安倍晋三:従軍慰安婦強制連行否定2007年3月16日閣議決定 「政府が発見した資料の中には、軍や官憲がいわゆる強制連行を 直接示すような記述も見当たらなかった」とする “政府発見資料”とは如何なる資料か、公表すべき |
「海上保安大学校卒業式 安倍晋三祝辞」(首相官邸/平成30年3月24日) 本日、海上保安大学校本科卒業式及び特修科修了式に当たり、祝辞を述べる機会を得たことを、内閣総理大臣として大変うれしく思います。 卒業生・修了生諸君、卒業おめでとう。 諸君が、この海上保安大学校から錨(いかり)を揚げ、海上保安官として前途洋々たる航海に船出するに際し、一言、はなむけの言葉を申し上げます。 我が国と世界を結び、恵みの源である海。古来より、我が国は、海を愛し、海に守られ、発展を遂げてきました。 しかし、先の大戦で、我が国の周辺海域は、灯台は破壊され、沈没船が航路を塞ぎ、大量の機雷が浮遊する暗黒の海と化していました。 諸君の先輩たちは、再び日本の海を拓くことが祖国の復興につながると信じ、機雷の掃海という極めて困難な任務にもひるむことなく、命を賭して、この危険な海に立ち向かい、恵みの海を取り戻しました。 海上保安庁が創設されてから70年。先人たちが灯(とも)した光は、今日に至るまで、日本の海路(うみじ)をしっかりと照らし、国民の生命と財産を守り続けてくれています。 私たちは、四方を海に囲まれた我が国の平和と繁栄が、あまたの人々の身をていした貢献の上に築かれていることを忘れてはなりません。 現在、我が国の海域を取り巻く環境は、海上保安庁の歴史で類を見ない厳しさを見せています。 日本海では、北朝鮮漁船が我が国の排他的経済水域の中での活動を活発化させています。昨年、海上保安庁は、2,000隻にも及ぶ違法操業船に退去警告を実施し、300隻以上に放水措置を実施しました。 北朝鮮からと思料される漂流・漂着船もこの数か月で急増し、昨年11月には、北海道沖、松前小島に多数の乗組員が上陸し、窃盗を行いました。その際、巡視船しれとこが立入検査を行ったときの状況を、大岩主任航海士は、次のように語っています。 殺気漂う北朝鮮の船に乗り込む際、16年前、北朝鮮工作船から攻撃を受けた事件が脳裏によぎりました。しかし、国民の安全を守り抜く。その使命感が、自然と背中を押し、検査を全うすることができました。 いかなる状況にも敢然と立ち向かい、任務を全うする。並大抵の覚悟や努力でなし得るものではありません。諸君には、これからも、日々、鍛錬を重ね強靱(きょうじん)な精神力を涵養(かんよう)してほしいと思います。尖閣諸島周辺海域では、24時間365日、そして、今この瞬間も、諸君の先輩たちは、我が国の主権を守るため、絶え間ない緊張感の下、荒波をものともせず、歯を食いしばり、領海警備に当たっています。 平成24年の尖閣諸島の国有化以降、年間延べ700隻もの外国公船が接続水域を航行し、領海侵入を試みています。近年は、外観上、明らかに機関砲を搭載した公船も出現しています。 平成28年8月、巡視船みずほの山田船長の全身に、かつてないほどの緊張感が走りました。レーダー画面をびっしりと覆う300隻もの外国漁船の姿、その周囲には15隻の外国公船。これらの船が一斉に領海に侵入してきました。 実効支配の既成事実を作らせない。何としても活動を阻止しなければならない。だが、巡視船の大きな船体に漁船の網が巻き込まれるだけで、漁船は転覆し、船員の命を奪ってしまうことにもなりかねない。集中力の途切れが、操船ミスにつながり、外交問題にも発展する。 極度の精神的重圧の下で、5日間、120時間にわたり、保安官たちは、漁船団のわずかな間を縫って公船に近づき、警告を発し、退去要求を続けながら、漁船の侵入を阻止し、領海外へ退去させました。 培ってきた技能とチーム力で、完遂できると確信を持っていた。 後に、現場指揮の遠山次長が、語った言葉です。 こうした中、漁船団の1隻が、航行中の貨物船と衝突しました。巡視船、航空機がすぐさま現場に向かい、沈みゆく船から投げ出された外国人6名を救助し、行方不明となった8名の捜索に当たりました。 外国漁船が、対峙する警備の対象から救助する対象に変わった瞬間に、現場のメンバーは迷うことなく、全力で乗組員を救助し、行方不明者を捜索したのです。彼らの行動に、現場及び外交ルートで、相手国側から感謝の意が伝えられました。 日本が体現した協力と人道主義精神に、賞賛を表明する。 正義仁愛。海上保安庁創設以来の、このすばらしい理念を、先輩たちは、当たり前のように実践していました。 