孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  急進的イスラム主義台頭から穏健派による牽制、多様性重視の方向へ“潮目”が変化

2019-12-21 22:39:01 | 東南アジア

(インドネシア・アチェ州で執行された公開むち打ち刑の様子(2019年3月20日撮影)【3月21日 AFP】)

 

【“17歳の女子体操選手”の事件 コーチ側謝罪で和解】

下記は12月5日ブログ“インドネシア  ジョコ政権のイスラムへのすり寄り現象 いまだに続く「処女検査」”で紹介した記事。

 

****「非処女」で代表漏れ、インドネシア女性選手の悲劇****

フィリピンのマニラ首都圏周辺一帯のルソン島で11月30日から12日間の予定で東南アジア諸国による国際競技大会「東南アジア競技大会(SEA GAME)」が始まり、各国のアスリートによる熱戦が続いている。(中略)

 

しかしその一方でインドネシアではメダル競争や選手の活躍とは別の話題がニュースとなっている。それは17歳の女子体操選手が大会直前の合宿から強制排除される事件が起きたからである。

 

女子選手の母親などによると強制排除の理由は女子選手が「処女でなかったから」というもの。これは「体操競技とは無関係の選手の極めて個人的なことであり、事実とすれば許されることではない」としてマスコミを中心に強い関心を集め、青年スポーツ省、インドネシア国立スポーツ委員会、体操競技協会や女子選手の出身地の州知事、政府与党関係者まで巻き込んだ論争に発展する事態となっているのだ。

 

「結婚前の性交はタブー」というイスラム教の規範

当該選手を大会選手枠から外した体操競技のコーチは「強制帰国は素行に問題があり、競技への集中力が欠けていたため」として「処女か処女でないか」が理由ではないと主張している。

 

しかし青年スポーツ省は「事実関係を調査してもし処女性が強制排除の理由であれば、人権問題であり放置できない」との立場を示している。

 

女子選手は地元に帰還してから病院での医学的検査を受けた結果「処女である」との診断が下された。

 

だがインドネシア国内ではいまだに「17歳の非処女は国際競技大会に出場する資格がないのか」との主張と、インドネシアの圧倒的多数を占めるイスラム教の「結婚前の性交は禁忌」との規範に照らして「やむを得ない」との考え方が対立。国民の間にイスラム教の規範に基づく考え方が根強いことも示している。

 

過去にはオリンピックでバドミントンや重量挙げでメダルを獲得したこともある東南アジア域内きってのスポーツ大国インドネシアが今、女子選手の「処女性」を巡って揺れ動いているのだ。(中略)

 

圧倒的多数のイスラム教の規範が優先

インドネシアは世界第4位、約2億6000万人の人口のうち88%をイスラム教徒が占める世界で最も多くのイスラム教徒が住む国である。

 

しかしながら宗教、民族、文化、言語などの多様性を認めることで統一国家を維持するため、マレーシアやブルネイなどと異なりイスラム教を国教とは規定しておらず、少数派であるキリスト教、ヒンズー教、仏教なども等しく認めている。

 

しかし、近年イスラム保守派や急進派が圧倒的多数を背景に「イスラム教規範を半ば強制したり、暗黙の優先がまかり通ったりと宗教的少数派には厳しい状況」が生まれつつあるのも事実。

 

インドネシアでは警察や軍隊に入隊を希望する未婚の女子は女医が2本指を膣内に挿入する形での「処女検査」が国際的人権団体やキリスト教組織の強い反対にも関わらず現在も続けられているといわれている。

 

警察官の場合は「法を執行する職務の警察官が未婚で性体験を有するようではその資格がない」というのが処女検査の根拠とされているが、これも婚前交渉を禁忌とみなすイスラム教の影響が深く関係している。

 

国立スポーツ協会、体操協会、青年スポーツ省はいずれも処女が理由の排除をこれまでのところ否定しているが、コーチとのやりとりで実際に何があったのか「詳細な調査を行いたい」としている。

 

しかし当面は841人の大選手団を派遣し56競技中52競技にエントリーして熱戦を繰り広げている大会が開催中であることから「現在はフィリピンでの競技の支援に専念したい」としており、本格的な調査は大会閉幕後になりそうだ。【12月5日 大塚 智彦氏 JBpress】

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インドネシアにおける“近年イスラム保守派や急進派が圧倒的多数を背景に「イスラム教規範を半ば強制したり、暗黙の優先がまかり通ったりと宗教的少数派には厳しい状況」が生まれつつある”という流れの一つの事例として取り上げましたが、少し流れが変わってきたとの指摘が。

 

まず、上記“17歳の女子体操選手”の件については、コーチ側が謝罪する形で取りあえずの決着がはかられたとのこと。

 

****「非処女で代表漏れ」の女性選手、コーチと和解****

(中略)インドネシア・スポーツ協会、体操競技連盟、青年スポーツ省、東ジャワ州政府まで巻き込んだ騒ぎとなったが、多くの関係者が「SEA GAME開催中は競技に専念する選手のバックアップに徹したい」としたため、大会終了後に詳しい調査と対応を行うということで、ひとまず休戦状態となっていた。

 

コーチと和解してすでに練習再開

 そして12月11日にSEA GAMEが終了したことを受けて問題への対応を関係者が協議。若い女子選手の選手生命を最優先にした結果、強制排除した体操競技のコーチ陣がSASさんに対して正式に謝罪することになったという。(中略)

 

イスラム規範優先に警鐘も

 今回の一件は和解が成立したことで「落着」したものの、合宿から強制排除された「本人の素行に問題があった」とされる夜間の男子選手との外出問題や、そもそも「若い独身の女性選手に処女性を求めるというイスラム教優先の社会規範」などの根本的な問題は解決されていない。

 

SASさんのケースは病院での検査で「処女膜が残っていたこと」から処女であると判断されているが、地元メディアの中には「処女膜が残っていても必ずしも性交未体験とは限らない」などと伝えたところや「17歳の高校生が非処女であってはならない」と指摘するイスラム教組織もある。

 

さらに合宿中の夜間に男子選手と遊びに外出することの妥当性、倫理性といった問題も事実関係が明らかにされていないこともあり、報道などで大騒ぎになったためにコーチの謝罪で「手を打った」というのが真相とみられている。

 

イスラム教徒が人口2億6000万人の88%を占めるという世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシアでは、近年イスラム保守派や急進派の存在感が強まり、イスラム教の規範が社会の最優先となる事態が続いていた。

 

 ところが10月23日に発足したジョコ・ウィドド大統領による第2期政権は、イスラム穏健派である大統領の強い意向を反映して、保守派・急進派の影響力を弱める穏健派の動きが活発化している。

 

イスラム教を国教とせずにキリスト教、ヒンズー教、仏教なども等しく認めた「多様性の中の統一」と「寛容性」を国是として掲げるインドネシアの価値観、アイデンティティーが問われようとしている中で、今回のSASさんのケースは問題の根本的解決には踏み込むまでには至らなかったものの、一人の女子アスリートの選手生命を絶つことなくとりあえず丸く収めたという点で融通無碍なインドネシア流解決が図られたということになるだろう。【12月21日 大塚 智彦氏 JB Press】

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【穏健なイスラム教徒が保守的思想や急進的行動へと振れていた振り子を引き戻そうとしている】

イスラム的価値観重視の風潮のなかで起きた騒動でしたが、問題は“17歳の女子体操選”の話にとどまらず、上記のような形で「和解」がなされた背景として、“ジョコ・ウィドド大統領による第2期政権は、イスラム穏健派である大統領の強い意向を反映して、保守派・急進派の影響力を弱める穏健派の動きが活発化している”という点です。

 

12月5日ブログでは、急進的イスラム主義勢力に支援されたプラボウォ氏の国防相就任を、インドネシアにおけるイスラム主義台頭がもたらしたものとして扱いましたが、逆にプラボウォ氏の国防相就任で、台頭するイスラム急進派を穏健派が牽制する方向に潮目が変わったとの指摘が。

 

****台頭するイスラム急進派を牽制、穏健派ジョコ大統領*****

世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシアにおいて今、イスラム教を巡る駆け引きが活発化している。

 

イスラム教徒の間で、保守的で、時に急進的ともいうべき「イスラム化」を担ってきたグループや一派に対し、穏健なイスラム教徒が一斉に反発し、保守的思想や急進的行動へと振れていた振り子を引き戻そうとしているのだ。

 

その旗振り役となっている人物こそ、再選を果たし10月23日に第2期内閣を発足させたジョコ・ウィドド大統領である。さらに、前面に立って陣頭指揮しているのが元国軍副司令官で新内閣の宗教相に抜擢されたファフルル・ラジ氏だ。

 

イスラム教穏健派と、急成長・台頭した保守派・急進派の対峙は2018年から始まった大統領選で一気に表面化し、瞬く間にインドネシア全土に拡大した。

 

しかし保守派・急進派の守護神に祭り上げられていた大統領候補のプラボウォ・スビアント氏が2019年の投票で惜敗したばかりか、選挙中に散々非難、中傷、こき下ろした対立候補のジョコ・ウィドド氏が大統領として発足させた第2期新内閣で、プラボウォ氏自身が国防相として入閣したことで完全に潮目が変わった。

 

「緑狩り」旋風への危惧

こうした動きについて、インドネシア研究家で立命館大学国際関係学部の本名純教授は12月6日にジャカルタで行った講演「第2期ジョコウィ政権の政治〜展望と課題」の中で、「今後インドネシアでは緑狩りが強まる」との見方を示した。

 

「緑」はイスラム教徒を示す色だ。そこで、スカルノ政権末期の1960年代後半にインドネシアに吹き荒れた共産党員への弾圧「赤狩り」になぞらえ、イスラム教保守派・急進派の切り崩し=「緑狩り」が強まるとの見方を示したものだ。

 

実際に10月のジョコ・ウィドド第2期政権発足を受けて、宗教省がイスラム教徒の女性が目以外を覆う「ニカブ」の着用を女性公務員に禁止すると言い出したり、聖典「コーラン」の勉強会を許可制にしようとしたり、モスクに警察官を派遣して宗教指導者の説教を監視しようとするような、「反・急進派」的な動きが始まっていると本名教授は指摘する。(中略)

 

イスラム学校の教育内容に介入

さらに12月4日には、宗教省が全国に点在するイスラム教学校(マドラサ)の教育カリキュラム(指導要領)の見直し指示を省令として出したことが明らかになった。

 

地元紙「ジャカルタ・ポスト」などの報道によると、高校生に当たるマドラサ12学年のイスラム教に関する指導要領の中で、「カリフ制」と「ジハード(聖戦)」を対象にした見直しが指示されたという。(中略)

 

こうした宗教省のイスラム教保守派・急進派への牽制の動きに対し一部宗教団体からは「学校教育への国家権力の介入である」との批判も出ている。これに対し国会からは「イスラム教徒の急進的な動きを抑制するには必要な措置」と宗教省の指示を歓迎する声もある。

 

宗教省は「カリフ制、ジハードに関してカリキュラムから完全に排除せよという指示ではなく、あくまでより広い視点からの指導が必要ということである」として見直しの正当性を訴えている。

 

報道・表現の自由の制限もやむなし

こうしたイスラム教の保守的・急進的傾向に対するジョコ・ウィドド政権の「より穏健で多様性を認めたイスラム教」への軌道修正は、10月23日の第2期政権発足直後から始動している。

 

背景には、国是である「多様性の中の統一」や「宗教的寛容を含めた寛容性」といったインドネシアのアイデンティティーが、保守派や急進派の台頭で危機に直面しているとの認識がある。

 

宗教的少数者、性的少数者、民族的少数者へのいわれなき差別と圧倒的多数のイスラム教徒、それも保守的・急進的なイスラム教徒への忖度などが堂々とまかり通っていたのが最近のインドネシアだった。

 

ただ、そうした「巻き返し」政策の強力な推進と同時に、公務員や治安当局者などによる政府批判の禁止も打ち出しており、イスラム教保守・急進思想の持ち主、政府に批判的であることなどを公務員の人事に反映される危険性も指摘されている。

 

特に中央政府、地方政府の公務員はインターネットのSNSで国家5原則である「パンチャシラ」や国家統一などを批判することが禁じられたことは、「言論、表現の自由への制限であり民主主義の逆行である」との批判を招いている。

 

本名教授も「何をもってラジカル(急進派)と判断するかによって、例えば公務員によるライバル蹴落としに利用される懸念もある」と指摘、「政府批判=ラジカル」との短絡的関係づけは、かつての「政府批判=共産主義の赤」と同じような思想統制・排除に繋がる危険をはらんでいる。

 

自身は穏健なイスラム教徒であるジョコ・ウィドド大統領は、憲法の再選規定で次の大統領選には出馬できないため任期は2024年までとなる。

 

これまでの第1期で5年間推進してきたインフラ整備や外資導入、所得格差改善などの経済政策は、2期目も継続しながら、さらに人材育成や環境対策、投資環境改善、雇用創出、地域格差是正などに取り組む姿勢を示している。

 

一方で、第1期政権で露呈したイスラム教の政治化や保守派・急進派の勢力拡大と存在感誇示は大統領選を通じてインドネシアの二極分断化を招くこととなり、ジョコ・ウィドド大統領にとっては「宗教リスク」を痛感する結果となった。

 

その点を踏まえ、これからの第2期政権では「穏健なイスラムの復権」と「イスラム教以外の宗教への配慮などによる多様性の実現」を大きな課題として推し進めようとしているわけだ。

 

第2期内閣で宗教相に元国軍副司令官の軍人出身者を抜擢したり、内務相に前国家警察長官ティト・カルナファン氏を起用したり、イスラム保守派・急進派のシンボルでジョコ・ウィドド大統領の最大のライバルであったプラボウォ氏を国防相としていわば自陣に取り込んだ大きな理由はそこにある。

 

ジョコ・ウィドド大統領は2045年という建国100年には「世界5位の経済大国」を目指すという大きなビジョンを描いている。その目標達成のためには、表現や報道の自由を多少犠牲にしてでも穏健なイスラム教徒を中心にした「多様で寛容なアイデンティティーの確立」という難しい課題へも果敢に取り組もうとしている。【12月20日 大塚 智彦氏 JB Press】

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「今後インドネシアでは緑狩りが強まる」・・・・これまでのイスラム主義台頭の流れからすると「本当だろうか?」と、俄かには信じがたいところもありますが、世界最大のイスラム国家であるインドネシアが国是であった「多様性の中の統一」や「宗教的寛容を含めた寛容性」を取り戻す方向で動くということであれば、歓迎すべきことでしょう。(表現や報道の自由といった微妙な問題はありますが)

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顔認識技術  不可避の流れとして進む活用拡大 認識のミス、顔は交換できないこと、監視社会への懸念も

2019-12-20 21:57:04 | IT AI

(顔画像の共同利用を始めた書店では「お知らせ」を貼って周知を図っている=東京都渋谷区【1027日 朝日】)

 

【日本 知らぬ間に取得・追跡され、漏洩のリスクも】

顔認証技術は、スマホのセキュリティーロック解除、万引き防止、省人店舗での入店・決済、空港での輸入国手続きなど多方面で活用されており、今後ますますその利用は拡大するものと思われます。

 

利便性の一方で、知らぬ間に個人情報が集められ、場合によっては漏洩するリスクも。

 

****(シンギュラリティーにっぽん)第2部・見えないルーラー(支配者):8 顔認証、知らぬ間に追跡・監視****

一瞬で個人を識別する顔認証システムが、身近な生活に溶け込んできた。ターゲティング広告だったり防犯だったりだけではない。知らぬ間に追跡され、監視されることが新たな「支配」につながると、あらがう動きも出始めた。

 

東京都心でタクシーに乗り込むと、座席の前に備えつけられたタブレット端末から動画広告が流れてきた。内容は覚えていないけど、印象的なフレーズは頭に残っている、という人は多いかもしれない。それは、偶然ではない。

 

タブレットにはカメラも搭載されている。乗客の顔写真を撮り、瞬時に男女を推定。流れる広告を変える。男性なら企業の人事管理システム、女性なら雑誌のCMといったように。

 

こうしたサービスを提供する会社の一つが、日本交通(東京)グループでタクシー配車アプリを運営する「ジャパンタクシー」。1年足らずの間に2度も、個人情報保護委員会から行政指導を受けてもいる。

 

発端は昨年11月。乗客にカメラの存在や個人情報の取得、さらには利用目的を分かりやすく説明するよう、保護委は指導した。同社は指導を受け、タブレットにカメラの存在や利用目的を表示した。

 

しかし、その対応が今年4月と遅れたことを保護委は問題視。9月には2度目の指導に踏み切った。

 

そこまでしたのには、訳がある。「タクシーは公共交通機関。誰もが個人情報をとられていると考えてよいからだ」と保護委の担当者は話す。

 

顔認証システムは身近なところに入り込んできている。さまざまな人が出入りする書店もその一つ。

 

丸善ジュンク堂書店は2014年から、全国の店舗に顔認証システムを順次導入し、今は60店舗を超える。警察に被害届を出した人物や、カメラ映像から犯罪に及んでいることが確実な人だけに絞って顔画像を登録しているという。

 

ただ、店で顔認証システムの存在を知らせているとはいえ、エスカレーターの乗降口付近に小さな文字で掲示されるなど、気づきにくい。どのようにシステムを運用しているのかや、犯人と疑う基準がどうなっているのか、内規はあるものの周知はしていない。

 

今年7月からは、同社も含むJR渋谷駅周辺の3書店で、万引き犯とみられる人物の顔画像を共有する取り組みが始まった。ネット転売などで換金しようとする万引きの手口は巧妙化し、被害も高額化しているためだ。こちらは、画像の利用目的や共同利用することを入り口のガラスなど目立つように掲示。事前に記者会見も開いて透明性をアピールする。

 

個人情報を取り扱えば漏洩(ろうえい)などのリスクもある。「そこまでして導入する必要性を感じない」という声も業界内にはある。

 

プロジェクトの事務局長を務める阿部信行さんは、「問題が起きないように、できる限りの情報を開示して周知している。信頼をされるには実績を重ねていくしかない」と話す。(後略)【1027日 朝日】

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【中国で進すすむ顔認識技術活用 ミスや永遠に交換できないリスクの指摘も】

顔認証のようなIT技術を大胆に実生活に取り入れているのが中国。

現在はスマホ決済が主流ですが、今後は顔認証でスマホも不要に・・・。

 

****中国「顔認証」急拡大の実態 超監視社会への懸念は****

顔認証技術の実用化が進む中国。AI(人工知能)大国を目指す、さらなる政策とは。

 

中国南部の大都市・広東省広州市。

地下鉄の改札に20199月、新たなシステムが導入された。自動改札機の上にタブレットのような機械が付いていて、顔を近づけると「登録されていない顔」と表示された。

 

顔認証技術を使った、まさに「顔パス改札」。スマートフォンを使って、事前に顔を登録しておけば、あとは改札を通るだけ。ICカードやスマホをかざす必要もない。

 

顔パスはこんなところでも。コンビニのレジにも装置があり、顔認証で買い物をすることができる。

 

コンビニ大手「セブン‐イレブン」は、20195月から広東省のおよそ1,000店で顔認証決済を導入。客は、レジのタブレット端末に自分の顔を写せば、一瞬で支払いが完了する。

 

利用客は「(顔認証を)普段から使っている。ジョギングの時にスマホを出すのは不便だから」と話した。

 

中国の調査機関によると、顔認証決済の利用者は、2018年の6,100万人から、2019年は11,800万人に増加。2022年には76,000万人を超え、決済手段の主流になると推定している。

 

顔認証にこれだけ急速な拡大が見込まれる中、中国政府がある政策を進めている。

中国政府は121日から、携帯電話の契約時に「顔認証データ」の登録を義務化する。

 

街頭の監視カメラの数が2億台にのぼるなど、超監視社会と呼ばれる中国が、監視カメラを少数民族の弾圧に使っているとアメリカ政府などが批判を強めている。

 

顔認証システムの急速な拡大に市民は、「顔認証はあまり好きではない。顔認証のデータは盗まれても変えることができないので、安全面で改善する必要があると思う」、「(顔認証データの利用は嫌ではないのか?)いいえ、嫌ではない。国家標準だったら使う」、「心配はない。携帯で決済できるなら、顔認証で決済できるのも当たり前」などと話した。

 

利便性向上の一方で、国家による市民生活の監視。顔認証決済の向こうに広がる未来は。【1129日 FNN PRIME

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上記にもある“携帯電話の契約時に「顔認証データ」の登録を義務化”については、実名登録を厳格化し、サイバー空間の統制を進める狙いのようです。

 

****中国、電話契約に顔認証を義務化 プライバシーに懸念も****

中国当局は1日から通信事業者に対し、直販店で新しい電話番号を契約する顧客を登録する際、利用者の顔認証データを収集することを義務付けた。同国の工業情報省が明らかにした。中国政府は、サイバー空間における統制の厳格化を進めている。

 

工業情報省は今年9月、「国民のオンライン上での正当な権利と利益を保護する」とした通知で、実名登録を強化する規則を示した。これによると、通信事業者は、新たな電話番号を取得する顧客の身元確認に「人工知能などの技術手段」を用いるべきだとしている。

 

中国政府は2013年にはすでに身分証と新しい電話番号をリンクさせることによって、電話利用者に実名登録を行わせようと圧力を掛けていたが、その流れで顔認証技術としてのAIの活用に至っている。

 

AIによる顔認証技術は、スーパーマーケットでの支払いから監視カメラまで、中国全土のあらゆる場所で利用されている。研究者らは顔認証データ収集にまつわるプライバシー・リスクを警告しているが、消費者の間では広く受け入れられている。

 

ただし新携帯番号取得の際の顔認証の義務化を受けて、中国のソーシャルメディア利用者からは支持する声も上がる一方、生体認証データが漏出したり売却されたりする可能性があるのではないかとの懸念も上がっている。 【122日 AFP】

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一般的には、個人情報の扱いについて“おおらか”と思われている中国ですが、上記2本の記事にもあるように、全く懸念がない訳でもありません。

 

国営メディア人民日報のニュースサイト「人民網日本語版」でも、以下のような“リスク”に関する指摘がなされています。

 

****顔認証決済に隠された安全リスク*****

顔認証決済に使用できる3D顔認証カメラモジュールが21日、正式に発表された。

 

インターネットとスマホの普及により、微信(WeChat)や支付宝(アリペイ)のような決済方法が生まれ、外出中の消費者はキャッシュやカードを持たなくても便利に決済できるようになった。顔認証技術が最も広く使用されている顔認証決済は、全国各地で次第に実用化されている。科技日報が伝えた。

 

その他のインターネットサービスと同様、顔認証決済は誕生したばかりの頃から安全性が疑問視されてきた。

 

サイバーセキュリティ専門家、上海衆人網絡安全技術有限公司の談剣鋒会長は多くの場において、ネット上で顔認証を唯一の認証方法にすることを極力回避するよう呼びかけている。

 

人の生物的特性として、データには単独性がある。データをコンピュータに入力すると、これを盗まれ、再編成・再生される可能性があり、大きな安全リスクが存在する。

 

◆顔データが盗まれても交換不可

厦門遊仁情報科技有限公司の責任者である呉迪煒氏は長年にわたり画像などの識別の研究を行っている。呉氏は科技日報の独占インタビューに応じた際に、現在の技術だと、顔認証決済には大きな安全リスクがあると指摘した。

 

「顔認証には現在、2つの大きな問題がある。まずミスの確率が高いことで、ユーザーの使用体験を損ねる。アップルは早くから顔認証サービスを提供しているが、一定のミスが生じる。

 

次にデータを採取されネット上にアップされれば、暗号解読や窃盗のリスクが生まれる。ハッカーは当該ユーザーの預金規模など、データの価値に基づき盗むべき対象であるかを判断する」

 

専門家が顔認証決済を疑問視するのは、顔データの唯一性が理由だ。顔をネット上で使用する場合、1枚の写真や画像に過ぎないと思われるかもしれないが、実際には異なる。

 

誰もが一つだけの顔、2つの虹彩、10の指紋を持つ。顔、指紋、虹彩、筆跡、声、歩き方などはバイオメトリクスの認識項目であり、すべての人にとって唯一性を持っている。

 

談氏は「どのようなデータであってもコンピュータに入力されるとコード化されてしまう。生物的特性も例外ではない。これらのデータが復元され、ハッカーなどの犯罪者の手に渡れば、人々は唯一の身元証明データを失うことになる。しかもこれは永遠に交換できず、再生もできないため、リスクが大きい」と説明した。(後略)【「人民網日本語版」2019326日】

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さすがに国営メディアサイトなので、個人情報が国家によって恣意的に利用され監視が強化されるリスクについては触れていませんが、認識の際のミスの可能性、何かあったとき“顔は取り換えることができない”というリスクが指摘されています。

 

【アメリカ 出入国時の顔認証義務付け見送り】

アメリカでも顔認証技術の活用が広がっていますが、批判・警戒感も強いようです。

 

****米ITの街、「禁止」の条例も****

IT企業が数多く本拠を置く米サンフランシスコ市の議会は今年5月、市当局や警察などが顔認証技術を使うことを禁じる条例案を可決した。

 

条例によって利用や管理の報告が求められるのは、防犯カメラから生体認証システムまで幅広い。公共の場にあるカメラなども、誰がデータへのアクセス権を持ち、誰と共有したのか、市民の苦情がないかなど、毎年詳細な報告をするよう義務づけられた。

 

市は今のところ顔認証技術を使っておらず、条例は象徴的な意味合いも強い。では今作った理由は何か。

 

「技術を生んでいるIT企業の街だからこそ、技術の使われ方に高い倫理性を求めている」。制定を主導したアーロン・ペスキン市議はこう話し、続けた。

 

「政府に反対する人々やマイノリティー(少数派)を抑圧、監視する手段に使われかねないからだ」

 

ペスキン市議の両親はイスラエル出身で、親戚をホロコーストで亡くしている。「ナチス政権はテクノロジーを使い、ユダヤ人に関する大量の個人情報を集めていた」。知らぬ間に収集された情報が市民への迫害に使われてきた歴史を、身をもって知っている。

 

同じような条例はオークランド市、サマービル市などにも広がっている。しかし、条例で世界的な技術の広がりを止められるとは、ペスキン市議も思っていない。その上でこう訴える。

 

「本当にこうした技術が必要なのか、きちんと議論してほしい。疑問を持つことが健全なことなのです」【前出 1027日 朝日】

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トランプ政権が進めようとしていた“全ての旅行者が出入国時に顔認証を受けることを義務づける規則導入”は結局見送られることに。

 

トランプ政権は、顔認証義務化によって米国の渡航関連書類の偽造を防ぎ、犯罪者やテロ容疑者が特定しやすくなると主張していました。

 

*****出入国時の顔認証義務付け、トランプ米政権が導入見送り****

トランプ米政権は5日、米国市民を含めた全ての旅行者に対して出入国時に顔認証を受けることを義務づける規則の導入を見送ると明らかにした。

この規則は、トランプ政権の規制政策課題の一つとして税関・国境警備局(CBP)が7月に発令する予定だった。

ただ、CBPは、議会や個人情報分野の専門家と協議した結果、導入の取りやめを決めたと説明した。

顔認証の義務付けを巡っては、プライバシー保護団体から批判の声が上がっていた。米国自由人権協会(ACLU)のシニア政治アナリスト、ジェイ・スタンレー氏は2日付けの書面で「米国市民を含む旅行者は、憲法で保障された自由に旅行する権利を行使する条件として、一方的な生体認証システムに従うべきではない」と反対意見を記した。

民主党のエド・マーキー上院議員は今回の決定の背景には強い反対意見があると指摘し「飛行機で旅行する全ての米国人にとっての勝利だ」とコメントした。【126日 ロイター】

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【非白人の顔認識が非常に不完全】

今日、顔認証の話題を取り上げたのは、下記の記事を目にしたからです。

 

****顔認識システム、非白人の顔を正しく認識できず 米研究****

米国立標準技術研究所は19日、顔認識システムが特に非白人について、ひどく不正確な結果を出すとの研究結果を公表した。人工知能技術の導入が幅広く推進される中、新たな問題を投げ掛けることになりそうだ。

 

NISTによると、顔認識アルゴリズムには、異なる2人を同一人物と認識する「フォールスポジティブ(誤検知)」と、同一人物を認識できない「フォールスネガティブ(見逃し)」の双方がみられた。

 

多数のアルゴリズムで、アジア系とアフリカ系が「フォールスポジティブ」となる割合は白人の100倍超だった。

 

米国で開発されたアルゴリズムでは、アジア系、アフリカ系、先住民系で正しい結果が出ない割合が高いことが分かった。中でも「フォールスポジティブ」となる割合は、先住民系で最も高かった。

 

さらに、2つのアルゴリズムは、35%ほどの割合でアフリカ系の女性を男性と認識した。

 

空港や国境検問、金融機関、小売業界、学校向けの認証サービスからスマートフォンのロック解除といった個人使用まで、顔認識技術が幅広く導入される中、活動家や研究者らは、エラー発生のリスクが大きすぎると警告。

 

誤検知により無実の人間が刑務所に送られる恐れがあるほか、技術を悪用してデータベースが作られ、ハッキングや不正使用につながりかねないと指摘している。 【1220日 AFP】AFPBB News

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「人民網日本語版」も指摘しているように、顔認証での認識時のミスは常に指摘されています。

寝顔でロックが解除できて送金もできたとか、(当然のことでしょうが)双子が識別できないとか・・・。

 

ただ、上記記事は、それ以前の問題がまだ存在していることを示しています。

 

個人的な話をすれば、私は外国映画を観ていて、登場人物がなかなか識別できずに苦労します。日本映画ではまずそういうことはありません。

 

これは、人間の“パターン認識”に伴うもので、普段見慣れないものの識別は困難なんだろう・・・と思っています。

しかし、顔認識アルゴリズムは、そうした人間的な“パターン認識”とは異なるシステムだと思っていたのですが・・・。

 

技術を作成する人間の“不完全さ”がアルゴリズムに投影されているのでしょうか?

 

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「一帯一路」で腰が引けた中国をつなぎとめようとする財政悪化のパキスタン サウジにも資金を求める

2019-12-19 23:27:43 | アフガン・パキスタン

(今年3月、パキスタンのカラコルム・ハイウェイを走った際に工事中の道路わきで見かけた中国語の標識 画像がかすんでいるのは、舞い上がる砂埃のせいです。跳びはねる車の中から撮影。)

 

【「一帯一路」 中国に依存しすぎる国々が多すぎ、中国一国では支え切れない状況】

中国の進める「一帯一路」については、中国の軍事的戦略に沿うものだとか、「債務の罠」等々の批判があるのは周知のとおりですが、中国自身の対応にも変化がみられるとの指摘も。

 

****一帯一路からデジタル覇権へ舵切った中国の野望****

一帯一路構想(BRI:Belt and Road Initiative)は、中国が最も重視する国家戦略の一つであり、米中の覇権争いを分析する際に不可欠な要素だ。

 

このBRIが現在どのような状況になっているかを明快に分析した論考が最近発表された。

 

この論考は、米国のシンクタンクAEI(American Enterprise Institute)が運営している「中国世界投資調査(CGIT:China Global Investment Tracker)」の膨大なデータベースに基づいて分析されている。

 

この分析で注目されるのは以下の2点だ。

 

まず、BRIの参加国は増えているが、中国によるインフラ建設は、中国の外貨準備高の減少に伴い2016年をピークに減少していて、この傾向は継続する可能性が高いという指摘だ。

 

つまり、BRIにおけるインフラなどの建設分野は今後期待できないということだ。

 

2点目は、BRIで今後注目すべきは、中国政府が重視する「デジタル・シルクロード(DSR:Digital Silk Road)」であり、その動向に注目すべきだという指摘だ。

 

以下、この2点を中心として紹介するが、特に「中国のDSRの成功が中国の21世紀の国際秩序を形成する能力を強化し、米中覇権争いの帰趨を決定づける可能性がある」という観点で、DSRの重要性を強調したい。

 

1 一帯一路構想(BRI)

BRIとは?

一帯一路構想には明確な定義がないが、陸の「シルクロード経済ベルト」と海の「21世紀海洋シルクロード」によりアジアから欧州までを連結させる雄大な「シルクロード経済圏構想」と表現されることが多い。(中略)

 

発展途上国にとってBRIは、自力では困難なインフラ整備が可能になるという抵抗しがたい魅力を持っているという。

 

しかし、負の側面として発展途上国の経常収支の悪化や対外債務拡大をもたらしていると批判されている。

 

中国は現在、137カ国とBRI協定を締結している。特に、2018年6月から2019年6月までに新たなパートナー諸国62カ国が加盟した。

 

しかし、この加盟国の増加は、BRIにおける建設額や投資額の増加につながっていないという。この原因は、中国の資金不足が大きい。

 

一方で中国側の嘆きは、多くのBRI加盟国がBRIを中国による対外支援と捉え、「待つ」「頼る」「求める」という傾向が強い点だという。

 

つまり、資金力のある米国や日本が加盟しておらず、中国に依存しすぎる国々が多すぎ、中国一国では支え切れない状況だ。

 

BRIの目的は何か?

BRIの目的については様々な解釈がある。私は、米国主導の世界秩序に対抗する中国主導の世界秩序の構築がBRIの目的だと思っている。

 

この中国主導の秩序の中に中国の海外展開のための軍事インフラ(人民解放軍が使用する港、空港、鉄道・道路など)の確保も入っていることを強調したい。

 

BRIに批判的な人たちの表現を使えば、BRIは発展途上国に対する債務の罠を伴う「新植民地主義」「現代の朝貢システムの構築」「中国版マーシャル・プラン」、中国の過剰生産能力の解消手段として輸出市場を確保する狙いなどが列挙されよう。(後略)【10月17日 JB Press】

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要するに、中国としても、あまりに「依存」されても資金的に無理があるということでしょう。

 

【中国のカラコルム・ハイウェイ補修で人々の暮らしが改善した・・・・という話】

その「一帯一路」の中核にあるのが、中国からパキスタンのグワダル港に至るルートを整備する「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」です。

 

具体的には、中国・新疆ウイグル自治区に接続するカラコルム・ハイウェイもCPECの重要部分となっています。

 

このカラコルムハイウェイについて、その功績を賞賛する記事が下。

 

****パキスタン人「中国が道路を補修してくれたおかげで豊かになった」****

2019年12月16日、中国紙・環球時報は、パキスタンと中国をつなぐ「カラコルム・ハイウエー」に関連し、あるパキスタン人の話として「中国が道路を補修してくれたおかげで肉を食べられるほど豊かになった」と報じた。

環球時報は、米ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)のニュースサイトが15日、「中国がこの山岳道路の補修に数十億ドルを投資している」とする記事を掲載したことを紹介した。

それによると、NPRの記事はまず、「パキスタン北部の背の高い山脈を曲がりくねって中国西部に達するカラコルム・ハイウエーには多くのことが期待されている。両国は、貿易ルートとしての可能性を見てその道を補修している」「中国政府は、約20億ドル(約2190億円)を投資して160マイルに及ぶ区間を補修しており、工事は来年3月に完了する予定だ。この補修は、中国パキスタン経済回廊(CPEC)の重要なプロジェクトの一つだ」などと伝えた。

そして、「最近現地を訪れた記者は、この道路がパキスタンのコミュニティーに変化をもたらしていることに気付いた」と指摘。

 

あるトラック運転手から「新しい道路を走るのをとても楽しみにしている。タイヤがパンクしたり、車を頻繁に修理したりしないで済むようになる」との声や、牧畜民からは「3年前に中国の企業が道路のこの区画を補修して以来、私の運命は変わった。人々は今、肉を食べられるほど豊かになった」との声が上がっていることを紹介した。

(中略)ある地元の教師が「カラコルム・ハイウエーとCPECにより、さらに多くの施設がここに建てられ、さらに多くの雇用が生まれるだろう」と述べていることも伝えている。【12月19日 レコードチャイナ】

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中国に批判的な方々からは異論が多々あるでしょうが、個人的には実感できるものがあります。

 

今年3月にパキスタン北部のフンザを観光しましたが、片道二日、往復で四日、このカラコルム・ハイウェイを走り、中国の資本で整備された道路では中国に感謝し、未整備の悪路では「中国さんよ、早く整備してしてよ!」と切実に感じました。

 

パキスタンの山奥に、中国語で書かれた道路標識・注意書きがあったりもして、「なるほどね・・・」という感も。

 

なんだかんだ言いつつも、「じゃ、中国以外の誰がやってくれたのか?」という話も。

 

道路の整備は、単に観光だけでなく、この地域の物流を大きく変えていくでしょう。

 

【パキスタンの財政悪化で、腰が引ける中国側 資金提供を求めるパキスタン】

ただ、このパキスタンにおける「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」も、冒頭の話に関連するところで、中国側には重荷になっている部分もあるようです。

 

****中国パキスタン経済回廊 先行きに暗雲 ****

中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」の中で、パキスタンが経済成長を後押しする主要事業として期待している「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」。

中国西部からパキスタンを南北に縦断する道路やパイプラインなどを建設する大規模インフラ整備事業だ。

 

だが一帯一路事業に伴うパキスタンの対外債務の増加もあって、先行きを不安視する声があがっている。

 

11月上旬、CPEC事業について両国で協議する会合が(パキスタンの首都イスラマバードで)開かれた。パキスタン側は中国側に対し、石油やガスといった分野での事業拡大やパキスタンの製鉄所の売却などを提案したが、中国側は新たな事業や資金調達に慎重な姿勢を崩さなかったようだ。

 

両国の代表団は北西部ペシャワルと南部カラチを結ぶ主要鉄道路線「ML-1」事業などについても話し合った。ML-1事業ではペシャワル―カラチ間を全線複線化し、走行速度を引き上げる予定だったが、事業の縮小や停止といった動きが出てきている。関係者によると、この事業についても、新たな資金調達の枠組みの話は進展しなかったという。

 

一帯一路を掲げる中国側がパキスタンからの提案に慎重になっているのは、(中国から見ても)パキスタンの経済が深刻な状況に陥っているからだ。

 

パキスタンは一帯一路のインフラ整備に伴い、(中国からの輸入が急増して)対中貿易赤字が膨らみ、国際収支が悪化。対外債務の償還に追われている。

 

米ウィルソン・センターでアジアを専門とするマイケル・クーゲルマン氏は「巨額の債務を抱え、国際収支が危機的状態にあるパキスタンにさらに融資するのはリスクがあるため、中国は慎重になっている」と指摘する。

 

パキスタン政府は今回の会合に備えて、いくつか手を打っていた。カーン政権は一帯一路事業を迅速に進めるため、通常の手続きを踏まずにCPEC専門の部署を政府内に新設した。

 

また、CPECの最南端にあたる港湾都市グワダルで操業している中国企業への免税措置なども用意した。だが会合では、新規事業にさらなる資金をつぎ込むといった進展はみられなかったという。

 

今回の会合に出席した中国国家発展改革委員会の寧吉喆副主任は、中国側は過去最大規模の代表団を派遣したことを強調したものの、あくまで既存のCPEC事業を支援する意向を示唆するのにとどまった。

 

英ノッティンガム大学で一帯一路事業に詳しいディレクター、キャサリン・アデニー氏は、「CPECプロジェクトが推進されれば中国とパキスタンの双方にメリットがあるが、失敗すれば一帯一路全体に対する懸念が世界中に広まりかねない」と話す。クーゲルマン氏は「両国政府が共に困難を乗り越えてCPECプロジェクトを推進する方法を見つけることが急務だ」としている。

 

国際情勢に詳しい在米アナリスト、マリク・シラージ・アクバル氏は、「パキスタンが一帯一路事業で中国に服従し続けることは、インフラ整備や開発といった側面だけでなく、インドなど(対立している国々)を遠ざけるという意味でも価値がある」としている。【11月24日 日経】

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上記のCPECに関する事情からは、世間一般で言われているような中国が巨額のチャイナマネーを使って途上国を「債務の罠」にかけようとしている・・・というような話とは異なる、腰の引けた中国から何とかカネを引き出そうとする債務国、債務超過と言う蟻地獄に中国を引きずり込もうとする債務国という構図も垣間見えます。

 

もちろん、いろんなケース、いろんな側面がありますので単純に判断することはできませんが、世間一般で言われている「常識」だけで判断しては現実を見誤ることも。

 

【パキスタンにとってもうひとつの資金提供国、サウジアラビアとの関係】

パキスタンが資金面で頼ってきた国としては、最近の中国以外に、以前からつながりの深いサウジアラビアがあります。

 

パキスタンの核開発もサウジアラビアの資金援助でなされたもので、サウジアラビア側の有事の際にはパキスタンがサウジに核兵器を提供するという密約があるとか、ないとか・・・も。

 

現在、マレーシア・クアラルンプールでマハティール首相主催でイスラム首脳が集まる国際会議が開かれていますが、イラン・ロウハニ大統領の他、イランに近い国々が集まるということもあって、サウジアラビアに忖度した(?)パキスタンのカーン首相は欠席したとか。

 

****米を牽制?イスラムVIP集結 ロハニ師らマレーシアの会議へ****

イスラム世界が直面する問題を話し合う目的で、マレーシアの首都クアラルンプールで18日から4日間、マハティール首相が主催する国際会議が開かれる。参加予定者の顔ぶれが明らかになり、会議の内容に注目が集まっている。

 

この会議は、マハティール氏が名誉総裁を務める財団の主催。マハティール氏は会議の狙いを「イスラム教徒はテロリストだとレッテルを貼られて恐れられている。問題を解決するための場が必要だ」とビデオメッセージで語っている。

 

参加予定者は、イランのロハニ大統領、トルコのエルドアン大統領、カタールのタミム首長ら。いずれもトランプ米政権による対イラン制裁に否定的だ。会議には米国への牽制(けんせい)という意味合いもありそうだ。

 

パキスタンのカーン首相も参加する予定だったが、イランなど他の参加国と対立しているサウジアラビアに配慮し、直前に欠席を決めたと報じられた。

 

ロハニ師は17日、出発前にテヘランの空港で「米制裁は違法で、多くの国はイランとの良い関係を望んでいる」と述べ、イスラム諸国の連帯を訴えた。ロハニ師はこの会議の後に日本を訪れる予定だ。【12月18日 朝日】

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一方で、カーン首相はサウジ・UAEに資金預託を要請したとか。ということであれば、忖度とか配慮といったレベルではなく、もっと強い圧力があったのでは・・・とも想像されます。

 

****ドルの力?(サウディのパキスタンに対する圧力?)****

矢張り金の力なのでしょうね!!

al qods al arabi net は、south china morning postを引いて、パキスタンがマハティール首相の主催するイスラム国家首脳会議に欠席することとなったのは、サウディからの圧力によると報じています。

パキスタンは、首相の同会議欠席の理由について特段の説明はしていないが、記事は、背景にサウディが同国が主導してきたイスラム諸国会議がマハティ―ルの動きで、影響力を失うことを危惧していることがあるとコメントしています。

他方同ネットの別の記事は、the news(パキスタン紙か?)が、パキスタンはサウディとUAEに同国の経済破綻を防ぐために、50億ドルの資金の預託を要請したと報じています。

れにサウディとUAEが同意して、50億ドルが預託された模様ですが、今後パキスタン政府はこの預託金を政府借款に転換するように交渉する由(後略)【12月18日 「中東の窓」】

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重要な点は、中国の腰が引けるほどに、サウジ・UAEに資金提供を求めるほどに、パキスタンの財政状態が悪いといことでしょう。

 

【国内情勢に関するよくわからない話も】

そうした財政悪化に加え、カーン首相は国内に別の火種も抱えているようです。

 

****カーン首相の退陣求め大規模抗議 パキスタン、選挙の不正訴え****

パキスタンのイスラム急進派政党イスラム聖職者協会(JUI)が主導し、カーン首相の退陣や選挙のやり直しを求める大規模な抗議行動が1日、首都イスラマバードであった。カーン政権が誕生した昨年の下院選は「軍が支援したもので不正だ」と主張している。

 

2014年にはカーン氏率いるパキスタン正義運動(PTI)が当時のシャリフ首相の退陣を求めるデモを実施し治安部隊と衝突、多くの死傷者が出た。カーン政権は今回も混乱に発展しないか神経をとがらせている。

 

数万人が集まったとみられ、抗議が収束しなければカーン政権に打撃となる可能性がある。【11月2日 共同】

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昨年7月に行われた選挙について、なんで今頃・・・という疑問がありますが、何かしらの政治的背景があるのでしょう。

 

“抗議が収束しなければカーン政権に打撃となる可能性がある”とのことですが、その後どうなったのかにつての報道は目にしていません。

 

続報がないということは、収束したということでしょうか。

 

 

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フランス  年金改革に反対する5日からの交通スト、いまだ収束せず クリスマス突入か

2019-12-18 21:59:36 | 欧州情勢

(フランス・パリで行われた年金改革案をめぐる抗議デモで、正義の女神像を引く人々(20191217日撮影)【1218日 AFP】)

 

【政府・組合 双方とも引かず、交通スト2週間】

フランスでは政府の年金制度改革案に対し、これに反対する地下鉄やバスの公共交通機関の労働組合によって125日から大規模なストライキが続いています。

 

****仏 年金改革めぐりスト続く パリで自転車事故40%増など影響も*****

フランス・パリでは、今月5日から続く公共交通機関の労働組合によるストライキの影響で、自転車を利用する人が増えた結果、事故が多発するなど、影響が広がっています。

 

フランスでは、マクロン政権が進めている年金制度の改革に反発して、公共交通機関の労働組合などが今月5日からストライキを続けていて、パリでは、地下鉄やバスの多くの路線が運休したり、運行本数を大幅に減らしたりしています。

このため、自家用車や自転車で移動する人が増え、事故も多発しています。

パリの消防によりますと、ストライキが始まってからの10日間に自転車が関係する事故は600件起こり、去年の同じ時期に比べて40%も増えているということです。(中略)

一方、労働組合側は、17日も全国で大規模なデモを行い、このうちパリでは、およそ8万人が参加しました。

参加者のひとりは、「フランス経済にとって大きなロスになっても年金の権利を守る」とストを続ける決意を話していました。

マクロン政権は断固として改革を進める構えですが、最新の世論調査ではストライキを支持する人は62%に上っていて、世論の支持を背景にした労働組合側の要求に対して、政権側が譲歩するのかどうかに注目が集まっています。【1218日 NHK】

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労働組合が弱体化した日本では、最近はあまり“一般利用者に迷惑をかける”ストライキは見かけなくなりましたが、フランスはストなどによる個人の権利の主張には寛容な社会とされており、上記のように通勤の足が止まる2週間にも及ぶ長期ストに対しても国民の62%がこれを支持するということで、国民性の違いが興味深いところです。

 

日本も、かつては交通ストというのはさほど珍しくもなく、ストを禁じられている労働者が業務のルールを完全に順守することにより作業能率を落とす“順法闘争”(結果的に電車などの運行本数が大幅に減少し、ストと同じような効果を発揮する)といったものも盛んに行われていました。

 

日本における大規模ストのピークは、ストを禁じられていた国鉄労働者がスト権獲得を目指して行った1975(昭和50年)の、いわゆる「スト権スト」でした。

 

このスト権ストは11月26から12月3まで続けられましたが、労組側が期待したスト効果が得られなかったことやフランスほどストに寛容ではない日本の国民世論からの厳しい批判もあって、結局労組側の全面敗北に終わりました。

(個人的には、ストで大学講義が休講となり、歓迎しましたが・・・)

 

この大規模スト敗北をピークとして、日本の労働組合の運動は右肩下がりに低下していったように思われます。

 

また、このときのトラックによる代替輸送によって国鉄労組が期待したスト効果が得られなかった事実は、国鉄そのものの存在感を薄めていくことにもなりました。

 

閑話休題。話をフランスに戻します。

 

****仏、年金改革への大規模な抗議運動 マクロン大統領に最大の試練****

フランスで17日、政府の年金改革への抗議デモが行われ、全国で約61万5千人が参加した。

マクロン大統領は年金改革を「将来の世代のために必要だ」と訴えるが、労働組合は5日から大規模ストとデモを続けて撤回を要求。大統領は2017年の就任以来、最大の試練に直面している。

 

デモは労組が呼びかけたもので、今回が3度目。鉄道員や教員らが加わった。国鉄や地下鉄の運休で連日、通勤ラッシュ時の主要駅は大混乱。無期限ストで、年末の帰省客への影響が懸念されている。

 

マクロン氏は39歳で大統領選に当選し、年金財政の健全化は選挙の公約だった。今月発表された改革案は、職種ごとに42ある年金制度を一本化し、官民とも労働に応じたポイント制で年金受給額を決める内容。

 

さらに、現在は年金受給開始年齢の62歳を「基準年齢」に変え、これ以上働けば受給額を増やす仕組みにする。基準年齢は2027年に64歳まで引き上げ、高齢者の就労を促す。

 

政府は「転職や起業など、人生設計に応じて受給額が算出しやすくなる。現行よりも公平な制度だ」と主張。これに対し、労組は「事実上の定年廃止につながる」と反発する。

 

鉄道労組などでは、特権喪失につながることへの警戒も強い。19世紀以来の伝統で、過酷な労働を伴う鉄道員や警察官には50代で早期退職できる優遇制度が認められてきたからだ。

 

フランスでは1995年、シラク政権の年金改革案が3週間のゼネストで挫折に追い込まれ、以後は小ぶりの制度見直しにとどまった。

 

年金受給開始年齢でドイツは67歳、英国は68歳への引き上げを決めたのに対し、フランスは高齢化対応が遅れた。年金への公的支出は国内総生産(GDP)の14%。欧州連合(EU)でギリシャやイタリアに次いで負担が大きい。

 

フィリップ仏首相は「国民に、もっと長く働いてもらう仕組みが必要だ」と訴えるが、国民には労組側への共感が強く、仏紙の世論調査ではデモやストを「支持する」「共感を覚える」とした人が54%に上った。

 

マクロン政権は昨年、燃料税引き上げ計画を機に「黄色いベスト」の反政府デモに直面。パリ中心部で放火や略奪が相次ぐ騒ぎになり、増税撤回に加え、庶民支援の予算措置を迫られた。再びデモに対して妥協すれば、「改革」を旗印とした政権の信頼が大きく揺らぐことになりかねない。【1218日 産経】

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性格的にも、ときに“傲慢”と批判されるほどに強気で、こうした抵抗に屈することが少ないマクロン大統領ですが、政治的にも年金改革は公約のど真ん中に位置するものですから、安易な妥協はできません。

 

すでに、(細かい内容は省略しますが)一定の譲歩は示しているという事情もあります。これ以上の譲歩は・・・というところでしょう。

“仏年金改革、首相が譲歩も労組反発 スト拡大宣言”【1212日 AFP】

 

17日大規模デモの評価は? このままクリスマス期に突入か】

労組側も、クリスマス休戦を拒否して、一歩も引かない構えです。

 

****年金改革反対の仏労組、クリスマスのスト休止を拒否****

フランスの左派系労働組合は、年金制度改革に反対するストライキをクリスマスも継続する考えを示した。17日には国内最大の労組フランス民主労働総同盟(CFDT)が抗議活動に加わったが、労組側が期待していたほどデモ行進は盛り上がらなかった。

ストを主導している左派系労組は共同声明で、この日の全国規模のデモ行進はマクロン大統領が掲げる年金制度改革の「徹底的な拒絶」を意味しているとして、撤回を求めた。「撤回されなければ停戦はない」としてクリスマスもストを継続する考えを示した。CFDTは声明に署名しなかった。

仏内務省の発表によると、労組執行部の呼びかけに応じて全国でデモ行進に参加したのは約61万5000人だった。大規模な抗議活動が始まった今月5日の80万6000人から大幅に減少したが、パリだけでみると参加者は増えた。

これに対し、フランス労働総同盟(CGT)は、全国のデモ参加者は180万人に上り、独自集計による5日の参加人数を上回ったと発表した。労組と政府のデモ参加者の集計は大幅に異なる場合が多い。

年金改革は法定退職年齢を62歳に据え置く一方、賞罰により64歳まで働くことを奨励する内容。

ストを受けてパリの地下鉄など交通機関が運行停止となり、エッフェル塔も閉鎖された。CGTは家庭や企業で広がった停電やガス供給の停止の原因を作ったと認めた。

労組側はマクロン大統領がクリスマス前までに年金改革を取り下げるよう期待しており、マクロン氏はクリスマス前のスト終了を望んでいる。クリスマスまで続けば市民の不満は募るとみられる。

フィリップ首相は議会で「年金改革への民主的な労組の抗議は完全に合法的だ。ただ、政府は年金制度を改革し、年金関連予算を均衡化させる強い決意を明確にしてきた」と強調した。【1218日 ロイター】

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今後の展開を予測するうえで17日の大規模デモがどれほどの規模になるかが注目されていました。

参加者が多ければ労組側が勢いづき、少なければ政府側のガードが一層かたくなります。

 

5日のストライキ開始以来3度目となる17日のデモには、教員や病院職員をはじめとする大勢の公務員らが参加しています。

 

結果は615千人、上記記事では“労組側が期待していたほどデモ行進は盛り上がらなかった”とも。

ただ、労組側は“独自集計による5日の参加人数を上回った”としていますので・・・どうでしょうか。

 

このままクリスマス期に交通ストが継続することで、国民世論のストへの支持、譲歩しない政府への支持がどのように変化するのか・・・もうしばらく時間がかかりそうです。

 

【12月17日 Paers Today】

 

周囲の空気を読んだり、忖度したり・・・・という日本、お互い力勝負でぶつかり合うフランスです。

 

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インド  ポピュリズムに乗る第2期モディ政権のもとで、多元的国家からヒンドゥー至上主義国家へ

2019-12-17 22:08:00 | 南アジア(インド)

(インドのコルカタで、市民権改正法(CAA)に抗議するデモ行進を行う地域政党トリナムール会議派(TMC)の支持者や活動家(2019年12月16日撮影)【12月17日 AFP】)

 

【イスラム教徒を排除する市民権改正法で広がる混乱】

インドで、周辺国からの不法移民に対し「イスラム教徒を除き」国籍を与えるとする市民権改正法に対する抗議が広がっています。

 

****イスラム移民政策めぐり衝突激化=6人死亡、首都にも波及―インド****

周辺国からの不法移民に対し、イスラム教徒を除き国籍を与えると決定したインドのモディ政権への抗議行動が全土で激しさを増している。

 

ヒンズー至上主義を掲げる政権のイスラム教徒「弾圧」の一環と批判されており、AFP通信によると、抗議行動に絡み、15日までに少なくとも6人が死亡した。

 

15日には首都ニューデリーでもデモ隊と治安部隊が衝突。地元主要メディアは16日、イスラム教徒住民が多い首都南東部が「紛争地帯に変貌した」と報じた。

 

11日に国会で可決された国籍法改正案では、イスラム教徒が多数派のバングラデシュ、パキスタン、アフガニスタンから2014年以前に流入した移民にインド国籍が付与される。

 

モディ首相は、近隣国で抑圧されたヒンズー教徒ら少数派を守るためだとして「1000%正しい」と法案を正当化した。【12月16日 時事】

*********************

 

イスラム教徒であれ、なんであれ、居住国での抑圧理由によって判断すればいい話で、最初からイスラム教徒を対象外とするのは、いかにもイスラム教徒を狙い撃ちにした感がぬぐえません。

 

一方で、インド北東部の住民の多くは、同法によってバングラデシュから入国したヒンズー系移民が市民権を得る可能性があるとして反発しています。

 

こうした混乱・治安悪化から、安倍首相の訪印が中止された件は周知のとおりです。

 

****日印首脳会談延期、印政府が発表 市民権法めぐり治安悪化****

インド政府は13日、同国北東部で市民権に関する新法に抗議する激しいデモが発生し、参加者2人が警察に射殺される事態に陥ったことを受け、来週同地で予定されていたナレンドラ・モディ首相と安倍晋三首相との会談を延期すると発表した。

 

インド外務省は、15〜17日に予定されていた安倍首相の訪印について「近々互いに都合の良い日まで延期することを、両国が決定した」と発表した。(後略)【12月13日 AFP】

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混乱は拡大・深刻化しています。

“インド市民権法めぐる抗議デモ、各地に拡大 首相の出身地でも”【12月14日 AFP】

“インド、市民権法めぐる抗議デモで6人死亡”【12月16日 AFP】

“インド首都、移民関連新法巡る抗議活動で100人余りが負傷”【12月16日 ロイター】

“インド国籍法で抗議活動が大学でも拡大”【12月17日 ロイター】

 

ただ、例えば上記【12月17日 ロイター】にしても、抗議している学生はイスラム教徒だけなのか、ヒンズー教徒学生も加わっているのか・・・といった、抗議行動の“範囲”はよくわかりません。

 

【ヒンドゥー至上主義的な性格を明確にを示すようになった政治・司法体制】

言うまでもなく、インドは人口約13億5千万人のうち、ヒンドゥー教徒が約8割を占めています。

しかし、イスラム教徒も少数派ながら約1割強存在しています。

 

本来インドは、イスラム国家に特化したパキスタンとは異なり、異なる宗教・民族を包摂した多様な社会を建国の理念として掲げてきました。

 

しかし、「ヒンドゥー至上主義」を掲げ、イスラム教徒を敵視する組織の出身でもあるモディ首相のもとで、ヒンドゥー至上主義が政権に黙認される形で台頭し、ヒンドゥー至上主義過激派によるイスラム教徒襲撃事件が後を絶たたない事態ともなっています。

 

これまでは、ヒンドゥー至上主義活動家の活動を政権が黙認するという形でしたが、ここにきて、最高裁のアヨディヤ聖地でのヒンズー寺院の建設承認、そして今回の法改正と、政治・司法体制がヒンドゥー至上主義的な性格を明確にを示すようになったようにも見えます。

 

****第2期モディ政権のヒンズー至上主義拡大に広がる懸念 印****

インドで新たに制定された市民権改正法をめぐり、今年5月に2期目をスタートさせたナレンドラ・モディ首相が、世界最大の民主国家である同国をヒンズー教国家につくり変えようとしているのではないかとの懸念が広がっている。

 

2億人に及ぶ国内のイスラム教徒や少数派、さらには国際社会もが不安を抱くモディ氏のヒンズー至上主義的な政策について、AFPが考察を試みた。

 

■唯一イスラム教徒が多数派を占めるジャム・カシミール州の自治権剥奪

インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方のインド側、ジャム・カシミール州は10月31日まで、インドで唯一イスラム教徒が多数派を占める州として特別な地位と部分的な自治権が認められていた。この特別扱いに対して長年、ヒンズー至上主義者は反感を抱いてきた。

 

インド議会は8月5日、ジャム・カシミール州を中央政府の直轄領として二つに分割する法案を成立させた。

 

モディ氏は、この措置は経済発展を促し、汚職を取り締まるためと説明しているが、数十年にわたり武装勢力が反政府運動を展開してきた地元の住民たちは、真の理由はヒンズー教徒の移住を認め、州のアイデンティティーを希釈するためだと考えている。

 

■国民登録簿から除外され190万人が無国籍状態に

政府は8月、北東部アッサム州の国民登録簿を発表。資格なしと判断されて登録簿から除外された190万人は無国籍状態に置かれ、収容所に送られるか、国外追放される可能性に直面しているが、このうち大多数を占めているのがイスラム教徒だ。

 

モディ氏の側近アミト・シャー内相は今月、「侵入者」を排除する目的で、2024年までに国民登録簿を全国的に整備すると言明した。

 

モディ氏は、首相1期目には多くのイスラム風の地名を変更し、歴史の教科書からインドにおけるイスラム教徒の役割を削除した。このためイスラム教徒は、シャー氏の国民登録簿の整備はイスラム教徒を念頭に置いているのではないかと懸念している。

 

■最高裁が聖地にヒンズー教寺院の建設を許可

インドの最高裁判所は11月、ヒンズー教とイスラム教の間で帰属をめぐって対立していた北部ウッタルプラデシュ州アヨディヤにある聖地にヒンズー教寺院の建設を認めた。

 

アヨディヤ聖地でのヒンズー寺院の建設は、モディ氏が現在率いるインド人民党が1980年代から公約として掲げ、この判決は同氏の支持者にとって大きな勝利を意味する。

 

一方で、この聖地をめぐっては1992年、ヒンズー教徒の暴徒が460年の歴史を持つモスク(イスラム教寺院)を破壊した背景があり、最高裁の判決で、モスクの破壊が正当化され、今後、同様の破壊行為や暴力が増えるのではないかと批判する声もある。

 

■非イスラム教徒移民を対象にした新法

11日にインド上院で可決された市民権改正法により、近隣3か国パキスタン、アフガニスタン、バングラデシュから不法入国した移民に対する市民権の付与は容易になるが、対象はヒンズー教徒、シーク教徒、ジャイナ教徒、仏教徒、キリスト教徒のみで、イスラム教徒は含まれていない。

 

これについてモディ氏は、新法がイスラム教徒を対象外としているのは、これら3か国ではイスラム教徒が多数を占めており、迫害される危険がないからだとしている。

 

この新法をめぐって国民の間で怒りが広まり、国内各地で大規模な抗議活動に発展している。抗議活動の中心となっているインド北東部では、新法によって、ヒンズー教徒が大半を占めるバングラデシュ移民に市民権が付与されるのではないかと懸念されている。

 

スウェーデンのウプサラ大学のアショク・スワイン教授はAFPの取材に、「インドの民主主義は、世俗的な特徴と密接に結び付いている」と指摘。「モディ氏が行っていることは、多数決主義の力による支配であり、そこには少数派の権利に対する譲歩がみられない」と述べた。

 

■インド人民党の次の目標は何か

インド人民党の次の目標は、統一民法の制定と宗教別属人法の廃止だ。宗教別属人法では、結婚、家族、死などの問題についてさまざまな宗教的少数派向けの規定が定められている。

 

米シンクタンク「ウィルソン・センター」のマイケル・クゲルマン氏は、「インドで展開されているのは、ヒンズー至上主義的な政策の積極的な推進だ。この政策によって、長年インドの民主主義を特徴付けてきた世俗主義と宗教多元主義が脅かされている」と語った。 【翻訳編集】

*********************

 

【多数派“民意”を反映したポピュリズム 「多数決主義の力による支配であり、そこには少数派の権利に対する譲歩がみられない」】

別にモディ首相は民意を無視して強権的にヒンドゥー至上主義を進めている訳ではありません。

 

一連のヒンドゥー至上主義的施策は、圧倒的多数派ヒンドゥー教徒には強く支持されているものでしょう。

おそらく選挙を行えば、勝利するのでしょう。

 

問題はそのあたりで、「モディ氏が行っていることは、多数決主義の力による支配であり、そこには少数派の権利に対する譲歩がみられない」というところです。敵をつくって多数派市民の敵愾心を煽り、アイデンティティを鼓舞し、その民意に乗っかる形で政治を行う、昨今流行りのポピュリズムでしょう。

 

****冷戦後30年、世界はいま 強権政治がモデル化、民主主義脅かす ヨーロッパ総局長・国末憲人****

 ポピュリズムが横行

民主主義はなぜ、こうも色あせてしまったのか。

 

1989年、ベルリンの壁崩壊と冷戦終結に、私たちは自由と平和、民主主義が息づいた世界の将来像を思い描いた。2019年、目前には荒涼たる風景が広がっているかのようだ。

 

欧米の多くの国で、ポピュリズムが大手を振る。その手法を取り入れた指導者が、米国で野放図に振る舞い、英国では欧州連合(EU)離脱の旗を振る。

 

民主化したはずの旧社会主義圏で権威的ポピュリスト政治家が政権を握り、社会への締め付けを強める。

 

こうした政治家の多くは、「自分たちには大衆の支持がある」と開き直る。選挙で選ばれたことを根拠に自らの行為を正当化しつつ、司法軽視やメディア攻撃、少数派の排除など、民主主義を育んだ理念に逆行する主張や政策を展開する。

 

ポピュリズム」という言葉自体は19世紀からあるが、世界に広く認知されるようになったのは冷戦後の1990年代だ。

 

イタリアベルルスコーニ首相、フランスの国民戦線(現国民連合)ルペン党首、オーストリアの自由党ハイダー党首といった人物が当時、その代表として脚光を浴びた。

 

2000年代には、イタリアオランダなどで右翼ポピュリズム政党が台頭した。移民やEUなどを標的と定めて攻撃し、敵と味方を明確に分ける政治手法は、いずれにも共通する。

 

ポピュリズム台頭を招いた背景には、米ソ、東西、左右といった冷戦時代の対立軸の薄れがある。代わって上下の格差が浮き彫りになり、グローバル化の進展がこれに拍車をかけた。

 

もちろん、冷戦時代にも格差は存在したが、政党や労組、商工団体、農協といった中間団体が上下を結びつけていた。こうした組織が力を失い、指針を失って途方に暮れる人々に甘言で近づいたのが、ポピュリスト政治家だ。

 

ただ、当時のポピュリズムは、不平や不満を吸収するばかりで、具体的な理念や政策に乏しかった。政権担当能力は低く、「放っておけば消える」(欧州大学院大学のハンスペーテル・クリージ教授)というのが、政治学の専門家の一般的な認識だった。

 

しかし、2010年代に入り、ポピュリズムアイデンティティーを理念の中心に据え、次第に政治イデオロギーへと変貌(へんぼう)。

 

国家や民族の結束を呼びかけることで支持を結集する排他的、強権的な政治モデルを確立した。「白人米国人」「イングランド人」といったアイデンティティーを軸に支持を集めるトランプ米大統領やジョンソン英首相は、既成政党の枠組みを維持しながらこうした手法を取り入れた点で、その完成型といえる。

 

 ■行き詰まりの象徴?

不安をあおるポピュリズムは、社会の変化が大きいほど支持も集めやすい。旧東欧諸国がその舞台となったのも、急激な民主化と市場経済の波に洗われ、近年は人口減や難民危機に苦しんだからだった。

 

ポーランドでは保守政党「法と正義」の政権が司法や報道への介入を強化。チェコやブルガリアの政権も強権的な姿勢をとる。中でも、権威的ポピュリズムを体現するといわれるのが、ハンガリーのオルバン政権だ。(中略)

 

民主化の闘士から、強権的ポピュリスト政治家へ。オルバン氏の変節ぶりは、民主主義の行き詰まりを象徴するように見える。もっとも、支持者にとっては逆に、同氏は首尾一貫して国家統合に向け奮闘する人物と映る。かつてはソ連、今はグローバル化やEUと、闘う相手が代わっただけだ。

 

民主化後、ハンガリーは他の旧東欧諸国と同様に欧米の政治経済や生活のモデルを追い求めた。その結果、それなりの自由と繁栄を得たものの、多額の対外債務を背負うことになった。若者たちは大挙して旧西欧に流出した。

 

「首相になったオルバンは、人々のこうした意識を変えようと試みました。ハンガリーの生活スタイルと伝統、キリスト教に基づいたアイデンティティーを確立しようとしたのです」

ブダペスト・コルビヌス大学のランチ・アンドラス学長(63)はこう説明し、同氏の手法を擁護する。

 

 ■暴走の危険をはらむ

ただ、多数派のアイデンティティーから外れる人々は疎外される。少数民族ロマ人を支援するエトベシュ・ロラーンド大学(ブダペスト大学)のマイテニ・バラジュ政治国際研究所長(46)は「彼らを社会的に排除する傾向が強まり、民主化以前よりも状況は悪化している」と危機感を抱く。

 

人々がアイデンティティーを通じて国家や社会に帰属意識を持つこと自体は、決して悪いことではない。アイデンティティーの共有は、対立や格差を時に和らげる。

 

一方で、東西冷戦や上下格差とは異なる分断をもたらすこともある。英国では、EU離脱派の間でイングランド人としての意識が高まった結果、そうした発想についていけない残留派との溝が修復不可能なレベルに広がった。

 

選挙そのものも今や、政策よりもアイデンティティーに左右される。それは、民主主義への信頼を低下させることにもなっている。

 

宗教や民族に依拠するアイデンティティーが制御を失い、紛争や虐殺に発展した例も、枚挙にいとまがない。ポピュリズムがもてあそぶアイデンティティーも、いつか暴走を始めないか。私たちは今、冷戦時代以上に複雑で予想しにくい世界にいるのかも知れない。

 

 ■悲観的な見方、実は少数派では 常に光と影存在、冷静な歴史観を

歴史の評価は、そのナラティブ(語り口)に左右される。たかだか30年とはいえ、冷戦終結後の歴史の評価も、ナラティブ次第で大きく変わる。(中略)

 

今、各国でしばしば耳にする「民主主義はもう限界」「冷戦後の世界は行き詰まった」といった悲観的なナラティブも、実は同様に、まだ少数派の見方に過ぎなくはないか。(中略)

 

権威的ポピュリズムや右翼も、30年の中でここ数年の間に急成長したに過ぎない。それが歴史の流れだと恐れおののくには早すぎる。冷静に世界を見つめ、個々の現象に丁寧に対応する姿勢を心がけたい。【12月16日 朝日】

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「世界最大の民主主義国」と言われてきたインド。そのインドの民主主義が変質しようとしています。

 

ヒンドゥー教に基づくアイデンティティでインドをまとめようとするモディ首相のもとで、そのアイデンティティーから外れるイスラム教徒や不可触民などは疎外される・・・そんな危うい構図が感じられます。

 

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ジンバブエ  深刻化する「人的要因による飢餓」 ムガベ時代同様の弾圧も

2019-12-16 23:12:41 | アフリカ

(ジンバブエの首都ハラレで11月6日、賃上げを求める公務員らが計画した政府庁舎へのデモ行進を警官隊が実力で阻止した。警官に連行されるデモ参加者【11月7日 時事】)

 

【「独裁者」ムガベ後も、進まない経済再建・民主化】

ジンバブエでは、37年間にわたり「独裁者」として君臨したムガベ前大統領が2017年11月、事実上の軍事クーデターで辞任、2018年7月に行われた大統領選挙では長年ムガベ氏の側近だったものの、その後対立関係になりムガベ追い落としに関与したとも言われるムナンガグワ大統領が当選しました。

 

その選挙は、多くの途上国の選挙に共通するように、対立候補からは不正集計があったと批判を受けています。

野党側は激しく抗議し、軍の発砲で犠牲者が出る混乱にもなり、民主化や経済回復に踏み出す一歩になるとみられていた選挙は新たな対立の火種ともなりました。

 

ムナンガグワ大統領については、選挙当時の記事で、以下のようにも紹介されています。あまり「新たな時代」にふさわしいイメージでもありませんが・・・。

 

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ムナンガグワ氏は長年ムガベ氏の側近だったが、昨年11月、突然ムガベ氏に副大統領職を解任された。それをきっかけに、ムナンガグワ氏に近い国軍がムガベ氏を自宅に軟禁、ムガベ氏の辞任につながった。

 

ムナンガグワ氏はムガベ氏を追放した立役者として一定の評価はあり、経済回復を期待する経済界の支持を集めているものの、「昨年11月から経済の目立った改善が見られないことに国民から不満の声も高まっている」(外交筋)との指摘もある。

 

また、国家治安相だった1980年代、軍が市民ら約2万人を殺害した虐殺事件に関わった疑惑も影を落としている。【2018年7月29日 読売】

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とにもかくにも、ムナンガグワ大統領のもとでスタートした新生ジンバブエですが、経済再生は進んでいません。

今年1月には燃料費の高騰や日用品の不足をきっかけに混乱が拡大しました。

 

これに対し、治安当局は発砲を含む厳しい鎮圧行動をとり、民主化についても、ムガベ時代とまったく変わらない様相にもなっています。

 

*****ジンバブエ、強硬措置で抗議封じ込め 燃料費高騰や日用品不足で混乱****

深刻な経済危機が続くジンバブエで、燃料費の高騰や日用品の不足をきっかけに混乱が広がっている。ムナンガグワ政権の治安当局は強硬措置で抗議行動を抑え込み、数日間で600人以上を拘束する異常事態となっている。

 

同国政府は12日、ガソリン価格を150%超引き上げて1リットル当たり3.31ドル(約364円)にすると発表。値上げは市民生活を直撃し、労働組合は14日からゼネストを呼びかけた。首都ハラレや第2の都市ブラワヨでは大半の商店や学校が閉鎖。デモ隊の一部が暴徒化し略奪も起きた。

 

これに対し、当局はインターネットを遮断し、野党支持者や人権活動家らを次々と拘束。「当局は市民に対し無差別に発砲、暴行している」(ハラレの弁護士)とされ、17日までに68人が銃撃を受けて病院に運ばれた。

 

同国では長期政権が続いたムガベ前大統領時代の2008年に年率2億%を超えるハイパーインフレを記録した後、自国通貨のジンバブエドルを廃止。代わりに米ドルなどを採用した。

 

だが17年に事実上のクーデターでムナンガグワ氏が大統領に就任した後も物資の輸入に必要な外貨の不足に歯止めがかからず、昨年12月のインフレ率は過去10年間で最も高い42%に達した。

 

会社員のシーラ・グンボさん(29)は「市民がゼネストを支持するのはとても生活できないから。野党関係者を逮捕しても問題は解決しない」と話した。

 

