孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  「ゼロコロナ」政策のもとで感染者増加 上海でも 900万人都市長春ロックダウン

2022-03-12 23:12:23 | 中国
(ロックダウンが始まった長春市で営業を止めた市場を歩く人々(11日、AP)【3月11日 読売】)

【長引く「ゼロコロナ」で社会・経済に疲れも】
日本では新型コロナ感染が減少傾向にあること、ウクライナへのロシア軍侵攻という大きな問題が生じたことで、まだまだ感染状況は従前に比べると高い水準にあるものの、何となく新型コロナへの関心も以前ほどではなくなったような・・・。

TVのニュースでも、ウクライナ問題などが先に報じられ、新型コロナ関連は3番目、4番目の話題・・・といった扱い。

ある程度の感染があっても、大騒ぎしたりない、社会・経済活動を止めない・・・といった「ウィズコロナ」の方向に向かいつつあるようにも見えます。(欧米に比べたら、その割り切りが遅いのもまた、いかにも日本的ですが)

一方で、中国は、徹底した検査・隔離・封じ込め策でわずかの感染も許さないという「ゼロコロナ」政策が続いています。

そのおかげで他国と比べると極めて少ない感染にとどまっていますが、さすがに人々にも、経済にも、長期間続く徹底した「ゼロコロナ」政策による疲れの色も見えます。

****中国「ゼロコロナ」政策 感染拡大めぐる摘発に反発の声****
いわゆる「ゼロコロナ」政策を続けている中国で、新型コロナウイルスの感染拡大を引き起こしたとして、トラックの運転手2人が摘発され、市民から「厳しすぎる」などと反発の声があがっています。

中国・遼寧省では今月、新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、地元警察は15日、感染拡大を引き起こしたとしてトラックの運転手2人を摘発したと発表しました。

また、中国メディアによりますと、天津市でも新型コロナの感染地域から戻ったことを当局に報告せず隔離義務を怠ったなどとして、1人が立件されるなど新型コロナをめぐる市民の摘発が相次いでいます。

こうした中で、ネット上では「運転手たちにも生活がある」といった同情の声や、「見せしめだ」「ここまでやる必要があるのか」などと厳しすぎるゼロコロナ政策への不満の声がくすぶっています。【2月17日 日テレNEWS24】
********************

****長期化する中国のゼロコロナ政策****
中国のゼロコロナ政策は、国内外の感染収束まで長期化するとみられる。この結果、2022年の中国経済は+4%台の低成長となる見込みである。需要の下振れに加え、供給制約リスクも警戒する必要がある。

■ゼロコロナ政策は国内外のコロナ終息まで長期化へ
中国では、わずかな感染も許さない「ゼロコロナ政策」が続いている。

広西チワン自治区の百色市では2月7日、約360万人の全市民がPCR検査と自宅隔離を命じられたほか、不要不急の企業活動、学校や公共交通機関の停止、幹線道路の閉鎖といった事実上の都市封鎖が行われた。遼寧省葫芦島市も感染が拡大し、大規模な検査や厳しい外出制限が実施された。

このような中国の感染対策は世界基準と一線を画す。他国は総じて活動制限を緩和しつつあり、その背景として、オミクロン株による入院率や重症化率、死亡率が、従来株と比べて低く、厳しい活動制限のメリットが小さくなったことが指摘できる。

一方、デメリットは増している。オミクロン株の感染力は高いため、政府が厳格な感染対策に固執すると高頻度で都市封鎖を余儀なくされ、国民に大きな負担を強いる。

情報が統制される中国では、国民がこうしたウイルスの変容を必ずしも理解していないとみられるほか、オミクロン株に有効なワクチンや飲み薬の開発・普及が進んでいないことも、こうした中国の感染対策の背景にあると考えられる。

中国でも、一部の有識者がメリットとデメリットを考慮した政策見直しを提案しているが、見直しの機運は高まっていない。

中国国営メディアは、世界各国の死者数の多さを指摘するほか、オミクロン株に続く変異株を警戒するよう呼びかけるなど、ゼロコロナ政策の必要性を引き続き主張している。

国家衛生健康委員会は、1月22日の記者会見で「ごくわずかな人の正常な活動を犠牲にする代わりに、広大な地域の生産・生活を維持することは費用対効果が高い」という政府の判断を説明した。

また、春節明けに香港で感染が拡大したことを受け、中国共産党の機関誌である人民日報は2月7日に「新型コロナとの共生は誤り」と香港の感染対策を強く批判し、中国政府は香港に検査要員を送り込むなど関与を強めている。

こうした状況を踏まえると、中国のゼロコロナ政策は国内外で新型コロナの流行が明確に収束するまで長期化すると考えられる。

近いうちに国内外でオミクロン株の流行が収束したとしても、年内に新たな変異株が出現し、感染が再拡大する可能性は高い。その際、世界各国は新たな変異株に対して厳しい活動制限を見送り、ウィズコロナ路線をとる一方、中国は感染が発生した地域で厳しい活動制限を実施すると見込まれる。

少なくとも習近平総書記の去就を含め、指導部の人事が決まる秋の党大会まで、ゼロコロナ政策を続けることで、感染の拡大と死者数の増加を回避することを最優先すると考えられる。(中略)

■供給面でも世界経済の大きなリスクに
世界経済にとって、中国でゼロコロナ政策が続くことは、中国工場の稼働停止リスクが残ることを意味する。中国における工場稼働停止は、2020年前半を中心に世界的なサプライチェーンの寸断をもたらし、各国の製造業に大きな影響を与えた。

例えば、自動車部品の輸出が滞ったことにより、日本や韓国、欧州の自動車メーカーが生産停止を余儀なくされた。スマートフォンやワイヤレスイアホンなどIT製品においても、中国で委託生産を行うグローバル企業の出荷が遅延した。マスクなど医療用品の輸出が滞ったことも世界的な混乱を招いた。

また、中国の港湾都市で感染が発生した場合の影響も大きい。中国の海運取扱量は世界1位である。2021年後半にかけて、世界の財需要は急回復したものの、中国の感染対策による港湾の処理能力の低下が、足元にかけて各国の海運業界や卸小売業、製造業に大きな打撃を与えている。

中国のゼロコロナ政策の長期化が見込まれるなか、中国における需要の下振れに加え、こうした世界を巻き込む供給制約リスクにも警戒する必要があろう。【2月28日 関辰一氏 日本総研】
********************

政権内部に「見直し」の議論がない訳でもありません。

****中国「ゼロコロナ」政策 軌道修正はかる可能性言及****
中国の習近平指導部が推し進めてきた新型コロナウイルスの完全封じ込めをめざす「ゼロコロナ」政策について、政府の専門家が軌道修正をはかる可能性に言及しました。

中国メディアによりますと、「中国疾病予防管理センター」の首席疫学専門家の呉尊友氏は、15日、新型コロナに関するフォーラムに出席し、「中国は現在、これまでのコロナ対策を継続して堅持するか、従来の対策をさらに改善するか2つの選択肢に直面している。」と述べました。

また「これまでの対策を堅持すれば民間企業などは大きな影響を受ける」とした上で、「現在、専門家たちは、これまでのコロナ対策をさらに改善することができるかを研究している」と明らかにしました。

その上で新たな戦略は、これまでのゼロコロナ政策とも欧米各国のウィズコロナ政策とも異なるとの認識を示し、「国民、生命第一を実現すると同時に、通常の国際交流と経済発展を保証する」としています。

中国のゼロコロナ政策をめぐっては、経済や市民生活への深刻な影響を指摘する声が増えており、今後、軌道修正をはかる動きが出てくる可能性もあります。【2月18日 日テレNEWS24】
********************

しかし、習近平指導部はおそらく、少なくとも秋の党大会までは今の政策で突き進む考えのようです。

*********************
中国でも方針転換を訴える意見はあるが、李克強首相は3月11日の記者会見で、ゼロコロナ政策に関し「人民の命や健康、正常な生産や生活秩序、サプライチェーン(供給網)の安全を守っている」と主張。

見直しについて「時を移さず変化に対応し、次第に物流や人の流れを秩序正しく再開させる」と述べたものの、具体策には触れなかった。【3月12日 産経】
*******************

【感染拡大で危ぶまれる「ゼロコロナ」】
もっとも、“今の政策で突き進む考え”というのは、“それが可能なら”ということで、現在、再び感染が各地で増え始めており、これまでと同じ対応が可能なのか・・・疑問もあります。

****上海市、無症状感染者が増加 対策強化****
中国上海市は、新型コロナウイルスの無症状感染者が増えていることを受けて、コンサートや展示会の延期・中止、公共施設の閉鎖といった措置に踏み切っている。

上海市が9日に報告した8日の無症状の市中感染者は62人と、7日連続で増加。同日には症状のある市中感染者も3人報告された。

感染者65人のうち64人は、感染者への濃厚接触者として隔離されている間に感染が判明した。

上海市は一律の移動制限やロックダウン(都市封鎖)は導入していない。

中国政府は「ゼロコロナ」政策を継続しているが、地方政府に対し、日常生活への影響を最小限に抑えた感染防止対策を導入するよう指示している。

中国本土の8日の症状のある市中感染者は233人、無症状の市中感染者は322人。40都市以上で市中感染が確認された。【3月9日 ロイター】
********************

さすがに国内外に影響が大きい上海をロックダウン・・・というのは避け、ビルや店舗ごとの小規模な封鎖にとどめる方針ですが、900万都市・長春はロックダウンに突入しています。

****中国でコロナ感染者急増 人口900万人の都市を封鎖****
中国で新型コロナウイルスの感染が再拡大している。11日には北東部の吉林省にある人口約900万人の長春で、ロックダウン(都市封鎖)命令が出された。全国の感染者数は、ここ2年で最多の水準に上っている。
 
吉林省の省都で、主要工業都市の長春市は住民に対し在宅勤務を命じるとともに、「生活必需品」の買い物も1人につき2日に1回までに制限した。集団検査も実施する予定。
 
また上海市も、学校を閉鎖しオンライン授業に切り替えるよう通達を出した。
 
中国でも感染力の強い変異株「オミクロン株」が検出されている。全国の1日の新規感染者数は、3週間前は100人未満だったが、今週には1000人を超えた。1000人を上回ったのは、2020年の流行初期以降では初めて。
 
公式集計によると、11日には10余りの省で計1369人の感染が確認された。
 
中国の著名な専門家は、他国にならい、中国もウイルスとの共存を目指すべきだと提言している。しかし、今回改めてロックダウンが講じられたことから、一人の感染も許さない「ゼロコロナ」方針が近く撤廃される可能性は依然低いとみられる。【3月12日 AFP】
*************************

長春については、“11日に無症状を含む160人の市中感染が確認された長春市は、同日から市内全域の住宅地などを封鎖し、全市民対象の計3回のPCR検査に着手した。”【3月12日 産経】とも。

【「ゼロコロナ」を担う「居民委員会」】
“住宅地の封鎖”といった厳格な「管理」が可能なのは、中国独自の住民管理システムが存在するからです。

******************
中国の町には、住区やマンションごとに自治会があるのですが、その自治会がテントを設営してそこで出入りのチェックや検温などの管理を行い、食料や日用必需品の買い物以外を制限していました。ただし、テントにいるのは政府機関や警察ではなく、住民のおじさん、おばさんでした。【2021年3月8日 讃井將満氏「中国はどうやって新型コロナを抑え込んだのか」】
**********************

ここで言う“自治会”というのは「居民委員会(居委会)」という組織です

******************
中国に「居民委員会(居委会)」と呼ばれる組織がある。日本で言えば町内会とか、町の自治会みたいな位置づけの組織だが、もちろん社会主義体制なので、その性格は大いに異なる。いわば中国という国の政策を実行するための、住民の代表で組織された実働部隊である。

今回の新型コロナウイルスに感染症の蔓延で、事実上の「全国民自宅軟禁」の政策を実行し、感染の拡大阻止を実現するうえで最も大きな役割を担ったのが、この「居委会」だと思う。【2020年03月27日 NEC 「徹底的な隔離はなぜ実行できたのか~中国の「大衆を動かす仕組み」の底力」】
*******************

感染爆発が起きた香港に対し、北京から「封じ込めろ!」との叱責がありますが、香港には上記のような住民管理組織がないため、中国本土のような厳格な封じ込めができません。

【中央からの責任追求回避に終始する地方政府】
住民管理システムも独特ですが、今回吉林省長春の大学でクラスターが発生した際の当局対応も、いかにも“中国的”です。

****大学でコロナの集団感染を隠蔽か 学生を体育館や図書室などに隔離 中国・吉林省****
中国の大学で発生した新型コロナウイルスの集団感染を巡り、大学と地元政府が隠ぺいを図った疑いがあるとして批判が高まっている。

吉林省の大学では、今月に入り発熱などを訴える学生が相次いだが、大学はキャンパスを封鎖し学生を自宅ではなく体育館や図書室などに隔離した。学生は地元政府に助けを求めたが、SNS上で学校の対応への批判が高まるまで応じてもらえなかったということだ。

大学では10日までに新型コロナの感染者が68人確認されている。11日に閉幕する全人代=全国人民代表大会期間中の混乱を避けるため、大学と地元政府が感染拡大の隠ぺいを図った可能性も指摘されている。【3月11日 ABEMA TIMES】
*******************

****中国・人口900万都市の長春、新型コロナ拡大で「ロックダウン」大学封鎖でクラスター発生、学生反発****
(中略)一方、SNS上にはこんな声が。

学生 「あなたは防護服を着られるが、僕らはマスクだけだ。部屋に39度の熱がある人が1人、38度が2人いて毎日一緒に寝てるんだ」

これはSNSに投稿された吉林省の大学の映像。学生が防護服姿の教師に対し、高熱が出ている人と同じ部屋にいる状況を改善するよう訴えています。(中略)その後、学生らおよそ6600人は近隣の街にバスで移動したということです。

この大学のトップは10日に解任されたということで、今回の感染拡大の責任を問われたとみられます。【3月11日 TBS NEWS】
**********************

中国では感染拡大が起きると、中央によって地方政府の責任が問われます。ましてや全人代開催中の重要な時期にクラスター発生を許したとなると・・・大学・地方政府が隠蔽に走ったことは想像に難くありません。実際、大学トップも市長も首がとびました。

そんな政治風土なので、地方政府も“住民のため”と言うより、“どうしたら自分たちの責任がとわれずにすむか”という観点からの行動になりがちです。(日本でもメディアなど「世間」や議会の批判を恐れて・・・という違いだけで、同じようなものか?)

****新型コロナ新規感染1500人超=都市封鎖、市長更迭も―中国****
中国政府は12日、新型コロナウイルスの市中感染者を11日に1524人確認したと発表した。1日1500人以上の新規感染は湖北省で感染爆発が続いていた2020年2月以来約2年ぶり。
 
(中略)吉林市では、大学で発生した集団感染への対応を怠ったとして市長が更迭された。【3月12日 時事】
**********************

【「ゼロコロナ」失敗、より大規模なサプライチェーン寸断】
このまま感染が拡大すると「ゼロコロナ」を続けたくても続けられない事態が起きる可能性もあります。

前出のように「ゼロコロナ」政策を続けても“世界的なサプライチェーンの寸断をもたらし、各国の製造業に大きな影響を与える”というリスクがありますが、「ゼロコロナ」続けられないほど感染が拡大して経済・社会が混乱すると、より大きな世界経済の混乱を惹起します。

****ことし最大のリスク “中国 ゼロコロナ政策失敗”米調査会社*****
国際情勢を分析しているアメリカの調査会社「ユーラシア・グループ」は、「ことしの10大リスク」を発表し、最大のリスクとして、中国が進める「ゼロコロナ」政策が失敗し、世界経済が混乱する可能性をあげました。(中略)

そのうえで「中国は封じ込めに失敗してより大きな感染を引き起こし、その結果、深刻な都市封鎖につながるだろう」として、「ゼロコロナ」政策の失敗によってサプライチェーン=供給網への影響など、世界経済が混乱する可能性を指摘しています。(後略)【1月4日 NHK】
*******************

ちなみにこの「ことしの10大リスク」では、“ロシア ウクライナ情勢などをめぐるロシアの動向”が5番目にあげられています。5番目”という順番については、さすがにプーチン大統領が全面軍事進攻するとは想定しなかったのでしょう
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「戦う女性兵士」 一方で、国外避難は女性・子供のみ 戦争における男女のリスク負担は?

2022-03-10 22:59:48 | 女性問題
(ウクライナ軍フェイスブックより【3月10日 ABEMA Times】)

一昨日、3月8日は「国際女性デー」でした。

ロシア軍に対し激しい抵抗を続けているウクライナ軍ですが、ウクライナでは2014年に起きたロシアによるクリミア併合以降女性の戦闘任務が可能となり、女性兵士の数は全体の15%にあたる3万人以上とか。

なお、下記記事の「地域防衛隊」は民間人が参加する国防省傘下の組織で、正規軍とは別組織になります。

****女性兵士の投稿、世界に拡散 軍隊への参加進むウクライナ****
ロシアに侵攻されているウクライナで、武器を手に立ち上がる女性たちの投稿写真が、ネット交流サービス(SNS)で世界中に拡散している。

もともと女性兵の割合が比較的高かったのに加え、民間人が参加する国防省傘下の「地域防衛隊」の中で、徹底抗戦を呼びかける役割を買ってでる女性も出ているようだ。
 
「太陽は輝いているし、鳥は歌っている。きっとすべては良くなる」。2月下旬、軍服を着た女性が青空を背景にほほえみながらカメラに向かって語る動画がSNS上で広がった。

動画の出所は不明だが、動画をシェアする投稿には女性が語る言葉を翻訳したとされる英文も添えられ、「心を打つ映像」「ウクライナに平和を」とたたえるコメントが相次いだ。
 
2月23日には、元「ミス・ウクライナ」のアナスタシア・レナさんが「ウクライナとともに立ち上がろう」というハッシュタグとともに銃らしきものを抱える写真をSNSに投稿。「いいね」を示すハートマークが14万個以上に上り、欧米メディアも取り上げた。
 
ウクライナはロシアがクリミア半島を強制編入した2014年以降、女性兵の募集に力を入れてきた。女性兵の数は全体の15%にあたる3万人以上。

ロシアがウクライナ国境周辺に軍隊を集結させた昨年末には、防衛戦に備え、国防省が18〜60歳の女性に入隊を要請し、多くの女性が呼応して軍事訓練に加わった。
 
一方、国防省は女性兵を総力戦のイメージ戦略に活用しようとしており、そのやり方を巡って批判も出ている。昨年7月、国防省が式典で披露する軍隊の行進練習を公開した際、ハイヒールを履いて行進する女性部隊が登場。女性政治家などから「性差別だ」と反発が起きた。
 
戦争史やパブリックヒストリーに詳しい東京女子大の柳原伸洋准教授は、SNS時代の戦いは「市民一人一人に焦点があたっている一方で、イメージの固定化も同時に起きている」と指摘。勇敢な女性像だけを一面的にたたえる風潮は「戦争の本質を見失わせる」と語った。【3月6日 毎日】
********************

ウクライナに限らず、軍における女性の存在は以前に比べて大きくなりつつありますが、上記記事にあるような“ハイヒール”など、従来の女性イメージを引きずる側面も多々あるようです。

女性の権利が十分に認められていないとの批判があるイスラム世界にあっても、クウェート軍では女性兵士に戦闘任務に就くことを認めているようですが、一方で大きな制約も。

****クウェート軍、女性兵士の戦闘任務許可 ただし丸腰で****
中東クウェートで、国防省が女性兵士に戦闘任務に就くことを認めたものの、男性保護者の許可が必要だとした上、武器の携行を禁止したため、女性の怒りを買っている。
 
国防省はさらに、女性兵士は民間人と異なり頭髪を覆わなければならないとも決定。女性権利活動家は、「一歩進んで二歩下がる」政策だと批判している。
 
クウェートは湾岸諸国で最も開かれた社会の一つと見なされており、今回の動きにインターネット上で反発が広がった。
 
体育教師でクウェートサッカー協会の女性委員会メンバーのガディール・カシティ氏は、「なぜ軍への入隊にこのような制限があるのか分からない」「警察を含め、あらゆる分野であらゆる女性が活躍しているのに」とAFPに語った。
 
カシティ氏の母親は、1990年にイラクのサダム・フセイン大統領(当時)がクウェートに侵攻した際、米主導の連合軍によって7か月に及ぶ占領から解放されるまでレジスタンス活動を支援していたという。「母はアバヤ(全身を覆う長衣)に武器を隠し、レジスタンス活動家のところまで運んでいた。父もそれを奨励していた」
「何を根拠に、女性を弱いと見なしているのか理解できない」
 
国防省は昨年10月、女性の戦闘任務参加を認めると決定したが、イスラム教のファトワ(宗教令)を理由に「(戦闘任務は)女性の本質に合わない」と主張する保守派議員から国防相に質問が出された後に制限を加えた。

■女性殉教者
クウェート女性文化社会協会のルルワ・サレハ・ムラ会長は、国防省の課した制限は差別的かつ違憲であり、協会として法的措置を取ると明言した。「わが国には、自らの意思で祖国を守った女性殉教者たちがいる。誰に命じられたわけでもない。祖国を愛していたからだ」

「クウェートがイスラム教国なのは事実だが、私たちは法律がファトワに左右されないことを求める。個人の自由は憲法で保障されており、法律は憲法に基づいている」
 
クウェート大学のイブティハル・カティーブ教授(英語学)は、新規則をめぐる議論は筋が通っていないと指摘。「軍は男女を差別することなくまとめる必要がある」「危険は男女を区別しいないし、戦闘中の死も同様だ」と述べた。 【3月6日 AFP】
*********************

イスラム世界以外でも“地域事情”はいろいろ。
お隣、韓国では徴兵制のもとで男性には兵役義務がありますが、最近は女性にも同じような兵役義務を広げるべきとの議論が、特に兵役が現実問題となる若い男性から提起されています。

韓国では深刻なジェンダー対立があることは指摘されるところですが、兵役問題の背景にもこのジェンダー対立が存在するようです。

****「女性も徴兵制を」 韓国で議論が活発化する背景とは****
男性の徴兵制がある韓国で、女性にも兵役を課すべきだという議論が活発化している。今年5月には、女性徴兵制を求める大統領府あての請願に29万人以上が賛同し、話題を呼んだ。

20代の韓国人らに話を聞くと、兵役に不満を抱く男性だけでなく、女性からも賛成の声が聞かれた。
 
署名した市民や専門家に取材する中で、今の韓国社会が抱える課題が見えてきた。それは日本人にとっても人ごとではない問題だ。

29万人が賛同
「女性も徴兵の対象に含めてください」。今年4月、青瓦台(大統領府)のホームページ(HP)に、こんなタイトルの請願が投稿された。30日以内に賛同者が20万人を超えれば、政府が見解を出す仕組みになっている。
 
請願の投稿者はHP上で、「出生率の低下が軍の兵力の補充にも大きな支障をきたしている。軍務に適していない人員も無理やり徴兵対象となっているため、軍の質が落ちている」と指摘。

軍はすでに将校などに女性を募集しており、身体的に軍務に適していないとの理由は通らないとして「兵役の義務を男性にだけ負わせるのは非常に後進的で女性を卑下する発想だ」と訴えた。この請願では、30日以内に29万3140人が賛同した。政府が出した見解については後段でふれる。
 
これまでも女性徴兵制を求める声はあった。青瓦台に2017年に寄せられた同様の請願では12万人以上が賛同。国会に対する請願を受け付けるHPでも今年4月、同様の請願が出され、10万人が同意した。

少子化で兵士不足
なぜ女性徴兵制を求める人がこんなにも多いのか。青瓦台への請願に賛同したソウル市の男子高校生(18)はこう説明する。「少子化のために、本来は適任でない兵士まで徴兵されている。女性の中には男性よりも軍の仕事に適した人がおり、軍の質の向上にもつながるはず。女性に門戸を開かないのは旧時代的な女性差別だ」
 
韓国では近年、急速に少子化が進んでいる。2020年の合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数)は0.84と、日本の1.34(20年)を大幅に下回る。経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国(当時)のうち、1を下回ったのは韓国だけだ。

徴兵対象者の徴兵率は1993年に72%だったが、今では9割近くにまで上がっている。徴兵を所管する兵務庁は20年10月、1年に必要とされる20万人の兵士を32年以降は維持できなくなるとの見通しを示した。
 
世論調査会社の韓国ギャラップが今年5月に実施した調査で徴兵制の対象とすべき性別について聞いたところ、「男性だけ」(47%)と「男女両方」(46%)が拮抗(きっこう)した。20代は「男女両方」が51%と、「男性だけ」(37%)を大きく上回った。若い世代を中心とした議論の盛り上がりが見て取れる。

不公平感も背景に
韓国では原則として男性は約2年の兵役を課される。女性徴兵制に多くの賛同が集まった背景には、男性側が現行制度を不公平だと感じていることも背景にある。

 
青瓦台の請願には海外在住の韓国人も参加できる。賛同した京都市在住の韓国人男性(27)は「国は、男性の約2年にわたる多大な犠牲への補償をしてほしい。それができないなら、女性も国防の義務を分担すべきだ。数が減っている若い男性だけが国防を担うのは荷が重すぎる」と不満をのぞかせた。
 
「多大な犠牲」とは、青春時代の貴重な時間が失われることだけではない。それは、深刻な社会問題となっている若者の就職難に関係している。

教育部(文部科学省に相当)が高等教育を受けた人に実施した19年の調査では、韓国の大学卒・大学院修了者の就職率は67.1%にとどまった。韓国政府の統計によると、20年の若年層(15~29歳)の失業率は9.0%。日本の若年層(15~24歳)の完全失業率はこの年、4.6%だ。
 
このため競争は激烈だ。学生たちは就職で少しでも有利になるように早くからインターンシップ制度の利用や資格の取得などに奔走する。だが、兵役中は事実上、就職活動をすることができない。

以前は、兵役の義務を果たすと一部の公務員採用試験で点数が加算される「軍加算点制度」が実施されていた。だが兵役に就けない障害者や女性らが「差別的だ」と反対運動を展開。99年に憲法裁判所が「平等権を侵害する」として違憲と判断し、廃止された。
 
求人情報サイト「ジョブコリア」が今年、4年制大学卒の新入社員を採用した企業を対象に実施した調査で、新入社員の平均年齢は女性が27.3歳であるのに対し、男性は30.0歳。前述の京都市在住の男性(27)は、「同期の女性は、男性が兵役中に留学し、男性より早く就職する。不公平だ」と本音をもらす。(後略)【2021年10月3日 毎日】
**********************

まあ、女性の側からすれば、「だったら女性だけが担う出産はどうしてくれるの? 最低育児は平等でないと!」といった話にもなるのでしょう。

ちなみに韓国社会は日本以上に男尊女卑の風潮が強く、先進国を中心とした29カ国を対象にした「女性の働きやすさ」ランキングでは例年韓国が最下位、日本が下から2番目という“好ライバル”状況です。

話を軍における女性の存在に戻すと、必ずしも女性に兵役を広げればいい・・・という話でもないとの議論もあるでしょう。

一方で、今回ウクライナで女性の出国避難が認められた一方で、「残って戦え!」と18〜60歳までの男性の出国が制限されたことへの疑問も。

****メディアが拡散する“ロシア軍と戦う女性兵士”と“子どもを連れ避難する母親”…ウクライナ侵攻、女性も男性と同じリスクを背負うべきなのか?****
「今年、私たちが手にしているのは花だけではない。銃も手にしている」と述べたのは、キエフに残る野党「声の党」のキラ・ルディク党首。実際、これまでも銃の訓練に参加する一般女性の様子が度々報じられており、志願して前線に赴く女性たちもいるという。

海外メディアによれば、ウクライナでは2014年に起きたロシアによるクリミア併合以降、女性の戦闘任務が可能となり、現在は軍全体の約15%にあたる3万人にのぼるという。

■戦争を遂行する側は“女性の顔”を利用する
あらゆる分野で女性の社会進出が進む中、国防も例外ではない。女性比率が18.8%だというアメリカ軍では2015年に女性兵士の職種を解放、最前線の戦闘任務に就く可能性も出てきた。女性比率が7.9%の自衛隊においても、ほぼ全ての職種が解放されている。

東京女子大学の柳原伸洋准教授(ドイツ・ヨーロッパ近現代史)は、「やはり堅強な人は女性であれ、男性であれ兵士になる。そういう考え方がヨーロッパを含めて浸透していると思うし、ロシア近隣の国においてはその割合がウクライナと同じぐらいになってきている。(中略)

その上で、「私が住んでいるドイツとウクライナは2000kmくらいの距離にあり、今週には女性と子どもがミュンヘンにも逃げてきた。そうした女性たちがSNSに発信する情報が、“私たちと続いているんだ”という意識を作ってくれている面はあると思う。

一方、前提として考えたいのは、どの国においても戦争を遂行する側が“女性の顔”を利用しようとするということだ。(中略)」

■女性も男性と同じリスクを背負うべき?
一方、ウクライナではロシアの侵攻が始まると、防衛態勢強化のために18〜60歳までの男性の出国が制限された。これに対し“なぜ男性だけなのか”といった疑問の声も上がっている。

