田中防衛省沖縄防衛局局長が11月28日(2011年)夜の非公式の懇談会で(と言っても、酒の席での非公式会談だという。)行った発言が問題視され、更迭されることになったとマスコミが伝えている。
先ず非公式の場での発言でありながら、報道した「琉球新報」の報道したことの正当性の主張から見てみる。《沖縄不適切発言:報道した琉球新報「非公式でも許されぬ」》(毎日jp/2011年11月29日 22時3分)
玻名城泰山(はなしろ・やすたか)琉球新報編集局長名コメント「政府幹部による人権感覚を著しく欠く発言であり、非公式の懇談会といえども許されていいはずがない。公共性・公益性に照らして県民や読者に知らせるべきだと判断し、報道に踏み切った」
いくら非公式発言であっても、許される発言と許されない発言がある。許されない発言を報道せずに看過したなら、許されない発言は国民の目が届かない裏で専ら行い、国民の目が届く表の発言は許される範囲内の発言をする、いわば裏ではホンネ、表ではタテマエの使い分けが横行することになる。
そしてマスコミはこのホンネとタテマエの使い分けに付き合うことになって、自らもホンネとタテマエを使い分けた報道に努めることになるはずだ。
そのとき、場合に応じては報道の役目(記事が言っている公共性・公益性)を捨てることもあるに違いない。
こういった場面では、マスコミと政治家・官僚との間に許されない発言を密かに認め合う暗黙の了解が否応もなしに生じることになる。
このような暗黙の相互了解は両者の密かな癒着を意味するはずだ。
では、どのような発言であったのか、最初に報道した「琉球新報」記事から見てみる。《「犯す前に言うか」田中防衛局長 辺野古評価書提出めぐり》(琉球新報/2011年11月29日)
どのような非公式の懇談会であったか、記事は防衛局が呼び掛け、報道陣が応じて那覇市の居酒屋で開いたもので、報道陣は県内外の約10社が参加したと書いている。
元大蔵省が(今でも財務省がやっているかどうかは分からないが)金融機関に「情報交換」と称して呼びかけ、銀座や赤坂の高級クラブで料金は金融機関持ちで飲ませた会合に限りなく通じていないだろうか。
もしそうだとしたら、他人のカネを当てにして酒を飲むなど卑しい限りである。
記事は米軍普天間飛行場代替施設建設の環境影響評価(アセスメント)の「評価書」の年内提出について、一川保夫防衛相が「年内に提出できる準備をしている」との表現にとどめ、年内提出実施の明言を避けていることはなぜかと記者から問われたことに対する発言だとしている。
田中局長「これから犯しますよと言いますか」
「NHK NEWS WEB」記事では、「犯す前にこれから犯すとは言わない」となっている。
果して目的語をつけなかったのだろうか。酒の席である、「女をこれから犯しますよと言いますか」、あるいは、「女を犯す前にこれから犯すとは言わない」と。
一川防衛相が田中局長を直ちに東京に呼びつけて、直接事情聴取を行い、11月29日夜記者会見して田中局長の更迭を発表。《不適切発言の沖縄防衛局長を更迭》 (NHK NEWS WEB/2011年11月29日 20時53分)
一川防衛相「田中局長本人は、発言した内容は報道と同じではないと言っているが、その場の雰囲気や状況からみると、そう解釈されてもやむを得ないということだったので、弁解の余地はないと判断した。本日付で更迭する人事を決めた。
沖縄県民に心からおわび申し上げたい。これまで私たちが沖縄県と信頼関係を向上させるために努力してきたが、それが失われかねないと認識している。普天間基地の移設問題を中心とした懸案事項は、引き続き、従来の方針に沿って進めることには変わりなく、しっかりと反省しながら、おわびするところはおわびし、説明するところは説明していきたい」」
沖縄の反発拡大を恐れて、素早く鎮火に動いたということなのだろうが、根は辺野古移設反対にあるのだから、政府に対する反発は強まることはあっても、収まる方向に動くことはあるまい。
「沖縄県と信頼関係を向上させるために努力してきた」と言っているが、普天間の「国外、最低でも県外」移設に政府が動いてこそ確立しうる「信頼関係」となっているのだから、勘違いも甚だしい幻影でしかない「信頼関係」であろう。
最後に田中局長の発言がどのように問題視されたか見てみる。
