仙谷の「国民は木を見て森を見ず」は自分事を棚に上げた、被災者に目を向けない詭弁

2011-05-31 10:32:11 | Weblog

 

 仙谷官房副長官は詭弁家枝野の親分だけあって、なかなかの大詭弁家である。《仙谷副長官「震災復興遅れてない」 政権批判に反論》asahi.com/2011年5月30日13時47分)

 昨5月30日(2011年)午前の記者会見――

 菅政権の東日本大震災復興の取り組みに批判が出ていることについて

 仙谷「震災復興が遅れているなんて全然思わない」

 朝日新聞の世論調査で「評価しない」が5割を超える菅仮免政権の復興策について。

 仙谷「国もあらゆる施策を用意した。段取りのいい首長がいる市町村は仮設住宅建設も早く、そうでないところをとらえて批判するのは『木を見て森を見ず』だ。政府がやっていないという報道が多すぎる」

 記者『木を見て森を見ず』は国民なのか」

 仙谷「そういう部分もなきにしもあらずだ」

 《仙谷氏、「震災対策は全然遅れていない」》MSN産経/2011.5.30 12:58)では仙谷の発言は次のようになっている。

 東日本大震災の被災者向け仮設住宅建設等に遅滞が生じていることに対して。

 仙谷「震災復興が遅れているとは全然思わない。被災地の市町村の力もそれぞれ違う以上、それを『遅れている』という国民は木を見て森を見ていない。・・・より早く仮設住宅や医療施設、法律相談態勢を作るのに、今から急に(必要な)人材を作れといわれても一朝一夕にはできない」

 先ず最初に言えることは、日々の生活の困窮はもとより、家や財産を失って、あるいは肉親や一家の大黒柱であった夫を失って将来に対する不安を抱えている、あるいは経済的なすべてを失った上に年齢や体力的な衰えから来る不安を抱えている、精神的にも物質的にも追いつめられている多くの被災者に全然目を向けていない発言となっているということである。

 もし目を向けていたなら、「震災復興が遅れているなんて全然思わない」などと言えなかったろ。

 大自然災害に於ける政府初動の責任行為である救出・救命というのは家を失った、あるいは家が住めない状態となった被災者を避難所に収容することで、あるいは倒壊した建物や津浪に襲われて建物に閉じ込められた被災者を救出し、同じく避難所に収容することで一段落をつけていいものではなく、憲法が保障する「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という点からも、避難所から少しでも人間らしい生活を送ることができる仮設住宅への早い段階での入居を保証して初めて政府の救出・救命の対策は一段落(あくまでも一段落)をつけることができるはずだ。

 いわば救出・救命とは命を生命(いのち)として救い出し、命を生命(いのち)として維持・有らしめることまでを言うはずである。

 救出・救命が国家の務めとしてある国民の生命・財産を守る行為と同一線上にあるその一環として含まれるからでもある。例え仮設住宅建設が各自治体の主たる役割であっても、国民の生命・財産を守るという大枠を守るためにも国家が管理し、推進しなければならない建設と入居であろう。だから国家の行政機関である国土交通省が所管している。

 それを菅仮免は避難所に収容するまでを救出・救命と解釈し、自衛隊を何人派遣して、何人救出したと誇って早々に一段落をつけてしまい、国民の「健康で文化的な最低限度」の生命・財産を守る救出・救命という点で目前に控えている次の段階としてある肝心要の仮設住宅建設にしっかりと目を向けることができずにその遅滞を招いてしまった。

 ここで既に「木を見て森を見ず」は国民ではなく、菅仮免を初めとした菅内閣の方だと分かる。

 しかも関係省庁や関係大臣と議論を尽くしたわけでもなく、確信もないままに仮設住宅入居を8月中旬に完了させるなどと安請合いする無責任までやらかしている。

 被災者の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を弄んだということである。

 要するに仮設住宅の建設と入居は国家の責務としてある国民の生命・財産に対する保障行為の一環としてある生命(いのち)の救出・救命でもある。それが遅れている以上、「震災復興が遅れているなんて全然思わない」は被災者の困窮に目を向けていない発言と見られても仕方はあるまい。

 仙谷詭弁家親分は仮設住宅建設の遅れを次のように正当化している。

 「国もあらゆる施策を用意した。段取りのいい首長がいる市町村は仮設住宅建設も早く、そうでないところをとらえて批判するのは『木を見て森を見ず』だ。政府がやっていないという報道が多すぎる」(上記asahi.com

 「震災復興が遅れているとは全然思わない。被災地の市町村の力もそれぞれ違う以上、それを『遅れている』という国民は木を見て森を見ていない。・・・より早く仮設住宅や医療施設、法律相談態勢を作るのに、今から急に(必要な)人材を作れといわれても一朝一夕にはできない」(上記MSN産経

 仙谷詭弁家親分は段取りのいい首長と悪い首長とでは仮設住宅建設の進捗に差が出ると言っているが、避難所から仮設住宅への入居が救出・救命の一環であり、大枠としてある国民の生命・財産を守ることの範囲内にある政府の務めであるはずだから、首長が段取りの悪いために建設が遅れている自治体に対しては政府が補わなければならないはずだ。

 補うことによって、国民の生命・財産を守る政府の務めを果たし得るからである。段取りが悪いから建設が遅れているで放置していていい問題では決してない。

 そうでありながら、仙谷は「国もあらゆる施策を用意した」と言って、その成果を以って国の責任なしとしているが、仮設住宅建設が遅れている以上、遅れが主として段取りの悪い自治体に顕著であろうと、そのことを放置していていいわけではないことから、「用意した」「施策」が追いついていないことの証明にしかならない。この証明は建設の遅れている自治体に対する何らの補助となっていないことの証明でもあろう。

 「用意した」「施策」は結果を出してこそ、初めて用意した意味を持ち、その点での政府の役割を果たしたと言える。

 結果が出ていないにも関わらず、「用意」したことだけを言って政府の成果とし、責任なしとすること自体が詭弁そのものだが、「政治は結果責任」意識を菅仮免共々欠いているからこそ言える詭弁であろう。

 一方で「国もあらゆる施策を用意した」と言ってやるべきことはやった、政府に責任はないとしていながら、「より早く仮設住宅や医療施設、法律相談態勢を作るのに、今から急に(必要な)人材を作れといわれても一朝一夕にはできない」と「あらゆる施策を用意した」に反する不可能を言う矛盾を平気で犯している。

 この矛盾を無視したとしても、「仮設住宅や医療施設、法律相談態勢」の構築は国民の生命・財産を守るという点でも、憲法が保障する「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という点でも、救出・救命だけで一段落がつくわけではない、仮設住宅入居と同じく次の段階として待ち構えている措置であることは既知の事実としていたはずである。

 もし次の段階として計算に入れていなかったとしたら、自然災害に於ける政府の危機管理の体裁をなさないことになる。

 それを今更、「今から急に(必要な)人材を作れといわれても一朝一夕にはできない」などと逃げ口上でしかない詭弁を展開する。

 危機管理に於いて前以て予定事項としていなければならない対応・対策を待ったなしのスケジュール感で迅速に構築し、実施していくべきを「今から」のこととすることも、「木を見て森を見ず」は国民ではなく、菅仮免であり、仙谷詭弁家親分のことだと言わざるを得ない。

 何のために内閣に20を超える対策本部やチームをつくり上げたのだろうか。指揮系統の混乱や責任所在の不明を理由に縮小・改編されたが、このこと自体が「木を見て森を見ず」に危機管理に当たったことからの視野狭窄が招いた菅政治の失態そのものであろう。

 閣僚や党役員は菅仮免を内閣不信任案から守ろうと目の色を変えているが、菅仮免を始め、守る価値もない「木を見て森を見」ない面々としか言いようがない。


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菅仮免首相の曖昧な意志決定姿勢と指導力欠如が招いた東電の海水注入中断の虚構

2011-05-30 08:39:47 | Weblog



 昨日の記事――《注水中断、明確な指示なし 東電、あいまいに「合意」》asahi.com/2011年5月29日8時19分)

 題名のみから判断すると、菅仮免から明確な海水注入の一時中断の指示はなかったが、中断を求める何らかの指示らしき不明確な意思表示があり、東電側はそれが菅仮免の指示なのかどうなのか確認を行わずに中断したということになる。

 だが、記事は冒頭部分で、〈海水注入の一時中断は本社と発電所で「合意した」と東電は説明してきたが、この合意はあいまいで、本社は明確な中断指示をしていなかった。発電所は所長判断で注水を続行。つじつま合わせが、のちに問題を大きくさせた。〉と書いている。

 指示の主体は東電本社のことを言っていて、菅仮免ではない。中電本社と発電所現場間のことを扱っている。

 この記事は関係者の証言等で綴ったものだとしている。記事の中から、事実行為を時系列で拾ってみる。

 3月12日

 午後2時50分――清水正孝社長、海水注入を指示
 午後7時過ぎ ――海水注入開始(午後7時04分)
 午後7時25分――海水中断

 1.官邸に詰めていた東電幹部武黒一郎フェローから「首相の了解が得られていない。議論が行われてい
   る」と東電本社に連絡
 2.東電本社はテレビ会議で武黒フェローからの連絡を発電所の吉田昌郎所長らに伝え、中断決定

 中断決定の経緯についての東電側の説明――

 武藤栄副社長兼原子力・立地本部長「首相の了解がなくては注水できないという空気だと伝わり、本社と所長が合意した。理解いただけるまで中止しようとなった」

 小森明生常務「首相の了解を得るまでの一時的な中断で、ある面でやむを得ないという風に本社側は思っていた」

 ところが武藤栄副社長兼原子力・立地本部長が証言している「本社と所長が合意した」というのは、実際は吉田所長はテレビ会議で黙していて中断反対の意思表示は示さなかったために本社は中断を了承したと理解し(このことが事実としたら、憶測したに過ぎないことになるが)、これを以て合意形成と看做して、小森常務の話として、〈注水や停止の指揮権限は原子力防災管理者である発電所長にあるため、あえて本社から中断を指示しなかった。〉ことになった。

 いわば吉田所長が中断を了承したものと看做して、本社から正式な中断指示を出さなかった。

 吉田所長は中断の意思はさらさらなかったためにイエス・ノーの意思表示をに敢えて示さなかった確信犯の疑いが出てくる。

 海水注入続行を記事は次のように書いている。〈あいまいな「合意」の後、吉田所長は原発の運転責任者らに中断を指示せず、注水を続けた。指示を受ける立場の所員は数人。事実を知る人間は、発電所内でも限られていた。〉――

 午後8時5分 ――海江田万里経済産業相、原子炉等規制法に基づき海水注入を命令
 午後8時20分――海水注入再開(続行を隠すための虚構事実)

 〈発電所は吉田所長名で「20時20分に海水注入を始めた」と実態と異なる報告をファクスで本社に送付。〉
 
 何よりも問題なのは東電本社と発電所現場の曖昧な合意の事実よりも、官邸に詰めていた東電幹部の武黒一郎フェローから「首相の了解が得られていない。議論が行われている」と東電本社にあった連絡の事実であるはずである。

 菅仮免は東電が海水注入を開始した事実を知り、「俺は了解していない」といった不快感を伴わせた発言をした。あるいは不機嫌を覗かせた発言をした。その発言を受けて、官邸に詰めていた東電幹部の武黒一郎フェローが東電本社に対して「首相の了解が得られていない。議論が行われている」と伝えた。

 当然、菅仮免の「俺は了解していない」の言葉にも、武黒一郎フェローの「首相の了解が得られていない」の連絡にも官邸に断りなしの海水注入は認めることはできないという意思表示が含まれていたはずだ。

 菅仮免にはその時点で東電側に海水注入を中断させる意思はなくても、「俺は了解していない」の意思表示を満足させる方法は中断を以って果たすことができる。また、菅仮免の意思表示を受けて東電本社に伝えた武黒一郎フェローの「首相の了解が得られていない」の連絡に含まれる意思表示にしても、中断を以ってして叶えることができる。

 だが、菅仮免は5月23日の国会で次のように答弁している。

 菅仮免「注入のときも、それをやめる時点も含めて私共には直接には報告上がっておりませんでした。・・・報告が上がっていないものを、やめろとか、やめるなと言うはずがありません」

 菅仮免「注水を止めたと言うような一部報道があるけれども、少なくとも私が、このメンバーが止めたということは全くありません」

 因みに枝野詭弁家官房長官も5月25日午前記者会見で注入開始については同じことを言っている。

 枝野詭弁家「海水注入が実施されたことについて報告がなかった。実際に水を入れ始めましたということの報告は全く聞いていない」

 ということは、東電が官邸に断りなしに注入を開始したことに対する菅仮免の「俺は了解していない」といった意思表示の事実は存在しなかったことになる。

 だが、武黒一郎フェローの東電本社に対する「首相の了解が得られていない。議論が行われている」の連絡は事実として存在したはずだ。では、その連絡は何を根拠としたものだったのかということになり、そこに不整合が生じる。

 また、武黒一郎フェローの連絡自体が菅仮免の意思表示を勝手に解釈したものだとしても、海水注入を既知の事実としていたことを前提としている。注入開始の事実も注入中断の事実も官邸に「直接には報告上がって」いなかったにも関わらず、武黒一郎フェロー一人のみがそれらの事実を知っていたことになって、前後矛盾することになる。

 知っていたからこそ、「首相の了解が得られていない」と連絡することができたとしなければ矛盾を解くことはできない。

 一人だけ海水注入開始の事実を知っていて、それを前提として菅仮免の意思表示を勝手に忖度して東電に連絡したとするのはあり得ない矛盾となる。

 海水注入は菅仮免自身の意思表示を受けた、それに添って認めることはできないという意思表示を込めて「首相の了解が得られていない」と連絡してきた武黒一郎フェローに対しては、少なくとも中断決定は、それが中電本社と発電所現場との間の曖昧な合意であったとしても、報告されたはずだ。

 中断が菅仮免の認めることはできないとする意思表示を満足させることができると考えただろうからだ。

 このように予測できる経緯に対して菅仮免の官邸には海水注水開始もその中断も何ら報告がなかったとする「注入のときも、それをやめる時点も含めて私共には直接には報告上がっておりませんでした」を事実とすると、武黒一郎フェローが東電本社に行った「首相の了解が得られていない。議論が行われている」という連絡の事実・経緯が浮いてしまう。

 この食い違いに整合性を与えるとしたら、中電の中断報告が官邸に対する「直接」のものではなく、あくまでも武黒一郎フェローを介した間接的な、あるいは官邸に直接報告したものではないという意味で正式のものではない報告とする以外にない。

 この意味に於いて菅仮免が言う「私共には直接には報告上がっておりませんでした」であろう。

 だが、中電は実際には海水注入を中断せずに続行していた。

 上記「asahi.com」記事が指摘している中電と発電所現場との間の曖昧な中断合意の決定よりも、中電に対して正式に中断を指示するでもなく、官邸に詰めていた中電の人間に対して「首相の了解が得られていない」と判断させた曖昧な態度をこそ問題とすべきであろう。

 そのような曖昧な態度が発端となって、武藤副社長が言う「首相の了解がなくては注水できないという空気だと伝わり、本社と所長が合意した。理解いただけるまで中止しようとなった」という経緯を踏むことになり、さらに東電本社と発電所現場との曖昧な合意による表向きの中断へと進み、中断を事実とした場合の事故拡大の疑いから、国会で誰が中断させたのかの応酬に発展した。

