台風第19号が2019年10月12日19時前に強い勢力で静岡県伊豆半島に上陸、その後、関東甲信地方を通過、東北地方へと進み、10月13日未明に福島県沖の太平洋上に抜け、宮城県から岩手県の沖を北東に進んで記録的な広範囲に亘る記録的な大雨をもたらした末に10月13日12時に日本の東で温帯低気圧に変わった。
10月13日朝までに東京、栃木、静岡、長野、宮城、福島、茨城、岩手の8都県から自衛隊への災害派遣要請があり、全国で14都県391市区町村それぞれに10月12日付で災害救助法の適用を決定したと10月19日に内閣府が公表しているから、どれ程に広範囲に大雨を降らせ、どれ程に甚大な被害をもたらしたか、理解できる。
台風19号の被害状況を伝える、別の内閣府記事から河川の状況を見てみる。
(2019年10月26日6時00分現在・内閣府非常災害対策本部)
国管理河川堤防決壊12箇所(20日に12箇所全ての仮堤防が完成)
県管理河川堤防決壊128箇所
死者、行方不明者、負傷、家屋浸水等を伝えている消防庁の報告から被害状況を見てみる。
令和元年台風第19号及び前線による大雨による被害及び消防機関等の対応状況(第31報)
(これは速報であり、数値等は今後も変わることがある。)
2019年10月27日(日)16時00分
消防庁災害対策本部
※下線部は前回からの変更箇所
死者90人(うち関連死1人)
行方不明者9人
重症38人
軽症409人
家屋全壊603戸
家屋半壊3124戸
家屋一部損壊4786戸
床上浸水33158戸
床下浸水36057戸
マスコミ報道によると、この死者の7割が60歳以上だそうだ。常に災害弱者を直撃する。河川の決壊は西日本豪雨の際は25河川37か所だったそうだが、今回は国と県管理の河川で5倍強の合計140箇所となっている。
その他、水道管破裂や浄水場浸水により断水が各地で起こった。これもマスコミ報道だが、浸水した面積は2018年7月の西日本豪雨の約1万8500ヘクタールを超えて、約2万3000ヘクタールに達したという。農林水産業の被害については安倍晋三が2019年10月25日夕方の首相官邸開催の「非常災害対策本部」で、「現時点で1000億円余りに上る」と発言したそうだ。
かくかように台風19号は記録的な大雨と強風を広範囲にもたらし、甚大なまでの記録的な被害を与えた。この状況は自然の猛威に対して無力であることを思い知らすことになる。大きな自然災害に襲われるたびに改めてのように「無力」を突きつけられる。
「無力」であるということは、自然災害に手も足も出ない状況を言う。勿論、国は自然災害の猛威に対してそれを防ぐ公共土木事業を積み重ねてきた。だが、現実問題として一方で手も足も出ない状況を目撃させられることになる。と言うことは、公共土木工事にいくらカネを積み上げても、カバーしきれない状況が引き続くことになるという事実を否応もなしに突きつけられることになる。
政治側から言わせると、公共土木工事にカネを注ぎ込まなければ、もっと手も足も出ない状況を招くことになると言うだろうが、自然災害が場所を選んでくれればいいが、そうではないし、いくら可能な限りカネを注ぎ込んできたとしても、あるいはこれから可能な限りいくらカネを注ぎ込もうとも、防災・減災の公共土木工事で日本国土の全ての面を残らずカバーできるわけではないから、手も足も出ない状況は引き続くことになる。つまり公共土木事業が自然災害を追いかける状況の追っかけっこを続るという限界を抱えることになる。
このような限界を抱え込まざるを得ない以上、少なくとも今現在、抱え込んでいる以上、自然災害の猛威を防ぐための人間の可能性に謙虚に向き合い、これまでの公共土木事業に何が足りなかったのかを検証して、その検証を通して何が必要なのかを拾い出さなければならないはずだ。
台風通過から3日後の2019年10月16日の参議院予算委での自民党松山政司の質問と安倍晋三の答弁にこのような謙虚な手続きを窺うことができただろうか。
松山政司「自由民主党の松山政司でございます。本日は大きな節目の200回の国会の参議院予算委員会、2日目、政審会長としてトップバッターを務めさせて頂きます。これから片道方式ですので、時間の制約もありますので、少しだけ駆け足などで質問させて頂きますのでよろしくお願い致します。 質問に先立ちまして、先ず凄まじい豪雨と強風を伴い、また広い範囲で甚大な被害をもたらした台風19号、そして先月猛烈な強風などによって千葉県を初めとして大きな損害を与えた台風15号、こられの度重なる自然災害によって亡くなられた方々のご冥福を心からお祈り申し上げ、被災された方々にお見舞いを申し上げます。 現在政府ではこの度の台風19号につきましては、被害の全容の把握と共に消防や警察、自衛隊、海上保安庁などが救助と捜索に全力を挙げてくれています。電力網、道路、鉄道網の寸断、農地などの生産施設の被害が大きく、迅速かつ手厚い支援が必要です。私ども自民党は即座に緊急役員会を開きまして、被害状況を聴取させて頂いて、非常災害対策本部を設置しました。 昨日も早朝から、朝8時から急遽180名の議員の出席のもとにこの対応について協議をいたしました。政府が各自治体と緊密な連携を持って頂いて、人命の最優先、そして被害が拡大しないように、また復旧・復興に向けて全力を挙げて頂くよう強く申し入れたところであります。数十年に一度という自然災害が毎年、毎月のように襲ってくる時代です。私の地元福岡も、多くの方が犠牲となられた九州北部豪雨から毎年のように大雨災害に見舞われています。 福岡、佐賀、長崎を始め、九州3県、九州を襲ったこの8月の豪雨災害、これも観測史上1位の記録的な大雨となりまして、各市の河川が氾濫をしまして、そして市街地で広範囲な冠水が発生しました。 被災した自治体から話を伺いますと、被害を受けた方々の生活、あるいは生業を一日も早く取り戻すためには復旧・復興事業すぐに進めたいけれども、政府からの財政支援、これが決まらないうちはなかなか決めかねるとは、そういう声がございます。 現場で激甚災害の迅速な指定などを通じて政府が必要な支援を行っていくという強い姿勢は、これを示すことが不可欠であります。我々自民党が強く要望しておりました8月号豪雨から台風17号にかけまして、この災害に対して政府から一連の災害を纏めて、激甚災害の指定をして頂くという異例の対応を示して頂きました。この纏めて指定をして頂くことで幅広く地域が指定しやすくなるという画期的な対応であります。今回の台風19号による被害が明らかになりつつある今、これも既に激甚指定の方針を固めたとのことでございますけれども、是非とも速やかな対応を重ねてお願いしたいと存じます。 そこで今回の台風19号含めて、被災地で救援を待たれている方、あるいは不安を抱えながらも、迅速な復旧・復興を願い、懸命に頑張っていこうとしてる方々に安倍総理から全力で取り組んでいくという力強いご決意を改めてお願いしたいと思います。 安倍晋三「台風19号はですね、大雨特別警報が13都県に発表され、極めて広範囲に亘る甚大なの被害となっていることから、13日に非常災害対策本部を設置しました。政府一丸となって全力で対応に当たっているというところであります。警察、消防、海上保安庁、自衛隊の部隊が人命第一として救命・救助活動や、あるいは行方不明者等の捜索に全力で当たっておりますが、ライフラインの早期回復、被災地のニーズを踏まえた生活必需品のプッシュ型支援を今進めており、先手先手で対策を講じてきているところでございます。 また8月下旬の九州北部地方を中心とする大雨では多くの浸水被害が発生したほか、浸水により佐賀県大町町の鉄工所から流出した油が家屋や農地に流入をしました。9月には台風第15号の記録的な暴風雨により関東地方を中心に大規模かつ長期の停電が発生すると共に約4万棟の一部破損等の住家被害が報告をされております。政府に於いては九州北部での豪雨や台風第15号を含む8月から9月の前線等に伴う大雨による災害を激甚災害に指定したところでございますよ。 そして、先程来、答弁させて頂いておりますが、台風第19号による災害についても激甚災害に指定する方向で調査を進めてまいりますが、どうか自治体のみなさんはですね、躊躇することなく安心をして必要な対応を取って頂きたいと思います。 加えて人家の被害については被害の実態に即して、九州北部の大雨では流出した油による被害を台風第15号では豪雨による被害を加味した被害認定調査を行うこととし、一部損壊についても、災害救助法の選定を拡充し、そして屋根等に日常生活に支障をきたす程度の被害が生じた住宅については支援の対象にするなど、被災地のニーズに応じて弾力的な対応ができるよう取り組んできたところであります。 引き続き台風19号による被災者を含め、被災者の皆様が1日も早く安心した生活を取り戻せるようですね、被災地自治体と緊密に連携をしながら、この我々政権としても、何回かの災害を経験をしてきたところでございますが、こうした経験、反省点も踏まえながら、先手、先手で対応していかなければならないと、こう思っておりますが、被災地のみなさまに寄り添った復興に全力を尽くして参ります」 松山政司「しっかりした、また力強いご支援のご決意、ありがとうございました。 次に昭和33年に1200人以上の犠牲者を出した狩野川台風は、これに匹敵する程の強力かつ巨大な台風と言われた台風19号、数多くの河川が決壊し、氾濫を致しました。そこで治水対策についてお伺いしたいと思います。 報道によりますと、利根川では八ッ場ダムが大量の洪水を止めたとされています。八ッ場ダムといえば、『コンクリートから人へ』という掛け声のもとで紆余曲折 を経てきたと記憶していますが、この台風19号での八ッ場ダムの効果について赤場国土交通大臣にお伺いします」 赤羽一嘉「今回の台風19号では八ッ場ダムがある利根川におきまして大変な記録的な大雨となりまして、10時間に亘りまして氾濫危険水位を超過する状況でございました。実は13日の未明、夜中の2時ぐらいだったと思いますが、関東地方整備局がこの埼玉県加須市で堤防から越水する恐れがある旨を発表するなど大変な切迫した状況でございました。最終的にはですね、計画高水位(堤防などを作る際に洪水に耐えられる水位として指定する最高の水位)、あと30センチまで迫ったギリギリのところで上昇が止まりまして、越水を回避することができましたが、これは分析するにですね、下久保ダムですとか、八ッ場ダムを含めた上流のダム群、渡良瀬遊水地に於いて洪水を貯留したことが大きな原因だったというふうに分析をしております。 この八ッ場ダムの洪水調節容量はですね、計画上6500万立方メートルでございまして、ここの全ての既設のダムで確保してきた洪水調節容量の約1億1千万立方メートルの約6割に相当する大変大きなものでございます。利根川流域の住民の安全な暮らしに大きく寄与するものと考えております。 今回のですね、台風19号に際しましてはたまたまと言うか、本格的な運用前に安全性を確認するためにですね、試験的には水を貯めるオペレーションをこの10月1日に開始したばかりではございまして、まだ水位が低かったことからですね、結果的には予定の容量より多くですね、約7500万立方メートルを貯留することができたところでございます。 こうしたインフラ整備は防水、防災、減災が主流となる安全安心な社会づくりの根幹を成すものだというふうに考えてもおりますし、八ッ場ダムにつきましても昭和42年から施行でございますので、今年度中の完成に向けて、引き続きしっかりと取り組んでいきたいと考えております」 松山政司「極めて大きな効果を出し、住民の命を守ってくれたと。本当にインフラ整備というものはキャッチフレーズだけで語るようなものではなく、着実にそして計画的に実施をすることが極めて重要であると改めて申し上げたいと思います。 関連してさらに計画的な公共投資、国土強靭化に関してお尋ねしたいと思います。ただ今申し上げましたようにこの一連の激甚化する自然災害などの状況に鑑みれば、事前防止等のためのインフラ整備は極めて重要であります。防災、減災、国土強靭化ののための3カ年緊急対策は、令和3年度に終了します。しかしそれ以降も、高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化対策、これは喫緊の課題でもあります。また、これらの対策を担う国、地方の公共団体の職員や現場の担い手の確保、これも含めて防災、減災、国土強靱化にしっかりと取り組むことが重要だと考えています。加えて、来年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、その大イベントが終了した後の経済動向についても、下振れリスクが顕在化しないよう、一過性ではない経済対策、事前にしっかりと完成させておくことも重要であります。 このような観点から国民のより一層の安心・安全の確保を確かなものとするために、そして生産性の向上による経済の好循環を実現するためにも将来世代に亘って投資効果が享受できる公共投資、国土強靭化は益々重要性を増していくと思いますが、安倍総理のお考えをお聞かせください」 安倍晋三「インフラの整備については今まで様々な議論が行われてきたところでございます。当然インフラを整備するためにはですね、これは予算が必要であります。国民の税金からなるものでありますし、国債を発行する場合がある。そのときに後世にツケを回すのではないかという我々、緊張感を持たなければならないのでございますが、同時に例えば今八ッ場ダムの例を挙げられました。大変な、これは財政的な負担もあったのでありますが、これは果たして、では後世に負担を残したのかと言えばですね、当然、それはこの財政に対してこれは国民みんなで幾世代に亘ってですね、対応していかなければならないものでありますが、同時にですね、まさに国民の後世の人たちの命を救うことにもなるわけであります。 そういう緊張感の中で正しい判断をしていくことが大切だろうと、こう思うところでございます。平成の時代は大きな自然災害が相次ぎ、昨年から今年にかけても、集中豪雨、地震、激しい暴風、異常な猛暑など異次元な災害が相次いでおります。災害への対応はもはやこれまでの経験や備えだけでは通用せず、命に関わる事態を想定外と片付けるわけにはいきません。 そのため、防災、減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策を取り纏め、ハードからソフトまであらゆる手を尽くし、集中的な取り組みを進めているところであります。この緊急対策を講じた後も、国土強靭化基本計画に基づき必要な予算を確保した上でオールジャパンで国土強靭化を強力に進め、国家百年の大計として災害に屈しない強さとしなやかさを備えた国土を創り上げてまいりたいと考えています。また委員が、松山政司委員がご指摘になられた、我が国のですね、東京オリンピック・パラリンピック大会の終了以降も、力強く成長するためには中長期的な観点から物的・人的投資を喚起しながら、。生産性を引き上げ、経済の成長力を強化していくことが必要であると、こう認識をしております。このため公共投資についてはワイズペンディング(コトバンクから:「賢い支出」という意味の英語。経済学者のケインズの言葉。不況対策として財政支出を行う際は、将来的に利益・利便性を生み出すことが見込まれる事業・分野に対して選択的に行うことが望ましい、という意味で用いられる。)の考え方を重視しつつ、生産性の向上や民間投資の誘発、雇用の増加などの、いわゆるストック効果が最大限発揮されるよう、必要な社会資本整備を進めてまいりたいと考えております」 |
松山政司は「私ども自民党は即座に緊急役員会を開きまして、被害状況を聴取させて頂いて、非常災害対策本部を設置しました」、「昨日も早朝から、朝8時から急遽180名の議員の出席のもとにこの対応について協議をいたしました」と素早い対応を誇っているが、台風19号が広範囲な被害の爪痕を残したあとに自分たちの対応の早さを誇って何になるのだろうか。被害後に求められる対応の早さは政府の自衛隊、消防、警察等を使った救助・救援であり、自治体の生活復旧支援である。
非常災害対策本部会議では運転免許証の更新時期が過ぎても有効期間を延長できるなどの被災者に行政上の特例措置を適用する「特定非常災害」への指定や補正予算案の早期提出を求める意見などが出されたということだが、被災者の立場に立った場合、自民党側のこういった決め事よりも自分たちの生活を一通り元に戻すこと、あるいは現状をどうにか乗り越えて、将来に向けた展望が曲がりなりにも開けるようにしたいといったことが何よりも切実な問題であって、そういったことしか頭にないはずで、被害の大きさに便乗して自民党の宣伝を先決問題にする。その心得違いからは被災者に対する気遣いは見えてこない。
松山政司は民主党政権下で「コンクリートから人へ」のキャッチフレーズに基づいて一旦建設中止を決め、その中止を撤回した「八ッ場ダム」が台風19号に果たした成果について公明党国交相の赤羽一嘉に問い質している。
赤羽一嘉は八ッ場ダムがある利根川では10時間に亘って氾濫危険水位を超過する状況にあったが、八ッ場ダム自体は上流のダム群を含めて洪水を貯留したために計画高水位(堤防などを作る際に洪水に耐えられる水位として指定する最高の水位)にあと30センチまで迫ったが、越水することなく利根川流域の住民の安全な暮らしに大きく寄与したと八ッ場ダムの効果を評価している。
但し「本格的な運用前に安全性を確認するために試験的には水を貯めるオペレーションをこの10月1日に開始したばかりで、まだ水位が低かったことから結果的には予定の容量より多く約7500万立方メートルを貯留することができた」ことを越水回避の理由に挙げている。
八ッ場ダムは2009年9月16日に鳩山由紀夫内閣が正式に発足し、国交相就任の前原誠司が認証式後の就任会見で八ッ場ダムの事業中止を明言、鳩山由紀夫が翌17日の記者会見でこれを支持して事業中止が決定。2011年12月22日に同じ民主党政権の国交相前田武志が八ツ場ダムの建設再開を表明。当時の民主党首相野田佳彦が了承という経緯を取っている(Wikipedia)。
つまり建設再開にまで2年3ヶ月を要している。「コンクリートから人へ」のキャッチフレーズで工事を一旦中止していなければ、当然、ダム工事は続行されていて、ダム本体完成は2年3ヶ月前後は早まることになる。その時点から試験貯水を含めて貯水が開始されているだろうから、台風19号が来る前にかなりの量が貯水されていて、「予定の容量より多く約7500万立方メートルを貯留することができ」なかった可能性が出てくる。
松山政司は八ッ場ダムは「極めて大きな効果を出した」と絶賛しているが、その「効果」の元々は民主党政権下の一時工事中断と言うこともできるし、何が幸いするか分からない「効果」と言うこともできる。
そして松山政司が「本当にインフラ整備というものはキャッチフレーズだけで語るようなものではなく、着実にそして計画的に実施をすることが極めて重要であると改めて申し上げたいと思います」と言っていることは民主党政権と比較した自民党政権の公共土木事業の効果性への言及そのものとなる。
但しである、台風19号に対しても、これまでの大きな自然災害に対してと同様に手も足も出ない状況を目の当たりにしなければならなかった。その結果の最初に書いたように広範囲に渡る甚大な被害であり、多くの被災者を出して、生活に大きな打撃を与えることになった。10月16日の参議院予算委当時も、それ以後も、多くの被災者が後片付けに負われ、近親者から行方不明者を出した被災者はその安否に胸を痛め、将来の生活への不安を抱えることになった。
手も足も出ない状況は自民党のこれまでの公共土木事業をひっくるめたとしても、安心・安全を全てカバーしきれていない状況をイコールさせていることになる。そのことへの謙虚な思いもなく、八ッ場ダムの「極めて大きな効果」一つを以ってして自民党の公共土木事業を誇っていてもいいのだろうか。誇るのは自民党の公共土木事業が国民の安心・安全を全てカバーしきれたときである。
それを待たずに、しかも被災者の困窮を前にして誇る。ゲス根性を宿していなければできない自慢である。
