名古屋入管ウィシュマ・サンダマリさん死亡はおとなしくさせるために薬の過剰投与で眠らせていたことからの手遅れか(2)

2021-09-27 09:21:40 | 事件
 では、看守勤務者たちが彼女にどう接していたのか、事実を偽る女性として色眼鏡をかけ、懲らしめの感情で接するようなことはなかったのかを見るために日を追って、「5本件の検討に先立つ事実関係の整理」(36ページ)の中の「1 医療的対応等の経過」(36ページ)、さらにその中の「(1) 1月中旬以降,3月3日までの医療的対応等の経過」(36ページ)の主なところを纏めてみる。

 「1月中旬以降」は2021年「1月18日(月)」が初日となっている。彼女は食欲不振、吐き気、食後の胃痛,便秘、下肢のしびれ等を訴えていた。令和2年(2020年)12月16日に「支援者から病気になれば仮釈放してもらえる旨言われたことがあり,その頃から心身の不調を訴えている」との物言いで「詐病・仮病」の類いだと疑われ始めてからほぼ30日を超えている。この間に「詐病・仮病」の類いが嘘偽りのない心身の不調に変化していなかっただろうか。だが、名古屋入管がウィシュマ・サンダマリさんの心身の不調を「詐病・仮病」の類いだと見ていることが「調査報告書」に現れたのは死の2日前の2021年3月4日の精神科の受診日だから、少なくとも彼女の死亡の日まで「詐病・仮病」の類いだと延々と疑い続けていたことになる。

 彼女の食欲不振、吐き気等々の訴えに対して庁内診療室の甲医師(内科・呼吸器内科・アレルギー科)によって1月21日にX線検査,血液検査,心電図検査及び尿検査を受けることになった。2020年1月25日に血液検査のための採血が実施された。(検査結果は別紙8のとおり。)と書いてあるが、「省略」処分となっている。

 1月26日に胸部X線撮影と尿検査が実施された (検査結果は別紙9のとおり。)。

 〈甲医師は,X線検査結果に問題はないこと, 食事や水分を摂取すること,尿の混濁等があったため再度尿検査をすることなどを伝えた。〉

 甲医師の診察は何の異常もなしだった。入管は看守勤務者共々、彼女の心身の不調を「詐病・仮病」の類いだと益々疑いを濃くしたに違いない。

 だが、〈A氏は,この日の夜,流し台に嘔吐しており,嘔吐物には血が混じっていた。〉

 嘔吐は演出できるが、嘔吐物に血を混入させることはできるだろうか。

 2021年1月18日から死亡の2021年3月6日に向かってウィシュマ・サンダマリさんは体調を益々悪化させていった。

 1月28日(木)、A氏が胸の痛みを訴えたため,看守勤務者がA氏のバイタルチェックをしたが各数値に異常はなく,救急常備薬の救心(動悸,息切れ等効能を有する生薬製剤)をA氏に服用させた。〉

 バイタルチェックとはネットで調べてみると、人間の健康状態を客観的に数値化し観察する為に行うもので、体温、脈拍、血圧、呼吸、これらを総称してバイタルサイン(生命のサイン=生命の兆候)と言い、機器等を使って計測することを一般的にバイタルチェックと呼ぶと出ている。

 要するに体温、脈拍、血圧、呼吸を計ることは「生命のサイン=生命の兆候」を確認することを意味することになる。勿論、「兆候」には様々な段階があることになるが、段階に応じた生きている証と言うこともできる。

 医師の診断とは別に入管の方は1月28日の出来事も「詐病・仮病」の類いを疑う材料になったはずである。

 2月18日 (木)

 A氏は,庁内診療室において,甲医師の診療を受けた。甲医師は,消化器内科(2月5日)や整形外科(2月16日)での診療結果等を踏まえても,A氏について,器質的疾患がはっきりとしないため,ストレスから自律神経のバランスが崩れ,食欲不振,吐き気又はしびれの症状が出た可能性を疑い,外部医療機関(精神科)での受診を指示した。

 「器質的疾患」をネットで調べてみると、「臓器そのものに炎症や癌などがあり、その結果として様々な症状が出現する病気や病態のこと」と出ていた。甲医師は器質的疾患は見当たらないから、ストレスが主原因の食欲不振や吐き気や痺れではないかと見立てた。

 では、ストレスを引き起こしている原因は何なのか。体調不良、人間関係、将来的不安等々が考えられるが、看守勤務者の方は「詐病・仮病」の類いだと疑っていたから、このような取り扱いがウィシュマ・サンダマリさんのストレスの一つとなっていたと考えられないこともない。あるいは令和3年(2021年)1月4日に日本人支援者を身元保証人として仮放免許可申請を行っている。だが、2月16日に彼女に不許可処分が通知された。この思うようにいかないことが少なくないストレスになっていたと考えることもできるが、6日後の2月22日に2回目の仮釈放申請を行っている。許可されるだろうか、許可されないだろうか、あれこれ考えて悩んだり、今度も許可されないかも知れないとマイナス思考に陥るのもストレスを溜めることになるが、今度は許可されるかもしれないと希望も抱くはずで、希望がストレスをある程度和らげてくれることも考えることができる。

 但し彼女の2021年3月6日の死亡によって2回目の仮放免許可申請に対する判断はなされることはなかった。

 1月28日以降の彼女の体調の変化を「医療的対応等の経過」の中の「(1) 1月中旬以降,3月3日までの医療的対応等の経過」(36ページ)から見ていくことにする。

 ○2021年2月3日(水)

A氏の摂食状況,健康状態の推移を踏まえ,A氏に対し,OS-1(経口補水液)の供与が開始された。

A氏は,繰り返し嘔吐をしていたほか,看守勤務者に対し,胃や腹部の痛み,体の痛み及び発熱を訴えるなどした。

A氏は,同日午後の支援者との面会の際などには,看守勤務者に自力で歩行できない旨訴え,車椅子で移動した。なお,A氏は,この頃から自力では歩けないなどと訴えるようになり,移動の際に,車椅子を利用したり,看守勤務者の介助を受けるようになった。

 〈同日午後の支援者との面会の際などには,看守勤務者に自力で歩行できない旨訴え,車椅子で移動した。〉の文言からは彼女が仮釈放を手に入れるために支援者の指示で歩けるのに車椅子を使ったり、看守勤務者の介助を必要とする振りを装った「詐病・仮病」の類いだと看守勤務者たちが疑っていた節を窺うことができる。

 ここで「詐病」と見られているケースについてネット記事を参考に検討してみる。「病気なのに『仮病』と疑われてしまう ‐ 医師が語る診断の難しいケースとは」(マイナビニュース/2019/06/24 14:19)

 書籍『仮病の見抜き方』の著者医療法人社団永生会南多摩病院の國松淳和医師のセミナーからの抜粋記事である。

 「病気なのに仮病と言われ続けた人」は、〈実際に病気に起因する症状があったが、病気を特定できなかったために仮病と言われてしまった人〉であり、「身体の症状はあるが、身体の病気ではない人」は、〈症状を意図的に作って詐病しようとしている人と、症状を無意識に作り出してしまっている人に分けられる。後者の場合は、治療に精神科の協力が必要になるが、症状は身体に現れているので内科で診ることになるという。〉と出ている。

 「身体の症状はあるが」と言っていることを「身体の症状を訴えている」ケースと言い換えた方が理解しやすい。「身体の症状を訴えているが、身体の病気ではない人」は実際の詐病の場合と、「症状を無意識に作り出してしまっている」場合があり、後者の場合は無意識に作り出した症状が身体に現れることになるから、治療の必要が生じるとの説明である。

 無意識に作り出した症状が身体に現れる症状を「身体化」ということをネットから探し出した。「身体症状症」(MSDマニュアル家庭版/最終査読/改訂年月 2018年7月)に「身体化」とは「心理的な要因が身体的な症状として表出される現象」のことと出ている。さらに〈身体症状症は、かつて用いられていたいくつかの診断名(身体化障害、心気症、疼痛障害、鑑別不能型身体表現性障害、その他の関連症群など)に置き換わるものですと説明している。要するに「身体症状症」とは「心理的な要因が身体的な症状として現れた病」ということになる。

 次のネットページ、「(13)身体化障害」
(一般社団法人 小児心身医学会)が「身体化障害」を簡単明瞭に説明している。

 「身体化障害とは、器質的な病変の存在が証明されないにもかかわらず、多彩な身体症状を長期にわたり訴える疾患です。」

 当然のことだが、最初に取り上げた記事の、「無意識に作り出した症状が身体に現れて、その症状を訴えることになるが、身体の病気ではない場合のこと」の言い換えとなる。まさにウィシュマ・サンダマリさんの様々な症状の訴えは以上の説明に当てはめることもできる。詐病かも知れないし、体のどこも悪いところはないが、ストレスから様々な症状を訴えることになっていたかもしれない。彼女を診察した外部病院の精神科医師が傷病名を「身体化障害あるいは詐病の疑い」としたのは診断がどちらともつきかねなかったということなのだろう。

 だが、身体化障害と詐病とは大きな違いがあり、周囲の人間の見る目・扱う態度にも大きな違いが生じることになるのだから、医師は他の医師の力も借りて、身体化障害なのか、詐病なのか、はっきりと区別すべきではなかっただろうか。ウィシュマ・サンダマリさんの日を追うにつれての症状の訴えには詐病とはとても思えないものがあるからである。

 ○2月16日(火)

A氏は,庁内診療室の非常勤の医師(整形外科)の乙医師による診療を受け,頭,首など,全身のしびれを訴え,食事が食べられず吐いてしまうこと, 眠れないことを話した。

乙医師は,A氏の手足について動作確認等を行ったが,両手両足ともに動かせる状態であるため,A氏の訴える全身のしびれ等は整形外科的な疾患によるものではないと判断し,A氏に精神科の受診を勧めた。

 整形外科の乙医師はストレス性の症状だと見たから、精神科の受診を勧めたのだろう。

 ○2月19日(金)

名古屋局の担当職員が,丁病院(総合病院)精神科にA氏の受診を申し込んだところ,3月4日であれば診療可能であるとの回答があり,同日の受診が決定した(82逃走防止等の観点から,受診の直前まで被収容者本人には外部医療機関の受診を告知しないこととしており,A氏本人に対しては受診直前に告知する予定であった。)。 

なお,甲医師の指示によりA氏の精神科受診が決定したことは,名古屋局幹部や処遇部門職員にも共有された。

 医師からストレス性の体調不良を診断されたのである。いくらルールで告知不可となっていたとしても、被収容者は外出できるだけでも気分転換となって、ストレス解消になるし、楽しみにして待つということもストレス解消に役立つのだから、病院及び受診日を特定せずに「3月に入れば、予約できた病院で診て貰うことができるから」ぐらいは伝えることができなかったのだろうか。彼女に対する親切心があれば、できたはずだが、精神科受診決定を名古屋局幹部や処遇部門職員が情報共有していながら、
ルールを優先させたのは入管ぐるみで彼女に対する親切心がなかったからで、なかった理由は「詐病・仮病」の類いと疑っていたからと見ることができる。にも関わらず、本人が体調不良を申し出た場合は受診させなければならなかった。受診させなければ、支援者に何を言うか分からないし、支援者が直接入管上層部に伝えた場合、上層部にしても「詐病・仮病」の類いと疑っていたとしても、支援者が外部に喋りでもした場合、入管の責任として降り掛かってくる恐れがあることから、担当職員に「なぜ適当に病院に連れて行かなかったんだ」と叱責しなければならないことになりかねないから、診断させることになったといったところか。

 ○2月22日(月)

A氏は,看護師に対し,食べたい気持ちはあるが食べられない旨を述べ,栄養剤の服用を希望したことから,栄養剤処方のため,急遽,甲医師の診療が行われた。甲医師は,A氏の訴える症状等を踏まえ,栄養の摂取を補うために栄養剤を処方することとし,イノラス配合経腸用液(経腸栄養剤)を処方し,たくさん飲みすぎないようにとの注意をした。なお,A氏は,この頃から,ベッド上で仰向けの状態から上体を起こして座位の姿勢をとる際に看守勤務者らの介助を求めることが多くなった。

 〈A氏は,この頃から,ベッド上で仰向けの状態から上体を起こして座位の姿勢をとる際に看守勤務者らの介助を求めることが多くなった。〉。入所当時の健康状態と比較して33歳の若さに反して相当に体力が衰えていると考えなければならないが、仮釈放欲しさの「詐病・仮病」の類いと疑っていて、彼女の体力の衰えを衰えと見ていなかった可能性を窺うことができる。当然、身体化障害(身体症状症)と見ることもなかった。身体化障害の疑いが出てきたのは3月4日、死の2日前の名古屋市内の丁病院の精神科を受診した際が初めてである。そして身体化障害のその症状は既にかなり進行した状態にあった。

 ○2月23日(火・祝日)

A氏は, 体調不良を訴えて嘔吐するなどし,看守勤務者に対し,「私死ぬ。」「病院持って行って。お願い。」 「私,病院点滴お願い。」「救急車呼んで。」 などと言い,外部医療機関で診療を受け,点滴をしてもらいたい旨を訴えた。これに対し,看守勤務者は,上司に話をしている,上司が了解すれば病院に行く,今すぐに病院に行くのは難しい,病院に行くことが決まったらすぐに知らせるなどと答えてA氏をなだめた(83-看守勤務者は,調査チームの聴取に対し,今すぐに病院に行くのは難しいなどと応答した理由について,A氏は救急車による緊急搬送が必要な状態とは思われず,外部医療機関の受診は,緊急搬送でない限り,庁内医師の診療・指示に従っていたこと,さらに3月4日に丁病院精神科の受診についても,逃走防止等の観点から,受診の直前まで被収容者本人には告知しないこととしていたためである旨述べている。)。

A氏は,看守勤務者がトイレへの移動を介助しようとしたのに対し,「私,何もしたくない。」などと言い移動に応じず,おむつを着用して就寝した。

なお,A氏は,この頃から,飲食の際に,看守勤務者や他の被収容者にスプーンで食べ物を口に運んでもらうなど,食事の際の介助を受けることが多くなった。

 先ず、〈外部医療機関の受診は,緊急搬送でない限り,庁内医師の診療・指示に従っていた〉が事実だとしても、〈A氏は救急車による緊急搬送が必要な状態とは思われず〉としていたことは、看守勤務者が緊急搬送は必要ないと判断して、「庁内医師の診療・指示」を仰がなかったことになる。要するに仰ぐ仰がないも看守勤務者の判断一つでということで、「詐病・仮病」の類いと疑っていたことの影響を受けることになる。

 尤も「イ 評価と要改善点」(68ページ)に、〈週2回・各2時間勤務の非常勤内科等医師しか確保・配置〉していないことが出ているから、緊急搬送以外の緊急性を要する治療が発生した場合は急患としての扱いを各外部病院に電話で当たっていたはずで、これも「詐病・仮病」の類いと疑っていたことの影響を受けかねない。「詐病・仮病」に対する懲らしめの感情を芽生えさせて彼女の診察の要望を言葉巧みに断っていなかった保証はない。

 それを〈外部医療機関の受診は,緊急搬送でない限り,庁内医師の診療・指示に従っていた〉のみとするのは「死人に口なし」で、検証のしようがないからだろう。緊急搬送以外の緊急性を要する治療が発生したこともない、急患としての扱いを各外部病院に電話で当たったこともないと主張するなら、主張してほしい。記録を消去していない限り、外部病院への緊急治療通院の記録は残っているはずだからだ。

 トイレへの移動も、食事も、介助を受けるまでになっていた。これも仮釈放を認めさせるための演技、病気のフリと疑っていたはずだ。だが、介助しなければ、支援者に何を訴えられるか知れたものではない。支援者から外部に漏れる危険性は阻止しなければならない。で、仕方なく「詐病・仮病」の類いに付き合っていた。

 ○2月24日(水)

A氏は,看守勤務者に対し,病院に連れて行ってほしい,採尿及び点滴をしてほしい,なぜ自分だけ病院に行けないのかなどと訴えたが,看守勤務者は,病院に行きたいと希望していることは把握している,医師に話しておく,病院に行くことが決まったら知らせるなどと答えた。

看護師は,A氏の意欲の向上,食欲や体力の回復を図るため,同日から,各平日に,1回当たり30分程度のリハビリテーション(深呼吸・腹式呼吸,左右上肢運動,背中・下肢のマッサージ,各関節の屈曲・伸展等)を行い,その際にA氏の体調確認を行うこととした。

(リハビリテーションの計画は別紙6(46頁)のとおり。)。A氏がベッドに寝たままの状態で看護師によるリハビリテーションが行われたが,A氏は,両側膝関節や足関節は屈曲 ・伸展に痛みを訴え,また,両手は開閉がスムーズにできず,他力で指を伸ばすと痛みを訴えるなどした。看護師は,A氏は機能障害でないから,おむつの使用は控えるよう看守勤務者に指示した。

 外部病院の受診が決まっていながら、それを隠して彼女のストレスを高めておいて、一方で1回当たり30分程度のリハビリテーションを行なうことの矛盾したことを看護師は行なっていた。

 リハビリテーションで彼女の〈両側膝関節や足関節は屈曲 ・伸展に痛みを訴え,また,両手は開閉がスムーズにできず,他力で指を伸ばすと痛みを訴えるなどした。〉ことは明らかに体を動かしている様々な器官のうちの何らかの機能を痛めていることによって起きている「機能障害」であるが、看護師は「機能障害でない」としている。「詐病・仮病」の類いと疑っているから、「機能障害でない」と言えたはずだ。「詐病・仮病」の類いだと言いたかった言葉を飲み込んだか。当然、看護師のリハビリテーションは彼女の症状の訴えに対してしなければならない義務感からの機械的な対応だった疑いが出てくる。

 ○2月25日(木)

A氏がベッドに寝たままの状態で看護師によるリハビリテーションが行われた。A氏は,両側膝関節や足関節は屈曲・伸展に痛みを訴え,また,両手は開閉がスムーズにできず,他力で指を伸(83―看守勤務者は,調査チームの聴取に対し,今すぐに病院に行くのは難しいなどと応答した理由について,A氏は救急車による緊急搬 送が必要な状態とは思われず,外部医療機関の受診は,緊急搬送でない限り,庁内医師の診療・指示に従っていたこと,さらに,3月4日に丁病院精神科の受診についても,逃走防止等の観点か ら,受診の直前まで被収容者本人には告知しないこととしていたためである旨述べている 。)ばすと痛みを訴えるなどした。

A氏が官給食をパンに変更してほしい旨の申出をしたが,看護師は,パンは誤嚥の可能性があり,これまでどおりかゆ食が妥当である旨をA氏に説明した。

A氏は,看守勤務者に対し,病院に連れて行ってほしい,なぜ病院に連れて行かないのかなどと訴えたが,看守勤務者は,受診する病院を探しており,まだ行く予定が決まっていないなどと答えた。

 ここでも2月23日と同じように〈外部医療機関の受診は,緊急搬送でない限り,庁内医師の診療・指示に従っていた〉ことと逃走防止の観点を挙げて、診察日を知らせ
ないでいる。看護師でありながら、このことがウィシュマ・サンダマリさんにストレスを与えてはいないだろうかと考える機転が起きないのは「詐病・仮病」の類いと疑っていたからだろう。ストレス負荷防止への配慮があったなら、「3月に入れば、診て貰えることになっているが、向こうの都合で日がはっきりしない。はっきりし次第、教えてあげるから」と安心させる言葉を伝えることができるのだが、何しろ「詐病・仮病」の類いと疑っいるから、彼女の安心を配慮する言葉は出てこない。

 看護師の発言。「パンは誤嚥の可能性がある」。だが、誤嚥防止策としてパン粥にしたり牛乳やミルクティーにつけて食べることがネットで紹介されている。看護師が知らないはずはない。相手の要望に簡単に応えることができることを応えないのは相手に逆にストレス与える要因となる。だが、誤嚥防止の方法を採らずに願いを断った。「詐病・仮病」に対する懲らしめの感情が選択させた嫌がらせということか。

 ○2月26日(金)

午前5時15分頃,A氏は, ベッド上で自ら起き上がろうとした際,バランスを崩してベッドから床に落下した。看守勤務者2名がA氏の居室に入室し,2名でA氏の体を持ち上げてベッド上に移動させようとしたが, 持ち上げることができず,対応可能な看守勤務者が増える午前8時頃に改めて対応しようと考え,Aに対し,朝まで我慢して毛布を掛けて床に寝ていてほしい旨を述べ,A氏は,床に寝ている旨返答した。その後,A氏は,数回にわたりインターフォンを介するなどして看守勤務者に寒いなどと申し立てたが,看守勤務者は,入室はできない,もうしばらく待ってほしい旨返答した。午前8時前頃,看守勤務者3名がA氏の居室に入室し,看守勤務者1名がA氏の上半身を,看守勤務者2名がA氏の足をそれぞれ持ち上げて,A氏を床からベッ ドに移動させた。

看護師によるリハビリテーションが行われ,A氏は,看護師によって手足等を動かされた際,顔をしかめ,痛みを伴う様子をみせた。A氏は,看護師に対し,2月からあまり眠れない,耳の中から海の音が聞こえる旨を述べた。また,A氏は,看護師との間で,おむつをしないこと,一人でトイレに移動する気持ちを持ち,看守勤務者に協力してもらってトイレに移動すること,イノラス配合経腸用液 (経腸栄養剤)を飲むこと,便秘なので新ビオフェルミンS錠 (整腸剤)を飲んだり,ヨーグルトを食べたりすることを約束した。

 ウィシュマ・サンダマリさんの心身の不調を「詐病・仮病」の類いと疑っていたことを証明する一文となっている。彼女がベッドから落ちたが、持ち上げることができず、ベッド上に移動させることができなかった。彼女の令和3年(2021年)2月23日の体重は65.5キログラムである。看守勤務者2名は特に断りがないから、女性ということになる。女性2人がかりでも、体重65.5キログラムの体を果たして持ち上げることができなかったのだろうか。持ち上げる演技をしただけで、ベッドに戻す気がなかったとしたら、「詐病・仮病」の類いと同じく、フリをしただけとなる。 

 持ち上げることがでなかったを事実としよう。椅子に座ると、人の体重の約85%の重さの負荷がかかると言われている。持ち上げた場合、腰から下の体重が少しかかるとして90%と考えたとしても、65.5キログラムの×90パーセント≒59キロ。床に両足を着けた状態で一人ずつ左右から彼女の脇の下に腕を回して、上体だけを持ち上げれば、59キロ/2=29.5キロを一人30キロとしても、持ち上げることができないとするのは難しい。上体を持ち上げて、ベッドの端に座らせれば(ベッドの高さはマットの高さを入れても、50~60センチのはず)、あとは一人がベッドに上がって背中を後ろに傾けて、それを支え、もう一人が両足をベッドの中央に向けて尻を支点に回転させて踵をベッドの中央に持っていき、次に彼女の後ろに回って、二人で再び両脇を持ち上げて、尻をベッドの中央に持っていけば、寝かせつけることはできる。

 試みたけれども、やはり重たくでできなかったというなら、ベッドを寝かせつける場所とは反対の方向に通路を塞がない程度に少しずらしてマットを使っているなら、マットを、布団だけなら、布団を床に敷いて、両脇を持ち上げるのと同じ要領を用いれば、マットか布団の上に寝かせつけることができて、掛け布団をかければ、彼女に何回も寒い思いをさせずに済んだはずである。

 ちょっと気を回せばできることをしなかった。「詐病・仮病」の類いと疑っていたのは事実であって、少しぐらい寒い思いをさせてやれと懲らしめの態度が働いたと見ることができる。

 また、彼女が「寒い」と申し立てたが、看守勤務者は「入室はできない,もうしばらく待ってほしい」と返答したと言うが、真夜中に入室者が自殺を図った、入室者同士が喧嘩をおっぱじめたといったときも、「入室はできない,もうしばらく待ってほしい」と朝8時近くになるまで待つのだろうか。「調査報告書」の5ページには「看守勤務者の職務は,見張り勤務における被収容者の動静監視」と出ている。24時間勤務でありながら、24時間の動静に応じた対応ができなければ、「監視」の役目を果たすことはできない。

 以上の矛盾を考えると、どうにかすればベッドに戻すことができたはずだが、床に寝間着姿で寝かっせ放しにしておいたことに準じた、「寒い」の申立をも無視した扱いだったを答としなければ、この矛盾を解くことはできない。解けない以上、2月26日のこの一文は尤もらしく取り繕った「死人口なし」の作文と見なければならなくなる。

 ○2月27日(土)

A氏は,ベッド上で上体を起こそうとした際に臀部から床に落ちたため,看守勤務者2名がA氏の居室に入室し,A氏の体を持ち上げてベッド上に移動させた。
  
A氏は,看守勤務者2名に対し,「点滴だけお願い。」などと言ったが,同2名は居室の入口付近でA氏のいた方向とは別方向を向いて作業をしており,これに対する回答はされなかった。
 
なお,A氏は,この頃から,ベッド上で座位の姿勢が維持できないため,看守勤務者がA氏の背後に置いた買い物かごや丸めた毛布などに寄り掛かって姿勢を維持するようになった。

 この看守勤務者2名も断りがないから女性であるはず。この日の看守勤務者2名は彼女を持ち上げてベッド上に移動させることができた。この女性看守勤務者は2月26日と違って、力があったというのだろうか。力があって、持ち上げることができたなら、2月26日の看守勤務者が余程の非力ではなく、普通に力があれば、両脇を抱えた上体から先にベッドに座らせる遣り方でベッド上に移動させることができたはずである。だが、しなかった。放置したと考えると、一番理解し安い。当然、そこには懲らしめの感情が存在しなければならない。

 ○3月1日(月)

A氏が,ベッド上に座位の状態でいたところ,急に上体が傾き,手から床に転落した。看守勤務者2名が居室に駆け付けたところ,A氏は,目まいがして倒れた,顔を打ったなどと説明した。A氏の体を確認したが特に外傷は見当たらなかったため,看守勤務者らは,A氏を持ち上げて,ベッド上に移動させた。

看護師によるリハビリテーションが行われ,A氏は,2月からあまり眠れない,頭の中が電気工事しているみたい,騒がしい,目もぼんやりしているなどの症状を訴えた。また,A氏がイチジク浣腸の使用を希望したことから,これを使用し,A氏はトイレで用便をしたが,排便はごく少量だった。

なお,A氏がカフェオレを飲む際に,上手く嚥下できずに鼻から噴出してしまったのを見て,看守勤務者1名が「鼻から牛乳や。」と言ったことがあった。

 この日も女性看守勤務者2名で彼女の体を持ち上げることができて、ベッドに戻した。ベッドからの転落も、「詐病・仮病」の類いと疑っていたが、昼間のことだから(リハビリテーションが行われている)、放置しておくわけにいかず、ベッドに戻したということか。

 ネットで調べたところ、座位の姿勢を保つことができない病気とは姿勢保持障害(身体のバランスがとりにくくなる)、パーキンソン病、脳血管系の障害等だと出ていた。3度目のベッドからの転落だから、重大な病気を疑っていい場面だが、看守勤務者は看護師に知らせたとも書いてない。「詐病・仮病」の類いと疑っていなければ、看護師に知らせないなどということはできないことだろう。

 「なお,A氏がカフェオレを飲む際に,上手く嚥下できずに鼻から噴出してしまったのを見て,看守勤務者1名が『鼻から牛乳や。』と言ったことがあった。」

 「『鼻から牛乳や。』と言った」看守勤務者も女性である。喉に通したはずの水分が鼻から飛び出た場合、むせたり、喉の奥にツーンとしたかなりの痛みが走って、嫌な感覚が残り、すぐには元の状態に戻らない。言った看守が普通の感性の持ち主なら、ウィシュマ・サンダマリさんの病態を考慮して、先ずはカフェオレを鼻から噴き出した事態そのものを、「大丈夫?」とか、「どうしたの?」とか言って心配するはずだが、心身の不調を「詐病・仮病」の類いと見ているから、「鼻から牛乳や」と笑いのネタにすることができた。この言葉には嘲笑のみで、気遣いの一カケラも窺うことはできないのは当然なのだろう。彼女は病気のフリをしているだけなのだからと看守勤務者たちは見ていて、カフェオレを鼻から吹き出す失敗を「ざまあみろ」とか、「バチが当たった」と内心では痛快に思っていたに違いない。

 「3月4日」は既に触れているが、外部病院精神科の受診。この際、詐病又は身体化障害 と診断されて、〈幻聴,不眠,嘔気に効果のあるクエチアピン錠100ミリグラム (抗精神病薬)及びニトラゼパム錠5ミリグラム (睡眠誘導剤,抗けいれん剤)を処方〉されている。翌日3月5日は死の前日である。

 ○3月5日(金)

A氏は,ぐったりとしてベッドに横たわった状態で,自力で体を動かすことはほとんどなく,看守勤務者らの問い掛けに対しても「あー。」 とか「うー。」などとの声を発するだけの場合も多くなっていた。

このようなA氏の状態について,看守勤務者らは,3月4日に外部病院(精神科)で処方された薬の影響と認識していた。

なお,3月5日に勤務した看守勤務者の一人は,調査チームの聴取に対し,精神科で処方された薬を服用させることについて,「過剰投与になったら怖いので,土日に入ることもあり,当日の箱長 (看守勤務者中の最上位の者)がリハビリに来た看護師に尋ねたところ,看護師からは『こういう薬は継続して飲ませる必要がある。』 との回答だったと聞いた。」 旨を述べている。

同日(3月5日)のA氏に対する主な対応状況は,以下のとおりである。

〔午前7時52分頃~〕

看守勤務者2名がA氏の居室に入室し,バイタルチェックを行ったが,血圧及び脈拍は測定できず,看守勤務者は,血圧等測定表の血圧欄には,「脱力して測定できず。」 と記載した。 A氏の手足を曲げ伸ばして反応を確認すると,A氏は,「ああ。」などと声を上げて反応したが,朝食や飲料の摂取を促しても,A氏は,「ああ。」などと反応するのみで,摂取の意思を示さず,看守勤務者が目の前で手を何度も振るなどしたのに対しても,反応しなかった。

〔午前8時57分頃~〕

看守勤務者が点呼のためにA氏の居室に入室し,A氏の名を呼ぶと,A氏は,「あう,あう。」 どと言って反応を示した。〔午前9時18分頃~〕

看守勤務者らがA氏の居室に入室し,A氏に対し,着替えやトイレに行くことなどを促したが,A氏は,看守勤務者が繰り返し問いかけたのに対しても,「あー。」 「あーあー。」などと声を発するのみで,意思表示がはっきりしない状況であった。他方で,A氏をトイレに移動させるため体を動かそうとしたのに対し,A氏は,「やーやー。」などと言って拒んだ。着替えについては,A氏が嫌がる様子を示さなかったため,看守勤務者らがズボン及び下着を着替えさせた。A氏には,衣服の交換に合わせて体を動かすなどの反応はなかった。

なお, 看守勤務者がA氏に何を食べたいかを尋ね,A氏が聴き取り困難な「アロ・・・」 といった声を発したのに対し,看守勤務者1名が「アロンアルファ?」と聞き返すことがあった。〔午前10時41分頃~〕

看守勤務者がA氏の居室に入室し,仰向けの状態のA氏の背中を押して上体を起こし,A氏の背後に布団を積んでA氏を寄りかからせて座位の姿勢にした。A氏は,首に力が入っていない様子で,顔が天井を向き,倒れてしまうことがあった。また,頭部や頸部に力が入っていない様子で,頭部がぐらつくため,看守勤務者が頭部を手で支えるなどした。

A氏は,看守勤務者の介助(スプーンでかゆをすくって,そのスプーンを口元に運ぶ。)を受けて,官給食の朝食のかゆ2口を食べた。また,A氏は,OS-1を看守勤務者に飲ませてもらい摂取した。A氏は,看守勤務者が口に入れたOS-1を,すぐに吐き出すこともあった。この際,A氏が,看守勤務者に,「担当さん。」「座りたい。」などと発言することもあった一方,看守勤務者の問いかけ等に反応しないこともあった。

〔午前11時1分頃~〕

A氏は,看守勤務者に頭を支えてもらった状態で,処方薬(メコバラミン錠(末梢性神経障害治療剤),ナウゼリンOD錠(消化管運動改善剤)及び救急常備薬の新ビオフェルミンS錠 (整腸剤)を看守勤務者に口内に飲み物とともに入れてもらい服用した。この際に,支援者らの面会申出があり,看守勤務者がA氏に対し,面会者が来ている旨を伝えたが,A氏が反応を示さなかったため,面会は実施されなかった。看守勤務者がA氏の背中に触れたときには,A氏が「いたーい,背中いたーい。」などと反応することがあった。

〔午後2時30分頃~午後2時58分頃〕

看護師がA氏の居室に入室し,A氏に対して,リハビリテーションが実施された。 看護師は,リハビリテーションを行いながら,A氏に問いかけるなどしており,A氏は,看護師らに対し,「座りたい。」「担当さーん,お腹すいた。」などと述べることもあったが,その他は問いかけに頷くことが多く,発する声は小さかった。A氏の様子は,体の力が抜けているような状況であり,常時首を動かしていた。看護師が,深呼吸や腹式呼吸をA氏に行わせようとしたが,しっかり行うことができず,手足のストレッチをするために看護師がA氏の手足に触れたり,動かしたりなどすると,A氏は顔をしかめて,「あー。」「あー,足。」などと声を発した。A氏は,マッサージの途中から目が閉じていき,声を掛けられると目を開くような状況であった。

なお,看護師は,看守勤務者から,A氏の血圧を測定できないことがあった旨伝えられたため,手動の測定器を使用して血圧及び脈拍を測定した。その結果は,血圧98ミリメートル・エイチ・ジー/60ミリメートル・エイチ・ジー脈拍112拍/分 (実測)であった。

〔午後3時8分頃~〕

看守勤務者がA氏の居室に入室し,1名がA氏の首の後部に手を回し,もう1名がA氏の背中を押して,A氏の上体を起こした。A氏は,背後の買い物かごと毛布で作られた背もたれに寄り掛かって座位の姿勢となったが,首が安定せず,看守勤務者1名がA氏の頭部を背後から支えた。その状態で,A氏は,看守勤務の介助 (スプーンでかゆをすくって,そのスプーンを口元に運ぶ。)を受けて,官給食の昼食のかゆ10分の1程度を食べ,看守勤務者にOS-1を飲ませてもらった。食事をしている際に,看守勤務者がA氏に声掛けを繰り返したが,A氏が声を出すことはほとんどなく,反応もわずかであった。なお, 食事の途中で,看守勤務者がA氏の頭部を支えるのを止めた後は,A氏が自力で首の安定を保っていた。

〔午後3時29分頃~〕

A氏は,看守勤務者の介助を受け,処方薬 (イノラス配合経腸用液 (経腸栄養剤),メコバラミン錠 (末梢性神経障害治療剤) 及び救急常備薬の新ビオフェルミンS錠(整腸剤))を服用した。A氏は,食事の際と同様の状態で,看守勤務者に薬と飲み物を口内に入れてもらい薬を服用した。看守勤務者からの問いかけに対し,「薬。」などと言葉を発することもあった。〔午後6時5分頃~午後6時20分頃〕

処遇部門は,この頃までに,以後のA氏の健康状態を勘案しつつ仮放免を検討することを決め(詳細は後記第5の3参照),まずは仮放免の可能性に言及しながら体調回復への意欲の増進を図るという方針の下,A氏の居室内で看守勤務者2名 (男性1名 (3月5日の看守責任者) 及び女性1名)がA氏と面接した。

看守責任者は,A氏に対し,「今日は病院行く前とどう。」,「仮放免なったらどこ行くの。」「A氏は,今体がとても悪いでしょ。外で出てS1氏,S2氏, 仮放免行(な)ったらよくなる。」などと問いかけたのに対し,A氏は,「悪くなりそう。」,「S2氏。」,「うん。」などと答えるなどしたが,途中で眠ってしまい,声掛けにも反応しなくなった。しかし,看守勤務者らが退出する前に,A氏から,「担当さん。」などと呼び掛けがあり,看守勤務者は,OS-1を飲みたいかとA氏に確認した後,A氏の上体を起こし,OS-1を入れたコップをA氏の口元に近づけてA氏に飲ませた。

〔午後7時37分頃〕

A氏は,看守勤務者の介助(薬と飲み物を口に入れてもらう。)により,処方薬(メコバラミン錠(末梢性神経障害治療剤),ランソプラゾールOD錠 (消化性潰瘍治療薬),ナウゼリンOD錠(消化管運動改善剤)及び救急常備薬の新ビオフェルミンS錠(整腸剤))を服用した。A氏は,看守勤務者からの問いかけに言葉を発して反応することはなかったが,口を開けるなどの動きはあった。

〔午後7時19分頃~〕 

A氏は,看守勤務者2名の介助(スプーンですくって,そのスプーンを口元に運ぶ。)を受けて,かゆ(スプーン3口程度)及び自費購入のピーナッツバター(スプーン1口程度)をOS-1とともに摂取した。A氏は,看守勤務者から摂取するものを聞かれると,「あー。」「あー。」や「うん。」 などと声を発したり,首を振ったりするなどして意思表示をした。

〔午後9時30分頃~〕

A氏は,看守勤務者の介助(薬と飲み物を口に入れてもらう。)により,処方薬のクエチアピン錠(抗精神病薬)及びニトラゼパム錠 (睡眠誘導剤) 各1錠を服用した。

 先ずウィシュマ・サンダマリさんこと〈A氏は,ぐったりとしてベッドに横たわった状態で,自力で体を動かすことはほとんどなく,看守勤務者らの問い掛けに対しても「あー。」 とか「うー。」などとの声を発するだけの場合も多くなっていた。

このようなA氏の状態について,看守勤務者らは,3月4日に外部病院(精神科)で処方された薬の影響と認識していた。〉

 そしてこのような状態がほぼ1日続いた。彼女は昨夜の薬剤服用によって、いわば意識混濁状態にあった。ところが食事の介助のために上体を起こすのはまだしも(仰向けに寝かせたまま肩と頭を何か宛てがい物をして一定程度高めた状態でも介助はできる)、「午後2時30分頃~午後2時58分頃」にリハビリテーションを実施したことは〈〈A氏は,ぐったりとしてベッドに横たわった状態で,自力で体を動かすことはほとんどなく,看守勤務者らの問い掛けに対しても「あー。」 とか「うー。」などとの声を発するだけの場合も多くなっていた。〉彼女の状態に反して奇怪な行動に映る。そしてリハビリテーションを実施したものの、〈手足のストレッチをするために看護師がA氏の手足に触れたり,動かしたりなどすると,A氏は顔をしかめて,「あー。」「あー,足。」などと声を発した。A氏は,マッサージの途中から目が閉じていき,声を掛けられると目を開くような状況であった。〉

 マッサージならまだ理解できるが、薬剤で意識混濁状態にあるのに手足のストレッチは何のためにしたのだろう。

 3月4日は〈看守勤務者は,同日から,丁病院で処方されたクエチアピン錠(抗精神病薬)及びニトラゼパム錠(睡眠誘導剤)各1錠を就寝前にA氏に服用させた。〉と書いてあるのみで、時間は書いてないが、処方は日1回,就寝前に各1錠服用となっている。3月5日は「午後9時30分頃~」に、〈A氏は,看守勤務者の介助(薬と飲み物を口に入れてもらう。)により,処方薬のクエチアピン錠(抗精神病薬)100ミリグラム及びニトラゼパム錠5ミリグラム(睡眠誘導剤)各1錠を服用した。〉となっているから、3月4日の服用も同じ頃の時間帯と見る。

《名古屋入管ウィシュマ・サンダマリさん死亡はおとなしくさせるために薬の過剰投与で眠らせていたことからの手遅れか(3)》に続く

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名古屋入管ウィシュマ・サンダマリさん死亡はおとなしくさせるために薬の過剰投与で眠らせていたことからの手遅れか(3)

2021-09-27 09:14:48 | Weblog
 では、ネットで探した両剤の副作用をここに載せてみる。

 「ニトラゼパム錠5mg」(睡眠誘導剤)

