(テヘランで開催されたイラン革命防衛隊の会合に参加するソレイマニ将軍(2016年9月)【2月21日 WSJ】)
【政府軍の無差別空爆で「地上の地獄に等しい」東グータ地区】
シリア情勢に関しては、2月19日ブログ“シリア 各国・各勢力入り乱れての混戦のなか、クルド人勢力と政府軍が対トルコで共闘との報道も”で
①北部トルコ国境沿いのクルド人勢力支配地域・アフリンへのトルコの侵攻
②クルド人勢力を支援するアメリカと、政府軍を支援するロシアの直接衝突の危険、
③イランの勢力拡大を防止するためのイスラエルの本格参加
という、三つの対立軸を取り上げました。
これは不正確な表現で、“新たな対立軸”と言うべきだったかも。
当然ながら、政府軍と反体制派の“旧来の対立”は継続中で、政府軍が包囲するダマスカス郊外の反体制派支配地域東グータ地区に対する、政府軍のミサイルや「たる爆弾」等による熾烈な無差別攻撃は連日報じられているとおりです。
“化学兵器で傷ついた「東ゴータ」でまたアサドの虐殺が始まった”【2月22日 Newsweek】
“シリア、政権軍攻撃で市民多数死亡 国連「地上の地獄」”【2月22日 朝日】
“シリア政権軍空爆、5日間で417人死亡 東グータ地区”【2月23日 朝日】
反体制派の在英NGO「シリア人権監視団」によれば、死者のうち96人は子ども、71人は女性とのこと。
国連のグテーレス事務総長は21日、同地区の状況を「地上の地獄に等しい」と述べ、戦闘停止を求めています。
国連児童基金(ユニセフ)は20日、多数の子どもが殺害されたことに「激しい怒り」を表明し、「子どもたちの苦しみを表現する言葉はない」と抗議する“白紙の声明文”を発表しています。
国連安保理は30日間の停戦決議案を採決する予定ですが、アサド政権を支えるロシアの要請で非公開の修正協議に入ったとも。
ロシア軍機が21日夜に同地区への空爆を実施したとのメディア報道もありますが、ロシアは同地区に対する空爆への関与を否定しています。【2月23日 朝日より】
一連の攻撃から、“奪還を急ぐ政権軍が近く地上戦に乗り出すという見方も強い”【2月23日 時事】 とも。
そこらは停戦決議の内容、ロシアの意向にもよるでしょう。
【アフリン地区に入った政府軍系の民兵組織 背後にはイランの思惑が】
“新たな対立軸”の方の、「北部トルコ国境沿いのクルド人勢力支配地域・アフリンへのトルコの侵攻」については、19日ブログでも、クルド人勢力と政府軍の共闘の動きがあることを取り上げました。
実際、政府軍側の民兵組織がアフリン地区に入り、トルコ軍がこれを攻撃する事態にもなっています。
****トルコ、シリア越境作戦泥沼化=政権派と本格衝突の懸念****
トルコが隣国シリア北西部アフリンでクルド人勢力に対して行っている越境軍事作戦が泥沼化しつつある。
シリアのメディアによると、クルド人勢力の援軍要請に応じ、シリア・アサド政権派の民兵部隊もアフリン入りした。トルコとアサド政権派が本格的に軍事衝突すれば、シリア情勢をさらに複雑化しかねない。
トルコは1月20日、シリアのクルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」の排除を名目に、YPG支配下のアフリンへの進軍を開始。
トルコはYPGを、自国内の反政府武装組織「クルド労働者党(PKK)」と密接な関係を持つ「テロ組織」と位置付けており、勢力拡大に神経をとがらせてきた。
在英のシリア人権監視団によれば、作戦開始以降、YPG戦闘員、トルコが支援する反体制派の戦闘員それぞれ200人以上が死亡し、トルコ兵も39人死亡。市民100人以上が犠牲になったという。
トルコ軍が作戦を進める中、YPGはアサド政権に援軍を要請した。シリア国営テレビは20日、アサド政権派の民兵部隊のアフリン入りを伝えた。21日には増派部隊も到着した。
しかし、トルコのエルドアン大統領は20日、「(トルコ軍の威嚇)砲撃を受けて、彼ら(アサド政権派の民兵部隊)は引き返さざるを得なかった」と主張。「テロ組織」に対して徹底攻撃の姿勢を見せている。【2月22日 時事】
