孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  入試を悲観して自殺する若者 自殺防止のため、ひもをかけても外れやすい天井扇風機も

2019-07-08 22:58:47 | 南アジア(インド)

(本文とは直接関係のない、タイのカセサート大学でのカンニング防止対策【eedu.jp】 あまりにも面白かったので)

 

【韓国:飛行機の離着陸も自粛】

日本では、ひと頃の「ゆとり教育」や長期的な少子化・若者の現象の影響もあって、昔のように「受験戦争」という言葉を聞く機会は少なくなったようにも。(代わりに、「お受験」なんて言葉が出てきましたが)

 

「受験戦争」に関して、よく話題になるのが韓国における大学修学能力試験(日本のセンター試験に相当)当日、社会をあげての狂騒曲状態。

 

試験時間に遅れそうになった受験生を警察のパトカーが会場に送っていくというのは“当然”のことのようで、英語のリスニング試験が行われる時間帯には“この35分間は非常事態、緊急事態が発生した場合を除き、国内すべての空港で航空機の離着陸が禁止される。また、飛行中の航空機は管制機関の指示に従い、地上から3キロ以上の上空を飛ばなければならない。”【20181113 WoW!Korea】とのこと。

 

さすがに、韓国国内でも“やりすぎじゃない?”“そんなことより、スピーカーの質をよくしろ”との声もあるようです。

 

他にも、官公庁・大企業は始業時間をずらして当日電車や道路が混まないようにするなど。

 

【インド:カースト制の制約を逃れるためにもIT関連名門校に希望者集中 「留保制度」による逆差別も】

全ては学歴偏重社会における“一発勝負”というところからくる騒動ですが、そのあたりの騒動は、韓国だけでなくインドや中国も同じ、あるいは韓国以上のようです。

 

****苛烈な競争ににずみも、若者に自殺者続出****

世界2位、13億超の人口を抱えるインド。「カースト」という不条理な差別をはね返し、IT産業での成功を勝ち取るため、若者たちが熾烈な競争を繰り広げている。

 

「わが校から統一入試6位を輩出!」 「全インド女子1!」。人と牛が行き交う市街地に入ると、子供たちの顔写真と試験のランキングを宣伝する看板が続々と現れる。北西部の地方都市コタ。大小の予備校や進学塾が軒を連ね、「私塾産業の震源地」と呼ばれる。

 

1990年代、最高峰のインドエ科大学(IIT)に合格者を出した私塾が評判を呼び、各地から受験生が殺到。他の塾も相次いで参入し、遠方からの生徒のために寮が続々と建てられた。現在、コタの人口の1割に当たる約15万人が親元を離れて受験勉強に明け暮れる。

 

大手予備校「バイブラント・アカデミー」で学ぶアビラル。バンダユ(16)も、その一人だ。「IITに合格できたら、サイバーセキュリティーの専門家になって、グーグルに就職する。それが目標です」

 

国内23のキャンパスがあるIIT進学には、統一入試で競争率100倍以上の狭き門を突破しなくてはならない。グーグルなど名だたる大企業の幹部らを輩出しており、将来の成功を夢見る若者やその家族にはあこがれの的だ。

 

IT業界への就職熱に一役買っているのが、ヒンドゥー教のカースト制度。バラモン(司祭)、クシャトリヤ(武人)、バイシャ(庶民)、シュードラ(隷属民)の四つの「ヴァルナ(原意は肌の色)」は日本でも知られているが、さらに細かい「ジャーティ(原意は生まれ)」という職業カーストに分かれており、その数は3000とも言われる。

 

カースト差別は憲法で禁止されているとはいえ、農村部などでは世襲の職業以外に就くのを忌み嫌う。しかし、新しい職種のIT業界なら、こうした職業カーストの枠を乗り越えられるのだ。

 

この5年間、インドは年78%の高い経済成長を続ける一方、国民の4割超が20歳未満で、毎月約100万人が労働市場に加わる。若者の就職難が深刻な社会問題になっている。

 

インド社会に詳しい大東文化大学教授の篠田隆(68)は、一昔前の日本の状況とも重なると言う。「良い大学に入って、良い会社に勤め、高い給料をもらうことが重視される。学校教育の序列化が進み、著名大学を出ないと名の知れた民間企業は相手にしない。だから教育産業がビッグビジネスになっているのです」

 

2010年開校のバイブラントの塾生は現在、1618歳を中心に約7000人。週6日、IIT出身の講師陣から、効率よく短時間に解答するテクニックを1日4時間みっちり伝授される。授業の後も多くの塾生が寮の自室で8時間以上は勉強する。4週おきに受ける模擬試験の順位に一喜一憂する。

 

年間の授業料は、インドの一人あたりの年間所得に匹敵する約2000ドル(22万円)で、これに寮費が加わり、一般家庭に重くのしかかる。それでも、パイプランド代表、ニティン・シャイン(49)は言う。

「母親が付き添って寮に住み込み、父親が仕送りを続ける。子供の将来の成功のため、家族がスクラムを組んで闘うのです」

   

外れやすい扇風機に

IIT入試には本人の夢だけでなく、家族の期待も重くのしかかる。成績が伸びずプレッシャーに耐えられなくなり、自殺する子供たちが相次いでいる。政府当局の統計によれば、15年には約2600人が試験の成績不振を理由に自殺した。

 

天井の扇風機にひもをかけて首をつるケースが後を絶たないため、天井から外れやすくした機種が売り出された。

 

受験生のデバンシュ・ビシュワカルマは、東部の田舎町からコタの大手塾に入ったものの、156月に自ら命を絶った。 18歳だった。基礎学力が足りず、塾でテクニックを習っても勝てない。そんな悩みが遺書につづられていたという。

 

伯父のプリトビラージュ・ビシュワカルマ(57)は悔やむ。「おいは模擬テストの点数をいつも気にしていた。親に経済的な負担をかけたくない。そんなプレッシャーも感じていたと思います」

 

評価ゆがめるカーストの残照

ゆがんだ「評価」に希望を見いだせず、国を捨てる若者が後を絶だない。

 

インドでは、貧困や格差を解消するために大学入試や公務員採用などに際して、被差別カーストの人々などを対象に優先枠がある。

 

「留保制度」と呼ばれ、政治と結びつき徐々に対象粋が拡大。上位カースト出身者がこの枠に阻まれて大学入試や公務員採用で高得点を取っても合格が難しくなっている。

 

西部プネー出身のアトレー・シュレヤス(23)は、最上位のバラモンの家に生まれた。外国でも人気のインドのロースクールをめざしたが、猛勉強のかいもなく不合格。「点数は8割を超えていた。僕の半分以下で優先枠の生徒が合格したと知ったときはショツクでした」

 

希望の大学に入れなかった上位カーストの学生の多くが、米国やカナダの大学院に進学。現地で就職して、永住する人も多い。アトレー自身も17年から埼玉大学教養学部に留学し、居酒屋でアルバイトをしながら大学院をめざす。

 

「競争はけっして悪くない。でも、頑張っても正当に評価されない社会はおかしい。このままだと、インドから優秀な人材がどんどん出て行ってしまうと思います」【7月 GLOBAL+

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「一つの求人に数千人が群がるのが現代のインド社会。熾烈な競争がスタートする年齢は年々、早まっている」【同上】という状況で、インドの失業問題、特に若年層の失業は大きな社会問題になっています。

 

****インド、201618年に500万人以上が失業=調査****

インドのベンガルールにある私立アジム・プレムジ大学が16日発表したリポートで、2016─18年に職を失ったインド人は少なくとも500万人に達し、都市部に住む若い男性が最も打撃を受けていることが分かった。

インドでは、5月19日に総選挙が終了する予定で、モディ政権は雇用を含む経済業績の擁護に躍起となっている。(中略)

2016年11月にモディ首相が脱税抑制と電子取引促進のため高額紙幣を突然廃止したことで中小企業が打撃を受け、レイオフの波が発生した。さらに、17年に「物品サービス税(GST)」が導入されると、一部企業にとって困難が増幅する結果となった。

リポートによると、失業者の大半は高等教育を受けた20─24歳の若年層。リポートは「たとえば都市部の男性の場合、この年齢層は労働年齢人口の13.5%だが、失業者全体に占める比率は60%に上る」としている。

公式統計で過去5年間の経済成長率が7%前後となっているにもかかわらず、モディ首相は数百万人の若年失業者の雇用に十分な措置を講じていないと批判されている。

ビジネス・スタンダード紙は2月、政府が公表を拒んだ公式調査として、2017/18年度の失業率は少なくとも過去45年間で最高水準に達したと伝えた。

シンクタンクのインド経済モニタリングセンター(CMIE)がまとめたデータによると、今年2月の失業率は7.2%と、2016年9月以来最高に上昇。前年同月の5.9%からも上昇した。【418日 ロイター】

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【後を絶たない自殺者 不正の横行】

この状況を乗り切るためには何としても“いい大学に入って・・・”ということになっています。

結果、上記記事でも指摘されているような絶望して“自殺”する若者も後を絶たないようです。

 

****試験結果の発表で高校生19人が自殺、採点に誤りか インド****

インド南部のテランガナ州で、大学入試を兼ねる中間試験の結果が先月中旬に発表されて以来、19人の生徒が自殺している。当局が1日までに明らかにした。

 

問題になっているのは高校3年生に当たる12年生の試験。答案の採点や評価を巡って保護者からの抗議が殺到し、採点の誤りが原因で落第になったという訴えが相次いでいる。大学のほとんどは、この試験を合否の判定に利用している。

 

中には受験したのに欠席扱いにされたり、答案を完成させたのに零点にされたという生徒もいた。

 

保護者らは、試験を実施した中等教育委員会とテランガナ州当局の両方に責任があると主張する。同委員会は採点を外部の企業に委託している。この企業のコメントは得られていない。

 

インドの教育制度に対しては、生徒を過酷な重圧にさらしているとする批判の声が上がっている。試験に合格するだけでなく、あらゆる代償を払っても期待を上回る成績をあげることが求められるためだ。

 

国家犯罪統計局によれば、同国では毎年数千人の若者が自ら命を絶っており、2015年は全自殺者の6.7%に当たる9000人近くに上った。専門家などは、学校での重圧が一因だと指摘している。

 

テランガナ州は保護者に対し、試験結果に誤りが疑われる場合は教育委員会に苦情を申し立てるよう呼びかけ、誤りが確認されれば是正すると説明している。

 

州警察によると、それでも4月18日に結果が発表されて以来、毎日2〜3人の自殺が報告されているという。【51日 CNN】

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インドの教育・入試制度に関する簡単な説明は、下記のようにも。

 

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インドの教育制度は、州ごとに若干の差異はあるが、日本の6・3・3制とは違う5・3・2・2制を原則としている。

 

中等学校に通う10年生が共通試験をパスすれば、日本の高校に相当する上級中等学校(11~12年生)に進み、2年間の教育を受ける。

 

その後、12年生が日本でのセンター試験とも言える共通試験を受け、その結果によって希望の大学に進学する。【2018420日 産経】

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“人生を決める”試験ともなれば、当然に不正も。

数年前になるでしょうか、カンニングペーパーを持った大勢の家族が試験が行われている校舎の壁をよじ登っている信じられないような写真が話題になったこともあります。

 

****【当世インド事情】なんでもありの超競争社会はびこる受験不正 警官買収しカンニングも**** 

インドで学生の進学・進級に重大な影響を及ぼす全国共通試験で問題用紙の流出が判明し、大騒動となっている。

 

事件の犯人や動機は不明だが、インドの受験に不正がはびこる実態が改めて浮かび上がった格好だ。受験での不正を指南する犯罪組織も跋扈するなど、受験を勝ち抜くための激しい競争が何でもありの状況を生み出しているようだ。

 

試験問題がスマホで拡散「ペーパーリーク」

漏洩があったのは、3月26日に行われた共通試験で、後期中等教育中央審議会(CBSE)が作成した10年生の数学と、12年生の経済の試験問題だ。(中略)

 

いわば生徒の将来を左右する重要試験でのスキャンダルの衝撃は大きく、インドメディアも「ペーパーリーク(問題用紙の漏洩)事件」として、報道合戦を続けている。

 

これまでの調査によると、外部に漏れた詳細なルートは分かっていないが、問題文はスマートフォンの通信アプリ「ワッツアップ」を通じて、あっという間に拡散したという。

 

事態を重く見た試験管理当局は、12年生の経済学について4月下旬に再試験を実施することを決めた。対象は50万人で、10年生の試験も実施されれば、再受験者数は200万人以上にふくれあがる。

 

捜査も進んでおり、すでに流出に関与したとされる教師や学校職員ら十数人が逮捕されている。外部からの依頼の有無など詳細は判明していないが、捜査当局は2つの試験問題は別々の場所で漏れ、拡散したとみている。

 

捜査関係者は「ワッツアップのつながりをたどり、情報の根源を突き止める作業をしている」と話す。

 

親が校舎をよじ登りカンペ手渡し

大規模漏洩に至らずとも、インドでは試験をめぐる不正が後を絶たない。

 

2015年には、東部ビハール州の複数の学校で、受験者を家族らが手助けする集団カンニングが行われて大混乱に陥り、生徒計約600人が退学処分を受けた。

 

カンニングは古今東西こっそり行うものと相場が決まっているが、このケースでは受験生の家族が校舎の外壁をよじ登り、2階や3階にいる生徒に直接カンニングペーパーを手渡していた。会場前では警察官が警備に当たっていたが、なぜか制止する様子もなく、親族らによる買収がささやかれた。

 

同州では騒動をきっかけに試験会場にカメラを設置し、カンニングペーパーを隠せないよう受験時には靴や靴下の着用を禁じる措置を取った。

 

「問題化するケースは氷山の一角。犯罪組織の介在もちらつき、不正の蔓延は止まらない」と指摘するのは、インド地元紙記者だ。

 

不正斡旋、替え玉用意犯罪組織の収入源

近年発覚したケースでは、受験生が試験問題をこっそり服に隠してトイレに行き、スマートフォンで撮影し、通信アプリで協力者に送信。打ち返ってきた解答を記入し、悠々と高得点をマークしたという。

 

こうした闇の教師である協力者を受験生側に斡旋するのが犯罪グループの役目だ。協力者の連絡先は20万ルピー(約32万7千円)ほどの値段で取引され、反社会的組織の収入源になっていることが伺える。

 

グループが暗躍するのは学生のテストだけに限らない。15年には警察官採用試験で志願者ら1000人以上が逮捕される大規模な替え玉受験が発覚したが、犯罪組織が1人当たり5万~10万ルピー(約8万2千~16万4千円)で替え玉を提供していたとささやかれた。

 

不正がはびこる要因が「世界屈指」ともしばしば指摘される受験戦争の激しさだ。子供を高水準の大学へ送り込み、好待遇の企業に就職させることは、貧困から抜け出すなによりの近道となる。

