ケイの読書日記

個人が書く書評

宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」

2020-08-21 15:35:13 | その他
 宮沢賢治の童話の中には、イーハトーブという地名が頻繁に出てくる。これは、彼が心のなかで描いた理想郷で、岩手県の事を指しているらしい。つまり、すごく郷土愛の強い人だったんだなぁ。

 そのイーハトーブの森の中に住んでいるブドリという男の子が主人公のお話。彼は、お父さんお母さん妹と一緒に、仲良く森の中の一軒家で暮らしていた。しかし、たびたび冷害に襲われ大飢饉になり、お父さんもお母さんも森の中に入ったきり帰って来なかった。
 これは、家にあるわずかな食料をブドリたち2人に残し、なんとか子どもたちだけでも生き延びてほしいと願ったんだろう。
 ドイツ民話のヘンゼルとグレーテルは、大飢饉の時、親によって森の中に捨てられたが、それと比べるとなんて日本的というか…自己犠牲の精神に富んだ親御さんだったんだろうね。

 しかし子ども達だけでは上手く生活できない。妹は人さらいに攫われ、置き去りにされたブドリは、森を買ったという乱暴な男の下で働くことになる。でも火山の噴火が起き、仕事はダメになり、ブドリは森を出て野原に行くことにする。
 そして農家の手伝いをして何年も過ごすが…。

 この時代の農業は天候次第。日照りや冷害が起きると本当に苦労したんだろう。ブドリも心の底から、悪天候から来る農業被害を何とかしたいと願っていた。手伝っていた農家から暇を出されたブドリは、農業書を書いた博士に会いに行き、そこからブドリの運がとんとん拍子に開けていく。

 童話後半はSFチックなお伽話。自然科学礼賛の話。科学の力でどんな問題も解決し、誰もが幸せになれるという夢を信じて疑わない。だって、噴火する火山の山腹に穴をあけ、ガスを抜き溶岩をそこから出して、噴火をコントロールする話なんだもの。
 宮沢賢治の生きた時代は(1896~1933)は、無邪気に科学を信奉できる幸せな時代だったんだ。
コメント
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