尾木直樹こども基本法講演:"個人としての尊重"なしに「子どものことは子どもに聴こう」を掲げる愚鈍

2024-08-25 15:09:22 | Weblog
  「イジメ未然防止の抽象論ではない具体策4題」(手代木恕之著/2024年5月18日発行:500円)

1.イジメを含めた全活動が"可能性追求"だと自覚させる「可能性教育」
2.「厭なことやめて欲しい」で始まるロールプレイ
3. 居場所づくりと主体性教育目的の一教科専門コース導入の中学校改革
4.主体性教育目的の図書館の蔵書を参考書とする1日1時限の「自習時間」の導入
学校は一定のルールを決めて学校内でのプロレスごっこを認める)

 ――尾木直樹は日本人の平等の意識化不足を無視してスウェーデンの体罰激減を"社会ぐるみの意識改革"のみに要因を置き、その点に日本の体罰激減を期待する視野狭窄に陥り、気づかないままでいる――

 2022年7月23日の日本財団主催「こども基本法制定記念シンポジウム」での尾木直樹の講演の続き、次のテーマを取り上げる。前のテーマと同じく画像で画面上に提示していたから、テキスト化して紹介しておく。
 
 「こども家庭庁」に期待すること―子どものことは子どもに聴こう!

①「こども基本法」を実体化させる→“こどもまんなか”社会の実現に向け、十分
 な予算と人材の確保を!
② 当事者の視点に立った細やかで丁寧な取組→自治体や民間団体、企業等との
 協働•パートブーシップが重要
③ 「子どもの榷利条約」謳われている子どもの権利を包括的に強力に普及•推進
 する→大人側への啓発活動が重要
④ 子どもに対する体罰、虐待等の禁止→「法律が変わっただけでは体罰や虐待
 はなくせない」ので、メディア等とともに地道で粘り強い啓発活動を通じ、親
 や社会、人々の意識を変えていくことが必要(例:スウェーデン)
⑤ 「コミッショナー制度」の確立と導入に向けた検討の継続→最後の砦として
 の「駆け込み寺」の機能を
⑥特にいじめ問題における実効性の伴った「勧告権」の発動を→問題が“解決”す
 るまで見届けることが必要
⑦すべての政策を「子ども参加」で→子どもに関わることは当事者の子どもに意
 見を聞き、受け止め、考慮する必要

 この記事では①番目から④番目までを取り上げる。

 尾木直樹「『こども基本法』を実体化させる。子どもをど真ん中に置いて支援していくという社会の実験に向けてやっぱり十分な予算と人材(強調する)。教育問題は殆ど予算を倍にして、先生の人数を倍にしたら、あるいはクラスのサイズは2分の1にするとか、肝心なところで一気に問題は6割は解決するというふうに思っています。

 2つ目は教育者の視点に立った細やかな丁寧な取り組みを自治体や民間団体、それから企業なども含めた協働とかパートナーシップが大事だろうというふうに思います。

 3つ目ですね、子どもの権利条約に謳われている子どもの権利を包括的に強力に普及する大人側への啓発活動が勿論、これは重要だと思っています」――

 以上は、〈「こども家庭庁」に期待すること―子どものことは子どもに聴こう! 〉で掲げた提言のうち、① 番目と② 番目、③ 番目についての発言である。①については、「こども基本法」を実体化させる。実体化のバックアップ策として「十分な予算と人材」の確保。具体的には「教育問題は殆ど予算を倍」、「先生の人数を倍」、「クラスのサイズは2分の1」にする。

 こうすれば、いわば「こども基本法」の"実体化"(当方が言う「義務化」に当たるはずである)に関しては、「肝心なところで一気に問題は6割は解決するというふうに思っています」と確実性を持った予測を立てている。要するに政策的要素によって「こども基本法」が規定している諸取り決めの"実体化"は「6割は解決する」ということであって、残り4割の解決はあとの②番目、③番目が担うことになるということになる。

 ②番目は自治体や民間団体、企業などが協力して教育者の視点に立った細やかな丁寧な取り組みを行う。

 ③目は「子どもの権利条約」が謳う子どもの権利を"包括的で強力な普及"(「実体化」、あるいは「義務化」)に持っていくための「大人側への啓発活動」の重要性を言い立てている。

 最後まで触れていない肝心な点について前以って再度触れておくことにする。子どもの諸権利を保障するための教師一人ひとりが原則としなければならない基本的姿勢である。どのような子供に対しても一個の人格を有した"個人として尊重"できるかどうかという姿勢のことで、この姿勢を基本的、あるいは原則としなければ、子どものどのような権利を口にしようとも、単に舌の上で言葉を転がすだけの権利、綺麗事の権利で終わる。"個人として尊重"できなければ、如何なる権利も眼中に置くことはできないからだ。

 その極端な事例として「意思疎通のできない重度の障害者は不幸かつ社会に不要な存在である」を動機として殺人という形でこの世から19人もの障害者を抹殺した2016年の相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園事件」を挙げることができる。

 いわば児童・生徒を"個人として尊重"できるかどうかが子どもの諸権利の保障へと向かうスタート台の役目を果たすと言っても過言ではない。

 成績の悪い子であっても、家が貧乏な子であっても、障害のある子であっても、一個の人格として"尊重"する、一個の個人として"尊重"する。その"尊重"は相手の考えや意見にまで反映することになる。既に触れたようにこの"尊重"が相互の信頼関係を築く糸口となり、相互の信頼が相手側の責任感や主体性等の姿勢を育んでいく礎となる。

 当然、教育予算と人材を倍増し、クラスのサイズが2分の1になれば、教師はどのような児童・生徒に対しても余裕を持って"個人としての尊重"姿勢を発揮することができるようになるだろう。だが、"個人としての尊重"姿勢を元々から欠いていたなら、教育予算と人材がどのように倍増されようと、クラスのサイズがどう縮小されようと、また「こども基本法」が子どもの権利についてどう謳っていようと、「子どもの権利条約」が子どもの権利についてどう約束していようと、その主張・約束はスローガンの域を出ないことになる。

 要はどのような政策の前にも、どのような法律の前にも、核となるのは教師が児童・生徒に対して"個人としての尊重"を基本的姿勢とすることができるかどうか、基本的姿勢を原則としうるかどうかであって、教育予算や人材がどうのこうのは本質的問題ではない。

 「4番目ですね。子どもに対する体罰、あるいは虐待等の禁止。これは法律が変わるだけでは体罰、虐待はなくせないので、特にメディアと共に地道に粘り強く啓発活動を親や社会、人々の意識を変えていくことが重要だと」――

 法律による禁止規定+地域社会やメディア、民間団体との連携+親や社会、人々の意識を変えていく啓発活動の総合性によって体罰・虐待等の消滅可能性を謳っている。教師や保護者による子ども一人ひとりを"個人として尊重"することのできる態度・姿勢の必要性はあくまでも問題外にしている。
 
 2013年9月28日施行の「いじめ防止対策推進法」は「第3章 基本的施策」の「第17条 関係機関等との連携等」で、〈国及び地方公共団体は、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援、いじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言その他のいじめの防止等のための対策が関係者の連携の下に適切に行われるよう、関係省庁相互間その他関係機関、学校、家庭、地域社会及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努めるものとする。〉と謳っているが、イジメがなくならない状況、年々増加している状況は法律を義務化できずにスローガン状態にしていることの現れであると同時に「イジメ防止等のための対策」を目的とした「関係機関との連携」にしてもその役割を有効に機能させることができていないことの何よりの前例の一つとなるはずだが、尾木直樹は前例を省みることなく、約10年経過後も「こども基本法」が同じように規定している"関係機関との連携"を取り上げて、そのままに有効に機能するかのように主張するのは安易というだけではなく、無責任そのものであろう。

 さらには啓発活動に基づいた親や社会、人々の意識の変革の必要性にしても、同「いじめ防止対策推進法」が第21条で「啓発活動」として、〈国及び地方公共団体は、いじめが児童等の心身に及ぼす影響、いじめを防止することの重要性、いじめに係る相談制度又は救済制度等について必要な広報その他の啓発活動を行うものとする。〉ことを求めているが、条文がスローガンのままで推移しているに過ぎないことは昨今のイジメ認知件数が証明することになるだけでなく、「こども基本法」でも啓発の積極的な実施を謳わなければならない点に成果の不毛性を十分に窺わせることになる。

 となると、尾木直樹は国民一人ひとりが法律を具体化(当方が言う義務化)するにはどうすべきか、「関係機関との連携」や「啓発活動」を機能させるにはどうすべきかを解説しなければならないのだが、パネリストとして必要とする義務を果たさずに実現できるかどうかも分からない必要性だけを言う。その自身の無責任に気づかない。

 ではなぜ「いじめ防止対策推進法」が機能しなかったのか、なぜ「関係機関との連携」や「啓発活動」が有効性を発揮し得なかったのか、その理由を考えると、イジメや体罰、その他の問題行動が発生する直接的な最前線は学びの場である学校であり、体罰や虐待が発生する直接的な最前線は養育の場である家庭であって、関係機関や民間団体、地方自治体ではなく、利害の関係性に濃淡が生じて、熱心さ、あるいは切実さに差が出るからだと推測できる。

 例えば自分の子どもが学校でイジメに遭っていないだろうかと考えることはあっても、実際に遭っていなければ、一企業に身を置いていると、そこでの利害を常日頃からより切実な問題として抱えることになり、後者を優先課題とし、前者を時折り頭に思い浮かぶ心配事で片付けてしまって、連携だとか啓発だとかにまで手が回らないままに納めてしまうからだろう。

 但し学校、あるいは教師がイジメや体罰が発生することによって直接的に利害が関係してきても、その利害は事態が大きくならない前に沈静化させて学校や教師の責任を最小限に抑える場所に限度を置いているとしたら、重大事態に至らない限り、自らの責任感をさ程重く受け止めることはないのだろう。

 こういった状況に手を貸しているのは「イジメは完全にはなくすことはできない」という世間一般に流布している言説に教師までもが染まっているという事実を挙げることができる。イジメを事実そのとおりになくすことはできなくても、なくす努力を払わなければ、世間一般の言説に便乗して止むを得ないこととイジメの発生に妥協することになる。

 もし尾木直樹自身が法律は変わったとしても、法律が求める禁止規定、あるいは逆の義務規定が条文どおりに機能するわけでもないと、そのスローガン性を前提とするなら、その前提は"関係機関との連携"に関しても、「啓発活動」に関しても利害関係に差があることが原因となってスローガン性を引きずる結果を招くことを当然の道理としなければならないはずだが、優秀な教育者だからなのか、当然の道理とする考えは一切起きないようだ。

 何事も学びの最前線である学校社会に於ける教師対児童・生徒の人間関係の質が、あるいは家庭社会での保護者対子どもの人間関係の質が学校生活や家庭生活での彼らの行動に影響を与えて各種問題行動となって現れたり、現れなかったりするのだから、やはり心がけるべきは教師が、あるいは保護者が児童・生徒、あるいは子どもという存在に対して"個人として尊重"できる態度・姿勢を取ることができるかどうかに掛かることになる。

 特に1日のうち、一般的には学校での生活時間の方が長いことを考えた場合、教師の児童・生徒に与える人間関係の質は家庭に於ける保護者との人間関係が余程のことがない限り、より大きな影響を与えるはずだから、心してその質に注意を払わなければならない。

 だが、尾木直樹は教師が基本的姿勢とすべき児童・生徒に対する"個人としての尊重"を何ら問題とせずに予算の倍増等で「こども基本法」の実体化、あるいは義務化は「6割は解決する」と請け合い、あとの4割は関係機関との連携や啓発活動で、「いじめ防止対策推進法」という機能不全の前例があるにも関わらず、その前例を顧みることなくさも片がつくような安易さを見せて平気でいられる。

 尾木直樹が法律が変わるだけではなくせない例として体罰と虐待のみを挙げて、認知件数が桁違いに多く、未然防止が極めて困難な上、事後解決に追われることになるイジメを挙げていない点は不自然だが、「いじめ防止対策推進法」が施行された2013年9月末日から半年も経たないうちにこの法律を「子どもの命を救う法律」だと、いわば法律が変わっただけでイジメをなくせると見ていた(どのイジメが自殺を誘うか前以って把握できない以上、イジメの根を断たない以上、イジメ自殺はなくせない)過去の安易な過ちに対する本能的な回避意識が狡猾にもイジメを事例から抜いたと見ることができるし、見られても仕方ない安易な過ちを見せていたと指摘できる。

 「ちなみに最も体罰に厳しい国はスウェーデンなんですけども、スウェーデンは1979年に世界で初めて親の体罰も禁止するのを決めました。ところがですね、スウェーデンで60年代に体罰を肯定していた人は55%です。国民の体罰をやったよーと言っている人が95%もいるんですね。

 ところが2018年、ついこの間ですけども、体罰肯定派は1%。そして体罰やちゃったよーと言っている人が2%しかいない。激減させているんですね。そして啓発活動もポイントでした。消費者庁は全家庭に配ったり、牛乳パックに『子どもは叩かない』とかね、『叩かないでも育つ』とか、文句を書き込まれていたり、学校も授業の中で教えたり、第一案件で社会を意識改革させたんですね。こういうこと、日本も『子ども基本法』が制定された以上、メディアとか、社会ぐるみでやっていく必要がある」――

 尾木直樹らしい上っ面だけを見た、底の浅いゴタクとなっている。体罰もブラック校則と同様に大人が自らの価値観、考えを権威として子どもの価値観を無視して押し付ける上は下を従わせ、下は上に従う権威主義の行動様式を力学として引き起こされる。

 だが、尾木直樹は、既に前のところで触れているが、子ども権利条約発効に際して出演したNHKの番組で子どもの権利について喋っていたのだろう、自分の勤める学校で体罰が行われていて、それに有効な処置もできずに心因性の狭心症に罹り、教師の職を辞めざるを得なくなった1994年も、今回取り上げている「こども基本法制定記念シンポジウム」にパネリストと講演している2022年7月時点でも、体罰やブラック校則、イジメが権威主義の力学がなせる技だとは気づいていない。そして恐らく現在も気づいていないに違いない。

 権威主義の行動様式は、当然のことだが、上下の関係力学に基づいて発動される。いわば同じ目線に立ってはいない。教師の児童・生徒に対する体罰もブラック校則も同じ目線に立たず、目線を上に置いているから可能であって、児童・生徒のイジメ加害者と被害者の関係も同じ目線に立つことができず、前者が後者に対して目線を上に置いているから可能となるイジメという名の攻撃となる。

 断るまでもなく、この権威主義は人間の自由と平等を尊重する民主主義とは対立関係にある。日本は制度としては戦後に民主国家とはなったが、戦前の権威主義を、戦前程には色濃くないものの、身分制度や長幼の序としての年齢に基づいた上下関係、あるいは先輩・後輩の関係や性別に基づいた上下関係といった形で戦後も意識の中に残していて、それが地位で人間の価値を計る地位差別や学歴で人間の価値を計る学歴差別、性別で人間の価値を計る男女差別等の形で現在も残している。

 このことは2023年版「ジェンダーギャップ指数」の国際順位となって現れている。日本は教育到達度では完全な平等を達成しているが、その内容は識字率、就学率等を計った制度的平等であって、意識としての平等を示しているわけではない。一方で政治参画(閣僚や議員数の男女比)や経済参画(労働参加率の男女比、同一労働における賃金の男女格差、推定勤労所得の男女比、管理的職業従事者の男女比、専門・技術者の男女比)等で平等数値が特に低いのは憲法等で表向きは平等を謳っていても、それが意識にまで達していなくて、不平等意識を内面に抱えていることからの格差現象であり、それが日本は146ヶ国中125位の低い順位に付けているということであって、スウェーデンの世界5位からは日本と比較して遥かに意識としての平等(=平等観念の意識化)を実現させていると見なければならない。

 スウェーデンの大人たちの間のこの意識としての平等(=平等観念の意識化)の進行度合いが体罰の激減の要因となったと見るべきで、体罰や虐待、イジメを減らすためには教師、保護者、児童・生徒共々に上は下を従わせ、下は上に従う権威主義の行動様式を極力排して、平等の意識化(このことは"個人としての尊重"の精神に重なる)を図らなければならないのだが、尾木直樹はこの点についての考えは何もなく、スウェーデンの体罰激減を"社会ぐるみの意識改革"のみに要因を置く視野狭窄に陥って、気づかないままでいる。

 当然、日本の消費者庁が真似をして牛乳パックのレッテルに「『子どもは叩かない』とかね、『叩かないでも育つ』」とか書かせて頭に記憶させることになっても、権威主義的行動様式を内に抱えている状況下で対人関係での軋轢や衝突が生じた場合、理性的な対応よりも権威主義的な対応が本能的衝動として優先され、頭の記憶を簡単に無力化させてしまうことになりかねない。

 そもそもからして大学で教育学や心理学を学んでいる教師が子どもに体罰を働く、教育を受け、社会に出て人間関係を学んでいるはずの親という人種が子どもに暴力を振るうのは上に対して下を強制的に従わせようとする権威主義的な力学に感情的に取り込まれてしまうことが一般的な原理となっていると見なければならない。

 当然、日本人が行動様式の根のところで今以って抱え込んでいる権威主義を抹消して、平等を意識化するところにまで持っていかなければ、スウェーデンのようにはいかないだろう。

 尾木直樹のこのシンポジウムでの発言とは関係しないことだが、日本人が根のところに権威主義的行動様式を残している以上、学校での授業でもその影響を受ける。その影響は暗記教育という形を取っている。暗記教育とは教師が教科書の記述と教師用の参考書の記述のほぼ範囲内でその記述をなぞる形で教え、児童・生徒は教えられたとおりに記憶していく、上は下を従わせ、下は上に従う権威主義的知識授受の形式を取る


 結果、例え100%記憶したとしても、自身の考えや意見、思いを付け加えない、どのようにも発展させることのないそのままの知識を受け継ぐことになる。いわば1+1=1で推移し、1+1=を3にも4にも膨らませたり、発展させたりする機会を持たない他者の知識を自分の知識とすることになる。

 この権威主義的力学に基づいた暗記式知識が日本の児童・生徒の思考力欠如や表現力欠如、あるいは言語力不足となって現れるているはずで、これらの欠如・不足はいつ頃から言われ出したのか、かなり以前から言われてきたのは事実である。

 この事実のどおりの現象が最近になって報道された。2024年4月18日実施、2024年7月29日結果公表の小学6年と中学3年の全員対象の文部科学省全国学力テストの回答に対する解説が証明することになる。NHKの記事を案内として、《令和6年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)》(文部科学省・国立教育政策研究所)を覗いてみた。

「小学校6年評価の観点」(平均的正答率)
 国語 知識・技能 70.0% 思考・判断・表現 66.2%
 算数 知識・技能 72.9% 思考・判断・表現 51.6%

「中学3年算数評価の観点」(平均的正答率)
 国語 知識・技能 62.4% 思考・判断・表現 55.8%
 算数 知識・技能 63.5% 思考・判断・表現 30.0%

「知識・技能」はNHK記事では「基礎的知識」の表現となっている。

 「基礎的知識」は暗記で片付く。「思考・判断・表現」の各能力は各個人が如何に考えるかによって答が導き出されるから、暗記では簡単には片付かないことになる。問題は小6年生も中3年生も考えなければならない問題の正答率が暗記で片付く「基礎的知識」の正答率よりも低いことだけではなく、小6年生の国語・算数の考える力よりも中3年生の考える力の方が成長している分、高くなっていていいはずだが、逆に低くなっている事実を挙げなければならない。

 この傾向は問題が難しくなって、考える力が追いつかなくなっていることの現れと見るべきで、このことは考える教育の必要性、あるいは考える教育への転換が言われて久しいが、まだまだ暗記教育の影響が強く残っていて、考える教育への転換が十分に果たされていないことを示していると言える。

 当然、現在以上に考える教育を根付かせるためには上は下を従わせ、下は上に従う権威主義を排して、児童・生徒と同じ目線に立つ姿勢が必要になる。具体的には、「どうしてこんな問題が分からないだろう」ではなく、「どこが分からないのか」と分からない個所を見つけるのを手伝い、見つけることができたなら、答を出すヒントというものが必ずあるだろうから、一緒になって考え、そのヒントに基づいて自分で答を導き出させる。

 これは学びと言うよりも訓練と見るべきだろう。最初は手間も時間もかかるが、自分で解くコツを習得していったなら、手間も時間も掛からなくなっていく。勿論、全部が全部うまくいくとは限らないが、教師の権威主義的姿勢の排除が児童・生徒に向けて"個人として尊重する"態度を取ることになり、それは教師に対する信頼となって跳ね返ってきて、彼らの学びの力にプラスに働くだけではなく、体罰やイジメの抑制効果ともなって現れるはずである。

 要するにこの面からも児童・生徒の責任感や主体性、自主性、自律心、あるいは自立心の育みに役立っていくことになる。役にも立たないのは尾木直樹の講演である。もしここまで取り上げた尾木直樹の発言が正しい見通しに立った正しい提言であると仮定するなら、改めて結論を示すことになるが、「いじめ防止対策推進法」がイジメの禁止だけではなく、関係機関等との連携と啓発活動の必要性を併せて規定しているその骨格からしてイジメの防止に役立っていなければならないはずだが、全く逆の役立っていない状況を示している事実は尾木直樹の「こども基本法」や「子どもの権利条約」に向けた見通しそのものの錯誤を突きつけていることになる。まあ、その程度の教育評論家に過ぎない。

 以上、ここまで。残りの最後は次の記事に譲る。
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尾木直樹こども基本法講演:「子どもと大人の新しい関係性の第一歩、スタートに立った」は法律知らずの戯言

2024-07-28 09:29:21 | Weblog
  「イジメ未然防止の抽象論ではない具体策4題」(手代木恕之著/2024年5月18日発行:500円)

1.イジメを含めた全活動が"可能性追求"だと自覚させる「可能性教育」
2.「厭なことやめて欲しい」で始まるロールプレイ
3.居場所づくりと主体性教育目的の一教科専門コース導入の中学校改革
4.主体性教育目的の図書館の蔵書を参考書とする1日1時限の「自習時間」の
 導入
学校は一定のルールを決めて学校内でのプロレスごっこを認める)

 〈結果、TikTokに「ブラック校則なくなれ」と叫ぶ動画を投稿、その再生回数を誇る知恵のみを働かせることになる。〉

 「こども基本法制定記念シンポジウム」は 2022年7月23日に日本財団主催で時事通信ホールで行われている。テーマは「こどもの視点にたった政策とは」となっている。

パネリストは――
奥山眞紀子(日本子ども虐待防止学会理事)
山田太郎(参議院議員)
尾木直樹(教育評論家、法政大学名誉教授)
野村武司(東京経済大学現代法学部教授、弁護士、子どもの権利条約総合研究所副代表)
中島早苗(フリー・ザ・チルドレン・ジャパン代表、新潟市子どもの権利推進委員会委員)
 の面々。

 ここでは新聞・テレビ等の多くのマスメディアに顔出ししていて、著名で、幅広く人気を得ている、その人気に応じて影響力・発信力が際立つ優れた教育評論家尾木直樹が取り上げた「2つのテーマ」、《問題山積の教育現場と子どもたちの実態」》、及び《「こども家庭庁」に期待すること―子どものことは子どもに聴こう! 》をそれぞれ何回かに分けて眺めることにし、その解説の正当性、的確性を窺い、マスコミや教育者を含めた世間の高い評価の背後に隠されている実際の姿に光を当てて見ようと思う。そして最後に参考として尾木直樹の講演の全文を紹介しておくが、聞き取れなかった発言個所は(?)で表している。発言そのものは「YouTube動画」から採った。

 では、最初のテーマに入る前に当方が考えている、法律が抱えざるを得ない性格について少し述べてみる。こども基本法は2022年(令和4年)6月15日国会可決成立、2023年(令和5年)4月1日施行となっているが、法律である以上、各条文そのものはスローガンという性格を帯びることになる。スローガンで終わらせるか終わらせないかは国民それぞれが法律を自分事として義務化できるか否かにかかることになる。

 但し義務化に無頓着な大人は大勢存在するだろうし、例え義務化していたとしても、生活上、金銭や感情等の損得・利害の対立や衝突を受けた場合、それを自分に有利な解決に向けて優先させるあまり、義務化を忘却、あるいは義務化を放棄、法律の目的に反する行為に走ってしまうケースが多々あり、それが各種法律違反の形や犯罪の形を取る。

 要するに如何なる法律も条文に書いてあるとおりそのままに影響力を行使できる絶対的な保証を与えられているわけではない宿命、いわば法律どうりにはいかない宿命を負っている。だが、尾木直樹はこの視点を全く欠いている。

 最初のテーマ、《問題山積の教育現場と子どもたちの実態」》に入る。尾木直樹は冒頭、次のように主張している。

 尾木直樹「どうも皆さんこんにちわー、尾木ママですー。今、山田先生からですね、色んな、非常に広い観点から、コメントを聞いたり、一杯あったかと思うのですが、僕も一応レジュメを作ってきたのですが、前に(注:壇上正面に)出てきますけれども、漠然としたところもありますので、そこは焦点化して正していかなければならないなあというふうに思います。

 僕が今日、特にお話したいのは大人と子供の、子どもと大人ですね、子どもと大人の新しい関係性の第一歩、スタートに立ったなあということで、新しい関係性をどう作っていくのか、そこをですね、現状の問題から含めてお話していければというふうに思っています。

 丁度77年前、男女平等が推進され、男女平等社会が始まった。それに匹敵するよりももっと大きいかも知れない、びっくりするような関係性の変化の問題、そんな今回のこども基本法が、こども家庭庁の意義が大きくあるんじゃないかなと思うんですけども――」

 要するに、勿論、こども家庭庁のバックアップを受けることになるのだが、 「こども基本法」の制定によって〈子どもと大人の新しい関係性の第一歩、スタートに立った〉と見ている。立った以上、第二歩、第三歩へと進むことを予定調和(=当然視)していることになり、それが、「新しい関係性をどう作っていくのか」。いわばどう調整していくのかの言葉となっている。そしてその関係性はびっくりするような"変化"が期待されるといった趣旨の発言となっている。

 既に触れているが、このシンポジウムの開催はこども基本法が国会成立を受けて開催されたもので、この開催は施行約8ヶ月前のことだから、尾木直樹は条文だけを読んで、今までにない「子どもと大人の新しい関係性」が構築されるであろうことを敏感にも読み取ったことになる。

 この感性には法律の持つスローガン性や法律どうりにはいかない宿命というものに向ける現実的な視点は見い出し難い。

 尾木直樹はこども基本法がその効果を備えていると確実視している、いわばびっくりするような子どもと大人の新しい関係性を、「丁度77年前、男女平等が推進され、男女平等社会が始まった。それに匹敵するよりももっと大きいかも知れない」と、その当時に始まった男女平等の関係性以上の子どもと大人の関係性の
出現を予想して大歓迎している。この何も疑わない、批判精神ゼロの無垢な心情、あるいは単細胞には驚かされる。

 この「77年前」とは1945年年12月17日の改正衆議院議員選挙法公布により女性の国政参加が認められたことを指す。だからと言って、尾木直樹が断言するように女性参政権獲得によって「男女平等社会が始まった」わけでも、実現したわけでもない。80年が経過した今日でも、戦前の男尊女卑の価値観の後遺症を戦後の現在も引き継ぎ、男性上位・女性下位の形で色濃く残って、このことは各分野に於ける男女採用格差や賃金格差、家事分担や育児分担の男女負担の格差となって尾を引いていて、法律が平等と定めたとしても、法律の文言どおりとはならない義務化不足とスローガンとしての役目で終えている部分があることを証明することになる。

 大体が普通選挙法がどう改正されようと、投票率が高くて70%前後、低くて30%前後、少し前の世間の注目を集めた都知事選でさえ60.62%で、それ以前は60%を切っている投票率は普通選挙法を義務化していない国民が無視できない人数での存在を示していて、法律を以って絶対とすることはできない状況の証明以外の何ものでもない。

 尾木直樹のこの法律の文言をそのままに信じて疑うことを知らない純粋無垢な単細胞精神は2013年6月28日「いじめ防止対策推進法」の施行を受けて立憲民主党小西洋之が2014年3月発刊した著作に寄せた「推薦の言葉」に如実に示されている。《いじめ防止対策推進法の解説と具体策》

 〈教職員•保護者のための立法者による初の解説書

 「本書は、子どもの命を救う法律に息を吹き込み、血を通わせる、いじめ対策のバイブルである」 教育評論家 尾木直樹氏推薦〉

 要するに「いじめ防止対策推進法」自体を「子どもの命を救う法律」だと見ていた。だが、生きて在る命を歪め、損なうイジメ認知件数は年々増加し、イジメを受けて肉体的生命そのものを断たしめてしまう自殺件数も跡を絶たない状況は「子どもの命を救う法律」とは必ずしもなっていない現実を示していて、法律というものが抱えるスローガン性、子どもに対して義務化させることのできない大人の存在を頭に置くことのできない、尾木直樹の優れた合理的判断能力の欠如が生み出している法律というものに対する疑うことを知らない単細胞な買いかぶりといったところだろう。

 当然、この買いかぶりはこども基本法にも向けられることになる。

 こども基本法が掲げている子どもの人間的成長に向けた各方策、いわば"スローガン"の重要な点を列挙してみる。「第1章 総則 目的」では第1条で、"人格形成の基礎的構築"、"自立した個人としての成長の促進"、"生育状況に関係しない権利の擁護"、第3条「基本理念」で、"個人としての尊重"、"基本的人権の保障"、"差別の禁止"、"成長の度合いに応じた意見表明の機会の保障"、"多様な社会的活動参画の機会の確保"等を謳っている。

 これらのことを謳うについては謳っている方策が現実とはなっていないからで、現実化に向けたスローガンと見なければならない。大体がここに挙げた多くが日本国憲法が国民のあるべき姿として要求している諸方策であって、それを「こども基本法」という形で子ども単位に改めて要求すること自体が法律というものが宿命としているスローガン性と誰もが義務化する訳ではないその欠陥に留意しなければならないのだが、幸いにも尾木直樹は留意せずに法律の効果を予感できるのだから、他人にはない鋭い先見性に恵まれているのだろう。

 いずれにしても尾木直樹は「こども基本法」の成立を受けて、「子どもと大人の新しい関係性の第一歩、スタートに立った」と評価し、その「第一歩」を基礎に「新しい関係性をどう作っていくのか」と提言している以上、この講演を通して新しい関係性の構築を可能とする最良のアドバイスを提供するはずである。何らアドバイスを提示しなければ、自身のメッセージに対する詐欺行為そのものとなる。
 
 子どもの人間的成長に向けた核となる方策は日本国憲法「第3章 国民の権利及び義務」の第13条でも、「すべて国民は、個人として尊重される」と謳い、こども基本法でも、その必要性が高いことから謳うことになっているのだろう、"個人としての尊重"を第一番に掲げなければならない。なぜなら、この"尊重"の実践が子どもの人間的成長に向けた方策の第一歩、あるいは基礎となり、この第一歩、基礎が子どもの諸権利を認めるスタート台となるからであり、多くの大人が義務化を引き受けなければならない課題と見るからである。

 いわば法律がどのように子どもの権利を認めようとも、子どもが個人として尊重される扱いを受けない限り、それらの権利は子どもを素通りしていくことになる。

 子どもを個人として尊重するとは子どもそれぞれを、例え考えが幼かろうが、半端であろうが、幼いなりに、半端なりに一個、一個の人格と看做して、子どもが何をするについても本人の意志(意志はその子どもの意見・考えによって表わされる)を尊重・信頼し、その意志に任せることを言うはずである。結果、例え失敗しても、大人が失敗した理由、あるいは失敗しないための方法を教え、それ以後の行動も本人の意志に"任せる"信頼を積み重ねていく過程で信頼され、任せられる側の子どもは任されたことを成し遂げようとする、あるいは信頼に応えようとする自主性や主体性の育みと共に責任感を身につけていくことになり、この連鎖は成長に応じて紆余曲折を経ながらも、自分の意志・行動を自ら律する自律心や自立心という行動様式の養いに向かうことになる。

