家訓は「遊」

幸せの瞬間を見逃さない今昔事件簿

沢登り

2020-12-13 17:04:13 | Weblog
いつの頃だったか私が購入した春野の、この土地に住んでいた人の話を聞いたことがある。
「この沢の上の方から水を引いてきた」と言う。
この沢の正式名称は「カラサワ」だ。
その名の通り、いつも水は流れていない。
雨が降った直後だけ水がある。
とすると、この上から水を引いていたというのは、どういうことなのだろう。
一度登ってみたい、と思い始めて、もう何年も経ってしまった。
今年こそは、と思いを強くしたが夏はヘビが出そうだから、と気温が下がるのを待った。
まずは道路に出て登る沢の写真を撮った。
自分の家の敷地を通って堰堤の上に出て、ここから出発だ。
枯れ枝が大量に落ちているし倒木もある。
地面は小石や大きな石がゴロゴロしていて沢の幅いっぱいに岩があったりする。
途中で一ヶ所だけ枝を切り自分の通る道を作った。
少しだけ水が現れたが、それ以降水は見ていない。
これ以上登っても水はありそうにない、と考えて登ることを止めた。
下方向を見ても、もう道路は見えない。
さてこれからは下りだ。
だが苔むした大岩を降りるのは滑り落ちそうで怖い。
危うい箇所が3か所ほど頭に浮かんだ。
それでは山に入って木々の間を降りていこうと決めた。
幸い獣道があり、それに従っていけば傾斜の緩やかなところに出るだろうと思った。
だがすぐに行き詰った。
足場が悪くザラザラとした小石混ざりの土で何かに掴まらないとズルズル落ちていきそうだ。
ほんの5メートルの高さが15メートルにも感じられ軽いケガでは済まない気がした。
勇気を出して片足を出してみると小石や土が落ちていき沢で大きな音を立てた。
私はセミが木に留まるように地面にしがみつくような格好で自分を落ち着かせ対処法を考えた。
最低3歩進んで杉の木の根に辿りつかないと次のステージには進めない。
まずは自分の足を乗せると滑りそうな枝や石を沢に落とした。
細いツルがあったので、それを持って体重の大半をそちらに乗せるつもりで思い切って移動して杉にたどり着いた。
首筋に何かが当たる感覚を覚えたがヘビでもないしヤマビルでもないと思い道の確保に集中した。
スパイクの無い薄底の地下足袋で地面の感覚をつかみ自分の体の重さと腕力の衰えを痛感しながら一歩一歩進んだ。
やっと我が家の敷地にたどり着いた時には私の枝打ちしたコナラやモミジが明るく輝いて見えた。