安倍内閣・菅内閣の国産ワクチン開発政策の大失態とそれを糊塗する愚かしい論理

2021-03-01 10:11:19 | 政治
 なぜ大失態なのか。その答は簡単である。菅政権は2021年1月7日に1都3首都県に2月7日期限の緊急事態宣言の再発令を行ない、1月13日になって対象地域を栃木県、愛知県、岐阜県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県へと拡大した。そして2021年2月2日の記者会見で栃木県のみの緊急事態宣言を最初の期限としていた2月7日で解除することとし、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県については3月7日まで1か月延長することを決定したと。

 菅義偉2021年2月2日記者会見質疑

 タカハシ「イギリスの軍事週刊誌、ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー、東京特派員のタカハシと申します。

 ワクチンについて伺います。総理、2月中旬から接種を開始したいとの意向を示されましたが、世界では既に60か国近くがワクチン接種を開始しております。日本は何でこんなに時間がかかるのでしょうか。G7の中でワクチンの接種を開始していないのは日本だけです。OECD(経済協力開発機構)加盟国37か国中、ワクチンをまだ未接種なのは日本やコロンビアなど僅か5か国。そもそもワクチンは、国家安全保障や危機管理で凄く重要な、日本でやるべき生産、開発だと思うのです。なぜこんなに日本はできないのか。

 なおかつ、総理はいつも日本は科学技術立国と名乗っていますよね。その立国を名乗るならば、なぜメード・イン・ジャパンのワクチンを生産できないのか。こういう状況で、ワクチンも駄目、あと検査も日本は人口比当たり138位です、世界で。検査不足、ワクチン未接種、この中でオリンピックを強行していいのでしょうか。危機管理でもっとコロナに専念してというのは国民の願いではないでしょうか」

 尾身会長にも、ワクチンは何でこんなに日本が遅いのか、一言伺えればと思います。以上です」

菅義偉「先ず、日本のワクチン研究にも国として支援をしていることは事実であります。しかし、現実的にはまだまだ遅れているということであります。

 ただ、このワクチンの確保は、日本は早かったと思います。全量を確保することについては早かったと思います。ただ、接種までの時間が海外に遅れていることは事実であります。それは日本の手続という問題も一つあると思います。慎重に慎重に、いろいろな治験なりを行った上で日本が踏み切るわけでありますから、そういう意味で、遅れていることは現実であるというふうに思います。

 ただ、こうしてようやくこのワクチン接種の体制ができて、これから始めるようにしたいと思っていまして、始まったら世界と比較をして、日本の組織力で、多くの方に接種できるような形にしていきたい、このように思っております」

 尾身茂(政府新型コロナウイルス感染症対策分科会会長)「日本の国内でも、実はもう御承知のように、ワクチンの生産を今、始めているわけですよね。それで、なぜ日本はというのは、これは今の直接の問題よりも、ワクチンというものの全体の日本の状況を世界と比較すると、日本のワクチン業界というのは、もうこれは個々の企業は本当に頑張っていますけれども、やはりこれはグローバルなスケールという意味では、これは今日の今のことではなくて、全体として日本のワクチン業界というのが、欧米の非常に競争力の強いというものに対して、少しスケールメリットがということだと思います。

 それからもう一つは、今回、欧米の今、話題になっているようなのは全く新しい方法をつくったわけですよね。これについて、日本の場合にはもう少ししっかりと、比較的今までに分かっている方法をという、そういう文化の違いもあるし、だけれども、一番の違いはやはり私は日本のこれは今、今日のことではなくて、ずっとワクチン業界のこのグローバルな競争力というものが本質的にあったのではないかと思います」

 タカハシ記者は日本のワクチン接種の遅れと国産ワクチン開発スピードの遅さを尋ねた。対して尾身茂は「日本の国内でも、実はもう御承知のように、ワクチンの生産を今、始めているわけですよね」とは言っているが、製薬会社や研究所の5組織程が開発に関わっているが、政府の資金を2、3百億と得て、最短で2021年3月から臨床試験開始の意向とか、2021年末までに3000万人分の生産体制構築の目標等を掲げているのみで、臨床試験用のワクチンは生産しているだろうが、効果の承認を受けて、本格的生産に至ることができるのかどうかの保証もない状態にあるのだから、尾身茂の答弁は一種のペテンに過ぎない。

 但し日本のワクチン業界はグローバルスケールが小さく、欧米の競争力と比べた場合、劣るといった趣旨で一応はワクチン開発のスピードの遅さの理由については述べているが、菅義偉は「日本のワクチン研究にも国として支援をしていることは事実であります。しかし、現実的にはまだまだ遅れているということであります」と、なぜ遅れているのかの理由には答えずに表面上の遅れのみを言ってかわすペテンを演じている。

 その上、国産ワクチン開発の遅れをカバーできるはずもないのにカバーできるが如くに「このワクチンの確保は、日本は早かったと思います」と早かったことを以って得点とするトンチンカンは大失態を糊塗する愚かしい論理に過ぎない。

 この「早かった」は厚労相田村憲久が2021年1月20日に記者団に対してファイザーとの間でワクチンが日本国内で承認されることを前提に年内に7200万人分にあたる約1億4400万回分の供給を受ける契約を正式に結んだと発表したことを指す。ワクチン確保の契約が「早かった」ことが欧米と比較したワクチン開発の遅れと接種開始の遅れをカバーできる理由とはならない。

 菅義偉は接種の遅れに関しては国会でも答弁している。

 2021年2月17日衆議院予算委員会

 長妻昭「私も多くの方から色んな聞かれることが多いんですね。その中の一つにですね、素朴な疑問として欧米に比べて何で接種が遅れたんだろうと、こういうことがよく聞かれて、担当の大臣からはですね、色んな河野大臣や田村大臣から色んなお話はこれまであったと思うんですけども、全体を統括する総理としてですね、総理の口からこういう理由だから遅れているんだというのを分かりやすく、今日初めてでございますので、総理の口からご説明頂ければ、ありがたいと思います」

 菅義偉「私自身も早くならないかということで何回となく厚労省始め、関係者と打ち合わせをしました。色んな中で先ずワクチン承認が諸外国と較べて遅い。こうした分析があります。

 我が国は欧米諸国と比較して感染者数は一桁以上少なく、治験での発症者数が集まらず、治験結果が出るまでにかなり時間を要する。これが先ず一つ。

 また一方、ワクチンは人種差が、これ想定されて、欧米諸国の治験データーのみで判断するのではなくて、やはり日本人を対象者とした一定の治験を行う必要があると。さらに有効性・安全性に配慮した結果、時間を要したことは事実だというふうに思います。

 そうした様々なご指摘を真摯に受け止めてさせて頂いて、何とか今月(接種が)始まりますので、ある意味慎重にではありますけども、遅れを取り戻すような多くの国民の皆さんに1日でも早くですね、摂取できる環境をしっかりつくっていくのがこれは政府の責任だと思っています」

 菅答弁で抜けていることは外国産ワクチンに頼ったことが接種遅れの原因の一つになっているということである。勿論、効果の承認を受けた国産ワクチンは未だ一つとしてない。だが、果たして国産ワクチン開発の有効な政策の構築という目は皆無だったろうか。


 この答弁はまた、菅自身が気づいていたのかどうか分からないが、気づいていなかったとしたら、鈍感過ぎるが、そのまま国産ワクチン開発の遅れの理由と重なる。

 「NHK NEWS WEB」記事、「新型コロナ ワクチン接種 海外は開始 日本は2021年2月下旬以降か」 

 2020年12月28日の記事である。この記事の中に「国産ワクチン 開発の現状は?」と「国産ワクチンの効果 確認が難しい?」の中見出し付きでそれぞれに解説が加えられている。前者は省略、後者のみの全文を取り上げてみる。文飾は当方。

 国産ワクチンの効果 確認が難しい?

ただ日本で行う臨床試験には課題があり、欧米や南米などと比べると感染者の数が少なく、臨床試験に参加した人が感染する可能性が各国に比べると低いため、ワクチンの効果を確かめるのは難しいと指摘されています。

また、今後海外メーカーのワクチンが国内で広く接種されるようになると、感染者の数がさらに少なくなったり、多くの人が免疫を持ついわゆる「集団免疫」の状態に近づいたりして、臨床試験で予防効果を確認する難しさが増すのではないかという指摘もあります。

このため国内で医薬品の審査を行うPMDA=医薬品医療機器総合機構は、国内で少人数を対象に行う初期段階の臨床試験を終えたあとは、海外で大規模な臨床試験を行うことも選択肢の1つだとしています。

 この国産ワクチン開発が抱えている困難な条件を伝えている記事前半は上記2021年2月17日衆議院予算委員会で菅義偉がワクチン接種の遅れについて述べたこととほぼ重なる。本来なら、菅義偉は国産ワクチン開発の遅れにも留意が必要だったが、タカハシ記者から日本のワクチン開発の遅れについての質問を受けていながら、「ワクチンの確保は、日本は早かったと思います」と言い抜けるのみで、開発遅れについての留意は見当たらない。

 では、菅義偉が「ワクチン承認が諸外国と較べて遅い」と言っていたことの現状を次の記事から確かめてみる。

 「ファイザー日本法人、日本で新型コロナワクチンの治験開始」(化学工業日報/2020年10月21日)
  
 記事冒頭、〈ファイザー日本法人は2020年10月20日、新型コロナウイルスワクチン「BNT162b2」の日本国内第1/2相臨床試験(P1/2)を開始したと発表した。〉と伝えている。

 20~85歳の健康成人を対象とする日本人160例を登録し、21日間隔で2回接種して、安全性や免疫原性などの評価を行う。この国内第1/2相臨床試験(P1/2)と海外で実施中のP2/3(第2/3 相臨床試験)データを合わせて日本で承認申請を行う方針だとしている。

 このような国内での治験の結果、2020年10月20日の日本国内に於ける治験開始後から約4ヶ月近く経った2021年2月14日に厚労省はその有効性に基づいて「特例承認」とし、国内初の新型コロナワクチンとして正式承認、2021年2月17日から医療従事者を対象とした先行接種の運びとなった。

 ファイザーは2020年7月から米国など6カ国で4万人超を対象に国際共同治験を実施、英政府が他国に先駆けて2020年12月2日に承認している。要するに国際共同治験開始から英国の承認までに約5ヶ月がとこを要している。と言うことは、ファイザーの日本国内治験開始から承認までの約4ヶ月近くとさして変わらない。この近似値は国際共同治験対象が4万人超であることに対して日本人の治験対象が160例と少ないことと、既に国際共同治験で実績を上げていたことから考えた場合、日本での治験結果獲得に日数が掛かり過ぎているように見えるが、上記NHK NEWS WEB記事が指摘しているように、〈欧米や南米などと比べると感染者の数が少なく、臨床試験に参加した人が感染する可能性が各国に比べると低いため、ワクチンの効果を確かめるのは難しい。〉ことが影響していた可能性がある。

 結果として国際共同治験に日本人は治験対象に加えて貰えずに日本国内の治験が後回しにされて、菅義偉が言っているように「ワクチン承認が諸外国と較べて遅い」と状況が生じたのだろうか。

 但しいずれにしても人種差は認められなかった。認められたなら、日本国内での承認を受けることもできなかったし、接種開始に至ることもなかった。

 だとしたら、安倍政権にしても、菅政権にしても、ファイザーの国際共同治験方式を見習って、国産ワクチン開発に取り掛かっている日本の製薬会社や研究所に対して多人数の治験対象を得やすいアメリカ等で治験に臨むことができるような政府援助を伴ったワクチン開発政策を構築できなかっただろうか。

 例えば国産ワクチン開発の塩野義製薬が国内2例目の臨床試験を開始したと伝えている「NHK NEWS WEB」(2020年12月16日)記事を見てみる。1例目となる臨床試験は2020年6月に大阪大学発製薬ベンチャー「アンジェス」(大阪)が行っている。

 塩野義製薬の臨床試験開始は2020年12月16日。214人の健康な成人が対象。ワクチンに似せた偽の薬、偽薬のどちらかを3週間の間隔をあけて2回投与し、1年間にわたって追跡して評価する。この治験は第1/2相臨床試験を指す。1年間追跡後に効果が証明されたなら、第3/4相臨床試験に着手ということなのだろう。この第3/4相臨床試験から承認に至るまでに一定の日数を要することになる。ファイザーが2020年7月から国際共同治験を開始し、約5ヶ月後の2020年12月2日に英政府が承認したスピード感とは桁違いの遅い様相となっている。

 このスピード感も最初のNHK NEWS WEB記事に書いてあるように日本人感染者数が欧米や南米と比較すると極端に少ないことと、、臨床試験参加対象者が感染する可能性が各国に比べると低いことといったことが影響しているのだろうか。

 アンジェスが2020年6月に国内治験開始後の約6ヶ月後の2020年12月18日に米国で第1相臨床試験(P1)の開始を発表したと2020年12月21日付「化学工業日報」が伝えている。

 〈安全性などが確認されたら、中等症~重度の新型コロナ患者を対象としたP2へ進める。P2で良好な結果が得られれば、米国食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請する予定。米国の進捗を見ながら、日本でも開発を検討する。〉と記事は解説している。

 この米国での第1相臨床試験(P1)の開始は記事が解説しているようにアンジェス単独の開発ではなく、カナダのバイオベンチャー、バソミューン・セラピューティクスとの共同開発となっていることから、米国を臨床試験の場所として選んだ可能性が窺うことができる。例え事実は異なっていても、多人数の治験対象者を望むことができる米国で第1相、第2相と効果を確かめつつ、承認を視野に入れた段階で日本国内でも続きの第2相臨床試験を行って、承認に持っていくという計画を立てていることが予想される。

 ファイザーの国際共同治験方式を見習って、国産ワクチン開発に取り掛かっている日本の製薬会社や研究所に対して多人数の治験対象を得やすいアメリカ等で治験に臨むことができるような政府援助をなぜしなかったのだろうか。

 つまりアンジェスは日本国内で第1相臨床試験を開始したものの、米国で改めて第1相臨床試験を開始、第2相を経て承認まで持っていき、成果としたその技術の効果を日本人でも試して、米国内の承認だけではなく、国内承認を獲得する。

 となると、国外から攻めて日本国内の承認に漕ぎつけたファイザー方式と殆ど変わりはない。アンジェスが行った日本国内での第1相臨床試験をファイザーが省き、後回しにした点の違いのみで、アンジェスにしてもこの点を省いて、最初から米国での臨床と承認に的を絞っていたなら、開発のスピードは格段に上がっていたはずである。

 だとしたら、安倍政権にしても、菅政権にしても、ファイザー方式を見習って、国産ワクチン開発に取り掛かっている日本の製薬会社や研究所に対して多人数の治験対象を得やすいアメリカ等で治験に臨むことができるようにワクチン開発の政策を立て、政府援助していたなら、国産ワクチン開発の遅れや接種の遅れを国会や記者会見で追及される恐れは最小限度に抑えることも可能となったはずである。

 こういったことが安倍内閣・菅内閣の国産ワクチン開発政策の大失態の答である。安倍晋三は記者会見で、「政府としても一日も早く皆さんの不安を解消できるよう、有効な治療薬やワクチンの開発を世界の英知を結集して加速してまいります」とか、「私たちは自由民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的な価値をしっかりと堅持していく。そしてこうした価値を共有する国々と手を携え、自由かつ開かれた形で、世界の感染症対策をリードしていかなければならないと考えます」と、安倍晋三自身がさも実効性の実力を備えているかのように見せかけることもなかっただろうし、

 菅義偉が記者から日本の国産ワクチン開発の遅さと接種の遅れを指摘されたのに対して「ワクチンの確保は、日本は早かったと思います」などと、このことを以って国産ワクチン開発政策の大失態の代償とすると同時にその大失態を糊塗する愚かしい論理とする必要性も生じなかったはずだ。

 国産ワクチンを早期に開発できていたなら、日本時間の2021年2月26日夜のオンライン開催のG20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議で麻生太郎が「低所得国にもワクチンがきちんと配布できるよう資金を出し合って、サポートしなければならない」などと今更ながらに言う必要はなく、ファイザーの日本に回したワクチンを低所得国に回す余地も出てくる可能性は疑い得ない。

 菅義偉が「第75回国連総会における菅総理大臣一般討論演説」で、「第一に新型コロナウイルス感染症から命を守るために治療薬・ワクチン・診断の開発と途上国を含めた公平なアクセスの確保を全面的に支援していきます」と国際公約したことをほんの僅かでも果たすことができていたかもしれない。

 あるいはワクチン担当相の河野太郎が記者会見でワクチンの配送状況を聞かれるたびにファイザー社と合意した供給量の各機関への配送を「EUの(輸出)承認が前提だ」と出たとこ勝負の不安定な保証を振り撒く必要性もかなり減らすことができたはずだ。あるいは高齢者の次の番となる一般国民への具体的な接種時期について、「まだ分からない」などと無計画性を曝け出すこともなかったはずだ。

 全てが国産ワクチン開発政策の大失態から始まっている。当然、河野太郎が言っていることも、結果として大失態を糊塗する愚かしい論理から否応もなしに発していることになる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする