(口にテープを張り、腕を交差させて軍政の人権弾圧に抗議する人たち=バンコクの大型商業施設前で2018年2月1日、西脇真一撮影)【2月4日 毎日】)
【海外逃亡中のタクシン元首相・インラック前首相 来日】
タイ国内では有罪判決を受け国外逃亡中のインラック前首相と兄のタクシン元首相が最近日本を訪れていたとか。
****国外逃亡中 タイのインラック前首相 日本訪れる****
(中略)インラック前首相は去年、在任中に国に巨額の損失を与えたとして職務怠慢の罪で禁錮5年の判決を受けたあと国外に逃亡し、ロンドンに滞在しています。
インラック氏が旧正月を迎えた中国の北京に滞在しているとみられる写真がインターネット上に流出したことから、タイのメディアがプラウィット副首相にただしたところ、「彼らは日本に滞在している」と述べて、同じく国外逃亡中の兄のタクシン元首相とともに日本を訪れたとの情報を得ていることを明らかにしました。
インラック氏の日本訪問の理由ははっきりせず、プラウィット副首相は関係機関が情報収集を行っているとしています。
タイの一部メディアは、インラック氏らはすでに日本を離れたとも伝えています。(後略)【2月13日 NHK】
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多分、入国管理段階で日本政府は把握しているのでしょう。ただ、公にするとタイとの関係で厄介になるので表には出さずに処理・・・という話なのでしょうか。
そのたりは、訪日前に滞在していた中国も同様で、インラック前首相らの動向については「中国政府はこの問題に触れず、コメントも発表していない」(米華字メディアの多維新聞)【2月13日 Record china】とのこと。
今後のタイ政治のキーマンであるタクシン元首相が日本で誰と会って、何をしていたのか・・・気になるところですが、知る由もありません。
【軍事政権は総選挙先送り 国民からは抗議の声も】
政治スケジュール的に遅れている、民政復帰のための総選挙は、タクシン元首相の復権を懸念する軍政の意向を受けて、更に遅れて来年ずれこむと報じられています。
****<タイ総選挙>再延期か 関連法に遅れ、遠のく民政移行****
タイの民政復帰に必要な総選挙が再延期されそうだ。約4年前から権力を掌握する軍事政権下の暫定議会が、選挙関連法を告示から90日置いて施行する法案を承認したため。
プラユット暫定首相が実施可能とした11月に間に合わず、来年初めにずれ込む可能性が高い。対立するタクシン元首相派の勝利を懸念し軍政が先延ばしを図ったとの批判が出ている。
今回の決定に野党や民主化運動グループは強く反発しており、27日には首都バンコクで小規模な抗議集会が開かれた。
総選挙実施のための4法中、下院選挙法など2法が未施行。暫定議会は25日、下院選挙法は官報掲載の90日後に施行すると決めた。通常は告示後直ちに施行するが「周知期間が必要」との理由だ。
憲法は4法施行後150日以内に総選挙を実施すると規定する。法の施行が延びれば、行程全体が遅延する。
タイではタクシン元首相派と反タクシン派の対立による混乱から2014年5月に軍と警察が「秩序回復」目的でクーデターを起こした。
タクシン派のタイ貢献党は有権者の多い農民票を押さえ、選挙には強いとみられる。このため、軍政は総選挙をできるだけ先延ばししたいのが本音だ。
タイ貢献党は、90日間の施行猶予を「プラユット氏を新首相に担ぐため設立される新党のため」と指摘、軍政側が選挙態勢を整える時間稼ぎだと批判した。【1月27日 時事】
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タイではこの総選挙実施をめぐる問題のほか、タイ軍事政権ナンバー2のプラウィット副首相兼国防相の資産隠し疑惑に対する国民不満も高まっています。
****世論調査結果、公表差し止め=疑惑の副首相に配慮か-タイ****
タイ軍事政権ナンバー2のプラウィット副首相兼国防相の資産隠し疑惑に関連して、国立開発行政大学院が実施した世論調査の結果が院長の指示で公表されず、大学院の調査機関責任者が29日、抗議のため辞表を提出した。
プラウィット副首相は報道写真などからロレックスを含む少なくとも25個の高級腕時計を身に着けていたことが判明。いずれも資産報告で申告されておらず、資産隠しの疑いが浮上している。
バンコク・ポスト紙によると、世論調査では「腕時計はすべて借り物という副首相の言葉を信じるか」という質問に、85%が「信じられない」と回答した。このため、大学院が軍政に配慮し、公表を見送ったとの観測が広まっている。【1月29日 時事】
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よっぽど高級時計が好きなのか、見せたくて仕方がないのか・・・・。
こうした汚職・腐敗絡みの問題が軍の意向でうやむやにされてしまうあたりが、民政ではない軍事政権の不透明さを示しています。
総選挙を通じた民政復帰を求める抗議の声も断続的に示されているようです。軍政側は、抗議行動を刺激しないように慎重な対応もとっているとの指摘も。
****「軍事政権、もう交代する時期」総選挙求める催し タイ****
軍事政権下のタイで、暫定的な国会にあたる国民立法議会が選挙関連法の施行日を遅らせると決めたことを受け(12月)27日、バンコク市内で、若者たちがこれに反発する催しを開き、「今年中に選挙をしろ」などと主張した。
「プラユット(暫定首相)の軍事政権になって4年がたつ。もう交代する時期だ」。バンコク中心部の広場で、学生のランシマン・ロームさんは声を張り上げた。集まった数百人の聴衆から拍手が上がった。(後略)【1月28日 朝日】
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****<タイ>総選挙先送りに民主化団体抗議 軍政に反発****
タイ軍政が民政復帰に向けて11月に実施可能としていた総選挙を先送りする動きを見せたことに対し、民主化グループが連日のように小集会を開き、抗議活動を続けている。軍政側は強硬に取り締まれば民主化の火に油を注ぎかねないとみて、慎重に対応している。
1日夕、バンコク中心部の大型商業施設前に、大きな銀色のテープで口を覆った1人の女性が立つと、賛同する男女が同じ格好をして寄り添った。女性は「平和的に反独裁を訴える」とし、黙ったまま両腕を交差させて上げるなどし、人権や言論の弾圧に抗議した。
周辺に制服や私服の警察官が大勢いたが、前面には出ず、移動しようとする女性を制止したのは商業施設の警備員だった。(中略)
(先送り)決定直後の1月27日に開かれた小規模デモには、軍政と対立するタクシン元首相派に加え、反タクシン派の人も参加。政治的立場の違う両者が総選挙の早期実施を訴えた。
さらに今月2日の集会では、軍政ナンバー2で、資産隠し疑惑が浮上したプラウィット副首相兼国防相に対する辞職要求も飛び出し、総選挙要求運動が広がりをみせている。
軍政側は5人以上の政治集会を禁じているが、今のところ強硬な取り締まりは実施していない。【2月4日 毎日】
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抗議する側も、治安当局の対応を見極めながら・・・・といったところ。
****タイ軍政抗議 活発 集会ダメなら山車やお面で****
タイの軍政が民政復帰に向けた総選挙の先送りを図っているとして、市民グループなどの抗議活動が活発化している。
警察は八日、総選挙の早期実施を求める集会を開いた活動家三十九人に出頭を命じた。軍政は二〇一四年のクーデター以来、五人以上の政治集会を禁じており、市民らはあの手この手で抗議を続ける。
バンコク中心部のルンピニ公園。四日夕に集まった十数人が列になって三十分間、池の周囲を歩き続けた。参加者がベンチで車座になると、集会とみなした警察官が取り囲んで制止した。
男性リーダーのアピシットさん(39)は取材に「医療福祉の充実や環境保護を市民に訴え、タイに民主主義を取り戻す」と訴える。
抗議活発化は、プラユット暫定首相が十一月の実施を明言した総選挙が、来年に先送りされる可能性が高まったため。プラウィット副首相の資産隠し疑惑が拍車をかける。
三日はバンコクで行われた大学サッカーの試合で、学生らがプラウィット氏を皮肉る山車を担いだ。六日夕はオフィス街で、男性がプラウィット氏を思わせる似顔絵に「出ていけ」と書いたお面をつけて立った。
八日に出頭を命じられた活動家三十九人は集会が商業施設「MBKセンター」前で開催されたことから「MBK39」と名乗り、ネット上で活動を紹介。当局は同日、実際に出頭した三十数人から事情を聴いた。【2月9日 東京】
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なお、プラウィット副首相兼国防相に似た似顔絵のお面をつけた男性は、5分もたたないうちに警察に連行されたようです。
10日は、最近では異例の規模となる数百人が集結した集会も。
