ケイの読書日記

個人が書く書評

杉山春「ネグレクト(育児放棄)」

2007-08-11 16:22:40 | Weblog
 皆さんは下記の事件を覚えていらっしゃるだろうか?

 2000年12月10日、愛知県武豊町にある大手鉄鋼メーカーの社宅の一室で3歳になったばかりの女の子 村田真奈ちゃんが段ボールの中に入れられたまま、ほとんど食事も与えられず、ミイラのような状態で亡くなった。

 北側にある3畳間のわずかな空間におかれた、底の抜けた段ボール箱の中に、真奈ちゃんは両膝を曲げた形で入れられていた。
段ボールの箱にはタオルケットが敷いてあり、上には使い古しの段ボールがかぶせられていた。
 オムツは糞尿で膨れ上がり、腰から太ももの辺りまでが便にまみれ、強い悪臭を放っていた。

 両親はともに21歳の夫婦だった。なぜ両親は女の子を死に至らしめたのか、女の子はなぜ救い出されなかったのか?



 この事件は、私の住んでいる地域から比較的近いところで起きたので、地元新聞が特集を組んだりして、関心は高かった。
 ネグレクト(育児放棄)は、さほど珍しい事ではない。しかし、ここまで悲惨なネグレクトは記憶にない。

 たしかに真奈ちゃんの両親は若すぎた。でも、出来ちゃったので仕方なく結婚したのではなく、望まれて真奈ちゃんは生まれた。
 それに両親とも地元の人で、両方の祖父母もすぐそばに住んでおり、複雑な事情を抱えていて裕福ではないとはいっても、健在であり、全員が真奈ちゃんの誕生を心から喜んでいたのである。

 育児に不慣れな母親に代わり、真奈ちゃんを預かったり、一緒に買い物に行って
おもちゃや洋服を買い与えたり、ファミレスで食事をしたり、ごく普通の幸せな家族だったはずだ。

 それが一変するのは、真奈ちゃんが10ヶ月の時、急性硬膜下血腫で入院し「後遺症が残るかもしれない」と医者から言われた時である。
 なぜ、急性硬膜下血腫になったかといえば、虐待ということも考えられるが「乳幼児揺さぶられ症候群」という可能性もあり、実際、この事故の直前、真奈ちゃんの父親が、真奈ちゃんを逆さにして足を持って時計の振り子のように揺すって遊んでいたらしい。
 ただ、それが問題視されることはなく、不安を残したまま、真奈ちゃんは退院した。


 発育の遅れるわが子を、両親は疎ましく感じ、次に生まれてきた長男をかわいがるようになる。
 弟に親の愛情を奪われたと感じた真奈ちゃんは、赤ちゃん返りをし、弟にイジワルをするため、ますます両親は怒る。

 あまりに痩せこけた孫を心配し、おばあちゃん(真奈ちゃんの父方の祖母)が2ヶ月ほど預かって育てると、ふっくらして元気になった真奈ちゃんを、真奈ちゃんの母親は拒絶する。

 ここらへんの母親の心理というのは、子どもを持った人なら誰でも分かるだろう。下の子が生まれたため上の子への愛情が失せたと感じる母親は多いし、姑が孫をかわいがると、子どもを取られたように感じ、あたりちらす母親は、日本国中ドッサリいるのだ。


 ただ、段ボールに入れて蓋をし、食事を与えず餓死させる親は他にはいないだろう(いないと思いたい)
 たしかに両親も複雑な家庭に育ち、気の毒な面もある。だけど、家族の病理と無縁の者など、はたしてこの世にいるだろうか?

 外から見れば恵まれた家庭も、なにかしらの問題を抱えているのだ。
コメント (2)
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