11月27日(2018年)に首相官邸で第2回重要インフラの緊急点検に関する関係閣僚会議が開催され、安倍晋三が発言している。
「首相官邸サイト」 安倍晋三「近年、災害が激甚化する中、国民の命を守る防災・減災・国土強靱化を進めることは重要かつ喫緊の課題であると痛感しています。このため、重要なインフラが災害時にしっかりとその機能を維持できるよう、洪水や土砂災害対策のためのインフラのほか、災害時に拠点となる病院など防災のための重要インフラについて、また電力や交通インフラのほか、水道や食料に関する施設など国民経済、生活を支える重要インフラについて、総点検を実施し、本日取りまとめました。 この総点検の結果などを踏まえ、特に緊急に実施すべきものについて、達成目標、実施内容、事業費等を明らかにした防災・減災・国土強靱化のための3カ年緊急対策として年内に取りまとめます。国土強靱化基本計画にも位置付けた上で、3年間集中で実施してまいります。各大臣におかれては、強靱な故郷(ふるさと)、誰もが安心して暮らすことができる故郷をつくり上げるために、総力を挙げて対策を講じるようにお願いいたします」 |
「防災・減災・国土強靱化」が3年間集中実施で必要とすることの根拠を"近年"の激甚化している災害への備えだとしている。
"近年"という言葉の意味は、ネットで見ると、「最近の数年間。ここ数年」と解説されている。どのくらいの年数を言うのかはっきりしないが、正確な年数を曖昧にすることができる便利な言葉としても使うことができる。
より正確な年数を知るために「数年」で検索すると、「コトバンク」に「デジタル大辞泉」の解説として「2、3か5、6ぐらいの年数」と出ていた。
最大数の「6年」を当てると、安倍晋三の「近年、災害が激甚化する中」でとの言葉が言わんとしている意味は、「ここ6年ぐらいの間、災害が激甚化している」、それゆえに「国民の命を守る」喫緊の課題として「防災・減災・国土強靱化」の3年間集中実施が必要だとなる。
だが、ここ6年かそこらの間で災害が激甚化、あるいは大規模化してきたわけではない。そもそもからして異常気象とそれが影響した自然災害の激甚化・大規模化の原因として地球温暖化が言われ出したのはかなり前のことである。地球温暖化に関わる単語としては「鳩山イニシアティブ」とか「京都議定書」とかが頭にある。
改めてネットで調べてみると、「京都議定書」とは国際連合のもと地球温暖化対策の枠組みを初めて定め、1994年3月に発効した「気候変動枠組条約」に基づき、1997年に京都開催の「地球温暖化防止京都会議」で議決した議定書のことだそうで、二酸化炭素等の有害物質の排出に対する各国の削減率を決めている。
「鳩山イニシアティブ」とは地球温暖化への対策に必要な二酸化炭素の排出削減のため、民主党政権時代に首相だった鳩山由紀夫が2009年9月に提唱した構想だと「Wikipedia」が紹介している。
と言うことは、地球温暖化は1994年以前から言われ出していたことになる。より正確な時期は「地球温暖化って、いつから始まったんですか?」(環境なぜなぜ110番 学研サイエンスキッズ)で知ることができる。
〈温暖化を最初に指摘したのはスウェーデンの科学者スパンテ・アレニウス。1889年にこのまま二酸化炭素が増え続けると地球の気温が上がると発表しているが、まだそれほどしんこくな問題とはみとめられなかったんだ。
1970年代になって大気の研究が進み、温暖化のしくみが科学的に研究され始め、研究者たちが注目するようになった。
そして、温暖化が世界的な問題となって発表されたのは1985年。オーストラリアのフィラハで地球温暖化を考える初めての世界会議が開かれたのが最初。
1988年に、カナダのトロントで開かれた世界会議では40数か国の研究者や政府関係者が集まり、二酸化炭素の排出をおさえるための具体的な目標などをかかげたんだ。
この年には、温暖化問題を調査する機関・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も設立された。
地球温暖化が始まったのは1850年ごろだけれど、しんこくな問題としてとりあげられ、人々が注目するようになったのは1980年代後半ぐらいからだね。〉――
地球温暖化が始まったのは1850年頃からで、深刻な問題として取り上げられ、人々が注目するようになったのは1980年代後半ぐらいから。・・・・・
地球温暖化由来の異常気象によって大雨、洪水、台風やハリケーンの異常発生、海水面の上昇等々、地球を変質させていく様々な悪影響が指摘されるようになっ
た。
第2次安倍政権の自然災害対策について言うと、2013年12月に「国土強靭化基本法」を制定している。そしてその前文で、〈我が国は、地理的及び自然的な特性から、多くの大規模自然災害等による被害を受け、自然の猛威は想像を超える悲惨な結果をもたらしてきた。我々は、東日本大震災の際、改めて自然の猛威の前に立ち尽くすとともに、その猛威からは逃れることができないことを思い知らされた。〉ことからの大規模自然災害等に対する国家危機管理として、〈今すぐにでも発生し得る大規模自然災害等に備えて早急に事前防災及び減災に係る施策を進めるためには、大規模自然災害等に対する脆弱性を評価し、優先順位を定め、事前に的確な施策を実施して大規模自然災害等に強い国土及び地域を作るとともに、自らの生命及び生活を守ることができるよう地域住民の力を向上させることが必要である。〉云々と国土強靭化の必要性を謳っている。
この法律に基づいて国土強靱化基本計画を策定、3年間で15兆円の追加投資の方針を決めたと言う。
この「国土強靭化基本法」は2013年12月制定だから、それ以降の激甚化・大規模化していく自然災害への対策だと言うことなら、それから5年、2013年12月まで遡って発生した自然災害を"近年"の内に入れた対策だとするのは一見、正当性を得るように見えるが、1980年代後半ぐらいから地球温暖化が異常気象や大規模な自然災害をもたらす原因として人々が注目するようになっている以上、そのことまで考えて、対策そのものは"近年"の自然災害を対象とした事前防災及び減災であってはならないはずだ。
大体からして東日本大震災は約1100年前の869年(平安時代前期の貞観11年)に発生した想定地震規模マグニチュード8.3以上、同じ三陸沖を震源としてい
る貞観地震の再来と言われている。(Wikipedia) 東京電力は2008年に貞観地震を参考に巨大地震時の津波規模を試算、福島第1原発の5~6号機に来る津波が10.2メートル、防波堤南側からの遡上高は15.7メートルという結果を纏めた(「日経電子版」(2011/8/24))たが、その対策を怠った。
こういった事態も、"近年"の自然災害を対象とした事前防災及び減災であってはならない例となる。いわば事前防災及び減災等を柱とした国土強靭化は"近年"の自然災害を対象とした備えとするのではなく、災害大国日本を構成してきた遠い過去から"近年"までの自然災害を対象とした対策でなければならない。
だが、安倍晋三の意識は"近年"の自然災害を対象とした備えとなっている。そのことを対象とした備えとしている以上、対象そのものの"近年"の自然災害に対して、いわば2012年12月第2次安倍政権発足以降の自然災害に対して自身の政権下の起きているにも関わらず、自身を責任外に置くメリットが生じる。
無責任だから口から出てきた"近年"の言葉であるはずだ。責任感が強かったなら、遠い過去の大規模自然災害のみならず、世界中に発生している大規模自然災害まで視野に入れた言葉を口にしていただろう。