ケイの読書日記

個人が書く書評

群ようこ 「ネコの住所録」 文春文庫

2020-01-10 18:38:58 | 群ようこ
 群さんは家族全員が動物好きで、幼い時から小鳥やハツカネズミ、モルモット、熱帯魚、猫、犬などを飼っていたという事は、いままで読んだエッセイから知っていた。(それでも猫13匹というのは多すぎじゃない?)
 それ以外にも、アリやハエ、ハチにまでシンパシイを感じているのがスゴイ! 特にハチの話には驚かされる。
 群さんが20代後半「本の雑誌社」に勤めていたころの話。
 梅雨時の蒸し暑い日、窓を開けて仕事をしていると、一匹のハチがやってきた。緑が多い住宅地に会社はあるので、気にもせずほかっておいた。土日休んで、月曜に出社すると、群さんの机の上に、ハチがこてっと仰向けになって転がっていた。死んでいるのかと思ったが、かすかに6本の足がひくひく動いている。とりあえず水を飲ませようと、切手を貼る時に使う事務用スポンジに水を含ませてハチのそばに持って行くと、半死状態のハチは、スポンジに頭を突っ込むようにして水を飲み始めた。(オーストラリアの山林火災から逃げ出したコアラが、レスキュー隊員の水筒から水をごくごく飲むみたいに)
 生き返ったハチは、しばらくして窓の隙間からブーンと飛んで行ったが、驚くべきことに、その後毎日やって来るようになった。午前11時ごろから午後2時3時ごろまで。おい!!花の蜜を集める仕事はどうしたよ!?
 そのハチに、群さんは「ハッちゃん」と名前を付けて、話かけていたそうだ。いやあ、野良猫に勝手に名前を付けちくわをやる事はあるが、ハチに名前を付けて、部屋に入れるように窓を少し開けておくとは…。すごい人だな。群さんは。
 私だったら、自分の机の上にハチがこてっと仰向けになっていた時点で、ゴミ箱行きだよね。

 こんな動物好きな家なら、さぞ人間も好きだろうと思うと違うんだ。群さんが実家にいた頃は、お父さんVSお母さん+群さん+弟さんの3人組だったが、群さんが高校生の時、お父さんが離婚して出て行き、仲良し3人組が残った。さぞ楽しい毎日を送っているのかと思いきや、そうではない。
 この動物エッセイではあまり触れられていないが、その後、群さんVSお母さん+弟さん という対立になったそうだ。
 群さんが子どもの頃は、貧しくても陽気な一家だったのにね。お父さんだって、たしかに家庭を顧みなかったかもしれないが、優しい所もあった。公園に捨てられていた老シェパードを背負って、自宅の押し入れで面倒見て、2ヵ月後に死んで号泣した。
 群さんが服装のセンスがいいのも、画家であったお父さん譲りの才能だろう。お母さんは肝っ玉母さんタイプ。弟さんとはすごく仲が良かった。お姉ちゃんに命じられて国旗の絵を粛々と描いていた。

 思うに、群さんが売れっ子になりすぎたからだと思う。弟さんは一流大学を出て一流企業に勤めているが、やっぱり裕福なお姉ちゃんを頼ってしまうし、お母さんは、今まで苦労してきたんだからと娘のカードで着物をバンバン買うし。
 お金が無かったら、今でも肩を寄せ合って暮らす仲のいい家族だったかもしれない。

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