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安倍晋三が立党60年式典で言う程、自民党は責任政党でもなかったし、政治を国民のものともしていなかった

2015-11-30 09:58:03 | Weblog


 安倍晋三が11月29日、東京港区のホテルで開催された、全国から党員・党友等3000人出席の「立党60年記念式典」で、相変わらずのいいこと尽くめで塗り上げた挨拶を行った。

 いいこと尽くめだけならまだしも、所々にウソを塗り混ぜている。

 安倍晋三「(自民党の)安定的な経済政策のもと高度経済成長を達成し、日本は経済大国となった。そして、この果実を生かして皆年金、皆保険といった世界に冠たる社会保障制度を構築してきました。自由主義陣営の一員として日米同盟のもと日本の平和と繁栄を守り続けてきました」――

 「皆年金、皆保険といった世界に冠たる社会保障制度を構築」とバカの一つ覚えさながらに発言のたびに誇る。だが、年月を経て、劣化を来たし、制度は綻びを見せ始めている。

 《平成26年度の国民年金保険料の納付状況と今後の取組等について》(厚労省年金局・日本年金機構 2015年6月26日)を見ると――  

 〈公的年金制度全体の状況(平成26年度末)

 ○ 公的年金加入対象者全体でみると、約97%の者が保険料を納付。(免除及び納付猶予を含
   む)
 ○ 未納者(注1)は約224万人、未加入者(注2)は約9万人。(公的年金加入対象者の約
   3%)

 未納者とは、24カ月(平成25年4月~27年3月)の保険料が未納となっている者。〉となっている。

 さらに――

 〈平成25年度分保険料納付率60.9%
  平成26年度分の現年度納付率は63.1%(対前年度比+2.2ポイント)〉

 例え平成26年度分の現年度納付率が対前年度比+2.2ポイントの63.1%であったとしても、中には国の制度を信用できない自己意志から、未加入ということもあるだろうが。殆どは保険料を納付できない国民が殆で、そこに格差が存在していて、平成26年度末で少なくとも未納者220万人前後+未加入者8万人前後が格差の最下段に置かれていると見なければならない。

 また平成25年度の国民健康保険は3,139 億円の赤字(赤字額は前年度から85 億円増)であって、その赤字を一般会計繰入金で補って収支を保っている。(「平成25年度国民健康保険(市町村)の財政状況」厚労省保険局国民健康保険課/2015年1月28日)  

 こういった状況にありながら、安倍晋三は「皆年金、皆保険といった世界に冠たる社会保障制度」だと誇ることができる。格差への視点を欠いているからである。

 この視点の欠如は、何度もブログに書いてきたように国民の在り様よりも国家の在り様――国家の繁栄を最優先する国家主義の資質が起因となっている。

 当然、後の方で言っている「政治は国民のもの」は心にもない真っ赤なウソに過ぎない。まともな感覚をした者が格差の状況を無視して「政治は国民のもの」と言うことができるだろうか。北朝鮮の独裁者金正恩が「北朝鮮の政治は北朝鮮国民のものである」と言うのと、その胡散臭さの点に於いて本質的には同じである。

 格差を無視できる程にまともではない感覚の持ち主だから、格差なんか何のその、「政治は国民のもの」と恥ずかしげもなく口にすることができる。

 この恥ずかしげもない厚かましい言葉の前にも同じく恥ずかしげもない厚かましい言葉を並べ立てている。

 安倍晋三「自由民主党が60年間、責任政党であり続けることができたのは、今日お集まりをいただいたみなさんをはじめ、全国の地方議員、党員、支部、そして、後援者のみなさまのお力の賜物であります」――

 自民党は果たして60年間、責任政党で在り続けたのだろうか。

 自民党の実力者たちは長年、自分たちの名前を残すことと地元の仕事を増やし、選挙の票とするために必要限度を超えた豪勢な橋や道路を日本全国あちこちに造り続けるムダな公共事業によって国家財政を借金だらけとし、予算配分を窮屈な状態に追いやった。

 消費税導入はこれらの尻拭いの役目をも負わされていたはずだ。

 ムダな公共事業を日本全国にバラ撒いたという点でも、全体的には自民党「政治は国民のもの」ではなかった。

 財務省調査で国債や借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」の残高は2015年6月末時点で1057兆2235億円となっている。国民1人当たり換算で約833万円の借金だという。

 国費のムダな支出は公共事業だけではない。よく知られている例として旧年金福祉事業団(年金資金運用基金)が1980年から1988年にかけて日本全国に13ヶ所設置したグリーンピアは、〈計画性なく無駄に資金を投入し、元来不安定な日本の年金システムに更なる打撃を与える事になり、グリーンピア自体も当然のごとく経営不振になったことにより、2001年12月の特殊法人等整理合理化計画(閣議決定)において、「2005年度までに廃止、特に赤字施設についてはできるだけ早期に廃止する」とされた。〉と「Wikipedia」に記載されているし、社会保険庁職員の宿舎は都心部の豪華マンション並みの造りで、しかも家賃は周辺の平均家賃価格と比較して破格の安さであることが常に批判のネタにされてきた税金のムダ遣いは周知の事実となっている。

 さらに周知の例を一つ挙げると、厚生労働省の重点施策「若年者雇用対策の推進」の一つとして国により設置が推進及び促進された、大阪府・京都府・奈良県にまたがる関西文化学術研究都市内にある「私のしごと館」は建設費400億円及び土地代など150億円かけて建設された〈若者を対象に職業体験の機会、職業情報、職業相談等を提供する施設である。収支相償を前提とする事業ではなく、運営費は雇用保険料で赤字補填されていたが、雇用保険の無駄遣い等の批判や国の予算縮減等を受けて、2010年(平成22年)3月31日で営業終了となった。〉と「Wikipedia」に出ているが、毎年20億円の赤字を生み出していたという。

 問題は何度か売却のための入札を行ったが、応札者がなく、2014年に国から京都府へ譲与された点である。

 毎年20億円の赤字を国のカネで補填してきた総額と建設費の全額をドブに捨てたも同然のムダとした。

 こういったことを含めて積み重ねてきた「国の借金」残高2015年6月末時点で1057兆2235億円ということであって、先進国中最悪の日本の財政と言うことであるはずだ。

 つまり先進国中最悪の日本の財政をほぼ自民党政治が積み上げてきた。

 再度言うが、“自民党政治は国民全体のもの”ではなく、利益誘導に関わった一分の国民と有力政治家や地元有力者、官僚とそれらに繋がる面々が特権的にうまい汁を吸っただけに過ぎないし、当然、自民党が60年者間、責任政党であり続けたわけではない。

 こういったウソ・矛盾を隠していることを前提に安倍晋三のいいこと尽くめに耳を傾けなければならない。

 安倍晋三「いよいよアベノミクスも第2ステージに入りました。目標は1億総活躍社会です。若いみなさんも高齢者も、女性も男性も、障害のある方も難病を持っておられる方々も、一度失敗した人も、誰にでもチャンスがある。誰にでも生きがいがある、そういう日本をつくってまいります。

 戦後最大のGDP600兆円。希望出生率1・8。介護離職ゼロ。この明確な的に向かって、新たな三本の矢を放ってまいります」――

 安倍晋三「みんなが活躍できれば、多様性のある社会が実現し、新たなアイデアが生まれ、イノベーションが起こります。それは成長へとつながり、私たちをもっと豊かにします。消費や投資や社会保障の充実につながっていく。

 成長か分配か、どちらを重視するかといった論争に終止符を打ちます。1億総活躍社会とは、成長と分配の好循環を生み出す新たな経済社会のシステムの提案であります」――

 安倍晋三「日本人の命と幸せな暮らしを守り抜く。この最も大切な責任を果たしてきたのは、果たしていくことができるのは、私たち自由民主党であります」――

 いいこと尽くめのどれ一つを取っても、格差の是正を抜きに実現可能と断言できるだろうか。

 アベノミクスは格差の是正に向かうどころか、格差拡大に向かっている。安倍晋三が格差への視点を欠いている以上、アベノミクス第2ステージにしても同じ道を辿り続ける。

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最近の二つの記事の男性を上位に置き、女性を下位に置く権威主義性の男女関係力学について改めて考えてみる

2015-11-29 11:12:25 | 政治


 共同通信記事を配信した二つの「47NEWS」記事がある。一つは《妊娠で退職・雇い止め36% 非正規女性をNPOが調査》(2015/11/25 18:51 【共同通信】) 

 もう一つは《3割超が「女の幸せは結婚」 大手企業の管理職調査》(/2015/11/23 15:44 【共同通信】)記事。  

 前者はNPO法人「マタハラNet」が妊娠時に非正規雇用で働いていた20~50歳の女性158人に行った調査で、36・1%が職場で退職を促されるなどのマタニティーハラスメントを受け、実際に退職したり、雇い止めされたりしたという。

 「産休、育児休業を取得し、職場復帰して働き続けることができた」のは20・3%にとどまった。

 後者の記事は21世紀職業財団(本部・東京)が「女性の活躍推進に積極的に取り組んでいる先進的大手企業」10社を選び、その管理職を対象にした女性の活用に関するアンケート結果を伝える内容で、管理職の3割超が「女性の幸せは仕事より結婚や出産にある」と回答したという。

 この「女性」とは部下の正規社員の女性を指していることになるはずだ。

 記事は、〈女性を積極的に活用しようという意識の浸透が、大手企業の管理職の間でも十分に進んでいない実態が浮かび上がった。〉と解説しているが、「女性の幸せは仕事より結婚や出産にある」とする考えを意識に固定している3割の管理職は部下の女性のうち結婚した女性と接するとき、有形無形の形で「結婚したら退職すべきだ」といった態度を示すことになるはずだ。

 あるいは結婚しない内から、いつ結婚するか分からないから、結婚=退職の考えのもと部下の女性と接しているのかもしれない。

 例え態度で示さなくても、少なくともそういった目で見ていることになる。そういった目は相手に気づかせないということはないから、態度で示すこととさして変わらないことになる。

 この管理職3割と前者の記事の妊娠によって非正規の女性に退職を促した36・1%の割合は近い数字となっている。具体的な数字を知るために「21世紀職業財団」のページにアクセスしてみたら、調査結果が載っていた。『若手女性社員の育成とマネジメントに関する調査研究(2015年)』(2015年11月19日)  

 問い「女性の幸せは仕事より結婚や出産にあると思いますか」

 「そう思う」3.2%
 「まあそう思う」30.6%

 合計で33.8%となって、前者の記事の36・1%とかなり近い数字となる。

 中には公表されるアンケートということで、自身の女性に対する役割分担意識を隠してさも理解ある管理職の態度を示したといったこともあるかもしれない。

 このアンケートの結果を、〈3割以上の男性管理職が女性の幸せは仕事より結婚や出産にあると思っており、性別役割分担意識が根強いことが示された。〉と解説しているが、この点について前者の非正規雇用の女性に対する態度とは、例え調査結果の割合が近寄っていても、異なっている。