ソフトウェアエンジニアでタレントの池澤あやかは「男性でも女性でも、戦争に行って自分の命を危険に晒すのは嫌だと思う。そこでなぜ女性だけが行かなくていいということになるのか。男性だけにリスクを背負わせるというのは良くないことだと思うし、ジェンダー平等を訴えるのであれば、女性も積極的にリスクを取っていく必要があると思う。ただ、戦地において生理中はどうするんだ、お風呂はどうするんだ、といった問題も出てくるので、ある程度はジェンダーバランスが取れていないと女性が参加するのは難しいのではないか」とコメント。

フィギュアスケート元日本代表の安藤美姫は「泣きながらボーイフレンドや旦那様と別れる女性、子どもを連れて国外に逃げる女性の姿をテレビで見ているが、もちろん国内に残りたいという人、戦いたいという人もいると思う。女性であるから戦争に行かないという時代ではないと思うし、日本ではできないことだろうが、私も同じ立場になったら自分や家族の身を守るためにも、銃を取ろうと思うかもしれない。ただ、他の女性の姿と自分と照らし合わせてしまうということは、あまりいい方向に動かないのかなという思いもある。

そして、もちろんお父さんが育てている家庭もあるとは思うが、子どもを守って育てていくという面ではやっぱりお母さんの方が長けていると感じるし、ウクライナ人の子孫を残していくという面では女性を守った方がプラスに動くこともあるのではないか。戦争という状況においては性差別やジェンダーの問題とは別に、選択肢として“女性と子ども”を逃がす、ということもあるのかなと思う」とコメントした。

■今も続く、“男性的な女性の語られ方”
安藤の話を聞き、父子家庭に育ったというギャルユニット『BlackDiamond』リーダーのあおちゃんぺは「もちろん、率先して行きたい方、身体能力がずば抜けていい方であれば活躍できるとは思うが、女性と子どもを逃がすというのは、子育てや子孫の繁栄を考えると正しい選択だと思う」と賛同。

ただ、「男性ばかりのところに女性が行けば弱い存在のように思われたり、性暴力の対象になったりする。私だったら絶対に行こうとは思えないと思う」と、戦場や各国の軍隊でしばしば問題になってきた女性への性暴力について問題提起した。

デザイナーでモデルの長谷川ミラは「戦争はどう考えてもそういう場になるが、東日本大震災の際には避難所での性的被害が多く報告されているわけで、どこでも起きうる問題でもある。その意味では、女性たちが自分を守るために対策をするだけでなく、男性たちを教育するための議論をすべきだ」と指摘。

「2021年の『ジェンダーギャップ指数』(世界経済フォーラム)では、ウクライナは74位で、ウクライナ系カナダ人の友人に、数年前まで女性が就けない職業もあったと聞いた。120位の日本よりも高い順位とはいえ、そういう背景もあると思う」と話した。

柳原氏は「男性側の教育が必要なのではないかという指摘は、本当におっしゃる通りだと思う。19世紀以降、国民国家というものが成立すると、戦争に参加するということが市民権であり、参政権につながった。だからこそ男性中心だったということだ。

そういう語り方が21世紀の今なお尾を引いているために、女性兵士についても“女性なのに強い”とか“女性なのに勇敢だ”というような、19世紀以来の男性的なモードが連続している。そういうことにも目を向けてもいいのではないかと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)【3月10日 ABEMA Times】
**************************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  統治失敗は明白だが権力は手放さない国軍 膠着した情勢を打破する道筋は未だ見えず

2022-03-08 23:37:10 | ミャンマー
(2月12日、ミャンマー・ネピドーで、国軍が軍事力と平和構築の姿勢を演出した「連邦記念日」の式典【2月12日 東京】)

【ミャンマー連邦記念日 「生活が一層厳しくなる中、記念日のお祝いどころではない」】
クーデターで実権を掌握した国軍支配への抵抗が続いているミャンマー情勢に関しては、2月6日ブログ“ミャンマー 国内的にも、国際的にも、国軍を制止できず、犠牲者・避難民が増加”で取り上げましたが、その後は、ウクライナ情勢一色の国際記事のなかでミャンマー関連記事はあまり多くは目にしていません。

状況が落ち着いているからニュースもない・・・というなら、いいのですが。
おおよその状況は以下のようにも。

****ミャンマー連邦記念日、祝賀ムードなし 少数民族の式典出席は半数****
ミャンマーの首都ネピドーで12日、多数派のビルマ族と少数民族が連邦国家として独立することに合意した「パンロン合意」の締結75年を記念した大規模式典が開かれた。2021年2月のクーデターで全権を掌握した国軍は、全少数民族武装勢力の代表者を招待したが半数の参加にとどまった。
 
国軍のミンアウンフライン最高司令官は式典あいさつで「停戦協定を締結した7勢力と未締結の4勢力の少数民族武装勢力代表者が式典に出席した」と明らかにした。国軍としては、少数民族武装勢力と民主派の連携を阻止したい考えとみられる。
 
ミャンマーでは11年の民政移管以降、約20ある主要少数民族武装勢力のうち10勢力が政府と停戦協定を締結した。しかし、南東部を拠点とするカレン民族同盟(KNU)などはクーデターに反発。民主派の支援に回り、国軍と激しい戦闘を展開している。
 
また、国軍が設置した国家統治評議会は12日、拘束中の800人以上を恩赦で釈放し、約50人の公判を終了させると発表した。

汚職罪などで南東部カイン(カレン)州の裁判所から禁錮80年超の有罪判決が言い渡された国民民主連盟(NLD)の女性幹部の刑期を半分に減刑することも表明した。
 
12日を前に国軍に抗議するデモや攻撃が呼び掛けられ、英BBC放送によると、12日は広範囲で携帯電話からインターネットへの接続ができなくなった。
 
ミャンマーでは新型コロナウイルスの新規感染者数が再び増加している。クーデター後の夜間外出禁止令も続いており、最大都市ヤンゴンのタクシー運転手の男性(55)は「生活が一層厳しくなる中、記念日のお祝いどころではない」と話した。
 
英国から独立する前年の1947年2月、「独立の父」アウンサン将軍がビルマ族を代表して一部少数民族との間でパンロン合意に調印し、少数民族に広範な自治権付与などを約束した。
 
しかし、アウンサン氏は間もなく暗殺され、48年1月の独立後も合意は履行されないままになっている。ただ、毎年この日は多民族国家を目指す国の形が定まった「連邦記念日」として祝日に定められている。【2月12日 毎日】
********************

本来であれば、国家顧問の地位にあるなしに関らず、「独立の父」アウンサン将軍の娘であるスー・チー氏の姿もあるはずですが・・・現在拘束中なのは言うまでもありません。

【国軍統治の失敗は明白ではあるが、膠着した情勢】
いずれにせよ、民主派勢力や少数民族(記念式典に出席しなかった半数の民族)の抵抗は続いています。
軍事政権側も抵抗勢力側も事態打開の道がひらけず、膠着状態にあるようにも見えます。

****袋小路に入りつつあるミャンマー軍事政権とスーチー氏****
1月29日付の英Economist誌が、クーデタから1年を経過したミャンマーの危険な膠着した情勢を打破するために諸外国が何等かの手段を探求すべきことを論じている。

2021年2月1日のミャンマーのクーデタから1年を経過するが、危険な行き詰まりの状況が継続している。しかし、この社説によっても、外部から現状を変えるための有効な手段があるようには思えない。

1月にトタルとシェブロンがヤダナのガス田プロジェクトから撤退することを発表したことは、軍事政権の資金源を断つ意味で有効と思われるが、他にどういう手段があり得るかは明らかでない。

何時のことか分からないが、現状が変わるとすれば、軍事政権の自壊は予見されないが、この政権が国内の状況から方針転換の必要性を考える時ではないかと思われる。既に経済の混乱を始めとして、情勢は統治不能に近いと思われ、軍事政権に大きな圧力となっているに違いないが、今後、次のような事象を注視して行くことが有益であろう。

第一に、国民民主連盟(NLD)の議員が作った影の政府=国民統一政府(NUG)である。NUGは領域を支配している訳でもなく、諸外国政府が承認している訳でもない脆弱な存在であるが、NLDとはスタイルも中味も違った特色を有していることに注目しておく必要があろう。

NUGはスー・チーの独裁的な党運営の手法と決別してコンセンサスでの運営を方針とし、ビルマ族の党であることと決別して少数民族を取り込んだ包摂的な政府だとしている。彼等は連邦政府を目指し、ロヒンギャに市民権を与えることを約束している。

この立場(スー・チーと一線を画する立場である)は彼等が国際的に正統性を主張する必要性、また軍と戦う上で少数民族の協力を必要としている事情を反映するものに違いない。

第二は、抵抗勢力が昨年夏には非暴力の不服従運動から劇的に転換して暴力による抵抗を始めたことである。装備や人員の面で軍に太刀打ち出来るような存在ではないが、少数民族の支援を得ている例もあるようである。

NUGはビルマ族による支配を排除した多様な民族構成を持つ新たな軍(国民自衛軍)を構想するに至っている。軍による残虐な弾圧作戦は抵抗勢力による戦闘員徴募を助ける効果を持っているとの観察がある。

第三に、最も重要な鍵であるが、軍が何時までその一体性を維持出来るかの問題である。これまでにも兵士や警察官の逃亡が伝えられているが、国民に銃を向ける行動に兵士のモラルが低下する、あるいは軍の方針に幹部の間で分断が生ずることはないかという問題である。軍が分解することは考えられないが、軍の一体性に対する脅威が強まることは軍事政権の行動の重大な制約要因となろう。

スーチー氏は過去の人との見方も
以上に鑑みれば、軍事政権がその基盤が徐々に浸食されることを阻止することは相当に困難に思える。中国がスー・チーの釈放を要求しているとこの社説にあるが、彼女の釈放が情勢を転換する一手になるようにも思えない。

そもそも、軍が彼女の政治的復権を認めることはないが――彼女は軍の歓心を買うことも試みたが(ヒンギャの問題について国際司法裁判所で軍の弁護に立った)、結局、彼女と軍とではうまく行かないことが証明された――彼女は最早過去の人物になりつつあるように思われる。【2月16日 WEDGE Infinity】
********************

スー・チー氏の政治資質に問題もあること、ロヒンギャ問題で消極的対応に終始していることなど・・・はありますが、「最早過去の人物になりつつある」というのはどうでしょうか?

軍事政権から民政復帰するとき、国民をまとめられるのは彼女しかないように思えます。

ただ、軍事政権が彼女を解放するとも思えませんので、その意味では「最早過去の人物になりつつある」のかも。

国軍支配が完全に失敗したことは明らかです。国軍指導者も「こんなはずではなかった」と考えているのでは。
それでも権力は手放しません。

一方で、民主派勢力や少数民族側に国軍を凌駕する力があるようにも見えず、一般国民の抵抗も力で封じ込まれている状況では、国軍内部から明らかな統治失敗に対する動きが出てこないと状況はなかなか変わらないのかも。

あと、国軍を支援する中国・ロシアの対応が変わらないとなかなか・・・

****中ロがミャンマー軍政に武器供与 国連特別報告者****
国連でミャンマーの人権問題を担当するトム・アンドリュース特別報告者は22日、昨年2月のクーデター後も中国やロシア、セルビアがミャンマー軍事政権に対し、市民への弾圧に使われている武器を供与し続けているとの報告書を公表した。
 
アンドリュース氏は国連安保理に対し、「ミャンマー市民に対する攻撃や殺害に使われていることが分かっている武器の軍事政権への移転を禁じる決議について協議、採決するための」緊急会合を招集するよう呼び掛けた。
 
同氏は声明で、「軍政は昨年のクーデター後、罰を受けずに残虐な犯罪に及んでいるとの証拠があるにもかかわらず、安保理の常任理事国であるロシアと中国は軍政に対して、数多くの戦闘機や装甲車両を供与し続けている。ロシアに関しては、さらなる武器供与も確約している」と指摘した。
 
報告書の中でアンドリュース氏は、3か国による武器の供与について「市民への攻撃に使用されるだろうと完全に認識した中で実施されており、恐らくは国際法違反になる」と強調した。
 
国連によると、ミャンマーでは昨年2月以降の暴動に対する軍政の弾圧により、市民1500人以上が死亡している。 【2月22日 AFP】
*********************

【相変わらずの国軍のロヒンギャ問題対応】
ロヒンギャ問題への軍事政権対応は相変わらず。

****ロヒンギャ迫害審理 ミャンマー国軍「司法裁に管轄権なし」主張****
オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)で21日に再開したミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」への迫害を巡る審理で、ミャンマー国軍の代表は「ICJはこの問題を審理する権限がない」と主張した。
 
ミャンマー国軍が国際協力相に任命したコーコーフライン氏が出廷し、ロヒンギャ問題について「政府が平和的な解決に取り組んできた」と述べ、訴訟の却下を求めた。その上で、審理自体には協力する意向を示した。続いてミャンマー側の弁護士が、提訴した西アフリカのガンビアには訴訟を起こす法的地位がないと主張した。
 
裁判を巡っては、ミャンマーの民主派が設置した国民統一政府(NUG)は、ICJにこの問題の管轄権を認めた上で、国軍の代表を出席させないように求めていた。

ICJのジョアン・ドノヒュー裁判長は21日、コーコーフライン氏の出廷に先立ち、訴訟当事者は「特定の政府ではなく国家である」と述べた。これに対し、NUGは21日、「審理が軍事政権に正当性を与えるものではないと信じる」との声明を発表した。
 
審理は28日まで開かれる。欧米メディアは、ICJが管轄権の有無を判断するまでに数カ月かかり、管轄権を認めた場合は、ガンビアが主張している国連のジェノサイド条約違反と判断されるまでは数年かかるとの見通しを報じている。【2月22日 毎日】
********************

仮に数年かけてジェノサイド条約違反と判断されても、国軍支配が続く限り、事態は全く変わらないでしょう。

【ASEAN特使派遣も成果は期待できず】
ミャンマー軍事政権への対応で温度差があるASEANは、軍事政権と調整がつかずこれまで特使派遣ができませんでしたが、議長国カンボジアのプラク・ソコン外相がASEAN特使としてミャンマーを訪問するようです。

****ASEAN特使、20日からミャンマー訪問****
カンボジア外務省報道官は、東南アジア諸国連合(ASEAN)のミャンマー問題担当特使であるプラク・ソコン外相が今月20─23日にミャンマーを訪問することを明らかにした。

和平プロセスの開始を目指す。同相は先月、ミャンマーの軍事政権に対し、全ての利害関係者との面会を認めるよう求めていた。カンボジアは、現在ASEANの議長国。

外務省報道官は、同相が誰と面会するか、詳細を明らかにしていない。ASEANの特使は過去に民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏との面会を試みたが、失敗に終わっている。(後略)【3月4日 ロイター】
*******************

カンボジアのフン・セン首相とミンアウンフライン氏のオンライン会談で、ミンアウンフライン総司令官は、東南ASEAN特使が国民民主連盟(NLD)のメンバーと面会することを認めたとのこと。ただし、スー・チー氏と面会する可能性は低いと見られています。【2月7日 ロイターより】

いずれにしても、軍事政権に宥和的なフン・セン首相の命を受けるカンボジア外相ですから、軍事政権に厳しい注文をつけることはなく、国軍の主張を拝聴して帰ってくるのでしょう。

あとは、ASEAN内部で軍事政権に厳しい対応をとる国がどう反応するか・・・でしょう。

【停電で厳しさを増す市民生活 軍の意図的作戦?】
現在のミャンマー国内の市民生活について、停電が多くなっており、しかも“軍政による反軍政の市民の行動を困難に陥れる作戦ではないか”とも見られているとか。

****内戦状態のミャンマー、大規模停電で干上がる市民生活、SNS監視も強化****
国際報道はロシアによるウクライナ侵攻一色となっているが、ミャンマーにおける軍と武装市民・少数民族武装勢力との戦闘も依然収束しておらず、むしろ一部では激化している。
 
特に最近になって一般の市民生活の大きな脅威となっているのが大規模な停電だ。
ミャンマーの反軍政の独立系メディア「ミッズィマ」などによると、中心都市ヤンゴンでは2月初旬以降、停電が頻発しており、ひどい時は1日約5時間も電力が停止する事態が続いているという。
 
軍政によれば、停電の主な原因は、軍政に対抗するために市民が電気料金の支払いを拒否していることとしているが、同じヤンゴン市内でも、軍の基地や施設に隣接する地区では停電は頻発していない。こうしたことから停電は、軍政による意図的なものである可能性も指摘されている。

停電で市民生活に深刻なダメージ
ヤンゴンで治安当局による追及・逮捕を逃れるために地下に潜伏しているジャーナリストによると、ヤンゴン市内の停電は多くの地区で1日7〜8時間に及ぶこともあるという。だが軍の施設がある地区では停電は2日に1度、それも3時間程度となっており、地区により差が出ていると証言する。
 
ミャンマーは3月から一年で最も暑くなる乾季に入り、雨季が始まる6月までは電力需要が非常に高くなる。このため今後も停電が続くようであれば市民生活に大きな影響が出ることが考えられる。

エアコン、扇風機、冷蔵庫といった住居内の電気製品、あるいは病院の医療機器、銀行のATMなどの公共サービスへの電力供給が滞り、機能不全になる可能性がある。
 
停電の原因を、市民らによる電気料金の支払い拒否にあるとする軍政は、市民に対して電気料金の速やかな支払いを求めている。
 
企業の中には、停電による被害を軽減するために自家発電機を使用しているところもあるが、自家発に使用する燃料も高騰しており、「いつまで使えるかわからない」と懸念を表明している。
 
ヤンゴンではガソリンや灯油などの燃料、ガスも値上がりしており、これまた市民生活に打撃を与えている。
 
燃料の値上がりは公共バスの運行にも響いている。バスの運行回数が減少し、やっと来たバスも乗客が満員のため、バス停でどれだけまっても一向に乗車できない状況になっていると現地報道は伝えている。
 
ところが軍の施設がある周辺地区では停電の頻度も少ないことから、停電の理由は軍政が説明している電気料金の支払い停滞だけではなく、軍政による反軍政の市民の行動を困難に陥れる作戦ではないか、との見方も強まっている。

情報統制も強化、スマホの情報から民主派の若者が芋づる式に逮捕
こうした大規模な停電で市民生活が苦しくなる中、ヤンゴンでは2月以降、SNSで反軍政の情報発信を続ける若者らに対し、軍政が一斉摘発に乗り出しているという。
 
治安当局はネット上で情報発信を続ける人物のスマートフォンなどから、芋づる式にその仲間の連絡先や住所などを入手して、居場所を確認できた85人の若者を2月中に発見して身柄を拘束したと一部報道機関が報じている。
 
(中略)釈放された若者は治安当局の協力者か、今後の協力を約束した者だ。その他の若者は警察で尋問を受けた。軍の施設に送られた若者は、これまで反軍政の活動が顕著な者だった模様で、今後さらに厳しい取り調べや拷問を受けるのではとの懸念も出ている。

スマホを使って仲間を装い、誘い出して逮捕
また治安当局は反軍政の情報発信を続ける若者のFacebookやInstagramなどの検閲を強化しており、アップされた写真などから本人の居場所、活動場所、同僚、賛同者などの個人情報の特定を強化し、摘発を進めている。
 
地下運動を続ける若者の一人は反軍政のメディアに対してこう証言している。
「治安当局は、逮捕した若者のスマートフォンを利用し、その所有者を装って『釈放されたので会おう』と仲間を誘い出し、現場にやってきたところを逮捕している」
 
その「逮捕」にしても、極めて暴力的だ。(中略)

軍と民主派との戦闘、各地で勃発
このように民主化を求める市民側が追い詰められる中、ヤンゴン市内では治安部隊と武装市民との戦闘が激化している。2月19日、タケタ郡区で軍の車両や軍が駐屯するタケタサッカー場に対して武装市民側が手りゅう弾攻撃を行い、兵士2人が死亡、4人が負傷した。
 
一方、軍はタケタ郡区のセブン市場に放火した。軍によると武装市民が市場内に潜伏しているとの情報に基づいた作戦であるとして、放火を正当化している。
 
中部の都市マンダレーでは2月21日に地元大学構内に駐屯していた軍部隊に爆弾攻撃が2回あり、兵士が死亡。また武装市民組織はマンダレーのマハ・アウン・ミャイ郡区など3郡区の地方事務所を攻撃して放火した。地方事務所は軍が占拠して、市民弾圧の拠点となっていたことから武装市民メンバーが放火したようだ。
 
このほかにも、各地で武装市民による治安組織に対する攻撃が相次ぎ、軍も空爆という手段まで含めて反撃中だ。

市民の犠牲も増えている。タイ・バンコクに拠点を置くミャンマーの人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」によると3月3日現在軍政により殺害された市民は1597人に上り、逮捕訴追を受けた市民は9478人となっている。
 
ウクライナの人々も大きな苦難を強いられているが、ミャンマーの人々もまた塗炭の苦しみを味わい続けている。
【3月8日 大塚 智彦氏 JBpress)
*********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナへの支援・連帯は表明するも派兵・飛行禁止区域を否定する米・NATO 加盟に否定的なEU

2022-03-05 23:08:56 | 欧州情勢
(ウクライナの首都キエフから北西約25キロのブチャンスキーで煙を上げる建物=キエフ州緊急事態当局の3日のSNS投稿から【3月5日 朝日】)

【攻勢を強めるロシア軍 拡大するウクライナの悲劇】
ウクライナでは、ロシア軍はウクライナ側の抵抗が強い首都キエフでは包囲網形成を進めているようで、大きな進軍は阻まれていますが、南部・東部では支配地域を拡大しつつあります。

****ロシア軍、南東部で攻勢=住民避難へ「人道回廊」は容認―首都周辺も犠牲拡大・ウクライナ****
ロシア軍によるウクライナ侵攻は5日、10日目に入った。ロシア軍は、4日に制圧したザポロジエ原発のある南東部で攻勢を強化。

2014年にロシアが併合した南部のクリミア半島と、東部の親ロシア派地域の間に位置する南東部を支配下に置くことで大きな一つの勢力圏を築くのが狙いとみられる。首都キエフ周辺でも軍事作戦が強化され、犠牲者の増加が顕著となっている。
 
ロシア国防省は5日、南東部マリウポリと東部ボルノバハでの限定的停戦と「人道回廊」設置を発表した。ロシア軍部隊の包囲攻撃で身動きが取れなくなっていた民間人を安全な場所に移動させるのが目的。マリウポリの市長は「市民は脱出が可能になった」と述べ、移動の際は戦火を避けるため、決して指定のルートから外れないよう呼び掛けた。
 
人道回廊の設置は、3日に行われた2回目の停戦協議でウクライナ側が強く求めていた。ただ、マリウポリでの民間人の退避時間は5日夕までに設定。退避時間終了後にロシア軍は攻撃を仕掛けて都市の制圧を図る公算が大きい。
 
ロシア軍はザポロジエ原発の占拠に際して火災を引き起こし、世界を震撼(しんかん)させた。AFP通信によると、ロシア軍はこれまでに南部へルソンと南東部ベルジャンシクを制圧。南部ミコライフでも攻防が激化した。
 
一方、ロシア軍は首都キエフ周辺でも攻撃を強化している。キエフ州マルカリフカでは4日、ロシア軍の砲撃で子供3人を含む5人が死亡。ウクライナ国営通信は4日、北部チェルニヒウで3日のロシア軍の空爆により47人が死亡したと報じた。各地で交戦が続く中で当局は被害の全容を把握できておらず、実際の犠牲者数はさらに多いもようだ。【3月5日 時事】 
*********************

厳しい戦いの情勢については、以下のようにも。
“キエフ周辺で戦闘激化 9階建て住宅に砲撃、約100人が生き埋めか”【3月5日 朝日】
“ロシア軍が港湾都市マリウポリ「封鎖」 市長、物資確保求める”【3月5日 AFP】
“ロシアがウクライナに傭兵1000人派遣へ 都心部爆撃の恐れも 西側当局者”【3月5日 CNN】
“ロシア軍、ウクライナ2番目の原発に接近 米国連大使”【3月5日 CNN】

また、“プーチン大統領、停戦条件を追加 「新ロシア派に東部2州全土を」”【3月5日 朝日】と、ロシア・プーチン大統領は妥協・譲歩や軍事攻撃を緩める気配は見せず、「停戦協議」とは言いつつも、実質的にはウクライナに全面降伏を、ロシアの要求を完全に満足させることを求めています。

【米国務長官、ウクライナが勝てると確信 「時間をかければ」「やがて明らかになる」】
そうした状況で、ブリンケン米国務長官は「時間をかければ、(ウクライナは)もちろんロシアに勝てると確信している」と。


****ブリンケン米国務長官、ウクライナが勝てると確信と****
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は4日、BBCのジェイムズ・ランデイル外交担当編集委員に対して、ウクライナが「時間をかければ、もちろん」ロシアに勝てると確信していると話した。戦争がいつまで続くか分からないが、ウクライナの敗北は決して避けがたいものではないとも述べた。

国務長官は、「ロシア軍が全力をかければ、ウクライナの実力をはるかに上回る」と認めた上で、ウクライナ国民の意志の力を評価。ロシア政府がウクライナ国民の気骨まで屈服させることができないのは、「やがて」明らかになるはずだと話した。

一方で、ロシア軍はウクライナの一般市民に対して「日に日に残酷」な攻撃手法をとっており、その結果、ひどい人的被害が出ていると指摘。「ロシアが各地の基本インフラを狙っているので、一般市民は水や電気や暖房を奪われている。こうした戦い方は残念ながら、悲劇だが、プーチン政権下のロシアのやり方だ。これかさらにその戦い方を見ることになると思う」と述べた。

それでもなお、「もしロシア政府がウクライナの現政権を倒して、自分たちの傀儡(かいらい)政権を作るつもりでいるなら、ウクライナ国民4500万人がなにかしらの形でそれを拒否するはずだ」と長官は述べた。

「この状況がいつまで続くのかは言えない。しかし、自分たちの未来と自由のため情熱的に戦っている4500万人を、ロシアが屈服させらるのか。ロシアがウクライナを完全制服しないまま、そんなことができるのか」(中略)

ロシアの政権交代は目指さない=ブリンケン長官
ブリンケン長官はさらに、アメリカ政府はロシアの政権交代は目指していないと言明。「それはまったく我々がやることではない」として、ロシア国民が自国首脳陣の戦争責任を追及するべきだと呼びかけた。

「ロシアの人たちにはこう申し上げたい。この侵略戦争がいったいどうやったら、あなた方の利益の、あなた方が必要とするものの、前進につながるのかと」

アメリカでは野党・共和党の重鎮リンジー・グレアム上院議員が、プーチン大統領の暗殺をロシア国民に呼びかけるツイートをしており、ロシアがこれに強く反発したほか、米政界の与野党関係者からも批判されている。ホワイトハウスのジェン・サキ大統領報道官も4日、グレアム議員の主張は「アメリカ政府の方針ではないと言明した。【3月5日 BBC】
*********************

“時間をかければ”とか“やがて”とか、ブリンケン米国務長官がどういう状況を想定しているのかは知りませんが、前出のようにロシア側の攻勢は拡大しています。

そして長官自らが発言しているように“一般市民は水や電気や暖房を奪われている”という「悲劇」も拡大しています。

「ウクライナ国民4500万人がなにかしらの形でそれを拒否するはずだ」・・・レジスタンスでしょうか? レジスタンスは多大な犠牲を強いる悲劇的な戦いでもあります。

“祖国に戻るウクライナ人、数万人か「自分の身に何が起きても守る」”【3月5日 毎日】というように、ウクライナの人々が“自分たちの未来と自由のため情熱的に戦っている”のは事実であり、また、“3日食事なく「俺たちは捨て駒」と嘆き...補給を絶たれた前線のロシア兵の映像”【3月4日 Newsweek】とロシア軍兵士の士気に問題があり、ロシア軍の侵攻ペースが想定を下回ったことでロシア軍の問題も明らかになってはいますが、現状は“時間をかければ”ロシア軍の支配が拡大し、ウクライナの“悲劇”が深刻化することを示しています。

“時間をかければ”、ウクライナがロシアに支配されたとしても、強力な制裁措置でロシアが弱体化し、場合によってプーチン政権も揺らぎ、国際関係におけるアメリカ・西側の優位が強まる・・・というのは十分に想定されますが。

【ウクライナへの派兵を否定するアメリカ・NATO】
ウクライナの現在の窮状に対し、厭戦気分の強いアメリカもNATOも以前からNATO非加盟国ウクライナへの派兵、ロシアとの直接対決は否定しています。

****バイデン、単独でのウクライナ派兵を否定 NATOの動きが焦点に****
米ホワイトハウスは25日、バイデン大統領は単独でウクライナに派兵する意向は持っていないと表明した。
ホワイトハウスは「バイデン大統領はウクライナに軍を派遣する意図も関心も持っていない。北大西洋条約機構(NATO)が東部のパートナー国を支援する機構となっており、焦点はNATOにある」と述べた。(後略)【1月26日 Newsweek】
*****************

****派兵なし、NATOジレンマ 欧州、ウクライナに相次ぎ武器供与****
ロシアの侵攻にウクライナが防戦を続ける中、米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)は非加盟のウクライナに派兵しない方針を貫く。加盟国は孤立無援の戦いをウクライナに強いるジレンマを抱える一方で、これまでにドイツを含む二十カ国以上がウクライナへの武器供与などを表明。後方支援の動きが活発化している。(後略)【2月28日 中日】
*****************

ウクライナ・ゼレンスキー大統領とロシア軍の砲火に怯えるウクライナ国民が求めているのは「時間をかければ、(ウクライナは)もちろんロシアに勝てると確信している」の類の、(根拠なき)支援・連帯の表明(敢えて、リップサービスとまでは言いませんが)ではなく、窮状を打開してくれる援軍でしょう。

もちろん、アメリカ、NATOの思いもわかりますし、第3次大戦や核戦争の引き金を引くわけにはいかない・・・ということもあるでしょう。

【NATO飛行禁止区域設定を拒否 ゼレンスキー大統領は「あなたたちの弱さのせいで人々が死んでいく」と失望を表明】
派兵が無理なら・・・ということでゼレンスキー大統領がNATOに求めているのはウクライナ上空での飛行禁止区域の設定。しかし、NATOにしてみれば派兵とほとんど同じで、ロシア軍との直接対決にもなりますので、この要求を拒否しています。

****飛行禁止区域設定を拒否 NATO、ウクライナ要請****
北大西洋条約機構(NATO)は4日、ブリュッセルの本部で緊急の外相会合を開き、NATOがウクライナ上空に飛行禁止区域を設定せず、同国に部隊も派遣しないことで一致した。

ストルテンベルグ事務総長が終了後の記者会見で明らかにした。飛行禁止区域の設定はウクライナがNATOに求めていたが、それを拒否した形。

飛行禁止区域を設定すれば、ロシアの戦闘機がウクライナ上空に入らないようにNATOが戦闘機を投入して警戒し、場合によっては撃墜する必要が生じる。【3月5日 共同】
*******************

****NATO、ウクライナが求める飛行禁止区域設定せず 直接介入は「欧州戦争」の恐れ****
北大西洋条約機構(NATO)は4日、ウクライナが求めている飛行禁止区域の設定について、NATOが直接的に介入すれば、欧州全土を巻き込む広範な戦争に発展する恐れがあるとして、現時点では設定しない方針を示した。

NATOのストルテンベルグ事務総長は記者会見で「NATOはこの紛争に加わっていない。この紛争がウクライナの国境を越えてエスカレートすることを防ぐ責任を負っている」とし、ウクライナの絶望的な状況は理解しているとしながらも、NATOが飛行禁止区域を設定すれば、多くの国を巻き込む「欧州における本格的な戦争につながる恐れがある」と述べた。

その上で、NATOの飛行禁止区域設定を実施する唯一の方法は戦闘機を派遣してロシア軍機を撃墜することになるとし、こうしたエスカレーションのリスクは大きすぎると指摘。「NATOの戦闘機がウクライナ領空で活動することも、NATO軍がウクライナ領内で活動することもあってはならないと同盟国は合意している」と述べた。

米国のブリンケン国務長官は、NATOはウクライナの領土を「隅々まで」攻撃から守ると表明。「NATOは防衛のための同盟であり、紛争は望まない。ただ紛争が起きれば、NATOに対応する用意はある」とし、「ロシアのプーチン大統領に大きな代償を払わせる。 ロシアが路線を変更しない限り、一段と孤立化させ、経済的な痛手を増大させる」と述べた。(後略)【3月5日 Newsweek】
********************

この決定に対し、ゼレンスキー大統領は「あなたたちの弱さのせいで人々が死んでいく」と失望を表明。

“ゼレンスキー大統領はその後行ったテレビ演説で、この日のNATOの会合について「脆弱で混乱したサミットが行われた。全ての人が欧州の自由のための戦いを第1の目標と考えていないことが浮き彫りとなった」と言明。「NATOの指導部は飛行禁止区域の設定を拒否し、ウクライナに対するさらなる爆撃にゴーサインを出した」と批判した。”【同上】

また、ゼレンスキー大統領はNATOに軍用機の提供も求めていましたが、これもNATOに拒否されています。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領にしてみれば支援を表明するNATOの軍がそこにいるのに助けには来てくれない・・・第2次大戦末期、ナチス支配へのワルシャワ蜂起がソ連軍に見捨てられた国際政治の非情を連想するかも。

なお、アメリカ・バイデン政権の“派兵せず”というウクライナへの“限定的”な関与は、厭戦気分が強いアメリカ国内世論のウクライナへの関心の低さ、「民主主義擁護よりガソリン価格」という空気が背景にありますが、ここにきて若干風向きは変わってきている面もあるようです。

****米世論、対ロシア強硬路線が鮮明…「民主国家守るためならガソリン高騰構わない」62%****
ロイター通信が4日、ロシアのウクライナ侵攻に関して発表した米国での世論調査結果によると、回答者の80%がロシア産原油の輸入を禁止すべきだと答えた。米国内の世論も対露強硬に動いていることを示す内容で、バイデン米政権に対し、より厳しい対露制裁を求める圧力が強まりそうだ。
 
バイデン政権はロシア産原油の全面的な輸入禁止などに踏み切れば、ガソリン価格の上昇などにつながりかねないと危惧している。それでも、回答者の62%は、「他の民主主義国家を守るためであれば、ガソリン価格がより高くなっても構わない」との意見だった。
 
ウクライナ側が米欧に求めている北大西洋条約機構(NATO)によるウクライナ上空での飛行禁止区域設定についても、74%が支持すると答えた。調査は3〜4日にオンラインで約830人を対象に実施された。【3月5日 読売】
*********************

こうした風向きが更に強まれば、ウクライナへの直接支援を行うことなく、ウクライナにロシア傀儡政権が樹立されるような状況になれば、バイデン大統領は中間選挙を前にして、「弱腰。何もできなかった」とその政治責任を問われるという政治リスクも出てきます。

派兵はともかく、ロシア産原油の全面的な輸入禁止などのより強力な制裁措置が必要になるでしょう。
となると、世界のエネルギー市場・世界経済は更に大荒れで、日本もその渦中に。

【ウクライナの即時の加盟、EUは否定的】
ウクライナ・ゼレンスキー大統領がもうひとつ欧州に求めたのが、欧州の一員としてロシアに対峙するための即時のEU加盟。こちらもEUの対応は否定的です。

****EU、ウクライナの加盟申請に冷や水****
(中略)欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は2月27日、ユーロニュースのインタビューで「ウクライナはわれわれの一員。加入してほしい」と述べた。(中略)

しかし、EUのジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表は、加盟には「長い年月」がかかると述べた。
 
欧州委のエリック・マメル報道官は、フォンデアライエン氏の発言を撤回、ウクライナはEUではなく欧州の一員であり、欧州に迎え入れたいという意味だったと釈明した。【3月1日 AFP】
*********************

****ウクライナのEU加盟申請 欧州で支持の声も、加盟国間の合意は難しく****
ウクライナのゼレンスキー大統領が早期の欧州連合(EU)加盟を求めていることについて、EU内で後押しする声が強まっている。東欧などの加盟国がゼレンスキー氏の要求を支持しているほか、欧州議会も1日、EU各機関にウクライナを加盟候補国とするための取り組みを求める決議案を採択した。

しかし、EUがウクライナの加盟に向けて踏み込めば、欧州とロシアとの対立はさらに深まる。オランダなどは慎重姿勢を崩しておらず、現時点で加盟国間の合意は難しいとみられる。

ゼレンスキー氏は2月28日、EUへの加盟申請書に署名し、「特別な手続きで直ちに」EU加盟を認めるよう求めた。ウクライナはEUと自由貿易協定などの「連合協定」を結んでいるが、正式な加盟候補国ではない。加盟手続きを本格的に進めることで欧米の支援をより強固にし、ロシアに対抗する狙いとみられる。

欧州ではロシアの侵攻を受けるウクライナと連帯を強めるムードが高まっている。欧州メディアによると、これまでポーランドやブルガリアなど11加盟国がウクライナの加盟を支持。欧州議会は3月1日に採択した決議案で、EU各機関に対し、「EU条約に沿ってウクライナにEU候補国の地位を与えるために取り組むこと」を要求した。

欧州議会にはゼレンスキー氏がオンラインで参加。「あなたたちが私たちを見放さないことを証明してほしい」と演説すると、議場ではスタンディングオベーションが起きた。

しかし、EUがウクライナの加盟に向けて本格的に動けば、ロシアが反発するのは必至だ。2014年のロシアによるクリミア半島の強制編入は、ウクライナとEUの関係強化にロシアが懸念を強めたことが、背景にあった。

EU加盟を巡ってはトルコやセルビア、北マケドニアなど先に候補国となりながら、まだ加盟が認められていない国々がある。

EUは法の支配の徹底や組織犯罪・汚職対策などを加盟の条件に慎重に交渉を進めてきた。加盟交渉は少なくとも数年はかかるのが一般的だが、ウクライナに特例を与えれば、ほかの候補国から不満が出たり、加盟基準が形骸化したりする恐れもある。新規加盟にはEU27カ国すべての承認が必要だが、現時点ではEU内の慎重論も根強い。

オランダのメディアによると、オランダのルッテ首相は2月28日、現時点でウクライナ加盟を「議論するのは良くない」と指摘した。フランスも慎重派とみられ、仏大統領府高官は「守れない約束をしないよう注意すべきだ」と語る。

欧州議会でゼレンスキー氏の後に登壇したミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)は「(ゼレンスキー氏による)正当な要求を真剣に検討する必要がある」と述べた。しかし、同時に「それは難しいだろう。欧州にはさまざまな意見がある」とも語った。

ウクライナの加盟問題は、3月10日から予定されるEUの非公式首脳会議で議題となる可能性がある。【3月2日 毎日】
******************

もちろん、加盟には条件を満たすための準備が必要だ、以前から承認を待っている国が多くある・・・等のEU側主張はわかります。現に承認が長年棚ざらしになっているトルコ・エルドアン大統領は即時承認の動きを批判しています。

NATOにしても、EUにしても、その主張はわかります。各国とも自国の利害が最優先されます。厄介ごとには関らないのが一番・・・。

ただ、ではウクライナはどうすればロシアの攻撃を止められるのか? という答えが見つかりません。
ロシアとの直接対決、第3次大戦の危険を回避するというだけでは、それを見越したプーチン大統領の暴走は今後も続きますし、プーチン大統領の後を追う国も。

日本も、“松野官房長官は2日の記者会見で、ウクライナ政府がロシア軍と戦う外国人の「義勇兵」を募っていることについて、日本人に参加しないよう呼びかけた。”【3月2日 読売】とのことですが・・・・何を警戒しているのか? ロシア? 万一の場合の国内世論? 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシア  原発攻撃も“なかったこと”にされるメディア統制 普段の情報源で生じる国民間の分断

2022-03-04 22:45:44 | ロシア
(ザポロジエ原子力発電所の監視カメラ映像(2022年3月4日、ソーシャルメディアから取得した映像のスクリーンショット)【3月4日 BUSINESS INSIDER】)

【“核テロ”に等しい危険な行為】
国際面のニュースは相変わらずウクライナ一色ですが、その中でも今日最大のニュースはロシア軍による欧州最大規模の原発「ザポロジエ原子力発電所」に対する攻撃でしょう。

当初、放射線量が上昇との報道もありましたが、その後の報道によれば異常はなく、火災も鎮火したようです。

****ロシア軍攻撃で原発火災=原子炉停止、放射線量変化なし―ゼレンスキー氏「核テロ」糾弾・ウクライナ****
ウクライナ南東部のザポロジエ原子力発電所で4日未明(日本時間同日午前)ロシア軍の攻撃により火災が発生した。原子炉には着弾しなかったもようで、放射能漏れなどは確認されていないが、大規模事故につながりかねないだけに、ロシアに攻撃の即時停止を求める声が強まっている。

ロイター通信によると、ウクライナ地方当局はロシア軍が原発を占拠したと述べた。
 
動画サイトに投稿された映像では、攻撃が加えられた施設から煙と炎が立ち上がった。ウクライナ軍高官はフェイスブックで、攻撃を受けたのが研修施設と研究所だったと説明。

AFP通信によれば、ウクライナ緊急事態庁は火災が消し止められ、犠牲者はいないと明らかにした。グランホルム米エネルギー長官はツイッターに、「原子炉は頑丈な格納容器によって守られ、安全に停止した」と投稿した。
 
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、原子炉が損傷すれば「深刻な危険」が生じると警告。IAEAはその後、「重要施設」に影響は出ておらず、原発の放射線量の変化も報告されていないと、ウクライナ当局から説明を受けたことを明らかにした。
 
AFP通信によると、ウクライナのゼレンスキー大統領は動画メッセージで「原発施設に攻撃を加えたのはロシアだけだ」と批判。「テロ国家は今や核テロに走った」と糾弾した。

ゼレンスキー氏はバイデン米大統領と電話で会談。ホワイトハウスによれば、バイデン氏はザポロジエ原発の状況について説明を受け、両首脳は攻撃停止をロシアに求めることで一致した。
 
ザポロジエ原発は欧州最大規模。ウクライナのクレバ外相は、ツイッターで「ロシア軍がザポロジエ原発に対し、あらゆる方面から攻撃している」と指摘。1986年のチェルノブイリ原発事故にも触れ、「もし爆発すれば、チェルノブイリの10倍以上の規模となるだろう。ロシアは直ちに攻撃を停止しなければならない」と訴えた。(後略)【3月4日 時事】
*********************

「原子炉は頑丈な格納容器によって守られ・・・・」とは言っても、周辺施設の被害、例えば電源喪失などで惨事にいたることは福島原発の経験で明らかです。

ゼレンスキー大統領の言うように、まさに「核テロ」と同等のリスキーな暴挙です。

戦略的に見れば、“ウクライナは原発依存度は世界3位と高く、各地に原発が点在しているため、ロシア軍侵攻による危険性が懸念されている。”【3月4日 GLOBE+】と、ウクライナに与えるダメージが大きく、しかもザポロジエ原子力発電所はクリミアに隣接する南部にあって攻撃しやすい・・・ということで、“ウクライナの急所を突いた”【3月4日 NHK TVニュース】ということですが、やはり核兵器使用に準じた“禁じ手”でしょう。

