安倍晋三の支持率低下を恐れた、予測不可能性からのコロナ対策立ち往生による"後ろのめり"が招いた専門家会議の前のめり

2020-06-29 11:40:15 | 政治
 経済再生担当相の西村康稔が2020年6月24日の記者会見で新型コロナウイルス感染症対策専門家会議を廃止した上でメンバーを拡充するなどして、政府内に「新型コロナウイルス感染症対策分科会」として改めて設置する考えを明らかにしたとマスコミが伝えていた。

 専門家会議はあれ程安倍内閣と、勿論、安倍晋三とも一心同体でコロナ対策を進めてきたと思っていたのに、そうでもなかったようだ。この西村康稔の記者会見が開かれたのは同じ6月24日の16時00分から17時15分まで開かれていた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議構成員の脇田隆字座長と尾身茂副座長と岡部信彦構成員の日本記者クラブでの記者会見のさ中で、尾身茂副座長は記者から西村康稔の会議廃止表明を問われて、「え?もう1回言って」と聞き返したと、2020年6月27日付時事ドットコム記事、〈専門家会議、唐突に幕 政権批判封じ?政府発表前倒し―新型コロナ〉が伝えている。

 要するに新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は一心同体のはずの政府から会議廃止を前以って知らされていなかったことになるが、そうではなく、記事によると、専門家会議の廃止は尾身茂副座長らの提言を受けて、既に決まっていたことで、6月25日発表の予定であったのに対して西村康稔が専門家会議の断りもなしに1日前倒しの6月24日に発表したのだという。

 この点を取っただけでも、政府と専門家会議の関係が一心同体の親密期から倦怠期か、不仲期に突入していたことを物語っている。西村康稔の専門家会議廃止が1日前倒しの表明となったのは尾身茂副座長らが記者会見で何を述べるのか前以って知らされていたか、政府と専門家会議の最近の関係性から何を述べるのか予測できたか、いずれかであろう。そしてその内容が政府に不利になることを回避する意味で1日前倒しの先制攻撃ということになったはずである。

 だが、西村康稔のこのような立ち回りは政府の立場からの思惑であって、自己都合という夾雑物が混ざり込み、公平な判断かどうかの保証はない。記事は前倒し発表の狙いをある政府高官の情報として、〈「専門家の会見で、政府が後手に回った印象を与える事態を回避しようとした」と断言する。〉と解説している。

 つまり安倍政権は新型コロナ感染問題で専門家会議の提言を様々に受けながら、後手に回った対策しか打つことができなかった印象を専門家会議の記者会見が与えることを回避する必要があった。

 だが、専門家会議を廃止して、法的な位置付けを持つ新型コロナ対策分科会へと衣替えすることの1日前の発表が後手に回った印象の払拭に繋がる効果を持つとする西村康稔の立ち回りは理解を与え難い。大体が衣替え自体が組織そのものか、その組織と政府の連絡に何らかの欠陥か障害を窺わせる。

 記事は専門家会議は記者会見で、〈政府の政策決定と会議の関係を明確にする必要性を訴えていた。〉と書いている。関係明確の必要性の訴えの背景には、誰なのか分からないが、会議メンバーの発言として、「十分な説明ができない政府に代わって前面に出ざるを得なかった」と伝えている。

 コロナ対策で「政府が後手に回った印象」、「十分な説明ができない政府」という二つのキーワードからは専門家会議の提言・情報に頼った政府の提言・情報という状況しか窺うことができない。

 安倍政権は2020年1月30日に「新型コロナウイルス感染症対策本部の設置」を閣議決定している。本部長は内閣総理大臣安倍晋三である。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の提言・情報を受けて、安倍晋三は新型コロナウイルス感染症対策本部に於いて自らの責任のもと、感染症防止対策の決定を行わなければならない。だが、その決定は感染症対策専門家会議の提言・情報を追随するだけでしかなかったことになる。

 果たして事実はそのとおりだったのだろうか。

 〈コロナ対策の責任、専門家に矛先も-問われる政府との役割分担〉(Bloomberg/2020年6月24日 17:00)に、〈安倍首相は2月の記者会見で、「大きな責任を先頭に立って果たしていく」と言及。政治は結果責任であるとした上で、逃れるつもりは「毛頭ない」と強調した。一方で、4月の国会では、緊急事態宣言の期間について問われた際、「専門家の分析、ご判断に従っている」と責任を転嫁するような発言も飛び出した。〉の一文を見つけた。

 安倍晋三は2020年2月29日の「記者会見」でPCR検査への医療保険の適用や、5千床を超える病床確保等を伝えたあと、「皆さんの暮らしに直結する決断には、当然、様々な御意見、御批判が伴います。内閣総理大臣として、そうした声に真摯に耳を傾けるべきは当然です。しかし、それでもなお内閣総理大臣として国民の命と暮らしを守る。その大きな責任を果たすため、これからも先頭に立って、為すべきことは決断していく。その決意であります」と自らの責任の重大性と対策への批判を恐れない決断ある率先遂行を宣言している。

 同時にこの姿勢に反する当該記事が伝えている発言は2020年4月17日(金曜日)の衆議院厚生労働委員会で飛び出している。

 安倍晋三「最初に緊急事態宣言を出したときから、いわばこれは専門家の皆様の分析、御判断に我々は従っているわけでございますが、先ずは(人と人との接触を)最低5割、そして8割減らすことができれば2週間後には(コロナ感染防止の)成果が出てくる、更に2週間、そしてもう少しということで、1カ月ということで判断をしていただいたところでございます。

 でも、しかし、それが十分でなければ、これは8割ということでこの1カ月(4月16日に緊急事態宣言対象区域を東京都等7都道府県から全国に5月6日目途に拡大したこと)なんですが、7割であれば更にこれは延びていくということは専門家の皆様にもお話をいただいているところだ、このように思うわけでございます」

 そして今、更に加えたところについては、それは、加えた皆様が更に一カ月ということではなくて、まず、今、とりあえずは5月6日ということで合わせるべきだということが専門家の皆さんの御意見でございましたので、そこに合わせているところでございます」

 要するに2020年4月7日の最初の東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象範囲とした緊急事態宣言発出にしても、4月16日の全国への対象範囲拡大にしても、「専門家(会議)の皆様の分析、御判断」に従って決定したものであることを赤裸々に告白している。専門家会議の「専門家の皆様の分析、御判断」を伺って、政府として最終的に対策を決定したとは言っていない。

 4月16日から5月6日目途の対象範囲全国拡大にしても、「専門家の皆さんの御意見でございましたので、そこに合わせているところでございます」と、政府としての判断決定の関与を一切排除して、それを当然としている。つまり政府の新型コロナウイルス感染症対策本部の本部長であることを忘れて、感染症防止対策の決定を専門家会議に預けている状況に自らを置いている。

 専門家会議の側からすると、自分たちの「分析、判断」がそのまま政府の対策として打ち出されることになるから、安倍晋三の責任感の軽さに反して責任の重大さを自覚、感染症対策の専門家としての自負と間違った方向性を与えてはいけない緊張感から的確な「分析、判断」とその発信に前のめりな姿勢にならざるを得なかったことは容易に想像できる。

 但し安倍晋三が政府の新型コロナウイルス感染症対策本部の本部長を務めている関係から、コロナ感染防止対策の最終決定権者であると同時に最終責任者に位置していながら、対策の決定と責任を専門家会議任せとする後ろのめりが招いた専門家会議の前のめりという関係でなければならない。

 安倍晋三自身が対策の最終決定権者であり、最終責任者であることを自覚していて、その自覚どおりの行動を取っていたなら、専門家会議が前のめりになる余地などなかったはずである。当然、「専門家の皆様の分析、御判断に我々は従っているわけでございます」といった発言も、「専門家の皆さんの御意見でございましたので、そこに合わせているところでございます」といった発言も、安倍晋三の口からは出てこない。

 学校一斉休校は安倍晋三自身が独断で決めたことだということだが、子どもから子どもや大人への感染例が少ないこと、感染したとしても、感染した場合の子どもの重症者が殆ど存在しないことなどの前例から、細心の注意を払えば、学校を休校にしなくても済んだし、親に過重な負担をかけなくても済んだはずである。休校によって子どもが親と一緒に家庭で過ごすことになり、親から子供への感染が増えたのではないかと疑っている。

 総額466億円の国家予算をかけた全世帯への1世帯ごと2枚の布マスク配布にしても、安倍晋三自身が決めたことで、「急激に拡大しているマスク需要に対応する上で、極めて有効であると考えている」とか、「洗うことで再利用が可能な布マスクは、そうした需要の増大を抑えて、需給バランスを回復することに大きな効果が期待できます」とマスク配布を正当化しているが、マスクは簡単に手作りできるのだから、各家庭の自助努力で解決不可能というわけではない。独居老人等の家庭に対してはマスク作りに余裕のある家庭にボランティアでの作成をお願いして配布することでも、解決はできる。

 つまり466億円という大金をかけずにマスクの需給バランスを確保できることになった。466億円もの国費投入は壮大なムダ遣いに過ぎなかった。

 余分なことばかりして、肝心なコロナ感染防止対策では専門家会議に頼ったのはコロナの感染に関わる知見が当初はほぼ皆無で、その予測不可能性に下手に立ち向かえば、支持率低下に繋がることから、そのことを恐れた安倍晋三の後ろのめりであって、その反動としての専門会議の前のめりということなのだろう。
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安倍晋三の軍事力増強を国家安全保障上の優先的抑止力とする単細胞 日本国憲法前文は非同盟全方位外交宣言であり、9条と対応

2020-06-22 10:52:28 | 政治

 ブログに何度も書いてきていることで、最初に断わっておくが、自衛隊は違憲である。安倍晋三とその一派は最高裁が憲法の番人であり、砂川事件最高裁判決が自衛隊を合憲としていることを根拠にして、自衛隊合憲説を高らかに謳い上げているが、砂川事件最高裁判決には自衛隊合憲に触れている個所は一つもない。自衛隊を違憲とする指摘個所を拾ってみる。

 〈わが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである。憲法前文にも明らかなように、われら日本国民は、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようとつとめている国際社会において、名誉ある地位を占めることを願い、全世界の国民と共にひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認するのである。

 しからば、わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。すなわち、われら日本国民は、憲法9条2項により、同条項にいわゆる戦力は保持しないけれども、これによって生ずるわが国の防衛力の不足は、これを憲法前文にいわゆる平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼することによって補ない、もってわれらの安全と生存を保持しようと決意したのである。そしてそれは、必ずしも原判決(第一審判決のこと)のいうように、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事的安全措置等に限定されたものではな く、わが国の平和と安全を維持するための安全保障であれば、その目的を達するにふさわしい方式又は手段である限り、国際情勢の実情に即応して適当と認められるものを選ぶことができることはもとよりであって、憲法9条は、わが国がその平和と安全を維持するために他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではないのである。

 そこで、右のような憲法9条の趣旨に即して同条2項の法意を考えてみるに、同条項において戦力の不保持を規定したのは、わが国がいわゆる戦力を保持 し、自らその主体となってこれに指揮権、管理権を行使することにより、同条1項において永久に放棄することを定めたいわゆる侵略戦争を引き起こすがごときことのないようにするためであると解するを相当とする。従って同条2項がいわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として、同条項がその保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべきである。〉――

 まず最初に、〈わが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく〉と言っている。その自衛権とは、〈平和のうちに生存する権利を有する〉としている"平和的生存権"を守るためであるのは、勿論、断るまでもない。

 それ故にこそ、〈わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。〉と、〈自衛のための措置〉を〈国家固有の権能の行使〉であるとして認めている。

