした文化交流も相互理解を深めるうえで有効でしょう。
ただ、それぞれの国民が相手に抱いてるネガティブなイメージを払しょくするために一番有効なのは、中国・韓国の人に実際に日本に来てもらって、日本がどういう国か、日本人がどういう人間か、自分の目で見てもらうことではないでしょうか。「百聞は一見に如かず」です。

****日本の評価を間接的に上げていく取り組みが必要****
エズラ・F・ヴォーゲル氏(ハーバード大学アジアセンター ヘンリーフォード二世名誉記念社会科学教授)へのインタビュー)
――中国のこの先を展望したとき、中国の愛国主義はますます強くなり、経済規模もさらに大きく、強くなっていくと思います。また、それを中国共産党も人民も望んでいます。日本はそういう中国に対して、どのように付き合っていけばよいのでしょうか。

 中国に対して、日本やアメリカが「中国はこういう風に変わるべきだ」というような言い方や接し方をすることには、反対です。アメリカ人はよく外国に対して説教をします(笑)。それは逆効果ですね。

 中国の人は日本を訪ねて、実際に日本の社会を見てもらって、それほど悪い人たちじゃないよということを感じてもらう。中国では、公の場で日本を肯定するようなことは言いにくいのでしょうが、日本に対する評価を、間接的に上げていくような取り組みができるといいですね。

 日本はしっかりと歴史の問題などを中国に対して説明をする。日本は「中国はこうするべきだ」とか絶対に言ってはいけないと思います。【9月18日 DIAMOND online】
*******************

話が横道にそれるようですが、私が暮らしている鹿児島からは上海への定期便が飛んでいます。しかし、搭乗率が悪く、存続が難しくなっています。
定期便の存続は地域経済に大きな影響があります。

そこで鹿児島県は、県職員を研修として上海へ送り込むことで搭乗率引上げをはかることを計画しましたが、税金の使用法としていかがなものか・・・ということで物議を醸しました。

結局、県民や県議会の反発を受けて、県は職員ら1000人を7月~来年3月に研修で派遣する当初計画を、民間を含む300人に縮小し、7~9月分の事業費3400万円が県議会で可決されて実施に移されています。

路線を運航する中国東方航空は鹿児島県職員の上海研修などの取り組みを評価し、次期運航ダイヤでも週往復2便の運航を継続するとのことです。
ただ、反対するグループからは知事のリコールに取り組む動きも出ています。

で、思ったのですが、同じ費用を使うなら、県職員を研修名目で上海に派遣するよりは、中国や韓国(鹿児島はソウル便もあります)から、一般の人に無料で日本へ来てもらったらいいのでは・・・。
その方が、ホテル・観光施設など県内に落ちるおカネも発生します。

もちろん主たる目的は、国民の相互理解です。
できれば、日本に行きたいという人、日本が好きだという人ではなく、日本なんか行きたくない、日本人は嫌いだという人に来てもらいものです。

日本国内での制約を殆どつけずに(来日して反日デモをするというのは困りますが)、物見遊山でいいですから気の向くままに日本を経験してもらえば、10人中8人ぐらい(少なくとも6~7人ぐらい)は「日本は思ってた国とは少し違うかも・・・」と感じてもらえるのでないでしょうか。それだけの自信があります。
(中国が嫌いだという日本人を中国に送り込んで、認識が変わるか・・・という点では、いまひとつ請け負いかねるところがあります。私自身は中国旅行で数々の親切も経験していますが・・・)

そうした試みを10年続ければ、鹿児島だけでなく全国で、あるいは国家施策として行えば、新しい国民関係の核となる、“親日”ではなくとも“知日”の人々を増やすこともできるのではないでしょうか。

以上は単なる思い付きの与太話ですが、要は、単にお題目として“国民感情の改善”“相互理解”を唱えるだけでなく、資金も人材も時間も使って、本気で取り組むべきだということです。
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イラン  保守穏健派ロウハニ新大統領による新体制スタート SNSとIAEA

2013-09-17 22:13:28 | イラン

(8日、イランの首都テヘランで握手する自民党の高村正彦副総裁とイランのロウハニ大統領(共同)【9月8日 産経】)

ユダヤ教徒あての新年の挨拶
イランでは、国内融和や国際協調に比較的前向きとされる(前職のアフマディネジャド氏などに比べれば・・・ということではありますが)保守穏健派のハサン・ロウハニ師が先月3日に大統領に就任しています。

****ロウハニ大統領が就任=核制裁の解除訴え―国際社会、穏健路線注視・イラン****
6月のイラン大統領選で勝利した保守穏健派のハサン・ロウハニ師(64)は3日、最高指導者ハメネイ師による認証手続きを経て、大統領に就任した。任期は4年。聖職者としては、ハタミ師退任以来8年ぶりの大統領となる。

ロウハニ師は就任後に演説し、対話を通じた国内融和や国際協調を重視する穏健路線を推進する姿勢を強調。一方で「(核開発を受けた米欧による)非人道的な制裁は解除されなければならない」と訴えた。

ハメネイ師はロウハニ師就任を祝福し、大統領交代がスムーズに行われたことについて「イスラム型民主主義の成果だ」と指摘した。

保守強硬派のアハマディネジャド前大統領は「イスラエルを地図から消し去る」といった強硬な発言により物議を醸した。国際社会は大統領交代でイランの反欧米姿勢が変化するか注目している。

ロウハニ師はこれまでに、外交政策について「建設的なやりとりを重ねていく」と表明、制裁解除に向けた交渉に意欲を示してきた。ただ、核開発については「透明性を高めるが、ウラン濃縮を停止するつもりはない」と述べており、核開発をめぐる米欧との交渉の進展は直ちに期待できない状況だ。【8月4日 時事】 
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女性の地位・権利が問題となることが多いイスラム社会にあって、ロウハニ大政権では初の女性報道官も起用されています。

***イラン初の女性報道官が任命****
イランで1日、同国初となる女性の外務省報道官が誕生した。

同日の引き継ぎ式に出席したハサン・ロウハニ大統領は、新たに任命されたマルジェ・アフハム氏の起用について、女性の社会的地位の向上を目指す同国の方針を象徴するものだと述べ、歓迎の意を表した。【9月4日 AFP】
*************

更に話題となったのは、核開発問題などでイラン・イスラエル関係は厳しい対立状況にありますが、ロウハニ大統領がユダヤ教徒あてに新年の挨拶をツイートしたとされることです。

イスラム革命で4~5分の1に減少したものの、今でもイラン国内にはイスラエルを除いて中東で最も多い、2万~2万5000人のユダヤ人が暮らしているそうで、イランのマジュレス(議会)には、ユダヤ教徒の代表者の席が1つ用意されているそうです。

****イランのユダヤ教徒****
ユダヤ教の新年祭ローシュ・ハッシャーナーの前日、イランのハッサン・ロウハニ新大統領、あるいはその後援会とおぼしきアカウントから、意外なツイートが投稿された。ユダヤ教徒、中でも国内の教徒にあてた新年のあいさつだ。

このツイートを目にした人々は当惑した。互いに背を向ける宗教の顔合わせも意外だが、欧米ではほとんど注目されていないイランのユダヤ教徒に言及していたためだ。

「ここテヘランはもうすぐ日没です。すべてのユダヤ教徒、特にイランのユダヤ教徒が幸せなローシュ・ハッシャーナーを迎えられますように」。ハッサン・ロウハニ(@HassanRouhani) 2013年9月4日
(後略)【9月9日 ナショナルジオグラフィック】
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ロウハニ大統領のTwitterアカウントは下記のとおりです。
https://twitter.com/HassanRouhani/status/375278962718412800/photo/1

【「表現の自由拡大」の予兆?】
“ユダヤ教徒向け”という点を別にしても、反政府運動を封じ込めるためにソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が制約されているイラン社会にあっては、政治指導者自らネット上で発信するということ自体が異例のこととされています。

****イラン:SNS解禁?閣僚15人がフェイスブック始める****
イランの閣僚15人がインターネット交流サイト「フェイスブック」(FB)を始めたと報じられ、話題となっている。

イランでは反体制活動を封じるため2009年以降、当局の規制でFBや短文投稿サイト「ツイッター」などソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が使えない。
穏健派のロウハニ大統領が公約した「表現の自由拡大」の予兆として歓迎される一方、「どうアクセスしたのか」といった疑問も出ている。

「医薬品が制裁の影響で不足」「肝臓のインターネット売買は、虚偽もあるので注意」。ハシェミ保健相は、本来なら閲覧できないはずの国民にメッセージを送る。

イランでは、当局が有害と判断したサイトへの接続を遮断しており、若者らは特殊ソフトなどで規制をかいくぐる。閣僚自らの利用が公になるのは初めてで、「規制解除の前触れかもしれない」(地元紙シャルグ)と期待されている。

ザリフ外相は、留学や国連大使の経験から米国での生活が長く、米国生まれのFBを巧みに使いこなす。ページ開設は09年。投稿内容に対し、閲覧者の共感を示す「いいね!」は17万件以上。
核交渉の責任者でもある外相はツイッターも使い、主に英語でつぶやく。4日には、ユダヤ暦の新年「ロシュ・ハシャナ」を祝福。英BBCなど欧米メディアは、核交渉など欧米との外交を柔軟に進めるサインとして好意的に報じた。【9月12日 毎日】
***************

閣僚15人が利用するというのは、政府としての判断を背景にしていると思われます。
ただ、こうした大統領、閣僚のFB使用について、保守強硬派の警察長官が「合法性はない」と非難し、利用停止を求めています。

****大統領のフェイスブック、警察長官が非難する国*****
イランのロハニ大統領や閣僚が、同国で禁じられている交流サイト「フェイスブック」(FB)を利用し始めた。
これに対し、保守強硬派の警察長官が公然と非難し、政府内の路線対立に発展しそうだ。

イランは、イスラム主義の価値観を害する恐れがあるとみなしたサイトの閲覧を強制的に遮断してきた。それでも、国民の大半は違法ソフトを使ってFBを利用し続けている。

保守穏健派のロハニ大統領も、6月の大統領選前にFBのアカウントを開設し、就任後も演説内容や動静の書き込みを継続。ザリフ外相ら閣僚15人のほか、各省庁の報道官も利用を開始した。内外に「開かれた政府」を印象付ける狙いがある。

だが、アフマディモガダム警察長官は15日、「合法性はない」と非難。閣僚や政府職員に利用停止を求めた。14日には、外相のアカウントがハッキングされた。
ただ、大統領らが利用をやめる可能性は低いとみられている。【9月17日 読売】
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原理主義の宗教独裁国家というイメージもあるイランですが、議会・大統領は“一応”民意を反映した選挙で選ばれていますし、今回のFBの件など、世界の多くの強権支配国家に比べればまだ自由度があるのでは・・・という側面もあります。

無難な新体制外交スタート 注目されるIAEAとの核協議
ロウハニ大統領の実際の施策については、まだこれからの話ですし、核開発問題などでは決定権は大統領ではなく最高指導者マメネイ師にあるなど、大統領の裁量の範囲は限定されていること、したがって外交姿勢の急激な変化は望めないことなどは、常に指摘されているとおりです。

先ず、13日の上海協力機構首脳会議で、友好国ロシア・中国首脳との顔合わせを無難に行っています。

****イラン:ロウハニ大統領、無難な外交デビュー****
イランのロウハニ大統領は、キルギスの首都ビシケクで13日に開かれた上海協力機構首脳会議にオブザーバーとして参加し、「対話に基づく穏健外交」を本格始動させた。

8月の就任後、初の外遊で、12日の中国の習近平国家主席に続き、13日にはロシアのプーチン大統領と会談。イランの核開発問題に一定の理解を示す中露と、シリア問題で足並みをそろえ無難な外交デビューとなった。

インタファクス通信によると、プーチン大統領との会談では、イランの核問題に関し「国際規範の枠内で早急に解決したい」と発言。米欧露など6カ国との協議の早期再開を目指す姿勢を強調した。

両首脳はシリア情勢での協力姿勢も改めて確認したと見られる。両国はシリア問題の政治的解決を一貫して主張しており、ロシアがアサド政権に対し、化学兵器の放棄と国際管理を提案した際にはイランはいち早く「歓迎」の意向を示している。

ロウハニ大統領は12日の習主席との会談で「イランは核拡散防止条約(NPT)の枠内で核開発を推進する権利を求めている。国際社会の懸念を払拭(ふっしょく)するため、国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れもいとわない」と述べ、就任後初めて査察受け入れに前向きな姿勢を示した。今後、どの程度、透明性を発揮するのか注目される。

これに対し、習主席は「イランの権利は尊重されるべきで、必ずや対話を通じて解決される」と応じた。またシリア問題では、両首脳は平和的解決に向けた両国の関係強化を確認した。【9月13日 毎日】
***************

更に、欧米との関係についても動きがみられます。

****イラン:米と親書交換 英とは月内に外相会談****
核開発問題で孤立するイランの穏健派のロウハニ大統領が、オバマ米大統領と親書を交わしていたことが15日、明らかになった。オバマ大統領が同日、米ABCテレビで明らかにした。

オバマ大統領は、親書の詳細については明らかにしなかったが、「イランの核問題は、シリアの化学兵器よりずっと大きな問題。新大統領が性急にやり遂げるとは思わない」と語った。

一方、イランメディアは16日、ザリフ外相と英ヘイグ外相がニューヨークで開かれる国連総会に伴い、今月下旬に会談すると報じた。英国側からの打診で、中東和平やシリア問題、核開発問題を話し合うという。先週、キャメロン英首相は「英国は、選挙後にイラン政府に効果的に接触してきた。関係を築く用意がある」と述べ、意欲を示していた。

英国とは2011年11月の在イラン英国大使館襲撃事件をきっかけに、双方が大使館を閉鎖するなど事実上外交関係が途絶えていた。8月に大統領に就任したロウハニ氏の対米欧関係改善への兆しとして注目される。【9月16日 毎日】
****************

焦点の核開発問題に関しては、27日に再開される国際原子力機関(IAEA)とイランの交渉が注目されています。

****イラン核協議:ロウハニ体制下、進展期待 IAEAを注視****
イランで保守穏健派ロウハニ新大統領が誕生してから初めての国際原子力機関(IAEA)理事会で、イランの核兵器開発疑惑を追及する米欧から新体制下での透明性の強化などを期待する声が相次いでいる。

今理事会ではイラン非難決議などを求める動きはなく、当面は各国とも今月27日に再開されるIAEAとイランの核協議の行方を注視する考え。IAEA事務局長が次回のイラン報告をまとめる今年11月までの実質的な進展を求めている。

11日から始まったイラン核問題に関する協議で、米国のマクマナス大使は「ロウハニ政権が今後数カ月間の具体的な措置によって、自らが約束した透明性と協調性に従って行動するよう期待している」と述べた。
欧州連合(EU)も「イラン新大統領による透明性強化の発言に注目し、確固たる行動に移ることを期待している」との声明を発表した。

ただ、米欧ともイランのウラン濃縮能力増強やプルトニウムの製造に道を開く重水炉の建設進展には深刻な懸念を表明。ロウハニ大統領が約束する透明性強化などを行動で示すよう迫った。米欧とも11月までにイラン側に具体的な行動がみられない場合、新たな対イラン決議などに踏み込む構えだ。

一方、初めて理事会に出席したイランのナジャフィ新大使は12日の協議後、「今後とも誠意を持ってIAEAと協議を続ける」と記者団に語ったが、核拡散防止条約(NPT)で保障された「原子力の平和利用の権利」については「いかなる譲歩もない」と強調した。【9月12日 毎日】
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“ロウハニ師がイランの銀行と原油輸出に対する西側諸国の制裁を解除できなければ、彼が目指す改革は行き詰まるだろう。ロウハニ師が大統領に選ばれた最大の理由は、制裁を解除できる可能性が最も高い人物だと有権者が判断したからだ”【9月11日 英エコノミスト】という状況にあって、イランから柔軟な姿勢を引き出すためには、新体制がイラン国内で動きやすいような環境を用意することも必要ではないでしょうか。

圧力をかけるだけでは、せっかくの芽をつぶしてしまいます。
改革派のハタミ元大統領が国際協力を得られず、結局国内での権力を失い、改革派の退潮を招いた経緯もあります。
過度の期待は・・・とは分かっていても、つい期待してしまいます。
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“危機の出口がほのかに見えてきた”欧州経済  ドイツ総選挙で注目されるギリシャ追加支援

2013-09-16 23:02:13 | 欧州情勢

(ドイツ・ハノーバー 9月7日 「反ユーロ」を掲げる新党AfD「ドイツのための選択肢」の集会 今のところAfDの支持率は2~3%程度にとどまっているようです。“flickr”より By Gideon Ben Joshua http://www.flickr.com/photos/88336440@N04/9697482687/in/photolist-fLW8Kn-fMdQGy-fMdB25-fMdC8q-fLWg1K-fMdEjU-fLW6sF-fMdGb7-fMdFeu-fMdCfq-fLWeGa-fMdLv7-fMdMEL-fLWfjF-fMdPn7-fMdLyQ-fMdJfb-fMdMZW-fMdP35-fMdLow-fMdNtb-fLWcjz-fMdPqS-fMdLaq-fLW1ke-fMdLrd-fLW1et-fLWed8-fLWgSZ-fLWcA8-fMdPYS-fLWc7T-fLWcgB-fMdQem-fLWc3v-fMdMoQ-fLWcQr-fMdMRj-fMaxo7-fLWgtM-fMdBEf-fMdQWj-fLWknp-fLW81T-fLW2Pr-fMdJbC-fMdDkq-fMdDz3-fLW9pP-fLWeiV-fMdBTj)

【「低水準だが、経済が活力を徐々に取り戻してきた」】
低迷が続いていた欧州経済も、ようやく“危機の出口がほのかに見えてきた”ようです。
欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、「低水準」「弱い」「下振れリスクがある」との慎重な言い回しながらも、「ゆるやかに景気が回復してきた」との判断を示しています。

****欧州中銀、利下げ見送り 「景気ゆるやかに回復****
欧州中央銀行(ECB)は5日の理事会で政策金利を過去最低の年0.5%で据え置くことを決めた。
ドラギ総裁は理事会後の記者会見で「ゆるやかに景気が回復してきた」と語り、ユーロ圏の景気が底入れしつつあるとの認識を示した。
ただ回復はまだら模様で南欧は高い失業率に苦しむ。下振れリスクが残るため、低金利政策は当面のあいだ続ける。

「低水準だが、経済が活力を徐々に取り戻してきた」。記者会見でドラギ総裁は言葉を選びながら景気が最悪期を脱したと説明した。ECBは同日、2013年の成長率見通しを従来のマイナス0.6%から同0.4%に上方修正した。

13年4~6月期の実質成長率はプラスに転じ、欧州を代表するIfo経済研究所の8月の景況感指数も市場予想を上回る改善幅だった。「徐々に景気が回復するというシナリオを裏付けている」(ドラギ総裁)。

景気回復の原動力となったのは輸出で稼ぐ欧州北部。堅調な企業業績が雇用を支え、それが個人消費に結びつく。「金融緩和も内需を押し上げた」とドラギ総裁は低金利政策の効果を強調する。(中略)

一方、南欧では市場の混乱が実体経済を下押しし、さらに信用不安が深まるという悪循環に歯止めがかかった。ドラギ総裁は「市場安定が実体経済に(いい影響を)及ぼしてきた」との見方を示した。

09年秋に始まった債務危機は金融市場での信用不安、銀行の資産劣化、実体経済の低迷、それに雇用不振という「四重苦」を欧州にもたらした。景気に底入れ感が出てきたことで、4つの課題のうち、いまだに好転せずに残るのは雇用問題だけとなる。4年たってようやく危機の出口がほのかに見えてきた。

ただ、その出口にたどり着くまでには、なお時間がかかる。景気の回復力についてドラギ総裁は「低水準」「弱い」など繰り返した。「下振れリスクがある」とも明言しており、一本調子で経済成長を取り戻す展開になるとは考えていない。

リスクは各地に点在する。「次の支援候補国」に挙げられるスロベニアは銀行の不良債権処理が道半ばで「年2.5%のマイナス成長」(オーストリア系ライフアイゼンバンク)と厳しい。

債務危機の震源地となったギリシャでは15年以降の資金繰りを賄うための資金支援が不可避とされる。中堅企業の4割が資金繰りに窮しているとの調査もある。小国がユーロ圏全体を揺らす危険はくすぶる。

好調な欧州北部が、南部の苦境を支えるという基本構図は変わらず、危機の元凶となった南北の経済格差も残っている。

「金融緩和は必要な限り続ける」。ドラギ総裁は当面のあいだ政策金利を低水準に抑えると改めて宣言した。【9月5日 日経】
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生活に直結する雇用問題がいまだ好転しないのは、国民にはつらいところです。

欧州委員会のバローゾ委員長も、12日、「警戒が必要なのは当然だ。(中略)1四半期がすばらしかったからと言って、荒れ模様の経済から脱したわけではない。だが、正しい軌道に乗っていることは証明できた」と語り、経済・債務危機の終わりが「視野に入った」との見解を示しています。【9月12日 WSJより】

欧州経済だけでなく、アメリカ経済も“全般的に「控えめ」か「緩やか」なペースで拡大”【9月5日 時事】しており、不安視されていた中国経済も“底打ち”“下げ止まり”の指標が出されています。
日本経済の回復も、単にアベノミクス云々だけでなく、こうした世界経済の流れの一環でもあるでしょう。

ショイブレ財務相が第3次ギリシャ支援の必要性に言及
“危機の出口がほのかに見えてきた”欧州経済にあって、問題児のギリシャも2014年にはプラス成長に復帰できそうな状況です。

****7年ぶりプラス成長に自信=ギリシャ首相****
ギリシャからの報道によると、サマラス首相は7日、中部テッサロニキで演説し、深刻な景気悪化が続いていた同国経済が2014年に7年ぶりのプラス成長に転換することに自信を示した。

首相は「12年はギリシャのユーロ圏離脱報道一色だったが、現在は景気回復報道に様変わりした」と指摘。ユーロ圏や国際通貨基金(IMF)による支援を受けた財政再建が奏功すると語った。【9月8日 時事】 
*************

もちろん、今後とも財政再建の自助努力と、EU・IMFなどの国際支援が欠かせないことは言うまでもありません。
国際支援の中核にあるのがドイツですが、ドイツ国内には、世論調査で「ドイツはギリシャを支援するべきか」と
聞かれれば、7 割から8 割が「財政支援に反対」と回答するといった、“自業自得の”ギリシャを支援するためにドイツの税金を使用することへの反発が根強くあります。

そのドイツは今月22日に総選挙が行われますが、上記のような国民感情を考慮して、メルケル政権は今後のギリシャ支援については明言を避けてきました。
しかし、ショイブレ財務相が8月20日、第3次支援の必要性に言及したことで、このギリシャ追加支援問題が注目を集めています。

****ドイツ総選挙:ギリシャ追加支援が争点****
22日の連邦議会選(総選挙)を控えるドイツで、財政危機のギリシャに対する追加支援の可否が選挙戦の争点に急浮上している。

欧州連合(EU)の中で最大の支援金を拠出するドイツでは、国民の血税が頻繁に他国救済に使われることへの反発が強く、与党は選挙戦でこの問題を「先送り」する作戦だった。

ところが、閣僚の一人が8月に支援必要論に言及。野党は「選挙期間中に与党は態度を明確にすべきだ」と、攻勢を強めている。

ギリシャは現在、EUなどの支援を受けて財政再建中。2010年以降の第1次、第2次分を合わせた総額2400億ユーロ(約31兆2000億円)の支援は、14年末で終了する。

ショイブレ財務相は8月20日、「もう一度ギリシャへの支援計画が必要だ。(選挙後の)新政権は14年半ばにこの問題に取り組むことになる」と、閣僚として初めて第3次支援の必要性に言及。

だが、選挙戦へのダメージを避けたいメルケル首相は、1日のテレビ討論で「今後のギリシャの状況は誰も分からない」と述べるなど、火消しに躍起だ。

ギリシャの財政難は、14年末以降も解消しないとの観測は根強く、ショイブレ財務相発言は「規定路線」との見方もある。独紙フランクフルター・アルゲマイネは「(支援に関する)爆弾発言を今しても、投票日までに火種はほぼ消えていると踏んだのだろう」と分析している。【9月3日 毎日】
******************

選挙戦を通じて、南欧支援をめぐる議論は深まっていない
ただ、“選挙戦の争点”というほどの問題には深刻化していないようにも見えます。
前出のように国民にはギリシャ支援に対する強い反発はありますが、現在のEU・ユーロの枠組みを壊すことを望んでいる者は多くないと思われます。

「ドイツはユーロ圏から脱退し、ドイツマルクを取り戻すべき」と主張して注目された新政党AfD(「ドイツのもう一つの選択肢」「ドイツのための選択肢」)の支持率は2~3%程度にとどまっており、連邦議会の議席獲得要件である「5%以上の得票率」に届いていません。

現在の基本的枠組みを維持するのであれば、ギリシャに対する何らかの支援は必要となります。
“野党の社民党と緑の党は、メルケル政権よりは寛容な支援策を公約に掲げる”という状況で、財務相発言はギリシャ追加支援を国民に隠してしたという点では批判されても、それ以上の支援内容についての議論にはあまりならないように思えます。

****南欧支援、深まらぬ議論 与野党、具体策を避ける****
欧州経済のカギを握るドイツの総選挙が22日に迫った。注目を集めるのは、南欧支援の行方だ。

「現政権の危機対策は失敗した。ギリシャなどの国は経済と失業率が悪化する負の循環が続くばかりだ」
最大野党・社会民主党のシュタインブリュック首相候補は1日のテレビ討論で、メルケル政権のユーロ政策を厳しく批判した。

これに対し、メルケル首相は「我々は(ギリシャなどを)助けるが、誤った連帯を示すのではなく、原則に従わなければならない」と主張。財政再建と構造改革を進めない限り、競争力不足と借金に依存する体質という危機の根本原因は解決できないという考え方を示した。

ユーロ圏などはギリシャに対し、2度にわたる計約2400億ユーロ(約32兆円)の支援策を実行中だ。しかし、景気悪化と失業率上昇には歯止めがかからないままだ。

こうした現状を踏まえ、野党の社民党と緑の党は、メルケル政権よりは寛容な支援策を公約に掲げる。
ユーロ加盟各国の国内総生産(GDP)比60%を超える債務を一括して管理し、各国が連帯で返済する「欧州債務償還基金」を設立する構想などだ。特に緑の党は、メルケル政権が断固拒絶するユーロ圏共同債の発行すら目標としている。

ただ、選挙戦を通じて、南欧支援をめぐる議論は深まっていない。
メルケル政権は、国民の不満が根強いギリシャ支援策が争点になることを嫌い、先送りを図っていた。

ユーロ圏の経済が今春、久々にプラス成長になったことも政権には追い風だった。1日の討論でメルケル氏は「新たなギリシャ支援策はありうると言っている」と述べ、3次支援の可能性は否定しなかったが、それ以上の踏み込んだ議論は避けている。

一方の社民党も、南欧支援の具体策を正面から訴えることはせず、政権批判ばかりに集中している。8月下旬にショイブレ財務相が新たな支援の必要性に触れると、政府が議論を先送りしてきたのをとらえて「国民に事実を隠蔽(いんぺい)し、うそをついている」との批判に終始したのが象徴的だった。これまで政権のユーロ政策に議会で賛成し続けてきた弱みもあり、負担増の必要性を訴えられないでいる。

ドイツ国内では、欧州連合(EU)が主導する形で南欧への財政支援が増えていくことについて、議会の予算決定権を規定している基本法(憲法)に違反するのではないか、との議論が出ている。違憲訴訟が相次ぐ中、連邦憲法裁判所の視線も厳しくなっており、いつ違憲判断が出ないとも限らない状況だ。

ただ、メルケル首相は「欧州統合への熱意が低い」との内外からの批判もあり、選挙が終われば、成長支援策や若年失業対策などにこれまでより力を入れる可能性はある。社民党が加わる大連立政権になればなおさらだ。【9月16日 朝日】
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既存方針の確認
なお、ショイブレ財務相の発言は、ギリシャ追加支援の必要性に言及した点では、ドイツが今後もギリシャの力になる、ギリシャを見捨てることはないというドイツ政府のメッセージととれますが、新たな債務減免は拒否するという内容でもあります。

ショイブレ財務相は、新たな債務減免は協議されていないとした上で、「ギリシャの債務減免は行われないが、それは来年何もする必要がないことを意味するわけではないと明確にしておく必要があった。政府は選挙を控えて分かっていることを話さないと言われるのを避けたかった」と説明しています。【8月25日 ブルームバーグより】

“財務相発言は、ギリシャの再建計画に不満を募らせているIMFへの反論でもある。IMFは最近、今後数年間で新たに発生するギリシャ政府の資金不足を埋める必要があり、持続可能性を実現するため債務の一部減免を行わなければならないとの予測を発表した。”【8月25日 ブルームバーグ】

要は、これまでの方針どおり、今後ともギリシャに改革を求める圧力をかけながらのぞんでいくという内容です。

ドイツの総選挙については、メルケル与党が第1党になるのは確実なものの、過半数を制するための連立のあり方で、いろんな選択肢が言及されているところです。

社民党との大連立、緑の党との連立という話になれば、ギリシャ支援についても多少のアレンジはあるでしょうが、基本的な枠組みは変わらないと思われます。
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インド  周辺国に親インド政権  国内経済は不調 野党首相候補モディ氏に高まる期待

2013-09-15 22:29:16 | 南アジア(インド)

(2008年7月26日 グジャラート州の主要都市アーメダバードで起きたイスラム過激派によるとされる連続爆弾テロ(死者49人)の現場で、シン首相(右)に状況を説明するのモディ・グジャラート州政府首相 “flickr”より By Shailendra Pandey http://www.flickr.com/photos/7372345@N08/2757544424/in/photolist-5cF8To-5Co93o-5Co9gm-5FEQWi-5VxAwP-5VBX1C-5XbcQi-5XbcSR-5XbcVk-5XbcZx-5Xbd32-5Xbd54-5Xbd8K-5Xbdca-5XfrYd-6a6JV3-6bKmRM-6dwU4m-6eryd8-6erydn-6erydr-6it5AR-6nWeWR-6nWeWT-6o1qPC-6Zqu8u-77QhBB-77UcgL-7qukLu-7Fahjg-ahWBSp-d4YfxW-8GzyVG-8afUMJ-8ag3Lb-bDAXVB-8mRP5S-8GwoA6-8Gwoot-8Gzz5y-8Gwp1V-8GwoVF-8GwoYe-8Gwot2-8GzzaL-8Gzz1j-8GwopV-8GwpaR-8Gwp8V-8GwoQa-8Gzzjb)

インドと中国のオセロ・ゲーム
7月にヒマラヤの「幸せの国」ブータンで行われた総選挙では、中国と接近する姿勢を見せた政権に対し、伝統的にこの地域に強い影響力を持つインドが経済支援を一部停止するという圧力をかけ、対インド関係を重視する野党の勝利に導きました。