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“敵の敵は味方”という古典的な法則からすれば、不思議ではないかもしれない“共闘”ですが、クルド人勢力を支援するアメリカはアサド政権を容認しておらず、NATO加盟国トルコと敵対するのは避けたいところ。
また、政府軍を支援するロシアもトルコとの関係は今後のシリア情勢をコントロールしていくうえで重要です。
アメリカ、ロシア両者とも“クルド・政府軍共闘によるトルコとの戦闘”には微妙な立場です。
もっとも、留意する必要があるのは、現在報じられているアフリン地区に向かった政府軍側の部隊は民兵組織であり、正規の政府軍ではないことです。
クルド側は正規軍派遣を要請しているとのことですが、ロシアが慎重な対応をとっているとも。
****正規軍派遣、アサド政権に要請=対トルコでクルド勢力―シリア****
シリアのクルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」は22日、アサド政権に対し、北西部アフリンへの正規軍派遣を要請した。ロイター通信が伝えた。
アフリンでは、クルド人勢力排除を目的とした越境攻撃を続けるトルコ軍との交戦が続いている。既に到着したアサド政権派民兵に加え、はるかに強力な正規軍が動員されれば、本格的な戦闘の危険が一段と高まる。
シリアからの情報では20日以降、政権派の民兵部隊が既に400人以上アフリン入りし、前線に展開した。ただ、YPGの報道官は「トルコによる占領を防ぐには人数も能力も不十分だ。シリア軍が国境防衛の義務を果たさねばならない」と訴えた。
しかし、アサド政権にとって正規軍の動員は容易ではない。政権の後ろ盾ロシアは、トルコとの関係維持にも配慮している。正規軍派遣については水面下で自粛を働き掛けているとされる。【2月23日 時事】
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“アサド政権派民兵”とのことですが、こうした民兵組織はイラン革命防衛隊の指導のもとで、イランの影響力が強いとされています。
となると、“共闘”の背後には、イランの思惑がある・・・という話になります。
****「“敵の敵は味方”で手組む」シリア、新たに反トルコ共闘****
(中略)問題はアフリンに入った民兵がイラン指揮下のシーア派民兵だったと思われる点だ。つまり今回の民兵派遣はイランの同意の下で行われたということだ。
イランとトルコはロシアが主導するシリア和平会議の有力メンバー。いわばロシア、イラン、トルコの「3国同盟」の仲間だったはずなのになぜ、トルコと敵対する民兵投入に踏み切ったのだろうか。
北部の混乱望まぬイラン
まず言えるのは、トルコが考えていたほど、イランとの関係が強固なものではなかったのではないか、ということだ。
政治と、現実の戦場の力学との乖離もあるだろう。それはロシアとの関係でも同じことが言える。トルコのシリア侵攻に対し、地域の制空権を握るロシアが青信号を与えたのは事実だろうが、ロシアがこれ以上の戦乱拡大を望んでいないこともまた事実だ。
ロシアの思惑は別にして、とりわけイランはシリア北部での混乱は望んでいない。IS以後のシリアにおけるイランの戦略目標は大きく言って2つ。1つはイランから地中海に至るイラン、イラク、シリア、レバノンという「シーア派三日月地帯」を死守すること。
もう1つはイスラエルとの戦争に備え、シリア南部に「恒久的な橋頭保」を構築することだ。
だから北部に余計な労力を注ぎたくないというのが本音。イランはクルド人の拠点に配下の民兵部隊を入れて、トルコの攻撃の矛先を鈍らせ、戦線が拡大することを阻止しようとしたのかもしれない。
米紙などによると、イランはシリアに革命防衛隊など約3000人を派遣し、配下のシーア派民兵2万人を動員している。革命防衛隊は一部が直接的に戦闘に加わっているものの、その大半は戦闘部隊というより民兵に助言や訓練を施す軍事顧問団だ。
民兵はレバノン、イラク、アフガニスタン、パキスタンから来たシーア派教徒。イランが給料を払って勧誘した。
イランはシリア領内の拠点についても、首都ダマスカスとアレッポ近辺に計3カ所の司令部を、また全土の前線に計7カ所の指揮センターを設置している、という。
第2のヒズボラ結成へ
イランの支配のやり方は「レバノン方式」と言われる。80年代にレバノンに作ったシーア派武装組織ヒズボラを同国一の強力な軍事・政治組織に育てたやり方だ。「傀儡勢力を作って自分たちの意のままにその国を牛耳る」(同筋)方法だ。レバノンでは、ヒズボラに対抗できる勢力はいなくなった。
イラクでもイランは、米軍のイラク侵攻に際して、多くのシーア派民兵組織の創設に手を貸し、これら民兵軍団が今や、イラクの強力な軍事勢力になった。1万人を超えるこうしたイラク民兵がイランの指示でシリアに動員されている。
イランは5月のイラク議会選挙で配下の民兵軍団の指導者らを立候補させ、イラクへの政治的な影響力をさらに強めようとしている。イラクのイラン化だ。
特筆すべきは、イランがシリアにもこの「レバノン方式」の導入を図っている点だ。すでにヒズボラがシリアから撤退した場合に備え、シリアにも息のかかった民兵組織を発足させつつある、という。
当面はイラクのシーア派民兵が中心となるようだが、ゆくゆくはシリア独自のシーア派民兵を組織化したい考えのようだ。「第2のヒズボラ」ともいえる組織だ。
こうしたイランの戦略は不倶戴天の敵であるイスラエルとの対決を見据えてのもので、イラクの民兵指導者2人が最近、イスラエルと対峙するレバノン南部国境を密かに視察。シリア南部国境での対イスラエル戦に参考にするためだった、と言われている。
イスラエルはシリア国内のイランの動きに神経をとがらせており、軍部には、レバノンとシリアという2つの国境での戦い、広い地域にわたる「北部戦争」の準備を進めなければならない、との危機感が高まっている。【2月22日 WEDGE】
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“(イランはシリア)北部に余計な労力を注ぎたくないというのが本音。イランはクルド人の拠点に配下の民兵部隊を入れて、トルコの攻撃の矛先を鈍らせ、戦線が拡大することを阻止しようとしたのかもしれない。”というのはどうでしょうか?
“配下の民兵組織”だろうが、トルコとの戦闘に加わることになれば、イランの“労力”はさらに大きくなるようにも思えますが・・・・。
【シリア戦線に投入されるアフガニスタン難民】
話が横道にそれますが、シリア情勢に隣国のイラク、レバノンが反応して、民兵が動員されるというのはわかりますが、自国が戦闘状態にあるアフガニスタンから何故わざわざシリアへ?という疑問が。
アフガニスタン国内から勧誘したというより、イラン国内のアフガニスタン難民を民兵としてシリアへ投入しているようです。
****<アフガン>難民勧誘し派兵のイランに反発 シリアで死傷****
イランがシリアのアサド政権を支援するため、自国に住むアフガニスタン難民を勧誘し派兵している問題を巡り、アフガン国内で反発が強まっている。イラン紙が今月、シリアでこれまでにアフガン難民の兵士約1万人が死傷したと報じたためだ。
ただ、政情不安が続くアフガンにとって、隣国イランとの関係悪化は望ましくなく、政府は難しい対応を迫られそうだ。
「イランは難民を悪用すべきではない」。アフガンのギャンワル上院議員は取材にこう語り、イランによるアフガン難民派兵を批判した。
上院は今月、アフガン政府にイラン大使とこの問題を協議するよう求めたという。大統領府副報道官もイランメディアに「アフガン人は他国の目的のために戦争で死ぬべきではない」と語った。
アフガンの人口の約1割はイスラム教シーア派を信仰するハザラ人で、シーア派国家イランには推定300万人のアフガン難民が暮らす。
