ケイの読書日記

個人が書く書評

川瀬七緒 「よろずのことに気をつけよ」 講談社

2019-05-16 15:56:25 | その他
 第57回江戸川乱歩賞受賞作。ということは、平成23年の作品なのか。

 文化人類学者(といってもたぶん大学非常勤講師)の仲澤のもとに、砂倉真由という18歳の女性が駆け込んでくる。真由の祖父が無残に殺され、呪われた形跡もある。警察は呪いなんてバカにするだけだから、呪いの学術的専門家・仲澤に意見を聞きにきたのだ。
 仲澤の見立てでは、どうもこの殺人事件には、呪術のスペシャリストが絡んでいるらしい。
 しかし、呪術師として渾身の能力を傾け、相手を呪っているのに、どうして実際に手を下したか?

 この話は、呪いでは人は殺せないという事を、呪術師たちが悟った話なんだ。呪われた人がそれを自覚し恐れていなければ、呪いは成立しないし成就しない。
 それではミステリ小説にはならないので、話は広がり膨らんでいく。呪術師たちのご先祖様は大昔、四国で活動していたが、生贄を使うなど残酷なので、地元民に嫌われ、追われて東北地方まで流れていく。そこで権力者にかくまわれ、その地方で定着し、その呪術を権力者のためにつかう。
 そういった文献が本当にあるのか知らないが、四国は空海の生誕の地なので、いかにも呪術が盛んだっただろうし、権力者が呪術師を召し抱え、敵対勢力を呪い殺すのに使うなんて、絶対あっただろうね。

 思うに、呪術師たちは、呪うのと同時に、相手方の台所を買収し毒殺することも多かったんだろうと思う。だって30年かけて呪い殺しても、老衰で死ぬのと変わらないじゃん。呪っているはずの相手が、いつまでも元気でいたら、呪術師としての立場も危うくなる。
 真由の祖父は、呪いで殺されたわけではないが、実子がどうしようもないロクデナシになって争いが絶えなかったという事は、ある意味、呪いが成就しているともいえる。

 小野不由美が同じような話を書けば、夜中にトイレに行けないほど怖いだろうが、この川瀬七緒さんの筆は軽快。サクサク読める。仲澤と真由の恋愛未満の関係もこの先どうなる?


P.S. これは作品とは関係ないが、筆者のプロフィールが変わっている!! 文化服装学院服装科卒で、もともとは子供服のデザイナーさんなのだ! ちょっと驚かない? そういった経歴の作家さんって、今までいたのかな?
コメント
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