 

5億人の若年層「受験地獄」

最高峰であるインド工科大(IIT)は好成績で卒業すれば、企業からいきなり年収500万ルピー(約817万円)を越える提示を受けるケースも珍しくはない。当然、倍率もすさまじいものとなり、昨年IITは118万人が受験し、倍率は100倍を超えた。

 

こうした中で教育熱も高まる一方で、一部の上級中等学校では、大量の宿題で「寝る時間がない」と生徒たちが抗議デモすら起こしている。成績の悪さに悲観した学生が自殺することも珍しい話ではない。

 

国連人口統計(17年)によると、15年時点で、インドの0~19歳の人口は約5億人。大学の絶対数は不足しており、今後も激しい競争が繰り広げられることは容易に想像できる。受験戦争を越えた「受験地獄」(地元ジャーナリスト)がある限り、テストをめぐる醜聞は絶えなさそうだ。【2018420日 産経】

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【中国:点数だけで合否が決まらない問題も】

通称「高考(ガオカオ)」と呼ばれる全国大学統一入学試験が実施されている中国にも、似たような激しい入試競争がありますが、長くなったので1点だけ。

 

インドの入試制度に大きな影響を与えている独自性が「カースト制」なら(差別から抜け出るためのIT関連大学への希望者集中や「留保制度」による逆差別)、中国には“点数だけでは合否が決まらない”独自の事情があります。

 

****超学歴社会の中国 点数だけで合否が決まらぬ統一試験「高考」の理不尽****

(中略)中国の新学期は9月。毎年6月になると、通称「高考(ガオカオ)」と呼ばれる全国大学統一入学試験が実施されます。日本の大学入試センター試験とも似ていますが、ごく一部の例外を除いて大学ごとの試験はありません。

 

受験生は複数の大学に出願できますが、高考の点数だけで合否が決まる一発勝負。しかも成績上位者から順に、いい大学に振り分けられるわけではありません。

 

中国特有の地域格差があり、受験生の戸籍がある省や自治区によって、大学の定員数も合格ラインも異なるのです。

 

これは、人口の流動を防ぐためともされています。例えば、合格ラインの低い地域でトップの成績を上げた受験生は、重点大学に入学できるのに、合格ラインの高い地域で同じ点数をとった受験生は、二流大学しか入れない、といった理不尽が生じます。そのため、子供の戸籍を受験に有利な地域に移そうと画策する親もいるほどです。(後略)【2018716日 太田出版ケトルニュース】

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こうした韓国、インド、中国に比べれば、日本の入試の厳しさはそれほどでも・・・とも思えますが、まあ、当事者にとっては、あまりなぐさめにもならないかも。

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アフガニスタン  進展が報じられるタリバン・アメリカの和平交渉 和平への期待と不安

2019-07-07 23:05:41 | アフガン・パキスタン

 (不発弾の爆発で片脚、もしくは両脚を失った子どもたち。アフガニスタン東部ナンガルハル州にて(2019430日撮影)【67日 AFP】)

 

【これまでになく進むタリバン・アメリカの和平協議】

イランや中国、北朝鮮をめぐる交渉が派手なパフォーマンスが繰り広げられる一方で、なかなか実質的進展がみられないのに対し、アフガニスタンをめぐるタリバンとアメリカの地道な交渉の方は、かなり進展がみられるような報道もなされています。

 

****タリバンとの7度目の和平協議は「最も建設的」、米特別代表****

カタールの首都ドーハで先月29日に始まった米国とアフガニスタンの旧支配勢力タリバンとの7度目の和平協議について、米国側のザルメイ・ハリルザドアフガニスタン和平担当特別代表は6日、これまでで「最も建設的だ」と語った。

 

タリバンと米国の代表団は、米軍のアフガン撤退の見返りとなるさまざまな保証条件における合意を目指して、ドーハで協議を重ねている。

 

ハリルザド氏は滞在中のカタールで、「基本的に、われわれは協議が始まってから、ずっと4つの事項について話し合ってきた。すなわちテロリズム、外国軍の撤退、タリバンとアフガニスタン政府との交渉、そして停戦だ」と述べ、「われわれは実質的な協議と交渉を行い、4つの事項すべてに進展がみられた。そう言えるのは、これが初めてだと言っていい」と付け加えた。

 

カタールにあるタリバン事務所のスハイル・シャヒーン報道官は、「われわれは進展に満足しており、残りの協議も同様に進むと期待している。これまでのところ、障害は何もない」とツイッターに投稿。タリバン側も米国代表団との協議に満足していることが示された。 【77日 AFP】

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ただ、タリバン側は交渉を有利に進める意図もあって、攻撃の手を緩めてはいません。

 

****アフガン人で戦闘終結議論 タリバンは攻撃で揺さぶり****

アフガニスタンの政治家や女性、反政府武装勢力タリバンらが集まり、アフガン人で同国の戦闘終結を話し合う会合が7日、カタールの首都ドーハで始まった。

 

一方、アフガン東部ガズニ州では7日、自動車が爆発し、タリバンが関与を認めた。タリバンは対話のかたわらで攻撃の手を緩めず、アフガン政府と支援する米国に揺さぶりをかける狙いとみられる。

 

ガズニ州の爆発では、地元メディアによると、少なくとも12人が死亡、150人以上が負傷した。タリバンが情報機関の施設を狙った攻撃だったと犯行声明を出した。

 

会合前にタリバンのメンバーは「和平案を探し出したい」と語った。【77日 共同】

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ドーハで開催されるアフガン人で戦闘終結を話し合う会合については、ドイツとカタールが仲介するもののようですが、その内容はよく知りません。

 

タリバンとアメリカの交渉からは、(タリバンが当事者とはみなしていない)アフガニスタン政府は排除されています。

 

【自らが関与しない形で進む和平協議に、アフガニスタン政府は苛立ちも 米軍撤退後の不安】

交渉が進展しているとは言え、とにかくアフガニスタンから“名誉ある撤退”をしたいアメリカとタリバンの間で話がついても、残されるアフガニスタン政府、アフガニスタン国民はどうなるのか?・・・という基本的な問題も。

 

****米軍撤退協議大詰めか 米とタリバン アフガン治安には不安****

アフガニスタン駐留米軍の撤退に向け、米国とイスラム原理主義勢力タリバンの協議が進んでいる。6月末からの7度目の和平協議では具体的な撤退時期について交渉が行われているもようだ。

 

米国は9月までの合意を目指しており、「米国最長の戦争」であるアフガン戦争に終止符を打ちたい考えだが、撤退後は治安状況のいっそうの不安定化が懸念され、アフガン国内では不安の声も上がる。

 

米軍の撤退をめぐり、米国とタリバンは昨年7月から和平協議を開始。今年1月の協議では「重要な進展があった」(ポンペオ米国務長官)とされ、ロイター通信は合意後、米軍は18カ月以内に撤退する意向と報じた。

 

6月30日からカタールの首都ドーハで始まった第7回協議でも撤退時期をめぐって議論が続いており、米国は合意形成を急ぎたい構えだ。

 

ポンペオ氏は6月25日、「9月1日までに合意に達することを望んでいる」と発言。アフガン政治評論家、ジャバド・カカル氏は「7回の協議で互いに歩み寄っており、9月までに合意に達する可能性は十分にある」と指摘。協議は大詰めを迎えているとの見方を示す。

 

ただ、米国はタリバンにアフガン政府との対話や停戦を求めているが、タリバンは一貫して拒絶しており、まだ曲折も予想される。

 

タリバンは7月1日、首都カブールで国防省関連施設を狙ったテロを実行し、少なくとも6人が死亡した。米国と交渉を進める一方での首都中心部でのテロは、アフガン政府との対話を改めて拒むメッセージとみられる。

 

ドーハでは7、8日にドイツとカタールが仲介して、アフガン人の学識経験者ら政治家らが和平を話し合う会議が行われる。タリバンからも代表が参加する見通しだが、どれほど政府とタリバンの接近に寄与するかは不透明だ。

 

アフガン政府は自らが関与しない形で進む和平協議にいらだちを募らせており、駐留米軍撤退なら「治安への影響は大きい」(国防省幹部)と危機感を強める。

 

カカル氏は「政府軍は脆弱(ぜいじゃく)で、政府とタリバンの対話を欠いたままでの米軍撤退なら、内戦に発展する可能性もある。そうなればアフガン人に待ち構えるのは、さらなる悲劇だ」と警戒している。【76日 産経】

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トランプ大統領は、撤退後のアフガニスタンがアメリカに対するテロの拠点となることを懸念しているようですが、アフガニスタン自体に行く末には言及がなかったようです。

 

****トランプ氏、アフガン拠点とする米国へのテロを懸念 米軍撤退なら****

トランプ米大統領は、アフガニスタンに駐留する米軍を撤退させたいが、米軍不在では同国が米国に対するテロ攻撃の拠点として利用される可能性があることを懸念していると述べた。

1日に放送されたフォックスニュースのインタビューで、アフガンの駐留米軍兵士9000人の撤退に伴う問題は、同国が「テロリストの温床」であることだと指摘。「私はテロリストのハーバードと呼ぶ」と語った。

トランプ氏は米軍当局者らにアフガン撤退の意向を伝えた際の会話に言及。ある当局者はテロリストと米国で戦うよりも当地で戦うほうがよいとトランプ氏に語ったという。

トランプ氏はまた、米軍が撤退したとしても、米国はアフガンで「非常に強力な諜報」のプレゼンスを残すとした。

インタビューは先週末に収録された。1日にはアフガンの首都カブールで爆弾攻撃があり、6人が死亡、105人が負傷した。反政府武装勢力タリバンが犯行声明を出した。【72日 ロイター】

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再選戦略しか念頭にない「アメリカ第一」のトランプ大統領にアフガニスタンの今後を期待しても仕方がないところです。

 

米軍撤退後のアフガニスタンにロシア・中国が強い関心を示していることは、630日ブログ“派手なパフォーマンスの米朝交渉の一方で、地道に続くアフガニスタンをめぐる交渉”でも取り上げました。

 

いつも言うように、腐敗・汚職が蔓延し、非効率的なアフガニスタン政府を擁護するつもりはありませんが、タリバン支配から解放されて現政権のもとで、やっと芽生え始めた女性の権利などの民主的な動き・自由な空気が、米軍撤退後のタリバンの政治復帰で再び潰されてしまうことが残念です。

 

とは言え、戦闘が収まることは当然ながら歓迎すべき話で、アフガニスタン政府もタリバンに対し和平に向けて一定のメッセージは発しているようです。

 

****ガニー大統領の決定によって囚人887人の釈放が開始、タリバンのメンバーも含む****

アフガニスタン大統領府のハル・チャハンスリ報道官はメディアに発言し、タリバンのメンバーも含む囚人887人がガニー大統領の決定によって釈放され始めたと語った。

 

同国の西部にあるヘラート州のジャイラニ・ファルハド知事報道官も、ガニー大統領の決定の結果ヘラート州で収監中のタリバンのメンバー38人が釈放されたことを伝えた。

 

タリバンから出された声明では、ガニー大統領のこの決定を前向きに受け取っていると述べ、当該の囚人たちのうち261人がタリバンのメンバーであると主張した。【611日 TRT】

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【不発弾で両足を失った15歳「タリバンが政府と和平を結んでほしい、そうすれば誰も死んだり傷ついたりしなくなる】

630日ブログでは取り上げることができなかった、戦闘・混乱に翻弄されるアフガニスタンの人々の苦悩に関する記事を2件。

 

****不発弾で脚失った子どもたち、戦争終わらぬアフガニスタンの悲劇****

一家の子どもたち10人が登校中に見つけたのは、不発の迫撃砲弾だった。旧支配勢力タリバンと米国が支援する国軍との激しい戦争が今も続くアフガニスタンでは、ありふれた光景のはずだった──

 

しかし、それが何であるかも、どれほど危険であるかも分からず、好奇心に駆られた子どもたちは不発弾を拾い上げ、おばに見せようと持ち帰った。

 

そして、それは爆発した。

おばと子ども3人が命を落とし、一命を取り留めた7人の子どもたちも片脚、もしくは両脚を失った。

 

東部ナンガルハル州ジャララバードで昨年起きたこの爆発事故は、アフガニスタン全土で人々が苦しんでいる痛ましい出来事の一端を示すものだ。この国では40年もの間、常になんらかの形で戦争状態が続いている。

 

爆発で右脚を失った10歳のラビア・グールさんは、「他の女の子たちが歩いて登校している姿を見ると、とても悲しくなる。私は彼女たちのように歩くことができない」と語った。

「両脚があった時は楽しかった、でも片脚がなくなってしまい、もうこれからの人生は楽しくない」

 

国連によるとアフガニスタンでは昨年、900人以上の子どもを含む民間人3804人が死亡し、7189人が負傷。年間の民間人死者数としては過去最悪だった。

 

数十年にわたる紛争により、アフガニスタンには地雷や不発の迫撃砲弾、ロケット弾や手製爆弾が散乱している。

 

ラビアさんは質素な自宅の外にあるベンチに、他6人の子どもたちと座っていた。子どもたちは6歳から15歳で、失ってしまった脚の断端に布を被せ、何とか義足を装着していた。

 

両脚を失った15歳のシャファキラさんは、「タリバンが政府と和平を結んでほしい、そうすればアフガニスタンの治安も良くなって、誰も死んだり傷ついたりしなくなる」と語った。 【66日 AFP】

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政治的な効果が大きく、資金力がものをいう復興に向けたインフラ支援だけでなく、こうした義足の提供といった戦闘の傷をいやす分野でも、すぐれた技術を持つ日本が貢献できる大きな余地があるのではないでしょうか。

 

【イランに逃れたアフガン人が今度はシリアに 米の対イラン制裁で経済的にも苦境に】

混乱を逃れてイランに向かった人々(300万人以上)もいますが、そこでは新たな苦難が。

 

****イランのアフガン人、苦難 「安全な出稼ぎ先」のはずが…****

イランに住むアフガニスタン人が翻弄(ほんろう)されている。彼らにとっては隣にある安全な出稼ぎ先だったのだが、シリアへの派兵に巻き込まれる例が相次ぎ、イラン通貨のレート下落にも悩まされている。

 

対IS「シリアで戦おう」

「シリアにあるシーア派の聖廟(せいびょう)の守護者にならないかと誘ってきた」

 

2015年夏から不法滞在するアフガン人のホセイン・レザイーさん(32)は振り返る。昨年5月、テヘランの建設現場でブロックを積んでいた時、30歳ぐらいのイラン人男性に声をかけられた。シリアで義勇兵として過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘に加わろうという勧誘。ダマスカス近郊にあるシーア派の聖廟をISから守るのが任務だという。

 

イランの革命防衛隊の訓練を1カ月受け、シリアでの戦闘に参加し、6カ月後にイランに帰国すれば1年の滞在許可を与えられる。しかも約3千万リアル(当時のレートで約480ドル)の月給をもらえる条件だった。

 

建設現場にある12平方メートルほどのプレハブで他のアフガン人6人と暮らし、当時の月給は約100ドル。だがカブール北部の街に残してきた妻(26)と長男(7)の顔が頭をよぎった。

 

シーア派はアフガニスタンでは少数派でISやタリバーンの攻撃対象になっており、それがイランに逃れる動機の一つになっている。

 

「安全なイランに来て稼いでいるのに、危険なシリアには行けない」。悩んだ末に断った。「シーア派であることにつけ込んで誘うのは、アフガン人を軽く見て政治と戦争の道具にしているとしか思えない」とレザイーさんは憤る。

 

イランメディアなどによると、革命防衛隊の訓練を受けシリアに派遣されたアフガン人のうち2千人以上が死亡した。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、アフガン難民の10代の少年が前線に送り出され死亡しているとの報告書をまとめている。

 

テヘラン近郊にはシリアでの戦死者らの墓がある。シリア西部ハマで戦死したアフガン人のザビオラ・ゴラミさん(当時24)の父ゴラマリさんは毎週、祈りを捧げに訪れている。「シーア派信者として息子は誇りだが、悲しみは消えない」

 

米経済制裁、帰国する人も

現在のアフガニスタンは治安が悪く失業率も高いため、難民や不法滞在で300万人以上がイランに来ているとされる。仕事を得れば収入は2倍以上と見込まれていた。

 

ところが、核合意から一方的に離脱したトランプ米政権による経済制裁の影響でイランの通貨リアルの価値が下落した。

 

昨年10月にイランに来たミルザさん(21)は、テヘラン市内のマンションで警備員をしていた。月給は2千万リアル。昨年4月なら実勢レートで370ドル相当額だったが、働き始めた頃は170ドルに下がり、今年4月には140ドルにまで目減りした。米国との緊張が高まり、リアル安は当分続くとみられ、「カブールで仕事を探した方がまし」と帰国した。

 

国際移住機関(IOM)によると、18年にはアフガン人の不法滞在者約77万人がイランから帰国(強制送還を含む)。17年に比べて約30万人以上増えた。

 

追い打ちをかけたのがイラン外務省のアラグチ次官の発言だ。地元メディアによると、アラグチ氏は40万人以上のアフガン人の通学コストなどで1人当たり600ユーロかかっていることに触れ、後に否定したものの「制裁でコストを負担できない状況になれば、イランを出て行くようお願いすることもあり得る」と語った。

 

5年前から出稼ぎに来ている溶接工のハメッドさんは「米国のせいでアフガニスタンが危険になったのに、今度はイランの居場所すら奪うのか」と憤った。

 

イランではアフガン人への差別意識も根強い。それでもイランに住み続けることを望む人も多い。

 

テヘラン中心部から車で約1時間行くと、エシュガバッド村がある。れんが造りの平屋が並び、住民のほとんどがシーア派のアフガン人。

 

13年前に移ってきたサミラさん(34)は夫と3人の子と暮らす。「アフガニスタンではシーア派がタリバーンの標的になった。イランでは外国人扱いだが、それでも家族で安全に暮らせるのが一番」と笑顔で話す。【618日 朝日】

******************

 

現在進むタリバンとアメリカの交渉が、脚を失った子どもたち、イランで苦闘する人々などの生活を少しでも楽にするものであればいいのですが。

 

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スーダン  軍事評議会とデモ指導部、新統治機構の仕組みで歴史的合意に到達

2019-07-06 22:58:11 | 北アフリカ

(スーダンの首都ハルツームで、軍事評議会とデモ隊指導部が新統治機構について歴史的合意を結んだことを祝う人々(201975日撮影)【76日 AFP】) この喜びが失望と混乱に変わらないためには、持続的なこれまで以上の努力が求められます。)

 

【自制的にコントロールされた反政府デモ】

北アフリカ・アルジェリアと並んで、市民の抗議行動によって独裁政権に終止符がうたれたスーダンの状況にについては、これまでも2回ほど取り上げてきました。

 

スーダンでは、バシル大統領失脚後、今後の政治体制をどのようにしていくのかという点で、軍主導の暫定軍事評議会と市民の側で主導権をめぐる対立が起きました。

 

510日ブログ“スーダン バシル失脚後の今も続く軍と市民の緊張 抗議行動の前面に立つ女性たち

 

上記ブログでは、市民の抗議行動が“意外にも”混乱に陥らないように自主的にコントールされていること、また、表題にもあるように、イスラム社会で表に立つことが少ない女性が前面にでるという、これも“意外な”展開になっていることを取り上げました。

 

****【市民によってコントロールされている反政府行動】****

アフリカにおける政変というと、政党間の争いというよりは民族・部族を背景とした争いであることが多かったり、また、「アラブの春」が多くの中東イスラム国家で失敗と混乱に終わっていることもあって、スーダンのバシル大統領失脚・軍と反政府デモの対立という政変についても、個人的にはいささか先行きを懸念するような感じで見ていました。

 

しかし、今後の展開は不透明ながら、現段階における反政府デモは上記のようなイメージとは異なり、市民の手でコントロールされる形で行われているようです。(後略)【510日ブログ】

*************

 

そのコントロールの具体例については、以下のようにも。

 

****検問も警備員もボランティア 民主化求めるスーダンの抗議デモの現場は****

(中略)連日抗議デモが続く軍本部前に向かうと、3カ所の検問所があった。運営していたのは、抗議デモの参加者たち。武器などを持った不審者が入らないように、自分たちで警戒しているのだという。

 

現場では、太鼓をたたいたり、国旗を顔にペイントしたりした多くの若者たちが集まっていた。最高気温は42度。強烈な日差しを避けようとテントや給水所も設置され、露天商も繰り出していた。

 

気温が少しだけ下がる夕暮れ時になると、仕事を終えた人たちも加わり、数万人でごった返した。時折、デモ隊と治安部隊との衝突で負傷者は出ていたものの、幼い子どもを連れて来る人もいるなど、平和的な抗議デモが続いているように見えた。(後略)【510日 GLOBE+

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また、女性の活躍については、抗議行動の先頭に立つ22歳女子大生アラ・サッラーが「革命の象徴」、さらには「ヌビアの女王」と呼ばれるようになっていました。

 

****スーダン「市民革命」の象徴は22歳女子大生アラ・サッラー****

スーダン「市民革命」のアイコン
2019
48日、スーダン共和国の首都ハルツームで撮られ、ツイッターにアップされたある写真が世界中で注目されている。

白いトーブに身を包み、金色の大きな耳飾りをつけた若い女性が、乗用車のルーフパネル上に立ち、右手を挙げ、人差し指で天を指している。

この女性の名はアラ・サッラー、ハルツームで建築学を学ぶ22歳の大学生だ。(後略)【418日 クーリエ・ジャポン】

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抗議行動の参加者にも女性が目立ち、“特に女性たちは強権的な前政権から長く抑圧されてきた。紛争で夫や子を失った人も多く、今回の政変で民主化や平等の実現を期待する思いはとりわけ強い。”【430日 朝日】とも。

 

【デモ隊強制排除で、民兵組織の暴力が猛威を振るう場面も】

しかし、なかなか進展しない交渉のなかで、治安部隊によるデモ隊の強制排除が行われ、死者を伴う混乱状態にもなりました。その暗転については

65日ブログ“スーダン  デモ隊強制排除で混乱拡大 「アフリカの天安門事件」とも

 

****スーダン虐殺、暴走する治安部隊 軍事評議会内に確執も 死者113人以上****

「第二のアラブの春」とも言われたバシル前大統領失脚後のスーダンで混迷が深まっている。実権を握る軍事評議会は民政移管を求めるデモ隊を弾圧し、100人以上が死亡する惨事に。

 

民衆の不満を暴力で抑え込む姿勢を鮮明にした。今後の対応を巡り軍事評議会内部での確執も伝えられ、さらなる流血の事態への懸念が高まっている。

 

3日に行われたデモ隊の強制排除。スーダン人記者が元治安当局者の話としてツイートした内容によると、市内を流れるナイル川には、何度も銃撃を受けたり、ナタで首を切られたりして死亡した人々の遺体が次々に投げ込まれた。

 

治安部隊は国防省前で座り込みを続ける群衆に向けて無差別に発砲。事実上の虐殺で、救護テントは焼き払われ、治療に当たっていた女性医師がレイプされたという。

 

首都ハルツームの住民によると、多数の民兵が市内を徘徊(はいかい)し「市民にムチをふるい、略奪を繰り返した」。証拠となる映像の拡散を防ぐため、インターネットは切断された。

 

デモ隊の中心組織の一つ、医師委員会は7日までに各地で少なくとも113人の死亡を確認。40人の遺体がナイル川から収容された。負傷者は500人以上で、死者はさらに増える見通しだという。

 

4月のクーデター後に設置された軍事評議会と民主化勢力は、移行政権を軍人と文民のどちらが主導するかで対立。交渉は手詰まり状態となっていた。

 

評議会トップのブルハン議長は4日、民政移管を巡る合意を破棄し、9カ月以内に総選挙を実施すると表明。ただ、バシル強権体制を支えた勢力の下では公正な選挙は期待できないため、民主化勢力にとっては受け入れがたい内容だった。

 

その後、軍事評議会を支援するサウジアラビアなどからの要請を受け、ブルハン議長は「制限なしに協議する」と態度を軟化させたが、民主化勢力の代表は「市民を虐殺する評議会は信用できない」と対話の再開を拒絶している。

 

一方、事態の対応を巡る評議会内の不協和音も伝えられる。

デモ隊を排除したのは正規軍ではなく、評議会ナンバー2のヘメティ将軍の指揮下にある部隊。もともとジャンジャウィードと呼ばれる民兵組織で、30万人の犠牲者を出した西部ダルフール地方の紛争で戦争犯罪を繰り返してきた。

 

ブルハン議長は民主化勢力と協議する一定の姿勢を見せるが、デモ隊を排除した治安部隊を指揮するヘメティ将軍は、「中にギャングがいた」などと「虐殺」を正当化している。

 

そもそもバシル氏の失脚以降、影響力を強めるヘメティ将軍の強硬路線や民兵の台頭について、軍内では反発も広がっているとされる。「特に若手将校が(ヘメティ将軍に)不満を持っている」として、軍の一部が離反して内戦状態に陥る可能性を指摘する専門家もいる。

 

国連はすでに一部の職員を国外に退避させ、各国も治安の悪化に警戒を強めている。【67日 毎日】

*********************

 

西部ダルフール地方の紛争で戦争犯罪を繰り返した民兵組織ジャンジャウィードが抗議行動潰しの前面に出てきたことで、今後の更なる悲劇が懸念されました。

 

ただ、こうした混乱状態になったこと自体には正直なところ「やっぱりね・・・スーダンで平和的な交渉というのは無理でしょう」という感想を持ちました。

 

【なんとか踏みとどまり、新統治機構の在り方で合意に】

その後、市民のゼネスト、不服従運動を経て、612日には交渉が再開されることに。

交渉では、アフリカ連合とともに、隣国エリトリアとの和平を実現してノーベル平和賞候補とも目されているエチオピアのアビー・アハメド首相も仲介に努めました。

 

事態は一進一退で、71日には大規模デモに対し民兵組織による発砲があり、死傷者を出す事態にも。

 

****大規模デモで発砲 7人死亡、181人負傷 スーダン首都*****

スーダンの首都ハルツームで6月30日、数万人が参加する大規模なデモが行われ、少なくとも7人が死亡した。

 

スーダンでは6月上旬に民主化を求めるデモに対して強制排除が行われたが、今回のデモは、これ以降で最大規模のものとみられる。

 

地元メディアによれば、保健省はデモの最中に181人が負傷したと明らかにした。保健省幹部によれば、けが人のうち27人が銃によって負傷した。

 

医師グループのCCSDによれば、重体に陥っている負傷者の多くは暫定軍事評議会の民兵の発砲によるものだという。暫定軍事評議会はバシル大統領失脚後、国のかじ取りを担っている。

 

地元メディアによれば、暫定軍事評議会の民兵組織RSFのメンバー3人も撃たれた。RSFの司令官はRSFのメンバーはデモ参加者から銃撃されたと主張している。【71日 CNN

*****************

 

しかし、軍事評議会とデモ隊側もなんとか踏みとどまることができ、対立が続いていた新たな統治機構のトップについて合意に達しました。

 

****スーダン軍事評議会とデモ指導部が新統治機構で合意、トップを軍民の輪番制に****

スーダンを暫定的に統治している軍事評議会と民政移管を求めるデモ隊の指導部は5日、懸案事項だった新統治機構のトップについて、軍人と文民の輪番制とすることで合意した。

 

両者は3日、隣国エチオピアとアフリカ連合の懸命な仲介を受けて交渉を再開し、4日に新たな統治体制について話し合っていた。

 

スーダンではオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領に対する抗議デモが拡大した後、4月に軍事クーデターでバシル氏が失脚。実権を握った軍事評議会はデモ隊が要求する民政移管を認めず、政治危機に陥っている。

 

軍事評議会は以前、多数の文民から成る統治機構の設置に同意していたが、トップを文民とするか軍人にするかをめぐってデモ隊指導部と対立。交渉は5月に中断された。

 

63日未明に首都ハルツームの軍本部前で数週間前から座り込みを続けていたデモ隊が強制排除され、多数の死傷者が出たことで、両者の緊張はさらに高まっていた。

 

仲介したエチオピアとAUによると、交渉初日には統治機構のトップを文民とするか軍人にするかという重要課題は議論されなかったが、紛争地域ダルフールの反体制派に属し、デモに参加していた戦闘員235人の釈放を決定。4日に実行した。

 

エチオピアとAUはスーダンの危機解決のため、新たな共同提案を起草。文民が多数派を占める統治機構の設置を求める内容で、AFPが確認した暫定案では、文民8人と軍人7人の構成になっていた。

 

エチオピアのマフムド・ディリール氏によると、新統治機構のトップをどうするかは、両者の間の「唯一の相違点」だった。

 

AUのモハメド・エルハセン・レバット氏は記者らに対し、「双方は軍と文民による輪番(大統領)制の統治評議会を設立することで合意した」と述べ、輪番の間隔は「3年か、もう少し長い期間」になるとした。 【75日 AFPAFPBB News

****************

 

輪番制の順番や期間でも合意できているようです。

 

****スーダンのデモ隊、軍事評議会との歴史的合意に歓喜****

スーダンを暫定的に統治している軍事評議会と民政移管を求めるデモ隊の指導部が新統治機構について歴史的な合意を結び、首都ハルツームでは5日、大勢が街頭で祝福した。(中略)

 

