ケイの読書日記

個人が書く書評

津村記久子「地下鉄の叙事詩」

2012-09-15 20:32:43 | 津村記久子
 ラッシュ時の地下鉄の中の殺人的な混み具合の中で、人間は何を考えているのか…?

 彼女に振られたばかりの自意識過剰な大学生・イチカワ。
 20代後半のさえない独身サラリーマン・ニノミヤ。
 痴漢に狙われて被害にあっているが、恥ずかしくて怖くて「やめてください」と抗議できない女子高生・シノハラ。
 知り合いでも友人でもないシノハラを、なんとか痴漢から助けようと、満員電車の中でもがくOL・ミカミ。

 この4人に焦点を当てて物語は進行していく。

 しかし、この中のニノミヤが、なかなかいいヤツなんだ。気に入ってしまった。
 容姿についての描写はほとんど無いが、読んでいるとドランクドラゴンの鈴木を思い出す。ほら、塚地じゃない方。売れてない方。
 背は普通で、痩せていて血色が悪く、いかにも覇気が無さそうな若い男がイメージとして浮かぶ。
 独身、家賃6万円の1Kのアパートに住む。スポーツニュースを見ながら晩酌するのが好き。ギャンブルはやらない。ローヤルゼリーの入っている栄養ドリンクに頼り切っている。
 座席に座った時、足をひっこめ、なるだけスリムになるようにしているニノミヤは、電車に乗りなれた女性に人気があるようで、数少ない座った機会の際、前に女の人が来ることが多い。いやではないが、不用意に眺め回すこともできず、下方に視点を固定していなければならないのが面倒だ。

 ね?! ニノミヤは結構、紳士でしょ?

 他にもニノミヤは自分で「順応性に長けていることが取り柄だ。どんな環境でも、リラックスした者の勝ち」と自己充足をモットーとしている。

 ふう、彼ら彼女らは、地下鉄の中で哲学しているわけですよ。予想に反して、面白く読みごたえがあった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする