(コロンビア・ククタの仮設避難所で横になるベネズエラ難民【2月14日 WSJ】)
【大統領選前倒し強行 支持勢力も一定にあるということか】
昨年のインフレ率が2600%(国会発表)を超え、食料・日用品・医薬品の絶対的供給不足を起こし、満足に食事をとれない市民が少なくないとされるベネズエラにあって、マドゥロ大統領が強権的に国民不満を抑え込み、野党勢力の乱れなどもあって、依然として政権を維持していることは、これまでも再三取り上げてきたところです。
(1月1日ブログ“ベネズエラ 暴力を駆使する権力はなかなか倒れないことを示したマドゥロ政権 今年は?”など)
そのベネズエラの制憲議会(野党が多数を占めるそれまでの議会から権限をはく奪し、大統領支持の与党によって構成する議会)は1月23日、大統領選挙の期日を今年中から4月末以前に前倒しするると発表しました。マドゥロ大統領の再選で、政権を正当化することが狙いと思われます。
****ベネズエラ、4月22日に大統領選強行へ 野党は批判****
南米ベネズエラの選挙管理当局は7日、大統領選を4月22日に実施すると発表した。野党側はニコラス・マドゥロ大統領が再選を図ってこの選挙を利用していると批判している。
大統領選は当初、今年12月まで行われないことになっていたが、制憲議会が先に「4月末より前」に前倒しすることを決めていた。
その後、選挙の日程をめぐって政府と野党連合が協議していたが決裂。全国選挙評議会のティビサイ・ルセナ議長が7日、4月22日の実施を発表した。
野党連合は、マドゥロ政権になびいているとの批判もある最高裁の判断で統一候補者の擁立を阻まれており、複数の著名な反政権派の人物も出馬を禁じられている。そのため、マドゥロ大統領が選挙前の段階から不正行為を働いていると非難している。
マドゥロ大統領は2期目の続投を狙っているが、経済失政などにより国民の支持は極めて低い。【2月8日 AFP】******************
“最高裁の判断で統一候補者の擁立を阻まれており、複数の著名な反政権派の人物も出馬を禁じられている”という与党に有利な操作はありますが、これだけの経済失政を続けながらも選挙に打って出る(当然、勝てるという自信があってのことでしょう)というのは、不思議な感もあります。
マスメディアに頻繁に取り上げられる大統領批判勢力以外に、チャベス前大統領以来の貧困層重視のバラマキ政策(それが現在のベネズエラ経済破綻の原因ともなっている訳ですが)で恩恵を受け、今も大統領・与党を支持する勢力も相当に存在している・・・ということでしょう。
【狭まる国際的包囲網 アメリカの本気度は?】
国内的には批判勢力抑え込みに一定に成功しているマドゥロ政権ですが、国際的な批判は大きくなっています。
****比、ベネズエラを予備調査=「超法規的殺害」を問題視―国際刑事裁****
国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)のベンスダ主任検察官は8日、フィリピンとベネズエラの政権が麻薬組織や反政府勢力に対し、国際法に違反する過剰な弾圧を行っている恐れがあるとして、予備的な調査に着手すると発表した。人道に対する罪の適用が視野にあるものとみられる。
主任検察官は声明でフィリピンに関し、2016年7月以降、麻薬犯罪撲滅を目指すドゥテルテ大統領の「麻薬戦争」の取り組みに際し、「数千人の人々が違法薬物の使用や取引への関与を理由に殺害された」として超法規的な殺害を問題視。ベネズエラでは「反政府デモを鎮圧する目的で過剰な武力が用いられている」と懸念を示した。
フィリピンとベネズエラはいずれもICC設立条約の締約国で、ICCが管轄権を行使できる。【2月9日 時事】
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形式的なものにとどまりがちな国際刑事裁判所の判断以上に実際的な圧力となるのが、アメリカ・中南米諸国の圧力です。
アメリカ・トランプ政権はベネズエラに対する経済制裁圧力を強めてきましたが、ベネズエラ経済の根幹をなす石油の禁輸については、アメリカ国内への打撃もあることから、これまでのところ実施されていません。
しかし、マドゥロ政権への効果的な圧力としては石油禁輸以上のものはありませんので、ティラーソン国務長官は2月7日、「近く制裁するかどうか決定する」と圧力を強めています。