 要するに子どもが何をするについても子供の意志(考えや意見)を尊重・信頼して任せる"個人としての尊重"がこども基本法が目指している人間的成長要素となる、"人格形成の基礎的構築"、"自立した個人としての成長の促進"、"子どもの権利の擁護"、"基本的人権の保障"、"成長の度合いに応じた意見表明の機会の保障"、"多様な社会的活動参画の機会の確保"等の方策達成に手を貸すことになり、いわばこれらの達成の出発点が"個人としての尊重"――子どもの行動に関しては子どもの意志を尊重して任せる、それが大人の側の子どもに対する信頼ということになるはずである。

 簡潔に纏めると、子どもを個人として尊重するとは「子どもを信頼して任せる」ことを言うことになる。大人の子どもへの信頼が子どもの大人への信頼へと跳ね返って、循環し、積み重なっていく。

 当然、尾木直樹が言う、「子どもと大人の新しい関係性」も(子どもを個人として尊重する)=(子どもを信頼して任せる)子どもと大人の関係性を土台に置いて、そこからスタートする新たな関係性ということになると思うが、誰も考えつかない独創的な関係性を、期待はできないが、頭に置いているのかもしれない。

 ここで尾木直樹は壇上正面上方に顔を向けているから、実際はそこにプロジェクターで映し出していたのだろう、画面に画像として挿入されていた最初のテーマの各項目をテキスト化した。

 問題山積の教育現場と子どもたちの実態(一部)

①いじめ認知件数、重大事態の増加。
②子どもの自殺者数の増加
③体罰と「指導死」問題 
④人権侵害の「ブラック校則」問題 
⑤不登校と「登校しぶり」の急増(コロナ禍の心と生活――マス
  ク問題)
⑥「教育虐待」を生む受験制度と競争主義的教育
⑦教育格差の拡大(公私間、地方と都市間等)
⑧教師不足と質の低下が深刻化(わいせつ教師問題等)
⑨中等度以上の「うつ症状」の子ともが増加
⑩外国にルーツをもつ子どもたちへの差別、いじめなど、子ど
  もの命や人権に関わる深刻な問題が山積

 以上の10項目を2回に分けて記事にしてみる。

 要するにこの10項目のうちの多くが「子どもと大人の従来の関係性」が起因して表面化している諸問題ということであって、「こども基本法」が「新しい関係性」の構築に手助けしてくれて、諸問題の解決に向かうと、それ程までに「こども基本法」を買っている、あるいはそれ程までに「こども基本法」に肩入れしているということなのだろう。

 でなければ、77年前も昔の男女の関係性の変化を持ち出して、それと比較して「びっくりするような関係性の変化の問題」などと持ち上げたりはしない。

 尾木直樹「ここに10項目も挙がっていますけども、先程から理事長から、山田先生がおっしゃっていたんで、ダブっていますけども、中でも4番の人権侵害の『ブラック校則』の問題。これは僕はいつだったかな、結構最近なんですけども、TikTokをやってるんですね。こどもたちとつながろうということで。

 TikTokに『ブラック校則なくなれ』とか何とか、1分間ですから、叫んで動画を入れたらですね、何と再生回数が270万超えて、コメントだけでも、7000入っていて、ずっと楽しみながら、読みみましたけど、本当に苦しんでいます。

 とんでもない校則、下着の色で決めるとかですね、それをチェックするとか、まあ、髪の毛は自分は元々茶色に、外国籍っていうかな、外国の両親を持つ子であっても、黒く染めなければいけないという指導が入っちゃうという、もう人権侵害、人間否定です。本当にひどい、そういう問題。

 それから、『登校しぶり』というのが物凄く増えていますよね。日本財団の調査で33万人と言われていますよね。

 それからこれは『教育虐待』の6番目の問題なんかもホントーに、日本だけの問題じゃないですが、競争して他人より成績がいいとか、他人より何点取ったとかですね、優秀だとか、優秀でないとか、評価を決められたり。高校入試をやっても(?)凄く無駄なんです。どこも中高一貫なんです」――

 「ブラック校則」は教師が児童・生徒の価値観を信頼できずに自分たち大人の価値観を押し付けることによって生じる。いわば子どもに対して"個人としての尊重"ができていない。だから、校則に関わる各規則を任せることもできない。そのことが「ブラック校則」の存在根拠となる。そしてこのことを可能とする根本原因が根のところで日本人の行動様式として受け継いでいる権威主義であり、その今以っての横行であろう。

 ブログでこれまでに何度も繰り返し言ってきたことだが、「権威主義」とは「大辞林」(三省堂)に「権威を振りかざして他に臨み、また権威に対して盲目的に服従する行動様式」とあるが、要するに「権威主義」とは権威を媒介物として上は下を従わせ、下は上に従う行動傾向ということになる。

 子どもに対して子どもの価値観そのものを信頼して、その価値観に従った考えや行動を"任せる"のではなく、権威主義に基づき、教師の権威を振りかざして大人の価値観に従った考えや行動を取らせる。当然、任せることのできない行動力学からは信頼関係の構築は期待できず、自主性や主体性や責任感も満足に育たないことになって、自律した(あるいは自立した)存在となるには程遠く、結果、子どもをいつまでも手のかかる存在に閉じ込めておくことになる。

 この子どもをいつまでも手のかかる存在としていること自体が教師の多忙の大きな要因の一つであって、教師の働き方改革を言うなら、子どもの価値観を信頼し、何事も"任せる"習慣の獲得="個人としての尊重"を第一番に持ってきて、子どもを手のかからない存在とすることで、教師の時間と手間を最小化することだろう。

 ところが、そうはなっていない。大人の価値観が児童・生徒それぞれの価値観を信頼できず、下着の色や髪の毛の色を決めることにまで及んで、殊更子どもを手のかかる存在に仕立て上げている。いわば「ブラック校則」は権威主義に依りかかさった、子どもを信頼できない存在に仕立て上げている格好の事例と言える。このような両者の力学からは建設的で発展的な両者関係は期待できるはずはない。

 下着の色を何にしようと、髪の毛をどう染めようと、本人の美意識に基づいた一つの表現行為と認めて、その美意識が単に下着の色や髪の毛の色に関わる表現行為で終わらずに、色彩に関係する何らかの創作的な表現行為への将来的な発展を期待することを常々児童・生徒に伝えて、全てを任せる態度を取れば、児童・生徒は責任意識を刺激され、美容に関するスタイリスト、あるいは服飾に関するスタイリストとして、あるいはそのほかの美容系や美術系に関係する職業を進路とする可能性は否定できない。

 例え出てこなくても、任せらるれことが習慣となれば、責任感から、下着の色、あるいは髪の毛の色で終わらない行動を心がけるようになるはずで、それが任せられることの意味となる。禁止しただけでは反発は招くが責任感は育たない。責任感が育たない場所に自主性も主体性も、自律心も自立心も芽生える素地は期待できない。

 尾木直樹は「ブラック校則」を「人権侵害」だと批判しているが、人権侵害は人権侵害であっても、それだけでは表面的な解釈で終えていることになるが、本人自身はこのことに何も気づいていない。

 「ブラック校則」の成り立ちそのものが"個人としての尊重"を打ち出せずに児童・生徒の側の価値観を大人の側の価値観を絶対として排除、その無理強いを存在根拠としているという認識を尾木直樹自身が持つことができていたなら、子どもの責任感や自主性、主体性、自律心、あるいは自立心を育むためにも子どもが何をするについても"個人としての尊重"を前面に出して本人の意志、考えや意見を信頼し、その意志に任せて、大人の価値観を押しつけるべきではないことを道理とすべきだと忠告するはずだが、そんな知恵が働かないから、TikTokに「ブラック校則なくなれ」と叫ぶ動画を投稿、「再生回数が270万超えて、コメントだけでも、7000入っていた」と自らの手柄話とする知恵しか働かないだけではなく、それを子どもと繋がる手段の一つとしているとは底の浅い考えに取り憑かれていて、その程度で満足しているようだ。

 何のために学校教師を務めてきたのか、何のために教育評論家を務めているのか、意義を見い出すことができない。

 世間の「ブラック校則」に対する批判的趨勢によって女子生徒には許されなかったスラックス(あるいはズボン)が許されるようになっているようだが、色は黒か紺色限定で、ほかの色は許さないということは大人たちが新しい統一的価値観を権威として用意し、その権威に従わせる従来の方法と本質のところで変わりはなく、例え生徒の意見を求めて決めたことであっても、子どもの価値観に任せることとは明らかに異なる。

 成績を競う、あるいは成績を競わせる「教育虐待」は世の大人たちが作り上げた学歴主義に子どもたちを巻き込んで作り上げた残酷世界であるはずだ。この「教育虐待」という残酷世界も、大人たち、あるいは教師たちが子どもを個人として尊重し、信頼して、学校の成績一つに対しても本人の意志に任せるのではなく、逆の状況にあることによって作り上げられているはずだ。

 学校の勉強が好きになれない、頑張っても成績を上げることができなければ、学校の成績だけが将来的な進路を決めるわけではないこと、世の中に出ていくにはいくらでも方法はあることを教え、自分が世に出ていく最善の方法を見つけるよう促すことが子どもを一個の人格を有した個人として尊重することになり、そのような尊重に基づいて相手を信頼し、学校の成績一つに対しても本人の意志に任せることができれば、任された子どもは勉強の成績以外で世に出ていく方法を見つけるべく努力するだろうし、任されたことと努力することを通して自主性や主体性、責任感、自律心等々の性質や姿勢を学び取っていく方向に向かうはずである。

 だが、尾木直樹は〈「教育虐待」を生む受験制度と競争主義的教育〉だと旧来から言われている表面的な事実だけを把えて表面的な解説で終えるだけの能しか持たない。

 「こども基本法」に「子どもと大人の新しい関係性の第一歩、スタートに立ったなあ」との先見性を示しながら、子どもと大人の従来の関係性に起因し、表面化している「ブラック校則」に関しても、「教育虐待」に関しても従来どおりの表面的な解説で終えることしかできない。この先見性と表面的な解説の落差は先見性は単なるハッタリで、表面的な解説が尾木直樹の本質を提示することになるが、それとも最後の最後に目を見張るような種明かしを見せてくれるのか、そういったサプライズは先ず期待はできないが、今回はここまでにして、以後、おいおいと見ていくことにする。

 次回は最初のテーマである《問題山積の教育現場と子どもたちの実態》の後半部分を取り上げることにする。
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《八方美人尾木ママの"イジメ論"を斬るブログby手代木恕之》を始めました。

2023-10-17 04:22:50 | Weblog
 2023年6月30日を以って「gooブログ」を退会、3カ月後に名前だけ大層なブログ「『ニッポン情報解読』by手代木恕之」は消滅すると思っていたが、多分、有料から無料のブログという形でだと思うが、現在も存命中で、移籍先の《八方美人尾木ママの"イジメ論"を斬るブログby手代木恕之》を紹介することにした。

 そのつもりはなかったのだが、アクセス数0という惨敗が続き、背に腹は変えられないという無節操を曝け出すことにした。尤も人生、無節操の繰り返しだったが――

 以下、これまでの記事。

1.2023年7月7日記事 《尾木直樹が言うように昔のイジメ、古典的イジメは果たして"成長の糧"となり得たのか-八方美人尾木ママの"イジメ論"を斬るブログby手代木恕之》

2.2023年7月19日記事(番外政治編) 《立憲民主泉健太は次期衆院選では政権を獲るための頭数として全選挙区に候補者を立て、政権交代を意識させた選挙戦で存在感を打ち出すべき 八方美人尾木ママのイジメ論を斬るブログby手代木恕之》

3.2023年7月25日記事 《尾木直樹の強い子もイジメられる、それがなぜ可能か説明なしの無責任と文科省イジメの定義に関わる瑣末主義-八方美人尾木ママのイジメ論を斬るブログby手代木恕之》.

4.2023年8月10日記事 《尾木直樹の現代のイジメは「ひと筋縄では解決できない」の詐欺行為といじりイジメお笑い番組悪者説採用の単純解釈-八方美人尾木ママのイジメ論を斬るブログby手代木恕之》

5.2023年9月10日記事 《尾木直樹は現代のイジメは陰湿で残忍で排他的だとする自身の主張に合わせるために教育統計情報を捻じ曲げ、虚偽情報を拡散の悪質なご都合主義者》

6.2023年9月28日記事 《尾木直樹のイジメはここまで進んでいます式の意外性をウリとする安っぽいセンセーショナリズムと自立教育不在の問題点に気づかずに親を批判の無責任-八方美人尾木ママのイジメ論を斬るブログby手代木恕之》

7.2023年10月9日投稿 《過去最多イジメの実践的歯止め――厭なことは「やめて欲しい」から入る、言葉の訓練ともなるロールプレイで-八方美人尾木ママのイジメ論を斬るブログby手代木恕之》
 
 以上、よろしくお願いします。
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日本人の行動様式権威主義の上が下に強いていて、下が上に当然の使用とする丁寧語が日本人の労働生産性を低くしている(2)

2022-04-30 07:03:46 | Weblog
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 小川淳也「立憲民主党の小川淳也です。

 この第6波がもたらした全ての犠牲と、そして多大な困難に、心より哀悼とまた連帯の意を表したいと思います(表します)。

 総理におかれても御苦心(苦心)が続いておられることと思います(いることでしょう)。

 まず、先立つ質疑の中で、一日100万回の接種を表明されました(表明しました)。これは敬意を表したいと思うんですが(敬意を表しますが)、ちょっとワンテンポ、ツーテンポ遅かったんじゃないですか、遅れたんじゃないですか」

 岸田文雄「3回目の接種のタイミングということについてですが(タイミングについてですが)、我が国におけるワクチンの接種、振り返りますと、昨年の10月の段階で、1回目、2回目の接種がまだ1日75万回接種されていた、こういった状況でありました(でした)。11月の段階でも、1回目、2回目の接種が一日20万回のペースで接種が続いていた、こういった状況でありました(でした)。そして、3回目の接種…(小川委員「簡潔な御答弁をお願いします」と呼ぶ)ちょっと済みません。3回目の接種について、11月の11日、薬事承認を得て、12月から開始をしたということであります(開始しました)。

 こういった状況の中で、6か月の間隔を空けて3回目の接種を行うということでありますので(ことですので)、まさに今からが3回目の接種、本格化するタイミングであるということを申し上げています(伝えています)。そのために、1日も早く一日100万回の接種を実現していきたいということを申し上げている次第であります(実現していきたいと伝えているところです)」

 小川淳也「これは決して楽観できませんが、2月中にもピークアウトするんじゃないかという説もある。既に1日10万人単位での感染者数が増えている。3回目の前倒し接種を我が党が要請したのは去年の4月です。そして、早期に具体的な目標設定がなければ現場にだってドライブがかからないということをかなり早い時期から主張してきた。ようやくここへ至って1日100万回、これは結構なことなんですが、週末の厚生労働大臣のテレビ発言を受けて、あたかも追い込まれたように表明されたともお見受けしていますよ(表明されたとも見えます)。

 ここはまさに、岸田総理、聞く力も結構ですが、危機管理ですから、やはり決断をし、発信をし、実行していくことこそが問われていると思います(問われています)。

 重ねて週末の混乱等についてお聞きしますが(聞きますが)、2歳児へのマスク着用について。

 これは、実際に実行可能かという問題もある。そして危険性はないのかという課題もある。そして最終的には、私、これを聞いたときにどう思ったか申し上げますが(どう思ったかと言うと)、どうせすぐに引っ込めるだろうと思ったんですよ、総理は。これも、もはや慣例になりつつある朝令暮改とも言える。

 適切でなく危険があり、そして意思決定の過程含めて朝令暮改のそしりを免れないと思いますが(免れませんが)、この2歳児のマスク着用について、この点、総理、答弁を求めたいと思います(答弁を求めます)」

 後藤茂之(厚労相)「子供のマスク着用につきましては(ついては)、2月4日の新型コロナウイルス感染症対策分科会におきまして(新型コロナウイルス感染症対策分科会で)、発育状況等からマスクの着用が無理なく可能と判断される(判断できる)子供について可能な範囲で着用を推奨するという専門家の提言も出ております(提言が出ています)。

 それから、2歳未満の子供には推奨しないというような報告もなされております(推奨しないという報告も出ています)」

 小川淳也「これは元々、WHOは、5歳未満児は危険だから、有用性も低いし、そもそも推奨していないんですよ。ですから、ちょっとこれは厚生労働大臣にも責任があると思いますが、いろいろ言われるでしょう、それは、知事会、あるいは番組で。もう少し御発信前にはよく御検討いただいて(発信前にはよく検討して)、そして後に総理がひっくり返さなくて済むように、この辺りも慎重な対応を求めておきたいと思います(求めます)。

 もう一点。

 これは後ほど大串さんが厳しくやられるとお聞きしていますが(厳しく追及すると聞いてますが)、林外務大臣にお聞きしておきます(聞きます

 アメリカ軍による検査なしの入国ですね。9月に通知したと米軍は言っている。日本政府は聞いていないと言っている。しかし、この認識のそごは外務省の取組に不十分な点があったと真摯に受け止めていると、林外務大臣は発言なさっている(発言している)。これは、この意思疎通のそごは、日本側に責任があったという認識でいいですね」

 林芳正(外相)「私が申し上げた答弁(私の答弁)を今引用していただきましたが(引用しましたが)、我々の方にもそうした足らない部分があったということは申し上げたわけですが(伝えましたが)、我々だけというふうに申し上げたわけではないわけでございます(我々だけというふうに伝えたわけではありません)」

 小川淳也「ちょっと、この点、大串さんが後ほど質問させていただくと思いますが(質問しますが)、一事が万事こういう状態ですから、岸田政権のリーダーシップ、判断力、決断力、実行力、大きく問われつつある局面だと思いますよ(局面です)。

 私は、こうなった以上、どうしていくかというのが一番大事な議論ではある、しかし、なぜこうなったのかという議論は、決してなおざりにはできないと思っています(なおざりにはできません)。

 その意味でお尋ねしますが(尋ねますが)、私、去年の国会で総理が、コロナ対策は最悪を想定することが大事だとおっしゃった(発言した)。いい御発言(いい発言)だと思って聞いていました。恐らくそれは、安倍政権や菅政権で必ずしもそれが十分でなかったという反省の下におっしゃったとも(発言したとも)受け止めていました。

 しかし、これは誰がやっても難しかったことは認めます。認めますが、ちょっと資料を御覧いただきたいんですが(ちょっと資料を見てください)、岸田政権発足後、11月の12日に、第6波に向けた安心確保のための取組全体像を決定し、発表しておられる(発表している)。

 そこには、第6波の最悪の事態を想定し、今後感染力が2倍になった場合にも対応するとおっしゃる(言っている)。しかし、これは1日当たりの感染者数でいえば、第5波のピークは1日2万5千人ですから、そして今、1日10万人ですから。2倍としても5万、更にその倍、実際には4倍を超えたわけです、1日の感染者数という意味では。

 それから、今後の感染ピーク時における自宅、宿泊療養者数は最大で23万人と想定している。しかし、実際には先週段階で既に40万人を超えた。

 これは、総理、いろいろ御事情もある(事情もある)、誰がやっても難しいことは認める。しかし、現実に、結果責任という意味において、最悪を想定すると口ではおっしゃったが(口では言ったが)、実際には最悪を想定し切れなかった、想定が十分ではなかった、このことをまずお認めいただきたいと思いますが(認めるべきですが)、総理」

 岸田文雄「まず、昨年11月の全体像と銘打った計画においては(では)、よく見ていただければ分かりますように(よく見れば分かるように)、2倍を想定しながらも、3倍以上もしっかりと……(小川委員「4倍じゃないですか」と呼ぶ)いや、3倍以上もしっかり対応できる、こういった全体像を掲げて準備を進めたということであります(準備を進めました)。

 だからこそ、例えば、東京の例を見るならば、昨年の夏、ピーク時、新規感染者は5千900名ほどでありました(ほどであった)。しかし、その段階で、昨年8月、病床は満床状態でありましたし(でしたし)、そして重症病床も満床という状況でありました(状況でした)。

 しかし、今申し上げた11月における全体像に基づいて計画を進め、そして病床を確保し、稼働率を引き上げ、そして病床の見える化も行ったから、今現在、昨年のピーク時の、おっしゃるように(言うように)4倍の新規感染者が生じているわけですが、それでも、去年の夏は満床状態でありました(でした)。今年の、今の病床使用率は55%にとどまっている。そういった準備を進めていたからこそ、今現在、病床の使用率は55%。そして、重症の病床については、現在、東京は40%、東京基準では8%、こうしたことになっています。

 そういったことのために、11月、全体像を示して準備を進めてきた、こういったことであります(こういったことです)」(発言する者あり)

 根本委員長「恐縮ですが、簡潔にお願いします」

 小川淳也「お言葉ですが、病床使用率が5割台にとどまっているのは、入院できていない人がたくさんいるからですよ。感染爆発後に入院基準を緩めたじゃないですか、元々、全員入院とおっしゃっていたんだから(いっていたんだから)、総理は、オミクロン株については。後追い後追いで、現実に追従し続けているわけですよ。

 それじゃ、お聞きしますよ(聞きます

 11月に決定された(決定した)本部決定ですが、資料の3行目、全ての自宅療養者にパルスオキシメーターを配付、できているんですか。状況に応じて機動的に強い行動制限を伴う要請、しているんですか。ワクチン、検査、治療薬の普及による予防、発見から早期治療までの流れを更に加速、できていますか。検査もできていないから、みなし陽性なんということになっているじゃないですか。変異株の状況を踏まえ、緊急事態措置の前提となる感染状況について、速やかに基本的対処方針を改正、していないじゃないですか。2か月半ぶりだ、この間の専門家会議の開催は。全て後手後手に回って、現実の追従、追認に追い回されている。その一方で、被害が拡大していると言わざるを得ないと思いますよ(言わざるを得ない)。

 もう一点。時間に限りがありますから(あるから)先へ進ませていただきますが(先に進みますが)、私……(発言する者あり)いや、ちょっと後で答弁してください。

 問題は、これは、病床使用率が限られているのは、入院できていない人がたくさんいるからですよ。それはお認めいただかなきゃいけない(認めなければいけない)。それで、反論があればおっしゃってください(反論があるならしてください)。

 もう一つ、私が問題にしたいのは、つまり、この対処方針が11月にできたこと、岸田政権の発足は9月ですから、2か月何していたんだということなんですよ。この2か月が、結果的にですが、物すごく重大な影響を及ぼしている。

 つまり、あえて私は空白の2か月と資料に明記しました、空白の2か月。

 まさに岸田総理がおっしゃったように(発言したように)、去年の春先から、まず医療従事者、その後高齢者、そして一般成人にワクチン接種を開始しているんです。しかし、もうここで何度も議論されたと思いますが(議論しましたが)、これを御覧いただければ分かるとおり(見ればわかるとおり)、6か月間隔でスタートしていれば、10月、遅くとも11月から高齢者の接種を始めることができた。そして、ワクチンの薬事承認は6か月間隔で承認していますからね、にもかかわらず、実際に打つのは8か月以降だとおっしゃった(言った)。

 この6か月を8か月とした2か月と、10月から打つべきを12月から開始した2か月と、そして、もっと言えば、9月に政権が発足したのに11月まで大方針を定めなかったこの2か月と、何重もの2か月が、結果的に、これは資料を見てください、下。たらればの話をするのは非常に切ないが、もし10月から3回目接種を開始し、6か月間隔でやれていれば(やっていれば)、先月末、1月末に、少なくとも高齢者は9割方ワクチン接種を3回目終えていた可能性が高い。それをやっていれば、今頃、デンマークやイギリスやフランスや、既に規制解除しているじゃないですか、こういうことだってあり得た。

 この2か月の遅れがどこから来たか。最後に議論して、答弁を求めましょう(求めます)。なぜ、9月、10月にしかるべき対応を取れなかったのか。9月は何をやりましたか。

 私、ここで初めて言いますが、ある行事で退任された菅前総理とお目にかかったんですよ(顔を合わせた)。そのときに、当時、もうオリンピック後でしたが、東京で1日5千人の感染者が出た頃は死ぬかと思うほど苦しかったと前菅総理はおっしゃっていました(言ってました)。私どもも厳しく検証する立場ですが、その言葉には、総理大臣たるものの大きな使命感、責任感、重圧を、想像に余りありますが、感じました。

 しかし、9月にあなた方がやったことは、その菅総理に、総裁選再立候補困難、いわば引きずり降ろした。そして、自民党総裁選に、あえて言いますが、かまけ、そして、任期をまたいで、10月いっぱいかけて総選挙をやった。

 まさに、この2か月の空白、2か月の遅れは、党内事情の優先、政局優先がもたらした致命的な2か月なんじゃないですか。それを含めて御答弁いただきたい(それを含めて答弁ください)」

 岸田文雄「まず、2か月何をしていたかということでありますが、それは、まさに先ほど、11月、お示しさせていただいた全体像(提示した全体像)、これを取りまとめ、しっかりと次の体制の準備に充ててきたということだと思っています(充ててきたということです)。

 そして、先ほど、ワクチン接種、遅いではないか、9月にはできたのではないか、こういった御指摘がありました(こういった指摘がありました)。

 しかし、それについては是非昨年の状況を振り返っていただきたいと思います(昨年の状況を振り返ってください)。全世界的に、11月頃、オミクロン株の感染拡大が注視される中にあって、多くの国々が最新のエビデンス等を踏まえて最初は8か月接種という議論から議論を始めていた、こういったことであったわけです。

 その中にあって、我が国においては、昨年、先ほど申し上げたように、10月、11月、まだ1回目の接種、これを続けていた、そして11月に薬事承認を得た、そして11月に開始をしたということであります(開始したということです)。

 2回目との間隔を空けなければいけない、こういった事情の中で、いよいよ今本格的に第3回目の接種がスタートする、進んでいくということでありますので(ことですので)、1日100万回という目標を掲げて、しっかりと進めていくということを申し上げています(発言しています)。

 ワクチンは確保できました。体制も整ってきました。是非、本格的に3回目の接種を進めていく時期が来ていると認識をしております(認識しています)」

 小川淳也「総理、これは私も厳しく質問する立場なんですが、誰がやっても難しかったことは認めているんですよ。しかし、日本で、この過酷なコロナ禍で、1年以上もった政権はまだありませんから(ないですから)。そこに共通しているのは、言い逃れと強弁なんです。

 総理、それは岸田総理には似合わない。きちんと事実は事実として認めて、謙虚に。そして、事によっては柔軟に方針変更も受け入れ、更にその批判も受け止めというのが岸田総理のスタイルだと思ってお聞きしているんです(聞いているんです)。

 欧米は早かったんですよ、8か月を6か月に短縮するのは。

 そして、日本の場合、さっきも申し上げましたが、薬事承認そのものが6か月間隔ですからね。これを8か月にしたことには何らかの政策的判断があったんでしょう。 
そして、それを前倒すことは確実に遅れている。そして、この遅れの2か月が、致命的な2か月になった可能性があるということを指摘しているわけです。

 さらに、我が党は、コロナ対策に関して言うと、それに限らずですが、積極的に議員立法の提案をしています、昨年来。

 例えば、困窮された大学生の支援一人10万円。ありがたいことに補正予算で実施をいただきました(実施を受けました)。これは、全部自分たちの手柄だと言うつもりは全くありません。もちろん、与党・政府におかれていろいろな検討をされた(検討をした)。そして、国民からいろいろな声があってのことでしょう。しかし、我が党に関して言えば、そういうことです。

 そして、ガソリン価格の値下げ法案。補助金の創設につながっています、不十分ですが。

 そして、文書交通費の透明化法案。これは私、維新の皆さんに率直に敬意を表していますよ。そして、自民党にも重い腰を上げてもらわなきゃいけない。早くこの政治と金をめぐる問題は、さっさとけりをつけなきゃいけないんですよ。

 そして、子供給付金の現金化法案。これは総理には半分反省いただきたいんですが(これには総理は半分反省すべきですが)、クーポンか現金かで一定の混乱がありましたが、後に、もちろん朝令暮改とはいえ、現金容認に方針転換をいただいた(方針転換した)。

 今、ワーキングプアの世帯支援法案を提出しています。そして、先般、離婚世帯に対する子供給付金は適正化すべきだ、これも御決定いただきました(これも決定を受けた)。そして、事業復活支援金倍増法案、これも今提出中です。

 そして、本日午後3時、感染症法の改正案を国会に提出いたします(提出します)。

 これは、さっきの基本方針との関係でいえば、変異株の状況を踏まえ、緊急事態措置の前提となる感染状況、ステージについては、速やかに基本的対処方針を改正するとおっしゃった(改正すると言った)。病床や医療人材の確保について、国や自治体が要請、指示をできるように法的措置を速やかに検討するとおっしゃった(検討すると言った)、去年の11月です。感染有事における備え、取組について、法的措置を速やかに検討するとおっしゃった(検討すると言った)、これも11月。司令塔の強化により危機管理の抜本的な強化をするともおっしゃった(するとも言った)、これも11月。全て6月だと今になっておっしゃる(今になって言っている)。もう提出しますよ、今日午後3時に、感染症法の改正案。

 これは、かねてからの課題である、やはり日本は開業も自由化されていますから、しかし、医療経済は、医療費40兆円は、9割方税金と保険料によって賄われている、この矛盾が一気に噴き出したのがこのコロナ禍の重圧でした。したがって、それは直ちに変えられないにしても、民間病院に対して今まで以上の協力を要請する法的根拠を速やかに設けなければならない。それが今日午後3時に提出する感染症法の対策案です。

 総理にお願いいたします(総理に求めます)。

 これも半分感謝なんですが、政府・与野党協議会を1年ぶりに再設定していただきました(再設定となりました)。今週木曜日、再度関係者が集まる予定です。これにも感謝しています。私は、先々週、一回目の会合で、この感染症法に関する議論、政府・与党で御検討いただいていることは(検討していることは)大事なことなんですが、与野党で、最終的には法律ですから、前広に、早めに御議論いただくことを(早めに議論することを)提案しています。

 是非、部下たる、その場に出席しておられる木原副長官に、この件は与野党で事前によく話し合えということを御指示いただきたいと思いますが(指示すべきですが)、お願いできませんか(お願いできますか)」

 岸田文雄「御質問の趣旨は(質問の趣旨は)、この法案についてそこで話し合えということでしょうか。(小川委員「まあ、それに限らず中身を広く」と呼ぶ)はい。

 いずれにせよ、これは国会において、法案の取扱い、そしてどのような議論を進めていくのか、これは国会のそうした協議会等の場でしっかりお決めいただくことだと思います(決めることです)。政府の立場から具体的に何か申し上げることは控えなければならないと思いますが(政府の立場から具体的に何か口にすることは控えなければなりませんが)、是非、与野党で議論を深めていただくことを期待いたします(議論を深めることを期待します)」

 小川淳也「これは、正確に伝わっているかどうか。政府・与野党連絡協議会でして、政府代表で木原副長官がお見えなんです(出席しています)。そして、与党の責任者では西村先生がいらっしゃる(います)。野党は私どもがおります(います)。ですから、政府の立場から、ちゃんとこれは前広に、幅広に早期の議論を開始しろとおっしゃっていただいた方がいいんですよ(言ってくれた方がいいんですよ)。

 もう一度お願いします(もう一度願います)」

 岸田文雄「法案の取扱いということでありますので(法案の取扱いですので)、これは国会でお決めいただかなければならないということです(これは国会で決めることになります)。議論については、政府としてしっかり、申し上げること、説明すべきことはしっかり責任を果たしていきたいと存じます(いきたいと思います)」

 小川淳也「ちょっと私も職責上厳しく申し上げていますが(職責上厳しく言ってますが)、まさにそういうところのリーダーシップなんですよ。誰かに任せる、どこかに任せるじゃなくて、総理はどうされたいか(どうしたいのか)、総理は何を指示しているのか、何を決めているのか、何を発信しているのかが問われているということだから申し上げているんですが(発言しているんですが)、御答弁は不十分だと思います(答弁は不十分です)。

 関連して……(発言する者あり)」

 根本委員長「やじは控えてください」

 小川淳也「関連して、今回の対処方針の見直しなんですが、私、ちょっと切ないと思っていることがもう一つありまして、子供たちに、やれ部活動の制限だ、まあ確かにそうなんですよ、学校と保育園で感染が広がっていることは事実。しかし、部活動の制限、それから練習試合をするな、体育も気をつけろ、給食は向かい合って食べちゃいけない、合唱するな、管弦楽を吹くな。非常に私、つまり、私たち大人にとってもこの二年、三年、極めて重圧がかかっていますが、子供たちは私たちの想像以上だと思うんですね。

 この大事な発達段階にある子供たちにこれだけ厳しいことを言い、そして、これは後々どの程度影響を及ぼすのか、誰にも分かりません。そして、現にこの世代の子育てをしておられる保護者の皆様の心労(保護者たちの心労)、心配たるや、切々たるものが伝わってきます。

 これが、ちょっと私もここではっきり言い切れないんですが、必要ないとも言い切れない。しかし、大人社会に対するメッセージは経済優先でしょう。

 そして、ちょっとうがった見方と言われるかもしれませんが、子供たちには投票権もない。最も弱い立場ですよ、この社会において。そこには、部活やめろ、練習試合するな、体育も気をつけろ、給食は向かい合うな、合唱はやめろ、管弦楽は吹くなと言いながら、今、病床使用率、そうはいっても、都内、5割から6割に迫ろうとしています。毎日100人近い人が死んでいる。そして重症者は千名を超えた。

 でも、今なお大人社会全体に対する緊急事態宣言は、総理、今、念頭にないんですか」

 岸田文雄「前半の部分については、感染症対策をしっかり進めるということ、そして、社会経済活動をできるだけ継続していくということ、この二つのバランスを取っていくことが大事であるということで、様々な対策を取っています。

 そして、最後の質問、緊急事態宣言、考えていないのかという質問についてですが(質問ですが)、これは今、緊急事態宣言については、病床の逼迫度に重点を置いたレベル分類を参考にしつつ、総合的に判断するということになっております(なっています)。先ほど言いましたそのバランス等もしっかり考える中で、現時点では緊急事態宣言の発出は検討しておりませんが(検討していませんが)、こうした対策、今、蔓延防止等重点措置等を行っているわけですが(行っていますが)、こうした対策等の効果等も含め、今後の事態の推移を注意深く見極めて、必要な対応を考えていきたいと思っております(考えていくことにします

 小川淳也「この点、尾身先生にも率直にお聞きしたいんです(率直に尋ねます)。尾身先生、今日はありがとうございます。

 2点お聞きします(聞きます)。一つは、緊急事態宣言についてどう考えるか。もう一つは、週末に、ファイザー、ファイザー、モデルナの交互接種をされましたね。その後、御自身の体調変化を含めて、国民の皆様に説明できることがあれば。2点御質問申し上げます(2点質問します)」

 尾身茂「まず、緊急事態宣言のことですけれども(ことですが)、私は、緊急事態宣言の出す基準というのは、これまでどおり、単に病床使用率だけでなくて、入院患者の重症度など医療の逼迫を中心に、と同時に、もちろん感染者の数も踏まえて総合的に判断すべきだと思っています。

 それで、今出すべきかどうかという話は、蔓延防止重点措置の効果、及び、先週我々が出したいろいろな提案、そうした効果を踏まえて、重症者の増加も含め、医療機能の不全が想定されれば、実際に機能不全となる前に緊急事態宣言を出すオプションもあると思いますが、前回のここでも申し上げたように(発言したように)、その場合には、一体これから社会経済活動をどこまで制限をするのか、それから、オミクロン株に特徴的な対策はどんなものかというものの国民的なコンセンサスが必要だと思います(必要です)。

 二つ目の御質問(質問)は、先週、私は、ファイザー、ファイザー、それでモデルナを打たせてもらいましたけれども(打ちましたが)、その反応は、もう二日たちましたけれども(二日たちましたが)、打ったときの感覚も、腕の感じ、私は熱とかはありませんでした、ここのやや重だるい感じは、これは正直に申し上げて、ファイザーのときよりも軽かったです。と同時に、今日も打った副反応というのは全くございません(全くありません)」

小川淳也「ありがとうございました。個人的なことも含めて御答弁いただいたことに感謝申し上げます(個人的なことも含めた答弁に感謝します)。

 それで、確かに、総理、これは本当に簡単ではない。私もお聞きするのが仕事ですからやっていますが(私も聞くのが仕事だからやっているが)、これは簡単でないことは私も認めます。認めますが、さっき申し上げたのは(さっき発言したのは)、子供たちに大変な制限がかかっている。人生のすごく大事な発達段階。しかし、大人社会全体を見ると、経済優先だ、経済は止められないと。何か、難しいことは認めるんですが、しかし、やはり大人たち挙げて、本当に一刻も早い感染収束に向けて努力しているんだということは一方にないと、これは子供たちだって納得できないし、非常に心理的負担も大きいと思うんですね。

 ましてや、今日ちょっと、同じようなメッセージと受け止めていいのかどうか分かりませんが、非常に消極的な総理と、あり得るとおっしゃる尾身さんと、そして、与党の政調会長なんかはもうちょっと踏み込んでおっしゃっていましたから(踏み込んで発言していたから)、この辺の発信が乱れることについても、私は適切だとは思わない。

 そういうことも含めて、司令塔機能も、またこれも6月なんでしょう、遅いと思いますよ。早く結論を出して、方向性を示していただかないと(方向性を示さないと)ということを重ねて指摘したいと思います(重ねて指摘しておきます)。

 関連して、瑣末なことだと思われるでしょうが、大事なことなのでお聞きします(質問します)。いわゆるアベノマスクの配付、処分について。

 これは、37万件の応募があった、2億8千万枚の配付希望がある、しかし在庫は8千万枚しかない。どうやって2億8千万枚を、8千万枚に査定する必要があると思いますが、これは誰が担い、どのようにコストを負担するんですか」

 後藤茂之「今、小川委員の指摘がありましたとおり(指摘どおり)、昨年12月24日から本年1月28日までの間に合計37万件という多数の申出をいただいたのはそのとおりでございます(多数の申出があったのはそのとおりです)。

 現在、厚生労働省において、まずはこの多数の希望について具体的な集計作業を進めているところでございまして(ところでして)、今後おおむね1か月程度で、個々の希望者への配付枚数等を決定しまして(決定して)、その状況を公表する予定としております(予定です)。

 配付希望者の内訳や配送費用については、こうした作業の結果明らかになるものであり(明らかになりますから)、現時点でお示しすることは(示すことは)厳しい状況です。

 小川淳也「これは総理にも御承知おきいただきたいんですが(これは総理も承知しておくべきですが)、担当課たる厚生労働省医政局経済課には約30名の職員がいます。37万件の応募を精査するんです、これから1か月かけて。1人1万件を超えるんですよ、みんなでやったとして、毎日やったとして。このマスクの配付に大事な医政局の30名を、1人1万件、1か月かけて精査させることにどれほど国政上の意味がありますか。どういう意味があるんですか。

 お聞きしますが(聞きますが)、厚生労働大臣、厚生労働省は、基本的対処方針において、1月25日の変更かな、不織布マスクを感染症対策としては推奨し、布マスクは推奨していませんね、この事実だけ」

 後藤茂之「不織布マスクの方が布製マスクよりも効果があり、基本的に対処方針で不織布マスクが推奨されている(不織布マスクを推奨している)というのは事実で、これは国民の皆さんによく分かっていただきたいと思っております(これは国民のみなさんはよく理解しておいてください)。

 ただ、要するに、飛沫を出す側と吸い込む側の双方がマスクを装着することでマスクの効果というのは高まりますし、それから、不織布マスクの内側にガーゼを当てていただくことで(当てることで)マスクの着用が心地よくなるとか、いろいろな工夫はあるだろうというふうに思っております(思います)。

 小川淳也「だったら、それを厚生労働大臣、率先してやってください。布マスクして、その上から不織布マスクして、率先してやってください。そんな人見たことありませんよ。

 不織布マスクと書いてあるんだから、マスク着用は、厚生労働省の、コロナ対策本部の本部決定で。その感染症対策に使えない布マスクを、もう一回申し上げますが、30名の職員で37万件を精査して、配送する。愚策にもほどがあるでしょう(ほどがあります)、総理。

 それで、じゃ、もう一つお聞きしますね(もう一つ聞きます)。感染症対策に使えないんだから。

 ちまたでは言われているわけです(ちまたで言われています)、御存じだと思いますが(承知しているはずですが)、使い捨ての雑巾にしたらいいじゃないかとか、野菜の栽培の苗床にしたらいいじゃないかとか、野菜の乾燥防止だとか、赤ちゃんの暑さ防止に保冷剤を入れたらどうかとか。いや、それは、知恵を働かせてこういう提案があることはいいことですが、問題は、こういう用途のために税金でマスクを調達し、それを査定して配送することは政策判断として適切かどうかという問いに真っすぐ答えなきゃいけない。総理、いかがですか」

 後藤茂之「在庫となっている布製マスクは、そもそも、国民の皆様にマスクとして活用いただくという目的で、配付することを目的に調達したものでございます(マスクとして活用する目的で、配布すべく調達したものです)。本来の事業目的を踏まえれば、今般配付する布製マスクも、マスクとして御活用いただくことを優先して配付するべきだというふうに思いますけれども(マスクとしての活用を優先して配布すべきですが)、具体的な利用法については、有効に活用していくということで考えております(考えています)」

小川淳也「いや、厚生労働大臣、せっかくお出ましいただいたので(せっかく出席しているのだから)、これは有効な使い方ですかと聞いています。雑巾、野菜の苗床、乾燥防止、赤ちゃんの保冷剤、これは有効な使い方ですかと聞いています」

 後藤茂之「今、具体的な事例についてそれぞれ申し上げるということではありませんけれども(申し上げはしませんが)、少なくとも、使い捨て雑巾やいわゆる栽培に使われるような話ですか(使うという話ですか)、そういうことも含めて、それが適切な用法であるかということからいうと(それが適切な用法であるかというと)、有用とは少し違うように思います」

 小川淳也「今、否定なさいました。

 総理、もう申し上げたことは伝わっていると期待したいと思うんですが(私が言おうとしたことは伝わっていると思いますが)、私もちょっといろいろな声も受けていまして、これは、一件審査して全部配送って、ちょっと、どこまで親切なんだということですわね。税金ですから、元手は全部。

 これも私、いいとは思えないんですが、せめて最悪じゃないかもしれないのは、もう本当に迷惑千万ですが、都道府県や市町村や国の出先機関に一定量を配送して、御入り用の方は取りに来てくださいという方がまだましじゃありませんか(まだましじゃないですか)、総理。処分するか、使うのであればそういうもうちょっとましな配送方法を考えるか、もうちょっと改善が必要じゃありませんか」

 岸田文雄「まず、御指摘の布製マスクですが(指摘の布マスクですが)、これは、かつて日本の国においてマスクが不足をし、国民の中で、マスクが不足をしている、そしてマスクが高騰していく、大きな不安が社会の中で広がっていた、こうした事態に対して、少しでも国民の不安を和らげるために何か施策がないか、こういったことで打ち出された施策であったと認識をしています(認識しています)。しかし、その後、マスクの流通は回復しました。そして、不足に対する心配、これは払拭されました。

 こういったことを踏まえて、昨年末、私の方から厚生労働省に対して、希望をされている方に配付をし、有効活用を図った上で、年度内をめどに廃棄をするよう指示をした、こうしたことであります(こうしたことです)。

 そして、それを受けて、今、多くの方々がこのマスクを利用したいということで希望を寄せられている(利用したいと希望している)、これが、先ほど委員も御指摘になられた(指摘した)、この多くの希望者が殺到している状況であると認識をしています(状況だと認識しています)。希望をされる方があるのであるならば(希望者があるならば)、これは是非有効利用はしていただきたいと思っています(これは是非有効利用を願いたいと思っています)。

 そして、廃棄なのか、それから、それを配送するのか、このコストのこともおっしゃいましたが(言いましたが)、有効利用していただけるのであるならば(有効利用できるのであれば)、当初からこの布製マスクについては配送の予算というのは想定していたわけでありますから、これは配送した上で有効利用していただく(有効利用をお願いする)、こうしたことを考えていただくのは(こうしたことを考えるのは)意味があるのではないかと考えています(考えます)」  

 小川淳也「ちょっと受け止め切れない御答弁ですよ(答弁ですよ)。

 そもそも、あの感染が流行していたときに、第一波、そしてマスクが手に入らない状況下で、布マスクがどれほど国民の安心につながったのかというそもそもの問題があります。しかし、そのときに調達したものだから、苗床にしましょう、雑巾にしましょうと言っていることも含めて有効活用してもらえばいいという話にはならないでしょうとお聞きしているんです(聞いているのです)。配送費用だって、今回その安心のためじゃありませんからね、そこに何億もかけるんですかという話なんですよ。考えにくい。

 これはまたやらせてください、改めて。もう、ちょっとこればかりはあれだから。

 この国会で一つのテーマたる統計について聞きます。

 まず、資料を見てほしいんですが、総理、ちょっと率直なところをお聞きします(率直なところを聞きます)。

 建設総合統計、不正があったのは建設受注統計です。しかし、そこから数字を取る建設総合統計、これはGDPに直結しています。この直ちに不正があったものではない建設総合統計の、不正二重計上が開始された2013年、極めて数字がバブル期ほどに伸び上がる異常値を示していますが、これは不正統計の影響ですか。それとも、実際にこんなに建設需要がよかったと判断すべきですか。

 ちょっと、総理、これも通告していますから、お答えいただきたいと思います(答弁願います)。

 斉藤鉄夫(国交省)「建設総合統計の出来高は、平成24年、2012年から平成25年、先ほどおっしゃった(先ほど言及された)2013年にかけて、42・8兆円から48・0兆円に上がっておりまして(いまして)、おっしゃるとおり(言及どおり)、12・1%の増となっております(います)。

 このような伸びとなったのは、東日本大震災からの復旧復興事業や防災・減災対策、それから老朽化対策等を盛り込んだ平成24年度補正予算の執行が本格化したことにより、公共部門の建築、土木投資額が押し上げられたことや、景気の改善により民間部門の建築、土木投資額が押し上げられたことなどによるものと考えております(考えています)。

 なお、実績ベースの数字、これは受注統計と関係のない、実績の建設投資額の実績値ですが、これを見ましても(見ても)、平成24年度の42・4兆円に対して、平成25年度は48・3兆円と13・8%の増となっております(います)。

 また、それとはまた独立した、受注とは関係のない統計で表しました(表した)元請完成工事高、施工統計調査ですけれども(ですが)、11・0%の増となっております(なっています)」

 小川淳也「総理、今の御答弁をお聞きいただいて(今の答弁を聞いて)、それからこの数字を見ていただいて(この数字を見て)、私、当初はにわかに信じ難いと思ったんです(信じ難かった)。しかし、よく調べ、そして話を聞けば聞くほど、不正統計の影響だとはやはり断定できないと思うに至りました。  

 今おっしゃったように(発言したように)、当時、第2次安倍政権発足直後、公共事業にアクセルを踏んだ、そして、景気回復とおっしゃったが(景気回復を打ち出したが)、まあ、震災のこともある。それ以上に、私は、翌14年が消費増税の年でしたから、恐らく、民間の住宅などを中心に駆け込み需要が相当程度あったということも影響していると。

 したがって、何が言いたいかというと、これが直ちに統計不正の影響とは断定できない。しかし、私どもは、なぜこんなに政府の統計に対して不信の目を持っているかということに改めて思いが至るんです。

 それで、総理、建設関連だけで申し上げますが(説明しますが)、2013年にまさにこの二重計上の罪が生じました、それ以降。2015年、まさに国交大臣がおっしゃいましたが(まさに国交大臣が言いましたが)、建設投資額に、突如として、その年から補修費や改修費を計上したんですよ。これによって、建設投資額は当時の47兆円から57兆円、22%増大しました。まさにこの2015年はGDPの計算方法を一斉に見直した年で、僅か一夜にして、国民の懐は全く暖まっていないにもかかわらず、僅か一夜にして31兆円GDPが増大したその年です。このときに、建設投資に、47兆から57兆まで、突如として補修、改修を乗せているんですね。

 さらに、2020年、21年、今度は、これは受注統計ですが、調査票に回答してくれない事業所があるんです。それが大体3割ぐらいある。その3割の事業所の数字を、回答していないのに回答したものと擬制し、3割数字を積み増す統計操作をやっているんですよ、21年。このときに、受注統計は54兆から67兆、一気に24%増えているんです。

 それで、私は何を問題にしたいかというと、これは、それぞれに理屈があることは認めます。しかし、統計は、やれ正確性を期せ、精度を高めろというかけ声の下に、3年前にさんざんこの議論をしましたが、統計に政治あるいは行政の手が当然入るわけですね。それで、連続性が失われるんですよ。連続性が断絶されるんです。もう比較のしようがなくなる。

 統計にとって重要なのは、正確性も精度もそうでしょうが、統計にとっての命は連続性なんです。これは、例えて言うと、人が毎日体重計に乗り、血圧を測り、心拍数を数えているようなことに類する話です。民のかまどが本当に暖まっているかどうかは、この推移を見ないと分からない。しかし、ある日突然、いい数字が欲しいから、体重計に乗るときには下着も着けろ、セーターも着たままでいい、上着も羽織れ、コートも着用だ、ついでにマフラーも手袋もだとやることで、いや、それは人前に出るときはふだんそうだからという理屈なんでしょうが、人体の繊細な変化を追えなくなるんですね。

 しかも、この大幅に統計を触ったときに、旧方式で例えば10年、接続統計を別途作成し、経年変化を追って、統計変更の説明責任、影響についての説明責任を果たしますならまだ分かる(果たすならまだ分かる)。それも不可能な形で断絶してきたのが、第2次安倍政権以降の統計操作なんですよ。

 総理、こういうことが背景にあるから、疑いの目を持って見られる。ちょっとお願いします。統計手法を変えたときは、せめて前後10年、旧方式による接続統計を別途作成し、経年変化を正確に追えるように説明責任を果たしてほしいと思いますが、その点、答弁を求めたいと思います(答弁を求めます)」

 斉藤鉄夫「まず、建設総合統計についてお話をさせていただきます(説明します)。

 まさに今……(発言する者あり)

 根本委員長「じゃ、国交大臣の担当だけ言ってください、担当の部分だけ。今の接続の話。その後、内閣総理大臣」

 斉藤鉄夫「はい。

 建設総合統計については国土交通大臣が担当しておりますので(担当していますので)、この建設総合統計の接続性について御答弁させていただきます(答弁します)。

 この建設総合統計についても、先ほど委員おっしゃるとおり(先ほど委員の発言どおり)、接続性、連続性は極めて大事です。そのために、今回……(発言する者あり)」

 根本委員長「斉藤大臣、簡潔に」

 斉藤鉄夫「重ねてやっております(やっています)。そして、この建設総合統計は、最終的に、いわゆる……(発言する者あり)」

 根本委員長「簡潔に話してください」

 斉藤鉄夫「はい。

 この建設総合統計、3年後にいわゆる実績値で確定をいたします(確定します)。その3年間及び4年間については、このいわゆる旧来の方法と新しい方法、重ねてやって、連続性に配慮しているところでございます(連続性に配慮しています)」

 岸田文雄「まず、統計の不適切な処理によって統計の信頼が損なわれているという点については、大変遺憾なことであると思います(大変遺憾なことです)。

 その上で、委員の御質問でありますが(委員の質問ですが)、今回、国土交通省でも検証委員会の議論を行い、報告を行ったわけですが(行いましたが)、この報告も含めて、今度は政府の統計委員会、総務省にあります統計委員会、この統計の専門家において、その報告の検証も行い、なおかつ、各府省の基幹統計について集計プロセスを点検するということになっておりますし(なっていますし)、また、公的な統計の改善施策、ここで取りまとめるということになっています(取りまとめることになっています)。

 委員の御質問の点についても(委員の質門の点についても)、この統計委員会の議論においてしっかり議論をし、その成果をしっかり反映して、政府としてはこの信頼回復に努めていかなければならないと考えております」

 小川淳也「総理、本当に、もうちょっと、何というんですかね、御自身は何を決め、何を御指示なさるのか(するのか)。嫌なこと、駄目なことは、そう言っていただいていいんですよ(そう言うべきです)。しかし、これからどうなるのかが分からない、総理の答弁からは。それをもうちょっとはっきり発信いただくことに努めていただく必要があると思います(もうちょっとはっきり発信すべく努めるべきです)。

 残りの時間で、この間、私、本会議で代表質問に立たせていただきました(立ちました)、そのときに十分聞き切れなかったことを二点お聞きします(聞きます)。

 赤木裁判で、なぜ佐川氏に、1億円の賠償金を払いますからね、これは岸田総理のポケットマネーではありません、国民の税金からです。つまり、国は責任を認めたということです。しかし、その直接間接の大きな原因になったであろう佐川氏に求償権を行使すべきだということをお尋ねしましたが(尋ねましたが)、求償権があるとは考えていないと早々に即答された、その理由。

 そしてもう一点は、この質問でした。学術会議の任命拒否問題、まだ引きずっているわけですが、これは違法状態ではありませんかと聞いた。しかし、手続が終了するとお答えになった。手続の終了いかんを聞いていません。違法状態にあるのではないかと聞いています。

 この二点、明確に御答弁を求めたいと思います(明確に答弁を求めます)」

 岸田文雄「2点御質問をいただきました(2点質問ありました)。

 まず1点目につきましては(まず1点目は)、国家賠償法に基づく求償については、当事者たる財務省において、国が個々の職員に対して求償権を有するとは考えていないと判断しているということを承知しています(国は個々の職員に対して求償権を有する決まりとはなっていません。)。この判断につきましては、当事者たる財務省、すなわち財務大臣にこれを御確認をいただきたいと思っております(確認してください)。

 そして2点目。日本学術会議の件につきまして、違法状態ではないか、この点について答えろという御質問でありますが(質問ですが)、これにつきましては(これについては)、公務員の選定、罷免権が国民固有の権利であるという考え方からしますと、国家公務員である日本学術会議の会員は内閣総理大臣が任命権者であり、学術会議の推薦どおりに任命しなければならないというわけではないと考えています。

 また、これは法律を見ましても、定年による退職等は認められているわけですから、絶えず210人の人数を満たしていなければならないというものではない。すなわち、会員が常に210人でいる状態を求めているものではないと認識をしております(認識しています)。

 こういったことから、違法であるという指摘は当たらないと考えている次第であります(違法であるという指摘は当たりません)」

 根本委員長「小川淳也君。必要であれば財務大臣、よろしいですか」

小川淳也「財務大臣がおっしゃることは事務的にお聞きしました(財務大臣の発言は事務的に聞きました)。佐川氏が亡くなられた赤木氏に対して、担当を外すなども含めて、財務省全体として十分な安全配慮義務を行ったという回答でした。しかし、これは、そもそもが違法な疑いの濃い命令ですから、指示ですから。

 安全配慮義務で、これはつまり、重過失はありませんというお答えでしたが(答弁でしたが)、求償に値するのは重過失だけではなくて、違法、不法、不当な行為に対する故意が認められた場合も、当然これは法律上、求償の対象になります。ここは、私、よく研究する必要があると思うんですね、この点は。個人の裁判が続いていますから、なおさら。

 それから、学術会議、これも本当は徹底して議論しなきゃいけないんですが。学術会議法は、210名の会議員をもって組織しているという規定が7条にあります。それから、25条、26条には、内閣総理大臣は勝手に辞めさせられないという規定があるんですよ。会員から辞職の申出があったときですら、日本学術会議の同意を得なければ辞職の承認はできないという規定がある。そして、不適当な行為があったときですら、学術会議の申出に基づいてしか退職させることはできない。つまり、実質的な内閣総理大臣の任命権は、明文で拒否、否定されているということです。

 それも含めて、私は、今日いろいろお聞きしましたが(質問しましたが)、コロナ対策もそう、このアベノマスクもそう、不正統計も、あるいは、ちょっと今日、本当は改憲の議論もしたかったんですが、改憲もそう、学術会議、そして赤木裁判。結局、岸田政権は、安倍、菅前、元総理に対する忖度、この影を引きずり、その負の遺産を清算する決意と覚悟に欠け、そして、表紙を替えたおつもりでしょうが(つもりでしょうが)、十分に機能していない、このことが4か月たつ中で明らかになりつつあるということだと総じて受け止めています。

 我々野党としては、これからも厳しく対峙をし、お尋ねをし、そして、いずれ我々が受皿にならない限りこの根本と本質は変わらない、このことを申し上げ、午前中の質疑を終えたいと思います(午前中の質疑を終えます)。

 ありがとうございました」

  根本委員長「午後1時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします(休憩に入ります)」


 《日本人の行動様式権威主義の上が下に強いていて、下が上に当然の使用とする丁寧語が日本人の労働生産性を低くしている(3)》に続く

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財務省2018年6月4日『森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書』はなぜ改ざんを必要としたのかの本質的な原因解明は放置(1)

2021-10-29 04:24:24 | Weblog
 「2021年10月11日代表質問 辻元清美」(辻元清美Official website/2021.10.14)

 森友学園疑惑のみを取り上げる。

 辻元清美「さて、先週、私は、森友公文書改ざん問題で自殺に追い込まれた赤木俊夫さんの妻、雅子さんにお目にかかりました。岸田総理にお手紙を出されたと報道され、直接お話をお聞きしたいと人づてに申し出て、お受けいただいたのです。

どんな思いでお手紙を出したのですかとお聞きすると、岸田総理は人の話を聞くのが得意とおっしゃっていたので、私の話も聞いてくれるかと思い、お手紙を出しましたとおっしゃっておりました。

総理、このお手紙、お読みになりましたか。お返事はされるのでしょうか。お答えいただきたいと思います。そのときに手紙の複写をいただきました。ちょっと読ませていただきます。皆さん、お聞きください。

内閣総理大臣岸田文雄様。
私の話を聞いてください。
私の夫は、三年半前に、自宅で首をつり、亡くなりました。
亡くなる一年前、公文書の改ざんをしたときから、体調を崩し、体も心も崩れ、最後は、自ら命を絶ってしまいました。
夫の死は、公務災害が認められたので、職場に原因があることは、間違いありません。財務省の調査は行われましたが、夫が改ざんを苦に亡くなったことは、書かれていません。なぜ、書かれていないのですか。
赤木ファイルの中で夫は、改ざんや書換えをやるべきではないと本省に訴えています。それに、どのような返事があったのか、まだ分かっておりません。
夫が正しいことをしたこと、それに対して、財務省がどのように対応したのか、調査してください。そして、新たな調査報告書には、夫が亡くなったいきさつをきちんと書いてください。
正しいことが正しいと言えない社会は、おかしいと思います。
岸田総理大臣なら、分かってくださると思います。
第三者による再調査で真相を明らかにしてください。
赤木雅子。

総理は、このお手紙、どのように受け止められたんでしょう。

赤木さんの死も、赤木さんが改ざんに異議を唱えたことも、そして、どんなプロセスだったのか、一切、財務省の報告にはありません。

これで正当な報告書と言えるんでしょうか。皆さん、いかがですか。
皆さんも、御家族がこのような目に遭わされたら、はい、そうですかと納得はできないんじゃないですか。

総理、このお手紙で求めていらっしゃる第三者による再調査、実行されますか。

赤木雅子さんは、この代表質問を見ますと私におっしゃっておりました。先ほどはちょっと冷たい答弁でした。雅子さんに語りかけるおつもりで、御自分の言葉で誠実にお答えください。

臭い物に蓋をして、その上に新しい家を建てようとしても、すぐに柱が腐ってしまいます。長期政権でたまったうみを岸田政権で出すことができないのであれば、国民の皆さんの手で政権を替えていただいて、私たちが大掃除するしかありません」

 岸田文雄(文字起こし)「森友学園問題の再調査についてお尋ねがありました。近畿財務局の職員の方がお亡くなりになったこと、このことは誠に悲しいことであり、残された家族の皆様方のお気持ちを思うと、言葉もなく、静かに、そして謹んでご迷惑(ママ)、ご冥福をお祈り、申し上げたいと思います。

 ご指摘の手紙は拝読致しました。その内容につきましてはしっかりと受け止め、させて頂きたいと思います。そして本件については現在民事訴訟に於いて法的プロセスに委ねられています。今現在、原告と被告の立場にありますので、この返事等については慎重に対応したいと思っています。この裁判の過程に於いて先ずは裁判所の訴訟・指揮に従いつつ、丁寧に対応するよう、財務省に対して指示を行ったところであります。

 いずれにせよ、森友学園問題にかかる決裁文書の改ざんについては財務省に於いて捜査当局の協力も得て、事実を徹底に調査し、そして自らの非をしっかり認めた調査報告書、これ、取り纏めております。

 さらには第三者である検察の捜査も行われ、結論が出ております。会計検査院に於いても2度の調査を行っている、こうしたことです。その上で本件についてはこれまでも国会などに於いて様々なお尋ねに対し説明を行ってきたところであると承知をしており、今後も必要に応じてしっかり説明をしてまいります。

 大事なことは今後行政に於いてこうした国民の疑惑を招くような事態、2度と起こさないということであり、今後も国民の信頼に応えるために公文書管理法に基づいて文書管理の徹底してまいりたいと思います」

 岸田は財務省は「自らの非をしっかり認めた調査報告書を取り纏めている」と言っているが、決裁文書改ざんの事実を認めて、改ざんに関わった職員を処分したのみで終わらせていて、森友学園への小学校校舎建設用地としての国有地売却に関わる取引に絡めて、なぜ決裁文書の改ざんが必要になったのかの疑惑には何一つ答えていない。

 会計検査院の2度の調査は最初の調査で会計検査院に対して改ざん後の決裁文書のみを提出、「交渉記録」等の文書を提出しなかったことが判明、改ざん前の決裁文書や「交渉記録」等の文書の提出を受けて行なった再度の調査であって、財務省は提出しなかった理由を「国会等での説明との整合性等の観点」からとするだけで、「国会等での説明」が国有地売却の実際を隠したり、食い違うことになったのはなぜなのか改ざんの前段階の疑惑についての真相は財務省の「調査報告書」でも解明されずじまいである。また、「国会などに於いて様々なお尋ねに対し説明を行ってきた」と言っているが、国民の多くはその説明に納得していないのだから、責任を果たしたかのように言うのは見当違いである。

 「大事なことは国民の疑惑を招くような事態は2度と起こさない」と言っているが、真相を満足に解明できなければ、悪事を演じる側は真相解明を甘く見て、真相解明が「2度と起こさない」の悪事の歯止めとはならない。歯止めとなるような情け容赦のない徹底した真相解明が必要となる。岸田文雄が真相解明の責任を果たしていると思いこんでいるところに国民との認識のズレを見る。本人はそのことに気づいていない。

 森友学園疑惑の再調査については安倍晋三も麻生太郎も、菅義偉も、それを求める野党の国会追及に対しては拒否を、記者会見では記者の再調査有無の質問に対しては一貫して行わない旨の発言をしているから、同じ穴の一蓮托生とならざるを得ないチームプレーという点からして岸田文雄が「国民の声を丁寧に聞く」をキャッチフレーズとしていたとしても、再調査拒否は予想の範囲内に過ぎない。再調査を約束でもしたら、「いいカッコしやがって」と党内実力者の多くを敵に回して、内閣運営がたちまち支障を来たすことになるだろう。

