野鳥のフクロウ(梟)から始まった話が、あちこちに飛び火し、フクロウを神と崇めているアイヌの口承叙事詩「カムイユカル」に興味を持ち、それらを記録した「アイヌ神謡集」(知里幸恵編訳)を読んでみたくなり、その岩波文庫本版を過日 市立図書館で借りてきて読みました。
アイヌ語は記録用の文字を持たず、音声による口承のみで語り継がれてきた言葉です。 言葉そのものはフランス語に似て、語彙数が少ない(?)ので、説明的に物事を表現する形式のようです。
(例えば、仏語はブラジャーという英単語を仏語に取り入れていないので、「支え・乳」(soutien-gorge)と表現します。 アイヌ語も「蝉(セミ)」を「ユーカラ・キキリ」(yukara-kikiri)、「鳴き声・虫」と表現します。)
神謡そのものは無数にある説話であり、その内容は、外形的には人間(=アイヌ)が神々を崇め祭ったので、人間の生活を守ってやり、海幸や山幸を与えてやったと、動物神や植物神、自然神が説く物語 (即ち逆説的には、神々を崇め祭らなければならないと説く物語)のようです。
「アイヌ神謡集」にはフクロウの神の話が2話載っています。
その1話目の粗筋は、昔金持ちで今貧乏人の子供の(玩具の)矢に当ってやり、捕まえられてその家に行くと、家人は私(=フクロウ)を大事に扱ったので、家を宝物で一杯にしてやった。 家人は、昔貧乏人で今金持ちの人々も招待して、村中の皆と仲良くしたいと願い、聞き入れられた。 爾来人間達は互いに仲良くし、私を崇めているので、私も人間の国を守ってやっている。
まぁ、こう書いてしまえば味っ気も素っ気も無くなってしまい、何と言うこともないのですが、神謡集掲載の全説話を、アイヌ語での発音をアルファベットで表記してあるので、それを声に出して読むとアイヌ語の韻文の美しさが私めにも少しは感じ取れます。 (私めにはまるでフランス語を聞いているように感じられました!)
岩波文庫本版「アイヌ神謡集」は、左側ページにアルファベット表記のアイヌ語の発音を、右側ページが日本語訳(現代かなづかい)になっています。(↓)
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(画像をクリックすれば大きくなりますので、お試し下さい)
アイヌ人の神々、例えば動物神フクロウへの思いも、ほんの少しですが理解できました。 今後 鳥見(とりみ)鳥撮り(とりとり)の時には、その教え(?)に倣って、野鳥達を今迄以上に大事に接していきたいと思います。
岩波文庫本「アイヌ神謡集」表紙の下側半分には市立図書館の蔵書印と分類番号などが記入されたシールが貼ってあるので、それを隠すことも兼ねて、「奥付」の画像を重ねました。(↓)
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(↑の大きい画像はありません)
(↑)の奥付で見て取れるように、1978年(昭和53年)8月16日 第1刷発行。 定価 200円(!)です。 1978年とは私めがベルギーに駐在していた34年も昔です。
尚、「アイヌ神謡集」の初版は1923年(大正12年)8月10日に、金田一京介の尽力によって柳田國男編集の「炉辺叢書」の一冊として、郷土研究社から出版されました。 89年も昔のことです!