****<米国>ベネズエラ石油禁輸か 国務長官、必要性を強調****
米国が、独裁色を強める南米ベネズエラのマドゥロ政権に対し、基幹産業である石油分野の追加制裁を検討している。中南米各国を歴訪中のティラーソン国務長官は7日、「近く制裁するかどうか決定する」と述べた。欧州連合(EU)も制裁を強化しており、マドゥロ政権の国際的な孤立が深まっている。
ロイター通信によると、ティラーソン氏は実際に制裁を始めた場合、米国、メキシコ、カナダの3カ国が、ベネズエラから石油援助を受けてきたカリブ海諸国を支援することで合意したと明らかにした。カリブ海の島国ジャマイカへの機中で7日、記者団に述べた。
米国もベネズエラ産原油を輸入しており、トランプ政権はこれまで、自国経済への影響も考慮し石油を対象にした制裁は見送ってきた。
だが、ティラーソン氏は4日、訪問先のアルゼンチンの首都ブエノスアイレスでベネズエラ産原油の輸入制限を検討していると表明。「何もしないことはベネズエラ国民にさらに長い間、苦しみに耐えるよう求めることだ」と語り、マドゥロ氏や閣僚ら40人以上の資産凍結など実施中の制裁に加え、石油制裁の必要性を強調した。
EUも1月、昨秋に発表した武器禁輸に続き、ベネズエラの閣僚ら7人の資産凍結や渡航禁止などの制裁を決めた。直後にマクロン仏大統領が「欧州レベルで新たな制裁の必要性を検討しなければならない」と強調。
また、EUに制裁を求めていたスペインは同国に駐在するベネズエラ大使の追放を発表し、欧州でも非難が高まっている。(後略)【2月8日 毎日】
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石油禁輸で、現在も困難な状況にあるベネズエラの市民生活の苦境はさらに高まりますが、非民主的なマドゥロ政権を追い込むためにはやむを得ない措置でしょう。
ガソリン供給などのアメリカ国内への波及を乗り越えて石油禁輸に実際に踏み切るのか・・・軍事介入の可能性にも言及して中南米諸国の顰蹙を買ったトランプ政権の“本気度”が問われています。
一方、ベネズエラのアレアサ外相は2月6日、ペルーの首都リマで4月13、14両日に開催される米州首脳会議にマドゥロ大統領が出席すると発表しました。
米州諸国の大半は独裁色が強いマドゥロ氏の政権運営に反発しています。開催国ペルーは、マドゥロ政権に民主主義の順守を要求する12カ国で構成する「リマ・グループ」の主導国でもあります。
****ベネズエラ大統領の入国をペルーが拒否****
独裁色を強め国際的な批判を受けているベネズエラのマドゥーロ大統領について、ことし4月に南北アメリカの首脳が集まる国際会議を開催するペルーが入国を拒否する姿勢を示し、ベネズエラと周辺国との関係がさらに悪化することが予想されます。
ベネズエラのマドゥーロ大統領は、野党が多数を占める議会の立法権を事実上剥奪したり、ことし後半に予定されていた大統領選挙の日程を独断でことし4月に早めたりして独裁色を強めていて、国際的な批判が高まっています。
こうした中マドゥーロ大統領は15日、4月にペルーで開かれる南北アメリカの首脳が集まる米州首脳会議について、「ベネズエラの真実を伝えに行く」と述べ、みずから出席する意向を示しました。
これを受けて開催国ペルーのアラオス首相は報道陣に対し、「彼はペルーの領土にも領空にも入ることはできない」と述べ、マドゥーロ大統領の入国を認めない姿勢を示しました。
ベネズエラは中南米の中でもキューバやボリビアなど反米左派の一部の国々と良好な関係を保つ一方、ベネズエラの民主化を求めるブラジルやコロンビアなど多くの国々との関係は冷え込んでいて、米州首脳会議を前に関係がさらに悪化することが予想されます。【2月16日 NHK】
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【周辺国の脅威となる大量難民 「これ以上は待てない」】
隣国コロンビア(コロンビア自身が世界有数の避難民発生国ですが)など中南米諸国にとって、マドゥロ政権の失政・経済破綻・強権支配は、単に“非民主的”という理念上の問題だけでなく、大量の難民を自国に向かわせる現実的脅威ともなっています。
ベネズエラからの難民はこの2年間で120万人とも言われ、シリア難民やアフリカ紛争地域からの難民、ミャンマーのロヒンギャ難民などと同レベルの国際問題となっています。
****急増するベネズエラ難民、周辺国に危機波及****
過去2年間で約120万人が国外に脱出、人道危機の懸念も
経済が崩壊の一途をたどるベネズエラ。国境を越えてコロンビアなど周辺国に逃れる避難民が増加を続けており、地域で深刻な問題を生み出しつつある。
