孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港  無力感・絶望感を払拭できないなかで、それでも続く抗議デモ

2019-07-18 23:14:38 | 東南アジア

(デモに参加した車椅子の高齢者たち=2019年7月17日【7月18日 朝日】)


【立法院乱入後も続く抗議デモ】

香港での「逃亡犯条例」改正案“撤回”、林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官の辞任を求める市民運動は、71日に過激な若者らが立法院に乱入して議場を占拠したことで、市民からの支持を失って終息に向かうのでは・・・との見方が強くなりました。

 

2014年の香港民主化運動「雨傘運動」の際も、一部の若者らの過激な行動が市民の批判を招き、運動が終息する一因となったということも想起されました。

 

1日の立法院乱入については、警察側が、若者らがそのような過激な方向に向かうように仕組んだのでは・・・、中国本土関係者が行動の過激化を扇動したのでは・・・といった見方も取り沙汰されていました。

 

“政府は破壊活動を待っていた? 香港暴徒化に渦巻く臆測”【72日 産経】

“香港デモ議会占拠は中国の自作自演。親中派と中国マフィアの陰謀”【75日 MAG2NEWS

 

一方、当局側は乱入参加者の拘束を加速

“香港デモで28人拘束 参加者の刑事責任追及、加速へ”【74日 朝日】

 

私も、「これで香港の抵抗運動も下火になるのかな・・・」とも思っていましたが、思いのほか抵抗運動はしぶとく続いています。

 

それだけ、香港市民の「逃亡犯条例」改正案に対する危機感、これを許せば香港の「一国二制度」は終わるとの危機感が強いということでしょう。

“逃亡犯条例改正撤回を…香港デモ23万人超”【77日 日テレNEWS24

 

抗議行動のエリアも拡大、抗議対象も中国関連の他の問題にも拡大する動きが。

 

****香港デモ、九竜側にも拡大 「運び屋」抗議で15人負傷*****

香港の「逃亡犯条例」改正案の撤回を求める抗議デモが14日、香港の九竜半島・沙田であり、市民ら11万5千人(主催者発表、警察発表は2万8千人)が参加した。

 

今月に入り、デモの現場は政府機関が集まる香港島から、対岸の九竜半島側の各地に拡大。警察との衝突も常態化している。

 

この日のデモには幅広い年齢層の市民が加わり、香港政府や警察を批判しながら1時間半ほど行進。沿道の店舗は多くがシャッターを下ろした。

 

デモ後、若者ら数百人が道路を占拠したため、警察が強制排除に乗り出した。警察は付近の商業施設の中に逃げ込んだ若者を追いかけ、買い物客らが一時、騒然となった。

 

九竜半島側では6日、中国本土出身者が広場などで楽しむカラオケの騒音がうるさいと抗議するデモが西部の屯門で発生。警察がデモ隊を強制排除しようとし、双方が衝突した。

 

13日には中国本土との境界に近い上水で、日用品を大量に買い付けて本土側に転売する「運び屋」に抗議するデモもあった。警察と若者の衝突で、15人が負傷した。

 

改正案が大きな問題となった6月までは香港島の大通りを行進するデモが中心だったが、最近は現場が香港各地に拡散。改正案撤回を明言しない香港政府への市民のいら立ちが深まるにつれ、批判の矛先も中国に関わる幅広い問題に向かっている。【714日 朝日】

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【中国指導部の意向を受けて動くしかない香港当局】

林鄭月娥長官は「改正案は死んだ」と表明することで収束を図りたいところですが、中国指導部の意向もあって「撤回」には言及していません。

 

中国指導部としては、いよいよどうにもならなくなったときに備えて「撤回カード」は温存しているとも。

 

****香港デモ1カ月、遠い収束 長官「条例改正案は死んだ」 「撤回カード」温存か****

(中略)林鄭氏が撤回を明言しないのは、後ろ盾の中国政府から撤回という言葉を使わないように指示されたとの見方が一般的だ。

 

中国政府が「お墨付き」を与えた政策が中止に追い込まれ、中国政府高官の責任問題にも発展しかねないからだ。

 

ただ一方で、親中派の有力者によると、民主派の五つの要求のうち、唯一、受け入れの余地があるのが改正案の「撤回」だという。抗議活動が激しさを増すなど情勢がさらに悪化した場合に備え、「撤回カード」を温存した可能性もある。(後略)【710日 朝日】

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林鄭月娥長官は、対処の方向性も中国指導部に制約されているうえに、その進退もままならぬ状況ということで、やや同情したくもなります。

 

デモ隊からは「辞めろ!」と言われていますが、辞められるものならとっくに辞めている・・・というのが実情のようです。

 

****香港の行政長官が辞任申し出か 複数回、中国政府が拒否*****

香港の「逃亡犯条例」改正案をめぐる抗議が続いている問題で、英フィナンシャル・タイムズは14日、香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官がこの数週間で複数回にわたり辞任を申し出たが、中国政府が拒否したと報じた。

 

やりとりを直接知りうる複数の消息筋の話として伝えた。中国政府は林鄭氏に「長官にとどまり、自分が生み出した混乱を片付けなければならない」と伝えたとの情報もあるという。

 

香港の行政長官は中国政府の承認がなければ、辞任できない。【714日 朝日】

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【中国指導部 市民の不満を先に発散させ、後で統治することを望んでいる】

でもって、中国指導部の方針は、流血事態で過激化するのを避け、時間をかけてガス抜きをはかるというのもののようです。

 

****中国軍の香港出動は検討せず 「不満発散が先」と地元紙****

18日付の香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは、香港から中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を巡り、香港担当の中国当局者が香港の政治危機の解決に向けた戦略策定を進めており、近く中国指導部に提示されると伝えた。

 

人民解放軍の出動は検討されていないという。消息筋の話としている。

 

また18日付の東方日報は、中国政府が関連部門に対し条例改正案を巡る情勢判断を誤ったことを叱責、「流血は望まない」とはっきり伝えたと報じた。

 

香港市民と警官隊の激しい衝突を避けるため、市民の不満を先に発散させ、後で統治することを望んでいるという。【718日 共同】

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ガス抜きしていけば、やがては・・・という余裕の対応にも見えますが、“人民解放軍の出動は検討されていない”と言いつつも、人民解放軍という言葉が出てくるだけで、いよいよの局面になれば・・・という怖さも感じさせます。

 

【抗議の自殺者 高齢者にも拡大する連帯】

抗議行動を続ける市民・若者側には自殺者が相次ぐといった悲壮な覚悟も。

 

****香港 「抗議の自殺」相次ぐ 運動過激化への懸念も****

香港の「逃亡犯条例」改正案に抗議して自殺する若者が相次いでいる。香港紙によると、3日には28歳の女性が「民主的に選ばれていない政府は私たちの訴えに答えない」と遺書に書き残し、命を絶った。

 

6月中旬以降、抗議の自殺をした若者は少なくとも4人。後追い自殺の誘発や抗議運動過激化への影響を懸念する声が上がっている。

 

香港紙によると、3日に自殺した女性の遺書には条例改正反対への思いのほか「何も変えることができない無力感で心がうちひしがれる」などと書かれていた。女性の友人は「明るく積極的な女性だった」と語った。

 

この女性のほか、6月15日に男性(35)▽同29日に女子大学生(21)▽同30日に女性(29)が条例改正反対や香港政府トップの林鄭月娥(りんていげつが)行政長官の辞任などを求めて抗議の自殺をした。

 

最初に自殺した男性が着用していた黄色いレインコートは運動の象徴になり、1日の立法会(議会)突入の際にも1階フロアに掲げられた。追悼集会もたびたび開かれて、相次ぐ自殺が若者らを過激な行動に駆り立てている恐れもある。

 

また、若者らの自殺がさらに連鎖する危険性も懸念され、市民団体やメディアなどは自殺防止を強く呼び掛けている。(後略)【75日 毎日】

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こうした若者らの思いを受けて、高齢者も抗議活動に参加。

 

 

****香港で「白髪の行進」、逃亡犯条例問題で高齢者が若者に連帯示す****

刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案に対する抗議活動が続いている香港で17日、数千人のお年寄りがデモを行い、政府に対する抗議行動をリードする若者への連帯を示した。

 

お年寄りたちによるデモは「白髪の行進」と呼ばれ、高齢者の多くや信頼できる保守的な市民も若いデモ参加者たちを支持していると親中派の香港指導部に訴える手段となった。

 

厳しい暑さの中、お年寄りたちが長い列をつくって香港市内を行進する光景は、年配の人々を敬う文化が根付いている香港では強い印象を与えるものだ。

 

参加者の中には「若者よ、父も外へ出る」と書かれたプラカードを掲げる人や、立法会(議会)の外に設置されたメッセージボードに「子どもたちよ、あなたたちは1人ではない」と書き込む人もいた。

 

ある女性参加者はAFPの取材に対し、1997年に香港が中国に返還されて以降、自由が失われていくことへの抵抗を自分たちの世代は十分に行ってこなかったと指摘し、「若い人たちが私たちにこれ以上沈黙するべきではないと気付かせてくれた」と述べた。 【718日 AFP】

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住民の意識も本土離れが進んでいます。

 

****若者の75%が「自分は香港人」 1997年返還以来、最高を記録****

香港大の最新の世論調査で、1829歳の若者の75%が「自分は香港人」だと回答、1997年の香港返還以降、最高を記録した。専門家は、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案への反対運動の盛り上がりで、香港への「帰属意識が強まった」と分析した。

 

「中国人」と答えた若者は、わずか2.7%。「香港人」に「中国の香港人」との回答を加えた「広義の香港人」は92.5%に。全体でも76.4%に上り、返還後最高値を更新した。

 

専門家は、6月の大規模デモで「香港人頑張れ」のスローガンが叫ばれ、香港は「ホーム」との感情が行き渡ったと指摘した。【75日 共同】

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【絶望感を払拭できないなかで抗議行動を続ける若者】

香港で抗議デモが活発に行われるのは、「一国二制度」のもとで議会が民意を十分に反映しておらず、民意を伝えるには抗議デモしかないとの事情もあります。

 

しかし、以前は民意の反映として一定に尊重されていた抗議デモも、現在は鎮圧の対象に。

 

****香港の若者は、絶望してもなぜデモに行くのか****

<どんなに抵抗しても、香港の自由は中国にどんどん奪われてきた。それでも戦い続ける若者たちの思いとは>

(中略)日本も参議院議員選挙の投票日を前にしているが、前回2016年の参院選の20歳代の投票率は35.6%と、同じ東アジアにありながら、香港と日本の若者の政治意識は対照的である。香港の若者は、なぜデモに行くのだろうか。

「民主はないが、自由はある」体制
1997年にイギリスから中国に返還された香港は、「一国二制度」方式で統治されている。社会主義中国の統治の下で、イギリスが残した資本主義の体制を維持するという意味である。

 

この体制の下での香港では、政治は中国の一党独裁体制の延長線上にあり、香港の民意よりも共産党政権の意向が政治を左右する。

 

他方、社会は欧米型の自由な市民社会であり、NGOやメディア等も活発で、政治的言論の発表やネットの利用などは自由である。このような、政治は権威主義、社会は自由という体制は、世界的にも極めて稀である。

このような体制では、選挙で民意を表すことは難しい。立法会の選挙は、半数の35議席しか普通選挙では選出されない。残り35議席は職業によって有権者を分類する枠となる。うち30議席は、財界人を中心とした、人口の3%ほどのエリートしか投票できない。企業経営者や専門職などの資格を持たない残りの約97%の一般市民は、「その他枠」5議席にしか投票権がない。

 

つまり、人口の3%30議席、97%5議席を選ぶので、一票の格差は途方もない。結果的に、議会は必ず、北京と良好な関係を持つ財界の既得権益層が主導することになる。

 

行政長官の選挙に至っては、上記約3%の有権者が1200人の委員を選び、その委員が長官を選ぶ仕組みであるから、97%には一切投票権がない。

しかし、民主主義国並みの言論や報道、集会・結社の自由は存在しているので、一般の香港市民が政治的な意思表示をしようと思えば、デモを行うことが一つの有力な方法である。

 

香港ではデモに行くことを「足で投票する」とも言う。自身の意思を直接政府に見せつけ、対応を求めるのである。香港は「デモの都」とも呼ばれ、警察統計では2018年には1097件ものデモが行われた。

非民主的な政府であっても、安定した政治のためには民意の支持が必要である。デモは政府にとっても民意を知るための重要な機会であり、その訴えは尊重することが慣例となってきた。(中略)


「雨傘運動」後の変化
こうした香港の「慣例」は、2014年の民主化要求の「雨傘運動」後は大きく変化する。

 

非民主的な体制を改め、「真の普通選挙」の実現を求めた若者らは、主要道路を3カ所で占拠して2カ月以上政府に圧力を加えた。しかし、決定権を持つ北京の中央政府は一切応じず、民主化推進はできないまま運動は終わった。世界的にも注目を集めた大抗議活動を政府は無視し、デモ尊重という香港の「慣例」は崩れた。(中略)

こうして、反対意見の表明や社会運動は無力化された。絶望の中で一部の若者は、これもまた「足で投票する」と称される、外国や台湾への移民を選択した。しかし、大部分の者は無力感をかみ殺して香港に生きるしかなかった。

体制を変える、絶望的な闘い
そこに突如、逃亡犯条例問題が浮上した。中国の司法は反体制派に対して極めて過酷である。香港で政治犯と見なされた者が大陸に送られる仕組みができたら、先述のような自由な社会という香港の特徴は失われ、若者の感覚では香港は終わりである。(中略)

この一連のデモへの対応により、若者の政府に対する信頼は完全に失われた。結局のところ、非民主的な体制は民意に応じないと悟った若者は、71日には立法会に突入した。

 

政府の紋章や立法会議長の肖像画といった権力の象徴が破壊されたことは、明らかに体制に対する不信を示している。雨傘運動後に沈黙していた、普通選挙を求める運動に再び火がつきつつある。

しかし、香港の体制を変えるには、北京を動かさねばならない。その難しさは皆が分かっており、香港の若者はどれだけデモを行っても、絶望感を払拭することはできない。

 

警察との衝突を繰り返しながら、そして、4名の自殺者まで出しながら、抗議活動は今も毎日のように続けられている。(後略)【718日 倉田 徹氏 Newsweek
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「一国二制度」という枠組みにあっては、抗議デモで中国指導部を動かし、完全な勝利を獲得することは非常に困難です。いよいよ混乱が深まれば、人民解放軍の出番も。

 

国際社会も、中国主権下にある香港の状況への対応には限界があります。

 

出口を見出す長期的展望は開けていませんが、少なくとも今「逃亡犯条例」改正案を認めれば香港の「死」を認めることにもなる、それだけは何としても避けたい・・・・そんな悲壮な思いで続く香港の抗議デモです。

 

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インド「構造的水不足」、アメリカ「巨大帯水層発見」、ペルー「アムナス」 水資源への対応

2019-07-17 22:09:07 | 環境

(【ウィキペディア】インドは昔から水をいかに利用するかが大きな問題でした。画像は巨大な階段井戸のひとつ。「井戸」という言葉が不適当なほど巨大で壮麗な建築物です。)

 

【インドでは、高度または極度の「水ストレス」に6億人が直面している】

インドでは先月まで深刻な熱波・水不足が報じられていましたが、最近の状況はどうなっているのでしょうか?

 

インドでは一番大きな降水量をもたらす南西モンスーン(6月初めごろに南部から雨季が始まり、7月初めごろに国全体が雨季に入る)の季節に入っていますので、水不足も解消しているのでしょうか?

 

ただ、今年の水不足が一時的に解消したとしても、インドも水不足は降水量の長期的減少、人口増にともなう水需要の増大、非効率的水利用といった構造的要因によるものですから、今後も、より深刻な形で繰り返されることが懸念されます。

 

****200人以上死亡の熱波につづき、インドの水不足が深刻****

5月末から記録的な熱波が続くインドで、今度は水不足が深刻な問題となっている......

昨年の南アフリカにつづき、今年はインドで深刻な水不足に

20181月、南アフリカ共和国のケープタウンでは、記録的な干ばつに伴って水不足となったことから、3ヶ月後の412日を「デイ・ゼロ」と称し、その日以降、水道水の供給を停止し、市民には給水所を通じて生活用水を提供すると発表した。

 

その後、市民による節水活動などが奏功し、「デイ・ゼロ」は免れたが、世界的に都市居住者が増加するなか、都市部での水不足について警鐘を鳴らす事象としても注目された。

2019
6月現在、インドも同様の危機的状況に陥っている。慢性的な干ばつに加え、20195月末から続く記録的な熱波が続いている。618日にも、ニューデリーで6月では過去最高の48度を記録し、これまでに200人が死亡している。

インド南東部チェンナイでは、4カ所の貯水池すべてがほぼ干上がっている

こうした影響で人口約465万人を擁するインド南東部の都市チェンナイでは、4カ所の貯水池すべてがほぼ干上がり、チェンナイ都市圏上下水道公社(CMWSSB)が水供給量を約40%削減する措置を講じた。

公営水道を利用する605千世帯では世帯あたり1120リットルが供給されてきたが、この措置により水供給量が170リットルにまで減らされている。

このような深刻な水不足は、市民の日常生活や経済活動に大きな影響を及ぼしている。ロイターの報道によると、私設の給水ポンプには生活用水を求める市民が長時間にわたって列をなし、多くのホテルや飲食店が臨時休業しているほか、企業のオフィスでも食堂やトイレでの水の使用が制限されているという。

インド国内の21都市で地下水が枯渇し、1億人以上に影響が出る
水不足は、チェンナイにとどまらず、インド全土で懸念されている。インドでは、集水システムが十分に整備されておらず、地下水に依存している地域が多い。長年、地下水源を得るために地面を掘削し続けてきた結果、地下水の枯渇も深刻だ。

インドで水不足の解消に取り組む非営利団体「FORCE」の代表ジョティ・シャーマ氏は、米テレビ局CNNの取材に対して「インド政府は、国民が水を確保できるよう懸命に取り組んでいるが、地下水源が枯渇するスピードは年々速くなっている」と述べている。

インドの行政委員会(NITI Aayog)が20186月に水資源省らと共同で策定した報告書によると、インドでは、高度または極度の「水ストレス」に6億人が直面している。

この報告書では「2020年までに、デリーやバンガロールを含むインド国内の21都市で地下水が枯渇し、1億人以上に影響が出る」とし、「2030年までに水の需要量は供給量の2倍となる。多くの国民にとって水不足はさらに深刻となり、インドの国内総生産(GDP)の6%程度のマイナス影響が見込まれる」との予測を示している。

 

シャーマ氏は「降雨量の変化に適応した貯水をしなければ、都市であれ、村落であれ、インド全土で水不足がより深刻になるだろう」と警告している。【624日 Newsweek

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****インド全土の4割以上が干ばつ状態に****
(中略)インドでは年間降水量の75%以上が69月の4カ月間にもたらされる。他方、それらの時期を除けば降水量が少なく、多くの地域で雨の降らない日が続く。

 

また、降水量は地域によって大きく異なり、例年、南部のケララ州などのある西ガーツ地域、北東部のヒマラヤ近郊地域やメガラヤ丘陵地域は年間2,500mm以上の降雨があるが、インド最北端のカシミールや西部ラジャスタンの年間降水量は400mmに満たない。

 

インドでは、農業セクターが水消費量の約8割を占めるとされるが、灌漑インフラが十分に整備されていない地域も多く、降水量の多寡はダムや河川などを介しての水の供給に大きな影響を与える。

 

しかし、このようにインドにとって重要な降水量が、近年では減少傾向にある。19512000年における降水量の記録から算出される標準降水量と、20002017年の降水量を比較すると、2000年以降の18年間の年間降水量は平均1,108.7mmしかなく、これは標準降水量の93%に過ぎない。

 

その間、2001年には102,874万人(国勢調査)だった人口は、2011年に121,019万人(国勢調査)となり、2019年時点では135,177万人(IMF)に上ると推計されている。

 