初代 大久保長官は、犯罪の取締りに必要な正義の信念と厳しい行動、そして、人命救助の象徴である仁愛の情と献身の勇気、こうした行動と心情が調和したところに、海上保安庁の伝統と精神が生まれると、訓(おし)えています。 諸君にも、そのような心構えを常に持って、本庁から現場に至る各層の指揮官として、将来の海上保安庁を担っていただきたいと思います。 今年は明治維新から150年の年に当たります。五箇条の御誓文には、旧来の陋習(ろうしゅう)を破り、天地の公道に基づくべし、すなわち、古くからの悪い習慣をなくして、世界共通の正しい道理である国際法に従うべきこと、が示されています。 明治の時代も、今も、日本の繁栄は海洋と貿易の自由によってもたらされました。ルールに基づく自由で開かれた海を、次の世代へと引き継いでいかなければなりません。 私は、就任以来、争い事が生じた際には、国際法に照らして正しい主張をし、力の行使や威嚇に頼らず、平和的解決を図るべきと、国際社会に訴え続けてきました。しかし、この広い海において、我が国一国だけで、これを成し遂げることはできません。 法の支配が貫徹する公共財として海を保つことに、共通する利益がある。日本がリーダーシップを発揮し、こうした考えを共有し、広めていく必要があります。それを体現するのが正に海上保安庁であります。その白い船体は、事を平和裏に解決する意思を明確に示しています。 指揮官たる諸君には、このような精神でこの海を守り抜き、志を同じくする国々の仲間たちと共に、法の支配にのっとった自由で平和な海を、後世に引き継いでほしい。 諸君は間もなく、現場の最前線に出ることとなります。 我が国の存立基盤たる海の平和の守り人として、人の命を救い、凶悪な犯罪に立ち向かう。海上交通路の安全を守り、領土・領海を守り抜く。海洋権益の確保のための調査や海洋環境の保全も重要な任務です。 任務は常に危険と隣り合わせで、極度の緊張を強いられます。ときには、その重圧に押しつぶされそうになるかもしれません。ぎりぎりの判断を迫られ、身がちぎれそうになることもあるでしょう。 卒業生・修了生諸君。そうした苦難に直面したとき、大学校での鍛錬の日々を、思い出してほしい。 海に頼める日本の、前途を担う我が使命、と、声の限り歌ってきた校歌は、諸君を再び奮い立たすに違いありません。 同時に、広い視野を持ち、国際感覚を涵養し、自ら考え抜き、従来の発想にとらわれることなく柔軟に事に当たっていってほしい。 この場から新しい歴史を作り上げるのは、正に諸君であります。 御家族の皆様。この晴れの日に当たり、心からお祝いを申し上げたいと思います。皆、入学前とは見違えるような、たくましい若き指揮官に成長しました。 皆様の大切なお子様を、平和な海を次世代につなぐ海上保安官として送り出してくださったことに、内閣総理大臣として、心から感謝いたします。お預かりした以上、しっかりと任務が遂行できるよう、万全を期すことをお約束申し上げます。 最後となりましたが、学生の教育に尽力されてこられた平田大学校長を始め教職員の方々に敬意を表するとともに、日頃から海上保安大学校に御理解と御協力を頂いている御来賓の方々に感謝を申し上げ、私の祝辞と致します。 平成30年3月24日 内閣総理大臣 安倍 晋三 (文飾は当方) |
言っていることは至極立派である。スピーチライターの素晴らしい贈り物だろう。だが、「明治維新」云々と「五箇条の御誓文」の下りは天皇主義者である安倍晋三が求めたこの男なりの信条表明であろう。安倍晋三が天皇主義者でなかったら、スピーチライターが現代社会から遥か遠く離れた150年も昔の「明治維新」だ、「五箇条の御誓文」だを書き入れていたとしたら、削除を命じていたに違いないからだ。
要するに「明治維新」とその時代の産物である「五箇条の御誓文」に時代的にも認識的にも近い感覚――親密性を持っているからこそ、自らスピーチに取り入れたことの証左とすることができる。
安倍晋三が天皇主義者であることの証拠は数々あるが、2012年12月26日に発足する第2次安倍政権の前の2012年1月10日発売「文藝春秋」2月号に寄稿した 『民主党に皇室典範改正は任せられない 「女性宮家」創設は皇統断絶のアリの一穴』という題名の中の「皇統断絶」なる言葉と文中の一節からも見て取ることができる。
安倍晋三「私は、皇室の歴史と断絶した『女系天皇』には、明確に反対である」――
「皇室の歴史」とは皇祖神武天皇に発した天皇家の血の歴史を言い、「皇統断絶」とは、そのような天皇家の血と歴史を女系天皇を混じえることによってもたらすことになる男系天皇の断絶を言う。
だから、「『女系天皇』には、明確に反対である」と強く主張する。
そして安倍晋三は7年間の占領期間を終えて日本が主権を回復した日を祝う2012年4月28日の自民党主催「主権回復の日」に寄せたビデオメッセージで、「占領時代に占領軍によって行われたこと、日本はどのように改造されたのか、日本人の精神にどのような影響を及ぼしたのか」との表現で戦前の日本の時代と同じく戦前の日本国家に悪影響を与えた戦後の米軍占領時代を嫌悪・否定、当然の成り行きとして戦前の時代と戦前国家の連続性を願い、「戦後レジームからの脱却」を掲げることになった。
では、戦前の日本の時代と戦前の日本国家の起点をどこに置いているか言うと、2018年の年頭所感は、「新年あけましておめでとうございます。 本年は明治維新から、150年の節目の年です」で始めている。
要するに安倍晋三は日本国家の歴史のスタート地点を神武天皇即位に置き、日本の近代国家のスタート地点を明治維新に置いている。靖国神社参拝で行う「国のために命を捧げた英霊に対して国のリーダーが尊崇の念を表する」戦死者への追悼の形式は「国のために」とすることによって戦前日本国家称揚の儀式となる。
戦前そうしていたように命を捧げる対象として「天皇陛下」を加えて、「天皇陛下のために」と口にしたいはずだが、そうした場合、あまりにも天皇主義者であることを露出させることになるから、腹の中だけにして、口にはすまいとじっと我慢しているに違いない。
かくこのような天皇主義者である安倍晋三が海上保安大学卒業式及び特修科修了者に戦後民主化された日本に於ける2018年の年を「明治維新」から数えて「150年の年」だと言い、1868年(慶応4年)3月14日に明治天皇が天地の神々に誓うという形式で示された明治新政府の基本方針である、その時代の産物「五箇条の御誓文」の精神を吹き込もうとした。
五箇条の御誓文 一,広ク会議ヲ興シ,万機公論ニ決スヘシ。 一,上下心ヲ一ニシテ,盛ニ経綸ヲ行フヘシ。 一,官武一途庶民ニ至ル迄,各其志ヲ遂ケ,人心ヲシテ倦マサラシメン事ヲ要ス。 一,旧来ノ陋習ヲ破リ,天地ノ公道ニ基クヘシ。 一,知識ヲ世界ニ求メ,大ニ皇基ヲ振起スヘシ |
ネット上の幾つかのページから最も理解しやすい現代語訳を引用して、思う解釈を加えることにした。
「万機公論ニ決スヘシ」 「天下の政治は世論に従って決定すべきである」
下からの方向の政治志向性となっている。
「経綸」 「国家の秩序を整え治めること。また、その方策」
上からの方向の政治志向性となっている。
「官武一途庶民ニ至ル迄,各其志ヲ遂ケ,人心ヲシテ倦マサラシメン事ヲ要ス」
上からの統制志向性を成り立たせようとしている。
「旧来ノ陋習ヲ破リ、天地ノ公道ニ基クヘシ」 「古い慣習を脱して、世界の正しい道、おおやけの道理に基づくべき」
道義の掲揚。個人に任せるべき価値判断だが、国家指導の意志が見える。
「皇基」 「天皇が国家を統治する基礎」
「振起」 「奮い起こすこと。盛んにすること」
最後の最後になって、「知識ヲ世界ニ求メ,大ニ皇基ヲ振起スヘシ」との文言で、「知識の限りを尽くした手段・方法を用いて、天皇が国家を統治する基礎を奮い起こそう」と天皇への奉仕を求めている。
これは「教育勅語」と同じ構図を取っている。最初は臣民に「忠義と孝行」、「父母への孝行」、「親密な兄弟関係」、「仲睦まじい夫婦関係」、「信頼性を持った友人関係」を求め、さらに「公共の利益や世間の務めへの尽力」、「憲法と他の法律遵守」への期待、最後の最後になって、「天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スベシ」(永遠に続く皇室の運命を援助するようにしなさい)と天皇への奉仕を求めている。
当然、国家から国民に向けた最も肝要な要求は天皇への奉仕であって、天皇への奉仕を中心思想とした構図という点で、「五箇条の御誓文」も「教育勅語」も何ら変わりはない。
日本国家の歴史のスタート地点を神武天皇即位に置き、日本の近代国家のスタート地点を明治維新に置いている天皇主義者安倍晋三は海上保安大卒業者と特修科修了者に対して民主体制下の日本の2018年を「明治維新から150年の年」と位置づけ、天皇への奉仕を中心思想としている「五箇条の御誓文」に触れることで、海上保安大卒業者と特修科修了者に天皇への奉仕の精神のみならず、自らの天皇主義まで吹き込む欲求を働かせた。