昨年12月にオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領に対する抗議デモを開始し、反政府デモを主導してきたスーダン専門職組合は合意を歓迎。声明で、「きょう、われわれの革命は勝利を収め、われわれの勝利は輝いている」と述べた。

 

ハルツームの街頭では大勢が合意を祝い、「犠牲者が流した血は無駄ではなかった」「民政、民政」とシュプレヒコールを上げた。

 

デモ指導者のアハメド・ラビ氏がAFPに語ったところによると、新統治機構の構成は軍人5人、文民6人になる見通し。文民のうち5人をデモ隊が指名するという。

 

SPAによると、新たな機構の統治期間は3年と3カ月になる見通し。機構のトップは始めの19か月は軍人が、残りの16か月は文民が務めるという。

 

民主化勢力の一派「自由・変革同盟」の指導部は5日、最終合意は来週、各州知事の立ち会いの下で結ばれると発表した。新統治機構のメンバー候補と首相候補について、来週までに指名の用意をするという。

 

国連のアントニオ・グテレス事務総長は、「全ての利害関係者が、時宜にかなった包括的で透明性ある合意の履行を実施し、あらゆる懸案事項を対話によって解決する」ことを呼び掛けた。

 

軍事評議会に賛同していたアラブ首長国連邦とサウジアラビアも、今回の合意を歓迎した。

 

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、この合意によりスーダン国民に対して長年行われてきた「恐ろしい犯罪」に終止符が打たれることを期待すると表明した。 【76日 AFP

*************************

 

喜ばしいことに、「やっぱりね・・・スーダンで平和的な交渉というのは無理でしょう」という私の印象は誤りでした。

 

途中、流血を伴う混乱もありましたが、なんとか踏みとどまることで、歴史的合意が得られました。

 

そうであるにしても、混乱・対立・衝突が多い国際情勢のなかで、ここまで粘り強い交渉を続けてこれたスーダン国民に対し祝意を表したいと思います。

 

【「民政、民政」のシュプレヒコールだけでは済まない今後の統治】

もちろん、軍内部も一枚岩ではなく、市民を殺戮することに躊躇しない民兵組織の存在などもありますので、今後も紆余曲折はあるのかも。

 

更に、もっと根本的なことを言えば、エジプトの「アラブの春」が失敗し、混乱の末に、国民が強権的なシシ大統領を選択することになっているように、民主化ですべてがうまくいく訳でもありません。

 

今は人々は“「民政、民政」とシュプレヒコールを上げた”という熱狂の中にありますが、すべてはこれからです。

民政のもとで成果をだしていくためには、これまで以上に自制された努力が必要になります。

 

それは、一時的な熱狂で強権体制に立ち向かうこと以上に困難な取り組みでもあります。

また、人々が“変化による目に見える成果”を性急に求めがちなことも、新たな統治を困難にもするでしょう。

 

ようやくスタート台に立てたというところすが、今後の新生スーダンが実り多いことを期待します。

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中国  犯罪グループによる「アカウント養殖」 スマホ決済から「顔認証決済」へ

2019-07-05 23:13:55 | 中国

(ズラリと並ぶ数百台のスマートフォン。警察が摘発したアジトではこれらスマホがWeChatに登録され、それぞれ無人で操作で「アカウント養殖」が行われていた。【75日 FNN PRIME)

 

【スマホ決済先進国の中国では犯罪グループによる「アカウント養殖」も】

セブンペイでの詐欺事件が報じられていますが、PayPay2回ほど使ったことがあるだけの私としては、今一つピンとこないところも。

 

****他人名義のセブンペイで詐欺未遂容疑 中国籍2人を逮捕****

コンビニ最大手セブンイレブンのスマートフォン決済「7payセブンペイ)」が不正アクセスを受けたとされる問題で、警視庁は4日、他人名義のセブンペイで不正に決済しようとしたとして、中国籍の男2人を詐欺未遂の疑いで逮捕し、発表した。

 

逮捕されたのは、いずれも住所不詳で職業不詳のジャン・ション(22)、自称学生のワン・ユンフェイ(25)の両容疑者。ワン容疑者は容疑を否認しているという。

 

新宿署によると、逮捕容疑は3日、セブンイレブン西武新宿店(東京都宿区)で、都内の40代男性名義のセブンペイを使い、電子たばこのカートリッジ40カートン(20万円相当)を購入しようとしたというもの。ジャン容疑者は調べに「SNSで知り合った人物からIDとパスワードが送られてきた。たばこを買えるだけ買ってくれと指示され、買い物をした」と供述しているという。

 

セブンペイに覚えのない多額の入金をされていることに男性が気づき、同店に連絡。「たばこの量が多いので後から取りに来る」といったん店を後にした2人が再び現れたことから、同店が通報していた。ワン容疑者の車からたばこ19カートンが見つかっており、警視庁が関連を調べている。【74日 朝日】

*******************

 

被害にあわれた男性が「おにぎり1個プレゼントにつられてアカウントをつくって、40万円取られちゃった。馬鹿だね・・・」と嘆いておられましたが、私もその手の餌につられてカードを作ったり、アカウントをつくったりしています。お気持ちはお察しします。

 

犯人に中国人が関与しているというのは、中国人がどうこうと言うより、周知のように中国は現金を殆ど必要としないスマホ決済先進国ですから、当然にスマホ決済関連の詐欺に関しても日本のはるか先を行っているということでしょう。

 

日々、いろんな写真を報道で目にします。紛争や難民の悲惨な写真、政治家の性格が顔に出たような写真・・・そんななかでも冒頭に紹介した「アカウント養殖」の写真には「こんなのあるんだ!」と驚きました。

 

****スマホ数百台を無人操作…摘発!「アカウント養殖」とは****

アカウント作成には厳格な本人確認

 日本でも徐々に普及してきたスマホ決済。“スマホ決済先進国”の中国において、大都市ではもはや現金払いは過去のものとなりつつある。

 

その代わりに必要なのが決済アプリAli pay(支付宝)とWeChat Pay(微信支付)だ。特にWeChatは中国版LINEとも言われる国民的アプリであり、メッセージ感覚で送金も行えることから、友人と食事した際の割り勘の精算など個人間のお金のやり取りにもよく使われる。

 

便利であると同時にこうした送金機能は犯罪者にとって悪用し易いものであり、賭博や詐欺、マネーロンダリングなど違法行為にも使われてしまう。

 

このためAli payWeChat Payも、アカウントを作る際には厳格な本人確認を行っている。中国で携帯電話は実名登録制で、それぞれの送金アカウントは携帯番号と紐づけられている。

 

また、中国人であれば国民一人一人の「背番号」である身分証番号と顔写真、外国人であればパスポート番号や顔写真などによって、本人確認が行われ、匿名アカウントは作れないことになっている。

 

しかし、ネットで検索すればアカウントを売買する業者がいくつも出てくる。警察によれば、これらのアカウントは赤の他人名義で作られものを転売しているのだと言う。もちろん違法だ。

 

転売価格も様々…高値なのは?

そして写真(省略)は業者から送られてきたというアカウントの値段表だ。本来は無料で登録できるものである。

 

「国外」と書かれているのが海外の携帯電話番号で作られたアカウント。「新号」は新しいアカウントの意味だ。使用期間が長いほど値段が高いことがわかる。また、「国内」というのは中国の携帯電話番号で作られたアカウント。これも使用期間が長いほど値段が上がることがわかる。

 

外国の携帯番号に紐づけられて作られたアカウントは、本人確認が甘い国の携帯番号で作られていることが多く、警察から目をつけられやすいのだ。

 

一方で、中国国内携帯に紐づけられ、長期間使われている、友達の数が多い、LINEのタイムラインに当たるモーメンツへの投稿があるなど、正常に使われていた「実績」が多ければ多いほど疑われづらいため、値段も高くなるということのようだ。

 

(中略)詐欺などの犯罪者にとっても、ある程度使用実績のあるアカウントの方が、足がつきづらく、転売業者にとってもカネになるということである。こうしたニーズから、更なる産業が形成されていたことが警察の捜査で明らかになった。

 

警察もあ然…これが「アカウント養殖」

ズラリと並ぶ数百台のスマートフォン。警察が摘発したアジトではこれらスマホがWeChatに登録され、それぞれ無人で操作が行われていた。

 

プリセットプログラムによって自動的にQRコードをスキャンして友達を追加したり、自動的にモーメンツをアップすることもできるようになっていた。

 

長期にわたって人間が普通に使っているよう見せかけ、アカウントが高く売れるよう「育てる」、いわば「アカウント養殖」が行われていたのである。

 

容疑者の男によると、スマホに専用のソフトを入れると、コンピューターから自動操作が可能になるということで「1か月以上使われたアカウントは封鎖されづらい」などと供述していた。

 

こうした実態を受け、WeChatを運営する中国IT大手テンセントも対策を強化すると表明した。身近なアプリをめぐる意外な手口。利用者一人一人が被害者にならないよう気をつけなければならない。【75日 FNN PRIME

*********************

 

無人の部屋にずらっと並んだスマホ、コンピューターからの自動操作による「アカウント養殖」・・・・近未来的犯罪ですね。

 

そのうち、AIを使って無人スマホ同士でそれらしい会話をさせて養殖する技術も出てくるでしょう。

無人の部屋で何百台ものスマホが「今夜どうする?」「この前の店で食べようか?」「いいわね」・・・なんて会話している光景は、もはやシュールですね。

 

こういうスマホ決済先進国の犯罪集団からすれば、途上国日本での犯罪などちょろいものでしょう。

 

【スマホ決済から更に進んで「顔認証決済」の時代へ】

もっとも、何でも新しいものに飛びつく中国社会では、スマホ決済から更に進んで「顔認証決済」の時代に向かっているとか。現金はもちろん、スマホも不要という訳です。

 

****スマホ決済は古い? 中国に広がる顔認証搭載レジ****

店頭で画面をのぞき込むだけ

中国の巨大テクノロジー企業はモバイル決済を大衆に広めることでは米企業を一足飛びに追い抜いた。次はスマートフォンを使わず、単に画面をのぞき込むだけで決済する方法を試している。

 

アリババグループ傘下のアント・フィナンシャル・サービス・グループは「支付宝(アリペイ)」、テンセントホールディングスは「微信支付(ウィーチャットペイ)」とそれぞれ中国2大電子決済ネットワークを展開している。この両社の間で、キャッシュレス社会の次のステージをめぐる主導権争いが激しくなってきた。

 

中国全土の店頭に自社ブランドの顔認証スクリーンを設置することを目指し、それぞれが小売店に対し販売スピードや効率性を高める手段として売り込み攻勢をかけている。

 

両社はこの数カ月間に競合する2つの決済システムを商品化し、さらに改良した。7億人のアクティブユーザーを持つアリペイを運営するアントは昨年12月、先に店頭レジ用の顔認証決済装置を売り出した。

 

続いてテンセントが今年3月、個人の好みに応じてスマホのQRコードの読み取りでも顔のスキャンでも決済が可能なウィーチャットペイの新システムを発表した。

 

翌月、アントはアリペイの顔認証システムのアップグレード版を発売。サイズはタブレット端末「iPad Mini(アイパッドミニ)」くらいに小型化され、価格は最初の顔認証決済システムの約3分の11999元(約31000円)に抑えた。

 

アナリストはこの装置がすでに定着し始めたとみている。

「中国では顔認証がかなり成熟した段階に発達している。今後はキャッシュレス取引の標準的機能として取り入れられる可能性が高い」。蘇寧金融研究院のアナリストはこう話す。

 

こうした動きが注目されるのは、アリペイとウィーチャットペイが合わせて中国の第三者モバイル決済サービス市場の9割近くを占めるからだ。インターネット調査会社の比達諮詢(ビッグデータリサーチ)によると、昨年の同市場の取引総額は160兆元(約2500兆円)に達している。

 

アリペイとウィーチャットペイは人々が決済ネットワークを利用するたびに小売業者から少額の手数料を徴収する。だが利用者数や取引額の伸び鈍化に伴い、両社の間では争奪戦が激しくなっている。(中略)

 

両社はいずれも新技術を導入した商店の数を公表していない。だがアリペイまたはウィーチャットペイを利用できる顔認証装置は、中国各地の自動販売機や食料雑貨店、病院でも目につくようになった。両社の端末には本人認証のために顔の細部まで捉えられる3次元カメラが搭載されている。

 

中国はこれまで顔認証技術の開発最前線を走ってきた。この技術は今や、政府や企業による市民や従業員の監視システムから公衆トイレのペーパーホルダーに至るまであらゆる場所に使われている。(中略)

 

潜在的な問題としてプライバシーへの懸念がある。中国支付清算協会が行った2018年の調査では、モバイル決済利用者の85%が顔や指紋などの生体認証による決済に前向きだった一方で、個人データの安全性を最大の懸念として挙げる人が70%を超えた。

 

また一部の利用者は、顔認証技術が思ったほどスムーズではないと話す。南京の金融企業で働くツァン・リンリンさん(31)は3月、鉄道の駅でアリペイの装置を使ってボトル入り飲料水の代金を支払ったが、手続きが面倒だったという。

 

ツァンさんは初の利用だったため、自分の顔の画像とアリペイの口座を連携させるまでに何度もトライしなくてはならなかった。また別の機会には、ツァンさんが決済しようとするとカメラが顔全体の画像を捉えられなかった。カメラの位置が高すぎたのが理由だ。「私は単なる好奇心から試してみた。だが時間がないときは使わないと思う」

 

一方、杭州の大学生ワン・ハオウェイさん(19)はコンビニや大学の自動販売機では顔認証による支払いが気に入っているという。

 

「すごく便利だ」とワンさんは話す。それにスマホのバッテリーが減った時にモバイル決済ができなくなる不安から解放されると指摘した。【612日 WSJ】

******************

 

一般に個人情報の扱いには“おおらか”とされる中国にあっても、個人データの安全性が懸念されるようにもなっているようです。


なお、中国では、生後わずか数カ月の写真をもとに経年変化を考慮した顔認証技術によって10年後に誘拐・行方不明になっていた子供を保護するというレベルに達している・・・という話は、6月18日ブログ“AI(人工知能)の驚異的な可能性 必要なAI活用ルール 不可避な社会変革”で取り上げました。

 

顔認証は中国の専売特許ではなく、各国が導入を争っていますが、アメリカの空港の顔認証はトラブルも多いようです。技術的に中国のレベルに達していないということでしょうか。

 

****アメリカの顔認証ゲート......顔写真データは盗難、通過できない客も続出****

<アメリカの空港で導入が進む顔認証だが、登場手続きがうまくいかなかったり、顔写真データが盗まれたりと、ちょっとしたトラブルが続いている......