現地からの情報によると、日用品や食料の不足が慢性化し、市民が支払いに使う電子マネーや代用貨幣「ボンドノート」の価値も急落している。ハラレ市内のあるスーパーでは紙おむつのパック(24枚入り)に80ドルという法外な値札が付き、ガソリンスタンドでは給油まで数日待たされることもあるという。

 

国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のデワ・マビンガ氏は「政府は不満に耳を傾けるどころか、平和的な抗議行動まで弾圧している」と指摘。ムナンガグワ氏は経済再生に向けて外資誘致を図るが「人権侵害が横行する国にだれが投資するのか」と述べ、旧態依然とした政府対応を批判した。【1月19日 毎日】

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****ジンバブエで起きている苛烈な弾圧****

(中略)治安当局はインターネットを遮断し、労組や野党関係者らに対する激しい弾圧を開始。被害者の治療に当たった「ジンバブエ人権のための医師の会」などによると、少なくとも12人が死亡し、300人以上が負傷、78人が銃撃を受けて病院に運ばれた。このうち半数近くは抗議行動とは無関係で、帰宅途中などに流れ弾に当たって重傷を負ったという。 

 

「中には1〜2メートルの至近距離から頭部を撃たれた犠牲者もいて、殺意があったのは明らか」(同会のノーマン・マトラ医師)。

 

ハラレ市内の低所得者居住区などの状況について、マトラ医師は「兵士や警察官がしらみつぶしに民家を捜索し、住民を引きずり出して暴行している」と語る。

 

摘発を恐れて隣国南アフリカに逃れたマトラ医師が記者に示した写真には、ムチや棒で殴打されて背中がどす黒く腫れ上がったり、割れたボトルを足に突き刺されたという被害者の姿が写っていた。(後略)【1月26日 毎日】

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【多くを輸入に頼る経済構造 資源はあるがインフラ未整備で輸出できない 慢性的な外貨不足 もの不足・インフレ】

その後も、もの不足・価格高騰・財政難・高い失業率というジンバブエの状況は変わっていません。

 

****新しいジンバブエ、不満蓄積 物が不足・高騰、新政権の国造り難航****

アフリカ南部ジンバブエで、「独裁者」と呼ばれたムガベ大統領が2017年に失脚した後の国造りが難航している。後継のムナンガグワ大統領(76)は「経済再生」を唱えているが、財政難や高い失業率を解決できず、暮らしは厳しいまま。頼みとする日本などからの外資呼び込みも道半ばだ。

 

首都ハラレのガソリンスタンドには1月下旬、100メートル以上にわたる給油待ちの車列があった。自営業のイルビネ・チナカさん(28)は「6時間は待っている。本当に無駄な時間だ」。

 

食料品なども、この半年で軒並み値上がりした。地元紙によると、今年1月のインフレ率は56・9%。食用油は5倍になった。

 

物不足と物価高騰の主な原因は、日用品など暮らしにかかわる製品の多くを輸入に頼る経済構造にある。

 

ジンバブエにはプラチナをはじめとする豊富な地下資源があるが、採掘や精製に必要なインフラが整備されていない。輸出して外貨を稼げず、国全体でみると、輸入額の2週間分ほどに相当する外貨しか保有していない深刻な状態だ。

 

そもそもインフラ整備や産業を発展させる政策を進められないのは、国の財政が厳しいからだ。歳出の約8割を公務員の人件費に充てており、他に回すことができていない。

 

政府はガソリン税で歳入の増加を図ろうと、今年に入り、従来の約3倍近い1リットル3・31ドル(363円)に引き上げた。これに国民は「世界一高いガソリン代だ」と反発した。スーパー店員のタクズワ・チケさん(21)は「物の値段は上がったのに、毎月の給料は変わらない。ムガベ政権時代に戻してほしい」と語る。

 

1月以降、抗議デモが続発。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、デモでは少なくとも12人が当局の発砲などで死亡し、約600人が拘束されたという。同団体でアフリカ南部を担当するデワ・マブヒンガ氏は「ムガベ政権と比べても、兵士が市民に平然と発砲するようになっている」と懸念する。(後略)【2月19日 朝日】

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とりあえずは外資頼りということにもなります。ムナンガグワ政権はムガベ政権が敵対していた欧米諸国との関係改善に乗り出し、外資による経済再建をめざしています。

 

ムガベ時代にジンバブエを支援していたのは中国ですが、現在の中国との関係はよく知りません。ちょっと理解に苦しむ記事も。

 

*****中国の援助、少ない? 両国主張の額に40倍の差―ジンバブエ****

アフリカ南部ジンバブエのヌーベ財務相が先週、中国からの今年の援助額は360万ドル(約4億円)と公表した。

 

これに対し、中国が「大間違いだ」と激怒、在ジンバブエ中国大使館は19日、声明を出し「中国の記録によれば今年1~9月だけの実績で1億3680万ドル(約150億円)の対ジンバブエ支援を行っている」と反論した。

 

40倍近い差がなぜ生じるのかは分かっていない。中国はジンバブエに対し「2国間支援の統計を全て再検証し、現状を反映させる」ことを要求。ジンバブエ政府も「共通の立場を確立するため必要な協議が進行中だ」と釈明している。

 

故ムガベ大統領の時代に欧米との関係が悪化したジンバブエだが、ヌーベ氏によれば、それでも米英両国からは各5000万ドル(約54億円)、欧州連合(EU)からも4100万ドル(約45億円)の支援を受け取っている。【11月20日 AFP】

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【干ばつで深刻化する「人的要因による飢餓」】

上記の年初の混乱以降のジンバブエ関連記事はあまり目にしていなかったのですが、事態は改善していない・・・と言うか、深刻化しているようです。

 

*****ジンバブエ国民の60%が食料不足 「人的要因の飢餓」迫る****

国連のヒラール・エルバー特別報告者(食料の権利担当)は28日、アフリカ南部ジンバブエで記者会見し、同国では基礎的な食料ニーズが満たされていない人が国民の60%に上り、「人的要因による飢餓」が近づいていると述べた。また、同国は紛争地域を除き食料不安の最も深刻な4か国に入るとした。

 

エルバー氏は11日間の視察を終え、首都ハラレで会見した。同氏は「ジンバブエの人々は人的要因による飢餓の段階に徐々に近づいている」と語り、年内に800万人が影響を受けると警告。物価上昇率490%のハイパーインフレと不作が合わさったことを要因に挙げた。

 

同氏によると、地方では農作物が干ばつの影響を受け、現時点で「550万人という驚くべき規模の人々」が食料不安に見舞われている。都市部でも220万人が食料不足に直面するとともに、保健・医療や安全な水など最低限の公共サービスを受けられていないとした。

 

ジンバブエ経済はロバート・ムガベ前大統領の数十年に及ぶ失政で機能不全に陥り、軍主導のクーデターで2017年に後任に就いたエマーソン・ムナンガグワ大統領の下でも立て直しは実現していない。【11月30日 AFP】

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ジンバブエの干ばつ被害について、昨日も取り上げた「気候アパルトヘイト」的な観点から、“温暖化ガスの排出量が最も少ない地域が、気候変動の最も大きな影響を受けている現実”との指摘もなされています。

 

****ビクトリア滝も枯渇、数千万人を襲う飢え アフリカが目の当たりにする気候変動の影響****

アフリカ南部ジンバブエとザンビアの国境にあるビクトリアの滝。かつては切り立った崖を大瀑布(ばくふ)が流れ落ち、辺り一体が水煙に覆われていた。

 

ところが何年も続いた干ばつの影響で、滝はほとんどが弱々しい小川のような流れと化し、かつて生い茂っていた豊かな植生は枯れ果てた。

 

世界食糧計画によると、ジンバブエだけでも700万人以上が飢えにさらされ、アフリカ南部ではさらに4500万人が飢えのリスクに直面している。(中略)

 

ジンバブエ西部で自給自足農業を営む女性は、「私たちは農業で一家を支えている。このままの気候が続けばやっていけなくなる」と危機感を募らせる。

 

この女性が子どものころは、降雨に頼ってトウモロコシや、家畜の餌にする穀類を育てることができたが、それももうできなくなった。

 

今は食糧援助に頼る生活だが、それでも自分と2人の孫は、1日1回の食事しかできないという。子どもたちの両親は、農業が立ち行かなくなったために南アフリカへ行った。

 

インフレの上昇と政治改革の失敗による景気の悪化が拍車をかけ、ジンバブエ国民の生活はかつてなく過酷な環境に置かれている。

 

しかし富裕国と違ってアフリカ諸国は、気候変動に備えるための資金力も組織力もない。

「このままの状況が続けば、大気中の温暖化ガスが増え続け、50年後のアフリカ南部は今とは似ても似つかない姿になるだろう」とエンゲルブレヒト氏は予想する。

 

同氏によると、干ばつや熱波は今後も続き、今年3月にモザンビークとジンバブエを襲ったような大型サイクロンの勢力は一層強まり、南アフリカのケープタウンで水がほぼ底を突きかけたような極端な水不足は3倍の頻度で起きるようになる。

 

気候変動モデルでは、トウモロコシのような主食となる作物が育たなくなり、何百万人もの家計を支える牧畜も不可能になると予想されている。【12月16日 CNN】

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ただ、ビクトリアの滝が本当に干上がったのか? それは気候変動・温暖化の結果なのか? といった点については異論もあるようです。

 

****【検証】ビクトリアの滝は干上がってしまったのか?****

アフリカ南部がここ数十年で最悪の干ばつに見舞われるなか、ジンバブエとザンビアの国境に位置する「ビクトリアの滝」が干上がりつつあると多くのメディアが報道し、不安が広がっている。

 

この騒動のきっかけとなったのは、ユーチューブに投稿された動画だ。動画にはザンビアのリビングストンから見たビクトリアの滝の長く続く断崖の地肌がむき出しになっている様子や、雨乞いをしているという女性の姿が捉えられていた。

 

しかし、この動画とその後のメディアの報道は例年水流に影響を与えている乾季についてきちんと伝えておらず、滝の水流はジンバブエ側の方がずっと多いという事実もないがしろにしている。(中略)

 

実際、滝の水量は決まって季節的な降雨の影響を受けており、また動画が投稿された9月以降は改善の兆候も現れている。(中略)

 

■気候変動?

ザンビア気象庁の過去40年にわたるデータを基に昨年発表された南アフリカのある研究によると、リビングストンでは「統計的に有意な気温変化」があったものの、「年間平均降雨量には統計的に有意な変化はなかった」という。

 

その一方、研究共著者でバール工科大学の研究者であるカイタノ・デュベ氏は、滝が干上がるのか、またそれがいつなのかを知るのは困難だとし、「動向を見れば水位はますます低くなっており、干ばつはさらに過酷になっているのは確かだ」と述べている。 【12月13日 AFP】AFPBB News

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「ビクトリアの滝が干上がったのか? 気候変動・温暖化の結果なのか?」という点はともかく、ジンバブエで干ばつが深刻化しているのは事実であり、政府の無策という「人的要因による飢餓」が懸念されています。

 

農業生産だけでなく、混乱は社会全体にも広がっています。

 

*****ジンバブエ、修羅場の出産風景 病院ストで素人が決死の助産****

(中略)2歳の助産師エスター・ジニョーロ・グウェナの助けを得て、この1週間でほかにも数十人の赤ちゃんが産まれた。

 

深刻な経済危機が10年以上続くアフリカ南部の国ジンバブエにおいて、グウェナは地元で英雄視され始めている。差し迫った状況のなかで、女性たちは伝統的な助産師を探し求めることを余儀なくされている。その多くが素手で分娩を介助し、消毒や産後ケアを施さない。

 

かつてはアフリカで最も評判の良かったジンバブエの保健セクターの退廃している現状が、グウェナの活動によって浮き彫りになるばかりだと危機感を抱く人もいる。

 

医師は、およそ100ドルの月給より良い待遇を求め、2ヶ月以上にわたりストライキ中である。そして、ハラレの看護師と助産師は2週間前にストライキに参入した。

 

それ以来、グウェナは100人以上の赤ちゃんを取り上げ、母親が亡くなったケースは1度もないという。グウェナは出産介助費用を請求することはない。行き場を失った妊婦を助けることに心を砕いている。(後略)【11月27日 NewSphere】

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上記グウェナさんの尽力はともかく、素人が多くの赤ちゃんの助産を行うことは多くの危険を伴います。

しかし、それを云々していられない・・・というのがジンバブエの現状です。

  

そんなジンバブエでグラフィックデザインの先生として生活する日本人女性のブログ「Kちゃん l ジンバブエ生活@毎日更新中 」も、現地状況を知る参考になります。

 

“ジンバブエに来て9ヶ月がたち、この国の経済状況はますます悪くなるばかり。ほとんどのものを輸入に依存しているため、外貨が必要で、現地通貨の価値は下がるばかり。これは、生活していると肌で感じられるのだけど、なかなか説明が難しい。来た当初、8ドルだったタクシー代。この9ヶ月で今では55ドルだ。”

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気候アパルトヘイト  温暖化被害・対応でも拡大する持てる者はと持たざる者の分離

2019-12-15 23:32:36 | 環境

(国境を分断する有刺鉄線【9月19日 GNV】 30年後、50年後には、気候難民の流入を阻止するために、先進国国境でも、富裕層居住エリアでもこうした「壁」が・・・・)

 

【「プライベートの消防隊」で焼火事から豪邸を守る富裕層】

今朝、TVをつけると聞きなれない言葉が。

「気候アパルトヘイト」「プライベートの消防隊」

 

****差別?温暖化が広げる格差“気候アパルトヘイト” *****

NHK総合 【おはよう日本】

 

世界各地で相次ぐハリケーンや洪水などの災害。温暖化との関連も指摘され、対策を求める声が高まっている。

スペインで行われている国連の温暖化対策会議・COP25。危機感を強める世界の若者たちも声を上げた。

そこで注目されたのは「アパルトヘイト」というキーワード。(中略)

アパルトヘイトという言葉は、国連が出した報告書「Climate change and poverty(気候変動と貧困)」で使われ注目を集めたもの。

温暖化が貧困を生み、格差を広げていると指摘していて、このままでは人種差別と同じような事態になりかねないと強い危機感を表したことば。

途上国だけでなく、先進国でも強く意識されるようになってきている。

温暖化との関連が指摘されている、ハリケーンや山火事に相次いで見舞われた米国の状況を取材。
米国ではプライベートの消防隊が富裕層の間で人気を集めている。

温暖化は経済活動によって引き起こされているのに、守られるのは富裕層ばかりで、貧しい人々は放置されている。
今、若者を中心にこうした格差の拡大に怒りの声が広がっている。

国連の専門家によると、こうした同じようなことはほかの国でも起きていると指摘。
国連の報告書で最初に気候アパルトヘイトを指摘したニューヨーク大学・フィリップオーストン教授は、再生可能エネルギーへの転換とともに、温暖化で被害を受けた人たちへの補償も必要だと指摘している。

日本の専門家は今後、こうした災害が繰り返されると、この気候アパルトヘイトを海外の話では済ますことができなくなると指摘。今後の防災のあり方についても、立ち直る力が十分でない人や、場所に関して予防策に尽力すべきだと話している。【12月15日 JCCテレビすべて】

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カリフォルニアの山火事のニュースはよく目にしますが、山火事の現場で富裕層の豪邸の一画だけが焼けずに残っている・・・その理由の一つが「プライベートな消防隊」ということのようです。

 

いろんな消火剤や方法を使って、火の手が回るのを防いでくれるとか。

 

当然、貧乏人には手がない出ない費用がかかりますので、貧乏人は自宅が焼けるのをただ眺めるしかない・・・ということです。

 

****囚人消防士から消火ビジネスまで…「カリフォルニア大火」舞台裏****

(中略)カリフォルニアの火事は毎年のように起きるが、いったいなぜここまで燃えさかるのか。

 

カリフォルニアでは、乾季は一面が茶色い枯れ草だらけになる。(中略)

 

そこそこの長さのある枯れ草が密集して生えているので、いったん火が付けば、あっという間に炎は燃え広がる。そこに乾燥した季節風が「ふいご」のように風を送るのだ。

 

今年は特にこの風が強く、フェーン現象が加わる山の風下側はきわめて乾燥していた。(中略)

 

トランプ大統領は、「毎年カリフォルニアの火事で出費がかさむ」とニューサム知事をツイッターで非難したが、知事は「地球温暖化を信じていない人間から言われる筋合いはない」とツイートし返している。

 

この2人は以前から折り合いが悪い。大統領は下草を刈れと言っているが、その作業は火を消すよりはるかに大変だろう。(中略)

 

ソノマの山火事には、州内506の消防署から応援が駆けつけたほか、他州の159の消防署が消防活動に参加し、ピーク時には5245名の消防士が活動した。

 

さらに、囚人たちが時給1ドルで消防活動に参加している。カリフォルニアでは1946年からこうした動きがあり、今では州内44カ所の収容所が、消火活動に参加させるプログラムを実施している。およそ2600名の囚人が作業に従事できる資格を持っている。

 

スキルを身につけたとしても前科者は消防士として採用されないため、出所後のキャリアにはならないが、“Do the right thing.”(いいことをしよう)という掛け声のもと、囚人達が危険な任務を引き受けてくれている。

 

その一方、プライベートで消防士と契約する人も増加中だ。プライベート消防会社は1980年代から存在し、多くは保険会社のために働いているが、現在は全米に250社ほどあって成長産業になっている。費用は最大で1日3000ドルくらい。昨年はキム・カーダシアンの個人宅で消火活動して、物議を醸した。

 

カリフォルニアではもうしばらく乾燥した天気が続く予想だ。今回、多くの家庭で、家の保険が10%ほど値上がりした。ここ数年、州内に引っ越してくる人より州外へ越していく人の方が多いのも、物価高や悪化する山火事、電気会社の混乱などが原因だろう。この流れはまだまだ続きそうだ。(取材・文/白戸京子)【11月10日 SmartFLASH】

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カリフォルニア州知事とトランプ大統領のやり取り、囚人消防士も面白いですが、今日の論点は「プライベート消防会社」 “現在は全米に250社”・・・ちょっとした山火事ビジネスですね。

 

温暖化ガスをまき散らす経済活動で富を築いた富裕層・先進国住民は、その資金力で温暖化被害に対しても「プライベート消防会社」のような対応を準備しているのに対し、温暖化の被害を集中的に受けて、その被害から立ち直ることも困難な貧困層・途上国という「分離」の構図が「気候アパルトヘイト」ということのようです。

 

【「気候アパルトヘイト」 現状に大きな責任を有する持てる者はしばらくの間うまく対応、しかし、持たざる者はより一層貧困に陥り、生活苦にあえぐ】

まあ、何事につけ富裕層はダメージを免れて更に金持ちとなり、貧乏人は・・・という話はありますが、温暖化もそういう話だとのこと。

 

****気候変動が生む、新たな「アパルトヘイト」*****

気候変動は私たちの住む地球の姿を大きく変えようとしている。この来たるべき変化に対し、持てる者はしばらくの間うまく対応するだろう。しかし、持たざる者はより一層貧困に陥り、生活苦にあえぐ。

 

気候変動は、今すでに二分化されたこの世界の格差をさらに広げているのである。それによって導かれるのは新たなる「分離」、「気候アパルトヘイト(climate apartheid)」だ。

 

なかでも大富豪たちはこの「生存競争」にせっせと備え始めており、想像を超えるような計画をしていると囁かれている。

 

気候アパルトヘイトとは何か

(中略)アパルトヘイトとは本来、アフリカーンス語で「分離」「隔離」を意味する語であり、かつて南アフリカ共和国で行われていた人種隔離政策を指すことが多い。

 

(中略)気候アパルトヘイトは、富裕層と貧困層とで気候変動の引き起こすさまざまな問題に対応する能力が異なり、そのためある種の分離が発生すること、さらに結果として現在の貧富格差を広げてしまう現象のことである。

 

この言葉を初めて使用したのは国際連合人権理事会であるが、発表された報告書には「富裕層がお金を支払うことで猛暑、飢え、武力紛争をしのぎ、残りの人々がそれらを被る状況」と定義されている。

 

(中略)そもそも気候変動は、人間の活動によって、産業革命時から地球の平均気温が約1℃(現時点で)上昇していることに起因している。これにより猛暑や異常気象、海面上昇、頻繁な森林火災などが発生しており、多くの人の生活が脅かされている。

 

(中略)例えば中米では、気温上昇のため多くのプランテーション労働者たちが脱水症状を起こしており、それが原因で腎臓病が増えている

 

また、極端な豪雨や雨不足により、洪水・干ばつが頻繁に起こることで食糧供給が不安定になり、飢えを深刻化させてしまう。そして海面上昇によって海岸地域や低地が浸水すれば、住処を追われる人々が続出する。

 

例えば、バングラデシュは洪水や海面上昇の被害が世界でトップレベルに深刻であり、2019年の大洪水では感染症も流行した。

 

気候変動がゆえに今のままでは生活できなくなる人々は移動を余儀なくされ、「気候難民」となりさらなる貧困や移民問題を招くのである。

 

研究によって推測されている気候変動の実質的な影響を見てみよう。気候変動による海面上昇や砂漠化・異常気象のため、2050年までには1億5千万から2億人もの気候難民が発生すると予想されている。

 

また気候アパルトヘイトが進むことで、2030年までに1億2千万人の人々が貧困に陥るという国連の報告書も発表されている。気候変動はここ50年における開発、保健、貧困対策などの進歩を巻き戻してしまう可能性さえあるという。

 

国連の特別調査員であり、人権の専門家であるフィリップ・オールストン氏は、国連による気候変動への対策は「明らかに不十分」であり、このままでは人権だけでなく、民主主義や法の支配さえも脅かされると示唆した。

 

これらの事態を一時的にもうまく逃れるには、金銭的余裕がものを言う。お金のない貧困層から気候変動に対応できなくなる一方で、富裕層だけがこの事態をうまく対処できる。

 

富裕層は貧困層に比べ、気候変動に対応するための選択肢が多く用意されているということだ。

 

ここで言う富裕層とは単に資産家を意味するものではなく、常にエアコンや丈夫な家、ライフラインや食糧へのアクセスがある工業先進国に住む人々を含む。

 

彼らは貧困層と違って科学技術に頼ったり、値上がりした食糧を手に入れたり、より涼しく標高の高い地域に移動したりするための費用を負担するだけの金銭的余裕があるのだ。

 

しかし、気候変動へ対応するのにかかる諸経費を負担できない貧困層は、その害を真正面から被る。かくして新たなるアパルトヘイトが生まれるのである。

 

国連による持続可能な開発目標(SDGs)に掲げられた理念「誰一人取り残さない」は、早くも失敗に終わりそうだと批判された。

 

ここには特筆すべき矛盾が存在する。気候変動を引き起こしている温室効果ガス排出量のうち半分は、世界で最も裕福な10%の人間によって排出されてきたものであり、一方で最貧層(総人口のうち35億人)が責任を負うのはたった10%未満なのだ。

 

だが皮肉なことに、気候変動が引き起こす害のうち75%を被ってしまうのは後者の貧困層である。

つまり気候変動の原因を作った人々は勝ち残り、責任のない人々が苦しむのだ。

 

さらに、気候変動という問題の存在だけで、貧富の格差を25%悪化させているという研究もある。

 

気候は人の生産性を大きく左右させる一因であり、例えば熱帯地域にあるモーリタニアやニジェールなどは、気温が上昇していなければ一人当たりGDPが現在よりも40%高かったと予想される。

 

一方、元から比較的に涼しい気候であった先進国の一部では、気温が上昇したことで生産性が増したのである。

 

このような状況では、問題の根本解決を図らない限り気候変動・気候アパルトヘイトに拍車をかけかねず、特に先進国にはこの負の連鎖を断ち切る責任があると言える。

 

しかしながら、これは富裕層のなかでもトップに君臨する大富豪たちにとっての脅威では必ずしもない。彼らは少々大それた計画を用意しているようだ。

 

気候アパルトヘイトの上流階級

このアパルトヘイトの中でも、とりわけ上流階級はすでに策を講じている。大金持ちたちは、人口が少なく住みやすい場所に新たな拠点を設けたり、地下壕を建設、さらにはプライベートの消防隊を雇うなどの備えを用意しているのだ。

 

例えば、決済サービスを提供する大手企業PayPal(ペイパル)の創業者であるピーター・ティール氏は、有事の際にニュージーランドに移住できるよう現地の市民権と土地を確保した。(中略)

 

また、フェイスブック社の元プロダクトマネージャーであるアントニオ・ガルシア・マルティネスが米国の一部の森林を買い取り、発電機や何千セットもの弾薬を備蓄していることも報じられた

 

ここでも、安心・安全の居住に適した地域に金持ちが集まり、住みづらい場所に貧困層が取り残されてしまうという気候アパルトヘイトが顕著になってしまう。

 

このような「準備家(prepper)」たちの懸念は底知れぬものだ。貨幣に価値がなくなってしまった時のために貴金属やビットコインなどの仮想通貨を購入したり、さらには2つ目のパスポートを手にいれる方法を模索している者もいる。

 

このように、大富豪たちが気候変動だけにとどまらない、来たるべき「最悪の事態」を憂慮して周到な準備をし始めていることが、アメリカのメディア研究者であるダグラス・ラシュコフ氏の記事でも暴露された。

 

それによると、彼らは食糧供給網に自分たちしか知らない特別なロックをかけることや、生存を保障するのと引き換えに奴隷に近いような労働力を雇う、または(開発可能であるならば)警備ロボットを確保し、自身の財産を守るのに利用することなど、想像を絶するような策謀をめぐらせている。

 

また、チェコ共和国には世界最大の地下壕「オッピドゥム」が建設されており、大富豪専用の避難シェルターとして、地上が大惨事に見舞われても彼らの身を守ることができる。同じような避難所はドイツやアメリカなどにも建設されている。(中略)

 

このように公共サービスが間に合わなくても、大金持ちは個人的に人を雇うことで(プライベート消防会社のように)、災害を生き延びる術を手に入れるのである。

 

気候変動は各国の政策にも影響を及ぼしている。アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏による「壁」の建設計画や、イギリスの欧州連合離脱(ブレグジット)などの政策は、萌芽しつつあるこの気候問題への初期反応なのではないかという指摘がある。

 

2019年9月に大型ハリケーンがバハマを直撃した際にも、多数の人々が家を失いライフラインを絶たれた状況で、トランプ氏は被災者の受け入れに難色を示し拒否した。

 

気候変動の責任

以上で見てきたような「気候アパルトヘイト」を止める術はないのだろうか。先述のフィリップ・オールストン氏によれば、この問題を解決するには世界経済の構造を大きく変える必要があるだけでなく、各国政府や国連、人権団体が率先して気候変動への対策だけに徹するほかないようだ。

 

また、具体的な対策としては炭素税が有効だとも言われている。産業が、なんの代償もなく二酸化炭素を排出することを許さないという狙いだ。

 

しかも再生可能エネルギーへの切り替えは決して非現実的なものではなく、長期的に見ればコストの削減にも繋がるということがスタンフォード大学での研究で分かっている。(中略)そ

 

しかし、富豪たちの計画を暴露したラシュコフ氏も指摘しているように、富豪たちはこのいかがわしい未来を一瞬で良い方向に変えられるほどの富と権力を持ち合わせているはずだ。それにも関わらず、気候変動を悪化させてきた責任をいとも簡単に逃れているのはいかがなものかと問わずにはいられない。(中略)

 

ただ「勝ち組」として生き残るのではなく、気候アパルトヘイトで苦しむ貧困層の損害を最小限にとどめるよう取り組み、コストを負担するのが先進国・富裕層の責任ではないだろうか。

 

そして、気候変動そのものが差し迫った危機であることだけでなく、付随する気候アパルトヘイトが世界の秩序を歪めてしまうことを正しく認識し、国際社会で対策を打つ潮流を作るのが得策だとも思われる。

 

いずれは富裕層も、富や権力だけでは気候変動から逃げ切れなくなってしまうことは明らかだ。各国政府や企業、国際機関が事態を深刻に受け止め、問題の優先順位を高くし、提言だけでなく実質的な対策を打つことが早急に望まれる。(後略)【9月19日 Mina Kosaka氏 GLOBAL NEWS VIEW】

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気候アパルトヘイトの問題を提起した貧困と人権に関する国連の特任リポーターであるフィリップ・アルストン氏によれば、今世紀において貧しい国の人々が自然災害で亡くなる可能性は、裕福な国の市民の7倍にも達しており。そしてこのギャップは気候変動が進むほどに広がるとのこと。【7月20日 TOCANAより】

 

二酸化炭素排出の責任が最も低い国と地域が、海面上昇による水没などこうした問題を最も深刻な影響を受けるという現実、なのに二酸化炭素排出の責任が高い先進国が応分の責任を果たそうとせず、途上国にも一律的な対応を求めてくる・・・というのは毎年のCOPで繰り返し議論となる問題です。

 

「気候アパルトヘイト」という言葉は、こうした問題を含めて、改めて富裕層・先進国の責任を問う概念です。

 

映画・ドラマが描くディストピアでは、しばしば「気候アパルトヘイト」の行くつく世界が描かれますが、現実はこうしたディストピアを回避できるのか、それとも・・・・。

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ミャンマー  ロヒンギャへの「ジェノサイド」で訴えられた国軍を国際法廷で弁護するスー・チー氏

2019-12-14 22:57:12 | ミャンマー

(国際司法裁判所に立つアウンサン・スーチー氏【12月14日 COURRIER JAPON】)

 

【自分を長年にわたり自宅軟禁していた軍を擁護するため、国際司法裁判所に出廷したスー・チー氏】

ここ数日、国際面ではイギリス総選挙や米中交渉などがメディアでは大きく取り上げられていますが、個人的に一番関心があったのは、イスラム系少数民族ロヒンギャに対するミャンマー国軍による「ジェノサイド」(集団虐殺)の訴えを裁く国際司法裁判所(ICJ)に出廷することとしたミャンマーの指導者アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が一体何を語るのか・・・ということでした。

 

言うまでもなく、かつての軍政に対する民主化運動の象徴であり、長年の自宅軟禁を戦い抜き、ノーベル平和賞を受賞したスー・チー氏ですが、ロヒンギャ問題に関しては多くを語らず、事態改善に向けた消極的姿勢が目立ち、国際的には厳しい批判にさらされています。

 

それだけに、スー・チー氏の弁論内容に関心が持たれましたが、ミャンマー政府はその責任を認めていませんので、スー・チー氏の発言も恐らくその線に沿った内容になることは想像されました。

 

国内的にも、今回のスー・チー氏の出廷は、ミャンマーの正当性を主張し、国際批判に反論するものとして理解されており、敢えて法廷への出廷と言う行為を選択したスー・チー氏を支援する動きが報じられています。

 

****スー・チー氏へ大規模連帯集会 ミャンマー、国際司法裁出廷で****

ミャンマーの最大都市ヤンゴンで10日、国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)の審理に出廷するため、ハーグ入りしているアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相への連帯を示そうと、市民ら約3千人が大規模な集会を開いた。

 

市民らは、スー・チー氏の顔が描かれたポスターなどを掲げ「国の威厳を守れ」と繰り返した。会場には「スー・チー氏を支持する」と書かれた巨大な看板も設置された。ICJで審理が始まると、市民らは大型スクリーンを通じて見守った。

 

ヤンゴン在住の女性シュエ・ジンさん(34)は「国を守るために現地に行ってくれた。感謝している」と話した。【12月10日 共同】

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そうしたなかでスー・チー氏が語った内容は、一言で言えば、これまでのミャンマー政府の主張をなぞるものであり、かつての民主化運動の象徴の片鱗をうかがわせるものはありませんでした。

 

****スーチー氏、虐殺の訴えは「不完全」 ロヒンギャ裁判で反論****

ミャンマーの指導者アウンサンスーチー国家顧問兼外相は11日、国連の国際司法裁判所(ICJ)に出廷し、同国軍が少数民族ロヒンギャにジェノサイド(集団虐殺)を行ったとの訴えに「不完全で不正確だ」と反論した。

 

仏教徒が多数派のミャンマー(旧ビルマ)では2017年、イスラム系のロヒンギャに対し、軍が掃討作戦を実行。数千人が死亡、70万人以上が隣国バングラデシュへ逃亡した。

 

国際社会からは残虐行為との批判が上がり、矛先はノーベル平和賞受賞者のスーチー氏にも向けられている。

 

従来の主張をなぞる

スーチー氏は法廷で、多くのロヒンギャが暮らしていた西部ラカイン州の問題は、何世紀も前にさかのぼると指摘。

ミャンマー政府は、同州における過激派の脅威と戦っており、暴力行為は「内政上の武力衝突」だと主張した。

これは、同国のかねてからの立場を維持するもの。

 

スーチー氏はまた、武力衝突の発生は、ロヒンギャの武装勢力による政府治安部隊への攻撃がきっかけだと述べた。

 

虐殺、レイプの証言には一切触れず

一方、軍が過度の武力行使をした場合もあったかもしれないと認める場面もあった。

スーチー氏は、もし戦争犯罪に当たる行為があれば「兵士は訴追される」と述べた。

 

さらに、ラカイン州を離れた人々について、安全な帰還を実現すると宣言。裁判所に対し、紛争を悪化しかねない、いかなる行為も避けるよう強く求めた。

 

BBCのニック・ビーク・ミャンマー特派員によると、スーチー氏は、軍が民間人を銃撃の対象にしていたことを認めた。

 

しかし、ミャンマーは戦争犯罪人を法で裁くと主張。国が積極的に悪事を捜査しているのに、なぜそれを集団虐殺と呼べるのかと裁判所に問いかけた。

 

この日、スーチー氏はほんの一瞬、ビーク特派員がこれまで聞いたことのなかった自責の念を示した。ロヒンギャの名前は出さずに、バングラデシュに逃げた人々の「苦難」について語ったのだった。

 

それでも、前日に3時間にわたってスーチー氏が耳にした、集団殺害やレイプ、放火の証言については、ひとことの言及もなかった。

 

自由を奪った軍を擁護

かつて民主主義の象徴として国際的に称賛されたスーチー氏は、ロヒンギャに対する軍事作戦が始まる前の2016年4月から、ミャンマーの実質的な指導者をつとめている。

 

軍に対する直接の権限はもたない。しかし国連の調査団は、スーチー氏が掃討作戦に「共謀していた」とみている。

 

スーチー氏は今回、自分を長年にわたり自宅軟禁していた軍を擁護するため、法廷に立っている。

 

難民たちの受け止めは?

バングラデシュ・コックスバザール県のクトゥパロン難民キャンプでは、テレビで法廷の中継を見ていた難民たちから、「うそつき、うそつき、恥を知れ!」と大きな声が上がった。

 

「彼女はうそつきだ。とてつもないうそつきだ」。アブデュル・ラヒーム氏(52)は、コミュニティセンターでそう話した。

 

一方、ハーグの裁判所の近くでは、ロヒンギャ支援のデモ隊が、「アウンサンスーチー、恥を知れ!」と声を張り上げた。

 

スーチー氏とミャンマー政府を支持する約250人も裁判所前に参集。スーチー氏の顔と「あなたの味方だ」の文字が書かれたプラカードを掲げた。

 

呼びかけ人の1人で、現在はヨーロッパで暮らすビルマ国籍のフォフュタント氏は、「世界はアウンサンスーチー氏に対し、もっと辛抱強くあるべきだ」とBBCに語った。

 

「私たちは彼女を支持し、今も信じている。私たちの国に平和と繁栄をもたらし、このとても複雑な状況を解決できるのは彼女しかいない」

 

原告はアフリカの小国

この裁判では、イスラム教徒が多数を占める西アフリカの小国ガンビアが、多くのイスラム教国を代表して原告となっている。

 

同国のアブバカル・マリー・タンバドゥ司法長官兼法相は10日の法廷で、「ガンビアが求めているのは、ミャンマーに無意味な殺人を、我々の良心にショックを与え続けている残虐行為を、国民に対する集団虐殺を止めさせることだ」と話した。

 

タンバドゥ氏は10月、BBCの取材に対し、バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプを訪れ、殺人や強姦、拷問について話を聞き、原告になることを決めたと話している。

 

ミャンマーへの疑惑

2017年初め、ミャンマーには100万人のロヒンギャがいた。その大半は、西部ラカイン州に住んでいた。

しかしミャンマーはロヒンギャを不法移民と見なし、市民権を与えていない。

 

ロヒンギャは長い間迫害されていたが、2017年にはミャンマー軍がラカイン州で大規模な軍事作戦を開始した。

ガンビアがICJに提出した訴状によると、ミャンマー軍は2016年10月から2017年8月にかけ、ロヒンギャに対する「広範囲かつ組織的な一掃作戦」を実施したとされる。

 

この一掃作戦で、ミャンマー軍は大量殺人や強姦、「住民を閉じ込めた状態での」建物への放火などによって「ロヒンギャを集団として、全体あるいはその一部を破壊しようとした」とガンビアは主張している。

 

国連も証拠を入手

国連の事実調査団も数々の明白な証拠を見つけ、ラカイン州でのロヒンギャに対するジェノサイドについて、ミャンマー軍を調査すべきだとの結論に至った。

 

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は8月、ミャンマーの兵士が「女性や少年少女、男性、トランスジェンダーの人々に対し、強姦や集団強姦といった暴力的かつ強制的な性行為を繰り返し、組織的に行った」とする報告書を発表している。

 

5月には、ラカイン州イン・ディン村でロヒンギャの男性10人を殺害した件で有罪となった兵士7人が、すでに釈放されていたことが明らかになった。

 

ミャンマー当局は、軍事作戦はロヒンギャの武装勢力を標的にしたものだと主張。ミャンマー軍も内部調査で問題がなかったことを発表している。

 

虐殺認定には数年かかる見通し

ガンビアはICJに対し、ミャンマー国内外のロヒンギャを脅威や暴力から守る「一時的な措置」を講じるよう求めている。これは、承認されれば法的拘束力を持つ措置となる。

 

ミャンマーがジェノサイドを行ったという判決を出すには、ICJは同国がロヒンギャの「全体あるいは一部分を破壊しようと意図していた」ことを明らかにする必要がある。

 

ただ、この判決には強制力がなく、スーチー氏や軍高官らが自動的に逮捕され、起訴されるというわけではない。

しかし有罪が確定すれば国際的な制裁につながる可能性があり、ミャンマーの評判や経済に多大なダメージを与えることになる。

 

今回の審理は3日間にわたり、ロヒンギャ保護の一時的措置をICJが承認するかが焦点だ。ただ、ジェノサイドの認定には数年がかかるとみられている。

 

ロヒンギャの現在の状況は?

軍事作戦が始まって以降、数十万人のロヒンギャがミャンマーから逃亡している。

9月30日時点で、バングラデシュには91万5000人のロヒンギャ難民がいる。うち8割は2017年8〜12月に到着した人たちだという。

 

バングラデシュは今年3月、これ以上の難民は受け入れられないと発表。8月には自主帰国スキームを立ち上げたものの、これに応じた人はいないという。

 

また、ロヒンギャ難民10万人をベンガル湾の小さな島に移住させる計画も立ち上がったが、39の人道支援団体や人権団体などがこれに反対した。

 

9月には、BBCのジョナサン・ヘッド東南アジア特派員が、ロヒンギャ住んでいた村々が破壊され、警察の官舎や政府の建物、難民キャンプがつくられていることを突き止めている。【12月12日 BBC】

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【審理は和解を台無しにする・・・・ともスー・チー氏は主張 しかし、責任を明確にしないままの和解などあり得ない】

スー・チー氏は12日にも法廷に立ち、和解を台無しにする恐れがある」として、審理取りやめを求めています。

 

****スー・チー氏、ロヒンギャ裁判は「危機を再燃」 審理取りやめ求める****

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は12日、同国のイスラム系少数民族ロヒンギャへのジェノサイド(集団殺害)をめぐる国際司法裁判所の裁判で、審理を取りやめるよう求めた。スー・チー氏は、裁判によってロヒンギャ約75万人が避難を余儀なくされた危機が再燃すると警告した。

 

ノーベル平和賞受賞者でミャンマーの事実上の文民指導者であるスー・チー氏は、オランダ・ハーグのICJで開かれた3日間にわたる審理後の最終弁論で、西アフリカのガンビアがミャンマーを提訴したこの裁判を進めることは「和解を台無しにする」恐れがあると主張した。

 

スー・チー氏は平和が戻りつつある証拠として、2017年のロヒンギャに対する軍事行動で影響受けた地域で最近行われたサッカーの試合の写真まで提示した。しかし、同氏がかつて対立していた軍幹部らを擁護したことで、人権運動の象徴としての国際社会での名声は低下している。

 

スー・チー氏は6分間の短い弁論で、「壊れやすい信頼の土台を築き始めたばかりの社会に、疑念を生み、疑いを植え付け、あるいは怒りを生み出すことは、和解を台無しにする恐れがある」と主張。

 

「継続中の内部紛争を終結させることは(中略)わが国にとって最も重要だ。しかし2016〜2017年にラカイン州北部で起こった武力紛争の再燃を回避することも同様に重要だ」と述べた。【12月13日 AFP】

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しかし、70万人を超すロヒンギャ難民の今も帰還がかなわない事態を改善するためには、一体何が起きたのか、誰の責任かを明らかにしないままの「和解」はあり得ないでしょう。

 

【「正しいことをしたければ、偉くなれ」という戦略的対応?】

スー・チー氏に“好意的”な見方としては、“不本意ながらも”現在の政治情勢から軍を弁護している・・・という評価もあります。

 

****スーチーを世界中が猛批判! なぜ「人権派の象徴」は「軍部を守る政治家」に変わり果てたのか****

(中略)そもそもスーチーは、軍の支持なくしては、集団虐殺を認め、対策を講じようにもできない現実がある。現憲法によれば、連邦議会の議員数の25%(4分の1)が国軍にあてがわれているため、75%の議員による賛成が必要な憲法改正はほぼ実現できない。

憲法改正を実現し、現在の憲法が保障している軍部の支配を解かないことには、スーチーも彼女の率いる与党国民民主連盟(NLD)も、思うように政策を実現できない状態にある。まして、ロヒンギャを攻撃している軍部を非難して敵に回すようなことになれば、また軍政時代のような独裁国家になってしまう可能性も否定できないのだ。

筆者は2010年の民政移管後すぐにミャンマーに入り、最大都市ヤンゴンや首都ネピドーで取材をした。その印象から、スーチーの現在の姿は、もしかしたら長いスパンをかけた「芝居」なのではないかとの錯覚すら覚えることがある。

 

日本のテレビの警察ドラマで「正しいことをしたければ、偉くなれ」というセリフがあったが、まさにスーチーはそれを実現しようとしているのではないか、と。

国を支配するミャンマー軍から信頼を手に入れ、憲法改正を実現するべく議会75%の壁を破るまで軍部寄りの発言をし、じっと我慢する。それから満を辞して人権派たる自分の真の姿を解放し、正しいと思う変革を進める──。そんなことを妄想してしまう。

それくらい、スーチーの変節は驚くべきものだ。今回の裁判ではミャンマーの状況は何も変わらないだろうが、2020年の選挙ではスーチーが「本当の姿」を見せられるような結果になることを期待したい。【12月14日 COURRIER JAPON】

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【結局、ロヒンギャ嫌悪・軍部擁護がスー・チー氏の本心では?】

しかし、スー・チー氏の本音としても、国際批判とはかなり認識のズレがあるのではないか・・・・というのが個人的な印象です。

 

そうした印象を持つようになったきっかけは、軍の残虐行為を報道したため収監された2人の記者に対する彼女の“裏切り者”という言葉でした。

 

****スー・チー氏の選択:記者恩赦か沈黙維持か *****

スー・チー氏は収監された記者には「非同情的」

 

(中略)米国の前ニューメキシコ州知事で、今年1月までロヒンギャ危機でミャンマー政府を支援する国際諮問機関のメンバーだったビル・リチャードソン氏は、スー・チー氏が2人の記者の釈放を実現させるかは疑問だとの見方を示した。スー・チー氏は記者らが置かれた状況に非同情的だったという。

 

リチャードソン氏は、「わたしが直接彼女にこの問題を提起すると、彼女は怒り出し、興奮してわたしに黙るように言った」と述べ、「彼女はこれが国家機密法違反だと本当に信じているのだとわたしは理解した」と付け加えた。同氏によると、スー・チー氏は2人の記者のことを「裏切り者」と呼んでいたという。(後略)【2018年9月5日 WSJ】

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ミャンマー国内の政治状況の点からすれば、スー・チー氏の今回の国際法廷への出廷は、スー・チー氏及び与党にとってはプラスになるのでしょう。

 

少数民族武装勢力との和解でも憲法改正でも「成果」を出せない、経済背長は鈍るなかで物価上昇によって市民生活が困窮する・・・という現状から、スー・チー政権に対し、主に地方で失望が広がり、“ミャンマーでは2020年11月に総選挙が予定されている。4年前の選挙で大勝したのはアウンサンスーチー国家顧問率いる現政権党・国民民主連盟NLD)だが、最近は逆風にさらされている。”【11月30日 朝日】という政治状況にあります。

 

そのなかで“国内では、スーチー氏の出廷が高く支持されている。応援集会が連日開かれ、ICJの日程に合わせたハーグ行きのツアーに申し込みが殺到。スーチー氏が率いる与党・国民民主連盟は16年の政権奪取後、思うような成果を出せず国民には不満がたまっていたが、今回の件で挽回(ばんかい)につながる可能性もある。”【12月8日 朝日】とも。

 

単にそうした国内向けパフォーマンスのために法廷に立った訳でもないでしょうが。

 

おそらくスー・チー氏は、ロヒンギャを嫌悪する国内世論とその嫌悪感を共有しており、軍のロヒンギャ追放を基本的なところでは支持しているのでは・・・。(殺害・レイプ・放火してもいい・・・とは思っていないでしょうが)

 

(ミャンマー国民及び彼女にとって)“理不尽な”国際批判をかわすために多少の対応はあるにしても、この問題でスー・チー氏に多くは期待していません。

 

 

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フィンランド  特別なことではない34歳の女性首相誕生 一方では、反移民・人種差別的流れも

2019-12-13 23:12:32 | 欧州情勢

(【12月11日 Newsweek】34歳マリン首相(中央)が率いる新内閣 女性12人・男性7人、平均年齢47歳)

 

【「フィンランド国内ではもはや「若さ・女性」という点は珍しくありません」(駐日フィンランド大使館

先日北欧・フィンランドで34歳の女性首相が誕生したということで話題にもなりました。

 

*****フィンランド首相にサンナ・マリン氏、34歳 同国史上最年少****

フィンランドの社会民主党は8日、先週辞任したアンティ・リンネ前首相の後任を決める投票を行い、元運輸・通信相のサンナ・マリン氏が当選した。同国史上で最年少の首相となる。

 

リンネ氏は3日、郵政改革案を受けて繰り広げられた大規模なストライキへの対応をめぐり、連立与党の中央党から不信任を突きつけられ辞任した。

 

わずかな差で勝利したマリン氏は8日夜、報道陣から年齢に関する質問を受け、「信頼を取り戻すためにすることが山ほどある」とし、「自分の年齢や性別について考えたことはない。私が政界入りした理由と、私たちが有権者の信頼を勝ち取った事柄について考えている」と述べた。

 

マリン氏はまた、ウクライナのオレクシー・ホンチャルク首相を抜き、世界最年少の国家指導者となった。 【12月9日 AFP】

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日本的感覚では“34歳の女性首相”というのは驚きですが、地元フィンランドでは、あくまでも実力・才能ある人たまたま34歳の彼女だったということであり、特別のことではないという認識のようです。

 

内閣全体についても“女性12人・男性7人、平均年齢47歳”ということで、日本に比べると・・・・比べたくもないですね。

 

そもそも、連立を組む4党はいずれも女性党首ということですから・・・・。

 

****フィンランドで「世界最年少34歳の女性首相」が誕生…それでも“若さ”と“女性”が注目されないワケ****

(中略)フィンランドでは3人目の女性首相ということだが、現職で世界最年少の首相となったのだ。

そして、女性12人・男性7人、平均年齢47歳という新内閣が発足。

 

このニュースにSNSでは「素晴らしいですね」「日本ではなかなか考えられない事だなあ」という反応が続々寄せられているが、駐日フィンランド大使館の公式Twitterアカウント(@FinEmbTokyo)からは「女性大臣が12人というのは、10年以上前にもあったし、前内閣も11人だったからそんなに驚きではないかも」というコメントが発信された。

 

一見「世界最年少の女性首相」の誕生はまさに“女性活躍推進”“の最先端であり、驚きの顔ぶれといった感覚があるが、駐日フィンランド大使館に、マリン氏の経歴や、新内閣の顔ぶれが「驚きではない」理由について、お話を伺った。

 

自身の生い立ちから「社会支援と平等」を重視

――マリン氏の経歴について教えて?

マリン氏は1985年11月16日ヘルシンキ生まれ・タンペレ市在住。2018年に生まれた娘と夫の3人暮らしで、タンペレ大学で行政学の修士を取得しています。

2006年より積極的に政治活動に参加(フィンランドでは10代から青年組織を通して政治に関わっていきます)

2012年…タンペレ市議

2013年〜2017年…タンペレ市議長

2017年〜2021年…タンペレ市議

2014年 〜2017年…社会民主党、第2副党首

2015年…初出馬で国会議員に当選(フィンランドでは市議と国会議員を兼任できます)

2017年〜 社会民主党、第1副党首

2019年6月〜2019年12月…交通・通信大臣

2019年12月〜…首相

 

特筆すべき点は、フィンランド最年少(世界でも最年少)で首相になったことと、いわゆるレインボーファミリーで育ったこと(実母とその同性パートナーに育てられたこと)です。

 

駐日フィンランド大使館によると、マリン氏は親のアルコール依存と離婚、貧困を経験し、その後母親とその女性パートナーと生活。

 

義務教育では成績は振るわなかったというが、高校時代に改善。自治体の施設に自分の居場所や仲間を見つけ、その後様々なアルバイトを経て家族初の大学生となり、政治の道へ進んだのだという。

 

歴代の首相に比べて特筆すべき点について挙がったのは、最年少の首相であることと「レインボーファミリー」で育ったこと。

 

マリン氏はこのような家庭環境の中で、「福祉制度と教師が救ってくれた」と語り、社会支援の重要性・平等の大切さを身をもって感じた経験から政治家になったのだという。

 

ただ、2015年に初当選し、わずか4年で首相にまでのぼりつめるのは日本の政界と比べるとやはり驚きだ。

 

「若さ」と「女性であること」は珍しくない

――「最年少」かつ「女性」というポイントが注目されていますが?

 

お伝えしておきたいのは、「世界最年少・女性」というポイントはフィンランドをのぞく世界で注目を浴びていますが、フィンランド国内ではもはや「若さ・女性」という点は珍しくありません。

 

このニュースに対するフィンランド国民の受け止め方としては「年齢や性別に関係なく、スキルや才能が重視されて、その立場にふさわしい人がきちんと着任できて力を発揮できる自国のシステムを誇らしく思っている」というところでしょうか。

 

なので別に「若い女性」だけに限った話ではなく、年齢や性別に関係なく能力を発揮できる社会になっているのがフィンランドです。

 

――では、フィンランドでは「女性活躍」が進んでいるというわけではなく…

 

フィンランドは男女平等が進んでいる国として知られ、世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2018」ではフィンランドは4位でした。

 

世界で初となる1906年に女性に選挙権と被選挙権を認めた国であり、1907年に当選した女性国会議員は19名、その中から初の女性大臣(ミーナ・シッランパー氏)も誕生しています。

 

また、タルヤ・ハロネン氏が2000年にフィンランド初の女性大統領として就任し、計12年、2期にわたって国の頂点にいたことも大きいのではないでしょうか。

 

現在30代の女性政治家は、政治活動を始めたり、政治に関心を持ちはじめるティーンエイジャーの頃に、このハロネン大統領が世界で活躍していました。

 

そうした姿を見ている女性たちにとっては、女性が政界でも活躍するのは当たり前のことだったのではないかと思います。

 

国会議員数で見れば、現在は200議席のうち92名(46%)が女性になっています。女性議員が増えれば、当然女性にまつわる権利向上・法律施行が増えていきます。

 

女性議員の数は第二次世界大戦後に伸びはじめ、1960年代に急速に増え出しました。1970年には20%を超え、1983年に30%を突破、2007年には40%以上になりました。ちなみに、1980年代生まれの国会議員は25%。なかには90年代生まれの議員もいます。

 

女性大臣の数が男性大臣の数を初めて上回ったのは、2007年の第二次ヴァンハネン内閣になります。

 

先日、大使館内でフィンランド人研修生の女性が「平等っていうのは、何も男女が半々になることじゃない。平等に機会が与えられる、という意味で、機会均等のもと成長できる能力ある者が出世していく。(連立政権を組む他4政党の党首全員が女性、そのうち3名が30代前半なのを受けて)今回の結果は、実力・才能ある人たちがたまたま彼女たちだった、というだけの話」と言っていたことが、今の状況を上手く表現できているように思います。

 

大使館によると、「年齢」と「性別」はフィンランド国内では大きく注目されているポイントではないという。

 

改めて、フィンランドで発足した新内閣は女性12人・男性7人、平均年齢47歳となっているが、日本の安倍内閣は、9月の改造を受け平均年齢は61歳。最年少は小泉進次郎環境大臣(38)であり、女性閣僚は現在19人中3人(改造当時は2人だったが、その後辞任した大臣の後任で1人増)となっている。

 

日本から見ると「女性を積極的に登用している」と見えるかもしれないが、男女平等が進むフィンランドでは、女性の政界進出の早さから育った、女性が当たり前に政治の世界で活躍する土壌、そしてそれを背景にした性別や年齢にとらわれずスキルや才能が重視される価値観があるということだった。

 

今回、世界に驚きを与えたマリン氏の首相就任。

一方で、このニュースを見て年齢や性別に衝撃を受けたということは、まだまだ真の意味での男女平等に遠いのではないか、とも思える。

 

今後日本で「女性活躍」を推進していく中で、この若き女性首相が生まれた背景に「年齢や性別に関係なく能力を発揮できる社会」があることを心に留めておきたい。【12月13日 FNN PRIME】

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同じ北欧デンマークでも、似たようなケースがありました。

 

****デンマークで41歳女性首相就任 中道左派へ政権交代****

デンマークで27日、社会民主党の女性のメッテ・フレデリクセン党首(41)が首相に就任した。デンマーク史上最も若い首相となる。

 

女性としては2人目。同日、発足した新内閣では全閣僚20人のうち7人が女性となった。

 

5日に投開票された総選挙で社民党(中道左派)は同派陣営の他政党から閣外協力の合意を得て第1党となり、ラスムセン前首相率いる自由党(中道右派)から約4年ぶりに政権を奪還していた。(中略)

 

社民党は野党時代から「反移民」の政策を掲げている。デンマークでは、高齢化の進行に伴う財政負担が重荷となり、近年は緊縮財政を敢行。

 

その影響で福祉サービスが低下する一方、中東などからの就業率の低い移民が税金を払わず福祉に頼っているとの批判が国民の間で広がっている。

 

社民党は過去に欧米諸国以外からの移民受け入れ制限を提案しており、国民の支持を集めていた。

 

ただ、社民党に閣外協力する他政党は移民に寛容な姿勢を示しており、反移民の姿勢は緩和される見通しだ。【6月28日 産経】

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【反移民政党の台頭、ネット上では人種差別が日常化という現実も】

こうした女性の社会参加といった面では北欧は先進的なイメージがあり、実際参考にすべき点が多々ありますが、上記デンマーク記事にも触れられているように、移民受け入れに関しては、必ずしも“受入れに寛大なリベラル”という訳でもありません。

 

デンマークで中道左派・社民党が政権を奪取したしたのも、移民制限を掲げて左派が右傾化した結果とも評されています。

 

フィンランドも西欧諸国の中では外国生まれの居住者の割合が最も少なく、反移民感情も強い国です。

4月の総選挙でも、反移民政党が1議席差で第2党となっています。

 

****野党勝利、政権交代へ=反移民政党が第2党―フィンランド総選挙****

フィンランドで(4月)14日、任期満了に伴う議会(一院制、定数200)選挙の投開票が行われ、中道左派の野党・社会民主党(SDP)が第1党、反移民を唱える欧州連合(EU)懐疑派のフィン人党が第2党となった。

 

政権交代となる見通しだ。両党の差はわずか1議席で、SDPにとって「紙一重」(AFP通信)の勝利だった。

 

ヘルシンキからの報道によると、SDPが得票率17.7%で40議席、フィン人党は同17.5%で39議席を獲得。フィン人党の改選前議席は17で、一気に倍以上に増やした。(後略)【4月15日 時事】

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社会的にも、人種差別的言動が見られます。移民や難民が、高い税金で支えられる「高福祉」に“ただ乗り”しているという不公平感が根底にあるものとみられます。

 

****フィンランド、ネット上の人種差別が日常化 政治にも反映 EU報告書****

欧州評議会は10日、フィンランドのインターネット環境には人種差別や特定の人々を標的にした暴言が「当たり前のように」存在し、それらが政治的な言論の場で増加傾向にあると警告した。

 

フィンランドは幸福度、男女平等、生活の質といった面で国際ランキングのトップに立つことが多い。だが、西欧諸国の中では外国生まれの居住者の割合が全人口の6.6%と最も少なく、反移民感情もはびこっている。

 

過去2回の総選挙では、強硬な反移民政策を基盤にした公約を掲げた極右フィン人党が、国内第2の政党に躍進した。

 

欧州評議会の「人種主義と不寛容に反対する欧州委員会」が発表した報告書は、「人種差別や不寛容なヘイトスピーチがエスカレートしている。主な標的となっているのは、難民申請者とイスラム教徒だ」と指摘した。

 

さらに報告書の著者は、オンライン上には「反移民的な言辞や、アフリカ系住民、LGBT(性的少数者)、ユダヤ教徒のコミュニティーを標的にした人種差別的、排外主義的な表現、ロマ人に関する暴言が当たり前のように投稿されている」とも指摘した。

 

昨年、欧州基本権庁は、フィンランド在住のアフリカ系住民が、調査対象となった他のEU12か国に比べて最も頻繁に人種に基づいた差別や暴力の標的になっていることを明らかにした。

 

フィンランド当局は2017年に1165件の憎悪犯罪を記録した。しかしECRIの報告書は、収集されたデータが十分でないため、毎年のデータ比較も正確にできないと批判している。それでも市民団体の調査によると2015年以降、憎悪犯罪は増加傾向にある。

 

フィンランドでは警察が人種や民族に基づいてプロファイリング(犯人像推定)を行うことは2015年に非合法化されたが、ECRIによると現在も警察のそうした活動は珍しくない。

 

また警察官の人種構成は、フィィンランド人口を構成するさまざまな人種を反映しておらず多様性に欠くとも、ECRIは批判している。 【9月11日 AFP】

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「年齢や性別に関係なく能力を発揮できる社会」から誕生した「世界最年少34歳の女性首相」が、人種・宗教の差別にどのように対応するのか、関心がもたれます。

 

****世界最年少の女性首相 フィンランドのマリーン氏、欧州外交デビュー 女性連立政権率いる****

12、13日の欧州連合(EU)首脳会議では、現職で世界最年少首相として10日に就任したフィンランドのサンナ・マリーン首相(34)がEU議長国の首脳として出席し、欧州外交にデビューした。

 

マリーン氏は12日、黒いスーツ姿で会場入り。記者団に温暖化対策への意気込みを語り、「子供たちの将来がかかっている」と訴えた。

 

同氏の社会民主党と連立を組む4党はいずれも女性党首で、「女性5人が率いる政府で、私は首相としてリードします。連立政権の方針に大きな変化はない」と述べた。5人のうち同氏を含め4人が30代、1人は50代という布陣だ。

 

マリーン氏は地方議員から4年前、国会議員に転身。今年6月に運輸・通信相となり、ストの混乱で辞任したリンネ前首相の後任に選ばれた。両親は幼少時に離婚。母親と同性パートナーに育てられた。現在は、実業家の夫との間に1歳の娘がいる。女性首相はフィンランドで3人目。【12月13日 産経】

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アメリカ イスラエルに対するボイコット運動を取り締まる大統領令 イスラエル批判は反ユダヤ主義?

2019-12-12 22:55:52 | アメリカ

(米ニュージャージー州ジャージーシティーで、銃撃が起きたユダヤ人向け食品店で行われる解体・復旧作業(2019年12月11日撮影)【12月12日 AFP】)

 

【「私ほどイスラエルにとって友好的な大統領はいない」】

アメリカ・トランプ大統領が、エルサレムの首都容認、ヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植活動の容認など、従来のアメリカの対イスラエル政策を大きく転換してイスラエル寄りの姿勢を鮮明に打ち出していることは周知のところです。

 

結果的にパレスチナ問題の枠組みであった「2国家共存」も困難となり、パレスチナ問題はこれまで以上に出口が見えない状況ともなっています。

 

まあ、これまでも「出口」は殆ど見えていなかったので、トランプ大統領としては、イスラエル総選挙後に「世紀の取引」を発表して新たな「出口」を作り出すことで、状況の劇的転換を図るつもり・・・・なのかもしれませんが。

 

****「2国家共存」案さらに困難に 米がイスラエルの西岸入植容認 パレスチナ反発****

パレスチナ自治区・ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地の建設について、トランプ米政権が国際法に違反しないとの立場を示したことで、国際社会が支持するイスラエルとパレスチナの「2国家共存」案はいっそう実現が困難となる見通しだ。

 

イスラエル寄りの政策を相次いで打ち出すトランプ政権に対し、欧州などは批判を強めるとみられる。

 

「米国にはイスラエルの入植地に正当性を与える権限などない」。パレスチナ自治政府トップ、アッバス議長の報道官はこうトランプ政権を批判した。

 

西岸は1967年の第3次中東戦争でイスラエルがヨルダンから占領した。ヨルダンはその後、領有権を放棄。現在は将来のパレスチナ国家の領土に想定され、約290万人のパレスチナ人が住む。

 

米政権は、自治政府とイスラエルの和平協議を促すためとして、パレスチナ支援を担う国連機関への拠出金の停止を表明するなどしてきたが、実質的には2国家共存案を葬る動きとも指摘されてきた。今回の「入植容認」でパレスチナ側の反発を強め、和平協議再開が遠のくのは間違いない。

 

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は、今回の動きで「歴史的な誤り」が正されたと称賛した。ネタニヤフ氏が率いる右派・宗教勢力の支持層には、西岸を「神に与えられた土地」だと考える入植者も多い。

 

西岸には120ほどの入植地が点在し、約40万人のユダヤ人が居住。国際社会は、入植活動は占領地の地位変更を禁じるウィーン条約違反だとみなしている。

 

ネタニヤフ氏は9月の総選挙後、連立協議に失敗。汚職疑惑もくすぶる。そんな中での米政権による「入植容認」は、同氏への援護射撃の意味合いがあるとみられるが、ライバルであるガンツ元参謀総長による連立協議が続く中での米国の“介入”で、イスラエル政治がいっそう不透明となる可能性もある。【11月19日 産経】

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【在米ユダヤ人社会 トランプ大統領は反ユダヤ主義】

こうしたイスラエル寄り政策を連発することで、アメリカのユダヤ人社会はさぞやトランプ支持に傾いているであろう・・・とも考えてしまうのですが、基本的にユダヤ人票はこれまでリベラルな民主党支持の傾向が強く、トランプ大統領の一連のイスラエル寄り政策にもかかわらず、むしろ反トランプの動きが強まっているとも。

 

****トランプは反ユダヤ主義だ、ユダヤ系アメリカ人が反発、支持率も半減****

トランプはユダヤ系アメリカ人よりイスラエル右派の味方なのか?

<ユダヤ系アメリカ人は、トランプと共和党には根深い白人ナショナリズムがあり、それが反ユダヤ主義や人種差別につながっていると見ている>

 

12月7日に開催されたアメリカに帰化したイスラエル人団体の年次総会で、ドナルド・トランプ米大統領が行った演説が物議を醸している。在米ユダヤ人グループはトランプの発言を「反ユダヤ主義」と厳しく非難した。

 

トランプ大統領は演説の中で、「イスラエルを十分に愛していない」ユダヤ系アメリカ人がいる、と述べ、「私ほどイスラエルにとって友好的な大統領はいない」と訴えた。

 

さらに「ユダヤ人の多くが不動産ビジネスに携わっている。私はよく知っている」と言い、「ユダヤ人はたいへんな遣り手だ。いい人たちとはいえないが、あなたがたは私に投票しなければならない。選択肢はない」と述べた。

 

ユダヤ系アメリカ人グループは、このコメントは「反ユダヤ主義的」で、「致命的な結果」を招く可能性がある、と本誌に語った。

 

トランプの発言は本質的に「ユダヤ系アメリカ人は必ずイスラエルとその右派の政策を支持しなければならない」ことを意味し、それはアメリカをはじめ世界各国に住むユダヤ人を攻撃するために使われる「ユダヤ人の忠誠心はアメリカよりイスラエルにある」という偏見を助長するもの、という声もある。

 

共和党の反ユダヤ主義

「トランプ大統領の発言は常軌を逸しており、いくつもの反ユダヤ感情を刺激する。彼の演説は、米共和党内の反ユダヤ主義の根深さを露呈している」と、進歩的なユダヤ系アメリカ人活動組織「イフノットナウ」の政治ディレクター、エミリー・メイヤーは言う。

 

「こうした表現は致命的な結果をもたらす可能性がある。ユダヤ人として、私たちは共和党内部に存在するこうしたあからさまな白人ナショナリズムと反ユダヤ主義を否定するよう求める」

 

やはり進歩的なユダヤ系アメリカ人組織「平和のためのユダヤ人の声」の共同ディレクター、アリス・ワイズも同様の心情を訴えた。

 

「トランプ大統領は、反ユダヤ主義的な表現を使わずにユダヤ人に語りかけることができない。イスラエルに批判的で、人種差別に反対する大統領候補を積極的に支持するユダヤ系アメリカ人は増えている」と、ワイズは言い、トランプは「あくどいユダヤ人というステレオタイプを使った」と付け加えた。

 

全米ユダヤ民主評議会のヘイリー・ソイファー事務局長は、本誌宛ての電子メールでトランプの発言を「非常に不快」で「非良心的」だと評した。

 

「反ユダヤ的なステレオタイプのイメージを持ち出して、『ユダヤ人は金で動き、イスラエルに忠誠を尽くしていない』と決めつける卑劣で偏狭な大統領の発言を、私たちは強く非難する。トランプはずうずうしくも、ユダヤ人には自分を支持する以外の「選択肢」がないとまで言った」と、ソイファーは述べた。

 

トランプが大統領に就任して以来、在米ユダヤ人の間で共和党への支持が大幅に低下していることもソイファーは指摘した。「トランプ大統領の政策と発言は、ユダヤ人の価値観と相容れないため、2014年には33%だったユダヤ人の共和党への支持率が、18年には17%に低下した」

 

親イスラエルのリベラル派アメリカ人グループ「Jストリート」も、トランプの発言には批判的だ。「合衆国大統領は、ユダヤ人の聴衆に語り掛けるにあたって、自分の頭の中ある反ユダヤ主義に凝り固まった言葉しか使えない」と、ツイッターで非難した。(中略)

 

トランプは今年8月にも、トランプは民主党に投票する在米ユダヤ人は「無知か、忠誠心が完全に欠落している」と述べ、非難の的になった。【12月9日 Newsweek】

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反ユダヤ主義はキリスト教社会に根深い問題で、トランプ大統領が先導した形にもなっているポリティカルコレクトネスを軽視する社会風潮のなかで、アメリカだけでなく欧州でもしばしば問題になります。

 

“ユダヤ人墓地にかぎ十字など、落書き100基以上 フランス”【12月4日 AFP】

“フランス全体でも反ユダヤ主義的な犯罪に関する通報は急増しており、2018年には前年比で74%増加した”とも。

 

アメリカ・ニュージャージー州で起きた事件も。

 

****米銃撃、標的はユダヤ食品店 地元市長が発表****

米ニューヨーク郊外のニュージャージー州ジャージーシティーで発生し、6人が死亡した銃撃戦をめぐり、地元市長は11日、犯人らがユダヤ教の戒律に従った「コーシャー」食品を扱う店を標的としていたことを認め、事件は反ユダヤ主義に基づいたものだったとの見解を示した。

 

10日に起きた事件では、ライフルで武装した2人組が食料品店に乱入し、買い物客2人、店員1人と警官1人を殺害。犯人らはその後、警官の銃撃を受け死亡した。

 

ジャージーシティーのスティーブン・フロップ市長は、犯行動機の解明はまだ困難だとしつつも、防犯カメラ映像の分析結果からは、犯人らがこの店に狙いを定めていたことが示されたと説明した。

 

米紙ニューヨーク・タイムズが匿名の情報筋の話として伝えたところによると、銃撃犯のうち1人は犯行に先立ち、ユダヤ人と警察に対する反感を示す声明をオンライン上に公開していた。

 

また、捜査当局は犯人らのワゴン車から手製爆弾1個と短いメモを発見したとも伝えられている。メモには犯行理由が明確に示されてはいないものの、米NBCニュースは宗教関連の内容だったと報じている。 【12月12日 AFP】

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部外者にとってはトランプ大統領と反ユダヤ主義を直接結び付けるのはイメージ的に難しいところがありますが、トランプ大統領と白人ナショナリズム、白人ナショナリズムと反ユダヤ主義・・・という形で考えると、トランプ大統領と反ユダヤ主義を結ぶ線も見えてきます。

 

【イスラエルに対するボイコット運動の取り締まりを可能とする大統領令】

一方、「私ほどイスラエルにとって友好的な大統領はいない」「民主党に投票する在米ユダヤ人は無知か、忠誠心が完全に欠落している」とするトランプ大統領は、先述のような「トランプは反ユダヤ主義だ」との在米ユダヤ人社会からの批判を意識したのかしていないのか・・・「反ユダヤ主義」取り締まりの旗振り役を買って出たようです。

 

ただ、「反ユダヤ主義」取り締まりではなく、イスラエル批判の取り締まりのようにも見えるのですが・・・。

 

****トランプ氏、ユダヤ教を国籍と認める大統領令に署名 ボイコット運動に対抗****

米国のドナルド・トランプ大統領は11日、ユダヤ教を宗教としてだけでなく、国籍として再定義するとした大統領令に署名した。イスラエルに対するボイコット運動の取り締まりを可能とする動きとなる。

 

トランプ氏は、ホワイトハウスのイーストルームで行われたユダヤ教の祭日「ハヌカ」を祝福する式典で「私はわが国の大事な友人であり、同盟国であるイスラエル国家をいつでも支持する」と述べた。

 

米史上最も親イスラエル派の大統領を自負するトランプ氏は、来年の米大統領選に先駆け、従来は民主党支持層である国内ユダヤ教徒を取り込むための確固たる努力を強化するため、毎年恒例の行事を利用した。

 

この大統領令は学術的な変更に見えるが、大学キャンパスで広がっている、イスラエルに対する制裁を呼び掛ける運動を政府が取り締まることを可能にする重要な法的効力を持つ。

 

米国の大学では、イスラエル政府によるパレスチナ人への対応に抗議するBDS(ボイコット、投資引き揚げ、制裁)運動が拡大している。今回の大統領令は明らかにこの運動の鎮圧を目指すもので、大学側にそうした運動を阻止させるか、さもなくば政府の補助金を削減することができる。

 

トランプ氏は、大統領令は「反ユダヤ主義に対抗する」もので、「反ユダヤ主義のヘイトに関わっている機関に適用される」と説明。

 

さらに「大学へのメッセージ」として、「多額の連邦資金を毎年受け取りたいのなら、反ユダヤ運動を拒否しなければならない」と述べた。 【12月12日 AFP】AFPBB News

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近年、一部大学生の間で、イスラエルのパレスチナ政策を批判しパレスチナを支援する「ボイコット、投資引き揚げ、制裁(BDS)運動」への支持が広がっていることがあり、学生などをそうした「反ユダヤ主義的な差別」から守ることを主旨とする大統領令だとか。

 

BDS運動について上記以外の情報を知らないせいか、全く理解しがたい大統領令に思えます。

 

トランプ大領こそが反ユダヤ主義だかどうかは別にして、ユダヤ人を差別する反ユダヤ主義がよくない・・・というのは当然のことです。

 

ただ、そうした反ユダヤ主義と、国家としてのイスラエルに対する批判、結果としてのボイコットなどは別物でしょう。

 

イスラエルを批判し、パレスチナ人を支援すると反ユダヤ主義になる・・・・と言っているようにも思えてしまいます。

 

そんな子供でもわかる混乱を大統領令が犯しているはずもないのですが・・・・よく理解できません。

 

“BDS運動は米議会の与野党議員が批判し、多くの州がBDS運動を規制する措置を講じている”【12月12日 ロイター】とのことですので、今回の大統領令に限った話でもないようです。

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