これは2000年以降の18年間で、降水量がそれ以前より平均7%少ない状態が続く一方で、人口が約30%増加したことを示している。

 

地下水の水位が減少、深い井戸も多く存在

インドでは、地下水も重要な水資源の1つとなっており、水供給の40%を占めるとされる。ところが、近年、この地下水の水位が大きく減少している。

 

政府諮問機関のインド行政委員会(NITI Aayog)は、20186月に発表した「複合的な水管理指標(CWMI)」に関するレポートの中で、世界銀行など外部機関のレポートを引用し、「過剰取水により全国で54%の井戸の地下水位が低下、2020年にインドの主要21都市で地下水が枯渇し、1億人に影響が出ると予想される」とした。

 

実際に、井戸の地下水位がすでに深くなっている地域も多い。中央地下水委員会の「地下水年鑑2017年度PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(14.2MB 」によると、20181月時点で調査された井戸のうち、地下水位が20mより深い井戸が、北西部のラジャスタン州では37%、同パンジャブ州では28%となっている。

 

降水量の減少や人口増加、地下水位の低下など水が不足する中で、今後、インド政府としてどのような対策をとるのかが問われるだろう。 【710日 JETRO

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2000年以降の18年間で、降水量がそれ以前より平均7%少ない状態が続く一方で、人口が約30%増加”ということであれば、水不足が深刻化するのも当然の結果でもあります。

 

そういう状況であれば、少なくとも水資源利用を工夫する必要がありますが、インドの場合、少ない水資源を無駄にしている面が多々あります。

 

モディ政権も、こうした状況を座視している訳でもありませんが、どこまで対応できるのか・・・・。

 

****2期モディ政権、水専門の省庁を設立(インド)****
深刻化するインドの水不足とモディ政権の取り組み

 

(中略)

深刻化する水不足、農業セクターでの非効率的な水利用が課題

インドにおける水不足は、近年の降水量の減少、急激な都市化と人口増加に伴う水使用量の増加、地下水の過剰採取による地下水位の低下、水関連インフラの未整備など複数の要因が重なることで、深刻化していると考えられる。

 

これらの中には抜本的な対策が困難なものも含まれるが、取り組みによって各地で発生する水不足を軽減・改善しうるものもある。

 

まず、水消費量の約8割を占めるとされる農業セクターにおける水の使用を効率化することが求められる。インドの耕作地に対する灌漑普及率は34.5%にとどまっており、農家の多くが地下水を使用しているが、耕作量の増加に伴って水の使用量が増え、地下水の過剰採取につながっているとされる。加えて、農作物に対する水の利用効率が悪いことが、農家の過度な水利用の原因となっているとの指摘もある。

 

供給面では、水道インフラの更新と整備が求められる。インドでは、敷設された配水管の老朽化による破損などで、給水源から各家庭や工場などユーザーに届くまでの漏水率が約40%に上るとも言われる。

 

また、水道普及率が高くなく、農村部での普及率は18%にとどまるため、水道のない家庭の多くが井戸水を利用している。都市部でも水道インフラや水の供給が十分でないところなどでは井戸水が利用されているほか、水が不足する際には水道当局や民間企業が郊外の水源などから水をくみ上げ、タンクローリーで運搬して各ユーザーに届けるなど、非効率な供給が行われている。

 

さらに、多くの地域で年間を通じて雨が降る時期が限られているため、雨季の間に貴重な雨水を無駄なく貯留することや、汚水を処理して再利用することが重要になる。

 

インドでは雨水の利用率が低い上に、汚水の約7割が未処理とされるため、雨水貯留設備や排水処理施設などのインフラを整備することにより、供給可能な水の量を増やす余地がある。

 

水不足軽減・解消に向けた2期目のモディ政権の取り組み

深刻化する水不足を解消していくためには、中央・州政府が協力し、包括的な対策を行うことが不可欠であり、2期目を迎えたナレンドラ・モディ政権もその重要性を認識している。

 

モディ政権は531日、従来の水資源・河川開発・ガンジス川再生省と飲料水・公衆衛生省を統合し、選挙マニフェストに掲げていたジャル・シャクティ(Jal Shakti)省を新設した。ジャル・シャクティとは、ヒンディー語で「水の力」を意味し、同省は水資源の開発や規制に向けた政策やプログラムの策定などを所管する。

 

(中略)インド憲法では水に関する立法権は州政府の所管事項とされているが、モディ政権は州政府と協力し、水不足解消に向けて取り組む姿勢を全面に出している。

 

加えて、同会合(615日、NITI Aayogの第5回会合)の冒頭では、モディ首相が「中央政府の水に関する諸問題に対する統合的アプローチの主な目的の1つは、2024年までに全農村へ水道を普及させることだ」と述べたという(タイムズ・オブ・インディア紙、616日)。

 

1期目のモディ政権は、38%しか普及していなかったトイレ施設を99%Swachh Bharat Mission公表値)まで普及させた。

 

現在、水道普及率が20%以下にとどまる農村に水道を普及させつつ、喫緊の課題である水不足解消に向けた取り組みをどのように推進していくか、2期目のモディ政権の政策が注目される。 【710日 JETRO

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38%しか普及していなかったトイレ施設を99%まで普及させた”・・・・どこから出てきた数字でしょうか?

統計数字の細工は、問題の解決を遅らせるだけで困りますが・・・・。

 

より長期的な話をすれば、インドを含む南アジアおよび東南アジアの水源となっている巨大河川が、温暖化の影響によるヒマラヤ氷河の急速な縮小によって枯渇していくという大問題もあることは、かねて指摘しているところです。

 

【アメリカ 巨大な帯水層の発見】

水資源の不足・枯渇はインドに限らず、世界的にみられる現象ですが、アメリカでは巨大な帯水層が海底下にみつかったという“朗報”も。

 

****水不足に希望!? 巨大な帯水層がアメリカ北東岸沖の海の下で見つかる****

<アメリカ大西洋岸で350キロメートル以上にわたって、巨大な帯水層(地下水を含んでいる地層)があるらしいことがわかった......

 

アメリカ北東岸沖の海底下で巨大な帯水層(地下水を含んでいる地層)が見つかった。この帯水層の長さはマサチューセッツ州からニュージャージー州にわたる50マイル(約80.5キロメートル)以上にわたり、これまでに見つかった帯水層の中で最大級のものだ。(中略)

 

この測定データを分析したところ、帯水層はアメリカ大西洋岸で350キロメートル以上に伸び、2800立方キロメートルの低塩分地下水を擁しているとみられる。氷河期に大量の水が地下の地層に蓄えられたと考えられている。(中略)

 

水不足地域で、貴重な水資源となる......

2018年に南アフリカ共和国のケープタウンで深刻な水不足となり、20196月以降、インド南東部のチェンナイでも水不足が続いている

 

今回アメリカ北東岸沖で見つかった海底下の帯水層から取水する場合、ほとんどの用途で淡水化する必要はあるものの、キー准教授は「淡水化に要する費用は、海水の淡水化に比べてずっと少ない」と指摘。

 

「カリフォルニア州南部やオーストラリア、中東など、水不足の課題を抱える他の国や地域で大きな帯水層が発見できれば、貴重な水資源となるだろう」と期待感を示している。【73日 Newsweek

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【南米ペルーの「アムナス」 先住民の知恵を取り戻して再評価し、現代科学で補って、今ある課題に解決策を与える】

新たな水資源開発だけでなく、水利用の効率化を図っていく必要があるのは、インドの事例でも指摘されているところです。

 

古代より人類の歴史は、水利用の歴史でもありました。

中国・黄河の治水、エジプトのナイル川洪水の利用、アンコールワットに見られる大規模な治水・灌漑システム等々。

 

インドにも、世界遺産にもなっている「階段井戸」と呼ばれる壮麗な巨大井戸が存在します。

 

そうした過去の人類の叡智を現代でも活用できる事例もあるようです。

昔からある水利用システムと言うと、中央アジアから西アジアにかけての水利システム「カレーズ」(カナート)が思い浮かびますが、下記記事は南米ペルーの「アムナス」に関するものです。

 

****1400年前の古代水路が現代の水不足を救う、研究****

南米ペルー沿岸部の砂漠には、長い乾期がある。そしてこの地域で古代に栄えてきた文明、インカやナスカ、チャビン、ワリなどは、いずれも雨期の降水を最大限に活用する方法を知っていた。

 

首都リマから車で2時間のところにあるアンデスの山村、ウアマンタンガでは、住民たちが今も1400年前の技術を利用している。古代水路「アムナス」だ。

 

アムナスは石造りの浅い水路で、雨期に降った雨水はここを通って砂と岩の多い場所まで流れていき、地中にしみ込む。水は地表より地下の方がゆっくりと流れるため、地下に入った雨水は、しばらく経った後で地中から泉となって湧き出る。つまり、雨期の水が乾期に使えるようになっているのだ。

 

このほど、この古代水路アムナスの機能が初めて調査された。アムナスはアンデス高地の各地にあり、放棄されたものも多い。だが、修復して活用することで、世界第2位の砂漠都市であるリマをどれだけ支えられるか、研究者たちが試算した。

 

人口1000万に届こうとしているリマではダムや貯水池を設けているものの、それでも不十分で、平均的な乾期には4300万立方メートルの水が不足する。リマの水の総需要は、年間84800万立方メートルだ。

 

雨期にリマク川流域を流れる水の34.7%をアムナスに移すことで、9900万立方メートルの水を乾期に備えて貯めることができ、これは必要量の2倍以上になると、研究者たちは報告している。この研究結果は、学術誌「Nature Sustainability6月号に掲載された。

 

研究チームは、染料を使った追跡調査と、流路に沿った水量の計測から、古くからの水路によって水が実際に地下に移動し、山を下り、最終的に泉から出てくることを示した。そのタイムラグの長さが、大きな発見の1つだった。水は2週間から8カ月後に再び地表に現れ、地下を流れる平均期間は45日だった。

 

アムナスの利用を増やせば、乾期初めのリマク川の流量を33%増やすことができ、水の管理者が貯水池に頼るタイミングを遅らせることができそうだという。

 

古代水路アムナスの驚くべき正確さ

研究者たちは、地元の人々の助けを得て、どの水路がどの泉につながっているのかという位置を把握した。それが「とても正確」だと染料テストで証明され「驚かされました」と、論文の筆頭著者、ボリス・オチョア=トカチ氏は話す。

 

英インペリアル・カレッジ・ロンドンの土木技師である同氏は「先住民の知恵を取り戻して再評価し、現代科学で補って、今ある課題に解決策を与える」ことに大きな潜在力があるのを示した、と語っている。

 

気候変動の影響で、氷河や雪塊といった自然の貯水機能が失われつつあることを考えると、アムナスの復旧はとても有効ではないかと、米カリフォルニア大学デービス校の水文地質学者、グレアム・フォッグ氏は話す。(中略)

 

大型ダムは水不足の解決策にはならない

(中略)「アムナスは人が作ったものですが、水は土壌の中に蓄えられるので、自然に根差したシステムだと考えられます」と、オチョア=トカチ氏は話す。(中略)

 

アムナスのような解決策は、(大型のコンクリートダムのような)灰色のインフラの約10分の1の費用で済むとオチョア=トカチ氏は話す。

 

しかも、気候変動でペルーの降水パターンは変化しており、雨期はより雨が多く、乾期はますます雨が少なくなる傾向にある。この新たな現実に水の管理者が適応しようとしている今、費用がかさむ大型ダムを建設することは解決にならない、と研究チームは示唆している。

 

むしろ、広い範囲でアムナスを修復する方が安価であり、必要に応じて修復する数を増やすこともできるので、より柔軟なアプローチになる。

 

リマの水の未来を守るには、自然だけでなく古代と現代の技術を用いたハイブリッドの手法をとることが必要だと、論文は結論付けている。【712日 NATIONAL GEOGRAPHIC

****************

 

「先住民の知恵を取り戻して再評価し、現代科学で補って、今ある課題に解決策を与える」・・・・ロマンのある話ですね。

 

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多様性ということ トランプ「国に帰れ」発言 黒人女性の007 日本語NGの店もある川口市

2019-07-16 23:06:08 | 難民・移民

2019年には外国人比率が54.5%に達した川口市芝園町【714日 新山 勝利氏 東洋経済ONLINE】)

 

【白人を主とする支持層向けの再選戦略 民主党を急進左派に引き寄せる“罠”とも】

トランプ米大統領が、野党・民主党の非白人系の女性議員らを念頭に「アメリカが嫌ならば、出ていけばいい」といったツイート・発言を繰り返し、人種差別的だとの批判を浴びているとは周知のところです。

 

他の政治家だったら政治生命にかかわるような発言ですが、トランプ大統領の場合、「ああ、またか・・・」で終わってしまうところが大きな問題でもあります。アメリカ・世界には“トランプ疲れ”みたいなものも。

 

今回発言に関しては、当初、与党・共和党は音なしの構えとも言われていましたが、ここにきて、さすがに批判が出ているようです。

 

****トランプ氏「嫌なら出ていけ」発言に非白人系女性議員ら反論、与党からも批判****

米国のドナルド・トランプ大統領が、野党・民主党の非白人系の女性議員らを念頭に「米国が嫌ならば、出ていけばいい」と述べたことは極めて人種差別的だとして、民主党のみならず与党・共和党の一部からも批判を浴びている。

 

トランプ氏は14日にまずツイッターへの連続投稿で民主党議員らを攻撃し、米国が嫌なら出身地に戻ればいい、と述べた。

 

さらに15日、ホワイトハウスで行われた米国製品の広報イベント「メード・イン・アメリカ」に出席したトランプ氏は報道陣に対し、「彼らは文句しか言わない」と発言。「彼らは米国を嫌悪する人々だ」「ここが嫌ならば、出て行けばいい」などと語った。

 

さらに「(国際テロ組織)アルカイダのような米国の敵」を愛する者たちだとも述べた。

 

記者から、発言を人種差別的と捉える人が多いが気にならないかと聞かれたトランプ氏は、「心配ではない。多くの人が私に同意しているから」と答えた。

 

トランプ氏は議員の名前を挙げなかったが、同氏が念頭に置いていたのは、前回の下院選で初当選を果たした、プエルトリコ系のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏、ソマリア生まれのイルハン・オマル氏、パレスチナ系のラシダ・タリーブ氏、アフリカ系のアヤンナ・プレスリー氏の4人とされる。いずれも民主党の女性議員だ。

 

15日のトランプ氏の発言から数時間後、4人の議員は記者会見を開き反撃した。プレスリー氏は、トランプ氏のコメントは「ゼノフォビック(外国人嫌い)で偏見の塊」だと非難し、「私たちを黙らせることはできない」と語った。

 

またオマル氏は、トランプ氏が4人の「有色」議員に「露骨に人種差別的な攻撃を行った」と述べ、「これは白人国家主義者の考え方だ」と述べた。さらにオマル氏とタリーブ氏は、トランプ氏の弾劾を求めるという従来の主張を繰り返した。

 

■冷徹で強硬な大統領選戦術?

トランプ氏の一連のコメントの直後から民主党議員らは批判していたが、共和党議員らは当初沈黙していた。しかし15日になり、トランプ氏のお膝元である与党からも非難の声が上がり始めた。

 

ツイートおよびホワイトハウスでのトランプ氏の言葉は「破壊的で人を卑しめ、不和をもたらすものであり、率直に言って非常に悪い」と批判したミット・ロムニー氏、「大統領の悪意に満ちた発言は弁解のしようがない。絶対に容認できない」と断じたリサ・マカウスキ氏ら上院議員が次々と批判を展開。

 

下院では共和党唯一のアフリカ系議員であるウィル・ハード氏が米CNNテレビに対し、トランプ氏の振る舞いは「自由世界の指導者として不適切」だと述べた。

 

トランプ氏のコメントは2020年の次期米大統領選へ向けて、白人を主とする自身の支持層へ向けてアピールする狙いがあるとみられ、人種間の緊張を引き起こし、また自らの政敵らの分裂をかき立てている。

 

バラク・オバマ前大統領の2回の大統領選で選挙参謀を務めたデービッド・アクセルロッド元大統領上級顧問はツイッターに次のように書き込んだ。

 

「一連の意図的な人種差別的投稿によって、@realDonaldTrump は標的(訳注 非白人系議員)に注目させ、民主党を彼らの擁護に走らせ、彼らを民主党全体の象徴とすることが狙いだ。これは冷徹で強硬な選挙戦術だ」「シートベルトを締めよう。大統領選が近づけば、もっとひどくなるだけだ」

@realDonaldTrump 」はトランプ大統領のツイッターのアカウント。 【716日 AFP】AFPBB News

*******************

 

民主党や一部共和党内部からの批判はあるものの、トランプ大統領が言っているように、支持層の多くは「そうだ!」と喝さいを叫んでいることでしょう。

 

そのあたりが、“2020年の次期米大統領選へ向けて、白人を主とする自身の支持層へ向けてアピールする狙いがあるとみられ、人種間の緊張を引き起こし、また自らの政敵らの分裂をかき立てている。”という選挙戦略にもなる訳ですが、いくら再選のためとは言え、こんな分断を煽るようなことをしていいのか?

 

トランプ大統領は、それまで各自が“思ってはいるが、口にすることはためらわれる”ようなことを自ら口にすることで、本音で語る政治家として人気を博しています。

 

ただ、そのことは本来は理性的に対応すべきことがらについて、“本音”と称する感情の赴くままに行動することが許されるという形で、パンドラの箱を開け、世の中に憎悪や敵意が満ち溢れる形にもなっています。

 

トランプ大統領の政策がどうこう、恫喝的な外交の成果がどうこう・・・といった話よりも、この「パンドラの箱を開けてしまった」ことがトランプ政治の一番の問題ではないでしょうか?

