安倍晋三が2015年11月2日の朴韓国大統領との日韓首脳会談で早期解決を目指し協議を加速させることで一致した日韓間に横たわる従軍慰安婦問題の解決に向けて日韓の外務省で局長クラスの協議を続けてきたが、自ら指導力を発揮するつもりになったのか、外相の岸田文雄に対して年内に韓国を訪問するよう指示したとマスコミが伝えていた。
だが、安倍晋三がいくら解決に向けた指導力を発揮しようと、従軍慰安婦に関わる自らの歴史認識を根本から改めて、元慰安婦の証言が描出することになる歴史の事実とその信憑性を認めなければ、真の解決を見い出すことはできないだろう。
その歴史の事実とは、数多くの証言が証明することになる、日本軍兵士が未成年の女性を含む若い現地人女性を暴力的に拉致・強制連行して慰安所に監禁し、強制的に売春を強いて性奴隷とした日本軍による組織的な犯罪のことである。
こういった日本軍の組織的な犯罪を日本が当時占領していた韓国、中国、フィリピン、台湾、インドネシア等々で行った。
韓国世論に影響力を持つ元慰安婦の支援団体は公式の謝罪や法的賠償を迫っているというが、公式であろうと非公式であろうと、謝罪は歴史的事実を認めるところから始まる。歴史の事実を認めない謝罪は見せかけでしかなく、公式の謝罪にも非公式の謝罪にもならない。単にパラドックスを延々と引きずっていくだけである。
安倍晋三が従軍慰安婦に関して歴史の事実としている歴史認識は、辻元清美が2007年3月8日に第1次安倍内閣に提出した従軍慰安婦に関わる質問主意書に対する答弁書で、「河野談話」が認めている日本軍による強制連行に関して、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」と、日本軍による組織的な強制連行を否定、この答弁書を閣議決定したものであることを以って政府公式の歴史認識として錦の御旗の如くに振り回し、「河野談話」を閣議決定されたものではないからと歴史の事実から遠ざけ、政府非公式の見解に貶めた歴史認識となっている。
安倍晋三の自身の歴史認識に於けるこの正当性を成り立たせている根拠は、断るまでもなく、強制連行を直接示す資料を政府は発見できなかったという一事に過ぎない。日本軍が軍慰安所を構えていた海外の各占領地で強制的に従軍慰安婦にされた女性たちの多くの証言は強制連行を直接示す証言とは一切認めず、歴史の非事実とする非合理性を自らに背負わせたままで、そのような歴史の事実と、それによって成り立たせた歴史認識を以後の発言の出発点としている。
2012年9月12日の自民党総裁選挙立候補表明演説。
安倍晋三「河野洋平長官談話によって強制的に軍が家に入り込み女性を人浚いのように連れていって慰安婦にしたとという不名誉を日本は背負っている。孫の代までこの不名誉を背負わせるわけにはいかない」
2012年12月16日執行第46回衆議院選挙前の日本記者クラブ主催の2012年11月30日11党党首討論会。
安倍晋三「河野談話については、これは閣議決定されたものではありません。安倍政権において、それを証明する事実はなかった、ということは閣議決定しています。そもそも星さんの朝目新聞の誤報による古田清治という詐欺師のような男がつくった本がまるで事実かのように、これは目本中に伝わっていったことで、この問題がどんどん犬きくなっていきました。
その中で、果たして人を人攫いのように連れてきた事実があったかどうかということについては、それは証明されていない、ということを閣議決定しています。
ただ、そのことが内外にしっかりと伝わっていないということを、どう対応していくか。ただ、これも対応の仕方によっては、真実如何とは別に、残念ながら外交問題になってしまうんですよ。
ですから、新聞社の皆さんにも、そこは慎重になってもらいたいと思います。
そこで、我々はこれをどう知らしめていくかということについては、有識者の皆様の知恵も借りながら、考えていくべきだろうと思っています」――
日本軍が組織的に関わった従軍慰安婦の強制連行は吉田清治の虚偽に基づいて報道した朝日新聞の誤報だと断じているが、以前ブログに次のようなことを書いた。
〈「吉田証言」が「証言」とは名ばかりで、架空の元従軍慰安婦を登場させて架空の証言をデッチ上げた日本軍による強制連行・強制売春の“架空話”(=フィクション)に過ぎず、その“架空話”(=フィクション)に基づいて書いた朝日記事が結果的に誤報となったことを以って、今後共、現実に存在した、あるいは今なお現実に存在する元従軍慰安婦の証言を無視して、朝日新聞が大誤報を認めたことで、日本の慰安婦問題の核心(強制連行)は崩壊しているとする、従軍慰安婦に関わる歴史修正主義が罷り通るに違いない。
罷り通らせるためには現実に存在した、あるいは今なお現実に存在する元従軍慰安婦の証言までをも“架空話”(=フィクション)であるとする検証・証明が必要だが、それすら行わずに強制連行否定説を高々と掲げる。〉・・・・・・・
果たして安倍晋三は以上のような従軍慰安婦に関わる自らの歴史認識を根本から改めて、日本軍による組織的な強制連行こそが従軍慰安婦に関わる歴史の事実だと認めて、謝罪することができるだろうか。
いや、決してできない。自らが歴史の事実としている従軍慰安婦の各断片を改めることもしないし、それらによって成り立たせた自らの歴史認識をも改めず、日本軍の正当性のみを前面に押し立てるはずだ。
その根拠は、安倍晋三は11月の日韓首脳会談でソウルの日本大使館(現在建て替え工事中)前に設置された慰安婦の被害を象徴する「少女像」の撤去を求めたとマスコミは報道しているし、今回の日韓の交渉を最終的な決着の機会とし、少女像の撤去を求める方針だとしているからである。
もし安倍晋三が日本の代表者として元慰安婦の証言によって踊り出てくる歴史の事実――強制連行と強制売春を真正な事実と認めたなら、少女像の存在は誰からも歴史の事実の象徴として認知を受けることになって、少女像設置は自ずと幅広い正当性を得ることになる。
それを逆に撤去を要請するということは元慰安婦証言を歴史の事実から排除、自らの歴史認識を変えないことの証左でしかない。
安倍晋三のことである、自分たちの歴史認識はそのままに見せかけの謝罪とカネで解決しようということなのだろう。