麻生太郎と山口那津男は都議選応援で市民の立場に立った政治の声なき声を吸い上げる役目を忘れ、縁故主義を暗に強要

2021-06-28 08:33:43 | 政治
 2021年6月25日付 「日刊スポーツ」 麻生太郎大先生、今回の都議選告示日に青梅市選挙区の自民党新人候補の応援演説に駆けつけて、名言を吐いたようだ。件の自民党新人候補にしたら、大名誉なことだったに違いない。何しろ麻生太郎は自民党きっての知性派であり、理論派なのだから。この自民党候補が男性だからいいものの、もし若い女性だったなら、知性豊かで、言葉の駆使に長けた、その自由闊達な理論が心地よい幻惑を与え、心地よさのあまり、麻生太郎80歳が相手であったとしても、不倫をも厭わない性的な陶酔感の迷い道に誘い込んでいたかもしれない。
 
 青梅市選挙区は自民党49歳男性候補に対して都知事小池百合子特別顧問の都民ファーストの会47歳男性候補の一騎打ちとなっている。当然、自民党候補による麻生太郎相手の不倫の間違いは起きないことになる。

 麻生太郎「(小池氏が特別顧問を務める都民ファーストの会の)代表の国会議員がいないから(国に)話が通じない。従って知事が自分でやる。過労で倒れた。同情してる人もいるかもしれんけど、(小池氏が)そういう組織にしたんだから。自分でまいた種でしょうが。自民党とつながってる人がいなきゃ話がつながらない。一番上が国会であるならば」

 要するに都民ファーストの会所属の立候補者を都議会選挙で何人当選させたとしても、会所属の国会議員が一人もいなければ、都民ファーストの会支持都民が望む国政に関わる各種政策は国会にまで反映されず、その実現は望みがない。実現を望むなら、自民党に第一党を取らせて、自民党国会議員とのつながりを持たせることだと言っていることになり、国政に関わる政策の実現は国会議員とのつながりが条件となるという縁故主義を持ち出していることになる。

 【縁故主義】「社会学の分野においては、同族・同郷者に限らず同じ共同体に属する人間の意見ばかりを尊重し、排他的な思想に偏る内集団偏向のことを指す」(Wikipedia)

 自民党所属の国会議員・都道府県会議員・都道府県市区町村議員は自民党総裁を頂点に一種の共同体をなしている。勿論、他党も同じである。

 この都議会議員が国に要求しなければならないような政策の実現は都議会議員と同じ党派を組む国会議員とのつながりがモノを言うという主張は都議会議員が掲げることになる政策の元となる都民の要望はその都民と支持という形でつながる都議会議員が存在することによって政策としてよりスムーズに取り上げられることになるという順繰りの効用として説いていることになる。だから、麻生太郎は都議会止まりではない、国会ともつながる人脈が必要だと人脈を利用する縁故主義を求めることになった、

 (2018年にブログに載せた画像。)

 つまり都民ファーストの会を支持する都民の要望が政策として取り上げられるのは都議会止まりで、その先の国政に関することは国会では取り上げられることは難しいと断言したことになる。「自民党とつながってる人がいなきゃ話がつながらない」としていること自体が、「自民党とつながってる人がいれば話がつながる」という縁故主義の主張そのものとなる。ここでは要望の妥当性や一考の余地は排除される。
 
 確かに縁故主義は以前から存在している。自民党が経済優先の政策を取り、経済優先が企業優先の形を見せるのも一種の縁故主義であり、ときには特定企業の利益を代表するような態度を取るのも縁故主義の範疇に入る。日本の代表的な大企業1500社近くと団体を会員としている経団連が自民党の最大のスポンサーとしてバックについていて、会員企業・団体に自民党への政治献金を呼び掛け、最近では毎年20億円以上の政治献金で自民党および自民党国会議員を潤わせていることから生じているその見返りとしての企業優先の縁故主義でもある。自民党は立党当時から企業・団体を代表してきた。

 例え何らかの縁故で繋がっていなくても、声なき声を吸い上げて政策として実現させていくことが政治の役目の一つとしなければならないはずだが、麻生太郎は自身が元企業経営者であり、自民党自体の企業寄りの縁故主義に災いされて、声なき声を吸い上げる政治の役目を頭の中に入れておくことができなかったのだろう。

 麻生太郎はまた、都知事小池百合子が過労で入院した原因を都民ファーストの会関係の議員を国会に送り込んでいなかったことから、国との交渉に関してなのだろう、いわば縁故主義が効かず、何でも自分一人で国に掛け合わなければならないことになった、自分で「そういう組織にした」でのあって、「自分でまいた種」だと批判しているが、意味させていることは自分で種を蒔いた結果の自業自得説となる。だが、あくまでも縁故主義に立った自業自得説であって、麻生太郎自身も、さらに自民党も時と場合に応じて縁故主義から自由となる柔軟性を抱えていたなら、決して出てこない自業自得説であろう。

 こういったことから、麻生太郎は自らが体質としている、自民党自体も体質としている縁故主義を振りかざして、国に話を通す政策に関しては国会議員を抱えていない都民ファーストの会の都議会議員候補者にいくら投票しても役には立たないと応援演説を行い、縁故主義が有効となる国会議員をたくさん抱えている自民党にこそ投票すべきであることを裏返しの意味に置いた。

 公明党代表の山口那津男も同じく都議選の応援演説で縁故主義を暗に強要し、結果的に政治の声なき声を吸い上げる役目を排除している。「山口代表の街頭演説(要旨)」(公明党/2021年6月21日)

 記事冒頭、〈公明党の山口那津男代表は、7月4日(日)投票の東京都議選で23氏全員の当選をめざし、感染防止対策を講じて都内各地で開かれた街頭演説会で、党の実績や政策などを力強く訴えています。ここでは、その要旨を紹介します。〉と書いてあって、どの選挙区のどの公明党立候補者を応援した際の演説なのかは不明である。要の発言のみを取り上げる。

 山口那津男「一方で他党はどうかと言えば、都議会第1党の都民ファーストの会は、区市町村にほとんど議員がいません。国会議員もいないため、現場の声を吸い上げて実現することは困難です」

 奇しくも麻生太郎と同じ趣旨の応援演説となっている。当然、麻生演説と同じ意味を取る。現場の声を吸い上げるのは同じ党の区市町村議員や国会議員が存在して、その縁故が必要条件となると縁故を暗に強要、山口那津男本人は決して気づかないだろうが、麻生太郎同様に政治の声なき声を吸い上げる役目をすっかりとよそに置いてしまっていた。

 言うべきことは、勿論自公で第1党を目指すことは重要だが、「都民ファーストの会は国会議員を持っていませんが、会支持の都民の国政に対する要望は多くの都民に有益性が認められると判断できる場合は自公与党が国政に反映できるように努力します」であって、縁故主義など振り回すことではなかったろう。

 でなければ、政策そのものを問題にすべきだった。都民ファーストが掲げる政策に反論するか、批判を試みるか、あるいは自党の政策のメリットを訴えることだけにとどめておく選挙応援演説であるべきを政策とは無関係に党を同じくする区市町村議員、都議会議員、国会議員というつながりが「現場の声を吸い上げて実現する」条件だとする縁故主義を持ち出したということは麻生太郎と同様に都民に暗に縁故主義を強要したことになる。この強要は縁故主義こそ、政治の要だと訴えていることに変わりはない。

 一政党の代表がこの程度の認識しかないとは情けない。

 縁故主義は行き過ぎると、利益誘導に姿を変えることになる。森友学園の新しい小学校設立に安倍晋三とその夫人安倍昭恵が熱心に後援していると見て、財務省が国有地を小学校の建設用地として秘密裏に格安に払い下げた疑惑も、安倍晋三夫妻と森友学園理事長との深いつながりを忖度した縁故主義から発した財務省による一学校法人に対する利益誘導であろう。

 安倍晋三が長年の友人とする加計孝太郎理事長の加計学園新設医学部設立認可に政治的便宜を図り、異例の速さで認可に持っていったとされる疑惑についても、安倍晋三の長年の友である加計孝太郎に対する縁故主義がそうさせた利益誘導そのものの疑惑であるはずだ。

 こういった大掛かりな縁故主義からの利益誘導ではなくても、国会議員が地元選挙区の特別な支援者という縁故主義から何らかの便宜供与を図る利益誘導も数多く存在して、なかなか縁故主義から抜け出すことはできない。だとしても、国会議員は国の政治一般を扱う立場にあり、日本国憲法がすべて国民は法の下に平等であると規定している以上、縁故主義を基本姿勢とするのではなく、声なき声を吸い上げて政策として実現させていく政治の実践を基本のところに置くべきであって、麻生太郎や山口那津男みたいに国会議員と同じ党派のつながりで都議会立候補者に対する投票を都民に求める縁故主義を暗に強要することなど、政治家の資質としては以ってのほかということになる。
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菅義偉の発言どおりに五輪開催を可能とする程にワクチン接種の効果が出るのかは疑わしい 危機管理の常道からいけば、五輪は無観客

2021-06-21 10:52:35 | 政治
 菅義偉が2021年6月17日に緊急事態宣言からまん延防止等重点措置への移行、その他についての「記者会見」を行い、「感染防止とワクチン接種の2正面作戦」でオリンピック開催に踏み切る発言をしている。尤もオリンピック開催について直接的に「2正面作戦」の言葉を使ったわけではなく、「私は、この国会の冒頭、国民の皆さんの安心を取り戻し、希望を実現すると申し上げました。感染防止とワクチン接種の2正面作戦に全力を挙げ、一日も早い安心の日常を取り戻します」と社会の安定化について言及した「2正面作戦」なのだが、趣旨としてはオリンピック開催に向けた感染防止対策の切り札としてワクチン接種に期待をかけているのだから、オリンピック開催も感染防止対策とワクチン接種の「2正面作戦」と見ることができる。

