靖国神社の戦死者は大日本帝国国家によって必然として用意されていた「犠牲」であり、それを「尊い犠牲」と形容するインチキ

2021-08-16 10:21:31 | 政治
 今週はブログを休むつもりでいたが、8月15日が近づいて、閣僚の靖国参拝だ、詭弁家の言いくるめ名人加藤勝信の官房長官談話だ、自民党声明だ、安倍晋三の靖国参拝だ、相変わらず戦争美化を内側に置いた終戦記念日恒例の行事を目の当たりにして見過ごすことができず、かと言って、殆どが今まで書いてきたことの繰り返しになって、役にもた立たないのだが、取り敢えずはブログにしてみることにした。

 経済再生相の西村康稔が2021年8月13日午前8時頃、東京九段の靖国神社に参拝した。「NHK NEWS WEB」記事に参拝後記者団に私費で玉串料を納め「衆議院議員 西村康稔」と記帳した旨説明したと出ている。

 西村康稔は戦争を引き起こした、戦没者にとって「祖国」とした大日本帝国国家に対する歴史認識上の思いと記憶を前にして単なる一国会議員として立ち、手を合わせることができただろうか。時の政府の一大臣が追悼の手を合わせているのであって、一般人が手を合わせているのとは格と価値に違いがあるという虚栄心に駆られることはなかっただろうか。思いは一大臣として参拝したのであって、外交配慮上、「衆議院議員 西村康稔」という形式にしたということではなかったろうか。

 西村康稔「祖国を思い、家族を案じつつ犠牲となられた英霊の安寧を心からお祈りした。二度と戦争の惨禍を起こさず、日本が戦後歩んできた平和国家の道をさらに進めることを改めてお誓い申し上げた」

 西村康稔は去年は「終戦の日」の翌日に参拝したと記事は紹介している。

 確かに大日本帝国軍隊兵士は天皇陛下と大日本帝国国家のために身を捧げるべく「祖国を思い、家族を案じつつ犠牲」となった。と言えば、聞こえはいいが、「犠牲」は大日本帝国国家によって必然として用意されていたものだった。決して戦争遂行上の止むを得ない状況下の犠牲というわけではなかった。

 このことはあとで証明する。用意されていたとは気づかずに「祖国を思い、家族を案じつつ犠牲」となるという行為は兵士には知らされていないこととは言え、逆説に満ちることになる。この逆説は国家に騙されてというカラクリを備えていることになる。要するに国家に騙されて、「祖国を思い、家族を案じつつ犠牲」となった。

 当然、そのような犠牲者を「英霊」と最大限に価値づけ、その「霊の安寧を心からお祈りする」参拝者側の精神行為は偽善の装いを纏いつかせていることになる。このことに気づかないのは大日本帝国国家によって引き起こされた戦争を検証も総括もしていない幸運に恵まれているかっらだろう。

 「二度と戦争の惨禍を起こさず、日本が戦後歩んできた平和国家の道をさらに進めることを改めてお誓い申し上げた」と言っているが、大日本帝国国家の「戦争の惨禍」を検証も総括も経ずに「二度と戦争の惨禍を起こさず」と誓うのは戦争開始と敗戦までの様々な事実経緯を表面的な事象として捉えて眺めるだけの「戦争の惨禍」となって、「起こさず」の誓いは言葉で言うだけの形式になりかねない。検証し、総括して、8月15日が巡ってくるたびにその検証と総括を眺め返し、噛み締めつつ「二度と戦争の惨禍を起こさず」とすることこそが誓としての価値を持つことになる。

 大体が検証と総括を経た「二度と戦争の惨禍を起こさず」の誓と経ない誓いとではその質に違いがあるのは論を俟たないはずだ。

 安倍晋三の実弟、防衛相の岸信夫が西村康稔と同じ8月13日に靖国神社を参拝しほたとマスコミが報道していた。西村康稔が玉串料を私費で納め、「衆議院議員 西村康稔」と記帳したように岸信夫も玉串料は私費、「衆院議員 岸信夫」と記帳したというが、大日本帝国国家に対する歴史認識上の思いと記憶を前にして参拝する以上、西村康稔と同様に一国会議員のとしての参拝とするのは外交上の配慮でしかなく、内心では防衛大臣岸信夫として大日本帝国国家と対峙したはずである。

 岸信夫「国民のために戦って命を落とされた方々に対して尊崇の念を表するとともに、哀悼の誠を捧げた。また不戦の誓い、国民の命と平和な暮らしを守り抜くという決意を新たにした」(asahi.com)

 「国民のために戦って命を落とされた」犠牲が大日本帝国国家によって必然として用意されていたもので、いわば騙される形で見舞われたことならら、その戦死者に対して「尊崇の念を表する」ことは滑稽な儀式となる。自分の利益を得るために人をおだてて何かをさせながら、腹の中では「このバカが」と嘲るのとさして違いのない精神の働きを示していることになるが、勿論、岸信夫は戦死者や国民の犠牲が大日本帝国国家によって必然として用意されていたものだとは思っていない。戦死の背景をなした大日本帝国国家を否定はしていないからだ。「不戦の誓い」も、大日本帝国国家の戦争を検証と総括を経たているかいないかによって、意味合いも違ってくる。

 記事は、岸信夫は〈例年、終戦の日である8月15日前後に靖国神社や地元・山口の護国神社を参拝。防衛政務官時代の09年8月や、外務副大臣だった13年10月にも靖国神社を参拝している。〉と解説している。大日本帝国国家の有り様を肯定的な歴史認識の一部としているから、例年の参拝が可能となる。否定していたなら、遺族に引き渡すことができなかった遺骨を安置している国立千鳥ヶ淵戦没者墓苑の参拝で済ませているだろう。

 また、西村康稔の「二度と戦争の惨禍を起こさず、日本が戦後歩んできた平和国家の道をさらに進めることを改めてお誓い申し上げた」にしても、岸信夫の「不戦の誓い、国民の命と平和な暮らしを守り抜くという決意を新たにした」にしても、大日本帝国国家は国民の人権を認めなかった天皇独裁・国家主義国家であって、その戦前国家と戦後の民主国家を断絶して捉えた上での『戦後』でなければならないはずだが、断絶を明示する文言はどこにもなく、戦前との連続性の上に戦後民主国家日本を考えている発想の発言ということになる。

 「終戦記念日にあたって 自民党声明」(自民党/2021年8月15日)
  
本日、76回目の終戦記念日を迎えるにあたり、先の大戦で犠牲となられた人々に対し、衷心より哀悼の誠を捧げます。

私たちが今日享受している平和と繁栄は、あの戦争によって命を落とされた多くの方々の尊い犠牲の上に築かれていることを胸に刻み、二度と戦争の惨禍が繰り返されぬよう、改めて不戦の決意をいたします。

日本は戦後一貫して平和国家としての歩みを続け、歴史と謙虚に向き合い、戦争の悲劇と被爆の実相を語り継いでまいりました。この歩みをこれからも変えることなく、今後も国際社会の先頭に立ち、恒久平和の実現に貢献していくことこそが、わが国の使命であります。

近年、国際情勢は複雑に変化し、日本を取り巻く安全保障環境も厳しさを増しています。
私ども自由民主党は、多くの国や地域との協力関係をさらに深化させ、インド太平洋並びにアジア諸国、そして世界の平和と安定のため、不断の努力を続けていくことが何よりも大切であると考えます。

これからも自由民主党は平和と自由を希求する国民政党として、平和国家日本を次世代に引き継いでいくとともに、世界から一層高い信頼を得られるよう全力を尽くしてまいります。

 〈私たちが今日享受している平和と繁栄は、あの戦争によって命を落とされた多くの方々の尊い犠牲の上に築かれていることを胸に刻み、二度と戦争の惨禍が繰り返されぬよう、改めて不戦の決意をいたします。〉

 今日の「平和と繁栄」が戦死者の「尊い犠牲の上に築かれている」とする慣用句となっている認識は大日本帝国国家及びその戦争を肯定的に捉えていることによって成り立つ。戦略的に勝算を間違えた戦争での戦死を「騙された犠牲」とすることはできても、「尊い犠牲」としたなら、即、戦前の大日本帝国国家を肯定しているか、擁護していることになるからだ。にも関わらず、「二度と戦争の惨禍が繰り返されぬよう」と言っていることは、前者の肯定性に対する後者の否定性となって、相互矛盾することになる。

 では、兵士の「犠牲」が大日本帝国国家によって必然として用意されていたものであったことを説明しよう。

 「総力戦研究所設置ニ関スル件」(国立国会図書館/更新日:2012年12月20日)
  
昭和15年8月16日 閣議決定

近代戦ハ武力戦ノ外思想、政略、経済等ノ各分野ニ亘ル全面的国家総力戦ニシテ第二次欧州大戦ハ本特質ヲ如実ニ展開シ支那事変ノ現段階モ亦カカル様相ヲ呈シツツアリ皇国力有史以来ノ歴史的一大転機ニ際会シ庶政百般ニ亘リ根本的刷新ヲ加ヘ万難ヲ排シテ国防国家体制ヲ確立センカ為ニハ総力戦ニ関スル基本的研究ヲ行フト共ニ之カ実施ノ衝ニ当ルベキ者ノ教育訓練ヲ行フコト必要ニシテ此ノ事タルヤ延テ政戦両略ノ一致並ニ官吏再訓練ニ貢献スルコト少カラスト認メラル依テ左記要領ニヨリ総力戦研究所ヲ設置シ総力戦態勢整備ノ礎石タラシムルコト現下喫緊ノ要務タリ


一、総力戦研究所ハ国家総力戦ニ関スル基本的調査研究ヲ行フト共ニ総力戦実施ノ衝ニ当ルベキ者ノ教育訓練ヲ行フヲ以テ目的トスルコト
二、総力戦研究所ハ内閣総理大臣ノ監督ニ属スルモノトスルコト
三、総力戦研究所ハ所長(陸海軍将官又ハ勅任文官)並ニ所員若干名ヲ以テ構成シ各庁並ニ民間ニ於ケル優秀ナル人材ヲ簡抜スルコト
四、研究員ハ差当リ文武間及民間ヨリ簡抜シタル者若干名ヲ以テ之ニ充テ其ノ教育期間ハ概ネ一年トスルコト
五、研究所ハ至急之ヲ開設シ先ヅ所員ヲ以テ総力戦ニ関スル基本的調査研究ヲ行ヒ昭和十六年度ヨリ研究員ノ教育訓練ヲ実施スルモノト予定スルコト
六、本件ニ関スル経費ニ付テハ適当ナル措置ヲ講スルモノトスルコト

  最初に総力戦研究所設置の目的を麗々しく掲げている。「近代戦はヨーロッパでのドイツ及びその連合国とイギリスやフランスを相手とした欧州戦線は勿論、支那事変も同じ様相を呈しつつあるが、武力戦のほか、思想、政治上の戦略、資源や生産を含めた経済等の各分野全てを駆使した全面的国家総力戦へと戦争の質を変容しつつあるから、我が皇国の有史以来の歴史的一大転機となることから政治全般に亘って根本的刷新を加え、万難を排して国防国家体制を確立するためには総力戦に関する基本的研究を行うと共に総力戦実施の役割を担う者の教育訓練を行うことが必要であり、こういったことは政治と戦争の両略の一致と官吏の再訓練に貢献すること少なくないと認められるゆえに総力戦研究所を設置し、総力戦態勢整備の礎石とすることを現下に於ける喫緊の要務とすると謳っている。

 そして総力戦研究所の具体的役割として、国家総力戦に関する基本的調査研究を行うことと総力戦実施の重要な役割を担うべき者の教育訓練を掲げた。

 要するに昭和15年(1940年)8月16日を起点に近代戦に必要な国家総力戦を可能とする政治と軍事の両体制の確立を目指すことになった。総力戦研究所の実際の設立は昭和15年9月30日付け施行の勅令第648号(総力戦研究所官制)によった。以下、「Wikipedia―総力戦研究所」から。

 総力戦研究所は国家総力戦に関する基本的な調査研究と同時に総力戦体制に向けた教育と訓練を設立目的とし、研究生は各官庁・軍・民間などから選抜された若手エリートたちであると先ずは説明している。

 昭和16年(1941年)12月8日の日米開戦約5カ月前の昭和16年7月12日、飯村総力戦研究所長から研究生に対して日米戦争を想定した、研究生を閣僚とした演習用の青国(日本)模擬内閣実施の第1回総力戦机上演習(シミュレーション)計画が発表された。

 東條英機が1941年(昭和16年)10月18日に首相就任する3カ月前で、当時は陸軍大臣の地位にあった。

 〈模擬内閣閣僚となった研究生たちは1941年7月から8月にかけて研究所側から出される想定情況と課題に応じて軍事・外交・経済の各局面での具体的な事項(兵器増産の見通しや食糧・燃料の自給度や運送経路、同盟国との連携など)について各種データを基に分析し、日米戦争の展開を研究予測した。

 その結果は、「開戦後、緒戦の勝利は見込まれるが、その後の推移は長期戦必至であり、その負担に青国(日本)の国力は耐えられない。戦争終末期にはソ連の参戦もあり、敗北は避けられない。ゆえに戦争は不可能」という「日本必敗」の結論を導き出した。

 これは現実の日米戦争における(真珠湾攻撃と原爆投下以外の)戦局推移とほぼ合致するものであった。

 この机上演習の研究結果と講評は8月27・28日両日に首相官邸で開催された『第一回総力戦机上演習総合研究会』において当時の近衛文麿首相や東條英機陸相以下、政府・統帥部関係者の前で報告された。

 研究会の最後に東條陸相は、参列者の意見として以下のように述べたという。

 東條英機「諸君の研究の労を多とするが、これはあくまでも机上の演習でありまして、実際の戦争といふものは、君達が考へているやうな物では無いのであります。

 日露戦争で、わが大日本帝國は勝てるとは思はなかつた。然し勝ったのであります。あの当時も列強による三国干渉で、止むに止まれず帝国は立ち上がつたのでありまして、勝てる戦争だからと思ってやったのではなかった。

 戦といふものは、計画通りにいかない。意外裡な事が勝利に繋がっていく。したがって、諸君の考へている事は机上の空論とまでは言はないとしても、あくまでも、その意外裡の要素といふものをば、考慮したものではないのであります。なほ、この机上演習の経緯を、諸君は軽はずみに口外してはならぬということであります」〉――

 先ず第一に陸軍大臣東條英機は1904年(明治37年)2月8日から1905年( 明治38年)9月5日までの日露戦争を戦った時代と近代戦は国家総力戦であるとしている1940年代後半の時代の戦争の質の違いを無視している。日本も日露戦争の時代から資源や生産力や経済力をバックとした技術の進歩を果たしていて、当時の日本に至っているのだろうが、アメリカの技術にしても日本とは桁違いの資源や生産力や経済力をバックとした技術の進歩を果たしていて、国家総力戦にそれぞれ影響するであろう、その両者の進歩の違いを見極める合理的な目を持っていなかった。陸軍大臣でありながら、この無能は如何と見し難い。

 また技術の進歩や自国資源の違いなどによって生じる、国民総生産は約1千億ドルと日本の10倍以上、総合的国力は約20倍の格差があったと言われていた米国の国家総力戦に注入可能な総合力を総力戦研究所の研究生によって構成された模擬内閣閣僚は当然のこと計算に入れ、机上演習(シミュレーション)した結果の「日本必敗」であり、〈現実の日米戦争における(真珠湾攻撃と原爆投下以外の)戦局推移とほぼ合致する〉精緻な実験結果だったが、陸軍大臣の東條英機は勿論、研究報告の場に列席していた近衛文麿首相やその他当時の閣僚、統帥部関係者は理解するだけの洞察力を持つことができなかったことになる。

 また東條英機は現役の軍人であり、陸軍大臣でありながら、国力や軍事力、戦術等の日米の総合力の差を計算に入れた戦略(=長期的・全体的展望に立った目的行為の準備・計画・運用の方法)を武器とするのではなく、それらを無視して、最初から「意外裡」(=計算外の要素=戦略外の偶然)に頼って、頼ること自体が精神主義に侵されていたことになるのだが、それを武器にして巨大国家アメリカに戦争を挑もうというのだから、合理性もへったくれもなかったことになる。

 最悪なのは「この机上演習の経緯を、諸君は軽はずみに口外してはならぬということであります」と、マル秘扱いの情報隠蔽を謀ったことである。大日本帝国国家のプライドとして当然のことと言えば、当然のことだが、最初から頭にあったのは「意外裡」(=計算外の要素=戦略外の偶然)以外になかったから、「日本必敗」を「日本必勝」に変える起死回生の戦略を生み出す努力もせず、生み出せるはずもなかったが、努力していたなら、東條英機自身が「日本必敗」を悟らざるを得なくなって、外交に戦術転換を図ったかも知れないのだが、「意外裡」に頼る精神主義を武器に東條英機は首相として日米開戦を
決定。日本時間昭和16年12月8日未明にハワイ真珠湾の米海軍基地を攻撃、大日本帝国国家自らが総力戦研究所の模擬内閣によって日米の国力と軍事力に関わる各種データを基に日米戦争の展開を研究予測した答が「日本必敗」とされた日米開戦の火蓋を切った。そして同日午後7時過ぎ東條英機はラジオ放送を通じて日本国民に宣戦の詔勅が渙発されたことを伝えた。

 かくして大日本帝国軍兵士は「日本必敗」を知らされずに巨大な経済国家・巨大な軍事国家アメリカとの戦争を「天皇陛下のため・お国のため」と戦わされ、多くが犠牲となった。日中・対米戦争で犠牲となった軍人・軍属・准軍属戦死者は230万人と言われていて、「犠牲者」の約6割は兵站(戦闘部隊の後方にあって、人員・兵器・食糧などの前送・補給にあたり、また、後方連絡線の確保にあたる活動機能。「goo国語辞書」)軽視による餓死だと言われている。この兵站軽視も、近代戦は全面的国家総力戦だと定義づけながら、定義づけどおりの戦略を展開する創造性も、裏付けとなる戦争遂行資源も欠如させていた証明としかならない。

 国力と軍事力の大差によって「日本必敗」とシミュレーションされた日米戦争を「意外裡」の精神主義で戦わされた「犠牲」なのだから、大日本帝国国家によって必然として用意されていた犠牲そのものであった。標高が高く、険しい山に登山の装備をせずに普段着で登頂を命令されて、命を落とすことになり、それを「尊い犠牲」とすることとたいした差はない。

 そのような「犠牲」を戦前の大日本帝国を戦後の民主国家日本と絶縁できない、安倍晋三を筆頭とする保守派の政治家・日本人は「尊い犠牲」と形容する。
インチキそのものである。

 では、詭弁家の言いくるめ名人加藤勝信の官房長官談話を見てみる。

 「内閣官房長官談話」(首相官邸/2021年8月14日)
  
 明日8月15日は、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」であります。

 政府は、日本武道館において、天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、遺族代表及び各界代表の参列の下に、先の大戦における300万余の戦没者のため、全国戦没者追悼式を挙行いたします。

 この式典を政府が主催する趣旨は、今日の我が国の平和と繁栄の陰に、先の大戦において祖国を思い、家族を案じつつ、戦禍に倒れた戦没者の方々の尊い犠牲があったことに思いを致し、全国民が深く追悼の誠を捧(ささ)げるとともに、恒久平和の確立への誓いを新たにしようとするものであります。

 明日の正午には、国民一人ひとりが、その家庭、職場等、それぞれの場所において、この式典に合わせて、戦没者をしのび、心から黙とうを捧げられるよう切望いたします。

 「今日の我が国の平和と繁栄の陰に、先の大戦において祖国を思い、家族を案じつつ、戦禍に倒れた戦没者の方々の尊い犠牲があった」

 確かに無事帰還できた兵士にしても、「祖国を思い、家族を案じつつ」戦争に臨んだはずだ。だが、大日本帝国国家によって「日本必敗」という冷徹な悪条件下で戦争に駆り出されて、犠牲となるべく犠牲となった軍関係の戦死であり、民間人の戦没である以上、大日本帝国国家によって必然として用意されていた「犠牲」という関係を取って初めて、「日本必敗」無視との整合性が取れる。

 そして加藤勝信にしても、「尊い犠牲」だと言う。ここには大日本帝国国家によって必然として用意されていた「犠牲」であることを隠し、美化するインチキがある。この美化のためのインチキには「日本必敗」を無視して、勝つための戦略を用意もせずに勝てない戦争を初めた大日本帝国国家の失態を擁護する作用が自ずと働くことになる。だからこそ、自民党の多くの政治家がそうだが、戦前の大日本帝国を戦後の民主国家日本と絶縁できないで、連続させた視野で捉えることになっている。

 その代表的な人物安倍晋三の2021年8月15日靖国参拝時の記者団に対する発言を「NHK NEWS WEB」記事から見てみる。

 安倍晋三「終戦の日にあたり、先の大戦において、愛する人を残し、祖国の行く末を案じながら散華されたご英霊に尊崇の念を表し、み霊、安かれと祈った」

 靖国神社の大日本帝国軍隊戦死者をこの上なく素晴らしい美辞麗句で飾っている。「愛する人を残し、祖国の行く末を案じながら散華された」。「散華」とは花と散るという意味を取る。例え兵士本人が自らの戦死の際に「花と散る」と美化したとしても、当時の大日本帝国国家上層部が「日本必敗」のシミュレーションに用いられた国力と軍事力の日米大差の悪条件を無視して突っ走った戦争であって、必然として用意されていた「犠牲」という性格を帯びることになるにも関わらずにこのように戦死者を美辞麗句で飾ることができる。

 「散華」した兵士が事実存在したとしても、現実には敵の攻撃に逃げ惑って殺されることになったり、ジャングルに迷い込んで、飢えで死んだり、爆弾投下や艦砲射撃で吹き飛んだりの「散華」とは無縁の多くが「犠牲」であり、本人にとって残すのは色のない世界である。だが、安倍晋三は大日本帝国国家によって必然として用意されることになった「犠牲」を「散華」と美しく形容する。このインチキは特上である。

 このような兵士の「犠牲」に対する美しい形容は直接的にも、間接的にも大日本帝国国家の戦争を擁護する働きを担う。確かに戦争で「犠牲」となった兵士の「祖国」は当時の大日本帝国国家ではあるが、当然、その「祖国の行く末を案じた」であろうが、戦後の民主国家に生きる日本人が「犠牲」となった兵士の気持ちを代弁して「祖国の行く末を案じながら」と言うとき、戦前の大日本帝国国家擁護の、あるいは大日本帝国国家肯定の意思が顔を覗かせることになる。

 もし多くの兵士の「犠牲」が大日本帝国国家によって必然として用意されていた出来事だと歴史認識することができていたなら、「国は勝利は困難だと一旦はシミュレーションされた戦争を無理矢理始めて、無理矢理戦争に臨むことになった多くの兵士の『犠牲』を生み出した。兵士はそのことを知らずに祖国の行く末を案じながら息を引き取っていった。とんでもない国家だった」と大日本帝国国家を否定的に見るだろうし、兵士に対しては憐れみの気持ちを持つことになるだろう。

 安倍晋三はこの真逆である。立ち位置を戦後の民主国家日本に置きながら、「むしろ皇室の存在は日本の伝統と文化、そのものなんですよ。まあ、これは壮大な、ま、つづれ織、タペストリーだとするとですね、真ん中の糸は皇室だと思うんですね。この糸が抜かれてしまったら、日本という国はバラバラになる」(2012年9月2日日テレ放送の「たかじんのそこまで言って委員会」)の発言に見て取れる戦前の大日本帝国国家の精神性を引き継いでいることからの大日本帝国国家擁護であり、擁護の一環としての靖国神社参拝であり、戦死者追悼にほかならない。

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菅義偉は五輪開催擁護のために「デルタ株」の感染力に対する危機感を失念させ、開催が感染爆発の原因となった

2021-08-09 10:46:04 | 政治

【お断り】
 2019年4月以前は月にかなりの回数のブログを投稿していたが、当時は殆ど1日で仕上げていた。それ以降、1つのブログの仕上げに2日かかり、ときには3日かかるようになり、1週間に1度の投稿ペースとなったが、80歳の残り少ない人生となって、読者数も少なく、ただ書いては投稿する繰り返しに徒労感が募り、時間が勿体なくなり、今後、1カ月に1回か2回にペースを落とすことにした。投稿数が増えても減っても、殆ど変わらない注目度だから、断りを入れる程のことはないのだが、一応知らせることにした。「Twitter」は、これも大して中身のあるものではないが、気が向けば日々投稿しているから、よろしくお願いします。

 最初に今回のブログのテーマに関係ないが、2021年8月6日開催の広島市平和記念式典で菅義偉が挨拶を読み上げる際、一部分を読み飛ばした件について。2021年8月6日付「毎日新聞」記事によると、複数枚の原稿を糊で1枚につなぎ合わせて蛇腹折りにしたもので、糊が一部はみ出して紙同士がくっつき、首相が開く際に剥がれなかったためにその箇所を読み上げられなかったとみられると伝えている。要するに原稿を何枚か繋いで折り畳んであるから、目を通す箇所を順に開いていく形式になっていたものが、一部分糊でくっついていて、そこが綴てある具合になっていて開くことができず、次に開くことができた箇所を続きだと思って、そのまま読み続けた結果、一部分を読み飛ばしてしまった。

 「共同通信」記事によると、政府関係者の話として「完全に事務方のミスだ」と伝えているが、意図しないミスであったとは限らない。政権に不都合な情報を官僚がマスコミや野党側にリークして大問題になることが間々ある。意図したミスだとしたら、菅義偉に失点を与える、あるいは菅義偉の足を引っ張る目的からそうした可能性が浮上する。そういうことをして、身内の中で喜ぶ誰かがいる。色々と考えられるが、魑魅魍魎が跋扈する永田町である、意図したミスである方が断然と面白い。

 糊がくっついていて一部開くことができなかったが事実だとしたら、菅義偉は前以って目を通していなかったことになる。いくら官僚に書かせたとしても、官房長官等と図って、このような文章にしてくれと官僚に指示した箇所もあるはずだし、内容そのものが広島原爆投下の犠牲者を悼むと同時に平和への誓いを平和記念式典参列者のみならず日本国民に向けて発信する厳粛なメッセージとなり得るものだから、普通だったら、思いを噛み締め、伝えるために一度は目を通すはずだ。だが、目を通さなかったために糊がくっついた状態のまま平和記念式典の場に持ち込んでしまった。要するに平和記念式典という厳粛な空間で事務的なひと仕事を消化したに過ぎなかったといったところなのだろう。読み飛ばしても、意味が繋がっていないことに気づきさえしなかったのだから。

 2021年6月9日に厚生労働省がインドで広がる変異ウイルス「デルタ株」が6月1日~6月7日の1週間に8都県から合わせて34人の感染が確認されたと報告があったと発表したこと、7月中旬には国内で確認される新型コロナウイルスの半数以上を「デルタ株」が占めると予想する専門家がいたし、京都大学の西浦博教授が2021年6月9日開催の厚生労働省専門家会議でインドで確認された新型コロナウイルスの変異ウイルスについて国内での感染力は従来のウイルスの1.78倍になっている恐れがあるという分析結果を示したことなどを複数の「NHK NEWS WEB」記事が伝えていた。

 2021年5月31日~6月6日までの1週間に東京都の研究機関が行ったスクリーニング検査でインドで確認された変異ウイルス「デルタ株」が3割あまりにのぼり、これまでで最多となったと「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。

 2021年6月10日付の「NHK NEWS WEB」記事はイギリス政府2021年5月22日提出報告によると、「デルタ株」に対するウイルスの働きを抑える中和抗体の量はファイザー・ワクチン88%、アストラゼネカ・ワクチン60%で「2回の接種で十分な効果が得られる」と伝えている。

 つまり、2021年6月10日の時点で両ワクチン共に「デルタ株」に関しては1回接種のみでは的確な有効性は期待できないと言うことを知らしめたことになる。このことはイギリスがワクチン接種が進んだことから様々な制限を解いて社会経済活動を活発化させたが、2021年5月末から「デルタ株」による新規感染者が増加、6月30日には25606人の新規感染者、7日間平均が19005人にまで達したために2回目の接種を急いだという事情が証明することになる。

 と言うことは、「デルタ株」を向こうにしてワクチン1回接種の進み具合のみで感染状況の増減についてあれこれとは評価できないことになる。

 こういった情報は菅政権は把握し、専門家に検証を指示しなければならない。

 2021年6月16日付「NHK NEWS WEB」記事が厚生労働省が2021年6月14日時点の自治体報告集計で「デルタ株」感染者は全国合計117人、1週間(8日~14日)で30人増と発表したと伝えている。勿論、感染者数自体が多いからだろう、東京都が最多の30人、神奈川県が17人、千葉県が16人等と首都圏が上位を占めている。但し感染者全てのウイルスの型を調べているわけではない。感染者の幾例かのウイルスを抽出・検査して人数を割り出す。陽性率は検査実施件数に占める「デルタ株」保有者の割合で示す。実際の感染者数はもっと多いかもしれない。感染力が従来のウイルスの1.78倍(菅義偉は1.5倍としている)ということなら、危機管理として計算よりも多い感染者数と見るだけの危機感を有して対処すべきだろう。

 菅義偉は東京都に関して言うと、発令していた緊急事態宣言を6月20日に解除、7月11日までまん延防止等重点措置に移行することを伝えた2021年6月17日の記者会見で、「全国の感染者数は、5月中旬以降、減少が続いています。殆どの都道府県において新規感染者数はステージ4を下回っています。全国の重症者数も減少が続き、病床の状況も確実に改善されてきております。しかしながら、地域によっては感染者数に下げ止まりが見られるほか、変異株により感染の拡大が従来よりも速いスピードで進む可能性が指摘されております」と発言、現状の感染者数減少に主に目を向け、「デルタ株」については感染力の強さが指摘されている程度で済ませていて、さして警戒感を示していない。

 対して政府分科会会長の尾身茂は同じ記者会見で「人流の増加というのはもうこの直近5週間ずっと続いているのですよね」と前置きして、「例のデルタ株という変異株の影響。こういうことを考えますと、下げる要因、感染の拡大を下げる要因というのはワクチンというのがある。しかし、上げる要因というのはかなりあるのですね」と、人流の増加と、人流の増加に応じたデルタ株による感染拡大を警戒している。

 菅義偉は2021年7月8日の記者会見では次のように発言している。

 菅義偉「こうした中でも、残念ながら首都圏においては感染者の数は明らかな増加に転じています。その要因の1つが、人流の高止まりに加えて、新たな変異株であるデルタ株の影響であり、アルファ株の1.5倍の感染力があるとも指摘されています。デルタ株が急速に拡大することが懸念されます。

 一方で、感染状況には従来とは異なる、明らかな変化が見られています。東京では、重症化リスクが高いとされる高齢者のワクチン接種が70パーセントに達する中、一時は20パーセントを超えていた感染者に占める高齢者の割合は、5パーセント程度までに低下しています。それに伴い、重症者用の病床利用率も30パーセント台で推移するなど、新規感染者数が増加する中にあっても、重症者の数や病床の利用率は低い水準にとどまっております」

 首都圏の感染拡大は人流の高止まりと「デルタ株」の影響だとしている一方で、「デルタ株」の影響はその程度にとどめ、高齢者に対するワクチン接種が進んで、高齢者の新規感染者が減っただの、あるいは重傷化率が減少、医療現場に余裕が出てきたといった趣旨のことを言って、感染状況の好ましい変化を基にワクチン接種の効果に重きを置いた発言となっている。

 いわば高齢者のみならず他の世代へのワクチン接種の進捗が「デルタ株」を含めてコロナ感染の解決策となるというメッセージとなっている。このことは菅義偉が常々口にしている「ワクチン接種というのは、正に感染症対策の切り札です」としているメッセージと対応することになる。

 菅義偉はこのメッセージを殆ど固定観念としているが、固定観念としているからこそ、このメッセージにはイギリス政府の「デルタ株」の感染力に対してはワクチンは1回接種のみでは的確な有効性は期待できないとする危機感を受けつける余地を持たせていない。要するに「デルタ株」がいくら感染を広げても、ワクチン接種がその感染をいつかは収束させるという文脈の発言しか窺うことができす、「デルタ株」に対するどのような危機感も窺うことはできない。

 「デルタ株」に対する危機感のなさは、前にブログに取り上げたが、同じ記者会見(2021年7月8日)での次の発言が証明することになる。

 菅義偉「全国の津々浦々でワクチン接種の加速化が進んでいます。自治体や医療などの関係者の御尽力により、今や世界でも最も速いスピードで接種が行われていると言われています。1週間の接種回数は900万回を超えています。本格的な接種が始まってから2か月余りで累計の回数は5,400万回を超え、既に高齢者の72パーセント、全国民の27パーセントが1回の接種を終えています。

 先行してワクチン接種が進められた国々では、ワクチンを1回接種した方の割合が人口の4割に達した辺りから感染者の減少傾向が明確になったとの指摘もあります。今のペースで進めば、今月末には、希望する高齢者の2回の接種は完了し、1度でも接種した人の数は全国民の4割に達する見通しであります」

 世界最速と言われている日本のワクチン接種速度を誇り、1回目の接種は本格的な接種開始以降約2カ月で累計の接種回数5400万回超、高齢者72パーセント、全国民の27パーセント終了したとその実績を誇っている点は如何にワクチンの力に比重を置いているかのメッセージとなっていて、「ワクチン接種というのは、正に感染症対策の切り札です」の信念が言わせている文言となっている。「デルタ株」を感染拡大の要因以外に見ていないから、「デルタ株」に対する危機感の影すら、当然、見えてこない。

 後段の「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」のメッセージは、勿論、イギリス政府の対「デルタ株感染力ワクチン1回接種=非的確な有効性」のメッセージとは相反しているが、どちらが正しいか、2021年8月6日付「NHK NEWS WEB」記事から見てみる。2021年8月6日政府発表の最新のワクチン接種状況について1回目接種者5809万5553人、全人口の45.7%。2回目接種者は4155万5539人、全人口の32.7%。高齢者1回目接種者3096万4771人、高齢者全体の87.3%、2回目接種者2839万5544人、高齢者全体の80.0%となっていると伝えている。この全人口にはワクチン接種対象外年齢の子どもを含んでいると解説しているが、集団免疫が全人口の何割の接種とするという基準に従っているからなのはご承知のことと思う。7割という学者もいれば、6割で十分という学者もいる。菅義偉のメッセージは「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」だから、集団免疫に向かう「4割」と見ることもできる。

 菅義偉は7月末までに希望する高齢者全員に接種を完了すると常々約束していたが、自治体の中には住民の接種履歴を入力、国が管理するVRS(ワクチン接種記録システム)に後日纏めて入力するケースも存在とするから、上記「NHK NEWS WEB」記事も、〈実際はこれ以上に接種が進んでいる可能性があり、今後増加することがあります。〉と断っているが、少々の数字の違いが出るかもしれないものの、大した数字の違いではないはずで、1回目接種完了の高齢者87.3%を接種を希望した割合と看做すと、1回目接種のみで2回目はやめた高齢者がいたとしても、2回目接種完了者が85~6%近辺にまで近づいていなければ、希望する高齢者全員への接種完了とは言えなくなる。

 なぜなら、65歳以上高齢者に対するワクチン接種対象者数は3600万人。うち3000万人が接種を受けたと仮定しても、その1%は30万人。2回目と1回目の差、7%は210万人に当たると推定できる。210万人もの高齢者が1回目は接種を受けて、2回目は受けなかったと仮定することは難しい。要するに菅義偉の約束どおりには7月末までに希望する全員が接種を終えていなかったと見るのが妥当であろう。

 菅義偉の「先行してワクチン接種が進められた国々では」云々の「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」のメッセージはさも日本にも当てはまるかのように自らのワクチン接種の進捗度を、「今や世界でも最も速いスピードで接種が行われていると言われています」との言葉を使って誇っているが、上記「NHK NEWS WEB」が2021年8月6日の政府発表として伝えているように1回目接種者全人口の45.7%に達していて、菅義偉が言う「人口の4割」を超えているが、「感染者の減少傾向」どころか、全国的に感染者が増加、特に東京都に至っては7月半ば前後から新規感染者は千人を超え、7月末になると、2千人を超え、3千人を超え、2021年7月31日には4058人の新規感染者となっている。「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」どころか、「1回接種人口比4割=感染者の拡大傾向開始」となっている。

 大体が菅義偉の「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」のメッセージは、「では、全員が全員、ワクチンを接種しなくてもいいじゃないか」と誤って伝わる可能性は否定できない。

 菅義偉がなぜこういう見込み違いを招いたかと言うと、「デルタ株」の感染力の強さを言いながら、危機感を強く持てずに楽観的態度に終始していたからである。菅義偉が言う「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」のネタ元は2021年7月17日付「asahi.com」記事が紹介していて、野村総研の「リポート」を読めば、菅義偉が「デルタ株」を如何に軽く見ているかが理解できる。菅義偉は2021年7月3日に首相公邸で梅屋真一郎・野村総研制度戦略研究室長と面会し、リポートの内容についての説明を受けたと、「asahi.com」は解説している。

 リポートは、〈日本でも感染拡大が懸念されるインド変異株については、特に1回のワクチン接種時での有効性が低下するという指摘もあり、今回の試算の目安となる状況が担保されるには、特にワクチンの2回接種が相応の比率に進捗するまで、変異株のまん延を回避することが重要になってくる。〉を警戒点として挙げている。要するに変異株のまん延を回避しながら、2回目接種を一定程度の割合にまで進めていかなければならないという条件をつけた「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」だった。言い直すと、「1回接種人口比4割」と並行させて「デルタ株」の蔓延を回避しつつ2回目接種を相応程度に進めて初めて成立する「1回接種人口比4割」ということだった。

 だが、菅義偉は7月3日に首相官邸で野村総研側から説明を受けていながら、たった5日後の7月8日の記者会見でこの「デルタ株」(=インド変異株)についての警戒点も、2回目接種のそれ相応の進捗度の必要性も一切省いて、「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」のメッセージを発信した。「デルタ株」に対する危機感を持つことができず、危機感とは逆の楽観的態度でいたからである。多分、何て言ったって、ワクチン接種が感染症対策の切り札だとするメッセージを常々発信しているのだから、ワクチン接種が全てを解決してくれると思い込んでいたのだろう。

 以下「NHK NEWS WEB」記事から拾い出してみると、この7月8日の記者会見の2日前の7月6日の東京都の新規感染者は593人。 前週火曜より117人の増加。「デルタ株」感染者は最多の94人。7月7日の東京都新規感染者は920人。「デルタ株」は71人と減っているが、記者会見と同じ日の7月8日の新規感染者は19日連続前週を上回る896人。「デルタ株」は最多の98人。翌7月9日は822人の感染、「デルタ株」は過去最多の167人。

 ネット記事によると、2021年7月8日の日本のワクチン1回目接種者は人口比30.7%。2回目接種者人口比18.1%というワクチン接種が遅れている状況の中で「デルタ株」の感染者は確実に増えていた。野村総研のリポートが伝えている「デルタ株」に対する警戒だけではなく、2021年6月10日付の「NHK NEWS WEB」記事が「デルタ株」に関しては1回接種のみでは的確な有効性は期待できないとするメッセージをもたらしている以上、どのようなメッセージも把握・検証して感染対策に活用しなければならないはずだが、ワクチン接種こそが感染収束の切り札であるとワクチンのみを信奉、「デルタ株」に対する危機感を持つことができず、警戒を怠った。

 「東京都の変異株スクリーニング検査の実施状況」を見てみる。「デルタ株」の感染状況は

 「L452R」がデルタ変異株を指す。

 7月26日~8月1日は「デルタ株」の陽性例は減少しているが、変異株PCR検査が前の週の5688件に対して3557件と約63%しか行われていない。数字に基づいて計算すると、2779÷3557×100=77.7%となって、「デルタ株」の陽性率は一貫して増加していることになる。明らかに「デルタ株」の感染力の強さによって感染が拡大している状況が見えてくる。だが、その一方で感染は人流の増減に深く関わっている。例えば極端な例であるが、人流ゼロのところに「デルタ株」感染者が1人現れたとしても、他に感染させることはできない。それなりの人流、あるいはそれなりの人出が感染条件として必要となる。

 菅義偉は最初に触れているが、2021年8月6日の広島市平和記念式典出席したあと、記者会見を行った。記者が感染者数の増加とオリンピック開催の関係を質問したのに対して「東京の繁華街の人流はオリンピック開幕前と比べて増えておらず、オリンピックが感染拡大につながっているという考え方はしていない」と述べたと2021年8月6日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。つまり一方の感染条件となる人流は感染爆発前と比べて増えていないと述べている以上、「デルタ株」の感染力だけで特に東京都の感染が爆発的に増加しているという説明となる。

 首相官邸のエントランスホールで行われた2021年7月29日の緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の取扱い等についての会見でも、記者の東京オリンピック開催により警戒心が緩んでいるのではないのかとの記者の指摘に対して、「色々な人が色々な御意見を言っていることは承知してます。ただ、このオリンピック大会を契機に、目指して、例えば自動車の規制だとか、あるいはテレワークだとか、こうしたことを行っていることによって、7月の中旬から始めていますけれども、人流は減少傾向にあり、更に人流の減少傾向を加速させるために、このオリンピックというのは、皆さん御自宅で観戦していただいて、御協力いただければと思っています」発言、オリンピック開催が人流の増加を招いているわけではなく、間接的にオリンピックが現状の感染爆発を招いているわけではないと否定している。

 7月30日の記者会見でも、「オリンピックが始まっても、交通規制やテレワーク、さらには皆さんの御協力によって東京の歓楽街の人流は減少傾向にあります。更に人流を減らすことができるよう、今後も御自宅でテレビなどを通じて声援を送っていただくことをお願いいたします」云々とオリンピック開催は人流の増加を招いていないを錦の御旗とした紋切り型の説明を繰り返し、オリンピックが感染拡大の原因ではないと否定している。

 このようなメッセージには2つの問題点がる。1つは「東京の繁華街の人流はオリンピック開幕前と比べて増えていないなら、少しぐらい外に出ても大丈夫じゃないか」という誤った伝わり方をしなかったという問題点である。

 2021年8月7日付「NHK NEWS WEB」記事はIT関連企業の「Agoop」の情報に基づいて2021年8月6日の東京の人出を2つの期間と比較して伝えている。(東京都のみの人出を抽出)

 分析時間は日中が午前6時~午後6時までの12時間。夜間が午後6時~翌日の午前0時までの6時間。

🔴 2021年7月23日のオリンピックの開幕前に当たる3回目緊急事態宣言発出中期間(2021年4月25日~6月20日)の平日の平均と8月6日の東京の人出を比較

▽渋谷スクランブル交差点付近は日中+10%、夜間+2%  
▽東京駅付近が日中+4%、夜間+13%

🔴4回目緊急事態宣言が8月31日まで延長することが決まった(7月30日)から1週間前(7月24日~7月30日?)と8月6日の東京の人出を比較

▽渋谷スクランブル交差点付近は日中-2%、夜間-1%
▽東京駅付近が日中-2%、夜間+4%

 この傾向はほかの記事も同様に伝えている。3回目緊急事態宣言を受けた人出の減少幅程には4回目緊急事態宣言では減っていないこと。反対に五輪会場付近では場所や種目によって20~30%増加していること。要するに五輪会場付近を除いたとしても、人流は減少しているものの、3回目緊急事態宣言時程には人流の減少は見られなかったということになる。

 これが菅義偉の「東京の歓楽街の人流は減少傾向にあります」の実態であり、菅義偉がこのメッセージを繰り返すたびにこのメッセージが「では、少しぐらい外に出ても大丈夫じゃないか」という誤った伝わり方をした可能性は否定できない。

 もう1つの問題点は2021年7月8日の記者会見で菅義偉が「デルタ株はアルファ株の1.5倍の感染力がある」というメッセージを発信している以上、
「デルタ株の1.5倍の感染力」と菅義偉が言う人流の減少が釣り合っているかどうかである。感染力が強ければ強い程、人流はその感染力に比例させる形で減少させなければならない。この釣り合いも考えずに「人流は減少傾向にある」を繰り返すだけでは「デルタ株」に対する警戒感も危機感もないと批判されても、その批判に妥当性を与えなければならない。

 2021年8月1日付「NHK NEWS WEB」記事が「デルタ株」について「水ぼうそう」と同じ程度の感染力の可能性があるとする内部資料をアメリカのCDC(疾病対策センター)が纏めていたと伝えている。

 従来のウイルスの感染力が1人から平均1.5人から3.5人程度に対して「デルタ株」の感染力は平均5人から9.5人程度の可能性を推定、この感染力は1人の患者から平均8.5人程度となっている水ぼうそうの感染力と「同程度」である可能性があるとしているとしている。

 記事は、〈デルタ株に感染すると、重症化したり死亡したりするリスクが高くなるとする各国の研究結果や、ワクチン接種を終えた人でも接種をしていない人と同じように感染を広げる可能性を示す研究結果が示され、「戦いの局面は変わった。ワクチンの効果は高いが、接種した人にも追加の対策を呼びかけるべきだ」と結論づけています。〉と付け加えている。

 従来のウイルスの感染力の平均が2.5人程度、「デルタ株」の感染力の平均が7人程度。水疱瘡の感染力は平均8.5人程度。「デルタ株」の感染力の強さが従来の株よりも水疱瘡に近い感染力の強さを持っていると予測される以上、「デルタ株」の感染力に対しては水疱瘡に対するのと近い危機管理を働かさなければならない。当然、人流も感染力の強さに応じて減少しなければならない。

 従来の人流を1と看做して、従来株の感染力を1と仮定すると、デルタ株の感染力を菅義偉のメッセージどおりに1.5倍とすると、どの程度の人流の抑制が必要なのか計算すると、従来株の感染力=1、従来株の感染力に必要な人流の抑制=1、デルタ株の感染力=1.5倍、デルタ株の感染力1.5倍に必要な人流の抑制=xと仮定する。答は反比例式で出るから、1(従来株の感染力に必要な人流の抑制):x(デルタ株の感染力1.5倍に必要な人流の抑制)=1.5(デルタ株の感染力):1(従来株の感染力)

 1.5x=1  x≒0.67×100=67%。従来株の感染力に必要な人流の抑制を1とすると、その1に対して感染力1.5倍のデルタ株に対する人流の抑制は67%としなければならない。従来の人流を5分の3程度以上に減らさなければならないから、相当な人流の抑制を図らなければ、デルタ株に対抗できない。感染力1.5倍のデルタ株に対して3回目緊急事態宣言よりも数パーセント減ったとか、横ばいだといった状況では人流の抑制のうちに入らないということになる。そしてこのことは東京都を筆頭とする全国の感染拡大が証明することになる。

 要は「デルタ株」の感染の広がりを見据え、十分な危機感を持って、五輪開催に備えた人流の十分過ぎる抑制を図る対策を打たなかった。バブルと称して、オリンピックの内側だけの対策で十分だと勘違いした。当然、五輪開催が現在の感染爆発の原因となる。

 菅義偉は自身がメッセージとして垂れ流している「人流は減少している」が「デルタ株の1.5倍の感染力」に釣り合っている「人流の減少」かどうかを考えもせずにもう一つのメッセージである「オリンピックが感染拡大につながっているという考え方はしていない」を垂れ流しているのだから、その不合理性から言って、そのメッセージは五輪開催擁護の役目しか果たさない。

 五輪開催が人々の高揚感を刺激し、デルタ株の感染力に釣り合う人流の抑制を阻害した。
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菅義偉の責任回避を目的とした自己正当化発言とそのために自分に都合よくツマミ食いした情報の発信

2021-08-02 11:18:52 | 政治
 2021年7月12日の当「ブログ」に、〈菅義偉は2021年7月8日の記者会見で、「ワクチンを1回接種した方の割合が人口の4割に達した辺りから感染者の減少傾向が明確になったとの指摘もあります。今のペースで進めば、今月末には、希望する高齢者の2回の接種は完了し、1度でも接種した人の数は全国民の4割に達する見通しであります」と発言している。2021年5月28日の記者会見では「イギリスでは1回目を5割打ったら大体ものすごい効果が出たということで、今、マスクなしにしていますけれども」云々と発言している。

 だが、ネットで調べてみると、イギリスのワクチン接種率は1回目終了が86%を超え、2回目終了が64%を超えているが、ここにきて感染が急拡大し、2021年7月19日時点の新規感染者数は31800人、7日間平均で30040人となっている。その理由はインド型の変異株だと言うが、何よりもワクチン接種が進んだことによる社会活動の活発化、つまり人流の大幅な増加にあるとされている。

 日本もインド型の変異株が拡大し続けると、「1回接種した方の割合が人口の4割に達した」としても当てにはならなくなる。菅義偉は情報把握をしっかりとして、安易な希望的観測となるような情報の垂れ流しはやめるべきである。責任問題である。〉と書いた。

 2021年7月17日のTwitterに、〈菅義偉、記者会見、その他で「ワクチンを1回接種した方の割合が人口の4割に達した辺りから感染者の減少傾向が明確になったとの指摘もあります」。イギリスはワクチン接種が1回目も2回目も人口の5割を超えているが、感染者が増え続けている。何を根拠の菅義偉発言なのか。ただの希望的観測なのか。)と投稿した。何を根拠の「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」なのか、ずっと気になっていたが、2021年7月17日付「asahi.com」記事が「ネタ元」を紹介していた。

 最近の菅総理の記者会見では打ち切り間際に女性首相秘書官が「ただ今挙手頂いております皆様におかれましては、恐縮でございますが、1問をメールでお送りいただきたいと思います。後日、回答を総理より書面にてお返しさせて頂くと共にホームページで公開させていただきます。どうぞ御理解と御協力をよろしくお願いいたします」と知らせる。そこで朝日新聞が〈「該当する国やどのような方がどのような分析をして『4割』が導き出されたのか」と質問。書面での回答は、野村総研がまとめた「ワクチン接種先行国における接種率と感染状況から見た今後の日本の見通し」をその根拠に挙げ、「イスラエルやイギリス、アメリカにおける接種率(人口比)と新規感染者数の推移を比べたうえで、1回目接種率が4割前後に達したあたりから、新規感染者数の減少傾向が明確になり始めたと指摘されている」〉と説明してあったという。
 
 さらに記事は野村総研のこのリポートは5~6月に纏めたもので、〈菅義偉は2021年7月3日に首相公邸で梅屋真一郎・野村総研制度戦略研究室長と面会し、リポートの内容についての説明を受けている。〉と解説を加えている。

 要するに菅義偉は野村総研のリポートを根拠に「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」と看做して、「今月末(=7月末)には、希望する高齢者の2回の接種は完了し、1度でも接種した人の数は全国民の4割に達する見通し」だと2021年7月8日の記者会見で述べた。と言うことは首相公邸で梅屋真一郎・野村総研制度戦略研究室長と面会した2021年7月3日の時点から記者会見の7月8日までのいつかの時点で7月末には日本は「感染者の減少傾向」に入るという見通しを立てたことになる。見通しを立てたときには喜び勇んだに違いない。首相夫人とハグして、「大丈夫だ、大丈夫だ。首相としてやっていける」と自信の言葉を漏らしたということもある。

 朝日のこの記事を読んだとき、Twitterに〈#菅義偉、自分に都合のいい情報は検証せずに言いなりに信用し、都合の悪い情報は内容に妥当性があっても、退けるタイプの自己都合主義者なのだろう。貧すれば鈍するほど、平衡感覚を失って、そういったタイプに陥りやすくなる。〉と投稿した。

 で、7月末を迎えて、菅義偉のこの見通しはど真ん中のどストライク、見事に当たった。東京都は2021年6月21日から7月11日まで「まん延防止等重点措置」を発出していたが、7月12日から8月22日までとする「緊急事態宣言」に切り替えることになった。増減はあったものの、7月10日前後に800人、900人と、千人に迫る感染者を出す日も出てきたからだ。やはり増減はあったものの、7月半ばになると感染者は千人を超え、7月20日を過ぎると、2千人を超え、3千人を超え、7月31日は4058人という最多の新規感染者を出すことになった。7月30日の記者会見では、7月12日から8月22日期限の第4回「緊急事態宣言」を8月31日まで延長すると発表しなければならなくなった。とてものこと、「7月末1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」どころではない感染爆発と言ってもいい最悪の事態を迎えることになった。本当に首相としてやっていけるのだろうか。

 菅義偉のこの見通しの見当違いは野村総研のリポート自体が見通しを誤っていたのか、あるいは誤っていなかったが、菅義偉の感染収束の願望が強過ぎて、リポートの情報を自分に都合よくツマミ食いして自身の願望通りの情報に仕立ててしまったのか、上記朝日記事の案内でネットから探し出し、目を通してみた。
 「ワクチン接種先行国における接種率と感染状況から見た今後の日本の見通し」(2021年5月 株式会社野村総合研究所 未来創発センター戦略企画室 制度戦略研究室)(一部抜粋)

 〈概要

新型コロナワクチンの接種が先行して行われたイスラエルやイギリス、アメリカでのワクチン接種率 (人口比) と新規感染者数の推移を比べると、 以下のような大まかな傾向が見て取れた。

① 様々な行動制限策も相まって、 ワクチン接種が始まってから1 回目接種率が2割前後に届くまでの間に新規感染者数が減少へと転じ始めた。
②1回目接種率が4割前後に達したあたりから、新規感染者数の減少傾向が明確になり始めた。
③必要回数(主に2回)の接種率が4割前後に近づくにつれ、新規感染者数の抑制・低減傾向が強まった。

 仮に感染の広がり方などに今後も大きな変化がなく、上記①~③の傾向が日本でも当てはまり、5月 27 日から3 週間後に日本で1日最大100万回の接種が達成できるとした場合、日本が「1回目ワクチン接種率4割」に達する日を試算すると8月20日、「必要回数(2回)ワクチン接種率4割」に達する日は最短で9月9日という結果となった。なお、このケースにおいて、東京オリンピックの開会式が行われる7月23日時点での1回目ワクチン接種率を試算すると、29.2%という結果となる。

 また、1日の最大接種回数が80万回となった場合には、日本が「1回目ワクチン接種率4割」に達する日は9月10日、「必要回数(2回)ワクチン接種率4割」に達する日は最短で10月1日になると試算される。

 一方で、日本でも感染拡大が懸念されるインド変異株については、特に1回のワクチン接種時での有効性が低下するという指摘もあり、今回の試算の目安となる状況が担保されるには、特にワクチンの2回接種が相応の比率に進捗するまで、変異株のまん延を回避することが重要になってくる。〉

 先ず3カ国の人口比ワクチン接種率の進行状況に応じた感染減少傾向との関係を3項目に分けて挙げ、解説しているが、項目自体にも解説にも様々な条件が付けられていることに気づく。読み取ることができた感染減少傾向はあくまでも「大まかな傾向」であること。「様々な行動制限策」がそれなりの成果を上げていること。例えば人流抑制策、あるいは移動自粛要請策であるなら、それらが一定程度効果を見せていること。さらに「感染の広がり方などに今後も大きな変化」がないこと、①~③の3項目の「傾向が日本でも当てはま」ること、「5月 27 日から3 週間後に日本で1日最大100万回の接種が達成できる」ことなど、1日のワクチン接種回数が重要な要素となること。特にインド変異株が「1回のワクチン接種時での有効性が低下するという指摘」を踏まえて、「ワクチンの2回接種が相応の比率に進捗するまで、変異株のまん延を回避する」ことが「今回の試算」で示した「目安」、そう、あくまでも「目安」を担保する条件だと、最後の最後に肝心な条件を付けている。

 このインド変異株ついて相応の比率での2回接種の必要性に関しては別のところでより具体的に述べている。

 -ワクチン接種が進むまで変異株のまん延回避などが重要に-

また、英イングランド公衆衛生庁が5月22日に公表したところによれば、ファイザー/ビオンテック社のワクチンの有症状疾患(symptomaticdisease)に対する有効性は、イギリス株(B.1.1.7)が1回接種後3週間でおよそ50%、2回接種後2週間で93%なのに対し、インド株(B.1.617.2)では1回接種後3週間で33%、2回接種後2週間で88%となっており、特に1回接種のみでの有効性がイギリス株に比べて低下しているとみられる。

このため、より感染力の強いインド株などといった新たな変異株の広がりが懸念されるなかで、今回の試算の目安となる状況が担保されるには、特にワクチンの2回接種が相応の比率に進捗するまで、変異株のまん延を回避することが極めて重要になってくる。

 要するにインド変異株に対してワクチンの有効性を保ち、その感染の社会的な広がりを防ぐためには2回接種が相応の比率で進捗していなければならないと条件づけている。

 東京都の新規感染者数とインド株の割合を、載っていない日もあるが、「NHK NEWS WEB」記事から抜粋してみる。文飾当方。

 2021年7月6日東京都新規感染者593人中インド株(=デルタ株)最多の94人。(検査の実施件数に占めるインド株の割合はまだ示されていない。)
 2021年7月7日新規感染者920人中インド株最多71人。
 2021年7月8日新規感染者896人中インド株最多98人
 2021年7月9日新規感染者822人中インド株最多167人
 2021年7月12日新規感染者502人(第4回目緊急事態宣言2021年7月12日~8月22日発出)中インド株87人)
 2021年7月13日新規感染者830人中インド株最多178人
 2021年7月14日新規感染者1149人中インド株138人
 2021年7月15日新規感染者1308人中インド株177人感染(検査の実施件数に占める割合は29.9%)
 (要するに新規感染者1308人のうち約30%の390人前後がインド株感染者と看做すことができる。)
 2021年7月19日新規感染者727人中インド株143人感染(検査実施件数に占める陽性割合34.5%。1日の発表としてはこれまでで最高)
 2021年7月20日新規感染者1387人中インド株過去最多317人感染認(検査数に占める陽性割合は40.1%)
 2021年7月21日新規感染者1832人中インド株最多681人感染(検査数1488件中681人陽性、陽性割合45.8%)
 2021年7月26日新規感染者1429人中インド株940人(検査数1810件。陽性割合51.9%)
 2021年7月27日新規感染者2848人中インド型株280人(検査数557件。陽性割合50.3%)
 2021年7月29日新規感染者3865人中インド株665人(検査数は1058件、陽性割合62.9%)
 2021年7月30日新規感染者3300人(第4回東京都緊急事態宣言を8月22日~8月31日まで延長決定)中インド株1367人(陽性率68.7%)(以上)

 かくこのようにインド株の急激かつ広範囲な浸透に対して日本のワクチン接種率は2021年7月31日付「NHK NEWS WEB」によると、65歳以上高齢者に〈医療従事者や64歳以下の人も含めると、1回目の接種を受けた人の割合は2021年7月29日時点で全人口の38.43%、2回目の接種も終えた人は27.64%。〉と伝えていて、1回目も2回目も4割に到達していない。特に2回目は人口比3分の1以下の状況にある。

 菅義偉は7月30日の記者会見で東京都の感染拡大の「大きな要因として指摘されるのが、変異株の中でも世界的に猛威を振るっているデルタ株です。4月の感染拡大の要因となったアルファ株よりも1.5倍ほど感染力が高く、東京では感染者に占める割合は7割を超えている、このように言われております」と発言していて、デルタ株の脅威を認識していながら、野村リポートが「ワクチンの2回接種が相応の比率に進捗するまで、変異株のまん延を回避する」ことが「今回の試算」で示した「目安」を担保する条件だとしているのに対して東京都のインド株の陽性率は7月30日時点で68.7%にまで達していて、変異株のまん延を回避できてきているとは到底言い難い。
 
 要するに野村リポートの制約条件をクリアしているわけでないのに菅義偉は2021年7月8日の記者会見で「先行してワクチン接種が進められた国々では、ワクチンを1回接種した方の割合が人口の4割に達した辺りから感染者の減少傾向が明確になったとの指摘もあります。今のペースで進めば、今月(7月)末には、希望する高齢者の2回の接種は完了し、1度でも接種した人の数は全国民の4割に達する見通しであります」と、日本も7月末には感染者の減少傾向に入るかのようにさも請けけ合った。

 この前後の関係は自分に都合よくツマミ食いした情報の公表によって成り立つ。野村リポートの制約条件をクリアしているかどうか厳格に検証していたなら、野村リポートをツマミ食いして自分に都合のよい情報に仕立てることなどできない。だが、ツマミ食いして、自分に都合のよい情報に仕立てた。都合のよい情報に仕立てる目的は自己政策の肯定であり、自己正当化である。都合のよい情報に仕立てることまでして自己正当化・自己政策の肯定を謀るのは自身のコロナ対策が首尾よく進んでいるかのように見せかけるためであり、首相としての自己を肯定するため以外にない。そのための自分に都合のよい情報のツマミ食い=情報操作であり、そうである以上、責任回避意識が仕向けた情報のツマミ食い=情報操作ということになる。

 自分に都合よくツマミ食いした情報の発信であることは埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府への緊急事態宣言発出と北海道、石川県、京都府、兵庫県、福岡県へのまん延防止等重点措置の実施、東京都、沖縄県への期限8月22日までだった緊急事態宣言を8月31日まで延長する決定を伝える2021年7月30日の菅義偉の「記者会見」発言が証明することになる。

 菅義偉「8月下旬には、2回の接種を終えた方の割合が全ての国民の4割を超えるよう取り組み、新たな日常を取り戻すよう全力を尽くしてまいります。さらに、ワクチンに関する正しい情報の発信に努めてまいります」

 「7月下旬末」を「8月下旬」に言い変えているが、情報を自分に都合よくツマミ食いした結果迫られることになった情報修正であろう。「2回の接種を終えた方の割合が全ての国民の4割を超えるよう取り組む」と言っていることは希望する医療従事者や65歳上高齢者に全員接種しても、特に50代以下から12歳までの国民への接種が各年代ごと4割を超えないと、感染縮小に向かわないという意味での、やはり情報修正ということになる。若者は若者、中高年は中高年、高齢者は高齢者と言う関係で主として群れを作ることを主な社会習性としている。高齢者へのワクチン接種が進んで新規感染者の減少を迎えているが、一方で20代を最高に50代までの世代で大幅な感染が生じていることが証明しているワクチン接種の世代の偏りであろう。

 当然、7月30日の記者会見で65歳以上高齢者へのワクチン接種が2回接種73パーセントと進んで、同じ高齢者の新規感染者数が「4月までの20パーセント台から、今では2パーセント台に低下している」ことを成果の一つとして挙げていても、このことが全体の新規感染をカバーするまでに至らず、東京都で言えば、緊急事態宣言を延長するまでに事態が急迫している以上、単なる一部分の成果にとどまる。だが、菅義偉は65歳以上高齢者の新規感染数の激減を以ってさも大した成果であるかのように他の記者会見やその他でも触りの主な一つとしている。これなども情報の立派なツマミ食いの部類であって、感染対策が首尾よく進まないことの責任回避と同時に自己正当化を図る一つのテクニックに過ぎない。

 感染の多い少ないは人流の増減に深く影響する。勿論、コロナ株の感染力の強弱が新規感染数に影響していくが、極端なことを言うと、デルタ株(=インド株)がいくら感染力が強くても、人流のないところでは感染という作用は起きない。基本はあくまでも人流であろう。人流が多ければ、感染リスクが高まり、少なければ、感染リスクが減る。東京都の新規感染者数の増加を受けて、夏休みとお盆の時期だから不要不急の外出や移動の自粛その他をお願いするのは人流の増減が新規感染者の増減に影響していくことになるから当然のことだが、その一方で7月30日の記者会見で、「オリンピックが始まっても、交通規制やテレワーク、さらには皆さんの御協力によって東京の歓楽街の人流は減少傾向にあります。更に人流を減らすことができるよう、今後も御自宅でテレビなどを通じて声援を送っていただくことをお願いいたします」と人流が減少傾向にありながら、感染が拡大しているという矛盾した状況を伝えている。

 2021年7月29日の首相官邸エントランスホールでの「記者会見」でも、東京オリンピック開催が人々の警戒心を緩めているとの指摘があることを問われて、同じ趣旨の発言をしている。

 菅義偉「色々な人が色々な御意見を言っていることは承知してます。ただ、このオリンピック大会を契機に、目指して、例えば自動車の規制だとか、あるいはテレワークだとか、こうしたことを行っていることによって、7月の中旬から始めていますけれども、人流は減少傾向にあり、更に人流の減少傾向を加速させるために、このオリンピックというのは、皆さん御自宅で観戦していただいて、御協力いただければと思っています」

 要するに五輪の自宅観戦が人流の減少傾向に一枚加わるという意味を取るが、新型コロナ対策経済再生担当相の西村康稔も2021年7月30日の衆院議院運営委員会でほぼ同じことを言っている。「五輪を自宅で観戦して頂いた分、20日以降人流が減っている」、あるいは「多くの人が自宅で観戦している。視聴率が高いのはその表れだ」

 東京都知事の小池百合子も7月30日の定例会見で、「五輪の視聴率は20%を超えており、ステイホームに一役買っている」と間接的に自宅観戦が人流の抑制に役立っている発言をしている。

 視聴率計測器が取り付けてあるテレビは全国で5900世帯で、東京都は600世帯数前後とネットに出ているが、社会的行動心理学上、政府の自宅感染の呼びかけに対して視聴率計測器が取り付けられているという義務感から自宅観戦を心がける可能性は高いと考えられるから、そのまま五輪テレビ放送の視聴率へと反映されることになり、その義務感のない視聴率計測器が取り付けてない世帯とのギャップが生じない保証はないし、視聴率には反映されない録画視聴が特に若者を中心に広がっているということを考えると、録画視聴は外出行動と自宅観戦という相反する行動を時間差で行うことができるから、自宅観戦=人流の減少を答えとするとは必ずしも言えなくなる。また若者が競技場の近くで競技の雰囲気を身近に感じながら、スマホの動画放送を視聴、路上飲みする光景も容易に想像できるから、五輪放送の視聴率が高いことを以って即、人流の減少と考えるのは自分に都合よくツマミ食いした情報の発信で、正確な情報の読み違えに繋がらないとも限らない。

 そもそもからして菅義偉は自身が「7月の中旬から人流は減少傾向にある」と発言しているその状況下で東京都の感染が急拡大している原因をデルタ株の浸透だけに置いてもいいのだろうか。2021年7月14日に新規感染者が千人を超え、2021年7月19日に一旦千人を割ったものの、翌日の2021年7月20日には再び千人を超え、2021年7月28日には3千人を超え、この記者会見の2021年7月29日には3865人にまで達している。そして7月30日の記者会見の日は新規感染者数は少し減って3300人。

 この3300人について前で触れているように7月30日の記者会見では、勿論、大きな要因をデルタ株に置き、「アルファ株よりも1.5倍ほどの感染力」だと発言し、結果、「東京では感染者に占める割合は7割を超えている」状況にあるなら、「1.5倍ほど感染力」に見合った、今まで以上の人流の抑制が必要になるとするのが常識的な危機管理となるはずだし、そのような危機管理を満足に機能させることができていないから、3千人を超え、7月31日の過去最多の4058人の新規感染者という見方が成り立つ。だが、菅義偉はこの見方には立たず、あくまでも「人流は減少傾向にある」を主張して譲らない。

 記者との質疑応答でも、「オリンピックでありますけれども、今、東京への交通規制、首都高の1,000円の引上げ、こうしたことや、あるいは東京湾への貨物船の入港を抑制するだとか、いろいろな対応、テレワークもそうでありますけれども、そうした対応によって人流が減少しているということは事実であると思います」と言い、デルタ株の感染力の強さや新規感染者数との関係で人流の程度を捉えることはしない。

 となると、人流の程度に関しては菅義偉は自分に都合よく情報をツマミ食いしているわけでも何でもなく、「人流が減少しているということは事実」であり、この「事実」をデルタ株の「アルファ株よりも1.5倍ほど」の「感染力」が無効にしてしまって、東京の現在の爆発的な新規感染状況を生じせしめているという関係を取ることになる。

 果たしてデルタ株の1.5倍程の「感染力」に見合う人流の抑制が五輪のテレビ観戦という呼びかけだけで実現できているのだろうか。2021年年7月28日に開催された「45回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」(厚労省)の、「資料3-4 西田先生提出資料」に次のような記述がある。東京都のみを取り上げる。

 〈(主要繁華街の滞留人口モニタリング/ 2021/07/24 までのデータ)

 【東京】<緊急事態宣言中>:

• 夜間滞留人口は4週連続で減少(5週前(6/20-26)比:22.4 % 減)。昼間滞留人口も3週連続で減少(4週前(6/27-7/3)
比:17.1 % 減)。

• 緊急事態宣言後の直近2週間では、夜間滞留人口は18.9 % 減(前週比:6.5 % 減)、昼間滞留人口は 13.7 % 減(前週比:
6.7 % 減)。夜間滞留人口のうち18~20時は 20.0 % 減(前週比:3.9 % 減)、22~24時は 12.7 % 減(前週比:5.5%減)。

• 前回(3回目)の宣言発出後2週間では、18~20時は 47.3 %減 、22~24時は 48.5 %減少。今回の宣言による夜間滞留人口の減少幅は、前回の宣言によるそれと比べ ½ 以下にとどまっている。ハイリスクな深夜帯(22~24時)の滞留人口は4週連続で減少してはいるものの減少幅は小さく依然として高い水準。〉――

 先ず東京都の緊急事態宣言とまん延防止法等重点措置の動きについて見ておく。3回目緊急事態宣言発出は2021年4月25日発出、2度の延長を経て、6月20日に解除、翌6月21日から7月11日期限でまん延防止法等重点措置に移行、7月11日解除の翌日7月12日に8月22日期限の4回目の緊急事態宣言が発出され、7月30日に8月31日までの延長が決められた。

 3回目緊急事態宣言発出後2週間(2021年4月25日~5月8日)での18~20時の滞留人口は 47.3 %減 、22~24時の滞留人口は48.5%減少。但し7月12日の4回目の緊急事態宣言を受けた「夜間滞留人口の減少幅は、前回の宣言によるそれと比べ ½ 以下にとどまっている。ハイリスクな深夜帯(22~24時)の滞留人口は4週連続で減少してはいるものの減少幅は小さく依然として高い水準」

 7月中旬前後から東京都に於けるデルタ株が感染者に占める割合を増加させている中で7月12日発出の4回目の緊急事態宣言がデルタ株の1.5倍程の「感染力」に見合う人流の抑制に繋がっていないことになる。少々の人流減少でデルタ株の感染力に太刀打ちできると言うなら、少々で構わないが、そうでないことを2021年7月25日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。東京の人出のみを拾ってみる。

4回目の緊急事態宣言(2021年7月12日発出)が出ている東京の7月24日の人出を3回目の宣言の期間だった4月25日から6月20日までの土日、祝日の平均と比較。

▽渋谷スクランブル交差点付近では日中(午前6時から午後6時まで)は48%、夜間(午後6時から翌日の午前0時まで)は62%ぞれぞれ増加
▽東京駅付近では日中は7%増加、夜間は18%増加しました。

オリンピック開始(2021年7月23日)の1週間前(7月16日)との比較

▽渋谷スクランブル交差点付近では日中が1%の減少、夜間は11%の増加
▽東京駅付近では日中は13%の減少、夜間は7%の増加となり、いずれも夜間が増加(以上)

 2021年7月23日オリンピック開始1週間前(7月16日)は日中は減少しているものの夜間は増加。だが、東京の7月20日の新規感染者は千人を超え、さらに拡大傾向を見せているのだから、人出は減少を見せていいはずだが、オリンピック開始翌日の7月24日の人出は4月25日から6月20日までの土日、祝日の平均との比較で、特に渋谷スクランブル交差点付近では昼夜共に相当に増加していることになる。菅義偉が言うとおりに五輪開始前後から「人流は減少傾向」にあるとしても、東京の7月に入ってからの新規感染者数の増加に応じた、あるいは2021年7月12日の4回目緊急事態宣言発出に応じた人流の減少は起きていなかった。特にデルタ株のアルファ株と比較した1.5倍程の感染力の強さを考慮した場合、相当程度の人流の減少を図らなければならないのだが、それが実現できていなかった。

 となると、東京都の新規感染者の爆発的拡大とデルタ株の従来株と置き換わりつつある状況を示す60%を超えるデルタ株の陽性割合を前にして「人流は減少傾向にある」と言うだけでは都合のよい情報のツマミ食い以外の何ものでもなく、緊急事態宣言やまん延防止法等重点措置の発出の正当性を損ないたくないための責任回避と自己正当化と指摘されても仕方がない。

 五輪の自宅観戦についてもう少し見てみる。同じく2021年7月30日の記者会見・

 フジテレビ杉山記者「菅総理は、これまで緊急事態宣言で大きな成果を上げてきたのが酒類の停止だとおっしゃってきました。一方で、東京都内で数1,000件に上る飲食店が時短などの要請に応じていない現状をどのように受け止めているのでしょうか。

 また、菅総理は、先日、東京オリンピックを中止しない理由として、人流も減っていると述べましたが、その認識は今も変わりないでしょうか。ワクチン接種も進み、人流が減っているのであれば、首都圏でここまで感染が急拡大することはないのではないかという指摘もありますが、見解をお聞かせください」

 菅義偉「飲食店による感染リスクを減少させることは感染の肝だということを、私は申し上げています。このことは、専門家の委員の皆様からもそこが指摘をされているということも事実です。そして、今は家庭での感染が一番多くなっています。それは、そうした外から感染して、家族にうつす方が一番多いということです。さらに、職場での感染が2番目になっています。そうしたことからしても、やはりここはしっかり対応しなければならないというふうに思います」

 どう、「しっかり対応」しているのだろう。「飲食店による感染リスクを減少させることは感染の肝」で、「外から感染して、家族にうつす方が一番多い」。となると、飲食店に向かう人流を抑える以外にない。また、新規感染者の3分の1程度ある感染経路判明者は市中感染と見るべきで、これも人流の抑制をしっかりと実行する以外に抑える手はない。当然、数字ではっきりと示すことができる程に人流の抑制を図らなければならないはずだが、菅義偉の「人流が減少しているということは事実であると思います」と推測する、あるいは西村康稔や小池百合子のように五輪視聴率の高さを以って人流減少の根拠とする程度では自己正当化には役立ちはするだろうが、情報を自分に都合よくツマミ食いして発信する程度のことしか責任を果たしていないことになる。

 もう一つ、自分に都合よくツマミ食いした情報の発信。2021年7月30日の記者会見で菅義偉は「足元の感染者の状況を見ますと、既に高齢者の73パーセントが2回の接種を完了する中で、これまでの感染拡大期とは明らかに異なる特徴が見られております。東京における65歳以上の新規感染者の数は、感染が急拡大する中にあっても、本日も82人にとどまり、その割合は4月までの20パーセント台から、今では2パーセント台に低下しております。これに伴い、重症者の数の増加にも一定の抑制が見られて、東京では人工呼吸器が必要な重症者の数は、1月と比較しても半分程度にとどまり、そのための病床の利用率も2割程度に抑えられております。また、死亡者の数も1月の水準と比較し、大幅に低い水準にとどまっています」と発言、このことを以って「ワクチン接種の効果の顕著な表れ」だとしている。

 この発言で問題となるのは「重症者の数の増加に一定の抑制が見られる」と言っていることと、「東京では人工呼吸器が必要な重症者の数は、1月と比較しても半分程度にとどまり、そのための病床の利用率も2割程度に抑えられております」と言っていることである。要するに重症患者が減った。だが、2021年7月31日付け「毎日新聞」を見ると違った景色が見えてくることになる。

 毎日新聞のインタビューに国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染症センター長が答えた内容である。

 大曲貴夫国際感染症センター長「東京都の重症者は80人以上で推移している。ほかにも高濃度の酸素を必要とする人は多い。この1年半、治療法が変化し、人工呼吸器ではなく鼻から酸素を送り込む『ネーザルハイフロー』という呼吸療法を使うケースが増えた。これを使う人は、重症者にカウントされないが、酸素が足りずに身動きもとれない状況にある。重症者と同じように苦しんでいる人が、重症者の何倍も存在する。1年前と同じ感覚で重症者数だけを見て、『少ない』と言うのは状況の過小評価になる」

 要するに症状が同じ重症状態にありながら、治療法が口から酸素を取る人工呼吸器から鼻から酸素を取る「ネーザルハイフロー」という機器に変わって治療を受ける場合、「重症者にカウントされない」、「重症者と同じように苦しんでいる人が、重症者の何倍も存在する」。

 2021年7月28日付「NHK NEWS WEB」記事も「ネーザルハイフロー」について触れている。

〈この治療は人工呼吸器ではないため、東京都の基準では重症には含まれませんが、症状が重い患者が対象で、周囲への感染対策を徹底したなかで治療を行う必要があることなどから、医療スタッフの負担は大きいということです。

都内では27日時点で重症患者の数は82人でしたが、今村顕史部長(厚生労働省の専門家会合のメンバーで、東京都立駒込病院で治療に当たる感染症科部長)によりますと、この治療を受けている患者は先週の段階で合わせて91人に上ったということです。〉

 今村顕史部長「重症患者とされていなくても、非常に重い肺炎の人が多くいる。今後、さらに毎日2000人、3000人の新規感染者数が続くと入院患者が積み上がり医療提供体制が圧迫される。デルタ株が広がっていることで感染がすぐには収まらない可能性もあり、ここを乗り越えることができるかどうか、重要な局面になっている」

 要するに菅義偉は「重症者の数の増加に一定の抑制が見られる」としているが、実際には中等症扱いとなっている隠れ重傷者が相当数存在するということになる。尤も単なる治療法の違いであって、確実な治癒が保証されるなら、何も問題はないが、政府の側が首相の菅義偉を筆頭に隠れ重傷者が相当数存在している情報を無視して、「ワクチン接種が進んで重症患者が減った、減った」と自らの成果を誇れば誇る程、コロナ感染症に対して一般的に希薄と言われる若者の危機感を一層希薄にして、ワクチン接種への意欲を持たせるのとは逆の必要性を感じなくさせる状況を作り出すことになっていないかという危惧が生じることになる。

 もしそうであるなら、「ワクチン接種が進んで重症患者が減った、減った」との成果誇示にしても自分に都合よくツマミ食いした情報の発信に分類しなければならない。重症患者並みの中等症患者が相当数存在していながら、「重症患者が減った、減った」は菅義偉自身が意図していなくても、結果的に自らの責任回避と自己正当化を果たすことになる成果誇示となる。

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