ただ、戦争というのは所詮“殺し合い”であり、“禁じ手”も何もない・・・と言われればそうでしょう。

【ロシアは“ウクライナの破壊工作員の仕業” 国内メディアは“なかったことにしている状態”】
しかし、「戦争というのはそういうものだ」と言うならまだしも、更に卑劣なのはこうした“禁じ手”について相手方の仕業だというフェイクで押し通そうとする姿勢です。(もっとも私も現場を見た訳でなく、ロシア側主張が正しい可能性もゼロではありませんが。一般論で言えば、多くの事柄についてウクライナ側主張を鵜呑みにするのもまた危うい行為です。)

****ロシア国防省、“原発を攻撃したのはウクライナの破壊工作員”ロイター通信****
(中略)一方、ロイター通信によりますとロシア国防省は原発を攻撃したのはウクライナの破壊工作員だとして非難したという。【3月4日 ABEMA Times】
********************

当然ながら、情報統制が進むロシア国内では報じられていません。

****“原発砲撃”メディアは無視 ロシア国内では...SNS上で“不安”****
(中略)原子力発電所の火災は、現地はもちろん世界中が懸念を表明しているが、ロシアメディアはなかったことにしている状態。

ウクライナ南東部のザポリージャ原発の火災は、ウクライナ政府やウクライナメディアが一斉に取り上げ、注意喚起した。

一方、ロシアメディアが伝えているのは、ウクライナ東部を支配する親ロシア派武装勢力がウクライナ軍と戦う姿、それをサポートするロシア軍の動きばかりで、原発での火災のことは一切、報じていない。

一方、SNSでは「ひどいことが起こっている」、「プーチンは狂気の人になった」などと話題になっている。

ただプーチン政権は、原発への圧力は、あくまでウクライナに虐げられている武装勢力の解放作戦の一環と主張している。【3月4日 FNNプライムオンライン】
***********************

【ロシア国内の情報統制の実態】
こうした情報統制、自分に都合のいい情報だけ(フェイクも含めて)流し、都合の悪い情報は遮断する、あるいはフェイクだと非難する・・・というのは、今回原発攻撃に限ったはなしでもなく、ウクライナでの戦争全般、さらに言えばすべての政治的事象についてロシア当局がとっている手法です。

もちろんそういう情報操作は、日本でも昔は「大本営発表」なんてありましたし、今も官庁の国会への虚偽報告など別に珍しくもありませんが、程度の問題があります。

****ウクライナ侵攻をロシアのテレビで見る まったく別の話がそこに****
ロシアの国営テレビが映し出す「現実」が、いかに現実と違うか。日本時間3月2日午前2時の画面が、その典型例だった。

BBCワールドニュースは、ウクライナの首都キーウ(キエフ)でロシア軍がテレビ塔を砲撃したという速報で始まった。同じ時にロシアのテレビは、ウクライナの都市を攻撃しているのはウクライナだと伝えていた。

では、ロシアの人たちは、この戦争について何をテレビで見ているのだろう。電波を通してどのようなメッセージを聞いているのか。

以下は、3月1日にロシアで主なチャンネルをザッピングしていた人が、目にしただろう内容の一部だ。主なチャンネルはロシアの場合、政府と、政府に協力する企業がコントロールしている。

国営テレビ局「チャンネル1」はロシアで特に人気のチャンネルだ。その番組「グッドモーニング」は、ニュース、カルチャー、軽いエンターテインメントを組み合わせた、多くの国にありがちな朝の情報番組。

モスクワ時間1日午前5時30分(日本時間同午前11時30分)、通常の放送が変更になった。司会者が「みなさんよくご存じの出来事のため」放送予定を変更し、ニュースや時事問題の話題をいつもより多く伝えると説明した。ニュース速報は、ウクライナ軍がロシア軍の機器を破壊しているという報道は誤報で、「経験の浅い視聴者を欺く」ためのものだという内容だった。

「インターネット上では、フェイクとしか言いようのない映像が流れ続けています」と司会者が説明し、「雑に加工されたもの」だと説明する写真が複数、画面に映し出された。

モスクワで午前8時になると、テレビ局NTVの朝の番組に切り替える。NTVは、ロシア政府の支配下にあるガスプロムの子会社が所有するテレビ局だ。この朝の番組は、ウクライナ東部ドンバス地方の話題ばかりだ。(中略)

共に国営放送でロシアで最も人気のチャンネル、「ロシヤ1」と「チャンネル1」は、ドンバス地方でウクライナ軍が戦争犯罪を犯したと非難した。ウクライナ市民を脅かすのはロシア軍ではなく、「ウクライナのナショナリスト」だと、ロシヤ1のアナウンサーは述べた。(中略)

ロシアのテレビは、ウクライナで起きていることを「戦争」とは呼ばない。その代わり、攻撃は軍事インフラを標的とした非軍事化作戦、あるいは「両人民共和国を防衛するための特別(軍事)作戦」と表現される。

国営テレビでは、アナウンサーや特派員が感情的な言葉や画像を使い、ロシアによるウクライナでの「特別軍事作戦」とソ連のナチス・ドイツに対する戦いには、「歴史的類似性」があると強調する。

「子どもを盾にするナショナリストの戦術は、第2次世界大戦以来変わっていない」と、「ロシヤ1」の姉妹チャンネル「ロシヤ24」の朝の番組のアナウンサーは述べた。

「連中はまさにファシストそのもののように行動する。ネオナチは武器を民家の横に設置するだけでなく、子供が地下室に避難している家のそばにおいている」と、特派員はリポートした。ビデオには「ウクライナのファシズム」というテロップが出ている。

ウクライナの都市爆撃はウクライナのせいに
特派員の説明は、ウラジーミル・プーチン大統領が2月末に根拠なく主張した内容に呼応するものだ。ウクライナが女性や子供、高齢者を人間の盾にしているというのが、プーチン氏の言い分だ。

プーチン氏が命令した侵攻が期待通りの迅速な戦果を挙げていないのではないかと、西側諸国の報道は問いかけている。それに対してロシアのテレビは、ロシアの作戦は大成功だと繰り返す。(中略)

ロシアの朝のニュース速報は、ウクライナ東部以外でのロシア軍の攻撃作戦についてほとんど何も伝えない。国営テレビの特派員は、キーウやハルキウ(ハリコフ)など、ロシア軍が住宅地を砲撃した主要都市では取材していない。ロシアの特派員たちは代わりに、ドンバス地方の部隊に密着している。

しかし、この日の午後になると、BBCがもう何時間も大々的に報道してきたハルキウ砲撃について、ニュース番組はようやく触れた。ただしその報道内容は、住宅破壊はロシア軍のせいではないというもので、ロシアに責任を負わせようとする情報は「フェイク」だと主張した。

(中略)さらに4時間後、「ロシヤ1」の報道はさらに踏み込んで、ハルキウを爆撃したのはウクライナ軍だと主張した。(中略)

午後5時のニュースでは「ロシヤ1」のアナウンサーが、ウクライナにおけるロシアの「主な目的」を、「西側の脅威からロシアを守ること」だと説明した。それによると西側諸国は「ロシアとの対決にウクライナ国民を利用している」のだという。

ウクライナに関する「フェイクニュースやうわさ」がネット上で流れていることに対抗するため、ロシア政府が「真実の情報のみが掲載される」新しいウェブサイトを立ち上げることになったと、アナウンサーは伝えた。

政府の公式見解以外は報道不可
ロシアのテレビ局は連邦政府の監督機関「通信・IT・マスメディア監督サービス」から、政府の公式見解に沿った報道をするよう、義務付けられている。(中略)

若いロシア人の中には、独立系のウェブサイトやソーシャルメディアからニュースを入手する人が増えている。そして、戦争が長引けば長引くほど、死んだ兵士や捕虜の画像や映像がそうしたメディアに登場している。しかし、当局はこれを受けて、独立系メディアの規制をますます強めている。

連邦政府の通信・IT・マスメディア監督サービスはTikTokに対し、軍事的・政治的コンテンツを未成年者に「おすすめ」しないよう命令した。「ほとんどの場合、こうした素材は際立って反ロシア的内容」だからと、不満をあらわにしてた。

同サービスはグーグルに対しても、いわく「ロシア軍の損失に関する偽情報」とする検索結果の削除を要求した。ロイター通信によると、モスクワの「特別軍事作戦」に関する「偽報道」については、 ツイッターの読み込み速度を再び減速させたほか、フェイスブックへのアクセスも制限したという。

この監督機関はメディア各社に対し、侵攻を報道する際にはロシアの公式情報源のみを使用するよう指示し、「宣戦布告」や「侵攻」に言及した報道を取り下げるよう指示した。対応しない場合は罰金や放送禁止などで処分すると警告している。

独立系民間テレビ局「ドシチ」と、リベラル系の人気ラジオ局「モスクワのこだま」のウエブサイトは共にアクセスがブロックされた。両社が「過激主義と暴力」を呼びかけ、「ロシア軍の活動に関する虚偽情報を組織的に拡散した」というのが、その理由だ。【3月4日 BBC】
*******************

モスクワにミサイルを打ち込むことはできませんが、“情報戦”が主戦場のひとつにもなっている昨今、ロシア国民に“正しい現実”を知ってもらうような情報戦略ができないものか・・・とも考えます。

もちろんウクライナ側は、“ウクライナとしての現実”を情報戦の一環としてロシア国民に流してきていますが、そのあたりをもっとレベルアップ・規模拡大して・・・と。

【情報源によって生まれる人々の分断】
ただ、アメリカでトランプ支持者がマスメディア情報を信用しないように、いったん作られた世界を壊すことは容易ではありません。

結果、ロシアの場合だと、国営TVなどの情報に接する人々と、若者らを中心にした独立系のウェブサイトやソーシャルメディアからニュースを入手する人の間には越えがたい溝が生じます。

****「我々が選んだわけではない」  ウクライナ戦争の理解に苦しむロシア国民****
(中略)しかし多くのロシア人は、実際、ウクライナで何が起こっているのかを十分に知らない。国営テレビは、キエフや他のウクライナの都市でのロシアの爆撃や砲撃の様子をほとんど報道せず、代わりにいわゆるウクライナの「愛国主義者」や「ネオファシスト」を取り上げている。

ロシア軍がウクライナに進駐してからおよそ1週間、多くのロシア人は、戦争が実際に起こっているという事実をまだ受け止めていない。

米国をはじめとする西側諸国は、数週間前から攻撃が始まることを警告していたが、侵攻が始まる前に行われたCNNの世論調査では、ロシアの攻撃がありそうだと考えたロシア人はわずか13%で、3人に2人(65%)がロシアとウクライナの緊張が平和的に解決すると予想していた。

しかし、モスクワに住むアリーナさん(25歳)のようなロシアの若者は、テレビを見ていない。インターネットを利用してブログを読んだり、ブロガーの話を聞いたりしている。

まだデモには参加していないが、街中でリュックやカバンに「戦争反対」のサインを貼り付けて「無言の抗議」に参加する若者を目にしてきた。

アリーナさんもまた、なぜウクライナで戦争が起きているのか、そしてそれが若いロシア人である自分の人生にとって何を意味するのか、理解に苦しんでいるという。

しかし、アリーナさんの母親はまったく違う見方をしている。「母はテレビで見ることをすべて信じている」とアリーナさんは言う。

「プーチンは必要な措置を講じたというのが母の考えだ。兵器が国を取り囲んでいるから、西側からの脅威があるから、プーチンは今回のような行動に出ていると信じている」。

アリーナさんは、母親と「とても激しい言い争いをした」という。
「母は私の言うことを信じないし、私も母の言うことを信じない。私たちの情報源は全く違う。私は、ロシアでは長い間ほとんどブロックされている独立系メディアからすべてを学び、母はテレビを見ている」。

アリーナさんと彼女の友人たちは、ウクライナに関するニュースをソーシャルメディアで追いながら、プーチン氏のウクライナ攻撃決定に対する西側諸国の反発を目にしている。

ロシア人は矛盾した、正反対の反応をしているとアリーナさんは言う。
「1つ目は、誰もが『そうだ、恥じるべきだ』と言うこと。2つ目は、『いや、自分たちを恥じないようにしよう、自分たちが決めたのではないことを自分たちに押し付けないようにしよう』というもの」。

しかし、両者の立場は1つの点で一致しているとアリーナさんは言う。「国際社会に『国民は大統領ではない。そして自分たちが現状を選択したわけではない』ということを知ってもらいたいのだ」。【3月4日 CNN】
**********************

当面は上記記事のアリーナさんと母親の間の溝は埋まらないでしょう。
ただ、今後制裁措置、ロシア孤立化の影響が日常の市民生活に大きな影響をもたらすようになった時点で、母親など国営TV情報に依っていた人々も「どうして、こんなひどいことになったのか?」と、TV情報への疑いを待つようになるのでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナ紛争  可視化された戦争 SNSでの“情報戦” 偽情報も ドローンの成果はロシアの慢心?

2022-03-03 22:17:12 | 欧州情勢
(ロシアのタス通信は2月21日、ロシア領内に侵入したウクライナ軍車両をロシア軍が破壊し、5人のウクライナ兵を殺害したと報道した。その後、この事件に関わったウクライナ兵がヘルメットに付けていたとされるカメラ映像がSNSで拡散した。

映像には、兵士と車両が移動している様子が映っている。ベリングキャットは、この映像で出てくる車両を「BTR70M」装甲兵員輸送車とみている。ウクライナ軍はBTR70Mを運用しておらず、ベリングキャットは「偽旗作戦」の可能性があると指摘する。【2月23日 日経】)

【可視化された戦争 一般市民によるSNS動画分析に注力する各国諜報機関】
戦争の在り様も時代とともに変化しますが、今回のロシア軍のウクライナ侵攻はSNSにアップされた一般市民による動画が戦闘の状況を世界中に知らしめる“可視化された戦争”という特徴があるようです。

ウクライナ政府もそうした動画アップを市民に要請し、各国情報機関もそうした一般市民のSNS動画を分析することに注力しているとか。

****ウクライナ侵攻で世界各国の諜報機関がSNSに齧り付いている…「こたつCIA」の驚くべき実情****
在日ウクライナ大使館の公式Twitterは2月24日、ロシア軍のミサイルがウクライナ国内の国際空港施設に命中し爆発する映像をリツイートした。
 
Twitterに動画を投稿した人物のアカウントには、博士課程の学生という経歴や、ロシアの外交や軍事学が専門、などと書かれている。動画については以下のような説明が付記されていた。
《伝えられるところによると、イヴァーノ=フランキーウシク国際空港を攻撃するクラブ巡航ミサイル》
 
担当記者が言う。「(中略)動画は縦長の画面で収録されており、スマホを使って撮影したと見られます」
戦況を示す動画や写真をSNSに投稿してほしいと、他ならぬウクライナ政府が市民に呼びかけている。(中略)
 
この戦争は「ウクライナ侵攻」や「ウクライナ紛争」などと呼ばれているが、「インターネットの実力を見せつけた戦争」として専門家は注目しているという。自衛隊の関係者が匿名を条件に取材に応じた。

「各国の軍関係者だけでなく諜報機関も、ウクライナ市民がTwitterやTikTokに投稿する動画や画像をチェックし、ロシア軍の動向を把握しています。誤解を恐れずに言えば、専門家の誰もが興奮しています。かつての戦争ならスパイが必死になって集めた情報が、今や自宅でスマートフォンを使って入手できるのです。諜報の専門家は『インターネットの発達により戦争の実相が変わる』と考えています」(中略)

今回のウクライナ侵攻では、インターネットが戦史に新たな1ページを書き加えたと言えるだろう。
「例えば2月17日、ロシア軍の戦車が貨物列車で輸送される動画がYouTubeに投稿されました。(中略)昔であれば目撃されたとしても、それを遠方へ伝える手段は電話や電報といったものに限られていました」(前出の自衛隊関係者)まして戦乱下では貴重な情報が他国どころか自国の中枢にすら届かないことも普通だった。

「ところが、今やスマートフォンとインターネットがあれば、一般市民がウクライナ国内どころか、全世界にロシア軍の動きを伝えることができるのです」(同・自衛隊関係者)
 
インターネットは戦乱に強いメディアであり、「核戦争にも耐えられる通信ネットワークとして誕生した」と解説されることがある。

可視化された戦争
しかし実際には、「核戦争うんぬん」は俗説だとされているようだ。
「核戦争を想定して開発されたという言説は嘘でも、インターネットが戦争や災害に強いことは間違いありません。ネットは一部が寸断されても、残りの部分で通信が続けられます。アメリカ3大ネットワークのCBSはインターネットを使って、キエフの自宅シェルターに隠れている女性にインタビューを行いました。まさにウクライナの現状が、ネットの強さを証明しているのです」(前出の記者)

1991年に起きた湾岸戦争では、CNNがイラクの首都バグダットの空襲を生中継し、世界に衝撃を与えた。しかし今は、スマートフォンさえあれば、誰もがCNN並みの情報配信能力を持っている。

「今回はウクライナ市民の多くがスマホを活用し、戦闘の様子やロシア軍の動きを投稿しているのです。これほど戦争が可視化される時代が来たのかと専門家は衝撃を受けています。ただ、陸戦だからという点は注意が必要でしょう。戦闘機や潜水艦での戦闘は依然として可視化は難しいものがあります。今回の戦争は主に陸上で起きているからこそ、ネットによって丸裸にされているのです」(前出の自衛隊関係者)(中略)

「こたつCIA」の実力
ロシア軍の状態についても、インターネット上の情報から推測することができる。
 
例えば、ウクライナ人がガス欠で止まったロシア軍の戦車の周囲にいる兵士に話しかけた動画が、今世界中に拡散。やはり3大ネットワークのABCがニュース番組で動画を放送した。

「道路で立ち往生している戦車を前に、ウクライナ人がロシア兵士に『自分たちの車で戦車をロシアまで牽引してあげようか』と冗談を言うと、兵士たちは笑っていました。専門家はロシア軍の士気がそれほど高くないことと、補給がうまくいっていない可能性を読み取るわけです」(同・自衛隊関係者)
 
インターネットで検索した情報を元に、極めて安易に書かれたネット記事を「こたつ記事」と呼ぶことがある。
現場での取材や調査もせず「コタツに入ったままでも書ける」記事という意味だが、今回のウクライナ侵攻では「こたつCIA」、「こたつ参謀本部」という様相を呈しているという。(中略)
 
フェイクニュース問題
(中略)実際の戦争だけでなく情報戦も熾烈を極めている。当然ながら、SNSに投稿されている動画や画像には虚偽のものも少なくない。

「各国の諜報機関も、SNSの投稿を『これは事実なのか、フェイクなのか』という調査は徹底して行っているようです。まずは専門家がアカウントを追跡します。すると、ロシア側と思われる人物が偽装して作ったアカウントだと判明することがあるそうです」(同・自衛隊関係者)

更に今回、アメリカは衛星写真など、本来であれば国家機密級の情報を積極的に公開している。
「ロシアに『こちらは全てを知っているぞ』と牽制するためですが、衛星写真はその他の諜報機関にとって、Twitterの投稿が事実かフェイクかを判別するのに最高の判断材料だと言えます。投稿された動画に映り込んだランドマークや地形と衛星写真を整合することで、本当に撮影された場所にいる可能性が高いか低いか、判別することができるからです。軍関係者だけでなく、一般市民ですら、そうした整合作業を行いフェイクを拡散しないように気をつけています」(同・自衛隊関係者)

こたつ「OSINT」の威力
ネット上で検索をすると、結果を検索エンジンなどが記憶し、次の検索に活用しようとする。例えばAmazonで太宰治の小説を検索すると、それ以降、太宰の多作品が収録された文庫などが「お勧め」として表示された経験は誰にもあるだろう。

「同じことが諜報機関でも起きているのです。専門的な知識を持つプロがウクライナ国民によって投稿された動画や画像をSNSで検索すると、それを人工知能(AI)が覚えてくれるのです。後は勝手に『こんな動画もあります、こんな画像もあります』とAIが教えてくれます。諜報に詳しい関係者は『検索の手間すらありません』と苦笑していました」(同・自衛隊関係者)

もともと諜報の分野では、「オープン・ソース・インテリジェンス(OSINT)」という手法が知られている。
「スパイや諜報機関と聞くと、007のように敵の心臓部に接近し、極秘情報を入手するというイメージが浮かびます。それは決して嘘ではありませんが、敵国が公にしている経済統計などを精査するだけでも、重要な情報は得られるのです。それがOSINTという手法です。

今回、ウクライナ侵攻によりSNSで起きていることは、OSINTに有益な情報がネット上にごろごろ転がっているという事実です。諜報の歴史が変わっている瞬間に、私たちは立ち会っていると言えます」【3月3日 デイリー新潮】
********************

【SNSが主戦場となる“情報戦” 意図的に流されるフェイクや情報統制も】
現代の戦争は、ロシア・プーチン大統領が得意とされる(正規戦、非正規戦、サイバー戦、情報戦などを組み合わせた)ハイブリッド戦争が主流になってきているように、“情報戦”が重要な要素となっており、動画に限らずSNSはその主戦場ともなっています。

ただ、上記記事にもあったように、攪乱のために意図的に流されるフェイクもありますので、真偽の見分けが必要になります。

また、そうした“情報戦”に対し情報統制を強化する・・・といった対応もとられます。

****ロシアとウクライナの“情報戦” 戦闘の特徴はSNSを多用した情報発信****
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、長期化の様相も見せ始めていますが、SNSを多用した市民らの情報発信が、今回の戦闘の1つの特徴となっています。

一方、ロシア側からはこれを制限する動きも出ていて、SNSを舞台にした新たな戦争という一面もみえてきました。(中略)

■SNSなどを使った情報発信が多用
今回の戦闘の特徴の1つには、SNSなどを使った情報発信が多用されているという点が挙げられます。例えば、ウクライナのゼレンスキー大統領も自らのSNSに声明の動画を何度もアップして、国民への団結や国際社会への支援を呼びかけています。(中略)

ゼレンスキー大統領は、ロシア軍が士気を喪失していて、食料や安心感も得られていないと主張しています。1週間で約9000人のロシア兵が亡くなったことを動画で明かしました。

一方で、ロシア国防省が発表しているこれまでのロシア軍の死者は498人です。双方の出している数字が全く食い違っていて、これも情報戦の1つとみられています。

特にウクライナ側にとって、こうしたSNSの発信は、1つの武器となっているとみられています。実際、軍事侵攻の直後にロシア側が「ゼレンスキー大統領は、すでに首都・キエフから逃げて別の場所にいる」などの情報を流すと、すかさずゼレンスキー大統領は、自らがキエフにいることを示す動画を掲載し、ロシア側の言い分をきっぱりと否定しました。SNSを有効に活用することで、国民の信頼を維持し、団結力を高めることにつながっています。

また、一般のウクライナ市民もSNSで次々と動画や情報を世界に向けて発信しています。
ウクライナの市民らがロシア軍の車列に対し、「ロシアに帰れ!」などと叫びながら、身を挺して押し戻そうしている動画や、大勢の市民が高速道路を埋め尽くし、ロシア軍の行く手を阻もうとしている動画も掲載されています。

こうした動画が発信されることで、欧米メディアだけでは伝えきれない現地の様子を知る手がかりにはなっています。

■自国に有利な情報だけが、一方的に流される恐れも
一方で、(軍事ジャーナリストの)黒井さんによると、ウクライナ軍側は自分たちの軍に被害が出ている映像は、兵士や市民の士気に関わるので、情報統制して出さないようにしているということです。

ロシア側にとっては、このような動画は好ましくないので、サイバー攻撃や通信を遮断するのではないかと思われていましたが、これまでのところ、そのようなことは行っていないということです。SNSを一部制限するくらいにとどめています。

これについて黒井さんによると「ロシア側は短期決戦でウクライナを制圧できるとタカを括っていたので、準備していなかったのではないか」ということです。それだけウクライナを甘くみていた可能性があると話しています。

ただ、ロイター通信によりますと「ロシアが独立系報道機関を遮断し、ロシア人がウクライナ侵攻のニュースを知ることができないようにした」ということです。

そして、ロシアが「言論の自由と真実に対する全面戦争」を開始したとアメリカが非難したとしています。さらにロシア政府は、ツイッター、フェイスブックなどのSNSも遮断したとアメリカ国務省が発表したことも明かしました。ウクライナの状況は、ロシア国民にますます伝わりにくくなっているようです。

SNSを通じた様々な発信は、メディアが伝えきれない現地の実情を知ることができるという意味では、有用な面もありますが、一方で、政府や軍が情報を統制している場合も多く、自国に有利な情報だけが、一方的に流される恐れもあります。

情報を受け取る側は、そうしたことも十分に理解した上で、情報と向き合うことが重要です。
(3月3日午後4時30分ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より)【3月3日 日テレNEWS24】
*********************

【戦術的に注目されるドローン・・・って、ロシアは対策をとっていなかったのか?】
「ロシア側は短期決戦でウクライナを制圧できるとタカを括っていたので、準備していなかったのではないか」・・・・もうひとつの今回戦闘の特徴と指摘されるドローンについても言えるようです。

戦術的にこれからの戦闘においてドローンが重要な役割を果たす・・・ということは、時に先のアゼルバイジャンとアルメニアの紛争で、トルコ及びイスラエル製のドローンを多用したアゼルバイジャンがロシア製兵器に勝るアルメニア軍を大破していらい再三指摘されており、実際にリビアでも、イエメンでもドローンが使用されています。

****ウクライナでロシア軍の進軍を止めたのは模型飛行機を思わせるようなドローンだった**** 
「ドローン攻撃の成功が、ロシアの誤算を暴露」
ウクライナに侵攻したロシア軍が想定外の抵抗にあって作戦変更も余儀なくされているようだが、その抵抗で活躍しているのが模型飛行機を思わせるようなドローンだった。

「ウクライナのドローン攻撃の成功が、ロシアの誤算を暴露したと専門家は言う」
米国の軍事専門情報サイト「ミリタリー・タイムズ」に2日、こういう見出しの分析記事が掲載された。

それによると、ウクライナ側はロシア軍の侵攻に対してドローン攻撃を積極的に行なっており、戦闘開始当初だけでも32両の戦闘車両を破壊したという。

また、ドローンはロシア軍の地対空ミサイル基地を爆撃したり兵站の車列を攻撃し、その映像はSNSで拡散されて、ロシア軍に対するウクライナの抵抗を世界にPRするのに活用されている。

27日にウクライナ軍が公表した映像は、ミサイルであろう電信柱のような筒状の物体4本を積んだトラックの車列をドローンのカメラが捉え、縦横の照準線が交差するとそのトラックが爆発し炎上する。映像は同時に歓声が上がるのも収録しており、おそらくはドローンの管制画面をスマホで撮影したもののようだった。

トルコ製のドローン「バイラクタルTB2」
そのウクライナのドローンはトルコ製の「バイラクタルTB2」で、全幅12メートル、全長6.5メートル、機尾のプロペラを100馬力のガソリンエンジンで回して飛行する。

米国のドローンのように衛星を使って制御する贅沢を避けて、GPSを活用した自律的なシステムで飛行させるが、それでも300キロ前後の範囲で運用できるという。

言ってみれば、ラジコンの模型飛行機を思わせるような機体なのだが、4発のレーザー誘導ミサイルなどを搭載することができる。

2014年に初飛行し、トルコ軍を始めカタールやアゼルバイジャンにも輸出されたが、ウクライナは2019年と20年に計18機を輸入し、その後48機を追加発注したと伝えられていた。

ロシア軍は今回の侵攻にあたってまず制空権を支配するために、空軍基地をミサイル攻撃したがドローンの基地までを破壊しつくせなかったようだ。おそらくは「バイラクタルTB2」が比較的小型なので空爆に耐える施設に移動し、トラックに搭載できる管制設備と共に隠蔽できたのではないかと考えられる。

そしてロシアの地上軍の侵攻が始まると空から攻撃を開始し、ロシア側が目論んだ「制空権」を渡さないでいるようだ。

ロシア側にとっての“最大の教訓”
米国防総省は、首都キエフへ向かって長さ40マイル(約64キロ)のロシア軍の車列が立ち往生しているようだと明らかにしていたが、こうした車列はドローンにとって格好の標的だろう。

ロシアとて、ウクライナ軍がドローンを装備していることを知らなかったわけがない。しかし、その飛行を妨害するような電子装置などを活用した様子はない。

「ロシア側にとっての最大の教訓」は、「バイラクタルTB2」のように低空、低速で侵入してくるドローンに対しては「旧式の対空兵器」が有効なのに、今回は高速で高高度から攻撃してくるジェット戦闘機を捕捉する「最新鋭の対空兵器」で対応できると考えたことだろう」

「ミリタリー・タイムズ」の記事はこう結論づけており、今回のウクライナ危機は各国の兵器運用にも示唆を与えることになったようだ。【3月3日 木村太郎氏 FNNプライムオンライン】
********************

しかし、先述のように“これからの戦闘はドローンが・・・”というのは、私のようなド素人の門外漢すらこれまで再三ブログで取り上げたきた“一般人的な常識”だと思っていましたので、そのドローンが反政府勢力とか装備の貧困な軍隊ではなくロシア正規軍相手にまた活躍・・・というのは信じがたいところも。

ドローンは速度が遅いとか電子攪乱でコントロールできなくなくなるなどの大きな弱点もある兵器で、上記記事にもあるように対応策をとることもできます。ましてや、アルメニア軍がドローンに大破されたのはロシア製兵器です。

当然に世界最強レベルのロシア軍は対策をとってくるであろうから、ウクライナが数十機レベルのドローンを持っていたところで「そうそう柳の下にドジョウは何匹もいないだろう・・・」と思っていました。

上記記事が本当だとしたらドジョウは何匹もいたようで。というか、ロシアの“慢心”“驕り”でしょうか。それとも、ロシア正規軍をもってしてもドローン攻撃は防ぎきれない?