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用をやめて、すぐに医師の診療を受けてください。
•呼吸困難、判断力の低下、めまい[呼吸抑制、炭酸ガスナルコーシス]
•薬を中止しようとしても欲求が止められない、(中止などにより)痙攣・不安・幻覚、不眠[依存性]
意識が乱れ正常な思考ができなくなる、考えがまとまらない、時間・場所がわからない [刺激興奮、錯乱]
•全身けん怠感、食欲不振、皮膚や白目が黄色くなる[肝機能障害、黄疸]


 「クエチアピン錠」(抗精神病薬)
   
【警 告】
1.著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。
2.投与にあたっては、あらかじめ上記副作用が発現する場合があることを、患者及びその家族に十分に説明し、口渇、多飲、多尿、頻尿等の異常に注意し、このような
症状があらわれた場合には、直ちに投与を中断し、医師の診察を受けるよう、指導すること(「重要な基本的注意」の項参照)。
 
【禁 忌(次の患者には投与しないこと)】
1.昏睡状態の患者[昏睡状態を悪化させるおそれがある]
2.バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者[中枢神経抑制作用が増強される。]
3.アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)(「相互作用」の項参照)
4.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
5.糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

 クエチアピン錠(抗精神病薬)は糖尿病の疾患さえなければ重大な副作用は心配ないように見える。ニトラゼパム錠(睡眠誘導剤)の方が服用にはより注意が必要なことが分かる。

 また「睡眠誘導剤」は文字通り睡眠を誘導し、一晩の睡眠を安定的に保つ役割の薬剤であって、安定的な睡眠のあとに明瞭な覚醒を約束するもので、重篤な副作用さえ生じなければ、一晩を超えて日中の睡眠まで約束するものではないはずだ。

 3月5日の記録は「午前7時52分頃~」から開始されている。3月4日就寝前の服用から約10時間は経過していると見ることができるが、朝の8時近くになっても、〈A氏の手足を曲げ伸ばして反応を確認すると,A氏は,「ああ。」などと声を上げて反応したが,朝食や飲料の摂取を促しても,A氏は,「ああ。」などと反応するのみで,摂取の意思を示さず,看守勤務者が目の前で手を何度も振るなどしたのに対しても,反応しなかった。〉と、どうにか覚醒はしているが、寝たきりで能動的な意思表示を失った状態となっていた。

 このような状態はニトラゼパム錠の(睡眠誘導剤)に副作用として書かれている〈意識が乱れ正常な思考ができなくなる、考えがまとまらない、時間・場所がわからない〉のうち、意識は乱れていないが、「正常な思考ができない」状態であり、「判断力の低下」を示す兆候と言える。多分、「判断力の低下」に付随して「時間・場所がわからない」状態に陥っている可能性もある。

 当然、注意書きとして書いてある、〈このような場合には、使用をやめて、すぐに医師の診療を受けてください。〉に従わなければならない状況にあるはずだが、看護師は当日の箱長(看守勤務者中の最上位の者)が処方薬の「過剰投与になったら怖い」というので服用継続の可否を尋ねたのに対して「こういう薬は継続して飲ませる必要がある」と答えた。

 大体が常識的に考えても、服用から約10時間は経過していたなら、重篤な副作用が生じていない限り、服用前の体の反応と判断力を最低限は回復していなければならない。服用10時間経過後も、それらが回復できない薬の処方などあるのだろうか。看護師である以上、そのような薬の処方はないを常識としていなければならないはずだ。回復できずに体の反応と判断力が服用前よりも悪化していたなら、明らかに副作用と見る常識のことである。

 勿論、薬の効き方には個人差がある。当然、服用も個人差に応じなければならない。昨夜の薬の服用で〈朝食や飲料の摂取を促しても,A氏は,「ああ。」などと反応するのみで,摂取の意思を示さず,看守勤務者が目の前で手を何度も振るなどしたのに対しても,反応しなかった。〉と朝食時になっても正常な体の反応と正常な判断力の喪失が彼女本人の個人差による副作用だとしたら、逆に服用を控えて、以後の様子を見るなり、嘱託の庁内医師が勤務外の日であるなら、受診した外部の精神科医に問い合わせするなりしなければならない。だが、そのような配慮は一切せずに看護師はウィシュマ・サンダマリさんの心身の状態に応じることなく機械的に継続服用を求めた。このことを常識の範囲内だとすることができるだろうか。

 「(2)A氏に対する抗精神病薬及び睡眠誘導剤の処方に問題はなかったか」(75ページ)の、「ア 経緯と背景事情(3月4日受診時の状況等)」には、〈第三者である総合診療科医師は,「A氏に対する1日当たり100ミリグラムを1錠という処方量は通常量と言え,処方の仕方に問題はなかった」との見解を述べている。〉と処方量に間違いないと証明している。だが、薬には副作用があり、看護師は医師に頼らなくても、副作用なのか、副作用ではないのかを見抜くことができる、あるいは疑うことができる常識だけは備えているはずだし、備えていなければならないはずだ。

 「イ 評価と要改善点」(76ページ)

医師である2名の有識者からは,

〇医師からA氏がこのような状態になったらこのように対処するようにという指示がなかったのであれば,名古屋局職員が服用の継続の当否を判断するのは難しかっただろうとの指摘がなされた。

また,1名の有識者からは,

○週末で医療従事者が不在となることが分かっていたのであるから,事前に名古屋局職員から戊医師に対し,処方された薬剤の留意点について説明を求めるなどして情報を得ておくべきであったし,同薬剤を服用した後,A氏に外観上の顕著な変化が現れたのであるから,その時点でも処方した戊医師に相談できる体制が必要であった。 名古屋局側と外部医師との間でのコミュニケーションの在り方に問題があったとの指摘がなされた。

そうすると,看守勤務者が3月5日もA氏に対して抗精神病薬及び睡眠誘導剤を服用させたこと自体に問題があったとまでは評価できないと考えられるが,休日に医療従事者が不在となるのであれば,休日の間に体調不良の被収容者に服用させる薬剤の効果や副反応につき,処方した医師から事前に十分な情報を得ておくべきであった。また,そうした薬剤の服用の結果,被収容者に外観上の顕著な変化が現れたと思われる時は,休日であっても処方した医師に連絡・相談し,又はそれに代わる対応をとることができる体制を,組織として整備しておくべきであった。

しかし,名古屋局では,こうした対応体制が整備されていなかった。

特に休日において,内外の医療機関との連携を強化する必要がある。

 2名の有識者は、要するに"外観上の顕著な変化"が生じた場合はどう対処するか医師から指示がなかったのだから、名古屋局職員が、つまり当時の看護師が「服用の継続の当否を判断するのは難しかっただろう」と擁護していて、"外観上の顕著な変化"を副作用ではないかと疑う看護師としての常識を問題の外に置いている。

 1名の有識者にしても同様である。ウィシュマ・サンダマリさんの3月5日の容態としてあった服用後約10時間後の「外観上の顕著な変化」をどう捉えるかの看護師としての常識は問わずじまいで片付けている。服用10時間経過後の体の反応と判断力が薬剤の服用前よりも悪化しているという状況は副作用抜きではあり得ないことだが、そうは見ていなかった看護師の常識を異常とも見ていなかった。

 看護師が最後の最後まで副作用と見る常識を発揮しなかったと考えられる理由は看守勤務者たちがウィシュマ・サンダマリさんの心身不調を「詐病・仮病」の類いと疑っていて、懲らしめの感情から、外部精神科医に睡眠誘導剤と抗精神病薬を処方されたのを幸いとばかりに彼女を静かにさせるために過剰服用させた結果の"外観上の顕著な変化"――服用前よりも悪化した体の反応と判断力であるということを承知していたからとするしか答を見出すことはできない。

 このことの状況証拠を一つ示すことができる。死亡した3月6日の報告に見つけることができる。

 ○3月6日(土)(52ページ)

A氏は,午前中,ベッドに就床し,大きく呼吸しつつ,首を上下左右に振ることを繰り返していたが,看守勤務者らの問いかけ等に対する反応は弱く,看守勤務者が着替えをさせた際に,「あー。」 と声を上げて顔をしかめる程度であった。

午後1時過ぎ以降,A氏は,次第に,就床しながら首をかすかに動かす程度となり、午後2時7分頃の看守勤務者による体調確認の際には脈拍が確認されず,外部医療機関に救急搬送されたが,午後3時分頃,搬送先の病院で死亡が確認された。

同日のA氏に対する主な対応状況は,以下のとおりである。

〔午前7時1分頃~〕
A氏の居室内の照明を点けた後,室外から看守勤務者が声を掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午前8時12分頃~〕
看守勤務者らは,A氏の居室に入室し,A氏の顔をのぞき込みながらA氏に繰り返し声を掛けたが,A氏がほとんど反応を示さず,バイタルチェックにおいても血圧及び脈拍が測定できなかったため,血圧等測定表の血圧欄には,「脱力して測定できず。」と記載した。

〔午前8時56分頃~〕
女子区の被収容者について点呼が行われた。男性の副看守責任者と女性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,A氏に対して,「おはよう。」「目を開けて。」 などと何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったりするなどもしたが,A氏は反応を示さなかった。看守勤務者は,A氏の手首に手で触れてA氏の脈拍があることを確認した。

〔午前9時10分頃~午前9時24分頃〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し,A氏に対し,朝食を食べるよう促したほか,A氏の下着を着替えさせるなどした。時折,A氏は,「あー。」などと声を上げることもあったが,看守勤務者からの問いかけに明確に意思を示すことはなかった。

なお,この際,看守勤務者が,A氏に対し「ねえ,薬きまってる?」と述べたことがあった。

〔午前10時40分頃~〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し,朝食の摂食と処方薬の服用を促すなどした。A氏は「あー。」「うー。」などと声を発することもあったが,看守勤務者の問いかけに反応しないこともあった。看守勤務者らは,A氏の上半身を起こし,処方薬のイノラス配合経腸用液 (経腸栄養剤)及び(メコバラミン錠 末梢性神経障害治療剤)を服用させた。この際,看守勤務者1名が背中及び頭を支え,もう1名の看守勤務者が口内に薬と飲み物を入れた。A氏は,時折むせたり,飲み物を吐き出したりしながらも,薬を服用した。

〔午後零時56分頃〕
看守勤務者は,A氏の昼食が全量未摂食で居室入口の食事搬入口に置かれているのを見て,搬入口の外から室内のA氏に向かって食べるようにと促したが,A氏が反応を示さなかったため,昼食用食器を搬入口に残置した。

