「西日本新聞」が伝えているとろこによると、共同通信社が5月28、29両日実施の全国電話世論調査は既にマスコミが安倍晋三の増税再延期の動きを伝えていたことを受けてのことだろう、「増税再延期」に70.9%の圧倒的多数が賛成し、「増税再延期反対」は24.7%の少数派を占めることになった。
新聞記事の「世論調査の主な結果」の画像を貼り付けておく。
「内閣支持率]
「支持」 55.3%(前回比+7ポイント)
「不支持」33.30%(前回比-7.3ポイント)
この内閣支持率の大幅な上昇と消費税増税再延期に圧倒的多数の賛成70.9%と関係ないことはあるまい。
内閣支持率が下がらずに再延期に応じて内閣支持率が7ポイントも上昇したということは、多くの国民はアベノミクスは失敗したと見ていないことを示すはずだ。
このことは政党支持率にも現れている。
「自民党」44.4%(前回比+7.2ポイント)
「民進党」 8.7%(前回比-0.5ポイント)
アベノミクス失敗と見ていたなら、参院選挙が来月と言うことで近づいているのだから、少しぐらい政党支持率に影響してもいいはずだが、逆に伸ばしていることも、失敗と見ていない国民が多いことになる。
沖縄でウオーキングに出た20歳の日本人女性を元米海兵隊員の軍属が暴行し、殺害した事件で翁長沖縄県知事が日米地位協定の改定を求めたのに対して安倍晋三は改定に応じず、運用面の改善で対応する方針を示し、地位協定の改定が俄にクローズアップされた。
世論調査は国民が関心を持っているだろうこの問題についても質問している。
「日米地位協定の改定」
「改定するべきだ」71.0%
「改定する必要はない」17.%
71.0%もの国民が「改定するべきだ」としていながら、改定に後ろ向きな安倍晋三に対する拒否意識は働かせず、逆に支持する国民が多数を占めている。
「消費税増税再延期」賛成が70.9%、「日米地位協定改定」賛成が71.0%とほぼ肩を並べている。
このことと内閣支持率7ポイント上昇を併せ考えると、「消費税増税再延期」賛成派が内閣支持率を押し上げる原動力になったと視ることができるはずだ。
安倍晋三が2017年4月に予定していた消費税8%から10%への増税を2019年10月までの2年半再延期することを5月28日夜に麻生や谷垣に伝えたとマスコミが一斉に報道している。
確かに多くの国民にとって消費税増税延期は生活を助ける歓迎すべき政策であり、生活の余裕を得ることに一定の猶予を与えられることとして感謝し、有り難く受け取るにしても再延期の正当性を問題にしなければならないはずだ。
なぜなら、内閣が掲げる政治の成功か失敗かを厳しく審判する責任を国民は負っているはずだからだ。その審判が、絶対的ではないにしても、選挙での1票を投じる規準にすべき場合もあるし、ゆくゆくはその行方が国民生活に影響を与えることになる。
民主党野田政権末期の民主党・自民党・公明党の3党合意によって従来5%の消費税率を2014年4月1日から8%、2015年10月1日から10%とすることがスケジュールに乗せられた。
第2次安倍内閣は2012年12月26日に発足、安倍内閣下で2013年2月26日に成立した安倍内閣初となる2012年度補正予算は総額13兆1054億円で、10兆3000億円の緊急経済対策費を柱として、総額の殆どを占めていた。
補正予算としてはリーマンショック後の2009年度に次ぐ過去2番目の大規模なもので、来る2013年度予算と共に2014年4月1日からの消費税8%増税に備えた内容の予算案であったはずだ。
そして2013年度予算案は約総額92兆6千億、公共事業費が民主党2012年本年度予算よりも+15.6ポイントとなる5兆2853億円も占めていたことも、2014年4月1日からの消費税8%増税に備えた景気対策費であったはずだ。
さらに安倍晋三が2013年春闘で経団連・日本商工会議所・経済同友会の経済3団体トップに対して業績が改善した企業の賃金引き上げを要請したのもアベノミクスの好循環を軌道に乗せて消費税増税への備えの一つとするものであったはずだ。
だが、「厚労省」発表の2013年民間主要企業春季賃上げ要求に対する妥結状況を見ると、平均妥結額は5,478円、前年(5,400円)に比べ78円の増。現行ベース(交渉前の平均賃金)に対する賃上げ率は1.80%、前年(1.78%)に比べ0.02ポイントの増という僅かな成果しか上げることになった。
この苦い教訓からだろう、2014年、2015年、2016年と、各春闘でさらに経済団体に圧力をかけて、2014年は平均妥結額は6,711円、前年(5,478円)に比べ1,233円の増。現行ベース(交渉前の平均賃金)に対する賃上げ率は2.19%、前年(1.80%)に比べ0.39ポイントの増 。賃上げ率が2%を超えるのは平成13年以来という成果を獲得することができた。(「厚労省」/2014年7月29日)
そして2015年賃上げ率は2.38%、平成10年以来17年ぶりの水準を獲得している。
安倍晋三が賃金が上がった、上がったと宣伝するのも無理はない。
だが、同時に物価が賃金以上に上がって、実質賃金は大企業が軒並み最高益を得ていながら、2016年2月8日発表の厚労省の統計によると、2015年の実質賃金は0.9%減で4年連続のマイナスを記録している。
ここにGDPの6割を占める個人消費が伸びない原因があるが、もう一つカラクリがあることがネット記事から判明した。
《春闘の変遷と今後の展望~2015年およびその後の賃上げ動向を予測する~》(三菱UJFリサーチ&コンサルティング/2014/12/17 )なる記事に次のような下りがある。
〈雇用の非正規化の動きもあって、労組の組合員数は減少し組織率は低下している。2013年時点で雇用者5人のうち4人以上が労組に加入しておらず、春闘で賃上げが行われても、それは一部の労働者に限定されたことであり、労働者全体でみた賃金は上がりにくい状況になってきている。〉・・・・・・
では、安倍晋三が経済団体に要請して賃金を上げた、賃金を上げたとアベノミクスの宣伝文句の一つとしていたことは何だったのだろう。
安倍晋三は消費税増税に公共事業費や経済対策等の予算で備え、経済団体に対する賃上げ要請で備えた。
にも関わらず、2014年4月1日の消費税5%から8%への増税を乗り超えることができず、2014年11月18日の「記者会見」で増税の延期を告げることとなった。
安倍晋三「9月から政労使会議を再開しました。昨年この会議を初めて開催し、政府が成長戦略を力強く実施する中にあって、経済界も賃上げへと踏み込んでくれました。ものづくりを復活させ、中小企業を元気にし、女性が働きやすい環境をつくる、成長戦略をさらに力強く実施することで、来年の春、再来年の春、そして、そのまた翌年の春、所得が着実に上がっていく状況をつくり上げてまいります。国民全体の所得をしっかりと押し上げ、地方経済にも景気回復の効果を十分に波及させていく、そうすれば消費税率引き上げに向けた環境を整えることができると考えます。
――(中略)――
来年10月の引き上げを18カ月延期し、そして18カ月後、さらに延期するのではないかといった声があります。再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします。3年間、3本の矢をさらに前に進めることにより、必ずやその経済状況をつくり出すことができる。私はそう決意しています」
安倍晋三は「ものづくりを復活させ、中小企業を元気にし、女性が働きやすい環境をつくる、成長戦略をさらに力強く実施する」と約束し、「ものづくりを復活させ、中小企業を元気にし、女性が働きやすい環境をつくる、成長戦略をさらに力強く実施する」と約束し、さらに「国民全体の所得をしっかりと押し上げ、地方経済にも景気回復の効果を十分に波及させていく」と約束した。
そのような成果を以てして「消費税率引き上げに向けた環境を整えることができる」と、消費税を増税できる「経済状況をつくり出すことができる」と、成果を疑いなきものとして国民の前に提示してみせた。
このことは記者会見の質疑で「景気条項」を外したことに現れている
安倍晋三「私たちは、先の総選挙において、3党合意に従って3%、そして2%、5%から10%へ引き上げるということをお約束してまいりました。18カ月間の延期、さらには29年4月には景気条項を外して確実に上げる、これは重大な変更です。そうした変更については、国民の信を問う、当然のことであり、民主主義の私は王道と言ってもいいと思います」――
消費税増税の実施に当たって「附則第18条」は「消費税率の引上げに当たっての措置」、いわゆる「景気条項」を義務づけている。
〈消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。 〉云々――
いわば名目経済成長率3%以下であっても、あるいは実質経済成長率が2%以下の景気悪化を招いたとしても、2017年4月には再延期せずに10%に増税すると公約した。
このことを裏返すと、一度の増税延期でアベノミクスを成功させることができると、自信満々でいた。
だが、自信満々に反して2017年4月が近づいていながら、景気を一向に良くすることができない。そこでかねてから「消費税はリーマンショックあるいは大震災のような事態が発生しない限り、予定どおり引き上げていく」との公約を利用、5月26日からのG7伊勢志摩サミット「首脳宣言」で取り纏めた世界経済の状況に関わる共通認識を破って、「現在の世界的な経済状況がリーマンショック前と似た危機的状況にある」との安倍晋三一人の認識を記者団に発信、記者団を通して国民に発信したのち、2019年10月までの2年半の再延期の方向に動くことになった。
以上を以てして国民は安倍晋三がアベノミクスを成功させたと見ることができるのか、失敗としか見ることができないのか、西日本新聞が伝えていた共同通信世論調査の内閣支持率を見る限り、失敗とは見ていないことになる。
失敗と見ていながら、消費税増税再延期を歓迎する点のみで安倍内閣支持に回ったとしたなら、国民が負っているはずの内閣が掲げる政治の成功か失敗かを厳しく審判する責任を自己都合を再優先させて放棄するに等しい。
前者後者いずれであっても、結局はいつかはツケが国民に回ってくるはずだ。