****ブータン総選挙、政権交代 外交姿勢に不満増大****
ヒマラヤの小国ブータンで国民議会(下院、定数47)選挙があり、選管が14日、結果を正式発表した。野党の人民民主党(PDP)が32議席を確保して圧勝し、政権につくことが決まった。

下院選は2度目。民主化後、2008年から政権を担ってきたブータン調和党(DPT)は15議席と惨敗した。有権者数は38万1790人。投票率は66・2%と前回の79・4%を下回った。

2大政党が掲げる政策に大きな違いはない。国民総幸福(GNH)という国是に従い、物質的豊かさだけなく精神的な充足も重視した発展を目指す方針や、立憲君主制は維持される。

PDPの地滑り的な勝利の背景には、都市に集まる若者の失業増といった社会問題への不満に加え、DPT政権の対インド政策への懸念があったと見られる。

政治的にも経済的にも強い影響力を持つインドが最近、ブータンへの経済支援の一部を停止。この影響で家庭用ガスのブータンでの料金が今月から2倍に跳ね上がり生活を直撃した。インドと緊張関係にある中国に接近するDPT政権への警告、との見方が広がった。昨年、ブータンと中国の当時の首相が会談したのを機に、「国交樹立を目指すのでは」と一部で取りざたされていた経緯がある。

DPTは選挙戦で「対印関係を最も重視する姿勢は変わらない」と火消しに走ったが、PDPは外交政策への批判を強めていた。【7月15日 朝日】
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9月7日には、インド洋の島国モルディブで大統領選挙が行われ、現職のワヒド大統領は惨敗、昨年2月の軍と警察によるクーデターで失脚した前大統領のナシード氏が首位に立ち、ガユーム元大統領の弟、ヤミン氏との決選投票が28日に行われます。

この大統領選挙では、昨年2月のクーデターに対する国民の反発があらわれた形になっていますが、インド洋に積極進出する中国、これをけん制するインド・・・という両大国の影響を受けた選挙でもありました。

****モルディブ大統領選投票 中印との外交バランスに影響****
・・・・ワヒード政権下では、インドとの関係が後退。ナシード氏は、対印関係の改善を訴えている。中国の存在感が増す中、選挙結果は中印との外交バランスに影響を与えそうだ。

モルディブでは昨年、当時のナシード大統領が反政権派の判事を逮捕したため野党支持者の抗議デモが激化し、大統領は辞任に追い込まれた。同氏はクーデターだと非難している。

ワヒード副大統領が大統領に昇格し、その後、首都マレの空港のインド企業との運営開発契約を破棄。インドがモルディブ人の入国要件を厳しくした。富裕層がインドの病院を訪問するのが難しくなる中、中国は病院船を派遣し影響力を強めた。選挙は、過半数を獲得した候補がなければ決選投票が行われる。【9月7日 産経】
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ブータンと同様に、中国と接近した政権側が敗北し、インドの巻き返しと連動した野党側が勝利(まだ決選投票は行われていませんが)という構図ののようです。

オセロ・ゲームのように近隣諸国の政権を自国影響の強い政権にひっくり返すことを外交的成果と呼んでいいかは疑問もありますが、最近のインド外交はそうした意味の“成果”は出しているようです。

もっとも、インドと中国のオセロ・ゲームは続いていますので、最終的にどちら側にひっくりかえるかはゲームが終わってみないとわかりません。

ブータンでは、インド政府は8月1日、停止した家庭用ガスなどへの補助金を1カ月ぶりに復活させています。
また、インドを初訪問したブータンのトブゲイ首相は8月31日、インドのシン首相と初会談しましたが、ブータンの第11次5カ年開発計画と経済刺激策にインドが計500億ルピー(750億円)を支援することを定めた共同声明が発表されています。
再びひっくり返らないように・・・というところでしょうか。

【「国家財政の破綻を招いてでも権力にしがみつこうとしている」】
一方、インドの国内経済の方は、調子がよくありません。
そうした国内経済・社会情勢については、8月20日ブログ「インド  社会が貧しいまま、高齢化が進む」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130820)でも取り上げたところです。

****インド政府の経済諮問委、今年度の成長率見通し5.3%に下方修正****
インド首相の経済諮問委員会は13日、今2013/14年度(2014年3月末までの1年間)の成長率予想を5.3%と、従来予想の6.4%から大幅に下方修正した。
下方修正した予想は、中銀や民間エコノミストの予想とほぼ一致する。(後略)【9月13日 ロイター】
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インド経済の問題としては、財政赤字と通貨ルピーの下落が指摘されていますが、来年の総選挙を控えて、与野党あげて“バラマキ政策”に走っており、問題はますます拡大しているようです。

****印、8億人超に食糧供給 財政懸念 ルピー下落に拍車****
インドで通貨ルピーの下落に拍車がかかっている。

米金融緩和策が縮小に向かうとの観測により新興国から資金が流出する中、インド下院が国民の低所得層8億人以上にほぼ無料で穀物を支給する食糧安全法案を可決したからだ。
識者からは来年の総選挙へ向けた「シン政権のバラマキ政策」との批判が強く、市場が厳しく反応した形だ。

ルピーは最近、対ドルで史上最安値を更新してきたが、27日に3・7%の下落率を記録し、28日にはさらに下げ幅を広げて1ドル=68・8ルピーとなった。

26日夜に下院で可決された食糧安全法案は、人口の3分の2に当たる約8億2千万人に、コメなら1キロ3ルピー(約4円)、パンの材料となるモロコシなら1ルピーで上限を定めて供給するとした内容だ。

約1兆3500億ルピー(1兆9千億円)の予算が必要となるため、インドの財政赤字をさらに悪化させるとの懸念が広がり、28日にはシリア情勢の緊迫化が追い打ちをかけルピーは一層値を下げた。

野党は、貧困層による支持が確実な法案に反対すれば、来年の総選挙に向けて自ら首を絞めることになりかねず、多くが法案の修正を求めただけで賛成票を投じた。同法は今後、上院での可決などを経て発効される見通しだ。

インドは国内総生産(GDP)成長率が約5%と低迷。政府は昨年秋以来、総合小売業や通信業などで相次いで外資規制の緩和策に乗り出しているが、数々の別の規制や汚職体質が障壁となり、投資促進に至っていないばかりか、資金は流出している。

政治評論家のグルマシー氏は地元紙で、「法案は、与党連合が国家財政の破綻を招いてでも権力にしがみつこうとしているとの認識を市場に与えている」と批判している。【8月29日 産経】
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【「次期総選挙はラフル氏とモディ氏のどちらをトップとして選択するかの選挙」】
経済的に不調な「国民会議派」シン政権ですが、来年総選挙では野党「インド人民党」による政権交代も予想されています。

****インド人民党:次期首相候補にモディ氏擁立 来年総選挙で****
インドの最大野党・インド人民党は13日夕、国会議員による会合を開き、来年実施予定の総選挙へ向け、西部グジャラート州のナレンドラ・モディ州政府首相(62)を次期首相候補に擁立することを決めた。

ビジネス界やヒンズー教徒を中心にカリスマ的な支持を集めるモディ氏は、ニューデリーの人民党本部で幹部や支持者の祝福を受け、「選挙での勝利を期し、全力を尽くす」と述べた。

与党・国民会議派は、初代首相ネールのひ孫、ラフル・ガンジー党副総裁(43)を中心に選挙を戦おうとしている。「次期総選挙はラフル氏とモディ氏のどちらをトップとして選択するかの選挙」(政治アナリストのK・G・スレーシュ氏)の様相となっている。
総選挙の期日は発表されていないが、来年5月ごろに実施される見通しだ。

2001年からグジャラート州政府首相を務めてきたモディ氏は、外国企業誘致に積極的で、グジャラートを国内で最も高い成長率の州に育て上げたと評価されている。インドの経済紙「エコノミック・タイムズ」が今月6日に発表したインド財界トップ100人のアンケートでは、75%がモディ氏を次期首相として支持、ラフル氏の7%を大きく引き離した。

近年9%の高成長を続けてきたインドだが、今年は4%台と過去10年で最低となり、通貨ルピーも急落している。シン政権の経済政策の失敗が指摘されており、財界や中産層の間ではモディ氏への期待が高まっている。

モディ氏は、父が雑貨店主で、ごく一般的な家庭の出身。若いころからヒンズー至上主義組織「RSS」の活動家として頭角を現した。

主にヒンズー教徒の間で支持を得る一方、国民の13%を占めるイスラム教徒の間ではモディ氏への反発が強い。02年にグジャラート州で起き、イスラム教徒を中心に住民1000人以上が死亡した暴動で、「モディ氏が警察を出動させず、イスラム教徒の大量殺りくを許した」と非難されているからだ。

国民会議派のラフル・ガンジー氏は、曽祖父、祖母、父がインド首相を経験し、「ガンジー王朝の継承者」といわれている。だが、演説に覇気がなく、「経験不足」が指摘されている。

04年以降、在任期間が10年近くになるシン首相(80)は、選挙の結果に関わらず来年の任期満了で退任する見通しだ。【9月14日 毎日】
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インド人民党の首相候補に擁立されたグジャラート州のナレンドラ・モディ州政府首相については、6月14日ブログ「インド  次期首相候補として注目されるモディ・グジャラート州政府首相の消えない過去」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130614)で取り上げました。

経済手腕に期待する向きが多い一方で、過去のイスラム教徒虐殺への関与の疑惑が消えない人物です。

****2ケタの経済成長*****
・・・・インド経済が急速に鈍化しているにもかかわらず、グジャラート州は2ケタの成長を遂げている。インドの大半の地域を苦しめている恒常的な電力不足も、グジャラート州では無縁だ。

企業関係者は、モディ首相によってグジャラート州でのビジネスがスムーズに進むようになったと評価している。同州では、工場建設のための土地取得が順調に進むほか、インドの他の州で見られがちな官僚主義的対応による遅れが比較的少ないという。(中略)

もっとも、グジャラート州は以前からインド経済の牽引役を果たしてきたとして、同州の経済的成功はモディ首相の手柄ではないと指摘する向きもある。
ただ、モディ首相を批判する人々ですら、グジャラート州に新規事業を勧誘し、大企業を誘致するため2年ごとに投資家向け会合を開いてきた首相の姿勢は評価に値するとしている。【2012年 10月 30日 ロイター】
******************

死者が2000人にも達したとも言われる2002年暴動への関与については本人は否定していますが、当時、モディ政権の閣僚だった人物がヒンズー教徒に凶器を渡してイスラム教徒攻撃をそそのかしたとして、禁固28年の刑を受けています。

ただ、選挙戦でモディ氏のイスラム教徒への対応を批判すれば、結果的に、多数派のヒンズー教徒をモディ氏支持へ動かすことになるのかも。

なお、“今でも、母親は小さなアパートに住み、兄弟も政府の事務員や小さな小売店の店主。家族ぐるみの汚職が大きな問題となっているインド政界で、クリーンなイメージも人気の理由の一つだ”【ウィキペディア】という側面もあるようです。

