ケイの読書日記

個人が書く書評

深緑野分 「ベルリンは晴れているか?」 筑摩書房

2019-07-25 15:45:05 | 深緑野分
 カバー絵は金髪のおさげ髪の少女。翻訳ものかなと思ってしまうが、れっきとした日本人作家の作品。私自身が、このナチスドイツ政権下のドイツにすごく興味があったので、興奮して読んだ。すごく読み応えのある作品。

 1945年7月。ヒトラーが自殺し焦土となったベルリンで、1人の老人が死んだ。青酸カリが入った歯磨き粉によって殺されたのだ。
 その当時のベルリンは、米ソ英仏の4カ国統治下におかれていて、殺されたのはソ連領域だった。翌日にポツダムで首脳会議があるため、ソ連NKVD(内務人民委員部)の大尉はテロを疑い、内情を調べるために、殺された老人の知り合いの少女アウグステに、老人の義理の甥エーリヒに会いに行くよう、命令する。地理に明るいからという理由で、陽気な泥棒カフカを道連れにするよう、押し付けられて。
 二人は、それぞれの思いを胸に、瓦礫の山となったベルリンを歩き始める。

 ポツダムって、あのポツダム宣言のポツダムなんだね。ベルリンの隣にあるんだ。7月だから、まだ日本は降伏してない。

 本編のあいだあいだに幕間として、アウグステが生まれた1928年から1945年の敗戦までの、ドイツ国内の様子が書かれてある。第1次大戦の敗北によって皇帝が退位し、飢えと暴力と秩序の崩壊で大混乱におちいったドイツ。
 世界で最も民主的な憲法を持つヴァイマール共和国になったが、暮らしはひどくなる一方で、誰もが現政権はクソで早く次のまともな政権になって欲しいと願っていた。
 そういう時に支持を伸ばしたのが、共産党とナチス。ああ、どっちに転んでも、ドイツに明るい未来はないね。ナチスが政権を取ると、共産党をはじめ他の政党を全て非合法化する。
 アウグステの両親は共産党員で、共産党に夢を持っていたが、ソ連のスターリンが、ヒトラーと手を組み、ポーランドを2分割したのに失望し、床下に隠してあったレーニンの肖像画を燃やす。
 結局、ファシズムも共産主義も、根は同じなんだ。

 ポーランドの分割やフランスの降伏で、破竹の勢いで領土を拡大し、被占領地からの物資がどんどんドイツ国内に入って来てうるおうと、ヒトラーの人気はさらに高まる。こういう所は日本も同じ。勝てば官軍なんだ。
 ただ、麗しい日々は長くは続かない。ナポレオンと同じで、ソ連侵攻でつまづく。アメリカも参戦し、イギリスも反撃に打って出て、戦局はどんどん悪くなる。大空襲を受けた都市部では、瓦礫の山の中で「総統はどうした!」という声も聞こえ始める。

 ヒトラーは4月の終わりに自殺するが、無責任にも後任を決めてないので、5月8日の無条件降伏まで、すごく多くの兵士が無駄死にした。
 自殺するなら、暗殺されそうになった時に死んでおけよ!!!
コメント
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