米国では数年以内に、出国する旅客の97%に対して顔認証システムによるチェックが実施されるようになる見込みだ。米国土安全保障省(DHS)は、このシステムは98%の一致率を誇り、不法滞在者摘発などに役立つとしている。

顔認証システムは政府だけでなく、民間企業の間でも採用が進んでいる。米Washington Postのジェフリー・ファウラー記者は610日、米航空会社JetBlueの顔認証による登場手続きシステム「e-gate」を体験した記事を公開した。

旅客の15%がうまく通過できなかった
JetBlue
は、このシステムにより搭乗手続きが簡易化でき、旅客のストレスを減らせるとしている。旅客はゲートにあるカメラをのぞき込むだけで、ボーディングブリッジに進める。仕組みは、ゲートにあるカメラで撮影した顔写真を、DHSが提供するパスポートやビザの渡航情報のデータと照合するというものだ。

撮影された写真は、一定期間(出国の場合、米国民は12時間、それ以外は2週間)保存された後、破棄される。

ファウラー記者はニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港のe-gateで取材した。自身で10回ゲートを通ってみたところ、サングラスを装着した状態を含めてすべて通過できたが、2便分の搭乗をチェックしたところ、旅客の15%はうまく通過できなかった。

JetBlue
は、うまくいかない原因として、カメラに顔を向ける時間が短かすぎたり、ひげが生えるなどで照合元の写真と著しく見た目が変わっているケースを挙げた。(中略)

サイバー攻撃で米国を入出国した旅客の顔写真が盗まれた
本誌米国版によると、企業によるものだけでなく、米連邦政府の顔認証プログラムも、米国民の権利として拒否できるという。その場合は、パスポートの提示などの従来の手続きを行うことになる。

折しもこの記事が公開された同じ日に、国土安全保障省税関・国境取締局(CBP)が、下請け業者へのサイバー攻撃により、米国を入出国した旅客の顔写真と車のナンバープレートの写真データが盗まれたと発表した。規模は不明だが、流出した個人データは取引され、悪用される可能性がある。(後略)【612日 Newsweek

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「浜の真砂は 尽くるとも 世に盗人の 種は尽くまじ」ということで、顔認証技術が普及すれば、またそれに応じた犯罪・詐欺が現れるのでしょう。

 

【日本にも、中国並みの「超監視社会」がやって来るのか?】

中国内には2億台近い監視カメラがあるとされ、顔認証技術と組み合わせて「超監視社会」が出現しつつあるということは、このブログでもすでに何回かとりあげた話題です。

 

日本も2020東京オリンピックに向けて、その方面の技術活用が進むようです。

 

****W杯・五輪、日本でも活用視野****

AIを利用した監視カメラは、日本でも使われ始めている。

 

大きなスーツケースを持った男が1人、街を歩く。異なる場所で撮影された画像を時系列で追うと、ある時点から荷物を持っていない。どこかに置いたのか。危険物ではないのか――

 

警備大手セコムが実験したときの画像だ。実際は、街頭に設置した仮設カメラや警備員が胸に着けたウェアラブル端末で動画を撮影。AIが特定の人物の特徴を分析し、膨大なデータをさかのぼって追跡する。

 

同社は17年以降、この警備システムを東京マラソンの観客警備で使っている。今年の大会では、現場に展開した警備員の携帯型カメラや監視カメラは計140台に及んだ。今年9月から日本で開かれるラグビー・ワールドカップ(W杯)や、来年の東京五輪での活用も視野に入れる。

 

人の行動予測にまで踏み込んだのが、万引き対策システムを提供するアースアイズ(東京)が開発した「AIガードマン」だ。

 

店に設置した防犯カメラの映像をAIがリアルタイムで分析。目線や姿勢から「不審な買い物客」を見つけ、店員による声かけを促す。導入先では、万引きの被害額を半減させたという。

 

同社の推計では、万引きによる被害は年約4千億円に上る。山内三郎社長は「AIがさらに進化すれば、さまざまな事件や事故の予防にも生かせるようになる」と期待する。

 

「中国並み」には慎重

来年の東京五輪パラリンピックに向けて、国内の監視カメラ市場は拡大が続く。富士経済の調査によると、日本国内で出荷される業務用監視カメラの台数は今年、115万3400台と前年より4・1%増えると予測する。

 

日本ではこれまで、監視カメラで映像を撮りためておいて、何かあったときに後で解析する使われ方が主流だった。その力は実証され、昨年10月のハロウィーに東京・渋谷で軽トラックが横転させられた事件では、防犯カメラの解析が群衆の中から人物を特定する「決め手」になったとされる。

 

しかし、技術の進歩はさらに先を行き、AIを使ってリアルタイムに個人を特定する道具に変容。顔がうまく映り込んでいなくても、全身を照合すれば人物が特定できるようになった。中国を見るまでもなく、技術的には、広範囲にリアルタイムで特定人物を追跡できるところまできている。

 

日本にも、中国並みの「超監視社会」がやって来るのか。セコムの目崎祐史・IS研究所長は慎重だ。同社が担当するスポーツ大会の警備では警察当局と情報は共有するものの、個人の行動予測につながるような情報は社外に提供しないと強調する。

「中国のような監視社会は日本には受け入れられない。自社の警備態勢の改善に生かす以上の情報は使わない」(中略)

 

顔認証などの画像処理が普及すれば容疑者の割り出しはより早くなり、防犯効果も高まるだろう。一方で、公共の場でそうしたカメラが広がることは、プライバシーや人権の侵害と背中合わせになる。

 

日本では、政府が定めるルールは最低限にとどまる。どう運用するかは業者など使う側の裁量に多くが委ねられており、議論の余地は大きい。【630日 朝日「AIの目、忍び寄る監視社会」】

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業者など使う側の裁量・・・ということで、ヤフーが7月から始めるとされている、サイトの利用者の信用度を点数化する「Yahoo!(ヤフー) スコア」などの話などいろいろありますが、長くなったので今日はここまで。

 

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アメリカ  腹撃たれ流産した母親に胎児の過失致死罪?! 不法移民収容施設の状況への批判に・・・

2019-07-04 22:39:01 | アメリカ

(【73日 CNN】 過密状態にあるメキシコ国境の移民収容施設)

 

【「この事件の真の被害者は生まれてくることができなかった胎児だけだ」】

アラバマ州では5月、レイプや近親相姦による妊娠も含め、中絶をほぼ全面的に禁止し、殺人罪に等しいとみなす全米で最も厳しい法案が可決された件は、521日ブログ“アメリカ  次期大統領選挙論点として再燃した人工中絶問題”でも取り上げました。

 

その中絶を殺人罪とみなすアラバマ州で、けんかで腹部を撃たれた結果流産した母親が、胎児の過失致死罪で起訴されるという、なんとも理解しがたい事件が報じられていました。

 

****腹撃たれ流産した母親に胎児の過失致死罪、中絶禁止の米アラバマ州****

米アラバマ州の当局は、妊娠中に銃で5発撃たれ流産した母親を、胎児に対する過失致死罪で起訴した。同州では、中絶をほぼ全面的に禁止する法案が可決されており、女性の中絶の権利を訴える人権団体は27日、厳しい非難の声を上げた。

 

起訴されたのは、マーシェ・ジョーンズ 被告。同州に拠点を置き、中絶希望者に資金援助するイエローハンマー基金はツイッターに、「マーシェ・ジョーンズさんは妊娠中に腹部を5回撃たれ流産したとして、過失致死罪で起訴された。それなのに加害者は今も自由の身。マーシェさんを刑務所から出してみせる」と投稿した。

 

ジョーンズ被告は昨年12月、同州プレザントグローブでけんかになった別の女性から発砲を受けた。大陪審は当初、発砲した側を起訴していたが、検察が案件を取り下げ、逆に26日に逮捕したジョーンズ被告の方が起訴されるに至った。

 

現地ニュースサイトAL.comの報道によると、地元警察当局は「捜査で分かったのは、この事件の真の被害者は生まれてくることができなかった胎児だけだということだ」という見方を示し、「胎児の死につながったけんかを最初に仕掛け、続けたのは母親の方だった」と指摘した。

 

同国ではこれまでに、南部と中西部の10以上の州で中絶を規制する厳しい法案が可決され、裁判で争われている。アラバマ州では5月、レイプや近親相姦(そうかん)による妊娠も含め、中絶をほぼ全面的に禁止し、殺人罪に等しいとみなす全米で最も厳しい法案が可決されている。 【628日 AFP】

********************

 

発砲した相手は起訴されず、銃撃され流産した母親が胎児の過失致死罪・・・・いくらなんでも、そんなのおかしいと思うのですが、中絶を絶対悪とみなし、胎児の生命を奪うことを許さないというアラバマ州検察の考えは異なるようです。

 

アメリカの検察制度は連邦検察官系列と州検察官系列があって、日本とは異なりますが、よく映画・TVドラマで目にするのは、選挙で選ばれる州地方検事は政界への進出のステップである場合が多いというシチュエーションです。

 

今回の起訴も、そうした社会状況にあって、中絶に厳しい世論受けを狙ったもの・・・でしょうか。

 

さすがに、アメリカでも批判があったようで、母親への起訴は取り下げられることになったようです。

 

****腹撃たれ流産した女性を胎児死亡させた罪で起訴、検察が取り下げ 米アラバマ州****

米アラバマ州で妊娠中に銃で腹部を撃たれ流産した女性が胎児を死亡させたとして過失致死罪で起訴されたことをめぐり、同州の検察は3日、女性に対する起訴を取り下げた。(中略)

 

(腹部を撃たれた)ジョーンズさんに対する起訴をめぐっては人権団体などが激しく反発。ジョーンズさんの弁護士が起訴の取り下げを求める申し立てを行い、アラバマ州バーミンガムの南西に位置するベッセマーカットオフの地区検事は3日、起訴を取り下げた。

 

ジョーンズさんの弁護を担当するマーク・ホワイト氏は地区検事の決定について、「依頼人にとってもアラバマ州にとっても適切なもの」と評価し、「検事の決定はジョーンズさんが今回の悲劇から今後立ち直る助けとなるだろう」と指摘した。(中略)

 

アラバマ州では今年11月から新法が施行される予定となっているが、1973年に最高裁が女性の中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」に反するとして裁判で差し止め命令が出るものとみられている。 【74日 AFP】******************

 

極端な考え方にのめりこみ、バランスを失すると、今回の奇妙な起訴のようなことにもなるのでしょうが、こうした事案がイスラム原理主義的な国やアフリカの途上国ではなく、アメリカで起きたことであるという点が、なんとも印象的なところです。

 

いつも言うように、日本とアメリカは価値観を共有する同盟国ですが(その同盟も最近はあやしくなってはいますが)、日本からすると相当に変わった考えもアメリカには存在していますし、物事に対する考え方も大きく異なることが多々あります。

 

【「収容施設に不法移民が不満だというなら、来るなと伝えろ。問題は全て解決する!」】

そのアメリカに関しては、社会の在り方やトランプ政治について、奇異に感じられること、個人的には納得しがたいことが日々報じられているのですが、取り上げているときりがないので、今日報じられたものの中で一番印象に残ったものをひとつ。

 

****不法移民が収容施設に不満なら「来るなと伝えろ」、トランプ氏****

ドナルド・トランプ米大統領は3日、不法移民には米国に「来ない」という選択肢もあると述べ、移民収容施設が過密で劣悪な状況にあるとの報告を一蹴した。

 

トランプ氏はツイッターに、「急ごしらえで建てられたり改築されたりした収容施設に不法移民が不満だというなら、来るなと伝えろ。問題は全て解決する!」と投稿した。

 

国土安全保障省は2日、移民収容施設が「危険なほど過密」な状態にあると警鐘を鳴らしていた。収容施設には米国にとどまろうとする移民数千人が収容されており、そのほとんどは中米の母国の暴力と貧困を逃れてきた人々だ。

 

国土安全保障省と収容施設を訪問した民主党議員らの報告を受けて、トランプ政権に対して施設を閉鎖し移民を解放するよう求める声が高まっている。 【74日 AFP】

*****************

 

トランプ政権の進める不法移民取り締まり強化の結果として収容施設環境の悪化に関して、民主党などからの批判が出ているなかでの発言です。

 

****米不法移民収容施設 過密状態で危険な状態****

アメリカのトランプ政権が不法移民の取り締まりを強化する中、収容施設には、定員を大きく上回る人数が詰め込まれ、危険な状態であることが分かった。

足の踏み場もないほどのすし詰め状態となった部屋。中には小さな子供の姿も確認できる。これらは、先月、テキサス州南部のメキシコとの国境近くにある不法移民の収容施設で行われた監査の際、撮影されたもの。

2日に公表された報告書によると、拘束される不法移民の急増で、部屋の定員の2倍の人々が収容されるなど「危険な過密状態」になっているという。また、基準を超えて10日以上拘束されている人々もいたと指摘している。

こうした現状が明るみに出たことで、民主党などからは「非人道的で劣悪な環境だ」などと批判が高まっている。(後略)【日テレNEWS24

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****米移民収容施設が極度の過密状態、抜き打ち調査で報告****

米当局がメキシコ国境で移民を収容している施設が極度の過密状態にあり、子どもが長期間拘束されているなどの問題点が、政府内部の抜き打ち調査で明らかになった。

 

調査チームは先月初め、国境沿いの中でも特に拘束件数が多いテキサス州リオグランデ渓谷の5施設を視察した。

報告書には移民であふれかえる施設内の写真などが添付されている。

同伴者のいない子どもたちを収容している同州マッカレンの施設では、165人の子どもが1週間以上拘束されていた。

 

米当局の規則によると、未成年者は72時間以内に保健福祉省の保護施設などへ移すことになっている。しかし国境警備隊のデータによれば、3割以上がこの制限を超えて収容されている。7歳未満の子どもが2週間以上待機していた例もあるという。

 

当局の方針では大人も72時間以内に釈放することが望ましいとされるが、調査対象の施設ではこれを超える収容者が計3400人に上り、うち1500人は拘束から10日以上経過していた。

 

温かい食事やシャワー、着替えなどの基準も守られず、5カ所のうち3カ所の施設では子どもにシャワーを浴びさせていなかった。大人の収容者がサンドイッチだけの食事で重度の便秘になり、治療が必要になったケースもみられた。

 

国土安全保障省は今回の報告を受け、臨時のテントを設置するなどして移民の増加に対応する方針を示した。

移民の収容をめぐっては、5月の調査でも定員125人の施設に900人が詰め込まれた状況などが指摘されていた。【73日 CNN】

*******************

 

トランプ大統領らしい“率直な物言い”と言えばそうでしょう。

おそらく、支持者集会で発言すれば、「そうだ!」と賛同の声が一斉に上がるのでしょう。

 

日本でも、こうした“本音”を良しとする人々が大勢いるのでしょう。

 

ただ、個人的にはどうしてもこういう発言には馴染めません。

 

確かに、不法に入国しようとする移民を摘発拘束する権限はアメリカにあります。

それらの移民の流入を許せば、アフリカ移民に揺れた欧州のような状況にもなって、多くの問題が起こるというのもわかります。

 

