ケイの読書日記

個人が書く書評

辻村深月 「鍵のない夢を見る」 文藝春秋社

2019-03-25 15:22:40 | 辻村深月
 犯罪をモチーフにした6編の中短編集。辻村深月はこれで直木賞を受賞した。
 いろんなタイプの犯罪者がいるなぁ。その中でも、第5話「芹葉大学の夢と殺人」が一番人気があり映像化しやすいと思うが、私は「美弥谷団地の逃亡者」の二人連れが印象に残った。
 陽次と美衣。世間的な尺度で言えば、陽次は加害者で、美衣は被害者だが、そんな簡単に分類できないんだ。この2人は。
 
 美衣は高校を卒業して、バイトをしたりしなかったり。出会い系サイトで陽次と出会う。陽次は相田みつをが好きなプータロー。美衣は、ホテルで相田みつをの詩集を陽次から貸してもらった。カバーがヨレヨレになっている。そうとう読み込んでいるらしい。
 「しあわせは いつも じぶんのこころがきめる」
 相田みつをの言葉を、自分の生きる指針としているピュアな男のはずなのに、陽次はだんだん美衣のストーカーとなっていった。ただ束縛するだけではない。骨が鳴るほど、歯がぐらぐらするほど殴られる。
 それもDV男によくあるパターンで、蹴ったり殴ったりした後で、陽次は泣きながら謝り、氷で冷やしてくれる。でも美衣が本気で陽次と別れようと思ったのは、同じ出会い系サイトで、新しい彼氏が出来そうだったから。
 母親に相談し、警察に被害届を出す。そしてその後…。陽次は大きな取り返しのつかない事件を起こし、美衣を連れて逃げる。
 陽次の頭の中では、自分たちは心から愛し合っている恋人同士なんだろう。


 この陽次って男は、ヘンな所で礼儀正しいんだ。食堂の中で、帽子をかぶったままカレーを食べようとする美衣に「お前、部屋の中なんだから、帽子とれば?行儀悪いよ」と言う。ああん?数日前に自分の付き合っている女の母親に何をした? 行儀悪いどころの話じゃないぞ!!! と怒鳴りつけてやりたい。

 この陽次の言動を読んでいると、千葉県野田市で起きた、小4女児を虐待死させた父親を思い出す。この父親も外面はすごく良かった。職場では、理想的な父親だと思われていた。陽次も、この父親も、自分の中に絶対的な正義や真理があるんだろう。親しくない人が、その正義に反しても別に平静でいられるが、自分の近しい(と思い込んでいる)家族や恋人がそれに反すると逆上する。
 何とか暴力をふるってでも、徹底的に自分の思い通りに矯正しなければ気が済まない。
 暴力反対男が「暴力はやめろ」とケンカの仲裁に入っても、なかなか殴り合いが止まないとイライラして、「おい! 暴力はやめろと言ってるじゃないか!」と相手を殴りつけるのと似ている。
 DVと児童虐待が、根は同じだというのは本当だと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする