2021年4月23日、首相の菅義偉が午後8時から緊急事態宣言発出の決定を伝える「記者会見」を首相官邸で開いた。
対象地域は東京都、京都府、大阪府、兵庫県、期間は4月25日から5月11日まで。その他まん延防止等重点措置に期限を同じくして愛媛県を追加。既にまん延防止等重点措置対象地区としていた宮城県と沖縄県の期限を5月5日から5月11日までに延長。
ここに来ての大都市の感染拡大の原因を従来株よりも感染力が強い変異株による感染の広がりを危惧し、その抑え込みの必要性からの緊急事態宣言の3回目の発出としている。
菅義偉「変異株の動きです。陽性者に占める割合は、大阪、兵庫で約8割、京都で約7割、東京でも約3割に上昇するなど、強い警戒が必要であります。このまま手をこまねいていれば、大都市における感染拡大が国全体に広がることが危惧されます。
こうした中で、再び緊急事態宣言を発出し、ゴールデンウィークという多くの人々が休みに入る機会を捉え、効果的な対策を短期間で集中して実施することにより、ウイルスの勢いを抑え込む必要がある。このように判断をいたしました。私自身、これまで、再び宣言に至らないように全力を尽くすと申し上げてきましたが、今回の事態に至り、再び多くの皆様方に御迷惑をおかけすることになります。心からお詫びを申し上げる次第でございます」
緊急事態宣言を使った感染拡大抑制の対策は飲食店の酒類提供の停止、20時までの時間短縮、カラオケの提供停止等の要請。デパート、テーマパーク等、一定規模以上の商業施設や遊興施設等に対する休業要請、イベントやスポーツの原則無観客での開催要請、一般市民の不要不急の外出の自粛要請、感染拡大地域との往来の自粛要請、テレワークや休暇の活用による出勤者の例年並みの7割減の要請等々となっているが、相当な社会経済活動の打撃となる。
これが止むを得ない打撃なら、補償では補いきれない損失を被る各国民はそれなりに打撃を引き受けざるを得ないが、政府の対策不足の不始末なら、不当な社会経済活動の制限ということになる。
では、変異株に対してどのような対策を打ってきて、結果として「陽性者に占める割合は、大阪、兵庫で約8割、京都で約7割、東京でも約3割に上昇」するに至ったのだろうか。質疑で記者が質問している。
ジャパンタイムズ記者杉山「総理にお伺いします。昨年末には既に海外で変異株の報告がありました。そして、専門家が警告を発している中で総理は2度目の緊急事態宣言の解除に踏み切りました。結果としてまん延を許し、感染が急拡大しましたが、政権の変異株に対する認識が甘かったのではないでしょうか」
菅義偉「先ず先般の緊急事態宣言の解除(大阪は2021年3月1日解除)については、感染者数や病床など、状況に基づいて専門家の意見を伺った上で解除しました。例えば大阪ですけれども、実際は、当時、解除したときは、新規感染者数は72名でした。私たちはステージ4からステージ3になれば、1つの目安に、解除するものとしておりました。ステージ3が315まで、ステージ2が189までです、大阪では。それが72名。そして病床も、ステージ4が50、そしてステージ2が20。そのとき病床は29.8でありましたけれども、全体としてこのような状況の中で解除をしたということであります。
そして、今回の緊急事態宣言に至ったというのは、やはり変異株が、私、冒頭申し上げましたけれども、大阪、兵庫では8割が変異株でありますから、そうした変異株の対策を行うことが大事だというふうに思っています。ただ、その対策を講じることというのは、基本的な従来の対策をしっかりやること、そういうことの中で対策を、そちらの勢いの方が強かったということだというふうに思います。それで、今回、人流を、このゴールデンウィークを中心として、短期間の間ですけれども止めさせていただく、そういう対策を講じたということです」
言っていることは「基本的な従来の対策」をしっかりと行ってきたが、変異株の感染力が強くて、結果的に「基本的な従来の対策」が用を成さなかったという意味を取る。だが、変異株の感染力が従来株以上であることは最初から海外からの報告で分かっていたはずだ。
国民側の基本的な従来の対策とはマスクの着用、手洗い、消毒、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)の維持等々であるが、国・地方自治体側の基本的な従来の対策はPCR検査、医療体制の保持、法律に基づいた社会経済活動の大なり小なりの制限その他である。
PCR検査はコロナ感染に特有とされる症状が出て感染を疑って受診する例と陽性の判定を受けた者との濃厚接触者が主な対象者となる。このような例の場合の感染判明は受動的な把握という経緯を取る。一方、感染はしているものの症状が出なくて、自分は感染しているとは露程も疑わない無症状者(無症状病原体保有者)はPCR検査を受ける機会もなく、2次感染、3次感染の媒介者となり得ると見られている。その割合は東京都の例として、「コロナ感染 2割は陽性判明時に無症状 60代以降も高い割合 東京」(NHK NEWS WEB/2021年1月20日 19時13分)記事が題名で平均を示している。但し無症状の人数は20代、30代が多い。2020年6月10日付「NHK NEWS WEB」記事は、〈WHO=世界保健機関は、新型コロナウイルスに感染した人のおよそ40%は、無症状の感染者からうつされているとする見方を明らかにした〉と伝えている。このような無症状者に対しては受動的な把握は困難で、何らかの能動的な把握の方法を見つけなければならない。
では、変異株の場合、どれくらいの無症状者が存在するのだろうか。「日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第1報)」(国立感染症研究所/2021年4月5日)によると、〈新規変異株症例については従来株症例に比べてより広範囲に濃厚接触者を特定し検査が行われていることから、診断時における無症状の割合が過大評価となる可能性がある。〉との条件付きではあるが、変異株の〈VOC-202012/01症例のうち男性が49.7%、18歳未満が17.6%、65歳以上が22.4%であった。無症状の割合は21.5%であった。〉とある。変異株と従来株の無症状の割合は変異株の条件を考慮すると、ほぼ変わらないと見ることができる。
では、両者の感染力の違いはどの程度なのだろう。〈2021年4月現在、日本国内における最初のVOC-202012/01症例の発生は2020年12月下旬にさかのぼる。以降、国内感染例は増加傾向にある。一方、501Y.V2、501Y.V3の国内感染は散発的に確認されている。本報告の解析では、VOC-202012/01と従来株症例の実効再生産数は平均でそれぞれ1.23 (95%信頼区間 1.18-1.28)と0.94 (95%信頼区間 0.90-0.97)であった。〉
変異株VOC-202012/01の実効再生産数は平均で1.23 。従来株の実効再生産数は平均で0.94 。実効再生産数が1人以下と1人以上では大きな差があるはずである。無症状の割合がほぼ同じで、感染力にこれだけの差があるとすると、感染者の受動的な把握という対策以上に何らかの能動的な把握を可能とする対策が必要になる。政府はそのような対策を採ってきたのだろうか。
2020年12月23日の開催の「新型コロナウイルス感染症対策分科会(第19回)」(2020年12月23日の議事次第資料「直近の感染状況の評価等」に変異株について次のような記述がある。文飾は当方。
〈英国で、最近の流行の主な系統となった変異株については、ECDC等からは、重症化を示唆するデータは認めない一方、感染性が高いとの指摘がなされており、医療への負荷が危惧される。この変異株については、これまでのところ国内では確認されていないが、流入リスクについて留意が必要である。
さらに、国内の厳しい感染状況の中で、英国等で見られる変異株の流入による感染拡大を防ぐことが必要である。このため、関係国との往来の在り方や検査・モニタリングの在り方について、適切な対応を速やかに行うべきである。〉・・・・
2020年12月23日時点では変異株の国内での感染は確認されていなかったが、4カ月後の2021年4月時点では「大阪、兵庫で約8割、京都で約7割、東京でも約3割」を占めるまでに至った状況から見ると、感染者の能動的な把握対策が見えてこない。〈検査・モニタリングの在り方について、適切な対応を速やかに行うべきである。〉と変異株感染抑止の方法を早急に確立するようにとの提言は「分会」自身が生かすことはなかったように見える。
2021年1月25日衆議院予算委員会
尾身茂「もう先生(立憲民主党今井雅人のこと)御承知のように、今、現段階でいろいろなサンプルを基に調査している限りの調査では、今のところ、国内の地域において、この変異株が地域の中で蔓延しているというふうには今のところ考えておりませんが、しかし、変異株ということの性質上、これが地域の中で感染を、これが主流になってくる可能性は否定できないので、これからそうした最悪のことに備えて様々なことを、対応を準備していくことが私は必要だと思っております。
今井雅人「総理、最後にちょっとお願いがありまして。
イギリス型の変異種は(2020年)9月ぐらいにはもう何かあったという話もありますけれども、実際に話題になってきたのは12月です。12月の14日だったと思いますが、イギリスの政府の方から、これはかなり大きく拡大しているといって、WHOも同時に声明を出していまして、イギリスにもう100ぐらいの症例があるというふうに言っていました。日本がイギリスから入国者を禁止したのはその10日後です。この10日間は放置状態になっていました。
水際対策というのは、国内の感染防止とは違って、外から入れてくるのを止めるわけですから、はっきりしているわけですね。はっきりしているんですよ。だから、ここは本当に、南アフリカ、それからブラジルの由来のはワクチンが効かないかもしれないと言っています、だから、是非、水際対策として、どういう状況になったら開けていくのかとか、そういうことの基本計画をしっかり作るべきだというふうに尾身理事長もおっしゃっておられますから、そういうものをしっかり示して、変異種が日本に入ってこないような厳しい対応をしていただきたいと思いますが、いかがですか」
菅義偉「そのように致します」
今井雅人「と言うことは、そういうものをしっかりと作って、総理の方から国民にしっかり説明して頂けるということですね。それだけお願いしたいです」
菅義偉「変異株について、私自身は強い危機感を持っています。そして、引き続き諸外国の感染状況を注視するとともに、国内における水際対策の強化や変異株に対する監視体制の強化、こうしたものを、感染拡大防止対策、しっかりと行ってまいります」
菅義偉は「変異株について、私自身は強い危機感を持っています」と口では言っているが、今井雅人が変異種流入防止の基本計画をしっかり作るべきだと進言しているのに対して「そのように致します」としか答えない辺りからは強い危機感は見当たらない。あるいはそんなことは言われなくても分かっていると反発したせいで、素っ気ない答弁となったのか。と言うのも、この質疑から8日後の2021年2月2日に決定した、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」で、〈政府及び都道府県は、再度の感染拡大の予兆を早期に探知するため、歓楽街等における幅広いPCR検査等(モニタリング検査)やデータ分析の実施を検討し、感染の再拡大を防ぐこと。〉と提言しているからである。
この決定は2021年1月7日に首都圏4都府県に2回目の緊急事態宣言発出し、2021年1月13日に大阪、京都、兵庫、愛知、岐阜、福岡、栃木に同じく2回目の緊急事態宣言発出後のことである。東京等への発出から14日後、大阪等への発出から10日後のことである。そして実際に繁華街などで検査キッドを無料配布してPCR検査を行い、それをモニタリングする活動を開始したのは20日後の、〈栃木県が2021年2月22日から、岐阜県で3月4日(木)、大阪府、京都府、兵庫県で3月5日(金)から、愛知県、福岡県で3月6日(土)から、神奈川県で3月18日(木)から、千葉県で3月19日(金)から、東京都、埼玉県で3月20日(土)から、北海道で4月1日(木)から、沖縄県で4月2日(金)から〉(「内閣官房新型コロナウイルス感染症対策」)等となっている。
確かに準備に時間がかかる事情は理解できるが、感染抑止は準備の時間を見込んで先手、先手で取り組むべきだと思うが、東京、大阪等の2回目の緊急事態宣言解除を経て、さらに各地へのまん延防止等重点措置適用、解除を経て、3回目の緊急事態宣言となったということと、この宣言が感染力の強い変異株の影響で感染者が急拡大し、その感染拡大を抑えることが宣言の根拠となり、そのために従来以上に強い社会経済活動の制限となったということは明らかに変異株対策に見るべき効果を打ち出すことができなかったことになる。
となると、緊急事態宣言発出によって受ける個人商店主その他の社会経済活動の打撃は政府の対策不足が原因となって、その不当性は計り知れないものとなる。菅義偉の3回目の緊急事態宣言発出の記者会見に先立って経済再生担当相の西村康稔が発出の説明を行った2021年4月23日衆議院議院運営委員会の質疑から政府の感染対策の適否をさらに見てみる。
盛山正仁(自由民主党)「まん延防止等重点措置、今月5日から大阪府、兵庫県、12日から東京都、京都府で講じているにも関わらず、このように発令後に2週間、3週間といった短期間で緊急事態宣言を再発出することになったことはまことに遺憾です。
国民の間からは政府、地方自治体の対応はコロコロ変わる。国民生活への影響について十分に検討がなされているのか、措置について医学的・科学的な根拠はあるのかなどの声が上がっていませんか。
今回の3回目の緊急事態宣言の発出に当たって、今度こそ、新型コロナウイルスに対する万全の対策を講じることはできると考えているのかお答ください」
以下2点纏めて質問するが、この緊急事態宣言発出の効果についての質問に対する西村康稔の答弁のみを取り上げる。自民党盛山正仁としては親分の菅義偉が大阪府のまん延防止等重点措置の適用要請に対しての2021年3月31日の会見で、この措置は「緊急事態宣言に行かないような、また、感染拡大防止につながるような対応策です」と受け合ったものの、緊急事態宣言を発出せざるを得なくなった手前、いつものヨイショ質問では済まなく、少しは強く言わざるを得なかったのだろう。
西村康稔「この新型コロナウイルスは何度も流行の波が起こるわけであります。諸外国を見ていてもそうであります。そして起こるたびに大きくなってくれば、ハンマーで叩く。つまり措置を講じて抑えていく。その繰り返しを行っていく。何度でもこれを行っていくことになります。
今度も起こり得ると思います。そのためにまん延防止等重点措置を新たに設けて頂いて、この機動的な活用も含めて、大きくなってくれば、感染を抑えていく。こうした姿勢で臨んでいきたいと考えておりますし、このことは以前から申し上げているとおりであります。
そのまん延防止等重点措置でありますが、宮城県では新規陽性者数がピークの4分の1まで減少してきております。また大阪府でも、確かに陽性者数は高い水準ですけども、先週、1週間前から1100人、1200人の水準で高止まっている。これはちょうど4月1日からまん延防止等重点措置を始めましたので、2週間経った頃から効果が、一定の効果が出てきていると思います。
しかしながら、なかなか減少傾向にならない。これは変異株、感染力が極めて強いからであります。こうした状況を見る中にですね、これまで以上に強い措置を講じないと、この変異株の感染拡大を抑えられない。こうした強い実感を持っているところであります。
そのために今回緊急事態宣言を発出させて頂いたわけであります。是非、国民の皆さんのこれまで以上に徹底した感染防止対策、特にゴールデンウイーク、大型連休を機に対策を強化しますので、これまで以上の外出自粛をやって頂いてですね、ステイホーム、お願いしたいというふうに思います」
要するに変異株感染抑止の対策も空しく、変異株感染者を増やしてしまった。となると、政府の対策失敗ということになる。
西村康稔は「この新型コロナウイルスは何度も流行の波が起こるわけであります。諸外国を見ていてもそうであります。そして起こるたびに大きくなってくれば、ハンマーで叩く。つまり措置を講じて抑えていく。その繰り返しを行っていく。何度でもこれを行っていくことになります」と言っている。つまり緊急事態宣言をいくら発出しても、その当座は感染者数が減るものの、宣言を解除すれば、再び感染者が増える。増えた場合はハンマーで叩くように緊急事態宣言のように強い措置を講じなければならない。その繰り返しだとしている。
このことは政府のコロナ対策がこれまでは緊急事態宣言を使った人の移動の制限(人流阻止)以外の有効な手立てがなかったのだから、当然のことである。2021年2月1日の当ブログ《菅義偉の「個々の研究についてはコメントを差し控えています」の答弁をそのままスルーさせる野党追及の甘さ加減 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に次のように書いた。
〈2021年2月1日の朝のNHKニュースで菅内閣は医療提供体制の逼迫状況の点から緊急事態宣言を延長する方向で調整に入ったと伝えていたが、解除に障害となる点を全てクリアして解除されて人の移動も再開された場合、緊急事態宣言再発令によって現在減少傾向にある新規陽性者は人の移動と感染が密接な相関関係にある以上、再び増加傾向を取ることになる。そしてこの繰り返しは国民の大多数がワクチンを接種するまで続くことになる。
この繰り返しの波の頭を少しでも抑えるためには感染して、ウイルス保有者となりながら、無症状なためにPCR検査を受けないままに市中に放し飼いの状態に置くことになる、その多くが新規陽性者の半数前後を占めている感染経路不明と考えられる無症状感染者を如何に効率よくPCR検査の網にすくい取るかにかかってくることになるはずである。〉
要するに感染者増と感染者減の波に任せるだけで、無症状感染者を効率よくPCR検査の網にすくい取って、陽性者を隔離、2次感染、3次感染を防ぐ前以っての効果的な対策を取れずにいた。勿論、今後効果的な対策を取れるかどうかは以後の取り組みにかかってくる。
感染の大きな波が来れば、緊急事態宣言で「ハンマーで叩く」と言っていることは2020年7月3日の「記者会見」で自身が述べている。
西村康稔「小さな波は今後も来るわけですけれども、それが大きな波にならないように我々は努力していく、ハンマー&ダンスで叩いていくわけですが。クラスター対策、そして、それより何より検知もしっかりやってクラスター対策をやっていくわけですけれども、仮に大きな波が来たとしても、それに応えていく対策を議論していただきたいと思っております。検査態勢、あるいは保健所機能、そうしたサーベランス(調査監視)のあり方、こういったことについて、是非、議論していただきたいと思っております」
