認識していなかったとしたら、鈍感過ぎるということになって、政権担当能力に疑問符がつくことになる。矛盾していることを認識していながら、「両立」を言っていたとしたら、国民を騙していたことになる。現実問題としても感染拡大が経済を圧迫しているのだから、両立の矛盾を認識していて、国民騙しの手として使っていたに違いない。
「ある程度の感染拡大を無視して社会経済活動を推進する。感染拡大が一定限度を超えるようなら、社会経済活動にブレーキを掛けて、感染を抑える政策に転換する」としていたなら、国民を騙す相互矛盾を曝け出すこともなかったはずだ。
新型コロナウイルスの感染の増加が止まらない状況を受けて、安倍政権は政府は2020年4月7日に緊急事態宣言を発令した。対象地域は感染が拡大している東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県。宣言の効力は5月6日までと決めた。安倍晋三は緊急事態宣言発令当日の記者会見で、「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」と請け合った。
感染が7都府県にとどまらず、全国に拡大する気配に2020年4月16日に対象地域を全国に拡大、当初の7都府県に北海道、茨城、石川、岐阜、愛知、京都の6道府県を加えた13の都道府県を「特定警戒都道府県」に指定した。
「人と人との接触機会の削減」とは外出自粛という名目の人の移動制限に他ならない。人の移動制限こそが密閉・密集・密接の3密回避の否応もなしの実現をもたらし、最大のコロナ感染拡大防止策となると見做した。緊急事態宣言によって3密回避の人の移動制限を全国に掛けたことになる。
人の移動制限は当然、感染拡大の防止に役立ったものの、同時に消費活動を停滞させ、消費活動の停滞は当然、生産活動の停滞を招き、両活動の停滞=需要と供給双方の停滞は結果として社会経済活動の縮小を道理とすることになった。
具体的にはこの人の移動制限によって倒産件数の増加や生産活動に於ける収入の減少等の社会経済活動の縮小と同時にコロナ感染が抑えられるに至り、2020年5月14日に39の県で緊急事態宣言の解除決定を下し、5月21日に大阪府、京都府、兵庫県について緊急事態宣言を解除、5月25日に全国的に解除決定を下した。人の移動制限の解除である。マスクをすること、手洗いをすること、3密を回避することの条件は維持したままだったが、3密は人の移動と増減関係をなす。人の移動が活溌になれば、3密は緩くなる。
3密をなし崩しにするこの再びの人の移動の活溌化に伴って社会経済活動も活溌化することになって、2020年7始めから8月中旬までの第2波と言われる、第1波よりも感染者数が圧倒的に多い感染拡大期が訪れることになった。「両立」など元々あり得なかった。
第2波を迎えてから、飲食店の営業時間の短縮や不要不急の外出の自粛(=移動制限)を呼びかけ、その呼びかけに生活者もそれなりに応じたこともあって、感染者数が下降線を取り始めた。
ところが安倍内閣は相変わらず「感染拡大防止と社会経済活動の両立」の名の下、コロナ感染の第1波と第2波の影響で低下した社会経済活動の回復、消費と生産の需要と供給の喚起事業として感染拡大防止とは逆行することになる人の移動を積極的に促すことになるGo Toトラベル、Go Toイート、Go To イベント、Go To 商店街等のGo Toキャンペーンを繰り広げることになり、先行して政府のカネで一定金額の割引やクーポン券を与えるGo Toトラベルが2020年7月22日以降からの旅行に適用されることになった。
この人の移動の積極的呼び掛けが感染拡大に効果テキメンだったことは当然の成り行きであった。最初に断ったように「感染拡大防止と社会経済活動の両立」など相互矛盾するテーマだからだ。
2020年12月25日記者会見の冒頭発言の最後に菅義偉は感染の急拡大を認めつつ、「国、自治体のリーダーが、更なる市民の協力を得るべく、一体感を持って、明確なメッセージと具体的な対策を提示することが必要で、こうした急所を国、自治体、国民、事業者が一体となって行えば、私は、今の感染状況を下方に転ずることは可能だと思っています」と見通しを述べ、質疑で、「緊急事態宣言についてであります。緊急事態宣言については尾身会長からも、今は緊急事態宣言を出すような状況ではない、こうした発言があったことを私は承知しています」と尾身茂が会長を務める政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の主張に同調することを明らかにしている。
ところが、「今は緊急事態宣言を出すような状況ではない」と言っていながら、2週間も経たない2021年1月7日になって、東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏4都県を対象として期間は8日から2月7日までの1カ月間とした緊急事態宣言の再発令、さらに1月13日に栃木、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7府県を再発令の区域に加えることになった。主な柱は飲食店に対する営業時間午後8時まで、酒類提供は午前11時から午後7時まで。午後8時以降の不要不急の外出自粛等となっている。
要するに人の移動制限に他ならない。感染防止にはそれしか手がないからであり、この点からも「両立」は相矛盾するテーマであり、夢物語とさえ指摘することができる。
東京都の場合、緊急事態宣言の再発令の2020年1月7日に初の2000人超えとなり、8日、9日と2000人を超え続けて、それ以降、1500人前後か、1000人前後で推移している。人の移動制限が厳格に実施されれば、そのまま3密回避となって現れ、消費・生産両活動の低迷による社会経済活動の低下を招きながらも、感染の減少に向かうはずだ。
但し人の移動制限が反映されず、3密回避に繋がり得ない老人施設や介護施設、一般家庭の場合はPCR検査を頻繁に行って、感染者をピックアプ、3密回避可能な場所に収容して、他への感染を防いでいくしかない。2021年1月21日の時点で新型コロナウイルスに感染した自宅療養者は関東の1都6県で2万2410人に上っているとNHK NEWS WEB記事が伝えていた。大邸宅に住んでいるなら兎も角、一般家庭でどう人の移動制限・3密回避を可能にできるというのだろうか。
大体が家庭内感染が最多となっていて、濃厚接触者の内訳も「家庭内」が最多、それ以下「会食」、「施設内」、「職場内」が上位を占めている。
特に菅内閣は「社会経済活動」の名の下、Go toキャンペンで人の移動を推奨しながら、感染の有無を判定して感染者をピックアップ、隔離に導くことで次なる感染の芽を潰して感染拡大防止の繋げていくためのPCR検査の回数増加を怠ってきた。2020年4月28日時点でちょっと古いが、経済協力開発機構加盟国36カ国中、1000人当たりの日本のPCR検査数は1.8人で、最小のメキシコ0.4人に次ぐ下から2番目となっている。
なぜこうも少ないのか、ネットを探る内にPCR検査に関する尾身茂の講演記事に出会った。ここに記事全文を拝借することにした。
「無症状者にPCR検査しても感染は抑えられない」と尾身氏(日経ビジネス/2020年10月16日) 橋本 宗明 日経ビジネス編集委員 日経バイオテク編集委員 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂氏(地域医療機能推進機構理事長)は10月14日、横浜市で開催されたBioJapan2020というバイオ産業のイベントで基調講演を行った。日本の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策は「準備不足の状態で始まったが、医療関係者、保健所スタッフ、一般市民の協力のおかげで何とかここまでしのいできた」と語った。 講演で尾身氏が特に時間をかけて説明したのはPCR検査に関してだ。「今よりもっとPCR検査を充実させるべきだというコンセンサスはできている。ただし、増やしたキャパシティーをどういう目的で使うのかという点にはコンセンサスができていない。費用負担の問題や、感染者が見つかった場合にどうするかなど、国民的なコンセンサスを得るべきだ」と指摘した。 PCR検査に関して尾身氏が強調した点は、「PCR検査を増やした結果、感染を抑えられたという証拠がない」という点だ。