モディ氏の成長戦略で、イスラム教徒の経済・社会的地位が改善されるかどうか疑問を感じますが、“覇気がなく、「経験不足」が指摘されている”ラフル・ガンジー氏では、「ガンジー王朝の継承者」の威光をもってしても、モディ氏へインド経済立て直しを期待する空気を覆すのは難しいように思えます。
来年5月頃の話ですから、まだわかりませんが。
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オスロ合意から20年  進展が期待できないパレスチナ和平交渉

2013-09-14 22:38:45 | パレスチナ

(オスロ合意調印後に握手をするイスラエル・ラビン首相とPLOアラファト議長。中央は仲介したビル・クリントン米大統領 【ウィキペディア】)

交渉は再開したものの・・・
現在のパレスチナ問題の枠組みをつくったオスロ合意が1993年9月13日、アメリカ・ホワイトハウスでイスラエルのラビン首相とパレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長によって結ばれてから20年が経過しました。

このオスロ合意によって、イスラエル軍は第3次中東戦争で占領したガザ、ヨルダン川西岸両地区から撤退してパレスチナ側が暫定自治を行うことや、境界線や最終地位を巡る交渉を進めることが合意されました。

合意内容は下記の2点です。
1.イスラエルを国家として、PLOをパレスチナの自治政府として相互に承認する。
2.イスラエルが入植した地域から暫定的に撤退し5年にわたって自治政府による自治を認める。その5年の間に今後の詳細を協議する。

しかし、95年11月にイスラエル・ラビン首相が和平反対派によって暗殺、2000年にはイスラエルのシャロン・リクード党首・外相(後に首相)が1,000名の武装した側近と共にアル・アクサモスクに入場したことをきっかけとして第2次インティファーダ(民衆蜂起)が勃発、04年11月にはアラファト議長が死去、06年のパレスチナ評議会選挙でのハマスの勝利でイスラエルとの関係悪化・・・と和平への機運は低下し、08年11月のイスラエル軍のガザ侵攻で交渉は中断しました。

今年8月、アメリカの仲介で直接和平交渉再開にこぎつけたものの、先行きの見通しはなく、楽観的な見方は皆無という状況です。

始まったばかりの交渉も、相次ぐイスラエル側の入植活動発表や衝突発生などで、交渉を継続していくことすらおぼつかない・・・という雰囲気です。

***イスラエル部隊がパレスチナ人3人を射殺、当日の和平交渉が中止****
(8月)26日に予定されていたイスラエルとパレスチナによる中東和平交渉は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のカランディア難民キャンプで同日未明に起きた衝突でイスラエル治安部隊が発砲してパレスチナ人に死傷者が出たために中止された。

病院関係者によれば、イスラエル治安部隊の発砲で3人が死亡し、19人が負傷した。いずれも実弾で撃たれたという。

パレスチナ高官はAFPに対し、「今日(ヨルダン川西岸の)エリコで開催予定だった交渉は中止された。イスラエルが今日、カランディアで犯罪を行ったからだ」と語った。同高官は、次の交渉の日取りについては言及しなかった。

パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長の報道官ナビル・アブ・ルデイナ氏は、「今日カランディアで起きたことは、イスラエル政府の真意の表れだ」とAFPに語った。同氏はまた、和平交渉の崩壊を防ぐため米政権に「真剣かつ迅速な行動」を取るよう呼びかけた。【8月27日 AFP】
*****************

26日予定の交渉が流れたあと、どうなったのかは知りませんが、ここのところイスラエルはシリア攻撃問題で報復に備えて国民にガスマスクを配布するような状況でしたから、パレスチナ交渉どころではなかったのでは・・・とも思われます。

入植地建設「境界を画定させる交渉の最中に、本末転倒の行為」】
当然ながら、パレスチナ側はイスラエルの入植活動を強く批判しています。

****オスロ合意:20年 パレスチナ高官、入植続行に警告****
 ◇国際刑事裁判所提訴も
イスラエルとパレスチナが調印した初の和平協定「オスロ合意」から、13日で20年を迎えるのを前に、パレスチナ自治政府・アッバス議長顧問で元外相のナビル・シャース氏(75)が、毎日新聞と会見した。

シャース氏は、イスラエルとパレスチナが米国の仲介で7月、約3年ぶりに再開した和平交渉について、イスラエルによるユダヤ人入植地の建設が障害となり、「パレスチナ側に不満が高まっている」と強調。

交渉が決裂した場合、入植活動の違法性を訴えるため、国際刑事裁判所(ICC)に提訴することになるだろうとの認識を示した。【ラマラ(ヨルダン川西岸パレスチナ自治区)で、大治朋子】

「交渉再開の目的がパレスチナ国家の樹立というなら、イスラエルはまず、入植地建設を中止すべきだ」。シャース氏は、そう繰り返した。

パレスチナ側は当初、交渉再開の条件として入植活動の凍結を求めていたが、米国の説得もあり、事実上放棄した。ただ、米国はイスラエルに「抑制」を求めたとされ、交渉中は目立った入植活動は行われないとの予想もあった。

だがイスラエルは交渉再開直後の8月11日、ヨルダン川西岸地区などに入植住宅約1200戸を建設する入札を行うと発表。翌12日にも、東エルサレムに約900戸を建設する計画を承認した。

イスラエル側は、ただちに建設に結びつく動きではなく、パレスチナ国家樹立後は「イスラエル領となるであろう地域で、実質的な影響はない」との認識だとされる。

だが、シャース氏によると、「境界を画定させる交渉の最中に、本末転倒の行為」として、野党に加え、アッバス議長の率いる主流派組織ファタハ内部にも不満が高まっているという。

交渉が決裂すれば、内部の圧力もあり、アッバス議長は「ICCに加盟申請し、イスラエルの入植活動などの違法性を訴え、提訴することになるだろう」という。

また、イスラエルが協議再開に応じたのは「シリアやエジプトが不安定化するなか、米国の軍事的支援が必要なため」であり、「オバマ大統領自身がもっと交渉に関与しない限り、成果は望めない」と述べた。【9月12日 毎日】
******************

【「イスラエル世論がいま望むのはただ、パレスチナ人との「離婚」だ」】
一方、イスラエル側には、パレスチナ自治政府との交渉への関心はほとんどないようです。

****世論は「離婚」望んでる 元イスラエル外相、シュロモ・ベンアミ氏****
オスロ合意は、イスラエルとパレスチナ解放機構が初めて互いを承認した点で突破口だった。そして、イスラエルとヨルダンとの和平につながり、湾岸諸国などのアラブ世界への門も開かれた。

その半面、合意はパレスチナ人にガザとエリコの暫定自治だけは与えたが、それ以上の明確な約束はなかった。そもそも、「占領者と被占領者が交渉で信頼を構築する」という偽りに基づいているのだ。

イスラエルは占領を続けた。しかし、パレスチナ自治政府ができたために国際社会から支援が入るようになり、占領のコストがかからなくなった。

ラビン首相がアラファト議長と交渉したのは、当時起きていた第1次インティファーダ(反イスラエル民衆蜂起)を終わらせるため、影響力のある人物が必要だったからだ。
一方、アラファト氏の狙いは、地元のリーダーを排除し、当時チュニジアにいた自分たちを舞台の中央に導くことだった。

私は政府にいたとき、初めて最終地位についての交渉を行った。交渉を通じて和平の本当の値段が明らかになった。和平プロセスのスローガンは「土地と平和の交換」。イスラエルが占領した土地すべてを平和と交換するということだ。

だが、ラビン氏はすべての土地を返そうとは考えていなかった。彼が生きていれば和平が実現したと思うのは無意味だ。彼は「和平の聖人」ではない。和平を真剣に考えたが、その代価をすべて支払う準備はできていなかった。

一方、パレスチナ側には、闘争と交渉を同時にすれば和平を達成できると考える人がいた。それはイスラエルにとって耐え難いことだった。

イスラエル世論は、自分たちが譲歩をして、その揚げ句に第2次インティファーダを招いたと信じている。それが和平派の終わりを招いた。

最近、和平交渉が再開したが、だれも関心を持っていない。和平が達成されても、されなくてもかまわない。まるでパレスチナ人が月の反対側にでもいるかのように、見ようともしないのだ。イスラエル世論がいま望むのはただ、パレスチナ人との「離婚」だ。【9月13日 朝日】
******************

“だれも関心を持っていない”イスラエルを交渉の席につかせるにはアメリカの強い後押しが必要ですが、シリア問題で手いっぱいのアメリカにその余力はなそうです。
シリア問題を軸に中東情勢の劇的な変化がない限り、大方の見方のように、当面あまり期待はできそうにありません。
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ドイツ  ムスリム少女の水泳授業拒否を認めず

2013-09-13 22:16:25 | 欧州情勢

(イスラム教徒女性用の水着「ブルキニ」 日焼け防止・紫外線対策として、日本でも受けるのではないでしょうか http://b-aging.com/wp/2013/03/)

ドイツは多文化国家か、「多文化主義は失敗した」か?】
ドイツには、トルコなどおよそ50カ国からやってきた約400万人のイスラム教徒が暮らしています。もともとは、ドイツ国内の労働力不足を補うべくドイツ自身が呼び込んだ人々です。
これらのイスラム教徒はくの町にイスラム教共同体を形成し、イスラムの祈祷所・集会所は2600カ所にのぼるとされています。

欧州各国における右傾化、移民排斥の動きはしばしば取り上げていますが、ドイツにおいてもイスラム教徒を巡る文化的・経済的軋轢が高まっています。

2010年10月3日、クリスチャン・ウルフ大統領(当時)は北部ブレーメンで行われた東西ドイツ統一20周年の記念式典で「わが国はもはや多文化国家だ。イスラムもドイツの一部だ」と演説し、現在はイスラム教もドイツの一部だとの認識を示しました。ウルフ大統領は、ドイツ国民にイスラム系の人びとに対する寛容さを求めると同時に、イスラム系移民に対してもドイツ社会に真に溶け込む努力が必要だと語り、イスラム系住民のドイツ社会への融合を目指す努力を訴えました。

この発言に反発する保守派の意向を受ける形で、メルケル首相は同年10月16日、与党キリスト教民主同盟(CDU)の集会で、「ドイツは移民を歓迎する」と前置きした上で「多文化社会を築こう、共存共栄しようという取り組みは失敗した。完全に失敗した」と述べ、喝采を浴びました。

このあたりのドイツの苦悩は、2010年10月ブログ“ドイツ メルケル首相「多文化主義は失敗した」 移民の「社会適応」と「選別」重視へ”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101021)で取り上げたところです。

そんなドイツにおけるイスラム教徒との文化摩擦に関する話題です。

****ムスリム少女の水泳授業拒否を認めず、「ブルキニ着用を」 独裁判所****
ドイツ東部ライプチヒの連邦行政裁判所は11日、プールで上半身裸の男子生徒の近くにいると落ち着かないとして水泳の授業を受けないことを認めるよう求めていたイスラム教徒の女子生徒の訴えを退ける判断を下した。

女子生徒は水泳の授業を受けない権利があると主張。女子生徒の弁護士は聖典コーランによれば原告の女子生徒は自分の体を男子に見せることを禁じられているだけでなく、上半身裸の男子を見ることも禁じられていると主張していた。

しかし裁判所は、夏になれば学校の外にも上半身裸の男性が出現するという「社会の現実」を学校が抑制することはできないと指摘するとともに、全身を覆う「ブルキニ」という水着を着れば女子生徒は宗教的信念を守ることができると判断した。

モロッコ出身でドイツ西部フランクフルトの学校に通っている女子生徒は、11歳のとき水泳の授業を拒否し、それに応じて低い成績をつけられていた。ドイツでは2012年9月にも中部のカッセルの行政裁判所で同様の判決が出ている。【9月12日 AFP】
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イスラム教の戒律は女性に対し、近親者以外には肌を露出しないよう定めているとされていますが、その点は、手足の先と顔しか露出しない特別な水着「ブルキニ」を着用することで一応はクリアできます。

今回は、更に“上半身裸の男子を見ることも禁じられている”という主張も加わっているようです。

「ブルキニ」とは、「ブルカ」とビキニを合わせた造語で、頭髪を隠すベール、体を覆うコート、ズボンからなる、体の線などを隠すようデザインされたイスラム教徒用の女性水着です。

学校側がブルキニ着用を認める形でイスラムにある程度の配慮をしているのであれば、それ以上の“上半身裸の男子を見ることも禁じられている”云々は、いささか自己主張に過ぎるように思えます。

“夏になれば学校の外にも上半身裸の男性が出現する”という裁判所の言い様も強引ですが、訴えを起こした女性がそこまでイスラム的価値観を守りたいということであれば、そもそも非イスラム社会で生活することに無理があるのではないか、そこまで非イスラム社会に求められても困る・・・というのが率直な印象です。

優先する排除の論理
今回は、ブルキニを着用して水泳授業に参加すべしとのドイツ司法の判断ですが、以前フランスでブルカ着用禁止が話題になった頃、今回とは逆に、ブルキニ着用で泳ごうとしたイスラム系女性のプール使用を拒否するという事件もありました。

****イスラム水着」の女性、プール入場を拒否される フランス*****
パリ郊外エムランビルにあるプールが、全身の大部分を覆うイスラム教徒の女性向け水着「ブルキニ」を着用した女性の入場を拒否し、論議を呼んでいる。

折しもフランスでは、ニコラ・サルコジ大統領が6月、全身を覆う衣服ブルカについて「フランスでは歓迎されない」と発言し、ブルカ着用禁止の是非を検討する議員32人からなる特別委員会が設立されるなど、イスラム教徒女性の服装をめぐる論争が激化しており、この一件が火に油を注ぐ格好となった。

エムランビルの地元当局が12日明らかにしたところによると、女性は7月にもこのプールを訪れブルキニを着用したが、その時は入場が許可された。ところが、8月に再度訪れた際には、プール側は着衣のままの入場を禁じるという衛生上の規則を適用し、入場を拒否した。

パリジャン紙によると、女性はイスラム教に改宗したフランス人で、プール側の決定を不服として提訴する構えだという。「これはまさに人種差別です。変化をもたらすために戦います。もし負ければ、フランスを出国することも検討します」(女性の談話)

地元市長は、ブルキニはコーランに載っていないためイスラム教の水着ではないとし、今回の問題はイスラム教徒は関係ないと主張している。【2009年8月13日 AFP】
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以下は、この問題を取り上げた2009年8月16日ブログ“イスラム社会との軋轢 「ブルカ」に「ブルキニ」、そして「ズボン」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090816)からの再録です。

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この問題を報じた地元紙のホームページには、「宗教的差別ではなく、公衆衛生の問題」「(宗教などへの)寛容の精神がない」などと賛否両論が殺到。地元当局者は「(ひざ上まである半ズボンの水着なども認められないように)イスラム教とは関係なく、衛生上の問題だ」と訴えているそうです。

日本の公衆浴場などでも水着着用を禁じているように、“衛生上の問題”というのは理解できます。

ただ、こうした議論は、どういうスタンスに立つのか、排除の立場か融和の立場か・・・という議論の出発点で決まってくるように思えます。

イスラム社会の浸透を苦々しく思っており“排除”の立場に立っていれば、“衛生上の問題”で突っぱねることになりますし、イスラム社会を受け入れて“融和”の方向でと考えていれば、問題の特殊性を考慮して、衛生上の条件を付加する形でなんらかの妥協も可能な問題かと思われます。
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教育の場における宗教の問題
もっとも、宗教と教育の関係は、判断が難しい問題が多々あります。
ドイツのブルキニ訴訟で連想したのは、日本の「エホバの証人」の生徒を巡る「神戸高専剣道実技拒否事件」です。

聖書の教えを重視する「エホバの証人」は、多数派キリスト教とはやや異なる聖書解釈をしています。
彼らの解釈では、剣道の体育授業は聖書の教えに反するので受けられないという判断になります。
事件の概要は以下のように説明されています。

****神戸高専剣道実技拒否事件*****
1990年に神戸市立工業高等専門学校に入学した学生には、「エホバの証人」の信者5名がいた。この年に同校は新校舎に移転したことにともない、体育科目の一部として格技である剣道の科目を開講した。

この科目に対して5名は、彼らの信仰するところの聖書が説く「彼らはその剣をすきの刃に、その槍を刈り込みばさみに打ち変えなければならなくなる。国民は国民に向かって剣を上げず、彼らはもはや戦いを学ばない」という原則と調和しないと主張し、剣道の履修を拒否した。

彼らもただ授業を拒否しただけでなく、病気で体育が出来ない学生のように授業を見学した上でレポートの提出をもって授業参加と認めるように体育教師とかけあったが、認められなかった。
そのため、5名の信者が体育の単位を修得できず同校内規により原級留置となった。

翌年、信者5名のうち3名は剣道授業に参加したため進級出来たが、1名は自主退学、もう1名(原告)は前年と同様な経緯をたどったため再び原級留置とされた。同校の学則は2年連続して原級留置の場合は退学を命ずることができるという内規があり、その内規により退学処分を命じられた。【ウィキペディア】
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1審の神戸地裁は退学処分を正当とする学校側の主張を認め、原告の請求を棄却しました。
しかし、大阪高裁および最高裁は、地裁の判決を破棄し、学校側による一連の措置は裁量権の逸脱であり違憲違法なものであったと認定し、退学処分を不当とする原告の主張を認めています。


他の体育科目による代替的方法が可能であり、実際に他の学校では同様な格闘技の授業を拒否する学生に対し代替措置が行われているということから、原告勝訴となったようです。
また、代替措置を講じることは、特定の宗教に対する援助を禁じた憲法20条3項の政教分離の規定には反しないとしています。

ドイツのブルキニ事件では、ブルキニ着用という学校側の“代替措置”がとられている・・・ということになるでしょうか。
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チリ  もうひとつの「9.11」 過去の真相究明と国民和解への道

2013-09-12 21:52:51 | ラテンアメリカ

“軍部はあたかも外国を占領した軍隊のように振舞った。9月の末までサンチアゴの街角には骨を砕かれ爪をはがされた死体がころがっていた。チリ中央部を流れているヌブレ川を渡ろうとした農夫たちは、腕を縛られたままの首なし死体がいくつも川を流れているのを目撃した。タルカゥアノ港の漁師たちは、チリ海軍によって海に投げ込まれた死体が人肉の塊となって漁網にかかるようになり、操業を停止した。”(トマス・ハウザー著、古藤晃訳『ミッシング』より)【ラジオ・チリ http://homepage3.nifty.com/Margarete//kaigen/chili_730911-001.html

【「拷問は共産主義を根絶するために必要なのだ。祖国の幸福のために必要なのだ。」】
アメリカでは2001年9月に起きた同時多発テロから11日で12年を迎え、「9.11」の追悼行事が行われましたが、南米チリでは40年前、もうひとつの「9.11」がありました。

サルバドール・アジェンデは、1970年4度目の左翼統一候補としてチリ大統領選に出馬し,小差で当選。
社会党,共産党などのいわゆる人民連合を率いて世界で初めて議会制民主主義に基づく社会主義への移行を試み,アメリカ系資本下の銅産業の無償国有化,主要産業・企業の社会化,農地改革等の急進的な諸政策を実施し世界の注目を集めたました。

しかし、左右の政治対立、社会主義化に伴う経済の混乱のなかで、1973年9月11日,アメリカの支援も受けた軍部・警察によるクーデタが起き,戦闘中の大統領官邸で死亡,政権は崩壊しました。
この軍事クーデターで成立したピノチェト政権下では、多数の左派市民が誘拐され拷問を受け、死亡しています。

アジェンデ政権の崩壊、軍事政権下の弾圧については、2012年2月9日ブログ「中南米軍事政権とその負の遺産 チリ、グアテマラ、アルゼンチン、そしてパナマ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120209)でも触れたことがあります。

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現在の中南米は左派政権が主流ですが、かつては右派軍事政権が多く存在していました。中南米の軍事政権・軍事クーデターということでは、個人的には73年のチリ・アジェンデ政権の軍事クーデターによる崩壊を思い出します。

東西冷戦のなかにあって、社会主義政権としては初めて自由選挙によって合法的に政権を獲得したアジェンデ政権、軍事クーデターに抵抗して大統領官邸に籠城、自ら銃を手にとって応戦し、死んでいった文民大統領(最近の調査で、直接の死因は自殺と言われています)、クーデターさなかでの国民へ向けた最後の演説・・・、そうした悲壮なイメージと、その後のチリ・クーデターを扱った映画「サンチャゴに雨が降る」(75年)「ミッシング」(82年)の影響でしょうか。

ニクソン米大統領・キッシンジャー国防長官など、当時の反社会主義アメリカ政権の意向も反映したクーデターでしたが、もちろん、アジェンデ大統領は悲劇のヒーローという訳ではなく、アジェンデ政権当時、国有化政策や土地問題などの改革でチリ経済・社会はかなりの混乱状態にあり、その施策にも問題はあったとも指摘されます。