 すべては菅仮免が一国のリーダーでありながら、指示するなら指示する、指示しないなら指示しないという明確な意志決定を示すことができない指導力欠如の姿勢が発端となった一騒動であり、リーダーが負うべき責任の不在として、このことをやはり追及しないわけにはいかない。

 だからこそ、未だ仮免状態の仮免首相だと称することにしている。


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菅仮免政府の原発賠償条約加盟の検討から見えてくる日本民族優越意識

2011-05-29 10:24:38 | Weblog



 いつまでも仮免状態が続く菅仮免政権が原発事故被害を国境を越えて波及させた場合、被害の損害賠償訴訟を事故発生国で行うことを定めた国際条約に加盟していないことから、加盟の本格検討に着手したという。

 《原発賠償条約、加盟を検討 海外から巨額請求の恐れ》asahi.com/2011年5月29日3時5分)

 条約に加盟しないまま、福島第一原発事故によって海洋に流れた汚染水が他国の漁業に被害を与えたり、津波で流された大量のがれきに放射性物質が付着した状態で他国に流れついたりする放射能被害が外国にまで及んで外国の被害者から提訴された場合、事故発生国である日本国内で裁判ができず、提訴国で行われる規定となっていて、賠償金の算定基準もその国の基準が採用され、賠償額が膨らむ危険性が生じることになるという。

 原発事故の損害賠償訴訟を発生国で行うことを定める条約は国際原子力機関(IAEA)が採択した「原子力損害の補完的補償に関する条約」(CSC)など三つあるが、いずれも加盟していなかったばかりか、米国からCSC加盟を要請されて検討してきたが、やはり加盟を見送ってきたと書いてある。

 見送った理由を記事は次のように解説している。

 〈日本では事故が起きない「安全神話」を前提とする一方、近隣国の事故で日本に被害が及ぶ場合を想定し、国内の被害者が他国で裁判を行わなければならなくなる制約を恐れて加盟を見送ってきた。 〉・・・・

 この一文から見えてくる日本人の精神性は、日本では原発事故の発生は絶対あり得ない、外国では絶対あり得るという彼我の優劣を絶対確信とする日本民族優越意識である。

 いわば日本では原発事故の発生はあり得ないする「安全神話」の日本民族優越意識から条約に加盟する必要なしとしてきた。米国からCSC加盟を要請されて検討したものの、最終的には日本民族優越意識に基づいて加盟の必要なしとした。

 日本では原子力事故はあり得ないとする「安全神話」を以って日本民族優越意識の発露だと把えるのは大袈裟に過ぎると思われるかもしれないが、自分は決して過ちを犯さないが他人は過ちを犯すと信じている人間がいるとしたら、その人間は自己優越意識に囚われているからこそ、そのように信じることができるのと同じである。

 原子力「安全神話」自体が日本民族優越意識に基づいていることに日本人自身が気づいていないだけの話に過ぎない。

 米国がCSC条約に加盟にしているのは、スリーマイル島事故の発生国ということもあるかもしれないが、事故発生があり得ることを前提とした条約加盟であろう。

 その逆だとしたら、日本と同様に加盟しないはずだ。

 日本はあり得ないとしてきた。本質のところで日本人の精神性に巣食っている日本民族優越意識を介して打ち立てることとなった原子力「安全神話」が必要としなかった
加盟であろう。

 日本人の日本民族優越意識から発した精神性は何も原子力「安全神話」のみではない。人間は善を行う道徳的本性を本質としているとする日本人性善説も同じ日本人優越意識に基づいた精神性からの絶対確信であろう。

 悪の行為はその本性の過った発露だとし、本質そのものは善の道徳性を生れながらに備えているとしている。

 いわば日本人は、あるいは日本民族は善の道徳性を本質としているとしているのである。

 欧米人は人間は利己的欲望を本性としているとする性悪説を人間の本質と見ている。善行為は経験や教育からの後天的学習に基づいて獲得する道徳性だとしている。

 善の道徳性を本質としているとする性善説は日本民族優越意識なくして成り立たない日本人本質論であろう。あるいは日本民族本質論であろう。

 原子力に関わる「安全神話」は「我が国の原子炉施設の安全性は現行の安全姿勢のもとに設計、建設、運転の各段階に於いて多重防護の思想に基づき、厳格な安全確保対策を行うことによってシビアアクシデントは工学的に現実に起こることは考えられないほど発生の可能性は十分小さいものになっている」と規定した原子力安全委員会が1992年作成した「アクシデントマネジメント対策」によって打ち立てられたとしているが、このような規定以前の問題として、やはり日本人は優秀だとする民族優越意識を日本人の精神性に底流としていたからこそ規定づけることができた原子力「安全神話」ということであろう。

 どこかで漏れが生じるかもしれない、どこかで過ちが出てくるかもしれない、機械だって常に安全だとは限らないとする精神性に常に基づいていたなら、いわば人間はどこでどう失敗をするか分からないことを、どこでどう過つか分からないことを、絶対安全とする機械は絶対的に存在しないことを常に心構えすることができていたなら、原子力「安全神話」など打ち立てようがないし、そもそこからして日本人優越意識など自らの精神性に巣食わせることなどできなかったろう。

 日本民族優越意識に時代的に色濃く冒されていた戦前の日本人は、日本民族優越意識ゆえにこそ他民族を劣等視して支配すべく戦争を仕掛けた。昭和天皇は1946(昭和21)年1月1日に いわゆる「人間宣言」と呼称される「新日本建設に関する詔書」を発している。 そこに次のような一文が挿入されている。

 「朕ハ爾等(なんじら)國民ト共ニ在リ、當ニ(まさに=必ず)利害ヲ同ジクシ休戚(きゅうせき=喜びと悲しみ)ヲ分(わか)タント欲ス。朕ト爾等國民トノ間ノ紐帯(ちゅうたい=物と物、人と人とを結び付ける役割を果たす大事なもの)ハ、終止相互ノ信頼ト敬愛ニ依リテ結バレ、單ナル神話ト傳説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神(アキツミカミ)トシ旦日本國民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ(ひいて=さらには)世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル觀念ニ基クモノニ非ズ」

 天皇と国民を結びつけている精神は、天皇を現人神とし、日本国民は他の民族より優秀で、世界を征服すべき運命を有するとする架空(=ニセモノ)の観念によるものではなく、相互の信頼と敬愛という精神によって結びつけられているとの宣言である。

 いわば人間の姿をした神である(=現人神)という天皇の存在性も、「日本国民は他の民族より優秀で、世界を征服すべき運命を有する」とする日本民族優越意識も架空の観念、ニセモノの観念だったと言っている。

 だが、日本人は戦後も、敗戦の廃墟から立ち上がって世界第2位の経済大国にのし上がった自信が過剰に働き、唯我独尊の慢心を巣食わせることになったからなのだろう、知らず知らずの内に戦前の日本民族優越意識を再度精神の底にうずくませることとなった。

 政治家を含めて日本人の危機管理意識が欠如していると言われるのは基本的には日本人の精神性の底の底に日本人は過つことはない、日本人は優秀であるという日本民族優越意識を抱えていて、そのことが油断となって危機に対する用心・備えが希薄化しているからであるはずである。

 小泉純一郎元首相が昨5月28日、地元の神奈川県横須賀市内で行った日本食育学会・学術大会の特別講演で、東京電力福島第一原発の事故を取上げて原子力「安全神話」を否定したという。 《「原発の安全性発信は過ちだった」 小泉元首相、講演で》asahi.com/2011年5月28日19時41分)

 小泉元首相「日本が原発の安全性を信じて発信してきたのは過ちだった。原発が絶対に安全かと言われるとそうではない。これ以上、原発を増やしていくのは無理だと思う。原発への依存度を下げ、世界に先駆けて自然エネルギーを推進しないといけない」

 ドイツ政府の諮問委員会が5月28日の会合で、「脱原発は10年以内に可能」とする報告書をまとめたという。《「脱原発は10年以内に可能」ドイツ政府諮問委が報告書》asahi.com/2011年5月29日1時16分)

 委員会報告に拘束力はなく、報告をどう扱うかはメルケル政権と国民の反応にかかっているが、ドイツ国民の反原発意識は高く、ここの所反原発政策を掲げる緑の党の躍進が伝えられている。

 政権側にしても、福島事故を受けて脱原発に舵を切り、その延長として、〈脱原発の行程や方法を定める法案を6月6日に閣議決定する方針で、委員会報告を受けて5月29日に予定されている連立与党協議で脱原発の目標年を決めるとの観測がある。〉と記事は書いている。

 日本政府にしても国民に安心・安全を保証するためにも原発から自然エネルギーへの転換をゆくゆくは図らなければならなくなると思うが、それが原子力「安全神話」の払拭からスタートするのではなく、日本民族優越意識の払拭まで行き着かなければならないはずだ。

 日本民族優越意識の思い上がりが如何なる自然災害や人災に対しても、そのことに備える危機管理に正常な機動性を欠かすことになるということだけではなく、グローバルな国際関係に於いて、そこに含む対等な関係性に反して他民族劣等視を反力学とする日本人優越意識はその対等性、対等関係の阻害要件となるからである。 

 日本人は優れてもいるが、劣る面もあり、それは他民族に於いても同じであるとする相対的対等性こそが日本人を国際人とする基本的条件だと思うが、どうだろうか。


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菅仮免首相の「許し難い暴挙」の消去が示す虚偽と情報隠蔽に彩られた日ロ首脳会談

2011-05-28 10:04:03 | Weblog



 仏ドービルで開催の主要国首脳会議(G8サミット)に我が日本の菅仮免首相が仮免の身でありながら出席、昨5月27日午後(日本時間同日夜)、ロシアのメドベージェフ大統領とG8サミット会場近くのホテルで約50分間会談した。

 《日露首脳会談:領土問題は「静かな環境で協議継続」》毎日jp/2011年5月28日 0時57分)

 両首脳は北方領土問題について「静かな環境下で協議を継続する」との方針で一致という。

 だが、ロシアの国益は領土交渉を必要としていないのだから、「静かな環境」とは領土交渉のない環境のことを言うはずだから、「静かな環境下で協議を継続する」はロシアにとって単に相手に合わせただけの形式的な取り決めに過ぎないはずだ。

 このこと以外には、〈東日本大震災や福島第1原発事故を受け、チェルノブイリ原発事故でのロシアの知見・経験を生かした専門家間の協議や、ロシアの石油・天然ガス共同開発の中長期的な協力へ向けた協議を始めることを確認した。〉とのこと。

 記事は、〈ロシアは震災後控えていた政府要人の北方領土訪問を、今月15日のイワノフ副首相らの訪問で再開。北方領土では軍備強化も進み、ロシアは実効支配を強め〉ていると書いている。

 ロシアの実効支配は今更のことではない。

 菅仮免は席上、5月15日のイワノフ副首相らの北方領土訪問について直接抗議はしなかったということである。このことは最初の問題として挙げなければならない。

 では、領土問題で菅仮免は何を述べたのか。

 福山官房副長官「領土問題に対する日本の立場を述べた」

 これは松本剛明外相がベールイ駐日大使にイワノフ訪問を抗議したことを踏まえたものだそうだ。

 記事は書いている。〈ロシアは来年3月に大統領選を控えて領土交渉を本格化させる余裕はない。菅首相の政権基盤も弱く、「日露双方とも領土交渉を進められる政治状況にない」(政府高官)。菅首相自身が2月、大統領の北方領土訪問を「許し難い暴挙」と批判してロシア側が猛反発した経緯もあり、今回はロシア側が望むエネルギーや原子力安全など、領土以外の「あらゆる分野」の協力に重点を置いた。

 菅首相は当面、ロシアからの震災復旧・復興支援で生まれた友好ムードを活用しながら、日露間の「静かな環境」整備を優先し、「大統領選後をにらんで領土交渉の土壌づくり」(外務省幹部)につなげたい考えだ。〉――

 〈ロシアは来年3月に大統領選を控えて領土交渉を本格化させる余裕はない。〉としているが、実効支配を着々と進め、軍備も増強している。どんなときでも本格的領土交渉など念頭にないはずだ。

 また政権基盤が弱ければ、弱いなりの交渉術というものがあるはずだ。露大統領の国後訪問を一旦は「許し難い暴挙」と激しい言葉を使って非難しておきながらロシアの反発を食らうと領土問題に関わる自らの発言集から消去してしまい、今回は「領土問題に対する日本の立場を述べた」に過ぎないとは虚偽そのものであり、自らに対する情報操作とも言える。

 「領土問題に対する日本の立場を述べた」とは、「北方四島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土である」と常套句を述べたと言うことであろう。

 「許し難い暴挙」から常套句となっている「日本の立場」ではあまりにも落差が大きい。と言うよりも後退が甚だしい。しかも領土交渉のための「静かな環境」を将来的に手に入れるためにイワノフ訪問に触れずじまいの事勿れを演じた。

 これを以て高度な交渉術とは言えない。後で引っ込める「許し難い暴挙」なら、最初から言わない方が利口というものである。

 次の問題は菅仮免が「領土問題に対する日本の立場を述べた」ことに対してメドベージェフ大統領がどう答えたかである。だが、何も触れていない。

 ここに情報隠蔽があるのは前科が証明している。

 2011年2月8日当ブログ記事――《菅首相のロ大統領国後訪問「許し難い暴挙」非難は薄汚い自己正当化に彩られた犬の遠吠え - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に書いたことだが、菅仮免は2011年2月7日午後、東京都千代田区で開かれた北方領土返還要求全国大会で2010年11月1日のメドベージェフ大統領国後島訪問に関して次のように挨拶している。

 菅仮免北方四島問題は、日本外交にとって、極めて、重要な、課題であります。昨年、11月、メドベージェフ、ロシア大統領の、・・・・・北方領土、国後島、訪問は、許し難い暴挙であり、その直後の、APEC首脳会談の際に行われた、私と、メドベージェフロシア大統領との、会談に於いても、強く抗議をいたしました」
 
 「許し難い暴挙」と非難しただけではなく、2010年11月13日、14日と横浜で開催のAPEC首脳会議の際に行われた11月13日の日ロ首脳会談で、「強く抗議」したと言っている。その抗議は国後訪問を「許し難い暴挙」と言った以上、それに匹敵する激しい言葉を用いていなければならなかったはずだ。

 福山副長官、この男は2010年11月13日、14日と横浜で開催されてAPEC首脳会議の際の日ロ首脳会談にも同席していた。いわば会談の証言者として北方四島に関わる二人の態度を次のように伝えている。
 
 菅仮免が大統領の国後島訪問は日本の立場や日本国民の感情から受け入れられないと抗議したのに対して、

 福山「大統領は、領土問題はロシアにとっても極めて神経質な問題だと述べるにとどめた」

 「述べるにとどめた」とは「神経質な問題だ」と発言したのみだと言うことである。

 福山副長官の会談証言者としての解説からすると、菅仮免が「許し難い暴挙」の非難言葉に匹敵する抗議の言葉など述べていないことが分かる。 

 だが、菅仮免はAPECの際の日ロ首脳会談でも「許し難い暴挙」の非難に匹敵する強い言葉を用いて抗議の意思を示したかのように、「強く抗議をいたしました」と言っている。

 実際に強い言葉で抗議していなかったことは日ロ首脳会談11月13日から2日後の11月15日のNHK番組で述べた会談証言者の福山副長官の発言によって明らかにされた。

 福山官房副長官「大統領は『自分が北方領土に行くのが悪いことなのか。当然のことだ』という言い方をした」(11月4日付47NEWS記事)

 「大統領は、領土問題はロシアにとっても極めて神経質な問題だと述べるにとどめた」どころではない、いや、そんなことは述べたとは思えない、北方四島ロシア領土宣言とも言える発言をメドベージェフ大統領は菅首相の前で述べたのである。

 福山副長官が大統領の実際の発言を証言しなければならなくなったのは日本のマスコミがメドベージェフ大統領の日ロ首脳会談終了後当日のツイッターを紹介したため、もはや情報隠蔽を謀ることができなくなったからだろう。

 ツイッターには「日本の首相に会い、解決できない論争より経済協力の方が有益だと伝えた」と書いてあった。

 解決不可能の領土問題とはロシア実効支配の現状維持=ロシア領土化ということであろう。

 国後島訪問の翌日11月2日のツイッターはまさにロシア領土宣言そのものとなっている。

 「最も遠隔地にある場所を含め、すべてのロシアの地域の発展を管理するのは大統領の責務だ」

 菅首相自身が2010年日ロ首脳会談で単に形式的に日本の立場や日本国民の感情から受け入れられないと抗議したのみで、大統領の国後島訪問に関しては強く抗議しなかったにも関わらず、あとになって強い言葉で抗議したかのように装いはしたが、それが実際には事実に相当しない発言状況であったから、会談に同席した福山長官は菅仮免の北方四島に関わる発言に対するメドベージェフ大統領の、当然示したであろう対抗発言を隠蔽することになった。

 その対抗発言が「解決できない論争より経済協力の方が有益だ」の発言であり、その対抗発言に対する菅仮免からの対抗発言は何もなかった。

 有効な対抗発言を示していたなら、隠蔽は必要でなくなる。菅首相をアピールするためにも堂々と公表したであろう。

 2010年11月13日の日ロ首脳会談から、約3ヶ月近く経過した2011年2月7日になって北方領土返還要求全国大会で、メドベージェフ大統領の国後島訪問は「許し難い暴挙」だ、APEC首脳会談の際の両者の会談でも「強く抗議した」などと、「許し難い暴挙」に匹敵する強い言葉を用いて抗議したかのようにさも事実と思わせる虚偽を働いた。

 虚偽を働いたり情報隠蔽まで謀って領土問題でさも一国の首相としての役割を果たしているかのように装った。このような虚構の姿勢しか示し得ない外交能力の限界からすると、今回のG8の日ロ首脳会談でも、菅仮免がイワノフ副首相らの北方領土訪問について直接抗議はしなかったというのも納得できるし、福山長官がAPEC首脳会議の際の日ロ首脳会談のときと同様に今回も肝心のメドベージェフ大統領の対抗発言は情報隠蔽したまま、「領土問題に対する日本の立場を述べた」のみの解説で終えているのも納得ができる虚偽と情報隠蔽に彩られた日ロ首脳会談だったと予測せざるを得ない。

 イワノフ副首相らの北方領土訪問を抗議するとして日ロ首脳会談の開催を日本側から求めないか、ロシアの方から求めたなら、断ることぐらいできなかったのだろうか。

 大震災に対するロシアの支援と領土問題は別個の問題だとして冷徹な態度を貫く。

 既に触れたように領土交渉は日本は必要としていても、ロシアは必要としていない利害の不一致状態にある。だが、経済問題は双方が必要としていて利害の一致状態にあるから、日ロ首脳会談を一度や二度破談にしたからといって、経済関係に障害が生じるわけではないし、例え障害が起きたとしてもやがては関係回復を図ることができる。ニ正面作戦で、特に領土問題では、「許し難い暴挙」といった口先だけではない厳しい態度が必要ではないだろうか。

 厳しい態度は求めたくても求めることができない領土問題に置ける要素となっている。


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菅仮免のベント指示機能不全と海水注入一時中断指示機能不全は同じ轍を踏んだ指揮統率体系上の失態

2011-05-27 11:25:36 | Weblog



 3月12日1号機冷却のための真水注入から海水注入に切り替えた際の一時中断のトラブルを首相指示によるものと報道されていたことに菅仮免は谷垣禎一自民党総裁に対する国会答弁で、「注水を止めたと言うような一部報道があるけれども、少なくとも私が、このメンバーが止めたということは全くありません」(5月23日衆院震災復興特別委員会)と否定したものの依然として疑惑は残っていた。

 ところが昨5月26日に東電が記者会見を開き、一時中断していたとされていた海水注入が実際は継続させていたことを公表した。原子力安全委員会委員長の班目での“目”ではないが、政府の発表にしろ東電の発表にしろネコの目のようにコロコロと変わるから、事態が混乱している印象ばかりを受け、原子炉事故の実態は一体どうなっているのか、疑心暗鬼が募る一方となっている。

 班目委員長自身の説明もコロコロと変わり、政府・東電統合対策室事務局長の細野首相補佐官の記者会見の説明もコロコロと変わる。結果、正直に説明しているのか疑わしくなり、事実がどこにあるのか、逆に見えなくしている。

 但し事態の混乱は事実を見えなくしている代わりに少なくとも菅仮免政府の統御・統率が全体に亘って効いていないことを逆説的に浮き立たせることになっている。

 最初にこれまで事実とされてきた海水注入一時中断とその前後の出来事を時系列で掲げておく。

 3月12日

 15:205      5月25日、政府、原子力安全・保安院、東電から海水注入準備のファクスを受け
            取ったことを認める)
 15:36       水素爆発
 18:00       菅首相、海水注入を指示(のちに海江田経産相の海水注入準備の指示に変更)
 18:00~18:20頃 菅総理、官邸に於いて打ち合わせ(海水注入による再臨界の危険性回避のための
            協議)
 19:04       東電、海水注入(試験注水)
 19:25       東電、海水注入中断
 19:55       菅総理、海水注入指示
 20:05       海江田経産相、海水注入命令
 20:20       東電、海水注入再開
 
 最初に、≪“海水の注入 継続していた”≫NHK/2011年5月26日 19時5分) から見てみる。

 武藤栄東電副社長「テレビ会議の通話で、派遣していた職員が総理大臣が判断しないといけないという空気を伝えてきて、いったんは海水注入の停止に合意した。所長の判断で海水の注入を継続したのは、安全に最大限配慮した結果だ」

 NHKウエブサイトの動画では、武藤副社長の発言は次のようになっている。

 武藤栄東電副社長「首相官邸に派遣されていた社員の情報判断として、海水注入について首相の了解が得られないという連絡があった。このため東京電力では本店と発電所がテレビ会議で協議し、一旦は海水の注入を停止することにした。

 しかし発電所の吉田昌郎(まさお)所長の判断で海水注入を継続した――」

 二つの発言を要約すると、官邸に詰めている東電社員が(5月16日の国会答弁で菅仮免は「東電常務」と言っていた)海水注入の開始は「総理大臣が判断しないといけないという空気を伝えてき」た。あるいは、「海水注入について首相の了解が得られないという連絡」を伝えてきたため、海水注入の停止に合意したとなる。

 この経緯から分かることは、菅仮免は東電が官邸の了解もなしに海水注入を開始したことを認め難いとし、官邸に詰めている東電社員に認め難いことを伝えた。

 そして東電が海水注入の停止に合意したことは菅仮免からしたら、自身の意向を通したことになる。いわば菅仮免の意向が東電社員を介して指示することになった東電に対する海水注入の中断ということになる。

 いくら一国の無能な首相だからと言っても、菅仮免の指示を無視して海水注入を行うことは認め難いとすることに理由が要らないわけではない。班目原子力委員会委員長が言ったとされる、海水注入を行った場合、「再臨界の可能性はゼロではない」の意見が理由となったのだろう。

 そこで東電社員は東電本店にその理由を用いて海水注入は首相の判断で行わなければならないと、あるいは首相の了解が必要だと伝えた。

 東電がこれまで海水注入の一旦停止を「官邸が『海水を注入すると再臨界の危険がある』としたので政府の判断を待った」(MSN産経)としていることと符合させることができる。

 だが、「再臨界の危険性はゼロではない」のリスクに対する協議を18時からの打ち合わせで行ったことは菅仮免自身が国会で答弁している。東電が海水注入を開始した19時04分まで約1時間経過し、菅仮免が海水注入を指示した19時55分まではさらに50分も経過、合計1時間50分もかけて、「再臨界の危険性」にやっと結論を出すことができたと言うのだろうか。

 班目委員長の説明がコロコロ代わる典型的な例だが、5月24日午前の衆院復興特別委員会で「『再臨界の可能性はゼロではない』と言ったのは、事実上ゼロという意味だ」(asahi.com)と答弁、「再臨界の可能性はゼロではない」としていたことを訂正して後付けで説明しているが、1時間50分も掛けて議論すべき問題点ではなく、早々に結論を出して結論に従った指示を出すべきだったことが分かる。

 このことは後で説明する班目委員長の発言と東電福島第一原発吉田所長の菅仮免の意向を無視してなぜ海水注入を中断せずに継続したのかについての松本純一郎東電本部長代理の発言によって証明することができる。

 東電が表向き海水注入の停止に合意したことは菅仮免が改めて開始指示を出していることから官邸にも伝えられた。勿論菅仮免は東電が海水注入を中断したと思い込んでいた。

 いわば菅仮免は官邸に詰めている東電社員を介して、少なくとも海水注入に関しては自身の意向どおりに操作し、自身の意向どおりに事を運んだことになる。

 但し東電が今回事実を明らかにするまでは。

 以上のことから見えてくる情景は菅主導で行わないと不快だとする独善性以外に何が見えてくると言えるだろうか。

 では、なぜ吉田所長は菅仮免の意向を無視して海水注入を継続したのか、松本純一郎東電本部長代理の発言を見てみる。発言は記事にはなく、記事付属の動画から採録。

 松本東電本部長代理「吉田の判断としましては、原子炉の安全、注水を継続した方がより安全である、作業員の安全、地域の方々の安全を確保するためには、海水の注入を継続した方がいいというような判断を優先させたというふうに考えております」

 このことは班目委員長が前出の5月23日(2011年)の衆院震災復興特別委員会での答弁、「私の方からですね、この6時の会合よりもずうーっと前からですね、格納容器だけは守ってください。そのためには炉心に水を入れることが必要です。真水でないんだったら、海水で結構です。とにかく水を入れることだけは続けてくださいということはずーっと申し上げていた」の発言とこの発言趣旨に合致する吉田所長の判断は「再臨界の可能性はゼロではない」に早々に結論を出して結論に従った指示を出すべきであったことの何よりの証明となっている。

 だが、「再臨界の可能性はゼロではない」の結論を無視した。班目委員長が言っているように「『再臨界の可能性はゼロではない』と言ったのは、事実上ゼロという意味」に受け止めたからだろう。

 受け止めなければ、「原子炉の安全、注水を継続した方がより安全である、作業員の安全、地域の方々の安全を確保するためには、海水の注入を継続した方がいいというような判断を優先」させることはできない。

 東電の社員が海水注入には菅仮免の判断・了解が必要であることを伝えたのは東電が海水注入を一時中断したとしてきた19時25分以前の19時に近い時間と推定することができる。それから19時55分になって菅仮免は海水注入を指示。10分後の20時05分に海江田経産相が東電に対して海水注入命令を出し、東電は20時20分に海水注入を再開している。

 この早い時間に結論を出し、結論に従った行動を直ちに指示できない判断能力の欠如、合理性を持たせた決断能力の欠如と、このことに相反した自身の主導で行わないと不快だとする独善性は相互対応する資質であったとしても、一国のリーダーにふさわしい資質とはとても言えない。

 上記記事は吉田所長が今になって説明したことについての武藤副社長の発言を次のように伝えている。

 武藤栄東電副社長「所長は、現場がふくそうするなかで、事態の収束などの陣頭指揮に当たってきた。『新聞報道や国会の審議、それにIAEAの調査があり、国際的に今後の教訓とするためにも、正しい事実に基づくべきだと考え、事実を報告したいと思った』と所長は話していた」

 5月21日の記者会見で、海水の注入を中断していたと説明していたことについて――

 武藤栄東電副社長「これまでは社内のメモや本店の対策本部の職員からの聞き取りで経緯を調べていた。福島第一原発でおとといからきのうにかけて聞き取りを行って判明した。海水の注水継続は技術的に正しい判断だったが、報告の在り方や、その後の対処のしかたがよかったのか、検討する必要がある」

 以上見てくると、中電が菅仮免の意向に基づいた間接的な指示を受けて海水注入の中断を決定し、そのことを官邸に伝えて中断したことにして、実際は継続していたこととそのことを今になって公表したことが問題となるように見えるが、このこと以上に問題なのは菅仮免の直接的な指示ではなく、意向に基づいた間接的な指示とは言え、それが例え間違っていた指示であったとしても、一国の首相が発した指示の類いである以上、事故対応の管理下に置いている中電に対して直ちに機能させることができなかったことは(=通用しなかったことは)何よりも問題としなければならない指揮統率体系上の何よりの失態と言えるはずだ。

 今回の福島原発事故対応に於いて菅仮免の指示が機能しない例は、この海水注入問題に先立つ東電に対する原子炉の圧力を抜くためのベント指示でも現れたことで、このことも指揮統率体系上の失態を示している。

 また、ベント指示が東電に対して機能しないまま放置し、法的拘束力のあるベント命令に切り替えた遅すぎる決定は菅仮免の判断能力の欠如、合理性を持たせた決断能力の欠如のなりよりの証明となっている。

 東電に対して1号機のベント指示を出したのが、3月12日午前1時30分頃。何回も東電に指示に従うよう電話しながら、その指示を機能させることができずにベント指示に縋っていたが、ようようのことベント指示を法的拘束力のあるベント命令に切り替えたのがベント指示の3月12日午前1時30分頃から5時間20分後の3月12日午前6時50分。

 ベント準備に着手したのがさらに2時間14分後の3月12日午前9時04分。高濃度の放射能等が障害となって実際にベント開始したのはさらに1時間13分後の午前10時17分。

 1号機建屋で水素爆発が起きたのはベント開始から5時間19分後の午後3時36分。

 また東電暫定発表で1号機の燃料損傷は大震災の発生約5時間後から始まり、16時間後には燃料が溶けて底部に落下するメルトダウンを起していたとしているが、3月11日午後2時46分大震災発生から5時間後というと、3月12日午後7時46分から燃料損傷が始まっていたことになる。

 ベントは急ぎに急がなければならなかった。だが、すべてが遅すぎた。その原因の一つが菅仮免のベント指示が東電に対してた直ちに機能しなかったことなのは言うまでもない。

 このベント指示に関わる指示機能不全が海水注入問題でも繰返された。いわば同じ轍を踏んだ指揮統率体系上の失態だったのである。

 この同じ轍を踏む繰返しはリーダーとして早い時間に結論を出し、結論に従った行動を直ちに指示する判断能力、合理性を持たせた決断能力が共に欠如しているにも関わらず、その欠如に反して自身の主導で行わないと不快だとする独善性が病膏肓の状態に陥っている、もはや救い難い状況に至っていることを証明している。

 すべての問題点は東電が海水注入を中断せずに継続したことよりも菅仮免の一国のリーダーとしてのこのような資質にあるはずだ。

 だが、枝野詭弁家官房長官は、同じ仲間意識ということもあるからだろうが、一国のリーダーの資質をも併せて問題提起すべきを、提起せずに東電の対応のみを問題としている。≪「東電は正確な報告を」 海水注入問題で枝野官房長官≫asahi.com/2011年5月26日16時56分)

 5月26日夕方記者会見。

 枝野官房長官「(東電は)事実関係を正確に把握して報告してもらわないと、国民が不審に思う。正確な事実関係の把握の上で、正確な報告をいただきたい。

 東電でなぜそういう間違いになったのかは、経済産業省原子力安全・保安院を通じて詳しく聞かないといけない」

 このような判断能力、合理性を持たせた決断能力が共に欠如した、その癖自身の主導で行わないと不快だとする独善性に支配された一国のリーダにふさわしくない男にノーを突きつけるには内閣不信任案をどうしても可決するしか方法はない。

 また何度でもブログに書いていることだが、地震発生翌日の3月12日早朝の東電福島第一原発視察を菅仮免は「現場の状況把握は極めて重要だと考えた。第一原発で指揮をとっている人の話を聞いたことは、その後の判断に役だった」と言っているが、ベント指示も海水中断指示も機能しなかったことからして、「その後の判断に役だった」は虚偽の証言となり、「役だった」が虚偽である以上、視察自体が意味のない視察であったことの証明となる。

 いわば自己正当化のために虚偽の証言を働いていたに過ぎなかった。

 何という始末の悪い一国のリーダーなのだろうか。


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菅仮免首相が東電海水注入国会答弁でウソをついていたことから分かるその必要性

2011-05-26 13:30:30 | Weblog



 東電の海水注入一時中断問題で昨5月25日(2011年)新たな事実が判明した。菅仮免は5月23日(2011年)の衆院震災復興特別委員会で谷垣禎一自民党総裁の質問に対して次のように答弁していた。

 菅仮免「注入のときも、それをやめる時点も含めて私共には直接には報告上がっておりませんでした。・・・報告が上がっていないものを、やめろとか、やめるなと言うはずがありません」

 菅仮免「注水を止めたと言うような一部報道があるけれども、少なくとも私が、このメンバーが止めたということは全くありません」

 但し東電から海水注入準備(開始ではない)の前以ての報告があったいう事実を原子力安全・保安院も政府も昨日になって認めた。

 この事実の判明は菅仮免が国会答弁では触れていなかったという事実の判明でもある。もし触れていたなら、2日後ではなく、その時点で判明した事実となる。当然のことだが、意図的に触れないようにしていたとしたら、ウソをついたということになる。

 《「準備整いしだい海水注入」東電、ファックスで国に連絡》asahi.com/2011年5月25日15時53分)

 〈経済産業省原子力安全・保安院は25日、「準備が整いしだい海水を注入する予定」という東電からの連絡を、水素爆発直前の3月12日午後3時20分にファクスで受け取っていたことを明らかにした。 〉

 但し、西山英彦審議官によると、その報告はファクス右下の「参考情報の欄」に書いてあったから、「主たる連絡ではない」し、受け取った保安院の担当者がこれを読んだかどうかについては確認できないとしているという。

 西山審議官「たくさんの紙がくるので、そこに書かれていただけでは、何か(担当者の対応などが)起こるとは考えにくい」

 保安院がその連絡を認識したかどうかとファクスを受け取った16分後に起きた水素爆発に関しては――

 西山審議官「影響を与えたとは思えない」

 届いた海水注入準備報告のファクスを認識したかどうかが届いた16分後の水素爆発と影響関係がないのは素人でも分かる当たり前のことを言っているに過ぎないが、そういった問題ではない。

 原子炉冷却のための注水は原子炉を守るための絶対必要事項として行っていたはずである。菅仮免も谷垣総裁との質疑応答で、「真水の注水が行われた。真水がなくなった場合には海水を入れるしかないわけだから、そういう必要性は十分に認識していた」と答弁しているし、班目原子力安全委員会委員長も同じ国会の場で、最切迫した絶対必要事項と看做して、「私の方からですね、この6時の会合よりもずうーっと前からですね、格納容器だけは守ってください。そのためには炉心に水を入れることが必要です。真水でないんだったら、海水で結構です。とにかく水を入れることだけは続けてくださいということはずーっと申し上げていた」と答弁している。

 いわば原子炉は切迫した緊急事態にあった。当然、原子力安全・保安院はスタッフの誰であろうと、役目上の責任から、「参考情報の欄」に書いてあろうとなかろうと、特に原子炉事故に遭遇している当事者である東電からのすべての報告に洩らすことなく目を通さなければならなかったはずだ。

 また東電が真水による注水を行っていたのは保安院も認識していたはずだ。それを海水に変えた場合、塩分による機器の腐食等を招き、廃炉につながることは早くからマスコミが伝えていたことだから、原子力問題の専門機関として見過ごしていい海水への転換ではなかったはずだ。

 16分後の水素爆発に影響はなかったとしても、約4時間後の19時25分の事故を拡大させたかもしれない海水注入中断につながった可能性は否定できない。

 西山審議官の「参考情報の欄」に書いてあるから、「主たる連絡ではない」とする認識は無責任極まりないとしか言いようがない。例え「主たる欄」に記入の連絡であったとしても、その情報を読み取る側の読み取りようによっては参考程度の連絡と判断する場合もあり、逆に「参考情報の欄」に書かれていたとしても、重要な連絡と読み取る場合もあるはずである。

 「参考情報の欄」に書いてあるから、参考程度の情報に過ぎないと機械的に判断するのは固定観念に囚われた、あまりにも杓子定規に過ぎる認識能力の持主でしかない。
 
 ここに改めて3月12日の1号機に於ける海水注入に関わる出来事を時系列で挙げてみる。

「海水注入を巡る経緯」(3月12日 1号機)

 15:20         原子力安全・保安院、東電から海水注入準備のファクスを受け取る。
 15:36         水素爆発
 18:00         菅首相、海水注入を指示(のちに指示を出していないと否定)

       (以下、谷垣総裁使用のパネルから)
 18:00~18:20頃   菅総理、官邸に於いて打ち合わせ(海水注入による再臨界の危険性回避のた
               めの協議)
 19:04         東電、海水注入(試験注水)
 19:25         東電、海水注入中断
 19:55         菅総理、海水注入指示
 20:05         海江田経産相、海水注入命令
 20:20         東電、海水注入

 上記「asahi.com」と同内容を伝えている次ぎの記事を見てみる。 《福島第1原発:東電、海水注入は事前に通告 爆発16分前》毎日jp/2011年5月25日 14時15分)

 海水注入に関するファクス内容「今後準備が整い次第、消火系にて海水を注入する予定」

 ファクスは原子力災害対策特別措置法(原災法)に基づく通報連絡で、福島第1原発から保安院や各自治体に送付。

 東電内では清水正孝社長が3月12日正午頃、社内で海水注入の準備を進めていることを確認。同午後2時50分頃、海水注入を了解。

 主たる報告は、放射性物質を含む蒸気を放出する「ベント」報告。

 西山審議官「付随的な連絡だった。(内容を把握していたかは)確認できていない。(海水注入は)紙の隅に書いてあった。誰がどこまで認識してどう行動したかは確認できていない。水素爆発への影響はない」

 〈保安院はこれまで東電が海水注入したことを知らされていなかったとしてきた。〉

 西山審議官「実際に海水注入しているということでないので、矛盾しない」

 報告はあくまでも海水注入の準備を伝えたもので、海水注入の実際の実施を伝える報告ではないから、知らされていなかったとしても矛盾しないということなのだろうか。

 準備は実施を前提とする。報告があろうとなかろうと、実施は準備の次の段階として、少なくとも予定して待ち構えなければならない。ファクス内容にしても、「今後準備が整い次第、消火系にて海水を注入する予定」となってことからも分かるように計画上は実施を予定事項としている。予定が決行されないとなったとしても、その報告を待つだけということなのだろうか。東電を監督・指導する立場にある以上、準備から実施、さらに効果の程度に向けて推移を見守る姿勢を責任としなければならなかったはずだ。

 枝野詭弁家官房長官も東電の海水注入準備報告を記者会見で認めた。《枝野官房長官の会見全文〈午前11時〉》asahi.com/2011年5月25日12時34分)

 記者「東京電力が3月12日午後3時20分ごろ、経済産業省原子力安全・保安院に対して海水注入を事前に報告したという報道があるが、これについて政府はどう認識しているか」

 枝野詭弁家「一部報道で発言が矛盾しているという風に報道されているが、全く矛盾していない。そもそも夕方6時の打ち合わせにおいても、東京電力から、海水注入の準備をしているが、もうしばらく時間がかかるという報告を受けている。それに先立って、保安院に対して、そのような趣旨の報告があったということは報告を受けている」

 記者「それは、今までの話と矛盾しないか」

 枝野詭弁家「だって6時の打ち合わせの時に海水注入の準備進めているがまだ時間がかかるということが、東京電力からその打ち合わせの場で報告を受けている。それに先だって、準備ができたら海水注入したいという報告があったのは全く矛盾しない」

 記者「首相は海水注入を知らなかったと」

 枝野詭弁家「海水注入が実施されたことについて報告がなかった。実際に水を入れ始めましたということの報告は全く聞いていない」――

 菅仮免は5月23日の国会で答弁している。

 菅仮免「注入のときも、それをやめる時点も含めて私共には直接には報告上がっておりませんでした。・・・報告が上がっていないものを、やめろとか、やめるなと言うはずがありません」

 枝野詭弁家が言っている「海水注入の準備進めているがまだ時間がかかるということが、東京電力からその打ち合わせの場で報告を受けている」という点については――
 
 菅仮免「現場(官邸)に私共と一緒にいた東電関係者に海水注入を準備しても1時間半程度はかかるという指摘があった」

 東電からの海水注入準備の前以ての報告について菅仮免が国会答弁では触れていなかったということを前提に菅仮免の前後二つの答弁を整理すると、菅仮免と共に官邸に詰めていた東電関係者の「海水注入を準備しても1時間半程度はかかるという指摘があった」は、上記「毎日jp」記事が伝えている15時20分のファクス内容が「今後準備が整い次第、消火系にて海水を注入する予定」とあるように準備を15時20分近辺以降を起点としていることに反することになるが、反するゆえに官邸に詰めていた東電関係者は原発の現場と連絡を取っていなければできなかった「海水注入を準備しても1時間半程度はかかる」の指摘だったはずであり、そういった指摘でなかればならない。

 東電の準備がファクスを送った15時20分以降を予定していながら、遅れに遅れたということなのだろう。

 一昨日に書いたブログ、《菅仮免の5月23日国会答弁の海水注入一時中断指示とメルトダウン認識両否定に見る数々の矛盾とウソ》では、頭が蛍光灯にできているから気づかなかったが、東電関係者の指摘の部分とそれに続けた発言をまとめて見ると、次のようになる。

 菅仮免「現場(官邸)に私共と一緒にいた東電関係者に海水注入を準備しても1時間半程度はかかるという指摘があったので、じゃあ、色んな可能性を検討してくださいと。当然リスクを対象化することは重要であるから、検討してくださいと言ったので、注水の前から検討をはじめていることからして、それに対して注水を止めたと言うような一部報道があるけれども、少なくとも私が、このメンバーが止めたということは全くありません」

 東電の海水注入準備開始をこれからのこととしているからこそ、準備にかかるとしている1時間半の時間を見て、「じゃあ、色んな可能性を検討してください」と言うことができた。 

 官邸に詰めていた東電関係者が原発の現場と連絡を取り合って菅仮免に示すことができた「海水注入を準備しても1時間半程度はかかる」の指摘であるなら、当然、東電の方から開始の報告がなくても、少なくとも開始を念頭に置いていなければならない。

 「海水注入を準備しても1時間半程度はかかる」の準備時間の1時間半は一旦は菅仮免が海水注入を指示したとされ、のちに指示は出していないと否定した、打ち合わせ開始の時間でもある18時から東電が海水注入を実際に開始した19時04分までの時間に20分ほど早まっているが、ほぼ相当する。

 いわば枝野の「準備ができたら海水注入したいという報告があった」の証言を待つまでもなく、菅仮免自体が東電から海水注入準備の報告があったことを承知していて、それを前提に東電関係者で連絡を取らせて得た情報である準備時間の1時間半の余裕を予定してリスク対象化の協議に入ったということであろう。

 枝野の証言と併せて菅仮免が東電から海水注入準備の報告があったことを承知していたと断ぜざるを得ない以上、海水注入の指示を出す準備をしていたはずだ。

 3月12日18時「菅首相 海水注入指示」は政府の菅仮免本部長原子力災害対策本部発表資料に午後6時に「真水処理をあきらめ、海水を使え」とする首相指示の記述があると、《東日本大震災:福島第1原発事故 海水注入中断「東電独自の判断」 影響検証が焦点に》毎日jp/2011年5月22日)に書いてある。

 5月21日の政府・東電統合対策室の記者会見。

 細野補佐官は注入開始も中断も東電の判断で、官邸は最近まで知らなかったと発表。

 細野首相補佐官「当時(3月12日)は現地と連絡を取るのにも時間がかかった。政府内では、午後7時半ごろまでは注水は困難という前提で議論しており、(東電で)7時4分に海水注入が行われていたことも後日知った。(18時の首相指示に関して)正確ではない。午後6時(18時)の時点では(海江田万里)経済産業相が東電に海水注入の準備を進めるよう指示した』というのが事実だ」

 菅仮免本部長原子力災害対策本部発表資料に記述してある(消してあるなら、「あった」の過去形となる。)午後6時「真水処理をあきらめ、海水を使え」とする菅仮免指示を「海江田指示」に説明の上だけのことなのか、変更(改竄?)している。

 例え海江田経産相が指示を出した海水注入指示であったとしても、海江田指示と同時にそれを受けて、例え東電からの海水注入準備の報告がなくても東電が海水注入実施に向けてその準備に入っていることを官邸は承知し、予定していなければならない。

 断るまでもなく準備に入らなければ、海江田指示に反することになるからだ。

 だが、東電は菅仮免が言っていることだが、「注入のときも、それをやめる時点も含めて私共には直接には報告を上」げずに、あるいは枝野が言っていることだが、「海水注入が実施されたことについて報告がなかった。実際に水を入れ始めましたということの報告は全く聞いていない」ままに東電は19時04分に海水注入を開始した。

 ここで残る疑問は、なぜ菅仮免は国会答弁で東電の準備報告を隠していたのかである。

 考え得ることは隠すことによって菅仮免の「注入のときも、それをやめる時点も含めて私共には直接には報告上がっておりませんでした」が正当性を得るということであろう。

 打ち合わせの開始時間の18時以降、東電関係者同士で連絡を取り合い、「海水注入を準備しても1時間半程度はかかる」と情報を伝えた段階で東電の現場では準備から実施まで連続していることとして1時間半以内の注入開始をも伝えたとしていたらどうだろうか。

 このことを打ち消すには菅仮免が「注入のときも、それをやめる時点も含めて私共には直接には報告上がっておりませんでした」を強調することによって可能となる。

 準備から実施まで連続して行った場合の不都合はリスクの対象化として「再臨界の危険性」を言い立てはしたが、班目委員長が立場上学習を義務としていなければならない既知の知識であったはずであるし、もし海水注入を断念させなければならない「再臨界の危険性」なら、東電から準備報告があった時間以降早い段階で官邸から東電に伝えなければならない情報のはずだ。