 前者の場合はお腹が大きくなった場合の、いわば妊娠した場合に限っての仕事上の動作の俊敏性の欠如=仕事上の非効率性からの、退職要請、あるいは退職強要といったマタニティーハラスメントであり、あるいは育児休暇を取った場合に空きが生じることに備えて前以て新たに人材を補給するための退職要請、あるいは退職強要といったマタニティーハラスメントであり、後者は妊娠とか出産とかに関わらず女性としての役割を仕事より結婚や出産に置いている男性側の態度ということであろう。

 但し両者に共通している点がある。9月3日(2015年)の当《ブログ》にも書いたことだが、男尊女卑が退化せずに跡を引いている男性を上位に置き、女性を下位に置いた権威主義性の男女関係力学に今以て囚われていて、その力学が可能とした前者の措置であり、後者の性別役割分担意識の現れということであろう。  

 前者の例・後者の例に関わらず、女性の可能性は男性の可能性同様に職業選択の自由や表現の自由等に関わる人権問題なのだから、そういった力学の存在なくして、妊娠したことを理由に退職させることも女性の役割を結婚と出産に限定して、女性に対してそのような扱いをすることもできないはずで、それらを行った場合、人権侵害に相当する。

 前者の例の場合、非正規は正規よりも立場が弱いゆえに、その弱さを利用して権威主義性の男女関係力学がより強く働いて(権威主義は弱い立場の人間により強く作動する)、マタニティーハラスメントの割合がより大きくなっているということもあり得る。

 当然、両調査から分かることは会社という集団で権力を得たうちの、中間を取って35%前後の男共が男性を上位に置き、女性を下位に置いた権威主義性の男女関係に今以て囚われていると見ることができる。

 「21世紀職業財団」のアンケートは次のような考察も伝えている。
 
 〈管理職アンケート調査の計量分析

 管理職アンケート調査の計量分析からは、以下のことが示された。

 1)管理職になってからの年数や育てた管理職・管理職候補の数が女性部下育成の自信につながり、伝統的な性別役割分担の考え方は女性部下育成の自信を減じる。

 2)女性部下育成の管理職研修の受講や育てた部下の数が女性部下の積極的育成につながり伝統的な性別役割分担の考え方は積極的な育成を妨げる。

 3)男性管理職は、女性部下の体力や結婚・育児を考慮し、仕事量や仕事の与え方に男女差をつけるといった配慮を行っている者が多く、性別役割分担の意識が女性部下へのこのような配慮を高める。〉

 〈【人事担当者インタビュー調査より】

 ④性別役割分担意識を持つ女性や昇進意欲が低い女性がいる。〉

 つまり女性自身が男性側の男性を上位に置き、女性を下位に置く権威主義性を受け入れていて、自身を男性の下に置いて、能力や可能性の点で男性よりも劣ると見做している女性の存在に触れている。

 数ある女性の中で少なくない女性がにこういった傾向にあることが、男性側の女性に対する権威主義性の男女関係力学をいつまでも払拭できない、あるいはいつまでも許す理由の一つとなっている。

 いずれにしても、ブログに女性の社会進出や女性の社会的活躍、あるいは女性の社会的可能性を阻害する要因として日本の社会に巣食う権威主義について幾度となく書いてきたが、特に男性の側が女性に対する権威主義性を払拭できなければ、いくら「女性の活躍」を言い立てようとも、「女性の社会参加」を高々と掲げようとも、男性同等の真の女性の活躍、真の女性の社会参加は実現できない。

 権威主義性に囚われていないことが、いわば出産・育児を女性の役割だと分担づけていないことが家庭内に於ける男性の側からの女性の出産・育児への無条件性の心起きない協力となって現れることになるから、当然、権威主義性は出生率にも影響する大きな要因と見ないわけにはいかない。

 以上、二つの記事を見て、改めて今以て日本の社会に巣食っている、男尊女卑の名残として存在する男性を上位に置き、女性を下位に置いた権威主義性の男女関係力学について考えてみた。


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安倍政権下でかつて民主党政権下で曝け出すことになった復興予算の流用・偽装は存在しないのか

2015-11-28 10:09:04 | Weblog


 マスコミが記事にしていたから、首相官邸サイトにアクセスして、11月27日(2015年)の「第20回行政改革推進会議」で安倍晋三がどのような発言をしたのか覗いてみた。出席者の議論を経て、最後に安倍晋三が発言している。

 文飾は当方。

 安倍晋三「委員の皆様におかれましては、安倍政権発足以来3度目となる『秋のレビュー』に御協力いただきまして、誠にありがとうございました。

 国民の皆様に御負担いただく税金が、無駄な歳出や、優先順位が低い施策に使われるといった批判は絶対に招かないようにしなければなりません。

 本日、河野大臣から『秋のレビュー』等における指摘事項について御報告がありました。これらはいずれも重要なものです。麻生副総理からも御発言があったとおり、予算編成に的確に反映するとともに、さらに事業の改善に取り組んでまいります。

 また、本日皆様から御発言いただいた点についても、しっかりと受け止めまして、今後の政策運営に当たっていきたいと考えております。

 先ほど来、皆様から御発言がございましたように、今回、河野大臣の下、皆様の御尽力をいただき、国民的な関心が飛躍的に高まったわけであります。この国民の皆様の関心と声を力に変えて行政改革を力強く進めていきたいと、このように考えておりますのでよろしくお願いを申し上げます」――

 「国民の皆様に御負担いただく税金が、無駄な歳出や、優先順位が低い施策に使われるといった批判は絶対に招かないようにしなければなりません」

 同じ11月27日、安倍政権は東日本大震災からの復興状況に関する国会報告を閣議決定したと「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。  

 これは復興基本法に基づいた国会報告だそうだ。

 ・当初47万人に上った避難者はおよそ19万人となったこと。
 ・岩手・宮城・福島の3県の高台移転や災害公営住宅の整備事業のうち9割を超える事業が開始されていること。
 ・津波の被害を受けた地域での仮設店舗等による事業再開は進んだものの、商業やサービス業の本格的な復旧はこれからの状態であること。
 ・福祉や水産加工業などでは求人数が求職者数を上回る人手不足の一方、事務関係では求人数が求職者数に届かず、雇用の需要と供給にミスマッチが生じていること。

 等々の報告となっているらしい。

 結論は全体として復興は着実に進展していて、今後も被災者の心に寄り添いながら、震災からの復興と福島の原発事故からの再生をさらに加速させ、来年度から5年間の「復興・創生期間」で、被災地の自立につながり、地方創生のモデルとなる復興を実現していくとしていると紹介している。

 両記事を読んで思い出したのは、大勢の人がそうだと思うが、民主党政権下での2012年の復興予算の復興事業以外の他事業・復興地以外の他地域への流用や一般会計で終了予定の事業を、被災地の復興には何ら関係ないにも関わらず、名称を変えて復興予算関係の事業として付け替え、継続を図る復興偽装であった。

 前者の例は当時ウンザリする程多くをマスコミが紹介していたから、後者の一例を《復興へ付け替え横行 省益優先 予算奪い合い》TOKYO Web/2012年10月17日)から改めて拾ってみる。  

 震災発生前の2007年度からの5年間、「21世紀東アジア青少年大交流計画」の名称で、中国や韓国などの若者を招く外務省の「青少年国際交流事業」は毎年度平均で約70億円の事業予算が一般会計から支出され、11年度に終了予定。

 終了の理由は、役目を終えた、時代に合わなくなった、あるいは利用価値が減った等であろう。

 ところが、復興のための2011年度3次補正予算に「アジア大洋州地域及び北米地域との青少年交流」(72億円)と名称を変えて盛り込まれたと記事は書いている。

 事業目的は震災の実態を米国や中国、韓国など約1万人の若者に伝えるため。実際は被災地での滞在は10日前後のうち実質3日。主に東京や名古屋、京都など被災地と関係のない大都市や観光地を回る内容だったという。

 外務省「震災全体の正しい姿を伝えるための事業。復興予算からの支出は適正だ」

 要するに前身の「21世紀東アジア青少年大交流計画」にしても主として観光地や大都市の紹介を目的としていた程度の事業に過ぎなかったということなのだろう。

 いずれにしても仰々しい事業名を付けて、外務省はこういったことをしていますと自慢するためなのか、あるいは一旦始めたことのメンツを維持するためなのか、あるいは仕事を作るためなのか、名称を変えて復興事業に潜り込ませ、予算を獲得して堂々と事業を開始していた。

 「国民の皆様に御負担いただく税金が、無駄な歳出や、優先順位が低い施策に使われるといった批判は絶対に招かないようにしなければなりません」という目的を持って行政事業レビューを行っている以上、東日本大震災からの復興状況に関する国会報告にしても、過去の例から鑑みて復興予算の流用も偽装もない厳格な執行か否かの検証を経ていなければ、その報告は万全ではないはずだ。

 閣議決定した報告が首相官邸サイトに記載されいないか、調べてみたが、前年度の報告は載っているが、今年度の報告はまだ載っていない。だが、閣議に出す前の報告なのだろう、復興庁が《東日本大震災からの復興の状況に関する報告》(平成27年11月)と題してネット上に紹介している。NHK NEWS WEB記事と紹介がほぼ同となっているから、この報告の要約が閣議に回されたのではないのだろうか。 

 当然、内容はこの報告を出ないことになる。

 〈④復興関連予算使途の厳格化

  復興関連予算については、流用等の批判を招くことがないよう、平成24年度補正予算及び平成25年度予算について使途の厳格化を図った。

  この際、平成23年度第3次補正予算及び平成24年度当初予算において造成された全国向け事業に係る基金については、支出済みであったため、対象外となっていたが、平成25年7月に、これらの基金についても更なる使途の厳格化を行うこととした。

 具体的には、同年7月に、16基金23事業のうち、執行済み及び執行済みと認められるものを除<ものについて、復興庁及び財務省から、基金を所管する府省に対し、基金の執行を見合わせ、国へ返還すること等を要請した。

 平成26年度までの国庫返還額は1、899億円となっている。〉――

 平成23年度第3次補正予算及び平成24年度当初予算も民主党政権下の予算編成である。復興予算の流用・偽装が騒がれ、批判を受けて、復興とは関連のない「全国向け事業」に対して使途厳格化の検証を行い、その有用性を認めることはできない、ムダと見たからだろう、1、899億円の国庫返還を求めた。

 要するに官僚は1、899億円(多分それ以上)もの流用・偽装を創り出す優れた能力を有し、その能力を見事発揮していた。

 だが、安倍政権下の〈復興関連予算については、流用等の批判を招くことがないよう、平成24年度補正予算及び平成25年度予算について使途の厳格化を図った。〉と述べるにとどめている。

 これでは流用や偽装が存在したが、検証して是正したのか、前以て警告をしておいたために流用や偽装が全然存在しなかったのか、厳格化の内容を窺い知ることはできない。

 もし後者なら、官僚の流用・偽装を創り出す優れた能力はピタッとやまったことになる。

 そんなことを信じることができるだろうか。ピタッとやまるぐらいなら、行政事業レビューだとか事業仕分けなど毎年繰返す必要もないし、こういった言葉は死語になっていていいはずだ。

 会計検査院の存在理由にしても、かなり前に消滅していなければならない。だが、今以て国の予算のムダ遣いを指摘し続けている。

 もし前者なら、どういった流用や偽装が行われていたのか、国民に説明する(情報を提供する)責任がある。

 単に〈復興関連予算については、流用等の批判を招くことがないよう、平成24年度補正予算及び平成25年度予算について使途の厳格化を図った〉とするだけでは信用できない。

 それ程官僚は生ぬるくない。国家予算のムダ遣いは永遠と見なければならないし、地元利益誘導で閣僚や国会議員が絡んでいる例もあるはずだ。

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安倍晋三の「一億総活躍社会」、「カネがねえで結婚しない方がいい」の麻生発言を教訓としなければ失敗する

2015-11-27 09:32:09 | 政治


 安倍晋三が11月26日、首相官邸で「第3回一億総活躍国民会議」なる麗々しい名前の、あるいは仰々しい名前の会議を開いた。出席閣僚や有識者の議論を受けて、最後に挨拶しているが、その言葉も素晴らしい。 

 安倍晋三の演説文・挨拶言葉のスピーチライター、日経BP社『日経ビジネス』記者出身の内閣官房参与谷口智彦氏の言葉を創り出す能力が如何に優れているかがよく分かる。

 2015年9月24日に自民党本部での記者会見で「一億総活躍社会」を打ち出した時は使っていなかった「包摂」なる言葉を美しい使い方で用いている。

 安倍晋三「全ての人が包摂される社会、つまり、『一億総活躍社会』が実現できれば、安心感が醸成され、将来の見通しが確かになり、消費の底上げ、投資の拡大にもつながります。さらに、一人ひとりの多様な能力が十分に発揮され、多様性が認められる社会を実現できれば、新たなアイディアによるイノベーションの創出を通じて、生産性が向上し、経済成長を加速することが期待されます」――

 「一億総活躍社会」の説明としてなかなか見事な表現である。挨拶の冒頭近くで「APECの議題が包摂性と成長についての議題になっていたところもございまして」と紹介しているから、その議題からの思いつきで急遽取り入れたのかもしれない。

 但し「活躍」は至って主体的・自律的な性格を帯びているが、「包摂」は主体と従属、あるいは自律と従属の関係性の中で生じる行為であって、ここでは国民を包摂される従属の側に置いた意味で言っている。

 いわば「全ての人が包摂される社会」と「一億総活躍社会」とは似て非なる社会である。

 多様性の発揮にしても、イノベーションの創出にしても、生産性の向上にしても、主体性と自律性を欠かすことのできない資質としなければならないのだから、「一億総活躍社会」を言うなら、国民全体が主体的・自律的に活躍できる社会的条件を整えなければならない。

 それゆえに「一億総活躍社会」とは「格差ゼロ社会」でなければならないと兼々言ってきているが、カネがないために高校進学を諦める等々、格差が活躍できる社会的条件を奪う大きな要因となっている。

 にも関わらず、安倍晋三のここでの挨拶でも格差に対する視点のない発言のみとなっている。この点についてスピーチライターの谷口智彦が書き入れてなかったという言い訳は許されない。安倍晋三自身が気づいて書き加えなければならないからだ。どの演説でも、どの挨拶でも、格差への視点を欠いている。

 格差への視点を欠いていることは次の発言に象徴的に現れている。

 安倍晋三「我々は『三本の矢』の政策によって、経済を成長させ、そして多くの民間企業は収益を上げ、その収益を設備投資と賃金上昇に振り向ける。そのことによって、消費が上向き、また経済が成長するという、経済の好循環を我々は創り出すことができたわけでございますが、このアベノミクスの第二ステージにおきましては、正に子育てや社会保障の基盤を強化し、そして、それが更に経済を強くするという『成長と分配の好循環』を構築をしていきたい。こう考えております。今まで、ともすれば成長か分配か、どちらを重視するんだという議論が何年も何年も積み重ねられてきたわけであります。そうした論争に終止符を打ちまして、『一億総活躍社会』とはつまり、『成長と分配の好循環』を生み出していく新たな経済社会システムの提案であります」――

 「三本の矢」の政策によって「消費が上向き、また経済が成長するという、経済の好循環を我々は創り出すことができたわけでございます」と完了形で言ってのけているが、消費が上向いているのは上位所得層のみであって、大多数を占める下位所得層の消費は決して上向いていない。9月(2015年)の家庭の消費支出は物価の変動を除いた実質で2014年9月から0.4%下回って2カ月ぶりの減少となっている。

 アベノミクスは未だ途上と言うよりも、失敗を指摘する声が出始めている。

 格差が存在し続けるなら、「成長と分配の好循環」は偏った形式を取り、現在と同様に「成長と分配」は上位所得層のみに向かい続けることになる。

 安倍晋三の挨拶の中では取り上げていないが、希望出生率1.8や介護離職ゼロなどの達成に向けて保育と介護の受け皿をそれぞれ新たに50万人分拡充することなどを盛り込んだ緊急対策を取りまとめたと、《NHK NEWS WEB》記事が伝えている。  

 希望出生率1.8実現の対策として次のような政策を掲げたという。

 平成29年度末(2017年末)までに保育所などの保育サービスの受け皿の50万人分の新たな拡充
 不妊治療への助成の拡充
 3世代同居のための住宅建設支援等々

 これらの政策は9月24日に自民党本部での記者会見で打ち上げた「一億総活躍社会」の政策に対応している。
 
 安倍晋三「(新しい)第二の矢は、『夢』を紡ぐ『子育て支援』であります。

 そのターゲットは、希望出生率1.8の実現です。

 多くの方が『子どもを持ちたい』と願いながらも、経済的な理由などで実現できない残念な現実があります。

 待機児童ゼロを実現する。幼児教育の無償化も更に拡大する。三世代の同居や近居を促し、大家族で支え合うことも応援したいと思います。さらに、多子世帯への重点的な支援も行い、子育てに優しい社会を創り上げてまいります。

 『子どもが欲しい』と願い、不妊治療を受ける。そうした皆さんも是非支援したい。『結婚したい』と願う若者の、背中を押すような政策も、打っていきたい。誰もが、結婚や出産の希望を叶えることができる社会を、創り上げていかなければなりません。

 そうすれば、今1.4程度に落ち込んでいる出生率を、1.8まで回復できる。そして、家族を持つことの素晴らしさが、「実感」として広がっていけば、子どもを望む人たちがもっと増えることで、人口が安定する「出生率2.08」も十分視野に入ってくる。少子化の流れに「終止符」を打つことができる、と考えています」――

 「多くの方が『子どもを持ちたい』と願いながらも、経済的な理由などで実現できない残念な現実があります」と言っているが、子どもを持つには一般的には結婚を前提としなければならない。

 あるいは一般的ではないが、同棲・同居といった共同生活という形式を前提としなければならない。

 だが、結婚という正式な形式であろうと、共同生活という形式であろうと、一人の生活が手一杯で、こういった更にもう一人を加える生活すら経済的理由(=低所得という理由)から選択できない多くの若者と、そういった若者が年齢を重ねた3~40代の男性・女性が多く存在する。

 当然、「『結婚したい』と願う若者の、背中を押すような政策も、打っていきたい」としている以上、貧困対策としての格差是正策をストレートに打ち出さなければならないはずだが、殆どの演説・挨拶で言及すらしていない。

 経済的な格差是正を実現してこそ、偏らない「成長と分配の好循環」の実現に繋がっていき、「一億総活躍社会」が近づく。

 だが、貧困や格差への視点を欠いた安倍晋三のアベノミクス、「一億総活躍社会」となっている。

 麻生太郎は首相だった時代の2009年8月23日夜、都内開催の学生主催イベント「ちょっと聞いていい会」で結婚についての失言をやらかして、内閣支持率をさらに失うことになった。  

 学生「結婚するのにまずお金が必要で、若者にその結婚するだけのお金がないから結婚が進まないで、その結果、少子化が進むと思うんですが」

 麻生太郎「カネがねえから結婚できねえとかいう話だったけど、そりゃカネがねえで結婚しない方がいい。まずね(会場笑)。そりゃ、オレもそう思う。そりゃ、うかつにそんなことはしない方がいい。

 で、金がオレはない方じゃなかった。だけど結婚は遅かったから。オレ43まで結婚してないからね。だから、あの、早い、あるからする、ないからしないというものでもない。これは人それぞれだと思うから。だから、うかつには言えないところだと思うけれども、ある程度生活をしていけるというものがないと、やっぱり自信がない。それで女性から見ても、旦那をみてやっぱり尊敬する、やっぱりしっかり働いている、というか尊敬の対象になる。日本では。日本ではね。

 したがって、きちっとした仕事を持って、きちっとした稼ぎをやっているということは、やっぱり結婚をして女性が生活をずっとしていくにあたって、相手の、男性から女性に対しての、女性から男性に対しての両方だよ。両方がやっぱり尊敬の念が持てるか持てないかというのがすごく大きいと思うね。

 それで、稼ぎが全然なくて尊敬の対象になるかというと、余程のなんか相手でないとなかなか難しいんじゃないかなあという感じがするんで、稼げるようになった上で結婚した方がいいというんでは、オレもまったくそう」――

 学生の質問は政治的に解決を必要とする社会的に根本的な問題を含んでいた。だが、麻生太郎はその解決に応えようとするどのような意思も示しもしない。但し一面の真理を突いていた。

 男は稼ぎがないと女性から尊敬の対象とならないというのは一面の真理を成しているが、「稼げるようになった上で結婚した方がいい」、つまり、「カネがねえで結婚しない方がいい」という結論は、政治の話をする大学生の集会で一国の首相でありながら、単なる俗な世間話のレベルで若者の未婚問題や未婚が一因となっていると見ている少子化問題に応じたに過ぎない。

 この発言でさらに不人気となり、結局は2009年8月の衆院選で民主党に手痛い敗北を喫して自民党政権を失うことになる歴史を踏むことになった。

 安倍晋三もこの発言で麻生太郎が散々叩かれ、自民党政権を手放すことになった歴史を承知していたはずだ。

 もし安倍晋三が麻生太郎の「カネがねえで結婚しない方がいい」を教訓としていたなら、いくら国民の在り様よりも国家の在り様を重視し、後者により価値を置く国家主義者であっても、アベノミクスや「一億総活躍社会」の実現を成功させるためには否応もなしに格差や貧困問題にも目を向けて「格差ゼロ社会」の実現に努めるはずだが、教訓としていないらしく、格差と貧困問題にストレートに目を向けることは一度もない。

 と言うことは、国民の在り様よりも国家の在り様を重視し、後者により価値を置く国家主義者の立ち位置をそのままにして「一億総活躍社会」の実現を物語っていることになる。

 「成長と分配の好循環」を例え現在以上に活気づけることができたとしても、現在と同様に上位所得層がほぼ独占することになるだろう。

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安倍晋三の軽減税率、4000億円をメドとした「社会保障と税の一体改革の枠内で議論してほしい」の戯れ言

2015-11-26 12:47:02 | 政治


 安倍晋三が11月24日(2015年)午前、自民党本部で谷垣禎一幹事長、宮沢洋一税制調査会長らと会談、軽減税率導入に関して「社会保障と税の一体改革の枠内で議論してほしい」(NHK NEWS WEB)と発言、既に自民・公明両党で財源とすることで合意の軽減税率財源4000億円の枠内で検討するよう指示したとマスコミが伝えていた。

 ところが官房長官の菅義偉が同じ11月24日の記者会見で、「総理からは税と社会保障の一体改革の枠内(4000億円)でとの話は聞いていない。財源は安定財源の中でとの意味ではないかと思っている」(財経新聞)と安倍発言を否定している。

 安倍晋三の発言は消費税を10%にする段階で「社会保障と税の一体改革」を崩さない範囲で導入して欲しいということであるのに対して菅義偉は「社会保障と税の一体改革」に限らず、財源の安定を崩す導入はできないとの発言になるはずだ。

 だが、消費税10%に対して生鮮食品に限って8%にする軽減税の財務省試案では3400億円の税収減になるとしている。酒類を除く飲食料品で1.3兆円。

 だとすると、生鮮食品のみの軽減税率案で既に自民・公明両党で財源とすることで合意の4000億円の枠内でほぼ一杯一杯となる。

 財務相の麻生太郎が会え発言を受けて、11月24日の閣議後の記者会見で超える財源が必要になる場合は「福祉を減らすことになる」(47NEWS)と述べたという。

 要するに4000億円超なら、年度を超えて継続的に執行が必要とされている福祉予算(=社会保障予算)を減らさなければならないと宣(のたま)わった。

 4000億円超という金額でそれ程騒ぐ必要があるのだろうか。酒類を除く飲食料品で1.3兆円の税減収分は賄い切れない金額なのだろうか。

 このような疑問が湧いたのはこの時期になると(多分)、毎年会計検査院が国のカネの使い方のムダを指摘しているからだ。

 2015年11月6日付の「NHK NEWS WEB」記事が、〈会計検査院は昨年度の検査の結果、国の支出などで不適切な取り扱いをされた公金が1568億円余りに上り、学校や高速道路などの公共施設では安全対策などが不十分だったとする報告書をまとめ〉たと報道している。

 記事はムダ遣いが経済損失を生じさせている例まで挙げている。
 
 高速道路等で頑丈な中央分離帯を設けずに暫定的に対面通行にた区間で死傷事故が相次ぎ、この10年間に300億円を超える経済損失が生じたとの指摘を伝えている。

 この300億円の経済損失は国のカネ(=公金)約1568億円のムダ中には含まれていないはずだ。

 会計検査院のサイトにアクセスしてみた。《平成26年度決算検査報告の概要・検査結果の大要》(会計検査院/2015年11月24日)

 〈平成26年度決算検査報告に掲記した事項等の総件数は570件であり、指摘金額は計1568億6701万円である。〉
 
 ・不当事項                               450件 164億6537万円 
 ・意見を表示し又は処置を要求した事項                   49件 721億7867万円
 ・本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項            57件 690億4861万円
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ・指摘事項総計                               570件 1568億6701万円

 ムダ遣いはこれだけではない。同じ会計検査院報告の《国の財政等の概況》には翌年度繰越損失金が生じている特別会計の金額を報告している。 

 平成25年度末(単位百万円)

 年金特別会計(健康勘定)  △1,192,924(1兆1929億2400万円)
 農業共済再保険特別会計(果樹勘定)  △26,735(267億3500万円)
 漁船再保険及び漁業共済保険特別会計(漁船普通保険勘定)  △32,188(321億8800万円)
 漁船再保険及び漁業共済保険特別会計(漁業共済保険勘定)  △36,495(364億9500万円)
 社会資本整備事業特別会計(業務勘定) △1,308(13億800万円)

 平成26年度末(単位百万円)

 年金特別会計(健康勘定)  △975,099(9750億9900万円)
 食料安定供給特別会計(漁船再保険勘定)  △17,542(175億4200万円)
 食料安定供給特別会計(漁業共済保険勘定)  △33,906(339億600万円)
 食料安定供給特別会計(業務勘定)  △307(3億700万円)

 特別会計は一般会計とは別に独立した経理管理が行なわれていると言う。当然、各事業毎に利益を上げなければならなはずだが、次年度に損失金として繰越していると言うことは赤字経営となっているということを示しているはずだ。

 この赤字をどう凌いでいるのだろうか。

 平成26年度は一般会計から特別会計へと53.7兆円も繰入れている。内訳は国債整理基金特別会計23.3 兆円、交付税及び譲与税配付金特別会計16.2 兆円、年金特別会計12.1 兆円等となっているが、官僚お得意の錬金術を用いて上記繰越損失金が生じている特別会計への繰越しも、全額とはいかないが、申し訳程度ずつ行われているのではないのだろうか。

 あるいは10何兆の繰入を受けた特別会計が繰越損金が生じている特別会計へとこっそりと回して収支に辻褄を合わせるといった錬金術ということも疑うことができる。

 と言うも、上記会計検査院の報告書には民間の銀行から資金調達を受けにくい中小企業や新規起業家等への融資をタテマエとしている100%政府出資の政府系金融機関である日本政策金融公庫ついても、政府出資金の額が1兆円以上の法人の状況を伝えている一つとして取り上げているが、当然当初の出資額の範囲で事業をせいりつさせると同時に事業を拡大させていかなければならないし、政府から増資を受ける場合でも、利益を上げていて事業が拡大している中での増資でなければならないはずだが、会計検査院報告による平成26年度の財政状況は百万円単位で記載されていて、負債が18,981,634(18兆9816億3400万円)もあって、対して純資産が4,627,306(4兆6273億600万)となっている。

 この収支に対して平成26年度に6,002,365(6兆23億6500万)ものカネが政府から出資金として投ぜられていて、〈「純資産の部」の金額が「うち政府出資金」の金額を下回っているのは、過年度に生じた損失金の累計額である繰越損失金等が生じているためである。〉と注釈をつけているが、当初の政府の出資金額で事業を成立・拡大させることができすに年度に応じて政府から出資を受けているパターンは繰越損失金を起こしている特別会計への一般会計からの繰入を十分に擬(なぞ)えることができる。

 日本政策金融公庫が自律的な収益体となり得ず、負債が20兆円近くもあって、政府からのカネの補填で遣り繰りしていること自体、大いなるムダであるが、毎年毎年会計検査院から指摘を受ける一般会計・特別会計・独立法人の諸々のムダ遣いのカネの額からすると、軽減税導入の場合は4000億円をメドとした「税と社会保障の一体改革の枠内で議論して欲しい」といった議論はムダのケタ違いの大きさから言って、何も考えない戯れ言にしか見えない。

 民主党が政権を取った時小沢一郎が「財源はムダをなくせばどうにでもなる」と言っていたが、ムダをなくす力がムダをつくる日本の官僚の力に今以て勝てないようだ。

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安倍晋三のやはり格差をそのままに残した2020年最低賃金全国加重平均1000円の目標

2015-11-25 10:04:40 | Weblog


 昨夕のテレビニュースで安倍晋三が11月24日(2015年)に首相官邸で開いた経済財政諮問会議でGDP=国内総生産600兆円の達成に向けて、その達成の駆動力の一つとして現在全国平均で時給798円の最低賃金を来年以降、毎年3%程度引き上げ、1000円にすることを目指す考えを示したとマスコミが伝えていた。

 安倍晋三は2015年9月24日、自民党本部で自民党総裁として記者会見して、GDP600兆円の達成を含めた「『ニッポン「一億総活躍」プラン』を作り、2020年に向けて、その実現に全力を尽くす決意です」と高らかに宣言した。

 そのためには一般的な賃上げのみならず、最低賃金の引き上げも必要不可欠な達成の要素だと考えたのだろう。

 要するに2020年GDP600兆円達成の計画を立てなければ出てこなかったかもしれない。

 首相官邸サイトの「経済財政諮問会議」のページにアクセスしてみた。  

 安倍晋三「名目GDPを2020年頃に向けて600兆円に増加させていく中で、昨年12月の政労使合意に沿って賃金上昇等による継続的な好循環の確立を図るとともに、最低賃金についてもこれにふさわしいものとしなければなりません。

 そのためには、最低賃金を年率3%程度を目途として、名目GDPの成長率にも配慮しつつ引き上げていくことが重要であります。これにより、全国加重平均が1000円となることを目指します。

 このような最低賃金の引上げに向けて、中小企業、小規模事業者の生産性向上等のための支援や取引条件の改善を図ってまいります。厚生労働大臣、経済産業大臣には最低賃金の引上げに向けてしっかりと対応するよう指示をします」――

 9月24日の「一億総活躍社会」のプランを打ち出した記者会見では、「2020年に向けて、その実現に全力を尽くす決意です」との表現で期限をきっかりと2020年と区切っていたが、ここでは「2020年頃に向けて」と、「頃」の文字を付け加えて期限が曖昧になっている。

 前倒しならともかく、後ろ倒しもあり得るニュアンスの発言へと変化させている。2020年までにGDP600兆円の達成は困難だとする論調の記事が出回っていることに対する用心に見える。

 プランを唱えたばかりだというのに、今から用心を見せるようでは頼りないし、用心は達成できないときの責任問題に対する心理的な身構えでもあるから、狡猾な振舞いと言うこともできる。

 いずれにしても最低賃金を年率3%程度を目途として「2020年頃」までに全国加重平均額が1000円となることを目指すとする目標を掲げた。

 正直言って、「加重平均」について無知であったから、ネットでどのように計算するのか調べてみた。

 冒頭に触れているように2015年10月に発表された「地域別最低賃金改定状況」に於ける全国加重平均額は798円となっている。各都道府県別の最低賃金を合計して47自治体で割ると、734円となって、加重平均額の方が64円高い。

 最低賃金の加重平均はそれぞれの自治体で最低賃金で何人の労働者が働いていて、それらを乗じて、乗じた合計額に自治体数で割った金額らしい。

 らしいというのは、調べてみて確信が持てないからだが、間違いないと思う。

 例えば東京の今年の最低賃金は907円で、最低賃金で労働する人間が1000人いるとすると、全国で最も低い沖縄は693円で、他にも2自治体程同額となっているが、693円で働く労働者を700人とする。

 両者の最低賃金の単純平均額は(907円+693円)÷2=800円。

 これに労働者数を加えて計算すると、東京970円✕1000人=(970000円+沖縄693円✕700人=485100円)=1455100円。

 1455100円÷(東京1000人+沖縄700人)=856円となって、見かけ上、平均額は多くなる。

 労働者数はあくまでも東京の労働者人口が多くて、沖縄は少ないだろうと推定して適当な数字を用いたに過ぎないことを断っておく。

 同じ1000人とすると、東京970円✕1000人=(970000円+沖縄693円✕1000人=693000円)=1663000円÷2000人≒832円となる。

 労働者の人数に差を設けると、沖縄はマイナスの差が大きくなり、同数とすると、東京はプラスの差が大きくなる。

 どうも加重平均額とすることで、平均額だけを大きく見せているように疑いたくなる。

 各都道府県の労働者数は調べれば出てくるかもしれないが、膨大な計算になるから、全国加重平均額798円を基準に最低賃金を年3%上げていくと、(1+0.03)=1.03を掛けていって、何年に1000円に到達するか計算してみた。小数点以下は四捨五入。労働者数の増減は無視する。

 一度に計算する方程式(多分乗倍していく計算)があるのかもしれないが、生憎数学が苦手ときている。

 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年      
  798  822     847   872    898   925   953    981   1011

 2020年後から3年後の2023年にならないと、最低賃金は1000円を超えることができない。

 このような計算方法で最低賃金693円の沖縄を計算してみた。

 2000年から27年後の2027年に1000円一歩手前の998円。28年後の2028年に1018円と、1000円を18円超えることができる。

 エクセルでの計算方法を調べたところ、沖縄最低賃金693円に2015年から2028年迄の13年を1.03の13乗としてみたところ、四捨五入で1018円とでたから、計算は正しいと思う。

 同じく全国加重平均額798年に1.03を8年後の8乗してエクセルで計算すると、四捨五入で1010円と出た。

 こう見てくると、〈「全国一律最低賃金1000円」とは言っていないのだから、〉(2015年1月26日7時10分書き加え)安倍晋三の「2020年GDP600兆円」はアベノミクスは格差ミクスの名前通りに相応しい、やはり格差をそのまま残した最低賃金全国加重平均額1000円と見なければならない。

  参考までの以下を掲載しておく。 

 平成27年度地域別最低賃金改定状況

都道府県名   最低賃金時間額【円】     発効年月日
   北海道     764    (748)     平成27年10月8日
   青  森     695    (679)    平成27年10月18日
   岩  手     695    (678)    平成27年10月16日
   宮  城     726    (710)    平成27年10月3日 
   秋  田     695    (679)    平成27年10月7日
   山  形     696    (680)    平成27年10月16日 
   福  島     705    (689)    平成27年10月3日 
   茨  城     747    (729)    平成27年10月4日
   栃  木     751    (733)    平成27年10月1日
   群  馬     737    (721)    平成27年10月8日
   埼  玉     820    (802)    平成27年10月1日 
   千  葉     817    (798)    平成27年10月1日
   東  京     907    (888)    平成27年10月1日
   神奈川     905    (887)    平成27年10月18日
   新  潟     731    (715)    平成27年10月3日
   富  山     746    (728)    平成27年10月1日
   石  川     735    (718)    平成27年10月1日
   福  井     732    (716)    平成27年10月1日
   山  梨     737    (721)    平成27年10月1日
   長  野     746    (728)    平成27年10月1日
   岐  阜     754    (738)    平成27年10月1日
   静  岡     783    (765)    平成27年10月3日
   愛  知     820    (800)    平成27年10月1日
   三  重     771    (753)    平成27年10月1日
   滋  賀     764    (746)    平成27年10月8日
   京  都     807    (789)    平成27年10月7日 
   大  阪     858    (838)    平成27年10月1日
   兵  庫     794    (776)    平成27年10月1日
   奈  良     740    (724)    平成27年10月7日
   和歌山     731    (715)     平成27年10月2日
   鳥  取     693    (677)    平成27年10月4日
   島  根     696    (679)    平成27年10月4日
   岡  山     735    (719)    平成27年10月2日
   広  島     769    (750)    平成27年10月1日
   山  口     731    (715)    平成27年10月1日
   徳  島     695    (679)    平成27年10月4日
   香  川     719    (702)    平成27年10月1日
   愛  媛     696    (680)    平成27年10月3日
   高  知     693    (677)    平成27年10月18日
   福  岡     743    (727)    平成27年10月4日
   佐  賀     694    (678)    平成27年10月4日
   長  崎     694    (677)    平成27年10月7日
   熊  本     694    (677)    平成27年10月17日
   大  分     694    (677)   平成27年10月17日
   宮  崎     693    (677)    平成27年10月16日
   鹿児島     694    (678)     平成27年10月8日
   沖  縄     693    (677)    平成27年10月9日
全国加重平均額 798    (780)

※括弧書きは、平成26年度地域別最低賃金



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安倍晋三の戦後の占領を「戦争状況の継続」とする論理に見る占領軍の存在と占領の歴史事実に対する憎悪

2015-11-24 10:09:11 | 政治


 安倍晋三の日本国憲法は占領軍憲法だと主張している発言を調べ直しているとき、自身で書き起こしておいた2013年4月5日衆院予算委の安倍晋三と当時民主党幹事長だった細野豪志との質疑応答中の答弁でふと気づいたことがあった。

 細野豪志民主党幹事長「(主権回復の日について)4月28日に政府主催として式典を行うということが発表をされております。これは閣議決定されてますね。

 私共としても、この主権回復の日をどのように判断をしていくかということについて様々に意見を今交わしているとところでありまして、このことを考える上で総理に少し認識をお伺いしたいことがございますので、いくつかお答を頂きます。

 去年の4月28日、自民党を中心としてですね、主権回復60周年を記念の国民集会というのが開かれていて、安倍総理は当時おられませんでしたけども、メッセージを出されております。

 メッセージですから、一つ一つの言葉は揚げ足を取るつもりはありません。ま、そこに総理の重要なですね、認識、歴史認識が入っているのではないかといいうふうに思いますので少し紹介させて頂きたいと思います。

 『本来であれば、この日を以って、日本は独立を回復した国でありますから、占領時代に占領軍によって行われたこと、日本がどのように改造されたのか、日本人の精神にどのような影響を及ぼしたのか、もう一度検証し、それをきっちりと区切りをつけて、日本は新しスタートを切るべきでした』

 えー、この、えー、昭和27年4月28日の、えー、このサンフランシスコ講和条約の出発点というのは本来あるべき姿でのスタートではなかったと、いうふうに読めるご挨拶をされているんですが、日本はどのように改造され、精神に影響を及ぼされ、そしてスタートがなぜ間違っていたのか、その辺りのことをお伺いします」

 安倍晋三「昨年、自民党ほぼ、自民党主催だったのかな、の、えー、主権回復の記念日が開催されたわけでございます。

 私は、えー、たまたま前から約束をしていた懇意がございましたので、メッセージを、ビデオメッセージを出したわけでございます。ま、そこでですね、昨年いわば、まさに、60年を記念して行った式典ではございましたが、ま、そこで、60年前にまさに日本は、サンフランシスコ条約、平和条約、を結んでですね、戦争時代を終結をしたわけでございます。

 何年間の占領時代というのは戦争状況の継続である、ということなんですね。そして平和条約を結んで、日本は外交権を初めて、主権を回復したということになるわけでございます。

 ただ、私が投げかけた問題点はですね、それをきっちりと区別していなかったことによってですね、占領時代と、これから独立をしたという、いわば精神に於いての区別をつけていなかったのではないか、ということですね。そして同時に、この7年間の間にですね、7年間の間に憲法とか、あとは教育基本法、国の形を決める基本的な枠組み、えー、が、できた。そしてそれは果たして、それでいいのかという、ま、ことであります。

 例えば、ドイツに於いてはですね、占領軍がいた段階に於けるものは、憲法ということではなくて、基本法という形をしてですね、いわば、そうした状況が変わったときにもう一度考え直そうという、ことでありましたが、日本はそうではなかった、ということであります。

 そこでもう一度、やはり考えてみるべきではないか、ということを申し上げたわけでございまして、えー、それは60年前にですね、本来であれば、やっておくべきことだったのではないかという問題意識を申し上げたところでございます」
 
 細野豪志「確認ですが、そうしますと、憲法ができたのは、えー、昭和21年ですね。27年に日本はサンフランシスコ平和条約が発効して独立をしていますね。

 つまり、その6年間の間に、もしくはその独立をするときには憲法を新しくしてスタートしておくべきだった、そういうご認識ですか」

 安倍晋三「基本的にはですね、いわば、えー、様々な疑問があってですね、例えばハーグ陸戦協定上ですね、えー、占領している期間にはその国の基本法を変えてはならない、という規定があるわけでございます。

 ま、しかし、そん中に於いて、えー、我々は事実上占領軍が作った憲法だったことは間違いないわけであります。

 ま、形式的にはですね、そうではないわけであります。しかし、占領下にあって、それが行われたのは確とした事実であります。その中に於いてですね、やはり、占領が終わった中に於いて、そういう、いわば機運が盛り上げるべきではなかったか、というのが私の考えであります。

 ま、まさにこれは、えー、昭和21年でありますが、ま、当時の幣原内閣に於いて、松本烝治担当大臣が案を作って頂いたのでありますが、甲案、乙案、というのを考えていたわけでございますが、これは、2月1日に毎日新聞がスクープをしたわけでありまして、このスクープをした案を見て、ま、マッカーサーが激怒してですね、そして4日に、2月の4日に、えー、ホイットニー民政局長とケイジツ次長を呼んでですね、これは日本には任せておけないから、これは私たちで作ろう、という指示をですね、えー、ホイットニーとケイジツに出して、そしてホイットニーとケイジツに対して、えー、委員会を作って、作りなさい。そして25人の委員が、ま、そこで、全くの素人が選ばれ、えー、たったの8日間で作られたのが事実、であります。

 ま、これは、原案、と言われているわけですから、しかしそこはですね、そういう事実を踏まえて、その段階ではそういう事実に対してみんな目を覆っていたんです。ですが、そういう事実はちゃんと見ながら、自分たちでですね、真の独立国家を作っていこうという気概を持つべきではではなかったかということを申し上げたわけでございます」――

 気づいたこととは別のことだが、何度ブログに書いても書き足りないゆえに再度書くことにするが、安倍晋三は「占領している期間にはその国の基本法を変えてはならない、という規定がある」とする「ハーグ陸戦協定」を持ち出して、その協定違反だから日本国憲法は無効だと暗に指摘していることに対して、かつて当ブログに、〈このことを謳っている実際のハーグ陸戦協定第43条は、「国の權力が事実上占領者の手に移りたる上は、占領者は、絶対的の支障なき限り、占領地の現行法律を尊重して、成るべく公共の秩序及生活を回復確保する為施し得べき一切の手段を尽くすべし」となっていて、日本の民主化に大日本帝国憲法は「絶対的の支障」となるとする理由を設ければ、ハーグ陸戦協定違反とはならない。

 だが、国家主義者安倍晋三には大日本帝国憲法が戦後日本の民主化の「絶対的の支障」とは目に見えていなかったのだろう。〉と書いた。

 そして日本の民主化に「絶対的の支障」足り得たのはGHQのマッカーサーによって日本人の手による作成を阻止されたとしている幣原内閣の松本烝治担当大臣が案作りをしていた、いわゆる「憲法改正私案」(松本試案)そのものであった。

 「第一章天皇」は次のように規程している。「第三条 天皇ハ至尊ニシテ侵スヘカラス」 、「第十一条 天皇ハ軍ヲ統帥ス」

 天皇は大日本帝国憲法(明治憲法)とほぼ同様に絶対的存在としていた。

 「第二十条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ従ヒ役務ニ服スル義務ヲ有ス」

 「役務」とは、「公的な仕事。また、他の人のために行う労働」(コトバンク)を言う。いわば自身のための労働ではない。一旦憲法に規定されれば、法律上の強制力を持つ。

 本来なら憲法は国民が国家権力の恣意的な権力行使を縛る法規であるが、この第二十条は国民に役務を義務として課す国家の権利として規定されている。法律上の強制力は国家権力の強制力として働く。役務が兵役ともなるし、戦前のような勤労奉仕という形を取ることも可能となる。

 そして第二十八条は「日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス」としているが、日本国民の「信教ノ自由」は国家権力が規定する「安寧秩序」の範囲内の、その制限下に置かれた“自由”という、本来の意味に反するいびつな権利の形を取ることになる。

 だからだろう、自民党の日本国憲法改正草案第12条「国民の責務」は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」と、国家権力が規定する「公益及び公の秩序」の範囲内の、その制限下に置かれることになる国民の「自由と権利」であると、松本試案と同じ趣旨を採ることになっているのだろう。

 改めて読みなおして気づいたのは、安倍晋三が「何年間の占領時代というのは戦争状況の継続である」と言っていることである。

 日本政府は「北方領土は、ロシアによる不法占拠が続いていますが、日本固有の領土であり、この点については例えば米国政府も一貫して日本の立場を支持しています。政府は、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するという基本的方針に基づいて、ロシア政府との間で強い意思をもって交渉を行っています」としていて、北方四島を「ロシアによる不法占拠」だという立場を取っているが、「日本固有の領土」としている以上、「不法占拠」は「ロシアによる占領」を意味する。

 安倍晋三が答弁した論理を当てはめると、ロシアによる(ロシア以前はソ連による)北方四島の占領が続いている間、日本はロシアと(ロシア以前はソ連と)戦争状況が継続し、現在も同じ状況にあるとしなければ、整合性が取れないことになる。

 だが、実際には日露間に、日ソ間であっても、周知のように現在は戦争状態にはない。

 1956年10月19日に日本とソ連がモスクワで鳩山一郎とブルガーニン(第一書記はフルシチョフ)両首相が署名した「日ソ共同宣言」は、「日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の戦争状態は、この宣言が効力を生ずる日に終了し、両国の間に平和及び友好善隣関係が回復される」としていて、同1956年12月12日の発効によって日ソ間の戦争状態は終結していて、当然現在の日露間も戦争状態にないことになる。

 もし安倍晋三がこのことを十分に承知していて(承知していないはずはない)、1945年(昭和20年)9月2日の降伏文書調印からサンフランシスコ講和条約の発効の1952年(昭和27年)4月28日までの占領期間に限って「戦争状況の継続」だと見ているのだとしたら、例え国際法上の形式として平和条約の締結・発効によって戦争状態は終結されるという慣習があったとしても、日本に於ける占領の現実は平和な状態であったのだから、殊更持ち出す必要もない「戦争状況の継続」を持ち出したのは占領軍の存在と占領という歴史事実に生半可ではない激しい憎悪を内心に抱えているからに他ならないはずである。

 だからこそ、2012年4月28日の自民党主催「主権回復の日」に、「占領時代に占領軍によって行われたこと、日本はどのように改造されたのか、日本人の精神にどのような影響を及ぼしたのか、もう一度検証し、そしてきっちりと区切りをつけて、日本は新しいスタートを切るべきでした」とするビデオメッセージを送ることになったのだろう。

 戦前の日本国家と日本人の精神が占領によって断ち切られて、戦後の世界に送り出されたことが余程腹に応えているようだ。

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安倍晋三の11月22日自己愛のいいこと尽くめバラ色のアベ・ワールドで彩ったマレーシア首都内外記者会見

2015-11-23 11:32:34 | Weblog


 マレーシア首都クアラルンプールで開催の東アジア首脳会議(EAS)に出席していた安倍晋三が11月22日(2015年)、内外記者会見を行った。  

 主として第2の矢でもある「一億総活躍社会」も含めてアベノミクスを取り上げてみるが、相変わらず不都合な統計・情報を隠していいこと尽くめのバラ色のアベ・ワールドを大風呂敷でつくった旗を高々と掲げて吹聴しまくっていた。

 安倍晋三「私たちの『一億総活躍』という新しい考え方には、多くの国々から、注目が集まりました。持続的な成長への道筋を示す『究極の成長戦略』であることを、改めて確認できたと思います」――

 最近頻繁にアベノミクスの失敗を取り上げる記事が出回り始めている上に具体策を練り上げたわけでもなく、単にプランを花火のように打ち上げただけの、いわば現時点では海のものとも山のものとも評価しようがない「一億総活躍」を「『究極の成長戦略』であることを、改めて確認できたと思います」と断言することができる。

 この自己愛性人格、あるいは自己偉大誤認障害(こういった言葉があるかどうかは知らない)は素晴らしい。

 いいこと尽くめの一つとして今回の会議で大きな関心が集まったと本人が言っている「日本の高い省エネ効率」、「防災の知恵」の他に「国民皆保険」を入れているが、確かに「皆保険」という形式は素晴らしい。誇っていい形式である。

 性別に関係なく、全ての年齢層で所得が低くなると外来での受診割合が低下し、逆に働き盛りであると同時に肉体的に衰えが出てくる40〜59歳の中年男性は低所得程入院する割合が上昇するという、いわばカネがなくて病院に行って診察を受けることを控えることが反動をもたらす、結果的に却って健康を損ねる傾向にあるという千葉大の研究チームの2012年4月から1年間の調査は、「皆保険」が必ずしも国民全員に健康への保障を約束するものではないことを如実に物語っている。   

 「国民皆保険」であっても、生活の格差がその素晴らしい形式の陰で中身の実態を損ね、形式と不一致の状況をつくり出している。安倍政権になって格差が拡大して、アベノミクスは格差ミクスと言われている。

 いわばアベノミクスが形式の素晴らしさをそのままに残したまま、中身を蝕む元凶ともなっていて、国民生活のその他の分野に於いても決していいこと尽くめのバラ色ではないということである。

 だが、安倍晋三はこういった自身に不都合な事実、あるいは不都合な情報や統計を隠して、形式だけを誇っていいこと尽くめのバラ色のアベ・ワールドを国民の前に描いてみせる。

 アベノミクスの経済政策には関係しないが、安倍晋三はロシアとの関係もバラ色で包もうとした。

 安倍晋三「12回目の会談となった、ロシアのプーチン大統領とは、平和条約の締結を目指し、あらゆる機会を見つけて対話を継続していくことで一致いたしました」

 一度ブログに書いたが、択捉島で2015年8月12~24日までロシア政府主催の「全ロシア青年教育フォーラム」なる若者たちの愛国集会を開催している。若者たちが択捉の地に立ち、愛国集会を通してロシア国家に向けて愛国と忠誠の精神を示したということは択捉とロシアを一続きとしていることを意味する。

 プーチンが彼ら若者たちの愛国と忠誠の精神を無にしたなら、たちまち支持を失うことになるだろう。12回の回を重ねた首脳会談を通して築き上げたプーチンと安倍晋三の信頼関係よりも上位に置かなければならない若者たちの愛国と忠誠の精神であるはずだ。

 こういった情報を読み解く能力がないのか、あるいは読み解いていながら、都合の悪い情報として取り上げないでいるのか、いずれにしても首脳会談の回数を言っても意味がないにも関わらず、回数を言うことで、それを信頼関係の担保とし、その信頼関係を平和条約の締結や北方四島返還の担保にしようとしている。

 記者との質疑に入って、次のような遣り取りがあった。

 ディビット・トゥイード。ブルームバーグ記者「本日はアベノミクスについてのパンフレットを持ってきた。日本経済の指標をみるとこのメッセージと矛盾していると思う。つまり日本経済が縮小しているということである。2四半期連続でマイナス成長となっている。8月9月と物価が下落している。経済の目標をGDP600兆円とされているわけだが、いつその目標をどうやって達成できると考えているのか」

 安倍晋三「先ず我々が政権を取ってからこの3年間の大きな流れを見ていただきたいと思います。アベノミクス『三本の矢』の政策によって、15年続いたデフレについては、デフレ脱却まであと一息というところまで来ました。名目GDPは、28兆円増えました。そして500兆円を超えた。雇用は110万人以上増えました。有効求人倍率は23年ぶりの高い水準になっています。企業収益は過去最高です。TPPの大筋合意を始め、コーポレートガバナンス、女性活躍、農協・医療の改革、電力改革など、成長戦略も着実に実施しています。

 確かに今御指摘があったように、7-9月期の実質GDPは全体としてマイナス成長でありますが、しかし指標をよく見ていきますと、例えば自動車の在庫の減少が主な要因なのです。在庫が減少するとGDPの指標においては実はマイナスになるのです。ですから、我々は、これは今後に向けて良い傾向が出てきていると考えています。実質賃金の改善を受け、個人消費もプラスです。緩やかな回復基調は続いていましたが、景気をしっかりと下支えをしていかなければなりません。

 このため、企業収益を賃金や設備投資に結びつけていく。また、『GDP600兆円』を実現するための緊急対策などを内容とする補正予算を編成します。帰国後、指示したいと考えます。さらに、法人実効税率の引下げなど、成長戦略も引き続き強力に進めていきます。あわせて、少子高齢化等の構造的課題にも取り組み、「一億総活躍」を実現することで、強い経済を創り出してまいります」

 やはり安倍晋三、強心臓にも都合の悪い情報を隠して、アベノミクスを正当化する強弁を働かせている。

 2015年7-9月期の実質GDPマイナス0.2%となったことを「自動車の在庫の減少が主な要因なのです。在庫が減少するとGDPの指標においては実はマイナスになるのです」と言っているが、主な自動車メーカー8社の9月国内生産台数は2014年同月比で78万2004台減、-2.2%となっている。

 また、日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会が2015年10月1日発表の2015年度上期(4~9月)の国内新車販売台数は、前年同期比5.8%減の232万9270台で、3年連続の減少となっている。

 いわば自動車が売れに売れて生産が追いつかず、その結果在庫が減ったということではなく、販売台数の減少を受けた自動車の国内生産の減産方向への調整との関連で生産して倉庫に保管しておいた自動車の在庫が増えることになったことからの在庫調整という意味合いの在庫減少ということで、安倍晋三が言っているような意味での良好な状況下の在庫の減少では決してない。
 
 実態的な経済の状況は決して良くない。「個人消費もプラスです」と言っているが、確かに7-9月GDPの約6割を占めていると言われている個人消費(民間最終消費支出)は0.5%のプラスとなっている。

 その内訳は時計や宝飾品の販売が好調に推移している百貨店の売上、8月までの猛暑によるエアコン販売などだという。百貨店の高額商品売上好調は訪日外国人観光客、特に中国人観光客の消費が寄与している部分がかなり占めているはずだ。

 こういった光景に対して一方で軽自動車の販売が2年連続で減少していることや非正規雇用が増加していること、それぞれの光景を総合すると個人消費プラス0.5%は大部分が高額所得者が寄与している0.5%であって、中低所得層は取り残された個人消費と見ないわけにはいかない。

 中低所得者をも含めて積極的に消費活動に走ってこそ、個人消費を活気づけることができ、それがGDPの増額に寄与する。

 だが、アベノミクスが格差ミクスであることによって中低所得層の消費を抑制する働きをしているにも関わらず、「一億総活躍社会」で掲げたGDP600兆円を2020年までに達成すると約束している。

 あくまでも都合の悪い情報を隠した約束に過ぎない。格差拡大を止めることができなければ、決して実現はできない、自己愛で満たしたいいこと尽くめのバラ色で彩ったアベ・ワールドで終わる運命が待ち構えていることになるだろう。

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茨城県教育委員長谷川智恵子氏の「出生前診断で分かった場合の障害者は生まない方がいい」発言の問題点

2015-11-22 10:08:54 | 政治


 2015年11月18日に開かれた茨城県の教育方針を決める「平成27年度第3回茨城県総合教育会議」での教育委員の発言が11月19日付辺りのマスコミに取り上げられて問題視されていた。

 知事から会議の最後に自由意見を求められた際の発言だそうで、発言の主は東京の画廊の副社長とかの長谷川智恵子氏。どのような発言をしたのか、その発言に対して橋下茨城県知事がどう応じたのか、マスコミ各紙から拾ってみる。文飾は当方。

 先ず「NHK NEWS WEB」記事。 

 長谷川智恵子氏(特別支援学校を視察したことに触れて)「多くの障害のある子どもたちがいて驚いた。妊娠初期に障害の有無が分かるようにならないのでしょうか。4か月を過ぎると堕せないですから。生まれてきてからでは本当に大変です」

 橋下知事「障害の有無が事前に分かって、中絶したい人が中絶できる機会を増やしたらどうかという意味だと思う。悪いことではない」

 次に「毎日jp」記事。

 長谷川智恵子氏(特別支援学校を視察したことに触れて)「物凄い人数の方が従事している。県としてもあれは大変な予算だろうと思った」

 橋下知事「堕胎(だたい)がいいのかどうかっていう倫理的な問題まで入ってくる」

 長谷川智恵子氏「意識改革しないと。生まれてきてからでは本当に大変です。 茨城県はそういうことを減らしていける方向になったらいいなと」

 11月19日の長谷川智恵子氏に対する「毎日jp」の取材。

 長谷川智恵子氏「早めに判断できる機会があれば、親もさまざまな準備ができるという趣旨。障害を認めないわけではない。言葉が足らなかった」

 11月19日の「NHK NEWS WEB」記事。

 長谷川智恵子氏(19日夕方)「障害のある方やご家族を含め、数多くの方々に多大なる苦痛を与えたことに心からおわびを申し上げますとともに発言を撤回します。障害のある方を差別する気持ちで述べたものではありません」

 橋下知事(11月19日夜)「長谷川氏の発言は障害児の将来を心配したものだったと考えているが、本人から撤回したいという連絡があった。私自身も福祉行政には力を入れてきたところで、私の発言が障害のある方々や関係者に苦痛を与えたとすれば誠に遺憾であり、誤解を与えないように発言を撤回します」――

 発言のどこに問題があるのか、既に同じような指摘が出ていて、重複、もしくは後追いになるかもしれないが私自身なりに考えてみることにする。

 長谷川智恵子氏は「大変」という言葉を使っている。最初の「NHK NEWS WEB」記事が伝えた氏の発言。「多くの障害のある子どもたちがいて驚いた。妊娠初期に障害の有無が分かるようにならないのでしょうか。4か月を過ぎると堕せないですから。生まれてきてからでは本当に大変です」――

 この「大変」は障害児を抱えることになった親の立場で言った「大変」なのだろうか。

 「毎日jp」記事になると、「(特別支援学校では)物凄い人数の方が従事している。県としてもあれは大変な予算だろうと思った」と、特別支援学校向けの予算の額の「大変」さについて言っている。

 間に橋下知事の発言を挟んで続けた「意識改革しないと。生まれてきてからでは本当に大変です。茨城県はそういうことを減らしていける方向になったらいいなと」と口にした「生まれてきてからでは本当に大変です」の「大変」はやはり掛かり過ぎると見ている予算額を指した言葉であって、予算額の大きさを理由にその減額に言及したのであった、親の「大変」につていの発言でないことを理解しなければならない。

 減額の内には「物凄い人数の方が従事している」その人件費の削減も頭に入れていたはずだ。企業が自社利益を上げるための主要な手段の一つとして人件費カットを常道としているが、そのために非正規社員をなるべく多く採用するのだが、長谷川智恵子氏は人件費に関わる企業の論理を持ち出してもいたことになる。

 いわば特別支援学校が採用している職員の減員も含めて、その経営に必要な予算を減額する必要があるが、そのためには学校が預かっている障害児そのものの数を減らさなければならないから、出生前診断で障害があると分かったら中絶すべきだと、主張したことになる。

 当然、「茨城県はそういうことを減らしていける方向になったらいいな」の「そういうこと」とは主として特別支援学校の職員の減員や中絶による障害児出産の抑制を指していることになる。

 勿論、予算執行の効率性の観点から行政の側から特別支援学校の職員の減員を求める言及はできるが、後者の障害児を出産するか中絶するかは親の決めることであって、行政が決めることではないし、決めることのできない中絶のススメを説いて障害児出産数の抑制に応じた職員の減員を求める予算執行の効率性については行政と言えどもタッチはできないはずだ。

 こうに見てくると、「毎日jp」の取材に対しての氏の発言、「早めに判断できる機会があれば、親も様々な準備ができるという趣旨。障害を認めないわけではない。言葉が足らなかった」とする釈明は後付けの弁解に過ぎないことになるが、最初の発言がマスコミに批判的な文脈で取り上げられただけではなく、ネット上でも様々に批判を受けて後付けの弁解を迫られながらも、「親も様々な準備ができる」と、その「様々」の中に中絶をなおも含めている。

 この行政の側からの許されない口出しがあくまでも予算執行の効率性に立った思いであればいいが、優生学に基づいた選別の思想からの思いだとしたら、見過ごすことのできない問題となる。

 後者の思いが予算執行の効率性の形を取るということもあり得る。

 いずれにしても、「中絶可能な期間内に障害者か否かが診断できるなら、障害者の場合は生まない方がいい、この世に送り出さない方がいい」と、個人的な選択の問題を行政が決定したい意思・欲求を見せて進言したのである。

 
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安倍晋三の国連自由権規約委員会への日本調査延期要請は調査報告を国民の目から隠す情報隠蔽相当の選挙対策

2015-11-21 09:33:04 | 政治

 


       「生活の党と山本太郎となかまたち」

     《 11月19日 「市民提案の野党共闘プラットフォームについての野党5党検討」》    

      野党5党は11月19日、SEALDsをはじめ、安保法制反対の市民団体と来年の参院選
      挙に向けた協力のあり方について第2回目の意見交換会を行いました。市民側提案の
      野党共闘プラットフォームについて政党側でも真摯に検討し、今後とも双方は連携
      協力していくことを確認しました。

 国連人権理事会で「表現の自由」を担当しているデビッド・ケイ特別報告者(アメリカ・カリフォルニア大教授)が12月1日から8日まで予定していた訪日調査を日本政府の突然の要請で延期したことを11月17日の自身のブログで明らかにしたと各マスコミが伝えている。

 記事は「日本政府の要請」と書いているが、その主は勿論、安倍晋三であり、安倍晋三の最終指示であることは間違いない。

 このことはおいおい理解できる。

 このイキサツについて弁護士であり、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長である伊藤和子女史のサイト記事――《国連「表現の自由」に関する特別報告者が突然来日を延期。日本政府が土壇場でキャンセル》Yahoo!ニュース/2015年11月20日 1時49分)が詳しく書いている。  

 一人称で書いてあるデビッド・ケイ特別報告者のブログと伊藤和子女史の解説を要約してみると、次のようになる。

 先ず「2015年11月17日」(November 17, 2015)の日付のブログから。

 「10月に国連総会第三委員会でプレゼンテーションをした際、私は日本政府が、12月1日から8日にかけての私の公式訪問に対する招待を日本政府から受け取ったことをアナウンスすることが出来た」

 要するに日本政府はデビッド・ケイ特別報告者の国連での10月のプレゼンテーション以前、10月時点かそれ以前に訪問を承諾していたことになる。

 「私は日本政府が、12月1日から8日にかけての私の公式訪問に対する招待を日本政府から受け取った。この訪問は、国連自由権規約委員会が昨年懸念を表明した2013年制定の『特定秘密保護法』の実施、インターネット上の権利、報道の自由、知る権利などの日本の表現の自由に関する一定の側面を評価する重要な機会となりえただろう」――

 訪問のための準備を進めた。

 「先週金曜日、残念ながら、ジュネーブの日本政府代表部は、関係する政府関係者へのミーティングがアレンジできないため、訪問は実施できないと伝えてきた。日本政府は、2016年秋まで訪問を延期すると示唆した。私は日本政府当局に対し、彼らの決定を再考するように要請した。しかし、ジュネーブの日本政府代表部は昨日、公式訪問は実施できず、今やキャンセルされたと確定的に伝えてきた」――

 伊藤和子女史は日本政府のキャンセルの理由を共同通信等の配信記事を通して、外務省が予算編成の多忙のために受入れ態勢が万全でないとしていると伝えながら、10月時点かそれ以前に訪問に一旦OKを出したことは予算編成のスケジュールを承知していた上のことだろうからといった趣旨で疑問を呈し、次のように述べている。

 「外務省のウェブサイトを見る限り、ひっきりなしに要人が訪れ、もっと予算に関わりそうな話を展開している模様。なぜこの件だけ、事前にOKしたのに、予算を理由に断るのか、理解が出来ません。

 そして、予算が理由であれば、なぜ来年秋までひっぱる理由もないはずで、もっと早期にリスケジュールできるはずです。

 是非、国会で背景事情を質問するなどして聞いていただきたいところですが、臨時国会も開催されていないため、何もできない状況で、様々な意味で日本の現在の状況を象徴する事態となってしまっています」――

 一般的な予算編成は各省は毎年8月31日までに財務大臣に概算要求を提出し、9月から12月中旬にかけて予算編成作業、復活折衝、財務省案原案策定と進め、12月末以内に政府案閣議決定、翌年1月~3月の間に政府予算案国会提出という流れを取る。

 例外として越年作業といったこともある。

 このようなスケジュールで進むことは誰も分かっていることだから、伊藤和子女史が言っているように一旦OKを出しておきながら予算編成の多忙をキャンセルの理由とする正当性は見つけ難い。

 外相の岸田文雄が11月20日の閣議後記者団に述べた延期要請の理由を「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。

 岸田文雄「国連から任命された担当者が来月1日から8日にかけて日本訪問を計画し、調整が行われていたのは事実だ。しかし、この時期は予算編成作業などとの関係で、政府として十分に受け入れ体制を整えることが困難な見通しなので、日程の再調整を申し入れ、先方には理解を得られたということだ。現時点で新たな日程は決まっていないが、引き続き調整したい」――

 日本訪問の計画に対して「調整が行われていたのは事実だ」という言い方で、相手の訪問受入れ要請に対して当初から調整が行われていたかのような体裁の発言となっていて、10月時点かそれ以前に一度は12月1日から8日の訪問を承諾したことは隠している。

 明らかにしたら、予算編成作業の多忙は前以て分かっていることなのになぜ承諾したのかと追及された場合の不都合が生じるからだろう。

 事実、予算編成の都合で延期を申し入れたなら、伊藤和子女史が「なぜ来年秋までひっぱる理由もないはずで、もっと早期にリスケジュールできるはずです」と疑問を呈しているように政府が予算案を国会に提出すれば、予算に関わる大臣たちの答弁にそれ程多くの役人たちの手を煩わす必要はないはずだから、年明け早々の「リスケジュール」(日程調整)でいいはずだが、「日本政府は、2016年秋まで訪問を延期すると示唆した」

 ここに日本政府の延期の最大の理由があるはずだ。伊藤和子女史はこの記事で触れていはいないが、「2016年秋」は参院選の終了後である。もし安倍晋三がダブル選を狙っているとしたら、調査にしても報告にしても衆参選挙後となる。

 「表現の自由」担当の国連報告が日本の表現の自由に関わる状況への安倍政権の取組みをどう評価しようと、取り込み不足やその怠慢、あるいは不作為をどう指摘しようと、その報告に対して野党が国会でどう追及しようと、さらにマスコミがどう騒ごうと、選挙に影響しない後の祭りとすることができる。

 以上の理由からして、当然、日本政府の要請とは安倍晋三が決めた要請となる。外務省の背後に安倍晋三が控えていて、外務省は安倍晋三の意向に従った。

 これだけの理由で安倍晋三だと決めつけるのは早計に過ぎると見る向きもあるかもしれないが、もう一つ理由がある。

 伊藤和子女史は自身の記事で、「2013年に特定秘密保護法が多くの反対を押し切って国会で通過した前後の時期に、前任者であるフランク・ラ・ルー氏が、国民の知る権利や報道の自由を脅かす危険性がある、ということで強い懸念を表明し、日本政府に対して再考を求めた」云々と解説していることから、国連がこのときの調査についてのどのような報告書を出しているのかネット上を調べてみたところ、『自由権規約委員会 日本の第6回定期報告に関する最終見解』(2014年8月20日)と題した報告書を幸いにも見つけることができた。 

 報告書は冒頭、〈1.自由権規約委員会は,日本の第6回定期報告(CCPR/C/JPN/6)を,2014年7月15日及び16日に開催された第3080回及び第3081回会合(CCPR/C/SR.3080, CCPR/C/SR.3081)において審査し,2014年7月23日に開催された第3091回及び第3092回会合(CCPR/C/SR.3091,CCPR/C/SR.3092)において,以下の最終見解を採択した。〉と記述している。

 「Wikipedia」によると、自由権規約人権委員会の「議事は、委員会で非公開とする決定を行わない限り、公開で行われる」と書いているから、一般的には公開で行われるはずで、もし来年も7月中旬に会合が開かれた場合、時期的には参院選と重なることになる。ダブル選挙なら、衆参同日選挙と重なる。

 因みに英語の日本語訳の関係からか、「自由権規約人権委員会」という表記と「自由権規約委員会」という表記と二通りがある。

 問題は報告書が「表現の自由に対する懸念」として「特定秘密保護法」や「ヘイトスピーチ」などを取り上げているわけではないことである。

 取り敢えず「特定秘密保護法」と「ヘイトスピーチ」についての報告を見てみる。

 〈特定秘密保護法

 23.委員会は,最近成立した特定秘密保護法が,秘密として指定可能な事項についての曖昧かつ広範な定義及び秘密指定の一般的な前提条件を含み,また,ジャーナリスト及び人権擁護者の活動を萎縮させ得る重い罰則を規定していることを懸念する。〉――

 〈ヘイトスピーチ及び人種差別
 
 12.委員会は,韓国・朝鮮人,中国人,民といったマイノリティ集団のメンバーに対する憎悪や差別を煽り立てている人種差別的言動の広がり,そして,こうした行為に刑法及び民法上の十分な保護措置がとられていないことについて,懸念を表明する。委員会は,当局の許可を受けている過激派デモの数の多さや,外国人生徒を含むマイノリティに対し行われる嫌がらせや暴力,そして「Japanese only」などの張り紙が民間施設に公然と掲示されていることについても懸念を表明する。〉――

 「問題は」と書いたのは、〈C.主な懸念事項及び勧告〉と題して、表現の自由に関する懸念と同時に女性の問題に関わる同じ人権上の懸念も取り上げていることである。

 と言うことは、「表現の自由」の問題を調査する担当者のみならず、「女性」の問題を調査する担当者も存在していて、それらの調査を待って、最終報告書が作成される形式を取ることになる。

 「表現の自由」を担当しているデビッド・ケイ特別報告者がたまたま自身のブログに事情を書いたから、自らの発言を積極的に発信しているらしい伊藤和子女史やマスコミが取り上げることになったが、女性問題担当者の招待を取り消し、延期させている可能性は、それが表に現れていないだけのことで、十分に疑うことができる。
 
 女性問題についての懸念を見てみる。

 〈男女平等

 8.委員会は,「婚姻制度及び家族制度の基本的概念に影響を与える」おそれがあるとの根拠で,離婚後6ヶ月間の女性の再婚を禁止し,男性と女性の婚姻年齢の相違を設定する,民法の差別規定を改正することを締約国が拒否し続けていることを懸念する(第2条,第3条,第23条及び第26条)。

 締約国は,家庭や社会における女性と男性の役割に関する固定観念が,法の下の平等に対する女性の権利の侵害を正当化するために用いられないことを確保すべきである。締約国は,したがって,しかるべく民法を改正するための緊急行動をとるべきである。〉――

 「締約国」とは勿論、「国際人権規約」に1979年に批准し、加盟している日本を指す。

 〈9.委員会は,第3次男女共同参画基本計画の決定を歓迎する一方,政治的役割を担う女性の数が低水準に留まっていることに鑑み,本計画の影響力が限られていることを懸念する。委員会は,の女性を含む,マイノリティ女性の政策決定を担う立場への参加に関する情報が乏しいことを遺憾に思う。委員会は,女性がパートタイム労働力の70パーセントを占め,同等の仕事に対して男性が受け取る給与の平均58パーセントを得るという報告について懸念する。

 委員会はまた,セクシュアル・ハラスメント,あるいは妊娠及び出産を理由とした女性の解雇に対する処罰措置が不足していることを懸念する。)――

 こういったこと以外にレズビアン,ゲイ,バイセクシャル,トランスジェンダーに対する「性的指向及び性別認識に基づく差別」の存在、その他に対する懸念の伝達と懸念の改善の要請を日本政府に行っているが、2014年8月20日に報告されている内容が現時点に於いても殆ど改善しているようには見えないから、2016年7月予定の参院選前に、あるいは衆参同日選前にほぼ同じ内容で報告されたなら、政府は、と言うよりも、安倍政権は何ら努力していないことになって、指導者としての安倍晋三の女性問題に関わる姿勢を問われることになり、怠慢の誹りを免れ得ない。

 特に安倍晋三は「女性の活躍」や「女性の人権」を安倍政権の重点政策、アベノミクスの「成長戦略」の柱とし、これらのことに向けた政策が着々と成功しているかのように吹聴している。その吹聴を裏切る問題点となって口程にもない姿を曝すことになり、安倍晋三の資質や能力、あるいは人間性にまで跳ね返ってくる。

 国連の報告書を通した自身の姿のこのような暴露がもし参院選前、あるいは衆参同日選挙前に行われたなら、暴露が表すことになる安倍晋三の正体は有権者の記憶に強く焼き付くことになる。

 伊藤和子女史も記事で指摘しているメディアに対する公権力からの選挙介入や集団的自衛権の憲法解釈による行使容認論を選挙の争点から目立たなくさせる手管に象徴的に現れているが、安倍晋三が数を獲得するためには(=選挙に勝つためには)手段を選ばない異常な執着性からしたら、投票行動に影響を与えないではおかないこのような予想される事態を回避するための参院選後、あるいは衆参同日選後の2016年秋までの訪問延期と、延期に応じた報告の先送りと見るのが妥当であり、そうすることによって国民の目に安倍晋三に都合の悪い情報が伝わらないようにする、いわば情報隠蔽を謀ろうとしたということであるはずだ。

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