この軍事クーデターを起こしたのは、後に大統領に就任するピノチェト将軍ですが、クーデター直後に戒厳令が敷かれ、アジェンデ支持派の多数の市民がサッカースタジアムに集められ、容赦なく虐殺されたと言われています。

また、その後もピノチェト政権下で、多数の左派市民が誘拐され拷問を受け、死亡していますが、そうした拷問行為に対して抗議した聖職者に、ピノチェト大統領は「あんた方(聖職者)は、哀れみ深く情け深いという贅沢を自分に許すことができる。しかし、私は軍人だ。国家元首として、チリ国民全体に責任を負っている。共産主義の疫病が国民の中に入り込んだのだ。だから、私は共産主義を根絶しなければならない。(中略)彼らは拷問にかけられなければならない。そうしない限り、彼らは自白しない。解ってもらえるかな。拷問は共産主義を根絶するために必要なのだ。祖国の幸福のために必要なのだ。」【ウィキペディア】と、拷問を正当化したそうです。
(2012年2月9日ブログ再録)
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その後チリは、1990年に文民政権に復帰し、中道・中道左派政党連合による政権が続いていましたが、2010年に右派連合のピニェラ現大統領に代わっています。

ピニェラ大統領「過去を忘れてはならないが、そのトラウマを乗り越える時がきた」】

****チリ軍事クーデターから40年、大統領が和解を呼び掛け****
南米チリは11日、サルバドール・アジェンデ大統領(当時)が戦闘中に死亡し、アウグスト・ピノチェト陸軍司令官が権力の座に就いた1973年9月11日のクーデターから40年を迎えた。

チリではいまなお分裂が続いており、10日から11日朝にかけて首都サンティアゴの内外で混乱が発生。警察の発表によると車やバリケードに火をつけたデモ隊の少なくとも68人が逮捕された。

セバスティアン・ピニェラ大統領は記念演説で「過去を忘れてはならないが、そのトラウマを乗り越える時がきた。私たちが子供たちに残せる最良の遺産は、和解した平和な国である」と述べ、国民に和解を訴えた。

民政に移管した1990年以来チリ初の右派の元首である同大統領は、和解のためにはチリ国民が「真実と正義の道を進み続ける」必要があると強調した。

17年続いた独裁時代に3200人が死亡し、約3万8000人が拷問されたチリでは、当時の真相を全て明らかにするよう求める圧力が強まっている。
ピノチェト元大統領は裁判にかけられることなく2006 年に死亡、チリの司法制度の下ではピノチェト時代の犯罪に関わる約1300件が未解決となっている。

当時から1200人近くが行方不明のままであり、それを追悼して10日には約1000人が大統領府近くで地面に横たわった。【9月12日 AFP】
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【「連行され、行方不明となった愛する人々がどうなったのかが分かるまで、私たちは休むことはない」】
8日には、弾圧の真相究明を求める人々による大規模なデモも行われています。

****人権求めて6万人がデモ、クーデターから40年のチリ****
チリの首都サンティアゴ市内で8日、アウグスト・ピノチェト司令官が率いた軍事評議会によるクーデターから11日でちょうど40年になるのに合わせ、約6万人が人権を求めてデモ行進した。

デモ参加者らは、クーデター後の軍事政権下で死亡したり誘拐されたりした親族の写真を掲げて、市内を行進。
主催団体の代表は「40年たったが、私たちはいまだに真実と正義を求めている。連行され、行方不明となった愛する人々がどうなったのかが分かるまで、私たちは休むことはない」と語った。

2時間にわたったデモ行進の後には、フードをかぶった参加者の一団がバリケードを設置し、警察機動隊と衝突。一部の警官はデモ隊から投石を受けたり、棒で殴られたりした。機動隊は催涙ガスや高圧放水などを使って鎮圧に当たった。【9月9日 AFP】
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過去の重み
国民和解は重要ですが、そのためには過去の清算が必要です。
ピニェラ大統領の「過去を忘れてはならないが、そのトラウマを乗り越える時がきた」という主張もわかりますが、弾圧された側とそうでない側(別にピニェラ大統領が弾圧に加担した訳ではありませんが)では、過去の持つ重みが異なります。弾圧された側にとっては“今も続く過去”であり、「もう、いいじゃないか・・・」という話にはなりません。

日本と中国・韓国の間の歴史認識を巡る対立の根底にも、そうした支配された側と支配した側の間の“過去の重み”の違いがあるのでしょう。

しかし、その“過去の重み”の違いを現在の政治対立を有利にする手段として使っていては、いつまでも和解は手にできません。
双方にバランス感覚が求められるところですが・・・なかなか。
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アメリカ  オバマ大統領「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」

2013-09-11 22:29:18 | アメリカ

(9月9日 ワシントン シリア攻撃反対論には、リベラルな戦争反対という考え方と、草の根保守に強い「シリアのことなど、シリア人にやらせておけ。アメリカの税金を使う必要はない」という考え方の、両極の反対論が混在しています。 “flickr”より By Jamelle Bouie http://www.flickr.com/photos/40050039@N02/9710089019/in/photolist-fN3KaV-fLrggY-fMu251-fM7tP5-fNT7Xy-fJSwJX-fNh8QF-fNyEMC-fLSJjV-fNfWhR-fNfW5i-fNxvs9-fNxvkY-fNfWdH-fNfVRe-fNfW9P-fKsfvr-fKTTai-fNK3yP-fNK3wX-fKxSkD-fKQu3j-fKxS2B-fKxVZ6-fKQwd1-fKQvqh-fKxVKH-fKxUy4-fKxR4P-fKxWen-fKQref-fKQxBN-fKxRUn-fKQtVA-fKQuG3-fKQxnd-fKQua7-fKQrn7-fKxV4t-fKQv3N-fLc8Cq-fLqzs4-fNh9bH-fNyJeG-fNhaGP-fNyJx3-fNyFQU-fNyF5Y-fNh7ai-fLduZs-fKWyWY)

【「米国は世界の警察官ではない」が、国際規範を維持する必要性も強調
アメリカ・オバマ大統領はシリア問題に関する10日のテレビ演説で、シリアの化学兵器を国際管理するとしたロシア提案を受け、アサド政権の保有する化学兵器の完全廃棄に向けた国連安保理決議の成立を目指す考えを明らかにしました。

アサド政権への圧力継続のため攻撃態勢の維持しながらも、シリア攻撃を承認する決議案の採決延期を議会に求め、当面は外交努力を優先させる考えです。
ロシア提案の沿った外交で決着できれば、シリア攻撃という、心ならずも振り上げたこぶしをうまくおろすことができます。

ロシア提案が現実化するのか、シリアの時間稼ぎに終わるのかはこれからの交渉次第ですが、オバマ大統領はこの演説のなかで、これまでアメリカが担ってきた「世界の警察官」の役割を今後は担わないという考えを明らかにしています。

****米大統領:「世界の警察官」否定****
オバマ米大統領はシリア問題に関する10日のテレビ演説で、「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」と述べ、米国の歴代政権が担ってきた世界の安全保障に責任を負う役割は担わない考えを明確にした。

ただ、「ガスによる死から子供たちを守り、私たち自身の子供たちの安全を長期間確かにできるのなら、行動すべきだと信じる」とも語り、自らがシリア・アサド政権による使用を断言した化学兵器の禁止に関する国際規範を維持する必要性も強調。「それが米国が米国たるゆえんだ」と国民に語りかけた。

大統領は、「(シリア)内戦の解決に軍事力を行使することに抵抗があった」と述べつつ、8月21日にシリアの首都ダマスカス近郊で化学兵器が使用され大量の死者が出たことが攻撃を表明する動機だと説明した。「世界の警察官」としての米国の役割についても「約70年にわたって世界の安全保障を支えてきた」と歴史的貢献の大きさは強調した。【9月11日 毎日】
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【「中東の小国にかまっている時間はない」】
シリアの問題にかかわらず、イラク・アフガニスタンで疲弊したアメリカ社会において内向き志向が強まっていることは以前から指摘されてるところです。
そうした社会の雰囲気を背景に、すでにリビアでも、英仏を全面にたててアメリカは背後に回る姿勢をとっていました。

****戦争嫌だ、冷める米市民 同時多発テロから12年****
2001年9月に起きた米同時多発テロから11日で12年。テロは米国の軍事・外交政策を変えただけでなく、市民の意識も大きく揺さぶった。

米国は今、シリアへの軍事介入を検討しているが、世論の支持は際立って低い。一方、米国がテロの報復として攻撃したアフガニスタンでは、平和はまだ戻らない。

 ■シリア反戦デモ相次ぐ
7日、全米各地でシリア攻撃に反対するデモが繰り広げられた。
ホワイトハウス前では100人以上が「シリアに手を出すな」などと連呼した。大学生のサム・バルネスさん(23)は「イラク戦争でもNSA(米国家安全保障局)の情報収集でも、ウソをついた政府を信用できない」。メデア・ベンジャミンさん(60)は「この10年余りで米市民は戦争に疲れたのではなく、学んだ。同じことを繰り返すのはもう嫌だ」と話した。

12年前にやはりテロの標的となったニューヨークでも約千人がタイムズスクエアに集まり、行進。過去2度の大統領選でオバマ氏に投票したというウォルター・ドーンさん(73)は「ブッシュが始めた戦争を終わらせるため、私はオバマを支持した。新たな戦争を始めるためじゃない」。

03年に始まったイラク戦争の前と比べ、各地のデモの規模はずっと小さい。ただ今回は、軍事行動を積極的に支持する人が極端に少ない。デモ行進の脇で記念写真を撮っていた男性観光客(32)はシリアに関心がないという。「なぜ米国だけが『世界の警察官』の役割を担わなければならないのか。この国には大学を出ても就職できない若者がごまんといる。中東の小国にかまっている時間はない」

 ■武力行使、反対が過半数
今回の軍事行動への支持の少なさは、世論調査などの数字からも明白だ。
ギャロップ社が6日に発表した調査では武力行使賛成が36%に対し、反対は51%。9日公表のCNNの調査では「米議会は武力行使を承認すべきでない」が59%だった。

アサド政権による化学兵器使用は多くの人が事実だと思っているが、「空爆は米国にとって成果をあげない」「シリア内戦にかかわるのは国益にそわない」とした人がともに約7割いた。アフガニスタンやイラク戦争の教訓が意識に染みこんでいるようだ。