最初に上記「琉球新報」は次のように書いている。
〈県などが普天間飛行場の「県外移設」を強く求め、県議会で評価書提出断念を求める決議が全会一致で可決された中、県民、女性をさげすみ、人権感覚を欠いた防衛局長の問題発言に反発の声が上がりそうだ。〉・・・・
「毎日jp社説」
〈評価書の提出は、飛行場の名護市辺野古への「県内移設」に向けた手続きだ。一方、沖縄は「県外移設」を求めて政府と対立している。発言は、沖縄が反対する県内移設に向けた措置を女性への性的暴行にたとえたものであり、言語道断の暴言だ。〉・・・・・
「沖縄タイムズ」
〈女性への乱暴に例えた発言で人権感覚を欠いたとの批判を浴びそうだ。〉・・・・・
「asahi.com」
〈女性への性的暴行に例えた発言で、沖縄県内で反発の声が広がりそうだ。〉・・・・・
糸数慶子参院議員・「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」(那覇市)共同代表「発言が事実だとすれば、絶対に許せない。女性だけでなく、沖縄への差別発言だ。田中局長は基地問題と向き合う資格はない」(YOMIURI ONLINE)
安次富(あしとみ)浩ヘリ基地反対協共同代表「沖縄知事選、名護市長選を通して普天間の県内移設に反対する沖縄県民の民意は明らかなのに、政治家、官僚は押しつけようとする。女性蔑視、沖縄蔑視が本音として出た発言だ
首をすげかえて年内に環境影響評価の評価書を提出する方針だろうが、そんなことは絶対させない」(毎日jp)
どの記事の解説も、あるいはどの発言も主として女性に対する性的暴行に譬えた文脈での女性蔑視だとしているが、普天間の沖縄県内移設実現を性的暴行に譬えて同じレベルの感覚で把えたということになる。
だとすると、女性蔑視であるよりも沖縄蔑視がより色濃くなる発言となる。
だが、ここで問題としなければならないことは強姦は予告なしの暴力的(乱暴)な不意打ちの性格を有した行為だということである。
田中局長はこの意図をより持たせて発言したはずである。一川防衛相はアセスメントに関して「年内に提出できる準備をしている」との表現にとどめ、年内提出実施の明言を避けている。相手に知らせず、不意打ちを食らわす乱暴な形で突然提出して、政府に有利に事を運ぶ。
だから、昨日のツイッターに、〈記者「一川防衛相がアセス年内提出を明言しないのはなぜか」
田中局長「犯す前にこれから犯すとは言わない」
何と表現力豊かな。消費税に擬(なぞら)えると、4年間は犯さないと言いながら、4年経たないうちに犯そうとしていると言える〉と書いた。
消費税増税も4年間は上げないの公約からしたら、国民に対する暴力な不意打ちに相当する。
但しこの不意打ちがアセス提出にとどまるならまだしも、政府の辺野古移設強行実現の第一条件となる海面埋め立てに必要な沖縄県知事の許可権限を知事から取り上げて国に移す特別措置法制定の政府内で予定している不意打ちを田中局長も共有していて、沖縄側からしたら乱暴となる、そのことまで含めた不意打ちを念頭に女性に対する暴力的な強姦に譬えたと解釈できないことはないはずである。
いわば女性に対する強姦が持つ不意打ちに主意を置いた発言ではなく、特別措置法制定のゆくゆくは予定している不意打ちに主意を置いた発言ではないのかの疑いである。
11月25日(2011年)付の「NHK NEWS WEB」記事によると、糸数慶子沖縄県選出参議院議員の「沖縄県が評価書の受け取りを拒否できるかどうかについて」の質問主意書に対する政府答弁書は、「行政手続法で、届出が提出先に到達したときに手続き上の義務が履行されたものとなっている」と、受取拒否できない県の義務だとしたこと、「知事の(海面埋め立ての)許認可権の剥奪を目的とした特別措置法の制定を考慮に入れているのか」の質問に対しては、「移設について、沖縄の理解を得るべく全力で取り組んでいるところで、現時点で特別措置法を制定することは念頭に置いていない」と答弁しているが、あくまでも「現時点」の話であって、県の国に対する義務だとした評価書の受け取り後、次の段階として「特別措置法の制定」の不意打ちに出ない保証はないことになる。
単に女性蔑視・沖縄蔑視と把えて済ますわけにはいかない「これから犯しますよと言いますか」に思えて仕方がない。 |