孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナに関する「世紀の取引」がささやかれるイスラエル・エジプト・アメリカの協調体制

2018-02-18 22:59:39 | パレスチナ

(https://ameblo.jp/maigono-resistance2/entry-11904154114.html)

【「共通の敵との戦いで秘密の同盟関係にある」エジプトとイスラエル
エジプトのシナイ半島では、以前からイスラム過激派が跋扈し、国内で頻発するテロの温床ともなってきましたが、エジプト・シシ大統領は2月9日からシナイ半島等での大規模な対テロ作戦を実行しています。

****シナイ2018年」作戦の開始****
昨日報告した通り、エジプト軍は9日、シナイ半島等の対テロ大作戦を開始しましたが、アラビア語メディアによるとこれに参加するのは陸、海、空の他国境警備隊及び警察で、兵員的には軍が35000人、警察が10000人の由。

エジプト全県で、警戒レベルが最高レベルに引き上げられ、各地で検問所が設けられ、また多数の増員部隊がシナイ半島に送り込まれている由。

特に北シナイ州では、当面全ての学校が閉鎖され、またガザとの検問所も閉鎖された由。(後略)【2月10日 「中東の窓」】
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エジプトでは大統領選挙が3月26〜28日に実施されますので、再選を目指す不人気なシシ大統領としては、今回対テロ作戦で成果をあげ、いささかなりとも国民の注目を・・・といったところもあるのでしょう。

選挙の方は、強権支配者にありがちなことですが、政権側が有力候補を事前にあの手この手で潰していますので、シシ大統領の再選は確実です。

****エジプト大統領選、立候補者は2人 現職の再選確実****
3月に実施されるエジプト大統領選の立候補届け出が29日に締め切られた。届け出たのは現職のシーシ大統領(63)と、小政党ガッド党のムーサ党首(65)の2人。ムーサ氏の知名度は低く、シーシ氏の再選は確実だ。
 
これまで立候補を表明していたシャフィーク元首相は撤退を表明、アナン元軍参謀総長は軍紀違反で拘束されるなど、政権側が有力候補を排除しているとの批判が高まっていた。
 
ガッド党はもともとシーシ氏支持を打ち出していたが、ムーサ氏は締め切り直前に届け出た。政権がシーシ氏の対立候補がいない状況を回避するためにムーサ氏に立候補を要請したとの見方が支配的だ。
 
シーシ政権はテロとの戦いを強調する一方、言論を統制して政府批判を封じこめる強権的な姿勢が目立っている。投票は3月26〜28日に実施されるが、投票率は低くなると予想されている。【1月30日 朝日】
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有力候補が潰され、形を取り繕うために政権側が(無難な)対立候補を要請するあたりは、ロシアの大統領選挙とも似ています。

話をシナイ半島に戻すと、エジプト軍は今回作戦に限らず、シナイ半島での対過激派の軍事行動を行ってきましたが、治安回復につながる成果をあげることができていません。

シナイ半島の過激派による不安定化は、離接するイスラエルにとっても望まない状況で、イスラエルもエジプト軍に協力して空爆を実施しています。
近年イスラエルとエジプトの接近が取りざたされていますが、その一環とも言えます。

****エジプト東部に100回以上空爆=イスラエル、対ISで―米紙****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は3日、米英当局者らの話として、イスラエルが過去2年以上にわたり隣国エジプト東部のシナイ半島で、過激派組織「イスラム国」(IS)対策で100回以上の空爆を実施したと報じた。

同紙は両国が「共通の敵との戦いで秘密の同盟関係にある」と指摘している。
 
シナイ半島ではIS傘下の「ISシナイ州」によるテロが頻発。エジプトのみならず、国境地帯の治安を安定させたいイスラエルにとっても脅威となっている。
 
空爆はエジプトのシシ大統領の了承を得て行われた。ただ、パレスチナ問題を抱えるイスラエルとの協力はエジプト世論の反発を招きかねず、大統領は軍と情報当局の一部にしか空爆について明らかにしていないという。【2月4日 時事】
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米紙ニューヨーク・タイムズ報道によれば、隠密作戦のためイスラエル軍機は無印の機体を使用、エジプト領内から週1回程度のペースで出撃しているとも。【2月6日 毎日より】

「共通の敵との戦い」とは言え、自国領土への空爆を認めるというのは、相当に強固な“同盟関係”にも思えます。
しかも、従来は“アラブの敵”とされていたイスラエルです。

サウジアラビアもイスラエルと接近していますし、エジプトもイスラエルと“同盟関係”にある・・・といった現状があるからこそ、アメリカ・トランプ大統領のエルサレム首都容認も表明されたのでしょう。確かに、10年前とは中東情勢が変容しているのは事実です。

パレスチナ人をシナイ半島に移住させる・・・「世紀の取引」】
そんなエジプトとイスラエルの緊密な同盟関係、それを後押しするトランプ大統領という枠組みのなかで、パレスチナ問題の解決策としての「世紀の取引」に関する“うわさ”がエジプトで広まっているとか。

現地メディアが伝える「世紀の取引」とは、パレスチナ人が歴史的なパレスチナをあきらめる代わりに、湾岸諸国からの1000億ドルの支援を得て、シナイ半島に移住し、そこに彼らの国家を作るのをトランプ政権としても認めようというアイデアだそうです。【2月10日 「中東の窓」より】

上記のエジプトのシナイ半島での大規模対テロ作戦も、この「世紀の取引」のためだ・・・とも。

エジプト政府は、この“うわさ”を否定しています。

*****シナイ半島作戦に関するうわさの否定のエジプト公式声明****
先日エジプト政府の、シナイ半島等での大規模テロ作戦は、大統領選挙を意識したシーシのパフォーマンスであるとともに、パレスチナ人をシナイ半島に移住させることによってパレスチナ問題を解決するとのトランプの「世紀の取引」・・・・確かに湾岸諸国が1000億ドルを負担するというのですから、世紀の取引なのかもしれないが…のための作戦であるとの、アラビア語紙の記事を紹介したかと思います。

このうち、選挙目当ての作戦ということはともかく(独裁政権のやりそうなことではあるが!)、トランプの片棒担ぎの話は、アラブ人の多くが猛反対することの確実な話で、シーシもそこまでトランプに付き合うのかね?どうもアラブ人好みの陰謀史観ではないかと思っていました。

そうしたらこの話は結構、アラブ世界では広まっている話のようで、al qods al arabi net は、エジプト政府が11非公式の否定声明を出したと報じています。(後略)【2月12日 「中東の窓」】
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エジプトが持て余しているシナイ半島をパレスチナ問題解決に使うという発想は、以前からもあって、2014年には、エジプトがシナイ半島の一部をパレスチナ側に提供してガザ地区とくっつけて、「グレータ―・ガザ」をパレスチナ国家にするという案が、いまイスラエルとアラブの間で話題になったこともあるようです。【2014年9月 9日 日本イスラム連盟HPより】

今回“うわさ”「世紀の取引」に関しては、「中東の窓」も指摘しているように、あまり現実性があるとは思えませんが、エジプト政府が公式に否定しなければいけないほど広まっているというのは、そうした“うわさ”に合致するようなイスラエル・エジプト・アメリカの協力関係という枠組みが出来ているということを示しているとも言えるでしょう。

ただ、パレスチナ人の頭越しに周辺国・関係国の思惑で“解決策”が検討され、その内容がシナイ半島への移住・・・ということであれば、何やらユダヤ人の経験した“バビロン捕囚”のようでも。

ヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地は“併合”?】
パレスチナ・イスラエルに関するアメリカ絡みの、もうひとつの“うわさ”
イスラエルが実効支配するヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地をイスラエルが併合する計画を、イスラエルとアメリカが協議したとの報道です。

この報道についても、アメリカは否定しています。

****米政府、イスラエルとユダヤ人入植地併合を協議との報道を否定****
米ホワイトハウスは12日、イスラエルが実効支配するヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地を併合する計画を両国が協議したとする報道について、誤りだと否定した。

イスラエルのネタニヤフ首相が率いる右派政党リクードの広報担当者によると、首相は党所属議員に対し、入植地へのイスラエルの法律の適用について「米国側と協議してきた」と語った。国内法の適用は入植地の併合を意味する。担当者は併合の時期や米国との協議の詳細については言及しなかった。

ホワイトハウス報道官はこれを受け、「米国がイスラエルと西岸地区の併合計画について協議したとする報道は誤りだ」と説明。「米国とイスラエルはそのような計画を話し合ったことはない。トランプ大統領は、イスラエルとパレスチナの和平に向けた自らの取り組みに専念している」と語った。

イスラエルの高官も、ネタニヤフ首相は米政府に対して具体的な併合計画を提案していないと説明。首相府は発表文書の中で、ネタニヤフ首相は議会で提案された法案について米国側に説明したに過ぎないと釈明した。

首相の発言を受け、パレスチナ自治政府のアッバス議長の広報担当者は「(いかなる併合も)和平プロセスに向けた取り組みを台無しにする」と批判。「占領されたパレスチナの土地の状況について協議する権利は誰にもない」と語った。

大半の国は、イスラエルの入植活動を違法とみなしている。

一方、トランプ大統領は11日付のイスラエル紙イスラエル・ハヨムのインタビュー記事で、イスラエルに対し入植における慎重な行動を要請。「入植活動が和平実現を困難にしている。イスラエルは入植活動を非常に慎重に行う必要がある」と述べた。【2月13日 ロイター】
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この話も、パレスチナにとっては許容できないものです。
違法なイスラエルの入植活動が行われている現実に合って、さらに“併合”というのは、一方的にイスラエルの側に立った話になります。

ホワイトハウスは否定しているとのことですが、こうした報道・うわさが出てくること自体が、現在のアメリカ・トランプ政権の姿勢を示しています。

ゴラン高原は「永久にイスラエルの領地」】
イスラエルがヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地を併合する・・・・という“うわさ”とは別に、67年戦争(第三次中東戦争)の占領地であるシリアのゴラン高原も“永久にイスラエルの領土として保持される”との意向をネタニヤフ首相が示しているとも報じられています。

****ゴラン高地は永久にイスラエル領****
どうやら現在ミュンヘンで、地域安全保障に関する国際会議が開かれている模様ですが、y net news は、イスラエルのネタニアフ首相が、そこで国連のグテレス事務総長と会談する機会があったところ、イスラエルが占領中のゴラン高地は永久にイスラエルの領土として保持されるとの意向を伝えたと報じています。

記事は、ネタニアフ首相は、イスラエルとしてはその北部国境(境界)を守るためにあらゆることをするとし、ゴラン高地は永久にイスラエルの領地としてとどまると伝え、シリアにおけるイランのプレゼンスの拡大に懸念を表して、イスラエルはシリアにおけるイランの基地設営にはあらゆる手段で対抗すると語った由。

(国連事務総長の反応は伝えられていないが、これまでの国連の立場及び国際法上の観点から、ゴラン高地は武力による征服地であって、イスラエルは当然これを返還する義務があると答えたものかと思われます)
https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5117245,00.html

ゴラン高地は67年戦争でイスラエルが征服し、73年戦争でもこれを維持したところで、確かイスラエルは81年だったかにこれを一方的に併合したかと思います。

当然これは武力による領土の拡張であって、国連憲章の禁止しているところですが、問題は更にガザや西岸のようなパレスチナ地域と異なり、ゴラン高原は歴史的にも一貫してシリアの一部であって、一度たりともイスラエルの領土であったことはないことです。

このため、併合はしたものの、長いことイスラエルでもゴラン高地はいずれは全面返還せざるを得ないところと認識されていて、パレスチナ問題の進展がない時には度々「シリア オプション」として、ゴラン高地の返還を先行させるという動きがありました。

そん典型的な例はバラク首相の時で、イスラエルとシリアとの交渉で、ほぼまとまりかけた(確か当時報道では、残る意見の差はたかだか数十メートルなどと報じられたこともあったかと思います)ところが、その後長いネタニアフの右派政権を経て、また特にシリア内戦でイランのシリアへの進出が目立つようになり、イスラエル内でもゴラン高地に対する意見は硬化して、おそらく現在は返還反対の意見が強いのではないでしょうか?

エルサレムが永久のイスラエルの首都だと言ったり、ゴラン高地は永久に保持すると表明した・・・イスラエル・アラブ関係ではますます現状の固定化、平和的解決の可能性が遠のきつつあるのが現状ではないでしょうか?【2月17日 「中東の窓」】
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イスラエルの力が優位にあるのは現実ですが、優位な現状を固定化するのではなく、パレスチナ側に譲るものがなければ平和的解決の可能性にはつながりません。

パレスチナ・イスラエルの現況
最後に、パレスチナの現況に関する報道。

****ガザ地区唯一の発電所が操業停止、燃料不足で****
パレスチナ自治区ガザ地区唯一の発電所が15日、燃料不足のために操業を停止した。当局が明らかにした。悪化しているガザ地区の人道状況に懸念が生じている。
 
通常はガザ地区の電力の約5分の1を賄っているこの発電所の操業停止により、すでに深刻な電力危機がいっそう悪化するとみられている。
 
ガザの住民200万人の元へは、1日のうち約4時間ほどしか電気が届かない。
 
この発電所は通常、エジプトから輸入した燃料を使用して1日に約20メガワットを発電している。操業停止により、ガザ地区の電力はイスラエルから輸入している約120メガワットのみとなった。
 
ガザ地区の電力供給会社の広報担当者によると、ガザ地区の1日の電力需要は約500メガワットだという。同社は発電所への早期の燃料供給再開に協力を呼び掛けた。
 
アラブ首長国連邦は先週、病院をはじめとする主要施設の発電機用燃料の購入資金を提供した。ここ数週間の壊滅的な電力不足の影響で、病院3か所、医療施設16か所が、極めて重要な医療サービスの提供中止に追い込まれていた。
 
イスラエルはイスラム原理主義組織ハマスを孤立化させるために必要な措置として、10年以上にわたってガザ地区の封鎖を続けている。近年はエジプトも境界を封鎖している。【2月16日 AFP】
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****<ガザ衝突>イスラエル軍報復、パレスチナ人少年2人死亡****
パレスチナ自治区ガザ地区とイスラエルの境界近くで17日、爆弾が爆発し、イスラエル兵4人が重軽傷を負った。イスラエル軍は報復として17日から18日未明にイスラム組織ハマスの軍事施設などを攻撃。

パレスチナ保健省によると、イスラエル軍の攻撃によりガザ地区南部ラファ近郊のイスラエルとの境界近くで、17歳のパレスチナ人少年2人が死亡、2人が負傷した。
 
イスラエル軍によると、ガザ東部とイスラエルの境界近くにパレスチナ旗が設置されているのを発見し、兵士がフェンスに近づいたところ、爆発が起きた。旗は16日の金曜日にあったパレスチナ人による抗議行動の際に取り付けられたとみられる。
 
イスラエル軍は即座にハマスの監視ポストなどを戦車で砲撃。その後、ガザ地区からイスラエル領内にロケット弾が撃ち込まれ、民家の屋根に命中した。このため、軍は18日未明にハマスの軍事施設など18カ所を空爆するなどした。
 
パレスチナ保健省は、18日朝の捜索で少年2人が死亡しているのが発見されたとしている。

16日にガザ地区であった抗議行動では、イスラエル軍との衝突で20人以上のパレスチナ人が負傷した。【2月18日 毎日】
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なお、イスラエル・ネタニヤフ首相は汚職疑惑で、国内政治的には苦しい状況に追い込まれているようです。

****イスラエル警察、ネタニヤフ首相の起訴勧告 2件の汚職疑惑で****
イスラエル警察は13日、ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相に対する長期捜査の結果、2件の汚職疑惑をめぐり同首相を起訴するよう勧告すると発表した。同国の政界を揺るがす動きだ。

正式起訴に踏み切るかどうかの決断は司法長官に委ねられるが、方針が決まるまでには数週間から数か月かかる見通し。

12年近くにわたり首相の座についてきたネタニヤフ氏は、起訴勧告が伝えられたこと受け国民に向け声明を発表し、自身は無実であり、辞任の意向はないと述べた。イスラエルでは、首相が警察の起訴勧告の対象となった場合、あるいは違法行為で正式起訴された場合でも、辞任の義務は発生しない。

警察はネタニヤフ首相について、米ハリウッドプロデューサーのアーノン・ミルチャン氏や、オーストラリアの富豪ジェームズ・パッカー氏から、高級葉巻などの高価な贈り物を受け取っていた疑いで捜査を進めてきた。

さらに、有力紙イディオト・アハロノトが好意的な報道をするよう、同紙の発行元と秘密契約の締結を企図した容疑についても捜査が行われている。

警察は声明で、ネタニヤフ首相を贈収賄や詐欺などの罪で起訴することを勧告すると発表した。【2月14日 AFP】
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中国  新疆ウイグル自治区における強制収容所の実態 「唯一の罪は、ウイグル族に生まれたことだけ」

2018-02-17 21:23:14 | 中国

(新疆ウイグル自治区ウルムチ市の街頭でパトロールする警官。写真は2014年撮影されたもの。【2017年10月8日 大紀元】 最近では、こうした力の誇示だけでなく、DNAやITを駆使した監視体制がとられ、“好ましからざる人物”は正当な理由なく収容所へ送られている・・・とも)

帰省したら実家がなかった・・・は、笑い話か?】
中国指導部が「核心的利益」として、独立運動封じ込めに力を入れる新疆ウイグル自治区にあっては、最近はあまり目立った抗議行動などのニュースを目にしません。

おそらくそれは、経済発展などで民心が安定したからではなく、2017年12月23日ブログ“新疆ウイグル自治区 圧倒的な治安維持強化のもとで進む「完全監視社会」構築”でも取り上げたような、独立運動の過激派によるテロ防止のためとされる当局による圧倒的な支配・監視が“奏功”している結果でしょう。

今や、新疆ウイグル自治区は、DNAサンプルや顔認証システムなど、世界でも最も住民監視の厳しい「完全監視社会」となっていると言われています。

“国際人権団体ヒューマン・ ライツ・ウォッチ(HRW)は14日までに、中国西部・新疆ウイグル自治区の当局が、12~65歳の住民数百万人のDNAサンプルや指紋、虹彩スキャン情報、血液型を収集しているとの報告を発表した。”【2017年12月14日 CNN】

“日常生活に張り巡らされた警察の検問所や監視カメラ、さらにIDカードや顔、眼球、時には全身をスキャンする機械を通らなければならないのは、住民でも旅行者でも同じことだ。 新疆ウイグル自治区は中国国内の監視体制の巨大な実験場と化した。”【2017年12月22日 WSJ】

そんなウイグルの大学生の、ある“おバカな”話がネットに。

****はるばる帰省した大学生、到着したら実家がなかった!―中国****
2018年1月31日、中国の動画サイト・梨視頻が中国版ツイッター・微博(ウェイボー)のアカウントで、北京の大学生が約4000キロ離れた新疆ウイグル自治区の実家へ帰省する様子を撮影した動画を掲載した。

動画には、1月26日に北京の大学に通う男子大学生が、北京を出発して3906キロの道を経て実家のある新疆ウイグル自治区まで行く様子が映っている。途中、鉄道やバスなど4種類の交通機関を利用してようやく到着したが、そこはがれきだけが残る更地になっていた。

大学生は「家族は誰も引っ越したなんて話をしていなかった。さっきも電話したのに何も言っていなかった」と語っている。そこで再び家族に電話をし、もとの家は「立ち退き取り壊し」となり、別のところへ引っ越したことが分かったが、家族は「話すのを忘れていた」と話したという。

大学生は「俺は実の子どもじゃないのかもしれない」と話しながらさらに60キロ離れた引っ越し先まで行き、ようやく実家にたどり着いた。

これを見た中国のネットユーザーから「立ち退きだろ?これは喜ぶべきことじゃないか」というユーザーもいた。立ち退く際に政府から補償金が出るからだろう。

ほかには、「この大学生は普段からあまり実家に電話をしていなかったのだろう。親不孝な息子だ」「私は毎年帰省するが、毎回家の中に入れない。毎年鍵が変わっているから」などのコメントもあった。【2月2日 Record china】
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これは、笑っていい“おバカな”話でしょうか?

新疆ウイグル自治区で強制的な旧市街取り壊し・住民移住が進んでいることは、2017年8月31日ブログ“中国 故郷にも国外にも安住の地がないウイグル族”で取り上げました。

詳細がわかりませんが、上記記事の大学生の実家も、ひょっとしたらそうした当局の強制的な政策の対象となったのかも・・・。
家族が“引っ越し”について連絡しなかったのは“話すのを忘れていた”のではなく、当局による盗聴などを恐れていたせいかも。

もしそうなら、補償金が出るから喜ぶべきことじゃないか・・・といった類の話ではありません。

真相がどうであれ、多数派漢族にとっては、どうでもいい話なのでしょうが。

【「教育センター」という名の強制収容所の実態 「いっそ妻と母を撃ち殺してくれ」】
また、“新疆では当局が「教育センター」と呼ぶ収容所が次々に建てられたが、村人たちはここも収容所だと説明する”【2017年12月22日 WSJ】という“収容所”が多数存在し、多くの住民が連行拘束されているという話もききます。

その“収容所”の“絶望的”な実態は、下記のようにリポートされています。

****ウイグル「絶望」収容所──中国共産党のウイグル人大量収監が始まった****
<著名ウイグル人学者が突然自宅から消えた――中国共産党が新疆各地でウイグル人を強制収容所に収監している>

著名なウイグル人イスラーム学者で、『クルアーン』のウイグル語訳者として名を知られる82歳のムハンマド・サリヒ師が17年12月中旬、中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチの自宅から突然何者かに連行された。サリヒ師は中国共産党の強制収容施設に収監され、約40日後の18年1月24日に死亡した。

サリヒ師は36年、南新疆のアトシュ市に生まれ、長く中国政府のシンクタンクである中国社会科学院に所属。87年からは新疆イスラーム学院の学長も務めた。『ウイグル語・アラビア語大辞典』をはじめ多くの著作もある。

イスラーム学の大家として、新疆ムスリム社会で崇敬されていたため、その知らせはテュルク系ムスリムに深い悲しみと衝撃をもたらした。

サリヒ師と共に作家の娘と娘婿、さらに2人の孫も連行されたが、一家が今どこに収容されているのか依然不明だ。

この事件に憤慨した国外のウイグル人諸団体は、直後に各国の中国大使館に対して抗議デモを行った。かくも高齢な老学者がなぜ、「思想改造のための強制収容施設」に収監されたのか。

新疆ウイグル自治区では今、中国の主体民族である漢人以外の人々が、社会的地位も収入も一切関係なく、何の罪もなくして強制収容施設に収監されているとの報告が数多く寄せられている。

ターゲットの大部分がウイグル人だ。
ウイグル人の10人に1人は拘束されているとの説もあるほど、多数の人々が「行方不明」になっている。

アメリカの短波ラジオ放送「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」によれば、総人口約360万人のうち90%をウイグル人が占める南部カシュガル地区で、ウイグル人口の約4%に当たる約12万人が拘束されているという。

要注意人物の「点数表」
連行は強引で、職場から突然警官に「頭に黒い布をかぶせられて」連れ去られたとのケースも報告されている。

収容所は、かつてウイグル語教育を行っていた学校の校舎などを転用。一部屋に何十人もが寝泊まりし、衛生状況も劣悪で既に多くの死者を出しているとの告発もある。

在日ウイグル人も例外ではない。日本に留学したり、日本の会社に勤務していたりしたウイグル人で、昨年夏に新疆へ一時帰郷し、日本に戻ってこられなかった人々が筆者の知る限り複数存在する。

彼らは帰郷した後、地元警察にパスポートを没収され、強制収容施設に連行されているらしい。収監者の親族は、身内が施設内でひどい扱いをされないよう気を使ってメディアや外国人に接触しようとせず、また親族自身も詳細を把握していない。

「もうこの半年、両親や兄弟と1本の電話も繋がらない」と嘆くウイグル人に、筆者は何人も会った。

強制収容所に関する情報は16年末あたりから現れ始めた。RFAウイグル語部門が本格的に取り上げたのが、17年8月初旬。以後、関連報道は急激に増え、現在に至るまで数日に1回の割合で取り上げられている。

昨年夏頃、ウルムチの河北西路居住区から、ウイグル人の中から要注意人物を抽出するための点数表が流出した。

点数は100点で、(1)ウイグル人である (2)イスラームの礼拝をしている (3)宗教知識がある (4)(当局が要注意とする中東など)26カ国に行ったことがある (5)外国に身内がいる (6)外国留学した子供がいる......といった項目に該当すれば10点ずつ減点され、点数が低ければ要注意人物、つまり収容所送り対象者となる。

新疆では自治区の成立から現在まで、ウイグル人による反政府蜂起が頻発してきた。それでも、民族浄化を目的とすると言っても過言ではない、強制収容所をつくるという国際人権規約に反する行為を一国の政府が行うのは異常事態である。

そしてこの収容所建設と、習近平(シー・チンピン)国家主席の経済圏構想「一帯一路」政策は大いに関係があると筆者は考えている。

胡錦濤(フー・チンタオ)主席時代の10年に第1次中央新疆工作会議が開かれ、新疆での「西部大開発」と経済活性化が目標とされた。

しかし、結果としてその政策は新疆に住む漢人とウイグル人の格差を広げ、ウイグル人亡命者を増大させただけだった。

その後、習が国家主席に就任した翌年の14年5月に第2次中央新疆工作会議が開催され、同11月から習は一帯一路政策を各地で本格的に提唱し始めた。

かつて日本が提唱した「大東亜共栄圏」の拡大版とも言える経済圏構想の実現には、中国からユーラシア大陸の出入り口となる新疆の安定化が必須だ。

90年代から最近にかけてウイグル人反政府主義者が行ってきた公安当局や党幹部を狙った自爆攻撃などに、共産党は業を煮やしていた。

反政府運動を効率的に弾圧し一帯一路を粛々と推進するため、以前のチベット自治区党委員会書記でチベット弾圧に積極的に荷担した陳全国(チェン・チュエングオ)が、16年8月から新疆ウイグル自治区党委員会書記に着任した。

スクープ記者による告発
RFAは96年に米議会が出資して首都ワシントンで設立された。言論の自由が保障されているとは言い難いアジアの地域に情報提供し、民主化・自由化を促すことを目的としている。

ウイグル語放送部門スタッフの中でも、ショフレット・ウォシュルは、ずば抜けて取材力のある記者で、片っ端から新疆に電話をかけ、中国語とウイグル語を駆使して繋がった相手から情報を入手する手法で情報を取り、スクープを連発してきた。

17年12月6日放送の記事によれば、新疆の公安当局は微信(WeChat)などのソーシャルメディアで国外留学中のウイグル人に連絡を取り、「帰国しなければ母親を強制収容所に送る」などと脅迫している。以下はトルコ在住のウイグル人留学生に対する、公安当局の脅しの一部だ。

「私は収容所の者だ。母親が大切ならこのアカウントを追加せよ」「トルコで暮らし、留学しているウイグル人の家族や親戚を収容所に収監し、強制的に『再教育』するようにとの上層機関からの命令がある」「おまえがトルコ留学中だから、母親がおまえの代わりに『再教育』をされる」「トルコ国内にいる全てのウイグル人家族が、代償を支払うことになる」

これだけの人々が拘束されていたら、当然ながら産業や経済は崩壊していく。17年10月18日放送の記事では、南新疆ホタン市で大勢の商人が収容所送りとなったため、市内最大のバザールで店の3割が閉鎖され、顧客も半分程度に落ち込んでいる状況が紹介された。

同じく南新疆カシュガルのベシケリム村では、2000万平方メートルのブドウ畑のブドウが腐り始め、村民の暮らしを直撃しているという。取引をするウイグル人商人のほとんどが収容所送りとなり、買い手がなくて市場に出回らなくなったためだ。

一方で、「商売敵がいなくなって、取引がうまくいっている」と語る漢人商人のインタビューも紹介された。

キリスト教徒にも魔の手
新疆では今「2つの顔を持つ不逞分子らを一掃する運動」が行われている。共産党幹部という顔と、実は民族主義者らを心の中で支持している顔という二面性を持つ者の意味であろう。この運動により、新疆各地の共産党幹部クラスも容赦なく収容所に送られているようだ。

17年12月21日放送の記事によれば、南新疆コルラ市のある地域の党書記を務めたこともあり、「民族団結模範」として表彰されたこともあるというナマン・バウドゥン(おそらく仮名)は、健康状態があまりに悪いため収容所に連行はされなかった。

しかし、かつて「(党の)宣伝活動模範」として当局に表彰された妻のパティグリ・ダウット(彼女もこの10年で3回も手術を受けており、健康状態はよくない)は17年10月9日に拘束され、今も消息不明だ。

一旦はバウドゥンも収容施設に入れられる手続きのため警察署に行かされた。その際、「500人ほどが非常に広い会議室に並んでいた」と、彼は証言する。

コルラには強制収容施設が4カ所あり、1500人以上が「再教育」を受けている。警察署で人の「仕分け」がなされ、脅迫や拷問を含む取り調べを受けて、その結果によって収容所に行くか、拘置所や刑務所に入れられるかが決まると、バウドゥンは語った。

彼は警察署で検査のために過ごした3日間のうちに、コルラの住民であるムタリプ・アブドゥウェリという25歳の青年が、鉄製の椅子に縛られ、手錠をかけられ手から血を流した状態で取り調べを受けているのを目撃した。こうした証言が命懸けであることは言うまでもない。

18年1月23日放送の記事で、カザフスタンのアルマトイから取材に応じたオムルベク・アリは、カザフ人とウイグル人の両親の間に生まれ、カザフ国籍を持つ人物だ。多言語に通じることから、カザフスタンの旅行会社に勤務していた。

アリは新疆東部ピチャンにある両親宅に突然現れた警察官に黒い布を頭にかぶせられて身柄を拘束され、どこかへ連行された。その際指紋や血液も採取され、警察の「仕分け」の結果、危険分子として「カラマイ市技術研修センター」の名の看板が掛かる収容所に送られた。

カザフスタン外交官たちの働き掛けで、8カ月後にようやく「一切の訴えを起こさない」ことを条件に釈放されたが、収容所内の環境は劣悪で出所したときには体重が40キロも減少。帰国と同時に入院した。

アリは、現段階で収容所を体験した唯一の生還者だ。彼によれば、少なくとも収容所には約1000人が収容され、8割がウイグル人で2割がカザフ人だった。被収容者の年齢層は16歳から老人までと幅広い。農民から「2つの顔を持つ不逞分子」とされる公務員まで、1つの部屋に20人以上がすし詰め状態で寝泊まりしていた。

コミュニケーションは全て中国語で行うよう強要され、毎朝7時に点呼集合と中国国旗掲揚があり、国家と共産党に忠誠を誓うスローガンを叫ばされる。

収容所側は、共産党の政策の素晴らしさを学ぶ政治学習や、愛国主義の講義を強要。プロパガンダ歌謡を中国語で正しく歌い、共産党への忠誠と感謝を述べるスローガンを大声で斉唱しなくては食事をもらえない。警察から最短でも1年の学習を厳命されており、彼の滞在中、誰一人として「卒業」した者はいなかった。

拘束されているのは、ウイグル人などのテュルク系ムスリムだけではないようだ。収容所には新疆のキリスト教徒が少なからず収監されたとの証言もある。

漢人でプロテスタントのキリスト教徒である張海濤(チャン・ハイタオ)は、16年に「国家政権転覆扇動罪」で有期刑19年の判決を受け、新疆中部シャヤール県の監獄で服役している。

彼はネットの中で共産党の新疆政策とウイグル人弾圧を批判していた。妻子はキリスト教諸団体の尽力で、アメリカに政治亡命した。声を上げ、異議を唱えるキリスト教徒にも、政府は厳しい姿勢を取っている。

ウイグル人をはじめとする「良心の囚人」の命を担保に、一帯一路構想は進んでいる。【2月20日号 Newsweek日本語版 水谷尚子氏(中国現代史研究者)】
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いくら何でも“10人に1人は拘束されている”といったことはないでしょうが、バザールなどでの経済活動を変容させる規模では行われているようです。

当局の弾圧を恐れて亡命した者の家族も、上記の収容所に送られるようです。

****いっそ妻と母を撃ち殺してくれ」 亡命ウィグル男性****
テリーザ・メイ英首相が中国を訪問するなか、英国政府は新疆ウイグル自治区で、主にイスラム教徒のウィグル族について信教の自由が侵害されている恐れがあると懸念を表明した。

トルコに亡命したウィグル族の男性はBBCに対して、残された家族が収容所で拷問されているかと思うと、「いっそひと思いに撃ち殺してほしい、銃弾の金は払う」とBBCに話した。(後略)【2月2日 BBC
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上記亡命男性は「妻の罪は唯一、ウイグル族に生まれたことだけです。妻はそのせいで再教育収容所で生活し、地面で寝ています。」とも。

なお、上記BBC動画では、新疆での厳しいチェック・検問・取材制限の様子も報じられています。

なんとも痛ましい話です。

中国の人々は、中国が経済・政治・軍事の面で大きな力を有するようになったにもかかわらず、「大国」としてのふさわしい敬意を払われていないことへの不満を感じているようですが、敬意が払われない背景には、上述のような非人道的弾圧を当然のことのように行っていることへの世界の批判・恐怖があります。

ただ、日本として難しいのは、単に批判していればすむ話ではないことです。
今後ますますその影響力を強める中国の隣に位置し、経済関係や安全保障面でその“引力”を考慮せざるを得ない立場にある日本は、どのように中国と共存していけばいいのか・・・非常に高度な政治的バランス感覚が必要とされます。
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ベネズエラ・マドゥロ政権  前倒し大統領選挙で強行突破 狭まる国際包囲網 仮想通貨発行の奇策も

2018-02-16 22:45:59 | ラテンアメリカ

(コロンビア・ククタの仮設避難所で横になるベネズエラ難民【2月14日 WSJ】)

大統領選前倒し強行 支持勢力も一定にあるということか
昨年のインフレ率が2600%(国会発表)を超え、食料・日用品・医薬品の絶対的供給不足を起こし、満足に食事をとれない市民が少なくないとされるベネズエラにあって、マドゥロ大統領が強権的に国民不満を抑え込み、野党勢力の乱れなどもあって、依然として政権を維持していることは、これまでも再三取り上げてきたところです。
(1月1日ブログ“ベネズエラ 暴力を駆使する権力はなかなか倒れないことを示したマドゥロ政権 今年は?”など)

そのベネズエラの制憲議会(野党が多数を占めるそれまでの議会から権限をはく奪し、大統領支持の与党によって構成する議会)は1月23日、大統領選挙の期日を今年中から4月末以前に前倒しするると発表しました。マドゥロ大統領の再選で、政権を正当化することが狙いと思われます。

****ベネズエラ、4月22日に大統領選強行へ 野党は批判****
南米ベネズエラの選挙管理当局は7日、大統領選を4月22日に実施すると発表した。野党側はニコラス・マドゥロ大統領が再選を図ってこの選挙を利用していると批判している。
 
大統領選は当初、今年12月まで行われないことになっていたが、制憲議会が先に「4月末より前」に前倒しすることを決めていた。
 
その後、選挙の日程をめぐって政府と野党連合が協議していたが決裂。全国選挙評議会のティビサイ・ルセナ議長が7日、4月22日の実施を発表した。
 
野党連合は、マドゥロ政権になびいているとの批判もある最高裁の判断で統一候補者の擁立を阻まれており、複数の著名な反政権派の人物も出馬を禁じられている。そのため、マドゥロ大統領が選挙前の段階から不正行為を働いていると非難している。
 
マドゥロ大統領は2期目の続投を狙っているが、経済失政などにより国民の支持は極めて低い。【2月8日 AFP】******************

“最高裁の判断で統一候補者の擁立を阻まれており、複数の著名な反政権派の人物も出馬を禁じられている”という与党に有利な操作はありますが、これだけの経済失政を続けながらも選挙に打って出る(当然、勝てるという自信があってのことでしょう)というのは、不思議な感もあります。

マスメディアに頻繁に取り上げられる大統領批判勢力以外に、チャベス前大統領以来の貧困層重視のバラマキ政策(それが現在のベネズエラ経済破綻の原因ともなっている訳ですが)で恩恵を受け、今も大統領・与党を支持する勢力も相当に存在している・・・ということでしょう。

狭まる国際的包囲網 アメリカの本気度は?】
国内的には批判勢力抑え込みに一定に成功しているマドゥロ政権ですが、国際的な批判は大きくなっています。

****比、ベネズエラを予備調査=「超法規的殺害」を問題視―国際刑事裁****
国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)のベンスダ主任検察官は8日、フィリピンとベネズエラの政権が麻薬組織や反政府勢力に対し、国際法に違反する過剰な弾圧を行っている恐れがあるとして、予備的な調査に着手すると発表した。人道に対する罪の適用が視野にあるものとみられる。
 
主任検察官は声明でフィリピンに関し、2016年7月以降、麻薬犯罪撲滅を目指すドゥテルテ大統領の「麻薬戦争」の取り組みに際し、「数千人の人々が違法薬物の使用や取引への関与を理由に殺害された」として超法規的な殺害を問題視。ベネズエラでは「反政府デモを鎮圧する目的で過剰な武力が用いられている」と懸念を示した。
 
フィリピンとベネズエラはいずれもICC設立条約の締約国で、ICCが管轄権を行使できる。【2月9日 時事】
******************

形式的なものにとどまりがちな国際刑事裁判所の判断以上に実際的な圧力となるのが、アメリカ・中南米諸国の圧力です。

アメリカ・トランプ政権はベネズエラに対する経済制裁圧力を強めてきましたが、ベネズエラ経済の根幹をなす石油の禁輸については、アメリカ国内への打撃もあることから、これまでのところ実施されていません。

しかし、マドゥロ政権への効果的な圧力としては石油禁輸以上のものはありませんので、ティラーソン国務長官は2月7日、「近く制裁するかどうか決定する」と圧力を強めています。

****<米国>ベネズエラ石油禁輸か 国務長官、必要性を強調****
米国が、独裁色を強める南米ベネズエラのマドゥロ政権に対し、基幹産業である石油分野の追加制裁を検討している。中南米各国を歴訪中のティラーソン国務長官は7日、「近く制裁するかどうか決定する」と述べた。欧州連合(EU)も制裁を強化しており、マドゥロ政権の国際的な孤立が深まっている。
 
ロイター通信によると、ティラーソン氏は実際に制裁を始めた場合、米国、メキシコ、カナダの3カ国が、ベネズエラから石油援助を受けてきたカリブ海諸国を支援することで合意したと明らかにした。カリブ海の島国ジャマイカへの機中で7日、記者団に述べた。
 
米国もベネズエラ産原油を輸入しており、トランプ政権はこれまで、自国経済への影響も考慮し石油を対象にした制裁は見送ってきた。

だが、ティラーソン氏は4日、訪問先のアルゼンチンの首都ブエノスアイレスでベネズエラ産原油の輸入制限を検討していると表明。「何もしないことはベネズエラ国民にさらに長い間、苦しみに耐えるよう求めることだ」と語り、マドゥロ氏や閣僚ら40人以上の資産凍結など実施中の制裁に加え、石油制裁の必要性を強調した。
 
EUも1月、昨秋に発表した武器禁輸に続き、ベネズエラの閣僚ら7人の資産凍結や渡航禁止などの制裁を決めた。直後にマクロン仏大統領が「欧州レベルで新たな制裁の必要性を検討しなければならない」と強調。

また、EUに制裁を求めていたスペインは同国に駐在するベネズエラ大使の追放を発表し、欧州でも非難が高まっている。(後略)【2月8日 毎日】
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石油禁輸で、現在も困難な状況にあるベネズエラの市民生活の苦境はさらに高まりますが、非民主的なマドゥロ政権を追い込むためにはやむを得ない措置でしょう。

ガソリン供給などのアメリカ国内への波及を乗り越えて石油禁輸に実際に踏み切るのか・・・軍事介入の可能性にも言及して中南米諸国の顰蹙を買ったトランプ政権の“本気度”が問われています。

一方、ベネズエラのアレアサ外相は2月6日、ペルーの首都リマで4月13、14両日に開催される米州首脳会議にマドゥロ大統領が出席すると発表しました。

米州諸国の大半は独裁色が強いマドゥロ氏の政権運営に反発しています。開催国ペルーは、マドゥロ政権に民主主義の順守を要求する12カ国で構成する「リマ・グループ」の主導国でもあります。

****ベネズエラ大統領の入国をペルーが拒否****
独裁色を強め国際的な批判を受けているベネズエラのマドゥーロ大統領について、ことし4月に南北アメリカの首脳が集まる国際会議を開催するペルーが入国を拒否する姿勢を示し、ベネズエラと周辺国との関係がさらに悪化することが予想されます。

ベネズエラのマドゥーロ大統領は、野党が多数を占める議会の立法権を事実上剥奪したり、ことし後半に予定されていた大統領選挙の日程を独断でことし4月に早めたりして独裁色を強めていて、国際的な批判が高まっています。

こうした中マドゥーロ大統領は15日、4月にペルーで開かれる南北アメリカの首脳が集まる米州首脳会議について、「ベネズエラの真実を伝えに行く」と述べ、みずから出席する意向を示しました。

これを受けて開催国ペルーのアラオス首相は報道陣に対し、「彼はペルーの領土にも領空にも入ることはできない」と述べ、マドゥーロ大統領の入国を認めない姿勢を示しました。

ベネズエラは中南米の中でもキューバやボリビアなど反米左派の一部の国々と良好な関係を保つ一方、ベネズエラの民主化を求めるブラジルやコロンビアなど多くの国々との関係は冷え込んでいて、米州首脳会議を前に関係がさらに悪化することが予想されます。【2月16日 NHK】
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周辺国の脅威となる大量難民 「これ以上は待てない」】
隣国コロンビア(コロンビア自身が世界有数の避難民発生国ですが)など中南米諸国にとって、マドゥロ政権の失政・経済破綻・強権支配は、単に“非民主的”という理念上の問題だけでなく、大量の難民を自国に向かわせる現実的脅威ともなっています。

ベネズエラからの難民はこの2年間で120万人とも言われ、シリア難民やアフリカ紛争地域からの難民、ミャンマーのロヒンギャ難民などと同レベルの国際問題となっています。

****急増するベネズエラ難民、周辺国に危機波及****
過去2年間で約120万人が国外に脱出、人道危機の懸念も

経済が崩壊の一途をたどるベネズエラ。国境を越えてコロンビアなど周辺国に逃れる避難民が増加を続けており、地域で深刻な問題を生み出しつつある。
 
過去20年間、ベネズエラの人口の1割に当たる300万人近くが左派政権を嫌って同国を離れた。ベネズエラ中央大学の専門家トマス・パエゾー氏によれば、このうちの約半分に相当する約120万人が過去2年間で国外脱出した格好だ。
 
コロンビア政府によると、2017年末時点でコロンビアに逃れたベネズエラ人は約55万人で、前年比62%増加。今年はこれまで、さらに5万人がコロンビアに入国した。

欧州の難民危機に匹敵
国連難民高等弁務官事務所の広報担当者ジョエル・ミルマン氏は「世界的な基準から見ても、コロンビアは大量の避難民を受け入れている」と指摘。「欧州の難民危機がピークだった2015年にバルカン諸国やギリシャ、イタリアが受け入れた難民に匹敵する規模になっている」と話す。
 
コロンビアのファン・マヌエル・サントス大統領は先週、国境通過許可証の発給停止を発表するとともに、不法入国を阻止するため2000人の兵士を国境に配置する命令を出した。
 
ただサントス大統領は、ベネズエラが繁栄していた20世紀終盤に同国が100万人を超えるコロンビア人を受け入れたことを指摘し、「コロンビア人もベネズエラ人に対し寛容であるべきだ」と訴えた。
 
ベネズエラからの避難民の増加はコロンビアの国境地域に負担を強いており、ベネズエラの混乱がコロンビアにも波及するとの不安を高めている。
 
コロンビアの国境沿い最大の都市であるククタでは、ベネズエラの家族連れが駐車場を仮設の避難所に変え、小売店舗の外にハンモックをつるしている。
 
「ちょっと見て欲しい。彼らはベネズエラがうまくいっていれば、ここにいる必要がなかった人たちだ」。この地域で炊き出しを行っているホセ・デビッド・カナス神父は、ベネズエラ人の女性や子どもたち1000人近くが昼食を求めて長蛇の列をなしているのを見つめながら言った。「我々が助けているのは、コロンビアに来る人のわずか1%に過ぎない。これは人道的危機だ」
 
その中の1人、ケリー・アラザレスさん(43)は、自分がレストランで働いている間、4人の子どもを働かせざるを得ない。街頭で食べ物を売って、生活を支えさせるのだ。「食べるものは十分ある。それだけでもありがたい」と話す。
 
一方、自分たちが正しい選択をしたのかと思い悩む人もいる。たばこと飲料水を売っているへスース・ガリシアさん(35)は、「(ここに来れば)もっと楽になると思っていた」と話し、「ここ(ククタ)は素晴らしいと言っている人たちがいたのでやって来た。でも来てみたら、散々たる状況だ」と語った。

各国で急増するベネズエラ難民
国際通貨基金(IMF)によると、ベネズエラ経済は今年末までに2013年時点の半分の規模になると見込まれている。今年のインフレ率は1万3000%に達すると予想されている。
 
ベネズエラの首都カラカスに本拠を置く調査会社Consultores21が昨年12月に同国各地で実施した調査では、回答者の40%が国外脱出を望んでいた。

行き先として選ばれているのは最も近いコロンビアだが、ベネズエラからの脱出者は南米各国で明らかに急増している。

昨年コロンビアから南側の国境を通ってエクアドルに入国したベネズエラ人の数は23万1000人と、2016年の3万2000人から急増。これは、コロンビアを単なる通過地点として利用する人がいかに多いかを物語っている。
 
アルゼンチン、エクアドル、チリ、ブラジルには現在、かなりの規模のベネズエラ人コミュニティーが存在する。ブラジルでは、何万人もの人々がジャングル地帯の国境を渡り、ロライマ州の州都ボアビスタに住みついた。人口31万3000人の都市だ。
 
ブラジルは先週、国境に配置する兵士を増やした。また、流入してきたベネズエラ人をブラジルの内陸にある他の都市に移す計画も明らかにした。ミシェル・テメル大統領は「ベネズエラからブラジルにやって来る避難民についての懸念はずっと続くだろう」と述べた。
 
コロンビアに渡ったベネズエラ人の多くは、サンドラ・グラテロルさん(30)と同じような境遇に陥った人々だ。グラテロルさんは夫とベネズエラ中部で小さな金属加工工場を営んでいたが、経済危機で収入がなくなったのだ。サンドラさんは現在、ククタの街頭でアクセサリーを売って1日10ドル程度を稼いでいる。

ベネズエラ人の流入を受け、コロンビア当局者は昨年、トルコを訪れてシリア難民を当局がどう扱っているのか調査した。コロンビア政府は、ベネズエラ人による公的医療制度の利用を認めるとともに、パスポートを所持している人々には子供たちの学校入学も認めた。
 
しかし、国境沿いにあるコロンビアの小さな町の当局者らは、人々の流入の結果、公共サービスに大きな負担になっていると述べる。検察当局も、移民が急増するにつれてベネズエラ人の逮捕件数が増えていると述べた。主として強盗容疑が多いという。
 
移住者たちに対応しているククタの責任者、マウリシオ・フランコ氏は「彼らは失業を増やし、比較的低賃金の仕事を奪っている」とし、「我々には彼らに与えるだけの就業機会がない」と語った。

8日、サントス大統領がククタを訪問し、コロンビアへの越境の際の新たな制限措置を発表するなか、数百人のベネズエラ人がククタに到着した。その中のあるグループは、国境から数百メートル離れた木陰にスーツケースを置き、これからのことを話し合っていた。
 
リウベルト・ヤリさん(24)は、コロンビアをバスで横断し、いとこが住むペルーに行くつもりだという。「私には故郷に1歳の赤ん坊がいる。ミルクとおむつを買うためには、あらゆることをしなければならないが、ここで仕事を見つけるのは不可能だ」と語った。「これ以上は待てない」【2月14日 WSJ】
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独自の中央集権的仮想通貨発行の奇策も
なお、マドゥロ政権は、不足する外貨を補うために、今話題の「仮想通貨」を新たに発行する“奇策”に出ています。

****ベネズエラの仮想通貨ペトロ、2月20日から先行販売 初期値60ドル****
ベネズエラ政府は1月31日、流動性の危機を克服するため昨年末に導入を発表した仮想通貨「ペトロ(Petro)」について、2月20日から先行販売すると明らかにした。初期値は60ドルに設定したが、原油などを裏づけとする通貨なため原油相場に左右されるとの見通しも示した。
 
発行する1億ペトロのうち、3840万ペトロを2月20日から3月19日まで予約販売する。
 
初期値は1月中旬時点の1バレル当たりのベネズエラ産原油価格に基づいている。ただし、ペトロは自国の埋蔵原油などを裏づけとしており、ウグベル・ロア大学教育・科学技術相は「価格は原油市場の変動で変わる」と指摘した。(後略)【2月1日 AFP】
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仮想通貨発行の背景には、“ベネズエラの新規発行債券買い入れを禁止した米国の制裁で思うように債務の借り換えができないため、ビットコインなどの仮想通貨の成功例を活用して新たな外貨獲得手段を得ようという狙いがある。”【1月16日 ロイター】との指摘が。

アメリカ財務省は1月16日、ベネズエラ政府が打ち出した独自の仮想通貨「ペトロ」について、取引すれば米国がベネズエラに科した制裁に違反する可能性があると投資家に警告しています。

仮想通貨ペドロの今後については、否定的な見方が多いようです。

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仮想通貨も相手が存在しての取引に使用されるものだ。しかし、ペトロで商品を購入するにも、まず手持ちのボリバル通貨をペトロに両替せねばならない。ハイパーインフレでボリバル通貨が下落し続ける中で、何を基準にペトロ通貨に両替できるのであろうか。

また、取引が成立するのも相手が存在してのことだ。デフォルトとハイパーインフレの真っただ中にあるベネズエラという国家を誰が信頼するであろうか。皆無であろう。よって、ペトロへの信頼度は生まれないと思われる。
 
しかも、仮想通貨の魅力は国家や金融機関が関与していないところにある。ペトロの場合は国際的に信頼性を失っているベネズエラ国家が発行するという。誰もそれに魅力は感じないだろう。【2017年12月08日 HARBOR BUSINESS Online】
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なお、ベネズエラのホセ・ビエルマ・モラ貿易・国際投資大臣は、一部の貿易相手国が「ペトロ」での支払いを受け入れる予定があると発表しています。

受け入れの姿勢を見せているのは、「ブラジル」「ポーランド」「デンマーク」「ノルウェー」など、またアジア地域では「ベトナム」も検討している・・・とも。【2月11日 「コインの森」より】

何やら金本位制ならぬ、石油本位制のようにも。
ベネズエラ政府が管理する中央集権的な仮想通貨ペトロは国債と何が違うのか?という素朴な疑問も。
国際的に信用されないベネズエラ国債に代わって、仮想通貨なら信用されるのか?

ただ、私は“仮想通貨”の仕組みがよく理解できませんので、一応、こういう話があるということで。



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アメリカ  銃で自分の身を守る銃社会アメリカの“奇妙な”現実 

2018-02-15 23:12:18 | アメリカ

(14日、銃乱射事件があった米フロリダ州の高校から避難する生徒ら=AFP時事【2月15日 朝日】)

民間に約2億7000万丁 安い短銃なら200ドル
アメリカは言わずと知れた“銃社会”です。
民間で保有される銃は約2億7000万丁、市民の約4割が銃を所有している、もしくは銃のある世帯に住んでおり、2016年に銃によって死亡した1万1004人とのことです。

****銃社会アメリカ 数字で見る被害と支持****
(中略)米ピュー研究所の2017年調査によると、米国市民の約4割が、銃を所有している、もしくは銃のある世帯に住んでいると答えた。そして、米国で発生する銃器による殺人や過失致死の割合は先進国で最高だ。

2016年の米国では1万1000人以上が銃によって死亡した。これは、殺人と過失致死の合計件数の約3分の2に相当する。(中略)

世界各国で民間人がどれくらい銃を所有しているのか正確に知るのは難しいが、米国の約2億7000万丁はどのような推計でも群を抜いて突出している。(中略)

米国で銃で死ぬ人たちの内訳は
1982年以降の米国では、4人以上が犠牲になる大量射殺事件が90回起きている。しかし乱射事件の被害者は実は、米国で銃によって死ぬ人のごく一部に過ぎない。下図(略)が示すように、2016年に米国で銃によって死亡した合計1万1004人のうち、約5500人は自殺で、乱射事件の犠牲者は71人だった。(中略)

銃はいくらで買えるのか
市民が銃をほとんど持たない国からすると、米国では銃がいかに安く買えるかは、意外に思えるかもしれない。

ラスベガス乱射(2017年10月1日にラスベガス市で58人が殺害されたコンサート会場への攻撃)のスティーブン・パドック容疑者がいたホテルの部屋で発見されたという自動小銃は、一般的に約1500ドル(約18万円)で買える。マックブックと同じような価格帯だ。

同様に、容疑者の室内で発見されたという短銃は、安いものは200ドル(約2万3000円)程度。たとえばクロームブックのラップトップなみで、銃砲店で手に入る。(中略)

短銃の所有禁止について、米世論は過去60年の間に劇的に変化した。データは不完全ながら、調査会社ギャラップによると、現在ではかなりの大多数が短銃規制に反対している。


(増えているのが“短銃規制への反対” 減少しているのが“短銃既成への賛成”)

しかし、たとえば精神病の病歴がある人や当局の監視対象人物への銃販売を規制することについては、政治的な主義主張を越えて幅広く大勢が支持している。

ドナルド・トランプ米大統領は、ラスベガス乱射事件の後、「銃の法律については時間がたつにつれて、話をしていく」などと反応した。ホワイトハウス報道官は、今は「銃規制を議論すべき時ではない」と述べた。(後略)【2017年10月4日 BBC】

【「学校で銃撃事件を起こすやつがいるとすれば彼だ、と冗談を言い合っていた」】
こうした銃社会アメリカにあって、17名の死者を出した米フロリダ州パークランドの高校で銃乱射事件は、“起こるべくして起こった”事件のようです。

****米高校で銃乱射、17人死亡=交流サイトに銃画像-容疑者****
米フロリダ州パークランドの高校で14日午後2時半(日本時間15日午前4時半)ごろ、銃乱射事件が発生し、生徒ら17人が死亡した。

米メディアによると、拘束された同高校の元男子生徒ニコラス・クルーズ容疑者(19)はインターネット交流サイト(SNS)に銃の写真を多数投稿しており、周囲は銃撃事件を起こす可能性を懸念していた。

捜査当局は容疑者のネットの閲覧履歴やSNSの内容を分析し、動機や事件の背景の解明を急ぐ。容疑者が犯行時にガスマスクや殺傷能力の高い半自動小銃「AR-15」を使用していたことから、当局は計画的な犯行とみて調べている。
 
報道によると、容疑者のSNSには、さまざまなタイプの銃やナイフを手にする容疑者とみられる人物の画像が多数投稿されていた。容疑者を知る同高校の生徒は地元テレビに「学校で銃撃事件を起こすやつがいるとすれば彼だ、と冗談を言い合っていた」と語った。
 
別の生徒はABCテレビに対し、約1年前に取り乱した様子の容疑者にどうしたのか尋ねると、容疑者が「学校で銃を撃ちまくる」と発言したと証言。生徒が発言に気をつけるよう促すと、容疑者は謝罪したという。
 
容疑者は同高校を退学処分となった。別の生徒を脅すトラブルがあったと報じられている。【2月15日 時事】
*************************

【「市民がより多くの銃を持てば持つほど、国は安全になる」というねじれた論理
“銃社会”アメリカの銃乱射事件や学校での事件は、日常的な現象ともなっています。

*****************
アメリカの乱射事件としては、昨年2017年の10月1日にラスベガス市で58人が殺害されたコンサート会場への攻撃が全米に衝撃を与えました。実はその後も、例えば教育機関での銃撃事件としては、

■2017年年12月7日にニューメキシコ州アズテック市で高校が襲われ、2人が死亡。

■2018年1月23日にケンタッキー州ベントン市で15歳の高校生が構内で2人の同級生を射殺。そのほかに14人が負傷。

というように、多くの事件が起きています。【2月15日 冷泉彰彦氏 Newsweek】
******************

それでも銃規制が進まないのは周知のところで、今回事件もこれまでと同じでしょう。

アメリカにおいて銃保持は憲法上の個人の権利であるという認識、現実政治における全米ライフル協会の絶大な影響力といった話以外にも、これだけ銃が出回っており事件が多発している以上、銃で自分の身を守る必要があるという考えもあります。

この考えでいくと、せめて軍が使うような攻撃的な銃だけでも規制を・・・という“至極まっとう”に思える意見も、“より強力な銃で身を守らないと・・・”という流れで否定されます。

全米ライフル協会(NRA)は、市民がより多くの銃を持てば持つほど、国は安全になると主張しています。

****************
今回のフロリダの事件にしても、ラスベガスの事件にしても「AK15タイプ」と呼ばれる「連射可能で火力の強いアサルトライフル」が使用され、そのことが被害を拡大しているのは間違いありません。

ですが、銃保有派の人々は、「強力な火器が出回っている以上は、対抗できる武器を保有しないと家族が守れない」として、規制には断固反対の構えです。【冷泉彰彦氏 同上】
****************

銃の氾濫に、より強力な銃で身を守る・・・という流れは、どこかで連鎖を断ち切らないと、今回のような事件が今後も多発するだけでなく、街中で大きな物音がすると歩いていた皆が一斉に銃を周囲の他人に向ける・・・という“コント”ような社会にもそのうちなります。“病気”です。

銃規制に消極的なトランプ大統領のせいで、大手銃器メーカーが破綻
銃乱射事件犠牲者に涙したオバマ前大統領とは異なり、全米ライフル協会(NRA)の全面的支援を受けるトランプ大統領は、銃規制の議論は「あとで」「そのうち」として避けてきており、今回事件でもツイッターで犠牲者の遺族に弔意を表明、「子供も教師も誰でも、米国の学校で安全でないと感じるべきではない」と述べてはいますが、銃規制については何も触れていません。

銃規制に消極的なトランプ大統領のせいで、大手銃器メーカーが破綻した・・・という、なんだかあべこべのような話がアメリカ社会の現実を示しています。

****米の銃器メーカーが破綻へ トランプ大統領就任も影響****
アメリカの大手銃器メーカー、レミントン・アウトドアは、去年の売り上げが大幅に減少したことなどから、日本の民事再生法に当たる連邦破産法11条の適用を申請することを明らかにし、銃規制に消極的なトランプ大統領の就任によって銃の販売不振を招く、皮肉な結果となっています。

レミントン・アウトドアは13日までに、連邦破産法11条の適用を申請すると発表しました。

レミントンは1816年から銃を製造している老舗メーカーですが、2012年に小学校で起きた銃乱射事件をめぐる訴訟などで、経営が悪化していました。

加えて、去年、銃規制に消極的なトランプ大統領が就任したことで、当面は銃の規制が強化される見込みはなく、直ちに購入する必要はないとして、去年の売り上げが前の年より30%減少したことが、追い打ちをかけました。