 岸田文雄が「さらには第三者である検察の捜査も行われ、結論が出ております」と言っていることは国有財産などの管理その他を主な業務としている財務省理財局の当時の局長佐川宣寿を筆頭にその他の職員、森友学園への国有地売却に直接関わった近畿理財局の職員等をいくつかの容疑で告発したことに対する大阪地検特捜部の捜査と結論を指す。主な告発をマスコミ報道から簡単に拾ってみる。

・2015年3月22日、木村真・豊中市議と市民複数が財務省近畿財務局の職員を氏名不詳のまま国有地を不当に安く売却して国に損害を与えたとする背任容疑で大阪地検に告発。
・2015年7月13日、大阪を中心とした全国の弁護士や学者ら246人が財務省職員ら7人を背任容疑で大阪地検特捜部に告発
・2017年7月31日、センチュリー行政書士・社労士事務所が森友学園に対し,国有地を本来よりも8億円以上も値引きして譲渡する決定を下した近畿財務局職員を刑法第193条(公務員職権濫用罪)で刑事告発。
・2017年10月16日、団体代表醍醐聡東大名誉教授が近畿財務局の記録廃棄と国会答弁虚偽による証拠隠滅罪の容疑で東京地検に告発。
・2018年5月30日、上脇博之大学教授が公用文書等毀棄容疑で告発。

 その他にも告発があり、不受理されたものもあって、大阪地検特捜部は6容疑で告発を受理、6容疑共に2018年5月31日に容疑対象の佐川宣寿を筆頭に財務省職員ら計38人を嫌疑不十分か、嫌疑なしで不起訴処分とした。

 「嫌疑不十分」は嫌疑はあるが、嫌疑を固めるだけの証拠を見つけることができなかったということになる。佐川宣寿の側からすると、証拠をうまく隠したということもできる。要するに真っ白の身の潔白を証明されたわけではない。

 だから、2018年6月14日、大阪・豊中市の市議会議員が不起訴は不当だとして検察審査会に審査の申し立てを行なうことになり、2019年3月15日付で大阪第1検察審査会は不起訴になった佐川ら財務省職員10人について「不起訴不当」を議決、大阪地検特捜部が再捜査を行うこととなったが、約5カ月後の2019年8月9日、大阪地検特捜部は財務省職員10人について改めて不起訴処分とし、捜査は終結することとなった。

 2018年5月31日付のNHK NEWS WEB記事が、〈国有地の売却問題で背任の疑いで告発された財務省の当時の幹部らを不起訴にした理由について、特捜部は、ごみの影響で小学校の開校が遅れた場合、損害賠償を請求される可能性があったことを挙げ、「売却によって国は相当額の損害賠償義務を免れた可能性を否定できず国に財産上の損害を生じさせたとは認められない」と説明した。〉と、大阪地検特捜部の2018年5月31日の最初の不起訴理由を伝えている。

 この不起訴理由について大阪特捜は大阪航空局が見積もった1万9520トン、ダンプカー4000台分のごみ(地下埋設物)の存在を前提としていることになる。だが、財務省側・国側は「存在した」と言っているだけで、存在していたことが明確に立証されたわけではない。会計検査院が2017年3月6日に参議院予算委員会の要請を受けて対森友学園国有地売却に関する状況を会計検査した2017年11月の報告書は地下埋設物の処分量を1万9520トンと見積もった大阪航空局が算定に用いている深度、混入率について十分な根拠が確認できなかったとし、結果的に地下埋設物撤去・処分概算額8億1974万余円と見積もったこと自体にも根拠不十分として疑義を投げかけている。

 会計検査院のこの報告書は2017年11月23日。大阪特捜部の不起訴決定は会計検査院の報告から約半年後の2018年5月31日。会計検査院の国有地売却に関する全体的な疑義を無視したことになり、大阪特捜部の捜査と会計検査院の会計検査とは大きく異なることになった。

 また、大阪特捜部の不起訴理由「売却によって国は相当額の損害賠償義務を免れた可能性を否定できず国に財産上の損害を生じさせたとは認められない」は当初森友側が小学校建設工期との関連から地下埋設物撤去・処分を大阪航空局に要求、大阪航空局は土地そのものが売却してすぐにカネが入るものではなく、売払いを前提とした10年間の貸付契約であるために予算不足から森友側の要求に応じられない旨を返答。対して森友側は損害賠償をチラつかせ、現実的な問題解決策として納得できる金額での早期の土地買受けによる処理案を提示、そのために地下埋設物撤去・処分費用を8億1974万余円と見積もったことになるが、森友側の要求を放置していたなら、地下埋設物撤去・処分費用と同額程度の損害賠償請求を受けていた可能性を予想されることから、このことを以って「国に財産上の損害を生じさせたとは認められない」と結論づけたということなのだろう。

 だが、地下埋設物撤去・処分費用を過大に見積もり、最安値で売るための道具として双方納得づくで損害賠償請求を持ち出したヤラセと疑うこともできる。ヤラセかどうかの証明は1万9520トン、ダンプカー4000台分の地下埋設物が実際に存在したかどうかにかかっている。実在し、正当な土地取引なら、何も「貸付決議書」や「売払決議書」、あれやこれやの「決裁文書」を改ざんする必要性は何も生じることはない。国有地を扱う財務省理財局の局長佐川宣寿にしても国会で実際の取引きとは無関係な答弁をする必要性も生じない。虚偽答弁に合わせるなどして一旦確定した行政文書を様々に改ざん・隠蔽することになった。

 必要性が生じた理由は一連の経緯を見ていると、森友学園の新たな小学校建設に関して森友学園の理事長の教育理念に安倍晋三とその夫人安倍昭恵が賛同、特に安倍昭恵が理事長の教育理念に基づいた小学校の実現に協力していることが財務官僚の耳に入り、首相夫妻が後押ししていることを粗末に扱ったりしたら、後でどんなお叱りを受けるかもしれないと萎縮し、その萎縮が事勿れなご機嫌取りの忖度に向かったところへ持ってきて、地下埋設物という予期しない障害を持ち出されて、自分たちの責任問題にならないように安く叩き売ることになってしまったという展開を疑うことができる。

 勿論、証拠を上げて、疑惑を事実(クロ)と断定することはできないが、矛盾を様々に衝くことはできる。決裁文書の改ざん個所、不動産鑑定に関する調査報告書、会計検査院の報告書などからそこに記されているか、炙り出すことができる様々な矛盾を拾い出して、そのような矛盾に対して財務省の調査報告書がどう答えているのか、答えていなければ、不都合な事実を隠蔽する、あるいは誤魔化す必要性から生じることになっている矛盾ということになるはずである。嘘偽りがなければ、矛盾は生じない。

 最初に「平成30年3月19日財務省」名で一旦は書き換えたが、その後に削除したために書き換えに気づくのが1週間遅れたと断り書き(ページ数が入っていなくて、最後から2枚目)を入れてある文書「森友学園事案に係る今後の対応方針について(H28.4.4)」(最後のページ)が、「森友学園への国有地売却に関する決裁文書について」(財務省理財局・平成30年4月12日 )の中に含まれていて、大阪航空局を含めた財務省側が森友学園小学校建設用地の地下埋設物の量とその撤去・処分費用を見積もることになった当初の経緯を知ることができるから、ここに全文を載せておく。文書冒頭左肩に手書きで「削除」と書き入れてある。文飾は当方。

 森友学園事案に係る今後の対応方針について(H28. 4. 4)
  
1.事案の概要

 当該財産は森友学園と定期借地契約を締結し、平成29年4月の小学校開校を目指し、校舎等建設工事に着手した財産。
 3月11日、相手方より、校舎建築の基礎工事である柱状改良工事を実施したところ、敷地内に大量の廃棄物が発生した旨の報告を受け、対応を検討しているもの。

2.対象財産

所 在 地:豊中市野田町1501番地
区分・数量:土地・8,770.43㎡
所属会計等:自動車安全特別会計(空港整備勘定)所属財産
定期借地契約日:平成27年6月8日

3.学園の申し出内容

○ 学園は6月の建物棟上げ式に向けタイトなスケジュールの中で建物の基礎工事を行っている。廃棄物除去の影響で工期がずれ込むこととなった場合、損害賠償請求を行う。ついては工事に与える影響が最小限となる作業手法を提示せよ。
○ 地中から噴出した廃棄物及び建物基礎建築のために掘削した廃棄物混入土の撤去を国の責任で早急に実施せよ。
○ 地中に埋設されていると予測される廃棄物の全面撤去を検討せよ。
○ なお、これらの廃棄物の除去費用等を売却価格から控除するなら、購入も検討したいので、売却価格の提示を考えてもらいたい。

4.本省審理室指示事項

○ 工事に与える影響を最小限にする方策を検討すること
○ 相手方と折衝する際には大阪航空局と十分な協議を行い、明確な対応策を提示すること。

5.対応方針

○ 棟上げ式までの工程に与える影響を最小限にするため、噴出した廃棄物及び建物基礎部分の掘削で発生する廃棄物混入度の撤去作業に関しては、大阪航空局の直接発注では工程上間に合わず、更なる賠償問題に発展することから、相手方経費で施工することとし、売却価格からの控除を検討。
○ 敷地表面を覆っている廃棄物混入土及び地中に埋設されていると予測される廃棄物の全面撤去に関しては、地中の廃棄物の存在確認資料を徴求し、売却時の財産評価において考慮する旨申し出を行い、森友学園と協議する方向で検討。

6.大阪航空局との調整内容

 大阪航空局としては、新たに噴出した廃棄物及び建物基礎掘削工事に伴う廃棄物混入土の処理は、所有者責任上、大阪航空局において処理せざるを得ないものと判断している。
 しかし、早急な予算措置は困難な状況であるため、売却を行う方針で作業を進める。
 ただし、鑑定評価額からの廃棄物処理費減額に関しては、大阪航空局からの依頼文書に基づき減額措置を行うこととしている。

7.今後の作業スケジュール

4月中旬 大阪航空局より廃棄物処理減額依頼文書受理
4月下旬 鑑定評価依頼
5月下旬 鑑定評価書受理
6月下旬 売買契約

 森友側は、〈廃棄物除去の影響で工期がずれ込むこととなった場合、損害賠償請求を行う。〉と損害賠償請求をチラつかせて大阪航空局と財務省側を動かし、最終的には不動産鑑定評価額9億5600万円の土地を地下埋設物の撤去・処分費用を差し引いた約1億3400万円で手に入れた経緯の端緒を窺うことができる。

 一旦改ざんしながら、削除した。隠したい事実があるからで、その事実は推測するしかないが、土地価格約1億3400万円に向かう発端となった損害賠償請求をチラつかせられた事実以外にないだろう。森友側から損害賠償請求をチラつかせられたといった事実はなしにあくまでも事務的な交渉で約1億3400万円に見積もられたとしたかったのだろう。と言うことは、損害賠償請求をチラつかせたことが功を奏した1億3400万円と見ることもできるが、この推測の妥当性をおいおい見ていくことにする。

 この文書に、〈相手方より、校舎建築の基礎工事である柱状改良工事を実施したところ、敷地内に大量の廃棄物が発生した旨の報告を受け、対応を検討しているもの。〉との一文があるが、校舎建築の基礎工事は柱状(ちゅうじょう)改良工事だということが判明する。このことは重要なことだから、頭に入れておいて貰いたい。

 次に森友学園小学校建設予定地地下埋設物の発見からその撤去・処理費を値引きする形で売却することになった経緯を知ることができる文書の改ざんを一部抜粋する形で取り上げてみる。なぜ改ざんする必要があったのか。正当な土地取引売買であるなら、改ざんの必要性は生じない。不正な土地取引売買であるからこそ、それを隠蔽するために改ざんの必要性が生じることになったという経緯こそが妥当性を見い出すことができる。下線は文書に付属していて、改ざん個所を示している。

「13.予定価格の決定(売払価格)及び相手方への価格通知について」(財務書/2016年5月31日)

書き換え前
 (6)上記(4)による貸付処理は、〈特例的な内容となることから、〉平成13年3月30日付財理第1308号「普通財産貸付事務処理要領」貸付通達_記の第1節の第11の1に基づく理財局長の承認を得て、処理を行うこととし、平成27年4月30日不財理第2109号〈「普通財産の貸付に係る特例処理」〉により理財局長承認を得ている。

5.本件売払について

(1)大阪航空局が行なった事前調査により、本地には土壌汚染及びコンクリートガラ等の地下埋設物の存在が判明しており、国はこれらの状況を学園に説明し、関係資料を交付した上で貸付契約及び売買予約契約を締結している。
 学園が校舎建設工事に着手したところ、平成28年3月に国から事前に交付された資料では想定し得ないレベルの生活ごみ等の地下埋設物が発見された。

 (2)学園の代理人弁護士からは、本地は小学校を運営するという目的を達成できない土地であるとして、小学校建設の工期が遅延しないよう国による即座のゴミ撤去が要請されたが、大阪航空局は予算が確保できていない等の理由から即座の対応は困難である旨を学園に回答した。

 (3)これを受けて学園の代理人弁護士から、本来は国に対して損害賠償請求行うべきものと考えているが、現実的な問題解決策として早期の土地買受けによる処理案を示し、学園は、その金額が納得できれば本地に関する今後の損害賠償を等を行わないとする条件で売買契約をするという提案であった。

(4)当局と大阪航空局で対応を検討した結果、学園の提案に応じなかった場合、損害賠償に発展すると共に小学校建設の中止による社会問題を惹起する可能性もあるため、処理方針を検討した結果、売払いによる問題解決を目指すこととしたものである。

6.予定価格の決定について

 (1)今回の鑑定評価に当たっては、大阪航空局から、地下埋設物撤去概算額を反映願いたいとする依頼文書、「不動産鑑定評価についいて(依頼)」(平成28年4月14日付阪空補17号:別添参照)」の提出を受けており大阪航空局からの依頼に基づき本地の現状を踏まえた評価を行なうものとした。

 (2)これを踏まえて、平成28年4月1日を価格時点として平成28年4月15日近財統-第442号により不動産鑑定士に鑑定評価の発注を行なった。不動産鑑定士には上記(1)航空局依頼文書を交付した上で評価依頼を行なっている。

 (3)不動産鑑定士から別添不動産鑑定評価書提出を受けて、別添審査調書のとおり当局主席国有財産鑑定官の審査も了したため、本決議により予定価格を決定するものである。

7. 価格提示について

 公共随意契約を行う場合の相手方に対する価格通知の取扱いについては、各財務局様々であるが、近畿財務局は価格を通知せずに相手方と見積り合わせを行なっているところ。
 本件は通常の売払いではなく、定期借地による貸付契約中の財産について、売買予約契約を締結して貸付期間中に売払う予定のものであることから、関東財務局等が採用している方法を参考に、口頭により相手方に価格を通知するものとする。

8. その他の参考事項

  (1)売買契約事項について

  学園の代理人弁護士が提案する今後の損害賠償等は行わないとする旨を売買契約書に盛り込むことについては、今回の売買契約書に特約条項を定めて整理する予定であり、現在、当局統括法務監査官(所属法曹有資格者)の指導を踏まえて学園と契約組織について競技を続けているところ。
  本件売払いは、国と学園とで契約契約書式の合意ができることを前提条件として行なうものである。(売払決議は別途処理予定)。(注:二重線個所は改ざん前から引かれているとのこと。)

 (2)貸付契約及び売買予定契約の合意解除について
  上記4のとおり、本件は平成27年5月に国有財産有償貸付契約及び国有財産売買予定契約を継続しているため、今回、売買契約を行なう際にはこれらの書面との関係を整理する必要がある。
  当局統括法務監査官(所属法曹有資格者)に確認したところ「今後予定している売買契約締結済の売買予約契約で定めた売買契約に新たな特約条項を加える内容となるため、売買予約の予約完結権行使ではなく、今回新たな売買契約を締結すると整理すべき。」との指導があった。そのため、今回の売買契約書には、締結済みの国有財産有償貸付契約及び国有財産売買予約契約を合意解除する旨の特約条項の付加を予定している。
書き換え後
 (6)上記(4)による貸付処理は、平成13年3月30日付財理第1308号「普通財産貸付事務処理要領」貸付通達〈の〉記の第1節の第11の1に基づく理財局長の承認を得て、処理を行うこととし、平成27年4月30日不財理第2109号により理財局長承認を得ている。

 

5.本件売払について

(1)大阪航空局が行なった事前調査により、本地には土壌汚染及びコンクリートガラ等の地下埋設物の存在が判明しており、国はこれらの状況を学園に説明し、関係資料を交付した上で貸付契約及び売買予約契約を締結している。
 学園が校舎建設工事に着手したところ、平成28年3月に国から事前に交付された資料では想定し得ないレベルの生活ごみ等の地下埋設物が発見された。

 (2)その後、同年3月に、森友学園から、早期に学校を整備し開校するために、埋設物の撤去及び建設工事等を実施する必要があり、国有地を購入したい旨の要望があったものである。

 










6.予定価格の決定について

 (1)今回の鑑定評価に当たっては、大阪航空局から、地下埋設物撤去概算額を反映願いたいとする依頼文書、「不動産鑑定評価についいて(依頼)」(平成28年4月14日付阪空補17号:別添参照)」の提出を受けており大阪航空局からの依頼に基づき本地の現状を踏まえた評価を行なうものとした。

 (2)これを踏まえて、平成28年4月日を価格時点として平生28年月15日近財統-第442号により不動産鑑定士に鑑定評価の発注を行なった。不動産鑑定士には上記(1)航空局依頼文書を交付した上で評価依頼を行なっている。

 (3)不動産鑑定士から別添不動産鑑定評価書提出を受けて、別添審査調書のとおり当局主席国有財産鑑定官の審査も了したため、本決議によ予定価格を決定するものである。

7.




















 貸付契約及び売買予定契約の合意解除について
 上記4のとおり、本件は平成27年5月に国有財産有償貸付契約及び国有財産売買予定契約を継続しているため、今回、売買契約を行なう際にはこれらの書面との関係を整理する必要がある。
 当局統括法務監査官(所属法曹有資格者)に確認したところ「今後予定している売買契約締結済の売買予約契約で定めた売買契約に新たな特約条項を加える内容となるため、売買予約の予約完結権行使ではなく、今回新たな売買契約を締結すると整理すべき。」との指導があった。そのため、今回の売買契約書には、締結済みの国有財産有償貸付契約及び国有財産売買予約契約を合意解除する旨の特約条項の付加を予定している。

 書き換え前の「5.本件売払について」の(1)から(4)までの「国から事前に交付された資料」にはない「想定し得ないレベルの生活ごみ等の地下埋設物が発見された」ことから、森本学園側は国にゴミ撤去を要請したものの、予算確保の点で即座の対応は困難である胸を伝えられたところ、本来は国に対して損害賠償請求行うべき筋合いのものだが、「今後の損害倍書を等を行わないとする条件で」納得できる金額であるなら、土地を買受けることが現実的な問題解決策ではないかとの提案を行い、大阪航空局は提案に応じなかった場合の損害賠償請求と「小学校建設の中止による社会問題を惹起する可能性」の回避のために「売払いによる問題解決を目指す」こととしたという近畿財務局の決定経緯を一切消して、〈(2)その後、同年(注平成28年)3月に、森友学園から、早期に学校を整備し開校するために、埋設物の撤去及び建設工事等を実施する必要があり、国有地を購入したい旨の要望があったものである。〉と書き換え、ここでも「損害賠償請求」云々の経緯を消去という方法で隠している。改ざん後の文言はまるで「損害賠償請求」という言葉に恐れをなして、相手の言いなりに交渉したわけではないと意思表示しているようにも見える。

 この国有地に関しては2015年(平成27年)5月21日に国は森友学園と貸付期間10年間の定期借地権を設定する国有財産有償貸付契約と国有財産売買予約契約を同時に締結している。要するに土地を現金なのか、ローンなのか、買受けるだけの資金調達が難しいから、10年間の借受けを行い、ゆくゆくは買取るという契約を結んだ。

 ところが、改ざん前の取り決めでは買受けるだけの資金調達が難しいとしながらも、納得できる金額なら買受けるとする姿勢に急に転じたのはなぜなのだろう。新たな地下埋設物が見つかる前に最初から存在していたことが判明していた地下埋設物を森友側が約1億3千万円を掛けて撤去したことで土地の価値が上がったと見做す有益費約1億3千万円を森友は国から受け取っている。土地買受け提案以降の不動産鑑定評価額9億5600万円に対して新たに見つかった地下埋設物の撤去・処分費用が8億1900万円と算定され、その差額の土地代金約1億3400万円は有益費として受け取った約1億3千万円でペイできるが、ペイせずに、森友学園は小学校開校で色々な資金を必要とするという理由で受け取った有益費の約1億3千万円はそのままにして、土地代金約1億3400万円は期間10年での延納の申請を行い、認められた。

 要するに隠す必要もない事実経緯でありながら、改ざんという手を使って隠す必要性が生じたのは不動産鑑定評価額9億5600万円に対して地下埋設物の撤去・処分費用が8億1900万円と算定し、土地代金をこの差額の約1億3400万円としたこと自体に何らかのカラクリがあったからだろう。カラクリがあったからこそ、土地を買受けるだけの資金調達は困難だとしていながら、急に土地買受けの姿勢に転ずることができた。

 当然、損害賠償請求をチラつかせられたことも文書改ざんによって隠してもいるのだから、チラつかせも絡んだ土地の買受けということになるはずだ。。

 何もカラクリがなければ、近畿財務局は森友側と取り決めた事実経緯は事実経緯として残しておくことができるはずだし、そのとおりの国会答弁もできるはずだが、朝日新聞が2017年2月9日付朝刊で森友学園への国有地取引をめぐる疑惑を報じたことに対応して国会で野党が追及を始めた関係からだろう、2016年5月31日に作成されたこの文書を約9カ月も経過した2017年2月下旬から4月にかけて、最初の事実経緯を改ざんという形で隠蔽しなければならなかった。そしてこの決裁文書の改ざんの疑いを朝日新聞が2018年3月2日付朝刊で報じ、2018年3月12日に財務省はその事実を認めている。

 この2018年3月12日から約2カ月版後に大阪地検特捜部は不起訴処分の決定を下した。と言うことは大阪地検は財務省と森友間で損害賠償請求を受ける恐れから土地の売買契約に至ったという事実経緯を隠す決済文書改ざんに何のカラクリも見ずにダンプカー4000台分、1万9520トンの地下埋設物の存在を前提として損害賠償請求回避によって、国は財産上の損害を免れ得たといった趣旨で告発を受けた全員を不起訴処分にしたことになる。

 さらに言うと、取り調べを受けた財務省側は決裁文書改ざんによって一旦は消し去った損害賠償云々の事実経緯を再び持ち出して、「地下埋設物の撤去・処分費用に相当する損害賠償費用を免れることができたから、国に損害は与えていません」と訴えたことになる。つまり大阪特捜はどこにも矛盾を見なかった。

 《財務省2018年6月4日『森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書』はなぜ改ざんを必要としたのかの本質的な原因解明は放置(2)》に続く。
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名古屋入管ウィシュマ・サンダマリさん死亡はおとなしくさせるために薬の過剰投与で眠らせていたことからの手遅れか(3)

2021-09-27 09:14:48 | Weblog
 では、ネットで探した両剤の副作用をここに載せてみる。

 「ニトラゼパム錠5mg」(睡眠誘導剤)

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用をやめて、すぐに医師の診療を受けてください。
•呼吸困難、判断力の低下、めまい[呼吸抑制、炭酸ガスナルコーシス]
•薬を中止しようとしても欲求が止められない、(中止などにより)痙攣・不安・幻覚、不眠[依存性]
意識が乱れ正常な思考ができなくなる、考えがまとまらない、時間・場所がわからない [刺激興奮、錯乱]
•全身けん怠感、食欲不振、皮膚や白目が黄色くなる[肝機能障害、黄疸]


 「クエチアピン錠」(抗精神病薬)
   
【警 告】
1.著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。
2.投与にあたっては、あらかじめ上記副作用が発現する場合があることを、患者及びその家族に十分に説明し、口渇、多飲、多尿、頻尿等の異常に注意し、このような
症状があらわれた場合には、直ちに投与を中断し、医師の診察を受けるよう、指導すること(「重要な基本的注意」の項参照)。
 
【禁 忌(次の患者には投与しないこと)】
1.昏睡状態の患者[昏睡状態を悪化させるおそれがある]
2.バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者[中枢神経抑制作用が増強される。]
3.アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)(「相互作用」の項参照)
4.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
5.糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

 クエチアピン錠(抗精神病薬)は糖尿病の疾患さえなければ重大な副作用は心配ないように見える。ニトラゼパム錠(睡眠誘導剤)の方が服用にはより注意が必要なことが分かる。

 また「睡眠誘導剤」は文字通り睡眠を誘導し、一晩の睡眠を安定的に保つ役割の薬剤であって、安定的な睡眠のあとに明瞭な覚醒を約束するもので、重篤な副作用さえ生じなければ、一晩を超えて日中の睡眠まで約束するものではないはずだ。

 3月5日の記録は「午前7時52分頃~」から開始されている。3月4日就寝前の服用から約10時間は経過していると見ることができるが、朝の8時近くになっても、〈A氏の手足を曲げ伸ばして反応を確認すると,A氏は,「ああ。」などと声を上げて反応したが,朝食や飲料の摂取を促しても,A氏は,「ああ。」などと反応するのみで,摂取の意思を示さず,看守勤務者が目の前で手を何度も振るなどしたのに対しても,反応しなかった。〉と、どうにか覚醒はしているが、寝たきりで能動的な意思表示を失った状態となっていた。

 このような状態はニトラゼパム錠の(睡眠誘導剤)に副作用として書かれている〈意識が乱れ正常な思考ができなくなる、考えがまとまらない、時間・場所がわからない〉のうち、意識は乱れていないが、「正常な思考ができない」状態であり、「判断力の低下」を示す兆候と言える。多分、「判断力の低下」に付随して「時間・場所がわからない」状態に陥っている可能性もある。

 当然、注意書きとして書いてある、〈このような場合には、使用をやめて、すぐに医師の診療を受けてください。〉に従わなければならない状況にあるはずだが、看護師は当日の箱長(看守勤務者中の最上位の者)が処方薬の「過剰投与になったら怖い」というので服用継続の可否を尋ねたのに対して「こういう薬は継続して飲ませる必要がある」と答えた。

 大体が常識的に考えても、服用から約10時間は経過していたなら、重篤な副作用が生じていない限り、服用前の体の反応と判断力を最低限は回復していなければならない。服用10時間経過後も、それらが回復できない薬の処方などあるのだろうか。看護師である以上、そのような薬の処方はないを常識としていなければならないはずだ。回復できずに体の反応と判断力が服用前よりも悪化していたなら、明らかに副作用と見る常識のことである。

 勿論、薬の効き方には個人差がある。当然、服用も個人差に応じなければならない。昨夜の薬の服用で〈朝食や飲料の摂取を促しても,A氏は,「ああ。」などと反応するのみで,摂取の意思を示さず,看守勤務者が目の前で手を何度も振るなどしたのに対しても,反応しなかった。〉と朝食時になっても正常な体の反応と正常な判断力の喪失が彼女本人の個人差による副作用だとしたら、逆に服用を控えて、以後の様子を見るなり、嘱託の庁内医師が勤務外の日であるなら、受診した外部の精神科医に問い合わせするなりしなければならない。だが、そのような配慮は一切せずに看護師はウィシュマ・サンダマリさんの心身の状態に応じることなく機械的に継続服用を求めた。このことを常識の範囲内だとすることができるだろうか。

 「(2)A氏に対する抗精神病薬及び睡眠誘導剤の処方に問題はなかったか」(75ページ)の、「ア 経緯と背景事情(3月4日受診時の状況等)」には、〈第三者である総合診療科医師は,「A氏に対する1日当たり100ミリグラムを1錠という処方量は通常量と言え,処方の仕方に問題はなかった」との見解を述べている。〉と処方量に間違いないと証明している。だが、薬には副作用があり、看護師は医師に頼らなくても、副作用なのか、副作用ではないのかを見抜くことができる、あるいは疑うことができる常識だけは備えているはずだし、備えていなければならないはずだ。

 「イ 評価と要改善点」(76ページ)

医師である2名の有識者からは,

〇医師からA氏がこのような状態になったらこのように対処するようにという指示がなかったのであれば,名古屋局職員が服用の継続の当否を判断するのは難しかっただろうとの指摘がなされた。

また,1名の有識者からは,

○週末で医療従事者が不在となることが分かっていたのであるから,事前に名古屋局職員から戊医師に対し,処方された薬剤の留意点について説明を求めるなどして情報を得ておくべきであったし,同薬剤を服用した後,A氏に外観上の顕著な変化が現れたのであるから,その時点でも処方した戊医師に相談できる体制が必要であった。 名古屋局側と外部医師との間でのコミュニケーションの在り方に問題があったとの指摘がなされた。

そうすると,看守勤務者が3月5日もA氏に対して抗精神病薬及び睡眠誘導剤を服用させたこと自体に問題があったとまでは評価できないと考えられるが,休日に医療従事者が不在となるのであれば,休日の間に体調不良の被収容者に服用させる薬剤の効果や副反応につき,処方した医師から事前に十分な情報を得ておくべきであった。また,そうした薬剤の服用の結果,被収容者に外観上の顕著な変化が現れたと思われる時は,休日であっても処方した医師に連絡・相談し,又はそれに代わる対応をとることができる体制を,組織として整備しておくべきであった。

しかし,名古屋局では,こうした対応体制が整備されていなかった。

特に休日において,内外の医療機関との連携を強化する必要がある。

 2名の有識者は、要するに"外観上の顕著な変化"が生じた場合はどう対処するか医師から指示がなかったのだから、名古屋局職員が、つまり当時の看護師が「服用の継続の当否を判断するのは難しかっただろう」と擁護していて、"外観上の顕著な変化"を副作用ではないかと疑う看護師としての常識を問題の外に置いている。

 1名の有識者にしても同様である。ウィシュマ・サンダマリさんの3月5日の容態としてあった服用後約10時間後の「外観上の顕著な変化」をどう捉えるかの看護師としての常識は問わずじまいで片付けている。服用10時間経過後の体の反応と判断力が薬剤の服用前よりも悪化しているという状況は副作用抜きではあり得ないことだが、そうは見ていなかった看護師の常識を異常とも見ていなかった。

 看護師が最後の最後まで副作用と見る常識を発揮しなかったと考えられる理由は看守勤務者たちがウィシュマ・サンダマリさんの心身不調を「詐病・仮病」の類いと疑っていて、懲らしめの感情から、外部精神科医に睡眠誘導剤と抗精神病薬を処方されたのを幸いとばかりに彼女を静かにさせるために過剰服用させた結果の"外観上の顕著な変化"――服用前よりも悪化した体の反応と判断力であるということを承知していたからとするしか答を見出すことはできない。

 このことの状況証拠を一つ示すことができる。死亡した3月6日の報告に見つけることができる。

 ○3月6日(土)(52ページ)

A氏は,午前中,ベッドに就床し,大きく呼吸しつつ,首を上下左右に振ることを繰り返していたが,看守勤務者らの問いかけ等に対する反応は弱く,看守勤務者が着替えをさせた際に,「あー。」 と声を上げて顔をしかめる程度であった。

午後1時過ぎ以降,A氏は,次第に,就床しながら首をかすかに動かす程度となり、午後2時7分頃の看守勤務者による体調確認の際には脈拍が確認されず,外部医療機関に救急搬送されたが,午後3時分頃,搬送先の病院で死亡が確認された。