安倍晋三は八ッ場ダム建設は「大変な、これは財政的な負担もあったのでありますが、これは果たして、では後世に負担を残したのかと言えばですね、当然、それはこの財政に対してこれは国民みんなで幾世代に亘ってですね、対応していかなければならないものでありますが、同時にですね、まさに国民の後世の人たちの命を救うことにもなるわけであります」との答弁で、「国民みんなで幾世代に亘って」、いわばツケを回収するものだとしているが、果たして正当なツケだと正当化できるだろうか。
財務省の発表によると、2018年末時点で国債と借入金、それに政府短期証券を合わせたいわゆる「国の借金」は1100兆5266億円。「最近20カ年間の年度末の国債残高の推移」(財務省)から公共土木事業にどのカネをかけているか見てみる。
2018年特例国債残高(赤字国債残高) 579兆1千220億円(見込み)
2018年建設国債発行残高 272兆7千294億円(見込み)
その他に特例国債などがある。
勿論、建設国債発行残高272兆7千294億円が全て防災・減災のための公共土木事業に費やされるわけではないが、大部分を占めているはずだ。そして国債を含めたこのような巨額の赤字を戦後の自民党政権がほぼ一貫して積み上げてきた。例えこのような赤字が「国民の後世の人たちの命を救うことにもなった」としても、「国民みんなで幾世代に亘って対応していかなければならない」は自分たちの責任を棚に上げて、国民にだけ責任を押し付ける図々しい言い草に過ぎない。
なぜなら、歴代自民党がどれ程にムダな公共投資を行い、どれほどにムダに国の借金を増やしてきたか、問題にしなければならないからである。「このため公共投資についてはワイズペンディング(賢い支出)の考え方を重視しつつ」と言っていることは面の皮が厚くなければ口にはできない綺麗事となる。もし安倍政権がワイズペンディングな公共投資を行っていると言うなら、その厳格な検証と「歴代自民党政権とは違って」との断りを入れなければらない。
さらに安倍晋三は最近の巨大化する自然災害による「命に関わる事態を想定外と片付けるわけにはいきません。そのため、防災、減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策を取り纏め、ハードからソフトまであらゆる手を尽くし、集中的な取り組みを進めているところであります」と発言して、「防災、減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策」に安倍政権の防災・減災政策の正当性を置いている。
正当性の言い立ては優秀性への言い立てとなる。でなければ、「ハードからソフトまであらゆる手を尽くし、集中的な取り組みを進めているところであります」と宣言はできない。
但しこういった正当性・優秀性は松山政司が八ッ場ダムの「極めて大きな効果」一つを以ってして自民党の公共土木事業を誇っていたのと同様にこれまでの自民党を含めた安倍政権の公共土木事業にしても巨大自然災害に手も足も出ない無力な状況、国民の安心・安全を全てカバーしきれていない状況を否応もなしに抱えていることに反した正当性・優秀性の誇示であって、謙虚さの一カケラも見い出すことはできない。
大体が公共土木事業なるものが巨大自然災害に対して常に完璧ではないという謙虚さが少しでもあったなら、「国家百年の大計として災害に屈しない強さとしなやかさを備えた国土を創り上げてまいりたい」は大言壮語に等しい綺麗事以外の何ものでもないと気づいて、決して口にできないはずだ。
事実としてある、あるいは現実として横たわっている公共土木事業の不完全さにもどかしさを持つことのない松山政司の、だから、八ッ場ダムの「極めて大きな効果」一つを以って自民党の公共土木事業を誇ることができたのだが、台風15号を加えた台風19号の「こられの度重なる自然災害によって亡くなられた方々のご冥福を心からお祈り申し上げ、被災された方々にお見舞いを申し上げます」にしても、安倍晋三のもどかしさなど薬にしていないから、綺麗事を言うことができるのだが、「被災地のみなさまに寄り添った復興に全力を尽くして参ります」にしても、口先だけの言葉に過ぎないことになる。