犬にも負けるワン

私が立っているすぐ側に、仔犬を連れた“お宅系”
の男性が来て座った。ヨークシャーテリア、生後
３ヶ月くらいか。女の子たちが「キャー可愛いぃ」
と足を止める。子犬は尻尾を振って愛想を振りまく。
ますます人だかりがする。傍らで尺八を吹いている
虚無僧には目もくれない。仔犬にはとてもかなワン。
私も犬を連れて、前にお椀でも置いとこうかワン。

名鉄駅前には、「盲導犬に助成を」と訴える中部
盲導犬協会のメンバーがいつも座っている。ゴール
デンレトリバーが“寝とればぁ”、通行人が次々に
お金を入れていく。私の“布施”は犬の“伏せ”にも
負ける。ザンネンだワン。

その中部盲導犬協会、8,000万円もの金が40冊もの
通帳に分散されて、理事長の机の中に隠されていた
とか。赤い羽根、足長育英会、世界ボランティア〇〇、
どこもかしこもだ。

人の情けを逆手にとって私腹を肥やす、いいなぁ？？。
いかんいかん。これでは虚無僧はますますやりずらい。

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まあねぇちゃん

まあねぇちゃん　ことマネージャーの鈴花はん。
虚無僧にマネージャー？？。はい、そうです。
なにせ、時間と銭の観念の無い虚無僧ですから
『管財人』が居るんです。
虚無僧はケータイを持ってませんので、私に用の
ある方は鈴花はんのケータイに掛けてきます。
私の居場所はいつも把握してますので、連絡は
とれるようになっとります。

お金に執着しない虚無僧ですので、いろいろ
セールスが来ると、お金があれば、何でも直ぐ
買ってしまいます。ですから、お札は持たされ
ません。手元には小銭だけです。

もう知り合って13年。最初の頃は偶に喧嘩もしまし
たが、ここ１年、喧嘩しなくなりました。なんでも
“はい”。お互い素直が一番。夫婦だとつい甘えが
出、あれもこれもと期待し、不満が募ります。他人
だと遠慮もあって、お互いを尊敬し、認めあい、
期待に応えようとしますので、すべてがスムーズ
に流れていきます。「夫婦愛和」の秘訣は、お互い
他人として認めあうこと。カンタンなことだと、最近
漸く悟りました。

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ヤクルトのお姉さん

「やぁ来ると思った、ヤクルトお姉さん」

３年前、ヤクルトさんが訪問して来た時は、
所持金300円。訪問セールスを断れない性格。
その日暮らしの虚無僧生活であることを話し
て、300円で買えるものを買った。

するとその後も定期的に訪問してくる。
その時の“有り金”で買えるだけを買うように
なった。すると今度は化粧品を勧めてきた。
「男一人所帯では化粧品は売れない」と一般に
は思うだろうが、臆せず進めてくる。感心した。
髪がどんどん薄くなる。虫歯になったら大変。
尺八吹くのに歯は命。講演もするので、顔の
シミも気になる。
というわけで、なんだかんだ勧められるままに
化粧品もいろいろ買うようになった。おかげで
60歳にしては、髪は黒々、顔の肌もつやつや、
腸も健康。

毎週月曜日、手持ちのお金は、ヤクルトさん
が持って行く。月曜日また０からスタート。
捨てきると、また入ってくるから不思議。

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虚無僧の装束

昨日の虚無僧装束は、白い着物に天蓋と偈箱のみ。
袈裟や数珠はやめた。これなら「偽僧侶」ではない。
「僧形」を偽っているわけではない。

昨晩の反応は、
「すごい、上手ですね」
「あなたは、こんな所で吹くような人ではないでしょう」
「初めてみた、いいなぁ。日本人に生まれたことに感謝」
と、勤め帰りのサラリーマン４人が、500円玉を入れて
くださった。

帰り道、ずうたいの大きな若者が近づいてきて「いんちき！
にせ者」とペットボトルを投げつける仕草をした。
「虚無僧を知らないのか！」と心で一喝。そう、虚無僧は
“偽坊主”なのだ。“偽”であることが“本物の虚無僧”
なのだ。“僧”と見るか、“偽坊主”と見るかは、あなたの
心次第。

虚無僧の装束 ２

虚無僧の原型は、室町時代の「薦僧」だった。
「薦(コモ)筵(ムシロ)」を抱えて放浪し、薦を敷いて
路地に寝るから「薦僧こもそう」と呼ばれた。
乞食に施しをすれば「徳積み」になるという風習が
あったから、コモ（乞食）も仏徒とみなされた。

江戸時代になって、たくさんの浪人が出た。
そのあぶれ者が「薦(コモ)」となって、尺八を吹いて
門付けし、糊口をしのいだ。再仕官叶うまでの
方便の姿だった。武士のプライドも捨てきれず、
深編み笠で顔を隠し、刀を差して、尺八を吹いた。

それがやがて「虚無僧」と「僧」を名乗るならばと
刀は禁止され、独特の深編み笠が考案された。
この奇抜なスタイルが歌舞伎でも取り上げられる
ようになると、錦絵などでは、花嫁衣裳のような
絢爛豪華な綿入れを着た「伊達虚無僧」も登場する。

でも『明暗』と書いた「偈(ゲ)箱」は、江戸時代に
は無かった。これが登場するのは、昭和３０年代、
映画のスクリーンの中からなのだ」

そこで、現代には現代のスタイルがあっていいと
いろいろ模索している。