安倍晋三が11月24日(2015年)午前、自民党本部で谷垣禎一幹事長、宮沢洋一税制調査会長らと会談、軽減税率導入に関して「社会保障と税の一体改革の枠内で議論してほしい」(NHK NEWS WEB)と発言、既に自民・公明両党で財源とすることで合意の軽減税率財源4000億円の枠内で検討するよう指示したとマスコミが伝えていた。
ところが官房長官の菅義偉が同じ11月24日の記者会見で、「総理からは税と社会保障の一体改革の枠内(4000億円)でとの話は聞いていない。財源は安定財源の中でとの意味ではないかと思っている」(財経新聞)と安倍発言を否定している。
安倍晋三の発言は消費税を10%にする段階で「社会保障と税の一体改革」を崩さない範囲で導入して欲しいということであるのに対して菅義偉は「社会保障と税の一体改革」に限らず、財源の安定を崩す導入はできないとの発言になるはずだ。
だが、消費税10%に対して生鮮食品に限って8%にする軽減税の財務省試案では3400億円の税収減になるとしている。酒類を除く飲食料品で1.3兆円。
だとすると、生鮮食品のみの軽減税率案で既に自民・公明両党で財源とすることで合意の4000億円の枠内でほぼ一杯一杯となる。
財務相の麻生太郎が会え発言を受けて、11月24日の閣議後の記者会見で超える財源が必要になる場合は「福祉を減らすことになる」(47NEWS)と述べたという。
要するに4000億円超なら、年度を超えて継続的に執行が必要とされている福祉予算(=社会保障予算)を減らさなければならないと宣(のたま)わった。
4000億円超という金額でそれ程騒ぐ必要があるのだろうか。酒類を除く飲食料品で1.3兆円の税減収分は賄い切れない金額なのだろうか。
このような疑問が湧いたのはこの時期になると(多分)、毎年会計検査院が国のカネの使い方のムダを指摘しているからだ。
2015年11月6日付の「NHK NEWS WEB」記事が、〈会計検査院は昨年度の検査の結果、国の支出などで不適切な取り扱いをされた公金が1568億円余りに上り、学校や高速道路などの公共施設では安全対策などが不十分だったとする報告書をまとめ〉たと報道している。
記事はムダ遣いが経済損失を生じさせている例まで挙げている。
高速道路等で頑丈な中央分離帯を設けずに暫定的に対面通行にた区間で死傷事故が相次ぎ、この10年間に300億円を超える経済損失が生じたとの指摘を伝えている。
この300億円の経済損失は国のカネ(=公金)約1568億円のムダ中には含まれていないはずだ。
会計検査院のサイトにアクセスしてみた。《平成26年度決算検査報告の概要・検査結果の大要》(会計検査院/2015年11月24日)
〈平成26年度決算検査報告に掲記した事項等の総件数は570件であり、指摘金額は計1568億6701万円である。〉
・不当事項 450件 164億6537万円
・意見を表示し又は処置を要求した事項 49件 721億7867万円
・本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項 57件 690億4861万円
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・指摘事項総計 570件 1568億6701万円
ムダ遣いはこれだけではない。同じ会計検査院報告の《国の財政等の概況》には翌年度繰越損失金が生じている特別会計の金額を報告している。
平成25年度末(単位百万円)
年金特別会計(健康勘定) △1,192,924(1兆1929億2400万円)
農業共済再保険特別会計(果樹勘定) △26,735(267億3500万円)
漁船再保険及び漁業共済保険特別会計(漁船普通保険勘定) △32,188(321億8800万円)
漁船再保険及び漁業共済保険特別会計(漁業共済保険勘定) △36,495(364億9500万円)
社会資本整備事業特別会計(業務勘定) △1,308(13億800万円)
平成26年度末(単位百万円)
年金特別会計(健康勘定) △975,099(9750億9900万円)
食料安定供給特別会計(漁船再保険勘定) △17,542(175億4200万円)
食料安定供給特別会計(漁業共済保険勘定) △33,906(339億600万円)
食料安定供給特別会計(業務勘定) △307(3億700万円)
特別会計は一般会計とは別に独立した経理管理が行なわれていると言う。当然、各事業毎に利益を上げなければならなはずだが、次年度に損失金として繰越していると言うことは赤字経営となっているということを示しているはずだ。
この赤字をどう凌いでいるのだろうか。
平成26年度は一般会計から特別会計へと53.7兆円も繰入れている。内訳は国債整理基金特別会計23.3 兆円、交付税及び譲与税配付金特別会計16.2 兆円、年金特別会計12.1 兆円等となっているが、官僚お得意の錬金術を用いて上記繰越損失金が生じている特別会計への繰越しも、全額とはいかないが、申し訳程度ずつ行われているのではないのだろうか。
あるいは10何兆の繰入を受けた特別会計が繰越損金が生じている特別会計へとこっそりと回して収支に辻褄を合わせるといった錬金術ということも疑うことができる。
と言うも、上記会計検査院の報告書には民間の銀行から資金調達を受けにくい中小企業や新規起業家等への融資をタテマエとしている100%政府出資の政府系金融機関である日本政策金融公庫ついても、政府出資金の額が1兆円以上の法人の状況を伝えている一つとして取り上げているが、当然当初の出資額の範囲で事業をせいりつさせると同時に事業を拡大させていかなければならないし、政府から増資を受ける場合でも、利益を上げていて事業が拡大している中での増資でなければならないはずだが、会計検査院報告による平成26年度の財政状況は百万円単位で記載されていて、負債が18,981,634(18兆9816億3400万円)もあって、対して純資産が4,627,306(4兆6273億600万)となっている。
この収支に対して平成26年度に6,002,365(6兆23億6500万)ものカネが政府から出資金として投ぜられていて、〈「純資産の部」の金額が「うち政府出資金」の金額を下回っているのは、過年度に生じた損失金の累計額である繰越損失金等が生じているためである。〉と注釈をつけているが、当初の政府の出資金額で事業を成立・拡大させることができすに年度に応じて政府から出資を受けているパターンは繰越損失金を起こしている特別会計への一般会計からの繰入を十分に擬(なぞ)えることができる。
日本政策金融公庫が自律的な収益体となり得ず、負債が20兆円近くもあって、政府からのカネの補填で遣り繰りしていること自体、大いなるムダであるが、毎年毎年会計検査院から指摘を受ける一般会計・特別会計・独立法人の諸々のムダ遣いのカネの額からすると、軽減税導入の場合は4000億円をメドとした「税と社会保障の一体改革の枠内で議論して欲しい」といった議論はムダのケタ違いの大きさから言って、何も考えない戯れ言にしか見えない。
民主党が政権を取った時小沢一郎が「財源はムダをなくせばどうにでもなる」と言っていたが、ムダをなくす力がムダをつくる日本の官僚の力に今以て勝てないようだ。