同日のA氏に対する主な対応状況は,以下のとおりである。

〔午前7時1分頃~〕
A氏の居室内の照明を点けた後,室外から看守勤務者が声を掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午前8時12分頃~〕
看守勤務者らは,A氏の居室に入室し,A氏の顔をのぞき込みながらA氏に繰り返し声を掛けたが,A氏がほとんど反応を示さず,バイタルチェックにおいても血圧及び脈拍が測定できなかったため,血圧等測定表の血圧欄には,「脱力して測定できず。」と記載した。

〔午前8時56分頃~〕
女子区の被収容者について点呼が行われた。男性の副看守責任者と女性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,A氏に対して,「おはよう。」「目を開けて。」 などと何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったりするなどもしたが,A氏は反応を示さなかった。看守勤務者は,A氏の手首に手で触れてA氏の脈拍があることを確認した。

〔午前9時10分頃~午前9時24分頃〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し,A氏に対し,朝食を食べるよう促したほか,A氏の下着を着替えさせるなどした。時折,A氏は,「あー。」などと声を上げることもあったが,看守勤務者からの問いかけに明確に意思を示すことはなかった。

なお,この際,看守勤務者が,A氏に対し「ねえ,薬きまってる?」と述べたことがあった。

〔午前10時40分頃~〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し,朝食の摂食と処方薬の服用を促すなどした。A氏は「あー。」「うー。」などと声を発することもあったが,看守勤務者の問いかけに反応しないこともあった。看守勤務者らは,A氏の上半身を起こし,処方薬のイノラス配合経腸用液 (経腸栄養剤)及び(メコバラミン錠 末梢性神経障害治療剤)を服用させた。この際,看守勤務者1名が背中及び頭を支え,もう1名の看守勤務者が口内に薬と飲み物を入れた。A氏は,時折むせたり,飲み物を吐き出したりしながらも,薬を服用した。

〔午後零時56分頃〕
看守勤務者は,A氏の昼食が全量未摂食で居室入口の食事搬入口に置かれているのを見て,搬入口の外から室内のA氏に向かって食べるようにと促したが,A氏が反応を示さなかったため,昼食用食器を搬入口に残置した。

〔午後1時31分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声を掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後1時50分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏。」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時3分頃〕
看守勤務者は, A氏の居室の室外から,「A氏,A氏,聞こえる?」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時7分頃〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し, A氏の体を揺すったり,耳元で呼び掛けたりしたが, A氏は反応を示さなかった。 また,看守勤務者がA氏の体に触れて確認したものの,脈拍が確認されず,A氏の指先が冷たく感じられた。さらに,A氏の血圧等を測定したが,測定不能であった。

〔午後2時11分頃〕
男性の副看守責任者及び男性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,女性の看守勤務者が再度,A氏の血圧等の測定を実施したが,測定不能であった。また,A氏の脈拍は確認できなかった。

〔午後2時15分頃〕
副看守責任者が電話により救急搬送を要請し,通話を継続しながら,看守勤務者に対し,AED装置の使用を指示し,看守勤務者がA氏に対するAED装置の装着を開始した。

〔午後2時20分頃〕
看守勤務者が, A氏の体にAED装置を装着し終えたところ,電気ショックを与えることなく心臓マッサージを必要とする旨の音声指示が流れたことから,心臓マッサージを実施した。

〔午後2時25分頃〕
到着した救急隊員にA氏の救命措置を引き継いだ。

〔午後2時31分頃〕
A氏は外部の病院に救急搬送された。

〔午後3時25分頃〕
搬送先の病院でA氏の死亡が確認された。

 3月4日就寝前の薬剤服用で3月5日は明らかに彼女の体の反応と判断力が服用前よりも悪化していたにも関わらず、3月5日も「午後9時30分頃~」に看守勤務者は彼女にクエチアピン錠(抗精神病薬)とニトラゼパム錠(睡眠誘導剤)を各1錠ずつ服用させた。2021年3月6日は土曜日で、毎週月曜日及び毎週木曜日午後1時15分から午後3時15分まで勤務の庁内内科医も、毎月第三火曜日午後3時から午後5時まで勤務の庁内整形外科医も不在で、月曜日から金曜日までの午前9時から午後5時45分までの勤務の女性看護師1名も、准看護師2名(男女各1名)も休日不在であった。当然、看守勤務者とその上司のみで対応することになるから、それぞれの場に応じた早め早めの適切な対応が必要になる。万が一に備えるのが危機管理で、名古屋出入国在留管理局も万が一に備えた体制は十分であったはずだ。

 最初に「午前9時10分頃~午前9時24分頃」に看守勤務者たちがウィシュマ・サンダマリさんの居室に入室し、朝食の指示、下着を着替えさせたことについて触れてみる。下着を着替えさせるのは昨日の3月5日から始まっている。3月5日のその箇所を改めて取り上げてみる。

 〈看守勤務者らがズボン及び下着を着替えさせた。A氏には,衣服の交換に合わせて体を動かすなどの反応はなかった。〉

 このような体の反応を彼女を静かにさせるために3月4日に外部整形外科医から処方された睡眠誘導剤か抗精神病薬を、あるいはその両方を過剰服用させたためと疑っているが、3月6日の午前9時過ぎの彼女の体の反応は看守勤務者らが彼女の居室に入室し、彼女に朝食を食べるよう促したほか、下着を着替えさせるなどしたが、時折、彼女は「あー」などと声を上げることもあったが、看守勤務者からの問いかけに明確に意思を示すことはなかった状態にあった。

 要するにベッドに寝かせた状態でズボンと下着を着替えさせたのだろう。だが、足を持ち上げようとする気配も、尻を浮かそうとする意思も見せなかった。看守勤務者のなすがままになっていた。普通だったら、植物状態か、植物状態に近いと見られところだが、このような状態が3月5日は1日中続いていて、さらに「午後9時30分頃」に看守勤務者が介助してクエチアピン錠(抗精神病薬)とニトラゼパム錠 (睡眠誘導剤)を各1錠ずつ服用させた翌日3月6日の3月5日に続く心身の反応なのだから、医師も看護師も、准看護師も不在ということなら、普段利用している土曜日も診療している外部医療機関に連れていくか、愛知県全般の各市町村に休日夜間診療所を設けていて、名古屋市もその例に漏れず、救急搬送ではなくても、「平日夜間・土曜・日曜・祝日・年末年始」の救急診療を受け付けているのだから、連れていかなければならない体の状態だったはずだが、そういった処置は採られることはなかった。

 「ウ 休日,夜間等の庁内医師らの不在時の対応」(11ページ)には、〈休日,夜間等の庁内医師らの不在時に,看守勤務者が被収容者の体調不良を把握した場合は,直ちに看守勤務者から看守責任者に報告することとされていた。

 報告を受けた看守責任者は,当該被収容者の症状等に応じ,外部医療機関への救急搬送又は救急外来への連行,休養室での容態観察,救急常備薬の投与等の対応判断し,措置後,事後的に担当収容区の統括入国警備官,処遇部門首席入国警備官に報告していた。〉と従来からの規則を述べているが、規則通りの措置にしても何ら顧みられることはなかった。 

 その理由はズボンと下着を着替えさせた際に看守勤務者が彼女にかけた言葉にある。「ねえ,薬きまってる?」

 この場面で言っている「きまる」は薬物の効果で精神が高揚状態、あるいは恍惚状態になっている様子を指す言葉である。だから、主語は「薬」という単語でなければならない。「薬」という言葉を使わなくても、主語は「薬」を意図していなければならない。

 ウィシュマ・サンダマリさんに対して看守勤務者たちが「何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったり」したのは睡眠誘導剤や抗精神病薬の副作用が原因の意識混濁状態だとは見ていないからできたことであろう。もし副作用だと見ていたなら、手術後にまだ全身麻酔が効いていて昏睡状態にある患者は静かに寝かせておくようにそっとしておくはずである。要するに処方された薬で眠っている状態にあるわけではないことを承知いる状況下で、「ねえ,薬きまってる?」と聞いた。大体が薬剤の服用の影響で意識が混濁状態にあると見ていたなら、彼女の容態を気にかけなければならない立場と時と場合に置かれた看守勤務者が口にするにふさわしい言葉とは決し言えないし、冗談を口にしていい場面でもない。となれば、揶揄する気持ちは含まれていても、ウィシュマ・サンダマリさんのそのときの体の状態を言葉の意味のままに問い掛けた事実だけが残ることになる。

 要するに彼女の心身の不調を「詐病・仮病」の類いと疑ってかかって、3月5日と同様に懲らしめの感情から薬で眠らせておいたと疑うことができる。あるいは静かにさせて、手のかからない状態にしておいた。問題は一人の女性看守勤務者のみが行なったことなのか、担当の看守勤務者たちがグルで行なったことなのかである。

 看守勤務者たちが「何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったり」したのは睡眠誘導剤や抗精神病薬の副作用が原因の意識混濁状態だとは見ていないからだけではなく、薬で眠らせていることを悟られないための演技である可能性が出てきて、グルで行なっていた疑いが濃くなる。

 薬を飲ませていたと疑うと、3月5日「午前9時18分頃~」の発言、〈看守勤務者がA氏に何を食べたいかを尋ね,A氏が聴き取り困難な「アロ・・・」 といった声を発したのに対し,看守勤務者1名が「アロンアルファ?」と聞き返すことがあった。〉の「アロンアルファ?」にしても、シンナーと同列の「薬」として反応した発言の可能性が出てくる。

 尤も「アロンアルファ?」は有機溶剤を含まないということで、実際にはシンナーの代用にはならないそうだが、女性看守勤務者がその知識がなかったなら、シンナーの代用となる有機溶剤入りの一般的な接着剤の連想から、「アロ・・・」と口から漏れた言葉を「アロンアルファ」に反射的に引っ掛けたということもある。

 調査チームの検証、「3 A氏に対する収容中の介助等の対応の在り方」「(介助を要する状況の下で,A氏への対応は適切に行われていたか)」(80ページ~)には、〈3月1日に体調不良によりA氏がうまく摂食等ができない状態にあったことを受けた「鼻から牛乳や。」との発言,3月5日や死亡当日の午前に,A氏が脱力し,明確に意思を示さないなどの状態であった中での,3月5日の「アロンアルファ?」と聞き返した発言及び3月6日午前の「ねえ,薬きまってる?」との発言など。〉に関して、〈そうした発言をした看守勤務者の一人は,A氏の介助等により業務に負担が生じていた状況が長期化しつつあった中,職員の気持ちを軽くするとともにA氏本人にもフレンドリーに接したいなどの思いから軽口を叩いたものであった旨供述している。〉としている。

 「鼻から牛乳や。」はウィシュマ・サンダマリさん自身を笑ったもので、この笑いにはよく言ってからかい、悪く言うと、嘲笑が含まれている。同僚を笑わす意図の言葉であったとしても、からかいや嘲笑に同調する衝動を与えるだけで、「気持ちを軽くする」作用は持たない。もし気持ちが軽くなったりしたら、彼女に憎しみの感情か蔑みの感情を持っている場合であろう。「ざまあみろ」という感情が働けば、気持ちが軽くなる。当然、彼女に「フレンドリーに接したいなどの思いから」の「軽口」などではない。

 「アロンアルファ?」は職員の気持ちを軽くするために叩いた軽口だとするのは一応は筋は通るが、彼女は看守勤務者が「フレンドリーに接したいなどの思い」を示したとしても、伝わる心身の状態にあったわけではない。〈「あー。」「あーあー。」などと声を発するのみで,意思表示がはっきりしない状況であった。〉のである。職員の気持ちを軽くする役には立っても、看守勤務者のフレンドリーさは彼女に対しては意味をなさないことになる。

 もしフレンドリーさを何とはなしに感じ取って貰うだけもいいということで発した言葉なら、〈看守勤務者がA氏に何を食べたいかを尋ね,A氏が聴き取り困難な「アロ・・・」 といった声を発した〉以上、看守勤務者は聞き返して「アロ」から連想できる食べ物か飲み物を何としてでも探り当てて、その食べ物か飲み物を用意し、介助するなりして相手の味覚と食欲を満足させるべきだったが、食べ物とは連想が断絶した「アロンアルファ?」と聞き返したのは、食べ物を探り当てる気などなく、瞬間的にそこに連想が働いたからであって、その連想に意味を求めなければならない。「フレンドリー」でも何でもなかったということである。

 最後に「ねえ,薬きまってる?」の検証について。彼女の意識混濁状態を薬物の効果で精神が恍惚状態に入っていると見立てることは同僚を笑わすことはできても、ウィシュマ・サンダマリさんに対しては失礼を通り越して侮辱に当たる。「フレンドリー」が「侮辱的」という意味を取るなら、「フレンドリーに接した」ということになるだろう。

 問題は看守勤務者たちが彼女の心身の不調を「詐病・仮病」の類いと疑ったことによってそのときどきで現れることになっている処遇態度であるという視点から調査・検証しているかどうかであって、していなければ、「調査報告書」は欠陥を抱えることになる。

 以上の3つの発言に対する「イ 評価と要改善点」

 〈この点について,3名の有識者から,(83ページ)

 看守勤務者の不適切な発言については,介助等の負担の中,職員の気持ちを軽くするとともにA氏本人にもフレンドリーに接したいなどの思いからであったとしても,明らかに人権意識に欠ける不適切な発言であり,職員の意識改革を徹底する必要がある。〉

 〈介助等の負担の中,職員の気持ちを軽くするとともにA氏本人にもフレンドリーに接したいなどの思いからであったとしても〉云々と相手の証言をそのまま受け入れている。勿論、不適切発言の要因は人権意識の欠如ではあるが、この手の欠如を看守勤務者に可能とする素地は被収容者に対して上下の力関係を築いているからであり、つまりは既に触れたように看守勤務者が被収容者に対して支配者として君臨している関係性を多かれ少なかれそこに見なければならない。そしてこの支配者としての君臨は当然のこととして被収容者に対する処遇全般に現れることになるという両者の関係性を計算に入れて看守勤務者たちの行動を評価していかなければならないことになる。 

 だが、そういった視点を欠いたままの検証が行われている。大体が「3名の有識者から」だとか、「2名の有識者から」などとどこの誰とも名を名乗らないのは責任の所在を曖昧にしていることになり、信用が置けない。

 3月6日のウィシュマ・サンダマリさんの「反応」を改めて見てみる。「午前7時1分頃~」は、〈室外から看守勤務者が声を掛けたが,A氏は反応を示さなかった。〉、「午前8時12分頃~」は、〈A氏がほとんど反応を示さず,バイタルチェックにおいても血圧及び脈拍が測定できなかったため,血圧等測定表の血圧欄には,「脱力して測定できず。」と記載した。〉、「午前8時56分頃~」は、〈A氏に対して,「おはよう。」「目を開けて。」 などと何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったりするなどもしたが,A氏は反応を示さなかった〉、「午前9時10分頃~午前9時24分頃」は、〈A氏に対し,朝食を食べるよう促したほか,A氏の下着を着替えさせるなどした。時折,A氏は,「あー。」などと声を上げることもあったが,看守勤務者からの問いかけに明確に意思を示すことはなかった。〉・・・・・

 ウィシュマ・サンダマリさんは「午前7時1分頃~」から「午前9時10分頃~午前9時24分頃」までの約2時間半近くも、"明確に意思を示すことはなかった"ことを含めて、“A氏は反応を示さない”状態が続き、さらに血圧及び脈拍測定ができない状況にありながら、以後も同様の状態が続くが、ベッドの上に放置されたままでいた。「覚醒はしているが、精神活動は浅い眠りに近い状態。外界の認知に混乱が生じ、見当識(時間、場所、周囲の人物、状況などを正しく認識する能力)が障害される軽度の意識混濁」(「意識レベルの変化」(東京慈恵会医科大学神経病理学))にあるのではないかとは見ていなかった。「軽度の意識混濁」という知識はなかったとしても、「おかしいな」、「大丈夫なのかな」と心配することもなかった。もし薬で眠らせていたとしたら、「おかしいな」とか、「大丈夫なのかな」と心配しなかったことは合点がいく。

 では、以後の「午前10時40分頃」から死亡に至る「午後3時25分頃」までのウィシュマ・サンダマリさんの体調の変化と看守勤務者側の対応を拾い出してみる。

 〔午前10時40分頃~〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し,朝食の摂食と処方薬の服用を促すなどした。A氏は「あー。」「うー。」などと声を発することもあったが,看守勤務者の問いかけに反応しないこともあった。看守勤務者らは,A氏の上半身を起こし,処方薬のイノラス配合経腸用液 (経腸栄養剤)及び(メコバラミン錠 末梢性神経障害治療剤)を服用させた。 この際,看守勤務者1名が背中及び頭を支え,もう1名の看守勤務者が口内に薬と飲み物を入れた。A氏は,時折むせたり,飲み物を吐き出したりしながらも,薬を服用した。

〔午後零時56分頃〕
看守勤務者は,A氏の昼食が全量未摂食で居室入口の食事搬入口に置かれているのを見て,搬入口の外から室内のA氏に向かって食べるようにと促したが,A氏が反応を示さなかったため,昼食用食器を搬入口に残置した。

〔午後1時31分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声を掛けたが, A氏は反応を示さなかった。

〔午後1時50分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏。」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時3分頃〕
看守勤務者は, A氏の居室の室外から,「A氏,A氏,聞こえる?」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時7分頃〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し, A氏の体を揺すったり,耳元で呼び掛けたりしたが, A氏は反応を示さなかった。 また,看守勤務者がA氏の体に触れて確認したものの,脈拍が確認されず,A氏の指先が冷たく感じられた。さらに,A氏の血圧等を測定したが,測定不能であった。

〔午後2時11分頃〕
男性の副看守責任者及び男性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,女性の看守勤務者が再度,A氏の血圧等の測定を実施したが,測定不能であった。また,A氏の脈拍は確認できなかった。

〔午後2時15分頃〕
副看守責任者が電話により救急搬送を要請し,通話を継続しながら,看守勤務者に対し,AED装置の使用を指示し,看守勤務者がA氏に対するAED装置の装着を開始した。

〔午後2時20分頃〕
看守勤務者が, A氏の体にAED装置を装着し終えたところ,電気ショックを与えることなく心臓マッサージを必要とする旨の音声指示が流れたことから,心臓マッサージを実施した。

〔午後2時25分頃〕
到着した救急隊員にA氏の救命措置を引き継いだ。

〔午後2時31分頃〕
A氏は外部の病院に救急搬送された。

〔午後3時25分頃〕
搬送先の病院でA氏の死亡が確認された。

 「午後零時56分頃」、〈看守勤務者は,A氏の昼食が全量未摂食で居室入口の食事搬入口に置かれているのを見て,搬入口の外から室内のA氏に向かって食べるようにと促したが,A氏が反応を示さなかったため,昼食用食器を搬入口に残置した。〉

 これもおかしい。これまでは看守勤務者が介助して食べさせていた。薬で眠らせているから、介助しても無駄だと分かっていて、〈昼食用食器を搬入口に残置した。〉のだろうか。もし介助に応じることができない程に体が弱っていたと見ていたとしたら、搬入口の外から声をかけたというのは「死人に口なし」の作文か、薬で眠らせていないことを装う演技ということになる。

 但し介助に応じることができない程に体が弱っていた可能性は十分にある。この約1時間20分後には救急搬送を要請し,AED装置の使用を試みたのだから。

 「午後1時31分頃」の状況は、〈看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声を掛けたが, A氏は反応を示さなかった。〉とやはり「A氏は反応を示さなかった」となっている。だが、「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声をかけたのは余程心配な様子に見えたからとすることができるが、心配な様子に見ながら、上司である副看守責任者を呼んで、救急搬送しなくて大丈夫ですかと指示を仰ぐこともしなかった。

 以後も、「A氏は反応を示さなかった」状態が続くことになる。

 「午後2時7分頃」、〈看守勤務者らがA氏の居室に入室し, A氏の体を揺すったり,耳元で呼び掛けたりしたが, A氏は反応を示さなかった。 また,看守勤務者がA氏の体に触れて確認したものの, 脈拍が確認されず,A氏の指先が冷たく感じられた。さらに,A氏の血圧等を測定したが,測定不能であった。

 出入国在留管理庁のページ、「収容施設について(収容施設の処遇)」に、〈収容施設の構造及び設備は,通風,採光を十分に配慮しており,冷暖房が完備されています。〉と書いてあるが、人が「快適だ」と感じる温度は夏場は気温25~28℃で、冬場は気温18~22℃ということだから、名古屋市の2021年3月6日(土)の最高気温19.9、最低気温10.4は冬場の快適気温18~22℃を下回ることになって、暖房は使用していたと思われる。

 だが、〈A氏の指先が冷たく感じられた。〉しかも血圧等は、〈測定不能であった。〉

 この5分後の「午後2時11分頃」に〈男性の副看守責任者及び男性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,女性の看守勤務者が再度,A氏の血圧等の測定を実施した〉のはウィシュマ・サンダマリさんの容態を初めて異常だと捉えたからだろう。しかも男性の副看守責任者までがお出ましになったのである。“A氏は反応を示さない”状態が続いていた際には異常と見ることもなかった。薬剤の副作用からの体の反応と判断力の低下ではないのかと一般的な常識さえも働かせることはなかった。薬で眠らせていたとすると、働かせてもいいはずの一般的な常識が働かなかったこととの整合性が取れる。

 この4分後の「午後2時15分頃」、〈副看守責任者が電話により救急搬送を要請し,通話を継続しながら,看守勤務者に対し,AED装置の使用を指示し,看守勤務者がA氏に対するAED装置の装着を開始した。〉

 5分後の「午後2時20分頃」、〈看守勤務者が, A氏の体にAED装置を装着し終えたところ,電気ショックを与えることなく心臓マッサージを必要とする旨の音声指示が流れたことから,心臓マッサージを実施した。〉

 救急搬送要請から約10分後の「午後2時25分頃」に、〈到着した救急隊員にA氏の救命措置を引き継いだ。〉

 「午後3時25分頃」、〈搬送先の病院でA氏の死亡が確認された。〉

 この「救急搬送」に対する「調査報告書」の説明を見てみる。 

☆☆ 「 (5)もっと早く救急搬送できなかったか 」前記(1)④)(74ページ~)

ア 経緯と背景事情(看守勤務者の認識)

3月5日及び同月6日に交替制で勤務に当たっていた複数の看守勤務者は,前記のようなA氏の体調の外観上の顕著な変化を認識していたものの,3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響によるものと認識し,A氏の体調の変化が生命に危険を及ぼすような要因によるものとは考えていなかった。

 イ 評価と要改善点

医師である2名の有識者からは,

○3月5日や同月6日のA氏の状況を踏まえても,救急搬送が遅かったというのは結果論であって,医師による診療や看護師による対応がなされていた中で,医療的素養がない職員において,それらの時点で,別の医師の診療を受けさせ又は救急搬送すべきとの判断を行うことは難しかっただろうし,職員らが3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響と認識していたのであれば尚更そうであるとの指摘がなされた。

また,1名の有識者からは,

○速やかに対応すべきであったが,看守勤務者らが精神科の投薬による影響と考えていたことは無理もないところなので,実際上は即時の対応は難しかったであろうとの指摘もなされた。

これに対し,2名の有識者からは,

○A氏の外観上の顕著な変化を踏まえ,3月5日か,どんなに遅くとも同月6日朝の点呼で反応が見られなかった時点で,速やかな対応がなされるべきであったとの指摘がなされた。

このように,看守勤務者の対応について,有識者の見解が一致をみているものではないが,名古屋局での取扱いについては,反省と改善を要する点があった。

まず,医療体制の制約があり,特に休日は医療従事者が不在となる中では,緊急を要する可能性がある状況が生じた場合には,看守勤務者から看守責任者等の上司に状況を報告するとともに,早期から救急搬送を視野に入れた対応を開始し,あるいは,医療従事者に相談するなど,体調不良者の容態の急変等に対応するための情報共有・対応体制を整備すべきであった。

しかし,当時の名古屋局では,組織として,休日における幹部への報告や医療的相談等の対応体制が整備されていなかった。休日等の医療相談体制の構築に努めることや,緊急時の対応については,過去の収容施設における被収容者死亡事案の再発防止策としても掲げられていた(110-まず,平成26年3月の東日本入国管理センターにおける死亡事案の再発防止策の一つとして,容態観察中の被収容者について,土日や夜間であっても非常勤医師に症状の報告・相談をする体制等の構築に努めることが示されていた。また,平成29年3月に東日本入国管理センターで発生した死亡事案を踏まえて発出された,平成30年3月5日付け法務省入国管理局長指示「被収容者の健康状態及び動静把握の徹底について」(※現在も出入国在留管理庁長官指示として効力を有する。)では,被収容者の体調不良の状況において「時間帯により看守責任者等が当該被収容者への対応を判断せざるを得ない場合は,体温測定等の結果に異状が見られなくとも,安易に重篤な症状にはないと判断せず,ちゅうちょすることなく救急車の出動を要請すること」等の周知徹底が各官署に対し指示されていた。)が,名古屋局でその実施が徹底されていなかったことは,反省すべき点である。

次に,看守勤務者は,外部病院の精神科で処方された薬の影響でA氏に前記のような外観上の顕著な変化が生じていると認識したとしても,あまりに反応が薄いなどの状況を疑問に感じ,A氏の全身の状態が想定以上に悪化しているのではないかとの「気付き」を得て上司に相談するべきであり,そのような対応ができるよう,組織として,看守勤務者等の職員の意識を高めておく必要があった。

しかし,名古屋局においては,そうした教育や意識の涵養が十分に行われていなかった。

(6)小括

以上をまとめると,A氏の死亡前数日間の医療的対応については,次のとおりである。

①A氏に対して抗精神病薬及び睡眠誘導剤を処方した戊医師の判断に問題があったと評価することはできず,A氏の体調に外観上の顕著な変化が見られた後も看守勤務者において同薬剤を服用させたこと自体に問題があったとも評価できないと考えられる。

しかし,医療従事者が不在となる休日に体調不良者に服用させる薬剤の効果や副反応につき,処方した医師から事前に十分に情報を得たり,服用後に外観上の顕著な変化が現れた時に,処方した医師と連絡・相談できる体制の整備が必要であったが,名古屋局ではそれが行われていなかった。

② 3月6日にバイタルチェックで一部項目が測定不能であったのに,それを受けた対応がとられなかった要因として,休日で医療従事者が不在であり,外部の医療従事者へのアクセスも確立されていなかったという医療体制の制約があった。バイタルチェックについての基準やマニュアルも作成されていなかった。

また,救急搬送等の対応に関しては,特に休日において,体調不良者の容態の急変等に対応するための情報共有・対応体制が整備されておらず,職員に対する教育や意識の涵養も十分に行われていなかった。

 〈3月5日及び同月6日に交替制で勤務に当たっていた複数の看守勤務者は,前記のようなA氏の体調の外観上の顕著な変化を認識していたものの,3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響によるものと認識し,A氏の体調の変化が生命に危険を及ぼすような要因によるものとは考えていなかった。〉

 ウィシュマ・サンダマリさんの「外観上の顕著な変化」を一般常識的に薬剤の副作用と捉えて、危機意識を持つことはなかったのはなぜなのか視点を相も変わらずに欠いたままの検証となっている。

 〈○3月5日や同月6日のA氏の状況を踏まえても,救急搬送が遅かったというのは結果論であって,医師による診療や看護師による対応がなされていた中で,医療的素養がない職員において,それらの時点で,別の医師の診療を受けさせ又は救急搬送すべきとの判断を行うことは難しかっただろうし,職員らが3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響と認識していたのであれば尚更そうであるとの指摘がなされた。〉

 「医療的素養」があるないの問題ではない。薬を服用しているのは分かっていることであり、服用後約10時間経過後も服用前の体の反応と判断力よりも悪化している状況を前にして「おかしいぞ」と気づく常識の発揮である。当然、否応もなしに副作用という思いに突き当たらざるを得ない。大抵の人間が持っているそのような常識が自ずと働かなかったのはなぜなのかの疑問は薬で眠らせていたと疑うと解消させることができる。

 〈また,1名の有識者からは,

○速やかに対応すべきであったが,看守勤務者らが精神科の投薬による影響と考えていたことは無理もないところなので,実際上は即時の対応は難しかったであろうとの指摘もなされた。〉

 「精神科の投薬」が心身の悪化を招いている状況を看守勤務者たちも看護師も直視することはなかった。薬剤の投与前は反応を示していた彼女が投与後は、「A氏は反応を示さなかった」「A氏は反応を示さなかった」で片付けていた。悪化の状況を薬剤の副作用という視点から疑うことはなかった。常識的には考えられないことで、副作用を疑わなかったのは薬で眠らせていたと考えると、全てが氷解する。

 〈これに対し,2名の有識者からは,

○A氏の外観上の顕著な変化を踏まえ,3月5日か,どんなに遅くとも同月6日朝の点呼で反応が見られなかった時点で,速やかな対応がなされるべきであったとの指摘がなされた。〉

 当然な指摘だが、「外観上の顕著な変化」を薬剤の副作用と直結させる一般的常識を眠らせたままにしておいたのはなぜなのかを問う看守勤務者たちや看護師たちの責任については触れない事勿れな内容となっている。

 勿論、副作用と直結させる一般的常識を眠らせたままにしておいたのは薬で眠らせていたからと疑うことができる。

 〈しかし,当時の名古屋局では,組織として,休日における幹部への報告や医療的相談等の対応体制が整備されていなかった。〉

 体制の不備以前に薬剤の副作用を疑うごくごく一般的な常識が働いていい状況にありながら、なぜそのような一般的な常識が働かせることはなかったのかに焦点を当てるべきだったろう。

 〈次に,看守勤務者は,外部病院の精神科で処方された薬の影響でA氏に前記のような外観上の顕著な変化が生じていると認識したとしても,あまりに反応が薄いなどの状況を疑問に感じ,A氏の全身の状態が想定以上に悪化しているのではないかとの「気付き」を得て上司に相談するべきであり,そのような対応ができるよう,組織として,看守勤務者等の職員の意識を高めておく必要があった。〉

 薬で眠らせていたなら、その後遺症と見る常識が働いて、薬剤の副作用と疑うごくごく一般的な常識の働く余地はない。

 「 (6)小括」で、〈医療従事者が不在となる休日に体調不良者に服用させる薬剤の効果や副反応につき,処方した医師から事前に十分に情報を得たり,服用後に外観上の顕著な変化が現れた時に,処方した医師と連絡・相談できる体制の整備が必要であったが,名古屋局ではそれが行われていなかった。〉としているが、「イ 評価と要改善点」(76ページ)で既に述べられていることだが、「十分な情報」を得ていなかったとしても「副反応」(=副作用)と判断するだけの常識は備えていなければならなかったはずだが、そのような常識を働かせることができなかった点こそが本質的な問題点となる。そこに留意しなければ、いつまで経っても「体制」の問題として、「人の問題」が抜きにされることになる。

 薬で眠らせていたからではないかと疑うことがウィシュマ・サンダマリさんの心身の急激な変調を薬剤の副作用と見るごくごく一般的な常識が働かなかったこととの間に整合性が取れる。結果、「ねえ,薬きまってる?」という言葉を口にすることになった。

 彼女の心身の不調を最初から最後まで「詐病・仮病」の類いと疑い、そのように装うことに対して看守勤務者にしても、看護師にしても蔑む感情や懲らしめる感情を内に秘めて彼女に接したために彼女にストレスを与え、そのストレスが「詐病・仮病」の類いで装っていたのかもしれない様々な心身の不調を実際の症状に変えてしまう身体化を誘い出して、身体化障害へと形を変え、そのことに気づかない看守勤務者や看護師の「詐病・仮病」の類いと疑う態度が続いたために身体化障害を悪化させていたところへ持ってきて、おとなしくさせるために薬の過剰投与で眠らせた結果、彼女の心身を一気に深刻な状態に陥れたものの、そのような心身の不調が薬のせいだばかり思っていたために救急搬送が遅れて、手遅れを招いてしまった。

