ケイの読書日記

個人が書く書評

「白痴」 ドフトエフスキー 亀山郁夫訳  光文社古典新訳文庫

2018-07-26 14:24:27 | 翻訳もの
 この「白痴」という作品は、ドフトエフスキーの5大長編の1つらしく、べらぼうに長いのだ。全4篇からなり、私の読んだ亀山郁夫訳の「白痴1」は第1篇で、順を追って第2篇、第3篇、第4篇が刊行される。現在は第3篇まで出ているようだ。わーーー、光文社古典新訳文庫シリーズじゃなくて、他のにすればよかったな。でも、やっぱり亀山郁夫で読みたいし。まぁ、気長に待つことにしよう。
 
 スイスからロシアのペテルブルグに帰ってきたばかりのムイシキン侯爵は、世間ずれしておらず、おバカさんなのだが、どういう訳か他人に好かれる。無一文で生活に困窮すると思いきや、周囲の人に色々世話を焼いてもらえる。
 偶然見かけた、絶世の美女ナスターシャの写真を見て感銘を受け、彼女が婚約発表をするかもしれないという誕生パーティに、招待されていないのに出かける。
 実は、ナスターシャは、トーツキーという大金持ちの愛人で、彼が商売に有利な他の女性と結婚したいので、ナスターシャに7万5千ルーブルの持参金を付けて、別の男と結婚させようともくろんでいたのだ。
 そのパーティ会場に、ナスターシャにのぼせ上り追い掛け回しているロゴージンが、10万ルーブルの大金とゴロツキ達を連れて乗り込んでくる。

 
 ストーリーはすごく面白くて話に引き込まれるが、登場人物には魅力をあまり感じない。
 主人公のムイシキン侯爵は、イエス・キリストをモデルとした「本当に美しい人間」として書かれているらしいが…愛すべき人間なのは確かだけども、邪魔な人と言えなくもない。
 また、絶世の美女ナスターシャは、不幸な生い立ちを差し引いても、あまりにも傲慢。だいたい、そんなに不幸な境遇だろうか? 彼女は幼い頃、両親が相次いで亡くなったので、トーツキーが代わりに養育してくれた。非常に美しく成長したので、彼女の意志とは関係なくトーツキーの愛人になったが、彼は彼女に高い教育を受けさせ、住居や衣服・貴金属・使用人たちに惜しみなくお金を使った。そんなに不幸? あのまま孤児の方が良かった?

 ナスターシャは、7万5千ルーブルの持参金ほしさに彼女と結婚しようとしたガヴリーラを憎んで、ロゴージンの10万ルーブルを暖炉に放り込み、燃えているお金を素手で取り出せと命じたけど、本当にクレージーでエキセントリック。どうかしてるよ!
 愛人のトーツキーが、なんとか手を切りたいと願うのもわかります。

 そのナスターシャにムイシキン侯爵はプロポーズする。無一文なのにどうやって生活するの?と問われ、侯爵は遺産を相続するかもしれないという手紙を見せる。一度も会ったことのない伯母さんが死んで、彼女の遺産が転がり込むのだ! なんというご都合主義の展開!


 この作品は、1868年に発表されたので、ロシア革命の50年ほど前だけど、物語の中では、高利貸しや退役軍人、遺産を受け継いで贅沢してる人ばかりで、まともな職業の人がいないよ。それに、職業軍人のだらしない事!!! こんなんで、戦場で役に立つのだろうか? 日露戦争で日本に負けるのも無理ないような気がするなぁ。
コメント
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