2017年10月30日付の毎日新聞インターネット記事が米海兵隊運用垂直離着陸輸送機オスプレイの今年2017年8月末時点の重大事故率が5年前米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)配備前の日本政府公表事故率の約1.5倍となり、海兵隊機全体の事故率を上回ったことが海兵隊への取材で分かったと報じた。
5年前は民主党野田政権時代である。
記事は、〈政府はオスプレイの事故率が海兵隊機全体より低いことを示して国内配備への理解を求めてきた経緯があり、その根拠が覆る形に改めて対応が問われそうだ。〉と解説している。
この記事の無料配信はここまでで、後は有料となっていて、貧乏人には覗くことができない。但しYahoo!ニュースが《<オスプレイ>事故率1.5倍 「安全」根拠覆る》と同じ題名で配信していた。Yahoo!ニュースは一定期間が過ぎると記事を削除してしまうが、一応リンクをつけておいた。
海兵隊の最大事故等級「クラスA」には被害総額200万ドル(約2億2700万円)以上の事故と死者発生飛行事故が適用されること、機体安全性指標は10万飛行時間ごとの事故発生率によって表されることを記事は紹介している。
対海兵隊取材で、オスプレイが試験開発を終えた2003年10月から今年2017年8月末の総飛行時間は30万3207時間、重大事故「クラスA」9件。10万飛行時間当たりの事故率2.97と判明。
このオスプレイ事故率2.97は防衛省が2012年10月普天間飛行場配備前公表事故率1.93(同年4月時点)の約1.5倍に上っているものと報じている。
当時の政府は普天間配備前のオスプレイ事故率(1.93)が当時の海兵隊機全体の2.45を下回っていたことで安全性を強調していたが、米会計年度末(9月末)算出のオスプレイ事故率は上昇傾向で、昨年9月末時点は2.62、海兵隊機全体の2.63に迫っていたと解説、その後沖縄県名護市沖の不時着事故(昨年12月)や豪州沖の墜落事故(今年8月)等で8月末時点のオスプレイの事故率(2.97)が海兵隊機全体の同時期の2.59を上回ったとみられる上に9月29日にはシリアで墜落事故が起き、米会計の17年度末(9月末)はさらに上昇が予想されると事故の多さ、その危険性を指摘している。
記事は最後に関係者・識者の発言を伝えている。
海兵隊広報担当者「軍用機に潜在的なリスクはつきものだ。高い水準の安全性を確保するため、あらゆる段階で安全措置や予防策を整えている」
「あらゆる段階で安全措置や予防策を整えている」にも関わらず、「高い水準の安全性を確保」できていない。つまり軍用機に付きものの「潜在的なリスク」を潜在状態で維持できす、現実のリスクとなって噴出している。と言うことは、「安全措置や予防策」が役に立っていないことを示すことになる。
防衛省担当者「操縦ミスなど機体以外の要因でも事故は起こり、事故率はあくまで目安の一つだ。米側には平素から安全確保への配慮を求めている」
防衛省担当者のこの発言と同じことを官房長官の菅義偉が口にしている。言っていることの妥当性を後で触れることにする。
米国防総省国防分析研究所の元分析官でオスプレイの飛行能力の検証を担当したレックス・リボロ博士の話。
レックス・リボロ博士「オスプレイは機体構造が複雑であり、小さな操縦ミスも許さない設計になっている。オスプレイが海兵隊内で普及するに従い、比較的経験の少ない操縦士も操縦するようになってきており、人為的なミスが起こりやすい状況を作り出していると考えられる」
機体構造が複雑なオスプレイが人為的なミスが起こりやすいということは機体要因以外の事故の頻発性の指摘となって、防衛省担当者の発言とほぼ同じ趣旨となる。
前田哲男軍事評論家「北朝鮮情勢の緊迫化に伴い、米軍の訓練がより過酷になっていることが背景に考えられる。中でもオスプレイは固定翼モードと垂直離着陸モードの切り替えの際に脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されており、ハードな訓練でもろさが露呈した可能性がある。沖縄や岩国はオスプレイの活動拠点であり、今後も事故が起きかねない」
オスプレイの事故回数の多さが「米軍の訓練がより過酷になっていることが背景にある」としたら、人為的なミスによる事故が主ということになって、機体の安全性には問題ないことになる。
但し固定翼から垂直離着陸へのモード切り替えの際に脆弱性が指摘されるということなら、このような機体自体の安全性に関係したマイナスの要素は事故を起こした場合、操縦ミスと見分けがつかないという難点を抱えることになって、海兵隊当局としたら、事故原因究明時に操縦ミスという人為的ミスの範疇に入れたい衝動を抱えるに違いない。
いわば人為的ミスとされた事故原因の中には実際には機体の安全性が原因の事故もあり得る疑いが出てくる。
疑いは疑いとして他処に置くとしても、防衛省担当者の「操縦ミスなど機体以外の要因でも事故は起こり、事故率はあくまで目安の一つだ。米側には平素から安全確保への配慮を求めている」との発言は機体の安全性が要因の事故ではなく、人為的なミスが要因の事故であるなら、許されるという意味内容となる。
人為的なミスが要因の事故であろうと、墜落場所や不時着場所によっては住民を巻き込む危険性は否定できないのだから、許される発言ではない。
では菅義偉の防衛省担当者とほぼ同じ趣旨の10月30日午前、米海兵隊の輸送機オスプレイの重大事故率が海兵隊機全体の水準を上回ったことについての記者会見発言を「毎日新聞ネット記事」から見てみる。
菅義偉「整備ミス、操作ミスなど機体以外の要因で発生する事故もある。事故率のみをもって機体の安全性を評価することは適当でなく、あくまでも目安の一つだろう」
防衛省担当者とほぼ同じ内容の発言となっているから、菅義偉は前以って防衛省担当者から説明を受けていて、説明通りに発言したのだろう。
例えそうであったとしても、その説明を了解した上で発言しているはずだから、説明を何も問題はないとして差し障りなく自身の認識を通過させたことになる。
その認識たるや、さすがに安倍政権の官房長官だけのことはある。整備ミス、操作ミスによる事故も存在することを根拠に事故率だけで「機体の安全性を評価することは適当ではない」、「目安の一つ」に過ぎないといとも簡単に重大事故率の高さを問題になることではないと切捨てている。
だが、既に触れたように整備ミス、操作ミスの事故であろうと、重大事故率が高いことに変わらないのだから、危険性をゼロと保証することはできない墜落・不時着した場合の住民の巻き添えの可能性の点から許される発言とすることはできない。
菅義偉が何よりも無視している問題点は、「整備ミス」と「操作ミス」の事故が「機体の安全性」自体とは無関係であっても、運行の安全性に深く関係していくということである。
言ってみれば、オスプレイの重大事故率の高さは、それが整備ミス・操作ミス等の人為的ミスを要因としていようと、あるいは機体の安全性を要因としていようと、運行の安全性の低さをそのまま表していると言うことである。そして全ては運行の安全性にかかっている。例え機体の安全性が100%であっても、整備ミス、操作ミスを誘うような機体であるなら、運行の安全性は保証できないことになり、オスプレイの重大事故率をそのまま受け止めて、危険な運行が行われていると看做さなければならない。
菅義偉の認識は、防衛省担当者の認識についても同じ指摘ができるが、オスプレイの重大事故率の高さがそのままオスプレイの運行の安全性の低さに直結していることを無視して、事故率は「あくまで目安」に過ぎないとする解釈で良しとしている。
運行の安全性の低さは危険な運行が行われていることを示す。口では「国民の命の安全」を言っても、実際には日米関係を重視・優先させているためにオスプレイの重大事故率の高さを運行の安全性とイコールさせて把える認識を持ち合わせることができないのだろう。
飛んだインチキ人間である。