過去20年間、ベネズエラの人口の1割に当たる300万人近くが左派政権を嫌って同国を離れた。ベネズエラ中央大学の専門家トマス・パエゾー氏によれば、このうちの約半分に相当する約120万人が過去2年間で国外脱出した格好だ。
コロンビア政府によると、2017年末時点でコロンビアに逃れたベネズエラ人は約55万人で、前年比62%増加。今年はこれまで、さらに5万人がコロンビアに入国した。
欧州の難民危機に匹敵
国連難民高等弁務官事務所の広報担当者ジョエル・ミルマン氏は「世界的な基準から見ても、コロンビアは大量の避難民を受け入れている」と指摘。「欧州の難民危機がピークだった2015年にバルカン諸国やギリシャ、イタリアが受け入れた難民に匹敵する規模になっている」と話す。
コロンビアのファン・マヌエル・サントス大統領は先週、国境通過許可証の発給停止を発表するとともに、不法入国を阻止するため2000人の兵士を国境に配置する命令を出した。
ただサントス大統領は、ベネズエラが繁栄していた20世紀終盤に同国が100万人を超えるコロンビア人を受け入れたことを指摘し、「コロンビア人もベネズエラ人に対し寛容であるべきだ」と訴えた。
ベネズエラからの避難民の増加はコロンビアの国境地域に負担を強いており、ベネズエラの混乱がコロンビアにも波及するとの不安を高めている。
コロンビアの国境沿い最大の都市であるククタでは、ベネズエラの家族連れが駐車場を仮設の避難所に変え、小売店舗の外にハンモックをつるしている。
「ちょっと見て欲しい。彼らはベネズエラがうまくいっていれば、ここにいる必要がなかった人たちだ」。この地域で炊き出しを行っているホセ・デビッド・カナス神父は、ベネズエラ人の女性や子どもたち1000人近くが昼食を求めて長蛇の列をなしているのを見つめながら言った。「我々が助けているのは、コロンビアに来る人のわずか1%に過ぎない。これは人道的危機だ」
その中の1人、ケリー・アラザレスさん(43)は、自分がレストランで働いている間、4人の子どもを働かせざるを得ない。街頭で食べ物を売って、生活を支えさせるのだ。「食べるものは十分ある。それだけでもありがたい」と話す。
一方、自分たちが正しい選択をしたのかと思い悩む人もいる。たばこと飲料水を売っているへスース・ガリシアさん(35)は、「(ここに来れば)もっと楽になると思っていた」と話し、「ここ(ククタ)は素晴らしいと言っている人たちがいたのでやって来た。でも来てみたら、散々たる状況だ」と語った。
各国で急増するベネズエラ難民
国際通貨基金(IMF)によると、ベネズエラ経済は今年末までに2013年時点の半分の規模になると見込まれている。今年のインフレ率は1万3000%に達すると予想されている。
ベネズエラの首都カラカスに本拠を置く調査会社Consultores21が昨年12月に同国各地で実施した調査では、回答者の40%が国外脱出を望んでいた。
行き先として選ばれているのは最も近いコロンビアだが、ベネズエラからの脱出者は南米各国で明らかに急増している。
昨年コロンビアから南側の国境を通ってエクアドルに入国したベネズエラ人の数は23万1000人と、2016年の3万2000人から急増。これは、コロンビアを単なる通過地点として利用する人がいかに多いかを物語っている。
アルゼンチン、エクアドル、チリ、ブラジルには現在、かなりの規模のベネズエラ人コミュニティーが存在する。ブラジルでは、何万人もの人々がジャングル地帯の国境を渡り、ロライマ州の州都ボアビスタに住みついた。人口31万3000人の都市だ。
ブラジルは先週、国境に配置する兵士を増やした。また、流入してきたベネズエラ人をブラジルの内陸にある他の都市に移す計画も明らかにした。ミシェル・テメル大統領は「ベネズエラからブラジルにやって来る避難民についての懸念はずっと続くだろう」と述べた。
コロンビアに渡ったベネズエラ人の多くは、サンドラ・グラテロルさん(30)と同じような境遇に陥った人々だ。グラテロルさんは夫とベネズエラ中部で小さな金属加工工場を営んでいたが、経済危機で収入がなくなったのだ。サンドラさんは現在、ククタの街頭でアクセサリーを売って1日10ドル程度を稼いでいる。
ベネズエラ人の流入を受け、コロンビア当局者は昨年、トルコを訪れてシリア難民を当局がどう扱っているのか調査した。コロンビア政府は、ベネズエラ人による公的医療制度の利用を認めるとともに、パスポートを所持している人々には子供たちの学校入学も認めた。