 ここまで読むと、自衛隊合憲説には見える。

 但しここで憲法の番人である砂川事件最高裁は日本国憲法前文と自衛権の関係に触れる。要するに戦力不保持と交戦権の否認を謳った憲法9条2項によって〈生ずるわが国の防衛力の不足〉は憲法前文で謳っている、〈平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼することによって補ない、もってわれらの安全と生存を保持〉すべきであり、この目的の実現のためには憲法9条は〈他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではない〉との表現で、憲法9条2項によって〈生ずるわが国の防衛力の不足〉を〈他国に安全保障を求めること〉で補うことは憲法9条は何ら禁止していないとしている。

 では、憲法9条2項が、〈保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し〉云々の文言で自衛隊を9条2項が不保持としている戦力に相当すると指摘、そのあと、〈外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべきである。〉と、日本駐留アメリカ軍は憲法9条2項が指摘する戦力には該当しないとして、最終的に米軍の日本駐留は憲法違反ではないと判決づけたのである。

 このように駐留外国軍は憲法9条2項が言う「戦力」に該当しないと解釈した手前、9条〈2項がいわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として〉と判断保留にせざるを得なかったのだろう。9条2項が〈自衛のための戦力の保持をも禁じたもの〉とした場合、日米安保条約に基づいて行われているアメリカ軍の日本駐留を憲法違反としなければならなくなる。

 そこで駐留外国軍は「戦力」に該当しないとする根拠を憲法前文の、〈平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。〉点に求めることになった。

 なかなか苦しい結論となっているが、砂川事件最高裁判決は結果的に"平和的生存権"は憲法前文が謳っている、〈平和を愛する諸国民の公正と信義〉を〈信頼〉することによって成り立たせる自衛権によって手に入れることを正当化する一方で、〈わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力〉、〈わが国自体の戦力〉である自衛隊は9条2項が保持を禁止している戦力であり、当然、そのような戦力で自衛権を発動することは憲法違反になるとご託宣していることになる。

 安倍晋三やその一派は砂川事件最高裁判決が自衛隊を違憲としているにも関わらず、どう血迷ったのか、憲法の番人は最高裁判決だ、砂川事件最高裁判決は自衛隊を合憲としている大合唱、砂川事件最高裁判決を自衛隊合憲説の錦の御旗としている。あるいは水戸黄門の葵の印籠如くに扱っている。

 安倍晋三が再び政権を握ることになった2012年12月16日投票の衆院選挙の2日前の2012年12月14日にネット番組に出演、日本国憲法前文について次のように発言したと同日付「asahi.com」記事が伝えている。

 安倍晋三「日本国憲法の前文には『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』と書いてある。つまり、自分たちの安全を世界に任せますよと言っている。そして『専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う』(と書いてある)。

 自分たちが専制や隷従、圧迫と偏狭をなくそうと考えているわけではない。いじましいんですね。みっともない憲法ですよ、はっきり言って。それは、日本人が作ったんじゃないですからね。そんな憲法を持っている以上、外務省も、自分たちが発言するのを憲法上義務づけられていないんだから、国際社会に任せるんだから、精神がそうなってしまっているんですね。そこから変えていくっていうことが、私は大切だと思う」

 砂川事件最高裁判決は日米安保条約に基づいた日本駐留アメリカ軍を9条2項が禁じる「戦力」に当たらないとする根拠を日本国憲法前文に置いているのだから、「自分たちの安全を世界に(と言うよりも、アメリカに)任せますよと言っている」ことになるが、前文を他力本願だとか、「いじましい」とか、「みっともない」とか否定した場合、アメリカ軍の日本駐留をも否定しなければならなくなるが、砂川事件最高裁判決によって日本国憲法とアメリカ軍の日本駐留がそういう関係にあることには、鈍感なのだろう、少しも気づいていない。

 但し日本国憲法を如何に貶めようとも、砂川事件最高裁判決が自衛隊を違憲としていることに変わりはない。もし合憲としているとするなら、具体的に判決のどの個所のどの文言が合憲を意味させているのか、指摘すべきである。

 防衛相の河野太郎が2020年6月15日夕方、山口県と秋田県への配備を計画していたイージス・アショアの配備計画停止を表明した。リンク切れに対処するために全文を参考引用させて頂くことことにした。

 河野防衛相「イージス・アショア」配備計画停止を表明 (NHK NEWS WEB/2020年6月15日 20時50分)

河野防衛大臣は、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の山口県と秋田県への配備計画を停止する考えを表明しました。これにより日本のミサイル防衛計画の抜本的な見直しが迫られることになります。
「イージス・アショア」は、アメリカ製の新型迎撃ミサイルシステムで、政府は、山口県と秋田県にある、自衛隊の演習場への配備を計画していました。

このうち、山口県の演習場への配備について、河野防衛大臣は15日夕方、記者団に対し、迎撃ミサイルを発射する際に使う「ブースター」と呼ばれる推進補助装置を、演習場内に落下させると説明していたものの、確実に落下させるためには、ソフトウェアの改修だけでは不十分だと分かったことを明らかにしました。

そのうえで「ソフトに加えて、ハードの改修が必要になってくることが明確になった。これまで、イージスアショアで使うミサイルの開発に、日本側が1100億円、アメリカ側も同額以上を負担し、12年の歳月がかかった。新しいミサイルを開発するとなると、同じような期間、コストがかかることになろうかと思う」と述べました。

そして「コストと時期に鑑みて、イージス・アショアの配備のプロセスを停止する」と述べ、配備計画を停止する考えを表明しました。

こうした方針をNSC=国家安全保障会議に報告して、政府として今後の対応を議論するとともに、北朝鮮の弾道ミサイルには当面、イージス艦で対応する考えも示しました。

さらに河野大臣は、山口県と秋田県の両知事に15日、電話で報告したとしたうえで、できるだけ早い時期におわびに赴く考えを明らかにしました。

政府は、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃への対処能力を高めるためとして、3年前の2017年にイージス・アショアの導入を閣議決定していましたが、ミサイル防衛計画の抜本的な見直しが迫られることになります。

 記事は、〈3年前の2017年にイージス・アショアの導入を閣議決定した〉としているが、具体的には2017年12月19日午前の閣議決定となっている。

 要するに安倍政権はアメリカ製の新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を使って発射させる迎撃ミサイルの、重量2トン超もあるとされている発射推進補助装置「ブースター」を演習場内に落下させる技術を確立させないままに演習場内に落下させますと虚偽の説明をして、山口県と秋田県に対して自衛隊演習場への配備を納得させようとしてきた。結構毛だらけ、猫灰だらけということになる。

 〈防衛省「平成30年版防衛白書」 陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)について〉
イージス・アショアは、イージス艦(BMD対応型)のBMD対応部分、すなわち、レーダー、指揮通信システム、迎撃ミサイル発射機などで構成されるミサイル防衛システム(イージス・システム)を、陸上に配備した装備品であり、大気圏外の宇宙空間を飛翔する弾道ミサイルを地上から迎撃する能力を有しています。
北朝鮮に、わが国を射程に収める各種の弾道ミサイルが依然として多数存在するなど、弾道ミサイル防衛能力の向上は喫緊の課題である中、イージス・アショアを導入すれば、わが国を24時間・365日、切れ目なく守るための能力を抜本的に向上できることになります。

一般に防衛装備品については、事態が切迫してから取得しようとしても、取得までには長期間を要します。国民の命と平和な暮らしを守ることは、政府の最も重要な責務であり、防衛省として、いかなる事態にも対応し得るよう、万全の備えをすることは当然のことであると考えております。

また、現状のイージス艦では、整備・補給で港に入るため隙間の期間が生じることが避けられず、長期間の洋上勤務が繰り返されることとなり、乗組員の勤務環境は極めて厳しいものとなっております。イージス・アショアの導入により、隊員の負担も大きく軽減され、さらには、イージス艦を元来の任務である海洋の安全確保任務に戻すことが可能になり、わが国全体の抑止力向上につながります。

イージス・アショア2基の配備候補地について、防衛省において検討を行った結果、秋田県の陸自新屋演習場及び山口県の陸自むつみ演習場を選定したところです。こうしたことを受け、18(平成30)年6月1日には、福田防衛大臣政務官及び大野防衛大臣政務官が秋田・山口両県をそれぞれ訪問し、また、同月22日には、小野寺防衛大臣が両県を訪問し、配備の必要性などについてご説明しました。

防衛省としては、今後とも、配備に際して、地元住民の皆様の生活に影響が生じないよう、十分な調査や対策を講じるとともに、配備の必要性や安全性などについて、引き続き、誠心誠意、一つ一つ丁寧に説明し、地元の皆様から頂戴する様々な疑問や不安を解消すべく努めてまいりたいと考えています。
〈注 「イージス艦(BMD対応型)」とはミサイル防衛〈Ballistic Missile Defence)の略〉

 要するにイージス・アショアとはレーダー、指揮通信システム、迎撃ミサイル発射機などで構成される陸上配備のミサイル防衛システム(イージス・システム)のことであり、大気圏外の宇宙空間を飛翔する弾道ミサイルを地上から迎撃する能力を有すると、その有能性を誇っている。

 具体的にはどのような迎撃手順となっているのか見てみる。

 2017年1月26日衆議院予算委員会

 小野寺五典(当時防衛相)「北朝鮮がもし弾道ミサイルを発射した場合、当然、発射する場所というのは、北朝鮮の領土内にあるミサイル基地とか、あるいはミサイルの発射装置から発射されます。発射された後、当然、日本に飛んでくることをアメリカの早期警戒衛星で察知した場合、日本に通報があります。そして、それに対して、例えば日本のレーダーでこれを捕捉して、そして速やかに日本海にある日本のイージス艦からミサイルを発射して、弾道ミサイルでまず一義的に迎撃をする。万が一これが防げなかったら、今度は日本の国内にあります航空自衛隊が運用しますパトリオット部隊でもう一度迎撃をする。こういう二段構えで私どもは防いでおります。

 ただ、このミサイルが飛んでくるということに関しては、当然、一発、二発であればしっかりとめることができるんだと思いますが、連続して、あるいは何発も何発も何発も何発も繰り返し来た場合、こういういわば飽和攻撃という状況になった場合に本当に防ぎ切れるか、これは大変心配なことがあります。

 ですから、もし仮に日本が攻撃されるということになれば、一番安全な防御策は、北朝鮮の領土にある、弾道ミサイルを発射するミサイル基地あるいはミサイルを発射しようとする装置をまず攻撃して無力化して、相手に撃たせないこと、これが一番大切なんだと思います。相手に撃たせないこと。

 ところが、これは北朝鮮の領土内にあります。ですから、これを撃たせないようにするためには、日本は実は今まで専守防衛という考え方ですから、相手の領土を攻撃するような装備をあえて日本の自衛隊は持っていません。

 かわりに、日本を狙ってミサイルを撃ってくるミサイル基地をたたいてくれるのは、日米同盟によって米軍がこの役を担ってくれる。ですから、米軍が北朝鮮の発射するミサイル基地をたたいて、日本の防衛のためにミサイルを無力化するというのが具体的な役割ということになります。

 ですから、これを見ると、日本の防衛にとって、この弾道ミサイル防衛一つとっても、アメリカの関与というのが必ず必要ということになります。

 以前の日本が攻められるというイメージであれば、例えば爆撃機が飛んできて日本の上で爆弾をばらばらばらと落とすとか、あるいは大きな軍艦が日本の近海まで来て艦砲射撃で港を攻撃するとか、あるいは沿岸から上陸用舟艇で相手の国の兵隊が上陸をしてきたり戦車が上陸をするとか、そういうような日本が攻撃されるということのイメージがあったんだと思います。ですから、専守防衛というと、来た相手を防げばいいんだ、自衛隊はそういう装備体系になっています。

 ところが、これは十数年ぐらい前の話であって、ここ十年で周辺国の軍事技術は格段に向上して、さまざま、日本が攻撃される想定が変わってまいりました。

 今お話をしたように、例えば北朝鮮は弾道ミサイルを発射して日本を攻撃してくる、これを日本は防ぎますが、最終的に防ぎ切れないこともあります。ですから、相手の領土にある北朝鮮のミサイル基地をたたかないと日本の平和が保たれない。ですが、そこは実は、今まで日本の自衛隊はあえて相手の領土を攻撃する装備を持つことはしなかった、これが現実であります。そして、アメリカがこれをかわりにやってくれる。一つ一つ考えても、日米同盟は大変重要です。ですから、これをこれからも守っていく必要は当然あるんだと思います。

 ただ、もう一つ、アメリカが日米同盟で日本を守っている、この前提があります。それは、アメリカが、今までもこれからも超軍事大国であって、アジアを含めた世界の警察官という役割を持って、そして何より日米同盟を大切にする、この存在があってこそ、実は日本を守るというこのお互いの役割が成り立つわけです。

 小野寺五典は要するに北朝鮮が弾道ミサイルで日本を攻撃した場合、現在の日本は専守防衛の建前上、敵基地攻撃が許されていないから、米軍が北朝鮮の基地に対して直接的に攻撃を仕掛けて、弾道ミサイル発射を遮断するが、アメリカの軍事力を以ってすれば簡単なことであっても、発射を完全に遮断するためにはそれ相応の時間がかかり、最初に飛んできた弾道ミサイルと、完全な攻撃遮断までの間に飛来する弾道ミサイルに対してはアメリカの早期警戒衛星の察知に従って日本海をパトロール中の日本のイージス艦からミサイルを発射して迎撃をするが、特に飽和攻撃といった状況に至って防ぎ切れずに失敗した場合は日本国内の航空自衛隊運用のパトリオット部隊が保有する地対空誘導弾パトリオットを発射して迎撃・撃墜させる二段構えの手順となっていると説明している。

 但しこの説明は日本にとってのいいこと尽くめなことを色々と達者に言っているに過ぎない。なぜかと言うと、日本のイージス艦からのミサイル発射を以って北朝鮮の攻撃ミサイルの迎撃に失敗する場合を仮定している以上、日本国内の航空自衛隊運用のパトリオット部隊が保有する地対空誘導弾パトリオットを発射して迎撃・撃墜させる二段構えに於いても失敗する場合を仮定しなければならないからである。

 だが、仮定していない。二段階目迎撃が成功するとの仮定に立った説明となっている。二段構えですから、大丈夫ですよといいこと尽くを言っているに過ぎない。

 この予算委員会はイージス・アショアの導入を閣議決定した2017年12月19日よりも約11ヶ月も前であるが、イージス・アショアを導入したとしても、二段構えの北朝鮮ミサイル迎撃体制であることに変わりはない。なぜなら、イージス艦搭載の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の迎撃能力が完璧でない以上、〈イージス艦(BMD対応型)のBMD対応部分、すなわち、レーダー、指揮通信システム、迎撃ミサイル発射機などで構成されるミサイル防衛システム(イージス・システム)を、陸上に配備した〉(防衛省HP)に過ぎないイージス・アショアの迎撃能力にしても、完璧でないことになって、二段構えを崩すことはできない。

 海上配備型としてイージス艦に搭載したミサイル防衛システム(イージス・システム)が常に完全に機能するとは限らないとしながら、地上配備型のミサイル防衛システム(イージス・システム)である「イージス・アショア」は完璧な機能性を有するとしたら、矛盾が生じる。

 上記防衛省のHPでは、〈イージス・アショアの導入により、イージス艦を元来の任務である海洋の安全確保任務に戻すことが可能になる〉と謳っているが、高性能のレーダーを持ち、「高度な情報処理・射撃指揮システムにより、200を超える目標を追尾し、その中の10個以上の目標(従来のターター・システム搭載艦は2~3目標)を同時攻撃する能力を持つ」(「Wikipedia」)イージス艦を地上配備型の「イージス・アショア」を備えることによって万が一の攻撃に対する軍事的抑止力としてではなく、「海洋の安全確保任務に戻すことが可能にな」るとしているのは綺麗事に過ぎる。

 地上配備型の「イージス・アショア」と海上配備のイージス艦が二段構えで、相互に能力を補わなけれがならない関係にあることに対して北朝鮮のミサイルは着々と性能と精度を高めているとされている。具体的にはミサイル発射の探知・識別がより困難となる無限軌道型(キャタピラー型)の移動式発射台の存在が既に確認されていて、2029年10月には潜水艦からの新型ミサイル発射実験を成功させている。

 無限軌道型(キャタピラー型)の移動式発射台からのミサイル発射は発射位置の確認がより難しくなるし、潜水艦発射にしても、海中移動という性質上、発射位置の探知が困難となる上に通常よりも角度をつけて高く飛ばす「ロフテッド軌道」で発射されて、約910キロの高さで約450キロ飛行したという。

 ロフテッド軌道発射を『コトバンク」が解説している。〈通常の発射方法より角度を上げ、高い高度に打ち上げられた弾道ミサイルの飛行経路。射程距離は通常より短くなるが、1000キロメートルを超える高高度から落下するような軌道をとることで、着弾間際の速度がより高速になる。そのため、イージス艦などでの迎撃が困難とされている。〉

 また、ロフテッド軌道発射を水平軌道発射に修正した場合、射程距離は優に千キロを超えることになると言う。要するに北朝鮮のミサイル開発はイージス艦やイージス・アショアでの迎撃をより困難にする場所にまで進んでいる。つまり日本の抑止力に不確実性を与えることになっている。

 だから、敵基地攻撃をアメリカ任せにせずに日本もその能力を持ちたいと欲求することになっているのだろう。だが、敵基地攻撃にしても諸刃の剣である。一度に北朝鮮の全ての基地を叩くことは不可能で、虱潰しに叩いている間に叩かれる前の基地からミサイル攻撃を受けたり、戦闘機攻撃や爆撃機攻撃を受けない保証はない。受ければ、一部国民の生命の危害へと向かわないとも限らない。敵基地攻撃という名の軍事的抑止力にしても、完璧ではないということになる。

 中国は2018年8月初めに最終最高速度が音速6倍のマッハ6に達する極超音速飛翔体の飛行実験に成功させ、2020年からの配備を目指しているとされている。ロシアは2003年に極超音速飛翔体の開発に着手、2018年末に飛行実験を成功させた、音速の20倍の速さで飛行可能な、核搭載の極超音速兵器を2019年に配備すると発射実験成功時に発表している。

 対してアメリカは2020年3月20日、ハワイ州カウアイ島で極超音速兵器の発射実験を行い、成功したと発表している。中国とロシアに後れを取っているものの、こういったミサイル開発競争の一つを取っただけでも、軍拡競争を続けている間は国家安全保障上の完全な抑止力は存在しないことを物語ることになる。

 極超音速飛翔体(極超音速ミサイル)とは通常の弾道ミサイルを打ち上げ後、近宇宙空間で切り離されて大気圏に再突入、マッハ5以上の極超音速で滑空し、重力の関係からだろう、最終的にはマッハ10の最高速度に達して目標に向かうとされているが、ロシアはその2倍のマッハ20としている。

 安倍晋三がイージス・アショアの配備計画停止に関して通常国会閉会に合わせて行った2020年6月18日の記者会見で冒頭発言の最後に次のように発言している。

 安倍晋三「今週、イージス・アショアについて、配備のプロセスを停止する決定をいたしました。地元の皆様に御説明していた前提が違っていた以上、このまま進めるわけにはいかない。そう判断いたしました。

 他方、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している。その現状には全く変わりはありません。朝鮮半島では今、緊迫の度が高まっています。弾道ミサイルの脅威から国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく。これは政府の最も重い責任であります。我が国の防衛に空白を生むことはあってはなりません。平和は人から与えられるものではなく、我々自身の手で勝ち取るものであります。安全保障政策の根幹は、我が国自身の努力にほかなりません。抑止力、対処力を強化するために何をすべきか。日本を守り抜いていくために、我々は何をなすべきか。安全保障戦略のありようについて、この夏、国家安全保障会議で徹底的に議論し、新しい方向性をしっかりと打ち出し、速やかに実行に移していきたい。そう考えています」

 質疑。

 テレビ朝日吉野記者「イージス・アショアについてお伺いしたいと思います。今、総理、夏に向けて新しい戦略を議論して実行に移すとおっしゃいましたけれども、例えば、併せて防衛大綱ですとか、中期防の見直しをする考えはありますでしょうか。

 そして、今回、アショアの停止によって浮くであろう予算等、これを宇宙ですとか、サイバーですとか、電磁波といった領域の戦略構築に振り向ける考えはございますでしょうか」

 安倍晋三「今回のイージス・アショアにつきましては、住民の皆様に御説明してきたその前提が違っていた以上、これは進めることはできないと、こう判断をしました。

 そこで、これはブレーキ、では、ある意味、このイージス・アショアを配備をしていくということについては確かにブレーキをかけましたが、安全保障、国民の命を守っていく、日本国を守り抜いていくという防衛に、これは立ち止まることは許されない。つまりそれは空白をつくることでありますから、その意味において、言わば国民の命と、そして、平和な暮らしを守り抜いていくために何をなすべきか。基本からしっかりと、私は、議論すべきだ、こう判断をしたわけであります。

 抑止力とは何か。相手に例えば日本にミサイルを撃ち込もう、しかしそれはやめた方がいいと考えさせる、これが抑止力ですよね。それは果たして何が抑止力なのだということも含めて、その基本について国家安全保障会議において議論をしたいと思います。大綱、中期防については、まずは議論をすることを始めていきたいと。まだ大綱や中期防については全く考えてはいない。まずは国家安全保障会議について、しっかりと議論をしていきたい。

 ミサイル防衛につきましても、ミサイル防衛を導入したときと、例えば北朝鮮のミサイル技術の向上もあります。その中において、あるべき抑止力の在り方について、これは正に新しい議論をしていきたいと、こう思っています。

 また、宇宙やサイバーといった新領域については、重要分野と位置づけており、引き続きしっかりと取組を進めていきたいと思います」

 要するに軍拡競争を続けている間は国家安全保障上の完全な軍事的抑止力は存在しないにも関わらず、軍事力増強を国家安全保障上の優先的抑止力とする安倍晋三の発言となっている。そのような抑止力を以って、「弾道ミサイルの脅威から国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく」と、「国民の命と平和な暮らし」を最大限保障している。

 この矛盾に安倍晋三は全然気づかない単細胞を発揮している。気づかないだけではなく、「抑止力とは何か。相手に例えば日本にミサイルを撃ち込もう、しかしそれはやめた方がいいと考えさせる、これが抑止力ですよね」と言って、軍事力増強を国家安全保障上の優先的抑止力とすることに日本の首相としての責任を置いている。

 今日の抑止力があしたの抑止力になる保証はないことに無神経でいられる。軍拡競争の際限のなさを脇に置いて、「宇宙やサイバーといった新領域については、重要分野と位置づけており、引き続きしっかりと取組を進めていきたいと思います」と、「宇宙やサイバーといった新領域」にまで日本の軍事力を拡大する意思を固めている。

 かくこのように安倍晋三は国家安全保障上の完全な軍事的抑止力とはならない関係にある軍事力増強を国家安全保障上の優先的抑止力に位置づけて、その対局に日本国憲法の前文と9条を置いている。

 それゆえに2012年12月14日のネット番組で日本国憲法の9条を前文と共に「自分たちの安全を世界に任せますよと言っている」とか、「自分たちが専制や隷従、圧迫と偏狭をなくそうと考えているわけではない。いじましいんですね。みっともない憲法ですよ」と貶し、さらに「日本人が作ったんじゃないですからね」と他力本願の憲法だと排斥している。

 安倍晋三が日本国憲法前文と9条の価値をいくら低めようとも、あるいは軍備増強の意思をいくら露わにしようとも、軍拡競争を続けている間は国家安全保障上の完全な軍事的抑止力は存在しないという事実を変えることはできない。攻撃を仕掛ける側も、攻撃を受ける側も、生半可ではない痛手を被ることになるだろう。痛手は一部「国民の命と平和な暮らし」の犠牲となって現れる。

 日本国憲法前文の国家安全保障上の抑止力に関係する個所を取り上げてみる。

 〈日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。〉・・・・・

 〈平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持〉することによって、〈恒久の平和を念願〉する。いわば、〈平和を愛する諸国民の公正と信義〉を抑止力として、このことを以って国家の安全保障とする。

 このような国家安全保障を可能にするには完全な軍事的抑止力は存在しない以上、安倍晋三のように軍拡競争の一員となって軍備増強に奮闘するのではなく、その対極の位置、〈平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して〉の言葉通りにどの国とも軍事同盟を結ばない、非同盟の全方位外交の実現しか、方法はないはずである。

 いわば日本国憲法前文は非同盟全方位外交の宣言そのものとなっていて、勿論のこと、9条と対応している。9条の戦争放棄、戦力の不保持、交戦権の否認は非同盟全方位外交の国家安全保障によってのみ、実現可能となる。

 安倍晋三が日本国憲法前文をいくら批判し、憲法そのものの価値を低めて、軍拡競争にいくら励もうとも、あるいはアメリカから高性能の武器をいくら高額で仕入れようとも、そのような方法で確立した国家安全保障体制からは、全面的には「国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく」ことはできない。

 安倍晋三自身は命拾いをしたとしても、無視できない数の国民が犠牲となる。

 要するに安倍晋三は一人残らずのニュアンスで「国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく」と虚偽発言しているに過ぎない。そのような虚偽発言で軍備増強に励んでいる。

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国税庁e-Tax制度から見て、安倍晋三の持続化給付金制度に思う素朴な疑問

2020-06-15 10:30:32 | 政治
 【訂正】(2020年6月15日 13:15)「e-Tax 利用件数約3759万件は平成30年1年間の件数であり、持続化給付金申請件数は5月初めから6月11日まで約199万件であって、比較できないのではないのか」と指摘するメールを頂いが、1年間で最も忙しい2月半ばから4月中までの3ヶ月間に確定申告申請が集中することを考慮すると、ある程度の比較ができて、経費の差額を決定的に否定できないと思うが、指摘の事実を割り引いて読んで頂きたい。

 e-Tax年間利用件数(約3,759万件)÷12ヶ月≒313万件/1ヶ月>持続化給付金5月1日~6月11日申請件数199万件

  新型コロナウイルス感染症の拡大による営業自粛等で収入の減少を受けた個人事業者や中小企業等に現金を支給する持続化給付金制度が2020年5月27日に閣議決定された。

 「個人事業者等向け持続化給付金申請要領(申請のガイダンス)」(中小企業庁 令和2年度補正 持続化給付金事務事業 持続化給付金事務局/2020年5月9日)

持続化給付金とは?
感染症拡大により、 営業自粛等により特に大きな影響を受ける事業者に対して、事業の継続を支え、再起の糧としていただくため、 事業全般に広く使える給付金を給付します。
給付額 個人事業者等は100万円まで
 ※ただし、 昨年1年間の売上から減少分が上限です。
■給付額の算定方法
前年の総売上 (事業収入) - (前年同月比▲50%月の売上×12ヶ月)
給付対象 フリーランスを含む個人事業者が広く対象となります。

持続化給付金の申請手順
持続化給付金ホームページへアクセス!
持続化給付金の申請用HP (htps://jizokuka-kyufu.jp)
申請ボタンを押して、 メールア ドレスなどを入力 [仮登録]
入力したメールアドレスに、メールが届いていることを確認して、[本登録]へ
ID・パスワードを入力すると[マイページ]が作成されます
●基本情報 ●売上額 ●口座情報 を入力
 必要書類を添付
入力すると、申請金額を自動計算!
【通帳の写し】 をアップロード!
 2019年分の確定申告書類の控え
 売上減少となった月の売上台帳等の写し
 身分証明書の写し
※スマホなどの写真画像でもOK (できるだけきれいに撮ってください ! )
申請
持続化給付金事務局で、申請内容を確認
※申請に不備があった場合は、メールとマイページへの通知で連絡が入ります。

 以上、主なところを拾ってみた。

 中小企業庁は「中小法人向け」のHPも作成していて、〈法人は200万円まで ※ただし、昨年1年間の売上から減少分が上限です。〉となっていて、給付対象は〈資本金10億円以上の大企業を除く、中小法人等を対象とし、医療法人、農業NPONPO法人など、会社以外の法人についても幅広く対象となります。〉と断り、「給付額の算定方法」等以下は個人事業者向けと同じになっている。

 要するに電子申請(紙によって行われている申請や届出などの行政手続をインターネットを利用して自宅や会社のパソコンを使って行えるもの)の形式となっている。申請用のサイトを作成する労力と受け付けた申請の内容が適正か、間違いや誤魔化しがないかを審査する労力と、申請内容に不備があった場合、問い合わせる労力と、最終的に適正の判断を下した場合は登録した口座番号に入金する労力と受付完了の記録をつける労力が残されることになる。

 問題は申請件数である。2020年6月13日 付「Yahoo!ニュース」は6月12日付「TBSニュース」の配信記事で経済産業省の発表として、〈6月11日までにおよそ199万件の申請があり、このうち75%ほどにあたる149万件に給付、給付額は1兆9600億円〉にのぼり、〈申請が開始された5月1日から11日までに受け付けた、およそ77万件について、このうち6%程度にあたる5万件ほどが1か月以上たった現在でも給付が済んでいない〉と紹介している。

 支給・未支給に関係なしに約200万件の申請に対する審査とその他の労力を必要とした。勿論、適正か否かを判定する審査の労力に最も多くの時間を取られたはずである。

 2020年6月6日付「しんぶん赤旗」記事掲載の画像でお分かりのようにっ政府はこの「持続化給付金事業」を一般社団法人サービスデザイン推進協議会に769億円で委託、一般社団法人サービスデザイン推進協議会は電通に749億円で下請け(再委託)させている。電通はさらに「電通東日本」や「電通デジタル」等に孫請けさせている、一般的には同系列会社複数への下請けや孫請けは利益を分散して、課税額を抑えるために利用される。
 上記「しんぶん赤旗」は、〈この事業では給付金の受け付けやコールセンター業務の外注を受けた電通ライブ社が、さらに派遣大手のパソナ、IT業のトランスコスモスに外注していました。〉と書いている。電通関連ではこのほかに申請サポート会場の運営も行っているという。要するに電子申請にかかる労力以外にコールセンター業務と申請サポート会場運営の労力が加わることになる。

 この上記労力から見た約200万件かそこらの申請にかかる持続化給付金事業の外部委託に国の税金を769億円もかける適正性を見ることができるだろうか。

 この適正性か否かに気づいたのは国税庁が確定申告を紙媒体以外にインターネットでも行っていることからである。文色は当方。

 平成30年度におけるe-Taxの利用状況等について(国税庁/2019年8月)

≪評価指標≫ ≪実績値≫ ≪前年対比≫
○ オンライン利用率 ※別紙1参照(3ページ)
・ マイナンバーカードの普及割合等に左右される国税申告2手続(所得税申告、消費税申告 (個人))58.5% (+3.4 ポイント)
・ 上記以外の国税申告4手続(法人税申告 消費税申告(法人)、酒税申告、印紙税申告)82.9% (+2.9 ポイント)
・ 申請・届出等9手続(給与所得の源泉徴収票等(6手続)、利子等の支払調書、納税証明書の交付請求、電子申告・納税等開始(変更等)届出書) 76.9% (▲0.5 ポイント)
○ ICT活用率 ※ 別紙2参照(4ページ) 82.7% (+2.9 ポイント)
○ e-Tax の利用満足度 81.5% (+5.5 ポイント)
○ 国税庁HP「確定申告書等作成コーナー」の利用満足度 93.5% (▲0.1 ポイント)
オンライン申請の受付1件当たりの費用265円 (▲8 円)
○ 国税申告手続の事務処理時間 833,000 時間 (▲35,000 時間)

※ICT活用率
所得税申告及び消費税申告(個人)の総件数のうち、
① e-Tax 利用件数
② 国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を利用して作成した申告書を印刷して書面により税務署に提出した件数の合計件数が占める割合。

※オンライン申請の受付1件当たりの費用
① e-Tax の運用等に係る年間経費
② システム整備に係る1年当たりの経費(※)の合計額をe-Tax 利用件数で除して算出したもの。
年間運営経費等(約99億円)÷e-Tax 利用件数(約3,759万件)≒265円
※ システム整備に係る経費(システム開発費など)は、税制改正などにより毎年変動するため、システム整備に要した経費の総額を支出年数で除して算出。

 「 e-Tax 利用件数(約3,759万件)」「約3,759万件」で、年間運営経費等「(約99億円)」「オンライン申請の受付1件当たりの費用」「265円」

 国税庁も確定申告コールセンターを開設し、確定申告会場を各地域の税務署に設けているが、上記数値はe-Taxに限定した経費と言うことになる。対して持続化給付金事業は「6月11日までにおよそ199万件の申請」、これが倍の400万件と仮定したとしても、769億円で一般社団法人サービスデザイン推進協議会に外部委託し、電通が749億円で再委託を受けた。

 769億円÷400万件=19225円

 持続化給付金事業の申請件数400万件と仮定した場合の電子申請にかかる1件当たりの経費19225円に対して国税庁の約3759万件のe-Taxにかかる1件あたりの経費が265円。差額は18960円。

 持続化給付金事業の申請件数400万件を6月11日までの申請件数199万件に近づけていけばいくほど、差額は増えていき、2万円や3万円を超えることもあり得ることになる。この差額は国が行うのと民間が行なうのとの違いで、止むを得ないという言い訳は許されない。こういったことに最低限、素朴に疑問を感じないのだろうか。

 差額の不可解さは持続化給付金事業の入札にも現れている。文色は当方。

 「中小企業庁 2020年4月の競争入札」

令和2年度補正持続化給付金事務事業
契約を締結した日 2020年4月30日
契約の相手方の商号又は名称 一般社団法人サービスデザイン推進協議会
予定価格(円) 非公表
契約金額(円) 76,902,084,807円 (769億208万4807円)
落札率(%) 非公表

 予定価格を公表したら、落札率も分かってしまう。但し予定価格と落札率はそれが適正な落札かどうかを判断する材料の一つであって、それを非公表とするのは秘密の介在を疑わないわけにはいかない。

 安倍晋三は2020年6月11日午前の参院予算委員会で、「委託に当たってはそうした事業目的に照らしてルールに則ったプロセスを経て、決定されたものと承知をしております」と白々と答弁しているが、予定価格と落札率が非公表では「ルールに則ったプロセスを経て、決定された」とは言い難い。

 入札に参加するためには事業に於ける各項目の費用を一つ一つ見積もって、それらを積み上げて全体の入札金額を算出、提示しなければ、発注者側はそれが適正な価格なのかどうかは判断できない。当然、中小企業庁は持続化給付金事務事業の入札に当たって一般社団法人サービスデザイン推進協議会から見積書の提示を受けているはずである。中小企業庁側からしたら、そのような見積書の提示があって初めて発注の当否が判断可能となる。

 経産省側は入札額が769億円の記入がある書類を野党に提出しているが、サービスデザイン推進協議会が事業の各項目にかかる経費を見積もり、全体の入札金額を算出・提示した見積書を公表したという報道にはお目にかかっていない。その公表によって、経産省側の落札が正当か否かの唯一の判断根拠となり得る。

 但し見積書の公表は予定価格と落札率の非公表と相反する措置となる。予定価格と落札率の非公表に対応させた見積書の非公表と見るべきだろう。

 だとしたら、野党は見積書の公表を迫り、公表を実現させなければならないが、どうも野党はピント外れの追及に終始しているようだ。但し当方のこの判断の方が間違っているということもあり得る。

 間違っている可能性もあることを承知で、ピント外れに思えた質疑を一つ取り上げてみる、

 2020年6月11日午前の参院予算委員会

 蓮舫「持続化給付金というのはどういう重みがあるとお考えですか」

 安倍晋三「新型ウイルス感染症の影響で経済、大きな打撃を受けている中に於いて中小企業・小規模事業者の皆さま、大変経営が困難な状況に追い込まれている中に於いて手持ち資金が不足をしている。明日からの経営にも大きな支障が出てきているという中に於いてですね、その固定費たる賃料等々のですね、半年分ということで最大200万円の給付を行うことにしているところでございます。

 大切なことはですね、スピードでございまして、できる限り多くの方々にお届けしたい。現在のところですね、既に1兆6000億円をお手元にお届けをさせて頂いているというふうに伺って、承知をしております」

 蓮舫「大切なのはスピード、全くその通りです。5月1日、初日に申請して、未だに未支給なのは何軒ありますか」

 梶山弘志(経産相)「5月1日の申請、18万件ありまして、そのうちの未支給というのは5000件であります。

 蓮舫「一か月以上も経って、まだ5000件の未支給。なぜですか」

 梶山弘志「データ等の不備がありまして、再度遣り取りをしているものもあります。そういったものも含めて審査をしているということであります。

 蓮舫「スピードが大事、総理、そう仰ってるんですけれども、まだ未支給の方がおられて、この作業をしているのは、サービスデザイン推進協議会、中抜き団体、再委託、再々委託。大変問題になっている。ここに委託したのは、総理、適正だとお考えですか」

 安倍晋三「業務の中身につきましてはですね、梶山大臣から答弁をさせて頂きたいと思いますが、委託に当たってはそうした事業目的に照らしてルールに則ったプロセスを経て、決定されたものと承知をしております。
 大変な業務量の中ではありますが、既に120万件の中小企業・小規模事業者の皆さまに1兆6000億円の現金をお届けしているというふうに承知をしております」

 蓮舫「計算大臣、確認しますが、本当に実態あるんですか。この法人は」

 梶山弘志「これまでも受注実績がありますし、補助金の仕事もしております。実際実態があると思って、実体があるという前提で我々も契約をしております」

 蓮舫「答弁、大丈夫ですか。国会でね、問題視されて、議員がアポを取ろうにも、ここ電話ないんですよ、事務所に。事務所に行ったら、人いないんですよ。電通に取材したら、答えないって言うんですよ。これ、適切な対応ですか?」

 梶山弘志「これリモートワークをずっとしておりました。さらにまた今回全国で数十カ所、審査会場があります。またサポート、申請のサポート会場もあります。そういったところに出向いているということでもございます」

 蓮舫「大臣ね、6月8日に国民の批判に耐えかねて、ようやく会見をして、6月の9日から業務を再開しますと、これは労務と、労務管理等を始めて、5人が昨日、おとといから仕事を再開したって、大々的にメディアに公開したんですよ。そしたら昨日国会議員が視察に行ったら、誰もいません、何ですか。これ」

 梶山弘志「実際には継続している仕事も、おもてなし認証等がございます。そういった仕事も含めた中でやっとりますけど、その中で、今回の事業に関するものは、21名、対応しておりますけども、5名が経理の担当と言うことで、銀行との遣り取りをしております。ただ、これはリモートでも出来ますので、リモートも含めて今、事業の対応をしていることであります」

 蓮舫「リモートワークを解除して5人が常駐すると言って、メディアが来た時だけその仕事をしてる姿を見せて、昨日から誰もいないんで、もっと言ったら、呼び鈴も内線電話も外されていました。どういうことですか」

 梶山弘志「私共はリモートワークをしているという認識でございます。ただこれは実態がないと言われますけれども、実際に仕事をしているんですね、しっかりとね。そして我々とも報告もある、ただ、そこにリモート、リモート、その場所にいなければ仕事が出来ないのかと言うと、そうではありません

 リモートワークで今は全てできております」

 蓮舫「そもそもこの推進協議会が前田中小企業庁長官が大臣官房審議会の時、最初に協議会におもてなし規格認証事業を業務委託しました。これどんな事業でした」
 埒が明かないから、以下略。

 国税庁のe-Tax制度の事業規模と経費から見て、より事業規模が小さくて、その小ささに反比例して経費が多額な持続化給付金制度に感じる素朴な疑問が依然として埋まらない。

 このような素朴な疑問自体が間違っているなら仕方がない。

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安倍晋三の拉致問題無策・無能を棚に上げた横田滋さん死去「断腸の思い」は白々しさだけが浮き立つ

2020-06-08 12:09:39 | 政治
 
 北朝鮮の金正恩は自らの特異な独裁体制の保守を謀る限り、核開発と開発した核の放棄に応じることはない。なぜなら、核こそが自らの独裁体制保守の最重要条件だからだ。どのような経済制裁を受けても、自らの独裁体制を維持できる限り、今後とも核開発を続けて、到達距離と破壊力を最大限に高めた核を独裁体制安全保障の要とするに違いない。

 現実がこのことを証明している。

 以前トランプは核放棄の条件として北朝鮮の国家体制の保障を口にしたことがあるが、2018年12月18日、第73回国連総会本会議で日本及びEU共同提出の北朝鮮の深刻な人権侵害を非難し、その終結を強く要求する「北朝鮮人権状況決議」が14年連続14回目のコンセンサス採択を受けていて、その状況は西欧の民主主義国家の人権保障が北朝鮮ではそれが全く欠いていることの突きつけであものの、人権改善の受け入れは最も避けたい独裁体制放棄の逆説を孕むことを一番良く知っているのは金正恩自身であって、国際社会から独裁体制放棄の要求を阻止する最有用の手立てとしての核を放棄することは北朝鮮の国家体制の将来的保障ともならないことも金正恩は弁えていて、核放棄は決して受け入れることはできない北朝鮮国家にとっての有害策と位置づけているはずである。

 必然的に金正恩の核開発と核の放棄は金正恩独裁体制そのものの崩壊と崩壊後の北朝鮮民主化によって可能となる。

 但し金正恩独裁体制崩壊の過程で毒を食らわば皿までの開き直りから、核ミサイル発射の暴発を招かない保証はないし、平穏のうちに崩壊したとしても、 次の国家が民主主義体制に移行するのではなく、金正恩一派の残党による疑似金正恩独裁体制であったなら、やはり核を国家安全保障の重要な道具とする可能性は否定できない。

 つまり民主主義体制移行が確実な、暴発のない、平和裏な金正恩独裁体制崩壊を演出しない限り、北朝鮮の核開発と核の放棄は実現不可能に近いことになる。

 逆に北朝鮮の核開発と核保有を認めて、何らかの制御下に置くことも一つの方法ということになる。
 イランの核開発を監視しているIAEA(国際原子力機関)が2020年6月5日、イランが未申告の核物質保管の疑いがある国内2ヶ所の施設の査察拒否を続けていることの懸念を示す報告書を理事会のメンバーに通知したとマスコミが伝えていた。

 1979年2月のイラン革命以来、イランは最悪の状態で敵対国となったイスラエルの保有核弾頭総数が2019年5月現在、80発と推定される以上、国家の安全保障上、北朝鮮同様に核開発を放棄することはないだろう。イランの核開発を放棄させたいなら、先ずは最初にイスラエルの核を放棄させなければならない。イスラエルは応じないだろうから、イランも核開発を放棄することはない。

 北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの父親の横田滋さんが2020年6月5日、死去した。

 《安倍首相発言全文 横田滋さん死去》(時事ドットコム/2020年06月05日21時26分)
 
 安倍晋三首相が5日、拉致被害者横田めぐみさんの父、滋さんの死去を受け、東京・富ケ谷の私邸前で記者団に語った内容は次の通り。

 ―滋さんの死去の受け止めは。

 横田滋さんのご冥福を心よりお祈り申し上げる。そして早紀江さんはじめご遺族に心からお悔やみを申し上げたい。滋さんとは本当に長い間、めぐみさんをはじめ拉致被害者の帰国を実現するために共に闘ってきた。

 2002年10月15日、5人の拉致被害者が帰国を果たされた。羽田空港に当時、私は官房副長官としてお出迎えにうかがったわけだが、滋さんも早紀江さんと共に「家族会」の代表として来ておられた。そして、代表としての責任感から、その場を記録にとどめるためにカメラのシャッターを切っておられた。

 帰国された拉致被害者はご家族と抱き合って喜びをかみしめておられた。その場を写真に撮っておられた滋さんの目から本当に涙が流れていたことを今でも思い出す。あの場にめぐみさんがおられないということ、どんなにか残念で悔しい思いだったかと、そのときに本当にそう思った。

 滋さんが早紀江さんと共にその手でめぐみさんを抱きしめることができる日が来るようにという思いで今日まで全力を尽くしてきたが、そのことを首相としてもいまだに実現できなかったこと、断腸の思いであるし、本当に申し訳ない思いでいっぱいだ。

 なんとかめぐみさんはじめ拉致被害者のふるさとへの帰還、帰国を実現するために、あらゆるチャンスを逃すことなく果断に行動していかなければならないという思いを新たにしている。改めて、滋さんのご冥福を心からお祈り申し上げる。

 ―拉致問題の交渉状況は。

 25年以上、滋さんはじめ家族会の皆さんとなんとか拉致被害者が帰国できるように、まだ世の中が(拉致問題を)十分に認識していなかった時代から、滋さん、本当に暑い日も寒い日も署名活動を頑張っておられた。その姿をずっと拝見してきただけに痛恨の極みだ。さまざまな困難があるわけだが、なんとしても被害者が(帰国を)実現するために、政府として、日本国として、さまざまな動きを見逃すことなくチャンスを捉えて果断に行動して実現していきたい。

 安倍晋三は涙まで滲ませていたという。横田滋氏が自身の娘の帰国を見ることなく亡くなった無念の思いに対してなのか、自身の拉致解決の無力に対してなのか?はたまた空涙なのか。

 安倍晋三が「滋さんが早紀江さんと共にその手でめぐみさんを抱きしめることができる日が来るようにという思いで今日まで全力を尽くしてきた」と言っている「全力」とはどのような方法を採っていたのだろうか。

 その方法に基づいて拉致被害者帰国実現のために、「政府として、日本国として、さまざまな動きを見逃すことなくチャンスを捉えて果断に行動して」きたことになる。2006年9月26日政権に就いて2007年8月27日に辞任するまでの約1年間、そして2012年12月26日に再び政権に就いてから今日までの7年間と約5ヶ月間の合わせて8年間と4ヶ月の間、「全力を尽くしてきた」。

 これほど長期に亘って拉致問題と真正面から向き合った首相は他には存在しない。全力を尽くすことのできる時間まで味方につけることができた。時間は様々な知恵を生む。十分な時間があるのに知恵を生まなかったとしたら、時間を無為に過ごしたことになる。

 最初の政権に就いた2006年9月26日から3日後の9月29日国会所信表明演説

 安倍晋三「拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はありえません。拉致問題に関する総合的な対策を推進するため、私を本部長とする拉致問題対策本部を設置し、専任の事務局を置くことといたしました。対話と圧力の方針の下、引き続き、拉致被害者が全員生存しているとの前提に立って、すべての拉致被害者の生還を強く求めていきます。核・ミサイル問題については、日米の緊密な連携を図りつつ、6者会合を活用して解決を目指します」

 「対話と圧力」で拉致問題を解決してから北朝鮮との国交正常化に取り組むと、拉致解決の方法論を宣言している。「圧力」は安保理制裁決議違反となる北朝鮮のミサイル発射や核実験に応じて段階的に罰則を強化していく灯油やガソリン等の石油精製品の対北朝鮮輸出入の削減や北朝鮮からの食品、機械、電気機器、木材の輸入禁止と北朝鮮への産業機械や運搬用車両の輸出の禁止、あるいは北朝鮮の核又は弾道ミサイル計画に貢献し得る資産の凍結等の措置を指す。日本とアメリカは安保理制裁以外にそれぞれが独自の制裁を課している。

 要するに「圧力」とは経済的に追いつめて、ミサイル開発や核開発に費やす資金を枯渇させて、開発そのものを不可能にする作戦である。

 だが、この「圧力」は核開発とミサイル開発を北朝鮮独自の独裁体制保持のための最大の安全保障と看做して、両開発を決して放棄することはない北朝鮮の意思とは相容れない。結果、「圧力」と平行させて日本やアメリカ側の北朝鮮の核開発とミサイル開発を如何に断念させるかの目的に添わせるべく仕向ける「対話」に反して北朝鮮側が求めている「対話」は核開発とミサイル開発を如何に続けることができるかどうかの目的を持たせた努力機会と言うことになる。

 当然、「対話」で北朝鮮が核放棄とミサイル開発放棄にどのような前向きな姿勢を見せようと、あるいは放棄の約束をどのように匂わせようとも、核開発とミサイル開発を継続させる目的を隠した北朝鮮側の態度ということになる。

 また、拉致問題を議題とした「対話」であっても、日本独自の対北朝鮮経済制裁の一部解除、あるいは全面解除の譲歩を求めて、それが実現したとしても、解除によって得た資金を日本側の監視を受けることなく直接的にか間接的に核とミサイル開発に回すことができなければ、日本側が求める解決は受け入れることはない道理となる。

 日本側の資金が万が一、核開発やミサイル開発に回されたことが明らかになった場合、日本の立場を失うから、監視をつけないままにどのような解除もできないことになる。

 但し北朝鮮に対して核とミサイル開発の継続を保障できる唯一の国はアメリカであって、日本にはできないことを承知している。要するに北朝鮮側にとって核保有保障の交渉相手はアメリカのみであって、日本ではない。北朝鮮側は拉致解決が核保有の保障とならないことを承知していて、常に一歩距離を置く姿勢を取っているはずである。

 2012年8月30日、フジテレビ「知りたがり」

 安倍晋三「ご両親が自身の手でめぐみさんを抱きしめるまで、私達の使命は終わらない。だが、10年経ってしまった。その使命を果たしていないというのは、申し訳ないと思う。

 金正恩氏にリーダーが代わりましたね。ですから、(拉致解決の)一つの可能性は生まれてきたと思います」

 伊藤利尋メインキャスター「体制が変わった。やはり圧力というのがキーワードになるでしょうか」

 安倍晋三「金正恩氏はですね、金正日と何が違うか。それは5人生存、8人死亡と、こういう判断ですね、こういう判断をしたのは金正日ですが、金正恩氏の判断ではないですね。

 あれは間違いです、ウソをついていましたと言っても、その判断をしたのは本人ではない。あるいは拉致作戦には金正恩氏は関わっていませんでした。

 しかしそうは言っても、お父さんがやっていたことを否定しなければいけない。普通であればですね、(日朝が)普通に対話していたって、これは(父親金正日がやってきたことを)否定しない(できない?)。

 ですから、今の現状を守ることはできません。こうやって日本が要求している拉致の問題について答を出さなければ、あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ。

 そこで思い切って大きな決断をしようという方向に促していく必要がありますね。そのためにはやっぱり圧力しかないんですね」――

 2014年10月22日首相官邸でのぶら下がり対記者団発言。

 安倍晋三「私は基本的に拉致問題を解決するためにはしっかりと北朝鮮に圧力をかけて、この問題を解決しなければ北朝鮮の将来はないと、そう考えるようにしなければならないと、ずっと主張し、それを主導してきました。その上において対話を行っていく」

 2015年3月20日参議院予算委員会外交・安全保障集中審議。

 安倍晋三「すべての拉致被害者のご家族がご親族をその手で抱きしめる日がやってくるまで、われわれの使命は終わらない。国際的にも拉致問題に対する理解が深まるなかで、この問題を解決しなければ、北朝鮮の未来を描くことはできないという認識に北朝鮮側が立つよう強く求めていく。北朝鮮の特別調査委員会が正直かつ迅速に調査結果を日本側に報告するよう強く求めていく」

 2015年4月4日の拉致被害者家族と首相官邸での面会。

 安倍晋三「大切なことは、拉致問題を解決しないと、北朝鮮は未来を描くことが困難だと認識させることです。すべての拉致被害者が再び日本の地を踏むことができるよう全力を尽くしたいと思います。
 拉致問題が解決しない限り我々の使命は終わらない。家族も被害者も高齢化しており、一刻の猶予もゆるさないとの認識のもと交渉していきたいと思います」

 要するに安倍晋三は経済制裁の圧力と平行させて「こうやって日本が要求している拉致の問題について答を出さなければ、あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ」という警告を対話の要点としていた。

 だが、経済制裁が最終目的としているミサイル開発と核開発の放棄自体が北朝鮮独裁体制の安全保障に対する危険な挑戦と看做している金正恩にとって、そのことを無視して拉致解決の如何によって「あなたの政権、あなたの国」の「崩壊」を告げられるのは腹立たしい滑稽にしか見えないはずだ。

 確かに拉致解決によって得る日本からの経済援助や戦争賠償が北朝鮮の経済の立て直しに役立つかもしれないが、その資金の大部分を核開発とミサイル開発に回すことができたとしても、最終的に独裁体制の安全保障となる核とミサイルの保有を認めることができる唯一の国はアメリカであって、日本ではない。

 安倍晋三はこういったことを弁えて、北朝鮮の将来を口にしなければならないのだが、拉致解決だけが北朝鮮国家の将来を保障するかのような言動を弄する。相手を不快にする効果はあっても、拉致解決が北朝鮮の核保有を保障するわけではない現実を変えることもできない。

 2014年5月26日から5月28日までスウェーデン・ストックホルムで開催の日朝政府間協議で北朝鮮は「特別調査委員会」を立ち上げて、拉致被害者を始めとするすべての日本人に関する包括的かつ全面的な調査を約束した。この約束に応じて安部晋三は北朝鮮側の調査開始時点での制裁一部解除の方針を北朝鮮側に伝えた。

 ところが北朝鮮は6月26日に日朝協議を問題外とするような日本海に向けたミサイル発射実験を行った。勿論、日本側は北朝鮮に対して抗議した。

 その後調査がなかなか開始されないために約束の履行を求める目的で2014年7月1日に中国・北京で日朝政府間協議を開催する予定を組んだ。対して北朝鮮は開催予定の2日前の6月29日に6月26日に引き続いて短距離弾道ミサイルを日本海に向けて発射した。政府は拉致問題とミサイル発射を別問題とし、制裁解除方針は維持、政府間協議をそのまま開催することにした。

 開催の結果、北朝鮮は調査を開始し、最初の調査結果の通報時期を「夏の終わりから秋の初めごろ」との見通しを示した。日本側は2014年7月4日、北朝鮮側から調査開始の報を受け、調査の実効性が確認できたとして、アメリカが懸念を示したものの日本独自に科してきた人的往来や送金などの経済制裁の一部を解除した。

 北朝鮮は制裁解除決定の5日後の7月9日早朝に複数の弾道ミサイルを日本海に向けて発射、安倍政権は抗議したものの、一方で慎重に状況を見極めるという態度を取り、7月13日には「先般の合意に従って北朝鮮に調査を進めていくよう求めていきたい。問題解決に向けた我々の取り組みにミサイル発射が影響を及ぼすことはない」と言明。「対話と圧力」が対北朝鮮の基本姿勢であったにも関わらず、拉致問題とミサイル発射問題を切り離した。

 北朝鮮は一度は約束した「夏の終わりから秋の初めごろ」とした最初の報告は夏の終わりになっても、秋の初めになってもなく、確認のための日朝政府間協議を開くが、結局のところ、梨の礫で終わることになった。

 この一連の経緯は「こうやって日本が要求している拉致の問題について答を出さなければ、あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ」とする安倍晋三の警告の無視であり、核とミサイルの保有にこそ、独裁体制保持の安全保障を最大限に賭けていることの意思表示の現れである。

 要するに拉致解決よりも核とミサイルの性能向上、あるいはその保有を優先させている。安倍晋三にしたら、この視点から拉致解決を俯瞰しなければならなかった。

 10月22日の首相官邸でのぶら下がり記者会見。

 安倍晋三「この問題を解決しなければ北朝鮮の将来はないと、そう考えるようにしなければならないと、ずっと主張し、それを主導してきました。その上において対話を行っていく。まさにその上において今対話がスタートしたわけです。北朝鮮が『拉致問題は解決済み』と、こう言ってきた主張を変えさせ、その重い扉をやっと開けることができました」

 「北朝鮮の将来はない」云々が功を奏したと自身の拉致政策の成果としている。但し成果に反して拉致問題は一向に進展しなかった。

 2017年9月19日、トランプが国連総会一般討論演説で拉致問題を取り上げた。このことに対して官房長官の菅義偉が翌9月20日の記者会見で「大統領の発言は涙が出る程嬉しかった」と感激。トランプ様々を見せた。

 翌9月20日、我が日本の安倍晋三が一般討論演説に臨んだ。

 安倍晋三「9月3日、北朝鮮は核実験を強行しました。それが水爆の爆発だったかはともかく、規模は前例をはるかに上回りました。

 前後し、8月29日、次いで北朝鮮を制裁するため安保理が通した「決議2375」のインクも乾かぬうち、9月15日に北朝鮮はミサイルを発射しました。いずれも日本上空を通過させ、航続距離を見せつけるものでありました。
 脅威はかつてなく重大です。眼前に差し迫ったものです。

 我々が営々続けてきた軍縮の努力を北朝鮮は一笑に付そうとしている。不拡散体制はその史上最も確信的な破壊者によって深刻な打撃を受けようとしています。
 ・・・・・・・・・・
 対話とは北朝鮮にとって我々を欺き、時間を稼ぐため、むしろ最良の手段だった。

 北朝鮮にすべての核・弾道ミサイル計画を、完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法で、放棄させなくてはなりません。そのため必要なのは対話ではない。圧力なのです」――

 「対話とは北朝鮮にとって我々を欺き、時間を稼ぐため、むしろ最良の手段だった」と北朝鮮を非難するが、時間稼ぎに利用された自身の非は反省しない。「重い扉をやっと開けることができた」ものの、部屋に入って効果的な話ができなかった事実には目を向けない。そして「対話と圧力」政策から「対話」を放棄、「圧力」一辺倒で突き進むことを決めた。

 だが、再び「対話と圧力」路線に戻ることになった。

 2018年6月7日午後(現地時間)、安倍晋三はアメリカ合衆国のワシントンでトランプと首脳会談、引き続いて共同記者会見を開催。

 安倍晋三「拉致問題を早期に解決するため、私は、もちろん、北朝鮮と直接向き合い、話し合いたい。あらゆる手段を尽くしていく決意です。そして、この拉致問題の解決に対するトランプ大統領を始めアメリカ国民の皆様の御理解と御支援に日本国民を代表して感謝申し上げたいと思います。

 累次の安保理決議の完全な履行を求めていく。これまでの方針に、全く変更はありません。拉致、核、ミサイルの諸懸案を包括的に解決し、北東アジアに真の平和が実現することを、我が国は、強く願っています」

 安倍晋三はこの首脳会談で2018年6月12日にシンガポール開催される歴史上初めての米朝首脳会談でトランプに拉致問題を取り上げるように要請したという。

 そしてトランプが米朝首脳会談で拉致問題の解決を提起したことに対して金正恩は「拉致問題は解決済み」の従来の態度を取らなかったとされていて、拉致解決に後ろ向きの態度ではなく、前向きの態度を示したサインと受け取られることになった。

 米朝首脳会談後の同2018年6月12日午後9時34分から約20分間、安倍晋三はトランプと電話会談を行い、その後記者会見を開いている。

 安倍晋三「拉致問題についてでありますが、まず私から拉致問題について米朝首脳会談においてトランプ大統領が取り上げて頂いたことに対して感謝申し上げました。

 遣り取りについては、今の段階では詳細について申し上げることはできませんが、私からトランプ大統領に伝えた、この問題についての私の考えについてはトランプ大統領から金正恩委員長に明確に伝えて頂いたということであります。

 この問題についてはトランプ大統領の強力な支援を頂きながら、日本が北朝鮮と直接向き合い、解決していかなければいけないと決意をしております」

 要するにトランプの金正日に対する強力な影響力を信じたのかどうか、対話を用いた北朝鮮との直接交渉に基づいた解決に強い意欲を示した。

 ところが、2018年6月12日の「米朝首脳会談」から3日後の6月15日夜、トランプのこの影響力に冷水を浴びせるサインが北朝鮮側から示された。北朝鮮国営ピョンヤン・ラジオ放送が「日本は既に解決された拉致問題を引き続き持ち出し、自分たちの利益を得ようと画策している。国際社会が一致して歓迎している朝鮮半島の平和の気流を必死に阻もうとしている」

 つまり拉致問題に関わるトランプの金正恩に対する影響力はゼロに等しかった。金正恩側からしたら、トランプの拉致問題解決の提起を無視した。

 2019年2月27日と28日の2日間に亘ってにベトナム首都ハノイで第2回目米朝首脳会談が開催された。トランプはこの会談でも拉致の解決を提起した。但し核問題と経済制裁の解除の問題で首脳会談は決裂した。決裂に関する両者の言い分は例の如くにと言うか、食い違っている。トランプは北朝鮮が制裁の全面解除を条件としたためだと主張。対して北朝鮮側はニョンビョン(寧辺)にあるすべての核施設の廃棄と引き換えに国民生活に影響が及ぶ一部の制裁の解除を条件として提示しただけだと反論している。

 2回目の首脳会談終了後の2月28日夜、安倍晋三とトランプは約10分間の電話会談を行っている。トランプから2月27日の金正恩委員長との1対1の会談の場で拉致問題について提起し、安倍晋三のメッセージを明確に伝えたとの説明があったこととその後の夕食会でも拉致問題について首脳間で真剣な議論が行われたとの説明があったという。

 2019年3月5日の参院予算委員会。

 安倍晋三「その場(首脳会談の場)に於きまして、言わば日本にとって大きな問題であるこの問題をトランプ大統領は出したということでありまして、言わば米国がそこまで(拉致問題を)重視をしているということを金正恩委員長も理解したんだろうと、こう思うわけでございます。

 さらには、その後の少人数の夕食会でもこの問題を引き続き提議をし、真剣な議論が行われた。これは今までなかったこと、昨年も提議をして頂きましたが、今までなかったことが行われたのでございまして、そういう意味におきましてはしっかりと金正恩委員長に伝わったのではないかと、そこを私は成果と考えているところでございます。

 ただ、まだ実際に、拉致被害者が実際に日本に帰ってくることができているわけではございませんから、実は、実際は、この問題について進めていく上に於いては日本自身の問題でありますから、私自身が金正恩委員長と向き合わなければならないと、このように考えております」

 つまりトランプが提議した拉致問題解決を「米国がそこまで重視をしているということを金正恩委員長も理解した」ことと、解決の重要性が「金正恩委員長に伝わったのではないかと、そこを私は成果と考えている」と評価しているが、核を自身の独裁体制の最重要の安全保障としてる金正恩のトランプとの首脳会での狙いが、表面的には核の段階的な廃棄を口にしたとしても、実質的には如何に核保有に繋げるかにある以上、拉致問題を解決して、いい子だ、いい子だと頭を撫でられて、ご褒美に核保有を認めてくれるならいざ知らず、そんなことはあるはずもない別の問題なのだから、核保有に向けた進展が何もなければ、あるいは経済制裁の一部でも解除されるなら、解除で得る資金を核とミサイル開発に向けることができるが、そのことも期待できないなら、拉致解決に誰が動くというのだろうか。

 このことに気づかずに拉致問題は「日本自身の問題でありますから、私自身が金正恩委員長と向き合わなければならないと、このように考えております」と、トランプの提議が何らかの進展に向かうかのような気楽なことを言っている。

 2019年5月4日北朝鮮の複数の飛翔体発射を受けて、安倍晋三は5月6日夜、トランプと電話会談。電話会談後、「拉致問題を解決をするために私自身が金委員長と条件を付けずに向き合わなければならないと考えています。あらゆるチャンスを逃さないという決意でこの問題の解決に当たっていく」と、ミサイルの発射実験を脇に置くことにしたのか、そう述べている。

 その後同じ趣旨の発言を何度となく繰り返している。当然、安倍晋三自身は自覚しているかどうか分からないが、金正恩との首脳会談を実現させる責任と、その責任を果たす政治的才覚の発揮を負ったことになる。

 だが、1年経過した現在、首脳会談を実現させる政治的才覚の発揮も、実現の責任も果たせないままに推移している。

 安倍晋三は最低限、金正恩が核を自身の独裁体制の最重要の安全保障としていることを深く認識して、その認識と共に拉致問題と向き合わなければならなかった。そのような認識を持つことができなければ、「日本が北朝鮮と直接向き合い、解決していかなければいけない」といくら決意しようが、「拉致問題を解決をするために私自身が金委員長と条件を付けずに向き合わなければならない」と金正恩との首脳会談をどう頭に描こうが、ただの言葉で終わる。

 横田滋さんのめぐみさんと再開できないままの死去に「断腸の思い」をいくら訴えようとも、目に涙を浮かべようとも、自身の無能・無策を棚に上げた白々しさだけが浮き立つことになる。
 
 国債社会の一員として北朝鮮の核放棄を優先させなければならない日本の立場であるなら、徹底的な経済制裁による金正恩独裁体制そのものの打倒と平和裏な北朝鮮の民主化を優先させて、拉致解決はその後であることを拉致被害者家族と国民に正直に説明しなければならなかった。

 あるいは国際社会から日本が孤立することがあっても、核放棄よりも拉致解決を優先させて、北朝鮮の核保有を認めるかすれば、拉致解決に終始一貫した姿勢を示すことができたはずだし、アメリカが北朝鮮の核保有を認めなくても、日本の承認を核保有のための一つの力とするために拉致解決に前向きの姿勢になった可能性は否定できない。拉致可決によって得ることになる日本からの資金も核開発に自由に向けることが可能となる。

 結局は二兎追う者一兎も得ずの宙ぶらりんの状況に陥っている。そしてこの状況が拉致を解決できない理由となっている。

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安倍晋三と森まさこは「ウソ押し通して事実に変える」最大の実践者 最初から黒川弘務訓告処分ありき

2020-06-01 11:20:38 | 政治

 安倍晋三は「ウソ押し通して事実に変える」巧みな実践で首相を続けていられると、タカをくくっている。

 東京高検検事長黒川弘務の賭けマージャンスキャンダルが明るみに出たのは週刊文春の報道がキッカケだった。法務省が黒川弘務に対して聴き取りを開始したのは2020年5月19日。
 2020年5月22日 衆議院厚生労働委員会

 川原隆司「今回の調査は今月19日火曜日から開始をしておりまして、昨日(2020年5月21日)、調査結果を取り纏めるまで、何回かに亘りまして、事務次官が必要に応じて複数回に亘り、聴取をしたということで、ところでございます」

 「文春オンライン」が《黒川弘務東京高検検事長 ステイホーム週間中に記者宅で“3密”「接待賭けマージャン」》と題して黒川弘務の賭けマージャンスキャンダルを伝えた日付は2020年5月20日。「週刊文春」編集部の記事作成で、〈source : 週刊文春 2020年5月28日号〉と記されている。

 ネットで調べたところ、週刊文春は発売号日付よりも1週間前に実発売するそうだから、「5月28日号」は5月21日当たりが発売日となる。その号の販売促進が目的で、発売日前日の5月20日にオンライン記事として配信したと思われる。
 但し週刊誌の場合は発売約一週間前に記事に取り上げた人物に対して内容確認の文書・電話・直接の本人取材等を行なうとされている。黒川記事の場合は5月20日から1週間引いた5月13日頃には黒川弘務本人が記事にされることを知ることになったはずである。その際、5月20日にオンラインでの記事配信を知らされていたであろう。

 だから、法務省はオンラインでの記事配信の5月20日よりも1日前の5月19日から黒川弘務に対する聴き取り調査を行なうことができたことになる。ところが5月13日頃には黒川弘務本人に対しては5月20日のネット配信を知らされていたはずだから、5月12日から5月19日の聴き取り調査開始までの1週間の間に善後策(後始末をうまくつけるための方法「goo国語辞書」)を練っていたはずだ。

 黒川弘務本人としたら、法務省に知らせるよりも前に官邸に伝えていなければならない。2020年1月31日に安倍内閣は検事総長は年齢が65年に達したときに、その他の検察官は年齢が63年に達したときに退官するとしている検察庁法の規定を覆して「検察庁の業務遂行上の必要性」を理由に誕生日前日の2020年2月7日に退官しなければならなかった黒川弘務の定年を半年間延長する閣議決定を行っている。

 黒川弘務が誕生日前日の2020年2月7日に退官していたなら、週刊文春報道は約3年前から賭けマージャンしていたとしているものの、特に問題となったのは新型コロナウイルス禍を受けた緊急事態宣言下での政府要請の外出自粛中の賭けマージャンだったからで、退官後に発覚した黒川弘務本人の事件扱いということで、安倍晋三の任命責任はこれ程までに国会で追及を受けることはなかったはずである。

 なかったはずの国会追及を受けることになった経緯は法律の改正によってではなく、1981年の国会で「検察官に国家公務員の定年制は適用されない」と答弁した人事院の法解釈を事後公表の形で変更、閣議決定で異例の定年延長を決めたからであって、定年延長を受けた側の検事長黒川弘務の賭けマージャンスキャンダルとなれば、当然、一番迷惑がかかるのは閣議決定した安倍内閣ということになる。

 黒川弘務としたら、一番迷惑がかかる相手にいの一番に報告しなければならない自身の不始末でなければならない。報告するについても、善後策を練るについても、事実関係を明らかにしなければならない。

 黒川弘務から明らかにされた事実関係に基づいた善後策は官邸側からしたら、法務省や検察庁を混じえて練ったとしても、特に安倍晋三自身に迷惑をかからない、あるいは安倍晋三に迷惑をかけない解決方法を最終的な答としたはずであるし、そのような答としなければならなかった。

 安倍晋三に迷惑がかかってもいい解決を答とするはずはないからである。それが訓告処分という最も軽い決定だった。最も軽い処分と安倍晋三に迷惑がからない解決はイコールの関係にある。つまり安倍晋三に迷惑がからない解決は最も軽い処分によって導き出され、最も軽い処分は安倍晋三に迷惑がからない解決によって導き出される。イコールは両者を調和した関係に置く。

 安倍晋三に迷惑がからないための善後策は最も軽い処分である訓告を既定路線としていたことになる。法務省の5月19日からの聴き取り調査というのは単なるタテマエで、既に訓告処分が決まっていて、訓告処分を相当とする演出用の架空のスケジュールに過ぎなかったことになる。実際に取調べが行われていたとしても、取調べましたという事実を打ち立てるためのアリバイ作りに過ぎなかったろう。

 安倍晋三は処分認定は法務省と検事総長が行ったことで、自身は一切関与していない、処分認定の報告を受けて、それを了承しただけだと言っているが、このような経緯を取ったとすると、黒川弘務から報道されることの報告を受け取っていないことになって、黒川弘務は安倍内閣の閣議決定によって定年延長を受けたという関係から生じる、安倍晋三には迷惑を掛けることはできないとするための配慮の儀礼を欠いていたことになる。その儀礼を欠いて、法務省のみに報告した。法務省も検事長定年延長閣議決定の主たる当事者である官邸に報告せずに調査を開始した。

 この事実を事実通りに事実と認めることができる神経を一般的とすることが果たして可能かどうかである。不可能と見るなら、安倍晋三も森まさこもウソを押し通して、そのウソを巧妙に事実と変えていることになる。

 週刊文春の黒川弘務賭けマージャン報道は、黒川弘務は一部を否定しているものの、概ね事実と認めていることから虚偽報道、デマではなく、事実報道であった。虚偽報道であったなら、せっかく定年延長された検事長職を辞職するという形で投げ出すはずはないし、安倍晋三に対しても辞職できるはずはない。

 2020年5月21日付「asahi.com」記事が、〈黒川弘務コメント全文〉を載せている。

 〈本日、内閣総理大臣宛てに辞職願を提出しました。

 この度報道された内容は、一部事実と異なる部分もありますが、緊急事態宣言下における私の行動は、緊張感に欠け、軽率にすぎるものであり、猛省しています。

 このまま検事長の職にとどまることは相当でないと判断し、辞職を願い出たものです。〉

 少なくとも検事長の職を投げ出さなければならない程度の賭けマージャンだと認めた。但し、〈緊急事態宣言下における私の行動は、緊張感に欠け、軽率にすぎる〉と、反省点を法を取り締まる側による賭けマージャンという違法行為自体よりも緊急事態宣言下の行動であったことに重点を置いている。まるで緊急事態宣言下の賭けマージャンでなければ、許されるかのようなニュアンスを漂わせている。

 もし文春の報道がなかったなら、黒川弘務の検事長という立場での賭けマージャンは国民の目に届くことなく続けられて、国家公務員法が改正されて検事総長に採用されでもしたら、賭けマージャンを続けながら、立場を検事総長に変えて、「個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる」(検察庁法第14条)強い権限で以って犯罪を取り仕切るという皮肉な事態を演じていたはずである。

 2020年5月20日の文春オンライン配信記事の主たる内容は緊急事態宣言下の外出自粛中の5月1日と5月13日に産経新聞社会部記者2人と朝日新聞の元検察担当記者が黒川弘務を加えて賭けマージャンをしたことと、黒川弘務の賭けマージャンは今に始まったことではないといったことで、法務省の黒川弘務に対する取調べもこの記事内容にほぼ添って行われたことが2020年5月22日の衆議院厚生労働委員会での法務省刑事局長川原隆司の答弁で明らかになっている。

 川原隆司「今年の5月1日と13日の日を跨いでおりますが、これについては申し上げますが、それぞれ産経新聞の記者と黒川検事長が賭けマージャンを行った事実、それから帰宅の際にハイヤーに同乗した事実等を認められております。

 そのほか黒川検事長にその後も麻雀、ハイヤーの事実ということを、当然、確認したところでございますが、その結果、黒川検事長からは今回の5月1日、あるいは13日のメンバーとされています記者3人と約3年前から月に1、2回程度、同様な賭けマージャンをやっていたということ、あるいは帰宅の際に記者が帰宅するために乗車するハイヤーに同乗したというような聴取の結果を得ているところでございまして、そうした調査結果になってございます」

 報道の事実を対象とした調査の範囲となっている。一度も、「週刊誌報道にはなかったことですが、黒川弘務検事長本人からの申し立てによってこれこれの事実も明らかになり、それらの事実も加えた事案の内容と諸般の事情を総合的に考慮し、適正な処分を行った」とは誰も言っていない。そしてこの聴取の結果を以って懲戒でもなく、停職でもなく、軽い、軽い訓告処分とした。

 本人からの申し立てによる新事実の判明など、掛けることはできない内閣への迷惑を上乗せして、自身の罪をなお重くするだけの効果しか見込めないことであって、ありようはずはないと断言できる。大体がコメントで、「一部事実と異なる部分もありますが」の云々は罪を軽くする意図の常套句として頻繁に用いられる。

 要するに報道の事実を少しでも事実から遠ざけたい虚しい悪足掻きに過ぎないのは辞職を欠かすことができな要件とする程に報道の事実を概ね事実と認定せざるを得なかったところに現れている。

 ところが文春オンラインは黒川弘務賭けマージャン第2報なのか、2020年5月27日付で、〈黒川前検事長は10年以上前から「賭博常習犯」だった〉とする趣旨の証言付きの記事を配信している。

 「週刊文春」編集部の作成で、「source : 週刊文春 2020年6月4日号」となっている。

 元雀荘店員の証言「黒川さんは、週に1~2回、多い時には週3回もいらっしゃいました。いつもBさん(産経記者2人のうちの1人)が予約を入れるのですが、Bさんが急な取材でドタキャンになることもあった。Aさん(産経記者の残りの1人)が一緒のことも多かった。休日に、ゴルフ帰りの黒川さんたちがマージャンをやりたがって、特別にお店を開けたことも何度もありました。風営法上、午前0時を過ぎての営業は出来ないのが建前ですが、照明を落として午前2時頃まで暗がりの中で続けることもありました。点数を取りまとめていたのはBさんでした」

 記事は、〈黒川氏は10年以上前から、新橋や虎ノ門、時には渋谷にまで足を延ばして、雀荘に足しげく通っていたことが分かった。〉と書いている。

 東京高検検事長黒川弘務の常習賭博マージャンは文春オンラインの2020年5月20日報道によって事実とされた。但しその常習性は法務省調査によって「約3年前から月に1、2回程度」とされた。

 2020年5月27日付文春オンライン記事は黒川弘務の常習性を「10年以上前から」としている。最初の記事が虚偽報道ではなく、事実報道として法務省の調査が開始されたなら、次の記事を虚偽報道と決めつける根拠は希薄で、一応は事実報道と仮定して、「約3年前から月に1、2回程度」の常習性とした法務省の調査が適切であったかどうか、検証する必要性が生じる。例え検証といかなくても、調査の遣り直しは必要となる。断るまでもなく、「約3年前から月に1、2回程度」の常習性と「10年以上前から、新橋や虎ノ門、時には渋谷にまで足を延ばして、雀荘に足しげく通っていた」常習性とは質も回数も明らかに異なるからである。

 2020年5月29日 参議院本会議

 一括質問・一括答弁方式

 倉林明子(共産党)「社会福祉等改正案についてお尋ね致します。法案の質疑に入る前に黒川前東京高検検事長の処分について質問します。内閣が『余人を以って代え難い』として法解釈を変更してまで定年延長された黒川氏があろうことか、賭博行為である賭けマージャンをしていたこと、さらにこの処分は訓告にとどまり、約6千万円もの退職金が支払われることに国民から抗議の声が上がっております。総理は任命責任をどう果たすおつもりですか。

 10年前からも常習性を疑われる新たな事実が報じられています。再調査の指示を出すべきではありませんか。

 処分について訓告との判断はなぜ適正と考えるのか、国民の疑念に総理自身の言葉で説明すべきです。明確な答弁を求めます」

 安倍晋三「黒川前東京高検検事長処分等についてお尋ねがありました。黒川氏の処分については法務省に於いて必要な調査を行い、法務省及び検事総長に於いて事案の内容等諸般の事情を総合的に考慮して、訓告が相当であると判断し、適正に処分したものと承知をしています。

 黒川氏の処分を認定するに当たり、法務省に於いては事実関係について必要な調査を行ったものと承知をしており、再調査は必要ないものと考えています。

 他方で黒川氏を検事長として任命したこと等については法務省・検察庁の人事案を最終的に内閣として認めたものであり、その責任については私にあり、ご批判は真摯に受け止めたいと考えております。その上でまさに我々には新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止すると共に国民の健康と命、雇用と暮らしを守り抜いていく大きな責任があると認識しております。

 いずれも行政府の長として一層身を引き締めて、行政運営に当たることにより、その責任を果たしていく所存であります」

 この参議院本会議があったのは2020年5月29日。「10年以上前から」の常習性を内容とする記事を文春が配信したのは2020年5月27日付であって、2日後の安倍晋三の答弁である。文春の「10年以上前から」の記事を知らなかったとした場合、官邸の情報収集能力が疑われるだけではなく、国会答弁は一般的には質問通告を受けて行なう。ましてや本会議の一括質問・一括答弁方式では質問通告がなければ、答弁は成り立たない。

 要するに安倍晋三は2020年5月27日付の文春オンライン記事の内容を把握していなければ、答弁はできなかったことになる。

 共産党参議院議員倉林明子は2020年5月27日付文春オンライン記事を取り上げて、黒川弘務の賭博マージャン常習性を「10年前からも常習性を疑われる新たな事実が報じられています」と指摘した。

 ところが、安倍晋三が答弁している「法務省に於いて必要な調査を行った」、処分認定に関しても法務省が「必要な調査を行った」としている法務省の調査とは文春が最初の報道で伝えている「約3年前から月に1、2回程度」の常習性を根拠として行ったものであり、2020年5月27日付の文春オンライン記事が黒川弘務の賭博マージャンの常習性を「10年以上前から」としている情報を根拠とした調査では全くない。

 このゴマカシを正当化して、「再調査は必要ない」とするのは、「10年以上前から」の常習性を「約3年前から月に1、2回程度」の常習性としたままにして置く、「ウソ押し通して事実に変える」類いの強弁に過ぎない。

 森まさこが2020年5月22日の記者会見で検事長黒川弘務の訓告処分は「法務省内、任命権者であります内閣と様々協議を行いました。その過程でいろいろな意見も出ましたが、最終的には任命権者である内閣に於いて決定がなされたということでございます」との発言で、法務省と内閣が様々に協議し、最終決定は内閣が行ったとする経緯を、黒川弘務としたら、一番迷惑がかかる相手にいの一番に報告しなければならないのだから、官邸が関わらないはずはない処分決定であるにも関わらず、5月26日の記者会見になると、「(5月)22日の記者会見における私の『内閣において決定がなされた』旨の発言は法務省及び検事総長が『訓告』が相当と決定した後、内閣に報告したところ、その決定に異論がない旨の回答を得たことを申し上げたものでございます」と、内閣決定を法務省及び検事総長の訓告処分決定に対する内閣による「異論がない旨の回答」に変えている。

 法務省と検事総長の2者のみで決めた訓告処分であるなら、5月22日の記者会見で述べた「法務省内、任命権者であります内閣と様々協議を行いました。その過程でいろいろな意見も出ました」は法務大臣でありながら、なかった事実をあった事実であるかのように発言したことになる。そのメリットはどこにあるのだろうか。

 逆に5月26日の記者会見であった事実をなかった事実とすることによるメリットは容易に考えることができる。処分決定に内閣は一切関わらなかったとする事実の打ち立てが可能となる。

 要するに処分決定に内閣が関わったとする森まさこの5月22日の記者会見発言「法務省内、任命権者であります内閣と様々協議を行いました。その過程でいろいろな意見も出ました」は内閣にとって、即ち安倍晋三にとってデメリットそのものであって、発言自体に矛盾が生じることも構わずにあった事実をなかった事実に変えざるを得なかった。

 この森まさこのあった事実をなかった事実に変えて、デメリットをメリットとする巧妙さを必要とする方向転換にしても、「ウソ押し通して事実に変える」実践によって可能となる。

 森まさこは黒川弘務定年延長の閣議決定に対する野党の国会追及でも散々に「ウソ押し通して事実に変える」ことを散々に実践してきた。

 安倍晋三にしても、黒川弘務定年延長閣議決定にとどまらずに、森友・加計疑惑、「桜を見る会」疑惑、アベノマスク全世帯配布等々に対する国会答弁で「ウソ押し通して事実に変える」名人芸を数え切れない程に実践してきた。

 この名人芸からしたら、共産党議員倉林明子に対する答弁の最後で「他方で黒川氏を検事長として任命したこと等については法務省・検察庁の人事案を最終的に内閣として認めたものであり、その責任については私にあり、ご批判は真摯に受け止めたいと考えております」はウソの上塗りに過ぎないと見なければならなくなる。

 要するに安倍晋三なる政治家はオオカミ少年の少年に当たる。オオカミ少年のようにウソがいつ命取りになるのだろうか。

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