野田政権は復興財源捻出を目的として平均0.23%の引き下げを求めた人事院勧告を見送り、国家公務員の給与を平均で7.8%削減する国家公務員給与削減法案を国会に提出している。
輿石民主党幹事長はこの削減は国家公務員のみで、地方公務員に反映させないとしている。
《民主・輿石氏「給与下げ、教職員など波及せず」》(YOMIURI ONLINE/2011年10月28日)
輿石民主党幹事長(10月27日の記者会見)「地方公務員に波及させると決めたわけでもないし、ましてや義務教育(の教職員給与)に影響することはあり得ない」
教員出身、日教組出身であることから日教組、教員を支持母体としている利害が言わせている、地方公務員まで給与削減は困るの発言であろう。
記事の解説。〈輿石氏は日教組傘下の山梨県教組出身。仮に国家公務員給与削減法案が成立しても、教職員など地方公務員は給与を大幅削減する必要はないとの考えを示したものとみられる。〉――
記事が結びで、〈教職員を含む地方公務員の給与は、国家公務員に準拠して地方自治体が決めることになっている。〉と書いている地方公務員給与決定の一般基準は今回は作用しないと発言したことになる。
尤も民主党の実力者がそう発言したからといって、直ちに決定事項となるわけではない。
「地方公務員の給与改定の手順」は次のようになっている。
〈人事委員会が置かれている団体(都道府県、指定都市及び特別区等)においては、人事院勧告の内容及び当該団体の民間賃金動向等を総合勘案して人事委員会が勧告を行い、国の勧告の取扱いに関する閣議決定を受けて、具体的な給与改定方針が決定される。
人事委員会が置かれていない団体(一般市町村)においては、国の取扱いや都道府県の勧告等を受けて、具体的な給与改定方針が決定される。
いずれの場合でも、議会の議決により、給与条例を改正することとなる。〉――
「人事委員会」とは、〈道府県、指定都市および人口15万人以上の市が地方公務員法に基づいて設置する、地方公務員のための人事行政機関。国家公務員に対する人事院と同種の機関。〉――
問題は地方公務員給与が国家公務員給与に準拠して地方自治体の裁定がルールとなっているなら、民主党が2009年マニフェストで「国家公務員総人件費2割以上削減」の政策を掲げた時点で、その政策が地方公務員給与に影響することになることも視野に入れていなければならなかったはずだ。
地方公務員の団体を支持母体とし、利害としている民主党議員は最初から地方公務員への波及に抵抗するつもりで、「国家公務員総人件費2割以上削減」の政策に目をつぶったということなのだろうか。
また、地方自治体が決める国家公務員給与に準拠した地方公務員給与であるなら、地方自治体に任せるべきことで、国政の立場にある者が口出しすべき問題ではないはずだ。
国が口出しできることは、その準拠が妥当か否かの範囲内の事柄のみのことで、準拠しなくてもいいということではないはずだ。あるいは人事院勧告を受けた国の取扱いの閣議決定に対する地方自治体の対応の的確性についてのみ口出しできるということであるはずだ。
だが、逆の意味で前原民主党政調会長が口出ししている。 《前原氏、地方公務員人件費削減も 復興財源で》(47NEWS/2011/10/23 11:59 【共同通信】)
10月23日のNHK「日曜討論」。〈東日本大震災の復興財源を捻出するため、国家公務員と同様に地方公務員の人件費削減も検討する考えを示した。〉
前原政調会長「国、地方に関わらずやっていかなければならない」
地方公務員給与が国家公務員給与に準拠を基準としているなら、自ずと波及する法律であるはずであって、そのことを言えば済むことを、さも国が地方を支配しているようなことを言う。
先の「YOMIURI ONLINE」記事に戻るが、輿石幹事長の発言も問題だが、より問題な点は同じく取り上げている古賀伸明連合会長の発言である。同じ10月27日の記者会見。
古賀伸明連合会長「国家公務員の給与削減が自動的に地方公務員につながることはないと、前政権と確認している」
もし菅前首相がこのことを約束していたなら、「準拠」を無視する発言であるということだけではなく、この情報を国民の前に明らかにしていたのかどうかを問わなければならない。
この記事の中で明らかにしていたことを取り上げていないし、もし菅前首相が情報公開していたなら、マスコミのどの記事もそのこととの関連で国家公務員給与削減法案を報道しているはずだ。
だが、調べた限りでは、そういった報道に触れることはできなかった。
支持母体であることからの利害関係にのみ立って古賀連合会長に約束し、本来なら、国民にも利害の検討を提供すべきを、その約束を国民に関知させないまま放置した。
いわば古賀会長が言うこの“前政権との確認”は国民に何ら説明を果たさない情報隠蔽によって成り立たせることができる密約に当たり、菅前首相は国民に説明責任とは正反対の情報隠蔽を働いたことになる。
このことはいくら政権を離れたとしても、責めて然るべき情報隠蔽であろう。
国家公務員と地方公務員の平均収入を見てみた。平成23年度の地方公務員の給与が見当たらないので、平成22年度で合わせた。
《平成22年国家公務員給与の実態の結果》(人事院給与局)によると、国家公務員の報酬な次のようになっている。
平均給与月額――408,496円
平均給料月額――340,005円
また、《平成22年地方公務員給与の実態》(総務省)によると、地方公務員の報酬な次のようになっている。
平均給与月額――427,227円
平均給料月額――343,335円
地方公務員の方が2万円程度高くなっている。
同じく平成22年度の民間給与を見てみる。
《平成22年分民間給与実態統計調査結果について》(国税庁/平成23年9月)
平均給与
412万円(対前年比1.5%増、6万1千円の増加)
12ヶ月で割ると、34,3333円
但し男女の内訳は、
男性507万円
女性269万円
男女の格差が大きすぎることが民間給与の平均を下げている理由の一つとなっているのかもしれない。
男女とも12ヶ月で割ると、
男性42,2500円
女性22,4200円(四捨五入)
国家公務員平均給与月額408,496円から7.8%削減すると、376,634円。
地方公務員平均給与月額427,227円から7.8%削減すると、393,904円。
地方公務員給与の場合、あくまでも「準拠」だから、7.8%以下の削減になるのかもしれない。7.8%以下なら、差は更に広がる。
平均で行くと、7・8%削減しても、民間給与よりも高い収入を得ることになる。
もし輿石幹事長や古賀連合会長が言うように国家公務員給与7.8%削減が地方公務員給与に準拠・波及させないとしたら、大きな不公平が生じる。
この不公平は菅前首相の密約・情報隠蔽が国民にプレゼントすることになる不公平とも言える。 |