 もし薬の過剰投与があったとしたら、3月5日、3月6日の看守勤務者や看護師の彼女に対する様々な世話や介助、リハビリ等はほぼ全面的に薬で眠らせていたことを隠す「死人に口なし」の作文ということになる。

 勿論、確たる証拠があるわけではないが、「調査報告書」からこのように推理したのだが、勘ぐり過ぎではないことを願う。

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民間企業と官僚の意見交換に酒食が伴い、その支払いを企業が負う官僚のたかりは人間の習性の一つの現れであり、「再発防止」は掛け声で終わる

2021-03-22 10:38:32 | Weblog
 官僚の意見交換を口実とした民間企業に対する酒食のたかりは、民間企業側から言うと、相手が許認可権等を握る優越的立場にある以上、接待という名で誤魔化し、将来、何かで返ってくるかもしれないと我慢の気持ちで応じざるを得なくなる。官僚側は思うに法律を作り、政治家を動かし、企業まで動かしているとの思い込みから持つに至っている自分たちの絶大な力の証明の見返りを政治家に求めるわけには行かず、民間企業に許認可権等を楯に求めることになって、それが酒食のたかりとなって現れている現象ということもあり得る。

 但し民間企業側が官僚側のこの酒食のたかり、民間企業がそういった形にせざるを得ない接待という形に便乗して官僚側の許認可に何らかの手心を求め、官僚側が許認可に関わる何らかの便宜を企業側に図った場合、酒食のたかりと接待の間に生じた金品の遣り取りは贈収賄という形を取ることになる。

 2021年2月3日付「文春オンライン」が〈総務省の幹部らが、同省が許認可に関わる衛星放送関連会社東北新社に勤める菅義偉首相の長男から、国家公務員倫理法に抵触する違法な接待を繰り返し受けていた疑いがあることが「週刊文春」の取材で分かった。〉と報じた。このことについて野党から国会で追及を受け、総務省幹部が曖昧な答弁に終止したことから、総務省内で調査を開始、2021年2月24 日に総務大臣武田良太から国家公務員倫理審査会会長秋吉淳一郎に報告書が提出された。報告書は37件の供応接待を受けた等の疑いが判明したとし、11人もの処分者を出した。

 これで1件落着となったわけではなかった。調査の適格性とその適格性に応じた処分の適格性について野党からなお国会で追及を受けることになった。特に総務省総務審議官であった谷脇康彦は東北新社以外から違法な接待は受けていないと国会で答弁していたにも関わらず、その答弁の信憑性は2021年3月3日付文春オンラインが総務省の谷脇康彦総務審議官ら複数の幹部がNTTグループ側から高額な複数回の接待を受けていたと報道し、NTT側が接待を認めるに及んで、一気に崩れることになった。

 さらに2021年3月11日発売の週刊文春がNTTが総務省幹部だけではなく、高市早苗や野田聖子の総務相経験者をも接待していたことを報道。勿論、両者共に会食はしたものの、接待であることを否定している。これで終わりではなく、3月17日付文春オンラインが昨年11月に現役総務大臣武田良太とNTT社長澤田純が会食で同席していた報じることになった。

 2021年3月15日参議院予算委員会の質問一番手は自民党大家敏志(おおいえ・さとし)。 

 2021年3月15日参議院予算委員会

 大家敏志「私から先ずNTTの社長澤田(純)さんにお尋ねしたいと思います。NTTによる総務省幹部への接待が問題になり、かつ歴代総務大臣ら政治家への接待に関しても同じくであります。『危機管理の要諦は情報公開だ』と、これは私の尊敬する元北九州市長末吉興一さんから何度も聞いた言葉であります。

 NTTが国会議員と会食を行ってきたのは事実でしょうか。お尋ね致します」

 澤田純「お答の前に大家委員の貴重なお時間を頂いてしまうんですが、お詫びをさせて頂きたいと思います。この度の件でご関係の皆様に大きな迷惑とご心配をかけた、そのことに関してですね、心よりお詫びを申し上げさせて頂きます。その上でお答えさせて頂きます。

 私共日頃より、例えばマスコミ、あるいは与野党の国会議員の方々、を始めと致します、いわゆる各界の有識者と懇談を行ない、将来の社会や国際情勢全般について意見交換をさせて頂く、そのような場を設けております。お答えとしてはそういう場を設けているということでございます」

 大家敏志「与野党を超えて国会議員と意見交換を行ってきたと。目的は何だったんでしょうか。もう一度と言うか、具体的にあればお答えください」

 澤田純「基本的には国会議員のセンセイ、どなたもそうなんですが、非常に見識や知識が幅広い方々です。私共に取りましては非常に刺激になる、よい勉強になる場を提供して頂いているということでございまして、業務上の要請であるとか、あるいは逆に便宜を受けるとか、そのようなお話はしておりません。以上、お答えを致しました」

 大家敏志「まあ、国会議員の見識にも個人差はあると思いますが、次にお伺い致しますが、NTTと総務省幹部との会食、について事実関係、それからこれもまた併せて目的についてお答えください」

 澤田純「私が社長に就任いたしましたのは2018年の6月でございます。3月8日の総務省の調査では私が総務省の幹部の方と会食を持ったのは2回ということになっていたんですが、これは私のことですので調査を致しまして、もう1回のお辞めになっている方とですね、会食がございましたんで、この3年間で3回ということになります。
 
 2018年の秋に2回、2020年の6月に1回。こういう構図であります。話の中身は基本的には将来の社会、特にAIが入ってきた折りの社会のプラスの面、マイナスの面、こういうことについてですね、広く一般的なお話を意見交換させて頂いております。以上、お答え申し上げました」

 大家敏志「様々な方から疑念を持たれた以上は全てをつまびらかにしてその上でルールに則って判断・行動されることが求められると思っております。公務員倫理規定、大臣規範等に照らして、きちっとした対応を求めたいと思います」

 大家敏志の質問には意図的な情報操作が仕組まれている。大家敏志は自民党に席を置くゆえに週刊誌等で報道された接待を受けた元総務大臣の野田聖子と前総務大臣の高市早苗と現総務大臣の武田良太と総務省幹部等に対してそこに行政を歪める何らかの不正な取引きはなかったかと疑われている、言ってみれば被告の側に立つ弁護士の役割を担っている。罪を追及する検事の思いで質問に立っていたわけではない。

 さらにNTT社長澤田純が「NTTの業務に関する便宜を図るようにお願いした」から始まって、「手心を加えるように要請した」、あるいは「一定の配慮を要望した」といったことを、事実そうしていたとしても、自ら告白するはずはないと分かっていて、こういった状況を前提にしていたから、大家敏志は最初は贈収賄罪の匂いを漂わせかねない「接待」という言葉を一旦は使っておきながら、その匂いを断ち切った「国会議員と会食」のレベルに持っていく誘導を行ない、その誘導に応えて、NTT社長澤田純が政治家との会食も総務省幹部との会食も一般的な意見交換の機会に過ぎなかったと明らかにしたことで野田聖子や高市早苗、武田良太全員を贈収賄罪から無罪放免する意図的な情報操作に成功している。

 尤も政治家も官僚も過去から現在まで「意見交換」を免罪符に接待の場に臨み、接待する側の政治や行政と利害関係にある企業にしても、「意見交換」の名のもとに接待の場を設ける構図を慣習とさせている。結局のところ、大家敏志は与党側弁護士の役割上、従来からのこの構図に意図的に誘導したに過ぎない。

 NTT社長澤田純にしても、「例えばマスコミ、あるいは与野党の国会議員の方々、を始めと致します、いわゆる各界の有識者と懇談を行ない、将来の社会や国際情勢全般について意見交換をさせて頂く、そのような場を設けております」と懇談や意見交換は元総務大臣の野田聖子と前総務大臣の高市早苗と現総務大臣の武田良太や総務省幹部だけではなく、マスコミ関係者、一般的な与党国会議員、さらに野党の国会議員、さらに各界の有識者とも行っていることだと一般化することで、そこにさも利害関係など存在しないかのような誘導、意図的な情報操作を行っている。

 この日の参議院予算委員会の4番手は立憲民主党の斎藤嘉隆である。

 2021年3月15日参議院予算委員会斎藤嘉隆

 斎藤嘉隆「企業が目的なく接待をすることは私はあり得ないと思います。当然、NTT本来の進展のためにですね、接待を行ったものと考えていますけども、この親睦会や懇親会を深めることによってNTTの事業にですね、どのような影響があったか、どのように認識をされているかお伺いします」

 澤田純(NTT代表取締役社長)「意見交換しないかっていうの、実は投げかけられまして、それに対して私は認識が甘いものですから、では会食だというふうにお話をさせて頂いた流れがございます。意見交換をしたい、私もしたい。その一番の内容は将来のAIが入った折りのマイナス面ですとか、あるいは私共が考えて、デジタルツインという世界がこれから参りますが、その折りに社会学的にどうかと、こういうようなところをお話させて頂きました。

 非常に色んな意見を頂きましたので、有用であったというふうに考えております。以上でございます」

 NTT社長澤田純のこの答弁は大家敏志に対する答弁と大分趣を異にしている。斎藤嘉隆が被告の側に立つ弁護士の役割からではなく、罪を追及する検事の役割を担っているとみていることからの趣の違いということなのだろう。

 「意見交換しないかっていうの、実は投げかけられまして、それに対して私は認識が甘いものですから、では会食だというふうにお話をさせて頂いた流れがございます」云々の意味するところは政治家や官僚の側から意見交換を求めてきて、その求めに対して会食で応じている構図となっていることを明らかにしたことになる。この手の構図は繰り返し行われていることによって完成する。つまり常態化していることを証明していることになる。

 企業側は許認可に関係した事務手続きで何か厭がらせでも受けたら困るからと、意見交換が口実であっても、飲み食いの会食で応じる。政治家や官僚側も許認可権を握る優越的立場から相手が簡単に断ることができないことを知っていて、実態は飲み食いが目的の意見交換を求める。まさに政治家や官僚による意見交換の名を借りた飲み食いへのたかりであり、元々が人間はタダで飲み食いしたいという欲求を人間の習性の一つとしているが、このようなたかりを彼らは自分たちの生態の一つとしているということである。

 この常態化した生態となっているたかりの過程で企業側が自らの企業経営に関わる役所側の特別な手続きを必要とした場合、たかりに応じていることの見返りに、要するにタダで飲み食いさせていることの見返りにその手続きに何らかの便宜を求めることがあったとしても、このような場面は決してないと否定しきれない。政治家や役人側から言うと、飲み食いをたかっている手前、あるいはタダで飲み食いさせて貰っている恩義から企業側が求めた便宜に応じない保証はないとは言い切れない。

 前総務大臣高市早苗や現総務大臣武田良太が自身が飲み食いした代金は支払っていると主張しているのは、それが事実だとすると、タダで飲み食いさせて貰っている恩義から何らかの便宜を要求された場合、応じてしまうことを恐れているからだろう。あるいは何らかの便宜を図ったと疑われることを恐れて、支払ったことにしていると装っている可能性もあり得る。

 要するにタダで飲み食いしていても、飲み食いの代金はタダで済んだとしても、タダで済まない何かでタダで済んだ代金の埋め合わせをするということが往々にして存在する。

 いずれにしても、企業と役所間の贈収賄はこのようなタダで飲み食いの常態化したたかりの構図から発生する。そして常態化は既に触れたように繰り返されることによって完成する構図であり、生態だから、似たような事例を過去の世界から引き出すことができることになる。既にマスコミが似た事例としてノーパンシャブシャブ事件を盛んに取り上げている。「Wikipedia」「大蔵省接待汚職事件」として紹介している。一部を取り上げてみる。文飾当方。

 〈1998年(平成10年)に発覚した大蔵省を舞台とした汚職事件である。大蔵省の職員らが銀行から接待を受けた際に、中国人女性が経営する東京都新宿区歌舞伎町のノーパンしゃぶしゃぶ店「楼蘭」を頻繁に使っていた事が発覚(店名の楼蘭は、新疆ウイグル自治区の地名)したことからノーパンしゃぶしゃぶ事件とも言われている。

 官僚7人(大蔵省4人、大蔵省出身の証券取引等監視委員会の委員1人、日本銀行1人、大蔵省OBの公団理事)の逮捕・起訴に発展。起訴された官僚7人は、執行猶予付きの有罪判決が確定した。この責任を取り三塚博大蔵大臣と松下康雄日本銀行総裁が引責辞任し、財金分離と大蔵省解体の一つの要因となったと言われているが、実際は改革は族議員に骨抜きにされ、名称が財務省に代わった程度で、抜本的に変化した訳ではない。

 罪状は銀行や証券会社側の官僚に対する飲み食いの贈賄、官僚側の銀行や証券会社側に対する便宜供与と飲み食い収賄等となっている。

 この事件は1998年の発生である。この事件の再発防止策として翌1999年8月に国家公務員倫理法が成立、さらに翌2000年4月に施行の運びとなった。だが、官僚が意見交換という口実でタダで飲み食いを受ける接待はなくなることはなかった。NTT社長澤田純が「意見交換しないかっていうの、実は投げかけられまして」と言っている官僚側からの働きかけによるたかりは一つの構図としてノーパンシャブシャブ事件でも現れていた。文飾は当方。

 《風俗店は宮川室長から誘う MOF担当ら1200人が会員 ノーパンシャブシャブ》(朝日新聞/1998年1月27日)
 
「ぜひ一度行ってみたい。来週どうしても行こう」 風俗店、宮川室長から誘う

 収賄容疑で逮捕された大蔵省の金融証券検査官室長・宮川宏一容疑者(53)が第一勧業銀行の大蔵省担当職員(通称・MOF担)に対し女性従業員の過激な接待を売り物にする東京・新宿の会員制しゃぶしゃぶ料理店に連れて行くよう要求し、接待を受けていたことが東京地検特捜部の調べで明らかになった。店の会員には1200人を超す金融機関の社員が登録しており、接待額は一人1回辺り3万円を上回ることが多い。宮川室長以外にも多くの大蔵省幹部が接待を受けたと複数の金融業界関係者が指摘している。特捜部は27日にも同店を家宅捜索し、常識離れした大蔵官僚の接待漬けの実態を解明する方針と見られる。

 東京新宿の会員制しゃぶしゃぶ店 MOF担ら1200人会員

 この店は、下着をつけない女性が付き添って接客することで知られ、「ノーパンすあぶしゃぶ」の通称で呼ばれることもある。

 特捜部の調べによると、宮川室長は第一勧銀のMOF担に対し、「ぜひ一度行ってみたい。来週どうしても行こう」と要求したとされる。宮川室長は同行から11回の飲食接待を受けたなどとして逮捕されたが、この容疑事実の中には同店での接待も含まれている。

 この店での接待費用は現在、コース料理で一人当たり1万9千180円。これに加え、コンパニオンの女性に1万円のチップを渡すと、女性が下着を脱いで接客する。消費税や女性の飲み物代を含めると、費用は客一人当たり3万円を大きく超えることになる。

 この店で検査対象の金融機関から接待を受けた大蔵官僚は宮川室長だけではない。宮川室中の部下に当たる別の検査官も数年前、ある元MOFに対し、「おもしろいところだから行こうよ」と持ちかけ、銀行局の係長と共に同店で接待を受けたという。 

 この元MOF担は「当時はそんな店があるとは知られていなかった。はっきり言って、びっくりした。目が点になりました。もっとびっくりしたのは向こう(大蔵省職員)が慣れていたこと。何度も来たことがあるという感じだった」と明かした。

 ある銀行幹部は「MOF担になったばかりのころ、ある証券会社から会員カードを借りて大蔵省の人と行きましたけど、もう二度と行くまいと思いましたね。店の女の子はあっけからんとしているけど、私としてはいたたまれない感じでした」と振り返った。

 別の金融機関の広報部は「うちのMOF担は、大蔵省接待といっても、せいぜいこの店程度だと言っています」と話し、MOF担の間で、こうした接待が半ば常態化している実情を明かした。

 店の説明によると、会員は約1万3千人で、このうち銀行や証券会社の社員が1200人余にのぼる。ほとんどの都市銀行や大手証券会社、外資系金融機関で、社員が会員になっており、大蔵省を担当する総合企画部の幹部行員の名前もある。

 店の経営者は「金融関係のお客さんは多いけど、どういう人をお連れになっているかはわからない。店では、接待する側も、される側も、楽しく笑い声を上げている。普通の料亭にいくより、接待の効果は高いはず」と話している。

 【MOF担】《MOFは大蔵省・財務省を表すMinistry of Financeの頭文字から》大蔵省(現財務省)との折衝を主な任務とした銀行・証券会社などの担当者の通称。かつて金融監督官庁であった同省の動きを事前につかむために、担当官僚と密接な関係を持った。》(「goo国語辞書」

 官僚側から飲み食いと女性サービスをたかっていた。宮川宏一は各銀行から400万円以上の飲み食いの接待供与を受けていただけではなく、マンションの一室を購入した際、代金の一部の440万円を銀行に負担させる利益供与まで受けていた。

 大体が役所にとって利害関係者に当たる企業との意見交換に飲食を伴わせ、その代金を企業側に支払わせること自体が、その意見交換がどのようにまともな話題に基づいていても、企業側にとってどのように有用なものであったとしても、役人側のたかりを構図としていることに変わりはない。たかりをペイするために役所側の権限で応えない保証はない。企業側も持ち出し一方となっている支払いをペイして貰うために何らかの便宜を求める誘惑に駆られない保証はない。

 人間がタダで飲み食いしたいという欲求を自らの習性の一つとしている以上、そのことが飲み食いを通した贈収賄のキッカケとなることを防ぐためにも意見交換という名目でその機会を手に入れることを国家公務員倫理規定を改めて禁止しければ、過剰接待の再発も、タダでの飲み食いを通した贈収賄の再発も危うい。意見交換と言うなら、一部の企業幹部や一部の役所幹部だけで行うのではなく、企業の若手や役所の若手官僚を交えて、企業か役所の会議室でペットボトルのお茶のみの提供で行った方が健全な、幅広い意見交換となり、若手の勉強にもなり得るはずである。NTT社長澤田純が言っているように「非常に刺激になる、よい勉強になる場の提供」を幹部のみならず、若手にも与えることになる有意義な機会とすることができるはずだ。

 たかりという役人たちの卑しい行為をなくすこともできる。

 少なくとも意見交換という名で役人側がタダで飲み食いする不健全なたかりを繰返して行ない、いつ贈収賄に発展するかも分からない危うい状況にあることを無視して、「再発防止」だけを言い、それが掛け声倒れとしてしまうのは政治側の不作為に当たる。

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2021年2月25日山田真貴子参考人招致衆議院予算委員会の黒岩宇洋と後藤祐一の追及を身の程知らずにも添削する

2021-03-15 11:47:48 | Weblog
 2021年2月25日衆議院予算委員会は山田真貴子当時内閣広報官、日本放送協会会長前田晃伸、総務省総務審議官谷脇康彦の3人を参考人招致して行われた。その日の質疑は午前中のみで1番手が立憲民主党の黒岩宇洋、2番手が同じく立憲民主党の後藤祐一、3番手が同じく立憲民主党今井雅人、4番手が日本共産党藤野保史。

 国会議員は追及のプロである。与党議員の閣僚に対する質問は追及の色彩は消え、政府政策の持ち上げ、あるいは宣伝の色彩を帯びるケースが多々見られるが、野党議員の追及は厳しく、執拗である。その追及をド素人の当方が添削するというのだから、身の程知らずもいいとこだが、敢えて身の程知らずに挑戦してみることにした。対象は立憲民主党黒岩宇洋の質疑少々と同立憲民主党後藤祐一・
 
 彼らの追及の主題は山田真貴子の総務省次官級ポスト総務審議官(国際担当)当時の2019年11月6日に総務省の放送に関わる許認可権行使対象の、それゆえに「国家公務員倫理法」「第二章国家公務員倫理規程」で「利害関係を有する者」として関係を規制されている衛星放送関連会社東北新社のメディア事業部趣味・エンタメコミュニティ統括部長菅正剛(菅義偉長男)との会食に於いて許認可権に関わる何らかの便宜の要請を受けたか、その要請に対して何らかの便宜を与えたかにあった。

 1番手の黒岩宇洋は会食に関する追及の前に一部報道によって知り得た情報として以下の真偽について追及を行った。この追及に関して当方なりの添削を行ってみる。菅義偉が2020年10月26日夜のNHK『ニュースウオッチ9』に出演した際、キャスターによる日本学術会議任命問題についての何度もの質問を受けて、「説明できることとできないことがある」と不快感を顔に見せた。その当日なのか、翌日なのか、山田真貴子はNHKの原政治部長に「総理、怒っていますよ」と抗議の電話をかけたと言う。かけたことが事実なら、政府による報道介入となる。勿論、山田真貴子は「総理が出演後、電話を行ったことはありません」と否定した。対して黒岩宇洋は同じく参考人として呼び出していたNHK会長前田晃伸に質問をぶっつけた。

 黒岩宇洋「NHK会長にきのう通告して、NHKの内部でも確認して頂きたいと。山田広報官から26から27日にかけて、NHK、この職員関係者に電話がかけられたという、こういった事実は確認しておりますでしょうか」

 前田晃伸「現場に確認に致しましたが、山田広報官から抗議の電話を受けたという事実はございません」

 黒岩宇洋「会長、抗議の電話ではなく、電話がかかってきた事実はないという明言でよろしいでしょうか」
 
 前田晃伸「取材制作の過程に関わる事項につきましては原則としてお答えすることは差し控えております。ただ、現場にも確認致しましたが、山田広報官からの抗議の電話を受けたことはございません」

 黒岩宇洋「山田広報官に事前にお願いしてあるんですけども、山田広報官の携帯電話の通話履歴、これは携帯の事業会社に確認すれば、全て残っていますから、この履歴を調べて欲しいとお願いしたが、調べて頂けましたか」

 山田真貴子「通話履歴は通信事業社に確認したところ、通話履歴の確認につきましては昨年の11月までしか遡れないとのことでした。一方で、私自身の携帯の電話履歴を確認いたしましたが、NHKへの発信の記録はございませんでした」

 黒岩宇洋「11月までしか記録は・・・。これはちょっと。ご本人が(NHKに電話はしなかったと)明言したことを裏付けることになる。これはご本人にとっても利益だと思っているので、そういう意味で(履歴の確認を)お願いを致しました。ただ、今申し上げたとおり客観的にですね、携帯事業会社が記録を上げていなかったということで、この点についてまだ、まだ私としても得心することはないので、今後とも確認をさせて頂きます」

 黒岩宇洋は以後、山田真貴子と菅正剛との会食の質問に移る。

 山田真貴子がNHKに実際に抗議の電話を入れたとしても、黒岩宇洋は山田真貴子もNHK会長の前田晃伸も素直に認めるとでも思っていたのだろうか。事実でなければ、当然否定する。事実であっても、なおさらに否定する。否定して当然であり、否定自体を前以って想定内として追及に臨まなければならなかった。

 当然、山田真貴子が「電話はしなかった」、NHK会長の前田晃伸にしても、「山田広報官からの抗議の電話を受けたことはございません」と一旦は否定させたところで、「否定は分かりきっていました」とした上で、分かりきっていたことの理由を述べればいい。それを単なる推測と取るか、可能性として十分に有り得る推測として取るかは追及を聞く者をして任せる以外にない。

 最も信憑性の高い分かりきっていたことの理由は次のようなことが考えられる。

 山田真貴子がNHKに報道圧力となる抗議の電話を入れたと報じたのは2020年11月15日付ネット記事《総理が怒っていますよ…官邸からNHKへの「クレーム電話」その驚きの中身》と題した
「週刊現代」である。黒岩宇洋が追及した通りのイキサツが書いてある。

 山田真貴子がNHKに抗議の電話を入れたとされている疑惑日は菅義偉がNHK『ニュースウオッチ9』に出演した、「週刊現代」では「その翌日」となっているが、黒岩宇洋は「26から27日にかけて」と言っている2020年10月26、27日から「週刊現代」がネット報道する2020年11月15日まで2週間以上、19日も経過している。さらに国会で最初に取り上げたのは、2021年2月22日付「asahi.com」記事でで知り得た情報だが、黒岩宇洋が2021年2月25日に取り上げる3日前の2021年2月22日午後の衆院予算委員会で同じ立憲民主党の本多平直であって、抗議電話の疑惑日から「週刊現代」による疑惑報道まで19日、疑惑報道から本多平直が国会で追及する2021年2月22日までが3ヶ月と7日、合計3ヶ月と22日、約4ヶ月も経過している。一応、このことを前置きしておく。

 本多平直の追及相手は菅義偉。記事が伝えている菅答弁を取り上げておく。

 菅義偉「(山田氏)本人に確認したところ、NHKにクレームの電話をしたという報道は事実ではないと報告を受けている」

 (「クレームの電話はしてないというが、電話はしたのか」の再度の追及に)私が承知しているのは先程来、申し上げた通り。電話してないんじゃないかなと思いますけれども、確認したら(山田氏は)そういうことだと言っていた」

 黒岩宇洋はこの3日後の衆院予算委員会で今度は山田真貴子本人に対して同じ追及をし、同じ答弁を得たに過ぎないことになる。

 山田真貴子がNHKに抗議の電話を入れたことを一応、事実と仮定しよう。その抗議の電話をNHK側が報道機関に対する国家権力による報道介入だと受け止めた場合は、あくまでも受け止めた場合だが、NHK側から報道機関の使命として国家権力の報道介入という危険な姿勢に警告を発し、それを改めさせるべく、即菅内閣に対して抗議の電話を入れているだろうし、それだけにとどまらずに、そのような姿勢の危険性を社会に知らしめるためにこれこれの報道の介入を受けたことから、これこれの抗議を行ったと広く公表、公表することによって国家権力に対抗する力を得るために社会を味方につけるべ取り計らうはずである。

 だが、報道介入に当たることになる抗議電話の疑惑日から本多平直の国会追及までの間、その3日後の2021年2月25日の黒岩宇洋追及までの合計約4ヶ月もの間、NHK自身は音無しの構えでいた。その答は山田真貴子から報道介入に当たる抗議の電話などなかったからだと考えることができる。なかったとすると、「週刊現代」の山田真貴子に関わる取上げ記事は火のないところに煙を立たせた虚偽報道と言うことになる。

 但し山田真貴子のNHKへの抗議電話と「週刊現代」の報道を共に事実と仮定した場合、当然、NHK側の抗議によってその事実が表沙汰になったのではなく、「週刊現代」の報道が表沙汰にした事実となる以上、NHK内部の誰かの報道機関向けの内部告発という意図的な行為の介在なくして「週刊現代」が知り得る情報とすることはできない。そしてそのような内部告発の目的はNHK側自身が報道機関の使命として国家権力の報道介入に警告を発すべく、抗議の電話を菅内閣に入れることもせず、結果的にその危険な事実を社会から隠すという報道機関の使命に反した振る舞いに対する反発と仮定することができる。

 要するに黒岩宇洋は2021年2月25日の予算員会で山田真貴子がNHKに抗議の電話をしたかしなかったの追及自体を相手の否定を前提として行った上で否定した時点で「週刊現代」の報道はNHK内部の者による内部告発の可能性に言及、その内部告発はNHK自身が報道機関の使命として果たすべき国家権力による報道介入への断固とした拒否を政府側の反発を恐れて事勿れに処理したことに対する個人的な懲罰に発したよくある典型的な例の一つではなかったかといった経緯を描くことによって、道理として十分に有り得る事実として印象づける方向へと持っていくべきではなかったか。

 少なくともNHK側からも、菅内閣側からも、山田真貴子本人からも「週刊現代」に対して事実でないことを書かれ、広く報道された、NHKの信用を損なわせた、山田真貴子本人の名誉を傷つけられたといった抗議が何もされなかったのだから、いくらNHKと菅内閣が否定したとしても、あるいは山田真貴子本人が否定したとしても、抗議の電話をしたのは事実ではないかと憶測される事案であり、往々にしてその種の憶測は独り歩きし、憶測そのものを増殖させていく。この独り歩きによる憶測の増殖に便乗して抗議の電話を入れることで報道介入に走ったのは週刊誌の報道通りの事実そののものではないのかとの印象操作に持っていくのも一つの手だろう。ただ否定されて引き下がる手はない。

 NHK『ニュースウオッチ9』出演で受けた扱いに反発した菅義偉のNHKに対する山田真貴子を使ったNHKに向けた報道介入の疑いに関わる黒岩宇洋の追及をこのように添削してみたが、如何だろうか。最低限、黒岩宇洋は週刊誌の記事は虚偽報道ということになるから、山田真貴子に「週刊現代」対して名誉を傷つけられたとして何らかの抗議すべきではないか、する気があるのかないのかと問い、その答弁からも抗議の電話をしたのかどうかを探るべきだったろう。

 次に同じ立憲民主党の質疑のプロ、後藤祐一の山田真貴子に関わる追及の要所、要所を取り上げて、恐れ多くも添削を試みてみる。そして最後に山田真貴子に関係する追及箇所と総務審議官谷脇康彦に対する追及少々を載せておくことにする。

 山田真貴子は黒岩宇洋に対しても同様だったが、反省の意を示すためか、つつましげで低姿勢の様子を見せていて、そのために声を低く話すように努めているようで、なおかつマスクをしているせいで、聞き取りにくい。「行政を歪めるような不適切な働きかけはなかった」としていることと、「飲み会を絶対に断らない女」をウリにしている矜持からすると、もう少し胸を張っていていいはずだが、逆の態度が演出めいていて、胡散臭い感じを与えている。
 
 後藤祐一「きのう官房長官の記者会見で、山田真貴子さんと東北新社側との関係を問われて、会食としては1回限りだという話を聞いております。あとは具体的にはどこのタイミングか分からないけれども、名刺交換等を行ったと、こういった関係にあるということでございますという発言を官房長官はされておられます。山田広報官にお伺いますが、菅正剛氏と最初にお会いしたのはいつですか。この会食があった言われている令和元年(2019年)11月6日の会食のときですか」

 山田真貴子「お答え申し上げます。大変失礼ながら、いつ名刺交換したのかというのは記憶にないんですけども、私自身が菅総務大臣以来、菅正剛様が秘書官をやっておられたということは今回の報道で初めて知りまして、と申すのはその当時、自治体に出向しておりまして、ひと月程しか重なっていないということでございます。

 というわけで、総務省の職場で面識を得たということはございませんでした。名刺交換をさせて頂いたのは残念ながら、いつだったということは記憶がないものですから、ただ、比較的最近ではないかなというふうに思っています」

 この答弁の中に既にウソをついていると思わせる箇所がある。答弁のこういった綻びを追及していかなければ、事実を引き出すことはできない。先ず名刺交換ついて。「いつ名刺交換したのかというのは記憶にない」、「名刺交換をさせて頂いたのは残念ながら、いつだったということは記憶がない」と時期そのものの記憶がないことを言いながら、「比較的最近ではないかなというふうに思っています」と「比較的最近」という時期に記憶を置き換えている。

 「比較的最近」への記憶の置き換えはそうすることの方が山田真貴子にとって何らかのメリットがあるからだろう。つまり置き換えるについてのウソがある。後藤祐一は山田真貴子が「はっきりとは覚えていません」と応じるかもしれないが、「比較的最近とは菅正剛と会食した2019年11月6日当日なのか、以前なのか、以後なのか」と一応は追及しなければならなかった。いつ頃かによって両者の関係性の意味合いが異なってくる。