8月末以降、世論調査では一貫して武力行使への反対が賛成を上回る。これは近年見られない傾向で、過去30年の主な武力行使への支持率をまとめたギャロップ社によると、11年のリビア空爆を除くすべてで、賛成が過半数を占めていた。例えば01年のアフガニスタン攻撃では90%が賛成。リビア空爆ですら賛成は47%に上っていた。

ニューヨーク・タイムズ前編集主幹で現在はコラムニストのビル・ケラー氏は「米国民がイラクとアフガンで戦争に疲れているのは事実だが、それだけではない」と分析。景気低迷と政治の機能不全による自信喪失や排他的な動きもあり、内向きの「孤立主義」につながっているとみる。

今年1月、ピュー・リサーチセンターが行った調査で、「オバマ大統領が集中すべき問題」に「外交」と答えたのは6%に対し「内政」は83%。07年は両者がほぼ同率だったのと比べると意識の変化は大きい。

同センター設立者のアンドリュー・コーハット氏は「米国民に国際問題に関心を持たせることは、今や最も難しい状態にある」と指摘する。【9月11日 朝日】
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自国の兵士が外国に行けば花束で歓迎されるなど、そんな幻想をもう抱いていない
「オバマ大統領が集中すべき問題」に「外交」と答えたのは6%に対し「内政」は83%・・・・という状況では、新たな戦争など始める訳にはいきません。
ただ、大統領自ら「米国は世界の警察官ではない」と明言する意味合いは小さくないでしょう。

****アメリカが警官をやらなくなると世界は困る****
イギリス帝国主義の代表的な詩人ラドヤード・キップリングは1899年、アメリカあてに詩文を数行書いた。「白人の責任を担え」と。そして、「平和のための野蛮な戦いを 飢餓の口を満たし 病を食い止めよ」と。現在のアメリカでは、大統領は黒人だし、キップリング的な帝国主義の表現をあえて使ってみせる知識人など表舞台にはいない。

しかし世界の治安維持においてアメリカは特別な責任を負っているという考え方は、今なお健在だ。シリアへの軍事行動を呼びかけたバラク・オバマもそういう発想だった。
「我々はアメリカ合衆国なのだ」と大統領は宣言し、アメリカは1945年以降の世界秩序を創り、守るという特別な役割を担ってきたのだと説明した。

しかしアメリカは今でも世界の警察官の役割を演じ、「平和のための野蛮な戦い」に加わる意思があるのだろうか? 米連邦議会がシリア介入を審議する間、この疑問は影を落とし続ける。
オバマ氏自身が攻撃をためらったように、そしてアメリカ国内の世論調査結果が示すように、アメリカ人の多くは警察官としての役割に深い疑問を抱いている。

イギリスはシリアへのいかなる軍事介入にも参加しないという英議会の決断しも、アメリカの判断に影響するだろう。
イギリス人の多くは英下院の決定について、世界の治安維持は自分たちの仕事だというポスト帝国主義的な発想をこれでイギリスはついに捨て去ったと受け止めている
(イギリスではこれまで、たとえそれがアメリカという保安官に従う保安官代理との立場だったとしても、イギリスも世界の治安維持の一翼を担うべきだという発想があったのだ)。
それが、キップリングの没後約80年の、今のイギリスの状況だ。イギリスは世界4位の軍事大国だし、国連安全保障理事会の常任理事国だ。それだけに、イギリスが世界の警察官を止めるとなれば、それは世界中に影響を与える。

しかし仮にアメリカが同じような道を選んだりしたら、それは文字通り世界を揺るがす。けれどもその可能性は明らかにあるのだ。
アメリカはイラクとアフガニスタンでの戦いに疲弊しているし、経済も景気後退のせいで失速している。シェールガス革命のおかげで中東への依存度はぐっと減っている。

そしてオバマ氏をはじめとしてアメリカ人は、自国の兵士が外国に行けば花束で歓迎されるなど、そんな幻想をもう抱いていない。むしろ、キップリングが警告したように、「より良い暮らしを与えた相手から責められ 守ってやる相手からは憎まれる」という状況の方を、アメリカ人は覚悟するようになっている。

イギリス同様アメリカでも、外交政策担当者と一般市民の間にギャップが生じているようだ。外交政策担当者たちは未だに、自分たちの国が世界の治安を維持するのだと当然のように思っている。

けれども一般市民はこれに懐疑的だ。世論調査によると、イギリス国民の75%近くが、シリアに関する議会の判断を支持していた。
一方でアメリカでは、大統領が計画する巡航ミサイル攻撃について世論はまっぷたつに割れているようだ。

そうした世論調査結果を背景に、連邦議会の議論は行なわれる。シリアに対する諸々の懸念はよく分かる。限定的な攻撃しか考えていないとオバマ氏は再三強調しているが、大統領にも答えようのない疑問が色々あるのだ。

たとえば、シリアのバシャル・アル・アサド大統領が攻撃に屈せず、化学兵器をまた使用したらどうなるのか?
シリアで起きているほかの人権侵害はどれも無視するのか? 
シリアの未来についてアメリカは実効性のある政治ビジョンを描いているのか? 

ダマスカスにミサイルを数発打ち込めばそれで事態は改善すると期待するのは、あまり上等な戦略とは言いがたい。
もっと大きな問題もある。アメリカは1945年以降、自分たちは世界の安全保障の請負人だと自認してきた。しかしだからといって全ての紛争に介入したり全ての人権侵害を食い止めようとはしなかった。

アメリカは1980年代のイラン・イラク戦争には介入しなかった。アメリカは紛争当事者のどちらも信用していなかったし、化学兵器が使われたという意味で、イラン・イラク戦争は今のシリア戦争と似ていたのだが、アメリカは介入しなかったのだ。

とりわけ残酷な内戦には介入するとか、特定の兵器が絶対に使われないようにするとか、それもアメリカの役割の一部だと言う考えは、1990年代に根付いたばかりだ。
ルワンダ虐殺やボスニア戦争がその始まりだったし、対テロ戦争の一環として「大量破壊兵器」について構築された新ドクトリンも、アメリカの新たな役割の論拠となっている。

リベラルな介入というこのドクトリンの構築に大いに貢献したのが、トニー・ブレア元英首相だ。そのブレア氏は2009年の演説で、答えを求めるでもなくこう問いかけた。
「我々は今、より伝統的な外交政策に戻るべきなのか? 今までより大胆なところがなく、より慎重で、理想を前ほど強く掲げず、より現実的で。そして介入が引き起こすかもしれない予測不能な展開を恐れるあまり、前よりもさらに耐えがたきを耐えようという、そういう外交政策に?」。

英下院はこの問いに対して今回はっきり「イエス」と答え、ブレア時代の継承を拒絶した。米議会がシリアへの関与を否決すれば、より伝統的な外交政策にアメリカも回帰しつつあるというシグナルになる。つまり外国がいったい何をすればアメリカの軍事力行使が正当化されるのかについて、狭く解釈しようとする、伝統的な外交政策のことだ。

ゆえにたとえシリア問題では行動しないとなったとしても、それ即ちアメリカが世界の警察官の役割からそっくり退くという意味にはならない。理論上は。しかしアメリカが何もしないと決断してしまえば、それはアサド政権によるさらなる残虐行為を助長することになる。それが問題だ。

加えてアメリカの判断は、より大きいメッセージとして解釈されるのは間違いない。なぜならアメリカが「レッドライン(赤い線=越えてはならない一線)」と言うからにはそこには何か意味があると世界が信じればこそ、世界の安全保障構造は成り立っているからだ。

太平洋からペルシャ湾、ロシア・ポーランド関係に至るまで。良くも悪くもオバマ氏はシリアについてレッドラインを引いた。
オバマ氏が週末に示唆したように、アメリカがシリア問題で行動しなければ、アメリカに敵対する各国はそこから一定の結論を導きだすだろう。

アメリカの同盟国も同じだ。いくつか例を挙げるならたとえば日本、イスラエル、ポーランドの政府はどれも、もし米連邦議会が対シリア攻撃を否決したりしたら、自分たちの安全保障について不安を抱くに違いない。世界は思っている以上にアメリカという警察官を頼りにしているのだ。【9月3日 ギデオン・ラックマン フィナンシャル・タイムズ 翻訳gooニュース】
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“リベラルな介入”を求める地域が世界には多すぎ、とてもアメリカだけでは対応できません。
特に、“アメリカ人は、自国の兵士が外国に行けば花束で歓迎されるなど、そんな幻想をもう抱いていない”というのが重要なところでしょう。
感謝されない努力はむなしいものに思えてきます。
感謝されないのは、場所と方法を間違えているのかも・・・という話にもなりますが。

シリアのように、助けを求める国民がいるのは間違いないが、反体制派にも全面的に支援しかねる要素がある・・・といった場合は特に対応が困難です。

いずれにしても、アメリカにはアメリカの事情がありますが、現に暴力の脅威にさらされている人は誰に助けを求めたらいいのか?という切実な問題は残ります。

アメリカ頼みの日本は?】
アメリカの「世界の警察官」としての行動には、立場によって賛否両論が絶えずありました。
ただ、「世界の警察官」がいなくなると、なかなかもめ事が収まらない、アメリカが退いてできた力の空白を埋めるように出てくる国があるかもしれない・・・という不安があるのも事実です。

アメリカの存在を基軸としている日本が一番関心があるのは、日中間のレッドラインを中国が超えようとしたときアメリカがどのように行動するか・・・ということでしょう。

もちろん、シリアと日本では異なります。日本のような同盟国を見離せば、アメリカの国際的信頼は地に落ちてしまいます。アメリカの存在を頼りにしてきた多くの国が考え・行動を改めるでしょう。
しかし、一方では、アメリカがはたして中国とことを構える危険を敢えて冒すだろうか・・・という疑念もあります。

警察官がいなくなれば「自警団を組織・強化しないといけない」という話にもすぐなりますが、その前に、隣近所との付き合いの仕方を見直し、そもそもそんなレッドライン云々の問題が起きないようにする努力も必要でしょう。

****日中、日韓改善にも情熱を=自民・二階氏***
自民党の二階俊博総務会長代行は11日、名古屋市で講演し、中韓両国との関係について「五輪招致のために努力した情熱の半分でもいいから、中国、韓国に対していろいろやるべきだ」と述べ、改善に向けた一層の努力を政府に促した。

二階氏は、五輪の東京開催を訴えた安倍晋三首相らのスピーチを引き合いに「あれだけ練習して行くのなら、中韓に対してスピーチを練習したらどうか。努力もしないで遠ぼえのようなことを互いに続けているのはまずい」とも語った。【9月11日 時事】 
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