ケイの読書日記

個人が書く書評

東野圭吾 「犯人のいない殺人の夜」

2016-03-08 13:16:31 | Weblog
 東野圭吾がデビューしたての頃の7つの中編を集めた作品集。
 表題作の『犯人のいない殺人の夜』は、そんなに出来がいいとは思えない。最初、誰の視点から書いてあるのか、わかりづらかった。ミスリードするために必要だったんだろう。トリッキーな作品で、評価が分かれるところ。

 一番出来が良いのは、やっぱり『小さな故意の物語』かな? 確実に殺人に結び付くわけじゃない。確率は低いけど、嫌がらせ程度の殺意が重なって、高3男子生徒を屋上から転落させた。それよりも、この作品は動機が秀逸。私も以前から、学年公認の美男美女カップルって、最終的にどうなるんだろうと興味があった。

 東野圭吾が人気あるのは、トリックが優れているというより、男女間のドロドロがきちんと書かれているからだと思う。
 『さよなら コーチ』は、実業団チームの女子選手と、コーチの恋愛関係の終わりを書いている。女子選手とコーチの恋愛なんて、あって当たり前だと思うが、この30歳のアーチェリー実業団チームの女子選手が、オリンピック選考から漏れて、打ちのめされている様子は、本当にかわいそうだ。
 普通の女性がしてきたような事、何もしていない。仕事だって、籍を会社に置いているだけで、まともに実務をした事が無い。恋人もいない。すべてを犠牲にしてアーチェリーに打ち込んできた。それなのに…。
 この女子選手は、途中でコーチと恋仲になり、精神的に安定して好成績を収め、引退した後、コーチと結婚という事になったら素敵なハッピーエンドだった。でも、コーチには妻子が…。
 ああ、スポーツ選手の現役引退後の闇は、暗くて深い。

 それに比べると『踊り子』は、中学2年生の男子生徒の淡い初恋を描いてすがすがしい。塾帰りに垣間見た高校生らしい女の子。体育館で一人、懸命に新体操の練習をしている。自分が応援していることを何とか彼女に伝えたくて、スポーツドリンクと手紙を、体育館の出入り口の所に置いておく。ところが…。
 自分が良かれと思ってやったことが、とんでもない悲劇を引き起こす事ってあるんだよね。
コメント
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