 

話を今回の発言に戻すと、民主党がトランプ批判の流れで、急進的な4人に寄り添う形にむかうことは、トランプ大統領の仕掛けた罠にはまるものだ・・・との指摘もあります。

 

****「国に帰れ」ツイートはトランプ大統領が仕掛けた罠か 民主党が“独立愚連隊”周辺に結束****

(中略)

民主党幹部と対立する4人の“独立愚連隊”

(トランプ大統領ツイートの対象とされる)その4人というのはアレキサンドリア・オカシオ・コルテス議員(ニューヨーク州)アヤナ・プレスリー議員(マサチューセッツ州)ラシダ・タライブ議員(ミシガン州)イイハン・オマール議員(ミネソタ州)で、いずれも昨年の中間選挙で初当選した新人議員だが米国政治では極左とも言える立場をとって民主党幹部とはことごとに対立しており、党内の「独立愚連隊(squad)」とも呼ばれている。

 

また彼女らは、オカシオ・コルテス議員がプエルトリコ系、プレスリー議員とタライブ議員はアフリカ系、オマール議員はソマリア生まれといずれも白人ではないので大統領のこのツイートは「人種差別」と直ちに民主党側から非難の声が巻き起こった。(中略)

 

当然のことながら民主党内からは彼女らを支援する発言が続き、来年の大統領選への出馬を表明している民主党の候補者も全員が彼女らの主張に賛意を表明した。

 

こうなると、トランプ大統領にとっては取り返しのつかない「失言」だったように思えるが、実は大統領が計算づくで仕掛けた「罠」だったという見方もある。

 

トランプ大統領が仕掛けた罠か

反トランプの立場を貫いているNBCニュースのサイトに「トランプは民主党が急進左派に縛られるよう期待し、その通りになった」という分析記事が16日掲載された。

 

それによると、トランプ大統領は来年の大統領選で対立候補が誰であれ急進過激派に近ければ「国を率いるには過激すぎる」と攻撃して有利な立場になると計算してシナリオを作り、まず「独立愚連隊」に攻撃を仕掛けた。

 

案の定民主党内では反発が広がり、もともとは「独立愚連隊」と党内で対立していたペロシ下院議長も大統領の主張は「米国を白人第一に」とするものだと非難する声明を発表した。

 

大統領の狙い通り、民主党を「独立愚連隊」の周囲に結束させることになったわけだが、これについてNBCニュースの分析記事はこう評している。

 

「トランプが喋ったりツイートする誹謗中傷の全てが彼の天才的な駆け引きの賜物であると考えるのは間違いだが、彼のメッセージが何の思惑もなく発せられていると考えるのも間違っている」

 

民主党は、トランプ大統領の「罠」にハマったのだろうか?【716日 木村太郎氏 FNN PRIME】

********************

 

トランプ大統領がどこまで「シナリオ」を練ったのかは定かではありませんが、急進左派からの批判は怖くない、むしろ民主党が急進左派の方向に行けば自分の再選戦略には有利だ・・・ぐらいの思いはあるでしょう。

 

トランプ大統領にとっての問題は、批判が急進左派議員擁護のレベルにとどまるのか、あるいは、アメリカ建国の理念・価値観・良識に反する言動として幅広い批判に広がるかどうかですが、「どうなるか、様子を見てみよう」と言うしかないですね。

 

【最新作では「007」が黒人女性に引き継がれる設定 「ポップコーンを落とす瞬間」】

話は飛びますが、イギリスからの話題。

 

****「007」は黒人女性=来年公開の最新作、英に衝撃****

2020年公開予定の英人気スパイ映画「007」シリーズ最新作で、黒人女優のラシャーナ・リンチさんがコードネーム「007」のスパイを演じることが明らかになった。英メディアが15日までに一斉に報じた。

 

主人公ジェームズ・ボンドはこれまで通り男性俳優ダニエル・クレイグさんが演じるが、最新作ではボンドがスパイを退任し、「007」が黒人女性に引き継がれる設定になるという。

 

「007」を白人男性以外が演じるのは25作目にして初となる。報道を受け、英国では「ポップコーンを落とす瞬間だ」(デーリー・メール紙)などと衝撃が広がっている。

 

メール紙によると、最新作ではボンドが英情報機関・対外情報部(MI6)を去り、ジャマイカで余生を過ごしているところから物語が始まる。情報機関の責任者が「007、入れ」と呼ぶと、リンチさんが演じる黒人女性が登場するシーンがあるという。【716日 時事】 

********************

 

トランプ大統領やその支持者は、こういう事態がアメリカでも起きるのが嫌なのでしょうね。

 

【なし崩し的“移民大国”日本 外国人が5割を超える地域も】

一方、外国人に門戸を閉ざしているとされてきた日本も“隠れた移民大国”になりつつあるとか。

 

総務省が10日に発表した住民基本台帳に基づく今年1月1日現在の人口動態調査によれば“日本人と外国人を合わせた総計(1億2744万3563人)に占める割合も2.09%と、外国人を調査対象に加えた2013年以降、増加傾向が続いている。”【710日 毎日】というのは、報道のとおり。

 

日本人の人口減少を外国人が補う形にもなっています。

 

その結果、特定地域によっては、外国人がメインになるような地域も出現しています。

 

****日本語NG店も「川口」のディープすぎる街の姿  在留外国人数は全国3位で中国人が最も多い****

メニューは中国語だけで、日本語や英語表記は見当たらない。店員とのやりとりは基本中国語。片言の日本語や単語で行うが、わからない場合は苦笑いですごされる。

 

この店があるのは中国ではない、埼玉県川口市だ。西川口の駅前を歩くと中華料理店や中国語で書かれた看板が目に入る。

2

0194月、政府は「改正出入国管理法」を施行、外国人労働者の受け入れが拡大された。新たな在留資格の目的の1つには、深刻な人手不足に対応するための即戦力を受け入れる目的がある。事実上の移民政策の解禁で、日本が大きく舵を切ったといえる。

 

在留外国人総数は全国の自治体で3

そんな中、中国人の急増で大きく変貌した街が埼玉県川口市だ。今では外国人の入居者も増えており、「日本の未来予想図」といっても過言ではないだろう。本稿では埼玉県川口市の西川口駅前のチャイナタウン化と外国人比率が5割を超える芝園町の現状についてレポートする。

 

川口市の人口は約60万人で、県庁所在地のさいたま市に次ぐ県内2位だ。20184月より中核市(県から一部権限が移譲)となった。在留外国人総数は全国の自治体で3位、35988人いる。もちろん、埼玉県内でも1位だ。

 

川口市の国籍別で住民をまとめると、中国人が圧倒的に多いことがわかる。

 

1990年代から中国人の住民数が増加

1962年に公開された映画『キューポラのある街』は川口市が舞台。鋳物の街キューポラ(鉄の溶解戸)が多く見られ、多くの韓国・朝鮮人労働者が働き、在日朝鮮人が帰還問題で悩むシーンも描かれていた。

 

1979年当時、韓国・朝鮮の住民数は1910人、中国は86人しかいなかった。それが1993年にそれぞれ2601人、2683人になり中国が追い抜き、2019年には3047人、21036人と約7倍の差がついた。この鋭角の右肩上がりの人口増加は、今後も増えていくだろう。

 

2004年、埼玉県警が西川口駅周辺を「風俗環境浄化重点推進地区」に指定。最盛期に約200店舗もあった違法性風俗店が摘発され徐々に姿を消した。その後、撤退と入れ替わりに中国系の飲食店、商店が進出した。

 

冒頭で紹介した西川口駅近くにある大鍋料理店を訪れた。中国・東北部で食べられている大鍋料理は、東京都内などでもあまり見たことがなく、とても珍しい存在だ。ここに東北部出身の中国人が、故郷の味を求め足しげく通っている。(中略)

 

西川口駅前だけでなく、市内で中国化が進んでいるのが川口芝園団地だ。

 

川口芝園団地は1978年に入居を開始、JR京浜東北線、蕨駅から徒歩815分だ。駅は隣の蕨市にあるが、団地の住所は川口市になる。蕨駅は「埼玉都民」のアクセスとしては最適であり、池袋・新宿・渋谷・東京駅など、都心へも30分ほどでアクセスできる。団地から駅まで徒歩に時間差があるのは、大規模な団地で横長に距離があり、15号棟も連なり2400戸超もあるためだ。

 

外国人比率は5割超

川口市芝園町は川口芝園団地の9割程の面積を占めるが、2016年にとうとう外国人が日本人の人口を抜き、2019年には外国人比率が54.5%に達した。

 

現地や川口市役所などで取材したところ、住んでいる日本人は高齢者が多く、外国人のなかでは中国人比率が60%を超えているそうだ。「中国人が90%」と書いてある記事もあるが、そこまではいないという。

 

中国人は子どもの教育に関心が高く熱心だ。実は芝園団地には、日本で生まれたり日本にきたりして中国の言葉を忘れさせないため、子女たちが通う補習校の分校があった。

 

現在は生徒数が多くなり、団地近くに移転した。その補習校自体は関東を中心に10校以上あり、1500人の子どもたちが通っている。ニーズのないところに開校はしないので、これから違う街にも多くの新チャイナタウンが生まれるであろう。

 

川口芝園団地自治会は、2018年多文化共生の優秀な事例として、独立行政法人国際交流基金から「地球市民賞」を表彰された。交流イベントの開催、中国語のSNSを活用した情報発信など、自治会の地道な取り組みの結果、中国人の自治会役員も誕生し、共生の意識の根付く活気にあふれる団地が受賞理由だ。

 

川口市では2018年度からスタートする「第2次川口市多文化共生指針」を策定。外国人労働者を地域の担い手として受け入れる方針を打ち出した。

 

日本の総人口は長期の減少過程に入り、2029年に人口12000万人を下回った後も減少を続け、2053年には1億人を割り9924万人となり、いまから45年後の2065年には8808万人になると推計されている(内閣府「令和元年版 高齢社会白書」)。

 

そのとき、日本にはどのような多文化、共生がはかられているのであろうか。【714日 新山 勝利氏 東洋経済ONLINE

*******************

 

こういう記事を目にしたとき、「日本はどうなってしまうのか!」とネガティブに反応する人々も多いことでしょう。

 

私などは、逆に「日本語NG店? 面白そう。日本国内で外国気分が味わえるじゃない」なんて考えてしまいます。

 

もちろん、外国人が増加していくことは多くの問題を惹起します。「共生」に向けては多大な努力が必要です。それは当然のことです。

 

ただ、ネガティブな反応からは憎悪しか生まれませんが、ポジティブに向き合えば、なんらかの共生に向けた道筋も開けるのでは・・・とも考えます。

 

また、外国人をトラブルメーカーに追い込む一番の理由は、周囲のネガティブな反応だと思っています。

 

何よりも、「ここは我々の土地だ。よそ者は来るな!国に帰れ!」というのは、自らの品性を卑しめる言動に思えて、愛する日本がそんな偏狭で卑しい国になってほしくないと思っています。

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中国のウイグル族弾圧を擁護するミャンマーのスー・チー政権

2019-07-15 23:25:29 | ミャンマー

(モンスーン期の豪雨に襲われたバングラデシュのロヒンギャキャンプ【712日 CNN】)

 

【中国をする擁護する国々のそれぞれの事情】

中国・新疆ウイグル自治区に暮らすウイグル族などイスラム系少数民族を中国当局が100万人規模で「職業訓練」という名目で収容施設に拘束し、宗教・文化的“浄化”を行っているのではないかとの重大な疑念に関しては、国連人権理事会を舞台に、中国を批判する日本・英仏などと、中国を擁護するロシアなどが公開書簡という形でやり合うという異例の展開になっています。

 

批判する側は、日本のほかオーストラリア、カナダ、英国、フランス、スイスなど22カ国の大使が署名していますが、議案や公式声明ではなく公開書簡の形をとったは各国政府が中国からの政治的、経済的反発を恐れたためとのことです。

 

書簡は、新疆と中国全土で宗教の自由や信仰の自由を含めた人権と基本的自由を尊重するよう中国に要求し、国際的な専門家による新疆地区への視察を中国が認めるよう要請しています。【711日 ロイターより】

 

一方の中国支持グループは・・・。

 

****ロシアなど37か国が国連に書簡、ウイグル問題で中国擁護****

中国・新疆ウイグル自治区におけるウイグル人や他の少数民族への処遇をめぐり、日本や欧米諸国などが今週、国連人権理事会に中国を非難する書簡を提出した。これを受けて今度は、37か国の国連大使らが12日、中国の対応を擁護する書簡を公開した。

 

同自治区では、主にウイグル人ら100万人が収容施設に拘束されていると伝えられており、欧州連合各国や、オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランドの大使らは今週、中国の処遇を非難する文書に署名していた。

 

これに対し、ロシアやサウジアラビア、ナイジェリア、アルジェリア、北朝鮮など、37か国のグループは12日、中国政府に代わって共同書簡を公開。ミャンマーやフィリピン、ジンバブエなども署名した。

 

この書簡には、「われわれは、人権の分野における中国の顕著な成果をたたえる」「テロリズムや分離主義、宗教の過激主義が、新疆の全ての民族に多大なダメージをもたらしていることにわれわれは留意している」と記されている。

 

国連人権理事会では通常、各国が非公開の席で交渉し、公式決議を作成しようとするため、公開書簡の形で応酬する事態は珍しい。 【713日 AFP】

*****************

 

このやり取りでまず気づくのは、中国批判グループに中国との対立を深めているアメリカの名前がないこと。

アメリカは1年前に中国やロシアといった「人権侵害国」が理事国になれるような仕組みは受け入れがたいこと、イスラエルに対する恒常的な偏見があること――などを理由に、人権理事会を離脱しています。

 

イスラエル云々はともかく、確かにアメリカが主張するように人権理事会の構成・運営には問題がありますが、トランプ流の反国際協調路線では、国際社会への影響力が弱まる結果にもなります。

 

面白いと言うか、興味深いのは中国擁護グループの顔ぶれ。それぞれの事情が垣間見えます。

 

まず、中国擁護の旗振り役にロシアが立っていることは、アメリカに対抗する形での最近の中ロ接近を示すものともなっています。

 

サウジアラビアはやはり国際社会から、カショギ氏殺害事件など、重大な人権侵害があると批判されていますので、中国と共同戦線をはって国際批判に対抗しようということでしょうか。

 

フィリピン・ドゥテルテ政権も、麻薬問題での「超法規的殺人」を批判されていますので、サウジと同様なところでしょう。また、ドゥテルテ大統領と中国の親密な関係も周知のところです。

 

ナイジェリア、アルジェリア、ジンバブエの事情はよく知りませんが、中国が長年アフリカとの関係を重視してきたこと、および中国による近年の莫大な経済投資の成果でしょうか。

 

そして、ミャンマー。

 

ミャンマーもやはり二つの事情を抱えていると思われます。

ひとつは、イスラム系少数民族ロヒンギャへの民族浄化的弾圧を中国同様に国際社会から批判されており、そうした国際批判への反発があるのでしょう。

 

もうひとつは、やはり中国との関係を重視したいという思惑でしょう。

 

脛に傷を持つ国々、中国の投資を期待する国々が、欧州主導の“人権擁護”世論に抗しているという構図です。

 

なお、人権理事会を離脱しているアメリカ・トランプ政権は、対中国批判と言う点では日本・西欧と同じ側にあるのでしょうが、もし対中国という要素がなければ、単に“人権擁護”といういう視点からの批判に関して言えば、サウジアラビアやドゥテルテ政権と同じ側に立つのかも。

 

このあたりが、世界が抱える深刻な問題点です。

 

【終わりなきロヒンギャの悲劇】

話をミャンマーに戻します。

ロヒンギャの帰還問題が一向に進展しないのは、これまでも取り上げてきたように、基本的には、帰還してもミャンーにおいて安心して生活できる状況にないことが理由です。

 

隣国バングラデシュのキャンプでの生活が長期化するにつれ、かねてより懸念されていた雨期の問題が表面化しています。

 

****ロヒンギャ難民キャンプがモンスーン被害、10人死亡 住居約5000戸が破壊される****

100万人近くのイスラム系少数民族ロヒンギャが収容されているバングラデシュ南東部の難民キャンプがモンスーンの被害に遭い、少なくとも10人が死亡、多くの住居が破壊された。当局が14日、明らかにした。

 

バングラデシュ気象局によると、ミャンマー軍の弾圧から逃れたロヒンギャ難民が生活しているバングラデシュ南東部のコックスバザールでは、今月2日からの雨量が585ミリに達した。

 

国際移住機関の報道官は、難民キャンプで発生した土砂崩れにより、7月前半の2週間だけで、防水シートと竹でできた小屋4889戸が破壊されたと説明。このキャンプでは、丘の斜面に難民たちの小屋が多く建てられているという。

 

国連によると、この難民キャンプでは4月以降、200回以上の土砂崩れが報告されており、少なくとも10人が死亡し、5万人近くが被害を受けた。また、先週だけでも未成年のロヒンギャ難民2人が死亡し、約6000人が豪雨によって住居を失った。

 

さらに、750か所以上の学習センターが被害を受け、5か所が激しく損壊したことで、子ども約6万人の教育が中断したという。

 

難民らは雨で物流や日常生活に影響が出ていると話す。その一人はAFPに対し、泥水の中を歩いて食料配給センターに行くのは大変だと訴え、「豪雨と突風で生活は悲惨な状態になった」と嘆いた。

 

また難民らは、飲料水の不足や、トイレが水浸しになったことで病気の流行が助長され、健康上の危機が迫っていると訴えた。 【715日 AFP

*******************

 

この事態に“バングラデシュの外務相高官は、「国連と連携した不測の事態に対する備えは万全」だったと強調し、ハシナ首相は常にロヒンギャに特別の配慮をしていると言い添えた。”【712日 CNN】とのことです。

 

このままでは雨期になれば大きな被害が出るだろうということは、以前から指摘されていた問題です。

モンスーンの季節は始まったばかりで、10月まで続きます。

 

なお、難民受け入れの負担を何とか減らしたいバングラデシュ政府が強行しようとしているのが、キャンプから北西に約120キロ離れた国内の無人島バシャンチャールに、10万人のロヒンギャを移送する計画です。

 

ベンガル湾に浮かぶこの小さな島は、1020年ほど前に浅瀬に泥が堆積してできた「泥の島」で、バングラデシュ政府による突貫工事で防波堤と10万人分の居住施設が完成間近だそうです。

 

ただ、もともと泥の堆積による「泥の島」で、人間の居住には適さないとして以前計画が棚上げ状態にもなった場所です。

 

建設中の防波堤がどれほどのものかは知りませんが、“バシャンチャールは島というよりは中州のように海抜が低く、海が荒れたらひとたまりもなく水没しそうだ。”【627日 Newsweek「終わりなきロヒンギャの悲劇」】とも。

 

また、“住民によれば、この辺りの島々は外界から隔絶しているため医療・教育施設が乏しく、荒天時には文字どおり孤島になるという。そんな場所に難民を閉じ込めれば、バングラデシュ社会と共生することもミャンマーに帰ることも難しくなるだろう。”【同上】


ようするに地元住民と難民の軋轢を回避するための隔離政策でしょうか。

 

内政不干渉で加盟国間の批判を避けようとするのが基本姿勢のASEANは、ロヒンギャ帰還問題には及び腰ですが、今年の外相会議ではロヒンギャ難民の帰還スケジュールについてミャンマー・バングラデシュ両国が協議し、明確にするよう求め、ASEANとしての積極的関与姿勢を示したとのこと。

 

また首脳会議では、イスラム国のマレーシアのマハティール首相とインドネシアのジョコ大統領は首脳会議で、ロヒンギャ難民の帰還は「安全が保証されなければならない」と強く要求したとのことです。

 

ただ、実態としては多くの変化は期待できない状況でもあるようです。

 

****ロヒンギャ流出から来月2年 ASEAN、ロヒンギャ問題「役割強化」で一致も遠い解決****

ミャンマーからイスラム教徒少数民族ロヒンギャが隣国バングラデシュに大量に流出し、来月で2年となる。帰還への見通しが立たない中、先月23日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議ではASEANが解決に向けて行動することが再確認された。

 

ただ、来年に選挙を控えるミャンマーは帰還に消極的なこともあり、早期の解決は困難な状況だ。(中略)

 

ミャンマーは来年に総選挙を控え、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相率いる与党国民民主連盟(NLD)は多数派仏教徒の支持を取り付けたい局面だ。ロヒンギャの帰還を急げば、一部仏教徒の支持離れは免れない。(中略)

 

ASEAN諸国には自国に難民が押し寄せることについて懸念があるが、加盟国ミャンマーへの配慮から、ミャンマーとバングラデシュに自助努力を促す姿勢に変化はなさそうだ。

 

内政不干渉が原則のASEANが議長声明で関与強化を明言したことを評価する声もあるが、どれだけ実効性を伴った「役割」を果たせるかは不透明だ。【71日 産経】

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【中国の圧力と住民反発の板挟み】

ミャンマーがウイグル族収容所問題で中国擁護にまわっているもうひとつの要素、中国との関係については、ミャンマー政府としては中国からの投資に期待するところが大きいようですが、住民レベルでは中国の経済進出への不満も大きくなっているようです。

 

特に注目されているのは、工事再開を求める中国と、建設に反対する住民との間でミャンマー政府が板挟み状態にもなっているミッソンダム建設で、この問題は52日ブログ“ミャンマー  ミッソンダム建設再開で住民と中国の板挟み状態のスー・チー政権 劣悪な電力事情”でも取り上げました。

 

その後、ミャンマー政府の明確な対応が示されたという話は聞きませんので、依然として板挟み状態が続いているのではないかと思われます。

 

「一帯一路」の要としてのミャンマー進出に力を入れる中国と地元住民の反感という問題は、ミッソンダム建設だけではありません。

 

****ミャンマーの中国人強制退去****

ミャンマー北部カチン州のワインモー郡当局は5月から6月にかけて、同郡にある無許可の違法バナナ農園などで不法滞在して労働に従事していた中国人23人などを検挙、罰金を科すとともに中国に強制送還する措置をとったことが明らかになった。

 

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が613日に伝えたもので、ミャンマーなどで急増している中国人による不法労働の実態が浮き彫りになった。(中略)