「ダンス」とは社会経済活動に関して自由にダンスするように自由な行動に任せるということなのだろう。勿論法律の範囲内の行動だが、自由な社会経済活動は許されているから、問題は政府が打ち振るうことになる、自由な社会経済活動を阻害することになる「ハンマー」と言うことになる。その阻害が公権力上妥当セ性を持ちうるかどうか。
西村康稔は「大きな波にならないように我々は努力していく、ハンマー&ダンスで叩いていく」と言い、「何より検知もしっかりやってクラスター対策をやっていく」と大波を防ぐ対策を述べているが、大きな波と小さな波が繰り返すのは人の移動次第(人流次第)なのだから、これ以外の政府対策は効果は殆どないか、たかが知れていると見なければならない。
松尾明弘(立憲民主党)「緊急事態宣言の解除から1ヶ月でまた宣言をしなければならないのは完全に政府、大阪府、東京都等の失敗であると言わざるを得ません。今回の緊急事態宣言が実効性を持つのかどうか、いくつか質問させて頂きます
・・・・・(中略)・・・・・
総理はですね、再び宣言をしないようにするのは私の責務とまで話していたのですから、自ら(国会に出て)報告しないのはあまりにも無責任であると考えますがそこのところは如何ですか」
西村康稔「これまでも申し上げておりますように、先程も答弁させて頂きましたとおり、様々流行は何度も起こりますので、それに対して機動的に対処していくことが必要というふうに考えておりますが、(総理も)同じ認識をされております。
総理からも様々な場面に於きましてコロナ対策について丁寧が説明が今後もなされるものというふうに思います」・・・・・
ここでも「流行は何度も起こります」との文言で緊急事態宣言の発出は止む無しとした上で、「機動的に対処していくことが必要」と政府の対策を正当化しているが、飲食店の酒類提供の停止、20時までの時間短縮、カラオケの提供停止等の要請。デパート、テーマパーク等、一定規模以上の商業施設や遊興施設等に対する休業要請等々、人の移動の極端な制限(人流次第の極端な制限)は機動的対処のうちに入るのだろうか。
「機動的」という言葉は従来株無症状者だけだはなく、特に変異株無症状者をPCR検査で把握・隔離し、2次感染、3次感染を極力防いでいく活動にこそ使うべきだろう。このような活動ができず、特に変異株感染者を増やしてしまった。
このような活動ができなかったことは次の質疑に出ている。
清水忠史(日本共産党)「変異株ですが、既に3月中旬には兵庫県でも猛威を振るい始めておりました。政府の認識と対応はやっぱり甘かったのではないでしょうか」
西村康稔「先ず12月19日に英国政府から変異株に関する公式公表がございました。その後厚労省のアドバイザーリポートでの評価を経て12月23日には英国からの新規入国を一時停止を私共行っております。1月23日には全ての入国者に対して誓約書の提出。反した場合には氏名の公表、あるいは退去強制手続き、これを対象とするといったような厳しい措置も講じたところであります。
他方、国内に於きましてはスクリーニング検査ですね、40%程は拡大することにしていまして、既に3割超行っておりますが、いずれにしましても、各地域で変異株に対する危機感は非常に強いものがありますので、国と自治体と連携しながら、しっかりと監視しながら、行ってきておりますし、さらにこのことを強めていきたいと思います」
清水忠史「日本はやはりPCR検査数が世界145位と少過ぎます。PCR検査の社会的検査について高齢者施設にとどまらず、病院、学校、保育所に拡大すべきだとお見ますが、大臣、どう思いますか」
西村康稔「ご指摘のようにですね、PCR検査につきましては戦略的に拡充してきているところであります。3月には高齢者施設・・・・、もし検査数が必要であれば、また申し上げますが、集中的に従事者の方に実施をしてきておりますし、またこのことを4月から6月にかけて頻回で実施するということにしております。
さらには私共はモニタリング検査でですね、特にリスクの高い無症状者の方を見つけ出していく、感染源を特定していくためにですね、大学や作業場、こういたところと連携しながら、今取り組みを勧めているいるところでございます。
いずれにしましても、検査キッドもありますので、こういった活用も含めて、戦略的に拡充していければというふうに考えております」
先ず「スクリーニング検査」、「40%程は拡大することにしていまして、既に3割超行っております」としているが、3回目の緊急事態宣言発出を抑えることはできなかった。
「PCR検査」は「戦略的に拡充してきているところであります」との言葉で拡充途中であることを曝け出し、さらに「4月から6月にかけて頻回で実施するということにしております」と今後の話としている。要するに緊急事態宣言の後手に回っている。
東徹(日本維新の会)「今回3回目の緊急事態宣言の発令ということになりました。非常に今回の新型コロナウイルス、非常に重傷者が多いという状況にあります。医療の逼迫どころかですね、溢れている状況を見ますとですね、これは出さざるを得ないというふうに思います。その中で感染拡大の要因についてお聞きしたいと思います。
大阪の感染状況を見ますと、今年初めに行われた2回目の緊急事態宣言ですね、1月13日から2月28日だったんですけれども、宣言が出された2週間後に新規感染者の7日間平均は3割減ったんです。そのあと4月5日、まん延防止等重点措置、これではですね、午後8時までの時短要請やってたんですね。やってたんですけども、まん延防止等重点措置ですね、これ(感染者数が)、減らなかったということがあります。
そして重症患者がどんどん増えてきた。これは今回急激に感染者の拡大が生じたのはですね、これまでは飛沫を防げば感染を抑えられるのではなく、空気感染、こういったものもあり得るということで、今回、人出自体を抑えようとしているのか、この点について伺いたいとおもいます」
西村康稔「大阪でのまん延防止等重点措置、私共、効果がなかったとは思っていなくてですね、4月5日から始めて15日頃に1200人ぐらいまでに1日の感染者がありましたが、その後、1週間ぐらいずっと1100、1200で、これ以上伸びることを抑えている効果はあるんじゃないかと見ております。変異株の感染力の強さとまん延防止等重点措置の強さのせめぎ合いの、こう、今、1100、1200ぐらいでとどまっているのか、今後下がっていくのか、また上がるのかですね、これちゃんと見ていかなければいけないと思っておりますが、いずれにしても、何で広がったのかと。明らかに変異株でありまして、これまで感染していなかった人も感染をしておりますので、そういう意味で細かく飛沫なのか、マイクロ飛沫なのか、まだ分析はできておりませんけども、とにかく感染力は強いことは明らかだというふうに思います。
その意味で例えばマスクをするときも、できれば不織布のマスクで、こう(指でマスクの上から鼻を抑えて)隙間なくするとかですね、これまで以上に距離を取るとかをやらなければいけませんし、ここまで来ると、大型連休中、徹底的なステイホームをお願いをしてですね、人と人との接触を減らす。
そのために人流を減らさないと、これ、感染を抑えられない。こんな状況にまでなっているということの危機感を強く持っている次第であります。そのために緊急事態宣言、今回お願いしているということでございます」
要するに変異株に対する感染防止対策、あるいは前以っての危機管理が不足していたために緊急事態宣言という「ハンマー」に頼らざるを得なかった。
同日の参議院議院運営委員会から一つ。
山下芳生(日本共産党)「衆議院の質疑を聞いていますと、西村大臣から驚くべき答弁がありました。緊急事態宣言の再発出となった今の状況について問われて、西村大臣は何度も流行の波が起こる、今後も起こり得る、と。答弁しましたのですね。
耳を疑いました。政府にはコロナを封じ込める意思がないのか。何度も流行の波が起こる、今後も起こり得るというのは、そういうことですね。コロナを封じ込める立場には立たないと言うことですね。これから3度目の宣言を発出しようというときに国民の皆さん、医療従事者の皆さん、中小事業者の皆さんが不安を抱えながらも歯を食いしばって頑張っていこうというときにあまりにも酷い発言、あまりにも酷い姿勢だと言わなければなりません。
先程、西村大臣はこの発言は総理も同じ立場だと仰いましたけども、西村発言というのは政府の公式の立場ですか」
西村康稔「あのー、私は担当大臣として政府を代表してここに立っておりますので、私の発言は政府の認識ですございます。そのうえでこれまでも何度も説明してきておりますし、答弁をしてきております。何度も流行は起こるんです。どこの国を見ても起こっています。ただ、それをできればゼロにしたいと我々は思っています。しかしゼロにできない。
東京でも50人、100人、できるだけ低くしたい。その思いはもう、みなさんと同じ。あるいはそれ以上の、私は責任者として持っております。ただ、これはなかなか難しい。徹底的な対策をやりながらも、どこで感染したかも分からない。そういう特に変異株はそういう状況になってきております。これをここで抑える。東京も、また医療機関も極めて厳しい状況になっておりませんけども、今の段階から、大阪は厳しい状況ですので、そうならないようにするために今の段階から緊急事態宣言を発出させて頂いて抑えていく。
大きな波にしたくない。小さな波で叩いていく。これは感染症の専門家も、みなさん、言われていることであります。できれば低くしたいですけれども、しっかり大きな流行にしないように全力を上げていきたいと思います。
山下芳生「何度も流行の波が起こる。今度も起こり得るというのはこれからも繰り返すということを担当大臣がこれから宣言を発出するときに発言してしまったんですよ。あまりにもこれはね、国民に対するメッセージとしてはね、誤ったメッセージにしてしまってるんだと思うんですよ。今ね、頑張っていると言ってるけども、先程からどの国でもね、繰り返すんだとおっしゃってたけども、ハンマー&ダンスって衆議院で仰いました。ただ、ハンマー&ダンスはもう破綻したんですよ。何遍偽りを繰り返すのかとみんな、疲れ切っていますよ。
イギリス、今ワクチンの接種、これを広げること。それから徹底した検査。1軒、1軒のご家庭に検査キッドをお配りして、そして無料で配布してるんですよ。このワクチンと徹底した検査で一時、1日数万件の感染者数だったのがいまぐうーっと抑え込んで、いまお店でね、家族で食事を、友人と食事をやってるじゃありませんか。コロナを封じ込めるんだという立場に立たなかったら、何度も繰り返すんだという立場に立っちゃったなら、全く展望ないじゃないですか。
あのね、私はそういう姿勢だからね、政府はコロナを封じ込めるための大規模検査をやらないと。日本の人口比のPCR検査数は世界146位ですよ。先進国としてあまりにも恥ずかしいという消極的姿勢になっている。中小企業への十分な補償もやらない。医療機関への減収補償もやらない。その背景には、どうせ何度も流行の波は起こる、今度も起こり得るという姿勢があると言わざるを得ません。そんな姿勢で、そんなに低い志で、一体どうやって国民の命と暮らしを守るんですか」
西村康稔「あの、私自身、何としてもこの感染拡大を抑えたい、誰よりも強く思っています。夜中に何度も目が覚めます。ずうっと考えています(感情的に声を強める)。私は誰にも負けないくらい勉強をし、勉強というよりも研究をし、専門家の皆さんもハンマー&ダンス、これはもう感染症の常識だと言われています。そのことを私は申し上げているんです。
勿論、ゼロにしたいです。しかしなかなか出来ない。だけれども、大きな流行にならないように強いハンマーを今回お願いをしているところでありますが、勿論、大阪では病床はもう厳しい状況になっておりますけれども、その上で検査については戦略的に拡充していきたいと考えております。
確かに人口当たりの検査数は少ないです。ただ、色んな見方、これは尾身会長も紹介されておりますけども、日本の場合は亡くなった数も非常に、ひと工夫、先進国の中では抑えてきておりますが、亡くなった方当たりの検査件数で見ると、これは非常に少ない、いや、非常に多い件数になっておりまして、つまりしっかりと検査で死者を、亡くなる方、重症化する方を抑えてきたという効果はあるものという評価がなされております。
いずれにしても、私も検査を広げていきたいと思います。検査キッドを、これはあの感度の問題、精度の問題、それから偽陽性の問題もありますので、陰性だから大丈夫だと。その日のうちに感染してしまうかもしれない。様々な課題がありますけども、それを乗り越えて、乗り越えて、頻回に検査をやっていくことを含めて、今、モニタリング検査も私共、拡充をしておりますので、そういったことを含めてですね、戦略的にさらに拡充していきたいと思います」
山下芳生「いくら言ってもね、146位ですよ。言い訳できませんよ。私はコロナを封じ込める立場に立たない政府の姿勢こそ、今一番の問題だと思います。今政治が成すべきことは何か。コロナを封じ込めるための大規模検査を実行することです。中小業者のみなさんが事業を続けられる十分な補償を行う。
そして医療機関の減収補填に踏み切る手立てを尽くすことです。そして東京オリンピック・パラリンピックは中止して、コロナの収束に全ての力を集中する。やるべきことをやって、何としてもコロナを封じ込める。感染を封じ込める。今、そのことこそ、政治の責任だということを申し上げて終ります」
緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も感染の結果である。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に頼らずに感染者を減らすことができなければ、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も繰り返すことになる。西村康稔が言うように大きな波と小さな波が繰り返すことになる。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に至らないように前以って感染者数を減らすには山下芳生の言うように大規模なPCR検査以外に手はない。
それもコロナ感染に特有とされる症状が出て感染を疑って受診し、陽性と判定された患者とその濃厚接触者を主な対象者とする受動的なPCR検査だけではなく、感染はしているものの症状が出なくて、自分は感染しているとは露程も疑わ図に活動している無症状者(無症状病原体保有者)を能動的に拾い出して感染の有無を判定していくPCR検査をより広く実施しなければならない。繁華街などで検査キッドを無料配布してPCR検査を行い、それをモニタリングする活動が感染者の能動的な把握ということになるが、まだ動き出したばかりの遅さである。
となると、今回の緊急事態宣言で相当な社会経済活動の打撃を被る個人商店主等にとって止むを得ない打撃ということではなく、政府の対策不足の不始末からの打撃に相当する。
このような打撃を少しでも和らげるためには西村康稔が「新型コロナウイルスは何度も流行の波が起こる」と確信的に主張している以上、「ハンマー&ダンス」の時期を選ぶべきだったろう。3回目の緊急事態宣言で言うなら、4月5月の大型連休期間を避けて、3月半ばから4月半ばまでに「ハンマー」を打ち下ろして感染者を抑え、4月半ば以降、好きに「ダンス」を踊らせていたなら、社会経済活動の打撃を少なからず和らげることはできたはずだ。
もし東京オリ・パラを開催予定でいるなら、今回の緊急事態宣言で感染者が減らないようなら、6月中を期限とした緊急事態宣言と言う「ハンマー」を前以って打ち下ろして、徹底的に感染者を減らしてから、開催すべきだろう。
感染拡大防止にも無策、緊急事態宣言で与えることになる社会経済活動の打撃に対しての配慮をも欠いているようでは菅政権の責任は決して小さくはない。
最後に厚労相の田村憲久が2021年4月25日のNHK「日曜討論」で「ハンマー&ダンス」を取り上げていたから、触れてみる。
中川俊男(日本医師会長)(キャスターに今回の感染急拡大のこれまでと違う実感について尋ねられて)「今回の変異株について兵庫県の開業医の先生から声掛けを頂きまして、発熱外来をやっているのですけれども、来た患者さんにPCR検査をしますと、殆ど全員陽性だと言うんですよ。最初から結構な重篤患もありですね、全く第3波と様相が違うと。
自分感覚ではヨーロッパのロックダウンみたいな、必要なぐらいにまで危機感、恐怖感すら持っているという状態なんです」
田村憲久「ご承知の通り日本の国はヨーロッパのロックダウンできません。法律がそうなっておりまして、個人の方々ですね、家から出たら罰金を取るという、そういう制度はできないわけで、よくまあ、ハンマー&ダンスという感染症の専門家の方々が仰られて、こういう感染症は強い措置を先ず感染が拡大すると打つと。そしてある程度収まったら、もういつまでも、それ、やれませんから、人の生活を止めるということは。
それを解除してダンスを踊っていただくと。また増えてくるとハンマーを打つ。こういう繰り返しだというのが感染症の対策だと言われるのですが、日本の場合はハンマーは強い、そういう武器はないわけで、今、私はファイヤーベルって言ってるんですが、半鐘ですよね、感染が増えているぞというそういうような危機感を感じて頂いて、感染を止めて頂く。ま、こういうことをやってきているんですけども、まあ、ヨーロッパのようなロックダウン、全てが家から出ちゃダメだというような中で、しかしそれでもですね、ワクチンをあれだけ打って抑えているイギリス、今1日新規感染者2200人だと思いますが、これと今同じレベルの人口当たりの感染者でやるということは本当に国民の皆さまの方の色んなご努力の中であると思いますので、これ以上増やさないと。これ以上ヨーロッパのようにしないという意味での今回の緊急事態宣言、これでやっていくというふうにご理解を頂きたいと思います」
日本医師会長の中川俊男は現在の感染状況に対して「ロックダウンが必要なぐらいの危機感、恐怖感を持っている」と表現しただけのことで、「ロックダウン」をしろと主張したわけではない。それを田村は「日本の国はヨーロッパのロックダウンできません。法律がそうなっております」と発言趣旨を平気でねじ曲げることのできる頭の感覚は素晴らしい。
「ハンマー&ダンス」について「日本の場合はハンマーは強い、そういう武器はない」と断言しているが、西村は緊急事態宣言自体を「ハンマー」に譬えているだけで、何の間違いもないことは、事実倒産が増えていることからも、ハンマーで打ち付けられる以上の社会経済活動の打撃と解釈する個人事業主の存在もいるだろうから、明らかである。この比喩に気づかない頭の持ち主が厚労相を努めている。答弁が達者な早口だからなかなか気づかないが、答弁を仔細に眺めると、結構出たらめな発言が多い。
対象地域は東京都、京都府、大阪府、兵庫県、期間は4月25日から5月11日まで。その他まん延防止等重点措置に期限を同じくして愛媛県を追加。既にまん延防止等重点措置対象地区としていた宮城県と沖縄県の期限を5月5日から5月11日までに延長。
ここに来ての大都市の感染拡大の原因を従来株よりも感染力が強い変異株による感染の広がりを危惧し、その抑え込みの必要性からの緊急事態宣言の3回目の発出としている。
菅義偉「変異株の動きです。陽性者に占める割合は、大阪、兵庫で約8割、京都で約7割、東京でも約3割に上昇するなど、強い警戒が必要であります。このまま手をこまねいていれば、大都市における感染拡大が国全体に広がることが危惧されます。
こうした中で、再び緊急事態宣言を発出し、ゴールデンウィークという多くの人々が休みに入る機会を捉え、効果的な対策を短期間で集中して実施することにより、ウイルスの勢いを抑え込む必要がある。このように判断をいたしました。私自身、これまで、再び宣言に至らないように全力を尽くすと申し上げてきましたが、今回の事態に至り、再び多くの皆様方に御迷惑をおかけすることになります。心からお詫びを申し上げる次第でございます」
緊急事態宣言を使った感染拡大抑制の対策は飲食店の酒類提供の停止、20時までの時間短縮、カラオケの提供停止等の要請。デパート、テーマパーク等、一定規模以上の商業施設や遊興施設等に対する休業要請、イベントやスポーツの原則無観客での開催要請、一般市民の不要不急の外出の自粛要請、感染拡大地域との往来の自粛要請、テレワークや休暇の活用による出勤者の例年並みの7割減の要請等々となっているが、相当な社会経済活動の打撃となる。
これが止むを得ない打撃なら、補償では補いきれない損失を被る各国民はそれなりに打撃を引き受けざるを得ないが、政府の対策不足の不始末なら、不当な社会経済活動の制限ということになる。
では、変異株に対してどのような対策を打ってきて、結果として「陽性者に占める割合は、大阪、兵庫で約8割、京都で約7割、東京でも約3割に上昇」するに至ったのだろうか。質疑で記者が質問している。
ジャパンタイムズ記者杉山「総理にお伺いします。昨年末には既に海外で変異株の報告がありました。そして、専門家が警告を発している中で総理は2度目の緊急事態宣言の解除に踏み切りました。結果としてまん延を許し、感染が急拡大しましたが、政権の変異株に対する認識が甘かったのではないでしょうか」
菅義偉「先ず先般の緊急事態宣言の解除(大阪は2021年3月1日解除)については、感染者数や病床など、状況に基づいて専門家の意見を伺った上で解除しました。例えば大阪ですけれども、実際は、当時、解除したときは、新規感染者数は72名でした。私たちはステージ4からステージ3になれば、1つの目安に、解除するものとしておりました。ステージ3が315まで、ステージ2が189までです、大阪では。それが72名。そして病床も、ステージ4が50、そしてステージ2が20。そのとき病床は29.8でありましたけれども、全体としてこのような状況の中で解除をしたということであります。
そして、今回の緊急事態宣言に至ったというのは、やはり変異株が、私、冒頭申し上げましたけれども、大阪、兵庫では8割が変異株でありますから、そうした変異株の対策を行うことが大事だというふうに思っています。ただ、その対策を講じることというのは、基本的な従来の対策をしっかりやること、そういうことの中で対策を、そちらの勢いの方が強かったということだというふうに思います。それで、今回、人流を、このゴールデンウィークを中心として、短期間の間ですけれども止めさせていただく、そういう対策を講じたということです」
言っていることは「基本的な従来の対策」をしっかりと行ってきたが、変異株の感染力が強くて、結果的に「基本的な従来の対策」が用を成さなかったという意味を取る。だが、変異株の感染力が従来株以上であることは最初から海外からの報告で分かっていたはずだ。
国民側の基本的な従来の対策とはマスクの着用、手洗い、消毒、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)の維持等々であるが、国・地方自治体側の基本的な従来の対策はPCR検査、医療体制の保持、法律に基づいた社会経済活動の大なり小なりの制限その他である。
PCR検査はコロナ感染に特有とされる症状が出て感染を疑って受診する例と陽性の判定を受けた者との濃厚接触者が主な対象者となる。このような例の場合の感染判明は受動的な把握という経緯を取る。一方、感染はしているものの症状が出なくて、自分は感染しているとは露程も疑わない無症状者(無症状病原体保有者)はPCR検査を受ける機会もなく、2次感染、3次感染の媒介者となり得ると見られている。その割合は東京都の例として、「コロナ感染 2割は陽性判明時に無症状 60代以降も高い割合 東京」(NHK NEWS WEB/2021年1月20日 19時13分)記事が題名で平均を示している。但し無症状の人数は20代、30代が多い。2020年6月10日付「NHK NEWS WEB」記事は、〈WHO=世界保健機関は、新型コロナウイルスに感染した人のおよそ40%は、無症状の感染者からうつされているとする見方を明らかにした〉と伝えている。このような無症状者に対しては受動的な把握は困難で、何らかの能動的な把握の方法を見つけなければならない。
では、変異株の場合、どれくらいの無症状者が存在するのだろうか。「日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第1報)」(国立感染症研究所/2021年4月5日)によると、〈新規変異株症例については従来株症例に比べてより広範囲に濃厚接触者を特定し検査が行われていることから、診断時における無症状の割合が過大評価となる可能性がある。〉との条件付きではあるが、変異株の〈VOC-202012/01症例のうち男性が49.7%、18歳未満が17.6%、65歳以上が22.4%であった。無症状の割合は21.5%であった。〉とある。変異株と従来株の無症状の割合は変異株の条件を考慮すると、ほぼ変わらないと見ることができる。
では、両者の感染力の違いはどの程度なのだろう。〈2021年4月現在、日本国内における最初のVOC-202012/01症例の発生は2020年12月下旬にさかのぼる。以降、国内感染例は増加傾向にある。一方、501Y.V2、501Y.V3の国内感染は散発的に確認されている。本報告の解析では、VOC-202012/01と従来株症例の実効再生産数は平均でそれぞれ1.23 (95%信頼区間 1.18-1.28)と0.94 (95%信頼区間 0.90-0.97)であった。〉
変異株VOC-202012/01の実効再生産数は平均で1.23 。従来株の実効再生産数は平均で0.94 。実効再生産数が1人以下と1人以上では大きな差があるはずである。無症状の割合がほぼ同じで、感染力にこれだけの差があるとすると、感染者の受動的な把握という対策以上に何らかの能動的な把握を可能とする対策が必要になる。政府はそのような対策を採ってきたのだろうか。
2020年12月23日の開催の「新型コロナウイルス感染症対策分科会(第19回)」(2020年12月23日の議事次第資料「直近の感染状況の評価等」に変異株について次のような記述がある。文飾は当方。
〈英国で、最近の流行の主な系統となった変異株については、ECDC等からは、重症化を示唆するデータは認めない一方、感染性が高いとの指摘がなされており、医療への負荷が危惧される。この変異株については、これまでのところ国内では確認されていないが、流入リスクについて留意が必要である。
さらに、国内の厳しい感染状況の中で、英国等で見られる変異株の流入による感染拡大を防ぐことが必要である。このため、関係国との往来の在り方や検査・モニタリングの在り方について、適切な対応を速やかに行うべきである。〉・・・・
2020年12月23日時点では変異株の国内での感染は確認されていなかったが、4カ月後の2021年4月時点では「大阪、兵庫で約8割、京都で約7割、東京でも約3割」を占めるまでに至った状況から見ると、感染者の能動的な把握対策が見えてこない。〈検査・モニタリングの在り方について、適切な対応を速やかに行うべきである。〉と変異株感染抑止の方法を早急に確立するようにとの提言は「分会」自身が生かすことはなかったように見える。
2021年1月25日衆議院予算委員会
尾身茂「もう先生(立憲民主党今井雅人のこと)御承知のように、今、現段階でいろいろなサンプルを基に調査している限りの調査では、今のところ、国内の地域において、この変異株が地域の中で蔓延しているというふうには今のところ考えておりませんが、しかし、変異株ということの性質上、これが地域の中で感染を、これが主流になってくる可能性は否定できないので、これからそうした最悪のことに備えて様々なことを、対応を準備していくことが私は必要だと思っております。
今井雅人「総理、最後にちょっとお願いがありまして。
イギリス型の変異種は(2020年)9月ぐらいにはもう何かあったという話もありますけれども、実際に話題になってきたのは12月です。12月の14日だったと思いますが、イギリスの政府の方から、これはかなり大きく拡大しているといって、WHOも同時に声明を出していまして、イギリスにもう100ぐらいの症例があるというふうに言っていました。日本がイギリスから入国者を禁止したのはその10日後です。この10日間は放置状態になっていました。
水際対策というのは、国内の感染防止とは違って、外から入れてくるのを止めるわけですから、はっきりしているわけですね。はっきりしているんですよ。だから、ここは本当に、南アフリカ、それからブラジルの由来のはワクチンが効かないかもしれないと言っています、だから、是非、水際対策として、どういう状況になったら開けていくのかとか、そういうことの基本計画をしっかり作るべきだというふうに尾身理事長もおっしゃっておられますから、そういうものをしっかり示して、変異種が日本に入ってこないような厳しい対応をしていただきたいと思いますが、いかがですか」
菅義偉「そのように致します」
今井雅人「と言うことは、そういうものをしっかりと作って、総理の方から国民にしっかり説明して頂けるということですね。それだけお願いしたいです」
菅義偉「変異株について、私自身は強い危機感を持っています。そして、引き続き諸外国の感染状況を注視するとともに、国内における水際対策の強化や変異株に対する監視体制の強化、こうしたものを、感染拡大防止対策、しっかりと行ってまいります」
菅義偉は「変異株について、私自身は強い危機感を持っています」と口では言っているが、今井雅人が変異種流入防止の基本計画をしっかり作るべきだと進言しているのに対して「そのように致します」としか答えない辺りからは強い危機感は見当たらない。あるいはそんなことは言われなくても分かっていると反発したせいで、素っ気ない答弁となったのか。と言うのも、この質疑から8日後の2021年2月2日に決定した、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」で、〈政府及び都道府県は、再度の感染拡大の予兆を早期に探知するため、歓楽街等における幅広いPCR検査等(モニタリング検査)やデータ分析の実施を検討し、感染の再拡大を防ぐこと。〉と提言しているからである。
この決定は2021年1月7日に首都圏4都府県に2回目の緊急事態宣言発出し、2021年1月13日に大阪、京都、兵庫、愛知、岐阜、福岡、栃木に同じく2回目の緊急事態宣言発出後のことである。東京等への発出から14日後、大阪等への発出から10日後のことである。そして実際に繁華街などで検査キッドを無料配布してPCR検査を行い、それをモニタリングする活動を開始したのは20日後の、〈栃木県が2021年2月22日から、岐阜県で3月4日(木)、大阪府、京都府、兵庫県で3月5日(金)から、愛知県、福岡県で3月6日(土)から、神奈川県で3月18日(木)から、千葉県で3月19日(金)から、東京都、埼玉県で3月20日(土)から、北海道で4月1日(木)から、沖縄県で4月2日(金)から〉(「内閣官房新型コロナウイルス感染症対策」)等となっている。
確かに準備に時間がかかる事情は理解できるが、感染抑止は準備の時間を見込んで先手、先手で取り組むべきだと思うが、東京、大阪等の2回目の緊急事態宣言解除を経て、さらに各地へのまん延防止等重点措置適用、解除を経て、3回目の緊急事態宣言となったということと、この宣言が感染力の強い変異株の影響で感染者が急拡大し、その感染拡大を抑えることが宣言の根拠となり、そのために従来以上に強い社会経済活動の制限となったということは明らかに変異株対策に見るべき効果を打ち出すことができなかったことになる。
となると、緊急事態宣言発出によって受ける個人商店主その他の社会経済活動の打撃は政府の対策不足が原因となって、その不当性は計り知れないものとなる。菅義偉の3回目の緊急事態宣言発出の記者会見に先立って経済再生担当相の西村康稔が発出の説明を行った2021年4月23日衆議院議院運営委員会の質疑から政府の感染対策の適否をさらに見てみる。
盛山正仁(自由民主党)「まん延防止等重点措置、今月5日から大阪府、兵庫県、12日から東京都、京都府で講じているにも関わらず、このように発令後に2週間、3週間といった短期間で緊急事態宣言を再発出することになったことはまことに遺憾です。
国民の間からは政府、地方自治体の対応はコロコロ変わる。国民生活への影響について十分に検討がなされているのか、措置について医学的・科学的な根拠はあるのかなどの声が上がっていませんか。
今回の3回目の緊急事態宣言の発出に当たって、今度こそ、新型コロナウイルスに対する万全の対策を講じることはできると考えているのかお答ください」
以下2点纏めて質問するが、この緊急事態宣言発出の効果についての質問に対する西村康稔の答弁のみを取り上げる。自民党盛山正仁としては親分の菅義偉が大阪府のまん延防止等重点措置の適用要請に対しての2021年3月31日の会見で、この措置は「緊急事態宣言に行かないような、また、感染拡大防止につながるような対応策です」と受け合ったものの、緊急事態宣言を発出せざるを得なくなった手前、いつものヨイショ質問では済まなく、少しは強く言わざるを得なかったのだろう。
西村康稔「この新型コロナウイルスは何度も流行の波が起こるわけであります。諸外国を見ていてもそうであります。そして起こるたびに大きくなってくれば、ハンマーで叩く。つまり措置を講じて抑えていく。その繰り返しを行っていく。何度でもこれを行っていくことになります。
今度も起こり得ると思います。そのためにまん延防止等重点措置を新たに設けて頂いて、この機動的な活用も含めて、大きくなってくれば、感染を抑えていく。こうした姿勢で臨んでいきたいと考えておりますし、このことは以前から申し上げているとおりであります。
そのまん延防止等重点措置でありますが、宮城県では新規陽性者数がピークの4分の1まで減少してきております。また大阪府でも、確かに陽性者数は高い水準ですけども、先週、1週間前から1100人、1200人の水準で高止まっている。これはちょうど4月1日からまん延防止等重点措置を始めましたので、2週間経った頃から効果が、一定の効果が出てきていると思います。
しかしながら、なかなか減少傾向にならない。これは変異株、感染力が極めて強いからであります。こうした状況を見る中にですね、これまで以上に強い措置を講じないと、この変異株の感染拡大を抑えられない。こうした強い実感を持っているところであります。
そのために今回緊急事態宣言を発出させて頂いたわけであります。是非、国民の皆さんのこれまで以上に徹底した感染防止対策、特にゴールデンウイーク、大型連休を機に対策を強化しますので、これまで以上の外出自粛をやって頂いてですね、ステイホーム、お願いしたいというふうに思います」
要するに変異株感染抑止の対策も空しく、変異株感染者を増やしてしまった。となると、政府の対策失敗ということになる。
西村康稔は「この新型コロナウイルスは何度も流行の波が起こるわけであります。諸外国を見ていてもそうであります。そして起こるたびに大きくなってくれば、ハンマーで叩く。つまり措置を講じて抑えていく。その繰り返しを行っていく。何度でもこれを行っていくことになります」と言っている。つまり緊急事態宣言をいくら発出しても、その当座は感染者数が減るものの、宣言を解除すれば、再び感染者が増える。増えた場合はハンマーで叩くように緊急事態宣言のように強い措置を講じなければならない。その繰り返しだとしている。
このことは政府のコロナ対策がこれまでは緊急事態宣言を使った人の移動の制限(人流阻止)以外の有効な手立てがなかったのだから、当然のことである。2021年2月1日の当ブログ《菅義偉の「個々の研究についてはコメントを差し控えています」の答弁をそのままスルーさせる野党追及の甘さ加減 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に次のように書いた。
〈2021年2月1日の朝のNHKニュースで菅内閣は医療提供体制の逼迫状況の点から緊急事態宣言を延長する方向で調整に入ったと伝えていたが、解除に障害となる点を全てクリアして解除されて人の移動も再開された場合、緊急事態宣言再発令によって現在減少傾向にある新規陽性者は人の移動と感染が密接な相関関係にある以上、再び増加傾向を取ることになる。そしてこの繰り返しは国民の大多数がワクチンを接種するまで続くことになる。
この繰り返しの波の頭を少しでも抑えるためには感染して、ウイルス保有者となりながら、無症状なためにPCR検査を受けないままに市中に放し飼いの状態に置くことになる、その多くが新規陽性者の半数前後を占めている感染経路不明と考えられる無症状感染者を如何に効率よくPCR検査の網にすくい取るかにかかってくることになるはずである。〉
要するに感染者増と感染者減の波に任せるだけで、無症状感染者を効率よくPCR検査の網にすくい取って、陽性者を隔離、2次感染、3次感染を防ぐ前以っての効果的な対策を取れずにいた。勿論、今後効果的な対策を取れるかどうかは以後の取り組みにかかってくる。
感染の大きな波が来れば、緊急事態宣言で「ハンマーで叩く」と言っていることは2020年7月3日の「記者会見」で自身が述べている。
西村康稔「小さな波は今後も来るわけですけれども、それが大きな波にならないように我々は努力していく、ハンマー&ダンスで叩いていくわけですが。クラスター対策、そして、それより何より検知もしっかりやってクラスター対策をやっていくわけですけれども、仮に大きな波が来たとしても、それに応えていく対策を議論していただきたいと思っております。検査態勢、あるいは保健所機能、そうしたサーベランス(調査監視)のあり方、こういったことについて、是非、議論していただきたいと思っております」
「ダンス」とは社会経済活動に関して自由にダンスするように自由な行動に任せるということなのだろう。勿論法律の範囲内の行動だが、自由な社会経済活動は許されているから、問題は政府が打ち振るうことになる、自由な社会経済活動を阻害することになる「ハンマー」と言うことになる。その阻害が公権力上妥当セ性を持ちうるかどうか。
西村康稔は「大きな波にならないように我々は努力していく、ハンマー&ダンスで叩いていく」と言い、「何より検知もしっかりやってクラスター対策をやっていく」と大波を防ぐ対策を述べているが、大きな波と小さな波が繰り返すのは人の移動次第(人流次第)なのだから、これ以外の政府対策は効果は殆どないか、たかが知れていると見なければならない。
松尾明弘(立憲民主党)「緊急事態宣言の解除から1ヶ月でまた宣言をしなければならないのは完全に政府、大阪府、東京都等の失敗であると言わざるを得ません。今回の緊急事態宣言が実効性を持つのかどうか、いくつか質問させて頂きます
・・・・・(中略)・・・・・
総理はですね、再び宣言をしないようにするのは私の責務とまで話していたのですから、自ら(国会に出て)報告しないのはあまりにも無責任であると考えますがそこのところは如何ですか」
西村康稔「これまでも申し上げておりますように、先程も答弁させて頂きましたとおり、様々流行は何度も起こりますので、それに対して機動的に対処していくことが必要というふうに考えておりますが、(総理も)同じ認識をされております。
総理からも様々な場面に於きましてコロナ対策について丁寧が説明が今後もなされるものというふうに思います」・・・・・
ここでも「流行は何度も起こります」との文言で緊急事態宣言の発出は止む無しとした上で、「機動的に対処していくことが必要」と政府の対策を正当化しているが、飲食店の酒類提供の停止、20時までの時間短縮、カラオケの提供停止等の要請。デパート、テーマパーク等、一定規模以上の商業施設や遊興施設等に対する休業要請等々、人の移動の極端な制限(人流次第の極端な制限)は機動的対処のうちに入るのだろうか。
「機動的」という言葉は従来株無症状者だけだはなく、特に変異株無症状者をPCR検査で把握・隔離し、2次感染、3次感染を極力防いでいく活動にこそ使うべきだろう。このような活動ができず、特に変異株感染者を増やしてしまった。
このような活動ができなかったことは次の質疑に出ている。
清水忠史(日本共産党)「変異株ですが、既に3月中旬には兵庫県でも猛威を振るい始めておりました。政府の認識と対応はやっぱり甘かったのではないでしょうか」
西村康稔「先ず12月19日に英国政府から変異株に関する公式公表がございました。その後厚労省のアドバイザーリポートでの評価を経て12月23日には英国からの新規入国を一時停止を私共行っております。1月23日には全ての入国者に対して誓約書の提出。反した場合には氏名の公表、あるいは退去強制手続き、これを対象とするといったような厳しい措置も講じたところであります。
他方、国内に於きましてはスクリーニング検査ですね、40%程は拡大することにしていまして、既に3割超行っておりますが、いずれにしましても、各地域で変異株に対する危機感は非常に強いものがありますので、国と自治体と連携しながら、しっかりと監視しながら、行ってきておりますし、さらにこのことを強めていきたいと思います」
清水忠史「日本はやはりPCR検査数が世界145位と少過ぎます。PCR検査の社会的検査について高齢者施設にとどまらず、病院、学校、保育所に拡大すべきだとお見ますが、大臣、どう思いますか」
西村康稔「ご指摘のようにですね、PCR検査につきましては戦略的に拡充してきているところであります。3月には高齢者施設・・・・、もし検査数が必要であれば、また申し上げますが、集中的に従事者の方に実施をしてきておりますし、またこのことを4月から6月にかけて頻回で実施するということにしております。
さらには私共はモニタリング検査でですね、特にリスクの高い無症状者の方を見つけ出していく、感染源を特定していくためにですね、大学や作業場、こういたところと連携しながら、今取り組みを勧めているいるところでございます。
いずれにしましても、検査キッドもありますので、こういった活用も含めて、戦略的に拡充していければというふうに考えております」
先ず「スクリーニング検査」、「40%程は拡大することにしていまして、既に3割超行っております」としているが、3回目の緊急事態宣言発出を抑えることはできなかった。
「PCR検査」は「戦略的に拡充してきているところであります」との言葉で拡充途中であることを曝け出し、さらに「4月から6月にかけて頻回で実施するということにしております」と今後の話としている。要するに緊急事態宣言の後手に回っている。
東徹(日本維新の会)「今回3回目の緊急事態宣言の発令ということになりました。非常に今回の新型コロナウイルス、非常に重傷者が多いという状況にあります。医療の逼迫どころかですね、溢れている状況を見ますとですね、これは出さざるを得ないというふうに思います。その中で感染拡大の要因についてお聞きしたいと思います。
大阪の感染状況を見ますと、今年初めに行われた2回目の緊急事態宣言ですね、1月13日から2月28日だったんですけれども、宣言が出された2週間後に新規感染者の7日間平均は3割減ったんです。そのあと4月5日、まん延防止等重点措置、これではですね、午後8時までの時短要請やってたんですね。やってたんですけども、まん延防止等重点措置ですね、これ(感染者数が)、減らなかったということがあります。
そして重症患者がどんどん増えてきた。これは今回急激に感染者の拡大が生じたのはですね、これまでは飛沫を防げば感染を抑えられるのではなく、空気感染、こういったものもあり得るということで、今回、人出自体を抑えようとしているのか、この点について伺いたいとおもいます」
西村康稔「大阪でのまん延防止等重点措置、私共、効果がなかったとは思っていなくてですね、4月5日から始めて15日頃に1200人ぐらいまでに1日の感染者がありましたが、その後、1週間ぐらいずっと1100、1200で、これ以上伸びることを抑えている効果はあるんじゃないかと見ております。変異株の感染力の強さとまん延防止等重点措置の強さのせめぎ合いの、こう、今、1100、1200ぐらいでとどまっているのか、今後下がっていくのか、また上がるのかですね、これちゃんと見ていかなければいけないと思っておりますが、いずれにしても、何で広がったのかと。明らかに変異株でありまして、これまで感染していなかった人も感染をしておりますので、そういう意味で細かく飛沫なのか、マイクロ飛沫なのか、まだ分析はできておりませんけども、とにかく感染力は強いことは明らかだというふうに思います。
その意味で例えばマスクをするときも、できれば不織布のマスクで、こう(指でマスクの上から鼻を抑えて)隙間なくするとかですね、これまで以上に距離を取るとかをやらなければいけませんし、ここまで来ると、大型連休中、徹底的なステイホームをお願いをしてですね、人と人との接触を減らす。
そのために人流を減らさないと、これ、感染を抑えられない。こんな状況にまでなっているということの危機感を強く持っている次第であります。そのために緊急事態宣言、今回お願いしているということでございます」
要するに変異株に対する感染防止対策、あるいは前以っての危機管理が不足していたために緊急事態宣言という「ハンマー」に頼らざるを得なかった。
同日の参議院議院運営委員会から一つ。
山下芳生(日本共産党)「衆議院の質疑を聞いていますと、西村大臣から驚くべき答弁がありました。緊急事態宣言の再発出となった今の状況について問われて、西村大臣は何度も流行の波が起こる、今後も起こり得る、と。答弁しましたのですね。
耳を疑いました。政府にはコロナを封じ込める意思がないのか。何度も流行の波が起こる、今後も起こり得るというのは、そういうことですね。コロナを封じ込める立場には立たないと言うことですね。これから3度目の宣言を発出しようというときに国民の皆さん、医療従事者の皆さん、中小事業者の皆さんが不安を抱えながらも歯を食いしばって頑張っていこうというときにあまりにも酷い発言、あまりにも酷い姿勢だと言わなければなりません。
先程、西村大臣はこの発言は総理も同じ立場だと仰いましたけども、西村発言というのは政府の公式の立場ですか」
西村康稔「あのー、私は担当大臣として政府を代表してここに立っておりますので、私の発言は政府の認識ですございます。そのうえでこれまでも何度も説明してきておりますし、答弁をしてきております。何度も流行は起こるんです。どこの国を見ても起こっています。ただ、それをできればゼロにしたいと我々は思っています。しかしゼロにできない。
東京でも50人、100人、できるだけ低くしたい。その思いはもう、みなさんと同じ。あるいはそれ以上の、私は責任者として持っております。ただ、これはなかなか難しい。徹底的な対策をやりながらも、どこで感染したかも分からない。そういう特に変異株はそういう状況になってきております。これをここで抑える。東京も、また医療機関も極めて厳しい状況になっておりませんけども、今の段階から、大阪は厳しい状況ですので、そうならないようにするために今の段階から緊急事態宣言を発出させて頂いて抑えていく。
大きな波にしたくない。小さな波で叩いていく。これは感染症の専門家も、みなさん、言われていることであります。できれば低くしたいですけれども、しっかり大きな流行にしないように全力を上げていきたいと思います。
山下芳生「何度も流行の波が起こる。今度も起こり得るというのはこれからも繰り返すということを担当大臣がこれから宣言を発出するときに発言してしまったんですよ。あまりにもこれはね、国民に対するメッセージとしてはね、誤ったメッセージにしてしまってるんだと思うんですよ。今ね、頑張っていると言ってるけども、先程からどの国でもね、繰り返すんだとおっしゃってたけども、ハンマー&ダンスって衆議院で仰いました。ただ、ハンマー&ダンスはもう破綻したんですよ。何遍偽りを繰り返すのかとみんな、疲れ切っていますよ。
イギリス、今ワクチンの接種、これを広げること。それから徹底した検査。1軒、1軒のご家庭に検査キッドをお配りして、そして無料で配布してるんですよ。このワクチンと徹底した検査で一時、1日数万件の感染者数だったのがいまぐうーっと抑え込んで、いまお店でね、家族で食事を、友人と食事をやってるじゃありませんか。コロナを封じ込めるんだという立場に立たなかったら、何度も繰り返すんだという立場に立っちゃったなら、全く展望ないじゃないですか。
あのね、私はそういう姿勢だからね、政府はコロナを封じ込めるための大規模検査をやらないと。日本の人口比のPCR検査数は世界146位ですよ。先進国としてあまりにも恥ずかしいという消極的姿勢になっている。中小企業への十分な補償もやらない。医療機関への減収補償もやらない。その背景には、どうせ何度も流行の波は起こる、今度も起こり得るという姿勢があると言わざるを得ません。そんな姿勢で、そんなに低い志で、一体どうやって国民の命と暮らしを守るんですか」
西村康稔「あの、私自身、何としてもこの感染拡大を抑えたい、誰よりも強く思っています。夜中に何度も目が覚めます。ずうっと考えています(感情的に声を強める)。私は誰にも負けないくらい勉強をし、勉強というよりも研究をし、専門家の皆さんもハンマー&ダンス、これはもう感染症の常識だと言われています。そのことを私は申し上げているんです。
勿論、ゼロにしたいです。しかしなかなか出来ない。だけれども、大きな流行にならないように強いハンマーを今回お願いをしているところでありますが、勿論、大阪では病床はもう厳しい状況になっておりますけれども、その上で検査については戦略的に拡充していきたいと考えております。
確かに人口当たりの検査数は少ないです。ただ、色んな見方、これは尾身会長も紹介されておりますけども、日本の場合は亡くなった数も非常に、ひと工夫、先進国の中では抑えてきておりますが、亡くなった方当たりの検査件数で見ると、これは非常に少ない、いや、非常に多い件数になっておりまして、つまりしっかりと検査で死者を、亡くなる方、重症化する方を抑えてきたという効果はあるものという評価がなされております。
いずれにしても、私も検査を広げていきたいと思います。検査キッドを、これはあの感度の問題、精度の問題、それから偽陽性の問題もありますので、陰性だから大丈夫だと。その日のうちに感染してしまうかもしれない。様々な課題がありますけども、それを乗り越えて、乗り越えて、頻回に検査をやっていくことを含めて、今、モニタリング検査も私共、拡充をしておりますので、そういったことを含めてですね、戦略的にさらに拡充していきたいと思います」
山下芳生「いくら言ってもね、146位ですよ。言い訳できませんよ。私はコロナを封じ込める立場に立たない政府の姿勢こそ、今一番の問題だと思います。今政治が成すべきことは何か。コロナを封じ込めるための大規模検査を実行することです。中小業者のみなさんが事業を続けられる十分な補償を行う。
そして医療機関の減収補填に踏み切る手立てを尽くすことです。そして東京オリンピック・パラリンピックは中止して、コロナの収束に全ての力を集中する。やるべきことをやって、何としてもコロナを封じ込める。感染を封じ込める。今、そのことこそ、政治の責任だということを申し上げて終ります」
緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も感染の結果である。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に頼らずに感染者を減らすことができなければ、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も繰り返すことになる。西村康稔が言うように大きな波と小さな波が繰り返すことになる。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に至らないように前以って感染者数を減らすには山下芳生の言うように大規模なPCR検査以外に手はない。
それもコロナ感染に特有とされる症状が出て感染を疑って受診し、陽性と判定された患者とその濃厚接触者を主な対象者とする受動的なPCR検査だけではなく、感染はしているものの症状が出なくて、自分は感染しているとは露程も疑わ図に活動している無症状者(無症状病原体保有者)を能動的に拾い出して感染の有無を判定していくPCR検査をより広く実施しなければならない。繁華街などで検査キッドを無料配布してPCR検査を行い、それをモニタリングする活動が感染者の能動的な把握ということになるが、まだ動き出したばかりの遅さである。
となると、今回の緊急事態宣言で相当な社会経済活動の打撃を被る個人商店主等にとって止むを得ない打撃ということではなく、政府の対策不足の不始末からの打撃に相当する。
このような打撃を少しでも和らげるためには西村康稔が「新型コロナウイルスは何度も流行の波が起こる」と確信的に主張している以上、「ハンマー&ダンス」の時期を選ぶべきだったろう。3回目の緊急事態宣言で言うなら、4月5月の大型連休期間を避けて、3月半ばから4月半ばまでに「ハンマー」を打ち下ろして感染者を抑え、4月半ば以降、好きに「ダンス」を踊らせていたなら、社会経済活動の打撃を少なからず和らげることはできたはずだ。
もし東京オリ・パラを開催予定でいるなら、今回の緊急事態宣言で感染者が減らないようなら、6月中を期限とした緊急事態宣言と言う「ハンマー」を前以って打ち下ろして、徹底的に感染者を減らしてから、開催すべきだろう。
感染拡大防止にも無策、緊急事態宣言で与えることになる社会経済活動の打撃に対しての配慮をも欠いているようでは菅政権の責任は決して小さくはない。
最後に厚労相の田村憲久が2021年4月25日のNHK「日曜討論」で「ハンマー&ダンス」を取り上げていたから、触れてみる。
中川俊男(日本医師会長)(キャスターに今回の感染急拡大のこれまでと違う実感について尋ねられて)「今回の変異株について兵庫県の開業医の先生から声掛けを頂きまして、発熱外来をやっているのですけれども、来た患者さんにPCR検査をしますと、殆ど全員陽性だと言うんですよ。最初から結構な重篤患もありですね、全く第3波と様相が違うと。
自分感覚ではヨーロッパのロックダウンみたいな、必要なぐらいにまで危機感、恐怖感すら持っているという状態なんです」
田村憲久「ご承知の通り日本の国はヨーロッパのロックダウンできません。法律がそうなっておりまして、個人の方々ですね、家から出たら罰金を取るという、そういう制度はできないわけで、よくまあ、ハンマー&ダンスという感染症の専門家の方々が仰られて、こういう感染症は強い措置を先ず感染が拡大すると打つと。そしてある程度収まったら、もういつまでも、それ、やれませんから、人の生活を止めるということは。
それを解除してダンスを踊っていただくと。また増えてくるとハンマーを打つ。こういう繰り返しだというのが感染症の対策だと言われるのですが、日本の場合はハンマーは強い、そういう武器はないわけで、今、私はファイヤーベルって言ってるんですが、半鐘ですよね、感染が増えているぞというそういうような危機感を感じて頂いて、感染を止めて頂く。ま、こういうことをやってきているんですけども、まあ、ヨーロッパのようなロックダウン、全てが家から出ちゃダメだというような中で、しかしそれでもですね、ワクチンをあれだけ打って抑えているイギリス、今1日新規感染者2200人だと思いますが、これと今同じレベルの人口当たりの感染者でやるということは本当に国民の皆さまの方の色んなご努力の中であると思いますので、これ以上増やさないと。これ以上ヨーロッパのようにしないという意味での今回の緊急事態宣言、これでやっていくというふうにご理解を頂きたいと思います」
日本医師会長の中川俊男は現在の感染状況に対して「ロックダウンが必要なぐらいの危機感、恐怖感を持っている」と表現しただけのことで、「ロックダウン」をしろと主張したわけではない。それを田村は「日本の国はヨーロッパのロックダウンできません。法律がそうなっております」と発言趣旨を平気でねじ曲げることのできる頭の感覚は素晴らしい。
「ハンマー&ダンス」について「日本の場合はハンマーは強い、そういう武器はない」と断言しているが、西村は緊急事態宣言自体を「ハンマー」に譬えているだけで、何の間違いもないことは、事実倒産が増えていることからも、ハンマーで打ち付けられる以上の社会経済活動の打撃と解釈する個人事業主の存在もいるだろうから、明らかである。この比喩に気づかない頭の持ち主が厚労相を努めている。答弁が達者な早口だからなかなか気づかないが、答弁を仔細に眺めると、結構出たらめな発言が多い。