イランは難民に報酬を約束してシリアに送り込み、過激派組織「イスラム国」(IS)などとの戦闘に従事させていたとされる。
イラン当局は認めていないが、毎日新聞が昨年9月、イランが組織的に派兵している実態を報道した。
アフガンが反発を強めるのは、国内でISがシーア派を狙うテロが頻発しているためだ。先月も首都カブールでISが自爆テロを起こし、40人以上が死亡した。アフガンの政治アナリスト、ワヒード・モズダ氏は「ISはシリアでの戦闘の報復をアフガンで行っている」と指摘する。
ただ、アフガン政府がイランに強硬な立場を示すのは難しいとみられる。イランとの関係悪化は国内の混乱に拍車をかけることになりかねないからだ。モズダ氏は「アフガンは強く抗議できないだろう。イランから難民の帰還を進めるしか解決策はない」と話す。【1月24日 毎日】
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戦争を逃れてイランへやってきた難民が、遠いシリアの戦争に投入されるというのは理不尽にも思えますが、生活のためにはそれしか道がなかったということでしょう。
【各地で民兵組織を指揮する「コッズ部隊」司令官のカセム・ソレイマニ将軍 「イランの力を象徴する存在」】
シリアに話を戻すと、一時は瀬戸際まで追い込まれたアサド政権が現在軍事的に優位な位置にあることについて、ロシアの支援がよく指摘されますが、それ以前にイランの支援を受けるレバノンの武装組織ヒズボラの軍事支援があったことが反転攻勢の転機となりました。
そのヒズボラに大きな影響力があり、現在アフリンに投入されている民兵組織を指導しているとされるのがイラン革命防衛隊(IRGC)の精鋭組織「コッズ部隊」の司令官を務めるカセム・ソレイマニ将軍です。
イラク・レバノン、シリアでイラン勢力の拡大に大きな功績を示すソレイマニ将軍は、イラン国内では“英雄”として非常な人気があるそうです。
****イラン国民に人気高まる将軍、その正体とは****
米当局者はテロ支援者だとみなすが、イラン国民は英雄視する
米当局者たちは、イラン革命防衛隊(IRGC)の精鋭組織「コッズ部隊」の司令官を務めるカセム・ソレイマニ将軍をテロ支援者とみなしており、数千人に上る米軍兵士や中東同盟国の兵士の戦死の究極的な責任者だと考えている。
だが多くのイラン人は、ソレイマニ将軍が中東地域で影響力を増大させつつあるイランの顔であり、外国からの侵略を防御するための最善の人物だとみている。
ハッサン・ロウハニ大統領の支持率が低下しているのとは対照的に、ソレイマニ将軍への国民の注目度は急上昇している。
米メリーランド大学が最近行った調査によると、イラン人のうち、同将軍を「非常に好意的」に見ているとの回答は64.7%に上った。これに対し、ロウハニ大統領への好意的な見方は23.5%にとどまった。この数字からは、イランの中東での戦争の立役者が、同国で最も人気の権力者であることがうかがえる。
これは、イランが中東で自国の影響力保持に取り組んでいることに国民の支持が集まっていることの表れだ。イラン各地では最近、経済の低迷、厳格な社会規範、そしてロウハニ大統領が2015年に結んだ核合意に伴う制裁緩和の効果が期待外れなことをめぐり、抗議デモが行われていた。
テヘランで宝飾品店を営むラミン・モザファリアンさん(42)は、「彼の人気は、戦争の英雄でありながら、それをメディアで自慢しないことから来ている」と語った。「彼はイランの力を象徴する存在だ。全ての国民が彼を誇りに思っていると思う。そう思わない人などいるのだろうか」
イランの大胆な外交政策の一端は、今月に入っても垣間見えた。イスラエル当局は先に、シリアから飛来してきたイランの無人機(ドローン)を自国領内で撃ち落としたと発表。
イランはシリアのバッシャール・アサド大統領を支援している。イスラエルはシリア領内のイラン人ないしイランが支援する標的を攻撃してドローン侵入事件に応じたが、今度はシリアの防空ミサイルがイスラエルの戦闘機を撃墜。米国は「イランによる計算された脅威の増大と、力と支配力を顕示しようとする野心」に警告を発した。
ソレイマニ将軍は現在60歳。イランが進めるイラクでのシーア派民兵の武装化やアサド政権への支援を代表する顔であり、イランで最も有名な人物の1人だ。(中略)
同将軍が率いるコッズ部隊は国外での作戦を担当し、最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師の直属部隊だ。イラン革命防衛隊(IRGC)は国内で政治的弾圧の過去を持っているが、ソレイマニ将軍の人気から若干の恩恵が受けられるとみられる。それは、IRGCの影響力を抑えようとするロウハニ大統領の試みを阻止する一助になるだろう。
(中略)米国は2007年、コッズ部隊をテロ支援組織に指定。イランがイラクやシリア、レバノン、イエメンでシーア派民兵集団に資金や装備などを提供する工作の背後にいる重要人物として、ソレイマニ将軍を特定した。
イランは数々の拠点を設け、自分たちに忠誠を誓う集団を支援することで、隣国イラクからの軍事的脅威を防ごうとしている。また、テヘランからレバノンの地中海沿岸につながる回廊を作ろうとしており、それによって陸路で武器や人員などを補充する構えだ。
イラン国内でソレイマニ将軍は、過激派組織「イスラム国(IS)」を国境に近づけないようにしたとして高く評価されている。
メリーランド大の調査によると、シリア内戦勃発から7年がたった今、イランがISと戦う集団への支援を増やすべきだと考えるイラン人は55%に上っている。支援を減らすべきだと答えた人はわずか10%だった。
多くのイランの指導者には汚職疑惑がつきまとうが、ソレイマニ将軍は富を避け、イラン・イスラム共和国のためなら進んで殉教者になるというイメージを打ち出してきた。
国際問題を専門とするワシントンのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」の非常勤フェローであるアリ・アルフォネ氏は、「ソレイマニ氏を公の場に登場させることは、中東におけるイランの戦争に世界中のシーア派教徒を動員しようとする作戦の1つだ。この種の英雄をイラン体制は必要としている」と述べる。
IRGCの評判は、2009年の反体制運動弾圧を受けて下がっていたが、財政的には、バラク・オバマ前米大統領時代に科された米国主導の制裁からかえって恩恵を受けた。
IRGCはイランの治安組織を牛耳っていたため、外国企業が撤退した空白に入り込むことができたのだ。建設、空港の運営や文化面の投資といった活動により、IRGCは有力な政治勢力になっている。
ソレイマニ将軍は政治的争いから一線を画し、大統領選への出馬要請を無視してきた。だが、シリアやイラクで外交的なアプローチを取ろうとするロウハニ大統領らの試みには手厳しく反応している。外交では「国防の殉教者」の仕事をなし得ないと言うのだ。
シリアでは、ソレイマニ将軍はアサド体制の生き残りに貢献してきた。例えば2013年、アサド大統領が化学兵器を使用したとしてイラン政府が同盟関係を断ちたがっているように見えた時、将軍はレバノンのシーア派武装組織ヒズボラの戦闘員2000人に動員を要請し、シリア政府軍が要衝クサイルを奪還できるようにした。それがシリア内戦の転換点になった。
イラクでは、シーア派民兵を武装化し、PR工作を展開して個人的な信奉者を構築することによって、戦場を支配すると同様に政治も支配するよう努めた。
イランがイラクでシーア派民兵集団を活用しているが、これは「レバノンでヒズボラを使っているのと同じ方法だ。治安面で大きな影響力を確保するとともに、実質的な政治力をも獲得するためだ」と元米中央情報局(CIA)長官のデービッド・ペトレイアス退役陸軍大将は言う。ペトレイアス氏は、ソレイマニ将軍を研究したことがあり、仲介者を通じて連絡したこともあるという。(後略)【2月21日】