****<タイ>民主化集会に数百人 総選挙の早期実施求め****
バンコクの民主記念塔近くで10日、タイの民政復帰に向けた総選挙の早期実施などを求める集会が開かれ、活動家や市民ら数百人が集結した。最近では異例の規模となった。
軍政は5人以上の政治集会を原則禁じており、警察当局はデモ参加者に出頭命令を出すなど取り締まりを強化している。
「ルアッタン(選挙)、ルアッタン」。マイクを手に活動家が「クーデターから4年になるのにまだ民主化されていない」などと訴えると、歩道に集まった人たちが連呼した。
民主記念塔は、1932年の立憲革命で絶対王制から立憲君主制になったのを記念して建てられた。タイの民主化を象徴する場所の一つで、当局側は事前に塔の敷地に入れないよう規制。付近の歩道沿いに柵も置き、当日は警察官約300人を動員した。
軍政はデモの広がりに警戒を強めており、1月27日にあった総選挙の早期実施を求めるデモの参加者に出頭を命令。応じなかったリーダー格4人のうち今月10日朝に1人を逮捕。この日の集会参加後に出頭した3人も逮捕した。4人は保釈金を払いすぐ保釈されたが、今後もこうした圧迫を続けるとみられる。(後略)【2月11日 毎日】
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【プラユット暫定首相 「タイ的民主主義」を含む「持続可能なタイ主義」の新政策】
こうした状況のなか、総選挙を遅らせ、軍を支持する勢力で新政党を結成し、選挙後に再び首相になろうとしているのでは・・・とも憶測されている軍事政権プラユット暫定首相は「タイ的民主主義」を含む「持続可能なタイ主義」の新政策を発表しています。
****「持続可能なタイ主義」 タイ軍政が新政策****
タイ軍事政権のプラユット首相は9日、バンコク北郊のコンベンションセンター、インパクトに、全省の事務次官、軍司令官、内務省幹部、タイの全77都県の知事ら約2800人を集め、「持続可能なタイ主義」とうたった新政策を説明した。
「助け合い」、「幸福な共同体」、「権利と義務と法律を知る」、「足るを知る」、「タイ的民主主義を知る」、「麻薬問題の解決」といった10の目標を掲げ、公務員が全国の津々浦々に入って国民の要望を聞き、解決策を立案、実行に移すというもので、予算総額1500億バーツ。
首相は新政策について、国民の生活水準の向上、貧富の差の縮小が狙いで、自身が常々批判してきたバラマキ政策ではなく、2019年の実施が予想される議会下院総選挙に向けた人気取りでもないと主張した。【2月12日 newsclip.be】
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「タイ的民主主義」とは何か?一般には、民政を前提にしながらも、政治対立・混乱が深まる際には、国王がその最終調停役をなす体制を指すとされています。
****問われる「アジア式民主主義」*****
(中略)だが、その後もクーデターは繰り返され、政治混乱の収拾を理由にした2014年5月のクーデター以降、タイは再び軍事政権下にある。
そして最近、軍政トップのプラユット暫定首相がこんな言葉を口にした。「タイは民主主義を持たなければならない。だがそれは、タイ主義(タイ式)の民主主義だ」
タイでは、政治が腐敗したり混乱したりすると、軍が力で刷新。一定期間の軍政の後、総選挙を経て民政に戻るが、再びクーデターが起きるという歴史が繰り返されてきた。国王がその最終調停役をなす体制は「タイ式民主主義」と呼ばれる。
今回のプラユット氏の発言の真意は何か。「政治や社会の安定を望むなら、総選挙後も軍が政治にかかわり続ける必要がある」とのメッセージとの見方が強い。
昨年4月に施行された新憲法は、選挙を経ない人物が首相に就く道を開いており、プラユット氏がその座をうかがっているとささやかれる。
だが、アドゥンさんは異議を唱える。「クーデターを起こした軍は、レフェリー役ではなかったのか。軍政が掲げた国民の和解や改革も、何も進んでいない。軍政は早く、国民に権力を返すべきだ」(中略)
もっとも、欧米流の民主主義が万能なわけではない。その国の事情に合わせた受容はありうるだろう。ただ、タイやカンボジアの現状は、国民全体が主役の体制とは言い難い。「アジア式の民主主義」がいま、問われている。【2月12日 貝瀬秋彦氏 朝日】
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“国王がその最終調停役をなす体制”というのは、その是非はともかく、国民からの絶大な信頼を受けていたプミポン前国王という存在があってのことです。
国民からの信頼に疑問の声もあるワチラロンコン現国王のもとで機能するのか?
更には、軍政主流派と現国王の間には不協和音もあるとされています。
そうした事情もあって、プラユット暫定首相らが考える「タイ的民主主義」とは、国王に代わって軍が調停というか、実質的決定権を持つような政治体制ではないでしょうか。
【見えないワチラロンコン現国王の姿勢 「不敬罪」が阻む体制に関する議論】
いずれにしても、ワチラロンコン現国王がどのような姿勢で治世にあたるのかが非常に重要な政治ファクターとなりますが、その国王の考え・方針が見えてきません。
****タイ国王、権限の強化着々 軍事政権、批判封じ込め 即位受諾1年****
タイのプミポン前国王の死去に伴い、ワチラロンコン現国王(65)が即位要請を受諾してから(2017年12月)1日で1年になる。
この間、国王の権限強化につながる動きが続く一方で、軍事政権は「不敬罪」で体制への批判を封じ込めてきた。前国王の喪が明けたいま、関係者は今後の現国王の動きを注視している。
10月下旬にバンコクで営まれた前国王の葬儀で1年余りにわたった喪が明けたが、現国王はまだ自らの方針を国民に示していない。
ただ、この間の動きを見ると、着々と権限を強化・拡大してきたことがうかがわれる。最初は、2014年のクーデターで破棄された旧憲法に代わる新憲法だった。昨年8月の国民投票で承認されたが、今年に入って現国王側が修正を要求。国王権限を強める修正が施され、4月に施行された。
5月には、それまで政府や軍の管轄だった王室庁などの5機関を国王直轄にする新法を施行。7月には王室財産の管理・運用は国王の意思によってなされるとの法改正がされ、財産管理を監督する組織の幹部の人事権も国王が握った。そのトップは従来、財務相が兼務していたが、現国王の側近が送り込まれた。
また、10月には王室財産管理局が、保有していた銀行株の一部を現国王個人に譲渡した。
王室の職員も、前国王側近から現国王側近への入れ替えが相次いでいると言われており、外交筋は「権限強化と体制固めを着々と進めている。今後の動きも注目している」と話す。
その一方で、軍政は「不敬罪」による体制批判の封じ込めに躍起だ。現国王の経歴に関する外国メディアの報道をフェイスブックで共有した大学生が8月、実刑判決を受けた。
また、著名な批評家が3年前に大学でした発言がもとで、不敬罪の嫌疑を掛けられている。16世紀のタイの国王の言い伝えをめぐって、疑問を呈したのが理由だった。訴追されるかはわからないが、識者の間では「王室へのいかなる批判も許さないという警告ではないか」と危惧する声が出ている。【2017年12月1日 朝日】
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“着々と権限を強化・拡大してきた”とされるワチラロンコン現国王ですが、その奔放な性格は、規律を重視するプラユット暫定首相・軍事政権とは異なるものがあります。
“権力”をめぐって国王と軍政が“手を結ぶ”のか? それとも両者の溝が深まり、国王が独自の姿勢を示そうとするのか・・・よくわかりません。タクシン元首相は、その“溝”に期待しているのでしょうが。
なにぶん厳格な「不敬罪」によって国王や体制に関する発言等は一切禁じられていますので、そうしたタイの修礼にかかわる重要な問題に関する報道・指摘もありませんし、タイ国内での議論も深まりません。