 山田真貴子の経歴をネットで調べてみると、菅正剛らと会食した2019年11月6日当時は総務省総務審議官(国際担当)に就いていた。在任期間は2019年7月5日から2020年7月20日までの1年余。自治体への出向は2007年4月までは世田谷区副区長を務めていて、2007年7月に総務省に戻り、総務省総合通信基盤局国際部国際政策課長に就いている。菅正剛は菅義偉が第1次安倍政権で総務大臣として初入閣(2006年9月26日)した際、総務大臣秘書官に抜擢され、2007年7月5日まで総務大臣秘書官として務めたとなっている。但し山田真貴子の経歴には2007年7月に総務省に戻ったことになっているから、「ひと月程しか重なっていない」と言っていることにかなりのズレがある。ネット上の総務大臣秘書官退任の2007年7月5日の日付が間違っているのか、山田真貴子が曖昧な記憶に頼って発言したことからのズレなのかもしれない。後者だとしたら、菅正剛との会食の件で衆議院予算委員会に参考人招致されたのだから、菅正剛と自身の経歴をしっかりと把握した上で質疑の場に臨むべきをそうしていなかったことになる。全てを記憶が曖昧で片付ける必要上、正確に頭に把握しておかなければならない事柄にまで曖昧にしてしまう過剰反応を見せてしまう場合がある。そうだとしたら、そこにもウソがあることになる。

 山田真貴子は自治体に出向していた事情で、「菅正剛様が秘書官をやっておられたということは今回の報道で初めて知りました」述べていることにもウソを見なければならない。この理由を述べる前に山田真貴子は東北新社という会社そのものに対しても「東北新社様」と呼び、その社長に対しても「様」付で呼び、菅正剛に対しても「様」付で呼んでいる。総務省は放送事業者に対して許認可権を審査・認可する関係上、厳格な態度(偉ぶった態度ではない)で臨まなければならない性格の役所であり、その役所に所属している者として両者の関係性から言うと、相手を「様」付けで呼ぶのは異常なまでのへりくだりに見える。

 かくまでも東北新社に対して自身を下に置かなければならない山田真貴子の理由は何なのだろうか。

 役人は特に人事に敏感な生き物であるはずである。誰が次の次官を射止めるか、誰が次官レースから脱落するか、その人事次第で、所属する派閥の成員の人事にも影響してくる。この傾向は次官や審議官の下に配置される各局の人事に於いても言えることであろうし、総務省所掌の行政事務をトップの責任者として管理・監督することになる総務大臣人事については特に敏感にならざるを得ないはずである。当然、2006年9月26日に菅義偉が総務大臣に任命された際、その政治手法・官僚掌握術に無関心ではいられなかったであろう。しかも総務大臣就任と同時に自身の長男である菅正剛を総務大臣秘書官に取り立てたことと、菅正剛の前職がバンド活動していて、政治活動とは無縁であったということと相まって省内ではこの縁故採用の話題で持ち切りとなったはずであるし、縁故採用が省内人事に何か影響することがあるのだろうかといったことにも話は及んだはずだ。

 当然その話題は菅義偉の総務大臣就任と菅正剛の総務大臣秘書官就任時に山田真貴子が出向していたとしても、総務省に残っている親しくしていた同僚から、「今度任命された大臣秘書官、総務大臣の長男だって。縁故採用もいいとこ」といった形で連絡が入るか、飲み会を断らない女なのだから、出向の息抜きに彼ら同僚たちと飲み会をしていたとしたら、菅正剛を酒の肴にしてお喋りが盛り上ったことは十分に考えられる。

 つまり自治体に出向していたとしても、世田谷区と霞が関は乗り物を使った移動距離では左程遠い距離というわけではなく、電話やパソコン等の通信手段を使った通信距離は感覚的には目と鼻の先であるし、情報や往来の途絶まで伴うわけではない。にも関わらず、「私自身が菅総務大臣以来、菅正剛様が秘書官をやっておられたということは今回の報道で初めて知りまして」と言い、その理由として「自治体に出向しておりまして、ひと月程しか重なっていない」ことを挙げる。まるで情報も往来も途絶した関係を強いられた出向に見える。こんなことはあり得るだろうか。

 後藤祐一は「あなたが出向中、総務省の知り合いの同僚と会ってお茶をしたり、飲み会をしたりするといったことは一度なく、電話等で連絡も取り合ったことがなかったのですか」と聞かなければならなかった。「会ってお茶をしたことがある、飲み会をしたことがある、連絡を取り合ったりしたこともある」と答えたなら、「総務大臣の長男であるという稀有な関係性と政治経験がなく、バンド活動が前歴の稀有な素性であることから、総務大臣秘書官に就いた菅正剛なる人物の話題で総務省内はいっときでも賑わったはずです。同僚と会うか連絡を取り合った際にどんな人物か、どんな印象の男か、どんな風貌をしているのかといったことかを聞かされたりしたことは一度もなかったのか」と。

 「お茶も飲み会もしたことがあるし、電話で連絡を取り合ったこともあるが、菅正剛について一度も話は出なかった」と答えたなら、「同僚との会話は上司や部下、あるいは同じ同僚でも距離を置いている相手の人物評価に花が咲くものですがね、どうも本当のことを話しているようには見えない」

 こう答えて、山田真貴子の答弁を信用ができないところへと持っていく。

 後藤祐一はこういったことは一切聞かずに山田真貴子が言っていることが事実かどうかは菅正剛に聞かなければ分からないから、菅正剛を国会に参考人招致することを委員長に求める。

 後藤祐一「全く面識のない菅正剛氏とそしてこの東北新社との関係は先程会ったことはないということでしたけど、社長の就任祝いという名目で開かれた会になぜ急に参加することになったのですか。その経緯をお話ください」
 
 山田真貴子「今のお話でございますが、菅正剛様とは名刺交換というのはこの会合以前にしていたというふうに思っております。で、先程、名刺交換だけでございまして、突っ込んだ話をしたり、会話したりということは記憶にないところでございます。で、東北新社様とは菅正剛様とお話させて頂きましたが、前の社長様、植村徹様と記憶しておりますが、新しくなられまして、二宮様に代わられたということでご挨拶されまして、そのときに(菅正剛と)お話があったんではないかなというふうに思っています。

 私自身、そのときには放送の担当は外されておりまして、国際政策の担当をしておりましたので、そういう意味では直接に交わる、語るお話と言うよりは世界的な映像事務ですとか、映像一般のお話をお伺いするということをしたと考えていたというふうに思っております」

 会食は社長の就任祝いという名目で開かれた。しかし総務省総務審議官(国際担当)だった山田真貴子が後藤祐一のそのような会食に「なぜ急に参加することになったのか」についての経緯を尋ねたのに対して何も答えていない。なぜ山田真貴子が選ばれたのか。聞かれたことをそのまま答えないというのは聞かれたままに答えたなら何かまずいことがあるからで、聞かれたこと以外の答は何らかの誤魔化し・ウソで成り立たせていることになる。

 山田真貴子は聞かれてもいないのに、しかも前のところで名刺交換は「いつだったということは記憶がない」とか、「比較的最近ではないかなというふうに思っています」云々と記憶が曖昧であることを装っていながら、ここでは「菅正剛様とは名刺交換というのはこの会合以前にしていたというふうに思っております」と名刺交換の時期についての記憶をかなり限定する言い換えを行っている。

 この会合で菅正剛とは初対面で初めて名刺交換をしたが事実なら、この会食に山田真貴子がピンポイントで招待された理由はかなり特殊な意味合いを持つことになる。それを避けるために後藤祐一に聞かれてもいないのに菅正剛様との名刺交換を「この会合以前」とし、前々から親しくしていて、たまたま会食に誘われた関係を装った疑いが出てくる。そして同じく聞かれてもいないのに「放送の担当は外されておりまして、国際政策の担当をしておりました」と東北新社の放送事業とは無関係の部署であることを示して、便宜供与が発生する余地がないことを訴えた可能性が出てくる。

 しかし国際担当とは言え、総務省総務審議官は次官級ポストだと言われている。仕事上の関連部署や長年の勤務の間の同僚や部下の異動先に対する影響力は相当なものがあるはずで、その影響力を駆使すれば、自身は放送事業とは無関係の部署にいたとしても、東北新社の放送事業と関連する部署への働きかけは不可能ではない。その上、谷脇康彦総務審議官、吉田眞人総務審議官、秋本芳徳前情報流通行政局長、湯本博信大臣官房審議官等々、錚々たる幹部が東北新社から接待を受けていたのだから、山田真貴子も加えて、お互いが周囲に対して「東北新社のこの件、よろしく頼む」と口添えしていったなら、山田真貴子が例え東北新社の放送事業と無関係の部署にいたとしても、影響力の行使は不可能ではなくなる。

 後藤祐一は山田真貴子が菅正剛との名刺交換の時期について微妙に言い換えていることに気にも留めずに会食した店が「どんなお店だったのか」とか、「お店の特徴について覚えている限りでお話ください」と求め、山田真貴子は「和食レストランというカテゴリーだと思います」と明確には答えない。最初から記憶が明確ではない文脈で答弁しているから、記憶が明確ではないことに合わせた疑いはある。

 後藤祐一の「どんな会話をしたのか」の問には次のように答弁している。

 山田真貴子「私自身、繰り返しになりますけども、その時点では放送の関係でございませんでした。私自身も仕事の指揮としましては移動したときがそのような仕事(国際政策)に就いて、過度に派手に関与すべきではないと、こういう意見をしっかりと頂くべきであるという考えのもとに仕事をしてきております。で、そういったことでございますので、元々こういう場(会食の場)で何か仕事の話をするタイプでもございません。

 勿論、放送業界ですとか、業界全体の実情に関する話はあったかもしれませんけども、全体的としては一般的な懇談であったというふうに思います」

 この答弁はくどい。「放送業界ですとか、業界全体の実情に関する話はあったかもしれませんけども、全体的としては一般的な懇談であったというふうに思います」と後段の端的な答弁のみで総務省の放送事業者に対する許認可に関わる不当などのような働きかけもなかっとの説明となる。にも関わらず、「私自身、繰り返しになりますけども、その時点では放送の関係でございませんでした」とここでも再び東北新社の放送事業とは何の関わりのない部署に所属していたこと、「過度に派手に関与すべきではないと、こういう意見をしっかりと頂くべきであるという考えのもとに仕事をしてきております」と自らの仕事に対するスタンスまで説明、不正に関与する性格の人間ではないことを示した上で、「元々こういう場(会食の場)で何か仕事の話をするタイプでもございません」と言わなくてもいいことまでわざわざ口にしている。

 こうまでもくどく説明しなければならないのは、山田真貴子自身が答弁で描いていることの状景の裏に逆の事実を隠している可能性がある。隠していなければ、くどくどとした説明は要らないし、簡単な答弁で済む。事実ではないから、事実であると相手に信じ込ませるために余分な言葉が必要になる。後藤祐一はおかしいじゃないかとこの点を突かなければならなかったが、「極めて東北新社という会社にとっては重要な政策論についてお話したことはありませんか」と、山田真貴子側にとって不都合な事実となる、否定して当然なことを余りにも単刀直入に追及をしている。否定自体を前以って前提とした追及を心がけなければならないことを忘れている。だから、ムダな追及が多くなる。
 
 後藤祐一の上記追及に対して山田真貴子が「働きかけというものはなかったというふうに思っています」と答えると、「特に東北新社に関係するような放送行政に関係するような話題はありませんでしたか」と同じく正直に答えるはずもない繰り返しの追及を試みる時間のムダを費やしている。

 山田真貴子「繰り返しになりますけれども、放送業界全体の実情に関する話はあったかもしれませんけれども、全体としては一般的な懇談であったとかというふうに考えております」

 結局は後藤祐一自身が2019年11月6日の菅正剛らと山田真貴子との会食の場で思い描いていた東北新社側からの行政を歪めるような不適切な働きかけとその働きかけに内々で応じる山田真貴子の状景に関しては何一つ追及できなかった。

 以下添削とは関係ないが、この日の3番手の質疑者立憲民主党今井雅人の質問を少々取り上げてみる。

 今井雅人「事前に(菅正剛を認識していた)ということではなく、4人の方と会食されたわけでしょ。呼ばれたら断らない方ですから、どういう方と会食した、その人の名前が分からないまま会食されるということはないと思いますので、会食をした時点では菅正剛さんはいらっしゃってると認識しておられましたね」

 山田真貴子「(菅正剛と)会食していたときには認識していたのかなとは思います。ただ当時は名刺交換はなかったと思います。それから(カウンター席に?)横並びだと思うのでお話はしておりませんので、そういう意味で私自身、その場にどういう方がいらっしたかということについては俄には思い出せなかったということでございます」

 ネットで調べてみると、会食の出席者は5人。東北新社側が二宮清隆新社長、三上義之取締役執行役員、木田由紀夫執行役員、そして菅正剛を含めて4人。対して山田真貴子が外部の人間として一人。合計5人の会食。

 いくら社長就任祝いの会食であったとしても、会食の主催者は山田真貴子ではなく、東北新社側であって、山田真貴子はいわばお客さんである。会食の費用を東北新社側が持ったことでも、この関係性は証明される。気を遣われるべきはたった一人のお客さんである山田真貴子であって、横並びの席に着席していたとしても、横並びの関係から「お話はしておりません」はあり得ない。カウンター席に5人が並んだとしても、話し合う者同士が顔を他の者の背後にのけぞらしたり、前に突き出したりしていくらでも話を盛り上げることができる。当然、「その場にどういう方がいらっしたかということについては俄には思い出せなかった」ということもあり得ない。

 大体が今井雅人の前に質問した後藤祐一に対して山田真貴子は「東北新社様とは菅正剛様とお話させて頂きましたが、前の社長様、植村徹様と記憶しておりますが、新しくなられまして、二宮様に代わられたということでご挨拶されまして、そのときに(菅正剛と)お話があったんではないかなというふうに思っています」と会話を交わしたことを口にしている。

 今井雅人に対する菅正剛とは会話はしていない、同席者が「俄には思い出せなかった」が怪しい答弁なのは「ただ当時は名刺交換はなかった」と答弁していることが証明している。山田真貴子は後藤祐一に対して「菅正剛様とは名刺交換というのはこの会合以前にしていたというふうに思っております」と答弁している。つまり山田真貴子は菅正剛と会食前に既に名刺交換していたから、会食時に名刺交換は必要なかった。会食前からお互いに面識があったということであって、いくら横並びの席であっても会話を交さないということもあり得ないし、「(菅正剛と)会食していたときには認識していたのかなとは思います」という相手に対するあやふやな印象もあり得ない。虚偽答弁そのものであろう。

 2015年2月25日衆議院予算委員会立憲民主党後藤祐一対山田真貴子参考人招致

 聞き取りにくく、意味不明な箇所は「?」か、「・・・・」で処理した。

 後藤祐一「では、山田真貴子広報官にお話を伺いたいと思います。内閣広報官というお仕事は政府で起きている事実関係を世の中に正しく伝えるということがお仕事だと思うんですが、政府の説明責任をいわば代表している立場だと思いますが、如何ですか」

 山田真貴子「お答え申し上げます。説明責任という言葉は確か書いてなかったと思いますけども、政府の政策を広く知って頂くということが大事な仕事かなと考えております」

 後藤祐一「本日も政府の中で何が起きているのかきちっと説明するためにこられておりますので、是非事実を包み隠さずに述べて頂きたいと思います。

 きのう官房長官の記者会見で山田真貴子さんに関連して内閣広報官としての重責を担っていることを改めて自覚して頂き公正に職務を遂行して頂きたいと申し込まれたということでございます。この点は総理からの指示だったということでございます。 

 いわば続投が総理の指示だったという趣旨のご発言でありますが、山田広報官を辞めさせないというのは菅総理のご判断ですか」

 加藤勝信「昨日記者会見で、申し上げ、その前に山田広報官に対してですね、この一連について国家公務員倫理法違反に当たる行為により国民の皆様の疑念を抱く結果になったことは甚だ遺憾であり、反省して貰いたい。今後このようなことが二度とないように厳重に注意して貰いたい。今回の件を重く受け止め、真摯な反省の上に立って内閣府広報官という重責を担っていることを改めて自覚し、国民全体の奉仕者として高い倫理観を持って公正に職務を遂行される、一層奨励されて貰いたい、こういうことを伝えたところでありますが、これはまさに総理からこの指示を頂いて、山田広報官に私からこのことを伝えたことを記者会見で申し上げたところでございます」

 後藤祐一「総理の指示だったと。続投は総理の指示だったという答弁だったいうことだと思いますが、山田広報官に伺います。本当は辞めたかったんじゃないですか。辞表を認めた、あるいは杉田副長官(内閣官房副長官杉田和博)か官房長官辺りに辞表をお渡しした、あるいは口頭かもしれませんが、何らかの辞表のお知らせをした。そういったことはなかったですか」

 山田真貴子「色々(?)私が国際担当総務審議官在任中に国家公務員倫理法違反の行為があったことにつきましては改めて国民の皆様に深くお詫び申し上げたいと存じます。今のお話にございましたとおり、官房長官から厳重にご注意頂いたところでございます。私自身、内閣府広報官としてお願いして頂いている立場でございます。大変僭越ながら、辞表というものをお渡ししようとしたとかいう事実はございません」

 後藤祐一「きのう官房長官の記者会見で、山田真貴子さんと東北新社側との関係を問われて、会食としては1回限りだという話を聞いております。あとは具体的にはどこのタイミングか分からないけれども、名刺交換等を行ったと、こういった関係にあるということでございますという発言を官房長官はされておられます。山田広報官にお伺いますが、菅正剛氏と最初にお会いしたのはいつですか。この会食があった言われている令和元年(2019年)11月6日の会食のときです」

 山田真貴子「お答え申し上げます。大変失礼ながら、いつ名刺交換したのかというのは記憶にないんですけども、私自身が菅総務大臣以来、菅正剛様が秘書官をやっておられたということは今回の報道で初めて知りまして、と申すのはその当時、自治体に出向しておりまして、ひと月程しか重なっていないということでございます。

 というわけで、総務省の職場で面識を得たということはございませんでした。名刺交換をさせて頂いたのは残念ながら、いつだったということは記憶がないものですから、ただ、比較的最近ではないかなというふうに思っています」

 後藤祐一「全く面識のない菅正剛氏とそしてこの東北新社との関係は先程会ったことはないということでしたけど、社長の就任祝いという名目で開かれた会になぜ急に参加することになったのですか。その経緯をお話ください」
 
 山田真貴子「今のお話でございますが、菅正剛様とは名刺交換というのはこの会合以前にしていたというふうに思っております。で、先程、名刺交換だけでございまして、突っ込んだ話をしたり、会話したりということは記憶にないところでございます。で、東北新社様とは菅正剛様とお話させて頂きましたが、前の社長様、植村徹様と記憶しておりますが、新しくなられまして、二宮様に代わられたということでご挨拶されまして、そのときに(菅正剛と)お話があったんではないかなというふうに思っています。

 私自身、そのときには放送の担当は外されておりまして、国際政策の担当をしておりましたので、そういう意味では直接に交わる、語るお話と言うよりは世界的な映像事務ですとか、映像一般のお話をお伺いするということをしたと考えていたというふうに思っております」

 後藤祐一「令和元年(2019年)11月6日の会合、1回しかしてお会いしていないと言っておりますが、どんなお店だったのですか。ホテルの中のお店だとか、和食の座敷みたいなところだとか、出た料理について少しありましたけど、お店の特徴について覚えている限りでお話ください」
 
 山田真貴子「和食レストランというカテゴリーだと思います。ご利用(?)頂いている企業などにもアンケートを行っているところでございまして、お店の営業に影響がないようにこれ以上は差し控えせさせて頂きます」

 後藤祐一「どんな会話をされたんですか。BS、CS、あるいは・・・・無線、架線(?)、・・・(?)の配分。あるいはちょうどその頃にはもう少し支援してほしい、おカネがかかる、何とかして欲しい。色んなお話があったと思いますけども、こうしたBS、CS・・・・・こういったようなお話なかったですか」

 山田真貴子「私自身、繰り返しになりますけども、その時点では放送の関係でございませんでした。私自身も仕事の指揮としましては移動したときがそのような仕事(国際政策)に就いて、過度に派手に関与すべきではないと、こういう意見をしっかりと頂くべきであるという考えのもとに仕事をしてきております。で、そういったことでございますので、元々こういう場(会食の場)で何か仕事の話をするタイプでもございません。

 勿論、放送業界ですとか、業界全体の実情に関する話はあったかもしれませんけども、全体的としては一般的な懇談であったというふうに思います」

 後藤祐一「この委員会に提出された『山田真貴子の事案について』の中でこの会合のときの会話については業界に関する話が繰り返し話題が出た。しかし行政を歪めるような不適切な働きかけはなかった。この3つの条件を厳しくしたという。『行政を歪めるような』、『不適切』、『働きかけ』

 行政を歪めているかどうかは分からない。適切か不適切かどうかは分からない。働きかけとなっているかどうかは分からないけども、極めて東北新社という会社にとっては重要な政策論についてお話したことはありませんか」

 山田真貴子「働きかけというものはなかったというふうに思っています」

 後藤祐一「働きかけに限りません。東北新社に取ってはテロップ(?)の配分ですとかBS、CSこれからどうなっていくかっていうのはこの先の会社の命運を分ける話になるわけです。働きかけではないかもしれないけれど、行政を歪めるかどうかは分からない、不適切ではないかもしらないけど、こういったBS、CS、特に東北新社に関係するような放送行政に関係するような話題はありませんでしたか」

 山田真貴子「繰り返しになりますけれども、放送業界全体の実情に関する話はあったかもしれませんけれども、全体としては一般的な懇談であったとかというふうに考えております」

 後藤祐一「BSの無線のところは開けるとかね、左のところはお客が少ないから、そこは何とかするっていう話は東北新社に直接影響する話なんですよ」

 総務大臣武田良太に検証委員会できちんと検証すべきだと求める。武田良太の答弁は省略。

 後藤祐一「山田広報官、この検証委員会から来てくださいと言われたら、きちんと来て頂いて、審議させて頂きますか」
 
 山田真貴子「お答え申し上げます。検証委員会がどういった形なのか、まだ私の立場ではその場に行っていいのかということにつきましては今の時点で判断することがちょっと難しいかなと思っております」

 後藤祐一「呼ばれた場合にはお越し頂けるということでよろしいですか。呼ぶかどうか検証委員会の方々が判断する話だと思いますけど。呼ばれた場合には起こし頂くということでよろしいですか」

 山田真貴子「呼ばれた場合に私の一存で行けるかどうかということはそこは一応組織の人間でございますので、ご相談した上で判断させていただきますので、私自身は何か予断を持っているわけではございませんが、私一人では判断しかねるところでございます」

 後藤祐一「そうかも知れませんね。官房長官か総理が判断するのかもしれませんね。総理の責任が問われるわけです。そこは是非総理に来て頂いたときに聞いてみましょ。

 谷脇(康彦)総務審議官にお越し頂いておりますけども、今回の事案につきまして22日の、広田委員のこの委員会での質問に対して今回の事案につきまして公務員の倫理法に抵触する恐れのある事案でございますけど、過去に於いて放送事業者と同様なことをしたということはございませんということで、東北新社と同同様な会食はほかの放送事業者に対してはしていないと答えていますが、同様かどうかは関係ありません。同様でなくても、結構ですが、東北新社以外の放送事業者、そして谷脇総務審議官はむしろ情報通信の世界のプロだと伺っておりますので、情報通信関係の関係者と会食したことございますか」

 谷脇康彦「お答え申し上げます。先ず今般、公務員倫理規定の違反をしたとして今般、懲戒処分を受けましたことにつきまして深く反省をし、またお詫び申し上げたいと思います。

 委員のお尋ねでありますけども、通信事業者、あるいは放送事業者を問わず、東北新社以外の事業者と公務員倫理法に抵触する恐れのある会食をしたという事実はありません」

 後藤祐一「修飾語はつけないで、単に東北新社以外の放送事業者、その関係者、そして情報通信関係の会社とその関連の会社の関連の方々と会食をしたことはございますか。色々と修飾語をつけないでお答えください」

 谷脇康彦「お答え申し上げます。意見交換を目的として通信事業者、もしくは情報通信事業者と会食をするということはございます」

 後藤祐一「それは利害関係者に当たるかどうかはもう本人の言うことはもう信用できないわけですよ。是非、法務大臣、この検証委員会は今のようなこと、東北新社以外の放送事業者、その関連の方々だけではなくて、通信関係の谷脇さんなんかは大きな影響力を持っているわけですから、今回の(事案?)、まさにそうじゃないですか、この方々と利害関係者に当たるか当たらないか、みんな間違えていたわけですから、本人たちに判断させたなら。利害関係者と飯を食っていないと言うに決まってるじゃないですか。

 ですから、利害関係者に当たるか当たらなかは置いておいて、当たらないと思っているような人であっても放送関係者、情報通信関係者と会食したかどうか、これ検証委員会で検証して頂く必要があるんじゃないですか」

 武田良太(総務大臣)「先程から申し上げていますように二度とこういうことが起きないようにするための機関でありますので、ありとあらゆるものを検証して頂きたいと思いますので、最終的に委員会が判断すべきだろうかと思っております」

 後藤祐一「委員会だって東北新社限定なのか、東北新社以外の放送事業者まで入るのか、あるいは通信の世界まで入るのか、その場合を決めて貰わないと困りますから。大臣、情報通信まで含めてやるっていうことでよろしいですね」

 武田良太「二度と国民の疑念を招くようなことにならないように機能できる委員会を期待しております」

 後藤祐一「是非、どう対処していくのか、みんなも見ていると思いますので、出して頂きたいと思います」

 山田真貴子に対する追及は終わる。

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東京大空襲訴訟高裁判決「旧軍人・軍属への補償は戦闘行為などの職務を命じた国が使用者として行うもので、合理的根拠ある」の意味

2020-08-31 07:29:53 | Weblog
 当ブログのテーマと関係ないが、先ず安倍晋三首相辞任から。

 安倍晋三のウルトラC

 安倍晋三が2020年8月28日の記者会見で潰瘍性大腸炎が再発し、激務に耐え得ないとかで自民党総裁任期を1年を残して首相を辞任した。記者会見で次のように述べている。

 安倍晋三「今後の治療として、現在の薬に加えまして更に新しい薬の投与を行うことといたしました。今週初めの再検診においては、投薬の効果があるということは確認されたものの、この投薬はある程度継続的な処方が必要であり、予断は許しません」

 新薬服用の効果はあったが、その効果を病状回復にまで持っていくためにはある程度の継続的な処方が必要であり、それまでの期間、現在の体調では国民の負託に応えうる自信が持てない。よって辞任することにした云々となる。

 もし病状回復までの新薬服用の効果期間を1年と置いていたらどうだろうか。1年後の総裁選に遣り残したことがあると立候補も可能となる。憲法改正、北方領土返還、拉致被害者帰国、地方創生戦略の見直し 格差拡大是正、東京一極集中是正・・・・等々。遣り残したことの方が多いくらいである。

 ここで鍵となるのは官房長官の菅義偉が自民党総裁選に出馬することを自民党幹事長シーラカンスの二階俊博ら政権幹部に伝えて、二階俊博からは「頑張ってほしい」と激励されたとマスコミが伝えているし、8月31日朝のNHKニュースは、「二階派幹部は、菅氏が立候補すれば派閥として支援する可能性を示唆した。」と報じている。

 もし菅義偉が首相になったとしても、任期は来年の9月まで。この間に総選挙がある。野党結集の影響を受けて、政権を失わない程度に一定程度、議席を減らしてくれれば、政権を失うこと程怖いことはないという経験をしている自民党からすれば、安倍待望論が湧き起こらないとも限らない。菅義偉をワンポイントリリーフとすれば、安倍晋三の再登板は遣りやすくなる。再登板なら、総裁任期は3年だから、3年間、じっくりと腰を落ち着けて安倍政治に取り組むことができる。うまくいけば、さらに3年間・・・・。そのために辞任を1年早めた????