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すでにレバノンは完全にヒズボラの主導する形になっています。イラクではイラン系、民族主義系など多くのシーア派民兵組織がせめぎあっており、「IS後」の武装解除などの処遇が問題になっています。そのなかでイラン系の「バドル旅団」を率いるアミリ氏は5月に行われる議会選で政界への転身をもくろんでいるとも報じられています。【2月20日号 Newsweek日本語版より】
そしてシリアでも、イラン影響下の民兵組織を「レバノンでヒズボラを使っているのと同じ方法だ。治安面で大きな影響力を確保するとともに、実質的な政治力をも獲得するためだ」というように、大きく育てようとしています。
【警戒を強めるイスラエル】
こうした情勢に神経をとがらせるのがイスラエルです。
****イスラエル空軍が宿敵イランと直接対決 米不在の中東、迫る次の危機 三井美奈***
その瞬間は今月10日早朝、やってきた。中東最強を誇るイスラエル空軍が歴史上初めて、宿敵イランと直接対決した。
まずイスラエル空軍のトマー・バー司令官の説明を聞こう。
「イランの無人機が暗闇に紛れてわが国の領空を侵犯したため、1分半後に攻撃ヘリでたたいた。無人機の操縦拠点はシリア軍基地にあり、空軍は即時に出撃した。その際、数十発の地対空ミサイルで反撃された」。イスラエル軍の戦闘機1機が被弾し、領内に戻ったところで墜落した。
問題の基地は、イスラエルとの境界から北東約300キロのパルミラ近郊にある。イスラエル紙ハアレツによれば、イラン革命防衛隊はそこに無人機の移動式操縦拠点を設けていた。イスラエルの攻撃は、シリアの防空網のほぼ半分を壊滅させる大規模なものだったという。無人機の領空侵犯から、わずか1時間後の急襲だった。
イスラエルの北東に広がるシリア南部では近年、レバノン拠点のイスラム教シーア派組織ヒズボラが不穏な動きを見せていた。ヒズボラは革命防衛隊の「別動隊」としてシリア内戦に出兵し、アサド政権を支えた。
イスラエル軍は「ヒズボラはイランからシリア経由でミサイルを入手している」と非難し、昨年来、小規模なヒズボラ攻撃を繰り返した。イスラエルとヒズボラは2006年、レバノンを戦場に約1カ月間交戦しており、戦闘再燃が懸念されていた。
イスラエル対ヒズボラの戦争でも重大事なのに、イランが前面に出る可能性も浮上して、緊張は一気に高まった。
さらに大きな心配もある。元イスラエル軍情報部のヨシ・キュペルバッサー元准将は電話インタビューで「今回の攻撃はイランだけでなく、ロシアへのメッセージでもある」と語った。ヒズボラ、イランの背後にはさらに、ロシアのプーチン政権の中東戦略があるというのだ。
イスラエルとロシアの関係は悪くない。ネタニヤフ首相は1月末にモスクワでプーチン大統領と会談した。
ネタニヤフ氏はこのとき、プーチン氏に「ロシアがイランを止めないなら、われわれが自力で止める」と警告し、その12日後に攻撃は起きた。キュペルバッサー元准将は「イランの増長を放置すれば、ロシアもツケを払うことになるという警告だ。ロシアはイランを止める力があるのに、イランを放置してきた」と言う。
アサド政権を支援するロシアは、シリアにS400地対空ミサイルを配備し、制空権を握った。そんなロシアがイランの無人機投入を知らなかったとは考えにくい。少なくとも、イスラエルはそうみている。
ロシアの最大のライバルである米国のトランプ政権は、シリア内戦を筆頭に最近の中東国際政治からすっかり身を引いている。米国不在の中、イランとイスラエルの対立に中東の火種がくすぶる。燃え広がれば、シリアや周辺アラブ諸国に影響が及ぶのは明らかだ。(後略)【2月20日 三井美奈氏 産経】
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こうして見てくると、クルド対トルコの対立軸は、イラン対イスラエルの対立軸ともつながっているようです。
当然に、ロシアとアメリカの関係にも。