 

(強制退去処分となった)この10人は近くの中国資本のバナナ農園で労働者として働いていたが、農園そのものも許可受けていない無許可違法農園であることがわかり、郡の関係当局が実態調査を始めた。

 

別のバナナ農園で働いていた中国人9人は他人所有の土地などに侵入して不許可で樹木を伐採したり、勝手に開発したりするなどしていたためミャンマーの森林法違反で摘発され、やはり同額の罰金を支払わされた。(中略)

 

■ 12年前から違法バナナ農園による乱開発

カチン州でこうした不法滞在の中国人が相次いで摘発、強制送還処分を受ける背景には同州の州都ミッチーナ近くを流れるイラワジ川沿いに点在する空き地や休耕地に続々とバナナ農園ができているという背景があると地元NGOは指摘する。

 

カチン州のNGO組織「土地と環境保護のネットワーク」によると中国資本のバナナ農園は近隣のミャンマーやタイでは原則禁止されている。

 

このため約12年前からミッチーナ郡やバモー郡、ワインモー郡など中国と国境を接するカチン州に続々とバナナ農園が進出、現在では合計の広さは約10エーカーにも達しているという。

 

バナナ農園の多くが中国資本で、地元住民とともに中国人労働者が農園労働者として働いているものの、その大多数が労働許可を取得していない不法滞在の中国人という。さらに郡当局によると、中国資本のバナナ農園はそのほとんどが無許可経営で周辺住民との間でいろいろな問題を起こしていると指摘する。

 

ミャンマー農民が所有する空き地や休耕地や農地に無許可で侵入しては勝手にバナナの樹を植えて農園にしてしまうという無茶な手法や森林や林をこれも無許可で伐採して開発する手口は農民とのトラブルだけでなく森林の動植物の生態系を乱し、深刻な環境破壊を引き起こしていると地元NGOは指摘する。

 

■ 対策にようやく本腰の地元当局

こうした事態に地元関係郡当局者たちは、カチン州政府に対して早急な対策を講じるよう要求している。

 

自然環境や周辺住民、農民の生活への打撃や地元労働市場への影響などの実態調査をするための州政府による対策委員会を立ち上げて、中国人労働者と同時に中国資本の違法バナナ農園に対する監督指導、そして法に基づく処分などを検討するよう提言しているという。

 

東南アジアではミャンマーだけでなく、ラオスやカンボジアなどで中国資本による開発とそれに伴う中国人労働者の流入が地元企業や周辺住民との間で軋轢を起こすケースが近年目立っている。(中略)

 

こうした反面、当事国の政府は中国の習近平国家主席が進める「一帯一路」政策による多額の経済援助、資本投下の前に表立って異を唱えることが難しいという現実があり、苦しい立場に追い込まれているのが実態といえる。【623日 大塚智彦氏 Japan In-depth

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【それにしても、ウイグル族収容問題でも中国を擁護するというのは・・・・】

話を冒頭のウイグル族収容所問題に関する公開書簡に戻すと、ミャンマー・スーチー政権がロヒンギャ問題に関して、軍部との関係やロヒンギャを嫌悪する国内世論に配慮して、欧米の求めるようなロヒンギャ支援策を取れない・・・というのは、一定に事情はわかります。(賛同はしませんが)

 

ただ、そうした問題との兼ね合い、あるいは中国との関係といったことがあるにしても、直接の国内問題ではない中国ウイグル族の問題に関しても、人権擁護の立場を見せない、むしろ弾圧側を擁護するというのはいささか残念

なことです。

 

スー・チー氏が軍事政権時代に自宅軟禁処分を長年受けていたことに国際世論が強く反発したことで今のスー・チー氏があること、また、スー・チー氏が強権支配への明確な反対を示す象徴的存在だったことを考えると・・・。

 

民主化運動の象徴と、政権運営を託された現実政治家では立場が全く異なるといえば、もちろんそうですが。

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中国・上海で厳しいゴミ分別開始 監視員3万人、違反者は「信用スコア」減点

2019-07-14 22:45:29 | 中国

(上海市のゴミ収集所ではオレンジのベストを着た3万人の監視員がゴミを検査している【7月12日 WSJ】WSJ)

 

【“変わる中国” 「北京ビキニ」への当局規制】

中国社会に関しては、日本的な基準から見ると「やれやれ・・・」とため息をつきたくなるようなことも、依然として多くあるのも事実です。

 

最近目にした記事見出しだけあげても・・・

“サッカーの試合中に選手が審判を袋叩きに―中国”【710日 レコードチャイナ】

“日本人女性が大型犬にかまれる、飼い主「責任が全部私にあるわけではない」” 【710日 レコードチャイナ】

“中国のマラソン大会で給水所に市民が殺到、補給品を奪い去る” 【710日 レコードチャイナ】

“高速鉄道で「驚くべき光景」、座席で子どもに大便させる母親―中国” 【79日 レコードチャイナ】

“三峡ダムが歪んでいる! 亀裂も大量に! 不安視する中国国民に「安全だ。心配するな」=中国”【79日 searchina

 

最後の三峡ダムの話は、本当なら深刻な大問題ですが・・・社会の問題というより、政治体質の問題です。

 

上記のような“変わらぬ中国”が残存している一方で、“変わる中国”も目立ってきました。

(“変わらぬ中国”の事例であげた上記のような“トンデモ事件”的な事柄が、中国国内でもニュースになり、多くの中国国民から批判・嘲笑を浴びるということは、大多数の中国国民の意識が変わりつつあることを示すもの・・・とも解釈できます)

 

交通ルールを守らず赤信号でも平気で横断する・・・というのがかつての中国でしたが(中国だけでなく、他のアジア諸国も同様です)、最近は当局が最新IT技術も動員して交通ルール徹底に乗り出しているのはよく報じられているところです。(違反者の個人情報を電光掲示板にさらすなど、中国ならではの方策もありますが)

 

中国でおなじみの「北京ビキニ」(男性の腹だしスタイル)に関する下記記事も“変わる中国”のひとつでしょう。

 

****北京ビキニ、上半身裸は「非文明的」 規制強化に嘆きも****

中年男性が炎天下にシャツから腹を出して暑さをしのぐ――。中国ではシャツをまくった姿を「北京ビキニ」と呼ぶほど定着しているが、当局が「非文明的」として規制する動きが出始めた。

 

「規制は公共マナー向上につながる」と歓迎する声がある一方で、なじんだ光景がなくなることを惜しむ声もある。

 

山東省の済南市政府は1日、公園や広場などで上半身裸になることは「非文明的」として、改善に取り組むよう関係機関に通知した。

 

市の担当者は中国紙の取材に「都市のイメージを高めるため、腹出し行為をなくす必要がある」と答えた。天津市でも公共の場で上半身を裸にする行為に罰金を科すなど、同様の動きが広がっている。

 

中国のSNS上では規制を「良い動き」「支持する」と評価する声がある一方、「地球にやさしい涼み方なのに」「歩きたばこを先に取り締まれ」と嘆く声も。北京の50代の共産党関係者は「私も昔は暑い日にシャツを上げて過ごしていたが、今はやっていない。時代の流れだ」とこぼした。【77日 朝日】

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中国旅行時にもよく目にした「北京ビキニ」ですが、やはり“見苦しい”と言わざるを得ないでしょう。

(日本旅行時に共同風呂で裸になることを恥ずかしがる中国人が、街中で平気で腹を出して歩く・・・文化の違いの一例でもあります)

 

【「5分で食事、片付けに30分」】

「北京ビキニ」などよりはるかに市民生活に重大な影響を及ぼす“変化”が、7月から上海で始まったゴミ分別の取り組み。

 

****上海で始まるごみの分別、「日本の清潔さを羨んできたが、自分たちがやるとなると・・・」=中国メディア****

7月1日から上海でごみの分別が始まることになり、戸惑いを感じている上海市民は多いようだ。中国メディアの捜狐は27日、「中国人は今まで日本の清潔さに羨望の眼差しを向けてきた」としながらも、「自分たちでごみ分別を行おうとすると、不満や批判の声が噴出した」と伝える記事を掲載した。

記事は、「上海市生活ごみ管理条例」が7月1日から施行されることを紹介し、上海人は「史上もっとも厳しいごみ分別」に直面していると伝えた。

 

具体的な分別方法は「有害ごみ、リサイクルごみ、生ごみ、その他」の4種類の区分で、一見するとそこまで複雑には感じられない。

 

しかし、もし分別せずにごみを捨てた場合は50元ー200元(約780円ー3130円)以下の罰金が課され、悪質な場合はごみが回収されないばかりか、信用管理システムに情報が掲載される可能性も生じるとし、今までより厳しい制度になっていると指摘した。

また、最も上海市民を困惑させているのは「ごみの分別区分が曖昧で分かりづらいこと」だと主張。なぜなら、中国語では4つの区分を「有害ごみ、回収ごみ、濡れごみ、乾いたごみ」と表示していることから、使用済みのティッシュ、紙おむつ、生理用品等が「果たして濡れごみなのか、乾いたごみなのかが分からない」と指摘し、ネット上では様々な誤情報が飛び交い混乱しているという。

なかには、分別基準を「豚」を用いて説明する人もおり「豚が食べるものは濡れごみ、食べないのが乾いたごみ、食べて死んでしまうのが有害ごみで、売って豚と交換できるのが回収ごみ」と発信していると伝えた。

これまで中国には厳しいごみ分別区分がなく「いつでも、なんでも」捨てられるのが普通だった。それゆえ中国のネット上では、上海人がごみ分別で新たな習慣を身に着けるには「家族全員でごみの分別テストを行い、繰り返し努力と練習を重ねて分別を修得しなけらばならない」といったジョークも飛び交っている。【71日 Searchina

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今は、上海以外の人は(いささかプライドの高い)上海人の混乱ぶりを笑っていますが、習近平主席の重要指示に基づく取り組みですから、今後中国各地に広がっていくでしょう。

 

****上海でごみ分別条例施行 罰金など管理強化、市民生活に影響****

(中略)市内の集合住宅などでは条例施行前から既に分別が始まっており、1〜6月下旬に1224件の違反が確認され、指導で捨て方が改められた件数は7822件に上った。

 

しかし市民には「肉のついた骨はどこに分別すればいいのか」「捨てられる時間帯が通勤、勤務時間と重なってしまう」などと困惑の声が出ており、条例の浸透には時間がかかりそうだ。

 

また市は飲食店などに対し、使い捨てのはしやフォーク、ナイフなどの提供を極力控えるよう求める関連規定も定めた。

 

中国メディアは6月3日、習近平国家主席が「資源の節約は社会の文明水準を体現している。細かい実行や広範な教育が必要だ」と述べ、分別の重要指示を出したと伝えた。2020年末までに北京や天津、広州市など46の重点都市で分別処理の体制を整えるとしている。【71日 毎日】

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正直に言えば、私個人はあまりゴミ分別に熱心な市民とは言い難いところがあり、結構いろんなものを生ごみ・燃えるゴミとして出しています。

 

正確に分別しようとすると日本のルールもわからないことが多々あり、上海の人々の苦労・混乱に同情もします。

 

中国版ツイッターのウェイボーで話題になっている投稿画像では、“投稿主は「食後に20分かけて、食卓上のごみを、乾燥したごみ、水分を含んだごみ、リサイクル可能なごみ、有害ごみにそれぞれ分けて袋詰めした」とし、「一通りチェックした母は、罰金の心配はいらないねと満足そうだった」と書き込んだ。”【73日 レコードチャイナ】ということで、「5分で食事、片付けに30分」というのはあながち冗談でもないようです。

 

【違反者は「社会信用」スコアが減点され、就職やローン申請に影響する場合も】

これまでのところは、“8日、中国中央テレビによると、上海市で今月1日から生活ごみの「強制分別」が開始されたが、6日までに都市管理行政執法局員が出した「罰金通知書」は計190枚に上ったという。”【78日 レコードチャイナ】とのこと。

 

「罰金通知書」が190枚というのは少ないようにも思えますが、それだけ当局の監視が厳しく違反できない・・・ということでもあるのでしょう。

 

なにせ中国当局のやることですから、ルールが非常に複雑・硬直的で、しかも、徹底させるための当局側対応が半端ないようです。

 

****ゴミ捨て監視に3万人、極端な上海の新リサイクル制度 *****

異常に複雑なルールを回避するため、電車で市外に捨てに行く人も

 

世界にはややこしいゴミ処理ルールを設けている都市があるが、中国・上海も最近その仲間入りを果たした。だが他の都市とは違い、規制の徹底に余念がない。

 

住民は毎晩ゴミを捨てる際、市内に3万人いる「ゴミ箱監視員」から現場で検査を受ける。違反者には厳罰が科される場合もあるため、巧妙な手段を駆使して何とか規制をかわそうとする人たちもいる。市外にゴミを運んで捨てたり、殺虫剤をかけて「危険物」として処理したりといったやり方だ。

 

中には、ワン・チョンギさん(24)のような個人でゴミの分別を請け負う人に委託している住民もいる。ワンさんは月額6ドル未満で12回、家庭のゴミを引き取り、監視員の検査をパスするよう仕分けしている。監視はビデオカメラでも行われている。

 

上海では道路にポイ捨てされたゴミにはほぼ無関心のようだが、鶏肉と豚の骨を一緒に捨てる行為には突如30ドルの罰金が科されるようになった。前者は「生」ゴミで後者は「乾燥」ゴミとみなされている。

 

住民のジ・ヨンギャンさん(61)は「ゴミを捨てるときに見張られている」とし、「だとすれば分別するしかない」と話す。

 

同市は全土に先駆けてこの新システムを導入したが、現在のところ住民の多くは困惑している。そのルールは世界の標準からしても異常に複雑だ。

 

違反者は「社会信用」スコアが減点され、就職やローン申請に影響する場合もある。ロビーに規則を順守している住民のリストを掲示している住居ビルもある。

 

ゴミの仕分けを商売に

一方で、ワンさんのように混乱に商機を見いだしている人もいる。ワンさんの冷蔵庫に貼られた分別表にはゴミが46種類に分類されている。

 

ワンさんは軍の砲兵部隊に5年間勤務したあと、ルームメートと共に分別の仕事を始めた。電話番号を印刷した緑のTシャツを発注し、アパートのドアに「ゴミの分別、請け負います」と掲示した。電話は鳴りやまない。「私たちはとても真剣です」と通話相手に告げるワンさん。

 

安価な料理宅配サービスが人気の上海では、お金を払って誰かにゴミを捨ててもらうのは自然な成り行きかもしれない。市内では最近、その手のサービスが少なくとも20件は登場している。

 

新しいゴミ規制ではゴミを4色の容器に分けて収集する。家庭の食料品ゴミは「生」、本やガラスは「再利用可能」、ナイロンタイツやおむつなどの再利用不可能なものは「乾燥」、電池や医薬品などは「危険」とそれぞれ表示された容器に捨てる。だが、正しく分別するのは見た目ほど簡単ではない。

 

基本は、可燃性の素材と再利用可能な素材は台所の生ゴミとは分けるべきという考え方だ。だが、それによって夕食の後片付けが危険な仕事になりかねない事態になっている。

 

使用済みの紙ナプキン(乾燥ゴミ)を野菜の皮(生ゴミ)と一緒に捨てるのは違法になるからだ。貝殻(乾燥ゴミ)はロブスターの殻(生ゴミ)と混ぜては駄目で、サクランボは生ゴミだがその種は乾燥ゴミ。電池は構成される化学物質によって2つのカテゴリーに当てはまるが、ココナツの殻、陶器、メガネ、たばこの吸い殻はいずれも乾燥ゴミだ。

 

一方、犬を散歩させる場合、排せつ物は持ち帰り、自宅のトイレに流すことになっている。

 

豚が食べるものは「生」ゴミとみなすというのが、上海市の非公式の大まかなルールだ。しかし、最も手っ取り早い方法として、ゴミに殺虫剤をかけて「危険」ゴミとして捨てるというアドバイスが広く出回っている。

 

こうした住民の苦労に対し、中国共産党の機関紙・人民日報は電子版に掲載した論評で「食べるのに10分、分別に30分」かかると懸念を示した。

 

ゴミ捨て規制の背景には、中国政府が大気や水質・土壌汚染などの中国にまつわるイメージを払しょくしようと取り組んでいることがある。

 

習近平国家主席は昨年11月、執務室で4つのゴミ容器の前に立ち、上海市にゴミの分別を開始するよう指示。「ゴミ分別は新しい流行だ」と述べた。

 

窓から投げ捨てる人も

分別ルールの根底には、年間22000万トン以上出るゴミを利用しようという中国政府の計画がある。中国はゴミの焼却で発電する施設に数十億ドルを投じているが、水分の多いゴミは燃えないからだ。

 

しかし、焼却施設を歓迎している住民はほとんどおらず、その建設計画をきっかけに、中国本土の一部都市ではここ数年で最大規模のデモが発生している。今月に入ってからも中部の武漢市で抗議活動が行われた。

 

一部の上海住民は突拍子もない方法で分別ルールに対処している。目撃者や現地メディアによると、窓からゴミを投げ捨てたり、分別しないまま夜中に捨てたり、ゴミを人目に付かない場所まで地下鉄に乗って捨てに行ったりしている人もいる。

 

上海市によると、同市は講習会を13000回開き、6800万世帯にゴミの捨て方を教えた。また、多くの人たちがゴミを正しい容器に移動するモバイルゲームをダウンロードした。

 

同市では、喫煙や爆竹、信号無視など以前からの都市の習慣を素早く変えるために罰金を利用してきた。ゴミ捨ての取り締まりについては、至る所に設置された監視カメラで補強しているほか、ゴミ箱に鍵をかけ、社会信用スコア管理用のカードをかざして解錠するようにしている地区もある。

 

ある日の夜、夕食後の後片付けの時間になると、分別を請け負うワンさんは仕事仲間と共に35階建ての住居ビルに向かい、住民から食べ物の持ち帰り容器が入ったビニール袋を3つ引き取った。

 

1階の裏手にある汚れたゴミ捨て場では、ベストを着用した監視員が、それぞれの袋から生ゴミをきちんと取り除いているワンさんたちを「いい人たち」と褒めていた。「ゴミの分別の仕方が分かっている人はいい人」だと監視員は話した。

 

ワンさんたちが別の場所に引き取りに向かう途中、彼らが着ているTシャツがガオ・ウェイウェンさん(53)の目に留まった。「たった40元? 安いね」。ウェイウェンさんはこう言うとワンさんたちと1カ月の契約を交わした。「この作業はプロにやらせればいいんだね」【712日 WSJ

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分別ルールの根底にゴミ焼却発電の計画がある云々はどうでしょうか?

まあ、そういう計画もあるのでしょうが、一番は「大国である中国が他国から馬鹿にされるようなゴミ状況であってはならない」という「大国」中国のメンツの問題が指導層にあるのではないでしょうか。

 

まあ、それは悪いことではありませんが、3万人の監視員に監視カメラというのはいかにも中国的ですし、違反すれば「社会信用」スコアが減点されるというのも、これまた現代中国、あるいは世界の将来の姿を象徴しています。

 

(なお、私の自宅前が燃えるゴミ置き場になっているのですが、ときおり違反物を置いていく人がおり、回収車がこれを持っていかないため、その後もずっと置きっぱなしになっている・・・ということもありますので、監視員に監視カメラというのはうらやましい感もあります)

 

ゴミ分別が大繁盛のビジネスチャンスになっているのも中国らしいですが、面倒な仕分けをするぐらいならカネですませてしまうというぐらいに、上海世帯の所得水準が向上していることでもあるでしょう。(日本ならゴミの中身を他人に見られるのを嫌がるという話も出てくるでしょうが)

 

“窓からゴミを投げ捨てたり、分別しないまま夜中に捨てたり、ゴミを人目に付かない場所まで地下鉄に乗って捨てに行ったりしている人もいる”・・・「上有政策、下有対策」という“変わらぬ中国”のひとつのようにも。

 

【“上から目線”の物言いはできない日本人のレベル】

もっとも、日本でも自販機横の空き缶用ゴミ箱に家庭ごみを捨てていく輩が大勢います。決して日本人の意識も、上から目線で中国のことをとやかく言えるようなレベルではありません。

 

****「日本人客お断り」 沖縄県石垣島のラーメン店 客の悪態が年々悪化 バイトが接客を苦に退職し店主一人で切り盛り****

 ■お客様は神様?