レミントンは債務を整理したうえで経営再建を目指すことにしていますが、銃規制に強く反対するNRA=全米ライフル協会はトランプ大統領の姿勢を評価する一方で、銃器メーカーは経営悪化に陥るという、皮肉な結果となっています。【2月14日 NHK】
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拳銃を所持した黒人男性に対して銃を発砲せず、説得を試みた警官は解雇
銃の使用に関する“あべこべ”のような話(私にはそう思えるのですが)も。

****銃所持の黒人男性に発砲せず解雇された警官、市と示談成立 米****
拳銃を所持した黒人男性に対して銃を発砲せず、その後解雇された米ウェストバージニア州の元警察官が解雇を不服として市を訴えていた訴訟で、市側が示談に応じ、男性に17万5000ドル(約1900万円)を支払うことで合意した。
 
元警察官で白人のスティーブン・メイダーさんは、2016年6月にウェストバージニア州のウィアトン市警察を解雇され、市を相手取った訴訟を起こした。
 
米国自由人権協会の説明によると2016年5月、女性から自宅でボーイフレンドが暴れているとの通報を受けてメイダーさんが現場へ急行したところ、23歳の黒人男性が錯乱状態になっていた。男性が両手を後ろに隠していたため、メイダーさんが両手を見せるよう求めると男性は従ったが、その手には拳銃が握られていた。
 
メイダーさんは銃を捨てるように言ったが男性は拒否し、自分を撃ってくれとメイダーさんに頼んだという。
 
メイダーさんが男性の説得を試みていたところへ別の警官2人が到着。男性が2人に銃を向けたため、そのうちの1人の警官が銃を4発撃って男性を射殺した。男性が所持していた銃には弾丸が入っていなかったことが後に判明している。
 
市側はメイダーさんの解雇は複数の規律違反があったためとしているが、ACLUのウェストバージニア支部は11日、市側が示談金を支払うことに同意したと発表した。【2月13日 AFP】
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この記事を読んで、はじめは意味が理解できませんでした。「どうして、説得を試みていたメイダーさんが解雇されるのか?」

日本のTVドラマなら、説得を試みるのは“良い警官”、すぐに発砲するのは“悪い警官”となりますが、銃社会アメリカにあっては逆になるようです。少しでも危険が感じられる場合はまず発砲して危険を除去するのが“良い警官”で、いたずらに銃使用を控えるのは危険を助長する“悪い警官”のようです。
たとえ、弾が入っていないことがあとでわかったとしても。

今回事件容疑者にも似たトランプ大統領 「世界で核のボタンを押すやつがいるとすれば彼だ・・・・」】
前出記事によれば、“報道によると、容疑者のSNSには、さまざまなタイプの銃やナイフを手にする容疑者とみられる人物の画像が多数投稿されていた。容疑者を知る同高校の生徒は地元テレビに「学校で銃撃事件を起こすやつがいるとすれば彼だ、と冗談を言い合っていた」と語った。”とのこと。

なにやら、軍事パレードをやりたがるトランプ大統領も似ているようにも思えます。自分の持っている武器を世界にみせびらかしたい心理でしょう。

****トランプ大統領、大規模軍事パレード「やりたくなった****
トランプ米大統領が首都ワシントンで大規模な軍事パレードを計画するよう国防総省に命じたことが明らかになった。米紙ワシントン・ポストが6日、報じた。

昨年7月14日のフランス革命記念日にマクロン大統領に招かれ、パリで恒例の軍事パレードを見て、やりたくなったという。
 
同紙によると、トランプ氏は1月18日、マティス国防長官や米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長らとの会合で、軍事パレード構想を披露した。米軍幹部は「命令は『フランスのようなパレードをしたい』だ。軍最高レベルで検討されている」と話している。
 
トランプ氏は昨年9月の国連総会でマクロン氏と再会した際、「最高のパレードだった。我々はあれを超えなければいけない」と話したとされる。【2月8日 朝日】
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“米ホワイトハウスのマルバニー行政管理予算局長は14日、下院予算委員会の公聴会で証言し、トランプ大統領が年内の実施を指示した軍事パレードについて、経費が1000万〜3000万ドル(約11億〜32億円)になると述べた。”【2月15日 産経】とのことですが、費用の話はともかく、北朝鮮か、どこかの独裁国家のようでもあります。

****ロシア疑惑で追いつめられたトランプは核のボタンを押す寸前だ****
<ロシア疑惑の捜査進展でトランプの精神状態が悪化し、核攻撃に走る恐れが高まっていると精神科医たちは警告する>

ドナルド・トランプ米大統領の精神状態は「悪化の一途」だと、アメリカの精神科医が見解を示した。2016年の米大統領選でロシアと共謀した疑惑をめぐってロバート・ムラー特別検察官が進める独立捜査にじわじわ追い詰められて、もう少しで「核のボタン」も押しそうな崖っぷちにあるという。

ムラーの捜査が大詰めを迎えていることによるストレスで、「どう見てもトランプは苛立っている」、と精神科医のジョン・ガートナーは言った。首都ワシントンで2月12日に開かれた、トランプの弾劾を求める団体主催「弾劾せよ」のイベントで、精神科医と核分野の専門家によるパネルディスカッションに参加したときだ。

「ムラーの捜査が核のボタンを押すようトランプを追い込む一因になっている、ということを我々は理解する必要がある。トランプにしてみれば、それで自分の抱える問題が全て片付くのだから」と、ガートナーは言った。核攻撃で命を奪われる人たちに対する同情や懸念が、トランプには微塵もないという。

「今の状況は落ち着くどころか、悪化の一途だ」「日を追うごとに、人類滅亡の危険が増大している」

トランプは同じ日、アメリカが核兵器を二度と使わなくてもいいよう望むが、「諸外国が核開発を進めている手前」アメリカも核兵器の近代化を進めていく、と発言。核兵器削減は「彼らの今後の出方による」とした。

パネリストを務めた核安全保障の専門家ジェームズ・ドイルは、「衝動的で、怒りやすい、或いは欲求不満を抱えやすく、好戦的で、過度に虚勢を張るか執念深い人物」は大統領としてふさわしくない、と言った。それらの特徴全てにトランプは該当する、と言われている。(後略)【2月15日 Newsweek】
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“精神科医の見解”というより、トランプ嫌い(私もですが)の発言・・・といった感もありますが、「衝動的で、怒りやすい、或いは欲求不満を抱えやすく、好戦的で、過度に虚勢を張るか執念深い人物」は大統領としてふさわしくないのは事実でしょう。

何かが起きたのちに「世界で核のボタンを押すやつがいるとすれば彼だ、と冗談を言い合っていた」ということでなければいいのですが。
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パキスタン・中国の違法臓器売買  オランダでは拒否を明示しない全国民をドナーに登録

2018-02-14 23:10:54 | 疾病・保健衛生

(パキスタン・パンジャブ州のサルゴダで、手術の跡を見せる、自分の腎臓を売った男性(2017年2月2日撮影)【2017年11月4日 AFP】)

パキスタン “腎臓の違法取引において国際的な中心地” 髄液抜き取りも
違法臓器売買については世界各地で実態・事件が報じられていますが、比較的よく目にする国のひとつがパキスタン。“腎臓の違法取引において国際的な中心地”とも評されているようです。

****富と貧困が支える腎臓の違法取引 パキスタン****
パキスタンは長い間、腎臓の違法取引において国際的な中心地とされているが、医療および地元当局は、効果のない政策の実施方針と取り締まろうとする政治的意志の欠如に阻まれ、こうした違法行為に対抗できないでいると訴えている。
 
臓器提供は、自発的で強迫や金銭の取り交わしがない限り合法だ。イスラム教徒が国民の大半を占めるパキスタンの聖職者はそうした臓器提供はイスラム教に沿ったものと判断しているが、認識不足や、イスラム教徒にとってタブーとする考えが浸透していることから、臓器を自発的に提供する人々は不足している。
 
臓器供給が限られているために、パキスタンでは富裕層が、臓器取引にかかわる犯罪組織の手を借りて何百万人もの貧困層の人々を日常的に食い物にしていると言われている。

また腎臓が安く買えるため、主に湾岸諸国やアフリカ、英国など海外からの買い手も少なくない。多くの国ではこうした臓器の売買は闇取引に限られるが、パキスタンでは平然と行われている。
 
AFP記者が首都イスラマバードにある高所得者向けの総合病院の受付ロビーに入るやいなや、職員が見つけてくれたいわゆる「エージェント」が、ドナーの紹介と腎臓移植のための政府許可の取得で、計2万3000ドル(約250万円)でどうかと持ちかけてきた。
 
政府の人体臓器移植当局「HOTA」は、そうした臓器取引に対して無力だという。ドナーが同意したと主張すれば、自分たちにできることは何もないとHOTAの監視局員の医師は述べた。
 
専門家は、横行する臓器をめぐる闇産業の根本原因に対処する必要があると指摘している。
 
ラワルピンディにある国立ベナジル・ブット病院の腎臓科長ムムターズ・アフメド医師は、「この違法取引はこの国の金持ちとエリート層に利益を与えている」と語る。

腎臓取引に関する政府の調査委員会の委員でもあるアフメド氏はまた、そのために議員らは罰則の執行に乗り気でないと、主張している。一方で、パキスタン連邦捜査局(FIA)は、臓器の違法取引をなくすために差別はしないと誓っている。

■市場を創り出す腎臓への高い需要と貧困
カラチに本部を置く腎臓移植の地域指導者的な存在であるシンド泌尿器・移植研究所(SIUT)によると、パキスタンでは毎年、約2万5000人が腎不全になっているが、透析を受ける患者はそのうち10%で、移植を受けられるのはわずか2.3%だという。

アフメド医師は「多くの人々が国立病院に来ます。腎臓を提供するという家族のドナーを連れて」「その後突然、民間の病院で腎臓が買えると知ると、そっちに移るんです」と話した。
 
腎臓への高い需要が、パキスタンの広大な地方に暮らす人々が貧困から脱する好機と見る市場をつくり出している。

工場や田畑、れんがの窯元で雇われている人々は、医療費や養育費として雇用者から金を借りるが、借金を返済できなくなるばかりか、奴隷労働の連鎖に陥っていく。その結果、労働者たちは臓器を売って得た金でその状況から抜け出したいと願うようになる。
 
数年前に腎臓を売った時の手術の痛みが残っているブシュラ・ビビ(Bushra Bibi)さんもそうしたうちの一人だ。静かに涙を流しながらビビさんは、父親の医療費と借金返済のため、12年前に自分の臓器を11万ルピー(約11万5000円)で売ったことについて語った。

彼女の義父も同じ境遇だったために、彼女の夫も同様に自身の臓器を売った。だがこの必死の行動は二人に慢性的な痛みを残し、仕事や5人の子どもたちの育児にも支障をきたし、結果的に以前よりさらに多くの借金を抱えることになった。(後略)【2017年11月4日 AFP】
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“臓器売買”ではありませんが、貧しい女性だまして髄液抜き取るという犯罪も報じられています。

****貧しい女性だまして髄液抜き取る、ギャング5人逮捕 パキスタン****
パキスタンの警察当局は13日、貧しい女性たちをだまして髄液を抜き取った疑いで、ギャング団のメンバーら5人を逮捕したと明らかにした。地元メディアの報道によると、髄液を抜き取られて身体に障害を負った女性らもいるという。
 
パキスタン中部パンジャブ州ハフィザバード県の警察当局によると、被害女性の親族からの通報によって容疑者5人を逮捕したという。この女性は結婚のための持参金が無料になるプログラムのために必要な措置だと言われ、髄液を取られた。
 
パキスタンでは犯罪組織などが関与する医薬品の闇市場が大きな問題となっているが、当局は採取された髄液が骨髄移植手術用として闇市場で販売されていたとみている。
 
警察の捜査員はAFPに対し、「逮捕された5人は、地元の女性少なくとも10人の脊髄から髄液を抜き取り、髄液を州政府が運営する病院の清掃作業員に売っていたと自供した。この作業員も拘束された」と述べた。
 
その一方でウルドゥー語紙「デーリー・ジャング」は、容疑者らが少なくとも90人の貧しい女性たちから髄液を抜き取って身体に障害を負わせたと報じている。
 
パキスタンは違法な腎臓の移植手術もまん延しており、世界中の移植希望者を引き付けている。【2月13日 AFP】
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“だまして”ということですが、背景にあるのは貧困・生活苦でしょう。

中国 臓器提供・移植の『中国モデル』によって世界一の臓器移植大国に “臓器狩り”の悪いうわさも
パキスタンと並んでよく目にするのが中国。中国の場合、刑執行後の死刑囚から臓器を摘出するということが行われていましたが、2015年1月からはそうした行為は禁止されています。

ただ、その禁止令の実態・実効性を疑問視する向きもあるようです。

*****死刑囚の臓器提供中止、中国政府に対し疑念の声****
これまで中国で激しい論争を招いてきた、刑執行後の死刑囚の臓器提供が今年初めから禁止された。

しかし国外の医療関係者は、今後死刑囚らの臓器は「寄付」として新たに分類されるだけであろうとして警鐘を鳴らしている。

中国では臓器移植の需要は高いもののドナー(臓器提供者)が慢性的に不足しており、長期にわたり死刑囚の臓器提供に頼ってきた。

複数の報道によると、中国人体器官捐献与移植委員会の黄潔夫主任委員は北京での会合の際に、当局は今年初めから、死刑囚から摘出された臓器を使わないようすべての病院に通達していると強調した。

元衛生省次官でもある黄主任委員は10日、ニュースサイトのチャイナ・ビジネス・ニュースに対し、「臓器移植業界は、自発的な寄付による臓器だけに頼るという新たなステージに発展した」と述べている。

しかし、専門家らはこの主張に懐疑的で、死刑囚らの臓器は「寄付」として再分類されるだけで、摘出は中止されないだろうとみている。

英医学専門誌ランセット(Lancet)に掲載された投書で、「臓器の強制摘出に反対する医師会」代表らを含む5人の医療関係者らは、「中国政府は2008年以降同じ約束をしては実行することを避けてきた。

また、死刑囚らは臓器を寄付できる一般人として再分類されており、この慣習も続けられている」と指摘した。【2015年3月10日  AFP】
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死刑囚についても本人や家族が事前に提供の意思を示し、摘出に同意するなどの手続きを条件に、他の人と同様に死後の臓器摘出を可能ですから、死刑囚からの臓器摘出が「自発的提供」として処理されるだけではないか・・・との疑念です。

更に、政治犯などから臓器を摘出する“臓器狩り”(臓器強制摘出)をしているといった“悪いうわさ”もあります。

****公式見解の10倍が売買? 少数民族や政治犯が出所 中国の臓器移植を考える会が発足****
中国の“政治犯”の臓器が売買され日本人を始めとした患者に移植されているとして、実態解明を求めるジャーナリストらが23日、「中国における臓器移植を考える会」(加瀬英明代表)を設立した。中国で臓器移植を受けることを禁止する法律の制定などを目指して活動する。
 
都内で開かれた発足会では、この問題を調査したカナダのデービッド・キルガー元アジア太平洋担当相とデービッド・マタス弁護士が講演。中国で公式見解の10倍の臓器移植が行われ、臓器の出所が少数民族や政治犯であること、中国共産党主導で行われていることを突き止めたと話した。
 
また、不法な渡航移植に保険を払わない法改正を進めたイスラエルの心臓移植医、ジェイコブ・ラヴィ氏が「日本では海外渡航に保険が出ると聞いた。こうした動きはやめるべきだ」と指摘。自国での臓器移植の推進を定めたイスタンブール宣言にのっとり、国内移植を進めるよう促した。
 
会は今後、中国で渡航移植を受けた日本人の情報を集め、実態解明を進める。【1月23日 産経】
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上記事で講演者と名前があがっている2名は、法輪功拘束者に関する“臓器狩り”を調査し、その報告書を出版して話題になった者です。

また、別の報告書では、「法輪功学習者たちは、心不全を起こす薬物を注射され、臓器を摘出されている間、あるいはその後に殺害されている」【ウィキペディア】とも。

フェイクニュースが横行する世の中ですから、どこまで真実かは知りません。
まあ、少なくとも現在は、「大国」を自任する中国ですから、そんなことはやっていないのでは・・・とは思いますが。

当然ながら、中国当局はそうした“悪いうわさ”を強く否定したうえで、臓器提供・移植の『中国モデル』によって世界一の臓器移植大国になると自負しています。

****中国、2020年に世界一の臓器移植大国に―中国メディア****
「2017年全国人体臓器提供・移植工作会議」が5日、雲南省昆明市で開催された。中国人体臓器提供・移植委員会の黄潔夫委員長は、「国内での臓器提供・移植事業の発展に伴い、中国は2020年までに、世界トップの臓器移植大国になるだろう」との見方を示した。中国新聞社が伝えた。

現在、生前の意思により死後に臓器を提供する中国人の数は、アジア首位となり、人口100万人あたりの臓器提供率は、2010年の0.03から2016年には2.98に上昇した。著しい進展を遂げたとはいえ、先進国と比べると、まだ大きな格差が存在している。

黄委員長は、次の通りコメントした。
「中国における臓器提供・移植改革は、十数年に及ぶ険しい探求を経て、国際慣例に沿ったものとなった。また、中国の具体的な国情に合わせた臓器提供・移植のプロセスは、臓器提供・移植の『中国モデル』を形成した」。

「中国には現在、1900人あまりの臓器提供・移植コーディネーターがおり、近く5千人にまで増やす計画だ。現在、臓器移植手術を実施している病院は173軒あるが、年内に200軒、2020年までに300軒まで増やすことを目指している」。

世界保健機関(WHO)、国際移植学会(TTS)、国際臓器提供調達学会(ISODP)などの(中略)国内外の専門家らは、中国の臓器提供・移植事業発展における顕著な実績を十分に評価し、何らかの下心を持つ組織が国際的に流布する「臓器狩り(臓器強制摘出)」のデマを否定した。(後略)【2017年8月9日 Record china】
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“中国の具体的な国情に合わせた臓器提供・移植のプロセス”についてはよく知りませんが、違法臓器売買もない訳ではないようです。

****中国で今もなお臓器密売、報酬68万円、手術費用855万円の荒稼ぎ****
中国メディアの正義網は18日、人体の器官を密売する「ブラック産業チェーン」が存在していると報じた。腎臓病患者から移植手術の手配を依頼された人物が50万元(約855万円)で請け負い、複数の人物の手を経て腎臓提供者や医師、手術場所を用意。腎臓提供者への報酬は4万元(約68万4000円)だったという。

正義網は、中華人民共和国最高人民検察院が主管するネットメディア。(中略)

正義網によると、腎臓の密売や違法な手術に関与したとして、最近になり6人が逮捕された。記事は、「腎臓移植手術の失敗で、恐るべき産業チェーンが発覚」などと評した。【2017年12月20日 Record china】
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まあ、“中国で胎盤の闇売買が横行、産婦人科医がグルに”【2017年5月22日 Record china】という“国情”ですから、臓器密売闇市場も相当規模で存在するのでは・・・。

もちろん、違法臓器売買はパキスタンや中国だけでなく、ひろく世界中で行われています。

“臓器売買容疑で12人逮捕、大規模ネットワークに関与 エジプト”【2017年8月23日 AFP】
“国際手配の臓器売買組織リーダー、キプロスで逮捕 コソボ警察発表”【1月7日 AFP】
インド、バンフラデシュ、カンボジアなどでの事件の報道もあります。

オランダ 拒否を明示した人を除き、18歳以上の全国民を臓器提供者として登録
違法臓器売買が世界中で広く行われている背景には、臓器の「自発的提供」が少ないという現実があります。
そこで、このドナーのすそ野を一気に拡大しようという試みがオランダで。

****オランダ、全国民を臓器提供者として登録へ 法案が議会通過****
オランダ上院は13日、臓器提供を望まないとの意思を明示した人を除き、18歳以上の全国民を臓器提供者として登録する画期的な法案を可決した。
 
同法案は、人口1700万人の同国で臓器提供の登録者増加を目的として、革新政党「民主66」のピア・ダイクストラ議員が提案したもの。上院の採決では賛成38、反対36の僅差で可決された。
 
新法が施行されると、オランダ国民は郵送で2度通知を受け取り、臓器提供意思の有無を表明することになる。2度目の通知でも返答がなかった場合、自動的に臓器提供者として登録される。
 
法案は2016年に下院を僅差で通過。その際に反対派は、国民の死後の遺体に関する過剰な権限を政府に与えるものだと批判していた。
 
だがダイクストラ議員は法案の一部を修正し、死亡した人が事前に臓器提供を望まない意思を明確に示していた場合を除き、最終決定は必ず親族が下すという条件を追加。

さらに同議員によると、当局は親族との事前協議なしに臓器提供を行うことはできないと定められている。【2月14日 AFP】
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臓器提供に関しては様々な意見があるところでしょう。

ただ、多くの者の死に際して、具体的に臓器提供を検討する機会がないというのが現実でしょう。

そこで、特段の拒否表明がない全国民をドナーと登録しておき、実際に提供するかどうかは、親族の判断にゆだねる・・・ということであれば、検討の機会を広く提供するものとして“良い試み”のように私は思います。

ドナーのすそ野が広がって、臓器の「自発的提供」が増えれば、金持ちが貧乏人の臓器を金で買うようなことも減少するのではないでしょうか。もちろん、臓器移植で救われる者も増えます。
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タイ  軍政は総選挙先送り 広がる抗議 見えない国王の姿勢 不敬罪が阻む体制に関する議論

2018-02-13 22:22:10 | 東南アジア

(口にテープを張り、腕を交差させて軍政の人権弾圧に抗議する人たち=バンコクの大型商業施設前で2018年2月1日、西脇真一撮影)【2月4日 毎日】)

海外逃亡中のタクシン元首相・インラック前首相 来日
タイ国内では有罪判決を受け国外逃亡中のインラック前首相と兄のタクシン元首相が最近日本を訪れていたとか。

****国外逃亡中 タイのインラック前首相 日本訪れる****
(中略)インラック前首相は去年、在任中に国に巨額の損失を与えたとして職務怠慢の罪で禁錮5年の判決を受けたあと国外に逃亡し、ロンドンに滞在しています。

インラック氏が旧正月を迎えた中国の北京に滞在しているとみられる写真がインターネット上に流出したことから、タイのメディアがプラウィット副首相にただしたところ、「彼らは日本に滞在している」と述べて、同じく国外逃亡中の兄のタクシン元首相とともに日本を訪れたとの情報を得ていることを明らかにしました。

インラック氏の日本訪問の理由ははっきりせず、プラウィット副首相は関係機関が情報収集を行っているとしています。

タイの一部メディアは、インラック氏らはすでに日本を離れたとも伝えています。(後略)【2月13日 NHK】
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多分、入国管理段階で日本政府は把握しているのでしょう。ただ、公にするとタイとの関係で厄介になるので表には出さずに処理・・・という話なのでしょうか。

そのたりは、訪日前に滞在していた中国も同様で、インラック前首相らの動向については「中国政府はこの問題に触れず、コメントも発表していない」(米華字メディアの多維新聞)【2月13日 Record china】とのこと。

今後のタイ政治のキーマンであるタクシン元首相が日本で誰と会って、何をしていたのか・・・気になるところですが、知る由もありません。

軍事政権は総選挙先送り 国民からは抗議の声も】
政治スケジュール的に遅れている、民政復帰のための総選挙は、タクシン元首相の復権を懸念する軍政の意向を受けて、更に遅れて来年ずれこむと報じられています。

****<タイ総選挙>再延期か 関連法に遅れ、遠のく民政移行****
タイの民政復帰に必要な総選挙が再延期されそうだ。約4年前から権力を掌握する軍事政権下の暫定議会が、選挙関連法を告示から90日置いて施行する法案を承認したため。

プラユット暫定首相が実施可能とした11月に間に合わず、来年初めにずれ込む可能性が高い。対立するタクシン元首相派の勝利を懸念し軍政が先延ばしを図ったとの批判が出ている。
 
今回の決定に野党や民主化運動グループは強く反発しており、27日には首都バンコクで小規模な抗議集会が開かれた。
 
総選挙実施のための4法中、下院選挙法など2法が未施行。暫定議会は25日、下院選挙法は官報掲載の90日後に施行すると決めた。通常は告示後直ちに施行するが「周知期間が必要」との理由だ。
 
憲法は4法施行後150日以内に総選挙を実施すると規定する。法の施行が延びれば、行程全体が遅延する。
 
タイではタクシン元首相派と反タクシン派の対立による混乱から2014年5月に軍と警察が「秩序回復」目的でクーデターを起こした。

タクシン派のタイ貢献党は有権者の多い農民票を押さえ、選挙には強いとみられる。このため、軍政は総選挙をできるだけ先延ばししたいのが本音だ。
 
タイ貢献党は、90日間の施行猶予を「プラユット氏を新首相に担ぐため設立される新党のため」と指摘、軍政側が選挙態勢を整える時間稼ぎだと批判した。【1月27日 時事】
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タイではこの総選挙実施をめぐる問題のほか、タイ軍事政権ナンバー2のプラウィット副首相兼国防相の資産隠し疑惑に対する国民不満も高まっています。

****世論調査結果、公表差し止め=疑惑の副首相に配慮か-タイ****
タイ軍事政権ナンバー2のプラウィット副首相兼国防相の資産隠し疑惑に関連して、国立開発行政大学院が実施した世論調査の結果が院長の指示で公表されず、大学院の調査機関責任者が29日、抗議のため辞表を提出した。
 
プラウィット副首相は報道写真などからロレックスを含む少なくとも25個の高級腕時計を身に着けていたことが判明。いずれも資産報告で申告されておらず、資産隠しの疑いが浮上している。
 
バンコク・ポスト紙によると、世論調査では「腕時計はすべて借り物という副首相の言葉を信じるか」という質問に、85%が「信じられない」と回答した。このため、大学院が軍政に配慮し、公表を見送ったとの観測が広まっている。【1月29日 時事】
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よっぽど高級時計が好きなのか、見せたくて仕方がないのか・・・・。
こうした汚職・腐敗絡みの問題が軍の意向でうやむやにされてしまうあたりが、民政ではない軍事政権の不透明さを示しています。

総選挙を通じた民政復帰を求める抗議の声も断続的に示されているようです。軍政側は、抗議行動を刺激しないように慎重な対応もとっているとの指摘も。

****軍事政権、もう交代する時期」総選挙求める催し タイ****
軍事政権下のタイで、暫定的な国会にあたる国民立法議会が選挙関連法の施行日を遅らせると決めたことを受け(12月)27日、バンコク市内で、若者たちがこれに反発する催しを開き、「今年中に選挙をしろ」などと主張した。
 
「プラユット(暫定首相)の軍事政権になって4年がたつ。もう交代する時期だ」。バンコク中心部の広場で、学生のランシマン・ロームさんは声を張り上げた。集まった数百人の聴衆から拍手が上がった。(後略)【1月28日 朝日】
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****<タイ>総選挙先送りに民主化団体抗議 軍政に反発****
タイ軍政が民政復帰に向けて11月に実施可能としていた総選挙を先送りする動きを見せたことに対し、民主化グループが連日のように小集会を開き、抗議活動を続けている。軍政側は強硬に取り締まれば民主化の火に油を注ぎかねないとみて、慎重に対応している。
 
1日夕、バンコク中心部の大型商業施設前に、大きな銀色のテープで口を覆った1人の女性が立つと、賛同する男女が同じ格好をして寄り添った。女性は「平和的に反独裁を訴える」とし、黙ったまま両腕を交差させて上げるなどし、人権や言論の弾圧に抗議した。

周辺に制服や私服の警察官が大勢いたが、前面には出ず、移動しようとする女性を制止したのは商業施設の警備員だった。(中略)

(先送り)決定直後の1月27日に開かれた小規模デモには、軍政と対立するタクシン元首相派に加え、反タクシン派の人も参加。政治的立場の違う両者が総選挙の早期実施を訴えた。

さらに今月2日の集会では、軍政ナンバー2で、資産隠し疑惑が浮上したプラウィット副首相兼国防相に対する辞職要求も飛び出し、総選挙要求運動が広がりをみせている。

軍政側は5人以上の政治集会を禁じているが、今のところ強硬な取り締まりは実施していない。【2月4日 毎日】
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抗議する側も、治安当局の対応を見極めながら・・・・といったところ。

****タイ軍政抗議 活発 集会ダメなら山車やお面で****
タイの軍政が民政復帰に向けた総選挙の先送りを図っているとして、市民グループなどの抗議活動が活発化している。

警察は八日、総選挙の早期実施を求める集会を開いた活動家三十九人に出頭を命じた。軍政は二〇一四年のクーデター以来、五人以上の政治集会を禁じており、市民らはあの手この手で抗議を続ける。
 
バンコク中心部のルンピニ公園。四日夕に集まった十数人が列になって三十分間、池の周囲を歩き続けた。参加者がベンチで車座になると、集会とみなした警察官が取り囲んで制止した。

男性リーダーのアピシットさん(39)は取材に「医療福祉の充実や環境保護を市民に訴え、タイに民主主義を取り戻す」と訴える。
 
抗議活発化は、プラユット暫定首相が十一月の実施を明言した総選挙が、来年に先送りされる可能性が高まったため。プラウィット副首相の資産隠し疑惑が拍車をかける。
 
三日はバンコクで行われた大学サッカーの試合で、学生らがプラウィット氏を皮肉る山車を担いだ。六日夕はオフィス街で、男性がプラウィット氏を思わせる似顔絵に「出ていけ」と書いたお面をつけて立った。
 
八日に出頭を命じられた活動家三十九人は集会が商業施設「MBKセンター」前で開催されたことから「MBK39」と名乗り、ネット上で活動を紹介。当局は同日、実際に出頭した三十数人から事情を聴いた。【2月9日 東京】
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なお、プラウィット副首相兼国防相に似た似顔絵のお面をつけた男性は、5分もたたないうちに警察に連行されたようです。

10日は、最近では異例の規模となる数百人が集結した集会も。

****<タイ>民主化集会に数百人 総選挙の早期実施求め****
バンコクの民主記念塔近くで10日、タイの民政復帰に向けた総選挙の早期実施などを求める集会が開かれ、活動家や市民ら数百人が集結した。最近では異例の規模となった。

軍政は5人以上の政治集会を原則禁じており、警察当局はデモ参加者に出頭命令を出すなど取り締まりを強化している。
 
「ルアッタン(選挙)、ルアッタン」。マイクを手に活動家が「クーデターから4年になるのにまだ民主化されていない」などと訴えると、歩道に集まった人たちが連呼した。
 
民主記念塔は、1932年の立憲革命で絶対王制から立憲君主制になったのを記念して建てられた。タイの民主化を象徴する場所の一つで、当局側は事前に塔の敷地に入れないよう規制。付近の歩道沿いに柵も置き、当日は警察官約300人を動員した。
 
軍政はデモの広がりに警戒を強めており、1月27日にあった総選挙の早期実施を求めるデモの参加者に出頭を命令。応じなかったリーダー格4人のうち今月10日朝に1人を逮捕。この日の集会参加後に出頭した3人も逮捕した。4人は保釈金を払いすぐ保釈されたが、今後もこうした圧迫を続けるとみられる。(後略)【2月11日 毎日】
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プラユット暫定首相 「タイ的民主主義」を含む「持続可能なタイ主義」の新政策
こうした状況のなか、総選挙を遅らせ、軍を支持する勢力で新政党を結成し、選挙後に再び首相になろうとしているのでは・・・とも憶測されている軍事政権プラユット暫定首相は「タイ的民主主義」を含む「持続可能なタイ主義」の新政策を発表しています。

****持続可能なタイ主義」 タイ軍政が新政策****
タイ軍事政権のプラユット首相は9日、バンコク北郊のコンベンションセンター、インパクトに、全省の事務次官、軍司令官、内務省幹部、タイの全77都県の知事ら約2800人を集め、「持続可能なタイ主義」とうたった新政策を説明した。

「助け合い」、「幸福な共同体」、「権利と義務と法律を知る」、「足るを知る」、「タイ的民主主義を知る」、「麻薬問題の解決」といった10の目標を掲げ、公務員が全国の津々浦々に入って国民の要望を聞き、解決策を立案、実行に移すというもので、予算総額1500億バーツ。

 首相は新政策について、国民の生活水準の向上、貧富の差の縮小が狙いで、自身が常々批判してきたバラマキ政策ではなく、2019年の実施が予想される議会下院総選挙に向けた人気取りでもないと主張した。【2月12日 newsclip.be】
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「タイ的民主主義」とは何か?一般には、民政を前提にしながらも、政治対立・混乱が深まる際には、国王がその最終調停役をなす体制を指すとされています。

****問われる「アジア式民主主義*****
(中略)だが、その後もクーデターは繰り返され、政治混乱の収拾を理由にした2014年5月のクーデター以降、タイは再び軍事政権下にある。
 
そして最近、軍政トップのプラユット暫定首相がこんな言葉を口にした。「タイは民主主義を持たなければならない。だがそれは、タイ主義(タイ式)の民主主義だ」
    
タイでは、政治が腐敗したり混乱したりすると、軍が力で刷新。一定期間の軍政の後、総選挙を経て民政に戻るが、再びクーデターが起きるという歴史が繰り返されてきた。国王がその最終調停役をなす体制は「タイ式民主主義」と呼ばれる。
 
今回のプラユット氏の発言の真意は何か。「政治や社会の安定を望むなら、総選挙後も軍が政治にかかわり続ける必要がある」とのメッセージとの見方が強い。

昨年4月に施行された新憲法は、選挙を経ない人物が首相に就く道を開いており、プラユット氏がその座をうかがっているとささやかれる。
 
だが、アドゥンさんは異議を唱える。「クーデターを起こした軍は、レフェリー役ではなかったのか。軍政が掲げた国民の和解や改革も、何も進んでいない。軍政は早く、国民に権力を返すべきだ」(中略)

もっとも、欧米流の民主主義が万能なわけではない。その国の事情に合わせた受容はありうるだろう。ただ、タイやカンボジアの現状は、国民全体が主役の体制とは言い難い。「アジア式の民主主義」がいま、問われている。【2月12日 貝瀬秋彦氏 朝日】
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“国王がその最終調停役をなす体制”というのは、その是非はともかく、国民からの絶大な信頼を受けていたプミポン前国王という存在があってのことです。

国民からの信頼に疑問の声もあるワチラロンコン現国王のもとで機能するのか?
更には、軍政主流派と現国王の間には不協和音もあるとされています。

そうした事情もあって、プラユット暫定首相らが考える「タイ的民主主義」とは、国王に代わって軍が調停というか、実質的決定権を持つような政治体制ではないでしょうか。

見えないワチラロンコン現国王の姿勢 「不敬罪」が阻む体制に関する議論
いずれにしても、ワチラロンコン現国王がどのような姿勢で治世にあたるのかが非常に重要な政治ファクターとなりますが、その国王の考え・方針が見えてきません。

****タイ国王、権限の強化着々 軍事政権、批判封じ込め 即位受諾1年****
タイのプミポン前国王の死去に伴い、ワチラロンコン現国王(65)が即位要請を受諾してから(2017年12月)1日で1年になる。

この間、国王の権限強化につながる動きが続く一方で、軍事政権は「不敬罪」で体制への批判を封じ込めてきた。前国王の喪が明けたいま、関係者は今後の現国王の動きを注視している。
 
10月下旬にバンコクで営まれた前国王の葬儀で1年余りにわたった喪が明けたが、現国王はまだ自らの方針を国民に示していない。
 
ただ、この間の動きを見ると、着々と権限を強化・拡大してきたことがうかがわれる。最初は、2014年のクーデターで破棄された旧憲法に代わる新憲法だった。昨年8月の国民投票で承認されたが、今年に入って現国王側が修正を要求。国王権限を強める修正が施され、4月に施行された。
 
5月には、それまで政府や軍の管轄だった王室庁などの5機関を国王直轄にする新法を施行。7月には王室財産の管理・運用は国王の意思によってなされるとの法改正がされ、財産管理を監督する組織の幹部の人事権も国王が握った。そのトップは従来、財務相が兼務していたが、現国王の側近が送り込まれた。
 
また、10月には王室財産管理局が、保有していた銀行株の一部を現国王個人に譲渡した。
 
王室の職員も、前国王側近から現国王側近への入れ替えが相次いでいると言われており、外交筋は「権限強化と体制固めを着々と進めている。今後の動きも注目している」と話す。
 
その一方で、軍政は「不敬罪」による体制批判の封じ込めに躍起だ。現国王の経歴に関する外国メディアの報道をフェイスブックで共有した大学生が8月、実刑判決を受けた。
 
また、著名な批評家が3年前に大学でした発言がもとで、不敬罪の嫌疑を掛けられている。16世紀のタイの国王の言い伝えをめぐって、疑問を呈したのが理由だった。訴追されるかはわからないが、識者の間では「王室へのいかなる批判も許さないという警告ではないか」と危惧する声が出ている。【2017年12月1日 朝日】
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“着々と権限を強化・拡大してきた”とされるワチラロンコン現国王ですが、その奔放な性格は、規律を重視するプラユット暫定首相・軍事政権とは異なるものがあります。

“権力”をめぐって国王と軍政が“手を結ぶ”のか? それとも両者の溝が深まり、国王が独自の姿勢を示そうとするのか・・・よくわかりません。タクシン元首相は、その“溝”に期待しているのでしょうが。

なにぶん厳格な「不敬罪」によって国王や体制に関する発言等は一切禁じられていますので、そうしたタイの修礼にかかわる重要な問題に関する報道・指摘もありませんし、タイ国内での議論も深まりません。
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ロヒンギャの惨劇 彼らはどう焼かれ、強奪され、殺害されたか【2月12日 ロイター】

2018-02-12 21:50:08 | ミャンマー

(縛られ、拘束された10人のロヒンギャの男たちは、すぐそばで浅い墓穴を掘る隣人の仏教徒たちを見つめていた。それからまもなく、昨年9月2日朝、彼ら10人の遺体がその穴に横たわった。そのうちの2人を切り殺したのは仏教徒たち。残る8人はミャンマー軍によって射殺されたと、穴を掘ったグループの2人がロイターに証言した。【2月12日 ロイター】)

本当に“新たな一歩”か?】
1月31日ブログ“ミャンマー ロヒンギャ難民「戻ったら殺される」 軍に沈黙し、批判に苛立つスー・チー氏”でも取り上げたように、ミャンマー国軍は武装集団のメンバーとみられる10人を拘束し、正当な手続きによらず殺害したことを認めました。

この件に関し、スー・チー国家顧問は「今回の軍の対応はそのための新たな一歩だ」と評価しています。

****スー・チー氏 ロヒンギャ問題でみずからの責任言及せず****
(中略)ミャンマー軍は、治安部隊が西部ラカイン州で去年、行ったロヒンギャの武装勢力に対する掃討作戦のなかで、無抵抗のロヒンギャの住民10人を銃やナイフで殺害したことを今月10日、初めて認めました。

これについてアウン・サン・スー・チー国家顧問は12日、首都ネピドーで開かれた記者会見で、「ミャンマーは法の支配を責任をもって確立しなければならず、今回の軍の対応はそのための新たな一歩だ」と述べて、今後、軍が法にのっとって殺害に関与した隊員を処分するという見通しを示しました。

この問題をめぐっては、ロヒンギャの人たちが、多くの無抵抗の住民が殺害されたと訴えているほか、国際社会からも「迫害や虐殺があった」と非難が強まっていますが、スー・チー氏は、不法な暴力は確認されていないと主張してきました。会見では、こうした点でのみずからの責任についてスー・チー氏から言及はありませんでした。

またスー・チー氏は「さまざまな批判を受け止めているが、最もよい対策が何かを決められるのは私たちだけだ」と述べ、あくまでミャンマー政府の責任で解決する問題だと強調しました。【1月12日 NHK】
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多くの虐殺があった(過去形ではなく、難民が増え続けていることからして“行われている”と現在形で言うべきでしょうか)とされているなかの“10人”の話であり、しかも、あくまで対象は“武装集団のメンバー”だったという内容、スー・チー氏に当事者・責任者としての認識がうかがえないことなど、“新たな一歩”と見ていいかは、はなはだ疑問でもあります。

しかも、この“10人”に関する取材を行っていた記者は、ミャンマー当局に国家機密法違反の罪(ラカインに関する機密情報を入手したという容疑)で起訴されています。

軍がロヒンギャ殺害への関与を認めたのは、この記者らの取材・逮捕(昨年12月12日)の後(1月10日)であり、彼らの取材・報道によるものと思われます。

****ロイター記者、虐殺暴き逮捕か=ロヒンギャ10人犠牲―ミャンマー****
ロイター通信は9日、ミャンマー当局に国家機密法違反の罪で起訴された同通信のミャンマー人記者2人は、西部ラカイン州でイスラム系少数民族ロヒンギャの住民10人が虐殺された事件を取材していて逮捕されたと報じた。
 
2人は昨年12月12日に逮捕された。検察当局は1月10日に起訴。同じ日に国軍は治安部隊が昨年9月2日にロヒンギャ10人を殺害したことを認めた。ロイターは「虐殺に関するロイターの調査が逮捕の引き金になった」と断じた。【2月9日 時事】 
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【「この事件で起きたことをはっきりさせておきたい。この先、二度とこのようなことは繰り返して欲しくない。」(取材に協力したラカイン州の長老)】
逮捕・起訴されている記者らによる“10人殺害”の内容については、以下のように報じられています。
長い記事ですが、まだ目にしていない方のために、あえて全文を引用します。

****特別リポート:ロヒンギャの惨劇 彼らはどう焼かれ、強奪され、殺害されたか****
縛られ、拘束された10人のロヒンギャの男たちは、すぐそばで浅い墓穴を掘る隣人の仏教徒たちを見つめていた。それからまもなく、昨年9月2日朝、彼ら10人の遺体がその穴に横たわった。

そのうちの2人を切り殺したのは仏教徒たち。残る8人はミャンマー軍によって射殺されたと、穴を掘ったグループの2人がロイターに証言した。

ミャンマーで起きたイスラム系少数民族ロヒンギャの惨劇。「ひとつの墓穴に10人を入れた」。同国ラカイン州インディン村にある仏教徒集落の退役兵士、Soe Chayはそう語り、同日の事件で自ら墓穴掘りに加わり、殺害を目撃したことを認めた。

彼によれば、兵士たちは、拘束したロヒンギャ1人に2、3発の銃弾を打ち込んだ。「埋められるとき、数人からはまだうめき声が聞こえていた。他はすでに死んでいた」と彼は話した。

<終りの見えない「浄化作戦」>
ミャンマーの西の端にあるラカイン州の北部では、ロヒンギャたちに対する暴力行為が広範囲に行われている、と隣国バングラデシュに逃げ込んだロヒンギャ難民や人権擁護団体は訴える。海岸沿いの村インディンで起きた虐殺事件は、暴力的な民族対立の悲惨さを雄弁に物語っている。

昨年8月以降、自分たちの村を脱出、国境を越えてバングラデシュに避難したミャンマーのロヒンギャ住民は69万人近くに達する。インディン村にはかつて6000人のロヒンギャたちが住んでいたが、10月以降、残っているものは誰もいない。

およそ5300万人の人口を持つミャンマーは、国民の圧倒的多数が仏教徒だ。イスラム系住民であるロヒンギャたちは、同政府軍が自分たちを抹殺するため、放火、暴行、殺戮(さつりく)を続けていると訴えている。

国連はこれまでもミャンマー軍が虐殺を行っていると非難し、米国政府は同国での民族浄化を制止する行動を呼びかけている。一方、ミャンマー側はこうした「浄化作戦」はロヒンギャ反政府勢力による攻撃に対する合法的な対抗策だと繰り返している。

ロヒンギャたちにとって、ラカイン地域はこれまで何世紀にもわたり自分たちが住み続けてきた場所だった。しかし、ミャンマー人の多くは、彼らをバングラデシュからやってきたイスラム系の招かれざる移民とみなし、軍はロヒンギャたちを「ベンガル人」と呼ぶ。

こうした対立はここ何年かの間に激しさを増し、ミャンマー政府は10万人以上のロヒンギャたちを食糧も医薬品も教育も十分に提供されないキャンプに閉じ込めてきた。

<食い違う現場と政府の証言>
インディン村の惨劇はどのように起きたのか。ロイターは事件への関与を告白した仏教徒の村民たちに接触し、ロヒンギャたちの家屋への放火、殺害、死体の遺棄についての初めての証言を得た。証言からは軍の兵士や武装警察官が関係していたことも明らかになった。

村に住む長老の仏教徒からは3枚の写真を渡された。そこには9月1日の夕刻、ロヒンギャたちが兵士に拘束され、翌2日の午前10時過ぎに処刑されるまでの決定的な瞬間が写し出されていた。

ロイターが事件の調査を続ける中、警察当局は12月12日、同社記者であるWa LoneとKyaw Soe Ooの2人を逮捕した。ラカインに関する機密情報を入手したという容疑だった。

そして、年が明けた1月10日、軍はロイターによる報道内容をある部分で確認する声明を出した。インディン村において、10人のロヒンギャ住民が虐殺されたことを認める発表だった。

しかし、軍が示した説明は、いくつかの重要な点で、事件を目撃したラカインの仏教徒やロヒンギャたちがロイターに提供した証言と食い違ってる。

軍側は殺された10人を治安当局に攻撃を仕掛けた「200人のテロリスト」の一味であると決めつけた。しかし、村の仏教徒住民はロイターに対し、インディン村において、大勢の反乱分子よる治安部隊への攻撃は全くなかったと明言している。そして、ロヒンギャの目撃者によると、その10人は近くの浜辺に避難していたロヒンギャたちから引き抜かれるように連行されていった人たちだった。

さらに、ロイターの取材に応じた多くの仏教徒、兵士、武装警官、ロヒンギャたち、そして地元の行政当局者の証言から、より詳しい状況が明らかになった。

・仏教徒村民によると、軍の兵士や武装した警察官がインディン村の仏教徒住民を集め、そのうちの少なくとも2人がロヒンギャ住民の家に放火した。

・3人の武装警察官およびラカイン州の州都シットウェの警察官によると、インディン村のロヒンギャ集落を「浄化」する命令は、軍の指揮系統を通じて下された。

・インディン村の仏教徒行政官と武装警官によると、武装警察隊の数人がロヒンギャ住民から牛やオートバイを売却目的で略奪した。

<政府側は軍の作戦を擁護>
ロイターが入手したこれらの証言や情報について、ミャンマー政府はどう反応しているのか。

スポークスマンであるZaw Htayはロイターに対し、「人権侵害の申し立てがあることは否定しない。そして、全てを否定してもいない」とし、もし不法行為について「十分かつ信頼できる一次証拠があれば、政府は調査を行う」と語った。「そして、証拠に間違いがなく、暴力があったことが分かれば、我々は現行法に従って必要な行動を取る」と述べた。

インディン村のロヒンギャ集落を「浄化」するよう命令を受けたという武装警官たちの証言については、「証明が必要だ。内務省と警察当局に聞かなければならない」と返答。武装警官たちによる略奪に関しては、警察が捜査するだろうと語った。

同スポークスマンは、仏教徒村民たちがロヒンギャたちの住宅を焼き討ちしたとの情報には驚いた表情で、「いくつも様々な異なった申し立てがあるが、誰がそうしたのかを証明することが必要だ。今の状況下では、それは非常に難しい」と付け加えた。

一方、同氏はラカイン地域における軍の作戦を擁護した。「国際社会は誰が最初にテロ攻撃を仕掛けたのか理解すべきだ。もし、そうしたテロ攻撃が欧州各国や米国で、例えばロンドン、ニューヨーク、ワシントンで起きたら、メディアは何と言うだろうか」。

<隣人に牙をむく隣人>
一連の出来事は昨年8月25日、ロヒンギャの反政府集団がラカイン州北部にある警察署と軍の基地に対して行った襲撃から始まった。身の危険を感じたインディン村の数百人の仏教徒村民たちは修道院に逃げ込んだ。8月27日、ミャンマーの第33軽歩兵部隊およそ80人が同村に到着した。

村の5人の仏教徒によると、部隊を統率する兵士の1人は到着後、彼らに対し、治安作戦に参加することもできると持ちかけた。実際に仏教徒の「治安グループ」から名乗りを上げる者が出たと言う。

その後の数日間で、兵士、警官、仏教徒村民たちは同村のロヒンギャたちが住む家のほとんどに放火した、と10人以上の仏教徒住民がロイターに証言した。

警官の1人は、ロヒンギャが住む地区へ「出かけて浄化する」よう司令官から口頭で命令を受け、放火しろと言う意味で受け止めたと話した。インディンの北にあるいくつかの村に何度か襲撃を仕掛けたという別の警官もいた。

その警官とインディンの仏教徒行政官であるMaung Thein Chayによると、こうした治安部隊は村人たちに紛れ込めるよう民間人のシャツを着ていたという。

ロヒンギャたちがインディン村から逃れた後に起きた略奪について、仏教徒たちがニワトリやヤギなど奪う一方、オートバイや畜牛といった価値の高い物品は第8治安警察隊の隊長が集め、売り払ったとの証言もあった。

この隊長であるThant Zin Ooは、ロイターの電話取材に対し、コメントしなかったが、警察の広報を務めるMyo Thu Soe大佐は、略奪があったかどうか捜査すると話している。

昨年9月1日までには、数百人のロヒンギャ住民がインディンから近くの海岸に避難していたと、複数の目撃者は話す。彼らの中に、殺害された男性10人がいた。彼らのうち5人は漁師または魚売りだった。その他の2人は店の経営者、2人は学生、1人はイスラム教指導者だった。

ロヒンギャたちの証言によると、このイスラム教指導者Abdul Malikは食べ物や竹を取りに村に戻っていた。避難場所に戻る時、少なくとも7人の兵士と武装した仏教徒の村人が後をつけてきた。その後、兵士はロヒンギャたちから男性10人を選んだという。

その夜に撮影された1枚の写真には、村の小道にひざまづく10人の姿が写っている。仏教徒村民の話では、9月2日、彼らは墓地近くの低木地に連行され、そこで再び写真を撮られたという。

兵士らは彼らに、行方不明となっている仏教徒の農民、Maung Niの消息を問いただした。ロイターの取材に対し、複数の同州仏教徒とロヒンギャ住民は、10人のうちの誰かと行方不明の農民を結びつける証拠については何も知らないと答えた。

仏教徒3人は、兵士がこの10人を処刑場所に連行するのを目撃したと話した。墓穴を掘った1人である元軍人のSoe Chayによると、現場を仕切る将校が、行方不明になっているMaung Niの息子たちを呼び、最初の一撃を加えるよう促した。

そして、長男がイスラム教指導者のAbdul Malikを斬首にし、次男も他の男性の首を切り落としたという。

殺害後の様子をとらえた写真をロイター記者に提供したラカイン州の長老は、その理由をこう語った。
「この事件で起きたことをはっきりさせておきたい。この先、二度とこのようなことは繰り返して欲しくない。」【2月12日 ロイター】
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特に、コメントも必要ないでしょう。

以前、映画「ランボー」シリーズに、軍事政権時代のミャンマーを舞台に少数民族カレン族への弾圧を背景にした「ランボー/最後の戦場」(2008年)という映画がありました。

エンターテイメントとしてはともかく、この種の映画ではありがちなことではありますが、映画のなかのミャンマー軍は極悪非道の集団というステレオタイプで描かれ、そのことにはいささか辟易するものもありました。

なお“本作品の舞台としてミャンマーが選ばれたのは、「現実に、残忍な暴力や虐殺が起こっている地域を舞台にしたい」というスタローン本人の強い希望による。日本や米国ではイラクの方が報道は多いが、世界の中で実際に人権が踏みにじられながら、それが注目されていないか忘れ去られていることへの警告として、スタローンの持つ本質的なメッセージ性が顕れていると言える。”【ウィキペディア】とのことです。

上記リポートのミャンマー軍は、まさにこうした映画に登場する“悪者”そのままのようにも。

若干の救いは、軍の虐殺行為に関する取材に協力した仏教徒もいた・・・ということでしょうか。

この報道について何か言うべきは、ミャンマー国軍であり、国家のリーダーであるスー・チー国家顧問です。
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ロシア  プーチン圧勝確実で“面白味にかける”大統領選挙 焦点は投票率か

2018-02-11 23:18:47 | ロシア

(スターリングラードの戦いでの勝利から75回目の記念日を祝う行事に出席したプーチン大統領(中央)【2月7日 WSJ】)

腐敗・経済停滞への不満はあるものの、反政権候補立候補阻止で盛り上がらない選挙
ロシアについては、このところあまり取り上げていません。シリア情勢とか、欧州情勢などに関連して、大きな影響力を持つ存在としては触れるのですが、ロシア国内の話になると、(無責任な野次馬的に見て・・・ということですが)あまり“面白い”話題も多くないものですから。

周知のように、ロシアは来月18日に大統領選挙が行われますので、本来はいろいろ話題があってもいいところですが、プーチン圧勝が決まっている選挙ということで、まったく盛り上がりません。

一応、候補者はプーチン大統領など8人が名乗りを上げています。

*****大統領選候補、8人で確定=ロシア*****
ロシア中央選挙管理委員会は8日、3月18日の大統領選の候補者について、8人で確定したと明らかにした。通算4選を目指すプーチン大統領(65)の勝利が確実視されている。
 
この他の候補は、共産党のグルディニン氏(57)や極右・自由民主党のジリノフスキー党首(71)、プーチン氏の恩師の娘でテレビ司会者のサプチャク氏(36)ら。世論調査ではプーチン氏の支持率が約7割と他の候補を大きく引き離している。【2月8日 時事】
*****************

共産党のグルディニン氏や極右・自由民主党のジリノフスキー党首といっても、まったく新鮮味がありませんし、基本的にはプーチン支持の体制翼賛的な候補者です。

圧倒的な支持率を誇るプーチン大統領ですが、ロシア国内に若者を中心に現状への不満がない訳ではなく、また、そうした不満を代弁してプーチン批判を展開するアレクセイ・ナバリヌイ氏のような者も存在します。

ただ、これまでも政敵をことごとく潰してきたプーチン政権が、そうしたプーチン批判を封じて、ナバリヌイ氏の大統領選挙への参加もできないようにしてしまいましたので、“面白くない”選挙になってしまいました。

****プーチン帝国 2018ロシア大統領選)腐敗・貧困・・・・反プーチンのうねり 集会、立ち上がる若者****
3月18日のロシア大統領選は、現職のプーチン氏の当選が確実だ。それでも、汚職や抑圧姿勢、さらに6年延びる政権を批判し、投票ボイコットや自由な選挙を求める集会には大勢の若者が足を運ぶ。何が彼らを駆り立てるのか。

大統領選への立候補を拒否された反体制派アレクセイ・ナバリヌイ氏(41)が呼びかけた1月28日の反政権集会は、全国100カ所以上で開かれた。当局はナバリヌイ氏を拘束し、集会直後に解放。規模の拡大に強い警戒感を示した。
 
集会前、ロシアで人気のSNS「テレグラム」にある反体制派グループ「抗議するモスクワ」のチャットに書き込みが続いた。
 
「どこに集まろう」「警察の捜査が入った」
このチャットに登録し、やり取りを見る人たちは2500人を超す。
 
グループができたきっかけは、ナバリヌイ氏が呼びかけた昨年3月の反政権集会だった。プーチン氏が大統領に復帰した2012年以降では最大規模で、モスクワで1万人以上が参加し、地方にも広がった。ここで出会った若者たちが集まったグループだ。
 
中心のオリガ・チェザーレさん(22)は企業で市場調査を担う。大学生のときに英語と仏語を学び、インターネットで外国メディアのニュースを読むようになった。ロシアを巡る紛争や事件、汚職など「様々な記事でロシアメディアと伝える視点が違う」と驚いた。政府に反発する気持ちが心に芽生えた。(中略)
 
「ナバリヌイ氏が大統領になれば本当に国がよくなるのかは自信がない」という。それでも「政権交代が必要なのは間違いない」。

 ■暗殺事件に不信感
サンクトペテルブルクのエカテリーナ・クズネツォワさん(21)が初めて政府に不信感を覚えたのは、15年の野党指導者ネムツォフ元第1副首相の暗殺事件だ。

容疑者は逮捕されたが、政府が関与しているのではと疑念がわいた。16年にタックスヘイブン(租税回避地)の実態を暴露した「パナマ文書」には、プーチン氏の親友の名前もあり、さらに不信が募った。
 
警察が怖くて集会には及び腰だったが、大勢が参加した昨年3月の集会で一歩を踏み出せた。「やっと居場所を見つけた」
 
4年前、ロシア中部の町からサンクトペテルブルクの大学に進学。学費が当初の3倍近くの年25万ルーブル(約48万円)に上がり、支払いが苦しくて退学した。だが仕事は見つからない。友人はコールセンターに就職したが、時給はわずか150ルーブル(約290円)だ。
 
多くの人々はプーチン氏を支持し、変化を求めていない。「でも私は政府に不満だから集会に参加する」
 
政権への不満は地方にも広がる。ロシア北部セベロドビンスクのオレグ・サビンさん(33)は「ロシアにはインドのカーストのような階層がある」と憤る。
 
倉庫で働き、月給は1万3千ルーブル(約2万5千円)。自立できず、両親と暮らす。給料のいい仕事を探したが見つからなかった。生活苦から消費者金融3社から金も借りている。
 
一方で「役人は国民の金を盗んで外国に家を買い、その子供は留学して大企業に就職している」と嘆く。「ロシアの金持ちは大統領の友人、地方でも権力者の友人だけだ」。もっとも腐敗は庶民にも広がり、撲滅するのは簡単ではないという。「ロシアが変わるには2世代ぐらい必要だろう」

 ■ナバリヌイ氏、対話で支持拡大
選挙不正への抗議が大規模な反政権集会に発展したことは11~12年にもあったが、長続きしなかった。

今回は昨年3月以降も6月、10月と全国で大勢が集まった。民主運動をする市民団体「ベスナ」のボグダン・リトビンさん(23)は「ナバリヌイ氏が入念に準備を進めた」と指摘する。
 
ナバリヌイ氏は昨年3月の集会前、動画サイトにメドベージェフ首相の不正蓄財を告発する映像を公開。3カ月で視聴回数は2千万を突破した。その後もSNSを通して地方まで組織化。国政政治家が訪れない地方都市も訪れ、エリート層でない若者と対話して支持を広げた。
 
ロシアでは00年代、プーチン氏の国民的人気が高まるにつれ、野党も補完勢力となり、議会がオール与党体制になった。プーチン氏の政敵排除が進み、存在感のなくなったリベラル派から国民の支持は離れた。
 
ナバリヌイ氏は政治の公正さや選択肢の必要性に訴えを絞り、行き場のない反政権派の受け皿となった。
だが、リトビンさんは指摘する。「運動は新たな段階に発展したが、まだ何も獲得していない」【1月31日 朝日】
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記事見出しの“反プーチンのうねり”というのは、どうでしょうか?
メドベージェフ首相の不正蓄財を告発する映像で人気を集めたナバリヌイ氏の大統領選挙参加が認められていれば多少の“うねり”もあったかもしれませんが、立候補も認められない状況では、“うねり”も起きようがないようにも見えます。

ナバリヌイ氏は(直接的なプーチン批判は避けながらも)反政府デモを主催しては逮捕・拘留されるということを繰り返していますが、ある意味、そうした逮捕・拘留によって反政権指導者としての人気を高めてきたとも言えます。

しかし、過去の横領罪の有罪判決もあって、大統領選挙立候補は認められませんでした。
この選管決定を受けて、大統領選挙のボイコットを呼びかけています。それが上記記事にもある、約100都市で1月28日に行われた抗議デモでした。

この抗議デモでも、ナバリヌイ氏はモスクワで行進中、警官隊に拘束されています。(同日で釈放されたものの、今後の裁判所処分によって、最大で30日間の身柄拘束となる可能性があるとされています)

プーチン大統領は“安定した経済・社会での生活向上”がセールスポイントですが、経済の停滞のなかで、ソ連崩壊後の混乱を経験していない若者たちに対しては、そのがセールスポイントもあまり効力を持たないようです。

****ソーセージ”効果は消えた、次は? 生活水準向上の代償に自由を制限****
「ソーセージを約束するから自由は我慢せよ」。
プーチン氏は前回大統領期の2000〜08年、こんな“暗黙の合意”を国民と結んだと評される。

生活水準の向上を約束する代わりに、民主主義の制限や汚職に目をつぶってほしいという趣旨だ。ソ連崩壊後の1990年代に大混乱と貧困を経験した国民多数派は、プーチン氏を支持した。
 
近年の政権が直面している最大の問題は、「ソーセージ」の不文律がもはや効力を失ったということに尽きる。

前回大統領期には、90年代の改革の成果と石油価格の高騰で年平均7%の経済成長があった。しかし、その後は地下資源に依存する国家主導型の経済が頭打ちになり、体制の腐敗など弊害が目立つ一方だ。
 
2014年3月のクリミア併合でプーチン氏の支持率は8割超に跳ね上がったが、その“カンフル剤”も効き目を失ってきた。都市部中間階層や若年層を中心に、政権長期化と経済停滞に伴う閉塞感が強まりつつある。

プーチン氏は「未来志向」の公約づくりをクレムリンに指示しているが、難航しているのが実情だ。
 
こうした状況では、次期政権も米欧を敵視して国民を団結させ、反政権派への締め付けを強める可能性が高い。
米国が大統領選干渉問題をめぐって追加の対露経済制裁を発動する恐れもあり、そうすれば経済にはいっそうの打撃となる。

プーチン政権は日本を「米国の同盟国」というプリズムを通して見る傾向を強めており、北方領土交渉にも明るい材料はない。【1月25日 産経】
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サプチャク氏の“盛り上げ効果”もなく、政権側は愛国心鼓舞で有権者の過半数支持獲得を目指す
しかしながら、プーチン大統領に代わる存在が大きくなることも阻止してきましたので、政治的には“安泰”が続いています。

その結果が、今回の“面白くない大統領選挙”となっていますが、“面白くない”のは私だけでなく、ロシア有権者にとっても同様です。

いくら“圧勝”しても、有権者の多くが投票に参加しなかったら、プーチン大統領としてもその正統性をアメリカ等に誇示することができなくなります。

プーチン大統領にとっては、勝つこと以上に、投票所に足を運んでもらうことが大きな課題となっています。
“70%の投票率で、得票率が70%”が目標とも。それがクリアされれば、有権者の半数以上がプーチン大統領を支持している・・・と誇示できます。

得票率はともかく、投票率7割というのは、かなり高いハードルかも。

そこで、選挙を“盛り上げる”ために、ナバリヌイ氏ほど政権批判にはつながらないものの、反プーチン的言動で世間の注目を集める候補者として、女性タレントとして知られるクセーニヤ・サプチャク氏(父親は民主派政治家で、かつてのプーチン氏の上司であり、プーチン氏の政界入りのきっかけを作った恩人とも言われています)の立候補をプーチン政権側が画策したとも見られています。

しかし、1月17日発表の世論調査では、プーチン氏の支持率73.2%に対し、サプチャク氏はわずか1.2%【1月30日 朝日より】ということで、政権側が期待した“盛り上げ効果”は出ていません。

サプチャク氏が“不発”に終わりましたので、あとは“愛国心”に訴える地道な手法で・・・ということになります。

その意味では、オリンピックにドーピング問題で国家としての参加が許されなかったという現状は、欧米の画策を批判し、ロシアの愛国心に訴える効果的な舞台ともなったかも。

****<露大統領>五輪参加選手に謝罪「守れず、許してほしい****
ロシアのプーチン大統領は1月31日、平昌(ピョンチャン)冬季五輪に参加するロシア選手をモスクワ郊外の大統領公邸に迎え、激励した。

組織的なドーピング疑惑を受け、ロシア代表選手ではなく、「個人資格」による参加となったことについてプーチン氏は「皆さんを(国家として)守ることができなかった。許してほしい」と謝罪した。
 
プーチン氏が「謝罪」を口にするのは極めてまれ。露メディアは「大統領が謝罪した」と大きく伝えた。(中略)
 
プーチン氏は演説で「(IOCのような)国際的なスポーツ機関が、特定の国家の出先機関となるようなことがあってはならない。その国家がいかに大国であろうと」と述べた。「国ぐるみのドーピング」疑惑を一貫して否定してきたプーチン氏は、一連のドーピング疑惑の背景に「米国による反露キャンペーン」があるとの見方を改めて示した。【2月1日 毎日】
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更に、いささか“賞味期限切れ”の感もありますが、第2次大戦におけるロシアの苦難・戦勝の記憶を惹起する試みも。

****スターリングラードの戦い、戦勝75年の記念行事 プーチン氏も出席 愛国心を鼓舞****
ロシアは2日、第2次世界大戦のスターリングラードの戦い(1942〜1943)の勝利から75年を迎えた。現地で行われた記念行事には4期目の大統領の座を目指すウラジーミル・プーチン大統領も出席した。(中略)
 
ボルガ川が流れるスターリングラードで繰り広げられたこの戦いは史上最も凄惨(せいさん)な戦いの一つとされる。この戦いでソ連はナチス・ドイツに圧勝。ロシアではこの勝利がアドルフ・ヒトラーから欧州を救ったとたたえられている。
 
プーチン氏はボルゴグラード交響楽団による記念コンサートに集まった退役軍人らを前に「スターリングラードの守護者たちはわれわれにすばらしい遺産を残した。祖国への愛、祖国の国益と独立を守り、いかなる試練に対しても断固として立ち向かっていく覚悟だ」と語り、先人たちの例に倣うよう呼び掛けた。
 
ロシアの政治アナリスト、コンスタンティン・カラチェフ氏は、近年ロシア政府は愛国心をかき立てるため第2次世界大戦でのソ連の勝利と犠牲をことさら強調する傾向を強め、愛国心が国家のイデオロギーのようになっていると指摘し、欧米との関係が冷戦後で最も冷え込んでいるなかロシア政府は肯定的なシンボルを必要としており、戦勝記念日は「自国は結果を出す能力があり、どんな敵でも倒せるというイメージの宣伝」に使われていると述べた。【2月3日 AFP】
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こうした状況に、アメリカメディアからは、“プーチン派は過去の栄光だのみ”との揶揄も。

****露大統領選、プーチン派は過去の栄光だのみ****
警察学校の若い幹部候補生たちはロシア南西部のボルゴグラード(旧スターリングラード)にある壮大な第2次世界大戦記念碑の前で、ウラジーミル・プーチン大統領への忠誠を誓う歌を大声で歌っていた。

「最高司令官が我々を最終決戦に召集するのなら、ボーバおじさん(訳注=ボーバはウラジーミルの愛称で、プーチン氏を指す)よ、我々はあなたとともにある!」
 
この動画は、プーチン氏を慕う一人の議員が中心となって製作した。これは長年にわたり指導者の座に就いてきたプーチン氏が3月の大統領選で勝利し、さらに6年の任期を得られることを目指す愛国的な運動の一環だ。

しかし、この動画は、国営テレビなどによって行き過ぎだともたしなめられている。経済が近年停滞し、生活水準が低下しているにもかかわらず、プーチン支持をもり立てようとしているクレムリンの取り組みをめぐって緊張が高まっていることの表れだ。(中略)

この(スターリングラードでの)戦いで父親を亡くしたという年金生活者のライザ・ブリキナさん(85)は、コンサートでプーチン氏を見ることができて満足していると語った。

その後、ボルゴグラードでの生活について聞かれると、次々と不満を並べた。歩道にくぼみが多いために友人が転倒した、年金では必要な医薬品が手に入らない、食品価格がますます高くなっているなどだ。
 
「スターリン時代は物の値段が下がったが、今は上がり続けている」。そう話すブリキナさんの赤いセーターには、ソ連時代の数々の勲章が付けられていた。(中略)

プーチン氏は、第2次大戦勝利を記念することを自らの統治の柱とし、攻撃にさらされても毅然と立ち続ける存在としてロシアを描こうとしている。(中略)

プーチン氏率いる政党「統一ロシア」は3日、ロシア各地で「我が心のロシア」と銘打ったコンサートを開いた。目的は、スターリングラードの戦いでの勝利を祝うことと、今週開幕の平昌冬季五輪に出場するロシア選手を応援することにあった。(中略)

(動画を作成し、やりすぎとの批判も浴びている)当のクビチコ議員は国営テレビで、「私やボルゴグラードの大半の市民にとって、ロシアと強い指導者の概念は切っても切れないものだ。我々はそれから目を背けるべきでない」と述べた。【2月7日 WSJ】
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“ロシアと強い指導者の概念は切っても切れないものだ”という点については、“皇帝、ソ連共産党書記長、ロシア大統領と職位の名前は変われど、基本的にロシアは「専制の国」であり続けたという現実である。・・・・この間、純粋な民主的選挙によって政権交代が起きたことは1度もない。・・・・あらゆる改革が「上から」のイニシアティブで行われてきたことも、ロシア・旧ソ連の歴史を貫いている。改革が機を逸した結果がロシア革命であり、ソ連崩壊の激震だった。・・・「プーチン時代」はすでにブレジネフ政権期と同じ約18年間続いており、やはり体制の硬直化が指摘されている。”【1月25日 産経】とも。

圧勝は確約されているプーチン大統領ですが、閉塞感も強まるなか、愛国心鼓舞で投票率も引き上げ、有権者の過半数の支持を得ることができるか・・・そのあたりが唯一の見どころのロシア大統領選挙です。
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南海トラフ巨大地震  発生確率「今後30年に70~80%」 「備えを進めてほしい」でいいのか?

2018-02-10 22:39:42 | 災害

(【気象庁HP】 津波については“関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の広い地域に10mを超える大津波の来襲が想定されています”とも。まあ、原発を抱える私の住むところは震度5弱ですむようですし、東シナ海側ですから津波もそう大きくないと思いますので、いいと言えばいいのですが・・・)

地球温暖化のリスクから目をそむけるトランプ大統領
将来起こるかもしれない大災害について、「神のお告げ」ぐらいにしか頼れなかった時代は、あれこれ悩む必要がなかった分、物事は簡単でもありました。実際、災害が起きて被害が出ても、“神の思し召し”ということで、人間の責任が問われることもありません。

現在は科学の発達によって、“ある程度”は予測することが可能なものも増えてきました。

ただ、この“ある程度”というのが厄介で、そのリスクをどのように評価して、どのような対策をとるのか・・・立場・見解によって大きな差異があり、決定に悩むことにもなります。

とるべき対応・対策をとらずに被害が拡大すれば、“人災”として政治の責任を問われることにもなりますが、不確実な予測に基づいて、現在の生活基盤を大きく変えるような対応を住民に求めることは、現実問題としては非常な困難を伴います。

地球規模での将来的大災害ということでは、いわゆる地球温暖化の問題があります。

その危険性、早急な対応の必要性を訴える一般的流れ・科学的知見に抗して、アメリカ・トランプ大統領は温暖化の可能性・リスクを重視せず、パリ協定については、石炭や石油などに恵まれるアメリカのビジネスチャンスを奪う「米国にとって不公平な、ひどい取り決めだ」として離脱を表明しているのは周知のところです。

もっとも、すべてが“取引”の対象であるトランプ大統領が、今後どのようにしたいのか・・・よくわからない部分もあります。

****トランプ大統領 「パリ協定に復帰したい」 ただし大幅修正が条件****
ドナルド・トランプ米大統領は、自身が昨年6月に離脱を表明した地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」について、大幅な修正が加えられれば復帰したいとの意向を示した。28日放送予定の英テレビ局ITVのインタビューで述べたもの。
 
放映前に公開されたインタビューの抜粋によると、トランプ大統領は「パリ協定はわれわれ(米国)にとって大災難となりかねないものだった」「良い取り決めがなされればわれわれが復帰する可能性は常にある」と語ったうえで、現状のパリ協定については、米国にとって「とんでもない」取り決めであり内容も「不公平」だと主張。

「もし(米国に)パリ協定に復帰しろと言うなら、それはまったく異なった取り決めでなければならないだろう」と述べる一方、「(パリ協定に)復帰したいかって?ああ、復帰したいね。ぜひそうしたい」とも語った。
 
トランプ大統領は今月10日にも米国のパリ協定復帰はあり得ると言明しており、昨年に同協定からの離脱姿勢を示していたのは米国の排出削減目標の緩和を狙った「狂言」だったのではとの臆測を呼んでいた。【1月28日 AFP】
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地球規模のリスクを“取引”で弄ばれるのは困ったものだ・・・と思いますが、その件は今日はパスします。

【「日本の火山全体で1万年に1回程度」のリスクを重視する原発稼働に関する司法判断
一方、将来の危険性を“過度”に強調しても、一般生活者の常識とかけ離れてきます。

昨年12月13日、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)をめぐり、住民が求めた運転差し止め仮処分の抗告審で、広島高裁は広島地裁の決定を覆し、運転を禁じる決定をしました。阿蘇山が過去最大規模の噴火をした場合、火砕流の影響を受けないとはいえないと判断したことが主な理由とされています。

阿蘇山噴火(時折起こる小規模噴火ではなく、周辺百数十kmにまで火砕流が及ぶ大規模噴火)のリスクをどのように評価するかはいろいろあるところでしょうが、個人的には、「そんなことを言ったら、原発云々ではなく、そもそも(私を含めて)九州に生活している者はどうしろと言うのか?」という常識的・素朴な疑問を禁じえませんでした。

この点では、珍しく【産経】と意見が一致したようです。

****伊方停止の決定 阿蘇の大噴火が理由とは****
(中略)同高裁は、運転を認めない理由として、伊方原発から130キロの位置にある阿蘇山の巨大噴火を挙げた。
 
9万年前の破局的噴火の規模なら、火砕流が到達する可能性は否定できないとした。
 
あまりに極端だ。そうした噴火が起きれば、原発以前に九州全体が灰燼(かいじん)に帰するではないか。
 
高裁は、逆転決定の理由の中で、想定したレベルの破局的噴火の発生確率が「日本の火山全体で1万年に1回程度」であることを認めている。
 
また、その種のリスクを、無視し得るものとして容認するという社会通念が、国内に定着しているという常識論も述べている。
 
その一方で、原子力規制委員会が策定した火山事象の安全審査の内規に、破局的噴火の火砕流が含まれていることを、運転差し止めの根拠とした。
 
全体に強引さと言い訳めいた論理展開が目立ち、説得力の乏しい決定といえる。
 
しかも、広島地裁で審理中の本訴訟の行方をながめ、異なる判断がなされる可能性もあるとして、運転停止期間を「来年9月30日まで」と限定する自信のなさだ。(後略)【2017年12月14日 産経】
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そこまでリスクを重視するのであれば、運転差し止めより先に、阿蘇カルデラ内に暮らす多くの人々の強制移住を直ちに行うよう政府に勧告すべきところでしょう。

私の住む鹿児島でも、頻繁に噴火を続ける桜島のふもとに大勢が暮らしていますが、これが論外であることはもとより、中規模噴火でも噴石が飛んでくる対岸の鹿児島市(人口約60万人)も、大規模噴火を想定すれば強制移住が必要でしょう。(小規模噴火でも被害が及ぶ桜島のふもとで暮らしているのは、非常に非合理でリスキーだとは私も思います。)

あえて原発をつくることと、普段に生活していることは別もの・・・という話かもしれませんが、「日本の火山全体で1万年に1回程度」の危険性を持ち出すことへの違和感をぬぐえません。

南海トラフ巨大地震 最悪で32万人超が死亡
こんな将来リスクの評価に関する話をしているのは、南海トラフ巨大地震が今後30年以内に発生する確率が、これまで「70%程度」から「70%から80%」に引き上げられた・・・というニュースを目にしたからです。

****南海トラフと根室沖の巨大地震 発生確率80%に引き上げ****
(中略)政府の地震調査委員会は、日本周辺の海底や全国の活断層で想定される地震の発生確率について、毎年、1月1日の時点で計算し公表しています。

このうち、南海トラフで想定されるマグニチュード8から9の巨大地震については、今後30年以内に発生する確率は、これまで「70%程度」でしたが今回の公表で「70%から80%」に引き上げられました。

また、北海道沖の千島海溝沿いの根室沖で想定されるマグニチュード7.8から8.5程度の巨大地震も、今後30年以内の発生確率がこれまでの「70%程度」から「80%程度」に引き上げられました。

マグニチュード8以上の巨大地震の今後30年以内の発生確率は、これまで「70%程度」が最大で、「80%」が示されたのは、今回が初めてです。

地震調査委員会の委員長で東京大学地震研究所の平田直教授は「いずれも非常に高い確率であり、巨大地震が必ず起きることを示している。地震の発生が近づいていることを決して忘れず、備えを進めてほしい」と話していました。

M8の巨大地震で確率80%は初めて
政府の地震調査委員会が公表している今後30年以内の発生確率のうち、最も確率が高いのは、茨城県沖のプレート境界で想定されるマグニチュード6.7から7.2の地震で「90%程度以上」、次いで、三陸沖北部で想定されるマグニチュード7.1から7.6の地震と、北海道の千島海溝沿いの色丹島沖および択捉島沖で想定されるマグニチュード7.5程度の地震で、いずれも「90%程度」などとなっています。

しかし、いずれもマグニチュードが7程度の大地震で、マグニチュード8以上の巨大地震について「80%」の発生確率が示されたのは、今回の南海トラフと根室沖が初めてです。

一方、地震が起きない限り、時間の経過とともに発生確率はさらに上がるため、南海トラフ巨大地震は、今後40年以内で「80%から90%」、今後50年以内で「90%程度もしくはそれ以上」と想定されているほか、根室沖の巨大地震の確率も今後40年以内に「90%程度」、今後50年以内は「90%程度以上」となっています。

このため地震調査委員会は、巨大地震の発生が近づいているとして、住宅の耐震補強や家具の固定などの対策を進めるよう呼びかけています。

南海トラフの巨大地震とは
南海トラフは、静岡県の駿河湾から九州の日向灘にかけての海底で、海側のプレートが陸側のプレートの下に沈み込んでいる領域です。

プレートは年間数センチの速さで沈み込み、その境界には、時間の経過とともに少しずつひずみがたまって、限界に達すると、一気にずれ動いて巨大地震が発生します。

南海トラフでは、およそ100年から200年の間隔で、マグニチュード8クラスの巨大地震が繰り返し発生していて最後に起きたのは、昭和21年に四国など広い範囲に大きな被害をもたらしたマグニチュード8.0の「昭和南海地震」でした。

この地震からおよそ70年が経過していることなどから、政府の地震調査委員会は、これまで今後30年以内の発生確率を「70%程度」としてきましたが、今回、「70%から80%」に見直しました。

国の被害想定によりますと、津波と建物の倒壊、火災などで、最悪の場合、全国でおよそ32万3000人が死亡し、238万棟余りの建物が全壊や焼失するおそれがあるほか、避難者の数は、地震発生から1週間で最大950万人に上るなど影響が長期化するとしています。

また、去年11月からは、気象庁が南海トラフ全域を対象に巨大地震発生の可能性を評価する新たな情報の運用を行っています。【2月9日 NHK】
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南海トラフにおける海溝型地震は、一定の間隔で起こる「周期性」と同時に起こる「連動性」が大きな特徴となっています。

****南海トラフ巨大地震****
南海トラフの地震は、約90 - 150年(中世以前の発生記録では200年以上)の間隔で発生し、東海地震、東南海地震、南海地震の震源域が毎回数時間から数年の期間をおいてあるいは時間を置かずに同時に3つの地震が連動していること(連動型地震)が定説とされてきた。

一方で、慶長地震は南海トラフを震源とすることに異論が出されており、南海トラフの地震は200年程度の間隔で発生すると考えるのが自然な姿であるという見解も存在する。【ウィキペディア】
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最悪で32万人もが死亡するような巨大地震が今後30年以内に発生する確率が「70%から80%」・・・・それって、大変な話じゃないの! 何もしなくていいの? 北朝鮮からのミサイル攻撃などより確度が高く、被害も大きいんじゃないの?・・・というのが率直な印象です。

もちろん、政府も何もしていない訳でもありません。

*****南海トラフ地震対策 予知前提の防災見直し 最終報告書****
中央防災会議の有識者会議は26日、東海地震の予知を前提とした大規模地震対策特別措置法(大震法)に基づく防災対応を見直し、南海トラフ巨大地震の対策強化を求める最終報告書をまとめた。

先月25日に示した報告書案に沿った内容で、国は予知を前提とした防災情報の発信のあり方などを見直す方針。モデル地区(団体)として、国は静岡、高知両県と中部経済界を選び、具体的な防災対策を議論するしていく。
 
最終報告書は大震法の見直しまでは言及しなかったが、現在の科学的知見では「確度の高い地震の予測はできない」とし、予知を前提とした防災対応は改めるべきだと指摘した。
 
その上で、大規模地震発生が懸念される四つのケースを想定。(1)南海トラフ巨大地震の震源域の東側で大規模地震が発生(2)同震源域でマグニチュード(M)7程度の地震が発生(3)東日本大震災前と同様、地震回数が減少するなどの変化を観測(4)東海地震の前兆とされる「プレートのすべり」などを観測--の場合だ。
 
(1)と(2)は、地震が連続して起きる確率が高まっており、住民の事前避難などの検討が必要とした。また、(3)は「大規模地震の発生につながるとは判断できない」として、事前の対策はできないと判断した。
 
一方、(4)はこれまで、大震法に基づき首相が警戒宣言を出し、住民の事前避難や公共交通機関の停止などを行う「東海地震予知」のケースだった。しかし最終報告書では、地震発生の可能性がどの程度高まっているか判断できないと指摘。行政機関は「警戒態勢を取る必要がある」としたが、住民の事前避難などを求めることは難しいとした。
 
最終報告書の提出を受けて菅義偉官房長官は26日、「新たな防災対応の構築を急ぐ」と表明。(1)、(2)、(4)のケースで防災対応を改める。

モデル地区に選ばれた自治体などについては、事前避難の対象となる住民や避難日数、避難場所などを議論する。その結果を踏まえ、自治体が防災対応を個別に定めるためのガイドラインを策定する。

現在は気象庁が「東海地震予知情報」などを発表して警戒を呼びかける態勢だが、南海トラフ全域を対象とした防災情報発信のあり方などを検討する。【2017年9月26日 毎日】
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“現在の科学的知見では「確度の高い地震の予測はできない」”ということで、住民の事前避難などはかなり限られた場合になるようです。

なお、KDDIと海上保安庁による「携帯電話基地局の船上開設に向けた実証実験」とか、資源エネルギー庁と防衛省による自衛隊へのスムーズな石油供給などを図るための合同実働訓練等々、いろいろ動きはあるようです。

人間のリスク管理に関する限界か
ただ、「1万年に1回程度」という話ではなく、「今後30年に70~80%」という大災害予測です。
避難等が可能な事前に確度の高い予兆が必ずあるものなのでしょうか?

もし巨大津波が襲ったらひとたまりもないような海岸沿いの都市・集落は西日本太平洋側に多数存在しているでしょう。それらについて、何か確度が高い予兆が起きたら住民避難を検討する・・・・ということでいいのだろうか?という印象も。

そもそも「南海トラフ地震」という呼称も、(意図的なのか)被害対象が判然としない感も。「東日本大震災を超え、国難ともいえる巨大災害」(中央防災会議の「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」による2012年中間報告)というのであれば「西日本大震災」といった呼称で国民の関心を高める方がいいように思います。

もちろん、独裁国家でもない民主国家日本にあって、確度の高い予兆がない段階で住民生活を変えるような措置はできない、住民生活・経済へどれほどの大影響があると思うのか・・という現実論はわかりますが、はたしてそれがリスクに照らした場合、“合理的判断”なのか?

ただ、こうした巨大地震・火山噴火のリスクを考えていくと、そもそもプレート境界にある日本列島に住むこと自体が“合理的判断”と言えるのか?という話にもなってきます。この“危険な”列島に暮らす日本国民が甘受すべき“運命”でしょうか?

結局は、巨大災害が実際に起きるまでは抜本的対策はとられず、実際被害が起きてから「現代の科学には限界があり・・・・」と弁解するのが人間のリスク管理に関する限界でしょうか。そこに踏み込むのが政治の役割だと思うのですが。
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台湾東部地震に示された日台の良好な関係・国民感情 台湾の日本重視へ中国の反発も

2018-02-09 22:40:16 | 東アジア

(羽田グランドスタッフによって、ボールペンで「加油!!take care」と書かれた台湾人乗客の搭乗券 心の琴線に触れる神対応です。【2月9日 Record china】)

台湾東部で6日夜に起きた地震は、日本からの専門家チームも参加して、生存者の救出が時間との勝負になっています。

****地震の死者、12人に=残る5人の捜索急ぐ―台湾****
台湾東部で6日発生した地震の死者が9日、12人になった。花蓮市内の大きく傾いたビルの中から新たに2人が発見されたが、いずれも死亡が確認された。

ビルにはなお5人が取り残されており、救助隊は8日に到着した日本の専門家チームの支援を得ながら捜索を急いでいる。【2月9日 時事】 
****************

一刻も早い救出を願います。

相思相愛の良好な日台関係
過去の歴史をめぐってとげとげしい感情が浮き出す韓国や中国と異なり、日本による統治を経験した台湾がきわめて親日的なことは今更の話です。

言葉に日本語由来のもがあったり、多くの日本建築が残っているのは当然ですが、文化的にも日本への関心が強く見受けられます。

****親日国【台湾】の日本文化人気がすごい!台湾の生活に溶け込んでいる日本とは****
親日で知られる台湾ですが、実はその親日さは凄まじく、90年代には「哈日族(ハールーズー)」という日本マニアを示す言葉が流行したほど。もちろん今でもそんな日本人気は衰えず、普段の生活のあちこちに日本の面影や文化が見られます。今回は、そんな台湾に溶け込む日本をご紹介します。

台湾語の中に日本語の言葉がある
(中略)そんな台湾語ですが、単語の中にいくつか日本語と全く同じ発音のものがあるのです。例えば、「オートバイ」や「おばさん」。日本語の単語と意味も発音も変わらないので、実際耳にすると驚いてしまいます。

日本ネタがドラマに頻出する
台湾のドラマを見ていると、日本に関する設定が全く入っていないドラマの方が少ないのではないか、と思うほど日本ネタが頻出します。

例えば、主人公が日本からの帰国子女、登場人物が日本語を話せる設定で突然日本語のセリフが飛び出す・・・など、挙げ出したら切りがなくなってしまうほど。台湾の親日さが窺い知れますね。

次は街で見かける、台湾の中の日本です。

街の至るところに日本建築がある
台湾には、1895年から約50年間日本に統治されていた歴史があるため、今でもあちこちに当時の日本建築が残されています。太平洋戦争終結後に台湾を統治した中国の反日運動などにより、取り壊されてしまったものも少なくありませんが、近年こういった歴史的建築物の保存運動が高まっていて、昔の日本建築を利用したカフェなどが若者の集まる人気スポットにもなっています。

日式○○とは?
日本ブームの台湾だけあり、店名に「日式(日本風)」という名前がついているお店がとにかく多い!例えば、「日式弁当」「日式居酒屋」など。(中略)

このように、台湾では色々な面で日本を感じることができ、台湾の人が日本に対して心理的な距離の近さを感じてくれていることにも頷けます。(後略)【1月18日 ガジェット通信】
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こうした台湾と日本とのつながりの強さを、中台統一を目指す中国は複雑な思いで見ています。

****台湾はまさに日本車の天下・・・なぜ台湾人はこれほど日本車を好むのか=中国****
中国と台湾は似ているようで、大きな違いも存在する。たとえば日本に対する感情や、日本製品に対する支持度合いは中国と台湾における違いの1つだ。

中国メディアの今日頭条はこのほど、2017年に台湾で販売された新車のうち、約8割が日本車だったと伝え、なぜ台湾人はこれほどまでに日本車を好むのかと疑問を投げかけている。

記事は、台湾を訪れたことのある中国人ならば「台湾で最も見かけるのは日本車であることを知っている」はずだと伝えつつ、日本車メーカーは台湾の自動車市場をほぼ独占していると主張。

さらに、これはデータでも裏付けられているとし、台湾の自動車市場の2017年1ー11月における新車販売台数のうち、日本車は約8割のシェアを獲得したとし、日本車は台湾でなぜここまで支持されているのだろうかと疑問を呈した。

これに対し、台湾独特の環境が関係しているとし、たとえば台湾は市場規模が大きくないため、中国ほど多くのメーカーが参入していないことを挙げたほか、日本と台湾は経済的に緊密で、台湾人消費者も日本製品を高く評価していることを挙げた。

続けて、台湾での売れ筋車種を見るだけでも日本車の人気ぶりがわかるとし、同期間中における販売台数1位はカローラで、15.5%のシェアを獲得したと紹介。また、販売台数2位から10位まですべてが日本車だったと伝え、実用性が高い車が評価される台湾において、日本車はほぼ市場を独占しているのだと伝えている。【1月18日 Record china】
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もちろん、過去の日本統治の問題を含めて、日本に対する厳しい見方をする国民も一定に存在します。

****台湾民進党の政治家が選挙用PR看板に日本語、ネットで批判浴びる****
2018年1月3日、観察者網は、台湾・台北市会議員選挙の立候補者が、PR用の看板に日本語を記載したことが物議を醸していると報じた。

台湾メディアの3日付報道によれば、台北市会議員選挙に立候補した緑色(民進党)陣営の新人候補が掲示したPR看板で、「題目:我的願望」という中国語キャッチコピーのすぐ下に、「タイトル:私の望み」という同じ意味の日本語が書かれている。

繁華街の西門町に掲げられた大きなPR看板を発見したネットユーザーは、「市会議員になるのに日本語の説明が必要なのか。選ぶのは日本の特別行政区の議員なのか。こんなに日本に媚びる必要があるのか」と疑問を呈したという。

このユーザーはさらに「今回の件が、この政党においてたまたま発生した事件だと認識するならば、それは誤りだ。日本の放射能汚染食品を支持しているし、日本の政府関係者に対して卑しげにひざまずくし、台中では日本の鳥居を復活させようとした。こんな政党の指導のもとで、われわれは国としての体をなしているのだろうか。われわれは今も植民時代にあるとでも言うのか」と批判したという。他のネットユーザーからは「日本で立候補すべき」との声も出たようだ。

問題のポスターを掲げたのは、元台北市議を親に持つ陳彦丞(チェン・イエンチャン)氏。陳氏は「日本留学経験があり、日本語の教師を務めたこともある。これらの経歴が間接的に出馬の動機になったので、看板のキャッチコピーに日本語を加えた」と説明している。【1月4日 Record china】
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台湾の日本への好感もあって、日本側の台湾への好感度も高いものがあります。

****親しみ」「信頼」が過半数=日本人の台湾意識調査****
台湾の大使館に当たる台北駐日経済文化代表処は22日、日本人の台湾への意識調査結果を発表し、「親しみ」「信頼」を感じている人が半数以上に上ったと明らかにした。代表処は「昨年とほぼ同様の傾向で、台湾に対する国民感情が引き続き良好であることを示す」と歓迎している。
 
調査結果によると、台湾に「親しみを感じる」が69.0%。歴史的に親密な関係や、東日本大震災時の支援を理由に挙げた人が多かった。「信頼できる」と答えた人は57.9%。

一方、日台間の懸念については「漁業問題」(23.2%)、「領土問題」(13.7%)という回答が続いた。【2017年12月22日 時事】 
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安倍晋三首相が直筆でエール 蔡英文総統は日本語でメッセージを返す
一般的には“相思相愛”ともいえる異例なほど良好な日台関係にありますので、今回地震についても日本側からの見舞い・支援も自然な形で生じています。(もちろん、首相の支援などは、政治面も配慮したものでしょうが)

****安倍首相が直筆で「台湾加油」、台湾メディアが評価****

2018年2月8日、首相官邸は、6日夜の地震で多数の被害が出た台湾に向けて「全力を尽くして支援を行っていく」とのメッセージをフェイスブック上に掲載した。

安倍晋三首相の署名が入った「台湾加油(台湾頑張れの意)」の文字が添えられており、中国・観察者網は台湾メディアがこれを評価したことを伝えている。

この地震では複数の建物が倒壊するなどし、多数の死傷者が出ている。メッセージは被害に遭った人々に見舞いの意を伝えるなどした上で、東日本大震災で日本が台湾から受けた支援への謝意を表明。最後は「日本政府として(中略)全力を尽くして支援を行ってまいります」という言葉で締めくくられており、これに添えられたのが、毛筆で書かれた「台湾加油」だ。

台湾・中央社は「安倍首相が就任後、初めて『直筆の書』という形で台湾にエールを送った。しかも一目瞭然だ」と評価。

また、中華圏のネットユーザーからは「日本の思いやりに感謝します」「安倍首相はかっこいいし、文字もきれい」「ありがとう日本!」などのコメントが寄せられていた。【2月8日 Record china】
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安倍首相の見舞いに応えて、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は日本語でメッセージを返しています。

****「台湾加油」とエールを送った安倍首相、蔡総統が日本語でツイート****
2018年2月9日、環球時報は、地震で大きな被害の出た台湾に安倍晋三首相が直筆でエールを送ったことに対し、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が日本語でメッセージを返したと報じた。

(中略)これ(安倍首相の見舞いメッセージ)に蔡総統がツイッター上に日本語で「このような困難な時の人道救助は台日双方の友情と価値観を体現するものだと思う」などとつづったことを伝えた上で、「日本が台湾に『特別な対応』をするのは日本が津波で被害を受けた時に台湾から大きな支援を受けたためだ。台湾が送った義援金の額は世界のどの国・地域よりも多かった」との分析が台湾メディアから出ていることを指摘した。【2月9日 Record china】
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【「台湾独立分子の目には、中国は敵で日本は身内と映っている」】
中国側には、中国からの支援の申し出が断られたのに、なぜ日本だけが・・・という反発も。

****日本特別扱いに中国反発=台湾地震の救援めぐり****
台湾東部の地震で、蔡英文政権が中国ではなく日本の救援チームを受け入れたことに中国国内で反発が出ている。共産党機関紙・人民日報系の環球時報(電子版)は8日、「大陸を拒絶しながら日本の援助を受けるのか?」と題する記事を配信した。
 
環球時報によると、台湾総統府報道官は8日、救援の人員や物資は足りていると説明し、中国などの援助を辞退しながら「唯一の例外は日本だ。高価な探査機を持っている」と発言した。日本の救援チームは8日、震源地に近い花蓮で、傾いたビルで人命探査装置による捜索活動を始めた。
 
中国ではもともと、台湾独立志向の民進党・蔡政権への警戒心が強い。中国のインターネット交流サイト(SNS)は、今回の地震で改めて浮き彫りになった日台の親密ぶりに「台湾独立分子の目には、中国は敵で日本は身内と映っている」などと台湾を非難する書き込みであふれている。
 
中国メディアは、安倍晋三首相が毛筆で「台湾加油(頑張れ)」と慰問のメッセージを書いたことも併せて伝えている。【2月9日 時事】 
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中国の申し出を断っておきながら・・・という不満はわかりますが、“日本は身内”かどうかはともかく、台湾の武力統一もちらつかせ、折にふれて台湾への政治的・経済的圧力をかける中国に対し、台湾が“中国は敵”といった反応を示しても不思議はないでしょう。

台湾問題を最大の“核心的利益”とする中国の立場はありますが、世界を敵に回して、本気で武力統一に乗り出す考えがあるのならともかく、そうでないなら、現在のような“一つの中国”にこだわるより、台湾を独立国として容認する方が、将来的中台統一には早道であるように思います。

“二つの中国”として容認したうえで、同族国家として良好な関係を構築していけば、台湾側の中国への感情も変わります。

中国の国際的影響力は、今後は現在以上に強まりますので、台湾としても中国と一体化するメリットは十分に認識していくことでしょう。何と言っても民族的つながりがありますので。

そのような関係を続ければ、30年後、50年後には、熟した柿が落ちるように、一体化に向けた動きも現実となるのでは・・・・。今のように“力づくで”という対応では、離れていくだけでしょう。

国民レベルで示された日本からの支援
今回の台湾地震への日本からの支援は安倍首相のメッセージに限らず、ひろく国民的な形で展開されています。

****羽田空港で台湾人旅行者が大感激!搭乗券に「加油!」のメッセージ*****
2018年2月8日、台湾・TVBSは、台湾人旅行者が日本で大感激する出来事があったと報じた。

同メディアが取り上げたのはネット上に投稿された羽田空港でのエピソード。投稿者は「今日(8日)、台湾に戻るために羽田空港で搭乗手続きをしたら、グランドスタッフが搭乗券に『加油!(頑張って)』と書き込んでくれた」と報告。記事に付された写真には、ボールペンで「加油!!take care」と書かれた2枚の搭乗券が写っている。

これを見たネットユーザーからは「もし自分がこれを見たら絶対に涙ボロボロ」「日本に感謝、台湾頑張ろう」などのコメントが寄せられたという。

また、別の台湾人観光客は大阪の家電量販店で「台湾での震災に心よりお見舞い申し上げます」「台湾頑張れ、皆様のご無事をお祈りいたします」とのメッセージが掲げられているのを見つけて感激したと報告。

この報告に対してもネットユーザーらは「ありがとう日本」「台湾と日本は仲の良い友人!」「台日友好」などの声を上げているという。【2月9日 Record china】
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****日本のヤフーで台湾東部地震の募金、台湾ネットユーザーが感謝****
2018年2月8日、台湾・アップルデイリーによると、台湾東部で起きた大規模地震で、ポータルサイト大手のヤフー・ジャパンが7日、被災者への義援金募集を始めたところ、初日だけで約5万3000人が参加した。

ヤフーは特設ページ「台湾東部地震 緊急支援募金」の募集ページを開設。1口500万円を上限に支援を募ったところ、7日午後5時半までに約5万3000人が参加し、計4187万円が集まった。募金活動は今月末まで行われる。

この情報が台湾で伝えられると、台湾のネットユーザーからは「日本の友好に感謝します。この世界に一番足りないのは、誠意と思いやりです」「日本は台湾の良い友達です」「ありがとう、日本!台日友好!」「募金ありがとう、日本。こんなに台湾を気にかけ、救援隊まで送ってくれて」「日本のさまざまな援助に感謝します。もう災難が起きませんように」などのコメントが寄せられた。【2月9日 Record china】
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地震は不幸な災害ですが、こうした形で支援の手を差し伸べることは、とてもすばらしいことです。

日本側について言えば、きわめて良好な関係にある台湾に対する支援は自然な流れですが、そうした関係のない、日ごろ政治的に対立しがちな国の不幸にも同様に人道的な配慮を示せるかどうかが、度量の大きさ・民度の目安となるでしょう。
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