 例え班目委員長の「再臨界の可能性はゼロではないと言ったのは、事実上ゼロという意味だ」が後付けの釈明だったとしても、まさか海水注入準備の1時間半もかけなければ導き出すことができない結論と言うわけではあるまい。

 だが、1時間から1時間半前後もかけて結論を出すことができなかった。東電は19時04分開始の21分後の19時25分に注入を中断しているが、その理由を「官邸が『海水を注入すると再臨界の危険がある』としたので政府の判断を待った」(MSN産経)としている。
 
 結論を出すのが遅いばかりか、官邸から、少なくとも中断を示唆する報告があったことになる。だが、菅仮免は「報告が上がっていないものを、やめろとか、やめるなと言うはずがありません」と自らの中断指示を否定している。

 だとしても、東電としては機械上の障害が生じたわけではないのだから、指示もないのに中断する理由は持たない。

 とすると、《震災翌日の原子炉海水注入 首相の一言で1時間中断》MSN産経/2011.5.21 00:42)が伝えているように、東電が現場の判断で、いわば菅仮免の承諾なしに19時04分に海水注入を開始したことに対して、これを聞いた菅仮免が激怒したとの情報が入ったため、首相の意向を受けてから判断すべきだとして中断したというのが俄かに信憑性を帯びてくる。

 首相周辺の誰かが菅仮免の激怒をご注進に及んだと言うわけである。それが中断を示唆する菅仮免からの間接的な報告となった。

 菅仮免本人が中断を直接的に指示したわけではない。だが、激怒が中断を誘導した。それを隠す必要性からの国会答弁の直接的・間接的なウソということでなければ、連続して行うべき東電の海水注入の一時中断は説明できない。


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菅仮免の5月23日国会答弁の海水注入一時中断指示とメルトダウン認識両否定に見る数々の矛盾とウソ

2011-05-24 13:05:56 | Weblog


 
 3月12日に菅仮免が中電の海水注入を一時中断させたことで放射能被害を拡大させたのではないかと一部報道があることのみに限って、昨5月23日(2011年)の衆院震災復興特別委員会でのみんなの党の柿澤未途(みと)議員と谷垣禎一自民党総裁の国会質疑から取上げてみる。

 二人とも自らの思惑通りには菅仮免を攻め切ることができなかった。両者とも戦術に間違いがあった。菅仮免を攻めることだけを考えたために菅仮免のみに視線を集中し過ぎるという過ちを犯した。この問題で一番の弱点は班目原子力安全委員会委員長だとは最後まで気づかなかった。

 弱点から切り崩していって全体への攻撃に替えていくのは戦術の常道だと思う。

 班目委員長は自身が「再臨界の可能性がある」と意見をしたことが東電の海水中断の理由となったと報道されたことに21日夜、「再臨界の危険性があるなどと私は言っていない。侮辱と思っている」(asahi.com)と反論、次の日の22日午後に官邸に出かけて訂正を求め、その後の記者会見では「きのう統合対策室が出した文書について訂正を申し入れたところ、快く引き受けていただいた」(NHK)と言っていながら、細野首相補佐官は記者団に、「基本的には政府のこれまでの説明と変わらない。ただ、当時菅総理大臣の問いかけに対して、班目さんが『そういう可能性はゼロではない』と述べたという文書に変えることになった」(同NHK)と発言、「言っていない」としていたことが実際には「ある」が「ゼロではない」に変わっただけで、「言っていない」ことはない矛盾を曝け出しているのである。

 いわば「再臨界」に関することに言及していながら、言及していないとした。先ずはその発言の信頼性を問うべきだったろう。なぜ「言っていない」としていたことが次の日には「言っていない」ことはなかったことになったのか。

 考え得る理由の一つは政府の意向を受けた訂正の可能性である。「再臨界の危険性がある」はより具体的危険性に属し、「危険性がゼロではない」はより予測的危険性に属す。具体的危険性を「言っていない」ことになるからと、予測的危険性に過ぎない「危険性がゼロではない」で政府の意向を受けて妥協したとも考えることができる。

 先ずは「再臨界の危険性がある」と「再臨界の危険性がゼロではない」とどう違うのか追及すべきだったろう。

 他にも班目委員長を追及すべき点があったが、それぞれの質疑の中で指摘する。

 最初にみんなの党の柿澤未途議員の質問を取上げる。丁寧語や間投詞は無視することにする。

 柿澤議員「3月11日の1号機への海水注入について、菅総理は海水注入による再臨界の可能性を心配していたと、細野総理補佐官が話をしていた。原子力安全委員会に助言を求めたら、『可能性はゼロではない』と言われたと。

 (班目発言の)訂正が昨日から朝にかけてあったが、『可能性はゼロではない』と、こう言われたと。

 班目委員長からも助言を得た当時菅総理が再臨界を心配していた。そういうことが事実としてありますね、総理。イエスかノーかで答えてください」

 菅仮免「色々な心配をする可能性の中で、そういうことも含まれていたので、そういうことに対して専門家の皆さんにご意見を聞いたわけです」

 柿澤議員「総理は臨界の可能性を心配して専門家の意見を聞いた。この場合の再臨界の可能性のあると言うのはどういう事態を示唆しているのか。これは燃料棒が原形をとどめ、制御棒が入っている状態であれば、そういうことは起こらないと思う。再臨界と言うのはそういう安定した状態では起こらない。

 再臨界が起こるということはどういう事態が原子炉の格納容器内で想定されるか」

 班目委員長「実際に燃料が若干でも溶けて、再配置と言いますか、イキ(閾?)が変わって、より臨界になりやすくなることをおっしゃる方がいる。そういう意味では、今現在ですら再臨界が起こっているんじゃないかと言われる学者の先生もいる。

 しかしながら、そういう危険性は認識していないが、そういうふうに聞かれたから、ゼロではないという答になるかと思う」――

 班目委員長本人は3月11日の時点で再臨界という「危険性は認識していな」かったし、その危険性があるかと聞かれた場合は、予測可能性の点でゼロとは言い切れないと答えることになると言っている。

 いわば自身としては再臨界の認識はなかったし、再臨界の危険性を聞かれもしなかったとしている。なぜ柿澤議員は「『聞かれたら』と言うことは実際には聞かれていないと言うことですか」と追及し返さなかったのだろうか。『聞かれたから、ゼロではないと答えた」とは言っていないのである。

 勿論本人が「そういう危険性は認識していない」と言っているからといって、それが事実だとは必ずしも断言できない。認識していたとすると、メルトダウンを知っていたことになりかねない別の危険性が生じるために政府が班目委員長から「再臨界の危険性がある」と意見の具申があったために検討に時間を取ったとしていることを、メルトダウンを認めかねないことになるためにそんなことはないと否定した可能性も疑うことができる。

 もしこれが実際の経緯だとすると、首相が東電に指示して海水注入を中断させたことを隠蔽するための政府演出による班目委員長作の「再臨界の危険性がある」のテッチ上げであり、その後の政府と班目委員長共犯の「再臨界の危険性はゼロではない」の修正の疑いが出てくる。

 班目委員長の「危険性がある」から「ゼロではない」に訂正した発言まで含めて、徹底的に集中して追及すべきだったはずだ。

 柿澤議員「私の答弁に私の質問の意図と外している部分をあるが、冒頭で言ったように燃料の一部は溶けて、そして再配置と言いましたが、要は容器の下のほうに落ちていく、これはメルトダウンという、まさにその言葉そのものであります――」

 班目委員長本人が燃料の一部溶融を言ったわけでなない。そう「おっしゃる方がいる」と誰か別の人間を指している。もし班目委員長自身がメルトダウンを認識していたとしたら、情報の共有という点から菅仮免も認識していなければならないことになる。ウソかホントか、本人は認識していないと否定している。

 柿澤議員「要するに燃料が溶けて落ちるメルトダウンという状態を発生するからこそ、再臨界という懸念が生じる。再臨界を起こると菅総理が心配したということは、菅総理はメルトダウンの可能性を3月12日時点で認識していたということになるのではないのか。

 覚えていると思うが、3月12日の午後3時からの与野党党首会談で菅総理は何と言ったのか。みんなの党の渡辺喜美代表が『メルトダウウンしているのではないか』と質問したところ、菅総理は『メルトダウンはしていない』と断言をした。メルトダウンを認識していた以上、その場でメルトダウンしていませんと断言していたのは意図的に与野党党首会談でウソをついたことになるのではないのか」

 菅仮免「この事故の経緯は柿澤さんもずっとフォローされていると思うが、私は物事を判断する場合は、原子力安全委員会の委員長を始めみなさんと、原子力安全・保安院のみなさんと、当事者である東電の官邸に詰めている責任者と常に同席いただいて、皆さんのご意見を聞いて何らかの判断が必要なときは、特に原子力安全委員会の助言を踏まえながら、判断をしてきた。

 私が与野党党首会談のときに私として申し上げたのは、そういう公式的な形で政府としてその時点でメルトダウンと言うことは公式的にそれを認めることは、当然その当時、なっていませんで、その公式的な政府としての見解を申し上げた。
 
 勿論色んな意見が当時からあった。そういうことも勿論私の耳に入っている。先程一つの仮説を立てていたけれども、再臨界のことを心配したのは、そういうことじゃないのかと言ったけど、心配する方はありとあらゆることを心配しなければならないというのが、こういう場合の原則だと思います。

 つまりは大丈夫だろうと思うんじゃなくて、大丈夫だと思えても、こうなるかも、ああなるかもしれないと言うことは考えて、それらのリスクを小さくする。今回の場合であれば、再臨界いうのはホウ酸を注入すれば、それがよりリスクが小さくできるわけだから。そういうことも専門家のみなさんに、あとで出てくるわけですけれども、そういう意味で検討をお願いしたというわけです」

 この「心配する方はありとあらゆることを心配しなければならないという」リスク回避論は詭弁でしかない。今現在存在すると考え得るリスクの現状把握と危機管理上仮定しなければならないすべてのリスクに亘った想定把握とは別種のものである。

 あくまでも海水注水に限定した場合の現状把握しなければならないリスクとしての「心配」=「再臨界の危険性」でなければならないはずだ。それを危機管理上仮定しなければならないありとあらゆることの心配の中に「再臨界の危険性」を潜り込ませて、ありとあらゆる心配の一つに過ぎないと一般論化している。 

 巧妙な誤魔化しとしか言いようがない。このことは菅仮免のこの答弁が、あー、うー、えーを盛んに用いた苦し紛れの答弁となっていたことでも証明できる。柿澤議員にもこの苦し紛れを指摘されている。

 柿澤議員「ご答弁の様子をテレビでご覧になっている国民のみなさんが感じておられると思うが、大変如何にも苦しいと答弁だと思う」

 柿澤議員は再び3月12日の与野党党首会談での菅仮免のメルトダウン否定を取上げ、その否定論理を崩しもせずにメルトダウンを実際は認識していたを事実と看做して、菅総理が言うとおりに「みんなの党の渡部代表が対外的に説明していたなら、結果的に間違った情報を広めるお先棒を担ぐことになりかねなかった」、「結果的に大変間違った情報を国民の間に広めてしまった」とズレた追及している。そして――

 柿澤議員「メルトダウンを否定する姿勢を少なくとも公式に取ったことで、何が起きたか、原子力安全・保安院の中村審議官。3月12日の午後2時の記者会見で『炉心溶融が進んでいる可能性がある』、メルトダウンの可能性を認めました。

 今から考えれば正しい指摘をした中村審議官を政府は半ば更迭のように見える形で記者会見の担当から外している。その後炉心の一部損傷という言葉は使っても、メルトダウンという言葉は封印をされてしまった。枝野官房長官はその後炉心溶融の可能性を問われて、『炉を直接見ることはできない』。こんなふうにも言っていた。

 これでは政府の誰もが最悪の事態を想定し、現実を直視して、今起きていることを率直に国民に説明することができなくなってしまう。率直に語れば更迭されてしまうんだから、物言えば唇寒しで、後任者は本当のことを言えない。何でこんな配置換えをしたのか。かつての答弁で国民により分かりやすい説明をするためと海江田経産大臣は答弁しているが、この人事によってむしろ本当の情報が覆い隠されてしまったのではないのか。海江田大臣答弁を」

 相手が事実としていることを論理的に突き崩すことができずに単に疑惑を並べ立てるだけの堂々巡りを演じているに過ぎない。

 詭弁家枝野「引用をきちっとして貰いたい。私の3月13日の記者会見に於いては、1号機で炉心溶融が起きたのかと問われたことに対して。それは十分可能性のあることで、当然炉の中だから確認できないが、と言っている。もし炉心溶融の可能性があると言ったことで更迭されるなら、私がその場で更迭されなければおかしいことになる」

 最大限の薄汚い詭弁となっている。炉心溶融の「可能性がある」とは合理的且つ科学的な根拠に基づいてそういう認識を持つということであるか、あるいはそのように判断したということであるが、その認識、あるいは判断は「炉の中だから確認できない」とすることによって合理的且つ科学的な根拠が否定を受けることになり、その可能性は合理的且つ科学的な根拠に基づかない単なる曖昧な推測に貶めることになっているばかりか、「炉の中だから確認できな」ければ、確認しようがないことになり、確認しようがないことを「十分可能性がある」とするのは相矛盾した言及ともなる。

 多くの国民に被害を与え迷惑をかけている重大な事故を前にして原発事故を収束させて安定化を図るために指導・監督する立場の政府要人が合理的且つ科学的な根拠に基づかない単なる曖昧な推測で炉心溶融の可能性に言及する、あるいは「炉の中だから確認できない」が、炉心溶融の可能性は十分あると相矛盾することを言う無責任は見苦しいばかりである。詭弁家でなければ口にできないレトリックであろう。

 また、「もし炉心溶融の可能性があると言ったことで更迭されるなら、私がその場で更迭されなければおかしいことになる」と言っているが、これはそれぞれが置かれている立場を無視した詭弁に過ぎない。

 保安院は政府の管轄下にある。一方は政府によって人事を武器にどうとでもその言動を操作され易い立場に置かれているのに対して枝野は逆に人事を武器にどうとでも操作し得る立場に立っている。その違いを平気で無視して、さも平等な立場にあるかのような鉄面皮なことを言う。

 次に答弁に立った海江田経産相もひどいことを言っている。

 海江田経産相「私は本当に正しいことを正しく伝えた人を更迭などとは毛頭考えたことはありません。これまでも考えておりませんでしたし、これからも考えておりません。

 中村審議官は元々国際畑の方であります。そしてこの後IAEAの会合やOECDの原子力機関の委員会など、私が原子炉の対応や国会の対応に専念しているので、国際会議に出て行くことができないためにしっかりと世界に向かって日本の原子炉の状況を説明をしていただいている」

 枝野といい海江田といい、開き直りもいいとこである。「私は本当に正しいことを正しく伝えた人を更迭などとは毛頭考えたことはありません」と言っているが、中村審議官が「炉心溶融の可能性がある」と言ったことが「正しいことを正しく伝えた」根拠ある説明なら、政府も東電も3月12日以降から1号機は炉心溶融を前提に事故対応に当たらなければならなかったはずだ。

 だが、柿澤議員が指摘したように「炉心の一部損傷という言葉は使っても、メルトダウンという言葉は封印をされてしまった」。いわば「正しく伝え」ていないことにしてしまった。

 多分、政府の意向に添った記者会見をして貰わなくては困ると因果を含めて海外勤務としたのではないのか。

 柿澤議員は枝野と海江田の詭弁・開き直りに何ら反論することなく海水注入の問題に移るが、結局菅仮免を追い詰めることができなかったことと、これから取り上げる谷垣総裁の質問と重なるゆえに省くことにする。

