ケイの読書日記

個人が書く書評

奥田英朗「無理」

2010-05-24 10:15:29 | Weblog
 3つの市町村の合併で出来た架空の地方都市“ゆめの市”で暮らす5人のそれぞれの日常が書かれている。横のつながりは無くバラバラの5人だが、最後の最後にドリームタウン下交差点でそれぞれの日常が交差する。

 景気が悪く閉塞感が漂うこの“ゆめの市”からなんとか脱出しようとする5人。

 その中の一人、相原は社会福祉事務所に勤めるケースワーカー。しかし「自分は弱者だから援助しろ」という身勝手な市民にほとほと嫌気がさしている。
 そうやって人を非難しながら、自分は人妻売春サークルに電話し、勤務時間中なのにラブホテルで過ごす。
 自分のことは棚に上げ「この国の行く末が案じられる」なんて憤慨するから面白い。オマエが言うな!オマエが!!

 加藤裕也は暴走族上がりで、詐欺まがいの商品を売りつけるセールスマン。「○○保安センターです。配電盤の保守点検に参りました」と言って老人世帯に上がりこみ、インチキ漏電遮断機を売りつけている。
 原価500円の商品を、相手を見て3万円、5万円とか言って。

 最初のうちは私も「コイツふざけてる!バアさん、騙されるな!」と怒りながら読んでいたが、段々慣れてきて、加藤裕也が「今日1日のセールス20万」なんて言うと「うわー!頑張ったね!」と褒めてあげたくなっちゃう。
 加藤の上司が「(詐欺まがいの)セールスで頑張って稼いで、フィリピンパブでパーッと遣ってゆめの市の経済に貢献しよう」なんて意味の事をのたまうと、それが正しい様に錯覚しちゃう。

 こうやって「オレオレ詐欺」のメンバーも、仕事に抵抗が無くなっていくんだろうね。

 なかなか読みでのある作品。

*イラストは「十五夜」さんからです。

 
コメント
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