垣谷美雨 「老後の資金がありません」 中公文庫

　著者の垣谷は1959年生まれ。そして小説の主人公・後藤篤子は53歳。夫は4歳上。その篤子の娘は28歳で結婚間近。下の息子は大学4年生で、就職は決まっている。つまり、この話は、私たちの世代の話でもあるんだ。
　篤子を金銭的に悩ませる娘の派手婚、舅の豪華な葬式、残された姑の生活費。頑張って蓄えた老後資金1200万円はみるみる激減し、焦っている所へ夫婦そろっての失職。本当に困っちゃうね。失業保険をもらっている間に、なんとか次の仕事を見つけなければ。篤子の必死な思いがひしひし伝わってくるよ。

　子どもの結婚かぁ…。本来なら自分たちのお金だけでやってもらいたい。教育費でお金を使い果たしている親に、期待しないでほしいが、なにせ相手がある事。こちらが地味婚にしたいと思っても、先方様が華やかに豪華にやりたいという希望ならば、それを無視することはできないよ。結婚前から先方とモメてどうする。

　舅姑や実親の葬式は…これは、亡くなった人の年齢や交流関係も考えなければならないが、質素でいいんじゃない？　若くして亡くなれば、大勢の人が葬式に参列してくれるだろうけど、高齢とくに100歳以上で亡くなった場合、誰が参列する？　その人の兄弟はすでに亡くなっていたり、生きていても高齢で参列できないだろう。甥っ子姪っ子とそんなに親しいだろうか？（もちろん参列すべきだとは思うが）　となると、子どもや孫だけ、という事になる。亡くなった人が施設や病院に長期入院していたら、近所の人とも疎遠になってるだろうし。

　この小説に出てくる篤子の舅姑は、浅草で和菓子屋を営んでいたが廃業し、その家+土地を売って2億円を手にする。豪華客船世界一周の旅に出掛けたり、その後も贅沢な生活を送った。しかし、体調を崩し、夫婦そろってリゾートホテルのようなケアマンションに入居。入居一時金だけで、夫婦二人で4千万円もしたらしい。それとは別に、夫婦同室で月38万円も料金が必要。アンビリーバボー！！！
　それから17年。2億円は1年前に底をつき（当たり前だ！）舅姑は、2人の子どもから9万円合計18万円の仕送りを受けている。篤子たちは親の遺産をアテにするどころか、親が不良債権と化している。
　どうしてこうなるのかなぁ。自分たちで商売をやっていたなら、もっと金銭にシビアになると思うけど。子どもの負担になってはダメだよ。

　篤子の友人にサツキさんというパン屋の奥さんがいて、この人が本当に質実剛健な人で、自分の親族の葬式や結婚式を合理的にすませる。私も見習いたいです。

　最後には、篤子も旦那さんも、、収入は減ったが仕事が見つかり、めでたしめでたし。健康で家族の仲が良ければ、何とか世の中渡っていけます。