しかし、それら移民の多くは母国の暴力と貧困を逃れてきた人々です。

犯罪者でもなければ、アメリカ社会に害をなそうとして流入する者でもありません。

 

そうした人々が結果的に劣悪な状況に置かれているということに対し、「それがどうした。嫌なら来るな!」という粗野な発言が“トランプだから”で済まされる、おそらくそうした発言を支持する人々が大勢いるということが呑み込めません。

 

トランプ氏やその発言を支持する人々からすれば、不法移民の人権に配慮するなど“きれいごと”“建前”にすぎないということになるのでしょう。そんな“きれいごと”を言っていたら、自分たちの国が不法移民であふれてしまう・・・と言うのでしょう。

 

ただ、たとえ戦争にあっても民間人や捕虜の権利を認め、平常時の社会にあっては犯罪者の人権にも一定に配慮し、少数派の人々への差別を戒め・・・・というかたちで「きれいごと」や「建前」をなんとか現実のものにしようと努めるようになったことが、市民社会成立後の数百年の歩みの成果だったと思っています。

 

壁際で移民を蹴散らし、拘束した移民の環境など意に介さず、「来るのが悪い!」と自分たちの生活を守ることだけが正当化されるというのであれば、これまでの成果を無にし、力がすべてを支配する社会に逆行するように思えます。

 

トップの姿勢を受けて、末端職員も・・・

 

****米国境職員の移民巡る不適切投稿を調査=国土安全保障省トップ****

米国土安全保障省のマカリーナン長官代行は3日、米税関・国境警備局(CBP)職員が移民に対する不適切なコメントなどをフェイスブックに投稿していると報じられた問題を巡り、調査を命じたことを明らかにした。

非営利ニュースサイト「プロパブリカ」は今週、CBPの現職員や元職員がフェイスブックの非公開グループに移民の死に関する冗談や、移民収容所の問題を訴える民主党のオカシオコルテス下院議員に対する侮辱的なコンテンツを投稿していると報道。米・メキシコ国境の移民収容施設の非人道的な状況を巡り、トランプ大統領の移民政策に対する批判が強まっている。

マカリーナン長官代行はツイッターへの投稿で「現職のCBP職員が関与していると今週報じられたソーシャルメディアの投稿は憂慮すべき、かつ許されない行為」とし、「決して容認されない」と言明。国民の法執行の任務に対する信認を脅かした職員は「責任を負う」と述べた。【74日 ロイター】

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チベット・ウイグル  ダライ・ラマの失言とエルドアン大統領の豹変発言

2019-07-03 23:04:08 | 中国

(トルコ・イスタンブール旧市街の観光名所ブルーモスク近くにある、亡命ウイグル族の民族指導者の名前を冠した公園。1995年に公園ができた際に中国から名称変更の申し入れがあったが、当時のイスタンブール市長だったエルドアン大統領が、「名前を変えるのはトルコだけでなく、世界中のトルコ系の人々への侮辱になる」と反対した。【519日 朝日】)

 

【ダライ・ラマ後継女性は「もっと魅力的でなければならない」 ダライ・ラマ、失言で謝罪へ】

チベット問題に関する記事は、最近あまり目にしませんが、今後の最大の問題がチベット社会を支えるダライ・ラマ14世(83)の後継者問題であることは衆目の一致するところです。

 

ダライ・ラマ14世が4月に体調を崩して入院した際も、その問題が話題となりました。

中国当局側は「輪廻転生」による後継者選定で主導権を握ろうとしており、これを警戒するダライ・ラマ14世の方は、これまでの輪廻転生によらない選定をも検討しているとされています。

 

いつも言うように、宗教に否定的な共産党が「輪廻転生」という(科学的には論証不可能な)伝統の尊重(もちろん、裏でそこに共産党が介入して、政府の傀儡を後継者にしようとの考えですが)を訴え、チベット側が伝統によらない新しい方法を・・・・という奇妙な逆転現象が生じています。

 

****ダライ・ラマの「輪廻転生」、中国の法律順守を 中国外務省****

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマの後継者を選ぶ「輪廻(りんね)転生」について、中国政府がこのほど「中国の法律に従う必要がある」との認識を示した。

 

中国外務省の報道官は10日、肺の感染症のため入院したダライ・ラマ14世(83)について質問され、容体については認識していないとした上で、輪廻転生には「明白なルール」があると強調した。

 

報道官は、「ダライ・ラマを含めて生けるブッダの輪廻転生は、中国の法規制に準拠し、宗教儀式と歴史的慣例に従わなければならない」と述べ、中国政府は国民全ての宗教の自由を尊重すると言い添えた。

 

ダライ・ラマは9日から入院しているが、側近は11日、ダライ・ラマが間もなく退院できる見通しだと語り、「医師に言われた通り胸の感染症があったが、抗生剤を投与され、かなり回復した」と説明した。

 

それでも今回の入院で、ダライ・ラマの死後、チベット仏教がどうなるのかという疑問が改めて浮上している。

 

ダライ・ラマ本人が自身の死後の輪廻転生を認める意向なのかどうかもはっきりせず、ここ数年は、自身が最後のダライ・ラマになる可能性をうかがわせる発言をしていた。【412日 CNN】

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ダライ・ラマとしては、中国政府の介入を防げるなら、新しい方法でも、あるいは女性でもかまわない・・・というところですが、どうも女性に関しては、さすがのダライ・ラマも認識がずれていたようで、思わぬところで批判をあびるところとなっています。

 

****「女性は魅力的でなければ」 ダライ・ラマが失言で謝罪*****

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ(83)が2日、後継者の人選を巡り、女性が後継者になる場合は「もっと魅力的でなければならない」と述べた冗談の発言について謝罪した。

 

問題発言は先月、英BBCとのインタビューで飛び出した。この中でダライ・ラマは、「もし女性がダライ・ラマになる場合、(その女性は)もっと魅力的でなければならない」と言って笑った。

 

BBCによると、ダライ・ラマはこの発言に続いて顔を歪めて見せ、もし女性のダライ・ラマが特定の外見をしていた場合、「人々はその顔を見たがらないだろう」と発言したという。

 

ダライ・ラマは2015年にもBBCのインタビューの中で、未来のダライ・ラマは女性になるかもしれないと述べ、その場合は容姿が良くなければ「あまり役に立たない」と発言していた。

 

今回の発言について、ダライ・ラマ法王庁は2日に発表した声明の中で、「猊下(げいか)に侮辱する意図は一切なかった。猊下は自らの発言によって人を傷つけたことを大変申し訳なく思っており、心からの謝罪を表明している」とした。

 

さらに、ダライ・ラマ自身は「人は外見に基づく先入観にとらわれるのではなく、もっと深い人間性において互いに結び付く必要がある」と一貫して強調していると指摘。

 

非公式な発言を巡っては、一方の文化でユーモアと受け止められても、別の文化に翻訳される際にそのユーモアが失われることがあると釈明している。

 

ダライ・ラマは女性を物としてとらえることに反対し、両性の平等を支持すると強調。亡命中のチベットの尼僧は、かつて男性にしか授与されなかった「ゲシェー」の学位を授与されているとも説明した。【73日 BBC】

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どんなに言いつくろっても「アウト」でしょう。

 

「アウト」ではありますが、トップに担ぐ女性に女神・マリアのような神々しい美しさを期待しがちなのは男性一般の正直な心情でもあり、まあ、ダライ・ラマも世間一般の男性とその点では大差なかったということでしょう。(こういう評価は、また叱られるかもしれませんが)

 

ただ、最近は一般男性でもこういう発言は表ではしないと思いますので、ダライ・ラマの時勢とのズレはかなり大きなもののようにも思えます。

 

ダライ・ラマの女性問題への認識のズレはともかく、発言の背景にある後継者問題の方は重大です。

その存在が大きすぎた故に、そのあとの空白を埋めるのは困難でしょう。ダライ・ラマという支柱を失ったチベット社会に、中国政府に抗していく力は・・・・難しいでしょう。

 

【エルドアン大統領 「新疆ウイグル自治区の人々は、中国の発展と繁栄において幸せに生活している」】

中国政府は、チベット統治の正当性を国際社会に主張するために、(中国政府支配のもとで)いかにチベットが経済的・あるいは市民生活の面で向上したかをアピールしています。

 

****中国政府がチベット自治区「白書」発表 経済発展の成果を強調****

中国政府は(3月)27日、チベット自治区に関する「白書」を発表した。経済発展の成果を強調し、チベット族の信仰の自由を保障していると主張。中国の少数民族政策に対する米国などからの批判に反論した形だ。

 

今年はチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世のインド亡命につながったチベット動乱から60年にあたる。

 

中国側は動乱の制圧後、「政教一致の封建農奴制を撤廃した」と位置付けており、白書は60年間で「共産党の強固な指導の下、チベット社会は歴史的な飛躍を遂げた」とし、チベット族の信仰を含む伝統文化を保護していると主張。昨年の域内総生産(GRP)は1959年の約190倍に増大したなどと経済・民生の向上をアピールした。(後略)【327日 毎日】

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また、保健衛生面での進歩もアピールしています。

 

****チベット住民の平均寿命が706歳に―中国メディア****

中国国家衛生健康委員会は、北京で23日に開催した記者会見において、「チベット自治区の住民の平均寿命は、平和解放当初の355歳から、現在の706歳に延びた。

 

妊産婦死亡率は、10万人あたり5000人から5652人に、乳児死亡率は430‰から1159‰にそれぞれ低下して2020年目標を前倒しで達成した」と発表した。新華社が伝えた。(後略)【525日 レコードチャイナ】
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こうした事実は、(「そうは言っても・・・」という問題はあるにしても)現実の一面ではあるでしょう。

 

特に、チベット仏教による「政教一致の封建農奴制」が改革されるべき問題を内在していたことも事実でしょう。

(西欧中世の教会、かつての日本の寺社がそうであったように)当時のチベット仏教支配と今のダライラマを敬愛するチベット社会は、決して同質ではないでしょう。

 

中国政府は、チベットと同様な民族抑圧政策をとる新疆ウイグルに関しても同様の主張で、共産党支配の正当性を主張しています。

 

驚いたことに、この中国の主張への賛同者が思わぬところから現れました。

 

****トルコ大統領、新疆に肯定的 「人々は幸せに生活」=中国メディア****

トルコのエルドアン大統領は、新疆ウイグル自治区の人々は、中国の発展と繁栄下で幸せに生活しているとの見方を示した。中国国営メディアが2日に伝えた。

中国政府は、ウイグル族やイスラム教徒が多く住む新疆ウイグル自治区で過激派勢力が台頭することを防ぐため、職業訓練という名目で施設を設置。多くの欧米諸国は収容施設だと批判している。

トルコは、同自治区の人権問題をたびたび指摘してきた唯一のイスラム教徒国で、今年2月にも国連の人権理事会に問題を提起。中国の怒りを買った。

一方、中国国営メディアによると、エルドアン氏は北京で中国の習近平国家主席と会談した際に、同自治区についてより肯定的な見方を示した。

国営テレビは「実際には、新疆ウイグル自治区の人々は、中国の発展と繁栄において幸せに生活している」とエルドアン氏が述べたと伝えた。

さらに「トルコと中国の関係に不調和をもたらすいかなる者もトルコは容認しない。トルコは過激主義に断固として反対で、中国との政治的な信頼関係を強め、安全保障を強化することに前向きだ」と語った。

習主席は、テロ対策での協力推進に向け、両国は具体的な措置を講じるべきだとエルドアン氏に伝えたという。【73日 ロイター】

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トルコと言えば、2月には「人類にとって大きな恥」と中国のウイグル族同化政策を批判していたはずです。

 

****中国のウイグル人同化政策は「人類にとって大きな恥」、トルコが非難 民謡歌手が獄中死****

中国でイスラム教を信仰するトルコ系少数民族ウイグル人が大量拘束されている問題で、トルコ外務省のハミ・アクソイ報道官は9日声明を発表し、ウイグル人に対する中国当局の組織的な同化政策は「人類にとって大きな恥だ」と強く非難した。

 

同報道官は「100万人以上のウイグル人が恣意(しい)的な逮捕の危険にさらされ、強制収容所や刑務所で拷問や洗脳を受けていることは、もはや秘密ではない」とも指摘した。

 

多くのウイグル人が暮らす中国北西部の新疆ウイグル自治区では近年、民族間の対立の激化を受け、警察当局による厳しい監視体制が敷かれている。国連の専門家パネルによると、中国ではチュルク諸語を話すウイグル人などの少数民族、約100万人が再教育施設に強制収容されている。

 

中国は、共産党の思想や多数派である漢民族の文化と異なる新疆の少数民族たちの宗教や文化を抑圧し、少数民族を同化させようとしていると批判されている。

 

これに対し中国側は、これらの施設は人々がテロリズムに関わらずに社会復帰できるようにするための「職業教育センター」だと主張している。イスラム諸国の多くは、重要な貿易相手国である中国をウイグル人弾圧問題で批判することを避けてきた。

 

アクソイ報道官は、「再教育施設に収容されていないウイグル人たちも抑圧下に置かれている」と述べ、国際社会やアントニオ・グテレス国連事務総長に、「新疆における人類の悲劇」を終わらせるために有効な措置を取るよう訴えた。

 

また同報道官は、拘束されていたウイグル人の民謡歌手アブドゥレヒム・ヘイット氏が死亡したことをトルコ政府は9日に知ったと明らかにし、「この悲劇によって、新疆での深刻な人権侵害に対するトルコ人の反発はより強まった」と強調した。ヘイット氏は自作の歌詞が問題視されて禁錮8年を言い渡され、死亡時は服役2年目だったという。 【210日 AFP】

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この「人類にとって大きな恥」声明については、“エルドアン政権は3月末に統一地方選を控えており、ウイグル族擁護を鮮明にして、与党が頼る民族主義的な有権者へのアピールを狙った可能性がある。ただ、声明はエルドアン氏や外相でなく、外務省報道官名義で出しており、対中関係の決定的な悪化を避けようとしたともとれる。”【214日 朝日】と、必ずしも額面どおりにとることはできないとの指摘は当時からありました。

 

トルコに限らず、“イスラム諸国の多くは、重要な貿易相手国である中国をウイグル人弾圧問題で批判することを避けてきた。”という現実も再三指摘されています。

 

そうではありますが、エルドアン大統領の「実際には、新疆ウイグル自治区の人々は、中国の発展と繁栄において幸せに生活している」という見事な豹変ぶりには驚きました。

 

別に豹変すること自体は悪いこととは思いません。

状況・環境が変われば、政治指導者たるものは過去に固執することなく、豹変すべきでしょう。

「ぶれない」ということは、対応力のなさであることも。

 

ただ、どうして豹変したかを説明する必要があります。エルドアン大統領にその気はないでしょうが。

そのあたりが、非民主的強権体質を云々される所以でもあります。

 