まずPCR検査の性質として、感染3日後から約3週間は陽性が続くが、実際に感染性を有するのは感染3日目から12日間程度で、PCR検査で陽性が出る期間のうち感染性があるのは半分程度、つまり、誰にでも検査を行った場合、陽性者の約半分は感染性がないと考えられることを紹介した。 その上で、「症状がある人が検査を受けられないという状況はあってはならない。有症状者には最優先で検査を行うべきだ。また、濃厚接触者や発生したクラスターに関わっている人など、症状がなくても感染リスクが高いと考えられる人に対しても、徹底的に検査をすべきだ」と述べた。 検査数増で、感染を抑え込めた証拠はない 感染リスクが低い無症状者が検査を受けることに関しては、「経済活動に参加できるよう、安心のために検査を受けるというのは理解できる」としながらも、「感染拡大の防止には役立たない」と指摘。各国における検査数と感染者数の比較や、経時的な変化を分析したデータを示しながら、次のように述べた。 「検査数と感染者数に相関は見られるものの、検査数を増やしただけで、感染を抑え込めたという証拠はない。検査は重要なツールだし、私自身ももっと増やすべきだと思っているが、リスクが低いところに検査をしても実効再生産数(1人の感染者から何人に感染するかを示す指標)を下げる効果はない。メリハリの利いた検査を行うことが重要だ」 一方で、各国の人口当たりの累積検査数を累積死亡数で割った数字を示した上で、「死亡者数当たりの検査数で見れば、日本は比較的多くの検査をやってきた」とも語った。 PCR検査に関しては、このところ希望者に自費で実施する医療機関も増えている。安心のためにこうした検査を受診すること自体を否定するものではないが、公衆衛生施策の一環で、希望者全員に検査を行うことには改めて否定的な考えを示した格好だ。 5人の感染者のうち4人は他人に感染させない この他尾身氏は、日本が行ってきたクラスター対策について、以下のように語った。 「新型コロナウイルスは5人の感染者のうち4人は他人に感染させないが、1人が多数に感染させるという性質を持つ。だから感染者が見つかったときに、その濃厚接触者が発症しないかを追跡するだけでなく、感染者の行動を遡って調査して、共通の行動があったかを突き止めて、クラスターが見つかればその周辺をしっかりと検査することをやってきた」 「このクラスター対策は、日本や台湾など一部の国でしかやっていないが、小さなクラスターを見つけて早い段階で対策して次に広がらないようにすることが重要だ」 今後の対策としては「検査体制のさらなる強化」「冬に備えた医療体制の準備」とともに、「クラスター発生時のより迅速な対応」が重要だと述べた。 さらに、今後の不安解消の要因として、治療薬やワクチンの他に、重症化するか否かを見分ける方法の重要性に言及。国立国際医療研究センターが発表した「CCL17」という物質を挙げて、「早い時点で治療できるという点で、安心につながる研究成果だ」などと語った。 国立国際医療研究センターは9月に、「重症・重篤化へ至る患者は、新型コロナウイルスに感染した初期から、血液中のCCL17の濃度が基準値以下になることが分かった」と発表している。 |
PCR検査に関しての尾身氏の強調点。〈「PCR検査を増やした結果、感染を抑えられたという証拠がない」という点に集約することができる。ここにPCR検査回数の増加に不熱心な姿勢が現れている。勿論、理由・根拠があってことなのだろう。
〈まずPCR検査の性質として、感染3日後から約3週間は陽性が続くが、実際に感染性を有するのは感染3日目から12日間程度で、PCR検査で陽性が出る期間のうち感染性があるのは半分程度、つまり、誰にでも検査を行った場合、陽性者の約半分は感染性がないと考えられることを紹介した。〉
PCR検査の成果について纏めてみる。
1.PCR検査で陽性が出る期間のうち感染性があるのは半分程度。
2.誰にでも検査を行った場合、陽性者の約半分は感染性がないと考えられる。
3.陽性は約3週間持続するが、持続期間中の1日目・2日目は無感染性の陽性。
3.感染3日目~12日目程度の約10日間は有感染性の陽性。
4.陽性持続期間の約21日目までの残り9日間は無感染性の陽性。
と言うことは、感染3日目~12日目程度の約10日間のみが有感染性の陽性ということになる。
にも関わらず、〈感染リスクが低い無症状者が検査を受けることに関しては、「経済活動に参加できるよう、安心のために検査を受けるというのは理解できる」としながらも、「感染拡大の防止には役立たない」〉という結論に至ったことを示すことになる。この結論が、「PCR検査を増やした結果、感染を抑えられたという証拠がない」の次なる結論に繋がっていることになる。
要するに感染リスクが低い無症状者にPCR検査を実施するよりも、咳や発熱や、味覚症状の異変が出た有症状者を重点にPCR検査を実施しないことには感染拡大の防止には役立たないと主張していることになる。
PCR検査に関わるこの主張の具体的な説明が次の発言となる。
「検査数と感染者数に相関は見られるものの、検査数を増やしただけで、感染を抑え込めたという証拠はない。検査は重要なツールだし、私自身ももっと増やすべきだと思っているが、リスクが低いところに検査をしても実効再生産数(1人の感染者から何人に感染するかを示す指標)を下げる効果はない。メリハリの利いた検査を行うことが重要だ」
要するに感染リスクが低い無症状者に対するPCR検査よりも、既に発症した感染リスクが高い有症状者に対するPCR検査を重点的に行うか、老人ホームや介護施設、あるいは飲食店等で感染者が出た場合、その濃厚接触者が無症状であっても、積極的にPCR検査を行って、感染の有無を判定、感染していた場合は特に高齢者は重症化の危険性を抱えているゆえに即入院・治療に備えるための「メリハリの利いた検査を行うことが重要だ」としている。
この方法論が次の発言に繋がっている。「新型コロナウイルスは5人の感染者のうち4人は他人に感染させないが、1人が多数に感染させるという性質を持つ。だから感染者が見つかったときに、その濃厚接触者が発症しないかを追跡するだけでなく、感染者の行動を遡って調査して、共通の行動があったかを突き止めて、クラスターが見つかればその周辺をしっかりと検査することをやってきた」
だが、尾身氏のこれらの主張は濃厚接触者以外の無症状者全員に対して陰性を前提としていることになって、「誰にでも検査を行った場合、陽性者の約半分は感染性がないと考えられる」との自身の指摘が意味することになる、残りの約半数は有感染性があるとしていることと矛盾することになる。
具体的にはPCR検査を実施することで判明することになる陽性無症状者の感染3日目~12日目程度の約10日間の有感染性を問題外、あるいは小さな問題としてPCR検査は必要ないとしていることの矛盾である。
尾身茂は政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長を務めている。新型コロナウイルス感染症対策本部の下に新設され、2020年7月3日廃止の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長も務めていた。当然、政府のPCR検査に関わる対策に影響することになる。
尾身茂の上記2020年10月16日の横浜市での講演6日前の2020年6月10日の衆議院予算委員会。
志位和夫(共産党委員長)「この緊急提言の考え方というのは、これまでのような強い症状が出た有症者に対して受動的な検査を行うのではなくて、発想を転換して、無症状者も含めて検査対象者を適切かつ大規模に拡大し、先手を打って感染拡大を封じ込める攻めの戦略を行おうというものです。
総理に伺いたい。私は、第二波に備えて、再度の緊急事態宣言を回避しなきゃならない、回避するためには、この緊急提言は積極的で合理的提案だと考えます。受動的検査から積極的検査への戦略的転換を政府として宣言し、断固として実行に移すべきではありませんか、総理」
安倍晋三「PCR検査については医師が必要と判断した方や、あるいは、症状の有無にかかわらず、濃厚接触者の方が確実に検査を受けられるようにすることが重要であると考えています。
また、医療・介護従事者や入院患者等に対しても、感染が疑われる場合は、症状の有無にかかわらず検査を行うこととしています」
共産党委員長志位和夫の「受動的PCR検査から無症状者も含めた積極的PCR検査への戦略的転換」を行うべきではないかという提案に対して安倍晋三は「医師が必要と判断した方」と「濃厚接触者」と「感染が疑われる場合」の3ケースにPCR検査を限定している。「医師が必要と判断した方」とは既にコロナ感染の症状が出ていて、感染が疑われるケースで、PCR検査は当然としなければならない。「濃厚接触者」は症状が出ていなくても、感染者と密な関係性にあったことからウイルスを吸い込んでいる危険性が疑われるケースで、これもPCR検査で感染の有無の判定が必要となる。
この2ケース以外の「感染が疑われる場合」とはコロナ感染のいずれかの症状が出ていることを指すのだろう。でなければ、感染を疑われることはない。いずれの場合も経験的な因果関係から感染の可能性が目や頭で判断できるものばかりで、感染の疑わしい状況が発生するまでを待つ、待ちの姿勢のPCR検査でしかない。それ以外はPCR検査から除外されている。
安倍晋三のPCR検査を必要とする対象は尾身茂が「感染リスクが低い無症状者」に対してPCR検査をしても「感染拡大の防止には役立たない」と指摘していること、「リスクが低いところに検査をしても実効再生産数(1人の感染者から何人に感染するかを示す指標)を下げる効果はない」と指摘していること、「メリハリの利いた検査を行うことが重要だ」と指摘していることと対応している。
東京都の場合、PCR検査による感染判明者のうちの約半数前後が感染経路不明者である。つまり誰が感染源となったのか不明の、感染者の半数前後を占めるウイルス保有者が市中に存在していることになる。中には一定時間の経過後に発症するケースもあるだろうし、無症状のまま、ウイルスが消滅する場合もあるだろう。
発症した場合、自らPCR検査を受けることになって、陰性と判断された場合は隔離されることになるが、そのような陽性者の全てが感染経路が判明するとは限らず、やはり感染経路不明者が出てきて、感染源となったウイルス保有者が一定期間は無症状のまま、あるいはウイルスが抜けるまで無症状のまま市中に存在する状況は続く。
但し尾身茂が指摘したようにPCR検査の結果、陽性と判断された感染者のうち約半分は感染性がないという知見からすると、感染経路が不明のままのウイルス保有者が一般人と混じって生活していたとしても、他人に感染させることはないから心配することはないが、残りの半数の感染性を有する陽性者の場合は感染3日目から12日目程度の約10日間はその感染性を維持するとしているとしていることと、「新型コロナウイルスは5人の感染者のうち4人は他人に感染させないが、1人が多数に感染させるという性質を持つ」点からして、その半数が感染性がない陽性者であるものの、残りの半数は感染性のある陽性者で、そのうちの何人かが無症状のまま推移して誰かに感染させるという循環を繰り返すことになっていないと断言できないことになる。
そしてこういった陽性者に対してはPCR検査の対象から除外されている。例えそうであったとしても、緊急事態宣言を使って人の移動に制限を掛けた場合、それが3密回避の条件となって、有感染性の無症状者による感染拡大を難しくすることになるが、緊急事態宣言を解除して人の移動が活溌になると、3密の条件が自ずと崩されて、再び感染が拡大する。これが今までの推移であったはずだ。
そう遠くない時期にワクチン接種によって感染が終息することになるだろうという予測は許されない。2021年1月23日時点でコロナ感染による死者は全国で5000人を超えて5064人となっている。安倍晋三も菅義偉も「国民の命と暮らしを守る」と言いながら、守ることができていない上に暮しを維持できなくなって、倒産や廃業に追い込まれる事例が多発している。10年連続で減少していた自殺者数は2020年に増加に転じて、速報値で2万919人にも上ったとマスコミは伝えている。女性や若年層の増加を特徴としているとのことだが、増加の原因を新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛や生活環境の変化が影響した恐れがあると報道されている。どの年代の自殺であっても、その全てがコロナと無関係とは言い切れない。
要するにコロナ感染が「命と暮し」に現在進行形で影響を与えている以上、その現在進行形を無視して、未来の期待を述べることは許されない。
PCR検査費用が医師の判断により感染が疑わしい場合と濃厚接触者の場合のみが行政検体として公費で受けることができるということも政府のPCR検査の重点的な対象範囲から当然のことだが、自費検査の場合は3万円前後もかかるという費用の点からも、有感染性の無症状者を野放しにしてきて、「命と暮しを守る」ことができなかったことの結果としてある、死者や生活破綻者を世に送り出してきた状況も当然ということになる。
現実も教えていることだが、両立するはずもない「感染拡大防止と社会経済活動の両立」を掲げてきた国民騙しを続けてきたこととPCR検査対象を網羅的にして、徹底的に感染抑止に持っていく強い意志を示すことができなかった不備は尾身茂や安倍晋三に限ったことではなく、菅義偉の姿勢にも当然のことながら見受けることができる。
衆議院本会議代表質問2020年10月29日。
志位和夫「日本のPCR検査の人口比での実施数は世界152位。必要な検査がなお実施されていません。総理にはその自覚がありますか。
無症状の感染者を把握、保護することを含めた積極的検査への戦略的転換を宣言し、実行に移すべきではありませんか。国の責任で、感染急増地、ホットスポットとなるリスクのあるところに網羅的な検査を行うこと、病院、介護施設、保育園等に対して社会的検査を行うことを求めます。感染追跡を専門に行うトレーサーの増員など、保健所の体制強化を求めます。
多くの自治体が独自にPCR検査の拡充に乗り出していますが、行政検査として行う場合、費用の半分が自治体負担となることが検査拡充の足かせとなっています。全額国庫負担による検査の仕組みをつくるべきではありませんか」
菅義偉「検査の国際比較についてお尋ねがありました。
我が国と他国では感染状況などが異なることから、PCR検査の実績の人口比で一概に評価することは難しいと考えております。
その上で、我が国における1週当たりの検査数としては、4月上旬に約5万件あったのが、感染者数のピーク時における8月上旬には17万件を超え、直近の一週間でも約15万件となっており、全体として検査体制は向上していると認識しており、今後、冬の季節性インフルエンザの流行期も含めて、必要な方が迅速、スムーズに検査を受けられるよう、引き続き検査体制を強化してまいります。
新型コロナウイルス感染症に係る検査の拡充についてお尋ねがありました。
医療機関や高齢者施設等に勤務する方や入院、入所者、さらには感染者の濃厚接触者等に対しては、既に、無症状であっても行政検査の対象とするなど、積極的な検査を実施しているところです」
1週当たりの検査数を「4月上旬に約5万件」、「感染者数のピーク時における8月上旬には17万件」、「直近の一週間でも約15万件」とその検査数をいくら誇ろうとも、検査対象を「医療機関や高齢者施設等に勤務する方や入院、入所者、さらには感染者の濃厚接触者等」に限定して、感染者の約半数を占める感染経路不明の、その多くが無症状と考えられるウイルス保有者を放置していたままでいた結果、決定的な感染防止に向かわずに緊急事態宣言の再発令となったのだから、、何の意味もない。
この意味のないことに意味がないと気づかずに現在に至っているという点では尾身茂にしても、安倍晋三にしても、菅義偉にしても同罪であって、その罪は重い。
2021年1月20日の衆議院代表質問での共産党委員長志位和夫の質問に対する菅義偉の答弁も何も変わらない。
「志位和夫質問」(しんぶん赤旗/2021年1月20日)
志位和夫「総理は、『緊急事態宣言』の発令にさいして、飲食店への時間短縮要請など「四つの対策」を呼びかけましたが、そのどれもが国民に対して努力を求めるものとなっています。その一つひとつは必要なものだと考えますが、それでは、政府として感染抑止のためにどのような積極的方策をとるのか。それがまったく見えません。私は、ここに政府の対応の深刻な問題点があると考えます。
いま政府が何をなすべきか。私は、三つの緊急提案を行うものです。
第一はPCR等検査を抜本的に拡充し、無症状者を含めた感染者を把握・保護することによって、新規感染者を減らすことです。
新型コロナの厄介な特徴は、無症状感染者が知らず知らずのうちに感染を広げてしまうことにあります。ところが政府は、検査によって無症状感染者を把握・保護するという、積極的検査戦略を一貫して持ってきませんでした。