 追いつめることができなかったのは質問のトップに立った谷垣総裁も同じだが、柿澤議員と同様に原子力対応のチームの中で一番弱点となっている班目委員長を重点的に攻めない戦術の間違いを犯していたからではないか。 

 谷垣総裁が取り出したパネルに書いてあることを先ず記載する。

 「海水を巡る経緯」(3月12日)

 18:00~18:20頃   菅総理、官邸に於いて打ち合わせ
 19;04         海水注入(試験注水)
 19:25         海水注入中断
 19:55         菅総理、海水注入指示
 20:05         海江田経産相、海水注入命令
 20:20         海水注入

 谷垣総裁(海水注入は)「総理の指示で判断をしたのではないかという報道がある。この経緯に関して伺いたい。政府が関連した発表では3月12日の18時に菅総理を含めて会合が行われたと報道されている。この官邸で行われた会合はどういう位置づけで何を議題としたものか」
 
 菅仮免はこの質問に直接答えずに、官邸に詰めていた原子力安全院会や東電の責任者、保安院と様々な協議をしていたと関係ない話を長々と答弁。谷垣総裁が、質問に答えていない、端的に質問の答えてもらいたいとクレームを付けるかと思ったら、我慢強く同じ質問を繰返した。

 谷垣総裁「3月12日の18時には何を議論していたのか」

 菅仮免「海水注入に当たって、私の方からどのようなことを考えなければならないかといった議論があって、いわゆる再臨界という課題が私にもあり、その場の議論の中でも出ていた。そういうことを含めて海水注入に当たって、どのようにすべきかという検討を今申し上げたようなみなさんが一堂に会されておりましたので、それを皆さんにお願いをした。

 その時点では東電の担当者は海水注入はこれから準備しても、1時間半程度は準備がかかりそうなのでと指摘があったので、18時の段階でそれではそういったことも含めた検討をお願いすると私の方から申し上げた」

 谷垣総裁「海水注入に当たって勘案すべき問題点を検討すると、こういうことですね。班目委員長に伺います。報道によると、色んな報道があって何が正しいかであるが、委員長はこの会議で再臨界の可能性を指摘されたという報道があった。

 そのような意見具申をされたのか」

 班目委員長「その場に於いては海水を注入することによる問題点をすべて洗い出してくれという総理からの指示がございました。私の方からは海水を入れたら、例えば塩が摘出してしまって流路が塞がる可能性、腐食の問題等、色々と申し上げた。

 その中で、多分総理からだと思うが、どなたからか、再臨界について気にしなくてもいいのかという発言があったので、それに対して私は再臨界の可能性はゼロではないと申し上げた。これは確かなことであります」

 「海水を注入することによる問題点をすべて洗い出してくれという総理からの指示」があったから、色々と問題点を述べた。だが、再臨界に関しては自分から言い出した問題点ではなく、総理なのかどなたなのかはっきりしない方から聞かれて答えたとしている。

 このことは原子力問題の専門家で、政府の原子力安全委員会の委員長を務めている立場からしても、多くのことを学習して豊富な知識を持っているはずの予定調和に反する矛盾する経緯となる。

 この矛盾は、もしその時点で「再臨界の可能性はゼロではない」の認識が事実とするなら、「塩が摘出してしまって流路が塞がる可能性、腐食の問題等」よりも重要な危険性として第一番に口にすべきことなのに第三者に聞かれるまで失念していたことにも現れている矛盾であろう。

 この矛盾に谷垣総裁は気づかなかった。

 谷垣総裁「そうするとこの時点で何よりも必要なことは冷却していくことだと、この点はみんな一致した考え方だと思うが、その中でなかなか真水による冷却ができないということで海水注入の問題が出たのだと思うが、今の議論の中で、再臨界の可能性がゼロではない、専門家としてそういう意見を言った。その時点で海水注入はすべきではないと言ったのか」

 班目委員長「私の方からですね、この6時の会合よりもずうーっと前からですね、格納容器だけは守ってください。そのためには炉心に水を入れることが必要です。真水でないんだったら、海水で結構です。とにかく水を入れることだけは続けてくださいということはずーっと申し上げていた」

 もし海水注入が再臨界の危険性を「ゼロではない」状態で伴う構造にあるなら、班目委員長は真水でも海水でも冷却のために炉心に注水する必要性を言う場合は再臨界の危険性とセットにして言及していなければならなかったはずであり、言及してきたはずだ。

 だとしても、注水の必要性は再臨界の危険性を無視できた。無視できなければ、「とにかく水を入れることだけは続けてください」とは言えないことになるからだ。少なくとも再臨界の危険性を無視できるその回避方法と共に注水の必要性を説かなければならないことになるが、そのことは原子炉事故が起きて以降は菅仮免に向かってもレクチャーしていたはずだから、今度は3月12日の夕方6時の時点になって「海水を注入することによる問題点をすべて洗い出してくれ」と言うこと自体が矛盾した指示となってくる。

 この点を班目委員長に追及すべきだが、そうしなかった。

 谷垣総裁「総理は問題点をすべて挙げろという中で、再臨界、その可能性はあるのではないかという疑念はお持ちだったのか」

 菅仮免「今委員長の話にあったように水を入れる、冷却機能が停止しているわけだから、水を入れなければならないという認識はあった。そのために色々な消防車等を電源車と同時に送って、注水を行う。真水の注水が行われた。真水がなくなった場合には海水を入れるしかないわけだから、そういう必要性は十分に認識していた。と同時に色々なことが一般論としては心配される。

 例えば水素爆発。例えば水蒸気爆発。あるいは圧力が上がり過ぎて、格納容器が損傷するといった色んな可能性がある。そのいろんな問題の中で、再臨界ということも、もし本当の起きたなら大変なことだから、核分裂反応が再び起きるということだから、そういうことについては従来からホウ酸を注入して防ぐという手立てができるようになっているから、そういう問題もすべて含めて、検討をお願いしたわけです」

 繰返しになるが、もし海水注入が再臨界の危険性を「ゼロではない」状態で伴う構造にあるなら、菅仮免は「真水がなくなった場合には海水を入れるしかないわけだから、そういう必要性は十分に認識していた」と言うなら、班目委員長同様に海水を注入することを認識すると同時に再臨界の可能性も認識していなければならなかったはずである。

 また、海水注入が再臨界の危険性を「ゼロではない」状態で伴う構造としているということは海水注入と再臨界の危険性は常時セットとしていなければならない認識ということになる。

 セットということなら、海水注入で心配されることは少なくとも再臨界の危険性に限って言うと、一般論ではないことになる。

 発言に様々な矛盾がありながら、谷垣総裁は素通りして、政府と東電の統合対策室が発表した文書を取上げ、海水注入を開始した東電が官邸で色々議論しているから注水を中止したと記述してあるのに対して政府は知らないとするのは、「政府が責任を持って出した文書としてはあまりにも無責任だ」と追及を変えている。

 対して菅仮免。一部分。

 菅仮免「現場(官邸)に私共と一緒にいた東電関係者に海水注入を準備しても1時間半程度はかかるという指摘があったので、じゃあ、色んな可能性を検討してくださいと。当然リスクを対象化することは重要であるから、検討してくださいと言ったので、注水の前から検討をはじめていることからして、それに対して注水を止めたと言うような一部報道があるけれども、少なくとも私が、このメンバーが止めたということは全くありません」

 谷垣総裁はこれ以降も攻めきれなかった。

 だが、この海水注入準備に1時間半程度かかるから、リスクの対象化を検討させたと言うのも矛盾している。海水注入と再臨界の危険性を前以てセットしていなければならないからということだけではなく、1時間半程度の準備時間は必要とせずに直ちに始めることができたなら、リスクの対象化の検討はしないことになるからだ。

 リスクの対象化は、もしそれを厳格に必要としていたなら、決して海水注水の準備時間を要件としないはずだ。準備時間を要件とするのではなく、準備時間あるなしに関係なしにリスクの対象化をこそ絶対要件としなければならない。直ちに注水が開始できたとしても、リスク対象化まで待て、何が起こるか分からないからと開始を遅らせるだろう。

 それを1時間半程度の準備時間があるからと、準備時間をリスク対象化の要件としている。

 誤魔化し以外の何ものでのない。誤魔化さなければならないのはウソをついているからに他ならない。 


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菅首相の海水注水一時中断よりもベント指示機能不全が根本原因の原子炉事故拡大の人災のはず

2011-05-23 08:52:47 | Weblog



 東電福島原発1号機事故に於ける政府と東電の初動対応の遅れが事故拡大を招いたのではないかと言われ、国会でも取上げられてきたが、ここに来て原子炉を冷却するための原子炉への海水注水作業で政府と東電の言い分に違いが出てきた。海水注水の遅れが被害を拡大させた可能性を疑わせることから、それぞれがどう対応したかによってどちらに責任があるかの問題へと発展する。

 先ずは海水注水に関する政府と東電の対応を《震災翌日の原子炉海水注入 首相の一言で1時間中断》MSN産経/2011.5.21 00:42)を参考に時系列で並べてみる。

 この中断は政府関係者らの話で3月20日に判明したことで、〈首相の一言が被害を拡大させたとの見方が出ている。〉としているから、記事は当然、そのことの批判を背景とすることになる。

3月12日午後6時――炉心冷却に向け真水に代え海水を注入するとの「首相指示」が出るが、班目原
 子力安全委員会委員長が首相に海水注入で再臨界が起きる可能性を指摘、一旦指示を見送る。(以上政府
 発表)
3月12日午後7時4分――東電は現場の判断で(政府側からすると東電の独断で)海水注入。
3月12日午後7時25分――東電判断の海水注入を聞いた菅首相が「聞いていない」と激怒したとの情
 報が東電に入り、東電は首相の意向を受けてから判断すべきだとして、海水注水を停止。
3月12日午後8時20分――海水注入でも再臨界の問題がないと判明、再臨界を防ぐホウ酸を混ぜた上
 で注水が再開。(記事には書いてないが、菅仮免からオーケーの指示が出たからだろう。)

 中断時間は55分。

 記事は最後に安倍首相と枝野官房長官のバトルを伝えている。〈自民党の安倍晋三元首相は20日付のメールマガジンで「『海水注入の指示』は全くのでっち上げ」と指摘。「首相は間違った判断と嘘について国民に謝罪し直ちに辞任すべき」と断じた。これに対し、枝野幸男官房長官は20日夜「安倍氏の発言が偽メール事件にならなければいいが」と牽制(けんせい)。首相周辺も「激怒はしていない。安全を確認しただけだ」と強調した。〉――

 「偽メール事件」は野党時代の民主党議員が引き起こした事件・騒動であって、当時の前原誠司代表がその責任を取って代表を辞任している。何も民主党の古傷まで思い出させる事件・騒動を例に引くことはないと思うが、そこは詭弁家、譬えに事欠いて自分達の古傷を持ち出してしまったのではないのか。

 東電判断の海水注入を聞いた菅首相が「聞いていない」と激怒したとの情報が東電に入ったということは首相官邸設置の原子力対策本部の首相周辺人物が、「こちらから指示が出ないうちに東電が海水注水したことに首相は怒っています」と何とか、注水を停止させる意思表示のもと東電に連絡があったということだろう。そこで東電は首相のオーケーの意向を受けてから注水開始の判断をすることになって注水を中断させた。

 ところが政府は海水注入中断は東電の判断であって、政府は一切指示していないと食い違いを見せたばかりか、海水注入で再臨界が起きる可能性を首相に指摘したと名指しされた班目原子力全然委員会委員長が「再臨界の危険性があるなどと私は言っていない。侮辱と思っている」 と抗議、昨22日に政府に訂正を申し入れているが、政府と班目委員長との間にも食い違いを見せることになった。

 東電の海水注水中断は首相の指示なのか、あるいは東電の独断なのかとマスコミが取り沙汰している中で、「NHK」2011年5月22日 19時8分記事――《1号機 ベントの判断に遅れか》が、格納容器内の圧力を下げる「ベント」操作の遅れが水素爆発を招いた原因の一つと指摘されているとして、NHKが入手した1号機の運転手順書に基づいて操作遅れの疑いを炙り出している。
 
 福島第一原発1号機が津波直後から冷却機能を失い、原子炉を覆う格納容器内の圧力が急激に上昇した。上昇によって格納容器が破損し、大量の放射性物質が外部に漏出する危険性回避のため、内部の気体を外に放出して圧力を下げる「ベント」操作が必要となった。

 だが、その操作が遅れた。記事は専門家の声を伝えている。

 専門家「もっと早い段階でベントを行うべきだった」

 では、ベントを行う適切な段階はどの時点かと言うと、NHKが入手した1号機の運転手順書によると、ベントは格納容器の圧力が使用上の上限の2倍に当たる「853キロパスカルに達すると予測される場合」に行うと定められていたという。

 記事を参考に1号機の格納容器圧力の推移を水素爆発の時間帯との関係でほぼ記事どおりに時系列で見てみる。

 3月12日午前1時過ぎ――格納容器の圧力600キロパスカル(水素爆発の14時間半前)
 3月12日午前2時半  ――格納容器の圧力840キロパスカル(水素爆発の13時間前)

 この時点で、〈手順書の値に迫り、ベントを行う条件を満たしていた可能性が高いことが分か〉ったと書いている。

 3月12日午前9時04分――東電、ベント操作に取り掛かる(水素爆発の6時間半前)

 だが、高い放射線量に阻止されるなどして作業に遅れが生じる。

 3月12日午後2時半   ――ベント操作開始(水素爆発の1時間前)
 3月12日午後3時36分 ――水素爆発

 如何にベント操作が遅かったかを浮き立たせ、この線に添って原発メーカーで格納容器などの設計に携わった元設計士の声と東電の発言を伝えている。

 後藤政志氏「遅くとも格納容器の圧力が上限の2倍近くになった段階でベントを行うべきで、その時点でベントができれば、格納容器から漏れる水素の量が抑えられ、水素爆発の危険性が小さくなった可能性がある」

 東電「格納容器の圧力が600キロパスカルから840キロパスカルに上がった段階でベントを行う必要があったと考えられるが、ベントの判断については検証を行っているところなので、現段階ではコメントできない」

 だとしても、手順書通りのベント操作とはなっていなかった。

 以上の水素爆発の時間との関係からのベント操作に関わる時系列にこれまで当ブログのいくつかの記事に書いてきたベント操作を含む政府の初動対応の時系列を重ねてみる。

 3月12日午前1時過ぎ  ――格納容器の圧力600キロパスカル(水素爆発の14時間半前)
 3月12日午前1時30分頃 ――海江田経産省、東電に対してベント指示。
 3月12日午前2時半   ――格納容器の圧力840キロパスカル(水素爆発の13時間前)
 3月12日午前6時14分 ――菅仮免、官邸からヘリで視察に出発。
 3月12日午前6時50分 ――海江田経産相、東電に対してベント指示を法的拘束力のあるベント命令
                に切り替え発令。
 3月12日午前7時11分 ――菅仮免、福島第一原発に到着
 3月12日午前9時04分 ――東電、ベント操作に取り掛かる(水素爆発の6時間半前)

 (高い放射線量に阻止されるなどして作業に遅れが生じる。)

 3月12日午前7時前後 ――メルトダウン
 3月12日午後2時半  ――ベント操作開始(水素爆発の1時間前)
 3月12日午後3時36分 ――水素爆発
 3月12日午後6時頃から――官邸、原子炉冷却のため海水注入を検討。
 3月12日午後6時   ――菅首相「真水での処理をあきらめ海水を使え」と指示。
 3月12日午後7時4分 ――海水注入
 3月12日午後7時25分  ――海水注入を中断(「政府の判断を待つ」とした現地判断)
 3月12日午後7時55分 ――菅首相注水指示
 3月12日午後8時20分 ――注水再開(55分注水中断)
 3月12日午後8時45分 ――ホウ酸投入

 当ブログ20011年5月18日記事――《福島原発事故拡大は菅仮免が東電にベント指示を早急に機能させることができなかったことが原因の人災 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》
にも書いたことだが、やはり菅仮免政府が東電に対して3月12日午前1時30分頃にベント操作を指示してから、3月12日午前9時04分にベント操作に取り掛かるまでに7時間43分も要したことが放射線量をいたずらに高くすることになり、このことに加えて3月12日午後2時半に実際にベント操作を開始するまでに5時間26分も遅れたことがベント開始から約1時間後の水素爆発につながった疑いが濃く、その根本的原因は政府のベント指示を東電に対して直ちに機能させることができなかったことと、ベント指示が機能しないと見たなら、早い段階で法的拘束力を持つベント命令に切り替えるべきを、命令がベント指示の3月12日午前1時30分頃から5時間20分後の3月12日午前1時30分頃と遅れる臨機応変の対応を取れなかったことにあり、そういったことが招いた水素爆発の疑いであり、また、直ちに継続して行うべき原子炉冷却の海水注水ということであたったはずだが、中断が起きた。

 ベント操作指示を直ちに機能させることができなかったことの責任と、機能しないと見たなら、直ちにベント命令に切り替えるべきを、それが遅れたことは事故拡大がまさしく人災の側面を持つことになり、当然のこととしてその責任は偏に菅政府にあり、その責任者が主たる責任を負わなければならない。

 もし菅仮免が間違った判断で海水注水を一時中断させたとしたなら、そのことも人災に数えられることとなり、犯罪を重ねるようなもので、その責任は救い難いまでに重くなる。


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1号機3月12日の注水中断の情報渋滞は菅仮免の同日同原発視察の「その後の判断に役だった」をウソにする

2011-05-22 11:14:39 | Weblog



 3月11日2時46分東日本大震災発生翌日3月12日の情報渋滞(=情報混乱)混乱とは東電の1号機への海水注入一時中断に関することで、《「班目氏が再臨界の恐れ」…本人「言ってない」》YOMIURI ONLINE/2011年5月22日03時04分)から見てみる。

 政府・東京電力統合対策室の昨5月21日の記者会見。海水注入一時中断の経緯を説明したという。

 班目内閣府原子力安全委員会委員長(3月12日菅仮免に)「海水を注入した場合、再臨界の危険性がある」

 この忠告を受けて、政府は再臨界防止策の検討に入り、その間東電側は海水注入を一時中断。

 対して読売新聞の取材に班目氏。

 班目委員長「再臨界の恐れなど言うはずがない」

 「asahi.com」記事では次のような発言となっている。

 班目委員長「再臨界の危険性があるなどと私は言っていない。侮辱と思っている」

  「YOMIURI ONLINE」記事は次のように結んでいる。〈東電側は、官邸で再臨界の危険性の議論が続いていることを理由に海水注入を中断したとしており、班目氏の再臨界に関する指摘の有無は、対策室の説明の根幹部分といえる。対策室と班目氏の言い分の食い違いは、23日からの国会審議で大きな問題となりそうだ。〉――

 班目委員長は「再臨界なんてことは言っていない」と言い、対して政府は班目委員長の意見に基づいて再臨界防止策の検討に入ったために注水を中断することになったと記者会見で発言。

 だが、今朝の記事になると、注水開始も中断も東電の独断となっている。

 マスコミが伝える3月12日福島第1原発1号機の情報混乱を、《福島第1原発:海水注入と中断は東電の判断 官邸は知らず》毎日jp/2011年5月22日 0時55分)から見てみる。

 記事の内容を大まかな時系列に直してみた。リンクを付けておいたから、実際の内容と見比べてもらいたい。

 政府・東京電力統合対策室の5月21日会見に於ける東京電力福島第1原発1号機での注水作業一時中断の経緯を説明時系列でまとめてみるが、先ず記事には書いていない菅仮免の福島原発現地視察の時間を入れておく。

 (3月12日午前7時11分――菅仮免、自衛隊ヘリで福島第1原発へ視察に向かう。
       午前8時前後――50分前後の視察を負え、自衛隊ヘリで三陸上空に向かう。)

1.3月12日午前7時前後  ――メルトダウン
2.3月12日午後3時36分  ――水素爆発
3.3月12日午後6時頃から ――官邸、原子炉冷却のため海水注入を検討。
4.3月12日午後6時    ――菅首相「真水での処理をあきらめ海水を使え」と指示。
5.3月12日午後7時4分   ――海水注入
6.3月12日午後7時25分 ――海水注入を中断(「政府の判断を待つ」とした現地判断)
7.3月12日午後7時55分 ――菅首相注水指示
8.3月12日午後8時20分 ――注水再開(55分注水中断)
9.3月12日午後8時45分 ――ホウ酸投入

 以下に数々の情報渋滞・情報混乱を記してみる。

 政府・東京電力統合対策室が記者会見で明らかにした眼目は、3月12日午後7時4分からの注水開始も中断も東電の判断で、その事実を官邸は最近まで知らなかったという事実であって、その事実を基に明らかにした経緯となっているということである。
 
 4.の午後6時菅首相「真水での処理をあきらめ海水を使え」の指示は政府原子力災害対策本部資料に記述されている事実。

 細野補佐官「正確ではない。午後6時の時点では(海江田)経済産業相が東電に海水注入の準備を進めるよう指示したというのが事実だ」

 ではなぜ政府原子力災害対策本部資料に記述されていたのだろうか。また、海江田経産相の午後6時の海水注入準備指示は政府原子力災害対策本部資料に記述されている事実なのかどうか。それとも他の資料に記述されている事実なのだろうか。

 記者は誰も問い質さなかったようだ。

 注入も注入中断も東電の独断で行ったが真正な事実ならいいが、何らかの意図に基づいたテーマ設定からの事実だとすると、そのテーマに整合性を持たせた事実ということになる。

 記事は記者会見での細野補佐官の次ぎの発言も伝えている。

 細野補佐官「当時は現地と連絡を取るのにも時間がかかった。政府内では、午後7時半ごろまでは注水は困難という前提で議論しており、7時4分に海水注入が行われていたことも後日知った」

 注水開始は東電の独断だと言っている。その独断を許した理由を官邸と原発現地との情報の伝達渋滞だとしている。

 だが、情報の伝達渋滞自体が引き起こした東電の独断のだから、元の原因は問題とならないだろうか。最悪、放射能が今まで以上に大量に洩れた場合、今まで以上に大量の避難民を出すばかりか、放射能被害の範囲を現在の数倍、数十倍、あるいは百倍も拡大させかねなかった危険な状況にあり、その回避策として注水作業はあったはずだ。

 いわば、「当時は現地と連絡を取るのにも時間がかかった」などとは言っていられない切迫した状況にあったばかりか、監督する立場として、常に指示命令系統を正常に機能するよう保持する責任を有していたはずだ。

 その責任を果すことができていなかった自身、あるいは自分たちの能力欠如には目を向けないで、「当時は現地と連絡を取るのにも時間がかかった」などと事実を表面的にのみ把えて釈明している。

 その希薄な責任感は如何ともし難い。注水〈中断が冷却作業に与えた影響について経済産業省原子力安全・保安院は「現時点では分からない」としている。〉と記事は伝えているが、例え何ら影響がないことが判明したとしても、あってはならないこととして、指示命令系統の機能不全・機能麻痺の問題は残る。

 細野補佐官だけではなく、菅仮免以下、菅内閣の面々は自分たちが国民に対して重大な責任を負っているという意識をどうしようもなく欠いているのではないだろうか。

 官邸が原子炉冷却のため海水注入検討を開始したのは3月12日午後6時頃から。そして菅首相が注水を指示したのは3月12日午後7時55分。当時は既にメルトダウンを起していた事実を把握していなかったはずである。当然、予測されるメルトダウン回避のために一刻の猶予もなかった。

 だが、注水検討から注水指示決定までに1時間50分前後も時間を要している。約2時間近い時間である。一刻も猶予はなかった中でこの遅い決定は何を意味するのだろうか。

 この注水中断についての東電側の発言を、《原子炉冷却で情報共有図れず》NHK/2011年5月22日 4時3分)が伝えている。

 注水中断の理由についての発言。
 
 東電「総理大臣官邸で『海水を入れると核燃料が再臨界を起こす危険性がある』という議論をしていると聞いたためだ」

 〈政府と東京電力が、原子炉の冷却という重要な作業で情報の共有を図れていなかったことに〉ついて。

 東電「1号機では前日夜から核燃料のメルトダウンが始まっていたとみられ、また水素爆発が起きたあとなので、作業の中断によって事故が悪化するといった影響はない」

 この中電の釈明にしても、当時は把握していなかったメルトダウンの事実でなければならないから、結果的に影響はないと判断したとしても、注水は急がなければならない作業であったはずだ。

 また、格納容器内等の温度上昇などを見ながら現在まで注水作業を継続しているのである。事故対応の初期的段階で注水中断が事故に影響はなかったと果して断定できるのだろうか。

 情報共有も情報伝達系統の円滑な機能によって約束される。

 菅首相は国会で野党から福島原発視察を東電のベント開始を遅らせる初動ミスではないか、国民向けのパフォーマンスではないかと追及を受けるたびに常套句となっている次のような答弁を繰返している。

 菅首相「現場の状況把握は極めて重要だと考えた。第一原発で指揮をとっている人の話を聞いたことは、その後の判断に役だった

 視察は官邸からの東電に対するベント指示がなかなか実施されず、5時間20分待って法的拘束力を持つベント命令に切り替えるといった事態に至ったたことから、「現地をちゃんと指導してくる」と言って出かけたもので、いわば情報伝達系統が機能していなかった。

 だが、視察して東電の話し合った上でのことだろう、視察が「その後の判断に役だった」とは情報伝達系統がその後スムーズに機能した状況を指していることになる。スムーズに機能する情報伝達系統の保証があって、初めて各種判断が有効化するからだ。

 いわば官邸から東電に対する情報伝達も東電から官邸に向けた情報伝達も滞ることなく、常にスムーズに意思疎通させることができた。そういった情報伝達系統を視察によって両者間に確立できた。

 だからこその視察は「その後の判断に役だった」ということであろう。

 視察時に伝えられた情報・知識、あるいはレクチャーされた情報・知識のみに加えて、自身の原子力に関わる情報・知識と原子力安全委員会、もしくは原子力安全・保安院から得る情報・知識のみで、その後のすべての判断が可能となるわけではない。

 なぜなら、各原子炉の刻々と変化していく事故事態そのものは東電のみが把握できる事実であって、その事実の情報伝達を正確に受けなければ、官邸にしても原子力安全委員会にしても、原子力安全・保安院にしても正確な判断に役立てることは不可能となる。

 だが、菅仮免は視察は「その後の判断に役だった」として、その時点で首相と東電との間の、あるいは官邸と東電との間のすべてに亘る情報伝達系統が確立したとしている。

 この確立を疑わせる事態が視察の3月12日から7、8時間も経たないうちに早くも勃発している。3月12日午後3時半過ぎに1号機が水素爆発を起した。だが、東電からの官邸への連絡が1時間程度遅れた。多分イラ菅の堪忍袋の緒が切れたのだろう、3日後の3月15日朝になって東京・内幸町の京電本社に乗り込み、「連絡が遅い」と怒鳴ったとマスコミが伝えている。

 その事実は東電との間に確立したはずの情報伝達系統の機能不全を示す事態となっていることの情報提示でもあろう。

 《「一体どうなっているんだ。連絡遅い」首相、東電本社で激怒》MSN産経/2011.3.15 08:24 )

 菅仮免「テレビで爆発が放映されているのに、首相官邸には1時間くらい連絡がなかった。撤退などあり得ない。覚悟を決めてほしい。撤退したときには東電は100%つぶれる」

 このように視察以降も東電との間に情報伝達系統の機能不全をきたしていたにも関わらず、菅仮免は3月12日の視察について国会で追及されるたびに、第一原発で指揮をとっている人の話を聞いたことは、その後の判断に役だった」とバカの一つ覚えのように繰返しては、さも情報伝達系統が機能しているかのように証言している。

 東電が5月15日に福島第1原発1号機がメルトダウン(全炉心溶融)を起していたのは地震発生から16時間後の3月12日午前6時50分頃と暫定評価として公表したことに対して菅仮免は5月20日の参院予算委員会で次ぎのように答弁している。 《炉心溶融、首相が判明遅れを陳謝 福島第1原発事故》47NEWS/2011/05/20 17:01 【共同通信】)

 菅仮免「国民に言った内容が根本的に違っていた。東電の推測の間違いに政府が対応できず、大変申し訳ない」

 政府も知っていて隠していた東電との共犯の情報隠蔽疑惑は否定できないが、菅が言うとおりに事実だとしても、この「政府が対応でき」なかった事態は東電の情報を鵜呑みにしていた情報伝達系統の機能不全のうちに入る。

 情報伝達はただ単に早く伝達することだけを言うわけではない。正しい情報を如何に早く伝達するかにかかっている。

 官邸は原子力問題の専門家集団である原子力安全委員会と原子力安全・保安院を抱えているのである。また原子力専門家を内閣参与としても抱えている。東電が官邸に伝達する情報の的確性をチェックする作業も情報伝達系統に於ける円滑な機能を維持する要点としているはずである。

 「東電の推測の間違い」をチェックできずに放置していた政府対応の遅れは偏に政府に責任があることになる。

 だが、そのことの責任意識が「大変申し訳ない」の発言には見えてこない。

 このように見てくると、菅首相が機会あるごとに視察の正当化に用いている「第一原発で指揮をとっている人の話を聞いたことは、その後の判断に役だった」は、その事実が見えてこない以上、あるいは逆の事実が頻繁に顔を覗かせている以上、強弁・ウソの類いでしかないとしか言いようがない。

 要するに視察自体が原発事故の初動対応に何らかの障害を与えたからこそ、それを隠すために必ずしも、「その後の判断に役だった」訳でもないにも関わらず、「その後の判断に役だった」と強弁・ウソを働かざるを得なくなったということではないのか。


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菅仮免首相の同心円避難地域設定は果たして人災なのか

2011-05-21 11:46:37 | Weblog

 

 一昨日の5月19日(2011年)に福山哲郎官房副長官が記者会見。菅仮免が福島第1原発視察直前の3月12日午前1時頃、放射性物質の飛散状況を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」の試算に基づく予測図がファクスで首相官邸に届けられていたが、菅仮免の許には上がってこなかったと発言した。《首相視察前、放射性物質の飛散予測図 福山官房副長官》日経電子版/2011/5/20 1:01)

 この福山と言う男、20110年11月13日日ロ首脳会談で菅仮免がメドベージェフ大統領に「北方四島は歴史的に我が国固有の領土である」と常套句を告げたのに対して、「大統領は、領土問題はロシアにとっても極めて神経質な問題だと述べるにとどめた」と、さも露骨にロシア領土だと主張しなかったような情報操作と情報隠蔽を謀った男である。

 だが、情報操作も情報隠蔽も2日後の11月15日のNHK番組までの命を保ったに過ぎなかった。

 福山官房副長官「大統領は『自分が北方領土に行くのが悪いことなのか。当然のことだ』という言い方をした」

 要するにロ大統領は日ロ首脳会談の席で菅仮免に向かって露骨なまでに北方四島はロシア領土だと宣言したということである。

 福山がNHK番組で内幕をバラさなければならなかったのはマスコミが14日になってメドベージェフ大統領の11月1日国後島訪問日のツイッターの投稿文、 「大統領の義務は、最も遠いところも含めたロシアの全地域の発展を監督することだ」 、13日日ロ首脳会談後のツイッター投稿文、「日本の首相に会い、解決できない論争より経済協力の方が有益だと伝えた」(47NEWS)と報道したために、福山発言の「大統領は、領土問題はロシアにとっても極めて神経質な問題だと述べるにとどめた」どころではない不整合が生じたからだ。

 どちらのツイッター文も「北方四島はロシアの領土だよ」と言っている。

 このような重大犯罪の前科を持った男だから、基本的には信用できない政治家のブラックリストに載せている。

 では、福山が「SPEEDI」に関してどう発言したか見てみる。

 福山官房副長官「何らかの形で利用したのではないか。首相のもとにあがった事実はない」

 何のために原発事故発生後2ヶ月以上も経過してから、公表したのだろうか。あるいは、どのような理由から、原発事故発生後2ヶ月以上もこの事実を伏せていたのだろうか。あるいは隠していたのだろうか。

 この「SPEEDI」、呼び名は「スピーデイ」と呼ぶそうだが、ちっともスピーデイではなかった。

 他の記事が伝えていることだが、3月12日午前1時頃「SPEEDI」が首相官邸に届いた。5時間後の12日6時14分に菅仮免が原発視察のためにヘリコプターで官邸を出発した。この関係から、菅仮免が自身の安全性確保のために利用したのではないかとの疑惑が浮上しているらしい。

 要するに住民には避難指示を出していながら、福島第一原発周辺は放射能の飛散は見受けられないから、安全だろうとして視察に出かけた。

 このことは公にすべき情報の私物化を図ったのではないかという疑惑となるが、枝野詭弁家官房長官が否定している。「SPEEDI」の試算に基づく予測図がファクスで首相官邸に届けられていたが、菅仮免の許には上がっていなかったと発言している。《枝野官房長官の会見全文〈20日午前〉》asahi.com/2011年5月20日12時59分)

 5月20日午前の記者会見――

 記者「原発のSPEEDIのデータが、昨日夕方の福山副長官会見で、総理には上がってないと発言した。本当に上がっていないとすれば、何のためにデータを取り寄せたのか。」

 枝野「これは私も見ていない。福山副長官も見ていない。危機管理センターの幹部のところには、各省いろんな関連部局から情報がファクス等送られてくるのはコピーをとって配られるわけだが、そういうところにまったく上がってこなかった。まったく少なくとも政府とか危機管理センター幹部のレベルのところで全く共有されずにあった情報であるということだ。私も報道等をみて、どういうことになっているのかと問い合わせたところだが、官邸の担当部局のところにファクスはきていたが、そこの段階で止まっていたと報告を受けている
 
 記者「政府のこれまでの説明は、SPEEDIの元となるプラントの放出量が分からないから使えなかったということだが」

 枝野「だから少なくともその何日か後の段階で、SPEEDIというのがあるようだがどうなっているんだと私が問い合わせた時に、放出放射性物質量がわかることを前提としたシステムなので、これは役に立たないという報告を受けた。

 私から、いや逆に放射線量、周辺地域の放射線量がわかっているんだから、それは逆算して放出放射線量が逆算できるのではないかというアプローチはないのか、ということが数日後にあった。その時点での私への報告も、その2日目の未明にそうしたファクスが届いていたこととどういった整合性があるのか、しっかりと確認をしたいと思う」

 記者「政府は情報はすみやかに公開したいと言ってきた。SPEEDIを公表しなかったことをどう考えるか」

 枝野「私などからは繰り返し、すべての情報は迅速に公開するようにと指示を繰り返している。少なくとも私の手元に来ているような情報は、少なくとも問い合わせがあれば公表するということでやってきた。しかしそもそもが情報そのものの存在自体が伝えられていないなかにあったことについては大変遺憾に思っている。ただ、こうした今回取り上げられている推測も含めて、単位1ベクレルが放出された仮定でどうなるのかとか、仮にこれくらい出ていたらこういうことになりそうだな、ということも、我々の承知しないところでいろいろ試算していたものがあるということを把握した段階で、それは全部出せと指示した結果として皆さんの手元に届いている」

 記者「ファクスが来て上に上がってなかったというが、その情報はいらないという判断だったのか、何らかのミスだったのか。」

 枝野「そこのところについてはしっかりと検証を、我々自身としてもやりたいし、遠からず検証委員会を立ち上げたら第三者的にも検証してもらいたい」

 記者「仮定に基づく試算とはいえ、避難指示を出す前に総理が見ていたら役だったのではないか」

 枝野「少なくとも避難区域の指示等についての時に、そういった情報があればそれは意義があったと思う」

 記者「長官はSPEEDIの存在を知らなかったが、原子力安全委員会という総理に助言する立場の部局は知っていたはずだが」

 枝野「その点は常に私、例えば班目委員長などのそばにいたわけではないので、その辺のそういうやりとりがあったかどうかは承知していない」 ――

 「放出放射性物質量がわかることを前提としたシステムなので、これは役に立たないという報告を受けた」

 報告を受けたことに対して、「私から」と続けているから、枝野方から何か注文を付けたのかと思ったら、何のことはない。逆に注文を受けたことの発言に過ぎなかった。

 詭弁家を元々の体質としているから、ついつい誤魔化しの言葉が出てしまう。

 枝野が「役に立たないという報告を受けた」と言っていることと、逆算によるアプローチの可能を裏付ける記述が「原子力安全委員会」のサイト「文部科学省 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による計算結果」のページに載っている。

 〈緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)は、本来は、原子炉施設から大量の放射性物質が放出された場合や、あるいはそのおそれがある場合に、放出源情報(施設から大気中に放出される放射性物質の、核種ごとの放出量の時間的変化)、施設の周囲の気象予測と地形データに基づいて大気中の拡散シミュレーションを行い、大気中の放射性物質の濃度や線量率の分布を予測するためのシステムで、文部科学省によって運用されているものです。

 しかし、今回の東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故では、事故発生当初から、放出源情報を原子炉施設における測定や、測定に基づく予測計算によって求めることができない状況が続いています。このため、大気中の放射性物質の濃度や空間線量率の変化を定量的に予測するという本来の機能を活用することはできていません。〉――

 〈今回の事故では、原子炉施設における測定によって放出源情報を得ることができないことから、SPEEDIを用いて発電所周辺の放射性物質の濃度や空間線量率の値を計算することができない状態が続いていました。このため、原子力安全委員会では、SPEEDIを開発した(独)日本原子力研究開発機構の研究者の協力を得て、原子炉施設での測定に代わる方法を検討し、試行錯誤を繰り返した結果、環境中の放射性物質濃度の測定(ダストサンプリング)結果と発電所から測定点までのSPEEDIによる拡散シミュレーションを組み合わせることによって、ダストサンプリングによってとらえられた放射性物質が放出された時刻における放出源情報を一定の信頼性をもって逆推定することができるようになりました。こうして推定した放出源情報をSPEEDIに入力とすることによって、過去にさかのぼって施設周辺での放射性物質の濃度や空間線量率の分布を求め、これによる事故発生時点からの内部被ばくや外部被ばくの線量を積算したもの(積算線量)の試算結果を以下の通り公表しています〉――

 このページには日付が載っていない。情報提示は「いつ・どこで・何が」が基本だが、こういった不備は政府関係のページに多いように思える。3月12日午前1時頃、首相官邸に届いた「SPEEDI」の試算に基づく予測図が既に「一定の信頼性をもって逆推定」した予測かどうかはページの文章からでは読み取ることができないが、首相官邸に届ける場合は、「一定の信頼性」は不可欠条件となるはずだ。

 でなければ、首相への報告であったろうから、報告する意味を失う。

 だが、首相にまで上がっていなかった。

 政府が「SPEEDI」の計算条件となるプラントの放出量が不明として使えないとしていた予測を、原子力安全委員会が今後公表すると4月25日の記者会見で発表した。《放射性物質の拡散予測、今後は公表 原子力安全委》asahi.com/2011年4月25日23時58分)

 公表は1時間ごとの放射性物質の拡散予測だそうだ。

 記事が、〈拡散予測は、事故直後の避難に活用する計画だったが、原発からの放出源情報が得られないとして、3月23日と4月11日に公開されただけだ。しかし、事故直後から一定量の放出を仮定した1時間ごとの予測はしており、数千枚に及ぶ過去のデータについてもホームページに公開するという。〉と書いているから、3月12日午前1時頃首相官邸に届いた予測は「一定量の放出を仮定した1時間ごとの予測」ということになるが、例え「仮定」の放出量であっても、それ相応の裏付けが担保されていなければ、やはり作成した意味を失う。

 記者会見に同席していた細野補佐官が公表の遅れについて文科省と原子力安全委の間で運用や公開などを巡って調整に手間取ったと明かしたという。

 だが、首相にまで上がってこなかったと言っているが、3月12日午前1時頃首相官邸に届けた。もし首相にまで上がっていたなら、公表もあり得たかもしれない放射性物質の拡散予測である。ここに矛盾はないだろうか。

 原発から放射線放出情報が得られないとして2度の公表以外は4月25日まで未公表としてきたことによって3月12日午前1時頃頃首相官邸に届けた事実の情報隠蔽が可能となる。

 あるいは逆に首相官邸に届いた事実を情報隠蔽する必要上、2度の公表以外は4月25日まで未公表としてきた。

 首相官邸に届けられた事実を公表するについては、それを見なかったことにしなければならないために、首相にまで上がってこなかったとした。

 最初に菅仮免が自身の安全性確保のために利用したのではないかとの疑惑が浮上していると書いたが、このこと以上に問題なのは菅仮免が拡散予測を見ていたなら、住民避難に関して重大な過ちを犯した別の疑惑が浮上し、より大きな問題となる。

 その放射性物質拡散予測には風向きや風の強さに応じた放射性物質の飛散方向、当然飛散量もだろう、それらの濃淡、あるいは多い少いが示してあるから、そのデータに基づいて避難地域を決定しなければならない。

 だが、政府は風向きや風の強さ等の気象条件を無視して、同心円に避難地域を決定した。

 この問題点を昨5月20日の参院予算委員会で佐藤正久自民党議員が追及している。

 《炉心溶融、首相が判明遅れを陳謝 福島第1原発事故》47NEWS/2011/05/20 17:01 【共同通信】)

 記事題名の菅仮免の陳謝とは、1号機が地震発生16時間後に既にメルトダウンしていたことを東電が公表したのは5月16日という、地震発生後2ヶ月も過ぎてからのことに対する陳謝である。

 菅仮免「国民に言った内容が根本的に違っていた。東電の推測の間違いに政府が対応できず、大変申し訳ない」

 公表遅れを基本的には東電の責任としている。

 佐藤自民党議員の追及に対する海江田経産相の風向き等の気象条件を考慮せずに第1原発から同心円状に避難区域などを設定したことについての答弁。

 海江田経産相「風向きは気にしていたが、手元にデータがなかった。取りあえず同心円でやるのがベストだと思った」

 佐藤正久議員「風下に住民を行かせないのはイロハのイだ。風下に避難し、浴びなくていい放射線を浴びた住民がいる。人災だ」

 「手元にデータがなかった」からといって、許される判断だろうか。避難住民の生命・財産がかかるかもしれない避難である。「風向きは気にしていた」が事実なら、自分から求めるべき気象情報であろう。

 しかも、結果的にベストではなかった。政府自身も後で同心円の避難地域を継続する一方で、気象条件等に影響を受けた実際の放射線量の測定値に基づいて、比較的放射線量の高い地域を「計画的避難区域」に設定、住民に避難を求めたのだから、ベストではなかったことは政府自身が証明している。

 「政治は結果責任」である。NHKテレビで質疑中継を見ていたが、結果的にベストではなかったにも関わらず、謝罪一つしなかった。

 海江田経産相は「風向きは気にしていたが」と言っているが、次ぎの記事では風向きを計算に入れた避難地域決定となっている。

 《福島・原発、放射性物質漏れの可能性 経産相「微量」と強調》MSN産経/2011.3.12 06:13

 3月12日未明(0時~3時)の記者会見。

 この時間は福山官房副長官が明らかにした「SPEEDI」に基づいた予測図が首相官邸に届いていたとする3月12日午前1時頃にほぼ相当する。

 実際は予測図を見ていたとしたら、丸きりの情報隠蔽・情報操作となる。

 海江田経産相(放射性物質が大気中に放出される可能性について)「事前の評価では(放出されても)微量とみられる。(陸地から海側に吹いている風向きなどから)半径3キロ以内の避難や、3~10キロの屋内退避を実施しているので住民の安全は保たれる」

 海江田経産相自身の言葉として伝えてはいないが、記事の説明として気象条件を考慮した避難実施となっている。

 だが、昨日の参議院予算委員会では「風向きは気にしていた」だけとなっていて、それを計算に入れない同心円避難地域決定を「ベストだと思った」と自己正当化している。

 もしも3月12日午前1時頃首相官邸に届けられた「SPEEDI」に基づいた放射性物質拡散予測を見ていた上での同心円避難地域設定だったとしたら、3月12日午前1時頃から約4時間44分後の5時44分に菅首相が出した半径10キロ圏内の避難指示は政府の住民の生命・財産・健康を考えない、佐藤正久議員が指摘しているように菅政府が自ら招き出した人災そのものとなる過った決定となり、責任問題が浮上する。

 避難しなくてもいい住民にまで避難の苦労をかけ、佐藤議員が指摘するように政府の指示通りの避難をして浴びなくていい放射線を浴びる住民をつくり出したことになる。

 なぜ福山幹部副長官は地震発生から2ヶ月も経過した5月19日になってから、首相官邸に「SPEEDI」に基づいた放射性物質拡散予測をファクスで送られてきたが、首相にまで上がっていなかったなどと明らかになどしたのだろう。

 なぜ政府はそれまで2度しか公表していなかった1時間ごとの放射性物質拡散予測の公表を、地震発生から1ヵ月半も経った4月25日の記者会見で今後行うと発表したのだろうか。

 考え得ることは、菅仮免が設置表明している原発事故に関する検証委員会の立ち上げである。隠蔽していた情報のうち、検証によって明らかになると予想される情報は前以て明らかにしておかないと不都合が生じる。

 だが、政府に決定的に不都合な情報は最後まで隠蔽を謀らなければならない。その兼ね合い上許される範囲が放射性物質拡散予測が首相官邸にファクスで届けられていたというところまでではなかったのではないだろうか。

 そして最後まで徹底的に隠蔽を謀らなければならない情報は菅首相以下、海江田経産相も枝野幹事長も目を通していたという事実ではないか。そこに予測を参考にした避難地域設定ができず、放射能の危険に曝したかもしれない住民を出してしまったという、菅内閣の人災となる次ぎの事実を浮かび上がらせかねないことになる。


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