 この記者会見でも、「今回のワクチンについては発症予防や重症化予防の効果が期待されており、正に感染対策の切り札だと言っても言い過ぎではないと思います」と発言しているし、2021年6月9日の党首討論でも、「ワクチン接種こそが切り札だ」と発言。他の記者会見で「切り札」と言う言葉を使っているいじょう、オリンピック開催に関してもワクチン接種に頼ろうとする部分は大きいはずだ。

 当然、2021年7月23日から8月8日の東京オリンピック、2021年8月24日から9月5日の東京パラリンピックまでにワクチン接種が相当に進んでいて、ワクチンが感染防止対策の主役に踊り出なければならないことになる。その理由は緊急事態宣言もまん延防止等重点措置もオリンピック前には解除するだろうからであり、解除と同時に一般的な人流も、開催を受けた人流も、増加が共に進んで感染拡大に進むことになるだろうし、その感染拡大を緊急事態宣言にもまん延防止等重点措置にも頼らずに決定的に抑える役割を担わせようとしているのはワクチン以外にはないからだ。

 但しワクチン接種が進まない状況で感染拡大が進んだからと言って五輪期間中に緊急事態宣言かまん延防止等重点措置を発出して人流抑制をお願いした場合、一方で人流の増加を促すオリンピックを開催したままだとしたら、そのご都合主義は菅政権の打撃になる。是が非でも感染防止対策は緊急事態宣言の発出やまん延防止等重点措置の発出に頼るのではなく、ワクチンに頼らざるを得なくなる。

 記者会見で言及している緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の各決定については左に画像を載せておく。

 では、ワクチン接種をどれ程に切り札としているのか、そのことに言及している発言を拾ってみる。

 菅義偉「ワクチンの接種は、この1週間で合計730万回、1日平均100万回を超えるペースで増加しています。累計の接種回数は2700万回を超え、1度でも接種した人の数は2000万人を超えました。自治体や医療関係者などの御協力に、心から感謝いたします」

 ワクチン接種を切り札にしているからこそ、接種回数を刻々と告げなければならない。

 河野太郎は1日のワクチン接種回数について2021年6月11日の「記者会見」(内閣府)で次のように発言している。

 河野太郎「1日の増分や1日の接種回数は、色々ご議論がありますので、申し上げておきますと、昨日(10日)に公表した回数の一昨日(9日)からの増分は約101万回でございます。9日の8日からの増分は約102万回というふうになっております。さかのぼると8日火曜日の増分は109万回、7日月曜日の増分は土日を含んでおりますが、165万回ということになっております。

 VRS(ワクチン接種記録システム――各自治体が個人の接種履歴を入力、国が管理)の1日の入力の一番多かった日を見ると、6月2日と6月8日が、医療従事者の分を足して見ますとだいたい73万回です。7月2日を見ると、最初の入力値から1.5倍ぐらい増えています。6月8日は1.2倍になっていまして57万回ですから、あと0.3ぐらい増えると恐らく60万回は超えてくると思います。これに加えて、医療従事者への接種回数の十数万回が乗ってきますので、1日の接種回数は今のところ80万回程度は達成していると思います。これ以外にVRSにまだ入力ができていない横須賀市や所沢市等の大きな自治体が恐らく1日に数千回ほど接種していると思います。実力で80万回程度は達成していると思いますので、100万回を目指してしっかり頑張っていきたいと思っております。職域接種にも期待しております」

 VRSは接種した日付、接種対象者の性別、年齢等の個人の接種履歴を入力、これらに基づいて接種回数が算出されるはずだから、入力遅れが日を跨いでいたとしても、接種した日付に戻して接種合計数を計算しなければならないはずだが。河野太郎は増分が100万回を超えた何だと意味もないことを言っている。大体が何日の増分は何回だと計算できること自体が接種した日付が入力されているからで、それを無視して入力した日付の接種回数に上乗せること自体、おかしな計算方法となる。

 菅義偉が「1日100万回だ」何だと言っているから、無理に合わせようとしているとしか見えない。要するに「実力で80万回程度は達成していると思いますので、100万回を目指してしっかり頑張っていきたいと思っております」と発言しているところが正直な回数なのだろう。

 1日の摂取回数を正確に把握できていないことは国の情報管理という点で問題はあるが、2021年6月17日時点で「累計の接種回数は2700万回を超え、1度でも接種した人の数は2000万人を超えました」としている発言から累計の接種回数2700万回から計算しても、日本の2016年10月1日現在の推計全人口1億2693万3千人で、人口の21%しか摂取できていないことになる。

 6月12日以降のいつかの時点で1日100万回を超え、さらに110万回に達するかもしれないが、均すことにして6月12日以降1日100万回で計算すると、7月末まで50日×100万回=5000万回。この5000万回に先の2700万回をプラスすると、7700万回。全人口の約60%が7月末までに少なくとも合計の接種を終えている計算になる。

 但しこの60%が確実な数字になるかどうか、この記者会見での記者との質疑から見てみる。

 山本文化放送記者「総理にワクチンに関連してお話をお伺いしたいと思います。先ほど、総理が1週間で730万回を超えて1日平均で総理が目標に掲げた100万回を達成したと明らかにされました。また、職域接種もスタートし、今後は若い人も含めて接種を加速するお考えのようですが、そうなりますと、国民の5割接種も視野に入ってきたのではないかと考えられます。いつ頃5割接種実現する見通しなのか、その点についてお聞かせいただきたいのと、また、インド株への懸念があるものの、5割接種が実現できれば、様々制限を受けている社会経済活動に具体的にどのような希望の光が見えてくるのか、総理の見解をお聞かせください」

 この5割接種は2021年5月28日の「菅記者会見」(首相官邸)で毎日放送の三澤記者が集団免疫という言葉は使わずに感染率低下の線引を「日本国民の半分、50パーセントの接種」に置いて、50パーセント接種達成の明確な期限の提示を求めたのに対して菅義偉は期限については答えずに「イギリスでは1回目を5割打ったら大体ものすごい効果が出たということで、今、マスクなしにしていますけれども」云々と、1回目の接種で国民の5割接種後に感染抑止の大きな効果が出ていること、マスク無しの生活ができていることを伝えていて、1回目のみの5割接種でも感染防止効果が大きいことを示唆している。こういったことをいつか発言していて、このことに基づいた1回目接種5割に置いた一応の集団免疫説なのかもしれない。

 一般的には多くのワクチン接種によってそれぞれが免疫を持ち、感染が広がりにくくなる集団免疫を獲得するのは国民の70%接種が必要とされているが、記者、菅義偉、両者共に国民の1回目接種50パーセントを一応の集団免疫の基準としていることになる。

 となると、先の計算での7月末合計接種回数国民の約60%で少なくとも1回目接種5割接種の達成に近づいている可能性は出てくる。

 菅義偉「先ず、ワクチン接種については、関係者の皆さんの多大な御協力いただく中で、極めて速いペースで進捗しているというふうに理解しております。先ほど申し上げましたように、直近1週間では730万回、1日平均100万回を超えるペースで増え続けています。昨日までに2700万回を超えております。

 希望する国民の半分の方が接種される時期については、現時点で明確な数字を持っているわけではありませんので、ただ、今のペースで増え続けた場合、今月中に4000万回を超える見込みであり、7月末までに希望する高齢者の皆さんには2回接種できる、こうした報告も受けています。

 さらに、これ21日から大学や職域、産業医の先生方を中心に、そうしたところで接種も始まります。一番新しい数字では既に3,123か所、1,280万人分、そうした申請もあるというふうに報告を受けました。

 いずれにしろ発症や重症化予防の高い効果というのは、このワクチンには世界の例からしても見込まれますので、いずれにしろ重症化リスクの高い高齢者の皆さんへの接種が進むことで、医療の負荷というのは大幅に減るだろうと、こういうふうに予測しております。

 さらに、ワクチン接種が進むことで状況が一変して皆さんが街に出てにこやかな顔で食事している、そうした海外の映像を見る度に、一日も早く、ああした日を日本も取り戻すことができればなという、そういう思いの中で、私自身、全力で取り組んでおります」

 菅義偉はこの記者会見でも、5割接種の明確な時期について答弁を避けている。2021年6月16日の時点で2700万回。残る14日間の6月中に「4000万回を超える見込み」と言うことなら、1日接種回数100万回の計算となって、合計4100万回となる。当然、オリンピック初日の2021年7月23日までの23日間に1日100万回と計算したとしても、2300万回。合計6400万回。人口の50%に届くことになるが、2度接種者が入っているから、1回接種者は50%を割るかもしれないが、5割接種を一応の集団免疫の基準とするなら、相当な接種人数となる。

 但し1日100万回の接種で「今月中に4000万回を超える見込み」と割り出すことができるなら、ファイザーのワクチンは1回目から3週間後が2回目の接種、モデルナ社のワクチンは1回目の接種から4週間後が2回目の接種となっているから、VRSの個人の接種履歴に基づいてそれぞれのワクチンの2回目接種までの間隔日数を入力していけば、5割接種が見通せるはずだが、見通せないこと、あるいは見通さないことはやはり情報管理という点で問題が生じる。

 菅義偉はワクチン接種を感染対策の切り札とし、5割接種を一応の集団免疫に置いていながら、集団免疫への確約となると歯切れが悪くなる。

 テレビ東京篠原記者「総理と尾身先生にお伺いいたします。総理は、先日の党首討論で、11月までには希望する人全てのワクチン接種を完了させるとのメドを示されましたが、この時点で集団免疫は獲得できるという認識でしょうか」

 党首討論で菅義偉は立憲民主党代表枝野幸男に対して「今年の10月から11月にかけては必要な国民、希望する方全てを終える、そうしたことも実現したいというふうに思います」と答弁している・

 菅義偉は「今回のワクチンについては発症予防や重症化予防の効果が期待されており、正に感染対策の切り札だと言っても言い過ぎではないと思います。一方で、ワクチンの感染予防効果については現時点で明らかになっていないものの、前向きな評価や調査研究があるというふうに承知しています」と前置きして、相変わらず、直近1週間、7日間で730万回となった、1日の摂取回数が100万回を超えたとか、摂取回数を言うだけで、集団免疫については「まず尾身先生に聞いて、専門家の先生はあまり申し上げていないのですけれども、そうした(集団免疫の)体制にはどんどんどんどんと近づいていくと、こういうふうに思っています」と自らは明確に答えずに尾身茂に説明を任せている。

 政府分科会会長の尾身茂は2021年5月28日の菅記者会見では「集団免疫というような状況、そのような状況ですよね。感染がどんどん下がるというような状況がなるべく早くするために、オールジャパンで(ワクチン接種に)努力すべき、今、時期だと思います」と集団免疫に肯定的な意見を持たせていたが、ここでは10月、11月にワクチンの接種率が上がったとしても、若者の接種率が高齢者の接種率程上がらない可能性から小さなクラスターが起きるかも知れないが、現在以上に感染の防御がしやすくなるといった説明をしている。

 このように姿勢が変わった理由は続けた発言から窺うことができる。

 尾身茂「(接種が進めば)安心感はある。(感染が置きたとしても)コントロールしやすいけれども、既に全員が、実は皆さん御承知のようにイギリスはワクチンの接種率が非常に高いですよね。しかし、そこで急にロックダウンなんかを解除すると、あっという間に新規の感染者が増えていますから、あれだけの接種率をやっても、人々の行動次第では、たまたまイギリスはまだ重症者とか死亡者は抑えられていますけれども、ともかく新規の感染者は、あれだけ行っていてもですよね。社会の行動、人々の意識あるいは政府の対応の仕方、自治体の対応の仕方ではすぐに行ってしまう(感染がすぐに拡大してしまう)ので、私は、そこは、(ワクチン接種が進めば)安心はするのだけれども、急に解除みたいなことはしないでやった方がいいと思います」

 ワクチン接種率の高さが必ずしも感染防止に繋がらないことを理由に行動規制の緩和時期決定の重要さについて警告を発している。

 先ずはイギリスの接種率を見てみる。2021年5月24日付「BBCニュース」がイギリスでは2021年5月22日に1回目の接種が3794万3681人、2回目の接種が2264万3417人となったと英健康安全庁(UKHSA)2021年5月23日発表を伝えている。イギリスの2020年の人口は約6790万人。国民の半数を超えて、1回目の接種率56%ということになる。

 記事は、〈イギリスでは22日、1回目あるいは2回目のワクチン接種を受けた人の数が76万2361人と、1日あたりの接種数としてはこれまでで2番目に多かった。〉と伝えているから、2021年5月23日の英健康安全庁の発表から、この記者会見までの25日経過を計算に入れると、1日平均接種50万回と見積もったとしても、1250万回。国民の70%近くの国民が少なくとも1回目と2回目を合わせた接種を終えていることになる。成人の43%が2回の接種を完了したとの報道もイギリスでの接種の進み具合を示している。

 但し記事はワクチン接種がインドで確認された変異株に効果を持たせるためには2回の接種完了が必要だとする英健康安全庁トップの警告を伝えている。

 この警告が実際の形を取ることになった。6月17日菅記者会見から2日前の2021年6月15日付の「NHK NEWS WEB」

 〈インドで確認された変異ウイルスによる感染が国内で急速に拡大しているとして、新型コロナウイルス対策の規制をほぼ撤廃する計画をおよそ1か月延期すると発表しました。〉というものである。

 イギリスのイングランドでは新型コロナウイルス対策として続けてきた規制を今年3月から段階的に緩和、6月21日にはナイトクラブの営業などほぼすべての規制が撤廃される見通しだったが、5月以降、インドで確認された変異ウイルスのデルタ株が急速に拡大、新たな感染の90%以上を占めることになって、ここ1週間程は1日の感染者が7000人を超える日が続いたため、ジョンソン首相は6月14日、規制の撤廃を7月19日に延期すると発表した。

 ジョンソン首相「規制を撤廃すれば、ウイルスがワクチン接種のスピードを上回り、数千人が犠牲になる事態が現実に起こりうる。ウイルスは根絶できず共生しなくてはならない」

 但し記事はイギリスの保健当局がデルタ株に対してはワクチンの2回接種は有効だという見解を示していて、7月19日までに18歳以上の国民のおよそ3分の2に2回の接種を完了させるため、接種の間隔を短縮するなど対応を急ぐ方針だと伝えている。

 と言うことは、菅義偉が2021年5月28日の記者会見で発言した「イギリスでは1回目を5割打ったら大体ものすごい効果が出たということで、今、マスクなしにしていますけれども」云々の発言、1回目接種5割に置いた一応の集団免疫説は全くの無効となる。このことと2021年6月15日付「NHK NEWS WEB」記事を読むか、教えられるかして、菅義偉は「今回のワクチンについては発症予防や重症化予防の効果が期待されており、正に感染対策の切り札だと言っても言い過ぎではないと思います」としながらも、「一方で、ワクチンの感染予防効果については現時点で明らかになっていないものの、前向きな評価や調査研究があるというふうに承知しています」と感染予防効果は否定しないものの、その効果は明確に証明れていないことを以って集団免疫について曖昧な態度を取ることになったのだろう。

 尾身茂のイギリスを例に取ったワクチン接種率の高さが必ずしも感染防止に繋がらないことと、そのこととの関連で訴えた行動規制の緩和時期決定の重要性は尾身茂を含めた総勢26名の専門家で纏め、政府と大会組織委員会に提出した「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に伴う新型コロナウイルス感染拡大リスクに関する提言」(NHK NEWS WEB/2021年6月18日 20時20分)の中でも述べられている。

 〈2 世界の感染状況

・世界の新型コロナの感染状況をみると、今もなお、1日あたり約40万人の感染者と約1万人の死亡者が報告されています。北半球では、特にアジアのこれまで感染者の少なかった国でも感染者が急増する国が見られています。南半球のアフリカ・南アメリカの多くの国々では、感染者の増加傾向が見られています。

・北半球のうち、欧州や北米などの先進国では、感染者数が減少しています。ワクチン接種の促進が感染者数の減少に貢献したことは事実ですが、そのほかにも各国で取られてきたロックダウン等の対策や気候など、様々な要因が影響したと考えられるため、ワクチン接種がすべてではないことに留意すべきです。実際にワクチン接種が相当程度進んでいる英国でも、感染者の増加は確認されているため、今後の動向には注意が必要です。〉――

 「ワクチン接種の促進が感染者数の減少に貢献したことは事実だが、・・・・・ワクチン接種がすべてではないことに留意すべきである」と、ワクチンに頼り切ることの危険性を訴えている。

 となると、いくらワクチン接種が進んだとしても、オリンピック開催時も、開催後も、10月になるのか、11月になるのか、2回目接種が終わるまで、菅義偉が記者会見冒頭発言の最初の方で述べていた「感染防止とワクチン接種の2正面作戦」は続けるべきであり、菅義偉がワクチン接種がさも進んでいる例として報告を受けていると何度も挙げている「7月末には希望する高齢者への2回の接種が完了する見込み」も、他の大多数の2回接種が進まない限り、高齢者の重症化は少ないかも知れないが、2回接種完了していな他者への感染、重症化という懸念は完全には払拭しきれないことになる。

 こういったことからだろう、専門家の提言はオリンピックは「無観客とすることは、感染拡大のリスクを最も軽減できます」としているが、65歳以上高齢者のみならず、12歳以上国民の大多数がワクチンの2回接種が終わる見込みがない中でのオリンピック・パラリンピックは専門家の提言どおりに無観客とすべきだろう。

7月末には2回接種が完了予定の高齢者が五輪の観客として少数しか見込めないだろうことも無観客とする理由となる。2019年6月3日付「PRTIMES」が取った〈全国の15 歳以上の方に聞いた「東京オリンピック事前抽選申し込みに関する調査」〉

 有効回答数:850 名(一都六県で計500 名:その他の地域で計350 名)
 アンケート全回答者数:8407 名

 Q1. あなたは、2020 年に開催される東京オリンピックの式典や競技などを、実際に会場で見てみたい
と思いますか。(単数回答)【n=8407】

 (nは質問に対する回答者数で,100%が何人の回答に相当するかを示す比率算出の基数)

(希望年代別観客層)

「どちらでもない」は無関心派、「見たいと思わない」と「全く見たいと思わない」は拒絶派と見て、除くことにする。60代以上は「とても見たいと思う」が9.6%で、「見たいと思う」が24%の合計33.6%と最も少ない。観客という立場に立った場合、65歳高齢者の2回接種は他への影響は逆に最も少なくなって、無観客とすべき一つの理由となる。

 危機管理の常道から言っても、1回の摂取ではワクチン接種の効果が出るのかは疑わしい以上、無観客にすべきだろう。
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菅義偉のコロナ禍から国民の命と健康を守ることができていると判断不可の状況下での五輪開催は人命軽視行為&枝野幸男の党首討論に見る学習不足

2021-06-14 09:53:39 | 政治
 2021年6月9日に菅内閣初となる党首討論が行われた。コロナ禍のオリンピック開催の是非が当然のこととして主要議題の一つとなったが、その議題については2021年6月7日の参議院決算委員会でのオリンピック開催に関わる菅義偉の考え方が直近の情報として受け継がれると思うから、そこでの立憲民主党の福山哲郎と菅義偉の質疑の一部を最初に取り上げることにする。

 福山哲郎「復興五輪というスローガンもコロナに打ち勝ったというスローガンも全く国民の共鳴を得なくなりました。残念ながら政権を維持し、選挙に臨む切り札のように言われていることに私は極めて遺憾に思っています。選手や関係者のことを考えると、私もできる限り開催したいと思います。

 しかし何が何でも強行に開催すればいいというものではないと思います。コロナ禍で行われるオリ・パラは失敗は許されません。人命が関わっています。先程水岡委員(福山哲郎の前の質問者で、同じ立憲民主党議員)も言われましたが、IOCの委員が緊急事態宣言の中でも絶対にできるとか、総理が中止を求めても、開催されるという発言は主権国家として看過できないと私は考えます。

 総理は先程発言をされませんでしたが、総理は我が国の総理大臣です。こういった発言をIOCの委員にされることについて総理は何も言わないことは逆に東京で開くオリンピックの国民の思いが折れてしまいます。総理、一言言って頂きませんか。それは違うと。だから、総理として私も判断の一員だと。そう言って頂きませんか」

 菅義偉「私もあとすぐに申し上げましたけど、国民の命と健康を守るのが私の責任だと。守れなければ、やらないと。これは当然のことじゃないでしょうか」

 菅義偉は日本国首相としてオリ・パラの開催・中止・延期の決定権を握っている、あるいは与えられていることを国民に明らかにしたことになる。このことは2020年3月24日、当時の首相安倍晋三がIOC会長のバッハと電話会談、コロナの感染を理由に1年程度延期を申し出て、了承されたことが既に証明している。

 当然、菅義偉が国民の命と健康を守ることができていないと判断する基準をどこに置いているのかが問題となる。

 福山哲郎「海外からは新たな変異株が持ち込まれる可能性もあります。人流も増加します。医療体制が逼迫する可能性もあります。さらに感染者が増加すれば、医療体制が崩壊することも想定されます。政府が繰り返し述べている、総理が言っておられる『安心・安全の大会』を開催するためには開催を可能とする医療体制、感染者の数、そういった指標や判断基準を示す必要があるんじゃないんですか。

 総理、判断基準を示して頂かなきゃいけないんじゃないんでしょうか。(緊急事態宣言の)解除を目的としているだけじゃダメです。さっきの丸川大臣の答弁も全く答弁になっていません。私は(開催の判断基準を示すことが)必要じゃないかと言っているんです。だから、今、答弁をくれとはいいません。そういった物が必要じゃないかと申し上げているから、総理、お答えください」

 丸川珠代「先程申し上げましたシミュレーションを先ず見て、それが一体どのような日常の医療に負荷をかけるのかということをしっかり見て参りたいと思います。今暫くこの数字を詰める。お時間を頂戴したいと思います」

 福山哲郎「一体いつまで出されて、誰がシミュレーションしているんですか。専門家がどの程度が関わっているんですか。尾身会長はこの問題について正式に依頼を受けていないと仰ってます。誰がこのシミュレーションを――」

 丸川珠代「大会よりもかなり前に出させて頂きますが、相手があることですから、今はっきりと期限を申し上げられるような状況にはないんですが、東京都とも前提条件についてきちんと議論をしながら進めているところでございます」

 「相手があることですから」と言っていることはシミュレーションの主体を指しているはずである。「大会よりもかなり前に出させて頂きます」と言っている以上、近々に公表することを「相手があることですから」と回避する正当性は見い出し難い。少なくとも福山哲郎の「誰がシミュレーションしているんですか」の質問に答える責任は有しているはずだが、答えずじまいにした。

 この2021年6月7日の質疑から4日後、6月9日の党首討論から2日後の2021年6月11日付の「NHK NEWS WEB」記事によると、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が6月11日に東京大会の新型コロナ対策を検討する専門家らによる3回目の会合を開き、観客を入れた場合の人の流れのシミュレーションや対策案などが話し合われたと伝えている。正式名をネットで調べたところ、「東京2020大会における新型コロナウイルス感染症対策のための専門家ラウンドテーブル」となっている。2021年5月28日に第2回会合が開催されているが、議事録を公開していないから、第3回会合も公開されないのだろう。

 記事は、組織委員会は〈現時点で有効な観戦チケット(販売済みの使用可能なチケット)は全競技会場の収容人数に対して42%であることを明らかにした〉としている。このほかに1日で観客が最も多いのは7月31日の東京都で約22万5000人、東京大会の開催に伴う人の流れについて最も多い日で1日34万人の見込み。大会とは別に1日に都外から東京へ観光や出張で訪れる人は25万人、都外からの通勤や通学は194万人、その他海外からの大会関係者5万9000人、国内関係者等1万5000人、都内での競技の体験イベントや食べ物の販売などが行える「ライブサイト」3万7000人などと記事は伝えている。

 都外から東京へ観光や出張で訪れる1日25万人+都外からの通勤や通学1日194万人+その他=225万人の相当な人流となる。人流の増減が感染の増減に対応している以上、五輪開催を受けた人流の増加は数字だけの意味で受け止めることはできなくなる。

 記事は会合メンバーの発言を伝えている。

 岡部信彦座長(川崎市健康安全研究所所長)「残念ながら感染者ゼロはありえないので少しでも減らすことが重要だ。発想を変えて遠隔での観戦を楽しんでもらえないかと提案した。例えばステージ4でステイホームと言っている時に、チケットを持っている人は自由に観戦にとは言えない」

 中村英正(組織委員会メインオペレーションセンターチーフ)「観客上限について6月に方針を示すが、そのあとに何が起きるかは見通せない。当然いろんなケースを想定しないと安心安全な大会は開けない」

 感染の増加と対応しているゆえに人流の増加に対する危機感は強い。

 同じ内容を伝えている「asahi.com」(2021年6月11日 19時22分)記事は、〈全競技会場の最大収容人数の42%が販売済み〉で、〈朝日新聞の試算によると、大会全体の収容人数は1145万席。この42%は約480万枚となる。組織委は「500万枚には届かない。400万枚台」と説明している。〉と伝えていて、公表された「チケット保有者のエリア別の割合」も、〈東京、神奈川、千葉、埼玉にある競技会場のチケット所有者の7割が、この1都3県で生活する地元住民という。〉と伝えている。チケット代を無駄にしないために480万人から30万人引いて観客だけで少なくとも450万人が大会期間中に移動すると計算したとしても、この450万人のうちの7割315万人がオリンピック17日間、パラリンピック12日間、合計29日間で割ると、東京、神奈川、千葉、埼玉で計算上は1日平均約11万人程度が移動することになり、中都市は人口10万人以上の市、小都市は人口10万人未満の市となっているから、中都市と小都市の境目の人口の移動は場所によっては馬鹿にならない人流となる。当然、感染拡大の危険要因と用心しなければならない。但し、ワクチン接種の進行度によって、多少の違いはあるかもしれないが、65歳上高齢者接種完了を7月末とすると、その1週間前に五輪は開催されている。64歳以下も前倒しで行なわれているが、限定的な効果とならざるを得ないような状況にある。

 記事は「観客による人流の増加は、夏休み期間で減少が見込まれる通学者の人流よりも少ない」との声を伝え得ているが、夏休み期間中の通学者がオリンピック開催のお祭り気分に刺激を受けて、ちょっとした買い物に出たり、映画を観に行ったり、ショッピングセンターに出掛けたり、テーマパークに出掛けたりの人流に早変わりしない保証はないことを考えると、相殺されて、その差はたいして変わらないということもあり得る。

 6月7日の参議院決算委員会質疑に戻る。

 福山哲郎「(自席に引き上げていく丸川珠代の背中に向かって)いつから、誰がシミュレーションしているようなことを国会答弁するのはやめて頂きたい。総理、どうですか。基準とか、今言われた感染者数とか、そういった医療体制とか、そういったものの判断基準を示すことが早急にあるんじゃないんですか。総理、お答えください」

 菅義偉「私は先程から申し上げているとおりですね。選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、世界から選手が安心して参加できるようにすると共に国民の命と健康を守っていく。これが開催の前提条件であります。こうしたことを実現できるように対策を講じて参りますけども、これが前提が崩れれば、そうしたことを行わないということであります」

 この「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、世界から選手が安心して参加できるようにする」としている言葉は菅義偉が東京大会というエリアだけの「安心・安全」を意図していて、国内一般の「安心・安全」との兼ね合いは念頭に置いていないことが分かる。当然、あとの「国民の命と健康を守っていく」は限定的な意味しか取らないことになるが、この関係は後でまた述べる。

 福山哲郎「前提が崩れるかどうか、何で判断するんですか、総理」

 菅義偉「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、世界から選手が安心参加できるようにすると共に国民の命と健康を守っていく。これが大前提。

 そして具体的な対策としては毎日大会関係者の先ず人数を絞り込んで、これ、当初の半分以下であります。選手大会関係者にワクチン接種を、ここは私が訪米したときにファイザーからこのオリンピック大会・パラリンピック大会への提供を受けましたので、そうした中でIOCが提案する中で、約8割のワクチン接種を行っているということでございます。

 そうして大会関係者の行動を管理をして、一般との、国民との接触、ここは防止をします。入国する前に検査を2回、入国時にまた検査をし、徹底した検査をし、国民との接触を防止する。ま、そうした中で安全に接触を防止する。そう言うことによって感染の危険性がないように、そこはしっかりと講じていきたいと思います」

 党首討論の参考のためにここまでを取り上げる。菅義偉は「国民の命と健康を守るのが私の責任だと。守れなければ、やらない」を日本国総理大臣としてのオリンピック開催の条件とした。これを受けて、福山哲郎が「総理が国民の命と健康を守ることができていないと判断する基準は」と一言質問していたなら、「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、世界から選手が安心して参加できるようにすると共に国民の命と健康を守っていく。これが開催の前提条件であります」といったこれまでも国会や記者会見でほぼ同じことを散々に答弁してきたことの繰り返しを演じさせることは止めることができただろう。このような答弁自体が「国民の命と健康を守ることができていないと判断する基準」を説明する言葉とはなっていなからだ。

 菅義偉はまた大会関係者の行動管理によって「国民との接触を防止する」ことが感染防止対策となるようなことを言っているが、それはあくまでも大会関係者から国民への感染防止対策であって、五輪開催による人流増加を受けた国民から国民への感染防止対策は抜け落としたままにしている。もしかしたら、組織委員会は「東京2020大会における新型コロナウイルス感染症対策のための専門家ラウンドテーブル(第3回会合)」の人流増加が数字で示されることになるこの報告を党首討論後に合わせるよう公表したのだろうか。緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も基本的には人流抑止が感染防止の主対策となっている。五輪開催はその逆の人流増加を招くことになるから、報告で明らかになる人流増加はそのまま感染増加のリスクに目を向けさせることになり、菅義偉にとって都合の悪い情報となるからである。

 「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、世界から選手が安心参加できるようにすると共に国民の命と健康を守っていく」と言っていることは大会関係者から国民への感染防止対策の効果を出したときのみに言えることで、五輪開催による人流増加を受けた国内一般での国民から国民への感染防止対策には一切触れていないから、その点での「国民の命と健康を守っていく」方法論は除外していることになって、必然的に「選手や大会関係者の感染対策」は「国民の命と健康を守っていく」ことを保証する感染防止対策としては万全な役目を果たすとは言えない限定を受けることになる。

 要するに菅義偉は「選手や大会関係者の感染対策」が国内一般でのあらゆる感染リスクにも対応させた「国民の命と健康を守っていく」万全策であるかのように思わせる擬装を行っているに過ぎない。

 菅義偉が五輪開催に関する発言で五輪という空間の「安心・安全」を言い立てているだけで、一般社会の「安心・安全」に言及しているわけではないことをブログに何度も書いてきたが、この手の擬装と対応している。だから、分科会会長の尾身茂は開催した場合の国民への感染増大の危険性を含めたリスク管理の必要性を訴えることになっている。

 では、以上のことを認識した上で、「党首討論」 (THE PAGE/2021/6/9(水) 18:51配信)から立憲民主党代表枝野幸男と菅義偉の遣り取りのうち、オリンピックに関係する議論を取り上げ、最後に日本維新の会共同代表片山虎之助と菅の遣り取りに一言触れてみる。

 枝野幸男「それではオリンピックに関連してお尋ねしたいと思います。総理は月曜日の参議院決算委員会で、国民の命と健康を守るのは自分の責任で、それがオリンピック開催の前提条件である。その前提が崩れたら行わないとおっしゃられました。大変勇気ある、しかし当然のご発言だというふうに思います。国民の命と健康という観点から私は最大のリスクは、開催を契機として国内で感染拡大を招くということだと思っています。総理の言う、国民の命と健康を守るとおっしゃるのは、大会参加者などによる直接的な感染拡大だけではなくて、当然のことながら、開催を契機として国内で感染が広がる。それが国民の命と健康を脅かすような事態は招かないと。こういうことも含むという意味でよろしいですね。確認させてください」

 菅義偉「私自身、オリンピックについても私の考え方を是非説明させていただきたいと思います。東京大会は感染対策、水際対策、これを徹底して安全・安心なものにしなきゃならないと思います。海外から来る選手を始め大会関係者、これ、当初18万人といわれたんですけど半分以下に絞ります。それをさらに縮小する方向で今、検討しています。また、選手など8割以上はワクチンを接種して参加するということを、報告を受けています。入国前に2回、入国時に1回、そしてその後に3回、徹底して検査をし、選手については期間中も毎日行う。その予定であります。

 また、海外メディアなどは組織委員会が管理するホテルにこれ集約をします。日本国民と接触することがないようにGPSを使って行動管理をし、検査もこれ、しっかり行います。また、事前に計画書を出させますから、登録をさせて、違反した場合は強制退去させます。この5月だけでも4回、テスト大会っていうものをやっています。感染対策を含めて、いろんな準備をして、1つ1つこうした対応を行っております。まさに安全・安心の大会にしたいというふうに思います。

 それとよく、私にこれオリンピックについて聞かれるわけですけども、実は私自身、56年前の東京オリンピック大会、高校生でしたけども、いまだに鮮明に記憶しています。それは例を挙げますと例えば東洋の魔女といわれたバレーの選手。回転レシーブっていうのがありました。ボールに食いつくようにボールを拾って得点を挙げておりました。非常に印象に残っています。また、底知れない人間の能力というものを感じました、あのマラソンのアベベ選手も非常に印象に残っています。

 そして何よりも私自身、記憶に残っていますのは、オランダのヘーシンク選手です。日本柔道が国際社会の中で、大会で初めて負けた試合でしたけども、悔しかったですけども、その後の対応、すごく印象に残っています。興奮したオランダの役員の人たちがヘーシンクに抱きついてくるのを制して、敗者である神永選手に対して敬意を払った、あの瞬間というのは私はずっと忘れることができなかったんです。そうしたことを子供たちにもやはり見てほしい。

 さらに当時、パラリンピックが初めてパラリンピックと名前を付けて行った大会です。パラリンピック、障害者の皆さんには、まさに障害者スポーツに光が当たったのがあの日本の大会であります。そしてこのことを契機に、障害者の皆さんが社会進出を試みたい、まさに共生社会を実現するための1つの大きな契機になったというふうに思います」

 枝野幸男「2年ぶりの党首討論ということで、多くの国民の皆さんが、特に感染症から、そしてオリンピックを開催して、命と暮らしを守れるのかどうか、注目されています。総理の後段のお話はここにはふさわしくないお話だったんではないかと言わざるを得ません。私たちは、例えば検査の対象は、私は場合によっては政令でも拡大できる話だと思いますし、100%しないとニュージーランドやオーストラリアのようなことができないのかというと、必ずしもそうではありません。徹底して1人の感染者の周辺を検査するということ自体、アプローチしてこなかったというのは間違いありません。

    ・・・・・・・(中略)・・・・・・・・

 私のお尋ねには、なかなか正面から答えていただけませんでしたが、私はオリンピックに関連してなんとか選手やコーチの皆さんについては頑張られるんだと思います。ただ、例えば、これはオリンピックがもし開催されて、世界中から東京に人が集まる、日本中から人が集まる。そして夜遅くまでテレビで生中継されている。そういう状況のときに例えば感染が広がって、不要不急の外出を抑えてください。夜は飲食店をやめてください。あるいは営業をもう休業してください。こうしたことをお願いできますか。そしてお願いしたとしても説得力はありますか。

 残念ながら、もしリバウンドの兆候が見えても、強い措置を取ってもなかなか国民の皆さんの理解が得られないという状況が、前後合わせると2カ月続くんです。夏休みとも重なります。東京で約半年にわたって事実上ずっとみんな我慢をしてきた。どこかで解除したら緩みは必ず出ます。それによって、急激な第5波でまた医療逼迫、それがオリンピックや、あるいは特に後半にあるパラリンピックに重なったら、どうなるんだと。

 そういうことを考えたら、私は前回の東京オリンピックは、私の生まれた年です。だから私は見た経験はありません。でも生まれたときから、子供のころからオリンピックの年の生まれだね、言われてきたし言ってもきたし、それなりに思い入れがあるつもりですし、選手の努力を考えたら私もぜひ開催したいと思います。でも今日の総理のお答えを聞いたのでは、今のようなリスクも含めて本当に命と暮らしを守れるのか。命を失われたら取り返しがつかないんです。失われた命には、政治は責任を取れないんです。そのことについてのご認識が十分ではないのではないかと、残念ながら言わざるを得ません」

 30兆円規模の補正予算の速やかな編成の追及へと移る。

 枝野幸男は最初に「総理は月曜日の参議院決算委員会で、国民の命と健康を守るのは自分の責任で、それがオリンピック開催の前提条件である。その前提が崩れたら行わないとおっしゃった」と質問の矢を放ったが、菅義偉のこの発言から東京オリンピック・パラリンピックの開催・中止・延期の決定権を日本国首相として握っているということを読み取り、当然確認しておかなければならない、「その前提が崩れたら行わないと判断する基準をどこに置いているのか」の肝心な質問は一言も尋ねもせずに、「当然のご発言だ」で片付けている。

 この「基準」を確認しなければ、開催中止、あるいは開催延期の要求は菅義偉の「安全・安心の大会を実現する」の抽象的な言葉で簡単に跳ね返され続けることになる。

 枝野幸男は次に「総理の言う、国民の命と健康を守るとおっしゃるのは、大会参加者などによる直接的な感染拡大だけではなくて、当然のことながら、開催を契機として国内で感染が広がる。それが国民の命と健康を脅かすような事態は招かないと。こういうことも含むという意味でよろしいですね。確認させてください」と尋ねた。

 対する菅義偉の答弁は大会参加者に対する感染対策を述べただけだから、五輪の感染対策絡みで普段口にしている「国民の命と健康を守る」と同様、大会参加者を通した国民への感染拡大を阻止する観点から「国民の命と健康を守る」と言っているに過ぎない。五輪開催を受けた人流増加によって国民から国民への感染の機会・危険の増大が想定される危機管理の観点からその感染防止対策を打ち出して、その水平線上で、いわば社会全体に目を向けて「国民の命と健康を守る」と確約しているわけではない。枝野幸男がこのことを菅義偉のこれまでの国会答弁や記者会見発言から学習していたなら、何らかの反論を加えることができただろうが、何の反論もしなかった。

 菅義偉が1964年10月の第1回東京オリンピックでの東洋の魔女やオランダの柔道選手ヘーシンク選手やマラソンのアベベ選手の素晴らしい活躍が人々に感動を与えたことと、この大会で初めて開催されたパラリンピックに参加した障害者の活躍が彼らの社会進出、共生社会実現の「1つの大きな契機になった」ことなどを挙げて、オリンピック・パラリンピックの価値を述べ、開催の理由としていたことに対して枝野幸男は「総理の後段のお話はここにはふさわしくないお話だったんではないかと言わざるを得ません」のみで片付けている。つまり1964年の日本の社会と57年後の20021年7月から8月の日本の社会を同列に扱っていることに何の異議申し立ても行なわなかった。

 長い期間に亘って多くの死者・重傷者を出し、医療逼迫を招き、社会・経済活動の極度な制限を強いるパンデミック状態にあるコロナ禍での五輪開催の是非を議論しているのだから、1964年との比較で2021年開催の妥当性を主張し、その主張を正当づけるためには1964年が少なくとも東日本大震災のような大自然災害に見舞われていたか、コロナ同様の何らかの感染症がパンデミック状態にあったものの、それらの災厄を克服した中での開催だったのだから、2021年の現在の状況の中でも開催は可能であるとする議論は成り立つが、1964年はそういった困難に日本社会が見舞われていた中での開催ではなかったではないか、比較することはできないではないかと反論しなければならなかった。

 少なくとも1964年の社会状況と2021年の社会状況を同一レベルで扱っていいのかと尋ねるべきだったろう。つまり菅義偉はオリンピックだけのことを頭に置いて、比較できないことを得々と比較したに過ぎなかった。枝野幸男側から言うと、菅義偉が比較できないことを比較するするのを安々と許してしまった。

 NHKまとめによると、2021年6月12日 23:59 時点での国内のコロナ感染による累積死者数は1万4042人+クルーズ船13人=1万4055人となっている。重傷者数は852人だが、回復して社会復帰している感染者もいるから、述べ人数はずっと多くなる。

 警察庁発表の2021年3月10日時点での東日本大震災での死者1万5899人、重軽傷者6157人、警察に届出があった行方不明者2526人のうちの死者1万5899人に迫るコロナ感染累積死者数1万4055人である。

 要するにコロナ禍から国民の命と健康を守ることができていない。オリンピックというエリアのみが「安心・安全」であればいいという理由は成り立たない。当然、このような状況をオリンピック開催までに断ち切ることができず、続くようなら、開催強行は日本政府のトップ菅義偉による人命軽視行為となる。

 こういった認識を持てずに開催することだけが頭にあるからなのだろう、菅義偉は1964年の第1回東京オリンピックの高校生のときだったという思い出話を素晴らしいことのように語った。菅義偉の脳ミソの程度を疑いたくなる。

 菅義偉は第1回東京パラリンピックを持ち出して、障害者の社会進出、共生社会実現の「1つの大きな契機になった」とその意義を強調しているが、意義を強調する資格は政治に携わる者として国際比較した場合の日本の障害者の社会進出、日本の共生社会実現が質を伴った形で上位になければならない。

 先ず障害者の社会進出を「日本と世界のバリアフリー事情」(NHK視点・論点/2020年10月19日)から見てみる。

 〈野球場の車イス席の設置数を見てみましょう。公式ホームページによると東京ドームは、22席。甲子園は35席です。アメリカ、サンフランシスコの野球場では、300以上の車イス席がどのエリアにも設置。ヤンキースタジアムも500席以上。〉

 約1年前の情報だが、この1年間で日本の車イス席が増えたとしても、アメリカの数に敵わないのは目に見えている。車イス席の数そのものが障害者の社会進出の程度そのものを物語り、共生社会実現の程度を物語っていることになるだけではなく、社会進出や共生社会の質も一定程度示唆している。

 日本障害者法定雇用率は2021年3月から民間企業の法定雇用率は2.3%、国や地方公共団体は2.6%、都道府県などの教育委員会は2.5%となったが、政府が障害者の採用を盛んに尻を叩いているからか、それぞれの実雇用率は各法定雇用率に迫っている。結構なことだが、「障害者雇用からはじまる『働き方改革』取り巻く潮流と未来を予測」(チャレンジラボ/2019.08.08)に次のような一文がある。
   
 〈スウェーデンやデンマークなどは法定雇用率がありません。日本企業にとってみれば、「義務もペナルティもないのに、なぜ障害者雇用を進められるのか」という疑問もわいてくるでしょう。

 私たちがスウェーデンのホテルチェーン企業でヒヤリングを行ったとき、最初に障害者の雇用者数を聞いたところ「カウントしたことがない」と返されました。彼らの間で障害者は「さまざまな特徴・特性を持った人たちの1人」という考え方が自然のようでした。もともと社会全体に、言葉も文化も違う移民が多いという背景もあるかもしれません。〉

 〈もともと社会全体に、言葉も文化も違う移民が多いという背景もあるかもしれません。〉という評価がどの程度の妥当性を持ち得ているかどうかは門外漢として判定できないが、要するに障害者を対等な1個の人間として区別なく対面できている様子を窺うことができる。いくら日本の障害者実雇用率が法定雇用率に迫っていたとしても、対等な姿勢を持ち得た対面を日常的にできていなければ、実雇用率は色褪せることになる。菅義偉が日本社会が障害者を1個の人間視できている環境にまで成熟できているかどうかまで考えて第1回東京パラリンピックが障害者の社会進出、共生社会実現の「1つの大きな契機になった」と言ったかどうかは極めて疑わしい。

 参考までに「note」(2019/11/11 11:49)が行ったアンケート期間2017/8/4~2017/8/10(有効回答者数:326名)のインターネット調査「障がい者に対する差別・偏見に関する調査」を挙げておく。

 「あなたはどのような場所で差別・偏見を受けたと感じた経験がありますか」 (複数選択可)

 職場 56%
 公共交通機関 30%

 実際に第1回東京パラリンピックが障害者の社会進出、共生社会実現の「1つの大きな契機になった」が事実だったとしても、生きていてこその障害者の社会進出であり、共生社会の実現である。コロナで命の保障がなくなったなら、社会進出や共生社会の実現が潰える障害者も出てくる。そして命は健常者・障害者の違いに関わらずに全ての人間に対して相互に保障されなければならない。日本国憲法第13条の「すべて国民は、個人として尊重される」は命の相互的な保障を謳っている。コロナから「国民の命と健康を守る」ことができない状況を放置したまま、五輪競技に於ける障害者の活躍がほかの障害者やその他を勇気づけることになるとの理由で開催することは命の相互保障に反することになる。

 枝野幸男は以上見てきたように菅義偉の「国民の命と健康を守るのは自分の責任で、それがオリンピック開催の前提条件である。その前提が崩れたら行わない」とする発言に対して「その前提が崩れたら行わないと判断する基準をどこに置いているのか」と尋ねる肝心な質問を失念させたこと、
菅義偉の言う大会参加者に対する感染対策が社会全体に目を向けた「国民の命と健康を守る」の確約となっていないことの矛盾を放置させたこと、菅義偉が時代性を無視して第1回東京オリンピック・パラリンピック開催の1964年と第2回が開催される2021年を同列に扱ったことに気づかなかったこと等々は枝野幸男の学習不足から明らかに来ている失態であろう。

 では、日本維新の会の片山虎之助の質問に対する菅義偉のか違った答弁を見てみる。文飾は当方。

 片山虎之助「それからオリパラについては、もう時間がほとんどありませんが、開催する都市というのは東京都なんですよ。開催都市っちゅうんですかね。どうもその東京都があまり出ない。総理がですよ、非常に矢面に立って、オリパラをどうするということで、例えば専門家会議との間のあれでいろいろと攻撃といったらあれですが、攻撃されていますよね。それ本当はもっと東京都知事の小池さんが出なきゃ私はいかんと思うんですよ。後方支援なんですよ、総理は。それが表に出ていっているんで、私はもっとそこの連携がうまくいっているのかと思うのですが、いかがですか」

 菅義偉「私が申し上げたいことを言っていただいて大変うれしく思います。私はそういう答弁をしても責任は全部総理大臣だろうと、国会議論というのはほとんどそうなっています。総理大臣の判断。しかし、ご承知のとおり、今、片山代表からお話しいただいたのが筋道としてはそうだというふうに思います。ただ、私も逃げる気持ちはありませんし、そうした中で国会ではそういう議論になっていることを、私自身は大変残念だなというふうに思っています」

 地方自治法の「第一条の二の②」は国と地方公共団体との間の基本的関係を規定している。〈② 国は、前項の規定(国と地方公共団体との間の基本的関係の確立)の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。〉

 オリンピック・パラリンピックの開催は「国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務」に当り、「全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動」の一つに相当、「全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施」に合致する。だから政府は先頭に立って五輪を誘致したり、カネを出し、国立競技場の建て替えを行ったりする。東京オリンピック・パラリンピックの開催都市は東京都であっても、国が国としての自らの責任上、大きく関わっていて、それゆえに菅義偉が言っていたように「国民の命と健康を守るのが私の責任だと。守れなければ、やらない」と開催だけではなく、開催を中止する、あるいは延期する決定権を国は握っていることになる。

 当然、開催か否かの責任に関しては東京都よりも上位にある。にも関わらず菅義偉は「私はそういう答弁をしても責任は全部総理大臣だろうと、国会議論というのはほとんどそうなっています」と責任逃れの答弁をして何とも思わない態度を取ることができる。

 再び言う。コロナから国民の命と健康を守ることができていると判断不可の状況下での五輪開催は日本の首相菅義偉による人命軽視行為にほかならない。
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丸川珠代の尾身茂発言「全く別の地平から見てきた言葉」はオリ・パラを聖域とする発想であり、自分を何様とする思い上がり

2021-06-07 10:18:28 | 政治
 2020東京オリンピック・パラリンピックは開催国日本、開催都市東京都であり、その競技はオリンピック・パラリンピックの精神と各競技のルールに則って、多分に国家を挙げての開催となるが、そうであるなら、開催国国民の開催に関わる意思・感情と矛盾があってはならない。なぜなら、国家を挙げての開催という状況と国民の意思・感情との矛盾は相反する論理性に立つことになるからだ。国民の意思・感情と矛盾した国家を挙げての開催は独裁国家ならいざ知らず、民主国家では論理的にあり得ないし、成り立たない。

 このような関係を取るのはオリンピック・パラリンピックがどれ程に国際的なスポーツの一大イベントであろうとも、運営そのものは開催国内のイベントということになるからである。オリンピック景気とその後の不景気等々は開催国内の国民生活に深く関わってくる。極端な例ではあるが、東京オリンピック・パラリンピック開催前に東日本大震災のような巨大な自然災害に見舞われ、多くの死者を出している状況にあった場合、開催都市にその影響が皆無であっても、国民は開催に矛盾を感じずに済ますことができるだろうか。

 新型コロナウイルスの感染症についても同じことが言える。感染が社会的に大きな広がりを見せ、国民の移動の自由や社会経済活動を大きく制約し、なおかつ感染拡大を受けた治療・療養の必要人数の増加が医療の逼迫を招き、軽症者や無症状者は入院はおろか、ホテル療養も断られて、止むを得ず自宅療養を選択、家族に感染させてしまう例がなくならない状況をよそに置いて、東京オリンピック・パラリンピックだけが感染対策をしっかりと施して開催が許されるとしたら、開催国の社会状況を無視した振る舞いとなり、しかも無視する主体が開催国の政府と東京オリンピック・パラリンピック組織委員会ということになって、民意を無視したイベントの強硬開催という体裁を取ることになる。

 参考までに東京オリンピック・パラリンピック開催に関して質問した2021年5月15、16日実施の「朝日新聞世論調査」を挙げておく。丸カッコ内の数字は、4月10、11日の調査結果。

◆あなたは、東京オリンピック・パラリンピックをどのようにするのがよいと思いますか。(択一)

 今年の夏に開催する 14(28)

 再び延期する 40(34)

 中止する 43(35)

 その他・答えない 3(3)

 前回調査よりも「中止」、「延期」が増えて、「今夏の開催」が逆に減っている。

一つだけだと都合のいい数字を持ってきたと見られるから、2021年5月の「NHK世論調査」を見てみる。

 「東京オリンピック・パラリンピックの観客の数について、IOC=国際オリンピック委員会などは来月判断することになりました。どのような形で開催すべきと思いますか」

 「これまでと同様に行う」2%
 「観客の数を制限して行う」19%
 「無観客で行う」23%
 「中止する」49%・・・・・

 「開催」合計が44% 「中止」が49%。オリンピックの開催よりもコロナの感染を受けた社会経済活動の制約が解決されること、移動制限が解除されて、自由な日常生活が回復されることを優先順位に置いている。つまり日常生活あってのオリンピックと看做している。

 西村康稔内閣府特命担当相の2021年6月4日「閣議後記者会見」(NHK NEWS WEB/2021年6月4日 14時05分)

 西村康稔「新型コロナウイルスに対応して頂いている医療機関には、ワクチン接種や一般医療もお願いしているうえ、オリンピックでは、熱中症やけがなどへの対応が必要になるので何重にも負荷がかかる。

 〈東京オリンピック・パラリンピックの期間中の医療への負荷を軽減するためにも、6月20日が期限となっている緊急事態宣言のもとで感染拡大を抑え、医療提供体制を確保していく考えを強調〉

 海外から来る人は基本的にワクチンを打って貰う上、体質的に打てない人には、毎日PCR検査をすることも含めた対応でリスクはかなり減らせる。ただ、人の移動によって感染リスクが高まるのを最小化しなければならず、専門家の意見を聞いて取り組んでいきたい」

 「人の移動」と言っていることは競技観戦のための「人の移動」ということであろう。発言している趣意は東京オリンピック・パラリンピックが開催されると、競技観戦等の「人の移動によって感染リスクが高まる」から、「今月20日が期限となっている緊急事態宣言のもとで感染拡大を抑え、医療提供体制を確保」することで感染リスクを「最小化しなければならない」ということであり、感染リスクが「最小化」できれば、結果的に東京オリンピック・パラリンピック開催中の人の移動による感染も極力抑えることができて、医療への負荷もさほど増すことはなく、一般社会の医療体制が維持できることになるということであろう。

 要するに今回の緊急事態宣言によって感染者数を極力抑えることができたなら、自ずと医療逼迫が改善されるだけではなく、東京オリンピック・パラリンピック開催中も感染の機会を少なくすることが可能となって、感染対策をしっかりと講じた選手や大会関係者の「安心・安全」と国民の「安心・安全」が両立可能とすることができるということであるはずである。決して東京オリンピック・パラリンピック開催だけの「安心・安全」を言っているわけではない。

 このことを逆説すると、東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて感染者を中から極力出さず、当然、外に向けた感染も極力なくす感染対策をしっかりと行って、「安心・安全」な開催とすることができたなら、一般社会が「安心・安全」でなくてもいいというスタンスを取っているわけではない。

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂が2021年5月13日の参議院内閣委員会で東京オリンピック・パラリンピック開催可否の判断材料とする前以っての「医療負担の事前評価」が必要だとする発言を行ったと「NHK NEWS WEB」(2021年5月13日 13時49分)記事が伝えていた。

 記事は書いている。〈東京オリンピック・パラリンピックの開催の可否について「私の立場では開催についての判断はすべきでないし、できないと思う」と述べたうえで、判断に当たっては大会期間中に、どの程度医療に負荷がかかるかを、あらかじめ評価しておくことなどが極めて重要になると指摘した。〉

 だが、この「事前評価」が感染拡大と医療負担の増加を仮定の一つとした場合、東京オリンピック・パラリンピックの中止、あるいは延期の判断が入ってくることもありうる。このことを無視して開催の判断をした場合は事前評価を無視した開催の強行という事態を招きかねない。一般社会の「安心・安全」は念頭に置かずに東京オリンピック・パラリンピックの「安心・安全」だけを優先させて開催を既定路線としている菅義偉や組織委員会、五輪相の丸川珠代辺りにとっては不都合な状況に追い込まれることになる。それゆえに行って貰いたくない事前評価となる。

 厚労相の田村憲久が尾身茂のこの「事前評価」を「自主的な研究の成果の発表だと受け止めさせて頂く」と述べることで政府がお願いしたことではないと距離を置いたのはオリンピック開催を既定路線としている政府にとって開催を脅かしかねない評価が入ることを警戒してのことで、行って貰いたくない事前評価であることが田村憲久の発言に如実に現れている。

 だが、尾身茂は政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長という立場上、東京オリンピック・パラリンピック開催の影響を受けた人流の増加が開催のエリア外への感染の拡大に影響して、そのような拡大と連動して医療資源の一部をオリンピック・パラリンピックに取られている関係から医療逼迫が容易に医療崩壊へと発展した場合は感染重傷者の命の保証に手の打ちようがなくなるから、医療負担を想定した開催可否の事前評価を行うべきだと訴えているのだろう。

 と言うことは、尾身茂は一般社会の「安心・安全」を優先させていることになる。つまり一般社会の「安心・安全」があってこその東京オリンピック・パラリンピック開催の「安心・安全」だと位置づけていることになる。

 尾身茂が参議院内閣委員会で東京オリンピック・パラリンピック開催可否の「医療負担の事前評価」の必要性を訴えた翌日の2021年5月14日、菅義偉は首相官邸で緊急事態宣言の対象地域を東京、大阪、兵庫、京都、愛知、福岡の6都府県に加えて5月16日から北海道、岡山、広島の3道県を加えたことを報告する「記者会見」を開いた。
 
 江川紹子(フリーランス記者)「尾身先生が国会で五輪に関して、感染リスクと医療の負荷について、前もって評価をしてほしいというふうに述べられたと思います。これについて政府はどう対応するのでしょうか。そういういろいろなケースを想定して評価するという場合には、それは国民にきちんと根拠とともに示していただけるのかと、このことをお伺いするとともに、尾身先生には、先ほどの感染リスクと医療の負荷についての評価が必要な理由についても教えてください」

 菅義偉「先ず私から申し上げます。前回の質問の際に、マスコミの方が確か3万人ぐらい来られるというような話があったと思います。今、そうした方の入国者というのですかね、そうしたものを精査しまして、この間出た数字よりもはるかに少なくなるというふうに思いますし、そうした行動も制限をする。そして、それに反することについては強制的に退去を命じる。そうしたことを含めて、今検討しております。

 ですから、一般の国民と関係者で来られた人とは違う動線で行動してもらうようにしていますし、ホテルも特定のホテルに国として指定しておきたい。指定して、そうした国民と接触することがないようにと、そうしたことを今、しっかり対応している途中だという報告を受けています」

 江川紹子「感染リスクと医療の負荷についての評価をしてほしいというふうな尾身先生からのお言葉について、これを実行するおつもりはあるのかということを伺いました」

 菅義偉「この(マスコミ等の大会関係者の)行動指針を決める際に専門家の方からも2人メンバーになって頂いて、相談しながら決めさせて頂きます」

 マスコミ等の大会関係者の「行動指針」と「医療負担の事前評価」とは全然別物である。「行動指針」は開催を前提とした行動の手引であり、「医療負担の事前評価」は開催した場合の医療負担の増減を想定し、想定に応じて開催の可否を判定するものであって、開催を前提としてはいない。

 菅義偉は「医療負担の事前評価」をマスコミ等の大会関係者の行動指針にすり替えて遣り過した。この点からも菅政権としては歓迎できない尾身茂の「事前評価」であることが見えてくる。菅義偉は競技選手と大会関係者へのしっかりとしたコロナ対策を前提としたオリンピック開催の「安心・安全」を盛んに言い立てて、開催を既定路線としているが、尾身茂とは逆に大会の「安心・安全」を基準に一般社会の「安心・安全」を切り離しているからこそできるオリンピック開催の既定路線であり、同時に大会の延期や中止の選択肢をも判断材料の一つとすることもあり得る尾身茂の「事前評価」は却って事を面倒にすると見て、無視することにしているのだろう。

 緊急事態宣言とまん延防止等重点措置とワクチン接種の抱き合せで感染を抑制、抑制を受けた感染リスクの最小化を視野に入れることができたなら、このことを理由として「医療負担の事前評価」は必要ないと堂々と言い切ることができるはずだが、言い切ることもしない。2021年5月28日の記者会見でイギリスの例を挙げて、ワクチン接種が1回目だけであっても、国民の5割に達すると効果が出ると発言していたが、オリンピック開催までの5割到達が計算できていないのかもしれない。

 尾身茂の答弁を見てみる。

 尾身茂「今の御質問は、なぜ医療への負荷の評価をしなくてはいけないかということですけれども、実は今、なぜこれだけ多くの人がオリンピックに関係なしに不安に思っているかというと、感染者が500行った、600行ったということよりも、今はやはり医療の負荷というものが、つまり一般医療に支障が来て、救急外来も断らなくてはいけない、必要な手術も断らなくてはいけない、しかも命に非常に直結するようなところまでという状況になっている。

 さらに、医療のひっ迫というのが重要なのは、これから正にワクチン接種というところに医療の人がまた、さらにいろいろな人が、オリンピックだろうが何だろうが多くの人が来れば、コロナにかかるかかからないかにかかわらず、多くの人が来ると一定程度必ず何か具合の悪いことになるというようなこともあるわけですよね。

 そういう中で私が申し上げた理由は、いずれ私は、関係者の方は何らかの判断を遅かれ早かれされると思うのですけれども、それは開催を仮にするとすれば、前の日にやるわけではないですよね。当然X週間、Xデー、Xマンスを、時間的余裕を持ってやるわけで、そのときの医療への負荷というものは、そのとき、分かりますよね、もう医療が本当にかなり良い状況、中くらいの状況、いろいろ分け方はあると思いますけれども、そのことの状況に応じて、仮にオリンピックをやるのであれば、そのX週間後にどのぐらいの負荷で、状況があれだけれども、更なる負荷ということになりますね。そのことをある程度評価するのは、オリンピックを開催する人たちの責任だと私は思います、ということで申し上げたということ」

 長々とした答弁だが、言っていることは新聞報道が伝えている2021年5月13日参議院内閣委員会での発言と同じである。ただ違うのは東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて「医療負担の事前評価」を行うことは「オリンピックを開催する人たちの責任」だと名指ししていることである。勿論、主として開催国日本のトップである菅義偉のことを言っている。

 尾身茂がこの後も「事前評価」の必要性を国会等で言い続けているのは菅義偉が「事前評価」には無関心を装い続けているからなのだろう。何らかの反応があれば、言い続ける必要はなくなる。2021年6月2日付の共同通信配信の「東京新聞」記事。

 先ず2021年6月2日の衆院厚生労働委員会での発言。

 尾身茂「今の状況で(大会開催を)やるのは普通はないわけだ。パンデミック(世界的大流行)の状況でやるのであれば、開催規模をできるだけ小さくして管理体制をできるだけ強化するのは主催者の義務だ。

 何のために開催するのか明確なストーリーとリスクの最小化をパッケージで話さないと、一般の人は協力しようと思わない(専門家としての評価を)何らかの形で考えを伝えるのがプロフェッショナルの責務だ」

  同衆院内閣委員会。

 尾身茂(感染最小化が組織委の「当然の責任だ」との認識を重ねて示した上で)「どのような状況で感染リスクが上がるのか、しっかり分析して意見するのが専門家の務めだ。

 (移動の自粛などを要請する中でのパブリックビューイング開催や選手村への酒の持ち込みが可能な状況について)一般の人の理解、協力を得にくくなる」

 2021年6月3日付「東京新聞」記事。2021年6月3日の参院厚生労働委員会での発言。

 尾身茂「こういうパンデミック(世界的大流行)でやるのが普通ではない。やるなら強い覚悟でやってもらう必要がある。
 
 (五輪開催時は全国から会場への観客の移動、パブリックビューイングなどでの応援といった要因から新たな人の流れが生まれると分析。)スタジアムの中だけのことを考えても感染対策ができない。ジャーナリスト、スポンサーのプレーブック(規則集)の順守は選手より懸念がある」

 そして近く専門家の考えを示すことも明らかにしたという。

 記事解説。〈分科会は、政府のコロナ対策に専門的な知見から提言を行う組織で、五輪開催の可否には関与しない。会長の尾身氏は、世界保健機関(WHO)西太平洋事務局に長年勤務。重症急性呼吸器症候群(SARS)に事務局長として対応した経歴を持つ。尾身氏の最近の苦言は、感染症の専門家の意見が反映されないまま五輪が開催に突き進むことへの危機感の表れだ。〉

 近く専門家の考えを示すと言っていることは2021年6月2日付「NHK NEWS WEB」が2021年6月2日の衆議院厚生労働委員会での尾身茂の発言として伝えている。

 尾身茂「国や組織委員会などがやるという最終決定をした場合に、開催に伴って国内での感染拡大に影響があるかどうかを評価し、どうすればリスクを軽減できるか、何らかの形で考えを伝えるのが、われわれプロの責任だ。

 (考え方の伝え先や時期などについて)政府なのか、組織委員会なのか、いつ伝えるべきかはいろんな選択肢がある」

 尾身茂は「開催に伴って国内での感染拡大に影響があるかどうかを評価する」と言っているが、評価次第では開催中止や開催延期の声が上がることもありうる。

 要するに菅義偉が「オリンピックを開催する人たちの責任」として「医療負担の事前評価」を行わないのであるなら、自分たち専門家で「事前評価」を行い、政府に示すという意思表明であろう。

 こういった国会での尾身発言に対して五輪相の丸川珠代が2021年6月4日の閣議後会見で示した反応を2021年6月4日付「asahi.com」記事が伝えている。

 丸川珠代「我々はスポーツの持つ力を信じて今までやってきた。全く別の地平から見てきた言葉をそのまま言ってもなかなか通じづらいというのは私の実感。

 できる対策は何かということに懸命に取り組んでいる。ひとつひとつの積み重ねが、本格的に社会を動かしていく時の知見になる」

 尾身茂の一般社会でのコロナの感染や医療負担の各状況が人流の増加が伴う大会開催の影響は全くないとすることはできないとする発言を「全く別の地平から見てきた言葉」だと一刀両断に切り捨てている。と言うことは、オリンピック・ラリンピック開催に無条件に同調する言葉以外は"同じ地平に立った言葉"とは看做すことはできないとしていることであり、東京オリンピック・パラリンピックという場を一般社会の関与を許さない聖域とする発想となる。オリンピックはオリンピックでしっかりとコロナ対策を行っていきます、オリンピックに関係のない人間は余計な口出しはしないでくださいとオリンピックを特別視していることになるからである。

 しかも私には「なかなか通じづらい」としていることはそれがオリンピックの開催に適わない「地平」からの言葉であったとしても、一般化して事の是非を判断せずに丸川珠代自身の判断を基準に「全く別の地平から見てきた言葉」だと解釈し、「通じづらい」と価値づけているのだから、極上の思い上がりとなる。

 丸川珠代にとって世論調査に於けるオリンピック開催に不都合な回答も、「全く別の地平から見てきた」「通じづらい」回答に見えるに違いない。

 「我々はスポーツの持つ力を信じて今までやってきた」と言っているが、要するに「スポーツの持つ力」が多くの見る人をして多大な感動を与えることを信じて、オリンピック・パラリンピックの開催に向けて努力してきたということなのだろう。「スポーツの持つ力」でオリンピックの運営に関わるマネジメントを実践してきたと言っているわけでは決してない。この手のマネジメントは収容人数が何人のどの競技会場をどの競技に当てたら、交通アクセスを含めた利便性を提供できるのか、新しく競技会場を建設すべきか等々の検討と決定を行う経営判断能力がモノを言うのであって、「スポーツの持つ力」がなくても、その能力は十分に発揮できる。

 大体が「スポーツの持つ力」の偉大さを口実にして外からの声を「全く別の地平から見てきた言葉」だと遮断できること自体、思い上がりの気持ちなくしてできない。少しでも謙虚さがあったなら、「全く別の地平から見てきた言葉」などとの発言は出てこない。

 一方で「できる対策は何かということに懸命に取り組んでいる」と言っていることは「安心・安全」に競技ができるコロナ対策に関して「できる対策は何かということに懸命に取り組んでいる」ということを指しているはずだ。尾身茂の一連の国会発言に反応させた丸川珠代の発言なのだから、「対策」とは「コロナ対策」でなければならない。

 要するに「オリンピック開催に直接関わる者として私たちは私たちでコロナ対策に懸命に取り組んでいる。オリンピック開催に直接関わらない全く別の地平から見てきた言葉はあれこれと向けないで欲しい」との意味を持つことになる。当然、後段の「ひとつひとつの積み重ねが、本格的に社会を動かしていく時の知見になる」と言っていることは「コロナ対策に向けたひとつひとつの危機管理の積み重ねが、本格的に社会を動かしていく時の知見になる」と指摘していることになる。

 だが、一般社会から比べた場合の東京オリンピック・パラリンピックの世界はごく限られた人数のごく限られた空間での危機管理であり、人の移動の管理という観点から言っても、一般社会の人の移動から比べたら、ごくごく管理しやすい局面にある。それを以って「本格的に社会を動かしていく時の知見になる」とするのは一般社会の危機管理の困難さを考えない思い上がりであろう。オリンピック・パラリンピックを聖域化しているからこそ、たいした「知見になる」との思い込みが可能となる。

 例え「スポーツの持つ力を信じてやってきた」からと言って、「やってきた」ことの全てが信じたとおりに正しいと価値づけることができるわけではない。戦前は天皇の持つ力や国の持つ力を絶対的と信じて、信じたとおりに行動してきたが、その価値判断は間違っていたと気づいた国民は多く存在する。信じたとおりに正しいと全てを価値づけて、どのような状況でも東京オリンピック・パラリンピックの開催が許されるとした場合、「スポーツの持つ力」を国民の生活を脇に置いて絶対視することになる。丸川珠代の発言は国民の生活よりも「スポーツの持つ力」を上に置いた絶対視の構造を取っていることは否定できない。

 菅義偉が2021年6月2日夜、オンライン形式で開催されたワクチン・サミットについて同日、首相官邸エントランスホールで「ぶらさがり記者会見」を行った際、記者に「新型コロナウイルスが感染拡大する中で東京五輪・パラリンピックを開催する意義について」尋ねられて、「正に、平和の祭典。一流のアスリートがこの東京に集まって、そして、スポーツの力で世界に発信をしていく。さらに、様々な壁を乗り越える努力をしている、障がい者も健常者も、パラリンピックもやりますから、そういう中で、そうした努力というものをしっかりと世界に向けて発信をしていく。そのための安心・安全の対策をしっかり講じた上で、そこはやっていきたい、こういうふうに思っています」と答えているが、丸川珠代が「スポーツの持つ力」を絶対視しているように菅義偉も「平和の祭典」を絶対視していることになる。

 「平和の祭典」だからと言って、世の中がコロナの感染で「平和」でなければ、「平和の祭典」としてのバランスを失い、開催することに疑義が生じる。つまりあくまでも世の中あってのオリンピック・パラリンピックでなければならない。
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