「日本人客はお断り」―。沖縄県石垣市内にあるラーメン店の一つが1日から、観光客や地元客を含む日本人客の入店を制限している。

 

理由はマナーの悪さ。食品を持ち込んだり長居したり、席を余分に取ったり。

 

1人で切り盛りする店主の男性(42)は「日本では『お客さまは神様』とされ、客自身もそう思っているが、そうなのか。金を払えばいいというのはおかしい」と話している。制限は9月末までを予定。(後略)【713日 沖縄タイムス】

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最後に、路上のポイ捨ての話をすれば、現在の中国は少なくとも大都市、地方主要都市ではずいぶんと道路はきれいになっており、清潔とされる日本に比べてそん色がありません。昨年の貴陽・南寧旅行の実感です。

 

ポイ捨て、痰吐き、列車内の無秩序・・・・30年前の中国はひどかったですが・・・。

“変わる中国”を甘く見てはいけないようです。

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パキスタン  「マララ・デー」と「デコトラ」 少数民族カラシュ観光「動物園みたいに…」

2019-07-13 23:02:02 | 南アジア(インド)

(【7月13日 NHK】 女子教育推進を訴える絵が描かれた「デコトラ」)

【「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界を変えられます」】

昨日、712日は国連が定めた「マララ・デー」でした。

 

パキスタンで女子教育の重要性を訴え、イスラム過激派の銃撃されたものの死の淵から蘇り、それまで以上に世界に強いアピールを行い続け、2014年に史上最年少のノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんが、2013712日の16歳の誕生日にNYの国連本部に招かれ、力強いスピーチを披露。

 

教育の重要性や平和の大切さを世界中に向けて訴え、国連によりこの日は「マララ・デー」と定められました。

 

銃撃されたのが2012年で15歳、ノーベル平和賞受賞時が17歳ということで、「少女」のイメージが強いマララさんですが、昨日の誕生日で22歳、りっぱな大人の女性に成長されたようです。

 

マララさんが声を上げ始めたのは11歳のときでした。

 

*****厳しい支配に声をあげる****

2007年、パキスタンとアフガニスタンを中心に活動するイスラム主義組織タリバンの地方部隊がスワート地区に現れ、制圧を開始。

 

「イスラムの教えに反する」として女性が教育を受けることを認めない彼らは、約200もの学校を破壊、TVや音楽なども禁止し、命令に従わない人にはムチ打ちや処刑を行うなど、恐怖で支配する。

 

マララも学校に行けなくなってしまったが、11歳の時、「グル・マカイ(ヤグルマギク)」というペンネームで、怯えながら暮らす人々の惨状やタリバンの残虐行為を英BBCのウルドゥー語版サイトのブログで発信。

 

「女子も教育を受けるべき」と声をあげると、たちまち国内外のメディアが注目して話題を呼び、政府も彼女を表彰する。【712日 「ELLE girl」】

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「マララ・デー」が制定されることになった2013年の国連スピーチは感動的でした。

 

*****1人の子ども、1人の教師、1冊の本、1本のペンでも世界を変えられる****

慈悲深く慈愛あまねきアッラーの御名において。(中略)

 

親愛なる少年少女のみなさん、私たちは暗闇のなかにいると、光の大切さに気づきます。私たちは沈黙させられると、声を上げることの大切さに気づきます。同じように、私たちがパキスタン北部のスワートにいて、銃を目にしたとき、ペンと本の大切さに気づきました。

 

「ペンは剣よりも強し」ということわざがあります。これは真実です。過激派は本とペンを恐れます。教育の力が彼らを恐れさせます。彼らは女性を恐れています。女性の声の力が彼らを恐れさせるのです。

 

だから彼らは、先日クエッタを攻撃したとき、14人の罪のない医学生を殺したのです。

だから彼らは、多くの女性教師や、カイバル・パクトゥンクワやFATA(連邦直轄部族地域/パキスタン北西部国境地帯)にいるポリオの研究者たちを殺害したのです。

だから彼らは、毎日学校を破壊するのです。

 

なぜなら、彼らは、私たちが自分たちの社会にもたらそうとした自由を、そして平等を恐れていたからです。そして彼らは、今もそれを恐れているからです。(中略)

 

テロリストたちは、イスラムの名を悪用し、パシュトゥン人社会を自分たちの個人的な利益のために悪用しています。

 

パキスタンは平和を愛する民主的な国です。パシュトゥン人は自分たちの娘や息子に教育を与えたいと思っています。イスラムは平和、慈悲、兄弟愛の宗教です。すべての子どもに教育を与えることは義務であり責任である、と言っています。

 

親愛なる国連事務総長、教育には平和が欠かせません。世界の多くの場所では、特にパキスタンとアフガニスタンでは、テロリズム、戦争、紛争のせいで子どもたちは学校に行けません。私たちは本当にこういった戦争にうんざりしています。女性と子どもは、世界の多くの場所で、さまざまな形で、被害を受けています。

 

インドでは、純真で恵まれない子どもたちが児童労働の犠牲者となっています。ナイジェリアでは多くの学校が破壊されています。アフガニスタンでは人々が過激派の妨害に長年苦しめられています。幼い少女は家で労働をさせられ、低年齢での結婚を強要されます。

 

貧困、無学、不正、人種差別、そして基本的権利の剥奪――これらが、男女共に直面している主な問題なのです。

親愛なるみなさん、本日、私は女性の権利と女の子の教育という点に絞ってお話します。なぜなら、彼らがいちばん苦しめられているからです。

 

かつては、女性の社会活動家たちが、女性の権利の為に立ち上がってほしいと男の人たちに求めていました。

しかし今、私たちはそれを自分たちで行うのです。男の人たちに、女性の権利のために活動するのを止めてくれ、と言っているわけではありません。女性が自立し、自分たちの力で闘うことに絞ってお話をしたいのです。

 

親愛なる少女、少年のみなさん、今こそ声に出して言う時です。

そこで今日、私たちは世界のリーダーたちに、平和と繁栄のために重点政策を変更してほしいと呼びかけます。

世界のリーダーたちに、すべての和平協定が女性と子どもの権利を守るものでなければならないと呼びかけます。

 

女性の尊厳と権利に反する政策は受け入れられるものではありません。

私たちはすべての政府に、全世界のすべての子どもたちへ無料の義務教育を確実に与えることを求めます。

私たちはすべての政府に、テロリズムと暴力に立ち向かうことを求めます。残虐行為や危害から子どもたちを守ることを求めます。

 

私たちは先進諸国に、発展途上国の女の子たちが教育を受ける機会を拡大するための支援を求めます。

私たちはすべての地域社会に、寛容であることを求めます。カースト、教義、宗派、皮膚の色、宗教、信条に基づいた偏見をなくすためです。女性の自由と平等を守れば、その地域は繁栄するはずです。私たち女性の半数が抑えつけられていたら、成し遂げることはできないでしょう。

 

私たちは世界中の女性たちに、勇敢になることを求めます。自分の中に込められた力をしっかりと手に入れ、そして自分たちの最大限の可能性を発揮してほしいのです。

 

親愛なる少年少女のみなさん、私たちはすべての子どもたちの明るい未来のために、学校と教育を求めます。私たちは、「平和」と「すべての人に教育を」という目的地に到達するための旅を続けます。

 

誰にも私たちを止めることはできません。私たちは、自分たちの権利のために声を上げ、私たちの声を通じて変化をもたらします。自分たちの言葉の力を、強さを信じましょう。私たちの言葉は世界を変えられるのです。

 

なぜなら私たちは、教育という目標のために一つになり、連帯できるからです。そしてこの目標を達成するために、知識という武器を持って力を持ちましょう。そして連帯し、一つになって自分たちを守りましょう。

 

親愛なる少年少女のみなさん、私たちは今もなお何百万人もの人たちが貧困、不当な扱い、そして無学に苦しめられていることを忘れてはいけません。何百万人もの子どもたちが学校に行っていないことを忘れてはいけません。少女たち、少年たちが明るい、平和な未来を待ち望んでいることを忘れてはいけません。

 

無学、貧困、そしてテロリズムと闘いましょう。本を手に取り、ペンを握りましょう。それが私たちにとってもっとも強力な武器なのです。

 

1人の子ども、1人の教師、1冊の本、そして1本のペン、それで世界を変えられます。教育こそがただ一つの解決策です。エデュケーション・ファースト(教育を第一に)。ありがとうございました。【マララ・ユスフザイ 2013712日 16歳の誕生日にNYの国連本部で行ったスピーチ】

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しかし、祖国パキスタンにおいてさえ、マララのさんの願いは十分に受け入れられてはいません。マララさんに嫌悪感を示す人々も少なくないようです。

 

しかし、ゆっくりとではありますが、前に進み続けています。

 

銃撃後初めて祖国パキスタンに帰国したのが20184月。それまでにも帰国を望んでいましたが、安全上の懸念に加え学業で手一杯だったため、5年半ぶりにやっと祖国の土を踏むこととなりました。

 

同年3月には、念願だった女子学校を故郷のスワート郊外にある小さな村に建設しました。

 

【「デコトラ」で女子教育の重要性を訴える男性】

未だ、女子教育に抵抗を示す人々も多いパキスタンですが、マララさんと同じ思いで行動する人々もいます。

 

今朝のTV「NHK おはよう日本」で、ある男性の活動を報じていました。

 

パキスタンと言えば、ギンギラに装飾したトラック、いわゆる「デコトラ」が名物ともなっていますが、この「デコトラ」の女子教育を進めるための絵を描き続けている男性です。

 

番組は朝の出勤時にちらっと眺めただけで不正確ですが、おおよその内容は以下のようなものでした。

 

初老の男性は女性でも教育を受けることができれば、専門職にもなれる、女性の病気を治す医者にもなれると、女子教育の大切さを感じていましたが、自分の娘を学校に通わせる際にも、周囲から強い反対を受けたとか。

 

そうしたこともあって、トラックの持主とかけあって、トラック後部に女性の絵を描き(冒頭画像)、そして「私に教育を受けさせて」「前に進みたい」という趣旨の文言を添える活動を行っており、すでに70台ほどの「デコトラ」にそうした絵を描いたとか。

(【7月13日 NHK】 トラックに女子学生の絵を描く男性)

 

協力団体からの支援もあって、トラック所有者からは費用はもらっていないとのことですが、必ずしもいつも受け入れられる訳でもなく、女子教育の重要性に理解を示さない人、あるいは、そうした異論もあることから面倒に巻き込まれることを嫌い協力できない人などもいるようです。

 

こうした草の根レベルの活動が、今後更に広がっていくことを強く願います。

 

(ちなみに、328日ブログ“パキスタン・フンザの気宇壮大な眺め 「ハセガワスクール」校長との思わぬ対面に焦る”でも紹介したように、パキスタン北部フンザでは、この地で亡くなった日本人登山家長谷川氏の遺族・日本人協力者によって学校建設・運営が支援されており、女子教育においても大きな成果をあげています。)

 

【観光と「人間動物園」の境は? 少数民族カラシュに押し寄せる観光客】

個人的には、これまで2回、パキスタンを観光してきましたが、3回目はペシャワールや少数民族カラシュ(カラーシャとも)の人々が暮らすパキスタン北部の村などを観光してみたいと考えています。

 

少数民族カラシュの人々は固有の文化(アレキサンダー大王の東方遠征軍の子孫との伝承もあるようですが、史実的には異なるようです。)を持ち、特に女性の美しい民族衣装が印象的です。女性が前面に出ることが少ないエリアも多いパキスタンだけに、そのきらびやかな民族衣装は際立っています。

 

パキスタンに関するニュースが非常に少ないなかで、少数民族カラシュに関する気になる記事がありました。

 

****「動物園みたいに…」パキスタンの少数民族カラシュ、押し寄せる観光客との闘い****

パキスタン北部の村ブンブレットで、春の到来を祝う少数民族カラシュの女性)


パキスタンの人里離れた谷間の村で、少数民族カラシュの女性ら数十人が春の到来を祝う踊りに興じている。その様子をカメラに収めようと、男性の一団が躍起になっている。

 

だがカラシュの人々は、国内各地から押し寄せる観光客が、カラシュ固有の伝統文化を脅かしていると警鐘を鳴らしている。

 

カラシュはパキスタン北部のいくつかの村に暮らす少数民族で、人口は4000人に満たない。毎年春の訪れを「ジョシ」と呼ばれる祭りで迎える。祭りでは生けにえがささげられ、洗礼式や結婚式も行われる。

 

祝いが始まると、携帯電話を手にした観光客らが、鮮やかな衣装と頭飾りを身につけたカラシュの女性たちに近づこうと寄って来る。

 

女性たちの華やかな出で立ちは、保守的なイスラム教の国パキスタンでよく着られている地味な服装と見事な対照をなしている。

 

「中には動物園に来たみたいに写真を撮る人もいる」。地元ガイドのイクバル・シャーさんは語る。

 

カラシュ人をめぐっては作り話が多く、近年はスマートフォンやソーシャルメディアの普及でこれが悪化している。

 

■「コミュニティーを中傷」

動画投稿サイトのユーチューブには、「夫の目の前で」自らが選んだ相手と「堂々と性行為を行う」カラシュ人とうたい、130万回再生された動画がある。また、カラシュの女性を「美しい不信心者」と呼び、「誰でもそこへ行けば、どの子とでも結婚できる」と言い放つ動画もある。

 

カラシュ人のジャーナリスト、ルーク・ラフマット氏は「そんなことが真実であるわけがない」と一蹴する。「人々はこのコミュニティーを意図的に中傷しようとしている。話をでっち上げて……観光客がそんな考えでやって来れば、(それを)実践してみようとするだろう」

 

カラシュ人が最も多く住む村ブンブレットのホテルの支配人によると、宿泊するパキスタン人観光客の約70%が若い男性だという。どこに行けば女性に会えるかを尋ねられることもよくあるという。

 

観光を規制するのは至難の業だが、カラシュ人にとっては死活問題だ。観光収入は、このコミュニティーにとってますます重要な収入源となっているのだ。

 

■「われわれは死に絶えていく」

地元の博物館のアクラム・フセイン館長によると、カラシュ人はかつてはカシミールのヒマラヤ山脈からアフガニスタン北部に至る広大な領土に住んでいたが、今ではパキスタンで最も小規模な宗教的少数民族の一つになっている。

 

フセイン氏は「支援がなければ、われわれは死に絶えていくだろう」と話す。

同氏によれば、カラシュの伝統行事には費用がかかる。冠婚葬祭を執り行う家庭は何十頭もの動物を犠牲にする必要があるために借金がかさみ、返済のために土地や先祖代々の家を手放すことを余儀なくされている。

 

また住民の一部がAFPに語ったところでは、カラシュの女性に対してイスラム教への改宗が強制的に行われたり、拡大する観光のために「ジョシ」のような伝統行事を取りやめざるをえない人々もいる。

 

ブンブレット出身の考古学者サイヤド・グール氏は、カラシュの文化が外部の力によって侵食されつつあるのは悲劇だと語る。「女性たちはこういった(観光客の)カメラ撮影や無神経さだけのために、(行事への)参加をいやがっている」と同氏。

 

「このようなことが続けば……おそらく数年内には観光客だけになり、祭りに参加して踊るカラシュの人々はいなくなるだろう」 【630日 AFP】

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ユーチューブで拡散された「フェイク」は論外ですが(イスラムの厳しい戒律・習慣が、ときにこうした“ゆがんだ”発想を人々に抱かせるのでしょうか)、観光と「動物園に来たみたいに写真を撮る人もいる」という困惑・批判は微妙な問題です。

 

そのあたりの話はタイ北部の観光村で生活するミャンマーの「首長族」に関してとりあげたこともありますので、今回は深くは立ち入りません。(2010210日ブログ“タイの首長族観光は人間動物園か?”)

 

人権団体からは、こうした首長族観光は「人間動物園」だとの批判があります。

 

そこに暮らす人々の意思に反して、人々が押し寄せ、珍奇なものを眺めるように写真を撮る・・・ということであれば、確かに「人間動物園」との批判もあてはまるでしょう。

 

ただ、住民が「観光」収入のためと割り切っているのであれば、その物珍しさにカメラを向けるのもさほど批判されることもないようにも思えます。伝統文化へのリスペクトにあたることも。

 

ただ、その境は曖昧・微妙なものがありますので・・・・。私も、一般の人に無遠慮にカメラを向けて嫌がられることが時々あります。

 

カラシュ観光・・・・現地でどのように受け取られているのか、個人的に非常に気になるところです。

 

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イスラム主義を進めるトルコ・エルドアン大統領が絶賛する日本の女子大の存在意義は?

2019-07-12 22:48:58 | 女性問題

(【712日 FNN PRIME】 西宮市の武庫川女子大学を訪れたエルドアン大統領夫妻)

 

【「トルコにも日本のように女子大が必要だ!」 国内には「日本は世界的に女性の地位が低い国のひとつだ」との批判も】

トルコのエルドアン大統領が、イスラムを公的な場面に持ち込まない世俗主義を是としていたそれまでのトルコにあって、イスラム主義を推し進めていることは周知のところですが、G20で来日した際に大統領が目をつけたのが日本の「女子大」だったとのこと・・・・なるほどね。

 

****「トルコにも日本のように女子大が必要だ!」 熱弁をふるうエルドアン大統領の狙いは?****

「トルコにも日本のように女子大が必要だ!」 熱弁をふるうエルドアン大統領の狙いは?

 

女子大を絶賛したエルドアン大統領

トルコのエルドアン大統領が627日、G20大阪サミットに参加するため来日した。滞在中は安倍首相やアメリカのトランプ大統領と会談し、天皇皇后両陛下とも会見した。

 

これらは本国トルコでも当然報じられたが、それよりもトルコで話題になったニュースがある。エルドアン大統領が兵庫・西宮市の武庫川女子大学を訪れ、名誉博士学位を授与されたあとの演説だ。

 

エルドアン大統領:「日本には800の大学があり(注1)そのうち10%に当たる80校が女子大だ(注2)。 大学には、女子の学生しかいない。幼稚園から小中高校、そして大学まで、独特な女子教育システムが構築されている。このような日本のシステムがわが国においても非常に重要だ。トルコも日本と同様のステップを歩むべきだ。」

 

(注1)総務省統計局調査で、国内の大学は780校(2017年)

(注2)武庫川女子大学教育研究所調査で、国内の女子大は77校(2017年)

 

日本型の女子大設立を熱く訴えたエルドアン大統領。日本のメディアではあまり大きく取り上げられていないが、トルコメディアは一斉にトップで伝えた。

 

アナドル通信(国営) 「トルコにも日本のように女子大が必要」

ビアネット(ウェブニュース) 「日本の女子大を参考に」

アフバルニュース(左派系) 「トルコ初の女子大設立を目指し調査を指示」

日本国内の女子大の数が減少傾向にある中で、エルドアン大統領の狙いは一体どこにあるのか?

 

なぜいま女子大なのか?

トルコでは1914年に国内初の女子大が設立されたが、その7年後には共学化された。その後、全ての小学校、中学校が共学化され、1973年に男女共学を基本原則とする教育法が制定された。男女別の学校はイスラム系の高校に限って存在していた。

 

それが、2012年を境に一変した。

 

エルドアン大統領(当時は首相)が世論の反対を押し切って法改正を行い、中学においてもイスラム系の学校を復活させたのだ。これにより、女子学生のみが通う中学、高校が激増し、現在に至っている。

 

ただ、大学について言えばいまだに全て共学で、女子大は1つも存在しない。トルコは世界でも有数の親日国と言われるだけあって、エルドアン大統領が「日本を手本に」と言うのもわからなくはないが、なぜ今、女子大なのか?その目的は何なのか?

 

エルドアン大統領は日本での演説で、「わが国にもかつて男女別の高校があったが、のちに共学化されてしまった。今、我々は再び秩序を回復する時期に入ったのだ」とも述べていた。ここにヒントがありそうだ。

 

イスラム色を増すトルコ

トルコはアタチュルク初代大統領が1923年に共和国宣言をして以来、政教分離の世俗主義を国是としてきた。しかし、エルドアン大統領は2001年に与党である公正発展党(AKP)の初代党首に就任して以来、イスラム色の濃い政策を推し進めてきた。

 

女性の公務員が職務中にスカーフを着用できるよう憲法を改正したり、今年に入ってからは博物館として親しまれているイスタンブールの観光名所、アヤソフィアのモスク化さえも示唆している。

 

世俗化する社会に対し、今こそ“念願の”女子大を新設し、より一層イスラム色を前面に出した政策を推し進める構えのように見える。こうしたエルドアン大統領の“構想”に対し、トルコのメディアは次のように伝えている。

 

ハベルトゥルク紙(大手紙):

・日本のような先進国に女子大があるなら、国民の9割以上がイスラム教徒のトルコで女子大が設立できないわけがないと保守層は絶賛している。

・大統領が気に入ったのは女子大だけなのか?先進国日本から学ぶことはもっと他にあったのではないか?という批判の声もある。

・日本でも女子大の需要は下がっているという。

・社会進出を重要視する女性たちは、女子大ではなく、東京大学や京都大学のような共学大学を選ぶのではないか。

 

キュルトゥル・セルヴィスィ紙(文化紙):

・女子大構想は笑止千万。

・大統領が参考にした日本は、社会生活において男尊女卑が顕著な国である。

・世界経済フォーラム(WEF)が発表した報告書によると、日本の男女平等ランキング(2018年)は149カ国中110位と、順位が低い国の一つ。トルコは、130位だ。

・女子大新設は完全な女性差別であり本末転倒だ。

・トルコの教育システムは近年悪化しており、いま必要なのは教育改革だ。

 

保守層と世俗派で意見が分かれるのは当然だが、トルコのメディアをチェックする限り、女子大新設構想には否定的な論調が多いようだ。

 

623日に実施されたイスタンブールのやり直し市長選では、エルドアン大統領率いる与党が擁立した候補が、最大野党の新人に大敗。求心力低下が叫ばれるエルドアン大統領だが、今回の女子大新設をはじめとする教育改革が今後トルコ国民にどう受け止められるのか、注目していきたい。【712日 FNN PRIME】

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【なぜ女子大が必要なのか?】

もちろん各女子大は、それぞれ崇高な女子教育の理念のもとに運営されているのでしょうが、しょうじなところ、これだけ性による差別をなくしていくことが重視される現代社会において、女性だけ、あるいは男性だけの教育を行う必要性がどこにあるのか、素朴な疑問を感じるのも事実です。

 

“日本の男女平等ランキング(2018年)は149カ国中110位と、順位が低い国の一つ。”ということの結果、かつ、原因のひとつが「女子大」の存在ではないかとも思えます。

 

そもそも、(トルコのように)国によっては「女子大」が存在しないことも。

アジアやアメリカには存在しますが、欧州にはないようです。

 

****「日本にはまだ女子大があるのか!」驚く欧州人 ルーツや存在意義を考える ****

実践女子大学でメディア論を教える松下慶太さんをミラノ工科大学に案内した。松下さんは、1年間のサバティカル(長期休暇)でベルリンを拠点に、欧州各地でソーシャルデザインのリサーチをしている。

 

彼が東京の女子大に勤めていると自己紹介すると、相手の先生は怪訝な表情をする。

「女子大という存在が、日本にはまだあるのか?!」との驚きが見てとれる。そして「男性の教員もいるのか?」とかいくつかの質問を矢継ぎ早に聞かれた。

 

日本以外にも、韓国・中国・インド・中東・米国・英国という国々では女子大がそれなりの存在感を放っているようだが、欧州の大陸の国では「忘れられた」存在になっている。

 

ぼくは女子大についてほとんど知らないので、少々好奇心が芽生え、松下さんにこのあたりの事情を聞いてみた。そもそも女子大とは何か?というところから。

 

「大きな流れとしては、キリスト教宣教師などによって開かれた語学や、アメリカなどで見られるようなリベラルアーツを展開するもの。もうひとつは生活科学や医学・看護など実学・専門領域の教育を展開するものがあると思います」

 

日本であれば、東京女子、聖心女子、東洋英和、フェリス、白百合などはリベラルアーツを中心とした前者にあたる。東京女子医大や日本女子は後者となる。アジアの他国をみても、どちらの流れの大学もある。

 

そして、彼はこう指摘する。

「学祖の留学先などにも、結構影響されているかもしれないですね。津田梅子が津田塾大をつくり成瀬仁蔵が日本女子大を開校しましたが、彼らはアメリカから戻った後に学校をつくっていますね」

 

松下さんのこれまでの経験からすると、北欧はジェンダーギャップが少ないのと大学制度が比較的新しいので 、特に日本の女子大への質問が多いそうだ。他方、カナダやアメリカなどでは、女子カレッジの存在を知っているので、松下さんが女子大で教えていると説明しても、「ふーん」という反応だという。

 

以上から、ミラノ工科大学の先生の女子大への「あからさまともみえる好奇の目」は、欧州大陸における典型的なものだったといえる。どうもジェンダー差別撤廃への意識が高いほど、女子大という存在に戸惑うようだ。

 

しかし、こうした現象は日本においてもないわけではない。

実践女子大のオープンキャンパスの際、保護者などから「男子がいないということは、多様性や現実社会への対応としてどうなのか?」との質問を受けたこともあるようだ(「うちの娘はおっとりしているから女子大が安心」という親も多いが)。

 

松下さんは、次のように考えている。

「日本の社会や企業における男女格差などを考えると、女子大で育むリーダーシップや女子向け教育のメリットもあると思います」

 

「これが現実の社会だから、と(男子のリーダーシップを優先する状況を)納得させるのもなにか違いますよね」と松下さんは首をかしげる。

 

そもそもの前提として、女子大というカテゴリーを俎上にのせて論じる時代でもなくなったとの意識が松下さんにはある。それぞれの立ち位置や地域・学部の特色などを踏まえて考えるべきことが多い、と彼は認識している。(後略)【2018127日 安西洋之氏 SankeiBiz

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省略した部分に松下氏の女子大を含めた大学の在り方に関する持論が述べられていますが、正直なところピンときません。

 

むしろ、一番「だろうね・・・」と感じられるのは、“「うちの娘はおっとりしているから女子大が安心」という親も多い”という部分でしょう。

 

そういう現実の上にのっかって、旧態依然の「良妻賢母」を目指す女子教育を行うということであれば、現在のジェンダーフリーの流れの中で存在意義を見出すのは難しいかも。

 

【トランスジェンダーへの門戸を開くお茶の水女子大 「共学化に向けた議論へのパンドラの箱を開いた」とも】

ジェンダーフリーの流れということで言えば、「女子大」を代表する立ち位置にあるお茶の水女子大が昨年、「心は女性」というトランスジェンダーへの門戸を開くことを明らかにし、改めて「女子大」の意義が問われることにもなっています。

 

****パンドラの箱を開けた? 「心は女子」学生受け入れ決めたお茶の水女子大 「女子大の存在意義」議論の呼び水に****

国立のお茶の水女子大(東京都文京区)が全国に先駆け、平成32年度から戸籍上は男性でも自身の性別が女性と認識しているトランスジェンダー学生の受け入れ決定に踏み切った。

 

他大学にも波及しそうだが、施設整備や受験資格の確認など課題も残る。文部科学省内では「男女共学化議論の呼び水になりかねない」(幹部)との声もあり、減少傾向にある女子大の存在意義も改めて問われそうだ。

 

受験資格の確認は?

(中略)出願期間前に診断書があれば提出してもらい、自己申告の場合も今後設置する委員会で総合的に判断する方向だが、受験資格の線引きに曖昧さが残りかねない。

 

全国の女子大に影響

お茶の水女子大の決定は他大学の動向にも影響しそうだ。「まだ正式に決まっていないが、前向きに検討している」と話すのは国立の奈良女子大(奈良市)の担当者。29年9月に大学理事などで構成するワーキンググループを立ち上げ、問題の洗い出しを行っている。

 

公立では群馬県立女子大(群馬県玉村町)がお茶の水女子大の決定を受け、学内委員会で検討を開始。福岡女子大(福岡市)は「1年生全員が寮生活をするため保護者の理解などを含めクリアすべき課題は多い」(担当者)。状況把握のため他大学の情報収集に乗り出している。

 

女子教育を大学の理念に明確に掲げる私立でも検討は進んでおり、津田塾大(東京都小平市)、日本女子大(同文京区)、東京女子大(同杉並区)などで29年から議論している。

 

女子大の存在意義とは?

ピーク時には100近くあった女子大だが、定員割れに伴う学生募集強化や統廃合などを背景に共学化が相次いだ。29年度の学校基本調査では、女子大数は国立2校、公立2校を含め計76校。780ある大学の約1割にとどまる。

 

お茶の水女子大の記者会見では女子大の存在意義に関する質問も相次いだが、室伏学長は「共学化の議論はなかった」とし、「女性が社会で男性と同等に暮らせる状況にはなっていない。女子大の存在意義はまだまだある」と強調した。

 

ただ、27年には福岡女子大に入学願書を受理されなかった福岡市の男性が、不当な性差別で違憲だとして、不受理処分の取り消しなどを大学側に求め提訴したことがある。その後、訴訟継続が困難などとして取り下げられたが、公立女子大の存在意義を問うものとして注目された。

 

お茶の水女子大の決定について文科省幹部は「共学化に向けた議論へのパンドラの箱を開いた。今後、公金で運営される女子大の存在意義が広く問われる場面もあるのではないか」と指摘する。

 

元東京都国立市教育長で教育評論家の石井昌浩氏は「これだけ男女共学が進んだ時代に、女子大が存続する理由はよくわからない。この際、女子大という枠組みを問い直すべきではないか」と話している。【2018725日 iZa

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【いよいよ緊迫するトルコのロシア製「S400」導入問題】

トルコの話に戻すと、喫緊の課題が629日ブログ“トルコ・エルドアン大統領 S400問題、シリア、更にはリビアと問題山積、国内でも新党の動き”でも取り上げた、ロシアからのミサイル防衛システム「S400」導入をめぐるアメリカとの対立です。

 

****内憂外患で追い込まれたトルコ・エルドアン大統領****

トルコのエルドアン大統領の求心力の低下が囁かれている。最大の理由は、623日に再投票された最大都市イスタンブールの市長選で、世俗派の最大野党・共和人民党(CHP)のエクレム・イマームオール候補者が、得票率で約9ポイント、得票数で約80万票もの大差で与党候補のユルドゥルム元首相に勝利したことである。(中略)

 

エルドアン大統領の党内の掌握力が弱まりつつあることを示す今一つの動きが、AKP創設メンバーのババカン元首相とギュル元大統領による新党結成の動きである。既にババカン元首相筋は、今秋を目途に新党結成の可能性の高いことを明らかにしている。

 

エルドアン大統領は外交面でも難問に直面している。最大の課題は、ロシア製ミサイル防衛システム「S400」の導入を巡り悪化した米国との関係をいかに修復するかである。

 

トランプ米大統領とエルドアン大統領は629日、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の開催された大阪で会談し、ロシア製ミサイルの購入に関して意見交換している。

 

トランプ大統領は、同会談冒頭でトルコがロシア製ミサイル・システムを導入した場合に制裁を発動するかを記者団に問われ、検討していると答えるに留めた。その上で会談後の記者会見において、トルコが同ミサイル・システム購入を決定したことに懸念を表明し、トルコに対して、北大西洋条約機構(NATO)の同盟強化につながる対米防衛協力の推進を要請していた。

 

他方、トルコ大統領府は同会談後、トランプ大統領は両国関係を害することなく問題の解決を図りたいとの願いを口にしていたと発表していた。

 

今のところ、ロシア製ミサイル・システムのトルコ導入が始まっていないこともあり、米国の制裁も発動されていない。

 

ただし、米国は既に6月中旬時点で、ロシア製ミサイル・システムの購入を撤回しない限り、米国の最新鋭ステルス戦闘機「F35」をトルコに納入しないと表明している。また、仮に導入となった場合に備えて3種類の制裁が検討されていることも明らかにされている。

 

求心力が低下するなか、内憂外患に陥ったエルドアン大統領が、次に如何なる手を打ってくるのか注目したい。【712日 WEDGE】

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そのロシア製「S400」の第一陣がトルコに搬入されたことが今日報じられています。

 

エルドアン大統領は、トランプ大統領との会談で「米政権は制裁を行わない」との感触を得たとしていますが・・・・。【75日 産経】 ウマが合うトランプ大統領はともかく、米政権・議会がどう判断するか・・・。

 

もっとも、アメリカは中国、イラン、北朝鮮、ベネズエラと制裁を振りかざす「敵」が多い中で、インドとも貿易でもめていますし、デジタル課税ではフランスとも制裁が話題にのぼることにもなっています。

 

更に、NATO一員でもあるトルコとも・・・となると、まわりは「敵」だらけと孤立し、お友達はイスラエル、サウジアラビア、そして日本ぐらいのものになってしまいます。

 

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ネット上に氾濫する「フェイク情報」規制と「表現の自由」の難しいバランス

2019-07-11 21:59:19 | インターネット SNS

(カイロのタハリール広場で、「ムバラク政権打倒」の気勢を上げる市民たち=2011年2月、越田省吾撮影【7月3日 GLOBE+】 「アラブの春」においてはSNSが大きな役割を担ったとされています。)

 

【「テロ対策」を大義名分とするSNS規制の流れ】

現代社会においてソーシャルメディアが圧倒的な存在感をもって多くの人々の生活・思考・行動に影響を与えていることは今更の話で、その結果、ソーシャルメディアに氾濫するフェイク、悪意に満ちたヘイト、情報操作を意図した国家・特定のグループによる陰謀的な情報など、深刻な問題が表面化しているのも、これまた今更の話です。

 

 

既存のメディアによる「報道」には公正さ・正確さが要求されるのに対し、ソーシャルメディアの情報は「表現の自由」と「市民参加」の実現という観点から、多くの制約の枠外にあります。その結果、冒頭で述べたような深刻な問題を引き起こすところともなっています。

“政治的分断を深め、ヘイトを拡散することに役立っている”とも指摘されるソーシャルメディアですが、「表現の自由」や「市民参加」という面を考えると、その規制は難しい問題をはらんでいます。

 

そうしたなかで、“テロリストに悪用されるのを防ぐ”という観点からの規制が急速に広まっています。

 

****テロのSNS悪用阻止へ=官民が国際会議、宣言採択―仏****

ニュージーランド(NZ)のクライストチャーチで起きた銃乱射テロから2カ月となる15日、インターネット交流サイト(SNS)がテロリストに悪用されるのを防ぐ取り組みを検討する国際会議がパリで開かれた。

 

各国首脳や大手IT企業トップらが「クライストチャーチ宣言」を採択し、テロを助長する危険思想や暴力的な投稿の拡散防止へ向けた官民協力を確認した。

 

会議はフランスのマクロン大統領とNZのアーダーン首相が共同議長を務めた。アーダーン氏は声明で「クライストチャーチのような悲劇を起こさないための具体的な措置を講じた」と強調。

 

マクロン氏は「自由で開かれたインターネット環境を構築しなければならないが、われわれの価値観と市民も守られるべきだ」と主張した。

 

宣言で各国政府は、テロや暴力的な過激主義に立ち向かい、適切な法整備に努める方針を確認。IT企業側は、テロリストや過激主義者の投稿とネット上での拡散を阻止し、危険な投稿の「即時かつ永久的な削除」を約束した。ただ、法的拘束力はない。

 

宣言は英国やカナダ、欧州連合(EU)欧州委員会など10の国・機関のほか、フェイスブック(FB)やグーグル、アマゾンをはじめとする大手IT企業が採択。会議に出席しなかった日本やスペインなども支持を表明した。一方、中国や米国は加わっていない。【5月16日 時事】

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上記のような流れを受けて、SNSなどのネット上の「フェイク情報」に国家が罰則をもって厳しく取り締まる傾向が進んでおり、そのひとつ、シンガポールの規制が注目を集めました。

 

ただ、いったい何を持って誰が「フェイク」と判断するのか? “テロ対策”を大義名分にして政権側にとって都合の悪い情報は「フェイク」とされ、言論弾圧に利用されるのではないか? との警戒・不安もあります。

 

****フェイク情報に厳罰、波紋 シンガポール、禁錮刑科す新法****

フェイクニュース」をネットで発信・拡散し、削除しない人や組織に厳罰を科す新法がシンガポールで成立した。同種の動きは他国でも広がっており、政治権力による言論抑圧につながりかねないとの批判が出ている。

 

 ■「閣僚が判断」に批判

シンガポールで成立したのは、「オンラインの虚偽情報・情報操作防止法」。「全部または一部が虚偽、もしくは誤解を招く情報」を発信した人や組織に政府が削除や訂正を要求でき、要求に応じなければ個人でも禁錮刑や罰金刑を科される。虚偽かどうか判断する権限は閣僚に与えられる。

 

国会で野党は「民主主義を守るためでなく、絶対的な力を行使したい政府のための法律だ」と反論したが、与党などの賛成多数で5月8日、可決した。

 

東南アジアのニュースを報じるネットメディア「ニューナラティフ」のピンジュン・サム氏(39)は「政府の気に入らない情報は何でもフェイクニュースとみなされかねない」と指摘する。(中略)

  

「フェイク」とされる情報やニュースへの規制は、表現の自由を重んじる欧州でも始まっている。選挙で候補者に関するウソの情報が広がったことなどが背景にある。

 

ドイツで昨年から本格運用が始まったフェイクニュース規制法では、苦情を受けたSNSの運営会社が、内容の違法性を判断したうえで投稿を一定期間内で削除することが義務づけられた。

 

フランスでも昨秋、選挙の際の虚偽報道を防ぐための法律が成立。ロシアでは今年3月、不正確な情報を拡散した個人や法人に罰金を科す新法ができた。

 

 ■市民の検証「支援を」

米国ではトランプ大統領が、自身に批判的な新聞やテレビ局を「フェイクニュース」と非難。日本でも菅義偉官房長官が記者会見での東京新聞記者による質問を「正確な事実に基づかない」と批判した。

 

「最悪のシナリオは、公的権力がフェイク情報対策を口実に、言論統制に乗り出すこと」。日本新聞労働組合連合(新聞労連)の南彰・中央執行委員長は、こう懸念する。

 

南氏は、ファクトチェックはメディアが担うべきで、「権力が介入する余地をなくしていく必要がある」と考えている。新聞労連としてもネット上の流言、政治家の発言などの真偽を確かめる記事を書く記者への支援を検討したいという。

 

元NHK記者で、NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ」副理事長の立岩陽一郎氏も「情報の真偽を判断するのは政府ではなく、主権者である国民、市民でなくてはならない」と指摘する。(後略)【6月8日 朝日】

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【「表現の自由」という“きれいごと”より国家の利益という“本音”重視へ】

シンガポールは、もともと政府監視が厳しい国家ですから、このような恣意的運用の恐れもある「フェイク情報」規制が出てきたことは、それほど驚くことでもありません。

 

驚くべきは、こうしたシンガポールの対応に「言論の自由」を普遍的価値観としてきた欧米諸国からほとんど批判がなかったことでしょう。

 

それだけ、ネットの情報への対応についても、また、基本的価値観と現実的利害に関する政治の姿勢という面でも、世界は大きくかわりつつあるようです。

 

****世界で進むSNS規制 いま何が起きているのか、専門家に聞いた****

いま世界では、テロ防止や犯罪抑止という理由で、政府がSNS規制の法律をつくったり、また規制に向けた議論が起きたりという例が相次いでいます。

 

この先、どんな未来が待ち受けているのか。「個人の自由やプライバシー」と「政府による監視」の関係をどう考えればいいのか。中東諸国はじめ諸外国のネットコントロール事情に詳しい山本達也・清泉女子大学教授に話を聞きました。

 

――フェイスブックなどのSNSが一般に普及して10年ほどになります。世界各地でいま、SNSを含むネット空間に対する政府のコントロールが目立ちますが、過渡期なのでしょうか。

 

2008年ごろからツイッター、フェイスブック、ユーチューブなどのソーシャルメディアが世界的に普及し、非民主主義国の一部では政府と国民との力関係が逆転する現象が起きました。

 

フェイスブックがアラビア語にも対応するようになり、エジプトでSNSを駆使した若者たちによる反政権運動が08年に起こります。それが11年の『アラブの春』の原動力となり、アラブ各地での民主化運動へとつながっていきました。

 

インターネットが登場したころ、ネットが普及していけば、人々が世界に向かって言いたいことを主張でき、政治は悪いことができなくなり、社会がよくなるのではないか。そんなバラ色の未来を描いていたような気がします。ひょっとしたら我々は過度な希望をもちすぎたのかもしれません。 

 

――ネットというツールを得て我々の暮らしは劇的に変わりましたが、社会はそれほど良くなっていない、と。

 

国際的な共同調査である『世界価値観調査』のデータを分析すると、興味深い結果が出ました。『アラブの春』後、エジプトではすべての世代において、非民主的であっても強いリーダーを持つことが好ましい、ととらえる人が大きく増えました。

 

隣国のリビアやシリアのようになるくらいなら、非民主的な大統領でも強いリーダーの方がまし、という考えなのでしょう。

 

エジプトでは最近、ネット活動家の投獄や反体制運動の非合法化、昨年8月の『反サイバー犯罪法』成立などネット規制が強化されています。(中略)

 

SNSというツールを手にして社会の変革を起こした体験があるにもかかわらず、国民はそれを自らの意思で手放そうとし、想像していた社会とは違った方向に進んでいるのです。 

 

――2013年に米国家安全保障局(NSA)による個人情報の大量収集の事実を、エドワード・スノーデンが内部告発し、民主主義国でも自由でオープンなネット空間が確保されていたわけではなかったことが判明します。

 

それまでネットと政権の距離を巡る考え方は、非常にシンプルな構図でした。政権にとって不都合な情報をアクセス及び発信できないよう規制したい非民主主義国と、ネット空間は自由でオープンな社会インフラであるべきだという先進民主主義国です。最近はそれほど単純ではなくなってきています

 

今年4月にスリランカでテロが発生した直後、同国政府はSNSを遮断しましたが、欧米メディアなどでテロ対策のためのネット規制に賛否の声がありました。欧米で規制に賛成する声もあったことは、時代の変化を象徴しています。

 

テロリストによる衝撃的な映像がSNSを介して拡散していき、テロリスト自ら動かなくても勝手に恐怖感を植えつけていく。リクルートも容易になります。それに加担するのはよくないということでしょう。

 

どの国でも本来、政府の本音は政権批判や不都合な事実は封じ込めたい。テロ対策という大義名分ができたことで正当化され、堂々と規制ができるようになってきています。 

 

■ネット規制のハードル下がった

――国家が民主的、非民主的問わず、世界は規制を許容し、国民もある程度、望んでいるということですか。

 

ネット空間の自由度はエジプトに限らず、世界的に後退傾向にあります。昨年ニュージーランドで起きたモスク銃乱射事件では犯行の様子がフェイスブックで中継され、NZでも規制の議論が進んでいます。

 

こうした二次被害の恐れが、プライバシーを最大限確保したい、自由や表現も守りたいという先進民主主義国の原理的な価値を上回るようになり、社会が規制を許容する方向に動いているのです。

 

そのような社会では監視や通信傍受、規制をする側の政府の方が、国民よりも圧倒的に有利な立場になっていきます。イギリス政府も今年4月、ネット上のテロに関する情報拡散の制限などを提言する白書を出しました。

 

――民衆が規制を許容する背景には、テロ以外の要因もあるのではないでしょうか。

 

一種のSNS疲れもあると思います。より長く、より頻繁にアクセスさせて中毒的にする工夫を凝らして企業が利益を追求していることに、人々が嫌悪感を抱き、距離をおこうとしているのです。(中略)

 

■「きれいごと」よりも「本音」

――シンガポールでは5月、「偽ニュース防止法」が成立しました。政府が偽ニュースと判断すれば、SNS投稿やフェイスブックメッセンジャーなどの会話内容なども対象に、偽情報発信者やオンラインプラットフォーマーを罰することができ内容です。

 

街中に監視カメラがたくさん設置されていて、もともと政府の監視が強いシンガポールで、このような法律ができたことに違和感はありません。むしろ驚いたのは国際社会から批判がほとんどでなかったことです。

 

一昔前にそんな法案を通そうとしたら米国をはじめ、国際世論が黙っていなかった。隔世の感があります。

 

きれいごとや理想を掲げられることが大人の国家であるという暗黙のルールが、アメリカ第一主義を掲げるトランプ政権の誕生とともに消え、本音は包み隠さず、国益を最大に打ち出すことへのためらいがなくなったのだと思います。【7月3日 GLOBE+】

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【進むIT企業による「自主規制」 仏では企業に義務付け、「表現の自由の(規制の)民営化」とも】

国家規制という介入を避ける意味合いからも、SNS側による「自主規制」的な動きも広まっています。

 

****ユーチューブ、「憎悪表現」「至上主義」動画を禁止へ****

米IT大手グーグル傘下の動画投稿サイト「ユーチューブ」は5日、人種などに基づく差別を助長・賛美したり、十分に立証されている暴力的な事件を否定したりする動画を禁止すると発表した。

 

暴力的な事件には、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)や2012年に米コネティカット州のサンディフック小学校で起きた銃乱射事件などが含まれる。

 

憎悪表現や暴力を含むコンテンツをめぐってより厳格な規制を求める声が高まる中、IT大手各社はこうした投稿を削除する措置を相次いで発表している。(後略)【6月6日 AFP】

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****トランプ支持者のネットフォーラムを隔離、暴力推奨し規定に違反****

ソーシャルニュースサイトのレディットは26日、ドナルド・トランプ米大統領の支持者らが集まる人気フォーラムを「隔離」したと明らかにした。ユーザーらが暴力を扇動するなど、規定違反を繰り返したためだとしている。

 

レディットによると、問題とされたのは「ドナルド」と名付けられたフォーラム(サブレディット)。「規定違反行為が繰り返され」、そのたびに暴力を推奨、扇動する投稿を削除しなければならなかったため、対応をとったとしている。直近では、オレゴン州の警官や公人に対する暴力を推奨する書き込みがあったという。(中略)

 

 一方、これに先立ちトランプ氏は同日、米経済ニュースチャンネルFOXビジネスとのインタビューで、ツイッターが自身の投稿を検閲し、国民へのメッセージ発信を困難にしていると非難した。(後略)【6月27日 AFP】

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****特定宗教ヘイト、削除へ ツイッター方針、禁止対象を拡大****

ツイッターは9日、ヘイトスピーチ対策強化の一環で、「特定の宗教グループ」を非人間的に扱うツイートは、今後削除していく方針を明らかにした。これまでは「特定の個人」の人間性を否定する内容を規約違反としてきたが、「集団」に対象を広げる。まずは「宗教グループ」を対象とし、今後、「性別」や「人種」、「国籍」などにも広げていく考えだ。(後略)【7月10日 朝日】

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****偽医療情報の拡散防ぐ、FBとユーチューブが投稿のランク付けアルゴリズムを修正****

米紙ウォールストリート・ジャーナルが2日、誤解を招く恐れのあるがんの代替療法の情報が交流サイト最大手のフェイスブックと動画投稿サイトのユーチューブに氾濫していると報じたことを受け、フェイスブックとユーチューブは同日、そうした情報の拡散を防ぐ対策を取っていると明らかにした。

 

フェイスブックは、「誇張した、またはセンセーショナルな健康関連の主張」と、そのような主張に基づいて商品を売ろうとするアカウントを減らすため、投稿のランク付けのアルゴリズムを修正したと明らかにした。ユーチューブも独自に同様の対応策を取っていると述べた。(後略)【7月3日 AFP】

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多くのユーザーは検索情報の上位にランクされる情報しか通常目にしませんから、どのような情報がユーザーの目に触れやすい形で提供されるかというアルゴリズムは非常に影響が大きく、かつ、ブラックボックスです。

 

****ネットの暗部に視聴者誘導、ユーチューブの落とし穴****

陰謀説や特定の主義主張に偏った意見が「おすすめ」に現れる

 

動画共有サイト「ユーチューブ」は新しいテレビだ。ユーザーは15億人を超え、そこで視聴を薦められる動画は、世界中で人々の考え方に影響を与える。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が調査を実施したところ、より中立性の高いコンテンツが強調されるように変更したとのユーチューブの説明にもかかわらず、「おすすめ」動画の多くは賛否の分かれるテーマや誤解を招きやすいもの、あるいは虚偽の内容だった。(後略)【2018 年 2 月 9 日 WSJ】

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一方、国家が主導して、IT企業に「自主管理」させる取り組みを進めるのが、先述の「クライストチャーチ宣言」を主導したフランス・マクロン大統領です。

 

****仏でヘイト投稿規制法成立へ 企業に罰則つき削除義務****

グーグルなどのIT企業に、ネット上で憎しみや差別をあおる投稿の削除を義務づける法案を賛成多数で可決した。上院第1党の野党共和党もおおむね賛成で、9月にも成立する見通しだ。

 

削除すべき投稿の判断を企業に委ね、怠れば処罰するしくみで、表現の自由を脅かす懸念も出ている。

 

ヘイト投稿規制法案では、FB、ユーチューブといったIT企業がフランスで提供するサービスで、明らかに違法なコンテンツがあった場合、閲覧者の通報から24時間以内に削除するよう義務づける。

 

通報は投稿で傷つけられる当事者でなくても可能で、メッセージだけでなく動画や写真も対象だ。

 

企業の違反には最大125万ユーロ(約1億5千万円)の罰金が科される。通報しやすいよう、専用のクリックボタンを画面に表示させるなどの工夫も事業者に義務づける。(後略)【7月10日 朝日】

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Bの幹部が今回の法案について「表現の自由の(規制の)民営化のようなものだ」と懸念している”【同上】とも。

 

「表現の自由」を担保しながら、悪意の「フェイク情報」がネット上に氾濫する現状をどのように改善するのか・・・難しい問題です。

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ベネズエラ  「超法規的処刑」にも支えられるマドゥロ政権 グアイド氏側との交渉はあるものの・・・

2019-07-10 22:43:06 | ラテンアメリカ

(国境を越えたコロンビア・ククタの街で、客から声がかかるのを待つベネズエラ女性【625日 朝日】)

 

【“しぶとい”マドゥロ政権を支える「超法規的処刑」 5千人超を殺害】

アメリカの支援を受けるグアイド国会議長らの野党勢力の活動が活発化し、一時はいよいよ追い詰められるのか・・・という感もあった南米ベネズエラのマドゥロ大統領ですが、最近は大きな動きもなく、再び膠着状態に陥ったように見えます。

 

すさまじいハイパーインフレーション・経済崩壊でも潰れないマドゥロ政権、いつも言うように非常にしぶといです。

 

****ベネズエラ大統領、野党のクーデター計画阻止したと主張****

ベネズエラのマドゥロ大統領は26日、野党によるクーデター計画を治安部隊が阻止したと明らかにし、大統領ら要人の暗殺や服役中の元軍人を大統領に就任させることなどが計画されていたと主張した。

マドゥロ大統領はテレビで「ベネズエラの社会と民主主義に対するクーデターを計画したファシストのテロリスト一味を暴き、排除、拘束した」と述べた。

また「この犯罪者、ファシストグループを監視してきた結果、明確な証拠の下に捕らえ、投獄した」とした。

2009年に汚職で逮捕されたバドゥエル元国防相の解放を狙った情報機関本部への攻撃も計画されていたという。

マドゥロ大統領は、野党指導者のグアイド国会議長のほか、米国、チリ、コロンビアの政治指導者も計画に関与していたと主張した。

グアイド氏はこれを否定。マドゥロ氏に批判的な向きは、容疑者に強要した証言を根拠に大統領が政治目的でクーデター計画をでっちあげたと非難している。【627日 ロイター】

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この“クーデター計画”なるものの真相は定かではありませんが、これに付随して、関係者の「拷問死」というおぞましい報道も。

 

****ベネズエラ、クーデター関与疑いの海軍将校が「拷問死」 内外から非難****

米政府とベネズエラの野党勢力は630日、ニコラス・マドゥロ大統領に対するクーデター計画に関与した疑いで拘束されていた海軍将校が「拷問」を受けて死亡したとして、マドゥロ政権を激しく非難した。

 

ベネズエラの野党指導者フアン・グアイド国会議長とマドゥロ大統領の対立によるこう着状態が5か月以上も続く中、米国務省は海軍将校ラファエル・アコスタ・アレバロ氏の死の責任があるとしてマドゥロ大統領を非難した。

 

米国務省は声明で、アコスタ氏は「マドゥロ大統領が差し向けた暴漢とキューバ人顧問らによって拘束されている間に死亡した」とし、「米国は、アコスタ氏の殺害と拷問を激しく非難する」と述べた。

 

一方、米国など約50か国から暫定大統領として承認されているグアイド氏は629日夕、アコスタ氏は「拷問を受けた末に」死亡したと発表していた。

 

アコスタ氏はマドゥロ大統領に対するクーデター計画に関与した疑いで逮捕された13人のうちの一人。ベネズエラ政府は、クーデター計画にはグアイド氏も関係していたとみている。

 

ベネズエラ政府は先月26日、将校らによるクーデターの試みを阻止したと発表していた。これによると、計画されていたクーデターは先月23日から24日の間に実行される予定で、大統領および複数の高官の暗殺も企てられていたという。

 

中南米諸国とカナダでつくる「リマ・グループ」はアコスタ氏の「暗殺」を強く非難するとともに、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官に介入を要請した。 【71日 AFP】AFPBB News

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海軍将校ラファエル・アコスタ・アレバロ氏の「拷問死」が疑われるのは、マドゥロ政権の政権維持のためには暴力を厭わない強権体質のためです。

 

もっとも、問題とされるべきはアレバロ氏ひとりではなく、何千人にも及ぶとされる犠牲者です。

政権の暴力装置となって「超法規的処刑」を行っているのが、政権配下の民兵組織です。

 

****ベネズエラ「重大な人権侵害」 5千人殺害と国連報告書****

政情不安が続く南米ベネズエラの人権状況について、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が4日、報告書を公表した。独裁的なマドゥロ政権により、2018年だけで「政権に反対する者」が5287人殺害されているなどとし、「重大な人権侵害がある」と結論づけた。マドゥロ政権は「誤りばかりだ」と反発した。

 

報告書では、政権を支持する武装民兵「コレクティーボ」が市民の殺害に関与しているとし、民兵の武装解除と関与した犯罪への捜査を求めた。また、野党議員や人権活動家、記者など政府に批判的な人物に対する不当な逮捕や拷問がなされているとも指摘した。

 

経済状況については、配給制度が機能しておらず、国民の多くが食料や医薬品の不足に直面。18年11月から今年2月に1557人が薬不足で死亡したとした。

 

マドゥロ政権は「米国の経済制裁が危機の原因だ」と主張。報告書は、制裁が危機を深めているとしながらも、「制裁前からベネズエラ経済は危機にあった」と指摘した。

 

報告書は、マドゥロ政権のほか、人権侵害の被害者や目撃者など558人へのインタビューを元に作成された。【75日 朝日】

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国民生活を破綻に追いやっているマドゥロ政権が今も維持されている理由のひとつに、政権批判を許さない上記のような「超法規的処刑」を含めた暴力支配があげられます。

 

【失脚工作がうまくいかないアメリカ 関与を続けるロシア】

関係国の動きの面で言えば、反米マドゥロ政権を倒したいアメリカの目論見は、これまでのところ失敗続きの状況です。トランプ大統領は中国、北朝鮮、イランとけんか相手が多すぎて、国際的注目度では劣後するベネズエラどころではないのでは・・・とも推察されます。

 

****トランプ氏、ベネズエラ大統領の失脚目指す取り組み継続=特使****

米国のベネズエラ担当特使、エリオット・エイブラムス氏は25日、トランプ大統領は依然、ベネズエラのマドゥロ大統領を失脚させ、米国など西側諸国の支援を得て暫定大統領就任を宣言した野党指導者、フアン・グアイド国会議長を大統領に就任させるため圧力をかける政策にコミットしていると述べた。

 

マドゥロ大統領はロシアと中国の支援を受けており、これまでのところ、トランプ大統領が進める失脚工作は成功していない。

 

エイブラムス氏は、イランとの緊張の高まりや中国との貿易交渉など他の緊急課題により米国がベネズエラに対する関心を失ったのか、との疑問を一蹴。

 

また、マドゥロ氏がベネズエラの挙国一致内閣に参加する可能性を断固否定し、記者団に、「(マドゥロ氏が)解決の一端を担ったり、暫定政権に参加したりする可能性は考えにくい」と述べた。(後略)【626日 ロイター】

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一方、マドゥロ政権を支えるのがロシア・中国。

 

そのロシアに関して、トランプ米大統領は6月3日、「ロシアがベネズエラから、大部分の人員を引き揚げたと我々に伝えてきた」とツイートし、ロシアがベネズエラから手を引くとの情報を流していましたが、ロシアはこれを否定。最近はむしろ軍事的関与を強めているようにも見えます。

 

****ベネズエラに再びロシア空軍機、首都空港に着陸****

ベネズエラ首都カラカス北方のバルガス州マイケティアにあり、カラカスの空の玄関口となっているシモン・ボリバル国際空港に24日、ロシア空軍機が着陸した。ロイターの記者が目撃し、軍用機の行動を追跡する専門ウェブサイトでも確認された。(後略)【625日 ロイター】

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****ロシア、ベネズエラ軍増強を支援する用意─外務次官=RIA****

ロシアのリャブコフ外務次官は5日、ベネズエラ軍の増強を支援する用意があると表明した。ロシア通信(RIA)が伝えた。

西側諸国の大半が、ベネズエラ暫定大統領就任を宣言した野党指導者のグアイド国会議長を後押しする中、ロシアは中国とともにマドゥロ大統領を支持している。【75日 ロイター】

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【国外で直接対話も ただ、政権側に譲歩の必要性もなく、期待がしづらい交渉の行方】

国内で対立が続く状況を打開すべく、政権側とグアイド氏らの反政権側の直接交渉も断続的に国外で行われてはいます。ただ、マドゥロ大統領側に譲歩の気配がない状況で、どのような交渉が成立するのか疑問も感じますが。

 

****混迷のベネズエラで直接対話が再開**** 

南米ベネズエラの独裁的なマドゥロ政権と、米国の支持を受け「暫定大統領」を名乗る野党連合のグアイド国会議長の双方の代表団による直接会談が、カリブ海の島国バルバドスで9日までに始まった。

 

ベネズエラでは、それぞれが正当性を主張する「2人の大統領」の対立が膠着(こうちゃく)状態にあり、野党連合側が求める大統領選のやり直しにマドゥロ政権側が応じるかが焦点となる。

 

双方の直接対話はノルウェー政府が仲介。今年5月にも同国の首都オスロで開かれたが、物別れに終わった。バルバドスでの直接対話は今月8日に始まり、マドゥロ氏は同日、初日の協議は5時間行われたとし「平和的解決に向けて楽観的だ」と表明した。

 

米紙ワシントン・ポストは、これまで即時退陣を求めてきた野党連合側が、マドゥロ氏に一時的な大統領職を認めた上で、大統領選のやり直しを求めるという「譲歩案」を模索していると報道。深刻な経済危機でマドゥロ政権の支持率が急落しているため、政権奪還できる見込みが高いとみているという。ただ政権側はこれまで大統領選のやり直しを拒否しており、合意に達するかは不透明だ。