〔午後1時31分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声を掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後1時50分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏。」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時3分頃〕
看守勤務者は, A氏の居室の室外から,「A氏,A氏,聞こえる?」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時7分頃〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し, A氏の体を揺すったり,耳元で呼び掛けたりしたが, A氏は反応を示さなかった。 また,看守勤務者がA氏の体に触れて確認したものの,脈拍が確認されず,A氏の指先が冷たく感じられた。さらに,A氏の血圧等を測定したが,測定不能であった。

〔午後2時11分頃〕
男性の副看守責任者及び男性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,女性の看守勤務者が再度,A氏の血圧等の測定を実施したが,測定不能であった。また,A氏の脈拍は確認できなかった。

〔午後2時15分頃〕
副看守責任者が電話により救急搬送を要請し,通話を継続しながら,看守勤務者に対し,AED装置の使用を指示し,看守勤務者がA氏に対するAED装置の装着を開始した。

〔午後2時20分頃〕
看守勤務者が, A氏の体にAED装置を装着し終えたところ,電気ショックを与えることなく心臓マッサージを必要とする旨の音声指示が流れたことから,心臓マッサージを実施した。

〔午後2時25分頃〕
到着した救急隊員にA氏の救命措置を引き継いだ。

〔午後2時31分頃〕
A氏は外部の病院に救急搬送された。

〔午後3時25分頃〕
搬送先の病院でA氏の死亡が確認された。

 3月4日就寝前の薬剤服用で3月5日は明らかに彼女の体の反応と判断力が服用前よりも悪化していたにも関わらず、3月5日も「午後9時30分頃~」に看守勤務者は彼女にクエチアピン錠(抗精神病薬)とニトラゼパム錠(睡眠誘導剤)を各1錠ずつ服用させた。2021年3月6日は土曜日で、毎週月曜日及び毎週木曜日午後1時15分から午後3時15分まで勤務の庁内内科医も、毎月第三火曜日午後3時から午後5時まで勤務の庁内整形外科医も不在で、月曜日から金曜日までの午前9時から午後5時45分までの勤務の女性看護師1名も、准看護師2名(男女各1名)も休日不在であった。当然、看守勤務者とその上司のみで対応することになるから、それぞれの場に応じた早め早めの適切な対応が必要になる。万が一に備えるのが危機管理で、名古屋出入国在留管理局も万が一に備えた体制は十分であったはずだ。

 最初に「午前9時10分頃~午前9時24分頃」に看守勤務者たちがウィシュマ・サンダマリさんの居室に入室し、朝食の指示、下着を着替えさせたことについて触れてみる。下着を着替えさせるのは昨日の3月5日から始まっている。3月5日のその箇所を改めて取り上げてみる。

 〈看守勤務者らがズボン及び下着を着替えさせた。A氏には,衣服の交換に合わせて体を動かすなどの反応はなかった。〉

 このような体の反応を彼女を静かにさせるために3月4日に外部整形外科医から処方された睡眠誘導剤か抗精神病薬を、あるいはその両方を過剰服用させたためと疑っているが、3月6日の午前9時過ぎの彼女の体の反応は看守勤務者らが彼女の居室に入室し、彼女に朝食を食べるよう促したほか、下着を着替えさせるなどしたが、時折、彼女は「あー」などと声を上げることもあったが、看守勤務者からの問いかけに明確に意思を示すことはなかった状態にあった。

 要するにベッドに寝かせた状態でズボンと下着を着替えさせたのだろう。だが、足を持ち上げようとする気配も、尻を浮かそうとする意思も見せなかった。看守勤務者のなすがままになっていた。普通だったら、植物状態か、植物状態に近いと見られところだが、このような状態が3月5日は1日中続いていて、さらに「午後9時30分頃」に看守勤務者が介助してクエチアピン錠(抗精神病薬)とニトラゼパム錠 (睡眠誘導剤)を各1錠ずつ服用させた翌日3月6日の3月5日に続く心身の反応なのだから、医師も看護師も、准看護師も不在ということなら、普段利用している土曜日も診療している外部医療機関に連れていくか、愛知県全般の各市町村に休日夜間診療所を設けていて、名古屋市もその例に漏れず、救急搬送ではなくても、「平日夜間・土曜・日曜・祝日・年末年始」の救急診療を受け付けているのだから、連れていかなければならない体の状態だったはずだが、そういった処置は採られることはなかった。

 「ウ 休日,夜間等の庁内医師らの不在時の対応」(11ページ)には、〈休日,夜間等の庁内医師らの不在時に,看守勤務者が被収容者の体調不良を把握した場合は,直ちに看守勤務者から看守責任者に報告することとされていた。

 報告を受けた看守責任者は,当該被収容者の症状等に応じ,外部医療機関への救急搬送又は救急外来への連行,休養室での容態観察,救急常備薬の投与等の対応判断し,措置後,事後的に担当収容区の統括入国警備官,処遇部門首席入国警備官に報告していた。〉と従来からの規則を述べているが、規則通りの措置にしても何ら顧みられることはなかった。 

 その理由はズボンと下着を着替えさせた際に看守勤務者が彼女にかけた言葉にある。「ねえ,薬きまってる?」

 この場面で言っている「きまる」は薬物の効果で精神が高揚状態、あるいは恍惚状態になっている様子を指す言葉である。だから、主語は「薬」という単語でなければならない。「薬」という言葉を使わなくても、主語は「薬」を意図していなければならない。

 ウィシュマ・サンダマリさんに対して看守勤務者たちが「何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったり」したのは睡眠誘導剤や抗精神病薬の副作用が原因の意識混濁状態だとは見ていないからできたことであろう。もし副作用だと見ていたなら、手術後にまだ全身麻酔が効いていて昏睡状態にある患者は静かに寝かせておくようにそっとしておくはずである。要するに処方された薬で眠っている状態にあるわけではないことを承知いる状況下で、「ねえ,薬きまってる?」と聞いた。大体が薬剤の服用の影響で意識が混濁状態にあると見ていたなら、彼女の容態を気にかけなければならない立場と時と場合に置かれた看守勤務者が口にするにふさわしい言葉とは決し言えないし、冗談を口にしていい場面でもない。となれば、揶揄する気持ちは含まれていても、ウィシュマ・サンダマリさんのそのときの体の状態を言葉の意味のままに問い掛けた事実だけが残ることになる。

 要するに彼女の心身の不調を「詐病・仮病」の類いと疑ってかかって、3月5日と同様に懲らしめの感情から薬で眠らせておいたと疑うことができる。あるいは静かにさせて、手のかからない状態にしておいた。問題は一人の女性看守勤務者のみが行なったことなのか、担当の看守勤務者たちがグルで行なったことなのかである。

 看守勤務者たちが「何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったり」したのは睡眠誘導剤や抗精神病薬の副作用が原因の意識混濁状態だとは見ていないからだけではなく、薬で眠らせていることを悟られないための演技である可能性が出てきて、グルで行なっていた疑いが濃くなる。

 薬を飲ませていたと疑うと、3月5日「午前9時18分頃~」の発言、〈看守勤務者がA氏に何を食べたいかを尋ね,A氏が聴き取り困難な「アロ・・・」 といった声を発したのに対し,看守勤務者1名が「アロンアルファ?」と聞き返すことがあった。〉の「アロンアルファ?」にしても、シンナーと同列の「薬」として反応した発言の可能性が出てくる。

 尤も「アロンアルファ?」は有機溶剤を含まないということで、実際にはシンナーの代用にはならないそうだが、女性看守勤務者がその知識がなかったなら、シンナーの代用となる有機溶剤入りの一般的な接着剤の連想から、「アロ・・・」と口から漏れた言葉を「アロンアルファ」に反射的に引っ掛けたということもある。

 調査チームの検証、「3 A氏に対する収容中の介助等の対応の在り方」「(介助を要する状況の下で,A氏への対応は適切に行われていたか)」(80ページ~)には、〈3月1日に体調不良によりA氏がうまく摂食等ができない状態にあったことを受けた「鼻から牛乳や。」との発言,3月5日や死亡当日の午前に,A氏が脱力し,明確に意思を示さないなどの状態であった中での,3月5日の「アロンアルファ?」と聞き返した発言及び3月6日午前の「ねえ,薬きまってる?」との発言など。〉に関して、〈そうした発言をした看守勤務者の一人は,A氏の介助等により業務に負担が生じていた状況が長期化しつつあった中,職員の気持ちを軽くするとともにA氏本人にもフレンドリーに接したいなどの思いから軽口を叩いたものであった旨供述している。〉としている。

 「鼻から牛乳や。」はウィシュマ・サンダマリさん自身を笑ったもので、この笑いにはよく言ってからかい、悪く言うと、嘲笑が含まれている。同僚を笑わす意図の言葉であったとしても、からかいや嘲笑に同調する衝動を与えるだけで、「気持ちを軽くする」作用は持たない。もし気持ちが軽くなったりしたら、彼女に憎しみの感情か蔑みの感情を持っている場合であろう。「ざまあみろ」という感情が働けば、気持ちが軽くなる。当然、彼女に「フレンドリーに接したいなどの思いから」の「軽口」などではない。

 「アロンアルファ?」は職員の気持ちを軽くするために叩いた軽口だとするのは一応は筋は通るが、彼女は看守勤務者が「フレンドリーに接したいなどの思い」を示したとしても、伝わる心身の状態にあったわけではない。〈「あー。」「あーあー。」などと声を発するのみで,意思表示がはっきりしない状況であった。〉のである。職員の気持ちを軽くする役には立っても、看守勤務者のフレンドリーさは彼女に対しては意味をなさないことになる。

 もしフレンドリーさを何とはなしに感じ取って貰うだけもいいということで発した言葉なら、〈看守勤務者がA氏に何を食べたいかを尋ね,A氏が聴き取り困難な「アロ・・・」 といった声を発した〉以上、看守勤務者は聞き返して「アロ」から連想できる食べ物か飲み物を何としてでも探り当てて、その食べ物か飲み物を用意し、介助するなりして相手の味覚と食欲を満足させるべきだったが、食べ物とは連想が断絶した「アロンアルファ?」と聞き返したのは、食べ物を探り当てる気などなく、瞬間的にそこに連想が働いたからであって、その連想に意味を求めなければならない。「フレンドリー」でも何でもなかったということである。