しかし、国境沿いにあるコロンビアの小さな町の当局者らは、人々の流入の結果、公共サービスに大きな負担になっていると述べる。検察当局も、移民が急増するにつれてベネズエラ人の逮捕件数が増えていると述べた。主として強盗容疑が多いという。
移住者たちに対応しているククタの責任者、マウリシオ・フランコ氏は「彼らは失業を増やし、比較的低賃金の仕事を奪っている」とし、「我々には彼らに与えるだけの就業機会がない」と語った。
8日、サントス大統領がククタを訪問し、コロンビアへの越境の際の新たな制限措置を発表するなか、数百人のベネズエラ人がククタに到着した。その中のあるグループは、国境から数百メートル離れた木陰にスーツケースを置き、これからのことを話し合っていた。
リウベルト・ヤリさん(24)は、コロンビアをバスで横断し、いとこが住むペルーに行くつもりだという。「私には故郷に1歳の赤ん坊がいる。ミルクとおむつを買うためには、あらゆることをしなければならないが、ここで仕事を見つけるのは不可能だ」と語った。「これ以上は待てない」【2月14日 WSJ】
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【独自の中央集権的仮想通貨発行の奇策も】
なお、マドゥロ政権は、不足する外貨を補うために、今話題の「仮想通貨」を新たに発行する“奇策”に出ています。
****ベネズエラの仮想通貨ペトロ、2月20日から先行販売 初期値60ドル****
ベネズエラ政府は1月31日、流動性の危機を克服するため昨年末に導入を発表した仮想通貨「ペトロ(Petro)」について、2月20日から先行販売すると明らかにした。初期値は60ドルに設定したが、原油などを裏づけとする通貨なため原油相場に左右されるとの見通しも示した。
発行する1億ペトロのうち、3840万ペトロを2月20日から3月19日まで予約販売する。
初期値は1月中旬時点の1バレル当たりのベネズエラ産原油価格に基づいている。ただし、ペトロは自国の埋蔵原油などを裏づけとしており、ウグベル・ロア大学教育・科学技術相は「価格は原油市場の変動で変わる」と指摘した。(後略)【2月1日 AFP】
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仮想通貨発行の背景には、“ベネズエラの新規発行債券買い入れを禁止した米国の制裁で思うように債務の借り換えができないため、ビットコインなどの仮想通貨の成功例を活用して新たな外貨獲得手段を得ようという狙いがある。”【1月16日 ロイター】との指摘が。
アメリカ財務省は1月16日、ベネズエラ政府が打ち出した独自の仮想通貨「ペトロ」について、取引すれば米国がベネズエラに科した制裁に違反する可能性があると投資家に警告しています。
仮想通貨ペドロの今後については、否定的な見方が多いようです。
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仮想通貨も相手が存在しての取引に使用されるものだ。しかし、ペトロで商品を購入するにも、まず手持ちのボリバル通貨をペトロに両替せねばならない。ハイパーインフレでボリバル通貨が下落し続ける中で、何を基準にペトロ通貨に両替できるのであろうか。
また、取引が成立するのも相手が存在してのことだ。デフォルトとハイパーインフレの真っただ中にあるベネズエラという国家を誰が信頼するであろうか。皆無であろう。よって、ペトロへの信頼度は生まれないと思われる。
しかも、仮想通貨の魅力は国家や金融機関が関与していないところにある。ペトロの場合は国際的に信頼性を失っているベネズエラ国家が発行するという。誰もそれに魅力は感じないだろう。【2017年12月08日 HARBOR BUSINESS Online】
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なお、ベネズエラのホセ・ビエルマ・モラ貿易・国際投資大臣は、一部の貿易相手国が「ペトロ」での支払いを受け入れる予定があると発表しています。
受け入れの姿勢を見せているのは、「ブラジル」「ポーランド」「デンマーク」「ノルウェー」など、またアジア地域では「ベトナム」も検討している・・・とも。【2月11日 「コインの森」より】
何やら金本位制ならぬ、石油本位制のようにも。
ベネズエラ政府が管理する中央集権的な仮想通貨ペトロは国債と何が違うのか?という素朴な疑問も。
国際的に信用されないベネズエラ国債に代わって、仮想通貨なら信用されるのか?
ただ、私は“仮想通貨”の仕組みがよく理解できませんので、一応、こういう話があるということで。