 

ベネズエラでは先月末、政権に対するクーデター計画に関与したとして身柄を拘束された海軍少佐が死亡する事件が起きた。これを受け、グアイド氏はマドゥロ政権側との直接対話を拒否する意向を示したが、今月7日になって「独裁体制からの脱却を目指し、権力を強奪した政権の代表者と話し合う」と表明した。【710日 産経】

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暴力支配であるにしても、これまでのところ軍部に大きな離反の動きもなく、マドゥロ大統領に徐穂する必要性はあまり見当たりませんので、交渉の成り行きには大きな期待はできないように思えます。

 

【避難先コロンビアでの厳しい生活 それでも国を出ざるを得ない窮状】

こうした状況で苦しむのは一般国民です。

国内に食糧・医療が乏しく、国外に逃れる人々も400万人を超えているといわれますが、国外に出ても厳しい現実が待ち受けています。

 

****ベネズエラ、我が子のため国境越える コロンビアへ食料・医療求め続々****

経済が破綻(はたん)し、政情不安が続く南米ベネズエラの人々が、食べ物も薬も手に入らない深刻な人道危機に見舞われている。幼子を抱えた母親や妊婦は、国境を越えてコロンビアに続々と入っていた。

 

 ■ほとんどが不法

4月15日午前10時、コロンビア北部ククタのエラスモ・メオス大学病院。産科待合室の妊婦18人のうち15人がベネズエラ人だ。ほとんどが不法に国境を越えて来た。

 

妊娠8カ月のおなかをさするマリアニ・キンテロさん(20)はベネズエラ中西部バレンシア出身。昨年夏に妊娠がわかり、母親と家を出た。「近所では出産で亡くなった人がいた。食べ物も薬もなく、安心して産めるとは思えなかった」

 

パスポートの入手に700米ドル(7万8千円)が必要と言われた。売り物の肉がほとんどない肉屋で働く夫の収入10年分に当たる。そんな金はなかった。

 

バスを乗り継ぎ、国境で民兵に2万8千ボリバル(600円)を渡し、抜け道を通らせてもらった。命の宿るおなかを気にしながら山道を慎重に歩いた。「国境の川の水が少なかったのが幸運だった」。コロンビアに入り、すぐ向かったのがこの病院だ。

 

生後1カ月の女の子エメルリスちゃんを抱くマリア・グスマンさん(30)はこの病院で出産後、バレンシアの実家へ家族の看病に戻り、また不法入国したばかり。実家は停電が続き、水もガスも使えない。周囲の家からは、まきを燃やす煙が立ち上っていた。

 

エメルリスちゃんが生まれた3月12日はベネズエラで最初の大規模停電が起きたころだ。「この子のために国を出ることを選んだ」と言って、抱きしめた。(中略)

 

 ■一度は逃げたが

午後7時すぎ。ククタの繁華街の街灯の下に女性たちが立ち始めた。

ベネズエラ西部メリダ出身のパオラ・アルバレスさん(21)は昨年4月から売春をしている。

 

医師になることを夢見ていたが、高校卒業のころ経済危機が深刻になり、進学できなかった。「大学を出ても月に5ドル(600円)ぐらいしか稼げない。あの国で学ぶことに意味はない」。食堂で働くなどしたが、1カ月の給料は卵30個、米1キロを買えばなくなった。2年前、子供が生まれ、生活は行き詰まった。

 

近所の友人から「コロンビアでいい仕事がある」と誘われた。交通費や宿泊費を支払ってくれ、国境を越えて来た。待っていた男に交通費などを返すまで働けと命じられ、売春宿に監禁された。人身売買の被害に遭ったと気づいた。1時間3万5千ペソ(1200円)で客を取り、大半は宿の男に持っていかれた。

 

逃げ出したが仕事はなく、街頭に立つ。夕方6時から午前4時まで。今は1時間当たり5万ペソ(1700円)が手元に残る。

 

多くの売春婦が客に暴力をふるわれている。怖いが、これしか仕事がない。2、3カ月に1度、メリダに戻って生活費を渡す。「洋服屋の店員をしている」と家族にうそをついている。

 

アルバレスさんと一緒に街頭に立つニコラ・ペレスさん(23)は、3人の子を親戚に預けてカラカスから出てきた。「送金を受け取る家族は私の仕事に感づいているはず」と話す。

薄暗い連れ込み宿の硬いベッドの上で考える。「すべては子供たちのため。そう思わないと耐えられない」

 

 ■大学出たけれど

コロンビアの首都ボゴタで売春をするアンドレア・ゲラさん(23)はカラカスの高級住宅地で育った。大学を卒業し、企業の会計担当をしていたが、インフレで食べるにも事欠くようになった。父の会社も経営が傾き、母、3歳の娘と一緒にコロンビアに来た。

 

3カ月前、母が病気になり、追い込まれた。新聞広告で見つけた売春あっせん所に登録した。「顔を見せる方が客は見つかる」と言われ、赤い下着姿の写真をウェブサイトに載せた。「娘には自分と同じ人生は歩ませたくない」

 

ベネズエラ経済は石油に依存してきた。貧困層を救済するとして1999年に大統領に就任したチャベス氏は工場や農地を国有化した。生産が落ち込んだ分、石油収入を元手に輸入で不足を補った。2013年からはマドゥロ政権がこの路線を引き継いだ。

 

だが14年に石油価格が急落、米国の経済制裁も相まってインフレが加速した。食料や医薬品がない人道危機に直面し、国連によれば、ベネズエラを脱出した人々は今年6月には400万人に達した。このうちコロンビアにいる130万人の半数は不法入国を含む非正規の滞在とみられる。

 

女性への支援活動をしているコロンビアのNGOによると、ベネズエラ人の女性の多くが何らかの形で売春を余儀なくされている。ククタの女性問題担当局は、市内の売春婦の3分の2がベネズエラ人で、17年以降に倍増したと推計している。【625日 朝日】

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避難先コロンビアでの生活は悲惨ではありますが、それでも収入も、食料・医療もないベネズエラ国内にとどまるよりは・・・という究極の選択です。

 

なお、コロンビアで医療を求めるベネズエラ人の9割は未払いとのことで、今のところはコロンビアの病院はそれがわかっていても受け入れています。しかし、何らかの対応がないと持続できないでしょう。

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ロシア  謎の原子力潜水艇の火災事故 制約される情報公開

2019-07-09 23:45:39 | ロシア

(ショイグ国防相と協議するプーチン大統領【76日 CNN】)

 

【海底通信ケーブルからの通信傍受任務中の事故か?】

今月1日、ロシアの原子力潜水艇がバレンツ海(北極圏 スカンジナビア半島の北)で14名の死者を出す火災事故を起こしたことが話題になりました。

 

****火災事故のロシア潜水艇は原子力型、プーチン大統領が表明****

ロシアのプーチン大統領は4日、バレンツ海のロシア領海内で1日に火災事故を起こした潜水艇について、原子力潜水艇だったことを初めて明らかにした。ショイグ国防相は潜水艇に搭載されている原子炉の安全は確保されているとしている。

ロシア国防相は2日、北極に近い海域の海底で探査活動を行っていた極秘潜水艇で火災が発生し、ロシア人乗組員14人が死亡したと発表。

 

国防省は潜水艇の種類については明らかにしなかったが、ロシアのメディア、RBCは火災を起こした潜水艇は「AS─12」と呼ばれる原子力潜水艇で、通常の潜水艦が到達できない深海で特別任務にあたっていたと報道。

 

インタファクス通信は国防省の発表として、「ロシア海軍の要請で海洋環境を調査していた深海科学探査艇で火災が発生した」とし、「煙の吸入により14人の乗組員が死亡した」と報じていた。

ロシア政府は1日に発生した事故を2日になってから公表。その後、大統領府が4日、プーチン大統領が大統領府でショイグ国防相と会談し、火災を受けた潜水艇の原子炉の状況について質問するもようを公開するまで、事故を起こした潜水艇は原子力潜水艇だったことは明らかにされなかった。

大統領府が公表した会談のもようによると、ショイグ国防相はプーチン氏に対し「潜水艇に搭載されている原子炉は完全に隔離されている」とし、「乗組員は原子炉を守るために必要なすべての措置を行い、原子炉は完全に稼動できる状態にある」と報告した。

潜水艇は事故後、バレンツ海に面するセベロモルスク海軍基地に停泊。ショイグ氏は、火災は電池に関連する部分で発生しその後延焼したが、完全に修理できるとしている。

大統領府は会談のもようを4日朝に公表したが、会談がいつ行われたのかは分からない。

ロシア政府は今回の事故について公式な調査に着手しているが、秘密裏に行われる公算が大きい。旧ソ連時代の1986年に発生したチェルノブイリ原発事故のほか、118人が死亡した2000年の原子力潜水艦クルスク沈没事故の際も、当局は即座に情報を公開しなかった。【75日 ロイター】

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ソ連の隠蔽体質を引き継ぐように、ロシアの情報公開は極めて不十分です。

事故を起こしたのが原子力潜水艇だったという極めて重大かつ初歩的事実を4日になってようやく認める・・・・。

また、事故当時、バレンツ海で接するノルウェーに対し火災の発生を連絡しなかったとのことです。

 

2000年の原子力潜水艦クルスク沈没事故のときは、“プーチン大統領は黒海のソチで休暇をとっており、その後CIS諸国非公式首脳会議に出席のためウクライナのヤルタに行き、その後休暇を続け、救助作業が難航しているにもかかわらず他国の援助を拒否したり、すぐにモスクワに戻らなかったため、強い批判を受けた。”【失敗知識データベース】とのことですから、原子力事故や災害一般に対する政治責任の感覚が、日本や欧米とは異なっているところもあるのでしょう)

 

ロシアのこうした秘密主義的対応は体質的なもの、民主主義の前提となる情報公開への意識の低さが根底にありますが、それに加えて、今回の潜水艇が“秘密作戦”に当たっていたことが、ロシアの口を重くしているのでしょう。

 

****極秘作戦中だった? 火災の露潜水艇 地元メディア報道****

ロシア北方艦隊所属の潜水艇で火災が起き、乗員14人が死亡した事故で、露メディアは6日までに、潜水艇は海底通信ケーブルからの通信傍受など、極秘作戦に従事していた可能性があるとの見方を報じた。

 

露政府は軍事機密を理由に、潜水艇の機種や詳細を明らかにしていない。火災は、ノルウェー沿岸にも近いバレンツ海のロシア領海内で、1日に発生した。

 

複数の露メディアは、火災が起きたのは原子力潜水艇「AC12ロシャリク」だったと指摘した。ロシャリクは全長約60メートルで、2003年に配備された。25人が搭乗でき、深度6000メートルまで潜行可能という。機体の写真は公開されていない。

 

ロシアの海底通信ケーブル防衛や通信傍受、敵対国のケーブル切断による通信妨害などを目的に建造されたという。露メディアは潜水艇が実際の通信傍受作戦への従事や、訓練も行っていた可能性を指摘した。

 

潜水艇は事故後、露北部セベロモルスクに移送された。調査の結果、火災は電気回路がショートしたことで起きたと発表された。死者には、7人の海軍大佐と2人の「ロシア英雄」称号保持者が含まれていた。【76日 産経】

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“海底通信ケーブルからの通信傍受”というスパイ活動は、ロシアだけでなく、アメリカもやっているものです。

 

現代社会を支えているのがインターネットによる情報のやり取りですが、具体的には、大陸間のインターネットは海底通信ケーブルによってデータ送信が行われています。

 

したがって、海底通信ケーブルからの通信傍受、あるいは、逆にその機密保持ということが極めて重大な課題となります。

 

*****情報通信の「生命線」巡る攻防 米中が争う「海底ケーブル」覇権*****

(中略)現在、大陸間のインターネットのデータートラフィック(デジタルデータの行き来)は、九九%が海底に敷かれた光ケーブルを介して行われている。衛星よりも高速に大容量を運べるからだが、陸上でも光ケーブルがほとんどのデー夕を運んでおり、世界のインターネツトを支えている。(中略)

 

海底通信ケーブルは、長くスパイ工作の対象とされ安全保障の弱点と懸念されてきた。古くは、冷戦時の一丸七〇年代に米海軍の潜水艦がロシアに近い海域で「アイビー・ベルズ」と名付けられた極秘作戦を実施。オホーツク海の海底を走るソ連のケーブルで通信されるデータを傍受していたという話は有名である。

 

最近では、米中央情報局(CTIA)の元職員のエドワード・スノーデンが、内部告発サイト「ウィキリークス」で、米国家安全保障局(NSA)による大規模な通信監視プログラムを暴露している。

 

それによると、海底ケーブルなどから情報を秘密裏に搾取する「アップストリーム」と呼ばれるシステムがあるという。このシステムでは、海底ケーブルが陸のケーブルと接続されるポイントでデータを収集している。

 

要するに、海底ケーブルはスパイ機関にとって格好の情報収集の的なのである。(後略)【「選択」7月号】

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潜水艇による海底通信ケーブルからの通信傍受というのは、その世界では常識でも、なかなか一般には公表できない性質の任務であるため、今回原子力潜水艇事故の情報公開も遅れ、また、部分的なものになっているということのようです。

 

秘密にするので、いろいろと憶測を呼び、同時期に起きたもうひとつの不思議な出来事“ペンス米副大統領が2日に予定したニューハンプシャー州遊説を突然取りやめた。ホワイトハウス高官はCNNテレビなどに「(ペンス氏の)健康面の問題でも国家安全保障上の問題でもない」と述べたが、明確な説明はなく、何らかの緊急事態が生じたのではないかという臆測も流れた。”【73日 時事】という件と絡めて、ロシアとアメリカの原子力潜水艦が交戦し、アメリカ原潜は沈没、ロシア原潜に14名の死者がでた・・・といった情報も、イスラエル軍事情報サイトからの情報としてネットにはあるようです。

 

まあ、フェイクニュースの類でしょうが、それとは別にして、ペンス副大統領が何故急遽ワシントンに呼び戻されたのかという件、何があったのか?トランプ大統領が発作でも起こしたのか?ということは気になるところではあります。

 

【原子力潜水艦の沈没事故】

今回事故のもうひとつの重要な側面は、当然ながら原子力船の事故という点です。

 

ソ連・ロシアとアメリカは、これまでも原子力潜水艦沈没事故をたびたび起こしており、海底に何隻もの原子力潜水艦が沈んでいる・・・というのが現実です。

 

ソ連・ロシアについては、以下のようにも

 

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1968年のホテル級原潜の沈没および艦級不明原潜の沈没にはじまる。

70年にはノベンバー級原潜が演習の帰途,火災から原子炉停止,4,700mの海底に乗員52名とともに沈む。

83年には演習に向かおうとするチャーリーI級原潜が原子炉室に浸水し水深50mに沈没し,16名が死亡。

その同じ艦が2年後にカムチャッカ沖で再び沈没。

86年にヤンキー I 級原潜がミサイル燃料爆発から火災,炉心溶融は寸前で回避するも5,500mに沈没し,乗員4名死亡。

89年にはマイク級原潜コムソモレッツ号がノルウェー沖で火災,酸素発生装置の爆発から沈没,66名中42名が死亡。知られているだけで以上の6件があった。そして今回のクルスク号である。【2008119日ブログより再掲】

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アメリカについては、1963年と1968年に2隻が沈んでいます。

 

年代的に見ると、60年代から80年代に集中しており、最後が2000年ということですから、近年は安全性が向上したということでしょうか?

 

35年前には日本海で米空母とソ連原潜が衝突】

いずれにしても物騒な話ですが、1984年には日本海でともに核兵器を装備したアメリカ空母とソ連原潜が衝突するといった事故もあったようです。

 

****ソ連の原潜と米空母の衝突事故:核戦争の危機はいかに回避されたか****

1984年、ソ連の原子力潜水艦とアメリカの空母の衝突事故が起きた。あわや核戦争、さらには第三次世界大戦という危機だったが、幸運にも回避された。だが、事態が別に転んでいた可能性も大いにあった…。

 

1984321日の朝、日本海にあったソ連の原子力潜水艦「K-314」の水兵たちには、その後の事態は想像もできなかった。まさにその日、彼らが、アメリカの空母「キティホーク」と衝突事故を起こすなどとは…。

 

米側にとっては、 日本海で突如起きたこの“攻撃”は、パールハーバーの奇襲の再現のように思われたかもしれない。

 

これはまったくの偶発事で、こんな“作戦”は、ソ連原潜の艦長は思ってもみなかった。が、にもかかわらず、この事件は、米ソ両国、さらには全世界の将来に予測不可能な結果を引き起こしたかもしれない。

 

2隻の艦船はいずれも核兵器を搭載していたので、もしそれが爆発したとすれば、破局的な環境破壊にくわえ、2つの超大国間の深刻な対立につながっただろう。

 

それは監視から始まった

米海軍の空母「キティホーク」は、最大約80機の航空機を搭載できた。19843月、米韓合同軍事演習「チームスピリット84」に参加するために、8隻の艦船を従えて、日本海に入った。

 

ソ連の極東地域と目と鼻の先にこんな強力な艦隊が出現したことを、ソビエト太平洋艦隊が察知できないはずはなかった。原子力潜水艦「K-314」は空母を追跡するよう命じられた。

 

314日、ソ連原潜「K-314」は、米空母「キティホーク」を発見し、追跡が始まった。米側は、すぐさま追尾されていることに気がつき、追尾を振り切ろうと躍起となった。この「鬼ごっこ」は1週間続き、そして予想外の事態が起きる。

 

衝突事故

320日、悪天候のため、K-314はキティホークを見失った。K-314は状況をつかむために、水深わずか10メートルのところまで浮上した。ウラジーミル・エフセーエンコ艦長が潜望鏡をのぞくと、米艦隊がたった45㎞の地点にいることを知り、驚愕した。だが、それより問題だったのは、米艦隊とK-314がお互いに向かって全速前進していたことだ。

 

エフセーエンコ艦長は、直ちに潜水せよと命じたが、もう遅かった。K-314とキティホークは衝突した。(中略)

 

ソ連の原潜には、浮上して姿を現す以外に選択肢はなかった。原潜の水兵らが、緊急タグボートを待っている間、キティホークから発進した数機の米戦闘機から、「空の訪問」を受けた。キティホークは、上空からソ連原潜を調査する機会を逃さなかった。

 

「我々は、直ちに彼らを援助できるか見極めるために2機のヘリコプターを飛ばしたが、ソ連原潜は甚大な被害は受けなかったようだった」。キティホーク艦長、デヴィド・N・ロジャーズは回想する

 

衝突の結果、ソ連原潜のスクリューは大きな被害を受けた。空母は、船首に巨大な穴が開き、数千トンのジェット燃料が海に漏れた。それが爆発しなかったのはまったく奇跡としか言いようがない。

 

幸い、両艦船に搭載された核兵器も爆発しなかった。

 

処罰

K-314は、最寄りのソ連海軍基地に曳航され、その航路の一部は、米フリゲート艦に護衛された。キティホークについていえば、演習「チームスピリット」はそこでおしまい。空母は、日本の横須賀港で修理するために、ゆっくり移動していった。

 

米国側は、この衝突事件について、ソ連原潜の艦長を非難し、ソ連海軍司令部もこれに同意した。ウラジーミル・エフセーエンコは、艦長の職務からはずされ、陸上勤務に移された。

 

だがエフセーエンコはこんな決定には承服できなかった。事件で犠牲者が出たわけではなく、潜水艦も失われなかったから。「我々は沈まなかったし、誰も火傷しなかった」

 

さらに彼はこう付け加えた。「我々は長い間『敵』を追い出すことさえできたんだ」【48日 RUSSIA BEYOND

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私はこの米空母「キティホーク」とソ連原潜の衝突事故は記憶にありません。

ネット検索すると、確かにそういう事故はあったようです。

 

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