本庶佑氏、山中伸弥氏らノーベル医学生理学賞を受賞した4氏は、1月8日、声明を発表し、『PCR検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離を強化する』ことを提言しています。本庶氏は、『現在の最大の問題は無症候感染者だ』と強調し、日本の検査数が国際的にみて、『いまだに少ない。感染者の早期発見と隔離は医学の教科書に書いてある。なぜ厚労省が教科書に書いてあることをしないのか理解に苦しむ』と述べました。さらに、1日2000検体を処理できる完全自動のPCR検査機器を搭載したコンテナトレーラーが開発されていることも紹介し、『なぜやらないのか』と厳しく指摘しました。
総理、この指摘をどう受け止めますか。政府として、無症状感染者を把握・保護する積極的検査戦略を持ち、実行すべきではありませんか。答弁を求めます」
菅義偉の答弁はにPCR検査関してのみ取り上げる。
菅義偉「無症状感染者の把握についてお尋ねがありました。感染者を早期に把握し、入院やホテル等の療養等の対応を行い、感染拡大を防ぐことが基本です。
この為これまでも地方自治体と連携し、一応の検査を受けられるように検査体制の拡充を図ると共に感染拡大地域では症状のない方も含めた大規模集中的な検査を実質的に国の費用負担で実施できるようにしてきたところです。無症状、または軽症の30代以下の若年層が知らずしらずの内に感染を広げていると指摘されていることから、こうした方への呼び掛けを強化してまいります」
本庶佑氏、山中伸弥氏らノーベル医学生理学賞を受賞した4氏が「PCR検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離を強化する」ことへの要請と本庶氏が、「現在の最大の問題は無症候感染者だ」と強調していることは尾身茂や安倍晋三、菅義偉の姿勢とは真っ向から異る。「最大の問題」である無症候感染者の隔離の強化はPCR検査の網を無差別・広範囲に掛けなければ、ウイルス保有の無症候感染者であるかどうかの判定は不可能とある。
菅義偉は無症状感染者の早期の把握に関して、「感染者を早期に把握し、入院やホテル等の療養等の対応を行い、感染拡大を防ぐことが基本です」と、把握できた場合の無症状感染者の扱いの方法論を述べているのみで、どう「早期に把握」するのかの、出発点となる把握の方法論には何も触れていない。
この無症状感染者を把握する方法論を確立しない限り、このことが出発点である限り、「感染拡大地域では症状のない方も含めた大規模集中的な検査を実質的に国の費用負担で実施できるようにしてきたところ」であったとしても、これまでと同様にコロナ感染の症状が現れて病院に検査に訪れるか、濃厚接触者の分類に入れられた場合のみのPCR検査となり、疑わしい状況が発生するまでを待つ、待ちの姿勢のPCR検査であることに変わりはない。
待ちの姿勢に徹しているなら、「感染者を早期に把握し、入院やホテル等の療養等の対応を行い、感染拡大を防ぐことが基本です」としていることは従来の状況と何も変わらないことの説明にしかならない。
「無症状、または軽症の30代以下の若年層が知らずしらずの内に感染を広げていると指摘されていることから、こうした方への呼び掛けを強化してまいります」
にしても、どういった方法を採用するのかの説明が一切ない。ウイルス保有者となっていながら、無症状のため、自分は感染しているとは思ってはいない30代以下の若年層が積極的にPCR検査に応じる自身に対する動機づけに対して感染して会社や周囲に迷惑がかかることになって自分のマイナス点となると考える、PCR検査に応じない自身に対する動機づけの優劣の問題が横たわっている。
例え感染していたとしても、無症状であるなら、感染性の有無は半々で、有感染性の半数に入ったとしても、感染性が維持されるのは10日間程度で、それ以後はウイルスは抜けていくという情報を手に入れていた場合、後者の動機づけが優って、検査を受けない可能性が大きくなる。当然、自身は無症状のまま、他に感染させて、有症状に至らしめる事例も発生することになる。
こういった事例を招かないためには会社単位や自治会単位で行政検査として公費負担で行えば、ウイルス保有の無症状者の多くが把握可能となる。この方法をまだ感染者数が少ないときの行っていたなら、感染拡大が現在のようにならなかっただけではなく、現在問題となっている病床逼迫の状況をも避けることができたはずである。
安倍晋三と菅義偉のコロナ対策に関わる無策とその責任は重い。