ついでに言えば、エルドアン大統領はサウジアラビアのカショギ氏殺害に関しても、ことの真実を明らかにすることより、この問題をいかに有効に利用するかに腐心しているように見えます。

 

外交というのはそういうものだ・・・・と言えば、そうでしょう。ただ、ウイグル族同化政策にしても、カショギ氏殺害にしても、本来問題とすべき点をうやむやして、自国利益追求に走るのはいかがなものかという感も。

 

アメリカは「アメリカ第一」で国際社会・国際協調をないがしろにし、アラブ社会はパレスチナ支援の「大義」を捨て去り、イスラム社会はウイグル支援を封印して、各国が自国の利益に走る・・・という世界に変わってきたようです。

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中国・アメリカメディアの見る日本の韓国向け輸出規制強化 日本外交の「トランプ化」とも

2019-07-02 23:13:56 | 東アジア

G20大阪サミットで、握手した後、すれ違う韓国の文在寅大統領(手前)と安倍首相=28日、大阪市(聯合=共同)【6月29日 共同】)


2010年の中国によるレアアース禁輸への日本の反応】

韓国人元徴用工らへの損害賠償判決問題への事実上の対抗措置として、日本政府が1日、韓国向け輸出の規制を強めると発表。

 

韓国で生産が盛んな半導体製造などに使われる化学製品3品目の輸出を難しくするほか、安全保障上問題がない国として輸出手続きを簡略化する優遇措置をやめるとのこと。

 

G20サミットで来日した文大統領と安倍晋三首相の首脳会談はなく、その直後の輸出規制強化の発表に韓国側は強く反発しています。

 

*****韓国紙「経済戦争の銃声が鳴った」 韓国への輸出規制強化****

日本政府が、韓国に対する半導体の原材料などの輸出規制を強化すると発表したことについて、2日付けの韓国の主要な新聞は「『経済戦争』の銃声が鳴った」などという見出しで、いずれも1面で大きく伝えています。

 

太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題の解決が見通せない中、日本政府は、信頼関係が著しく損なわれたとして1日、韓国に対する輸出の優遇措置を見直し、半導体の原材料などの輸出規制を強化すると発表しました。

これについて、2日付けの韓国の主要な新聞はいずれも1面トップで大きく伝えています。

このうち、有力紙の「朝鮮日報」は「韓国産業の急所を刺した『日本の報復』」という見出しで「日本が世界市場の70%から90%を占めている必須の原材料であり、日本が供給を中断すれば、韓国企業は深刻な打撃を受ける」として、危機感をあらわにしています。

また、経済専門紙の「韓国経済」は、「韓日『経済戦争』の銃声が鳴った」という見出しで「日本は、韓国の輸出産業の心臓である半導体・ディスプレーを直接ねらった。WTO=世界貿易機関を通じた解決などは時間がかかり、効果があるか断言できない」と指摘しています。

韓国では、輸出額の20%近くを占める半導体の製造などに深刻な影響が出るのではないかという懸念が広がっていて、ムン・ジェイン(文在寅)大統領は2日午前中に大統領府で開いた閣議で、今後の対応を話し合ったものとみられます。【72日 NHK

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徴用工の問題は、立場によって意見が分かれますが、韓国・文政権にすれば、司法判断に行政が介入するように日本から圧力を受けている・・・という、三権分立を無視した対応というとらえ方にもなります。

 

2010年に沖縄県尖閣諸島沖で起きた中国漁船と巡視船の衝突事件の際に、中国が日本経済の急所を狙ったレアアースの禁輸措置をとったときのことを思い出します。

 

当時、日本側は、非政治的な衝突事件への報復として禁輸を持ち出した中国側の対応に強く反発しました。

 

その後、日本側が中国人船長を釈放したことで、禁輸措置は先鋭化する前に取り下げられましたが、日本側には“屈辱外交”との批判も国内に残りました。中国への批判・不信感も更に深まる結果にも。

 

また、レアアースについては、日本側の脱中国依存の取り組みを促す契機ともなり、その後の中国レアアース産業は、日本側が価格決定権を持つような価格低下に悩む結果ともなりました。

 

【中国メディア 仲裁に入らないトランプ外交、日本国内の選挙の影響を指摘】

今回の日韓の対応について、中国メディア(環球時報)は識者の見解として以下のようにも取り上げています。

 

****日本が韓国に「むごい」一手、日韓関係は負のスパイラルから抜け出せるか****

中国紙・環球時報は2日、「日韓関係は負のスパイラルから抜け出せるか」と題する、中国社会科学院の李成日氏の論評を掲載した。以下はその概要。

20
カ国・地域(G20)大阪サミットの閉幕から間もない今月1日、日本の経済産業省は半導体材料であるフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の対韓輸出規制を4日から始めると発表した。日本は「ホワイト国」からの韓国除外も考えている。先端技術輸出での優遇措置を韓国が受けられないようにするためだ。

内閣官房副長官はこの日の記者会見で韓国の徴用工判決への対抗措置ではないと強調したが、2国間の不信頼については否定しなかった。輸出規制の3品目中、2品目で日本の世界シェアは90%に達する。サムスン、LGなど韓国企業はかなりの打撃を受ける見通しだ。日本に替わるサプライヤーをすぐに見つけることも難しいだろう。

日本の対韓制裁に関するうわさは以前からあったが、今回の具体的措置の発表は韓国当局にとってやはり意外だった。韓国は日本がこれほどスピーディーに、そしてこれほど「むごい」一手を打つとは思わなかったのだ。

2017
年の文在寅(ムン・ジェイン)氏の韓国大統領就任以来、慰安婦問題や徴用工問題など歴史問題が日韓関係の正常な発展を妨げている。とりわけ日本企業に賠償を命じた韓国最高裁の徴用工判決(1810月)をきっかけに日韓は新たな苦境に陥った。

ただ、韓国政府は低迷する日韓関係の改善に向けた努力を行っている。例えば、文大統領は知日派の南官杓(ナム・グァンピョ)氏を新たな駐日大使に任命した。文喜相(ムン・ヒサン)国会議長も「天皇謝罪」発言を謝罪したが、韓国側のこうした措置は日本の積極的な反応を呼ばなかった。

 

日本政府の突然の輸出規制を受け、韓国も相応の対抗措置を取るだろう。

日本と韓国はいずれも米国の同盟国だ。これまでは往々にして米国の関与が歴史問題、領土問題で激しく対立する両国の関係を正常な軌道に戻してきた。だが、トランプ政権は「アメリカファースト」の外交理念を堅持している。仲裁役への関心は薄く、これが日韓関係の持続的な低迷を引き起こした。

現在、歴史問題をめぐって日韓の政府、司法、国民の意見の隔たりはますます埋めにくくなっている。

 

参議院選挙を控えた安倍政権は外交問題上で強硬な姿勢を必ず示すだろう。選挙が終わるまで対韓政策に大きな変動は見られないはずだ。

 

さまざまな方面から見て、日韓関係がすぐに改善するとは考えにくい。こうした局面が長期的に続けば、中日韓自由貿易協定など東アジアの協力の進展に影響が及ぶに違いない。【72日 レコードチャイナ】

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トランプ政権の立ち位置、日本の国内選挙の影響・・・おおむね妥当な指摘でしょう。

 

【アメリカメディア 日本外交の「トランプ化」】

アメリカメディア(WSJ)は、商業捕鯨再開問題と絡めて、日本外交の「トランプ化」という視点のコラムを掲載しています。

 

****トランプ化する日本外交*****

ドナルド・トランプ米大統領は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との突然の首脳会談を実現させ世界を驚かせたが、その前にも、大阪で先週開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議でメディアマジックを披露していた。

 

中国の習近平国家主席との会談で世界経済の方向性を決め、娘のイバンカ氏を重要会談に同席させて彼女のステータスを上級外交官に引き上げるなど、トランプ氏のトレードマークである幻惑的で目が回るような外交手法は、外交官や識者を魅了し、懸念させ、混乱させた。

 

多くの人々は、こうした個人的、即興的、一方的な外交はトランプ氏の引退とともに国際政治の舞台から消えていくことを期待している。しかし、日本で起きた2つの出来事は、国際政治のトランプ化が定着する可能性を示唆している。

 

1つ目の出来事は、日本が国際捕鯨委員会(IWC)から正式に脱退し、小規模な船団が31年ぶりの商業捕鯨に向け出港したことだ。IWCは最重要の国際機関の1つではないかもしれないが、IWCが直面する問題は多くの国際機関を取り巻く危機を象徴している。

 

IWC1946年に設立された。商業捕鯨産業を維持可能な状態に保つため、鯨類の生息数をモニターし、商業捕鯨を制限することが目的だった。捕鯨反対の声が強まる中、IWCは捕鯨のモラトリアム(一時停止)を話し合うようになった。

 

捕鯨との密接な経済的関わりがない国々――内陸国のモンゴル、スイス、ハンガリーなどを含む――IWCに加盟した。一部の国は捕鯨に反対し、捕鯨支持諸国は捕鯨禁止に反対票を投じさせるために他国をIWCに引き入れた。

 

最終的には反捕鯨陣営が勝利した。一部の鯨類については資源を維持しながら捕鯨を続けることが可能だとの科学的証拠があるにもかかわらず、IWCは現在すべての商業捕鯨を禁止している。

 

日本にとって捕鯨の経済的利益は大きくない。同国が1年間に消費する鯨肉は約5000トンにとどまっており、1960年代の20万トン以上から減っている。

 

しかし、日本のナショナリストや文化伝統主義者からすると、IWCは欧米の文化帝国主義の象徴であり、それに立ち向かうことは国家のプライドを主張する1つの手段となっている。

 

私は、生き残っている鯨たちが光り輝く海を煩わされることなく泳げるようにすることを望むが、日本の主張には一理ある。倫理を巡る果てしない議論と貧弱なガバナンスによってIWCの道徳的権威はそがれ、カナダやノルウェーといった捕鯨支持国はモラトリアム措置から離脱したり、IWCそのものから脱退したりした。

 

世界政治のシフトを示す2つ目の出来事は、貿易に絡むものだ。日本は、曲がるスマートフォン画面や半導体の製造に不可欠な素材について、一方的に韓国への輸出制限を課した。これは韓国の保護主義への報復ではなく、長期にわたる激しい政治的紛争に伴う動きだった。

 

日本政府の立場からすると、韓国は「慰安婦」への補償問題で和解するための両国間の合意に違反した。問題となる素材の輸出には今後、事前に取得する認可が必要となるが、許可が適時に下りる保証はなく、そもそも許可されるかどうかも分からない。

 

日本は主要な貿易国だが、国際システムにおいて米国のような特別な影響力は持っていない。このため、貿易に政治を絡ませる日本の決断は、国家戦略の劇的なシフトを意味する。

 

ここから明確に推測できることは、日本がルールに基づく国際システムの弱体化が続くとみていること、そしてトランプ流としか言いようがない方法で自国の強みを最大化しようとしていることだ。

 

中国の日常的な不正行為、トランプ政権の2国間交渉への移行、そして日本による貿易戦略の政治化。世界の三大経済大国が、ポスト世界貿易機関(WTO)体制の様相を呈する状況の中で動いている。他の諸国は間違いなく注視するだろう。

 

米国は中国と北朝鮮に対応する上で日韓間の良好な関係を必要とするが、日本の新たな貿易方針は、攻撃的で一方的な貿易戦略が大きなコストを伴うことを浮き彫りにしている。

 

日本の方針が日韓の経済関係に打撃を与えることになれば、慰安婦の補償問題を巡る激しい議論は今後さらに激化し、対応が一層困難になるだろう。

 

ルールに基づく旧来の貿易体制は、相互連携を管理し、自由貿易へのコミットメントを制度化するものだった。より混沌(こんとん)とした世界では、外交官も経済界のリーダーもこれまで以上に努力しなければならないだろう。

 

日本は第2次大戦後に主権を回復して以降、ルールに基づく多国間国際システムの支持者として特に信頼できる存在だった。その日本が旧来の体制の制約から抜け出したがっていることが示唆するのは――日本の観点から見れば――トランプ時代とは移行期であり、一時的な幕あいの出来事ではないということだ。【72日 WSJ

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捕鯨の問題について言えば、個人的には、日本側がそこまで意固地になる必要があるのか・・・という疑問も感じています。実際にクジラを食べる人など今は殆どいませんし。(捕鯨関係者の問題は、国内の補償でも対応可能です)

 

もちろん、日本の主張は科学的裏付けを伴ったまっとうなものでしょう。

 

ただ、どうしてもクジラを食べることに抵抗感を示す人々が多数存在することもまた事実です。(その人々の“意固地さ”もまた問題ですが)

 

個人間のつきあいであれば、自分の主張に間違いはないと思うときでも、それを嫌がるひとが大勢いるときは、そしてその問題が死活的なものでなければ、「まあ、みんなが嫌がることを敢えてすることもないか」という常識的対応にもなります。

(そうした常識的対応ができず、自分の主張にこだわる人は周りから嫌がられます)

 

それが国家間になると、国家の伝統に対するプライド・・・みたいな話にもなりがちです。

 

各国が自分の主張に固執し、「そんなルールに従うつもりはない」「力で相手をねじ伏せればいい」というトランプ的対応に走るなら、“ルールに基づく多国間国際システム”は機能しなくなります。

 

長期的に見た場合、それが日本にとって好ましい方向なのか?

 

韓国との関係について言えば、日本側に韓国に対するフラストレーションがたまっているのは事実で、「この際、思い知らせてやれ!」ということにもなる・・・その感情は十分に理解できます。

 

理解はできますが、感情論におぼれてしまっては、長期的な方向を見失う危険もあります。

仮に、韓国側が禁輸回避のために徴用工問題で何らかの対応をとったとしても、それは問題が解決した訳ではなく、将来に向けて新たな問題・消し難い恨みをひとつ増やしたということに過ぎないでしょう。

 

伝家の宝刀というのは抜いてしまっては意味がない、抜くかもしれないという圧力をかけることで、有利な交渉に持ち込むというのが、その使い道でしょう。いったん抜いた刀をどうやって鞘に納めるのか・・・。

 

かつて自国が中国から受けた対応にどのように感じたのか・・・そこらも踏まえて、長期的な日本外交の進むべき道を冷静に検討することを期待します。



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ブラジル  いろいろあって極右大統領への国民支持は低下傾向

2019-07-01 23:01:16 | ラテンアメリカ

(大阪市で628日、会談するトランプ米大統領(左)とブラジルのボルソナーロ大統領【629日 朝日】)

 

【経済不調で支持率もじり貧傾向】

「ブラジルのトランプ」とも称される極右・元軍人のブラジル・ボルソナロ大統領への国民支持は大統領選挙当時の熱狂から冷めて低下しているようです。

 

****ブラジル世論調査、ボルソナロ政権発足後初めて不支持が支持上回る****

24日に発表されたXPインベストメントスとイペスペの世論調査で、ブラジルのボルソナロ大統領率いる現政権の不支持率が、1月1日の大統領就任以来初めて支持率を上回った。

政権発足以来の5カ月は、第1・四半期の経済がマイナス成長となる公算が大きいなど経済の低迷に加え、改革課題に対する政治的な支持獲得の失敗などが目立った。

調査は20─21日、1000人のブラジル人を対象に実施。その結果、36%がボルソナロ政権は悪いまたはひどいと回答。今月行われた前回調査を5%ポイント上回った。

政権が良いまたは素晴らしいとの回答の割合は、前回の35%から34%に低下した。調査の誤差は3.2%ポイント。

経済の現状については前政権と「外的要因」が原因と考えているブラジル人が大半だが、現政権のせいと考えるブラジル人が、わずか3週間前に比べて2倍の10%となった。

将来の見通しも悪化しており、ボルソナロ大統領の残りの任期が良いまたは素晴らしいと見ている人の割合は47%と、前回調査の51%から低下。悪くなる、またはひどくなると見ている人は、同27%から31%に上昇し、楽観的な見方と悲観的な見方の差がこれまでで最も小さくなった。【527日 ロイター】

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どこの国においても、支持率を左右する最大要素は「経済」ですが、ブラジルの場合、あまり芳しくありません。

 

****世銀によるブラジルの成長予想 1.5%に悪化****

世界銀行(WB)がブラジルの経済成長見通しを悪化させた。

 

4日付伯メディアによると、世界銀行は同日発表した世界経済の見通しについての報告書の中で、ブラジルの2019年の国内総生産(GDP)の成長予想をプラス1.5%とした。今年1月の発表ではプラス2.2%としていたが、一気に0.7ポイント引き下げた。

 

ただし、悪化はしたものの、プラス1.5%という予想はブラジルの金融市場による見方に比べてまだ楽観的だ。国内の100を超える金融機関のアナリストらの見方をまとめてブラジル中央銀行(BCB)が毎週発表する週次レポートの最新版によると、ブラジルの金融市場は同国経済の19年の成長率をプラス1.13%とみている。(後略)【66日 サンパウロ新聞】

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世界銀行(WB)が経済成長見通しを低くしたこと自体は、ブラジルに限った話ではなく、世界銀行は、アメリカと中国の間で緊迫している貿易紛争、投資を冷え込ませる構造的な諸問題、そして様々な国々、特にユーロ圏内における予想以上の減速といったリスクを背景に、世界経済全体およびラテンアメリカ経済の成長見通しも低く見直しています。

 

ただ、かつて「BRICs」ともてはやされたブラジルとしては1.5%という水準は不本意なレベルでしょう。

ラテンアメリカにおける経済的主導国という地位も、経済好調なメキシコに奪われつつあります。

 

人口動態の面から長期的にみても、ブラジルの生産年齢人口の伸びは低下しており、2030年にはマイナスに転じるということで、先行きの見通しはよくありません。【611日 森川央氏 「ブラジル経済の先行きに暗雲」より】

 

【課題の年金改革も難航】

経済界からボルソナロ大統領に期待されていたのは年金改革ですが、年金制度の改革というのは、あのプーチン大統領の支持率さえ急低下させたように、どこの国でも極めて困難な課題です。

 

日本でも、年金問題が焦点となっているように、政権にとって年金問題は鬼門です。ただ、将来を考えると避けて通れない問題でもあります。

 

****もたつく年金制度改革****

 期待感がしぼんできている原因の一つが、ボルソナーロ政権への失望である。政権発足時(1 月)のボルソナーロ政権への支持率は 651と高かったが、4 月には 32%に低下している。

 

家族の汚職疑惑や社会政策、銃規制緩和への警戒に加え、大統領の指導力への失望が人気低下に拍車をかけている。

 

そして特に、ビジネス界や投資業界で支持率低下が顕著である。ファンドマネジャーやエコノミスト約 80 人に対するアンケート調査によると、ボルソナーロ政権への支持率は86%(1 月)から 14%(5 月)に低下している

 

低下の理由は年金制度改革の遅れである。ビジネス界では年金改革への期待が大きかったので、新政権が国会内での多数派工作に手間取り、ほぼ 3 か月を空費したことが失望を招いたのであろう。

 

もっとも年金制度改革の見込みが消えたわけではない。(中略)

 

年金改革は今後の連邦政府の財政負担の軽減となるだけでなく、企業にとっても負担軽減が期待できる。また年金改革は経済構造改革のための大事なステップと考えられており、年金改革が成立すれば税制改革にも弾みがつくと期待されている。

 

従って、年金改革が実現すればブラジルの中長期的な成長率も上昇するというストーリーが描けるが、実際の効果については吟味する必要がある。【611日 森川央氏 「ブラジル経済の先行きに暗雲」

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【銃規制緩和で治安回復?】

ブラジルの抱えるもうひとつの問題が治安の悪化。

 

****17年の殺人被害者、6万5602人と過去最悪=ブラジル****

ブラジルの政府系機関「応用経済研究所」などは5日、2017年の同国の殺人被害者数が前年に比べ4.9%増加し、6万5602人に達したと発表した。殺人発生率は過去最悪の人口10万人当たり31.6人。世界銀行によると、16年の日本の発生率は0.3人、米国は5.4人。麻薬戦争が続くメキシコは19.3人だった。

 

銃器が使用された割合は72.4%に達した。ボルソナロ政権は治安対策として銃器をめぐる規制緩和を急いでいる。

 

犠牲者の9割は男性で、5割以上は若者、4分の3は黒人だった。15〜19歳の男性の死因で「殺人」は6割を占め、ファベーラ(貧困街)を牛耳る麻薬密売組織絡みの暴力が年々深刻化していることが浮き彫りとなった。【66日 時事】

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日本的発想では、治安を改善するためには銃規制を強化ということになりますが、「ブラジルのトランプ」ことボルソナロ大統領の発想は逆です。

 

****1人4丁まで所持可能 ブラジル、市民の銃規制を緩和****

南米ブラジルのボルソナーロ大統領は15日、市民の銃所持の規制を緩和する大統領令に署名した。警察による審査が簡素化され、25歳以上なら条件を満たせば銃を所持できる。ブラジルでは治安悪化が社会問題になっており、ボルソナーロ氏は大統領選で治安回復を公約に掲げ、市民が銃で武装すべきだと訴えていた。

 

ブラジルでは市民の銃所持は法律上認められてきたが、警察による厳しい審査があり、事実上、銃は買えなかった。今回の規制緩和で、犯罪歴や精神疾患がないなどの条件を満たせば、25歳以上なら1人4丁まで銃を所持できる。

 

ボルソナーロ氏は署名後、「これで善良な市民が家庭で平和を手に入れることができる」と演説した。ただし、銃所持が治安回復につながることを疑問視する市民も多く、直近の世論調査では61%が銃所持に反対だった。【116日 朝日】

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市民が銃で武装して治安回復・・・・どう考えても「逆効果」にしか思えませんが、「銃保持は個人の権利」と考える大統領ですから・・・。

 

なお、ブラジルでは刑務所内での受刑者同士の衝突が頻発しています。

 

****刑務所内での殺人事件が相次ぐブラジル、また1日に40人死亡****

ブラジル北部アマゾナス州の刑務所4か所で27日、受刑者が合わせて40人以上殺害された。当局が発表した。ギャング同士の抗争とみられている。

 

同国の刑務所は深刻な過密状態にあり、受刑者が施設内で死亡する事例が相次いでいる。アマゾナス州では前日26日にも、刑務所1か所で15人が死亡する事件が発生したばかり。

 

銃やナイフなどの凶器は使用されておらず、同州の発表によると、27日に殺害された受刑者らは「窒息死」したとみられるとしている。

 

刑務所関係者らの話では、事件は同じ犯罪組織に所属し、州内での麻薬取引に関わっていた受刑者らの衝突が原因で発生したと考えられるという。

 

政府は刑務所内の安全対策強化を目指し、職員を追加派遣した。【528日 AFP】

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ひょっとして、ギャングは刑務所内で殺し合いをさせとけばいい・・・・という、大統領の施策でしょうか?

 

【アマゾン開発の加速、政敵少数者への厳しい対応では“面目躍如”】

それはともかく、銃規制緩和は型破りな極右・元軍人大統領の面目躍如と言ってしまえばそれまでですが・・・ボルソナーロ大統領はこれまで、性的少数者の公民権上の権利はく奪につながりかねない大統領令にも署名。アマゾン地域の熱帯雨林での商業活動も認めています。

 

アマゾン地域の熱帯雨林での商業活動ということでは、アメリカに続いて日本も誘いを受けているようです。

 

“ブラジル大統領、アマゾン地域で「米国と共同開発望む」”【48日 ロイター】

 

****日本はアマゾン共同開発を=ブラジル大統領、首脳会談で提案へ****

ブラジルのボルソナロ大統領は20日、今月末の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)に出席する際に安倍晋三首相と首脳会談を行い、アマゾン熱帯雨林地帯の共同開発を提案する意向を明らかにした。経済発展を重視するボルソナロ氏は、NGOなどから、環境保護に後ろ向きだと批判されている。

 

ボルソナロ氏はフェイスブックに投稿した動画で「われわれは25日夜にサミットのため日本にたつ。日本の首相と個別会談を持ち、手を携えてアマゾン地域の生物多様性を(共同開発により)活用する協定を提案する」と述べた。具体的内容については明かさなかったが、「誰もアマゾンを破壊したいとは思っていない」と強調した。【622日 時事】

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この話がどうなったのかは知りません。

 

性的少数者への厳しい姿勢に関しては、性的少数者差別を禁じる最高裁判断をも強く批判しています。

 

****同性愛者差別違法化は「誤り」=最高裁判断に保守派大統領―ブラジル****

ブラジルで、連邦最高裁が同性愛者差別を犯罪と判断したことに、強硬保守派のボルソナロ大統領が「完全な誤りだ」とかみついた。同氏は過激な物言いで物議を醸すことが多く、最近では日本人を「ペキニニーニョ(ちっこい)」とやゆし、「差別的だ」と批判されている。

 

最高裁は13日、同性愛者や性転換者らへの差別は犯罪とする見解を8対3の賛成多数で決めた。同国では同性婚も認められているが、差別を禁ずる法的根拠はなかった。最高裁は、禁止法が制定されるまで、違反者には人種差別禁止法違反に準じて1〜3年の禁錮刑か罰金を科すとした。

 

これに不満を唱えたのは、かつて「息子がひげ面の男と現れるくらいなら、事故で死んでくれた方がまし」と発言するなど同性愛者への嫌悪を隠さなかったボルソナロ氏。

 

14日、記者団に「最高裁は尊重するが、決定は完全な誤りだ」と強調。経営者らが訴訟沙汰を恐れて同性愛者の雇用に慎重になるとして、かえって「同性愛者が損をする」と持論を展開した。【615日 時事】 

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【身内の犯罪関与疑惑も ガタつく政権内部】

“息子がひげ面の男と・・・”云々はともかく、息子の「犯罪」についてはどうなんでしょうか?

大統領の息子の犯罪関与についても問題となっています。

 

****ブラジル検察、資金洗浄疑惑で大統領の息子の銀行取引記録を捜査へ****

ブラジルの裁判所は、資金洗浄(マネーロンダリング)の疑いを巡り、ボルソナロ大統領の息子であるフラビオ・ボルソナロ上院議員と同議員の元運転手の銀行取引記録を捜査することを検察に認める方針だ。2人の関係筋が13日、ロイターに明らかにした。(後略)【514日 ロイター】

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政権内部もガタついています。

 

****ブラジル大統領がまた閣僚解任、政権発足半年で3人目****

ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領が13日、カルロス・アルベルト・ドス・サントス・クルス大統領府・政府調整庁長官を解任した。政権発足後の半年間で、閣僚の解任はサントス・クルス氏が3人目。

 

発足以来、ボルソナロ政権内部では軍出身者と極右イデオロギーグループとの対立が続いている。今回解任されたサントス・クルス氏は元軍司令官で、ボルソナロ氏の息子たちや、ボルソナロ氏の「師」と評され軍出身者に批判的な右派言論人のオラーボ・デ・カルバーリョ氏とも衝突していた。

 

ただ、サントス・クルス氏の後任に決まったルイス・エドゥアルド・ラモス・バプティスタ・ペレイラ氏は陸軍大将で、閣僚22人中の8人が軍出身者という構成は変わらない。

 

ボルソナロ氏は大統領就任以来、これまでにも2月にグスタボ・ベビアノ大統領府・事務総局長官を、4月にリカルド・ロドリゲス教育相を解任している。

 

ボルソナロ政権は公約としていた年金改革が発足直後から難航し、経済も悪化。政権への抗議デモが相次いでおり、14日にも労働組合が全国規模でのストライキとデモを呼び掛けている。【614日 AFP】

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【「本家トランプ」とは相思相愛】

これだけいろいろあれば、支持率低下もやむを得ないところでしょう。

ただ、「本家トランプ」との関係は“相思相愛”とか。

 

****「ブラジルのトランプ」と本家、相思相愛 G20で会談****

SNSを駆使した過激な発言から「ブラジルのトランプ」の異名を持つブラジルのボルソナーロ大統領が28日、大阪市で開幕した主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の会場で、「本家」のトランプ米大統領と会談した。

 

互いをたたえ合い、経済協力の強化などを話し合った一方、トランプ氏は注目が集まる米中首脳会談のアピールも忘れなかった。

 

ボルソナーロ氏は極右の元軍人で、かつての軍事独裁政権を礼賛し、拷問を正当化する発言などで物議を醸してきた。既存メディアからの批判を「フェイク(偽)ニュース」と決めつけ、言いたいことはSNSで一方的に流すなどの言動がトランプ氏に似ているとされる。トランプ氏をブログで礼賛する外交官を外相に据えるなどし、米国とは良好な関係づくりを目指してきた。

 

この日の会談で、トランプ氏は「彼は特別な男だ。よくやっている。ブラジルの人々にとても愛されている」とボルソナーロ氏を持ち上げた。ボルソナーロ氏も「(トランプ氏が)大統領選に出る前からファンだった」と応じ、次の米大統領選での再選を応援すると公言した。

 

ログイン前の続き米ホワイトハウスによると、トランプ氏はボルソナーロ氏の経済改革を支持し、ブラジルの経済協力開発機構(OECD)加盟が改革の後押しとなることを、ボルソナーロ氏と確認したという。(後略)【629日 朝日】

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「ブラジルのトランプ」が支持率を下げているのに対し、「本家トランプ」は岩盤支持層を維持し、再選をうかがう勢い・・・ということで、さすが「本家」は違うといったところでしょうか。

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