ケイの読書日記

個人が書く書評

林芙美子 「清貧の書」

2021-04-16 15:09:24 | 林芙美子
 林芙美子の「放浪記」が好きで、彼女のこのころの作品(昭和ヒトケタ年代)はよく読んだ。この「清貧の書」は、そのころの作者の自伝的作品。
 男運の悪い女と、画家と自称しているがサッパリ売れない男、2人が所帯を持ってカツカツの生活をおくっている。時代は昭和初期、不景気が日本全国を覆っているが、まだ軍の影響はさほど大きくなく、貧しいながらもホッとする時間の日常がある。
 
 45年ほど前に読んだのだが、再読すると驚くほど覚えている。好きな作品だったんだ。例えば、今の男と暮らす前の男からは、激しい暴力を受けていた。その時の詩が小説内に載っている。
 
 おまえを打擲すると/はつはつと米を炊ぐような骨の音がする/乏しい財布の中には志那の銅貨が一ツ/たたくに都合のよいむちだ/骨も身もばらばらにするのに/
 私を壁に突き当てては/「この女メ たんぽぽが食えるか!」/白い露の出たたんぽぽを/男はさきさきとかみながら/おまえが悪いからだと/銅貨のむちでいつも打擲する

 この悲惨な詩もぼんやり覚えている。本当に貧しい。あきれるくらい貧しい。江戸時代の天保の大飢饉でもあるまいし、健康な男女が2人そろって、どうしてこんな貧しいの?
 女は今、自分の使っていた帯も売って紐で代用しているし、男は上野へ働きに行く電車賃もないので、自分の靴を売り払った。
 しかし男は油絵を描いている。美術学校を出てるんだろう。ということは生家は裕福ではないのか? 経済的な援助をしてもらえば? それとも画家になると宣言したら、親から援助を打ち切られたとか。いろんな妄想が膨らむなぁ。

 男に召集令状が来て、男は松本の連隊に行く。このころはまだ戦況が逼迫しておらず、戦地には行っていない。訓練ばかり。のんびりしたもんだ。男は女宛にせっせと手紙を書く。それがまた情愛にあふれた良い手紙なのだ。
 
 この頃から少しずつ女の詩や小説が売れ始め、この夫婦の生活は安定していく。ただ、日本や政界の情勢はきな臭くなってくる。
 

コメント
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