ブログに何度も書いてきていることで、最初に断わっておくが、自衛隊は違憲である。安倍晋三とその一派は最高裁が憲法の番人であり、砂川事件最高裁判決が自衛隊を合憲としていることを根拠にして、自衛隊合憲説を高らかに謳い上げているが、砂川事件最高裁判決には自衛隊合憲に触れている個所は一つもない。自衛隊を違憲とする指摘個所を拾ってみる。
〈わが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである。憲法前文にも明らかなように、われら日本国民は、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようとつとめている国際社会において、名誉ある地位を占めることを願い、全世界の国民と共にひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認するのである。
しからば、わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。すなわち、われら日本国民は、憲法9条2項により、同条項にいわゆる戦力は保持しないけれども、これによって生ずるわが国の防衛力の不足は、これを憲法前文にいわゆる平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼することによって補ない、もってわれらの安全と生存を保持しようと決意したのである。そしてそれは、必ずしも原判決(第一審判決のこと)のいうように、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事的安全措置等に限定されたものではな く、わが国の平和と安全を維持するための安全保障であれば、その目的を達するにふさわしい方式又は手段である限り、国際情勢の実情に即応して適当と認められるものを選ぶことができることはもとよりであって、憲法9条は、わが国がその平和と安全を維持するために他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではないのである。
そこで、右のような憲法9条の趣旨に即して同条2項の法意を考えてみるに、同条項において戦力の不保持を規定したのは、わが国がいわゆる戦力を保持 し、自らその主体となってこれに指揮権、管理権を行使することにより、同条1項において永久に放棄することを定めたいわゆる侵略戦争を引き起こすがごときことのないようにするためであると解するを相当とする。従って同条2項がいわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として、同条項がその保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべきである。〉――
|
まず最初に、〈わが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく〉と言っている。その自衛権とは、〈平和のうちに生存する権利を有する〉としている"平和的生存権"を守るためであるのは、勿論、断るまでもない。
それ故にこそ、〈わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。〉と、〈自衛のための措置〉を〈国家固有の権能の行使〉であるとして認めている。
ここまで読むと、自衛隊合憲説には見える。
但しここで憲法の番人である砂川事件最高裁は日本国憲法前文と自衛権の関係に触れる。要するに戦力不保持と交戦権の否認を謳った憲法9条2項によって〈生ずるわが国の防衛力の不足〉は憲法前文で謳っている、〈平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼することによって補ない、もってわれらの安全と生存を保持〉すべきであり、この目的の実現のためには憲法9条は〈他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではない〉との表現で、憲法9条2項によって〈生ずるわが国の防衛力の不足〉を〈他国に安全保障を求めること〉で補うことは憲法9条は何ら禁止していないとしている。
では、憲法9条2項が、〈保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し〉云々の文言で自衛隊を9条2項が不保持としている戦力に相当すると指摘、そのあと、〈外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべきである。〉と、日本駐留アメリカ軍は憲法9条2項が指摘する戦力には該当しないとして、最終的に米軍の日本駐留は憲法違反ではないと判決づけたのである。
このように駐留外国軍は憲法9条2項が言う「戦力」に該当しないと解釈した手前、9条〈2項がいわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として〉と判断保留にせざるを得なかったのだろう。9条2項が〈自衛のための戦力の保持をも禁じたもの〉とした場合、日米安保条約に基づいて行われているアメリカ軍の日本駐留を憲法違反としなければならなくなる。
そこで駐留外国軍は「戦力」に該当しないとする根拠を憲法前文の、〈平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。〉点に求めることになった。
なかなか苦しい結論となっているが、砂川事件最高裁判決は結果的に"平和的生存権"は憲法前文が謳っている、〈平和を愛する諸国民の公正と信義〉を〈信頼〉することによって成り立たせる自衛権によって手に入れることを正当化する一方で、〈わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力〉、〈わが国自体の戦力〉である自衛隊は9条2項が保持を禁止している戦力であり、当然、そのような戦力で自衛権を発動することは憲法違反になるとご託宣していることになる。
安倍晋三やその一派は砂川事件最高裁判決が自衛隊を違憲としているにも関わらず、どう血迷ったのか、憲法の番人は最高裁判決だ、砂川事件最高裁判決は自衛隊を合憲としている大合唱、砂川事件最高裁判決を自衛隊合憲説の錦の御旗としている。あるいは水戸黄門の葵の印籠如くに扱っている。
安倍晋三が再び政権を握ることになった2012年12月16日投票の衆院選挙の2日前の2012年12月14日にネット番組に出演、日本国憲法前文について次のように発言したと同日付「asahi.com」記事が伝えている。
安倍晋三「日本国憲法の前文には『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』と書いてある。つまり、自分たちの安全を世界に任せますよと言っている。そして『専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う』(と書いてある)。
自分たちが専制や隷従、圧迫と偏狭をなくそうと考えているわけではない。いじましいんですね。みっともない憲法ですよ、はっきり言って。それは、日本人が作ったんじゃないですからね。そんな憲法を持っている以上、外務省も、自分たちが発言するのを憲法上義務づけられていないんだから、国際社会に任せるんだから、精神がそうなってしまっているんですね。そこから変えていくっていうことが、私は大切だと思う」
砂川事件最高裁判決は日米安保条約に基づいた日本駐留アメリカ軍を9条2項が禁じる「戦力」に当たらないとする根拠を日本国憲法前文に置いているのだから、「自分たちの安全を世界に(と言うよりも、アメリカに)任せますよと言っている」ことになるが、前文を他力本願だとか、「いじましい」とか、「みっともない」とか否定した場合、アメリカ軍の日本駐留をも否定しなければならなくなるが、砂川事件最高裁判決によって日本国憲法とアメリカ軍の日本駐留がそういう関係にあることには、鈍感なのだろう、少しも気づいていない。
但し日本国憲法を如何に貶めようとも、砂川事件最高裁判決が自衛隊を違憲としていることに変わりはない。もし合憲としているとするなら、具体的に判決のどの個所のどの文言が合憲を意味させているのか、指摘すべきである。
防衛相の河野太郎が2020年6月15日夕方、山口県と秋田県への配備を計画していたイージス・アショアの配備計画停止を表明した。リンク切れに対処するために全文を参考引用させて頂くことことにした。
河野防衛相「イージス・アショア」配備計画停止を表明 (NHK NEWS WEB/2020年6月15日 20時50分)
河野防衛大臣は、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の山口県と秋田県への配備計画を停止する考えを表明しました。これにより日本のミサイル防衛計画の抜本的な見直しが迫られることになります。
「イージス・アショア」は、アメリカ製の新型迎撃ミサイルシステムで、政府は、山口県と秋田県にある、自衛隊の演習場への配備を計画していました。
このうち、山口県の演習場への配備について、河野防衛大臣は15日夕方、記者団に対し、迎撃ミサイルを発射する際に使う「ブースター」と呼ばれる推進補助装置を、演習場内に落下させると説明していたものの、確実に落下させるためには、ソフトウェアの改修だけでは不十分だと分かったことを明らかにしました。
そのうえで「ソフトに加えて、ハードの改修が必要になってくることが明確になった。これまで、イージスアショアで使うミサイルの開発に、日本側が1100億円、アメリカ側も同額以上を負担し、12年の歳月がかかった。新しいミサイルを開発するとなると、同じような期間、コストがかかることになろうかと思う」と述べました。
そして「コストと時期に鑑みて、イージス・アショアの配備のプロセスを停止する」と述べ、配備計画を停止する考えを表明しました。
こうした方針をNSC=国家安全保障会議に報告して、政府として今後の対応を議論するとともに、北朝鮮の弾道ミサイルには当面、イージス艦で対応する考えも示しました。
さらに河野大臣は、山口県と秋田県の両知事に15日、電話で報告したとしたうえで、できるだけ早い時期におわびに赴く考えを明らかにしました。
政府は、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃への対処能力を高めるためとして、3年前の2017年にイージス・アショアの導入を閣議決定していましたが、ミサイル防衛計画の抜本的な見直しが迫られることになります。
|
記事は、〈3年前の2017年にイージス・アショアの導入を閣議決定した〉としているが、具体的には2017年12月19日午前の閣議決定となっている。
要するに安倍政権はアメリカ製の新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を使って発射させる迎撃ミサイルの、重量2トン超もあるとされている発射推進補助装置「ブースター」を演習場内に落下させる技術を確立させないままに演習場内に落下させますと虚偽の説明をして、山口県と秋田県に対して自衛隊演習場への配備を納得させようとしてきた。結構毛だらけ、猫灰だらけということになる。
〈防衛省「平成30年版防衛白書」 陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)について〉
イージス・アショアは、イージス艦(BMD対応型)のBMD対応部分、すなわち、レーダー、指揮通信システム、迎撃ミサイル発射機などで構成されるミサイル防衛システム(イージス・システム)を、陸上に配備した装備品であり、大気圏外の宇宙空間を飛翔する弾道ミサイルを地上から迎撃する能力を有しています。
北朝鮮に、わが国を射程に収める各種の弾道ミサイルが依然として多数存在するなど、弾道ミサイル防衛能力の向上は喫緊の課題である中、イージス・アショアを導入すれば、わが国を24時間・365日、切れ目なく守るための能力を抜本的に向上できることになります。
一般に防衛装備品については、事態が切迫してから取得しようとしても、取得までには長期間を要します。国民の命と平和な暮らしを守ることは、政府の最も重要な責務であり、防衛省として、いかなる事態にも対応し得るよう、万全の備えをすることは当然のことであると考えております。
また、現状のイージス艦では、整備・補給で港に入るため隙間の期間が生じることが避けられず、長期間の洋上勤務が繰り返されることとなり、乗組員の勤務環境は極めて厳しいものとなっております。イージス・アショアの導入により、隊員の負担も大きく軽減され、さらには、イージス艦を元来の任務である海洋の安全確保任務に戻すことが可能になり、わが国全体の抑止力向上につながります。
イージス・アショア2基の配備候補地について、防衛省において検討を行った結果、秋田県の陸自新屋演習場及び山口県の陸自むつみ演習場を選定したところです。こうしたことを受け、18(平成30)年6月1日には、福田防衛大臣政務官及び大野防衛大臣政務官が秋田・山口両県をそれぞれ訪問し、また、同月22日には、小野寺防衛大臣が両県を訪問し、配備の必要性などについてご説明しました。
防衛省としては、今後とも、配備に際して、地元住民の皆様の生活に影響が生じないよう、十分な調査や対策を講じるとともに、配備の必要性や安全性などについて、引き続き、誠心誠意、一つ一つ丁寧に説明し、地元の皆様から頂戴する様々な疑問や不安を解消すべく努めてまいりたいと考えています。
〈注 「イージス艦(BMD対応型)」とはミサイル防衛〈Ballistic Missile Defence)の略〉
|
要するにイージス・アショアとはレーダー、指揮通信システム、迎撃ミサイル発射機などで構成される陸上配備のミサイル防衛システム(イージス・システム)のことであり、大気圏外の宇宙空間を飛翔する弾道ミサイルを地上から迎撃する能力を有すると、その有能性を誇っている。
具体的にはどのような迎撃手順となっているのか見てみる。
2017年1月26日衆議院予算委員会
小野寺五典(当時防衛相)「北朝鮮がもし弾道ミサイルを発射した場合、当然、発射する場所というのは、北朝鮮の領土内にあるミサイル基地とか、あるいはミサイルの発射装置から発射されます。発射された後、当然、日本に飛んでくることをアメリカの早期警戒衛星で察知した場合、日本に通報があります。そして、それに対して、例えば日本のレーダーでこれを捕捉して、そして速やかに日本海にある日本のイージス艦からミサイルを発射して、弾道ミサイルでまず一義的に迎撃をする。万が一これが防げなかったら、今度は日本の国内にあります航空自衛隊が運用しますパトリオット部隊でもう一度迎撃をする。こういう二段構えで私どもは防いでおります。
ただ、このミサイルが飛んでくるということに関しては、当然、一発、二発であればしっかりとめることができるんだと思いますが、連続して、あるいは何発も何発も何発も何発も繰り返し来た場合、こういういわば飽和攻撃という状況になった場合に本当に防ぎ切れるか、これは大変心配なことがあります。
ですから、もし仮に日本が攻撃されるということになれば、一番安全な防御策は、北朝鮮の領土にある、弾道ミサイルを発射するミサイル基地あるいはミサイルを発射しようとする装置をまず攻撃して無力化して、相手に撃たせないこと、これが一番大切なんだと思います。相手に撃たせないこと。
ところが、これは北朝鮮の領土内にあります。ですから、これを撃たせないようにするためには、日本は実は今まで専守防衛という考え方ですから、相手の領土を攻撃するような装備をあえて日本の自衛隊は持っていません。
かわりに、日本を狙ってミサイルを撃ってくるミサイル基地をたたいてくれるのは、日米同盟によって米軍がこの役を担ってくれる。ですから、米軍が北朝鮮の発射するミサイル基地をたたいて、日本の防衛のためにミサイルを無力化するというのが具体的な役割ということになります。
ですから、これを見ると、日本の防衛にとって、この弾道ミサイル防衛一つとっても、アメリカの関与というのが必ず必要ということになります。
以前の日本が攻められるというイメージであれば、例えば爆撃機が飛んできて日本の上で爆弾をばらばらばらと落とすとか、あるいは大きな軍艦が日本の近海まで来て艦砲射撃で港を攻撃するとか、あるいは沿岸から上陸用舟艇で相手の国の兵隊が上陸をしてきたり戦車が上陸をするとか、そういうような日本が攻撃されるということのイメージがあったんだと思います。ですから、専守防衛というと、来た相手を防げばいいんだ、自衛隊はそういう装備体系になっています。
ところが、これは十数年ぐらい前の話であって、ここ十年で周辺国の軍事技術は格段に向上して、さまざま、日本が攻撃される想定が変わってまいりました。
今お話をしたように、例えば北朝鮮は弾道ミサイルを発射して日本を攻撃してくる、これを日本は防ぎますが、最終的に防ぎ切れないこともあります。ですから、相手の領土にある北朝鮮のミサイル基地をたたかないと日本の平和が保たれない。ですが、そこは実は、今まで日本の自衛隊はあえて相手の領土を攻撃する装備を持つことはしなかった、これが現実であります。そして、アメリカがこれをかわりにやってくれる。一つ一つ考えても、日米同盟は大変重要です。ですから、これをこれからも守っていく必要は当然あるんだと思います。
ただ、もう一つ、アメリカが日米同盟で日本を守っている、この前提があります。それは、アメリカが、今までもこれからも超軍事大国であって、アジアを含めた世界の警察官という役割を持って、そして何より日米同盟を大切にする、この存在があってこそ、実は日本を守るというこのお互いの役割が成り立つわけです。 |
小野寺五典は要するに北朝鮮が弾道ミサイルで日本を攻撃した場合、現在の日本は専守防衛の建前上、敵基地攻撃が許されていないから、米軍が北朝鮮の基地に対して直接的に攻撃を仕掛けて、弾道ミサイル発射を遮断するが、アメリカの軍事力を以ってすれば簡単なことであっても、発射を完全に遮断するためにはそれ相応の時間がかかり、最初に飛んできた弾道ミサイルと、完全な攻撃遮断までの間に飛来する弾道ミサイルに対してはアメリカの早期警戒衛星の察知に従って日本海をパトロール中の日本のイージス艦からミサイルを発射して迎撃をするが、特に飽和攻撃といった状況に至って防ぎ切れずに失敗した場合は日本国内の航空自衛隊運用のパトリオット部隊が保有する地対空誘導弾パトリオットを発射して迎撃・撃墜させる二段構えの手順となっていると説明している。
但しこの説明は日本にとってのいいこと尽くめなことを色々と達者に言っているに過ぎない。なぜかと言うと、日本のイージス艦からのミサイル発射を以って北朝鮮の攻撃ミサイルの迎撃に失敗する場合を仮定している以上、日本国内の航空自衛隊運用のパトリオット部隊が保有する地対空誘導弾パトリオットを発射して迎撃・撃墜させる二段構えに於いても失敗する場合を仮定しなければならないからである。
だが、仮定していない。二段階目迎撃が成功するとの仮定に立った説明となっている。二段構えですから、大丈夫ですよといいこと尽くを言っているに過ぎない。
この予算委員会はイージス・アショアの導入を閣議決定した2017年12月19日よりも約11ヶ月も前であるが、イージス・アショアを導入したとしても、二段構えの北朝鮮ミサイル迎撃体制であることに変わりはない。なぜなら、イージス艦搭載の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の迎撃能力が完璧でない以上、〈イージス艦(BMD対応型)のBMD対応部分、すなわち、レーダー、指揮通信システム、迎撃ミサイル発射機などで構成されるミサイル防衛システム(イージス・システム)を、陸上に配備した〉(防衛省HP)に過ぎないイージス・アショアの迎撃能力にしても、完璧でないことになって、二段構えを崩すことはできない。
海上配備型としてイージス艦に搭載したミサイル防衛システム(イージス・システム)が常に完全に機能するとは限らないとしながら、地上配備型のミサイル防衛システム(イージス・システム)である「イージス・アショア」は完璧な機能性を有するとしたら、矛盾が生じる。
上記防衛省のHPでは、〈イージス・アショアの導入により、イージス艦を元来の任務である海洋の安全確保任務に戻すことが可能になる〉と謳っているが、高性能のレーダーを持ち、「高度な情報処理・射撃指揮システムにより、200を超える目標を追尾し、その中の10個以上の目標(従来のターター・システム搭載艦は2~3目標)を同時攻撃する能力を持つ」(「Wikipedia」)イージス艦を地上配備型の「イージス・アショア」を備えることによって万が一の攻撃に対する軍事的抑止力としてではなく、「海洋の安全確保任務に戻すことが可能にな」るとしているのは綺麗事に過ぎる。
地上配備型の「イージス・アショア」と海上配備のイージス艦が二段構えで、相互に能力を補わなけれがならない関係にあることに対して北朝鮮のミサイルは着々と性能と精度を高めているとされている。具体的にはミサイル発射の探知・識別がより困難となる無限軌道型(キャタピラー型)の移動式発射台の存在が既に確認されていて、2029年10月には潜水艦からの新型ミサイル発射実験を成功させている。
無限軌道型(キャタピラー型)の移動式発射台からのミサイル発射は発射位置の確認がより難しくなるし、潜水艦発射にしても、海中移動という性質上、発射位置の探知が困難となる上に通常よりも角度をつけて高く飛ばす「ロフテッド軌道」で発射されて、約910キロの高さで約450キロ飛行したという。
ロフテッド軌道発射を『コトバンク」が解説している。〈通常の発射方法より角度を上げ、高い高度に打ち上げられた弾道ミサイルの飛行経路。射程距離は通常より短くなるが、1000キロメートルを超える高高度から落下するような軌道をとることで、着弾間際の速度がより高速になる。そのため、イージス艦などでの迎撃が困難とされている。〉
また、ロフテッド軌道発射を水平軌道発射に修正した場合、射程距離は優に千キロを超えることになると言う。要するに北朝鮮のミサイル開発はイージス艦やイージス・アショアでの迎撃をより困難にする場所にまで進んでいる。つまり日本の抑止力に不確実性を与えることになっている。
だから、敵基地攻撃をアメリカ任せにせずに日本もその能力を持ちたいと欲求することになっているのだろう。だが、敵基地攻撃にしても諸刃の剣である。一度に北朝鮮の全ての基地を叩くことは不可能で、虱潰しに叩いている間に叩かれる前の基地からミサイル攻撃を受けたり、戦闘機攻撃や爆撃機攻撃を受けない保証はない。受ければ、一部国民の生命の危害へと向かわないとも限らない。敵基地攻撃という名の軍事的抑止力にしても、完璧ではないということになる。
中国は2018年8月初めに最終最高速度が音速6倍のマッハ6に達する極超音速飛翔体の飛行実験に成功させ、2020年からの配備を目指しているとされている。ロシアは2003年に極超音速飛翔体の開発に着手、2018年末に飛行実験を成功させた、音速の20倍の速さで飛行可能な、核搭載の極超音速兵器を2019年に配備すると発射実験成功時に発表している。
対してアメリカは2020年3月20日、ハワイ州カウアイ島で極超音速兵器の発射実験を行い、成功したと発表している。中国とロシアに後れを取っているものの、こういったミサイル開発競争の一つを取っただけでも、軍拡競争を続けている間は国家安全保障上の完全な抑止力は存在しないことを物語ることになる。
極超音速飛翔体(極超音速ミサイル)とは通常の弾道ミサイルを打ち上げ後、近宇宙空間で切り離されて大気圏に再突入、マッハ5以上の極超音速で滑空し、重力の関係からだろう、最終的にはマッハ10の最高速度に達して目標に向かうとされているが、ロシアはその2倍のマッハ20としている。
安倍晋三がイージス・アショアの配備計画停止に関して通常国会閉会に合わせて行った2020年6月18日の記者会見で冒頭発言の最後に次のように発言している。
安倍晋三「今週、イージス・アショアについて、配備のプロセスを停止する決定をいたしました。地元の皆様に御説明していた前提が違っていた以上、このまま進めるわけにはいかない。そう判断いたしました。
他方、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している。その現状には全く変わりはありません。朝鮮半島では今、緊迫の度が高まっています。弾道ミサイルの脅威から国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく。これは政府の最も重い責任であります。我が国の防衛に空白を生むことはあってはなりません。平和は人から与えられるものではなく、我々自身の手で勝ち取るものであります。安全保障政策の根幹は、我が国自身の努力にほかなりません。抑止力、対処力を強化するために何をすべきか。日本を守り抜いていくために、我々は何をなすべきか。安全保障戦略のありようについて、この夏、国家安全保障会議で徹底的に議論し、新しい方向性をしっかりと打ち出し、速やかに実行に移していきたい。そう考えています」
質疑。
テレビ朝日吉野記者「イージス・アショアについてお伺いしたいと思います。今、総理、夏に向けて新しい戦略を議論して実行に移すとおっしゃいましたけれども、例えば、併せて防衛大綱ですとか、中期防の見直しをする考えはありますでしょうか。
そして、今回、アショアの停止によって浮くであろう予算等、これを宇宙ですとか、サイバーですとか、電磁波といった領域の戦略構築に振り向ける考えはございますでしょうか」
安倍晋三「今回のイージス・アショアにつきましては、住民の皆様に御説明してきたその前提が違っていた以上、これは進めることはできないと、こう判断をしました。
そこで、これはブレーキ、では、ある意味、このイージス・アショアを配備をしていくということについては確かにブレーキをかけましたが、安全保障、国民の命を守っていく、日本国を守り抜いていくという防衛に、これは立ち止まることは許されない。つまりそれは空白をつくることでありますから、その意味において、言わば国民の命と、そして、平和な暮らしを守り抜いていくために何をなすべきか。基本からしっかりと、私は、議論すべきだ、こう判断をしたわけであります。
抑止力とは何か。相手に例えば日本にミサイルを撃ち込もう、しかしそれはやめた方がいいと考えさせる、これが抑止力ですよね。それは果たして何が抑止力なのだということも含めて、その基本について国家安全保障会議において議論をしたいと思います。大綱、中期防については、まずは議論をすることを始めていきたいと。まだ大綱や中期防については全く考えてはいない。まずは国家安全保障会議について、しっかりと議論をしていきたい。
ミサイル防衛につきましても、ミサイル防衛を導入したときと、例えば北朝鮮のミサイル技術の向上もあります。その中において、あるべき抑止力の在り方について、これは正に新しい議論をしていきたいと、こう思っています。
また、宇宙やサイバーといった新領域については、重要分野と位置づけており、引き続きしっかりと取組を進めていきたいと思います」
|
要するに軍拡競争を続けている間は国家安全保障上の完全な軍事的抑止力は存在しないにも関わらず、軍事力増強を国家安全保障上の優先的抑止力とする安倍晋三の発言となっている。そのような抑止力を以って、「弾道ミサイルの脅威から国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく」と、「国民の命と平和な暮らし」を最大限保障している。
この矛盾に安倍晋三は全然気づかない単細胞を発揮している。気づかないだけではなく、「抑止力とは何か。相手に例えば日本にミサイルを撃ち込もう、しかしそれはやめた方がいいと考えさせる、これが抑止力ですよね」と言って、軍事力増強を国家安全保障上の優先的抑止力とすることに日本の首相としての責任を置いている。
今日の抑止力があしたの抑止力になる保証はないことに無神経でいられる。軍拡競争の際限のなさを脇に置いて、「宇宙やサイバーといった新領域については、重要分野と位置づけており、引き続きしっかりと取組を進めていきたいと思います」と、「宇宙やサイバーといった新領域」にまで日本の軍事力を拡大する意思を固めている。
かくこのように安倍晋三は国家安全保障上の完全な軍事的抑止力とはならない関係にある軍事力増強を国家安全保障上の優先的抑止力に位置づけて、その対局に日本国憲法の前文と9条を置いている。
それゆえに2012年12月14日のネット番組で日本国憲法の9条を前文と共に「自分たちの安全を世界に任せますよと言っている」とか、「自分たちが専制や隷従、圧迫と偏狭をなくそうと考えているわけではない。いじましいんですね。みっともない憲法ですよ」と貶し、さらに「日本人が作ったんじゃないですからね」と他力本願の憲法だと排斥している。
安倍晋三が日本国憲法前文と9条の価値をいくら低めようとも、あるいは軍備増強の意思をいくら露わにしようとも、軍拡競争を続けている間は国家安全保障上の完全な軍事的抑止力は存在しないという事実を変えることはできない。攻撃を仕掛ける側も、攻撃を受ける側も、生半可ではない痛手を被ることになるだろう。痛手は一部「国民の命と平和な暮らし」の犠牲となって現れる。
日本国憲法前文の国家安全保障上の抑止力に関係する個所を取り上げてみる。
〈日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。〉・・・・・
〈平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持〉することによって、〈恒久の平和を念願〉する。いわば、〈平和を愛する諸国民の公正と信義〉を抑止力として、このことを以って国家の安全保障とする。
このような国家安全保障を可能にするには完全な軍事的抑止力は存在しない以上、安倍晋三のように軍拡競争の一員となって軍備増強に奮闘するのではなく、その対極の位置、〈平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して〉の言葉通りにどの国とも軍事同盟を結ばない、非同盟の全方位外交の実現しか、方法はないはずである。
いわば日本国憲法前文は非同盟全方位外交の宣言そのものとなっていて、勿論のこと、9条と対応している。9条の戦争放棄、戦力の不保持、交戦権の否認は非同盟全方位外交の国家安全保障によってのみ、実現可能となる。
安倍晋三が日本国憲法前文をいくら批判し、憲法そのものの価値を低めて、軍拡競争にいくら励もうとも、あるいはアメリカから高性能の武器をいくら高額で仕入れようとも、そのような方法で確立した国家安全保障体制からは、全面的には「国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく」ことはできない。
安倍晋三自身は命拾いをしたとしても、無視できない数の国民が犠牲となる。
要するに安倍晋三は一人残らずのニュアンスで「国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく」と虚偽発言しているに過ぎない。そのような虚偽発言で軍備増強に励んでいる。