 最後に「ねえ,薬きまってる?」の検証について。彼女の意識混濁状態を薬物の効果で精神が恍惚状態に入っていると見立てることは同僚を笑わすことはできても、ウィシュマ・サンダマリさんに対しては失礼を通り越して侮辱に当たる。「フレンドリー」が「侮辱的」という意味を取るなら、「フレンドリーに接した」ということになるだろう。

 問題は看守勤務者たちが彼女の心身の不調を「詐病・仮病」の類いと疑ったことによってそのときどきで現れることになっている処遇態度であるという視点から調査・検証しているかどうかであって、していなければ、「調査報告書」は欠陥を抱えることになる。

 以上の3つの発言に対する「イ 評価と要改善点」

 〈この点について,3名の有識者から,(83ページ)

 看守勤務者の不適切な発言については,介助等の負担の中,職員の気持ちを軽くするとともにA氏本人にもフレンドリーに接したいなどの思いからであったとしても,明らかに人権意識に欠ける不適切な発言であり,職員の意識改革を徹底する必要がある。〉

 〈介助等の負担の中,職員の気持ちを軽くするとともにA氏本人にもフレンドリーに接したいなどの思いからであったとしても〉云々と相手の証言をそのまま受け入れている。勿論、不適切発言の要因は人権意識の欠如ではあるが、この手の欠如を看守勤務者に可能とする素地は被収容者に対して上下の力関係を築いているからであり、つまりは既に触れたように看守勤務者が被収容者に対して支配者として君臨している関係性を多かれ少なかれそこに見なければならない。そしてこの支配者としての君臨は当然のこととして被収容者に対する処遇全般に現れることになるという両者の関係性を計算に入れて看守勤務者たちの行動を評価していかなければならないことになる。 

 だが、そういった視点を欠いたままの検証が行われている。大体が「3名の有識者から」だとか、「2名の有識者から」などとどこの誰とも名を名乗らないのは責任の所在を曖昧にしていることになり、信用が置けない。

 3月6日のウィシュマ・サンダマリさんの「反応」を改めて見てみる。「午前7時1分頃~」は、〈室外から看守勤務者が声を掛けたが,A氏は反応を示さなかった。〉、「午前8時12分頃~」は、〈A氏がほとんど反応を示さず,バイタルチェックにおいても血圧及び脈拍が測定できなかったため,血圧等測定表の血圧欄には,「脱力して測定できず。」と記載した。〉、「午前8時56分頃~」は、〈A氏に対して,「おはよう。」「目を開けて。」 などと何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったりするなどもしたが,A氏は反応を示さなかった〉、「午前9時10分頃~午前9時24分頃」は、〈A氏に対し,朝食を食べるよう促したほか,A氏の下着を着替えさせるなどした。時折,A氏は,「あー。」などと声を上げることもあったが,看守勤務者からの問いかけに明確に意思を示すことはなかった。〉・・・・・

 ウィシュマ・サンダマリさんは「午前7時1分頃~」から「午前9時10分頃~午前9時24分頃」までの約2時間半近くも、"明確に意思を示すことはなかった"ことを含めて、“A氏は反応を示さない”状態が続き、さらに血圧及び脈拍測定ができない状況にありながら、以後も同様の状態が続くが、ベッドの上に放置されたままでいた。「覚醒はしているが、精神活動は浅い眠りに近い状態。外界の認知に混乱が生じ、見当識(時間、場所、周囲の人物、状況などを正しく認識する能力)が障害される軽度の意識混濁」(「意識レベルの変化」(東京慈恵会医科大学神経病理学))にあるのではないかとは見ていなかった。「軽度の意識混濁」という知識はなかったとしても、「おかしいな」、「大丈夫なのかな」と心配することもなかった。もし薬で眠らせていたとしたら、「おかしいな」とか、「大丈夫なのかな」と心配しなかったことは合点がいく。

 では、以後の「午前10時40分頃」から死亡に至る「午後3時25分頃」までのウィシュマ・サンダマリさんの体調の変化と看守勤務者側の対応を拾い出してみる。

 〔午前10時40分頃~〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し,朝食の摂食と処方薬の服用を促すなどした。A氏は「あー。」「うー。」などと声を発することもあったが,看守勤務者の問いかけに反応しないこともあった。看守勤務者らは,A氏の上半身を起こし,処方薬のイノラス配合経腸用液 (経腸栄養剤)及び(メコバラミン錠 末梢性神経障害治療剤)を服用させた。 この際,看守勤務者1名が背中及び頭を支え,もう1名の看守勤務者が口内に薬と飲み物を入れた。A氏は,時折むせたり,飲み物を吐き出したりしながらも,薬を服用した。

〔午後零時56分頃〕
看守勤務者は,A氏の昼食が全量未摂食で居室入口の食事搬入口に置かれているのを見て,搬入口の外から室内のA氏に向かって食べるようにと促したが,A氏が反応を示さなかったため,昼食用食器を搬入口に残置した。

〔午後1時31分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声を掛けたが, A氏は反応を示さなかった。

〔午後1時50分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏。」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時3分頃〕
看守勤務者は, A氏の居室の室外から,「A氏,A氏,聞こえる?」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時7分頃〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し, A氏の体を揺すったり,耳元で呼び掛けたりしたが, A氏は反応を示さなかった。 また,看守勤務者がA氏の体に触れて確認したものの,脈拍が確認されず,A氏の指先が冷たく感じられた。さらに,A氏の血圧等を測定したが,測定不能であった。

〔午後2時11分頃〕
男性の副看守責任者及び男性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,女性の看守勤務者が再度,A氏の血圧等の測定を実施したが,測定不能であった。また,A氏の脈拍は確認できなかった。

〔午後2時15分頃〕
副看守責任者が電話により救急搬送を要請し,通話を継続しながら,看守勤務者に対し,AED装置の使用を指示し,看守勤務者がA氏に対するAED装置の装着を開始した。

〔午後2時20分頃〕
看守勤務者が, A氏の体にAED装置を装着し終えたところ,電気ショックを与えることなく心臓マッサージを必要とする旨の音声指示が流れたことから,心臓マッサージを実施した。

〔午後2時25分頃〕
到着した救急隊員にA氏の救命措置を引き継いだ。

〔午後2時31分頃〕
A氏は外部の病院に救急搬送された。

〔午後3時25分頃〕
搬送先の病院でA氏の死亡が確認された。

 「午後零時56分頃」、〈看守勤務者は,A氏の昼食が全量未摂食で居室入口の食事搬入口に置かれているのを見て,搬入口の外から室内のA氏に向かって食べるようにと促したが,A氏が反応を示さなかったため,昼食用食器を搬入口に残置した。〉

 これもおかしい。これまでは看守勤務者が介助して食べさせていた。薬で眠らせているから、介助しても無駄だと分かっていて、〈昼食用食器を搬入口に残置した。〉のだろうか。もし介助に応じることができない程に体が弱っていたと見ていたとしたら、搬入口の外から声をかけたというのは「死人に口なし」の作文か、薬で眠らせていないことを装う演技ということになる。

 但し介助に応じることができない程に体が弱っていた可能性は十分にある。この約1時間20分後には救急搬送を要請し,AED装置の使用を試みたのだから。

 「午後1時31分頃」の状況は、〈看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声を掛けたが, A氏は反応を示さなかった。〉とやはり「A氏は反応を示さなかった」となっている。だが、「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声をかけたのは余程心配な様子に見えたからとすることができるが、心配な様子に見ながら、上司である副看守責任者を呼んで、救急搬送しなくて大丈夫ですかと指示を仰ぐこともしなかった。

 以後も、「A氏は反応を示さなかった」状態が続くことになる。

 「午後2時7分頃」、〈看守勤務者らがA氏の居室に入室し, A氏の体を揺すったり,耳元で呼び掛けたりしたが, A氏は反応を示さなかった。 また,看守勤務者がA氏の体に触れて確認したものの, 脈拍が確認されず,A氏の指先が冷たく感じられた。さらに,A氏の血圧等を測定したが,測定不能であった。

 出入国在留管理庁のページ、「収容施設について(収容施設の処遇)」に、〈収容施設の構造及び設備は,通風,採光を十分に配慮しており,冷暖房が完備されています。〉と書いてあるが、人が「快適だ」と感じる温度は夏場は気温25~28℃で、冬場は気温18~22℃ということだから、名古屋市の2021年3月6日(土)の最高気温19.9、最低気温10.4は冬場の快適気温18~22℃を下回ることになって、暖房は使用していたと思われる。

 だが、〈A氏の指先が冷たく感じられた。〉しかも血圧等は、〈測定不能であった。〉

 この5分後の「午後2時11分頃」に〈男性の副看守責任者及び男性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,女性の看守勤務者が再度,A氏の血圧等の測定を実施した〉のはウィシュマ・サンダマリさんの容態を初めて異常だと捉えたからだろう。しかも男性の副看守責任者までがお出ましになったのである。“A氏は反応を示さない”状態が続いていた際には異常と見ることもなかった。薬剤の副作用からの体の反応と判断力の低下ではないのかと一般的な常識さえも働かせることはなかった。薬で眠らせていたとすると、働かせてもいいはずの一般的な常識が働かなかったこととの整合性が取れる。

 この4分後の「午後2時15分頃」、〈副看守責任者が電話により救急搬送を要請し,通話を継続しながら,看守勤務者に対し,AED装置の使用を指示し,看守勤務者がA氏に対するAED装置の装着を開始した。〉

 5分後の「午後2時20分頃」、〈看守勤務者が, A氏の体にAED装置を装着し終えたところ,電気ショックを与えることなく心臓マッサージを必要とする旨の音声指示が流れたことから,心臓マッサージを実施した。〉

 救急搬送要請から約10分後の「午後2時25分頃」に、〈到着した救急隊員にA氏の救命措置を引き継いだ。〉

 「午後3時25分頃」、〈搬送先の病院でA氏の死亡が確認された。〉

 この「救急搬送」に対する「調査報告書」の説明を見てみる。 

☆☆ 「 (5)もっと早く救急搬送できなかったか 」前記(1)④)(74ページ~)

ア 経緯と背景事情(看守勤務者の認識)

3月5日及び同月6日に交替制で勤務に当たっていた複数の看守勤務者は,前記のようなA氏の体調の外観上の顕著な変化を認識していたものの,3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響によるものと認識し,A氏の体調の変化が生命に危険を及ぼすような要因によるものとは考えていなかった。

 イ 評価と要改善点

医師である2名の有識者からは,

○3月5日や同月6日のA氏の状況を踏まえても,救急搬送が遅かったというのは結果論であって,医師による診療や看護師による対応がなされていた中で,医療的素養がない職員において,それらの時点で,別の医師の診療を受けさせ又は救急搬送すべきとの判断を行うことは難しかっただろうし,職員らが3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響と認識していたのであれば尚更そうであるとの指摘がなされた。

また,1名の有識者からは,

○速やかに対応すべきであったが,看守勤務者らが精神科の投薬による影響と考えていたことは無理もないところなので,実際上は即時の対応は難しかったであろうとの指摘もなされた。

これに対し,2名の有識者からは,

○A氏の外観上の顕著な変化を踏まえ,3月5日か,どんなに遅くとも同月6日朝の点呼で反応が見られなかった時点で,速やかな対応がなされるべきであったとの指摘がなされた。

このように,看守勤務者の対応について,有識者の見解が一致をみているものではないが,名古屋局での取扱いについては,反省と改善を要する点があった。

まず,医療体制の制約があり,特に休日は医療従事者が不在となる中では,緊急を要する可能性がある状況が生じた場合には,看守勤務者から看守責任者等の上司に状況を報告するとともに,早期から救急搬送を視野に入れた対応を開始し,あるいは,医療従事者に相談するなど,体調不良者の容態の急変等に対応するための情報共有・対応体制を整備すべきであった。

しかし,当時の名古屋局では,組織として,休日における幹部への報告や医療的相談等の対応体制が整備されていなかった。休日等の医療相談体制の構築に努めることや,緊急時の対応については,過去の収容施設における被収容者死亡事案の再発防止策としても掲げられていた(110-まず,平成26年3月の東日本入国管理センターにおける死亡事案の再発防止策の一つとして,容態観察中の被収容者について,土日や夜間であっても非常勤医師に症状の報告・相談をする体制等の構築に努めることが示されていた。また,平成29年3月に東日本入国管理センターで発生した死亡事案を踏まえて発出された,平成30年3月5日付け法務省入国管理局長指示「被収容者の健康状態及び動静把握の徹底について」(※現在も出入国在留管理庁長官指示として効力を有する。)では,被収容者の体調不良の状況において「時間帯により看守責任者等が当該被収容者への対応を判断せざるを得ない場合は,体温測定等の結果に異状が見られなくとも,安易に重篤な症状にはないと判断せず,ちゅうちょすることなく救急車の出動を要請すること」等の周知徹底が各官署に対し指示されていた。)が,名古屋局でその実施が徹底されていなかったことは,反省すべき点である。

次に,看守勤務者は,外部病院の精神科で処方された薬の影響でA氏に前記のような外観上の顕著な変化が生じていると認識したとしても,あまりに反応が薄いなどの状況を疑問に感じ,A氏の全身の状態が想定以上に悪化しているのではないかとの「気付き」を得て上司に相談するべきであり,そのような対応ができるよう,組織として,看守勤務者等の職員の意識を高めておく必要があった。

しかし,名古屋局においては,そうした教育や意識の涵養が十分に行われていなかった。

(6)小括

以上をまとめると,A氏の死亡前数日間の医療的対応については,次のとおりである。

①A氏に対して抗精神病薬及び睡眠誘導剤を処方した戊医師の判断に問題があったと評価することはできず,A氏の体調に外観上の顕著な変化が見られた後も看守勤務者において同薬剤を服用させたこと自体に問題があったとも評価できないと考えられる。

しかし,医療従事者が不在となる休日に体調不良者に服用させる薬剤の効果や副反応につき,処方した医師から事前に十分に情報を得たり,服用後に外観上の顕著な変化が現れた時に,処方した医師と連絡・相談できる体制の整備が必要であったが,名古屋局ではそれが行われていなかった。

② 3月6日にバイタルチェックで一部項目が測定不能であったのに,それを受けた対応がとられなかった要因として,休日で医療従事者が不在であり,外部の医療従事者へのアクセスも確立されていなかったという医療体制の制約があった。バイタルチェックについての基準やマニュアルも作成されていなかった。

また,救急搬送等の対応に関しては,特に休日において,体調不良者の容態の急変等に対応するための情報共有・対応体制が整備されておらず,職員に対する教育や意識の涵養も十分に行われていなかった。

 〈3月5日及び同月6日に交替制で勤務に当たっていた複数の看守勤務者は,前記のようなA氏の体調の外観上の顕著な変化を認識していたものの,3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響によるものと認識し,A氏の体調の変化が生命に危険を及ぼすような要因によるものとは考えていなかった。〉

 ウィシュマ・サンダマリさんの「外観上の顕著な変化」を一般常識的に薬剤の副作用と捉えて、危機意識を持つことはなかったのはなぜなのか視点を相も変わらずに欠いたままの検証となっている。

 〈○3月5日や同月6日のA氏の状況を踏まえても,救急搬送が遅かったというのは結果論であって,医師による診療や看護師による対応がなされていた中で,医療的素養がない職員において,それらの時点で,別の医師の診療を受けさせ又は救急搬送すべきとの判断を行うことは難しかっただろうし,職員らが3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響と認識していたのであれば尚更そうであるとの指摘がなされた。〉

 「医療的素養」があるないの問題ではない。薬を服用しているのは分かっていることであり、服用後約10時間経過後も服用前の体の反応と判断力よりも悪化している状況を前にして「おかしいぞ」と気づく常識の発揮である。当然、否応もなしに副作用という思いに突き当たらざるを得ない。大抵の人間が持っているそのような常識が自ずと働かなかったのはなぜなのかの疑問は薬で眠らせていたと疑うと解消させることができる。

 〈また,1名の有識者からは,

○速やかに対応すべきであったが,看守勤務者らが精神科の投薬による影響と考えていたことは無理もないところなので,実際上は即時の対応は難しかったであろうとの指摘もなされた。〉

 「精神科の投薬」が心身の悪化を招いている状況を看守勤務者たちも看護師も直視することはなかった。薬剤の投与前は反応を示していた彼女が投与後は、「A氏は反応を示さなかった」「A氏は反応を示さなかった」で片付けていた。悪化の状況を薬剤の副作用という視点から疑うことはなかった。常識的には考えられないことで、副作用を疑わなかったのは薬で眠らせていたと考えると、全てが氷解する。

 〈これに対し,2名の有識者からは,

○A氏の外観上の顕著な変化を踏まえ,3月5日か,どんなに遅くとも同月6日朝の点呼で反応が見られなかった時点で,速やかな対応がなされるべきであったとの指摘がなされた。〉

 当然な指摘だが、「外観上の顕著な変化」を薬剤の副作用と直結させる一般的常識を眠らせたままにしておいたのはなぜなのかを問う看守勤務者たちや看護師たちの責任については触れない事勿れな内容となっている。

 勿論、副作用と直結させる一般的常識を眠らせたままにしておいたのは薬で眠らせていたからと疑うことができる。

 〈しかし,当時の名古屋局では,組織として,休日における幹部への報告や医療的相談等の対応体制が整備されていなかった。〉

 体制の不備以前に薬剤の副作用を疑うごくごく一般的な常識が働いていい状況にありながら、なぜそのような一般的な常識が働かせることはなかったのかに焦点を当てるべきだったろう。

 〈次に,看守勤務者は,外部病院の精神科で処方された薬の影響でA氏に前記のような外観上の顕著な変化が生じていると認識したとしても,あまりに反応が薄いなどの状況を疑問に感じ,A氏の全身の状態が想定以上に悪化しているのではないかとの「気付き」を得て上司に相談するべきであり,そのような対応ができるよう,組織として,看守勤務者等の職員の意識を高めておく必要があった。〉

 薬で眠らせていたなら、その後遺症と見る常識が働いて、薬剤の副作用と疑うごくごく一般的な常識の働く余地はない。

 「 (6)小括」で、〈医療従事者が不在となる休日に体調不良者に服用させる薬剤の効果や副反応につき,処方した医師から事前に十分に情報を得たり,服用後に外観上の顕著な変化が現れた時に,処方した医師と連絡・相談できる体制の整備が必要であったが,名古屋局ではそれが行われていなかった。〉としているが、「イ 評価と要改善点」(76ページ)で既に述べられていることだが、「十分な情報」を得ていなかったとしても「副反応」(=副作用)と判断するだけの常識は備えていなければならなかったはずだが、そのような常識を働かせることができなかった点こそが本質的な問題点となる。そこに留意しなければ、いつまで経っても「体制」の問題として、「人の問題」が抜きにされることになる。

 薬で眠らせていたからではないかと疑うことがウィシュマ・サンダマリさんの心身の急激な変調を薬剤の副作用と見るごくごく一般的な常識が働かなかったこととの間に整合性が取れる。結果、「ねえ,薬きまってる?」という言葉を口にすることになった。

 彼女の心身の不調を最初から最後まで「詐病・仮病」の類いと疑い、そのように装うことに対して看守勤務者にしても、看護師にしても蔑む感情や懲らしめる感情を内に秘めて彼女に接したために彼女にストレスを与え、そのストレスが「詐病・仮病」の類いで装っていたのかもしれない様々な心身の不調を実際の症状に変えてしまう身体化を誘い出して、身体化障害へと形を変え、そのことに気づかない看守勤務者や看護師の「詐病・仮病」の類いと疑う態度が続いたために身体化障害を悪化させていたところへ持ってきて、おとなしくさせるために薬の過剰投与で眠らせた結果、彼女の心身を一気に深刻な状態に陥れたものの、そのような心身の不調が薬のせいだばかり思っていたために救急搬送が遅れて、手遅れを招いてしまった。

 もし薬の過剰投与があったとしたら、3月5日、3月6日の看守勤務者や看護師の彼女に対する様々な世話や介助、リハビリ等はほぼ全面的に薬で眠らせていたことを隠す「死人に口なし」の作文ということになる。

 勿論、確たる証拠があるわけではないが、「調査報告書」からこのように推理したのだが、勘ぐり過ぎではないことを願う。

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