 既にこういったシナリオが出来上がっているのかもしれない。安倍晋三にとってはウルトラCのシナリオだが、反安倍陣営にとっては悪夢のシナリオとなる。

 2020年8月24日エントリ当ブログ《NHKSP「忘れられた戦後補償」から見る民間被害者への補償回避は憲法第14条が定める「法のもとの平等」違反 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に対して次のようなコメントを頂いた。

 軍人恩給は報奨 (ニガウリ)2020-08-24 17:17:33 軍人軍属恩給は聖戦(正義の戦争)に対する尽忠報国へのご褒美(報奨)として与えられている。その趣旨から当然のように、職業軍人に厚く与えられている。そこに問題がある。沖縄では準軍属として遺族年金を受けている人がいるが、彼らは戦争に協力したと報告書に自書しなければ準軍属としては認められなかった事も問題である。

 軍人軍属恩給を「問題がある」と批判しているが、軍人軍属に対する恩給が「ご褒美(報奨)」として位置づけられているのか、ちょっと気になって調べてみた。一部抜粋。

「恩給制度の概要」(総務省) 
 
(6)昭和28年(1953年)旧軍人軍属の恩給復活(法律第155号)

II 恩給の意義、性格

 恩給制度は、旧軍人等が公務のために死亡した場合、公務による傷病のために退職した場合、相当年限忠実に勤務して退職した場合において、国家に身体、生命を捧げて尽くすべき関係にあった、これらの者及びその遺族の生活の支えとして給付される国家補償を基本とする年金制度である。

III 恩給の対象者

 現在、「共済制度移行前の退職文官等」及び「旧軍人」並びに「その遺族」が対象となっている。(約23万人。うち98%が旧軍人関係)

 要するに恩給制度は旧軍人を主たる対象としている。そして恩給そのものは「国家に身体、生命を捧げて尽く」したことに対する国家による補償――「国家補償」を基本的性格としているとしている。

 一方で戦争被害に遭った民間人には、2020年8月15日夜放送のNHKスペシャル「忘れられた戦後補償」によると、引揚者、被爆者、シベリア抑留者などに対しては救済措置は施されたが、空襲被害者等に対しては何ら補償を受けることができなかった。理由は「国家に身体、生命を捧げて尽く」す「公務」のための死亡・傷病ではなかったからということであり、引揚者、被爆者、シベリア抑留者程には苦労していないということからなのかもしれない。

 名古屋空襲で被害を受けた市民の補償請求訴訟に対して最高裁は1987年(昭和62年)6月26日に、「戦争犠牲、戦争損害は、国の存亡にかかわる非常事態のもとでは、国民のひとしく受忍しなければならなかったところであって、これに対する補償は憲法の全く予想しないところ」という判断を示した。

 1945年3月10日の東京大空襲の被災者と遺族113人が旧軍人・軍属には恩給や遺族年金が支給されるのに民間被災者に補償がないのは「法の下の平等」を定めた憲法に違反するなどと主張し、2007年3月9日に東京地方裁判所に提訴した補償請求訴訟では2009年12月14日に「原告請求棄却」の判決を下し、この判決を不服として東京高裁に控訴、2010年(平成22年)7月23日第1回口頭弁論、2012年(平成24年)4月25日に請求を棄却した一審・東京地裁判決を支持し、原告側控訴を棄却した。

 原告は最高裁にさらに上告。最高裁は2013年5月8日、審理を1度もせずに「民事訴訟法の上告と上告受理の条項に当たらない。原告らの請求をいずれも棄却する」と上告を棄却、原告側の敗訴が確定した。

 以上がネット等で調べた空襲被害者の補償訴訟の経緯である。

 要するに東京大空襲訴訟に関しては東京高裁判決が旧軍人・軍属及びその遺族に対する恩給等の補償の正当性を論理づけていることになる。高裁判決をネット上で捜したが、見つけることができなかった。

 但し判決の一部を電子書籍の中から見つけることができたが、引用を禁止している。と言っても、著作権法32 条1 項は、〈公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。〉と規定している。

 要するに引用が分かる形にすれば、引用できることになっている。引用電子書籍に対して敬意を評するために1584円を出して購入することにした。

  「戦争経済大国」(斎藤貴男著/ Google Books)
 
 〈戦時災害保護法が廃止されたのは生活困窮者に対しては、その困窮が戦争により生じたものかであるか否かなどその理由に関係なく一律に保護を与えるとの方針に基づくものであり、同方針に基づき、戦時災害保護法の廃止と同時に生活保護法が、また、昭和22年には児童福祉法が、昭和24年には身体障害者福祉法が、それぞれ制定されたこと、他方、戦争傷病者戦没者遺族等援護法は(中略)その趣旨は戦地に赴いて戦闘行為に参加するなど死傷の危険性の高い職務を国から命ぜられ、その職務に従事した軍人軍属等については、その職務上の負傷、疾病または死亡につき国がその職務を命じた使用者あるいは使用者類似の立場から補償を行うというものであること、また、恩給法は、国との雇用関係にあった旧軍人に対し、文官に対すると同様に国が使用者の立場から補償を行うという趣旨のものであったことからすると、これらの法律が軍人軍属を対象として補償を定めたことには合理的な根拠があるということができ、この対象とされなかった者との区別が非合理あるということはできない。このことは、既に前傾最高裁判昭和62年6月26日第1小法廷で判示しているところである。〉

 東京高裁判決のこの箇所は原告の訴えに対応した判断である。原告側から別の訴えがあって、その訴えに対応した別の判断の存在は判決の全文を知ることができないから、どう応えようもない。中途半端な解釈になるかもしれないし、以下の解釈が既に誰かの手によってなされている可能性も否定できないが、自分なりに感取したことを並べてみる。

 但し引用判決が判決の主たる部分を占めていることは次の報道からも証明できる。

 〈東京大空襲訴訟、二審も国の賠償責任認めず 東京高裁〉(日経電子版/2012/4/25)(一部抜粋)

 〈東京大空襲では約10万人が死亡したとされる。原告らは、旧軍人・軍属には恩給や遺族年金が支給されるのに、民間の被災者に補償がないのは「法の下の平等」を定めた憲法に違反するなどと主張した。

判決理由で鈴木裁判長は「空襲で多大な苦痛を受けた原告らが不公平感を感じることは心情的には理解できる」としつつ、「旧軍人・軍属への補償は、戦闘行為などの職務を命じた国が使用者として行うもので、合理的根拠がある」と述べた。〉――

 引用判決とこの報道内容は相互に対応していて、主たる判決を占めていることが分かる。

 判決は要するに「戦争傷病者戦没者遺族等援護法」の趣旨は旧日本国家を旧日本軍と一体と看做して(=国から命ぜられ、その職務に従事し)、「戦地に赴いて戦闘行為に参加するなど死傷の危険性の高い職務」「上の負傷、疾病または死亡につき国がその職務を命じた使用者あるいは使用者類似の立場から補償を行うというものである」として、旧日本国家=旧日本軍が軍人・軍属に対して「使用者あるいは使用者類似の立場」にあったと看做している。

 恩給法にしても、「国との雇用関係にあった」ことから、「国が使用者の立場から補償を行う」と正当性の根拠としている。

 いわば旧日本国家=旧日本軍と軍人・軍属は「雇用関係にあった」。と言うことは、民間人空襲被害者は旧日本国家=旧日本軍と雇用関係になかったから、補償対象外に置かれたとしていることになる。

 このことは上記、〈恩給の意義、性格〉と対応する。「国家に身体、生命を捧げて尽く」す「公務」内の死及び死傷であるから補償するとして、「公務」外の民間人を補償対象外に置いていることと何ら変わりはない。

 ここで「補償」という言葉の意味を取り上げておく。〈損失を補って、つぐなうこと。特に、損害賠償として、財産や健康上の損失を金銭でつぐなうこと。「goo国語辞書」〉とある。つまり「補償」は常に責任の発生に基づいた行為ということになる。責任が発生しない行為に関して如何なる「補償」も発生しない。

 日本政府は戦争責任を認めていない。自存自衛の戦争だとか民族解放の戦争だとか、正当化している。安倍晋三にしても、「侵略という定義は国際的にも定まっていない。国と国との関係で、どちらから見るかということに於いて(評価が)違う」と戦前日本の戦争を侵略戦争だとは認めていない。

 だが、日本政府は「戦争傷病者戦没者遺族等援護法」と「恩給法」で、旧日本国家=旧日本軍と軍人・軍属が「雇用関係にあった」と看做して、「戦地に赴いて戦闘行為に参加するなど死傷の危険性の高い職務を国から命ぜられ」て被ることになった「負傷、疾病または死亡」させたことの責任を認めていることになる。責任を認めているからこそ、「補償」を対置させている。

 つまり「使用者あるいは使用者類似の立場」上の責任を認めた「補償」となっている。

 であるなら、例え民間人空襲被害者が旧日本国家=旧日本軍と雇用関係になかったとしても、国から命ぜられた旧軍人・軍属の「死傷の危険性の高い職務」の巻き添えを食らい、その「死傷の危険性」が民間人にまで及び、「負傷、疾病または死亡」を被った場合の日本国家の責任は免責できるとすることができるのだろうか。

 バスが整備不良やバス運転手の過剰勤務で事故を起こし、運転手・乗客に死傷者が出たなら、運転手・乗客共に整備不良の巻き添えを食らったことになり、バス会社は乗客に関しては雇用関係にはなかった、「使用者あるいは使用者類似の立場」になかったかという理由で補償を免れることができるわけではない。

 バス運転手が心筋梗塞、クモ膜下出血等の何らかの身体的原因か、飲酒等の運転規則に反して事故を起こして、乗客ばかりか、通行人をも巻き添えにして、死傷させたとしたら、乗客に対しても通行人に対しても雇用関係にはなかった、「使用者あるいは使用者類似の立場」になかったかとして、補償なしで済ますことができるわけではない。

 民法

第715条(使用者等の責任) ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 要するに民法の立場から言うと、各戦闘のために雇用関係にあった軍人・軍属を使用する旧日本軍(=旧日本政府)は被用者たる軍人・軍属がその戦闘の執行について第三者たる民間人に加えた場合の損害を賠償する責任を負うということになる。

 〈ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
〉とする免責を日本の戦争、あるいは各戦闘に適用可能とすることができるかどうかである。

 1941年(昭和16年)7月12日に内閣総理大臣直轄の総力戦研究所が日米開戦を想定した勝敗の帰趨を読み取る総力戦机上演習を行った結果、「日本必敗」とした。

 この「日本必敗」の根拠となった日米の国力(エネルギー資源も含む)・軍事力格差等を無視したのは当時の首相就任3カ月前の東条英機陸軍大臣で、総力戦研究所の職員を前にして行った訓示で日露戦争を例に取り、「勝てる戦争ではなかったが、しかし勝った。意外裡な事が勝利に繋がっていく」と、「意外裡」(=計算外の要素)に頼り、緻密性と合理性を持たせた戦略(=長期的・全体的展望に立った目的行為の準備・計画・運用の理論と方法)を蔑ろにした、勝てる見込みのない無謀な戦争を引き起こしたのだから、民法に於ける使用者責任の免責事項は日本の戦争に限っては適用不可としなければならない。

 日本政府は旧軍人・軍属が旧日本軍(旧日本国家)と雇用関係にあったからと言って、その雇用関係から生じた「負傷、疾病または死亡」等の損害に対して補償を済ますだけではなく、第三者(民間人空襲被害者)をも巻き込んだ損害にも補償する責任を負うはずである。

 当然、「戦争犠牲、戦争損害は、国の存亡にかかわる非常事態のもとでは、国民のひとしく受忍しなければならなかった」とする「受忍」論も不当な判断ということになるはずである。

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安倍晋三の検察庁法改正案に賛成しよう! 但し不正疑惑渦中閣僚一人で検察人事関与不可を条件とする

2020-05-18 11:40:20 | Weblog
   検察庁法改正案を一体化させてある国家公務員法等の一部を改正する法律案が2020年3月13日閣議決定され、同日国会に上程された。検察庁法改正に関わるその主な内容と「論点」について2020年5月15日付「NHK NEWS WEB」記事「元検事総長ら 検察庁法改正案に反対の意見書提出 極めて異例」が詳しく解説しているから、それを纏めてみた。このブログ記事の最後にリンク切れに備えて、全文を参考引用しておくことにした。

🔴政治に対する検察の役割=捜査や裁判を用いた権力不正のチェック
🔴検察庁法の改正案は、内閣や法務大臣が認めれば検察幹部らの定年延長を最長3年まで可能。
🔴改正案は検察人事への政治権力介入の正当化をなす。
🔴政権側による人事権掌握、対公訴権行使制約の危険性。検察への政権の意向反映。政権による検察
 の自主・独立の侵害 
🔴定年に関わる改正案
 すべての検察官の定年を段階的に63歳から65歳へ引き上げ。
 検事正や検事長等幹部は原則63歳退官
 対幹部特例規定――内閣・法務大臣が「公務の運営に著しい支障が出る」と認めれば、個別幹部の
 役職定年、定年を最長3年まで延長可能。
 ※結果、内閣の判断で検事総長定年65歳→最長68歳まで。
     検事長役職定年63歳→最長66歳まで。
🔴問題点 内閣の判断で検察官の定年を延長する場合の判断基準が示されていない。
🔴従来からの検察官人事――検察側作成の人事案を内閣や法務大臣追認が慣例。
🔴法務省が昨2019年10月末の時点で検討していた当初の改正案では「公務の運営に著しい支障が生
 じることは考えがたい」等、個別に検察幹部の定年延長を認める規定は必要ないとしていた。20
 20年1月31日、政府は従来の法解釈を変更、東京高等検察庁の黒川検事長の定年延長を閣議決
 定。

 政治に対する検察の役割が捜査や裁判を用いた権力不正のチェックであるなら、検察官は政治的中立性を常に体現していなければならない。時の政権の意向を汲む、あるいは時の政権の鼻息を窺う(=ご機嫌を取る)、今どきの言葉で言うなら、忖度するようであったなら、政治的中立性など、吹き飛んでしまう。

 従来からの検察官人事は検察側作成の人事案を内閣や法務大臣が追認するのが慣例であったということは検察の人事は検察に任せる“検察人事・検察主導論”の体裁を取っていたことになる。つまり内閣、あるいは法務大臣は検察の主体性を重んじて、“検察人事追認機関”に過ぎなかった。

 だが、改正案で“検察人事・検察主導論”から“検察人事・内閣主導論”へと舵を切ることになる。内閣による検察人事への介入の始まりを意味する。しかも内閣が定年延長に関わる検察人事に関与する際の判断基準が用意されていない。

 判断基準がないということは内閣の判断を縛る基準がないということを意味するから、内閣の自由な判断を許すことになる。改正案によって内閣の自由な判断で検察人事に関与可能となる。当然、検察官の政治的中立性に影響を与えないではおかないことになりかねない。

 検察庁法改正案では定年延長に関して、「任命することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるときは」云々と続けて、それぞれ限度を設けて定年延長を認めているが、改正案のどこを読んでも、「内閣が定める事由」の説明がどこにも出ていなくて、理解不明であったが、ネットを検索して、「【全文 文字起こし】検察庁法改正 衆議院内閣委員会2020年5月15日」(犬飼淳/Jun Inukai|note)に行き当たることができ、やっと理解できた。文飾当方

 森まさこ(法相)「えー、現行国家公務員法上の勤務延長の要件は改正法によっても緩められておりません。また役職定年制の特例の要件も勤務延長と同様の要件が定められております。

 これらの具体的な要件は人事院規則において適切に定められるものと承知してます。改正法上の検察官の勤務延長を・・、や役割特例が認められる要件についても職務遂行上の特別の事情を勘案して当該職員の退職により公務の運営に著しい支障が生じると認められる事由として、内閣が定める事由などと規定しておりまして、改正国家公務員法と比較しても緩められておりません。

 かつ、これらの要件をより具体的に定める、内閣が定める事由等についてでございますが、これは新たに定められる人事院規則の規定に準じて定めます。

 このように改正法に検察官の勤務延長や役割特例が認められる要件を定めた上で新たな人事院規則に準じて内閣が定める事由でより具体的に定めることとしておりますが、現時点で人事院規則が定められておりませんので、えー、その内容を具体的に、いー、すべて示すことは困難であります」――
 
 「内閣が定める事由」は「人事院規則の規定に準じて定める」が、「現時点で人事院規則が定められておりません」

 検察庁法改正箇所をいくら読んでも、「内閣が定める事由」に行き当たらないことが分かったが、法律として未だ確定していない箇所がありながら、その不完全な法案を通そうとしている。

 日本の刑事訴訟法248条は、検察官は、〈犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。〉とある。いわば、起訴便宜主義を採用している。

 さらに検察庁法第4条は、〈検察官は、刑事(「刑法の適用を受け、それによって処理される事柄」のこと)について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益(「社会一般の利益。公共の利益」のこと)の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。〉とある。

 「法の正当な適用」、「公益の代表者」、この言葉自体が既に検察官の全てに亘っての中立性を規定している。

 検察官が時の政権から何らかの力を受けて、あるいは何らかの影響を受けて政治的中立性を失い、政権の犯罪に対して起訴便宜主義に走らないよう、検察官は時の政権と政治的心情に於いて共通点があろうとも、相手の政治的立場に対して常に、常に距離を置いていなければならない。

 それが政治的中立性ということであり、それを失ったなら、検察の役割である政治権力不正のチェックができなくなる。

 当然、政権側も検察及び検察官が自らの政治的中立性を守ることができるように法律で担保しなければならないことなる。その法律がかつては検察庁法であった。上記NHK NEWS WEB記事を見る限り、検察庁法改正案を一体化させている国家公務員法等の一部を改正する法律案が検察及び検察官の政治的中立性を担保することになる法律案には見えない。

 では、安倍晋三の検察庁法改正部分に関する国会答弁や記者会見発言等見てみる。

 2020年5月12日 衆議院本会議

 中島克仁(国民民主党)「最後に検察庁法改正案についてお尋ねします。現在内閣委員会では検察官の定年引き上げを含む国家公務員法等改正案が審議されていますが、国民が強い疑念を抱いている中、ましてや新型コロナウイルス感染症で国民が不自由な生活を強いられている中で強行的に審議を進めるということは絶対あってはならないことであります。

 総理にお尋ね致しますが、今回の法改正の動機としてこれまでの『森・加計・桜』など、自らの疑惑を検察に追及されたくないという気持があるのではないのですか。総理には今回の法案から検察官の定年延長及び役職定年の特例を削除することを強く求めます。総理の見解をお尋ねして私の質問は終わります」
 安倍晋三「検察官の定年引き上げを含む国家公務員法等改正案についてお尋ねがありました。なお大前提として検察官も一般職の国家公務員であり、検察庁法を所管する法務省に於いて一般法たる国家公務員法の勤務延長に関する規定は検察官にも適用されると解釈されるところでであります。
 その上で、今般の国家公務員法等の改正案の趣旨・目的は高齢期の職員の豊富な知識・経験等を最大限に活用する点などにあるところ、検察庁法案の改正部分の趣旨・目的もこれと同じであり、一つの法案として束ねた上でご審議頂くことが適切であると承知をしております。

 今般の法改正に於いては検察官の勤務延長に当たっての要件となる事由を事前に明確化することとしており、自らの疑惑隠しのために改正を行おうとしているといったご指摘は全く当たりません。

 なお、法案審議のスケジュール等については国会でお決め頂くことであり、政府としてコメントすることは差し控えたいと思います」

 そもそもからして「検察官も一般職の国家公務員」であり、「一般法たる国家公務員法の勤務延長に関する規定は検察官にも適用されると解釈される」との文言で検察官と一般職の国家公務員を同列に置くこと自体がトンデモない心得違いをしていることになる。
 一般職の国家公務員も政治的中立性を求められているが、検察官が裁判を通して政治権力不正チェックの任を与っている点、一般職国家公務員の政治的中立性の比ではない。元々、性格が異なる政治的中立性への要求と見なければならない。

 だからこそ、検察官を一般職の国家公務員と同列に置かずに国家公務員法と検察庁法を別建てとした。それを安倍晋三は「一つの法案として束ねた上でご審議頂く」と同列に置いて、かつてので“検察人事・検察主導論”から“検察人事・内閣主導論”へと持っていこうとしている。トンデモない心得違いを侵そうとしている。  

 このことは検察の政治的中立性を一般職の国家公務員の政治的中立性に近づけることになりかねない。

 「改正案の趣旨・目的」を「高齢期の職員の豊富な知識・経験等を最大限に活用する点などにある」と聞こえはいいが、内閣が検察の人事を握ることで検察官の政治的中立性を損なうか、少なくとも影響を受けて、「公益の代表者」たる資格を些かなりともか、大分か、あるいは完全に失うマイナスと比較した場合、「豊富な知識・経験等の最大限の活用」は意味を失う。

 つまり、「豊富な知識・経験等の最大限の活用」よりも、検察官の政治的中立性を重要視しなければならない。重要視するためには内閣が検察官人事に関与しないことが何よりの早道となる。

 だが、安倍晋三が検察官の政治的中立性よりも検察官の「豊富な知識・経験等の最大限の活用」を重要視していることは検察庁法改正案は検察庁法とは逆の方向を目指していることになる。

 「今般の法改正に於いては検察官の勤務延長に当たっての要件となる事由を事前に明確化することとしており、自らの疑惑隠しのために改正を行おうとしているといったご指摘は全く当たりません」
 
「事由」は改正案そのものには「明確化」されていない。そしていくら後付で明確化しようとも、内閣が検察の人事を握る“検察人事・内閣主導”の体制に持っていく以上、検察官の政治的中立性に影響を与えない保証はない。

 安倍晋三は「自らの疑惑隠しのために改正を行おうとしているといったご指摘は全く当たりません」と言っているが、「森友・加計・桜を見る会に関わる不正疑惑の指摘は全く当たりません」とは言っていない。

 つまり疑惑を事実と見て、それを隠すための法改正ではないと断わっている。でなければ、「私に掛けられている疑惑は全て事実無根で、それを隠すための法改正など必要のないことで、改正はあくまでも高齢期の検察職員の豊富な知識・経験等を最大限に活用する点などにあります」と答弁するはずである。

 「asahi.com」記事に誘導されて知ることになったのだが、森友学園の安倍晋三に掛けられた忖度疑惑が事実なのは、「森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書(概要版)」(大阪府不動産鑑定士協会/2020年5月14日)の次のような記事内容が証明することになる。

 〈本件の各鑑定評価書等に共通するのは、 何れも意図的とは断定できないが、依頼者側の意向に沿うかたちで鑑定評価書等が作成され、結果として各成果品が依頼者に都合良く利用され、あるいは利用される恐れがあったという現実である。

 それは、とりもなおさず、国有財産の賃貸、処分の場面においては国民の利益に反し、大阪府私立学校審議会への提出の場面においては、私立学校の経営に必要な財産の価格の把握を誤らせることになり、不動産鑑定評価制度に対する国民・府民からの信頼を毀損する結果に繋がるものと言わざるを得ない。不動産鑑定士が作成する鑑定評価書等は、眼前の依頼者や利用者を満足させるだけではなく、社会からも合理的であるとの評価を受けるものでなければならない。

 当然のことながら、不動産鑑定士が意図的に依頼者に迎合し、不当な鑑定評価等を行うことは論外である。しかし、本件では、不動産鑑定士に悪意がないとしても、悪意ある依頼者又は不動産鑑定制度の趣旨や価格等調査業務を正確に理解せず、あるいは十分に理解しない依頼者が不動産鑑定士の作成した成果品の都合のよい部分のみを利用しようとすることに対し、不動産鑑定士があまりにも無防備または慎重さを欠いていることが明らかになった。

 今回の国有地売却を巡って表面化した不動産鑑定上の問題に関しては、個々の不動産鑑定士の問題あるいは近畿財務局や森友学園という依頼者側の特異性に起因すると捉えるのではなく、不動産鑑定士が社会から求められている専門性や責務について改めて問い直し、鑑定評価制度の土台となる社会的信頼を維持・ 向上させる契機として活かしていくべきと考える。そのような観点から、今般の調査において、当委員会が検討した今後の方策または検討課題を次のとおり提言する。〉――

 〈会計検査院報告書81ページによれば、B不動産鑑定士は、依頼者が提示した地下埋設物撤去・処分概算額には依頼者側の推測に基づくものが含まれ、調査方法が不動産鑑定評価においては不適当であったことなどから、「他の専門家が行った調査結果等」としては活用できなかったという。つまり、不動産鑑定士から見て上記概算額は信用性に欠けるということである。

 そうであったなら、依頼者の要望により意見価額を記載するとしても、専門家である不動産鑑定士が作成する鑑定評価書の信頼性を確保するため、地下埋設物撤去・処分概算額は依頼者が提示したものであるとするだけではなく、不動産鑑定士として認識した内容(信用性に欠ける部分がある旨)も明記すべきであったと考えられる。〉――

 森友学園理事長籠池泰典は国有地を格安で財務省から買い受けるために安倍昭恵の総理大臣夫人の肩書を利用し、財務省は安倍昭恵の背後にいる首相たる安倍晋三を忖度して、不動産鑑定評価額9億3200万円の国有地を鑑定依頼者たる財務省が提示した「推測に基づく」地下埋設物撤去・処分概算額約8億1900万円を差し引いて、約1億3400万円で売却を受けることになった。

 安倍晋三が「30年来の腹心の友」と言って憚らない加計学園理事長加計孝太郎と安倍晋三が首相官邸で2015年2月25日に15分程度の面談を行い、獣医学部新設について話し合ったことが愛媛県文書の1枚に書いてある事実を安倍晋三はマスコミが伝えている「首相動静」を用いて、「どこにも記載されていない。面談の事実はない」と否定、加計学園獣医学部認可自体への自身の政治的便宜付与の疑惑そのものを否定しているが、首相官邸正面エントランスホールで待ち構えている記者の前を通り抜けずに首相執務室に行く通路があって、そこを通った場合はマスコミの「首相動静」に記載されないということを幾つかのマスコミが伝えている。

 それを知らないはずのない安倍晋三が全ての面会者を把握できるわけではない「首相動静」に加計孝太郎との面会の記載がないことを利用して加計学園獣医学部認可自体への自身の政治的便宜付与の疑惑を否定することは疑惑の事実を自らが証明していることになる。

 このように首相である安倍晋三自身が不正疑惑の渦中にある。もし改正案が国会を通過すれば、検察官の人事を内閣が主導することになり、安倍晋三が在任中は数々の不正疑惑の渦中にあるにも関わらず、必要に応じて検察官人事に手を付けることも可能となる。

 その必要に応じてが「疑惑隠し」どころではなく、検察官の政治的中立性を蔑ろにする「疑惑潰し」に利用されない保証はない。

 検察庁法改正を含めた国家公務員法等改正案に賛成するなら、閣僚が一人でも不正疑惑の渦中にある場合は、ましてや閣僚のトップたる首相がそのような状況に置かれているとしたら、なおさらのこと、検察の人事に関与することを不可とする条件を付けなければならない。

 安倍晋三は5月15日夜、ジャーナリストの桜井よしこのインターネット番組に出演、東京高検検事長の黒川弘務の定年延長を閣議決定したのは、黒川弘務が安倍政権に近いからだとの見方を否定して、「私自身、黒川氏と2人で会ったことはないし、個人的な話をしたことも全くない。大変驚いている」と話したと2020年5月15日付「東京新聞」が伝えているが、例え会ったことがなくても、個人的な話をしたことがなくても、第三者を通した忠誠心の間接的確立は不可能ではない。その第一歩が黒川弘務の定年延長の閣議決定ということもあり得る。

 閣議決定に対して大いに感激して涙あられ、安倍晋三センセイの方に足を向けて寝ることはできない、命に代えてでもお守りするといった決意はマンガの世界だけのことではないはずだ。

 検察官の政治的中立性を第一義としなければならない。第一義とするためには検察官人事から閣僚や国会議員を距離を置くように仕向けなければならない。検察官が従来どおりに定年を迎えることになったとしても、その「豊富な知識・経験」は後に続く検察官が前々から引き継ぎ、少しずつ積み重ねていき、超えていかなければならない「知識・経験」であって、後輩検察官が少なくとも遜色のない「知識・経験」にまで到達できなかったなら、先輩検察官は後輩を育てなかったという謗りを受ける。後輩を満足に育てることができなかった「豊富な知識・経験」は定年延長で居残ったとしても、大した財産とはならない。

 要するに検察人事における第一要件はあくまでも検察官の政治的中立性であって、「高齢期の職員の豊富な知識・経験等の最大限の活用」ではないということである。

 新型コロナウイルス緊急事態宣言39県解除の「記者会見」でも、「検察庁法の改正法案は、高齢期の職員の豊富な知識や経験等を最大限に活用する観点から、一般職の国家公務員の定年を引き上げること等に合わせて、検察官についても同様の制度を導入するものであります。

 そして、そもそも検察官は行政官であります。行政官でございますから、三権分立ということにおいては正に行政、言わば強い独立性を持っておりますが、行政官であることは間違いないのだろうと思います」と発言しているが、その発言全てが以上当記事に書いてきたように心得違いから発している。

 この心得違いは疑惑の渦中にあることから、検察官の政治的中立性どころではない「疑惑潰し」が頭にあって、その中立性を忘却していることから発している産物なのだろう。でなければ、検察官の政治的中立性を第一要件としない検察庁法の改正案など発想するはずはない。

 ◇元検事総長ら 検察庁法改正案に反対の意見書提出 極めて異例(NHK NEWS WEB/020年5月15日 19時31分)

検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案について、ロッキード事件の捜査を担当した松尾邦弘元検事総長ら、検察OBの有志14人が「検察の人事に政治権力が介入することを正当化するものだ」として、反対する意見書を15日、法務省に提出しました。検察トップの検事総長経験者が、法務省が提出する法案を公の場で批判するのは極めて異例です。
検察庁法の改正案に反対する意見書を提出したのは、松尾邦弘元検事総長など、ロッキード事件などの捜査を担当した検察OBの有志14人です。

検察庁法の改正案は、内閣や法務大臣が認めれば検察幹部らの定年延長を最長3年まで可能にするもので、意見書では「改正案は、検察の人事に政治権力が介入することを正当化するもので、政権側に人事権を握られ、公訴権の行使まで制約を受けるようになれば、検察は国民の信託に応えられない」としています。

 (「公訴権」公訴を提起し裁判を求める検察官の権能。「公訴」刑事事件について、検察官が裁判所に起訴状を提出して裁判を求めること)

そのうえで「田中角栄元総理大臣らを逮捕したロッキード世代として、検察を、時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きは看過できず、定年延長を認める規定の撤回を期待する」と訴えています。

松尾氏は会見で「定年延長は、今までの人事の流れを大きく変化させる懸念がある。検察官にいちばん大事なのは自主・独立だ」と述べました。

松尾氏は平成16年から2年間、検察トップの検事総長を務め、ライブドア事件や日本歯科医師会をめぐる1億円不正献金事件などの捜査を指揮しました。

検事総長経験者が、法務省が提出する法案について公の場で反対意見を表明するのは極めて異例です。

検察庁法の改正案とは
改正案は、すべての検察官の定年を段階的に63歳から65歳に引き上げるとともに、「役職定年制」と同様の趣旨の制度を導入し、検事正や検事長などの幹部は原則63歳で、そのポストから退くことが定められています。

しかし特例規定として内閣や法務大臣が「公務の運営に著しい支障が出る」と認めれば、個別の幹部の役職定年や定年を最長3年まで延長できるとしています。

このため内閣の判断で定年が65歳の検事総長は最長で68歳まで、役職定年が63歳の検事長は最長で66歳までそのポストにとどまることができるのです。
論点1「政権の人事介入への懸念」
論点の1つは、検察人事への政治介入の懸念です。

検察庁は法務省に属する行政機関で、検察官の人事権は内閣や法務大臣にあります。

一方、検察は捜査や裁判で権力の不正をチェックする役割も担い、政治からの中立性や独立性が求められるため、実際には検察側が作成した人事案を内閣や大臣が追認することが「慣例」となってきました。

日弁連=日本弁護士連合会などは、内閣や大臣の判断で個別の検察幹部の定年延長が可能になれば、検察官の政治的中立性を脅かし、捜査を萎縮させるおそれが強いなどと指摘しています。

論点2「“個別の定年延長制度” 導入の経緯」
個別の検察幹部らの定年延長を可能にする特例規定が改正案に盛り込まれた経緯も論点です。

法務省が去年10月末の時点で検討していた当初の改正案では「公務の運営に著しい支障が生じることは考えがたい」などとして、個別に検察幹部の定年延長を認める規定は必要ないとしていました。

しかし、ことし1月、政府が従来の法解釈を変更し、東京高等検察庁の黒川検事長の定年延長を閣議決定しました。

個別の検察幹部の定年延長の特例規定は、ことしになって改正案に盛り込まれていて、有志の弁護士の団体などは「法解釈の変更による黒川検事長の違法・不当な定年延長を法改正によって後付けで正当化するものだ」としています。
論点3「定年延長を判断する基準」

また、内閣の判断で検察官の定年を延長する場合の判断基準が示されていないことも論点になっています。

元検察幹部は「恣意的(しいてき)な人事の運用ができないよう基準をできるかぎり細かく、具体的に定めることが必要だ」と指摘しています。

現職の検察幹部 さまざまな意見

検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案について、現職の検察幹部からは、さまざまな意見が出ています。

NHKの取材に対し、現職の検察幹部の1人は「検察幹部が定年を超えても政府の判断で、そのポストにとどまることができるようになれば、政権の検察への介入を許すのではないかという批判は受け止めるべきだ。検察は巨大な権力を持つ組織で個別の定年延長を認めないことが、検事総長や検事長への過度な権力集中を防ぐ抑止効果にもなっていたと思う。新型コロナウイルスの影響が広がる中、急いで審議を進める話ではないのではないか」と話しています。

また、個別の検察官の定年延長を可能にする特例規定が、去年10月末の時点で法務省が検討していた当初の改正案に盛り込まれていなかったことについて、別の幹部の1人は「昨年の秋に法務省が必要ないとしていた規定を、なぜ黒川検事長の定年を延長した後に加えたのか説明すべきだ」と指摘しています。

一方、別の現職の幹部の1人は「今回の法改正で、政権が人事を通じて検察に介入しやくなるという危惧はよく分かるが、検察は常に正義とは限らず、暴走するおそれもある。検察をどのように民主的にコントロールしていくかという視点も必要だ」と話していました。

また検察幹部の1人は「検察の独立性という問題があることは理解できるが、定年延長を使って事件に介入しようとする政治家が、本当に出てくるとはあまり思えない」と話していました。

元東京地検特捜部検事「国民の信頼を揺るがすおそれ」

元東京地検特捜部検事でリクルート事件などを担当した高井康行弁護士は、今回の検察庁法改正案について「政治と検察の制度的なバランスを変える意味があり、国民の検察の独立性への信頼を揺るがすおそれがある」と指摘しています。

高井弁護士は、これまでの検察官の人事は、検察庁法に規定されている懲戒などを除いて罷免されないという「身分保障」と、定年が来れば一律に必ず退官するという「定年制」が政権の介入を防ぎ、2つの制度は検察の独立性を守る「防波堤」の役割を果たしていたと指摘しています。

このため、内閣や大臣の判断で個別の検察幹部の定年延長が可能になる今回の改正案については「一律の定年制という独立性を担保する制度の1つがなくなることになる。政治と検察の制度的なバランスを変える意味があり、検察の独立性についての国民の信頼を揺るがすおそれがある」と話しています。

また、内閣が個別の検察幹部の定年を延長する場合の判断基準が、現時点で示されていないことについては「恣意的な運用ができないような制度的な歯止めが必要で、基準をできるかぎり細かく具体的に定めることが必要だ」と指摘しています。

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