もっとも、日本・自衛隊のドローン対応は世界から“周回遅れ”状態とも聞きますので、ロシア軍の対応を云々できる立場にないかも。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナ危機  中立化を求めると言いつつ、反ロシアを増強させるプーチン大統領の頭の中の不可解

2022-03-01 22:06:14 | ロシア
(【3月1日 FNNプライムオンライン】 初協議の様子 左:ロシア 右:ウクライナ)

【停戦の合意に向けての本気度は感じられないロシア】
ウクライナとロシアの協議は予想されたように特段の結果を出すには至らず終わりました。今後継続して協議することが合意されたことが唯一最大の成果でした。

双方とも、すぐに何らかの成果が得られるとは考えていなかったでしょう。
ただ、攻撃を受けているウクライナ側には、ロシアの腹のうちを探り、今後へつなげたいという思いもあるでしょう。

ロシアの方は・・・ウクライナ側が要求を全面的にのむなら別ですが、そうでなければ攻撃を続けるだけ、ただ、協議に応じないと国際的に更に非難されるので協議を行うかっこうは示さないと・・・といったところでは。

****両国の“本気度”に温度差? ロシア・ウクライナ初協議****
ロシアの軍事侵攻が続く中、ウクライナとロシアの代表団が初めて停戦に向けた協議を行ったが、結論は出なかった。(中略)

侵攻している側のロシアと、侵攻されている側のウクライナ。両国の協議に臨む姿勢は温度差を感じさせた。

ロシア側のトップ・メジンスキー大統領補佐官は、前文化相で作家でもある文化系の人物で、外交経験が豊富とはいえない。重要な協議の場としては、首をかしげてしまう人選で、協議に臨む本気度が高いとはいえない印象だった。

一方、ウクライナ側は野党議員も含まれていて、一致団結してロシアに立ち向かう姿勢をうかがわせた。
この野党議員は、ロシアに実効支配されているクリミア半島の関係者で、「クリミア問題も忘れない」とウクライナのやる気を示したともいえる。

また、両国の洋服にも温度差を感じた。
ウクライナ側は非常事態の現場から「着の身着のまま」来たような服である一方で、ロシア側は全員がスーツ姿で余裕を感じさせた。

ロシア側の対応からは、停戦の合意に向けての本気度は感じられず、今後も事態の打開にはつながらない可能性がある。【3月1日 FNNプライムオンライン】
*******************

【ウクライナをはじめとした旧ソ連の国々は「半人前」の国家で、その保護者はロシア・・・という世界観】
ロシアが求めているのはウクライナの非武装化(全面降伏)、中立化(NATOへ加盟しないこと)、そしてクリミアのロシア主権承認とのこと。

****クリミアの主権承認などが条件とプーチン氏****
ロシア大統領府によると、同国のプーチン大統領は28日、フランスのマクロン大統領との電話会談で、ウクライナ問題の解決はクリミア半島でのロシアの主権の承認やウクライナの非武装化、中立化が条件だと述べた。【3月1日 共同】
*****************

以前からプーチン大統領が繰り返し主張しているように、ロシアは約束を反故にされる形で、NATOが東方拡大を続けており、ロシア国境に西側が迫っている、この動きを止めることを明確に認めることをウクライナ、NATOに要求しています。

そうしたプーチン大統領の思いの背後には、かなり偏った国家観・世界観が横たわっているようにも見えます。

****《ウクライナ軍事侵攻》「頭の中が100年単位で古い」プーチンの“あまりに特殊な国家観”****
(中略)ロシアは一体なぜ、このような振る舞いを起こしたのか。軍事評論家で、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏のインタビューの中から、その理由を読み解くヒントとなる、プーチン大統領のあまりに特殊な世界観についてここに再公開する(初出:2019年11月24日 以下、年齢・肩書き等は公開時のまま)。

ロシアのあまりに特殊な国家観
〈ロシアの行動原理を理解するためには「彼らの独自のルールブック」を知る必要がある――そう著書に記した小泉氏。まずは、その「あまりに特殊な」国家観について聞いた。〉

――まずプーチン、そしてロシアという国は、いまの世界、そして国際政治の現場をどのように捉えているのでしょうか。
 
ソ連が崩壊して、スーパーパワーでなくなってしまったということが、ロシアにとってはわれわれが想像する以上に面白くないことでもあったし、もっと言うと脅威でもあったと思います。
 
ロシアの世界観は、パワーに大きく依存しています。世の中や国際政治を動かすパワーと一口に言っても様々ですが、ロシアは剥き出しの「軍事力」を極端に強調するんです。「強制的に相手の行動を変えるようなパワー」こそが、国際政治の主要因だと考えているのです。
 
ロシアがこの価値観で自国をみると、実体以上に自分たちのパワーがものすごく弱くなってしまったようにみえる。「外国にいいようにされてしまう」と理解していると思います。

――そのような「特殊な世界観」でみると、他国はどう見えているのでしょうか。
 
力が弱い国、特に自前で安全保障が全うできないような国は、一人前の国家ではないと見なします。「半主権国家に過ぎない」みたいな言い方をするわけです。

「主権」はどの国も確かに持っているんだけど、その主権をフルスペックで発揮できるかどうかは軍事力による、という世界観です。たとえば、プーチンに言わせれば、アメリカに守られているドイツは主権国家ではないとなる。
 
だからロシアにとって、国連常任理事国プラス数カ国ぐらいしか主権国家と呼べる国はないという世界観なんですよね。(中略)
 
クリミア侵略はなぜ起こったのか
――どうしてそんなタイミングでクリミアを侵略したのでしょうか。経済制裁の可能性は検討されなかったのでしょうか。
 
ロシアからしてみれば侵略じゃないんですよね。あくまで「防衛的行動」を取っただけだと思っている。
さきほどから説明しているロシアの世界観で言うと、ウクライナをはじめとした旧ソ連の国々は「半人前」の国家です。「その保護者は誰?」というと、ロシアであるという気持ちでいる。
 
要するに、「君たちは一応独り立ちしてお家をもらったけど、まだ僕の保護下だよね」と思っていて、半人前なのだから、「親の知らないところで勝手なことしちゃ駄目だよ」と。クリミア侵攻の時は、ウクライナちゃんがフラフラとNATOのほうに付いていこうとしたので、ロシアは「駄目だぞ」といって、ゲンコツでポカッとやった。その程度のつもりでいるんですよ。

――旧ソ連諸国には、いまだ「保護者」として振る舞うわけですね。
ロシアの世界観では、まだ危なっかしい独り立ちできない旧ソ連の子たちをアメリカがたぶらかそうとしていると思っている。
 
ウクライナのオレンジ革命、グルジアのバラ革命、キルギスのチューリップ革命……。2000年代に一連の民主化革命が旧ソ連の国々で起こりました。普通なら、「それらの国の政府が汚職にまみれていてパフォーマンスが低かったから、国民に見放されたんだ」と理解するわけですが、ロシアの見方は違います。「これはアメリカの陰謀なんだ」と理解するわけです。全部アメリカが裏から糸を引いていると。(中略)
 
そんななか、2014年にキエフで政変が起き、クリミア侵攻につながっていく。ロシアからすれば、「保護下にあるまだ無力で未熟な国々を、アメリカは裏から操って、そこでこういう政権崩壊を引き起こした。われわれが素早く入っていって守らなければ」という認識で介入したわけです。

でも、当然これはわれわれ西側の人間から見たら、「なんていうことをしてくれるんだ!」という話になりますよね。挙句の果てに、クリミア半島を併合までしてしまう。(中略) 

実際、ドイツのメルケル首相は「19世紀とか20世紀前半みたいな振る舞いだ」という言い方をして批難しました。われわれからすると受け入れがたいし、やはり危険だと見えるわけです。

プーチンは「頭の中が100年単位で古い。数世紀遅れている」
――歴史の教科書で見るような事件に思えました。
 
まさに時代錯誤なんですよ。要するに、「古臭い」んですよね。
ロシアの「パワーこそすべて」みたいな世界観とか、「君らは僕らの勢力圏内にいるんだから、お前らには完全な主権はない」という考え方は、18世紀、19世紀なら普通の考え方だった。プーチンが18世紀のロシア帝国の皇帝だったら名君です。でも、それを21世紀にやってしまったことが大問題なんです。
 
ですから、僕のプーチンのイメージは、「天才戦略家」だとか、「悪のリーダー」だとかいうよりも、「古い男」。頭の中が100年単位で古い。数世紀遅れているというイメージなんです。

――プーチンには、なぜそのような時代遅れの価値観が染みついてしまったのでしょうか?

プーチンを支えるロシアの外交や安全保障、諜報機関、エリートたちの世界観がもともと古いんですよね。
なんでロシアだけが?と思うかもしれませんが、例えば中国も近いんじゃないかと思います。彼らの場合は、経済も成長しているし、イノベーションも起きているから、ロシアよりもう少し頭が柔らかいかもしれませんが。でも、僕は中国の行動にはロシアとかなり近いものを感じます。

――たしかにロシアは、中国と繋がりを深めていますね。
 
中露が気が合っているのは、互いに「権威主義体制(編集部注:一部のエリートによる非民主的な体制)」が必要だと思っている国だからかなと思っています。権威主義はいずれ倒されて民主化されていく――という認識が西側の国にはあるじゃないですか。だから、中国やロシアについても「まだ民主化していない」という言い方をする。
 
ところが中国やロシアからしてみると、「いつか民主化する」なんて思ってもらったら困るんですよ。巨大な国家を統治するためにはこういう政体しかないのであって、いずれ民主化するというビジョンを持たれたら困る――と思っているんです。
 
ロシアなんて、「民主化をしろ」とか、「ジャーナリストを殺害してけしからん」とか言われると、「またそうやって西側は情報戦を仕掛けてきている。民主化の名の下にわれわれの国体を覆す気だな」って認識する。たぶん、これは中国共産党も同じでしょう。(後略)【2月26日 文春オンライン】
**********************

【中立的な国々も反ロシアに追いやる不合理】
プーチン大統領の頭の中が100年“古臭い”だけでなく、彼が行っている“力の行使”はどうもつじつまが合わないように思えます。

NATOがロシアに迫るのやめさせるために・・・といいつつ、ウクライナに軍事侵攻したことで、これまで表向きは「中立的」立場にあった国々が、次々と“反ロシア”の姿勢を明確にしています。

昨日ブログで取り上げたドイツなども、ロシアとはパイプラインで結ばれるほどに近しい関係にありましたが、ショルツ首相が方針を転換してロシアの脅威への抵抗姿勢を明確にしていることは昨日ブログのとおり。それ以外にも・・・

****北欧2カ国もウクライナ武器支援 伝統的中立のNATO非加盟国****
フィンランド政府は2月28日、ロシアが侵攻したウクライナにライフル銃などの武器を供与すると表明した。ロイター通信が報じた。スウェーデンも既に対戦車砲などの供与を決定。イタリアとノルウェー、カナダも28日、武器供与の方針を表明した。
 
北大西洋条約機構(NATO)非加盟で伝統的に中立を守ってきたフィンランドとスウェーデンも、NATO加盟の欧米諸国と同様にウクライナ支援を鮮明にした。
 
ロイターによると、ノルウェーは紛争が起きているNATO非加盟国に武器を供与しないという従来の原則を転換した。【3月1日 共同】
**********************

(ソ連・ロシアの軍事的脅威を真正面から受ける)フィンランドなどは、NATO非加盟で中立路線ということで、紺のウクライナの“モデル”ともされる国ですが、そのフィンランドも反ロシアを明確にしています。更にNATO加盟に向けた世論も高まっています。

****フィンランド、「NATO加盟希望」が初めて過半数に=世論調査****
フィンランド国民のうち、北大西洋条約機構(NATO)加盟を望むとの回答が初めて過半数となったことが、フィンランド国営放送YLEの委託で実施された調査で分かった。

調査は年齢、居住、性別を考慮して代表となる1382人の成人を対象に実施。誤差は2.5%ポイント。

その結果、回答者の53%がフィンランドはNATOに加盟すべきと回答。加盟すべきでないとの回答は28%、「未決定」が19%だった。

YLEによると、調査はロシアによるウクライナ侵攻前日に当たる2月23日に始めたという。

最大日刊紙ヘルシンギン・サノマットの委託で2年前に実施された調査では、加盟を望む回答は20%にとどまっていたが、約2週間前には43%と大幅に上昇していた。こうした調査結果は、国民の態度が急速に変化したことを示しているとみられている。【3月1日 ロイター】
**********************

ほかにも・・・
“永世中立国スイスがEUの対ロ制裁導入、過去の方針転換”【3月1日】
“EU「タブーに踏み込む」覚悟でウクライナ支援 初の武器調達援助”【2月28日 毎日】

ロシアを敵視する勢力が迫るのを食い止めるため・・・と言いつつ、実際にやっていることはロシアの脅威を明らかにすることで、これまで中立的立場を維持していた国々を反ロシア、NATOへ追いやっているだけのように見えます。

こうした事態は侵攻以前から予想されたことで、だから(アメリカは盛んに煽っているけど)まともに考えたらロシア・プーチン大統領は何の特にもならない軍事侵攻はしないだろう・・・と私は思っていましたし、多くの者・国(パートナーの中国も)もそのように考えていました。
更には核兵器使用を示唆するような発言も。
そんなことで、「プーチン大統領、頭おかしいんじゃない?」といった話も。

****プーチン氏の精神状態を疑問視 米議員ら「何かおかしい」****
ウクライナに侵攻した上、核兵器運用部隊に高い警戒態勢への移行を命じたロシアのプーチン大統領の精神状態を疑問視する声が、米国内の有力議員らから出ている。権力者の健康問題はどの国にとっても最高機密で、米情報機関がどの程度正確に把握しているかは不明。
 
米上院情報特別委員会のルビオ上院議員はツイッターで「本当はもっとお話ししたいが、今言えるのは誰もが分かる通り、プーチン氏は何かがおかしいということだ」と指摘した。米メディアによれば、ルビオ氏はプーチン氏の精神状態について政府報告を受けている。【2月28日 共同】
********************

まあ、「おかしい」ことはないのでしょうが・・・ただ、前出のように決定的に思考が古臭く、その思考では現実がどうにも容認できないということなんでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする